JP5494253B2 - 過給器の制御装置 - Google Patents
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Description
本発明は、ディフューザ部に開度に応じて空気流量を調整可能な可動ベーンを有する、例えばVGC(Variable Geometry Compressor:可変ジオメトリコンプレッサ)等のコンプレッサを備える過給器を制御する過給器の制御装置の技術分野に関する。
この種過給器として、特許文献1に開示された過給装置がある。特許文献1に開示された過給装置によれば、ディフューザ部に突出・引き込み可能に設けられた案内羽根車をエンジンの作動状態に応じて制御することによりコンプレッサ効率を向上させることが可能であるとされている。
また、特許文献2には、急激なアクセルオフによる車両減速時に、コンプレッサの圧力比の低下に先行してコンプレッサ通過空気流量が低下する旨の問題点の開示がある。特許文献2には、このような場合にタービン側の可動ベーンの閉じ制御がもたらす通過空気流量低下の助長作用を防止すべく、このような場合に当該閉じ制御を禁止する技術が開示されている。
上述したように、急激なアクセルオフ操作が生じた場合、圧力比の低下に先んじてコンプレッサの空気流量が低下するため、過給器の動作点が過渡的現象としてサージ限界ラインを超えてサージ領域に突入することがある。
一方、ディフューザ部に設けられた可動ベーン機構のベーン開度を閉じ側に変化させると、このサージ限界ラインは低流量側に推移するから、このようなアクセルオフ操作に伴う動作点の推移に応じて、ベーン開度を順次閉じ側に移行させれば、一見、このようなサージ領域におけるコンプレッササージを防止することが可能である。
然るに、急激なアクセルオフ操作といった過渡的現象においては、空気流量の減少量が大きいため、動作点の推移に応じてなされる所謂後追いのベーン開度制御では、コンプレッサがサージ領域で動作する時間が無視出来ない程度に長くなる懸念がある。即ち、特許文献1に開示される技術では、この種の過渡的現象には十分に対応できず、コンプレッサのサージを的確に防止することが難しい。また、特許文献2に開示された技術は、タービン側の可動ベーンの制御によって、空気流量の低下が助長される事態を防止するものであって、空気流量低下に伴うサージの発生を根本的に解決するものではない。
ここで、このような問題を回避すべく、一種のフィードフォワード制御によって、この種のアクセルオフ操作の検出に応じて予測的にベーン開度を閉じ側に移行させることは可能である。
ところが、ベーン開度を閉じ側に移行させると、上述したサージ限界ラインの変化と同期して、過給器に許容される回転速度の上限値もまた低下する。予測的にベーン開度を変化させると言っても、ベーン開度として選択できる値は、あくまでこのサージ限界ラインと回転速度の上限値とによって規定される動作領域内の値であるから、あるベーン開度において生じたアクセルオフ操作に対しては、必然的にこの回転速度の上限値によってベーン開度の閉じ側への変化が制限される形となり、必ずしもコンプレッササージの発生を防止することができない。
即ち、特許文献1及び2に開示されるものを含む従来の技術思想の範疇では、急激なアクセルオフ操作に対し、コンプレッササージの発生を十分に防止することが困難であるという技術的問題点がある。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、ディフューザ部に可動ベーン機構を備えたコンプレッサを有する過給器において、急激なアクセルオフ操作に伴うサージの発生を確実に防止することが可能な過給器の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る過給器の制御装置は、ディフューザ部に開度に応じて空気流量を調整可能な可動ベーンを有するコンプレッサを車両の一動力源としての内燃機関の吸気通路に備えてなる過給器を制御する過給器の制御装置であって、前記過給器の動作点がサージ領域及び過回転領域に該当しない所定の動作許可領域内となるように前記開度を制御する制御手段と、前記車両が急減速状態にある場合に、前記開度として前記動作点が前記過回転領域となる開度を許可する許可手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る過給器は、内燃機関の吸気通路にコンプレッサを備え、このコンプレッサにおける、流体(ここでは、コンプレッサインペラにより圧縮された吸入空気である)の運動エネルギの一部を圧力エネルギに変換可能な整流手段としてのディフューザ部に、整流子としての複数の可動ベーン(羽根状の部材である)を備える構成となっている。尚、可動ベーンには、当然ながら当該可動ベーンを開閉させるための各種開閉機構及び当該各種開閉機構に駆動力を与える各種駆動装置等が付設され得る。
ここで、この可動ベーンは、ディフューザ部における流体の流路面積を規定する開度が予め設定された範囲で可変であり、当該開度に応じてコンプレッサにおける空気流量を変化させることができる。尚、「開度」とは、開閉の度合いを意味し、その基準値は、開閉範囲で自由である。但し、本発明においては、混乱を避ける目的から、当該開度の大小が夫々当該流路面積の大小に対応するものとする。
尚、本発明に係る過給器は、好適には、内燃機関の排気通路に排気熱の熱エネルギの一部を運動エネルギに変換するタービン等の排気熱回収手段を備えており、この排気熱回収手段とコンプレッサとが同軸回転可能に構成される。即ち、本発明に係る過給器とは、好適には、所謂ターボチャージャである。また、この排気熱回収手段は、その好適な一形態として、排気熱回収手段入口側の排気通路に、コンプレッサ側の可動ベーンと同様に開度に応じて当該排気通路の流路面積を変化させ得る可動ベーンとしてのノズルベーンを備えた、所謂VNT(Variable Nozzle Turbine)であってもよい。
