JP5574953B2 - 鍛造用耐熱鋼、鍛造用耐熱鋼の製造方法、鍛造部品および鍛造部品の製造方法 - Google Patents
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Description
Cは、焼入性を確保し、マルテンサイト変態を促進させるとともに、合金中のFe、Cr、MoなどとM23C6型の炭化物を形成したり、Nb、V、NなどとMX型炭窒化物を形成して、析出強化により高温クリープ強度を高めるために不可欠な元素である。Cは、耐力の向上にも寄与するとともに、δフェライト生成の抑制にも不可欠な元素である。これらの効果を発揮させるために、Cを0.05%以上含有することが必要である。一方、Cの含有率が0.2%を越えると、炭化物や炭窒化物の凝集や粗大化が起こりやすくなり、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Cの含有率を0.05〜0.2%とした。同様の理由により、Cの含有率を0.08〜0.13%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Cの含有率が0.09〜0.12%である。
Siは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。この効果を発揮させるために、Siを0.01%以上含有することが必要である。一方、Siの含有率が0.1%を超えると、鋼塊内部の偏析が増加するとともに、焼戻し脆化感受性が極めて高くなる。そして、切欠靭性が損なわれ、高温に長時間保持することにより、析出物形態の変化が助長され、靭性が経時劣化する。そのため、Siの含有率を0.01〜0.1%とした。
Mnは、溶解時の脱酸剤や脱硫剤として有効であり、焼入性を高めて強度を向上させることにも有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Mnを0.01%以上含有することが必要である。一方、Mnの含有率が0.15%を超えると、MnはSと結びついてMnSの非金属介在物を形成して、靭性を低下させるとともに、靭性の経時劣化を助長するとともに、高温クリープ破断強度を低下させる。そのため、Mnの含有率を0.01〜0.15%とした。
Niは、オーステナイト安定化元素であり、靭性向上に有効である。焼入性を増大させ、δフェライトの生成を抑制し、室温における強度や靭性を高めるためにも有効である。これらの効果を発揮させるために、Niを0.05%以上含有することが必要である。一方、Niの含有率が1%を超えると、炭化物やラーべス相の凝集や粗大化が助長され、高温クリープ破断強度を低下させたり、焼戻脆性を助長させる。そのため、Niの含有率を0.05〜1%とした。同様の理由により、Niの含有率を0.1〜0.5%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Niの含有率が0.2〜0.4%である。
Crは、耐酸化性および高温耐食性を高め、M23C6型炭化物やM2X型炭窒化物による析出強化により高温クリープ破断強度を高めるために必要不可欠の元素である。これらの効果を発揮させるために、Crを8%以上含有することが必要である。一方、Crの含有量が高くなるにつれて、室温における引張強度や、短時間クリープ破断強度は強くなるが、その反面、長時間クリープ破断強度は低くなる傾向にある。これは、長時間クリープ破断寿命の屈曲現象の一因とも考えられている。また、Cr含有量が多くなると、長時間域でマルテンサイト組織の下部組織(微細組織)の顕著な変化が生じ、下部組織のサブグレイン化、結晶粒界近傍の析出物の顕著な凝集や粗大化、転位密度の顕著な減少などの微細組織の劣化が進む。これらの傾向は、Cr含有率が10%以上になると急速に強まる。そのため、Crの含有率を8%以上10%未満とした。同様の理由により、Crの含有率を8%以上9%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは、Crの含有率が8.5%以上9%未満である。
Moは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させるとともに、微細炭(窒)化物や微細なラーベス相を生成して高温クリープ破断強度を向上させる。また、Moは、焼戻脆化の抑制にも有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Moを0.05%以上含有することが必要である。一方、Moの含有率が1%を超えると、δフェライトを生成して、靭性を著しく低下させるとともに、高温クリープ破断強度も低下させる。そのため、Moの含有率を0.05〜1%とした。同様の理由により、Moの含有率を0.5〜1%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Moの含有率が0.55〜0.8%である。
