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JP5231042B2 - 溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents

溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、橋梁や高層建造物、船舶などに使用される鋼材に関し、特に、大入熱溶接の溶接熱影響部(以下、単に「HAZ」と呼ぶことがある)の靭性に優れた鋼材およびその製造方法に関するものである。
近年、上記各種溶接構造物の大型化に伴い、板厚が50mm以上である厚鋼板の溶接が不可避となっている。このため、あらゆる分野において、溶接施工効率の向上や施工コストの低減を目的として、大入熱溶接が指向される状況である。しかしながら、大入熱溶接を行うと、HAZが高温のオーステナイト領域まで加熱されてから徐冷されるので、加熱時にオーステナイト粒成長、徐冷時におけるオーステナイト粒界からの粒界フェライト生成に起因してHAZの組織が粗大化し、その部分の靭性が劣化しやすいという問題がある。こうしたことから、大入熱溶接を実施しても、HAZにおける靭性(以下、「HAZ靭性」と呼ぶことがある)を高い水準に保つ技術の確立が望まれている。
HAZ靭性を改善するために適用される代表的な技術として、酸化物や窒化物などの介在物を起点とした粒内フェライト変態促進による組織微細化技術が挙げられる。この技術は、溶接終了後の冷却時において、粒内に存在する上記介在物によって微細なフェライト変態組織を発達させ、粗大な粒界フェライトの生成を抑制し、これによってHAZ靭性を確保するものである。上記介在物のなかでも、特に、酸化物は熱的に安定であるため、大入熱、或いは超大入熱溶接を行なっても優れたHAZ靱性を確保できるという利点を有している。
酸化物を利用した技術として、特許文献1には、O濃度とCa濃度を制御することによって、MnSを複合析出させたTi含有酸化物を微細に分散させ、それを核とする粒内フェライト変態を促進する(即ち、粗大な粒界フェライト生成を抑制する)技術が提案されている。特許文献2には、TiとMgとを複合添加した系で、粒内フェライト核となるTi含有酸化物とMnSの複合体を生成させることによって、HAZ靭性に優れた溶接用高張力鋼を得る技術が開示されている。特許文献3には、REMの酸化物および/またはCaOと、ZrO2を所定量生成させることによって、HAZ靱性に優れた鋼材を得る技術が開示されている。
特開平6−200319号公報 特開平9−157787号公報 特開2007−100213号公報
本発明はこのような状況に鑑みて成されたものであり、その目的は、大入熱溶接を行なった場合であってもHAZ靭性に優れた鋼材およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材とは、C:0.02〜0.12%(「質量%」の意味。以下同じ)、Si:0.50%以下(0%を含む)、Mn:1〜2.0%、Ti:0.005〜0.10%、P:0.030%以下(0%を含む)、S:0.020%以下(0%を含む)、Al:0.05%以下(0%を含む)、N:0.0040〜0.030%、O:0.0005〜0.010%を満足すると共に、更に、Zr:0.0002〜0.050%と、REM:0.0002〜0.050%および/またはCa:0.0005〜0.010%とを含有し、残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、且つ、(a)前記鋼材は、Zrと、REMおよび/またはCaを含有する酸化物を含み、(b)前記鋼材に含まれる全酸化物の組成を測定して単独酸化物として換算したとき、ZrO2:5〜50%と、REMの酸化物(REMをMの記号で表すとM23):10〜50%、および/またはCaO:5〜50%を満足すると共に、(c)前記鋼材に含まれる全酸化物のうち、円相当直径で0.1〜2.0μmの酸化物が1mm2当り120個以上であり、円相当直径で5.0μm超の酸化物が1mm2当り5個以下である点に要旨を有する。
前記鋼材は、更に他の元素として、
(1)Ni:1.5%以下(0%を含まない)および/またはCu:1.5%以下(0%を含まない)、
(2)Cr:1.5%以下(0%を含まない)および/またはMo:1.5%以下(0%を含まない)、
(3)Nb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)、
(4)B:0.0050%以下(0%を含まない)、
等の元素を含有してもよい。
上記鋼材は、溶存酸素量が0.0010〜0.0060%の溶鋼を調整する工程(1)と、前記溶鋼を攪拌して溶鋼中の酸化物を浮上分離させることによって全酸素量を0.0010〜0.0070%に調整する工程(2)と、Tiを添加した後、Zrと、REMおよび/またはCaを添加する工程(3)とを順次包含することにより製造できる。前記工程(3)の後は、40分を超えない範囲で溶鋼を攪拌する工程(4)を更に包含するのがよい。
本発明によれば、粒内フェライト変態の核となる酸化物(ZrO2と、REMの酸化物および/またはCaOの酸化物であり、好ましくはTi23を更に含有する酸化物)が所定量生成されていると共に、鋼材中に存在する酸化物の大きさと個数(粒度分布)も適切に制御されており、特にHAZ靱性の低下を招く粗大な酸化物の生成が有意に抑制されているため、大入熱量で溶接を行なってもHAZ靭性を改善することができる。
本発明は、特許文献3に開示された粒内フェライト変態技術を改変し、より大きな入熱量で溶接を行なってもHAZ靱性に優れた鋼材を得るための技術に関するものである。