本発明に係る過給器の制御装置は、このような過給器を制御する装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
本発明によれば、制御手段により、コンプレッサの空気流量を変化させ得る可動ベーンの開度が制御される。ここで、可動ベーンの開度は、コンプレッサのサージ限界及び回転限界(実質的な意味合いとしては、即ちチョーク限界である)或いは更にコンプレッサの動作効率等を規定する。可動ベーンの開度は、過給器の動作点が、これらサージ限界及び回転限界によって規定される動作許可領域内となるように制御される。
尚、「動作許可領域」とは、サージを生じる領域としてのサージ領域にも、回転速度が許容上限回転速度よりも高回転となる領域としての過回転領域にも該当しない領域を意味する。この際、可動ベーンの開度は、好適な一形態として、過給器の動作点が、この動作許可領域内において更にコンプレッサの効率が可及的に高くなるように制御されてもよい。尚、「過給器の動作点」とは、予め設定された状態量によって規定される、過給器の一動作条件を意味し、この種の状態量としては、例えばコンプレッサの空気流量相当値及び過給圧相当値等が好適に用いられる。
ところで、車両が減速状態にある場合、コンプレッサの空気流量は減少し、過給器の動作点は、少なくとも大略的にはサージ限界側に移動する。
ここで、例えばアクセル開度の減少率が所定値以上である或いはブレーキペダル踏下量が所定値以上である場合等を実践的検出態様として含み得る急減速時においては、一方で空気流量の減少率が大きく、他方で過給圧に大きな変化が生じないことが多い。従って、空気流量相当値及び過給圧相当値とサージ限界との関係性に鑑みれば、動作点がサージ領域に突入するまでの時間的猶予は少なくとも十分に大きくはなく、急激に変化する過給器の動作点に応じて可動ベーンの開度を迅速且つ的確に変更する必要が生じ得る。
ところが、上述した動作許可領域に関連する開度設定上の制約が存在する場合には、最適な開度設定が阻害される可能性がある。即ち、動作点の変化に追従しつつ開度変化を促すにせよ、予測的な動作点変化に開度変化を追従させるにせよ、あくまで可動ベーンの開度は現時点の動作点が動作許可領域から逸脱しないように設定されなければならず、真に有効な可動ベーンの開度(言い換えれば、動作点がサージ限界をサージ領域側へ逸脱しない開度)に対しては、現時点の動作点が動作許可領域を過回転領域側に逸脱する事態が生じ得るのである。言い換えれば、このような制約の範囲で生じる開度変化では、急激に変化する動作点に開度変化を有効に追従させることが難しくなり、結局のところ開度制御は、一種の後追い制御にならざるを得ず、過給器の動作点がしばしばサージ領域側に逸脱する事態を招き得る。
また特に、高回転高負荷側の領域では、コンプレッサの最高効率領域がサージ限界に近い位置にあるため、この種のサージ領域側への動作点の逸脱がより回避され難い。一方、サージ領域側へ動作点が逸脱するまでの時間的猶予を獲得するためにサージ限界に対する動作点の位置的マージンを確保しようとすると、元よりコンプレッサの効率的な動作が阻害されてしまう。このように、何らの対策も講じられることがなければ、この種の可動ベーンを有するコンプレッサでは、車両の急減速時にコンプレッサにサージが生じる可能性を排除できない。
その点、本発明に係る過給器の制御装置では、許可手段の作用によって、係る問題に対する好適な解が与えられる。即ち、許可手段は、車両が急減速状態にある場合に、可動ベーンの開度として、過給器の動作点が過回転領域となる開度を許可する。
このように回転速度側の制約が除去された場合、可動ベーンの開度は、過給器の動作点とコンプレッサのサージ限界とによって規定すればよくなるから、少なくともサージが無視し得ない長きにわたって継続する事態が防止される。理想的には、サージの発生が防止され得る。
ここで、その時点での動作点が過回転領域となる可動ベーンの開度が恒久的に継続すれば、過給器にチョーク(流路閉塞)が生じて過給圧の急激な低下を招き得るが、車両が急減速状態にあることによって、空気流量の急激な減少は既に担保されており、過給器の動作点が一時的にこの種の過回転領域に位置していたとしても、時間経過と共に動作点は動作許可領域内に収束する。逆に言えば、急減速状態とは、このように動作点が過回転領域に滞在することが実践的運用面において許容され得る程度に大きい空気流量の減少速度が得られる状態として規定されている。
このように、本発明に係る過給器の制御装置によれば、一方で過給器の動作点が過回転領域に滞在することによるデメリットを顕在化させることなく、他方でサージ領域側へサージ限界を逸脱させない旨の作用によってコンプレッサのサージを好適に防止することが可能となるのである。
即ち、本発明は、車両が急減速状態にある場合において、過給器の動作点がサージ限界に近付き且つ回転限界から遠ざかる傾向を示す点に着眼し、可動ベーンの開度制御に、コンプレッサのサージ防止を優先した、従来に比して大きな自由度を与える旨の技術思想によって、コンプレッサのサージを確実に防止する旨の実践上有益なる効果を得たものである。
本発明に係る過給器の制御装置の一の態様では、前記動作点は、前記コンプレッサの空気流量相当値及び前記過給器の過給圧相当値により規定される。
この態様によれば、過給器の動作点は、コンプレッサの空気流量相当値及び過給器の過給圧相当値により規定される。これらは、過給器の動作状態を規定する状態量として適当である。
