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JP5261127B2 - リチウムイオンキャパシターの負極被膜及び電極被膜形成用塗料組成物 - Google Patents

リチウムイオンキャパシターの負極被膜及び電極被膜形成用塗料組成物 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用やクレーンなど、パワー用途に対応する単位体積あたりの高エネルギー密度と内部抵抗の低減による高出力密度のキャパシターに適するリチウムイオンキャパシターの負極被膜及び電極被膜形成用塗料組成物に関する。
電気二重層キャパシター(Electric Double Layer Capacitor:EDLC)は容量が大きく、高出力でメンテナンスフリーなどの特長により、自発光式道路鋲、瞬間電圧低下補償装置や太陽電池の平滑化電源、クレーンなどの回生電源、自動車のアイドリングストップ電源などで使用が開始され、今後、更なる拡大が期待されている。また、負極にリチウムイオンのインターカレーション反応を利用するリチウムイオンキャパシター(Lithium-Ion Capacitor:LIC)はEDLCよりエネルギー密度を約4倍高くできるため、高容量化が望まれる産業用や自動車用などの電源としての展開が期待されている。
例えば、特許文献1には、エネルギー密度や出力密度に関し、室温での特性と同時に、低温での特性、特に静電容量が低下することのない改良された蓄電装置を提供することを目的に、負極の50%体積累積径(D50)が0.1〜2.0μmである負極活物質粒子から形成し、さらに負極活物質粒子の全メソ孔容積が0.005〜1.0cm/gで、比表面積が0.01〜1000m/gである炭素材料またはポリアセン系物質を負極とするリチウムイオンキャパシターが開示されている。
また、特許文献2には、エネルギー密度および出力密度が高く、かつ耐電圧も高く、耐久性に優れたリチウムイオンキャパシターを提供することを目的に、リチウムイオンおよび/またはアニオンを可逆的に担持可能な物質からなる正極と、リチウムイオンを可逆的に担持可能な物質からなる負極を備えており、かつ電解液としてリチウム塩の非プロトン性有機溶媒電解質溶液を備えたリチウムイオンキャパシターであって、(a)負極活物質が、水素原子/炭素原子の原子数比が0以上0.05未満の難黒鉛化性炭素であり、(b)セルの充電電圧に対し1/2の電圧まで放電した際の負極電位がリチウム金属電位に対し0.15V以下になるように、予め負極および/または正極に対してリチウムイオンがドーピングされていることが開示されている。
また、特許文献3には、低温特性、エネルギー密度のさらなる向上および高出力化が図られた蓄電デバイス用負極活物質を提供することを目的に、コアとなる炭素粒子と、炭素粒子の表面および/または内部に形成されたグラフェン構造を有する繊維状炭素との炭素複合体からなり、全メソ孔容積が0.005〜1.0cm/g、細孔径100〜400Åのメソ孔が全メソ孔容積の25%以上を占めるように構成し、さらに炭素複合体の比表面積が0.01〜2000m/gである負極材料、また炭素粒子が易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、黒鉛およびポリアセン系物質のうちの少なくとも一つからなる負極活物質が開示されている。
また、特許文献4には、リチウムイオンキャパシターにおいて高いエネルギー密度、高い出力密度、高い耐久性が得られる負極材料を提供することを目的に、負極活物質にd002の平均格子面間隔が0.335〜0.337nmの黒鉛を使用し、さらに負極活物質には90%体積累積径(D90)と10%体積累積径(D10)の差(D90−D10)≦7.0μmの黒鉛、また50%体積累積径(D50)がD50≦4.0μmであるリチウムイオンキャパシターが開示されている。
特開2006−303330号公報 特開2007−115721号公報 特開2008−66053号公報 特開2008−103596号公報
しかしながら、自動車用やクレーンなど、パワー用途に対しては単位体積あたりの高エネルギー密度と内部抵抗の低減による高出力密度のキャパシターが要求され、リチウムイオンキャパシターの用途拡大にあたっては、さらなる内部抵抗の低減とコストの低減が重要な課題となっている。
