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JP5996403B2 - 耐熱鋼およびその製造方法 - Google Patents

耐熱鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明の実施形態は、耐熱鋼およびその製造方法に関する。
火力発電システムでは、発電効率を一層高効率化するために、蒸気タービンの蒸気温度を上昇させる傾向にある。その結果、蒸気タービンに使用される耐熱鋼に要求される高温特性も一層厳しくなる。
これまでも蒸気タービンに使用される耐熱鋼として多くの提案がなされている。蒸気タービンに使用される耐熱鋼として、一層の発電効率の向上に貢献するためには、長時間クリープ破断寿命を向上させる必要がある。
特開2002−256396号公報
しかしながら、長時間クリープ破断寿命が、温度加速クリープ試験条件による比較的短時間のクリープ破断寿命から推定される長時間クリープ破断寿命よりも短時間となる現象(「折れ曲がり現象」または「屈曲現象」と呼ばれている)が最近の耐熱鋼研究の中で指摘されている。そのため、この現象を抑制する技術開発が求められている。
本発明が解決しようとする課題は、長時間クリープ破断寿命の向上を図り、高温特性や耐久性に優れた耐熱鋼およびその製造方法を提供することである。
実施形態の耐熱鋼は、質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.1%以下、Mn:0.1%を超え0.7%以下、Ni:1%以下、Cr:8.5〜10%未満、Mo:1%以下、V:0.05〜0.3%、Co:2%以下、W:1〜5%、N:0.01〜0.014%未満 、Nb:0.01〜0.15%、B:0.003〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、JIS Z 2271に準ずるクリープ破断試験による、625℃、20kgf/mm の条件での破断時間が2000時間以上であり、625℃、15kgf/mm の条件での破断時間が10000時間以上である
以下、本発明の実施の形態を説明する。
実施の形態の耐熱鋼は、以下に示す(M1)または(M2)の組成成分範囲の耐熱鋼で構成される。なお、以下の説明において組成成分を表す%は、特に明記しない限り質量%とする。
実施の形態の耐熱鋼(M1)は、C:0.05〜0.2%、Si:0.1%以下、Mn:0.1%を超え0.7% 以下、Ni:1%以下、Cr:8.5〜10%未満、Mo:1%以下、V:0.05〜0.3%、Co:2%以下、W:1〜5%、N:0.01〜0.014%未満 、Nb:0.01〜0.15%、B:0.003〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
実施の形態の耐熱鋼(M2)は、C:0.05〜0.2%、Si:0.1%以下、Mn:0.15%以下、Ni:1%以下、Cr:8.5〜10%未満、Mo:1%以下、V:0.05〜0.3%、Co:2%以下、W:3%を超え5%以下 、N:0.01〜0.015%未満、Nb:0.01〜0.15%、B:0.003〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。
ここで、上記した(M1)および(M2)の耐熱鋼において、Moを0.5%を越え1%以下含有することが好ましい。
(M1)および(M2)の耐熱鋼における不可避的不純物としては、例えばP、SおよびAlなどが挙げられる。
次に、上記した実施の形態の耐熱鋼における各組成成分範囲の限定理由を説明する。
(1)C(炭素)
Cは、焼入性を確保し、マルテンサイト変態を促進させる。また、Cは、合金中のFe、Cr、MoなどとM23型の炭化物を形成したり、Nb、V、NなどとMX型炭窒化物を形成して、析出強化により高温クリープ強度を高める。そのため、Cは、不可欠な元素である。Cは、耐力の向上にも寄与するとともに、δフェライトやBNの生成の抑制にも不可欠な元素である。これらの効果を発揮させるために、Cを0.05%以上含有することが必要である。一方、Cの含有率が0.2%を越えると、炭化物および炭窒化物の凝集や粗大化が起こりやすくなり、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Cの含有率を0.05〜0.2%とした。同様の理由により、Cの含有率を0.08〜0.13%とすることがさらに好ましい。
