図1は、本発明の一実施例としての流体圧制御装置を搭載する車両10の構成の概略を示す構成図であり、図2はオートマチックトランスミッション20の作動表である。
実施例の車両10は、図示するように、例えば、FF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両として構成されており、EGECU16による運転制御を受けるエンジン12と、エンジン12のクランクシャフト14に接続された入力側のポンプインペラ24aと出力側のタービンランナ24bとからなるロックアップクラッチ付きのトルクコンバータ24と、トルクコンバータ24のタービンランナ24bに接続された入力軸21と車輪19a,19bが取り付けられる車軸18a,18bに図示しないギヤ機構やデファレンシャルギヤを介して接続された出力軸22とを有し入力軸21に入力された動力を変速して出力軸22に出力する油圧駆動の有段のオートマチックトランスミッション20と、油圧駆動のオートマチックトランスミッション20をコントロールするATECU29と、車両全体をコントロールするメインECU90とを備える。ATECU29とEGECU16は、メインECU90に通信可能に接続されており、互いに制御信号や運転状態に関するデータのやり取りを行なっている。なお、メインECU90には、シフトレバー91の操作位置を検出するシフトポジションセンサ92からのシフトポジションSPやアクセルペダル93の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ94からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル95の踏み込みを検出するブレーキスイッチ96からのブレーキスイッチ信号BSW,車速センサ98からの車速V,路面勾配を検出する勾配センサ99からの路面勾配θなどが入力されている。
オートマチックトランスミッション20は、6段変速の有段変速機として構成されており、シングルピニオン式の遊星歯車機構Suとラビニヨ式の遊星歯車機構Ruと三つのクラッチC1,C2,C3と二つのブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1とを備える。ブレーキB1,B2とワンウェイクラッチF1は、オートマチックトランスミッション20のケース20aに設けられている。シングルピニオン式の遊星歯車機構Suは、外歯歯車のサンギヤS1と、このサンギヤS1と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤR1と、サンギヤS1に噛合すると共にリングギヤR1に噛合する複数のピニオンギヤPS1と、複数のピニオンギヤPS1を自転かつ公転自在に保持するキャリアCR1とを備え、サンギヤS1はケース20aに固定されており、リングギヤR1は入力軸21に接続されている。ラビニヨ式の遊星歯車機構Ruは、外歯歯車の二つのサンギヤS2,S3と、内歯歯車のリングギヤR2と、サンギヤS3に噛合する複数のショートピニオンギヤPS2と、サンギヤS3および複数のショートピニオンギヤPS2に噛合すると共にリングギヤR2に噛合する複数のロングピニオンギヤPLと、複数のショートピニオンギヤPS2および複数のロングピニオンギヤPLとを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリアCR2とを備え、サンギヤS2はクラッチC3を介してキャリアCR1に接続されると共にブレーキB1を介してケース20aに接続され、サンギヤS3はクラッチC1を介してシングルピニオン式の遊星歯車機構SuのキャリアCR1に接続され、リングギヤR2は出力軸22に接続され、キャリアCR2はクラッチC2を介して入力軸21に接続されている。また、キャリアCR2は、ワンウェイクラッチF1によりその回転を一方向に禁止されると共にワンウェイクラッチF1に対して並列的に設けられたブレーキB2によりその回転が自由にまたは禁止されるようになっている。
