以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
(気流発生装置)
本発明に係る車両に配置される、放電プラズマを利用した気流発生装置1について説明する。
図1は、本発明に係る車両に配置される気流発生装置1の断面を示す図である。図2は、気流発生装置1における気流速度の変化を示す図である。
図1に示すように、気流発生装置1は、誘電体2内に埋設された第1の電極3と、この第1の電極3と誘電体2の表面からの距離を同じにし、かつ誘電体2の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体2内に埋設された第2の電極4と、ケーブル5を介して電極3、4間に電圧を印加する放電用電源6とを備えている。
誘電体2は、公知な固体の誘電材料で構成される。誘電体2を構成する材料として、具体的には、アルミナ、ガラス、マイカなどの無機絶縁物、ポリイミド、ガラスエポキシ、ゴムなどの有機絶縁物などの電気的絶縁材料が挙げられるが、これらに限られるものではない。誘電体2を構成する材料は、気流発生装置が使用される環境に応じて公知な固体の誘電材料から適宜に選択される。
第1の電極3および第2の電極4は、公知な固体の導電材料で構成される。具体的には、第1の電極3および第2の電極4は、例えば銅板で構成することができる。この場合、気流発生装置1自体の厚みを100μm以下にすることも可能である。なお、第1の電極3および第2の電極4は、それぞれ直接接触することなく誘電体2を介して配設されている。
放電用電源6は、第1の電極3と第2の電極4との間に電圧を印加するものである。放電用電源6からは、例えば、正極性および/または負極性の電圧を断続的に出力するパルス状の出力電圧、正極性および負極性のパルス状の電圧を交互に出力する交番電圧、交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧などが出力される。また、放電用電源6は、例えば、出力電圧に強弱をつけて出力するなど、電圧値を調整しながら、第1の電極3と第2の電極4との間に電圧を印加してもよい。すなわち、放電用電源6は、第1の電極3と第2の電極4との間における、電圧、周波数、電流波形、デューティ比などの電流電圧特性を変化させることができる。なお、電流電圧特性の制御は、使用条件や用途などに応じて適宜に設定可能である。
次に、気流発生装置1によって誘起気流が発生する現象について説明する。
気流発生装置1に放電用電源6から第1の電極3と第2の電極4との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極3と第2の電極4との間に放電が誘起される。
気流発生装置1では、第1の電極3と第2の電極4との間に誘電体2を介在させているので、高温下や含塵環境下においてもアーク放電には至らず、安定に放電を維持することが可能なバリア放電が生じ、低温プラズマが生成される。このバリア放電においては、アーク放電に至らないため、気体をほとんど加熱せずに電離して電子およびイオンを生成することができる。生成された電子やイオンは、電界によって駆動され、それらが気体分子と衝突することで運動量が気体分子に移行する。すなわち、放電を生じることで電極付近に誘起気流7を発生することができる。この誘起気流7の大きさや向きは、第1の電極3と第2の電極4との間に印加する電圧、周波数、電流波形、デューティ比などの電流電圧特性を変化させることで制御可能である。
上記したような大気圧下におけるバリア放電において、第1の電極3と第2の電極4との間に直流電圧を印加すると、放電の進展とともに誘電体2の表面に電荷が蓄積し、第1の電極3と第2の電極4との間の電界が緩和され、最終的には電界が空間の電離を維持できなくなり、放電が停止する。この放電の停止を防止するためには、誘電体2の表面に蓄電された電荷を除去することが必要である。そのためには、第1の電極3と第2の電極4との間に、パルス状の正負の両極性電圧である交番電圧や交流電圧を印加する必要がある。このように第1の電極3と第2の電極4との間に交番電圧または交流電圧を印加することで、持続的にバリア放電を行うことが可能となる。
ここで、第1の電極3と第2の電極4との間に交番電圧を印加すると、印加される電圧の極性によって、第1の電極3と第2の電極4との間にかかる電界の向きが逆転する。そのため、電子やイオンが中性気体分子に与える運動量の向きも電圧の極性によって逆転する。その結果、印加される電圧の極性によって、気流発生装置1の表面、すなわち誘電体2の表面に沿って発生した誘起気流7の流れる方向は反転する。また、電圧の極性を交互に変化させることで、その変化に伴って誘起気流7の流れる方向も変化し、図2のように、誘起気流7の流速は変化する。
次に、他の構成の気流発生装置1aについて説明する。
図3は、本発明に係る車両に配置される他の構成の気流発生装置1aの断面を示す図である。図4は、気流発生装置1aにおける気流速度の変化を示す図である。図5は、気流発生装置1aにおいて、電圧値を制御したときの気流速度の変化を示す図である。なお、以下において、気流発生装置1の構成と同一部分には同一の符号を付して重複する説明を簡略または省略する。
図3に示すように、気流発生装置1aは、誘電体2の表面と同一面に露出された第1の電極3と、この第1の電極3と誘電体2の表面からの距離を異にし、かつ誘電体2の表面と水平な方向にずらして離間され、誘電体2内に埋設された第2の電極4と、ケーブル5を介して第1の電極3と第2の電極4との間に電圧を印加する放電用電源6とを備えている。