(2)Si(ケイ素)
Siは、溶鋼の脱酸剤として有効な元素である。Siの含有率が0.1%を超えると、鋼塊内部の偏析が増加するとともに、焼戻し脆化感受性が極めて高くなる。そして、切欠靭性が損なわれ、高温に長時間保持することにより、析出物形態の変化が助長され、靭性が経時劣化する。そのため、Siの含有率を0.1%以下とした。また、溶鋼の脱酸剤としての効果を発揮させるために、Siを0.01%以上含有することが好ましい。すなわち、好ましいSiの含有率を0.01〜0.1%とする。
最近では真空カーボン脱酸法やエレクトロスラグ再溶解法が一般的に適用されるようになっており、必ずしもSiによる脱酸を実施する必要がなくなっている。この場合におけるSi含有率は、0.05%以下に抑えることが可能である。そのため、さらに好ましいSiの含有率を0.01〜0.05%とする。
(3)Mn(マンガン)
Mnは、溶解時の脱酸剤や脱硫剤として有効であり、焼入性を高めて強度を向上させることにも有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Mnを0.1%を超えて含有することが必要である。一方、MnはSと結びついてMnSの非金属介在物を形成して、靭性を低下させるとともに、靭性の経時劣化を助長するとともに、高温クリープ破断強度を低下させる。そのため、Mnの含有率を0.7%以下とし、さらに、0.15%未満とすることがより好ましい。
(4)Ni(ニッケル)
Niの含有率が1%を超えると、炭化物やラーべス相の凝集や粗大化が助長され、高温クリープ破断強度を低下させたり、焼戻脆性を助長させる。そのため、Niの含有率を1%以下とした。同様の理由から、Niの含有率を0.5%以下とすることがより好ましく、0.2%未満とすることがさらに好ましい。ここで、Niは、オーステナイト安定化元素であり、靭性向上に有効である。この効果を発揮するために、Niを0.02%以上含有することが好ましい。
(5)Cr(クロム)
Crは、耐酸化性および高温耐食性を高め、M23型炭化物やMX型炭窒化物による析出強化により高温クリープ破断強度を高めるために必要不可欠の元素である。これらの効果を発揮させるために、Crを8.5%以上含有することが必要である。
一方、Crの含有量が高くなるにつれて、室温における引張強度や、高応力側の短時間クリープ破断強度は強くなるが、その反面、低応力側の長時間クリープ破断強度は低くなる傾向にある。これは、低応力長時間クリープ破断寿命の屈曲現象の一因とも考えられている。また、Cr含有量が多くなると、長時間域でMX型炭窒化物の消失が加速することで、マルテンサイト組織の下部組織(微細組織)の顕著な変化が生じ、下部組織のサブグレイン化が著しく進む。これらの傾向は、Cr含有率が10%以上で急速に強まる。そのため、Crの含有率を8.5〜10%未満とした。同様の理由により、Crの含有率を8.5〜9.8%とすることがより好ましく、8.5〜9.5%とすることがさらに好ましい。
(6)Mo(モリブデン)
Moは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させるとともに、微細炭化物や微細なラーベス相を生成して高温クリープ破断強度を向上させるため、有用な元素である。しかしながら、Moの含有率が1%を超えると、δフェライトを生成して、靭性を著しく低下させる。そのため、Moの含有率を1%以下とした。また、Moを0.5%を超えて含有した場合、高温での組織安定性が飛躍的に向上する。上記した効果を発揮させるために、Moを0.02%以上含有することが好ましい。特に、長時間クリープ特性を重視する場合、Moを0.5%を超えて含有することが好ましい。
(7)V(バナジウム)
Vは、微細な炭化物や炭窒化物を形成して、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。この効果を発揮させるために、Vを0.05%以上含有することが必要である。一方、Vの含有率が0.3%を超えると、炭化物の過度の析出が生じ、高温クリープ破断強度を低下させる。そのため、Vの含有率を0.05〜0.3%とした。同様の理由により、Vの含有率を0.15〜0.25%とすることがさらに好ましい。
(8)Co(コバルト)