前述したように、特許文献3には、ZrO2と、REMの酸化物および/またはCaOの酸化物を粒内フェライト変態の核(起点)として利用した鋼材が開示されている。上記の酸化物は熱的に安定であり、例えば、1400℃レベルの高温に長時間曝されても固溶して消失しないため、大入熱溶接、或いは超大入熱溶接を行なっても、その機能を損なうことはないと考えられる。
そして、本発明者らの検討結果によれば、当該鋼材中の全酸化物(粒内フェライト変態の核となる上記酸化物に限定されず、すべての酸化物を対象とする。)の大きさと個数がHAZ靱性の向上に深く関与しており、特に、円相当直径で5.0μm超の粗大な酸化物を5個以下に抑えれば、入熱量が概ね50kJ/mm程度の大入熱溶接を行なってもHAZ靱性に優れた鋼材が得られることを見出し、本発明を完成した。
本明細書では、粒内フェライト変態の核となる酸化物、即ち、「ZrO2と、REMの酸化物(REMをMで表すとM23)および/またはCaO」の酸化物と、鋼材中に含まれるすべての酸化物を区別するため、説明の便宜上、前者を特に「Zr・REM/Ca系酸化物」と呼び、後者を特に「全酸化物」と呼ぶ場合がある。また、上記の「Zr・REM/Ca系酸化物」を構成する必須成分(Zrと、REMおよび/またはCa)を、特に粒内フェライト変態核生成元素と呼ぶ場合がある。また、本明細書では、鋼材に含まれる全酸化物のうち、円相当直径で0.1〜2.0μmの酸化物を「微細な酸化物」と呼び、一方、円相当直径で5.0μm超の酸化物を「粗大な酸化物」と呼ぶ場合がある。
本発明によれば、粗大な酸化物の個数が著しく抑えられているため、特許文献3の実施例に開示されたHAZ靱性評価方法(1400℃の加熱温度で5秒間保持した後、800℃から500℃を300秒で冷却することにより熱サイクルを与え、−40℃における吸収エネルギーを測定する方法)よりも大きな入熱量で溶接を行なっても、HAZ靱性を向上することができる(後記する実施例を参照)。
[(a)Zr・REM/Ca系酸化物について]
まず、粒内フェライト変態の起点となるZr・REM/Ca系酸化物について説明する。上記のZr・REM/Ca系酸化物は、Zrの酸化物を必ず含んでおり、且つ、REMの酸化物若しくはCaの酸化物のいずれか一方、またはREMの酸化物およびCaの酸化物の両方を含んでいるものを意味している。Zr・REM/Ca系酸化物を構成する元素(粒内フェライト変態核生成元素)は、Zrと、REMおよび/またはCaであるが、上記以外に、例えば、Ti、Mn、Si、Alなどの酸化物形成元素や、その他の鋼中成分を含んでいても良い。
上記Zr・REM/Ca系酸化物の存在形態は特に限定されず、粒内フェライト変態核生成元素を単独で含有する単独酸化物として存在していても良いし、粒内フェライト変態核生成元素の2種以上を含む複合酸化物として存在していても良い。単独酸化物の例としては、ZrではZrO2;CaではCaO;REMでは、REMを「M」の記号で表したとき、M23、M35、MO2などが例示される。また、これらの酸化物は、互いに凝集して存在しても良いし、上記酸化物に硫化物や窒化物などの他の化合物が複合析出した形態で存在しても良い。
上記のZr・REM/Ca系酸化物は、Tiの酸化物を更に含有していることが好ましい。Tiの酸化物が更に存在すると粒内フェライト変態が促進され、HAZ靭性の向上が一層高められるようになる。Tiの酸化物は、単独酸化物(例えば、Ti23、Ti35、TiO2)として存在していても良いし、上記Zr・REM/Ca系酸化物との複合酸化物の形態で存在していても良い。
[(b)酸化物の平均組成について]
本発明の鋼材は、鋼材に含まれる全酸化物の組成を測定して単独酸化物(合計が100%)として質量換算したときに、ZrO2を5〜50%と、REMの酸化物(REMをMの記号で表すとM23):10〜50%および/またはCaO:5〜50%を満足しており、これにより粒内フェライト変態の核として有効に作用するようになる。各酸化物の下限値を下回ると、溶接時に粒内フェライトの生成核となる酸化物量が不足し、HAZ靭性の向上作用が発揮されない。一方、各酸化物の上限値を超えると、酸化物が粗大化し、粒内フェライトの生成核として有効に作用する微細な酸化物の個数が少なくなり、HAZ靭性向上作用が有効に発揮されない。
上記ZrO2は、10%以上であることが好ましく、より好ましくは13%以上、更に好ましくは15%以上である。一方、上限は、好ましくは45%であり、更に好ましくは40%である。
上記REMの酸化物は、15%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上である。一方、上限は、好ましくは45%であり、更に好ましくは40%である。なお、REMの酸化物は、REMを記号Mで表すと、鋼材中にM23、M35、MO2などの形態で存在するが、REMの酸化物をすべてM23に換算したときの量を意味する。
上記CaOは、10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上、更に好ましくは18%以上である。一方、上限は、好ましくは45%であり、更に好ましくは40%、特に好ましくは30%である。
なお、全酸化物の組成の残りの成分は特に限定されず、本発明の鋼材中に含まれる酸化物形成元素の酸化物(例えばSiO2やAl23、MnOなど)が挙げられる。これらの酸化物の合計量は、概ね5%未満であることが好ましい。
鋼材に含まれる全酸化物の組成は、鋼材の断面を例えばEPMA(Electron Probe X-ray Micro Analyzer;電子線マイクロプローブX線分析計)で観察し、観察視野内に認められる酸化物を定量分析して測定する。測定条件の詳細は、後記する実施例の欄で説明する。