また、オートマチックトランスミッション20は、図2の作動表に示すように、クラッチC1〜C3とブレーキB1,B2のオンオフの組み合わせにより前進1速〜6速と後進とを切り替えることができるようになっている。図3は、オートマチックトランスミッション20の各回転要素の回転速度の関係を示す共線図である。図中、S1軸,CR1軸,R1軸は、シングルピニオン式の遊星歯車機構SuのサンギヤS1,キャリアCR1,リングギヤR1の3つの回転要素の各回転速度を示し、S2軸,CR2軸,R2軸,S3軸は、ラビニヨ式の遊星歯車機構RuのサンギヤS2,キャリアCR2,リングギヤR2,サンギヤS3の4つの回転要素の各回転速度を示す。また、車両10の前進側の回転を正、後進側の回転を負とする。シングルピニオン式の遊星歯車機構Suでは、サンギヤS1が固定され回転速度が値0であるため、入力軸21に接続されるリングギヤR1の回転速度が決まると、残りのキャリアCR1の回転速度も決定される。一方、ラビニヨ式の遊星歯車機構Ruでは、例えば前進2速の状態を考えると、クラッチC1とブレーキB1とがオンされており、クラッチC1のオンによりキャリアCR1とサンギヤS3とが一体的に回転してサンギヤS3の回転速度が決まり、ブレーキB1のオンによりサンギヤS2の回転速度が値0に決まるから、残りのキャリアCR2,リングギヤR2の回転速度も決定される。ここで、ブレーキB1をオンすると共にクラッチC1〜C3とブレーキB2とをオフした場合を考えると、ブレーキB1のオンによりサンギヤS2の回転速度が値0に決まり、ワンウェイクラッチF1によりキャリアCR2の負側の回転は禁止される。このため、ブレーキB1をオンとしたときには、少なくとも出力軸22に接続されたリングギヤR2が負側に回転することはない。即ち、ブレーキB1をオンすることにより、出力軸22の負側の回転を禁止して、車両10の後進を防止することができる。
オートマチックトランスミッション20におけるクラッチC1〜C3のオンオフとブレーキB1,B2のオンオフは、油圧回路30により行なわれる。図4は、油圧回路30の構成の概略を示す構成図である。油圧回路30は、図示するように、エンジンからの動力によりストレーナ32を介して作動油を圧送する機械式オイルポンプ34と、機械式オイルポンプ34から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するレギュレータバルブ36と、ライン圧PLから図示しないモジュレータバルブを介して生成されるモジュレータ圧PMODを調圧して信号圧として出力することによりレギュレータバルブ36を駆動するリニアソレノイドSLTと、ライン圧PLを入力する入力ポート38aとドライブポジション用出力ポート(Dポート)38bとリバースポジション用出力ポート(Rポート)38cなどが形成されシフトレバー91の操作に連動して入力ポート38aと出力ポート38b,38cとの間の連通と遮断とを行なうマニュアルバルブ38と、マニュアルバルブ38のDポート38bから出力された作動油をDポート用油路42を介して入力ポート52aから入力しドレンポート52cへの作動油の排出を伴って調圧して出力ポート52bから出力するリニアソレノイドSLC1と、リニアソレノイドSLC1の出力ポート52bとクラッチC1に接続されたクラッチ用油路48との連通と遮断とを行なう切替バルブ60と、機械式オイルポンプ34とストレーナ32との間の吸入用油路47に吸入ポート72aが接続されると共にクラッチ用油路48に吐出ポート72bが接続され吸入ポート72aから吸入した作動油を吐出ポート72bから吐出するC1用電磁ポンプ70と、マニュアルバルブ38のDポート38bから出力された作動油をDポート用油路42を介して入力ポート152aから入力しドレンポート152cへの作動油の排出を伴って調圧して出力ポート152bから出力するリニアソレノイドSLB1と、リニアソレノイドSLB1の出力ポート152bとブレーキB1に接続されたブレーキ用油路148との連通と遮断とを行なう切替バルブ160と、機械式オイルポンプ34とストレーナ32との間の吸入用油路47に吸入ポート172aが接続されると共にブレーキ用油路148に吐出ポート172bが接続され吸入ポート172aから吸入した作動油を吐出ポート172bから吐出するB1用電磁ポンプ170などにより構成されている。なお、図4では、クラッチC1,ブレーキB1以外のクラッチC2,C3やブレーキB2の油圧系については省略したが、これらの油圧系については周知のリニアソレノイドなどを用いて構成することができる。