Coは、δフェライトの生成を抑制し、固溶強化により高温引張強度や高温クリープ破断強度を向上させる。これは、Coの添加によってAc変態点がほとんど変わらないからである。一方、Coは、Wの固溶限を減少させることにより、ラーベス相やμ相の凝集粗大化を促進し、長時間クリープ強度の低下を引き起こす。そのため、長時間クリープ強度を重視した本耐熱鋼では、Co含有率を2%以下とした。同様の理由から、Coの含有率を1%以下とすることがより好ましい。また、上記したCoの効果を発揮するために、Coを0.5%以上含有することが好ましい。
(9)W(タングステン)
Wは、M23型炭化物の凝集や粗大化を抑制する。また、Wは、合金中に固溶してマトリックスを固溶強化させ、ラス境界等にラーベス相を分散析出させるため、高温引張強度や高温クリープ破断強度の向上に有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Wを1%以上含有することが必要である。一方、Wの含有率が5%を超えると、δフェライトや粗大なラーベス相が生成しやすくなり、延性や靭性が低下するとともに、高温クリープ破断強度も低下する。そのため、Wの含有率を1〜5%とした。同様の理由により、Wの含有率を3%を超え5%以下とすることがより好ましい。
(10)N(窒素)
Nは、C、Nb、Vなどと結びついて炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。Nの含有率が0.01%未満では、十分な引張強度や高温クリープ破断強度を得ることができない。一方、Nは、Bとの結びつきが強く、Nの含有率が0.015%以上では、BNの窒化物が生成することにより鋼塊の製造が困難となる。さらに、熱間加工性が悪化するとともに、延性や靭性も低下する。また、BN相の析出によって、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するので、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Nの含有率を0.01〜0.015%未満とした。同様の理由により、Nの含有率を0.01〜0.014%未満とすることがより好ましい。
(11)Nb(ニオブ)
Nbは、室温での引張強度の向上に有効であるとともに、微細炭化物や炭窒化物を形成し、高温クリープ破断強度を向上させる。また、Nbは、微細なNbCを生成して結晶粒の微細化を促進し、靭性を向上させる。Nbの一部は、V炭窒化物と複合したMX型炭窒化物を析出して、高温クリープ破断強度を向上させる効果もある。これらの効果を発揮させるために、Nbを0.01%以上含有することが必要である。一方、Nbの含有率が0.15%を超えると、粗大な炭化物や炭窒化物が析出し、延性や靭性を低下させる。そのため、Nbの含有率を0.01〜0.15%とした。同様の理由により、Nbの含有率を0.01〜0.08%とすることがより好ましい。
(12)B(ホウ素)
Bは、微量の添加で焼入性が増大し、靭性が向上する。また、Bは、オーステナイト結晶粒界およびその下部組織のマルテンサイトパケット、マルテンサイトブロック、マルテンサイトラス内における、炭化物、炭窒化物およびラーベス相の凝集や粗大化を高温下で長時間に亘って抑制する効果を有している。さらに、Bは、WやNbなどと複合添加することによって、高温クリープ破断強度を向上させるのに有効な元素である。これらの効果を発揮させるために、Bを0.003%以上含有することが必要である。一方、Bの含有率が0.03%を超えると、BとNが結合してBN相が析出し、熱間加工性が損なわれたり、高温クリープ破断延性や靭性が大きく低下する。また、BN相の析出により、高温クリープ破断強度に有効な固溶Bの含有量が減少するため、高温クリープ破断強度が低下する。そのため、Bの含有率を0.003〜0.03%とした。同様の理由により、Bの含有率を0.005〜0.015%とすることがより好ましい。
(13)P(リン)、S(硫黄)およびAl(アルミニウム)
P、SおよびAlは、実施の形態の耐熱鋼においては、不可避的不純物に分類されるものである。これらの不可避的不純物は、可能な限りその残存含有率を0%に近づけることが好ましい。
次に、実施の形態の耐熱鋼の製造方法について説明する。
実施の形態の耐熱鋼は、例えば、次のように製造される。上記した耐熱鋼を構成する組成成分を得るために必要な原材料を、アーク式電気炉、真空誘導電気炉などの溶解炉で溶解し、精錬、脱ガスを行う。その後、所定サイズの型に注湯し、時間をかけて凝固させ鋼塊を形成する。凝固が完了した鋼塊は、1100〜1200℃に加熱され鍛造処理が施され、その後、調質熱処理(焼入処理および焼戻処理)が施される。このような工程を経て、耐熱鋼が製造される。