この気流発生装置1aにおいても、前述した気流発生装置1と同様に、放電用電源6によって第1の電極3と第2の電極4との間に、所定値以下の周波数の交流電圧や交番電圧を印加すると、図4に示すように、気流発生装置1aの表面、すなわち誘電体2の表面に沿って流れる方向が反転して振動する誘起気流7を発生させることができる。さらに、反転して振動する誘起気流7における、それぞれの方向に向かう流速が異なるように誘起気流7を発生させることができる。
この気流発生装置1aでは、第1の電極3を露出させることで、空間にかかる電界強度を高めることができる。そのため、第1の電極3が誘電体2内に埋設されている場合よりも、より低い印加電圧で気流発生装置1aを駆動することが可能となる。また、印加する電圧値を調整することで、図5に示すように、印加された電圧値に伴う気流の流速を得ることができる。また、上述のように印加電圧の調整によって、周期的に方向が異なる流速となる誘起気流7が発生する場合でも、時間平均的に一方向に流れる誘起気流7を発生させることもできる。
次に、他の構成の気流発生装置1bについて説明する。
図6は、本発明に係る車両に配置される他の構成の気流発生装置1bの断面を示す図である。図7は、本発明に係る車両に配置される他の構成の気流発生装置1bにおいて、電極9の配置構成を他の配置構成としたときの気流発生装置1bの断面を示す図である。
この気流発生装置1bは、特に金属の構造物表面にプラズマによる誘起気流7を生成したい場合に有効な構成である。気流発生装置1bは、誘電体からなる誘電ブロック8と、誘電ブロック8内に埋設された電極9と、ケーブル5を介して金属からなる構造体10と電極9との間に電圧を印加する放電用電源6とを備えている。
電極9は、平板状の電極で構成されている。ここで、例えば、誘電ブロック8としてセラミックスを用いた場合、セラミックスを積層して誘電ブロック8を積層する途中で、金属の薄板を挿入したり、金属ペーストを塗布することで電極9を構成することができる。また、積層時にセラミックスに曲率をもたせることにより、任意の形状の誘電ブロック8が成形可能となり、管路などの複雑な形状に対応した気流発生装置1bを作製することができる。
図6に示すように、気流発生装置1bは、金属などの導電体からなる構造体10に形成された溝部に設置される。この設置の際、電極9が配設された誘電ブロック8の側面11を構造体10に密着させることが好ましい。このように誘電ブロック8の側面11を構造体10に密着させて放電空隙を設けないことで、側面11と構造体10との間におけるバリア放電を防止し、誘電ブロック8の表面上においては、バリア放電を発生させることができる。
また、図6に示すように、誘電ブロック8の側面11と対向する側の側面12と構造体10との間には、所定の幅の空隙13を設けることが好ましい。この空隙13を設けることで、構造体10と誘電ブロック8の熱膨張率が異なる場合に生じる熱膨張による破損などを防止することができる。
この気流発生装置1bの構成によれば、セラミックス等の誘電体で覆われた電極9を1本、構造体10の溝部に配置するだけで、所定の誘起気流7を得ることができるため、既設管路への取り付け等に有効である。
また、図7に示すように、気流発生装置1bにおける電極9は、誘電ブロック8の表面に露出するように設けられてもよい。この場合においても、上記した電極9を誘電ブロック8内に埋設させたときと同様の作用効果を得ることができる。
ここで、気流発生装置の電極構成として、従来知られているコロナ放電に由来するイオン風現象を利用する電極構成を採用してもよい。
図8は、本発明に係る車両に配置される他の構成の気流発生装置1cの断面を示す図である。
図8に示すように、気流発生装置1cは、誘電体表面に露出した第1の電極3と、この電極からずらして離間され、誘電体表面に露出した第2の電極4と、ケーブル5を介して第1の電極3と第2の電極4との間に電圧を印加する放電用電源6とを備えている。
ここで、この気流発生装置1cによって誘起気流が発生する現象について説明する。
放電用電源6から第1の電極3と第2の電極4との間に電圧が印加され、一定の閾値以上の電位差となると、第1の電極3と第2の電極4との間に放電が誘起される。
放電開始時は、電極の近傍だけに電離領域が限定されたコロナ放電となる。第1の電極3と第2の電極4との形状が同一でない場合、どちらか一方の電極だけにコロナ放電が発生することもある。電圧をさらに増加させていくと、双方の電極間を短絡させるアーク放電に移行する。このアーク放電では、放電エネルギが気体を加熱するのに使われるため、熱を気流制御に利用したい場合を除いては、アークが生じない電圧で使用するのが好ましい。
コロナ放電が生じている状態では、電極の近傍において電離によって生じた電子またはイオンは、対向する電極との間に形成されている電界によって加速される。この電子またはイオンが気体分子に衝突することで運動量が気体分子に移行する。すなわち、放電を印加することで、電極付近に誘起気流7を発生することができる。この誘起気流7の大きさや向きは、電極に印加する電圧、周波数、電流波形、デューティ比などの電流電圧特性を変化させることで制御可能である。
上記したような大気圧下におけるコロナ放電においては、電極表面への電荷の蓄積は考慮しなくてよいので、第1の電極3と第2の電極4との間に直流電圧を印加することが好適である。なお、第1の電極3と第2の電極4との間に交流電圧を印加しても気流誘起現象は実現可能である。