[(c)全酸化物の粒度分布について]
次に、本発明を特徴付ける全酸化物(上述したZr・REM/Ca系酸化物に限定されず、鋼材中に存在する全ての酸化物)の個数と大きさについて説明する。
本発明の鋼材に含まれる全酸化物は、円相当直径で0.1〜2.0μmの微細な酸化物が1mm2当り120個以上で、且つ、円相当直径で5.0μmを超える粗大な酸化物が1mm2当り5個以下を満足している。
本発明者らが全酸化物の粒度分布とHAZ靱性の関係について詳しく調べたところ、特に、円相当直径が0.1〜2.0μmの微細な酸化物と、5.0μm超の粗大な酸化物とが、大入熱溶接のHAZ靱性に深く関与しており、HAZ靱性の向上に大きく寄与するのは微細な酸化物の個数であり、粗大な酸化物は、脆性破壊の起点となってHAZ靱性の低下を招くこと、また、円相当直径で0.1μm未満の微細酸化物は、酸化物分散によるHAZ靱性向上作用に殆ど寄与しないことが明らかになった。従って、HAZ靱性を高めるためには、微細な酸化物の個数はできるだけ多い方が好ましいが、微細な酸化物が多くなると相関して粗大な酸化物の個数も多くなる傾向にあるため、微細な酸化物と粗大な酸化物の個数を適切に制御することが必要である。
微細な酸化物の好ましい個数は、1mm2当り200個以上であり、より好ましい個数は、1mm2当り500個以上、更に好ましい個数は、1mm2当り1000個以上である。
粗大な酸化物は少ない程良く、好ましい個数は、1mm2当り3個以下、より好ましくは1個以下、最も好ましくは0個である。上記以外のサイズの酸化物の個数について、本発明は何ら限定するものではなく、上記サイズの酸化物さえ制御されていれば所望とするHAZ靱性が得られることを実験によって確認している。
上記「円相当直径」とは、酸化物の面積が等しくなる様に想定した円の直径であり、透過型電子顕微鏡(TEM)観察面上で認められるものである。
次に、本発明の鋼材(母材)における成分組成について説明する。本発明の鋼材は、基本成分として、C:0.02〜0.12%、Si:0.50%以下(0%を含む)、Mn:1〜2.0%、Ti:0.005〜0.10%、P:0.030%以下(0%を含む)、S:0.020%以下(0%を含む)、Al:0.05%(0%を含む)、N:0.0040〜0.030%、およびO(酸素):0.0005〜0.010%を満足すると共に、更に、Zr:0.0002〜0.050%と、REM:0.0002〜0.050%および/またはCa:0.0005〜0.010%とを含有している。こうした範囲を定めた理由は以下の通りである。
Cは、鋼材(母材)の強度を確保するために欠くことのできない元素である。こうした効果を発揮させるには、0.02%以上含有させる必要がある。Cは、0.04%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上である。しかしCが0.12%を超えると、溶接時にHAZに島状マルテンサイト(MA)を多く生成してHAZの靭性劣化を招くばかりでなく、溶接性にも悪影響を及ぼす。従ってCは0.12%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.08%以下とする。
Siは、固溶強化により鋼材の強度を確保するのに寄与する元素である。しかしSiが0.50%を超えると、溶接時にHAZに島状マルテンサイト(MA)を多く生成してHAZ靭性の劣化を招くばかりでなく、溶接性にも悪影響を及ぼす。従ってSiは0.50%以下とする。好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.18%以下である。なお、Siを添加して鋼材の強度を確保するためには、0.02%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.05%以上、更に好ましくは0.1%以上含有させるのがよい。
Mnは、鋼材(母材)の強度向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、1%以上含有させる必要がある。Mnは、好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.2%以上、更に好ましくは1.4%以上含有させるのがよい。しかし2.0%を超えると、鋼材(母材)の溶接性を劣化させる。従ってMnは、2.0%以下に抑える必要がある。好ましくは1.8%以下であり、より好ましくは1.6%以下とする。
Tiは、鋼材中にTiNなどの窒化物や、Ti酸化物を生成し、HAZ靭性の向上に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、Tiは0.005%以上含有させる必要がある。好ましくは0.007%以上、より好ましくは0.010%以上とする。しかしTiを過剰に添加すると鋼材(母材)の靭性を劣化させるため、Tiは0.10%以下に抑えるべきである。Tiは、好ましくは0.07%以下であり、より好ましくは0.06%以下である。
Pは、偏析し易い元素であり、特に鋼材中の結晶粒界に偏析して粒界を破壊し、HAZ靭性を劣化させる。従ってPは0.030%以下に抑制する必要がある。Pは、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.01%以下とする。なお、Pは、通常、不可避的に0.001%程度含有している。
SもPと同様に偏析し易い元素であり、特に鋼材中の結晶粒界に偏析して靭性を劣化させる。またSは、Mnと結合して硫化物(MnS)を生成し、母材の靭性や板厚方向の延性を劣化させる有害な元素である。従ってSは0.020%以下に抑制する必要がある。好ましくは0.015%以下であり、より好ましくは0.010%以下である。なお、Sは、通常、不可避的に0.0005%程度含有している。