難黒鉛化性炭素は、規則的な黒鉛の結晶構造が殆ど無いため、不規則なリチウムイオン吸蔵サイトを有する。またリチウムイオン吸蔵サイトは黒鉛の層間より広いため、リチウムイオンの細孔内拡散が速く、リチウムイオン吸蔵時の膨張も殆ど起こらない炭素材料である。この特徴を生かし、リチウムイオン二次電池のサイクル特性向上や出力向上用として、またハイブリッド自動車用途のリチウムイオン電池の負極材料として、難黒鉛化性炭素が使用されている。
難黒鉛化性炭素を用いたリチウムイオン二次電池の負極形成用塗料としては、バインダーをポリフッ化ビニリデン粉末、媒体をN−メチルピロリドンなどとした有機溶剤系スラリーのタイプが一般的で、媒体を水系とした水性塗料組成物は見当たらない。このことは、リチウムイオン二次電池より検討の浅いリチウムイオンキャパシターにおいては、さらに顕著になり、本発明者らは、この検討が殆どされていないと考えている。
さらに、リチウムイオンキャパシターでは、負極にリチウムイオンをプレドープする必要があるために、負極材料の設計は、リチウムイオン電池用負極材の設計方法とは方向性が異なる。具体的には、内部抵抗の低減と容量の向上が最優先になり、不可逆容量の許容範囲は大きくなる。このため、リチウムイオンキャパシター用負極電極の設計にあたっては、高比表面積化、小粒径化、塗膜構造の最適化など、従来にはない設計が必要になる。
リチウムイオンキャパシターを普及化させるためには、キャパシターの容量の向上と内部抵抗の低減を達成する電極被膜を得る必要がある。そこで、本発明の課題は、負極被膜中の構成粒子の粒度、特に被膜の主構成材である難黒鉛化性炭素の粒度を最適化し、電極被膜形成用塗料組成物の塗工条件を最適化し、得られる被膜の膜構造の最適化することによって、単位体積あたりの高エネルギー密度と内部抵抗の低減による高出力密度のキャパシターに適するリチウムイオンキャパシターの負極被膜及び電極被膜形成用塗料組成物を提供することにある。
前記課題を解決するために、本発明は、分散剤を含む水媒体中に、難黒鉛化炭素、導電助剤およびバインダーを含有してなる電極被膜形成用塗料組成物を金属箔上に塗工法で塗布した後、60〜180℃の加熱温度で被膜化させたリチウムイオンキャパシターの負極被膜であって、
前記難黒鉛化性炭素のラマンスペクトルのピーク面積比であるR値が1.5〜1.7の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が90〜102の範囲であり、
前記導電助剤がケッチェンブラック、アセチレンブラック及び黒鉛の中の少なくとも何れか一種からなり、
前記負極被膜中の構成粒子の粒度分布は、D10粒子径が0.5μm以上、D50粒子径が1〜4μmの範囲、D90粒子径が8μm以下であり、
前記負極被膜の比表面積が1.5〜25m/gの範囲であり、
前記負極被膜の表面粗さが0.1〜0.3μmの範囲であることを特徴とするリチウムイオンキャパシターの負極被膜とする。
ここで、「前記負極被膜中の構成粒子」は、前記負極被膜を主に構成する粒状配合材である難黒鉛化炭素及び導電助剤を含む粒子を言い、負極被膜を構成する粒子を微細化することにより、リチウムイオンの拡散抵抗が低減し内部抵抗の低減、即ち、出力の向上に寄与する。また、電極被膜形成用ペースト(塗料組成物)の塗工性が被膜の平滑さと密度に影響を及ぼし、被膜の平滑さが優れた負極被膜を形成するために重要な要件となる。
また、前記課題を解決するために、本発明は、前記負極被膜のラマン分光スペクトルのピーク面積比であるR値が1.3〜1.7の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が72〜115の範囲である前記のリチウムイオンキャパシターの負極被膜とすることが好ましい。負極被膜構成粒子の中で特に難黒鉛化性炭素は微粒子化により固有の構造が劣化していないことが重要である。
また、前記課題を解決するために、本発明は、前記負極被膜の膜厚40μmのシート抵抗値が40〜400Ωの範囲である前記のリチウムイオンキャパシターの負極被膜とすることが好ましい。内部抵抗を低減するためには電気抵抗を低減することが重要である。
また、前記課題を解決するために、本発明は、前記負極被膜の塗膜密度が0.8〜1.05g/cmの範囲である前記のリチウムイオンキャパシターの負極被膜とすることが好ましい。リチウムイオンキャパシターの容量を向上するためには塗膜密度を高くする必要がある。前記構成とすることにより、容量と出力がともに優れたリチウムイオンキャパシターが得られる機序による。