Vは、微細な炭化物や炭窒化物を形成して、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を発揮させるために、Vを0.05%以上含有することが必要である。一方、Vの含有率が0.3%を超えると、炭(窒)化物の過度の析出や粗大化が生じ、高温クリープ破断強度の低下を招く。そのため、Vの含有率を0.05〜0.3%とした。同様の理由により、Vの含有率を0.15〜0.25%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Vの含有率が0.18〜0.23%である。
Coは、δフェライトの生成を抑制することにより靱性低下を抑制し、固溶強化により高温引張強度や高温クリープ破断強度を向上させる。これは、Coの添加によってAc1変態点がほとんど低下しないことによって、組織安定性を低下させずにδフェライトの生成を抑制できるためである。これらの効果を発揮させるために、Coを1%以上含有することが必要である。一方、Coの含有率が5%を超えると、延性や高温クリープ破断強度の低下が生じるとともに、製造コストが増加する。そのため、Coの含有率を1〜5%とした。同様の理由により、Coの含有率を2〜4%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Coの含有率が2.5〜3.5%である。
Wは、M23C6型炭化物の凝集や粗大化を抑制する。また、Wは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させ、ラス境界等にラーベス相を分散析出させ、高温引張強度や高温クリープ破断強度の向上に有効な元素である。これらの効果は、Moとの複合添加の場合に顕著である。これらの効果を発揮させるために、Wを1%以上含有することが必要である。一方、Wの含有率が2.2%を超えると、δフェライトや粗大なラーベス相が生成しやすくなり、延性や靭性が低下するとともに、高温クリープ破断強度も低下する。そのため、Wの含有率を1〜2.2%とした。同様の理由により、Wの含有率を1.5%以上2%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは、Wの含有率が1.6〜1.9%である。
Nは、C、Nb、Vなどと結びついて炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。Nの含有率が0.01%未満では、十分な引張強度や高温クリープ破断強度を得ることができない。一方、Nの含有率が0.015%以上では、Bとの結びつきが強く、BNの窒化物が生成されることにより、健全な鋼塊の製造が困難になり、熱間加工性が低下し、延性や靭性が低下する。また、BN相の析出により、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するので、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Nの含有率を0.01%以上0.015%未満とした。同様の理由により、Nの含有率を0.011〜0.014%とすることが好ましい。
Nbは、室温での引張強度の向上に有効であるとともに、微細炭化物や炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。また、Nbは、微細なNbCを生成して結晶粒の微細化を促進し、靭性を向上させる。Nbの一部は、V炭窒化物と複合したMX型炭窒化物を析出して、高温クリープ破断強度を向上させる効果もある。これらの効果を発揮させるために、Nbを0.01%以上含有することが必要である。一方、Nbの含有率が0.15%を超えると、粗大な炭化物や炭窒化物が析出し、延性や靭性を低下させる。そのため、Nbの含有率を0.01〜0.15%とした。同様の理由により、Nbの含有率を0.03〜0.08%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Nbの含有率が0.04〜0.06%である。
Bは、微量の添加で焼入性が増大し、靭性が向上する。また、Bは、オーステナイト結晶粒界およびその下部組織のマルテンサイトパケット、マルテンサイトブロック、マルテンサイトラス内の炭化物、炭窒化物およびラーベス相の凝集や粗大化を高温下で長時間に亘って抑制する効果を有している。さらに、Bは、WやNbなどと複合添加することによって、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Bを0.003%以上含有することが必要である。一方、Bの含有率が0.03%を超えると、BとNが結合してBN相が析出し、熱間加工性が損なわれたり、高温クリープ破断延性や靭性が大きく低下する。また、BN相の析出により、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するため、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Bの含有率を0.003〜0.03%とした。同様の理由により、Bの含有率を0.005〜0.017%とすることが好ましい。さらに好ましくは、Bの含有率が0.007〜0.015%である。
