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JP5354164B2 - 低降伏比高強度厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

低降伏比高強度厚鋼板およびその製造方法 Download PDF

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JP5354164B2
JP5354164B2 JP2008313058A JP2008313058A JP5354164B2 JP 5354164 B2 JP5354164 B2 JP 5354164B2 JP 2008313058 A JP2008313058 A JP 2008313058A JP 2008313058 A JP2008313058 A JP 2008313058A JP 5354164 B2 JP5354164 B2 JP 5354164B2
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Description

本発明は,建築,土木等に供して好適な,引張強さ(TS)が1000MPa以上,降伏比(YR)が85%以下で材質異方性の少ない低降伏比高強度厚鋼板およびその製造方法に関する。
近年,建築構造物の大型化,長スパン化に伴い,厚肉の高強度鋼の需要が増大しつつあるが、適用においては、鋼構造物の安全性の観点から、高い許容応力を有するとともに,低い降伏比を備えていることが要求されている。
特許文献1〜4は,降伏強さが650MPaを超える低降伏比高強度厚鋼板の製造方法に関し、特許文献1,特許文献2には,熱間圧延後の鋼板を焼入れした後,再度フェライト+オーステナイトの2相域まで加熱し焼入れを行い,高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
特許文献3には,圧延後,直ちに焼入れする直接焼入れ法により,焼入れ後のミクロ組織をベイナイト相あるいはマルテンサイト相とした後,再度フェライト+オーステナイトの2相域まで加熱し焼ならしを行い,高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
特許文献4には,圧延後の焼入れ開始を遅らせる直接焼入れ法により,フェライトを析出させた後,急冷して,フェライト相+マルテンサイト相の2相組織を得て,高強度化と低降伏比化を達成することが記載されている。
特開2001−288512号公報 特開平6−248337号公報 特開平5−230530号公報 特開平7−97626号公報
上述したように,低降伏比高強度厚鋼板の製造プロセスとして,フェライト+オーステナイト2相域への再加熱焼入れを含む多段熱処理が一般的で,その構成組織は,フェライト相を主体とし,硬質第2相としてベイナイトあるいはマルテンサイトを分散させるもので,引張強さ1000MPa以上の高強度を安定して達成することは困難である。
一方,引張強さ1000MPa以上の高強度厚鋼板を,圧延後,直ちにあるいは再加熱後,Ac点以上の温度域から低温域まで焼入れた後,Ac点以下の温度域で熱処理炉を用いた長時間の焼もどし処理を行って製造すると,構成組織は焼もどしマルテンサイト相となり,85%以下の降伏比が得られない。
また、オーステナイト低温域での制御圧延後、直接焼入れるプロセスでは得られた鋼板は圧延方向と圧延直角方向での材質特性差が大きい、材質異方性が顕著に現れる。
尚、特許文献1,特許文献2および特許文献3に記載された技術では,煩雑な熱処理プロセスが必要であるために,製造能率が低く,また製造コスト高になる。特許文献4に記載された技術では,製造条件や鋼板内位置により,フェライトとマルテンサイト相の体積分率が変化することから,安定して高強度化と低降伏比を達成できず、材質異方性が大きい。
本発明は,上記課題を解決し、煩雑な熱処理を施さず,引張強さ(TS)1000MPa以上,降伏比(YR)が85%以下で、且つ材質異方性の小さい低降伏比高強度厚鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは,上記課題を達成するため,強度,降伏比および材質異方性に及ぼす各種要因について鋭意研究し、以下の知見を得た。