ここで、第1の電極3と第2の電極4との間に交番電圧を印加すると、印加される電圧の極性によって、第1の電極3と第2の電極4との間にかかる電界の向きが逆転する。そのため、電子やイオンが中性気体分子に与える運動量の向きも電圧の極性によって逆転する。その結果、印加される電圧の極性によって、気流発生装置1cの表面、すなわち誘電体2、第1の電極3および第2の電極4の表面に沿って発生した誘起気流7の流れる方向は反転する。また、電圧の極性を交互に変化させることで、その変化に伴って誘起気流7の流れる方向も変化し、図2のように、誘起気流7の流速は変化する。
また、本発明に係る車両に配置される気流発生装置は、気流を発生させ、車両表面の流れを制御することを目的としている。そこで、例えば、流体を非接触でプラズマ化して気流を発生させたい場合には、誘導結合型やマイクロ波導入型のプラズマ発生方法を採用することもできる。このように、非接触でプラズマを形成する既知の手法を用いた装置を気流発生装置として適用してもよい。
また、特開2005−320895号公報に記載されているように、誘電体を挟むように設けられた第1の電極および第2の電極と、第1電極に所定の間隙をおいて対向するように配置された第3の電極とを備え、第1の電極と第2の電極との間に交番電圧を印加してバリア放電を行い電子およびイオンを発生させてもよい。そして、第1の電極と第3の電極との間に電圧を印加し、第1の電極と第3の電極との間に電界を形成し、この電界によって電子およびイオンを駆動して運動量を発生させて、この運動量を気流に移行させる方法を採用してもよい。
(気流発生装置を備えた車両)
ここでは、車両において、上記した気流発生装置を配置する領域について説明する。なお、ここでは、車両として自動車を例示して説明する。また、以下の説明では、気流発生装置として上記した気流発生装置のいずれかを備えた場合について説明することもあるが、その場合でも上記した気流発生装置のいずれでも適用することができ、同様の作用効果を得ることができる。
図9および図10は、自動車の車体における気流発生装置、特に電極を配置する領域Aを示した斜視図である。
図9および図10において斜線で示した領域に上記したいずれかの気流発生装置を備えることが好ましい。この気流発生装置を備える領域Aは、次のように定義される。
自動車の車体の屈曲部が、曲面を有し、かつ曲面の両端縁から平面を構成するように屈曲している場合には、領域Aは、曲面と平面との境界部から、屈曲する方向の車体の長さの20%に相当する長さの範囲内、かつ曲面で構成される領域である。また、自動車の車体の屈曲部が曲面を有さずに屈曲している場合には、領域Aは、屈曲部から、屈曲する方向の車体の長さの20%に相当する長さの範囲内で構成される領域である。
さらに具体的に領域Aについて、図11および図12を参照して説明する。
図11は、自動車の車体の屈曲部が直角に屈曲している部分の車体の高さ方向に垂直な断面を示す図である。図12は、自動車の車体の屈曲部が曲面を有して屈曲している部分の車体の高さ方向に垂直な断面を示す図である。
まず、自動車の車体の屈曲部が曲面を有さずに屈曲している部分(角張って屈曲している部分)について説明する。
図11に示すように、屈曲部Oから一方の方向に延びる車体の方向をX軸とし、屈曲部Oから他方の方向に延びる車体の方向をY軸とする。X軸方向の領域Aの範囲は、屈曲部Oから、X軸方向の車体の長さBの20%に相当する長さ(0.2B)の範囲となる。一方、Y軸方向の領域Aの範囲は、屈曲部Oから、Y軸方向の車体の長さCの20%に相当する長さ(0.2C)の範囲となる。したかって、この場合における領域Aの範囲は、屈曲部OからX軸方向に長さが0.2Bの範囲、および屈曲部OからY軸方向に長さが0.2Cの範囲の双方を含む車体の表面上の範囲となる。
なお、図11では、屈曲部OにおけるX軸とY軸とのなす角が90度の場合を例示しているが、この角度はこれに限られるのもではなく、任意の角度について上記した領域Aの範囲の定義は成立する。
続いて、自動車の車体の屈曲部が曲面を有し、曲面の両端縁から平面を構成するように屈曲している部分について説明する。
この屈曲部は、曲面と、この曲面の両端縁からそれぞれ形成される平面とで構成される。したがって、図12に示した屈曲部の断面は、曲線Zと、この曲線Zの両端縁からそれぞれ伸びる直線Xおよび直線Yとで構成される。ここで、図12に示すように、直線Xの延長線と直線Yの延長線の交点をOとし、交点Oを原点として直線Xの方向をX軸とし、交点Oを原点として直線Yの方向をY軸とする。また、直線Xと曲線Zの端縁との交点をX0とし、直線Yと曲線Zの端縁との交点をY0とする。
直線で形成される交点X0からX軸方向における領域Aの範囲は、交点X0から、X軸方向の車体の長さB(原点OからのX軸方向の車体の長さ)の20%に相当する長さ(0.2B)の範囲となる。直線で形成される交点Y0からY軸方向における領域Aの範囲は、交点Y0から、Y軸方向の車体の長さC(原点OからのY軸方向の車体の長さ)の20%に相当する長さ(0.2C)の範囲となる。したがって、この場合における領域Aの範囲は、曲線Z上、交点X0からX軸方向に長さが0.2Bの範囲、および交点Y0からY軸方向に長さが0.2Cの範囲のすべての範囲を含む車体の表面上の範囲となる。
なお、交点OにおけるX軸とY軸とのなす角は、任意に設定することができ、この任意の角度について上記した領域Aの範囲の定義は成立する。
ここでは、車体の高さ方向に垂直な断面における領域Aの範囲の定義について説明したが、例えば、ルーフ上面などの車体の水平方向に平行となる面における領域Aの範囲は、車体の前方から後方へ向かう軸線に垂直な断面において、上記した領域Aの特定方法と同様な方法によって定義される。
次に、上記した領域Aの範囲に気流発生装置、特に電極を配置することが好ましい理由を説明する。
