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JP5000148B2 - 溶接鋼管の製造方法 - Google Patents

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JP5000148B2 JP2006035060A JP2006035060A JP5000148B2 JP 5000148 B2 JP5000148 B2 JP 5000148B2 JP 2006035060 A JP2006035060 A JP 2006035060A JP 2006035060 A JP2006035060 A JP 2006035060A JP 5000148 B2 JP5000148 B2 JP 5000148B2
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Description

本発明は、天然ガスまたは原油の輸送用ラインパイプ等に用いられる、母材およびアーク溶接によって形成された溶接金属の周方向の引張強度が850MPa以上である高強度溶接鋼管およびその製造方法に関する。
近年、天然ガスまたは原油を輸送する長距離パイプラインにおいて輸送の効率化、付帯設備のコスト削減の観点から引張強度が850MPa以上である高強度大径ラインパイプの敷設が検討され始めてきた。このようなラインパイプは通常、UOE方式、UOC方式、JOE方式やベンディングロール方式により、鋼板を筒状にして突合せ部をシーム溶接して造管される。この場合、つなぎ目となるシーム溶接部はサブマージアーク溶接により、通常、内面溶接、外面溶接の順で形成される。しかしながら、外面溶接後の非破壊検査でシーム溶接部に鋼管軸方向に直角方向の割れ、いわゆる横割れが散見される場合がある。
このような横割れが残存した鋼管を凍土地帯で使用すると、温度の季節変動によって、軸方向に管体の降伏強度を超えるような引張応力が負荷されて破壊する危険性や、繰り返しの応力負荷により割れが進展して輸送流体が漏洩し、大事故につながる危険性がある。このため製造時の割れ発生を未然に防ぐか、発生した割れを非破壊検査により確実に検出し、除去しなければならない。
シーム溶接部の横割れは、高強度材の脆化割れの一種である。この横割れは水素によるものが一般的であり、水素脆化割れとも呼ばれ、溶接金属の強度が低下すると発生しにくくなる。しかしながら、シーム溶接部の強度を低下させると脆化割れは起きにくくなるものの、内圧負荷時に選択的にシーム溶接部からの変形が促進され、溶接部からの破断に至る場合も想定される。したがって、溶接金属の強度を母材強度以上に保ちながら水素脆化割れを防止する方法が必要である。
水素脆化割れは水素濃度、負荷応力、材料特性、特に強度に依存するため、複合的な効果によって水素脆化割れが発生しないように、これらを限界値以下に制御する必要がある。水素濃度を低下させる方法として、内外面からのシーム溶接後、100℃以上、好ましくは200℃以上に加温し、適切な時間だけ保持する方法がある。これは、いわゆる後熱であり、溶接金属を加熱して水素を拡散させ、横割れが発生する限界以下の水素濃度とする方法である。
このような観点から、UOE鋼管の溶接金属の強度、母材強度、溶接条件を複合的に抑えることで高強度材のシーム溶接部の水素脆化割れを防止する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1には溶接部の横割れが先行するシーム溶接部で頻発することについては述べられているものの、水素濃度、溶接残留応力の抑制による横割れ防止について、具体的な条件は開示されていない。
また、溶接後、鋼管全体を焼入れ、焼戻しすることで靭性の低下、および凝固割れを防止する方法が特許文献2に提案されているが、水素濃度、溶接残留応力については触れられていない。同じく高強度のUOE鋼管の割れを防止する技術として、溶接の内外面高さ比を適切に制御し、水素脆化割れを誘起する要因となる残留応力を緩和させる方法が特許文献3に提案されている。
特許文献3は内外面からサブマージアーク溶接したシーム溶接において、内面金属高さと外面金属高さの比を適切な範囲にし、水素割れが発生しないように残留応力を制御するものである。しかしながら、この方法によれば、シーム溶接におけるその他の課題、例えば溶接後の開先残り、アンダーカットなどの排除、止端角度の鈍角化のため、極めて狭い範囲に溶接条件を制御する必要があり、生産性を損なうことがある。