Alは、脱酸剤として作用する元素である。しかし過剰に添加すると酸化物を還元して粗大なAl酸化物を形成し、HAZ靭性が劣化する。従ってAlは0.05%以下に抑える必要がある。Alは、好ましくは0.04%以下、より好ましくは0.035%以下である。なお、Alは、通常、不可避的に0.0005%程度含有している。
Nは、Ti含有窒化物を析出する元素であり、該窒化物は、ピン止め効果により、溶接時にHAZに生成するオーステナイト粒の粗大化を防止してフェライト変態を促進し、HAZ靭性の向上に寄与する。こうした効果を有効に発揮させるには、0.0040%以上含有させる必要がある。Nは、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.006%以上である。Nは多いほどTi含有窒化物を形成してオーステナイト粒の微細化が促進されるため、HAZの靭性向上に有効に作用する。しかしNが0.030%を超えると、固溶N量が増大して母材自体の靭性が劣化し、HAZ靭性も低下する。従ってNは0.030%以下に抑える必要がある。好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.02%以下、更に好ましくは0.015%以下とする。
O(酸素)は、HAZ靭性の向上に寄与する粒内フェライトの生成核となる微細な酸化物を生成させるために必要な元素である。しかしOが0.0005%未満では、上記微細な酸化物量が不足し、HAZ靭性を向上させることができない。従ってOは0.0005%以上含有させる必要がある。Oは、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上である。しかし過剰に添加すると酸化物が粗大化してHAZ靭性を却って劣化させる。従ってOは0.010%以下に抑えるべきである。Oは、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
Zrは、ZrO2を生成させるのに必要な元素である。ZrO2を含有することで、酸化物が微細分散し易くなり、この微細分散した酸化物が粒内フェライトの生成核となるため、HAZ靭性の向上に寄与する。しかしZrが0.0002%未満では、上記粒内フェライトの生成核となる微細な酸化物量が少なくなるため、HAZ靭性を向上させることができない。従ってZrは0.0002%以上含有させる必要がある。Zrは、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上とする。しかしZrを過剰に添加すると、粗大な酸化物が多く生成してHAZ靭性が劣化する。また、析出強化をもたらす微細なZr炭化物を形成し、母材自体の靭性低下を招く。従ってZrは0.050%以下に抑える。Zrは、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.01%以下、更に好ましくは0.008%以下とする。
REM(希土類元素)とCaは、夫々の酸化物を生成させるのに必要な元素である。これらの酸化物を含有することで、酸化物が微細分散し易くなり、この微細分散した酸化物が粒内フェライトの生成核となるため、HAZ靭性の向上に寄与する。本発明の鋼材では、REMとCaは夫々単独で、或いは併用できる。
REMは、単独で、またはCaと併用される場合には、0.0002%以上含有させるべきであり、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上、更に好ましくは0.0015%以上である。しかしREMを過剰に添加すると、粗大な酸化物を形成し、HAZ靭性が却って劣化する。従ってREMは0.050%以下に抑えるべきである。REMは、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.01%以下である。
なお、本発明において、REMとは、ランタノイド元素(LaからLnまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。これらの元素のなかでも、La、CeおよびYよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有することが好ましく、より好ましくはLaおよび/またはCeを含有するのがよい。
Caは、単独で、またはREMと併用される場合には、0.0005%以上含有させるべきであり、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.0015%以上である。しかしCaを過剰に添加すると、粗大な酸化物を形成し、HAZ靭性が却って劣化する。従ってCaは、0.010%以下に抑える。Caは、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.005%以下である。
本発明の鋼材は、上記元素を必須成分として含有するものであり、残部は鉄および不可避不純物(例えば、MgやAs,Seなど)であってもよい。
本発明の鋼材は、更に他の元素として、
(1)Ni:1.5%以下(0%を含まない)および/またはCu:1.5%以下(0%を含まない)、
(2)Cr:1.5%以下(0%を含まない)および/またはMo:1.5%以下(0%を含まない)、
(3)Nb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはV:0.1%以下(0%を含まない)、
(4)B:0.0050%以下(0%を含まない)