自動車の車体の屈曲部における流れは、迎角αが閾値αsに達すると大規模剥離を起こす。そのため、剥離泡の大きさは、迎角αsで最大となる。また、剥離泡を伴う流れを制御するためには、剥離泡が発生する上流側、または剥離泡が存在する領域に、気流発生装置によって発生する誘起気流を導入することが効果的である。
ここで、自動車の車体の屈曲部が曲面を有さずに屈曲している部分において、迎角αsのときの剥離泡の車体に沿う方向の長さを測定した結果、図11に示すように、迎角αsのときの剥離泡Eの車体に沿う方向の長さは、上記した0.2B、0.2Cの長さの範囲内であった。そのため、領域Aの範囲は、屈曲部OからX軸方向に長さが0.2Bの範囲、および屈曲部OからY軸方向に長さが0.2Cの範囲の双方を含む車体の表面上の範囲とすることが好ましいことがわかった。なお、迎角αsのときの剥離泡Eの車体に沿う方向の長さは、車体表面に複数設けた圧力測定孔によって表面圧力を測定して得られる圧力分布に基づいて判断した。
なお、図12に示すような、自動車の車体の屈曲部が曲面を有し、曲面の両端縁から平面を構成するように屈曲している部分においては、迎角αが大きくなると剥離点の位置が曲面のいずれかの位置となる。そのため、剥離泡が存在する領域は、上記した、自動車の車体の屈曲部が曲面を有し、曲面の両端縁から平面を構成するように屈曲している部分における領域Aの範囲となる。
上記した領域Aの範囲に気流発生装置、特に電極を配置することで、剥離泡を含む車体に沿う流れを制御することができ、自動車が安定して走行することができる。また、剥離泡を含む車体に沿う流れを制御することで、安定して走行できる範囲、すなわち走行安定領域の範囲を拡大することも可能となる。
なお、実際の自動車は、例えば、ノッチバックセダンや流線型のクーペタイプなどのように複雑な形状をしているが、上記した領域Aの範囲に気流発生装置、特に電極を配置することで、安定して走行することができる。
自動車において、気流発生装置、特に電極を配置する上記した領域Aの範囲内における具体的な部位としては、例えば、ピラー部、ボンネット角部、フロントウィンドウ端部およびウィンカ部などが挙げられ、これらの部位のうちの少なくとも一箇所に設けることができる。また、他の具体的な部位としては、スポイラ部、リアデッキ後端部、ルーフ後端部およびハッチ後端部などが挙げられ、これらの部位のうちの少なくとも一箇所に設けることができる。さらに、他の具体的な部位としては、フロントバンパ下部およびリアバンパ下部などが挙げられ、これらの部位のうちの少なくとも一箇所に設けることができる。このように、領域Aの範囲内における上記した部位に電極を設け、誘起気流を発生させることで、走行の安定性を確保することができる。
また、複数の車体を連結してなる自動車においては、その進行方向前側の車体で生じる渦等の流れが後方側の車体に相互作用して複雑な流れを形成し、走行安定性を著しく損なう場合がある。
例えば、トレーラの場合に、特に車体の周囲の流れが操舵性に及ぼす影響が大きい。トラクタのフロントピラー付近において、剥離泡から大規模剥離への急激な転換が起こると、そこで放出された渦が下流に流下する。流下した渦は、トレーラの側面で成長したり、トラクタとトレーラの隙間から巻き上がったり、トレーラの前面に衝突したり、トレーラの左右に非対称に流下して左右への変動力をもたらしたり、トレーラを推進させる圧力場となったりして、走行安定性を著しく低下させる可能性がある。
このような複数の車体を連結してなる自動車においても、例えば、進行方向前方側の車体における上記した領域Aの範囲内に、気流発生装置、特に電極を配置し、誘起気流を発生させることで、進行方向後方側の車体に働く流体力を制御することができる。
具体的には、トラクタにおける上記した領域Aの範囲内に、気流発生装置、特に電極を配置し、誘起気流を発生させ、トラクタからの渦要素の放出を抑えることで、トレーラの左右に形成される渦の強度やトレーラ後流の渦の強度を抑制することができる。これによって、トレーラに働く変動力や推進力を低減させ、走行安定性を確保することができる。
また、自動車の空気抵抗の一つである圧力抵抗は、車体の外形や床下等の表面流れによるものである。
外形の圧力抵抗には、車体後部に形成される大規模な渦が大きく影響することがある。この渦の生成は、車体のリア付近の上記した領域Aの範囲内に、気流発生装置、特に電極を配置し、誘起気流を発生させることで制御することができる。
図13は、気流発生装置1を、自動車150のルーフ後端部からトランクにかけての表面で、かつ上記した領域Aの範囲内に配置したときの自動車150の側面を示す平面図である。図14は、気流発生装置1を、自動車150の後部バンパ下部および後部バンパ後部の表面で、かつ上記した領域Aの範囲内に配置したときの自動車150の側面を示す平面図である。図13および図14の車体後部に示したラインは、渦が形成される領域の外郭を示すものである。図13では、このラインの下側で、かつ車体側に渦が形成され、図14では、このラインの上側で、かつ車体側に渦が形成される。
図13に示すように、ルーフ後端部からトランクにかけての表面に気流発生装置1、特に電極を配置し、誘起気流を発生させることで、車体後部に形成される渦を制御し、圧力の回復を促進することができる。また、図14に示すように、後部バンパ下部および後部バンパ後部の表面に気流発生装置、特に電極を配置し、誘起気流を発生させることで、流れの剥離を防止して圧力抵抗を低減することができる。