ここで、「空気流量相当値」とは、コンプレッサの空気流量と一対一、一対多、多対一及び多対多に対応する物理量、制御量及び指標値等を包括する概念であり、好適にはコンプレッサ入口の空気流量等を意味する。尚、実践的には、このコンプレッサ入口の空気流量とは、エアフローメータ等により検出される吸入空気量であってもよい。また、「過給圧相当値」とは、過給圧と一対一、一対多、多対一及び多対多に対応する物理量、制御量及び指標値等を包括する概念であり、好適には、コンプレッサ入口側の吸気圧と出口側の吸気圧との比たる圧力比等を意味する。尚、実践的には、このコンプレッサ入口側の吸気圧とは大気圧であってもよいし、出口側の吸気圧とはインテークマニホールドの圧力(インマニ圧)であってもよい。
本発明に係る過給器の制御装置の他の態様では、前記車両が前記急減速状態にある場合に前記動作点の時間推移を予測する予測手段を更に具備し、前記制御手段は、前記予測された時間推移に基づいて前記開度を制御する。
この態様によれば、予測手段により、動作点の時間推移が予測され、可動ベーンの開度が、この予測された時間推移に基づいて制御されるため、可動ベーンの開度を動作点の実際の変化に精度良く追従させることができる。その結果、コンプレッサの高効率領域がサージ限界付近に位置している場合であっても、サージの発生を防止しつつコンプレッサを可及的に高効率に作動させることが可能となり実践上極めて有益である。
ここで、予測手段に係る動作点の時間推移の予測手法は、一意に限定されず各種の態様があってよい。例えば、予測手段は、実際の動作点の変化、内燃機関の機関回転速度、或いはスロットル開度等から係る時間推移を予測してもよい。また、内燃機関にEGR(Exhaust Gas Recirculation:排気再循環)が備わる場合にはEGR流量又はEGRバルブ開度等に基づいて時間推移が予測されてもよい。
尚、「動作点の時間推移」とは、より実践的には、所定時間経過後の動作点であってもよい。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<発明の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について、一部その動作を交えて説明する。ここに、図1は、車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両10の構成について、一部その動作を交えて説明する。ここに、図1は、車両10の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
図1において、車両10は、本発明に係る「車両」の一例であり、ECU100、エンジン200、ターボ過給器300及びEGR装置400を備える。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等を備え、エンジン200、ターボ過給器300及びEGR装置400の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「過給器の制御装置」の一例である。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述するVGC駆動制御を実行可能に構成されている。
尚、ECU100は、本発明に係る「制御手段」、「許可手段」及び「推測手段」の一例として機能するように構成された一体の電子制御ユニットであり、これら各手段に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係るこれら各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のCPU、MPU(Micro Processing Unit)、ECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いは各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
エンジン200は、ガソリンを燃料とする、本発明に係る「内燃機関」の一例たる直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200の概略について説明すると、エンジン200は、シリンダブロック201に4本の気筒202が並列した構成を有している。燃料たるガソリンは吸気ポートに噴射され、吸入行程において、空気と混合された混合気として気筒内部に吸入される。この気筒内部において、吸入空気は、圧縮行程における着火装置の着火制御により着火し、燃焼室内で燃焼する。
この燃焼に伴う燃焼エネルギは、不図示のピストン及びコネクティングロッドを介してクランクシャフト(不図示)を駆動することにより運動エネルギに変換される。このクランクシャフトの回転は、車両10の駆動輪に伝達され、車両10は走行可能となる。
尚、本発明において、「内燃機関」とは、燃料の燃焼エネルギを運動エネルギに変換して動力として取り出すことが可能な機関を包括する概念であり、例えば燃料種別、燃料の燃焼形態、気筒数、気筒配列、着火態様、燃料の供給態様、動弁系の構成或いは吸排気系の構成等、その実践的態様は、エンジン200のものに限定されない。
排気行程において各気筒から排出される排気は、排気マニホールド203に集約され、排気マニホールド203に接続された排気管204に導かれる。ここで、車両10は、ターボ過給器300を備えており、排気管204に導かれた排気は、このターボ過給器300の後述するタービンブレード312に熱エネルギを供与した後、下流側の触媒装置(不図示)に導かれる構成となっている。尚、ターボ過給器300の詳細については後述する。