その他に水素脆化割れを誘起する要因である残留応力を緩和させる方法として、溶接後700℃程度まで加熱する、いわゆる応力除去焼純や、ハンマーピーニングによる殴打などで溶接部に塑性変形を与えることで残留応力を低下させる方法も提案されている。しかし、これらの方法は、水素濃度と残留応力の関係が横割れに及ぼす影響について考慮されていないため、耐水素脆化割れ性が確実に改善されているとはいえない。また、応力除去焼鈍は加熱冷却に過度な時間を要し、ハンマーピーニングは溶接後、直ちに行う必要があり、特別な加工装置が必要となる。したがって、これらの方法は、製造工程、製造コストを考慮すると必ずしもシーム溶接部への適用には適切な方法ではない。
また、溶接材料の改良点として、水素トラップサイトとして作用する微細な析出物、例えば、VNなどを溶接金属に生成させて、横割れに有害な拡散性水素を低減させる方法や、低温変態溶材により常温での残留応力を低下させる方法がある。しかし、水素トラップサイトの活用は高強度材では必ずしも有用な方法でなく、また、低温変態溶材の使用は著しいコスト上昇を招く。
特開2003−311321号公報 特開昭57−35636号公報 特開2005−246403号公報
本発明は、内外面からシーム溶接を行う引張強度が850MPa以上である高強度溶接鋼管のシーム溶接部に生じる、水素起因の横割れの防止する溶接鋼管の製造方法を提供する。
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、シーム溶接後、溶接金属の形状を変化させ、具体的には、溶接金属の肉厚方向の高さを圧縮変形または切除により減少させ、溶接金属の内部で先行して溶接した溶接金属に発生する残留応力を低減させ、水素誘起割れを防止する方法であり、その要旨は以下のとおりである。
(1)引張強度が850MPa以上の鋼板を筒状に成形し、突合せ部を内外面からサブマージアーク溶接する溶接鋼管の製造方法において、溶接方向の全長にわたり、常温での圧縮加工により、溶接金属の肉厚方向の高さを0.2〜1.8%減少させることを特徴とする溶接鋼管の製造方法。
本発明によれば、天然ガス・原油輸送用ラインパイプ等に用いられる、引張強度が850MPa以上である高強度溶接鋼管の溶接部での水素脆化割れの発生を防止することが可能となる。
引張強度が850MPa以上である高強度溶接鋼管をUOE造管プロセスで製造する際には、Cプレスで鋼板の端部を曲げ、UプレスでU字形状に曲げ、次いでOプレスにより筒状に成形し、その後、通常、外面からの仮付け後、サブマージアーク溶接による内面溶接を行い、続いて外面溶接を行い、さらに拡管または縮管矯正により真円度を整える。
このUOE鋼管のシーム溶接部の欠陥を、JIS G 0584に準拠して、超音波探傷によって検出すると、頻度は少ないものの横割れが散見された。超音波探傷の結果によって、欠陥が検出された位置を特定すると、横割れは先行して溶接した内面の溶接金属に発生していることがわかった。また、横割れの破面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、水素脆化割れ特有の破面を呈していることもわかった。
このことから高強度溶接鋼管のシーム溶接部に発生する横割れが、フラックス、開先の結露、大気中の水分などから溶接金属内に取り込まれた水素と溶接残留応力による水素脆化割れであると結論づけた。しかし、内面溶接を行った後、外面溶接を行わずに超音波探傷による欠陥の検出を試みたところ、内面溶接ままでは横割れが発生していないことがわかった。
ここで述べるUOE鋼管の素材となる厚鋼板(母材)は、その鋼組成が、質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.01〜0.6%、Mn:1.5〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0.15〜0.60%、Nb:0.001〜0.10%、Ti:0.005〜0.030%、Al:0.06%以下を含有し、さらに、必要に応じてB:0.0001〜0.005%、N:0.0001〜0.006%、V:0.001〜0.10%、Cu:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Zr:0.0001〜0.005%、Ta:0.0001〜0.005%、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%、Mg:0.0001〜0.006%の1種または2種類以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間制御圧延して得られたものである。