クラッチC1は、ラビニヨ式の遊星歯車機構RuのサンギヤS3に接続されたクラッチドラム80と、シングルピニオン式の遊星歯車機構SuのキャリアCR1に接続されたクラッチハブ81と、クラッチドラム80の内周面とクラッチハブ81の外周面とに交互にスプライン嵌合された複数枚の環状の摩擦板82,83と、摩擦板82,83側にスライド可能なピストン84と、クラッチドラム80とピストン84とにより形成されるピストン油室85をシールするOリング86a,86bと、ピストン84を摩擦板82,83側とは逆方向に付勢するリターンスプリング87と、図示しないスナップリングによりクラッチドラム80に係止されピストン油室85内の油圧の遠心力による影響を軽減するキャンセル室88を形成するキャンセルピストン89とを備える。なお、クラッチドラム80には、作動油が流入出する流入出ポート80aが形成され、流入出ポート80aを介してピストン油室85内に作動油が導入される。ブレーキB1は、ラビニヨ式の遊星歯車機構RuのサンギヤS2に接続されると共にクラッチC3の図示しないクラッチドラムに接続されたブレーキハブ181をケース20aに固定することができるよう構成されており、キャンセル室88を形成するキャンセルピストン89を備えない点を除いてクラッチC1と同様の構成要素を備えている。このため、各構成要素の符号は、クラッチC1の各構成要素の符号に値100を加えたものとし、その説明を省略する。ここで、ブレーキB1のピストン油室185は固定系のケース20a内に形成され、クラッチC1のピストン油室85は回転系のクラッチドラム80内に形成されている。このため、クラッチ用油路48は回転系内を通過するように形成され、油路の継ぎ目のシール部分に取り付けられる図示しないシールリングから油漏れが比較的多く発生することになる。一方、ブレーキ用油路148では、そのようなシール部分がないため、それほど多くの油漏れは発生しない。したがって、ブレーキB1に供給される作動油を比較的効率よくピストン室185内に導入することができる。
リニアソレノイドSLC1は、コイルに電流を印加することにより形成される磁気回路により吸引力を発生させてシャフト51aを駆動するソレノイド部51と、Dポジション用出力ポート38bにDポート用油路42を介して接続された入力ポート52aと出力ポート用油路43に接続された出力ポート52bとドレンポート52cとが形成された中空のスリーブ52と、ソレノイド部51のシャフト51aの駆動に伴ってスリーブ52内を摺動し入力ポート52aと出力ポート52bとの連通と出力ポート52bとドレンポート52cとの連通の開口割合を調節するスプール54と、スプール54をソレノイド部51とは逆側から付勢するスプリング56とからなる一般的なノーマルクローズ型のリニアソレノイドバルブとして構成されている。また、リニアソレノイドSLB1は、リニアソレノイドSLC1と同一の構成要素を備えるノーマルクローズ型のリニアソレノイドとして構成されているため、各構成要素の符号は、リニアソレノイドSLC1の各構成要素の符号に値100を加えたものとし、その説明を省略する。
切替バルブ60は、ライン圧PLを信号圧として入力する信号圧用入力ポート62aとリニアソレノイドSLC1の出力ポート52b(出力ポート用油路43)に接続された入力ポート62bとクラッチ用油路48に接続された出力ポート62cの各種ポートが形成されたスリーブ62と、スリーブ62内を軸方向に摺動するスプール64と、スプール64を軸方向に付勢するスプリング66とにより構成されている。この切替バルブ60は、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されているときにはスプリング66の付勢力に打ち勝ってスプール64が図中左半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとを連通することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート52bとクラッチ用油路48とを連通し、ライン圧PLが信号圧用入力ポート62aに入力されていないときにはスプリング66の付勢力によりスプール64が図中右半分の領域に示す位置に移動し入力ポート62bと出力ポート62cとの連通を遮断することによりリニアソレノイドSLC1の出力ポート52bとクラッチ用油路48との連通を遮断する。また、切替バルブ160は、切替バルブ60と同一の構成要素を備えるバルブとして構成されているため、各構成要素の符号は、切替バルブ60の各構成要素の符号に値100を加えたものとし、その説明を省略する。