1.1000MPa以上の引張強さと,85%以下の低降伏比を安定して両立するとともに,小さな材質異方性を達成するためには,厳格な成分調整とともに,炭素当量Ceqを0.38〜0.60%とした成分組成が肝要である。
2.また、鋼板のミクロ組織は,旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm〜100μmでかつ平均アスペクト比が4以下のマルテンサイト相およびベイナイト相の混合組織に制御することが重要である。
3.上記ミクロ組織は,上記成分調整した鋼素材に終了温度を適正化した熱間圧延を施した後,冷却速度と冷却停止温度を適正化した加速冷却処理を施して形成する。
4.さらに上記ミクロ組織に強度ー靭性バランスを調整するために再加熱処理を行う場合は,昇温速度,再加熱温度および保持時間を適正化して実施すると、焼き戻された上記ミクロ組織で、1000MPa以上の引張強さと,85%以下の低降伏比を安定して両立するとともに,小さな材質異方性が得られる。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたもので、すなわち、発明の要旨は次のとおりである。
1.鋼組成が,質量%で,
C:0.03〜0.2%,
Si:0.05〜0.5%,
Mn:0.8〜1.97%,
P:0.02%以下
S:0.005%以下
Al:0.1%以下
N:0.007%以下
を含有し,下記の式で定義されるCeqが0.38〜0.60%を満足し,残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する厚鋼板であって,構成組織が旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm〜100μmでかつ平均アスペクト比が4以下である、マルテンサイト単相組織またはマルテンサイト相およびベイナイト相の混合組織となることを特徴とした,引張強さ(TS)が1000MPa以上で,降伏比(YR)が85%以下となる低降伏比高強度厚鋼板。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
ここで,C,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,V:各元素の含有量(mass%)で含有しない元素は0とする。
2.質量%でさらに,
Cu:0.1〜1%
Ni:0.1〜3%
Cr:2%以下
Mo:1%以下
Nb:0.1%以下
V:0.2%以下
Ti:0.03%以下
B:0.005%以下
Ca:0.005%以下
REM:0.02%以下および
Mg:0.005%以下
の一種または二種以上を含有する組成を有する1記載の低降伏比高強度厚鋼板。
3.1または2に記載した鋼組成からなる鋳片または鋼片を,1000〜1250℃に加熱後,880℃以上の温度域において熱間圧延を行い,続いてAr点以上の温度域から5〜60℃/sの冷却速度で350℃以下の温度域まで加速冷却を行うことを特徴とする構成組織が旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm〜100μmでかつ平均アスペクト比が4以下である、マルテンサイト単相組織またはマルテンサイト相およびベイナイト相の混合組織となる、引張強さ(TS)が1000MPa以上で、降伏比(YR)が85%以下となる低降伏比高強度厚鋼板の製造方法。
本発明によれば,優れた母材靭性を有するともに,引張強さが1000MPa以上で,85%以下の低降伏比を有する材質異方性の小さい厚鋼板を,煩雑な熱処理なく,安定して製造することができ,鋼構造物の大型化,鋼構造物の耐震性の向上や施工能率向上に大きく寄与し,産業上格段の効果を奏する。
本発明では成分組成、ミクロ組織を規定する。
[成分組成] 成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.03〜0.2%
Cは,鋼の強度を増加させ,構造用鋼材として必要な強度を確保するのに有用な元素であり,0.03%以上の含有を必要とする。一方,0.2%を超える含有は,HAZ靭性,耐溶接割れ性を劣化させるとともに,母材の靭性を劣化させる。このため,Cは0.03〜0.2%の範囲に限定する。なお,好ましくは,0.05〜0.15%である。
Si:0.05〜0.5%