一方、上流側吸気管205には、不図示のエアクリーナを介して外界から空気が吸入される。この吸入空気は、ターボ過給器300を構成する後述のコンプレッサインペラ342の回転により圧縮され、コンプレッサ340の下流側に設置された下流側吸気管206に供給されると共に、この下流側吸気管206に設置されたインタークーラ207へ供給される。インタークーラ207は、圧縮後の吸入空気を冷却して過給効率を向上させるための冷却装置である。
下流側吸気管206におけるインタークーラ207の下流側には、スロットル弁208が設置されている。スロットル弁208は、開閉状態に応じて吸入空気を調量する弁であり、ECU100と電気的に接続されたアクチュエータにより、その開閉状態が制御される構成となっている。即ち、スロットル弁208は、所謂電子制御スロットル装置の一部を構築している。
下流側吸気管206は、スロットル弁208の下流側において吸気マニホールド209に連結されている。吸気マニホールド209は、シリンダブロック201内に形成された各気筒に対応する吸気ポートに接続されている。吸気マニホールド209に導かれた吸入空気は、この吸気ポートにおいて霧状に噴射されるガソリンと混合され、先に述べたように、各気筒における不図示の吸気弁の開弁時に気筒内に吸入される。
上流側吸気管205には、エアフローメータ210が設置されている。エアフローメータ210は、外界から吸入される吸入空気の量たる空気流量Qcを検出可能なセンサである。エアフローメータ210は、ECU100と電気的に接続されており、検出された空気流量Qcは、ECU100により一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
尚、空気流量Qcは、本発明に係る「コンプレッサの空気流量相当値」の一例である。
上流側吸気管205には、第1圧力センサ211が設置されている。第1圧力センサ211は、上流側吸気管205における吸入空気の圧力、即ち、コンプレッサ入口圧P0を検出可能に構成されたセンサである。第1圧力センサ211は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたコンプレッサ入口圧P0は、ECU100によって適宜参照される構成となっている。尚、コンプレッサ入口圧P0は、実質的に大気圧と同等である。
下流側吸気管206には、第2圧力センサ212が設置されている。第2圧力センサ212は、下流側吸気管206における吸入空気の圧力、即ち、コンプレッサ出口圧P3を検出可能に構成されたセンサである。第2圧力センサ212は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたコンプレッサ出口圧P3は、ECU100によって適宜参照される構成となっている。尚、コンプレッサ出口圧P3は、実質的に過給圧と同等である。
車両10では、コンプレッサ入口圧P0とコンプレッサ出口圧P3との比たる圧力比Rp(Rp=P3/P0)が、ECU100により常時算出され把握される構成となっている。
ターボ過給器300は、排気熱を回収してタービンブレード312を回転駆動し、当該タービンブレード312と一体に回転するコンプレッサインペラ342の流体圧縮作用を利用して吸入空気を大気圧以上に過給可能な、本発明に係る「過給器」の一例である。
ターボ過給器300は、VNT(Variable Nozzle Turbine:可変ノズルタービン)310、VNTアクチュエータ320、ターボ回転軸330、VGC(可変ジオメトリコンプレッサ)340及びVGCアクチュエータ350を備える。
VNT310は、タービンハウジング311、タービンブレード312及びノズルベーン313を備える。
タービンハウジング311は、タービンブレード312及びノズルベーン313を収容する筐体である。
タービンブレード312は、排気管204に導かれた排気の圧力(即ち、排気圧)によりターボ回転軸330を中心として回転可能に構成された回転翼車である。この回転翼車の材質としては、例えばセラミック或いはアルミニウム等の金属を採用することが可能である。但し、回転翼車の材質は、これらに限定されるものではない。
ノズルベーン313は、タービンハウジング311においてタービンブレード312に対する排気の入り口に相当する排気インレット部に、タービンブレード312を囲むように等間隔で複数設置された、羽根状部材である。これらノズルベーン313の各々は、不図示のリンク式回動機構により所定の回転軸を中心として当該排気インレット部内で一斉に回動可能であり、その開閉状態に応じて、排気管204とタービンブレード312との連通面積(ノズルベーンによって規定される排気流路の流路面積である)を変化させることが可能である。当該連通面積は、ノズルベーン313が全閉状態である場合に最小となり、全開状態である場合に最大となる。
ここで、連通面積が小さくなれば排気の流速が高まるため、排気量が比較的小さい軽負荷領域においては、このノズルベーン313が閉じ側に制御されることによって、効率的にタービンブレード312を駆動することが可能となる。
VNTアクチュエータ(VNTA)320は、ノズルベーン313を回動させる上述したリンク式回動機構に備わる各リンクに対し、ノズルベーン313を一斉に回動させるための駆動力を付与可能な油圧式又は電動式のアクチュエータである。このVNTアクチュエータ320における油圧制御ユニットは、ECU100と電気的に接続されており、ノズルベーン313の開閉状態は、エンジン200の運転条件に応じてECU100により制御される構成となっている。