C1用電磁ポンプ70は、コイルに電流を印加することにより形成される磁気回路により吸引力を発生させてシャフト71aを駆動するソレノイド部71と、機械式オイルポンプ34とストレーナ32との間の吸入用油路47に接続された吸入ポート72aとクラッチ用油路48に接続された吐出ポート72bとが形成されたスリーブ72と、スリーブ72に内蔵された吸入用逆止弁74と、スリーブ72に内蔵された吐出用逆止弁76とにより構成されている。このC1用電磁ポンプ70は、ソレノイド部71をオンからオフしたときに吸入用逆止弁74の開弁を伴って作動油を吸入ポート72aから吸入し、ソレノイド部71をオフからオンしたときに吸入した作動油を吐出用逆止弁76の開弁を伴って吐出ポート72bから吐出する。したがって、ソレノイド部71に対して所定デューティ比の矩形波電流を印加すれば、C1用電磁ポンプ70により作動油をクラッチC1に供給することが可能となる。また、B1用電磁ポンプ170は、C1用電磁ポンプ70と同一の構成要素を備える電磁ポンプとして構成されているため、各構成要素の符号はC1用電磁ポンプ70の各構成要素の符号に値100を加えたものとし、その説明を省略する。このC1用電磁ポンプ70やB1用電磁ポンプ170は、それぞれクラッチC1やブレーキB1に直接的に油圧を供給するものであるため、その吐出性能は機械式ポンプ34に比して低いものとなっている。ここで、「直接的に油圧を供給する」とは、クラッチC1〜C3やブレーキB1,B2などの油圧系全体に油圧を供給するものを除くことを意味し、切替バルブ60,160などを介して油圧を供給するものを含むものである。また、C1用電磁ポンプ70を駆動してもクラッチ用油路48からの油漏れが比較的多いクラッチC1を完全に係合させることはできないが、上述したように、ブレーキ用油路148は油漏れが比較的少ないためB1用電磁ポンプ170の駆動によりブレーキB1をオンさせることができる。
こうして構成された実施例の車両10では、シフトレバー91をD(ドライブ)の走行ポジションとして走行しているときに、車速Vが値0,アクセルオフ,ブレーキスイッチ信号BSWがオンなど予め設定された自動停止条件の全てが成立したときにエンジン12を自動停止する。エンジン12が自動停止されると、その後、ブレーキスイッチ信号BSWがオフなど予め設定された自動始動条件が成立したときに自動停止したエンジン12を自動始動する。
次に、こうして構成された車両10が搭載する実施例のオートマチックトランスミッション20の動作、特に、エンジン12の自動停止中の動作について説明する。図5は、ATECU29により実行される自動停止時制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、シフトレバー91をDポジションとして走行している最中に、エンジン12の自動停止条件が成立したときに実行される。
自動停止時制御ルーチンが実行されると、ATECU29のCPUは、まず、勾配センサ99により検出されメインECU90から通信により入力された路面勾配θなどの制御に必要なデータを入力する処理を実行し(ステップS100)、路面勾配θに基づいて停車中の路面の傾斜状態を判定する(ステップS110)。この判定は、例えば、路面勾配θが所定の閾値θref1よりも大きいときには停車中の路面は急斜面であると判定し、路面勾配θが所定の閾値θref1よりも小さな所定の閾値θref2よりも大きいときには緩斜面であると判定し、路面勾配θが閾値θref2よりも小さいときには平坦路であると判定することにより行なうことができる。
判定の結果、急斜面ではなく、緩斜面または平坦路のいずれかであると判定されたときには(ステップS120)、C1用電磁ポンプ70のソレノイド部71に矩形波電流を印加して、C1用電磁ポンプ70の駆動を開始する(ステップS130)。そして、エンジン12が燃料カットされるよう燃料カット指令をEGECU16に送信し(ステップS140)、図示しない回転数センサにより検出されEGECU16から通信により入力されたエンジン回転数Neが略値0となると(ステップS150)、リニアソレノイドSLC1に印加する電流をオフする(ステップS160)。エンジン12が停止したときには、これに伴って機械式オイルポンプ34も停止するから、ライン圧PLが抜け、切替バルブ60は、出力ポート用油路43とクラッチ用油路48との接続を遮断する。したがって、クラッチ用油路48に吐出ポート72bが接続されたC1用電磁ポンプ70を駆動することにより、クラッチC1に油圧を作用させることができる。なお、上述したように、C1用電磁ポンプ70から供給される油圧ではクラッチC1をオンすることはできない。