等の元素を含有することも有効である。こうした範囲を定めた理由は以下の通りである。
[(1)Niおよび/またはCu]
NiとCuは、いずれも鋼材の強度を高めるのに寄与する元素である。NiとCuは、夫々単独で、或いは複合して添加することができる。しかしNiが1.5%を超えると、母材の強度を著しく高めて母材の靭性を劣化させるため、HAZ靭性も低下する。従ってNiは1.5%以下とすることが好ましい。Niは、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Ni添加による作用を有効に発揮させるには、0.05%以上含有させることが好ましい。Niは、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.2%以上である。
CuもNiと同様に、1.5%を超えると、母材の強度を著しく高めて母材の靭性を劣化させるため、HAZ靭性も低下する。従ってCuは1.5%以下とすることが好ましい。Cuは、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Cu添加による作用を有効に発揮させるには、0.05%以上含有させることが好ましい。Cuは、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.2%以上である。
[(2)Crおよび/またはMo]
CrとMoは、いずれも鋼材の強度を高めるのに寄与する元素である。CrとMoは、夫々単独で、或いは複合して添加することができる。しかしCrが1.5%を超えると、母材の強度を著しく高め過ぎて母材の靭性を劣化させるため、HAZ靭性を低下する。従ってCrは1.5%以下とすることが好ましい。Crは、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Cr添加による作用を有効に発揮させるには、0.1%以上含有させることが好ましい。Crは、より好ましくは0.2%以上、更に好ましくは0.5%以上である。
MoもCrと同様に、1.5%を超えると、母材の強度を著しく高め過ぎて母材の靭性を劣化させるため、HAZ靭性を低下する。従ってMoは1.5%以下とすることが好ましい。Moは、より好ましくは1.2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Mo添加による作用を有効に発揮させるには、0.1%以上含有させることが好ましい。Moは、より好ましくは0.2%以上、更に好ましくは0.3%以上である。
[(3)Nbおよび/またはV]
NbとVは、いずれも炭窒化物として析出し、該炭窒化物のピン止め効果により、溶接時にオーステナイト粒が粗大化するのを防止し、HAZ靭性を向上させる作用を有する元素である。NbとVは、夫々単独で、或いは複合して添加することができる。しかしNbが0.1%を超えると、析出する炭窒化物が粗大化し、HAZ靭性を却って劣化させる。従ってNbは0.1%以下とすることが好ましい。Nbは、より好ましくは0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下である。なお、Nb添加による作用を有効に発揮させるには、0.002%以上含有させることが好ましい。Nbは、より好ましくは0.005%以上、更に好ましくは0.008%以上である。
VもNbと同様に、0.1%を超えると、析出する炭窒化物が粗大化し、HAZ靭性を却って劣化させる。従ってVは0.1%以下とすることが好ましい。Vは、より好ましくは0.08%以下、更に好ましくは0.05%以下である。なお、V添加による作用を有効に発揮させるには、0.002%以上含有させることが好ましい。Vは、より好ましくは0.005%以上、更に好ましくは0.01%以上である。
[(4)B(ホウ素)]
Bは、粒界フェライトの生成を抑制することで、靭性を向上させる元素である。しかしBが0.0050%を超えると、オーステナイト粒界にBNとして析出し、靭性の低下を招く。従ってBは0.0050%以下とすることが好ましい。Bは、より好ましくは0.0040%以下である。なお、B添加による作用を有効に発揮させるには、0.0010%以上含有させることが好ましい。Bは、より好ましくは0.0015%以上である。
次に、本発明の鋼材を製造するに当たり、好適に採用できる製法について説明する。本発明の製造方法は、溶鋼の溶存酸素量を0.0010〜0.0060%の範囲に調整する工程(1)と、前記溶鋼を攪拌して溶鋼中の酸化物を浮上分離させることによって全酸素量を0.0010〜0.0070%に調整する工程(2)をこの順で包含する他、Tiを添加した後、Zrと、REMおよび/またはCaを添加する工程(3)を包含している。
このように溶存酸素量と全酸素量を調整した溶鋼に、所定の順番で所定の合金元素を添加することによって、粒内フェライトの生成核となる所望の酸化物を生成させることができる。特に本発明では、粗大な酸化物が生成しないように、上記工程(1)のように溶存酸素量を調整した後、上記工程(2)のように全酸素量を調整することが極めて重要である。溶存酸素とは、酸化物を形成しておらず、溶鋼中に存在するフリーな状態の酸素を意味し、全酸素とは、溶鋼に含まれる全ての酸素、即ち、フリー酸素と酸化物を形成している酸素の総和を意味する。以下、各工程について説明する。
[工程(1)について]
まず、溶鋼の溶存酸素量を0.0010〜0.0060%の範囲に調整する。溶鋼の溶存酸素量が0.0010%未満では、溶鋼中の溶存酸素量が不足するため、粒内フェライト変態の核となるZr・REM/Ca系酸化物を所定量確保することができず、優れたHAZ靭性が得られない。また、溶存酸素量が不足すると、酸化物を形成できなかったZrは炭化物を形成したり、REMやCaは硫化物を形成するため、母材自体の靭性を劣化させる原因となる。従って上記溶存酸素量は、0.0010%以上とする。上記溶存酸素は、好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0020%以上である。