また、床下等の表面流れによる圧力抵抗を低減させるためには、大規模な剥離でなく、小規模な乱れを制御することが有効である。ここで、床下やタイヤ周りの圧力抵抗を低減するためには構造を平滑化することが好ましい。しかしながら、この構造の平滑化をするためには、例えば、カバーなどで構造物を覆うような処理が必要となり、製造コストの増加を招来する。そこで、例えば、フロントバンパ下部やリアバンパ下部に低コストで作製することができる気流発生装置を配置する対応が考えられる。その結果、気流発生装置を配置して誘起気流を発生させることで、流れの剥離を防止して圧力抵抗を低減することができるとともに、床下等の表面流れによる圧力抵抗を低減させる機構を備える自動車の製造コストを低減することができる。
ここで、自動車に配置される気流発生装置には、自動車の表面に電極を設置するものもある。この場合、雨天の場合や電極に異物が付着した場合に、放電が不安定となり、発生する誘起気流が不安定となることが想定される。
図15は、自動車150のルーフ後端部にスリット160を形成し、このスリット160内に気流発生装置1aを備えた自動車150を示し、スリット160の構成部のみを断面で示した図である。図16は、自動車150のルーフ171の後端上からリアウインドウ172上にかけて整流板173を設置してスリット170を形成したときの、スリット170の構成部の断面を示した図である。図17は、自動車150のルーフ171の後端上からリアウインドウ172上にかけてスポイラ177を設置してスリット170を形成したときの、スリット170の構成部の断面を示した図である。図18は、自動車150のトランクリッド181の後端上に整流板182を設置してスリット180を形成したときの、スリット180の構成部の断面を示した図である。
図15に示すように、スリット160は、自動車150のルーフ後端部で、かつ上記した領域Aの範囲内に形成されている。スリット160は、ルーフの上方に貫通するスリット孔161と、トランク側に貫通するスリット孔162と、これらのスリット孔161、162を連通する流路163とから構成されている。また、流路163を構成する壁面の一部には、気流発生装置1a、特に電極が配置されている。ここで、例えば、スリット160内に水が流入した場合でも水との接触をできる限り少なくするために、気流発生装置1aは、流路163を構成する壁面の上部側に配置されることが好ましい。
例えば、誘起気流をスリット孔161に向けて発生するように気流発生装置1aを備えた場合、気流発生装置1aを作動させることで、スリット孔161から流路163内に、車体の表面を流れる気流が流入することを阻止または制限することができる。一方、気流発生装置1の動作を停止させることで、スリット孔161から流路163内に、車体の表面を流れる気流を導入し、スリット孔162から流出させることができる。なお、スリット孔161から流路163内に流入する気流は一部であり、大部分の気流は、ルーフ上を流れ、ルーフ後端から下流側へ流れる。
このように、スリット160を形成し、スリット160内に、気流発生装置1a、特に電極を配置することで、電極が雨に晒されたり、電極に異物が付着したりすることから回避することができる。これによって、安定した放電を行うことができ、それに伴って安定した誘起気流を発生させることができる。
さらに、気流発生装置1aをオンまたはオフさせることで、スリット160内に、車体の表面を流れる気流を流入させたり、車体の表面を流れる気流が流入するのを阻止または制限したりすることができる。すなわち、気流発生装置1aが気流の流入を調整する調整弁として機能する。例えば、スリット孔162から流出する気流の流量を調整することで、トランク後流の流れを制御することができる。
なお、ここでは、ルーフの上方に貫通するスリット孔161、およびトランク側に貫通するスリット孔162の双方を備えるスリット160の構造の一例について説明したが、この構造に限られるものではない。例えば、スリット160において、ルーフの上方に貫通するスリット孔161およびトランク側に貫通するスリット孔162のうちのいずれか一方を備えるように構成してもよい。この場合には、形成されたスリット孔から、誘起気流を流出して、気流の流れを制御することができる。
また、図16に示すように、ルーフ171の後端上からリアウインドウ172上にかけて、ルーフ171およびリアウインドウ172の表面と所定の間隙をおいて整流板173を設置して、スリット170を形成してもよい。このスリット170は、ルーフの上方に貫通するスリット孔174と、リアウインドウ172側に貫通するスリット孔175と、これらのスリット孔174、175を連通する流路176とから構成されている。また、流路176を構成する壁面の一部には、気流発生装置1a、特に電極が配置されている。整流板173は、金属、樹脂、複合材のいずれかまたはこれらの組合せにより構成された板状の部材である。ここで、例えば、スリット170内に水が流入した場合でも水との接触をできる限り少なくするために、気流発生装置1aは、整流板173の流路176側の面に配置されることが好ましい。このようにスリット170を備えることで、上記したスリット160を備えた場合と同様の作用効果を得ることができる。
なお、図17に示すように、ルーフ171の後端上からリアウインドウ172上にかけてスポイラ177を設置する場合には、スリット170を構成するために、上記した整流板173の代わりにスポイラ177を利用することができる。なお、スポイラ177は、ルーフ171およびリアウインドウ172の表面と所定の間隙をおいて設置される。この場合においても、上記したスリット160を備えた場合と同様の作用効果を得ることができる。