また、前記課題を解決するために、本発明は、分散剤を含む水媒体中に、難黒鉛化性炭素、導電助剤およびバインダーを含有してなる電極被膜形成用塗料組成物であって、
前記導電助剤がケッチェンブラック、アセチレンブラック及び黒鉛の中の少なくとも何れか一種からなり、
粒度分布は、D10粒子径が0.5μm以上、D50粒子径が1〜4μmの範囲、D90粒子径が8μm以下であり、且つ、ラマン分光スペクトルのピーク面積比であるR値が1.5〜1.7の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が90〜102の範囲である前記難黒鉛化性炭素と、
ラマン分光スペクトルのピーク面積比であるR値が0.2〜1.6の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が17〜95の範囲である前記導電助剤とを添加してなることを特徴とするリチウムイオンキャパシターの電極被膜形成用塗料組成物とする。
本発明のリチウムイオンキャパシターの負極被膜を前記のように構成したことにより、リチウムイオンキャパシターの容量向上、出力向上、コスト低減が可能となった。また、負極被膜を構成する活物質材は、難黒鉛化性炭素の微粒子化による粒径と構造の最適化が重要であることから、係る難黒鉛化性炭素の構造を規定することによって最適で安定した品質の負極被膜が得られる。その他の配合材である導電助剤、水溶性分散剤および水系バインダーの最適配合で高品位なリチウムイオンキャパシター用負極被膜が得られる。更に、本発明に係る負極被膜形成用ペーストは水媒体品であるため作業環境が良くなり、製造コストの低減に寄与する効果を奏する。
この発明の第一の特徴は、主に難黒鉛化性炭素および導電助剤から構成されるリチウムイオンキャパシターの負極被膜において、負極被膜中の構成粒子の粒度分布は、D10粒子径が0.5μm以上、D50粒子径が1〜4μmの範囲、D90粒子径が8μm以下で、負極被膜の比表面積が1.5〜25m/gの範囲で、負極被膜の表面粗さが0.1〜0.2μmの範囲とする。負極被膜中の粒度分布は、走査型電子顕微鏡(SEM)による被膜断面を観察する方法により行う。また、事前に負極被膜形成用ペーストを試料対象にして、レーザー回折式粒度分布測定によって粒度分布を特定することが可能であり、係る測定によって特定された粒度分布も本発明の構成粒子の粒度分布として含まれる。
10%体積累積径のD10粒子径、すなわち構成粒子の粒子径下限に近い方の値は0.5μm以上、好ましくは0.7μm以上である。D10粒子径が0.5μm未満では、粉砕過程で粉砕が困難となり、また粒子間の凝集が著しくなる結果、比表面積が増加してしまい好ましくない。換言すれば、0.5μm未満の体積基準粒子量は負極被膜中に10%未満とすることとなる。
いわゆる平均粒子径であるD50粒子径(50%体積累積径)は、1〜4μmの範囲、好ましくは1.2〜3.5μmの範囲、特に好ましくは1.5〜3.0μmの範囲である。D50粒子径が1μm未満では微粒子が多くなるため、粒子間の接触抵抗が大きくなり、負極被膜の電気抵抗値が上昇するので好ましくない。また、負極被膜の主構成材となる難黒鉛化性炭素粒子に着目すると、難黒鉛化性炭素粒子においては、D50粒子径を1μm未満にすると粒子間の凝集が発生し、固有の構造が崩壊され容量が低下する。特にD50粒子径が0.8μm以下とすると、微粒子化による凝集、比表面積の増大が発生する。さらに塗膜の硬度も上昇し、屈曲に寄る割れや剥離が生じやすくなる。一方、負極被膜構成粒子の平均粒子径が4μmを越えると粒子径が大きすぎるためにリチウムイオンの細孔内拡散抵抗が高くなり目標の内部抵抗を得る電極が作製できない。
また、D90粒子径(90%体積累積径)、すなわち構成粒子の粒子径上限に近い方の値は8μm未満、好ましくは6.5μm以下、特に好ましくは5.5μm以下である。D90粒子径が8μm以上となると、膜厚60μm以下の塗工においてスジむらなどの塗膜欠陥が生じやすくなり、塗工時の歩留まりを低下させ好ましくない。
次に、負極被膜の比表面積は1.5〜25m/gの範囲、好ましくは2〜15m/gの範囲、特に好ましくは3.5〜10m/gの範囲である。被膜の比表面積は、容量と出力(内部抵抗)を最適化するのに重要で、比表面積が2〜25m/gの場合に容量、内部抵抗ともに優れた特性を示す。被膜の比表面積が25m/gを超えると、主構成材である難黒鉛化性炭素では構造が劣化し容量低下を引き起こすおそれがある。被膜の電気抵抗値や被膜の密度は、比表面積が増加するほど低下する傾向がある。この傾向から負極被膜の比表面積は1.5〜25m/gの範囲が好ましい。