尚、ノズルベーン313の制御態様は、公知のものであってよく、ここではその詳細を省略する。但し、定性的には、軽負荷領域においては先述したようにノズルベーン313は閉じ側に制御され、高負荷領域においてはノズルベーン313による排気の調速作用は必要ないため、エンジン背圧の上昇を避けるべくノズルベーン313は開き側に制御される。
ターボ回転軸330は、タービンブレード312と後述するコンプレッサインペラ342とを連結する回転軸体である。ターボ回転軸330により相互に連結された構成を採るため、コンプレッサインペラ342とタービンブレード312とは略一体に回転する。
VGC340は、コンプレッサハウジング341、コンプレッサインペラ342、ディフューザベーン343及びディフューザ344を備える。
コンプレッサハウジング341は、コンプレッサインペラ342、ディフューザベーン343及びディフューザ344を収容する筐体である。
コンプレッサインペラ342は、エアクリーナを介して外界から上流側吸気管205に吸入された空気を、タービンブレード312の回転に伴う回転により生じる圧力により下流側吸気管206へ圧送供給可能に構成されている。このコンプレッサインペラ342による吸入空気の圧送効果により、所謂過給が実現される構成となっている。
ディフューザベーン343は、コンプレッサハウジング341においてコンプレッサインペラ342を介して供給される吸入空気の流速を調整して圧力エネルギを取り出すディフューザ344に、コンプレッサインペラ342を囲むように等間隔で複数設置された、本発明に係る「可動ベーン」の一例たる羽根状部材である。
ディフューザベーン343の各々は、不図示のリンク式回動機構(VNTのノズルベーンと同様のものである)により、所定の回転軸を中心として当該ディフューザ344内で一斉に回動可能であり、その開閉状態に応じて、ディフューザ344における吸入空気の流路面積を変化させることが可能である。
VGCアクチュエータ(VGCA)350は、このリンク式回動機構の各リンクに対し、ディフューザベーン343の回動を促す駆動力を付与可能な公知のアクチュエータである。VGCアクチュエータ350は、ECU100と電気的に接続され、ECU100によりその動作が制御される構成となっている。
ここで、図2を参照し、ディフューザベーン343の構成について説明する。ここに、図2は、コンプレッサインペラ342から上流側吸気通路205の方向を見たコンプレッサインペラ342の概略正面図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図2において、コンプレッサインペラ342の外周部には、複数のディフューザベーン343が配設される。このディフューザベーン343は、ディフューザ344内で回動可能に構成されている。
図2(a)には、ディフューザベーン342が基準位置にある場合が示される。基準位置とは、ディフューザベーン343によって規定される吸入空気の流路面積が最小となる位置であり、ディフューザベーン342の開度たるVGC開度AvgcがAvgc=0となる位置に相当する。
一方、図2(b)には、ディフューザベーン343が、上記基準位置(Avgc=0)から回転角α(矢線参照)で回動した状態が示される。基準位置に対し回転した状態では、基本的に、回転角αが大きい程、ディフューザベーン361により規定される吸入空気の流路面積が大きくなる。
流路の連通面積が小さくなれば吸入空気の流速が高まるため、過給効果が比較的小さい軽負荷領域においては、このディフューザベーン343を閉じ側(基準位置側)に制御することによって、過給効率を向上させることが可能となる。一方、ディフューザベーン343の回転角を一定に維持したまま過給を行うと、空気流量Qcがチョーク流量に到達し、それ以上の空気流量の増加に対してはチョーキングが生じる可能性が高くなる。
そのため、ディフューザベーン343は、軽負荷運転から高負荷運転への移行(概ね、コンプレッサ出口圧P3の上昇と一義的である)に伴って、段階的に開き側、即ち回転角が増大する側へ駆動制御される。尚、ディフューザベーン343の回転角αは、不図示の回転角センサにより検出され、回転角センサと電気的に接続されたECU100が適宜参照可能となっている。補足すると、回転角αは、α=0に相当する全閉位置がAvgc=0(%)、α=αmaxに相当する全開位置がAvgc=100(%)として規格化されたVGC開度Avgcとして把握される。
尚、VGC開度Avgcは、VGC340の作動状態を制御するECU100が、VGCA350の制御状態に関連付けて常時把握する構成となっている。
尚、その時点の圧力比Rpに応じて定まるチョーク流量によって、一のVGC開度Angcに対する後述する回転限界ラインNlim_i(iは識別子)が規定される。回転限界ラインNlim_iは、即ち、ターボ過給器300における、空気流量増量側への動作点の移行に際しては、基本的に動作点が回転限界ラインを超えることはない。
図1に戻り、EGR装置400は、EGRパイプ410、EGRバルブ420、及びEGRクーラ430を備える。
EGRパイプ410は、一方の端部が排気管204に接続され、他方の端部が下流側吸気管206に接続された管状部材である。
EGRバルブ420は、EGRパイプ410に設置された電磁開閉弁であり、その開度がEGRパイプ410を介した排気管204と下流側吸気管206との連通を遮断する全閉開度と、これらを殆ど全面的に連通させる全開開度との間で連続的に制御される構成となっている。EGRバルブ420は、ECU100と電気的に接続されており、EGRバルブ開度は、ECU100により制御される構成となっている。
EGRクーラ430は、EGRパイプ410に供給されるEGRガス(即ち、排気)を冷却する冷却装置である。