また、図18に示すように、トランクリッド181の後端上に、トランクリッド181の表面と所定の間隙をおいて整流板182を設置して、スリット180を形成してもよい。このスリット180は、トランクリッド181の前方側に貫通するスリット孔183と、トランクリッド181の後方側に貫通するスリット孔184と、これらのスリット孔183、184を連通する流路185とから構成されている。また、流路185を構成する壁面の一部には、気流発生装置1a、特に電極が配置されている。また、トランクリッド181の後端から下方には、リアデッキ後部壁186が設けられている。なお、整流板182は、上記した整流板173と同様の構成を有している。ここで、例えば、スリット180内に水が流入した場合でも水との接触をできる限り少なくするために、気流発生装置1aは、整流板182の流路185側の面に配置されることが好ましい。このようにスリット180を備えることで、上記したスリット160を備えた場合と同様の作用効果を得ることができる。
図19は、気流発生装置1aの少なくとも電極を覆う電極カバー190を備えた自動車150を示し、電極カバー190の構成部のみを断面で示した図である。
図19に示すように、気流発生装置1の電極と所定の空隙をおいて電極を覆う電極カバー190を備えてもよい。この電極カバー190を設けることで、電極が雨に晒されたり、電極に異物が付着したりすることから回避することができる。なお、電極カバー190は、電極を覆うときには、電極上に移動可能であり、電極を覆う必要のないときには、収納部(図示しない)に移動可能に設けることができる。
なお、ここでは、車両として自動車を例示して説明したが、例えば、車両には電車なども含まれる。すなわち、電車の車体の上記した領域Aの範囲に気流発生装置、特に電極を配置することで、車体の表面の流れを制御して、走行の安定性を確保することができる。また、電車の場合には、前述した複数の車体を連結した車両の場合と同様の対応を適用することが好ましい。
(車両の表面の流れの制御)
(気流発生装置による誘起気流の影響)
まず、上記した気流発生装置を備えた車両において、気流発生装置を動作させることで、車両の表面の流れを制御することができることについて説明する。
なお、ここでは、車両として自動車を想定し、自動車模型120を用いた風洞実験により、車両の表面の流れについて調べた。
図20は、風洞実験の様子を示す斜視図である。図21は、自動車模型120の表面における流れの状況を評価するための表面圧力の測定位置を示した図である。
使用した風洞装置100は、37kWのブロワ(定格流量が115m3/分、定格圧力が9.8kPa)を備えた開放エッフェル型の低速風洞装置を使用した。図20に示すように、風洞装置100の縮流部101の出口の下流側に試験部110を接続した。
試験部110は、幅が500mm、高さが150mm、長さが500mmのアクリル製の箱体111で構成されている。また、試験部110は、縮流部101の出口からの主流が吹き抜けられるように、縮流部101の出口に対向する2つの側面が開口され、筒状の形状に構成されている。試験部110の内部に、バン型の自動車模型120を配置して固定した。なお、自動車模型120が固定された試験部110の底部は、縮流部101の出口から流出する主流方向に対して、自動車模型120の迎角(主流に対する自動車模型120の傾き角度)を可変できるように、回転可能に構成されている。また、迎角を大きくしたときのブロッケージの影響を避けるため、試験部110の幅を十分に広くした。縮流部101の出口から流出する主流の平均流速を20m/sに設定した。この際、主流乱れは、0.3%であった。なお、主流乱れとは、主流の乱れ強さ意味する。
自動車模型120は、幅が80mm、高さが80mm、長さが200mmであり、アルミニウムで構成されているものを使用した。車幅基準のレイノルズ数は105であった。なお、ここでは自動車模型120を用いて実験を行っているが、主流の平均流速が20m/sにおける実際の自動車におけるレイノルズ数も105程度であり、流れの相似性から実際の自動車を用いた場合と同じ流れ場で実験を行っていることとなる。
自動車模型120の表面における流れの状況を、表面圧力を測定することにより評価した。図21に示すように、自動車模型120の側面に、直径が0.5mmの表面圧力測定孔P1〜P20を形成した。この表面圧力測定孔を、運転席窓部に10箇所(P1〜P10)、中央座席窓部に5箇所(P11〜P15)、後部座席窓部に5箇所(P16〜P20)形成した。そして、多点圧力センサを用いて、各表面圧力測定孔P1〜P20における静圧を測定した。この静圧の測定は、500μsの時間間隔で、表面圧力測定孔1箇所当たり256個のデータを測定し、これを5回繰り返して測定した。測定されたデータ(合計1280個のデータ)を算術平均して平均値を求めた。なお、同一の表面圧力測定孔において測定された圧力のばらつきは±3Pa程度であった。
図21に示すように、気流発生装置1は、運転席の前方のAピラー部121に設けた。なお、このAピラー部121は、前述した領域A内に位置する。この気流発生装置1として、前述した図1に示した構成を備える気流発生装置を使用した。気流発生装置1において、誘電体としてポリイミドテープを使用した。また、気流発生装置1の電極に両極性パルス電圧を印加可能とした。なお、気流発生装置1により、自動車模型120の表面に沿って下流に向かう流れが生じていることを線香の煙により可視化して確認した。
まず、風洞装置100を作動し、気流発生装置1を作動させない状態(放電OFFの状態)において各表面圧力測定孔P1〜P20における静圧を測定した。図22は、迎角を0度としたときの、各表面圧力測定孔P1〜P20における静圧の平均値を示した図である。図23は、迎角を変えたときの、各表面圧力測定孔P1〜P16における静圧の平均値を示した図である。図24Aおよび図24Bは、迎角αを説明するための図である。図25は、迎角αと各風速成分との関係を説明するための図である。図26は、横風成分と、自動車模型120に作用する横力およびモーメントとの関係を示した図である。