また、被膜の比表面積は、主構成材の難黒鉛化性炭素の比表面積と相関がある。一方、難黒鉛化性炭素粒子の粒度と難黒鉛化性炭素粒子の比表面積に相関はない。この理由は以下のとおりである。難黒鉛化性炭素をビーズを媒体とした乾式粉砕機で粉砕処理すると、粒子の粉砕と同時に粒子同士の凝集も発生し、粒子径約1μm以下の粒子を得るのは難しくなる。乾式粉砕処理を進めることで1次粒子の集合体からなる比表面積の大きな粒子となってしまうが、このような方法で調整された粒子は粒子径が大きく、比表面積の大きい難黒鉛化性炭素となる。もちろんこのような難黒鉛化性炭素も本発明に使用できる。
負極被膜の表面粗さは、0.1〜0.3μmの範囲、特に好ましくは0.1〜0.2μmの範囲である。被膜の表面粗さは、塗工の均一性や得られる被膜の密度および被膜の硬さに影響する。被膜の表面粗さが0.3μm以上では、被膜の密度が小さくなり容量の低下を招く。また、表面粗さが0.1μm以下の場合は、難黒鉛化性炭素粒子の微細化が進み、固有の構造が崩壊し、容量が低下する。また、被膜中に微細な難黒鉛化性炭素粒子が充填されるために被膜の硬度が高くなりすぎ、電極加工工程のスリット時や捲回時に問題を発生するおそれがある。
以上よりペースト粒度をD10粒径が0.5μm以上、D50粒径が1〜4μm、D90粒径が8μm以下に規定することは、塗工性能向上、塗膜特性向上、電極特性向上のために重要である。また、難黒鉛化性炭素を用いたリチウムイオンキャパシターの負極被膜としての容量や出力(内部抵抗)を最適化する上で、負極被膜構成粒子の粒度分布と負極被膜の比表面積および表面粗さが重要である。
リチウムイオンキャパシターの高容量と内部抵抗を低減するためには、難黒鉛化性炭素の微粒子化により構造が劣化していないことと、導電助剤が最適に分散されていることが必要であり、被膜としてのラマン分光スペクトルのR値が1.3〜1.7の範囲で、Dバンドの半値幅W値が72〜115の範囲とすることが好ましい。被膜は黒鉛と導電助剤および分散剤とバインダーから構成されるが、本発明者らは、被膜のラマン分光特性が被膜中の難黒鉛化性炭素と導電助剤との配合量、それら粒子の分散状態で変化することを確認し、難黒鉛化性炭素粒子の周辺にどの様に導電助剤が分散しているかを被膜のラマン分光特性で測定し、最適な被膜構成状態を数値化した。
即ち、ラマンスペクトルのR値が1.3以下では、使用する難黒鉛化性炭素のR値が小さくなり過ぎたり、導電助剤量が多すぎるときに発生する。難黒鉛化性炭素のR値が小さ過ぎる場合、リチウムイオンがインターカラントするサイトが少なくなり、容量の低下を招く。また、導電助剤量が多すぎる場合は、難黒鉛化性炭素の配合量が減少することになり容量の低下を招く。逆にラマンスペクトルのR値が1.7以上では、難黒鉛化性炭素の微細化により構造が劣化すると共にエッジサイトが増加した被膜構成になっており、不可逆容量の増加や容量の低下が生じる。すなわち、被膜のラマンスペクトルのR値は、被膜の容量と相関があり、1.3〜1.7の範囲であることが重要であり好ましい。
一方、Dバンドの半値幅が72以下では、難黒鉛化炭素の構造が少しずつ規則性を有する状態になるので、リチウムイオンがインターカラントするサイトが少なくなり、容量の低下を招く。また、導電助剤量を多くした場合にもDバンドの半値幅W値が72以下になる。逆に、Dバンドの半値幅W値が115以上になると、難黒鉛化炭素の微細化によりアモルファス化が進行した状態になるので、難黒鉛化性炭素の固有の構造が劣化し、容量の低下を生じる。
負極被膜の膜厚40μm時のシート抵抗値は40〜400Ωの範囲であり、好ましくは40〜300Ω、さらに好ましくは40Ω〜150Ωの範囲である。内部抵抗の低減には電気抵抗の低減が必要である。導電助剤の配合量を最適化することで、シート抵抗値が40Ωになることが分かっている。導電助剤の配合量増加でシート抵抗値は40Ω以下を達成できるが、被膜密度が低下する。また、難黒鉛化性炭素の微細化、比表面積の増加などでシート抵抗値が上昇するが、400Ω以上になると、電気抵抗が高くなり過ぎ内部抵抗低減の効果が認められない。