EGR装置400によれば、EGRバルブ420の開弁時且つ吸気弁の開弁時(即ち、負圧形成時)に排気管204から排気の一部をEGRガスとして気筒内に再循環させることができる。
車両10には、不図示のアクセルペダルセンサ及びブレーキペダルセンサが備わる。アクセルペダルセンサは、不図示のアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。ブレーキペダルセンサは、不図示のブレーキペダルの操作量たるブレーキペダル踏下量Tbを検出可能に構成されたセンサである。これら各センサにより検出されるアクセル開度Ta及びブレーキペダル踏下量Tbは、これらと電気的に接続されたECU100により適宜参照される構成となっている。
<実施形態の動作>
続いて、本実施形態の動作として、ECU100により実行されるVGC駆動制御の詳細について説明する。
<実施形態の動作>
続いて、本実施形態の動作として、ECU100により実行されるVGC駆動制御の詳細について説明する。
始めに、図3を参照し、VGC駆動制御の処理の流れについて説明する。ここに、図3は、VGC駆動制御のフローチャートである。
図3において、ECU100は、ターボ過給器300の動作点を特定する(ステップS101)。ここで、本実施形態において、ターボ過給器300の動作点は、空気流量Qcと圧力比Rpとに基づいて規定される。
ここで、図4を参照し、ターボ過給器300の動作点について説明する。ここに、図4は、ターボ過給器300における空気流量Qcと圧力比Rp(Rp=P3/P0)との関係を概念的に説明する図である。
図4において、横軸には空気流量Qcが、縦軸には圧力比Rpが夫々表されている。ターボ過給器300の動作点は、この二次元座標平面の一座標点に相当する。即ち、空気流量Qcと圧力比Rpとが決まると、動作点は一義的に特定される。
一方、図4には、便宜的にディフューザベーン343の二種類のVGC開度に対応するサージ限界線Sglim及び回転限界線Nlimが表されている。
即ち、相対的に小さい(即ち、閉じ側の)VGC開度AvgcLに対応するサージ限界線Sglim_L(破線参照)及び回転限界線Nlim_L(実線参照)並びに相対的に大きい(即ち、開き側の)VGC開度AvgcHに対応するサージ限界線Sglim_H(破線参照)及び回転限界線Nlim_H(実線参照)である。
尚、ディフューザベーン343は、VGC開度Avgcが連続的に変化し得る構成となっており、図4の座標空間上には、本来、多数のVGC開度Avgcに対応する多数のサージ限界線Sglim_i及び回転限界線Nlim_iが規定され得ることは言うまでもない。
サージ限界線Sglimとは、ターボ過給器300を構成するVGC340のサージ限界を規定する特性線であり、サージ限界線Sglim_iよりも小空気流量側(図中左側)の領域或いは高圧力比側(図中上側)の領域がサージ領域であることを意味する。サージ領域においては、コンプレッサインペラ342に共振現象としてのサージが生じて、ターボ過給器300の過給効率が極端に低下する。また、サージが発生すると、ターボ過給器300に物理的に大きな負荷が加わり望ましくない。
回転限界線Nlimとは、VGC340に許容される回転速度の限界を規定する特性線であり、回転限界線Nlimよりも大空気流量側(図中右側)の領域及び高圧力比側(図中上側)の領域において、コンプレッサインペラ342が過回転状態に陥ることを意味する。尚、軽負荷側(図中左側)から高負荷側(図中右側)へ動作点が変化する過程において、VGC開度Avgcが一定である場合、動作点は回転限界線Nlim_iと交わり、それ以上の負荷の増加に対しては、VGC340にチョークが発生し、動作点が回転限界線Nlim_iに沿う形で低圧力比側へ極端に落ち込む。従って、空気流量が増量される方向への動作点変化に対しては、VGC340が過回転状態であることとチョークの発生とは略一義的に扱われ得る。
このように、一のVGC開度Avgcに対しては、サージ限界線Sglimと回転限界線Nlimとによって挟まれた動作許可領域が規定される。ECU100のROMには、図4に例示されるVGC開度Avgc毎のサージ限界線Sglim及び回転限界線Nlimを数値化してなる通常VGC開度マップを保持しており、VGC開度Avgcを決定するに際して適宜参照される構成となっている。
また、この動作許可領域内において、VGC340の動作効率は一定ではなく、所謂等効率線(不図示)を規定することができる。ここで特に、一動作許可領域内における高効率領域は、回転限界線Nlimよりもサージ限界線Sglim側に寄っている。例えば、現時点でのターボ過給器300の動作点が、空気流量Qc1及び圧力比Rp1に対応する図示動作点MH(黒丸参照)である場合、この動作点MHが最高効率となるVGC開度Avgcとして、VGC開度AvgcHが選択される。尚、サージ限界線に近過ぎる動作点は、VGC340の動作を不安定化させる要因となるため、VGC開度Avgcは、必ずしも、現時点の動作点が、VGC340の効率が最高効率となるように定められずともよい。即ち、サージ限界線と動作点との間との間には、所謂サージ余裕と称される、例えば概ね10%程度のマージンが設けられていてもよい。
図3に戻り、ECU100は、ステップS101において、空気流量Qc及び圧力比Rpに基づいてターボ過給器300の動作点を特定し、上記通常VGC開度マップに基づいて、特定された動作点に対し適切なVGC開度Avgcを決定する(ステップS102)と共に、決定されたVGC開度Avgcが得られるように、VGC340を駆動制御する(ステップS103)。