焼入加熱によって、材料中に生成していた炭化物や炭窒化物のほとんどを、一旦マトリックス中に固溶させ、その後の焼戻処理によって炭化物や炭窒化物を微細均一にマトリックス中に析出させることによって、高温クリープ破断強度、クリープ破断延性や靭性を向上させることができる。
焼戻処理によって、上記した焼入処理によって生じた残留オーステナイト組織を分解し、焼戻マルテンサイト組織とし、炭化物や炭窒化物をマトリックス中に均一に分散析出させるとともに転位組織を適正レベルに回復させる。これによって、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性が得られる。
表1は、材料特性評価に用いた各種試料(試料1〜試料69)の化学組成成分(残部はFeおよび不可避的不純物)を示す。なお、試料1〜試料53は、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の実施例であり、試料54〜試料69は、本発明に係る一実施の形態の鍛造用耐熱鋼の化学組成範囲にない鍛造用耐熱鋼であり、比較例である。
上記した試料1〜試料69を用いて、625℃、20kgf/mm2および625℃、15kgf/mm2の条件でクリープ破断試験を実施した。試験片は、上記した各鋼塊から作製した。
上記した試料1〜試料69を用いて、室温および破面遷移温度(FATT)を得るのに必要な数種類の温度条件で、シャルピー衝撃試験を実施した。試験片は、上記した各鋼塊から作製した。
上記した試料1〜試料69を用いて、耐水蒸気酸化性の評価試験を行った。試験片として、上記した各鋼塊から平板(長さが15mm、幅が10mm、厚さが3mm)を製作した。
ここでは、前述したクリープ破断試験およびシャルピー衝撃試験の結果に基づいて、クリープ破断特性や靭性に対して、特に重要な役割を果たしているCr、W、N、Bの含有率と、クリープ破断特性や靭性との関係をまとめた。
焼入温度および焼戻温度が、クリープ破断特性や靭性に及ぼす影響について調べた。
上記した試料1〜試料69を用いて、625℃の温度で1万時間の時効処理後と、この時効処理前とにおける、直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数を調べた。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.05〜0.2、Si:0.01〜0.1、Mn:0.01〜0.15、Ni:0.05〜1、Cr:8以上9未満、Mo:0.05〜1、V:0.05〜0.3、Co:1〜5、W:1〜2.2、N:0.01以上0.015未満、Nb:0.01〜0.15、B:0.003〜0.03を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
直径が50nm以下のNb(C,N)炭窒化物の数が、625℃の温度で1万時間の時効処理後において、当該時効処理前の50%以上であることを特徴とする鍛造用耐熱鋼。 - 請求項1記載の鍛造用耐熱鋼を用いて、少なくとも所定部位が作製されたことを特徴とする鍛造部品。
- 請求項1記載の鍛造用耐熱鋼の製造方法において、
前記鍛造用耐熱鋼の組成成分を得るために必要な原材料を溶解し、所定の型に注湯して鋼塊を形成し、鍛造処理し、1040〜1120℃の温度で焼入処理し、540〜600℃の温度で第1段の焼戻処理し、650〜750℃の温度で第2段の焼戻処理することを特徴とする鍛造用耐熱鋼の製造方法。 - 前記焼入処理における加熱後の冷却速度が鍛造用耐熱鋼の中心部において50〜300℃/時であり、前記第1段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が鍛造用耐熱鋼の中心部において20〜100℃/時であり、前記第2段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が20〜60℃/時であることを特徴とする請求項3記載の鍛造用耐熱鋼の製造方法。
- 請求項2記載の鍛造部品の製造方法において、
前記鍛造部品を形成する鍛造用耐熱鋼の組成成分を得るために必要な原材料を溶解し、所定の型に注湯して鋼塊を形成し、鍛造処理し、1040〜1120℃の温度で焼入処理し、540〜600℃の温度で第1段の焼戻処理し、650〜750℃の温度で第2段の焼戻処理することを特徴とする鍛造部品の製造方法。 - 前記焼入処理における加熱後の冷却速度が鍛造部品の中心部において50〜300℃/時であり、前記第1段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が鍛造部品の中心部において20〜100℃/時であり、前記第2段の焼戻処理における加熱後の冷却速度が20〜60℃/時であることを特徴とする請求項5記載の鍛造部品の製造方法。
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