Siは,脱酸材として作用し,製鋼上,少なくとも0.05%必要であるが,0.5%を超えて含有すると,母材の靭性が劣化するとともに,溶接性,HAZ靭性が顕著に劣化する。このため,Siは0.05〜0.5%の範囲に限定する。なお,好ましくは,0.05〜0.35%である。
Mn:0.8〜3%
Mnは,鋼の強度を増加させる効果を有し,引張強さ1000MPa以上を確保するため,0.8%以上の含有を必要とする。一方,3%を超えて含有すると,母材の靭性およびHAZ靭性が著しく劣化する。このため,Mnは0.8〜3%の範囲に限定する。なお,好ましくは,1.0〜2.5%である。
P:0.02%以下
Pは,鋼の強度を増加させ靭性を劣化させる元素で,とくに溶接部の靭性を劣化させるので,できるだけ低減することが望ましい。Pが0.02%を超えて含有されると,この傾向が顕著となるため,上限とする。なお,過度のP低減は精錬コストを高騰させ経済的に不利となるため,0.002%以上とすることが望ましい。
S:0.005%以下
Sは、母材および溶接部の靭性を劣化させる元素であり,できるだけ低減することが望ましい。Sが0.005%を超えて含有されると,この傾向が顕著となるため,上限とする。
Al:0.1%以下
Alは,脱酸剤として作用し,高張力鋼の溶鋼脱酸プロセスに於いて,もっとも汎用的に使われる。また,鋼中のNをAlNとして固定し,母材の靭性向上に寄与する。このような効果はAl:0.005%以上の含有で認められる。
一方,0.1%を超える含有は,母材の靭性が低下するとともに,溶接時に溶接金属部に混入して,靭性を劣化させるため,0.1%以下に限定する。なお,好ましくは,0.01〜0.07%である。
N:0.007%以下
Nは不可避的不純物として鋼中に含まれ,0.007%を超えて含有すると,母材および溶接部靭性が著しく低下する。このため,0.007%以下に限定する。
Ceq:0.38〜0.60%
本発明では,Ceq(=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14、但し,C,Si,Mn, Ni,Cr,Mo,Vは各元素の含有量(mass%)で、含有しない元素は0とする。)とし、後述する選択元素を含めて、Ceqが0.38〜0.60%となるように,各成分の含有量を調整する。
Ceqが0.38%未満では,圧延,加速冷却時の焼入れ性が不足し,所望の引張強さ1000MPa以上を確保できなくなる。一方,Ceqが0.60%を超えると,母材靭性が低下するため,Ceqは0.38〜0.60%とする。
本発明では,更に、所望の特性を向上させるため、上記した基本成分系に,選択成分としてCu:0.1〜1%,Ni:0.1〜3%のうちから選ばれた1種または2種以上,および/または,Cr:2%以下,Mo:1%以下,Nb:0.1%以下,V:0.2%,Ti:0.03%以下,B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上,および/または,Ca:0.005%以下,REM:0.02%以下およびMg:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することができる。
Cu:0.1〜1%,Ni:0.1〜3%のうちから選ばれた1種または2種以上
CuおよびNiは,高靭性を保ちつつ強度を増加させることが可能な元素であり,HAZ靭性への影響も小さいため,高強度化のために有用な元素である。
Cuは0.1%以上含有することが好ましいが,含有量が1%を超えると熱間脆性を生じて鋼板の表面性状を劣化させるこのため,Cuは0.1〜1%の範囲に限定する。なお,好ましくは,0.2〜0.7%である。
Niは,0.1%以上含有することが好ましいが,3%を超えて含有しても,効果が飽和し,含有量に見合う効果が期待できなくなり,経済的に不利になる。このため,Niは0.1〜3%に限定する。なお,好ましくは0.2〜2.8%である。
Cr:2%以下,Mo:1%以下,Nb:0.1%以下,V:0.2%以下,Ti:0.03%以下,B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cr,Mo,Nb,V,Ti,Bは,いずれも鋼の強度向上に寄与する元素である。
Crは,0.05%以上含有することが好ましいが,2%を超える含有は,HAZ靭性を劣化させる。このため,Crは2%以下に限定することが望ましい。