一方、上記溶存酸素量が0.0060%を超えると、溶鋼中の酸素量が多過ぎるため、溶鋼中の酸素と上記元素の反応が激しくなって溶製作業上好ましくないばかりか、粗大な酸化物を生成して却ってHAZ靭性を劣化させる。従って上記溶存酸素量は0.0060%以下に抑えるべきである。上記溶存酸素量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0045%以下とする。
ところで、転炉や電気炉で一次精錬された溶鋼中の溶存酸素量は、通常0.0100%を超えている。そこで本発明の製法では、溶鋼中の溶存酸素量を何らかの方法で上記範囲に調整する必要がある。
溶鋼中の溶存酸素量を調整する方法としては、例えばRH式脱ガス精錬装置を用いて真空C脱酸する方法や、SiやMn,Ti,Alなどの脱酸性元素を添加する方法などが挙げられ、これらの方法を適宜組み合わせて溶存酸素量を調整しても良い。また、RH式脱ガス精錬装置の代わりに、取鍋加熱式精錬装置や簡易式溶鋼処理設備などを用いて溶存酸素量を調整しても良い。この場合、真空C脱酸による溶存酸素量の調整はできないため、溶存酸素量の調整にはSi等の脱酸性元素を添加する方法を採用すれば良い。Si等の脱酸性元素を添加する方法を採用するときは、転炉から取鍋へ出鋼する際に脱酸性元素を添加しても構わない。
[工程(2)について]
上記工程(1)に次いで、溶鋼を攪拌し、溶鋼中の酸化物を浮上分離することによって溶鋼中の全酸素量を0.0010〜0.0070%に調整する。このように本発明では、溶存酸素量が適切に制御された溶鋼を撹拌し、不要な酸化物を除去してから、Zrなどの粒内フェライト変態核生成元素を添加しているため、粗大な酸化物の生成を防止することができる。前述した特許文献3では、この工程(2)を行なっていないため、粗大な酸化物が生成し、良好なHAZ靱性を確保することができない(後記する実施例を参照)。
上記全酸素量が0.0010%未満では、所望の酸化物量不足になるため、HAZ靭性の向上に寄与する粒内フェライトの生成核となる酸化物量を確保することができない。従って上記全酸素量は、0.0010%以上とする。上記全酸素量は、好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0020%以上である。
一方、上記全酸素量が0.0070%を超えると、溶鋼中の酸化物量が過剰となり、粗大な酸化物が生成してHAZ靭性が劣化する。従って上記全酸素量は0.0070%以下に抑えるべきである。上記全酸素量は、好ましくは0.0060%以下、より好ましくは0.0050%以下とする。
溶鋼中の全酸素量は、概ね溶鋼の攪拌時間に相関して変化することから、撹拌時間を調整するなどして制御することができる。具体的には、溶鋼を撹拌し、浮上してきた酸化物を除去した後の溶鋼中の全酸素量を適宜測定しながら、溶鋼中の全酸素量を適切に制御する。
[工程(3)について]
溶鋼中の全酸素量を上記範囲に調整した後は、Tiを添加した後、Zrと、REMおよび/またはCaを添加してから鋳造する。全酸素量を調整した溶鋼へ上記の元素を添加することにより、所望とする粒内フェライト変態の核となるZr・Ca/REM系酸化物が得られる。Ti酸化物は、Zr・REM/Ca系酸化物に比べて溶鋼との界面エネルギーが小さいため、合金元素をこの順番で添加すれば、Ti酸化物は微細化されるため、結果的に、HAZ靱性に寄与する微細な酸化物を生成させることができる。
溶鋼へ添加するREMやCa,Zr,Tiの形態は特に限定されず、例えば、REMとして、純Laや純Ce,純Yなど、或いは純Ca,純Zr,純Ti、更にはFe−Si−La合金,Fe−Si−Ce合金,Fe−Si−Ca合金,Fe−Si−La−Ce合金,Fe−Ca合金,Ni−Ca合金などを添加すればよい。また、溶鋼へミッシュメタルを添加してもよい。ミッシュメタルとは、セリウム族希土類元素の混合物であり、具体的には、Ceを40〜50%程度,Laを20〜40%程度含有している。但し、ミッシュメタルには不純物としてCaを含むことが多いので、ミッシュメタルがCaを含む場合は本発明で規定する範囲を満足する必要がある。
[工程(4)について]
本発明では、粗大な酸化物の除去を促進する目的で、上記工程(3)の後、40分を超えない範囲で溶鋼を攪拌することが好ましい。攪拌時間が40分を超えると、微細な酸化物が溶鋼中で凝集・合体するため酸化物が粗大化し、HAZ靭性が劣化する。従って攪拌時間は40分以内とすることが好ましい。攪拌時間は、より好ましくは35分以内であり、更に好ましくは30分以内である。溶鋼の攪拌時間の下限値は特に限定されないが、攪拌時間が短過ぎると添加元素の濃度が不均一となり、鋼材全体として所望の効果が得られない。従って容器サイズに応じた所望の攪拌時間が必要となる。
こうして成分調整して得られた溶鋼は、常法に従って連続鋳造してスラブとした後、常法に従って熱間圧延すればよい。
本発明に係る鋼材は、例えば橋梁や高層建造物、船舶などの構造物の材料として使用でき、小〜中入熱溶接はもとより、入熱量が50kJ/mm以上の大入熱溶接においても溶接熱影響部の靭性劣化を防ぐことができる。
本発明の鋼材は、板厚が約3.0mm以上の厚鋼板などの鋼材を対象としている。本発明による優れたHAZ靱性向上作用は、板厚が50mm以上、特に80mm以上の厚鋼板とし、入熱量が50kJ/mm以上の大入熱溶接を行ったときに有効に発揮される。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