尚、本実施形態に係る「適切なVGC開度」とは、即ち、その時点のターボ過給器300の動作点が当該動作許可領域内となるVGC開度であって、且つ上述したサージ余裕を加味した上で可及的にVGC340が高効率に動作し得るVGC開度を意味する。
次に、ECU100は、車両10が急減速状態にあるか否かを判別する(ステップS104)。ここで、急減速状態とは、アクセル開度Taの減少率が所定値以上であるか、又はブレーキペダル踏下量Tbの増加速度が所定値以上である状態として規定される。急減速状態にない場合(ステップS104:NO)、ECU100は、処理をステップS101に戻し、ターボ過給器300の動作点に応じた適切なVGC開度制御を継続する。
一方、車両10が急減速状態にある場合(ステップS104:YES)、ECU100は、所定時間経過後のターボ過給器300の動作点を意味する動作点予測値を決定する(ステップS105)。
ここで、動作点予測値は、これまでの動作点の時間推移、エンジン200の機関回転速度、スロットル開度(不図示のスロットル開度センサにより検出される)及びEGRバルブ開度等の参照値に基づいて、ターボ過給器300の動作点の時間推移を予測し、所定時間経過後に到達すると考えられる動作点として動作点予測値を決定する。尚、ステップS105に係る動作は、本発明に係る「予測手段」の動作の一例である。
動作点予測値が決定されると、ECU100は、急減速時用VGC開度Avgcbrkを決定し(ステップS106)、VGC開度Avgcがこの決定されたVGC開度AvgcbrkとなるようにVGC340を駆動制御する(ステップS107)。
続いて、ECU100は、急減速状態が解消されたか否かを判別し(ステップS108)、急減速状態が解消されていない場合(ステップS108:NO)、処理をステップS105に戻して、予測動作点に基づいたVGC開度制御を継続すると共に、急減速状態が解消された場合には(ステップS108:YES)、処理をステップS101に戻して一連の処理を繰り返す。VGC駆動制御は以上のように実行される。
ここで、図5を参照し、急減速時用VGC開度Avgcbrkについて説明する。ここに、図5は、急減速時用VGC開度Avgcbrkの概念を説明する図である。尚、同図において、図4と重複する箇所には、同一の符合を付してその説明を適宜省略することとする。
図5において、図4に例示された二種類のVGC開度に対応する二組のサージ限界線Sglim及び回転限界線Nlimに加え、更に、これらの中間に相当する開度たるAvgc1(AvgcL<Avgc1<AvgcH)及びAvgc2(Avgc1<Avgc2<AvgcH)に関する二組のサージ限界線及び回転限界線が示される。即ち、VGC開度Avgc=Avgc1に対応するサージ限界線Sglim_1及び回転限界線Nlim_1並びにVGC開度Avgc=Avgc2に対応するサージ限界線Sglim_2及び回転限界線Nlim_2である。
ここで、動作点が図示動作点MHである状況において、車両10が急減速状態に陥ったとする。急減速状態においては、圧力比Rpは過渡的に殆ど不変であり、一方で空気流量Qcは急激に減少するため、予測される動作点の時間推移は、例えば図示の通り、Rp=Rp1のまま空気流量がQcH→Qc2→Qc1→QcLと順次変化する図示鎖線に例示される推移となる。
尚、図5においては、説明を分かり易くするために、動作点M1及び動作点M2に対応する最適なVGC開度が、夫々Avgc1及びAvgc2であるとする。即ち、先述した通常VGC開度マップ上で、動作点M1に対応するVGC開度がAvgc1であり、動作点M2に対応するVGC開度がAvgc2であるとする。
ここで、図3のステップS105において予測される動作点、即ち、所定時間経過後の動作点が動作点M2であれば、急減速時用VGC開度AvgcbrkはAvgc2であり、より急減速の度合いが大きく、所定時間経過後の動作点が動作点M1であれば、急減速時用VGC開度AvgcbrkはAvgc1となる。これらは、現時点での動作点である動作点MHについても、動作許可領域内に収め得るVGC開度であり、実践上何らの問題もない。
ところが、これらよりもより急峻な動作点変化が予測される場合、即ち、所定時間経過後の予測動作点が、動作点MLである場合、通常VGC開度マップに準じてVGC開度としてAvgcLを選択しようとしても、現時点の動作点MHが、VGC開度AvgcLに対応する動作許可領域を規定する回転限界線Nlim_Lを過回転領域側へ逸脱している。このため、何らの対策も講じられることがなければ、チョーク防止のインターロックロジックが作用して、このVGC開度AvgcLは、選択対象から外されてしまう。
一方、本実施形態に係る「急減速時用VGC開度」とは、このような問題点が生じ得ることを予見しており、急減速時における過渡的なVGC開度制御に関しては、動作許可領域に係る回転限界線側の制限が解除される構成となっている(即ち、本発明に係る「許可手段」の動作の一例である)。
即ち、急減速時においては、VGC開度制御が先んじたとしても、空気流量Qcが後追いで減少することが自明である。従って、過渡的に生じ得る一時的な期間について、コンプレッサインペラ342が過回転状態に陥ったとして、何ら特別の措置を講じずとも空気流量Qcの減少に伴って自然と係る過回転状態は解消されるのである。言い換えれば、このような急減速時においては、このように自然消滅することが自明である過回転状態を、VGC開度制御により動作点をサージ限界線よりも高負荷側に収めない限り継続するサージに対し優先する或いはこれらを対等に扱う合理的な理由は存在しないのである。