Moは,0.05%以上含有することが好ましいが,1%を超える含有は,母材靭性およびHAZ靭性に悪影響を及ぼす。このため,Moは1%以下に限定することが望ましい。
Nbは,0.005%以上含有することが好ましいが,0.1%を超える含有は,母材靭性およびHAZ靭性を劣化させる。このため,Nbは0.1%以下に限定することが望ましい。
Vは,0.01%以上含有することが好ましいが,0.2%を超える含有は,HAZ靭性を劣化させる。このため,Vは0.2%以下に限定することが望ましい。
Tiは,0.005%以上含有することにより,強度向上に寄与し,また,Nとの親和力が強く凝固時にTiNとして析出し,HAZでのオーステナイト粒の粗大化抑制してHAZの高靭化に寄与する。一方,0.03%を超えて含有すると,母材靭性を劣化させる。このため,Tiは0.03%以下に限定することが望ましい。
Bは,焼入れ性の向上を介して,鋼の強度を増加させる作用を有する。一方,0.005%を超える含有は焼入れ性を著しく増加させ,母材の靭性,延性の劣化をもたらす。このため,Bは0.005%以下に限定する。なお,好ましくは,0.0003〜0.002%である。
Ca:0.005%以下,REM:0.02%以下およびMg:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Ca,REMおよびMgは,いずれも靭性向上に寄与する元素である。
Ca:0.005%以下
Caは,結晶粒の微細化を介して靭性を向上させる有用な元素であり,0.001%以上含有することが好ましいが,0.005%を超えて含有しても効果が飽和するため,0.005%を上限とする。
REMは,0.002%以上含有することが好ましいが,0.02%を超えて含有しても効果が飽和するため,0.02%を上限とする。
Mgは,結晶粒の微細化を介して靭性を向上させる有用な元素であり,0.001%以上含有することが好ましいが,0.005%を超えて含有しても効果が飽和するため,0.005%を上限とする。なお,上記成分以外の残部は,Feおよび不可避的不純物である。
[ミクロ組織]
ミクロ組織は、旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm〜100μmでかつ平均アスペクト比が4以下のマルテンサイト相およびベイナイト相の混合組織とする。
旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm未満では、焼入れ性が低下し、マルテンサイト相とベイナイト相の混合組織を得ることができないため、1000MPa以上の引張強さを満足できない。
一方、平均円相当径が100μm以上になると靭性が低下する。このため、旧オーステナイト粒の平均円相当径を30〜100μmの範囲に限定する。
構成組織がマルテンサイト相とベイナイト相の混合組織でない場合、引張強さ1000MPa以上の高強度と85%以下の低降伏比が得られない。圧延後,直ちに焼き入れたマルテンサイト相およびベイナイト相は,転位密度が非常に高く,また非常に硬い相であるために,高い引張強度を有するとともに,多量に導入された可動転位がYSの極端な上昇を抑制することにより,高強度と低降伏比を両立する。
さらに上記ミクロ組織に強度ー靭性バランスを調整するために再加熱処理を行うと、焼もどしマルテンサイト相およびベイナイト相となり,一般的には、可動転位の消失により,降伏強さの大幅な上昇を招く。
そのため、本発明では、後述するように、再加熱処理において昇温速度,再加熱温度および保持時間を適正化して実施し、焼き戻された上記ミクロ組織で、1000MPa以上の引張強さと,85%以下の低降伏比を安定して両立するとともに,小さな材質異方性を達成する。よって、本発明において、マルテンサイト相およびベイナイト相には、焼もどしマルテンサイト相およびベイナイト相を含むものとする。
マルテンサイト相およびベイナイト相以外に、フェライト,パーライトおよびセメンタイト等の組織が混在すると,強度が低下し、島状マルテンサイトが混在する場合には,靭性が低下するため,これら組織の面積分率は少ない方が良い。但し、混在する組織は,面積分率で10%以下の場合には影響が無視できる。