さらに、容量の向上には被膜密度が高いことが必要で、本発明に基づく被膜形成用ペーストを塗布し、乾燥後の被膜の密度は0.8〜1.05cm/gの範囲であることが必要で、好ましくは0.85〜1.00cm/gの範囲である。以上、負極被膜の特性値について述べてきたが、これらを達成する個々の因子は、用いる材料に起因する。すなわち主に難黒鉛化性炭素からなる構成粒子のD10粒子径は0.5μm以上、D50粒子径が1〜4μm、D90粒子径が8μm以下の範囲である。この点は負極被膜の特性値と同じである。
難黒鉛化性炭素粒子のラマンスペクトルにおけるR値は1.5〜1.7、W値は90〜102の範囲である。この要件は、活物質の構造を規定したもので、微粒子化によりR値、W値は増加することとなるが、この範囲においては容量の低下がなく問題が認められない。なお、特に好ましくは難黒鉛化性炭素のD10粒子径が0.6μm以上、D50粒子径が1.0〜3μmの範囲、D90粒子径が7μm以下で、ラマンスペクトルにおけるR値が1.5〜1.6、W値が98〜100の範囲である。
また、導電助剤としてラマン分光スペクトルのR値が0.2〜1.6の範囲で、Dバンドの半値幅W値が17〜95の範囲のケッチェンブラック、アセチレンブラック、黒鉛のいずれかを用いることが好ましい。ケッチェンブラックは、R値が1.5〜1.6、W値が68前後の構造を有し、黒鉛化が進んだ中空のカーボンブラックであると言える。アセチレンブラックはR値が1.0〜1.1、W値が90前後の構造を有し、難黒鉛化炭素よりも黒鉛に近い構造である。また、導電助剤で用いるD50粒子径が4μm前後の黒鉛は、R値が0.25前後、W値が18前後であり、高い導電性を示す。
導電助剤の配合量は最少に留めて低い抵抗値にすることが重要であるが、最少の添加量にするためには嵩密度が低く、微粒子材料が効果的である。嵩密度の最も低いケッチェンブラックは最少の配合量で効果が得られる。アセチレンブラックは、ケチェンブラックよりは嵩密度が高いが、他の配合材料との相性が良く、高密度の被膜が得られる。黒鉛は、嵩密度が0.1〜0.2g/cmと高いため、単独の配合では添加量が多くなる。黒鉛の使用にあたっては、他の助剤との併用も有効である。本発明の塗膜のW値は、難黒鉛化炭素のW値よりも小さくなっており、難黒鉛化性炭素より黒鉛化が進んだ導電助剤を選定して配合することにより、塗膜のW値を低下させ、電極の電気抵抗の低減を達成した。
さらに、分散剤が、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩またはアンモニウム塩であり、またバインダーが、スチレンブタジエン系エラストマーまたはアクリル系エラストマーのいずれかのエマルションであることも有効である。カルボキシメチルセルロース塩としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩やカルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩が代表的である。本発明においては、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩またはアンモニウム塩を用いる。特に、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を用いた場合は、難黒鉛化性炭素や導電助剤の分散安定性がよく、電極被膜形成用ペースト(塗料組成物)が一部乾燥しても、水への再溶解性が良く、塗工前の攪拌により未溶解物の無い塗料が作製できる。
バインダーとしては(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系エラストマー、スチレン・ブタジエン共重合体などのスチレンブタジエン系エラストマー、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、ポリブタジエンなどが使用できる。バインダーはそれぞれ単体で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらを調整することにより、塗布・被膜化後の被膜密度の向上、膜構造の最適化が可能となり、容量の向上、内部抵抗の低減が達成できる。さらに、難黒鉛化性炭素粒子を微細化したことにより、塗工時の塗布ムラなどの欠陥が改善でき、歩留まり向上に寄与できる。なお、水系のペーストによりペースト製造時、塗工時の作業環境および安全性に優れ、また導電助剤、分散剤、バインダーの最適化により、低抵抗で密着性の良い被膜が得られる。