ここで、鍛造処理における加熱温度を1100℃〜1200℃の温度範囲とすることが好ましいのは、温度が1100℃未満では、材料の熱間加工性が十分に得られず、構成部品の中心部における鍛造効果が十分でなかったり、鍛造変形中に鍛造割れを発生させる原因となる可能性があり、温度が1200℃を超えると、結晶粒の粗大化や結晶粒の不均一性が顕著になり、鍛造による変形が不均一になることや鍛造後に行われる調質熱処理の焼入処理時の結晶粒粗大化や不均一性の原因となるからである。
ここで、調質熱処理について説明する。
(焼入処理)
実施の形態の耐熱鋼においては、マトリックス中にMX型炭窒化物を微細に析出させて高温クリープ破断強度を向上させるために、Nbを0.01〜0.15%含有している。
この効果を十分に発揮させるためには、焼入温度に加熱保持する際に、Nbを完全にオーステナイトマトリックス中に固溶させることが必要である。しかし、焼入温度が1040℃未満では、Nbは、凝固時に生じた粗大炭窒化物として未固溶状態として残る。そのため、クリープ破断強度の向上が十分には発揮されず、さらに、延性、靭性、疲労強度の低下が生じる。このような粗大炭窒化物を一旦固溶させて、焼入れ後の微細な炭窒化物として多量に有効析出させるためには、1040℃以上の焼入温度が必要となる。
一方、焼入温度が1120℃を超えると、実施の形態の耐熱鋼においては、オーステナイト相中にδフェライト相が生成するとともに、結晶粒径の急激な粗大化を生じ、延性や靭性が大幅に低下する。そのため、焼入処理の温度を1040〜1120℃とすることが好ましい。
焼入処理において、焼入後、鍛造素材は、微細組織を得るため、鍛造素材の中心部において50〜300℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、油冷や空冷などを採用することができる。
鍛造素材の中心部とは、例えば、鍛造素材が所定の肉厚を有する構造体からなるものであれば、その肉厚の中心部をいう。すなわち、鍛造素材の中心部とは、鍛造素材において最も冷却速度が小さくなる部分である。なお、ここでは、鍛造素材の中心部の冷却速度を定義しているが、上記した冷却速度は、鍛造素材において最も冷却速度が小さくなる部位の冷却速度としてもよい。また、焼戻処理においても同様とする。
(焼戻処理)
焼戻処理によって、上記した焼入処理によって生じた残留オーステナイト組織を分解し、焼戻マルテンサイト組織とし、炭化物や炭窒化物をマトリックス中に均一に分散析出させるとともに転位組織を適正レベルに回復させる。これによって、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性が得られる。
焼戻処理は、2回実施されることが好ましい。1回目の焼戻処理(第1段焼戻処理)は、残留オーステナイト組織を分解させることを目的とし、540〜600℃の温度範囲で行われることが好ましい。2回目の焼戻処理(第2段焼戻処理)は、材料全体を焼戻マルテンサイト組織にすることにより、必要とする、高温クリープ破断強度、破断延性および靭性を得ることを目的とし、650℃〜750℃の温度範囲で行われることが好ましい。
焼入れた状態での金属組織は、多くはマルテンサイト変態し、焼入れマルテンサイト組織となっているが、一部にオーステナイト組織が残留している。焼入れマルテンサイト組織は、第1段焼戻処理によって、焼戻しマルテンサイト組織に変わる。一部の残留オーステナイト組織は、第1段焼戻処理によって、焼入れマルテンサイト組織に変わり、残留オーステナイト組織は消滅する。
第1段焼戻処理の温度が540℃より低い場合では、残留オーステナイト組織から焼入れマルテンサイト組織への変態が十分ではない。また、第1段焼戻処理の温度が600℃を超える場合には、MX型炭窒化物の析出サイトが少なくなり、粗大なMX型炭窒化物が析出する。そのため、第1段焼戻処理の温度を540〜600℃とした。
第1段焼戻処理によって一部に残っていた残留オーステナイト組織が焼入れマルテンサイト組織に変態するが、このままでは延性や靭性に乏しい組織のままである。そのため、第2段焼戻処理を施して焼戻しマルテンサイト組織に変えておく必要がある。
第2段焼戻処理の温度が650℃より低い場合には、焼入れマルテンサイト組織の焼戻しマルテンサイト組織への変態が十分ではなく、さらに、炭化物や炭窒化物の析出が十分に平衡値にまで達しない。一方、第2段焼戻処理の温度が750℃を越える場合には、焼戻処理が進み過ぎ、引張強さや耐力などの強度特性が十分ではない。そのため、第2段焼戻処理の温度を650〜750℃とした。