旧オーステナイト粒の平均アスペクト比が4より大きいと材質異方性が大きくなるため、4以下とする。なお、本発明で規定するミクロ組織は板厚断面部の90%以上の領域において満足されれば、所望の性能を備えた厚鋼板とすることが可能である。
尚、旧オーステナイト粒の組織は、試料をピクリン酸にて腐食後、倍率500倍の光学顕微鏡で観察して同定し、平均円相当径、平均アスペクト比は、倍率500倍の光学顕微鏡で撮影した画像を、画像解析装置を用いて求めることが可能である。
本発明に係る厚鋼板は以下の製造方法によることが好ましい。説明において,温度「℃」は特に断らない限り板厚1/2t部の温度を意味するものとする。
上記組成の溶鋼を,転炉,電気炉,真空溶解炉等,通常公知の方法で溶製後冷却し、鋼素材とする。得られた鋼素材は1000℃〜1250℃に再加熱後、熱間圧延を行う。
再加熱温度が1000℃未満では,熱間圧延での変形抵抗が高くなり,1パス当たりの圧下量が大きく取れず,圧延パス数が増加し,圧延能率の低下を招くとともに,鋼素材(スラブ)中の鋳造欠陥を圧着することができない場合があるため、1000℃以上とする。
一方,再加熱温度が1250℃を超えると,加熱時のスケールによって表面疵が生じやすく,圧延後の手入れ負荷が増大するだけでなく、圧延前のオーステナイト粒が粗大化し、圧延後において、旧オーステナイト粒の平均結晶粒径が100μm超えとなり、靭性が低下するため、鋼素材の再加熱温度は1000〜1250℃の範囲とする。
熱間圧延は、圧延終了温度を880℃以上とする。圧延終了温度が880℃未満では,圧延再結晶を生じさせて旧オーステナイト粒の平均結晶粒径を30μm以上とすることができない。また、旧オーステナイト粒の平均アスペクト比が増大し、4以下を満足できず、材質異方性が生じるため,880℃以上とする。
熱間圧延では、所定の板厚および形状が得られればよく,他の条件はとくに規定しない。但し、板厚が80mmを超える極厚鋼板の場合には,ザク圧着のために1パスあたりの圧下率が15%以上となる圧延パスを少なくとも1パス以上確保することが好ましい。
圧延終了後,Ar点以上の温度域から5〜60℃/sの平均冷却速度で,350℃以下の温度域まで加速冷却する。
冷却速度が5℃/s未満では,加速冷却後のミクロ組織中にフェライト相やパーライト相の面積分率が増加し,所望のミクロ組織を満足できず引張強さ1000MPa以上が確保できない。
一方,冷却速度が60℃/sを超えると,鋼板の各位置における温度制御が困難となり,材質のばらつきが生じる。
加速冷却の冷却停止温度が、350℃を超えると,所望の引張強さ1000MPa以上を確保できず、一方,停止温度は室温以上であれば良いが,生産性,経済性を考慮すると150℃以上とすることが好ましい。
加速冷却終了後、焼戻しを行う場合、350〜550℃の温度域まで2℃/s以上の昇温速度で再加熱し,10min.以下保持とした後,冷却する。
昇温速度が2℃/s未満では,目的の再加熱温度まで長時間を要するために製造効率が低下する。再加熱温度が350℃未満であると,母材靭性および延性の改善効果が発現しない。
一方,再加熱温度が550℃を超えると,マルテンサイト相およびベイナイト相中の可動転位が消失し,大幅な降伏強度の上昇を招き,降伏比85%以下を満足できない。
再加熱後の保持時間は,生産性を阻害しないように,10min.を上限とする。鋼板全断面が目標の再加熱温度に均一に加熱されれば10min.未満の短時間でも良い。
再加熱の手段としては,雰囲気炉加熱,ガス炎,誘導加熱等があるが,経済性,制御性等を考慮すると,誘導加熱が好ましい。再加熱後の冷却方法は特に規定しない。
種々の組成の鋼素材を、転炉−取鍋精錬−連続鋳造法で製造し,熱間圧延−加速冷却−再加熱−冷却により種々の板厚の厚鋼板とした。表1に供試鋼の成分組成、表2に熱間圧延−加速冷却−再加熱−冷却の条件を示す。
得られた各厚鋼板の板厚1/2位置から,JIS4号引張試験片を採取し,JISZ 2241に準拠して引張試験を実施し,引張特性を調査した。また,得られた各厚鋼板の板厚1/2位置から,JISZ2202に準拠してVノッチ試験片を3本採取し,JISZ 2242に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し,0℃における吸収エネルギー(vE)の平均値を求め,母材靭性を評価した。尚、引張試験片、Vノッチ試験片は圧延長手方向(L方向)、圧延幅方向(C方向)から採取し、材質異方性を評価した。