真空溶解炉(容量150kg)を用い、下記表1、表2に示す条件にて、下記表3、表4に示した化学成分(質量%)を含有し、残部が鉄および不可避不純物である供試鋼を溶製し、150kgのインゴットに鋳造して冷却した。その後、加熱、圧延を行い、厚鋼板を製造した。
真空溶解炉で供試鋼を溶製するに当っては、Ti、Zr、Al、REM、およびCa以外の元素について成分調整すると共に、C,SiおよびMnから選ばれる少なくとも1種の元素を用いて脱酸して溶鋼の溶存酸素量を調整した。調整後の溶存酸素量を下記表1、表2に示す。
溶存酸素量を調整した溶鋼を1〜10分程度攪拌して溶鋼中の酸化物を浮上分離させることによって溶鋼の全酸素量を調整した。調整後の全酸素量を下記表1、表2に示す。
全酸素量を調整した溶鋼に、Tiを添加した後、Zrと、REMおよび/またはCaを添加した。なお、TiはFe−Ti合金の形態で、ZrはFe−Zr合金の形態で、REMはLaを約25%とCeを約50%含有するミッシュメタルの形態で、CaはNi−Ca合金、またはCa−Si合金、またはFe−Ca圧粉体の形態で、夫々添加した。但し、表4のNo.35は、溶存酸素量を調整した溶鋼を攪拌せずに、直ぐにTiを添加した。
上記元素を添加した後、インゴットに鋳造して冷却した。溶鋼を攪拌した時間を下記表1、表2に示す。
得られたインゴットを熱間圧延し、厚さが50〜80mmの厚鋼板を製造した。得られた厚鋼板のD/4(但し、Dは鋼板の厚み)位置における横断面からサンプルを切り出し、該サンプルに含まれる全酸化物の組成を測定し、単独酸化物として質量換算して酸化物の平均組成を算出した。
切り出されたサンプル表面を島津製作所製「EPMA−8705(装置名)」を用いて600倍で観察し、最大径が0.2μm以上の粒子について成分組成を定量分析した。観察条件は、加速電圧を20kV,試料電流を0.01μA,観察視野面積を1〜5cm2,分析個数を100個とし、特性X線の波長分散分光により粒子中央部での成分組成を定量分析した。分析対象元素は、Mn、Ti、Zr、La、Ce、Ca、Si、Al、およびO(酸素)とし、既知物質を用いて各元素の電子線強度と元素濃度の関係を予め検量線として求めておき、次いで、上記粒子から得られた電子線強度と予め前記検量線からその粒子の元素濃度を定量した。
得られた定量結果のうち酸素含量が5%以上の粒子を酸化物とし、単独酸化物として質量換算したものを平均したものを酸化物の平均組成とした。全酸化物の平均組成を下記表5、表6に示す。なお、REMの酸化物は、金属元素をMで表すと、鋼材中にM23やM35,MO2の形態で存在するが、全ての酸化物をM23に換算し、組成を測定した。また、一つの介在物から複数の元素が観測された場合には、それらの元素の存在を示すX線強度の比から各元素の単独酸化物に換算して酸化物の組成を算出した。
上記サンプル表面をEPMAで観察した結果、観察された酸化物は、TiとZrと、REMおよび/またはCaを含む複合酸化物が大半であったが、単独酸化物としてTi23、ZrO2、REMの酸化物、CaOも生成していた。
また、得られた定量結果のうち酸素含量が5%以上である酸化物の円相当直径を測定し、円相当直径(粒径)が0.1〜2.0μmの酸化物の個数と円相当直径(粒径)が5.0μmを超える酸化物の個数を算出した。下記表5、表6に酸化物の個数を観察視野1mm2当りに換算した個数を示す。
次に、溶接時に熱影響を受けるHAZの靭性を評価するために、大入熱溶接を模擬して下記に示す溶接再現試験を行なった。溶接再現試験は、厚鋼板から切り出したサンプルが1400℃になる様に加熱し、この温度で30秒間保持した後、冷却する熱サイクルを与えた。冷却速度は、800℃から500℃への冷却時間が300秒となるように調整した。
冷却後のサンプルの衝撃特性は、Vノッチシャルピー試験して−40℃における吸収エネルギー(vE-40)を測定して評価した。vE-40が100J以上のものを合格(HAZ靭性良好)とする。測定結果を下記表5、表6に示す。
下記表1〜表6から次のように考察できる。No.1〜31は、本発明で規定する要件を満足する例であり、全酸化物の組成を測定して単独酸化物として質量換算したときに、ZrO2と、REMの酸化物および/またはCaOを所定量含有するように調整したうえで、粒径が5.0μmを超える粗大な酸化物が生成しないように、粒径が0.1〜2.0μmの微細な酸化物を多く生成させているため、HAZ靭性が良好な鋼材が得られている。
一方、No.32〜54は、本発明で規定するいずれかの要件を外れる例である。No.32は、溶鋼の溶存酸素量が不足している例であり、HAZ靭性の向上に寄与する粒内フェライトの生成核となる酸化物量を確保することができず、HAZ靭性を改善できていない。No.33は、溶鋼の溶存酸素量が過剰な例であり、粗大な酸化物を生成してHAZ靭性が却って劣化している。No.34は、溶鋼の溶存酸素量が不足している例であり、HAZ靭性の向上に寄与する粒内フェライトの生成核となる酸化物量を確保することができず、HAZ靭性を改善できていない。
No.35は、本発明者らが特許文献3に開示した鋼材の組成に類似した例である。溶鋼の溶存酸素量を調整した後、溶鋼を攪拌して全酸素量を調整していないため、Tiを添加する前の全酸素量が本発明で規定している範囲を超えている。よって粗大な酸化物が多くなり、HAZ靭性が劣化している。
No.36とNo.37は、ZrとAlと、REMおよび/またはCaを添加した後に、溶鋼を長時間攪拌しているため、溶鋼中の酸化物が互いに凝集して粗大な酸化物を多く生成している。そのためHAZ靭性が劣化している。