次に、ステップS120で緩斜面または平坦路のいずれかであると判定された路面の傾斜状態が緩斜面のときには(ステップS170)、燃料カット指令をEGECU16に送信してから所定時間(例えば、1secなど)が経過するのを待って(ステップS180)、B1用電磁ポンプ170のソレノイド部171に矩形波電流を印加して、B1用電磁ポンプ170の駆動を開始する(ステップS190)。いま、ライン圧PLが抜けているから、切替バルブ160は、出力ポート用油路143とブレーキ用油路148との接続を遮断している。したがって、ブレーキ用油路148に吐出ポート172bが接続されたB1用電磁ポンプ170を駆動することにより、ブレーキB1に油圧を作用させることができる。上述したように、B1用電磁ポンプ170の駆動によりブレーキB1をオンさせることができ、このブレーキB1のオンにより出力軸22の回転方向のうち車両10が後進する方向の回転をロックすることができるから、B1用電磁ポンプ170の駆動によりブレーキB1をオンして車両10の後進を禁止することができる。そして、次回にエンジン12の自動始動条件が成立してその成立に伴ってエンジン12が完爆するのを待つ(ステップS200,S210)。ここで、エンジン12が自動停止している最中にはクラッチC1はオンされないため、自動始動条件が成立したとき即ちブレーキペダル95の踏み込みが解除されてブレーキスイッチ信号BSWがオフとなったときには、停車している路面が平坦路以外の場合には車両10がずり下がるおそれがある。いま、停車している路面が緩斜面の場合を考えているが、B1用電磁ポンプ170の駆動によりブレーキB1をオンして車両10の後進を禁止するから、車両10がずり下がることはない。なお、B1用電磁ポンプ170は、緩斜面において車両10のずり下がりを防止できる係合圧をブレーキB1に作用させるため、少なくともブレーキB1を係合可能な範囲の下限値以上の油圧を供給できるよう車両10の重量や所定の閾値θref1,所定の閾値θref2の値を考慮してその吐出能力を設計するものとした。
エンジン12が完爆すると、駆動中の電磁ポンプ即ちC1用電磁ポンプ70とB1用電磁ポンプ170とを停止して(ステップS220)、本ルーチンを終了する。エンジン12が完爆するとライン圧PLが立ち上がって、切替バルブ60は、出力ポート用油路43とクラッチ用油路48とを接続し、切替バルブ160は、出力ポート用油路143とブレーキ用油路148とを接続する。いま、発進用の変速段として前進1速を考えると、クラッチC1が係合するようリニアソレノイドSLC1のソレノイド部51に印加する電流を増大することにより発進することができる。なお、ブレーキB1に作用していた油圧は、リニアソレノイドSLB1をオフしておけば、出力ポート用油路143とブレーキ用油路148とが接続されることにより出力ポート152bとドレンポート152cとを介してドレンされるから、前進1速の形成に影響を及ぼすことはない。このように、エンジン12が自動停止している最中にC1用電磁ポンプ70を駆動してクラッチC1に油圧を作用させておくことにより、エンジン12が自動始動したときにクラッチC1を迅速に係合させることができ、エンジン12の自動始動を伴う発進をスムーズに行なうことができる。また、エンジン12が自動停止している最中にB1用電磁ポンプ170の駆動によりブレーキB1をオンして車両10の後進を禁止するから、ブレーキペダル95の踏み込みが解除されて自動始動条件が成立したときに車両10がずり下がるのを防止することができる。
一方、ステップS120で緩斜面または平坦路のいずれかであると判定された路面の傾斜状態が平坦路であるときには(ステップS170)、車両10のずり下がりが生じるおそれはないため、B1用電磁ポンプ170を駆動することなく、ステップS200〜S220の処理を実行して、本ルーチンを終了する。これにより、平坦路においてもエンジン12の自動始動を伴う発進をスムーズに行なうことができ、また、車両10のずり下がりのおそれがない場合にはB1用電磁ポンプ170を停止して無駄な電力消費を抑えることができる。