ここで、第1段焼戻処理において、第1段焼戻後、鍛造素材は、冷却時に形状変化部位などの応力集中部に大きなひずみを発生させないように、鍛造素材の中心部において、20〜100℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、炉冷や空冷などを採用することができる。
第2段焼戻処理において、第2段焼戻後、鍛造素材は、冷却時に形状変化部位などの応力集中部にひずみを発生させないように、20〜60℃/時の冷却速度で冷却されることが好ましい。この範囲の冷却速度を得るための冷却方法として、例えば、炉冷などを採用することができる。
なお、第2段焼戻処理における冷却は、炉冷などにより小さな冷却速度で冷却されるため、冷却過程における、鍛造素材の中心部と外周部における温度差は小さい。そのため、第2段焼戻処理における冷却速度の定義においては、鍛造素材の中心部という限定をせず、例えば、鍛造素材の中心部または外周部などの、鍛造素材内のいずれの位置における冷却速度であってもよい。
上記した実施の形態の耐熱鋼によれば、優れた長時間クリープ破断寿命を得ることができる。実施の形態の耐熱鋼は、例えば、蒸気タービンの構成部品を構成する材料として好適である。
蒸気タービンの構成部品として、例えば、タービンロータ、タービンディスクなどの鍛造部品などが挙げられる。上記した蒸気タービンの構成部品のすべての部位を上記した耐熱鋼で構成してもよいし、構成部品の一部の部位を上記した耐熱鋼で構成してもよい。実施の形態の耐熱鋼で構成された蒸気タービンの構成部品においても、優れた長時間クリープ破断寿命を得ることができる。
以下に、実施の形態の耐熱鋼が高温クリープ破断寿命に優れていることを説明する。
(化学組成の影響)
表1は、材料特性評価に用いた各試料(試料1〜試料56)の化学組成成分を示す。なお、試料1〜試料48は、実施の形態の耐熱鋼の実施例であり、試料49〜試料56は、実施の形態の耐熱鋼の化学組成範囲にない耐熱鋼であり、比較例である。
Figure 0005996403
まず、表1に示す化学組成を有する試料1〜試料56の耐熱鋼を構成する組成成分を得るために必要な原材料を真空誘導溶解炉にて溶解し、金型に鋳込み、それぞれ20kgの鋼塊を作製した。固まった各鋼塊を1200℃の温度に加熱した後、大型プレスによって、鍛造比3の加工比を与える熱間加工(鍛造)を行った。そして、長さが800mm、幅が130mm、高さが35mmの形状の鍛造素材を構成した。
続いて、鍛造素材を1070℃の温度で5時間加熱後、鍛造素材の中心部が100℃/時の冷却速度となるように冷却し、焼入処理を施した。
続いて、鍛造素材を570℃の温度で20時間加熱して、第1段焼戻処理を施した。第1段焼戻処理後、鍛造素材の中心部が50℃/時の冷却速度となるように冷却した。
続いて、鍛造素材を680℃の温度で20時間加熱して、第2段焼戻処理を施した。第2段焼戻処理後、鍛造素材の中心部が50℃/時の冷却速度となるように冷却した。
そして、鍛造素材から所定のサイズの試験片を作製した。
試料1〜試料56に係る各試験片に対してクリープ破断特性を評価した。クリープ破断特性の評価では、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmの条件でクリープ破断試験を実施した。
ここで、625℃、20kgf/mmの条件においては、蒸気タービン用耐熱鋼として優れた特性である破断時間2000時間以上を満たすか、蒸気タービン用耐熱鋼として長期の健全な運転を可能にするための優れた特性である破断時間5000時間以上を満たすかという観点から評価した。一方、625℃、15kgf/mmの条件においては、蒸気タービン用耐熱鋼として優れた特性である破断時間10000時間以上を満たすか、蒸気タービン用耐熱鋼として長期の健全な運転を可能にするための優れた特性である破断時間25000時間以上を満たすかという観点から評価した。その他の条件は、JIS Z 2271(金属材料のクリープ及びクリープ破断試験方法)に準じて、クリープ破断試験を実施した。
表2には、クリープ破断試験の結果を示している。表2において、上記したように、625℃、20kgf/mmの条件においては、破断時間が2000時間以上で5000時間未満のときを2000時間以上と示し、破断時間が5000時間以上のときを5000時間以上と示している。また、625℃、15kgf/mmの条件においては、破断時間が10000時間以上で25000時間未満のときを10000時間以上と示し、破断時間が25000時間以上のときを25000時間以上と示している。