また、電極被膜形成用ペースト(塗料組成物)の粘度構成としては、25℃におけるB型粘度計による30rpmの粘度値が600〜2400mPa・s 、60rpmでの粘度値が500〜2300mPa・sとすることが好ましい。塗工法で負極被膜を形成する場合、被膜の膜厚は20μm〜80μm程度に設定するのが一般的で、塗工機としてはダイコーター、ブレードコーター、コンマコーター、リップコーター、リバースロールコーターなどが用いられるが、最近は、リチウムイオン電池用電極の形成にダイコーターが用いられる。ダイコーターは、膜厚が均一な被膜が形成でき、また回路的な要素のパターン塗工も可能である。ダイコーターを用いてすじムラなどの塗膜欠陥が少なく、均一な塗工を行うためには、特にD90粒子径を小さくし、ダイのエッジやマニフォールド内に粗粒子や異物が付着すること、または詰まりの発生を防止する必要がある。この点では、本発明の第一点目でも規定したように、被膜のD90粒子径を7μm以下に調整することが必要である。なお、回転子30rpmでの粘度が600〜2500mPa・s 、60rpmでの粘度が500〜2300mPa・sにすることで、ダイコーターでの均一塗工が可能になる。
以下に、この発明の実施例について説明するが、この発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(塗料および試料の調整)
カルボキシメチルセルロース(CMC)を純水に溶解した水溶液中に粒子径、比表面積、構造の異なる難黒鉛化性炭素粒子と、導電助剤としてケッチェンブラック、アセチレンブラックまたは黒鉛を配合してボールミルで3時間分散させた。その後アクリル系エマルジョンまたはSBR系エマルジョンを所定量配合し30分間攪拌した。検討に用いた配合を表1および表2に示す。
(塗料の粘度評価)
作製した塗料の粘度をBL型粘度計を用いて、回転数30rpm、60rpm時の粘度を測定した。測定温度は25℃とした。粘度の測定に際しては、塗料をプロペラ型の攪拌翼を有する攪拌機を用い、1000rpmの攪拌条件で30分間攪拌してから行った。
(塗料の粒度分布)
レーザー回折式粒度分布計を用いて測定した。屈折率は2.00−0.1iを用いた。
(被膜の作製)
作製した塗料を、ギャップ100μmのブレードコーターを用い、厚さ19μmの銅箔上に塗工した。その後、100℃で30分間の熱風乾燥後、75℃で30分間、真空乾燥機で乾燥し、厚さ40μmの電極被膜を作製した。
(被膜、活物質の比表面積)
作製した電極被膜およびペースト材料として用いた難黒鉛化性炭素粒子や導電助剤粒子の比表面積および細孔構造は、Micromeritics社製ASAP2010を用い、窒素吸着によりBET法で測定した。
(被膜の表面粗さ)
表面粗さ形状測定機を用いて、作製した電極被膜の中心線平均粗さを計測した。測定の際、触針径は2μmを用い、測定速度0.3mm/s、測定長さ4mm、カットオフ値0.8mmとした。
(被膜、活物質のラマン分光特性)
作製した電極被膜および炭素材料の表面構造の分析手法として、ラマン分光法(Renishow社製のNRS-2100)により、Gバンド(1580cm−1付近)とDバンド(1360cm−1付近)のピークの面積比であるR値(I1360/I1580)を求めた。測定には波長514nmのアルゴン(Ar)レーザー光を用いた。面積の測定にあたっては、Gバンド近傍とDバンド近傍の2つのピークの曲線の形がローレンツ関数に近似すると仮定し、これにフィッテイングさせて書き直し、面積比よりR値を求めた。
活物質のラマン分光特性は、使用する活物質をスライドグラス上に適量採取し、上記方法でR値を測定した。
(被膜の密度評価)
乾燥後の電極をφ13mmの大きさに打ち抜き、電極重量を測定した。下地の銅箔の重量を差し引き、被膜の密度を算出した。
(被膜のシート抵抗値)
作製した電極被膜を四端針法にてシート抵抗値を測定した。
(容量、内部抵抗評価)
フェノール系のアルカリ賦活活性炭を活物質とする正極活物質ペーストを40μmのアルミニウム箔にブレードコーターを用いて塗布・造膜化し、被膜厚さ100μm、φ20mmの正極電極を作製した。
次に、難黒鉛化炭素を活物質とする負極活物質ペーストをブレードコーターで厚さ19μmの銅箔に塗布・造膜化し、被膜厚さ50μm、φ20mmの負極電極を作製した。
なお、正極・負極電極の造膜化は以下のとおりである。