ここで、迎角αが0度とは、主流の方向Lと自動車模型120の前後の中心軸方向Mとが平行、すなわち、主流の方向Lに対して、自動車模型120の前面が垂直となるように、自動車模型120を固定した場合である。また、迎角αが負の角度となる場合は、図24Aに示すように、迎角αが0度の状態から反時計回りにαだけ自動車模型120を回転させた状態である。換言すると、主流の方向Lと自動車模型120の前後の中心軸方向Mとのなす角が−α度となる状態である。一方、迎角αが正の角度となる場合は、図24Bに示すように、迎角αが0度の状態から時計回りにαだけ自動車模型120を回転させた状態である。換言すると、主流の方向Lと自動車模型120の前後の中心軸方向Mとのなす角がα度となる状態である。なお、表面圧力測定孔P1〜P20は、図24Aおよび図24Bにおいて、車体の右側の面120aに形成されている。
図22に示すように、迎角αが0度において、表面圧力測定孔P1、P3、P6における圧力は低くなっており、Aピラー部121の付近で、流れが剥離して形成された剥離泡が表面圧力測定孔P1、P3、P6を含む領域に存在することを示している。また、表面圧力測定孔P5、P7よりも下流側では圧力は回復しており、流れが再付着していることを示している。
迎角αの影響を評価するため、まず、図23に示す、運転席窓部の表面圧力測定孔P1〜P10の測定結果について検討する。表面圧力測定孔P1〜P10において、迎角αが−5〜0度では、圧力分布の傾向は変化せず、迎角αの増加に伴って圧力は徐々に低下している。迎角αが5度以上の条件においては、圧力が回復する位置が表面圧力測定孔P7から表面圧力測定孔P9の範囲となっている。また、迎角αが20度までは、迎角αの増加に伴って圧力が低下し、迎角αが20度のときに圧力が最も低くなっている。迎角αが25度以上では、圧力の低下は小さくなり、迎角αが30度以上では、迎角αの影響が小さくなっている。
次に、中央座席窓部、後部座席窓部の表面圧力測定孔P11〜P16の測定結果について検討する。なお、後部座席窓部の表面圧力測定孔P17〜P20の測定結果は、表面圧力測定孔P11〜P16の測定結果の傾向と同じであったため、図23において表面圧力測定孔P17〜P20の測定結果を省略した。表面圧力測定孔P11よりも下流側では、迎角αの増加に伴って圧力は単調に減少している。
以上の結果から、迎角αが−5〜0度においては、Aピラー部121の付近に小さな剥離泡が存在しているものと考えられる。迎角αが5〜20度においては、剥離泡が運転席窓部の表面の全体に拡大し、迎角αの増加に伴って剥離泡内の表面における減圧が増大するため、運転席窓部にかかる横力も増大する。圧力が最小となる迎角αが20度を超えた角度から圧力が上昇し始める迎角αが25度の間において大規模剥離が発生しているものと考えられ、運転席窓部の側面全体が剥離泡に覆われると横力は低減する。一方、中央座席窓部、後部座席窓部においては、大規模剥離にかかわらず、迎角αが0〜35度まで単調に横力が増加し続ける。ここで、横力は、横風成分によって自動車模型120が受ける力である。また、横風成分とは、自動車模型120の前後の中心軸方向Mに対して垂直な方向の成分である。
図25に示しように、迎角αは、向かい風の成分と車両の速度成分の合成成分と、風速の横風成分とによって決まる。迎角αが大きくなることは、横風成分が大きくなることを示している。
また、図26に示すように、横風成分の増加に伴って、横力は単調に増加するのに対して、モーメントは大規模剥離の起こる横風成分の範囲(迎角αが20〜25度の範囲;不安定領域)で急激に変化する。したがって、横風成分がある値を超えた瞬間に運転者は急激にハンドルがとられ、走行安定性が損なわれることがわかった。ここで、モーメントとは、自動車模型120を自動車模型120の鉛直方向の軸に対して回転させようとする角運動量である。
次に、風洞装置100を作動し、気流発生装置1を作動させた状態(放電ONの状態)において各表面圧力測定孔P1〜P8における静圧を測定した。電極には、印加電圧4kV、周波数5kHzの高電圧を印加して、2Wの連続放電を行った。図27は、迎角αを20度としたときの、各表面圧力測定孔P1〜P8における静圧の平均値を示した図である。図28は、迎角αを22.5度としたときの、各表面圧力測定孔P1〜P8における静圧の平均値を示した図である。なお、図27および図28には、気流発生装置1を作動させていない状態(放電OFFの状態)の測定結果も示している。また、迎角αが22.5度は、大規模剥離が発生する迎角である。図29は、横風成分と、自動車模型120に作用するモーメントとの関係を示した図である。
図27に示すように、大規模剥離の起きていない迎角αが20度の条件では、放電すること、すなわち誘起気流を発生させることによる圧力変化は小さい。一方、大規模剥離が発生する迎角αが22.5度の条件では、誘起気流を発生させることで圧力は低下している。発明者らは、翼前縁に気流発生装置を備え、誘起気流を発生させて、翼面で大規模剥離が起こる失速を大迎角側に遅らせる効果を確認している。これと同様に、図28に示す結果から、誘起気流によって大規模剥離が発生する迎角αを増大することができることが明らかとなった。