なお、ステップS120で、判定の結果が急斜面であるときには、そのまま本ルーチンを終了する。上述したように、B1用電磁ポンプ170は、緩斜面における車両10のずり下がりを防止できるよう設計されており、急斜面においては車両10のずり下がりを十分に防止することができないおそれがある。このため、急斜面の場合には、C1用電磁ポンプ70とB1用電磁ポンプ170とを共に停止して本ルーチンを終了するのである。
図6は、車速Vとエンジン回転数Neとアクセル開度Accとブレーキスイッチ信号BSWとライン圧PLとクラッチC1のC1圧とリニアソレノイドSLC1の電流指令とC1用電磁ポンプ70の駆動指令とブレーキB1のB1圧とB1用電磁ポンプ170の駆動指令の時間変化の様子を示す説明図である。なお、図6では、路面の傾斜状態が緩斜面と判定された場合を示す。図示するように、時刻t1にエンジン12の自動停止条件が成立し、緩斜面と判定された時刻t2にC1用電磁ポンプ70の駆動を開始する。そして、時刻t3のエンジン12の燃料カット指令に伴ってエンジン12の回転数が低下すると(時刻t4)、リニアソレノイドSLC1をオフする。また、エンジン12の回転数の低下により、機械式オイルポンプ34が停止してライン圧PLが抜け、ライン圧PLの入力を受けて作動する切替バルブ60は、出力ポート用油路43とクラッチ用油路48との接続を遮断する。したがって、C1用電磁ポンプ70の油圧をクラッチC1に作用させることができる。また、時刻t3から例えば1secなどの所定時間が経過した時刻t5にB1用電磁ポンプ170の駆動を開始する。このとき、すでにライン圧PLが抜けているから、ライン圧PLの入力を受けて作動する切替バルブ160は、出力ポート用油路143とブレーキ用油路148との接続を遮断している。したがって、B1用電磁ポンプ170の油圧をブレーキB1に作用してブレーキB1をオンすることができる。なお、このときB1圧は、ブレーキB1を係合可能な範囲の下限近傍の値PBsetとされる。これにより、車両10の後進を禁止するから、時刻t6にブレーキペダル95の踏み込みが解除されてブレーキスイッチ信号BSWがオフとなりエンジン12の自動始動条件が成立したときに、車両10がずり下がるのを防止することができる。自動始動条件が成立すると、時刻t7に図示しないスタータモータによりエンジン12のクランキングが開始され、エンジン12の回転数の上昇に伴って機械式オイルポンプ34が動作を開始することによりライン圧PLが生成される(時刻t8)。そして、エンジン12が完爆したタイミングで(時刻t9)、C1用電磁ポンプ70およびB1用電磁ポンプ170の駆動を停止する。このとき、エンジン12の自動停止中にC1用電磁ポンプ70の油圧をクラッチC1に作用させているから、リニアソレノイドSLC1の電流指令を増大したときにクラッチC1を迅速に係合してスムーズに発進することができる。
以上説明した実施例の動力伝達装置用の流体圧制御装置によれば、車両10が緩斜面または平坦路で停車しているときにはC1用電磁ポンプ70を駆動してクラッチC1に油圧を作用させておくことによりエンジン12が自動始動したときにクラッチC1を迅速に係合させてスムーズに発進することができ、車両10が緩斜面で停車しているときにはさらにB1用電磁ポンプ170を駆動してブレーキB1をオンさせておくことによりワンウェイクラッF1と共に出力軸22の回転方向のうち車両10が後進する方向の回転を規制するからブレーキスイッチ信号BSWがオフなどの自動始動条件が成立したときに車両10がずり下がるのを防止することができる。また、C1用電磁ポンプ70やB1用電磁ポンプ170をそれぞれクラッチC1,ブレーキB1に直接的に油圧を供給できるよう個別に設けるから、機械式ポンプ34と同様にライン圧PLを発生させる電動ポンプを設けるものに比して油圧回路30を小型化することができ、装置全体を小型化することができる。