このような理由に基づいた回転限界側の制限解除措置により、本実施形態においては、例えば、動作点MHから動作点MLへの極端な動作点変化が予測される場合であっても、速やかに、動作点MLを動作許可領域内に収め得るVGC開度を急減速時用VGC開度Avgcbrkとして選択することができる。従って、過渡期間としての急減速時においても、VGC340にサージを生じさせることなく、ターボ過給器300の良好な動作を維持することができるのである。
また、このように、回転限界側における制限が解除される点に鑑みれば、予測動作点に対し、コンプレッサの動作効率を考慮した最適なVGC開度を、サージの発生を憂慮することなく選択することができる。従って、ターボ過給器300の全体的な動作効率を上昇させることが可能であり、燃費の観点からも実践上有益である。
次に、図6を参照して、本実施形態の効果について、視覚的に説明する。ここに、図6は、急減速時の空気流量Qcの一時間推移を例示する図である。
図6において、縦軸及び横軸には、夫々空気流量Qc及び時刻が表される。
図6において、実線は急減速時における実際の空気流量Qcの推移であり、細い破線は本実施形態に係る制御が適用された場合のVGC開度指示値に対応するサージ限界流量の推移であり、細い鎖線は比較例として本実施形態に係る制御が適用されない場合のVGC開度指示値に対応するサージ限界流量の推移である。
本実施形態に係る制御が適用される場合、回転限界線による制限を考慮せずともよいため、急減速状態である旨の判定が下された時刻T1において、サージ限界流量を、Qc1からQc2まで下げることができ(図示白丸M3参照)、実際の空気流量の減少が継続する場合には、更に時刻T2においてサージ限界流量をQc2からQc3まで下げられる(図示白丸M4参照)。
その結果、本実施形態に係る制御が適用される場合のVGC開度指示値に対する実際のサージ限界流量(図示太い破線参照)は、絶えず実際の空気流量(実線)よりも低くなり、急減速時においても、空気流量Qcがサージ限界線をサージ領域側へ逸脱することが防止される。即ち、ターボ過給器300の安定な運用が可能となる。
一方、本実施形態に係る制御が適用されない場合、回転限界線による制限が存在するため、VGC指示値を小ステップ幅で小刻みに制御する必要が生じ(図示白丸M5、M6及びM7参照)、指示値に対する実際のサージ限界流量(図示太い鎖線参照)は、時間変化に対し緩慢となる。その結果、過渡期間としての急減速時の大部分の時間領域において、実際の空気流量がサージ限界流量を下回り、ターボ過給器300は、殆ど恒常的にサージ領域での可動を余儀なくされる。その結果、過給効率の面からも、耐久性の面からも、燃費の面からも、望ましくない事態が継続してしまうのである。
最後に、図7を参照し、回転限界線による制限の有無について視覚的に説明する。ここに、図7は、急減速時における回転速度マージンの一時間推移を例示する図である。尚、回転速度マージンとは、回転限界線によって規定される回転速度と、ターボ過給器300の動作点に対応する許容上限回転速度(動作点が回転限界線の構成要素点となる回転速度)との偏差である。
図7において、縦軸及び横軸には夫々回転速度マージンNmg及び時間が表される。
ここで、本実施形態に係る回転限界線による制限が存在する場合、動作点に対応する許容上限回転速度が回転限界線によって規定される回転速度を超えることはないため、回転速度マージンNmgは常時正値を採る(理論的にはゼロとなり得るが、実践的には、ある程度の余裕が設けられる)。
一方、本実施形態に係る回転限界線による制限解除措置が講じられると、一時的に動作点に対応する許容上限回転速度が回転限界線によって規定される回転速度を超えることが許される。このため、回転速度マージンNmgは、負側の領域に逸脱する。然るに、急減速時には、空気流量Qcは減少するから、動作点は自然と軽負荷側へ、即ち、動作点に対応する許容上限回転速度を減じる側へと移動し、結局は、回転速度マージンNmgが負値を採る時間領域は、実践上無視し得るものとなる。そのため、回転限界線による制限を解除しても実践上の不利益を被る可能性は著しく低くて済むのである。
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う過給器の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
本発明は、吸気側に空気流量調整用のベーン機構を有するコンプレッサを備えた過給器の制御に適用可能である。
10…車両、100…ECU、200…エンジン、202…気筒、204…排気管、205…上流側吸気管、310…VNT、340…VGC、343…ディフューザベーン、344…ディフューザ。
Claims (3)
- ディフューザ部に開度に応じて空気流量を調整可能な可動ベーンを有するコンプレッサを車両の一動力源としての内燃機関の吸気通路に備えてなる過給器を制御する過給器の制御装置であって、
前記過給器の動作点がサージ領域及び過回転領域に該当しない所定の動作許可領域内となるように前記開度を制御する制御手段と、
前記車両が急減速状態にある場合に、前記開度として前記動作点が前記過回転領域となる開度を許可する許可手段と
を具備することを特徴とする過給器の制御装置。 - 前記動作点は、前記コンプレッサの空気流量相当値及び前記過給器の過給圧相当値により規定される
ことを特徴とする請求項1に記載の過給器の制御装置。 - 前記車両が前記急減速状態にある場合に前記動作点の時間推移を予測する予測手段を更に具備し、
前記制御手段は、前記予測された時間推移に基づいて前記開度を制御する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の過給器の制御装置。
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