引張強さ1000MPa以上,降伏比85%以下,0℃での吸収エネルギー vEo>100Jで、且つ圧延長手方向(L方向)と圧延幅方向(C方向)の引張強さの差が30MPa未満を目標特性とした。また、得られた各厚鋼板の板厚1/2位置からミクロ組織観察用の試料を採取し、圧延方向に平行な断面のミクロ組織を調査した。
得られた結果を表3に示す。No.1−1,1−2,2−1,3,4−1,5〜8−1,9はいずれも本発明例で引張強さ1000MPa以上,降伏比85%以下,0℃での吸収エネルギー vEo>100Jの高強度,低降伏比且つ高靭性の母材特性を有するとともに,圧延長手方向(L方向)と圧延幅方向(C方向)の引張強さの差が30MPa未満で材質異方性が小さい。
一方,No.1−3、1−4、1−5、2−2、4−2、8−2は比較例で,母材強度,降伏比,母材靭性および引張強さの異方性のうち,いずれか,あるいは複数の特性が目標値を満足していない。
No.1−3は、圧延後の加速冷却速度が2℃/と遅く、ミクロ組織が本発明範囲外で、No.1−4は、圧延終了温度が830℃と低く、ミクロ組織が本発明範囲外で、No.1−5は、加速冷却停止後の再加熱温度が650℃と高いため降伏比が高い。
No.2−2は、圧延後の加速冷却の停止温度が510℃と高く、ミクロ組織が本発明範囲外で、No.4−2は、加速冷却停止後の再加熱温度の保持時間が長く、引張特性が本発明範囲外である。No.8−2は、圧延終了温度が800℃と低く、ミクロ組織が本発明範囲外で、No.10〜14は成分組成が本発明範囲外である。
また、No.1−4、No.8−2は、圧延終了温度が880℃以下で低く、No.13はC含有量が本発明範囲外で、いずれも圧延長手方向(L方向)と圧延幅方向(C方向)の引張強さの差が30MPa以上で材質異方性が大きい。
Figure 0005354164
Figure 0005354164
Figure 0005354164

Claims (3)

  1. 鋼組成が,質量%で,
    C:0.03〜0.2%,
    Si:0.05〜0.5%,
    Mn:0.8〜1.97%,
    P:0.02%以下
    S:0.005%以下
    Al:0.1%以下
    N:0.007%以下
    を含有し,下記の式で定義されるCeqが0.38〜0.60%を満足し,残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有する厚鋼板であって,構成組織が旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm〜100μmでかつ平均アスペクト比が4以下である、マルテンサイト単相組織またはマルテンサイト相およびベイナイト相の混合組織となることを特徴とした,引張強さ(TS)が1000MPa以上で,降伏比(YR)が85%以下となる低降伏比高強度厚鋼板。
    Ceq=C+Si/24+Mn/6+Ni/40+Cr/5+Mo/4+V/14
    ここで,C,Si,Mn,Ni,Cr,Mo,V:各元素の含有量(mass%)で含有しない元素は0とする。
  2. 質量%でさらに,
    Cu:0.1〜1%
    Ni:0.1〜3%
    Cr:2%以下
    Mo:1%以下
    Nb:0.1%以下
    V:0.2%以下
    Ti:0.03%以下
    B:0.005%以下
    Ca:0.005%以下
    REM:0.02%以下および
    Mg:0.005%以下
    の一種または二種以上を含有する組成を有する請求項1記載の低降伏比高強度厚鋼板。
  3. 請求項1または2に記載した鋼組成からなる鋳片または鋼片を,1000〜1250℃に加熱後,880℃以上の温度域において熱間圧延を行い,続いてAr点以上の温度域から5〜60℃/sの冷却速度で350℃以下の温度域まで加速冷却を行うことを特徴とする構成組織が旧オーステナイト粒の平均円相当径が30μm〜100μmでかつ平均アスペクト比が4以下である、マルテンサイト単相組織またはマルテンサイト相およびベイナイト相の混合組織となる、引張強さ(TS)が1000MPa以上で、降伏比(YR)が85%以下となる低降伏比高強度厚鋼板の製造方法。
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