実施例の動力伝達装置用の流体圧制御装置では、平坦路のときにはB1用電磁ポンプ170を駆動しないものとしたが、平坦路においても緩斜面と同様にB1用電磁ポンプ170を駆動するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置用の流体圧制御装置では、エンジン停止の指示から所定時間が経過したときにB1用電磁ポンプ170の駆動を開始するものとしたが、これに限られず、自動停止条件が成立してから所定時間が経過したときに駆動を開始するものとしてもよいしC1用電磁ポンプ70の駆動開始と同時に駆動を開始するものなどとしてもよい。
実施例の動力伝達装置用の流体圧制御装置では、エンジン12の自動始動条件が成立して車両10が発進する際に前進1速を形成するものとしたが、緩斜面においては前進2速を形成するものとしてもよい。ここで、前進2速は、クラッチC1とブレーキB1とをオンすることにより形成されるが、緩斜面においてエンジン12の停止中にはクラッチC1だけでなくブレーキB1にもB1用電磁ポンプ170から油圧が供給されているので、ブレーキB1を迅速に係合してスムーズに前進2速を形成することができる。なお、前進1速を形成するか前進2速を形成するかは、車重や各変速段の変速比に基づいて予め設定しておくものとしてもよいし、停車中の路面の勾配θや発進時のアクセル開度などを併せて考慮して発進時に選択するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置用の流体圧制御装置では、ラビニヨ式の遊星歯車機構RuのキャリアCR2の負側の回転をワンウェイクラッチF1で規制するものとしたが、ワンウェイクラッチF1に並列に配置されているブレーキB2を係合可能な電磁ポンプを別途設けその電磁ポンプを駆動してブレーキB2をオンすることによりキャリアCR2の回転を規制するものとしてもよい。
実施例の動力伝達装置用の流体圧制御装置では、C1用電磁ポンプ70とB1用電磁ポンプ170とを同一の構成要素を備えるもの即ち同様な吐出能力のポンプとして構成したが、B1用電磁ポンプ170の吐出能力をC1用電磁ポンプ70に比して低くなるよう構成するものとしてもよい。この場合、例えば、ポンプ自体を小型化するものとしてもよいし、印加する矩形波電流のデューティ比や駆動周波数を変更するものなどとしてもよい。
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン12が「原動機」に相当し、オートマチックトランスミッション20が「動力伝達装置」に相当し、クラッチC1の構成要素である摩擦板82,83が「第1の摩擦係合要素」に相当し、クラッチドラム80やピストン84,クラッチドラム80とピストン84とにより形成されるピストン油室85をシールするOリング86a,86bが「第1の流体圧サーボ」に相当し、ブレーキB1の構成要素である摩擦板182,183が「第2の摩擦係合要素」に相当し、ピストン184やケース20aとピストン184とにより形成されるピストン油室185をシールするOリング186a,186bが「第2の流体圧サーボ」に相当し、機械式オイルポンプ34が「第1のポンプ」に相当し、C1用電磁ポンプ70が「第2のポンプ」に相当し、B1用電磁ポンプ170が「第3のポンプ」に相当し、ATECU29が「停止時制御手段」に相当する。また、ラビニヨ式の遊星歯車機構Ruが「回転伝達機構」に相当し、リングギヤR2が「第1の回転要素」に相当し、サンギヤS2が「第2の回転要素」に相当し、キャリアCR2が「第3の回転要素」に相当する。ここで、「原動機」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど、如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「第2のポンプ」や「第3のポンプ」としては、電磁力により作動油を圧送する電磁ポンプに限定されるものではなく、電動機からの動力により作動油を圧送する電動ポンプなど、電力により駆動して流体圧を発生させるものであれば如何なるタイプのポンプであっても構わない。「回転伝達機構」としては、ラビニヨ式の遊星歯車機構に限定されるものではなく、シングルピニオン式の遊星歯車機構やダブルピニオン式の遊星歯車機構およびこれらの遊星歯車機構を複数組み合わせたものであっても構わない。なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。