Figure 0005996403
表2に示すように、試料1〜試料48は、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmの双方の条件において、優れたクリープ破断特性を有している。一方、試料49〜試料56は、特に625℃、15kgf/mmの条件において、クリープ破断特性が劣っている。
(焼入処理および焼戻処理の影響)
ここでは、クリープ破断特性に及ぼす焼入処理および焼戻処理の影響を調べた。表1に示した試料15の化学組成の材料について焼入処理および焼戻処理の影響を調べた。
前述したように、試料15の化学組成の材料について、溶解、鋳込み、熱間加工(鍛造)を行い、鍛造素材を構成した。そして、表3に示す条件で、焼入処理および焼戻処理を施した。
ここで、焼入処理において、鍛造素材の中心部が100℃/時の冷却速度となるように冷却した。第1段焼戻処理後、鍛造素材の中心部が50℃/時の冷却速度となるように冷却した。第2段焼戻処理後、鍛造素材の中心部が50℃/時の冷却速度となるように冷却した。そして、鍛造素材から所定のサイズの試験片を作製した。
Figure 0005996403
各条件の焼入処理および焼戻処理を経て作製された試験片に対して、化学組成の影響を調べたときと同様の方法で、クリープ破断特性を評価した。
表3には、クリープ破断試験の結果を示している。表3では、625℃、20kgf/mmの条件において、2000時間の時点で未破断のときには「○」と表示し、2000時間の時点で破断しているときには「×」と表示している。また、625℃、15kgf/mmの条件において、10000時間の時点で未破断のときには「○」と表示し、10000時間の時点で破断しているときには「×」と表示している。
表3に示すように、焼入処理の温度が1040〜1120℃、第1段焼戻処理の温度が540〜600℃、および第2段焼戻処理の温度が650〜750℃の場合には、625℃、20kgf/mmおよび625℃、15kgf/mmの双方の条件において、優れたクリープ破断特性を有している。
以上説明した実施形態によれば、長時間クリープ破断寿命の向上を図り、優れた高温特性や耐久性などを得ることが可能となる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.1%以下、Mn:0.1%を超え0.7%以下、Ni:1%以下、Cr:8.5〜10%未満、Mo:1%以下、V:0.05〜0.3%、Co:2%以下、W:1〜5%、N:0.01〜0.014%未満 、Nb:0.01〜0.15%、B:0.003〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    JIS Z 2271に準ずるクリープ破断試験による、625℃、20kgf/mm の条件での破断時間が2000時間以上であり、625℃、15kgf/mm の条件での破断時間が10000時間以上であることを特徴とする耐熱鋼。
  2. 質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.1%以下、Mn:0.15%以下、Ni:1%以下、Cr:8.5〜10%未満、Mo:1%以下、V:0.05〜0.3%、Co:2%以下、W:3%を超え5%以下 、N:0.01〜0.015%未満、Nb:0.01〜0.15%、B:0.003〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、
    JIS Z 2271に準ずるクリープ破断試験による、625℃、20kgf/mm の条件での破断時間が2000時間以上であり、625℃、15kgf/mm の条件での破断時間が10000時間以上であることを特徴とする耐熱鋼。
  3. 質量%で、Moが0.5%を越え1%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の耐熱鋼。
  4. 請求項1乃至3のいずれか1項記載の耐熱鋼の製造方法であって、
    1040〜1120℃の温度で焼入処理を施し
    540〜600℃の温度で第1段焼戻処理および650〜750℃の温度で第2段焼戻処理を施すことを特徴とする耐熱鋼の製造方法
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