図29に示すように、気流発生装置1を作動させた状態(放電ONの状態)とすることで、走行不安定の起こる横風成分の範囲を高風速側にシフトできることがわかった。すなわち、気流発生装置1を作動させることにより、より大きい横風成分を含む範囲まで走行安定性を維持できることがわかる。したがって、気流発生装置1を作動させて誘起気流を発生させることにより、安定して走行できる範囲を拡大することができることが明らかになった。
なお、ここでは、気流発生装置1を作動させて誘起気流を発生させることにより、放電によって、走行不安定の起こる範囲を遅らせて走行安定性を確保する一例を示したが、これに限られるものではない。例えば、誘起気流を発生させる方向を逆向方向、すなわち主流方向とは逆方向として、積極的に剥離を促進させ、不安定領域をより小さい横風成分で発生するようにシフトさせて、走行不安定を回避することも可能である。
次に、気流発生装置1を連続的に作動させた場合と、間欠的に作動させた場合とにおける各表面圧力測定孔P1〜P8における静圧を測定した。電極には、印加電圧4kV、周波数5kHzの高電圧を印加した。また、迎角αを0度とした。
図30は、気流発生装置1を間欠的に作動させる場合における、電圧のデューティ比制御の一例を示す図である。図31は、気流発生装置1を作動させないときの圧力と、気流発生装置1を作動させたときの圧力の差、すなわち圧力変動分を示す図である。図32は、横風成分と、自動車模型120に作用するモーメントとの関係を示した図である。
気流発生装置1を間欠的に作動させる場合には、図30に示すように、所定のデューティ比で電圧をオン(ON)、オフ(OFF)する。これによって、間欠的に誘起気流が発生する。ここでは、デューティ比を10%とした。
図31に示すように、連続的に放電した場合には、変動分はマイナスとなっており、誘起気流を発生させることにより、圧力が低下することを示している。一方、間欠的に放電した場合には、変動分はプラスとなっており、誘起気流を発生させることにより、圧力が増加することを示している。なお、圧力が増加するということは、剥離泡を縮小する効果があるということを示している。
このように、気流発生装置1を間欠的に作動させることでも、流れを制御できることが明らかとなった。圧力を増加させることは、モーメントを低減することに繋がる。また、気流発生装置1の間欠的な作動と、連続的な作動を組み合わせて、最適な気流制御を行うことも可能となる。例えば、図32に示すように、横風成分が小さいときには、気流発生装置1を間欠的に作動させて、低電力でモーメントを小さくし、横風成分が不安定領域に近づいたときには、気流発生装置1を連続的に作動させて、走行安定性を確保するといった制御を行うことが可能となる。
上記した気流の制御方法は、横風だけでなく、追い越し時やトンネル通過時などのような、車両に対する有効迎角が急激に変化する場合に特に有効である。
例えば、車両の一部に、圧力センサ、ピトー管等などの速度センサ、操舵機構等にかかるトルクを監視するトルクセンサなどを備えることで、有効迎角に関係する物理量を測定することができる。また、これらの測定されたデータと、事前に設定された閾値と比較し、その結果に基づいて、気流発生装置1を作動または停止させたり、電極に印加する電圧を制御したりすることができる。
また、車両の左右側面などの前述した領域Aの少なくとも2箇所以上に気流発生装置1を設置し、左右側面からの横力をそれぞれコントロールすることで、移動体の横方向の安定性を維持することができる。また、気流発生装置1によって車両の進行方向に対して左右の抗力差を制御することで、車両における進路変更を容易に行うことができるようになる。
(気流発生装置の配置位置の影響)
ここでは、前述したように気流発生装置、特に電極を前述した領域Aの範囲に配置することが好ましいことを試験結果に基づいて説明する。なお、領域Aは、自動車の車体の屈曲部が、曲面を有し、かつ曲面の両端縁から平面を構成するように屈曲している場合においては、曲面と平面との境界部から、屈曲する方向の車体の長さの20%に相当する長さの範囲内、かつ曲面で構成される領域である。また、領域Aは、自動車の車体の屈曲部が曲面を有さずに屈曲している場合においては、屈曲部から、屈曲する方向の車体の長さの20%に相当する長さの範囲内で構成される領域である。
上記した風洞試験と同様に、風洞装置100を使用した風洞試験を行い、自動車模型120の表面における流れの状況を、表面圧力を測定することにより評価した。この結果に基づいて、気流発生装置の配置位置が誘起気流の効果に及ぼす影響を調べた。なお、風洞試験の条件は、前述した条件と同じとし、迎角αが0度となるように自動車模型120を固定した。
図33は、気流発生装置、特に電極の配置位置に対する誘起気流による効果を示す図である。ここで、誘起気流による効果とは、例えば、図29や図32を用いて説明した、安定して走行できる範囲、すなわち走行安定領域の拡大率に基づくものである。ここで、走行安定領域の拡大率は、「((放電ONで不安定の生じる横風風速)−(放電OFFで不安定の生じる横風風速))/(放電OFFにて不安定の生じる横風風速)」の式により算出される。
図33に示すように、領域Aの範囲内に電極を配置した場合、誘起気流の効果は高く、すなわち走行安定領域の拡大率が大きいことが明らかとなった。一方、領域Aの範囲外に電極を配置した場合、誘起気流の効果は低く、すなわち走行安定領域の拡大率が小さいことが明らかとなった。
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。特に、実施の形態では車両の一例として自動車の場合を重点的に説明してきたが、気流発生装置の基本構成とその適用部位、誘導気流に関する作用については、自動車以外の車両についても適用可能である。