No.38は、Siが多過ぎる例であり、溶接時にHAZに島状マルテンサイト(MA)を多く生成してHAZが靭性劣化している。No.39は、Mnが多過ぎる例であり、母材の強度を著しく高め、母材自体の靭性を低下させるため、HAZ靭性も低下している。No.40は、Pが多過ぎる例であり、Pが結晶粒界に偏析してHAZ靭性が劣化している。No.41は、Sが多過ぎる例であり、Sが結晶粒界に偏析してHAZ靭性が劣化している。No.42は、Alが多過ぎる例であり、粗大な酸化物が生成し、HAZ靭性が劣化している。
No.43は、Tiが少な過ぎる例であり、HAZ靭性の向上に寄与する粒内フェライトの生成核となる微細な窒化物が少なくなるため、HAZ靭性を向上させることができていない。No.44は、Tiが多過ぎる例であり、酸化物が粗大化してHAZ靭性が劣化している。No.45は、REMが多過ぎる例であり、REMの酸化物が過剰に生成し、しかも粗大な酸化物を形成し、HAZ靭性を却って劣化させている。
No.46は、Zrが少な過ぎる例であり、HAZ靭性の向上に寄与する粒内フェライトの生成核となる微細な酸化物量が少なくなるため、HAZ靭性を向上できていない。No.47は、Zrが多過ぎる例であり、粗大な酸化物が多く生成してHAZ靭性が劣化している。No.48は、Caが多過ぎる例であり、CaOが過剰に生成し、しかも粗大な酸化物を形成し、HAZ靭性を却って劣化させている。
No.49は、Nが多過ぎる例であり、固溶N量が増大して母材自体の靭性が劣化し、HAZ靭性も低下する。No.50は、Nが少な過ぎる例であり、Ti含有窒化物の生成が抑制されるため、ピン止め効果によるオーステナイト粒の粗大化を防止できず、HAZ靭性が劣化している。
No.51は、Oが少な過ぎる例であり、粒内フェライトの生成核となる微細な酸化物量が不足し、HAZ靭性を向上させることができていない。No.52は、Oが多過ぎる例であり、酸化物が粗大化してHAZ靭性が劣化している。
No.53は、Niが多過ぎる例であり、母材の強度が著しく高くなって母材の靭性が劣化しているため、HAZ靭性も低下している。No.54は、Cuが多過ぎる例であり、母材の強度が著しく高くなって母材の靭性が劣化しているため、HAZ靭性も低下している。
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Claims (6)

  1. C :0.02〜0.12%(「質量%」の意味。以下同じ)、
    Si:0.50%以下(0%を含む)、
    Mn:1〜2.0%、
    Ti:0.005〜0.10%、
    P :0.030%以下(0%を含む)、
    S :0.020%以下(0%を含む)、
    Al:0.05%以下(0%を含む)、
    N :0.0040〜0.030%、
    O :0.0005〜0.010%を満足すると共に、
    更に、
    Zr:0.0002〜0.050%と、
    REM:0.0002〜0.050%および/またはCa:0.0005〜0.010%とを含有し、
    残部が鉄および不可避不純物からなる鋼材であり、且つ、
    (a)前記鋼材は、Zrと、REMおよび/またはCaを含有する酸化物を含み、
    (b)前記鋼材に含まれる全酸化物の組成を測定して単独酸化物として換算したとき、ZrO2:5〜50%と、REMの酸化物(REMをMの記号で表すとM23):10〜50%、および/またはCaO:5〜50%を満足すると共に、
    (c)前記鋼材に含まれる全酸化物のうち、円相当直径で0.1〜2.0μmの酸化物が1mm2当り120個以上であり、円相当直径で5.0μm超の酸化物が1mm2当り5個以下であることを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
  2. 前記鋼材が、更に他の元素として、
    Ni:1.5%以下(0%を含まない)および/または
    Cu:1.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の鋼材。
  3. 前記鋼材が、更に他の元素として、
    Cr:1.5%以下(0%を含まない)および/または
    Mo:1.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の鋼材。
  4. 前記鋼材が、更に他の元素として、
    Nb:0.1%以下(0%を含まない)および/または
    V:0.1%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の鋼材。
  5. 前記鋼材が、更に他の元素として、
    B:0.0050%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の鋼材。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の鋼材を製造する方法であって、
    溶存酸素量が0.0010〜0.0060%の溶鋼を調整する工程(1)と、
    前記溶鋼を攪拌して溶鋼中の酸化物を浮上分離させることによって全酸素量を0.0010〜0.0070%に調整する工程(2)と、
    Tiを添加した後、Zrと、REMおよび/またはCaを添加する工程(3)と
    前記工程(3)の後、40分を超えない範囲で溶鋼を攪拌する工程(4)とを順次包含することを特徴とする溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材の製造方法。
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