ペースト塗工膜の乾燥は100℃で30分熱風乾燥後、減圧下120℃で12時間乾燥した。その後、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に移し、難黒鉛化炭素材による負極へのリチウムイオンドープを行った。まず、φ20mm難黒鉛化炭素電極にセパレータを介してリチウム金属を重ね、単極セルを作成した。電解液は1.2M(モル)−LiPF6 (六フッ化リン酸リチウム )/PC(プロピレン−カーボネート)を使用した。負極への充電は充電容量が350mAh/gになった時に停止し、半充電の負極を作成した。その後活性炭よりなる正極を半充電の負極とセパレータを介して対向させ、試験用セルを作成した。
測定温度25℃、放電電流20mAとして、充放電電圧3.8Vから2.2Vに低下するまでの静電容量(F)を求めた。また、放電電流20mAでの初期の電圧低下より内部抵抗(Ω)を求めた。
Figure 0005261127
実施例は分散剤を含む水媒体中に、難黒鉛化性炭素、導電助剤およびバインダーからなる電極被膜形成用ペーストである。容量の向上と内部抵抗の低減のためには黒鉛の適性構造と導電助剤の組合わせが重要である。比表面積が4〜95m/g、ラマン分光分析のR値が1.48〜1.67、W値が17〜35の難黒鉛化性炭素を用いた検討結果を以下に示す。実施例1から4および比較例1から3は被膜中の構成粒子の粒度分布であるD10粒子径、D50粒子径およびD90粒子径を変化させ、また被膜の比表面積および表面粗さの最適化を検討した結果を示す。
比較例1は、D10が2.5μm、D50が8.5μm、D90が20μmで、粒度が大きい例であるが、塗布性が悪く、また塗膜の平滑性が1.25μmのため、塗布工程での塗膜欠陥、スリット工程や捲回行程での粉落ちなどが生じやすい。また、塗膜の平滑性低下は、塗膜中における活物質粒子の充填率が低下する傾向があり、塗膜密度が0.77g/cmまで低下しており容量も低下している。
実施例1〜3は負極被膜の比表面積を3.5から22m/gまで変化させた例であるが、被膜の比表面積が大きいほど内部抵抗が低減し良好である。
被膜の比表面積を42m/gまで増加させた例を比較例2に示すが、難黒鉛化性炭素の固有の構造が破壊され、被膜のシート抵抗値が上昇する。さらにリチウムイオンの吸蔵サイトが減少し、かつ比表面積の増加により被膜の密度低下をもたらし容量の低下を招く。
実施例4は、D50粒子径を1μmまで微細化した例であるが、塗膜の比表面積を15m/gに抑えたので、難黒鉛化性炭素粒子の構造劣化も少なく、塗膜密度も0.85g/cmであるため、内部抵抗及び容量ともに良好な値を示している。
比較例3は、D50粒子径をさらに微細化し0.8μmにした例である。比表面積が26m/gまで上昇し、また、被膜の密度低下も生じているため、容量が低下している。
ここで、実施例4と比較例3を比較すると、難黒鉛化性炭素粒子の比表面積と粒子径には相関がみられないことが分かる。これは、難黒鉛化性炭素粒子をビーズを媒体とする乾式粉砕機で微粉砕する場合、粒子の粉砕と同時に粒子間の凝集も発生するが、粉砕処理を進めることで1次粒子の集合体からなる比表面積の大きな粒子が得られるようになる。この方法で調整された黒鉛系活物質は、粒径が大きく、比表面積の大きいことが特徴で、本実施例では、この手法で調整した難黒鉛化性炭素粒子を使用した。
電極特性の結果を表1中に示した。比較例1は、D50粒子径が8.5μmと大きいため、リチウムイオンの拡散抵抗が大きくなり、内部抵抗は6.5Ωと大きな値を示した。また、比較例2は、難黒鉛化性炭素の比表面積が95m/gと大きく、また被膜の比表面積も42m/gと高い例である。D50が1.9μmと比較的高い値を示しているのは、1次粒子の凝集が発生していることを示す。塗膜のR値が1.75、W値が118と高い値を示し、難黒鉛化性炭素固有の結晶構造が劣化していると考えられ、被膜のシート抵抗値も981Ωと高い値を示した。また比較例1の電極評価結果は、容量が1Fと低い値であり、比表面積の増大に伴い電極構造の劣化が発生し、容量が低下したと考えられる。比較例3は、粒子径を小さくした例であるが、被膜の比表面積が26m/g、被膜のシート抵抗が460Ωと高い値を示し、比較例2と同様、容量の低下が認められた。一方、実施例1〜4は、容量が1.1F以上、内部抵抗が6Ω以下であり、良好な特性を示す。
実施例1〜4で示した通り、分散剤としてはCMC−Na、CMC−NHが使用でき、バインダーとしてはSBR系エラストマーまたはアクリル系エラストマーのエマルジョンが使用可能である。また、導電助剤である、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛のR値、W値、比表面積を表1に示したが、使用する導電助剤のR値、W値、比表面積は規定値のものを使用することで、抵抗値の低い塗膜を形成できる。
表2は、構造の異なる難黒鉛化性炭素粒子についての比較例、及び導電助剤の検討と被膜構造の最適化について検討した例を示したものである。比較例4、実施例5は結晶性をできるだけよくした難黒鉛化性炭素粒子を用いた例である。比較例4の難黒鉛化性炭素粒子のラマン分光特性はR値が1.48、W値が89で、実施例2で使用した難黒鉛化性炭素と比較し、R値、W値が結晶性が良くなる方向にシフトしている。その結果、充放電特性として容量が1.02Fまで低下している。以上のようにリチウムイオンキャパシター用負極電極は、比表面積やラマン分光特性で塗膜構造を規定し、また使用材料の構造を規定することで容量及び内部抵抗の優れた負極被膜が得られることが確認された。
Figure 0005261127
実施例5〜8は導電助剤としてアセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛を用いた例である。ペースト物性、被膜の物性が特定の範囲内において、容量、内部抵抗ともに良好な結果を示した。比較例5は、30rpm、60rpm時の粘度が2700mPa・s、2300mPa・sと高い粘度値であるが、膜厚60μmの電極被膜を作成するにあたり、塗料の広がりが悪く、膜厚変動が発生した。また被膜の密度が低く、さらに被膜のW値も小さいため、容量が低下した。実施例9は粘度の下限を確認した例である。塗布試験の結果から塗布性は良好だが塗料のタレで粘度値の下限と判定した。

Claims (5)

  1. 分散剤を含む水媒体中に、難黒鉛化性炭素、導電助剤およびバインダーを含有してなる電極被膜形成用塗料組成物を金属箔上に塗布し、加熱乾燥して被膜化させたリチウムイオンキャパシターの負極被膜であって、
    前記難黒鉛化性炭素のラマンスペクトルのピーク面積比であるR値が1.5〜1.7の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が90〜102の範囲であり、
    前記導電助剤がケッチェンブラック、アセチレンブラック及び黒鉛の中の少なくとも何れか一種からなり、
    前記負極被膜中の構成粒子の粒度分布は、D10粒子径が0.5μm以上、D50粒子径が1〜4μmの範囲、D90粒子径が8μm以下であり、
    前記負極被膜の比表面積が1.5〜25m/gの範囲であり、
    前記負極被膜の表面粗さが0.1〜0.3μmの範囲であることを特徴とするリチウムイオンキャパシターの負極被膜。
  2. 前記負極被膜のラマン分光スペクトルのピーク面積比であるR値が1.3〜1.7の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が72〜115の範囲である請求項1記載のリチウムイオンキャパシターの負極被膜。
  3. 前記負極被膜の膜厚40μmのシート抵抗値が40〜400Ωの範囲である請求項1または2に記載のリチウムイオンキャパシターの負極被膜。
  4. 前記負極被膜の塗膜密度が0.8〜1.05g/cmの範囲である請求項1〜3の何れかに記載のリチウムイオンキャパシターの負極被膜。
  5. 分散剤を含む水媒体中に、難黒鉛化性炭素、導電助剤およびバインダーを含有してなる電極被膜形成用塗料組成物であって、
    前記導電助剤がケッチェンブラック、アセチレンブラック及び黒鉛の中の少なくとも何れか一種からなり、
    粒度分布は、D10粒子径が0.5μm以上、D50粒子径が1〜4μmの範囲、D90粒子径が8μm以下であり、且つ、ラマン分光スペクトルのピーク面積比であるR値が1.5〜1.7の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が90〜102の範囲である前記難黒鉛化性炭素と、
    ラマン分光スペクトルのピーク面積比であるR値が0.2〜1.6の範囲であり、Dバンドの半値幅であるW値が17〜95の範囲である前記導電助剤とを添加してなることを特徴とするリチウムイオンキャパシターの電極被膜形成用塗料組成物。
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