上記UOE鋼管の製造に際しては、前述の鋼組成を有する厚鋼板(母材)を、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.3%以下、Mn:1.2〜2.4%、Ni:4.0〜8.5%、Cr+Mo+V:3.0〜5.0%、Ti:0.005〜0.15%、Al:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶接ワイヤーを用いて入熱:1.5kJ/mm〜6.3kJ/mmで溶接する。
このようにして得られた溶接金属については、成分が、質量%で、C:0.04〜0.14%、Si:0.05〜0.4%、Mn:1.2〜2.2%、P:0.01%以下、S:0.010%以下、Ni:1.3〜3.2%、Cr+Mo+V:1.0〜2.5%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.02%以下、B:0.005%以下、O:0.01〜0.03%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなるものである。
本発明者らは、UOE工程における拡管前の溶接金属部の残留応力を有限要素法(以下、FEAともいう。)による数値解析シミュレーションで求めた。これは、内外面からシーム溶接した溶接金属の内部の残留応力を非破壊で実測することが困難であるためである。
本発明者らは、内面、外面の順でシーム溶接して引張強度が950MPaである溶接金属を形成し、拡管前の状態を仮定し、FEAによって、鋼管の周方向断面における溶接金属の中心線(溶接中心線、図1の一点鎖線)上での鋼管軸方向の残留応力を求め、その肉厚方向の分布を図2に示した。解析に必要な物性値である熱伝導率、比熱、密度は実測し、状態値である熱伝達係数は、外面溶接中の内面温度変化を実測して得た温度履歴と、FEAによる内面温度変化の解析値が一致する数値に設定した。
図2の横軸は、溶接中心線上における鋼管の内面からの距離である。さらにX線回折により測定した、鋼管の内表面、外表面における溶接金属の残留応力も図2に示す。溶接金属の内表面および外表面の残留応力のFEAによる予測値とX線回折による測定値は良く一致している。このことから、図2に示した溶接金属の内部の残留応力のFEAによる予測値は、実際の溶接金属の残留応力を精度よく推定していると考えられる。
図2に示したように、残留応力は先行して溶接された内面溶接金属側で最大値を示し、その値は溶接金属の降伏強度、800MPaを超えている。また、残留応力が最大になる位置は、超音波探傷によって検出された横割れの発生個所と一致していることがわかった。したがって、残留応力を何らかの方法で低減すれば、水素脆化割れを防止することができると考えられる。
本発明者らは、次に水素濃度と横割れが発生する限界の残留応力との関係を把握するため、以下のようにして、引張強度が850MPa以上である溶接金属に水素脆化割れが発生する引張応力と水素濃度との関係を調査した。そこで、以下のようにして、引張強度が850MPa以上である高強度溶接鋼管の溶接金属の水素脆化割れが発生する応力と水素量の関係を調査した。溶接鋼管から内外面溶接金属を含むように、周方向と軸方向のサイズが200mm×200mmであるサンプルを採取し、直ちにドライアイスで冷却し、保存した。このサンプルの溶接金属から、長手方向が溶接方向と平行であり、平行部の直径が6mmである丸棒引張り試験片を採取した。これらの丸棒引張り試験片に、水素が逃散しないようにカドミウムめっきを施した。次に、この引張り試験片に一定荷重を240時間負荷し、破断の有無、すなわち水素脆化割れ発生の有無を調べた。更に、同様にして採取した平行部直径が6mmの丸棒引張り試験片を用いて、JIS Z 3118の鋼溶接部の水素測定方法で採用されているガスクロマトグラフ法に準拠して水素量を測定した。
結果を図3に示すが、水素量は、上記の測定方法によって測定した、即ち45℃で72時間保持して捕集した拡散性水素の量を、試験片100g当りに含まれる水素の体積[cc]で表したものである。図1の縦軸は、試験片に負荷した定荷重を試験片の平行部の断面積で除して、応力σ[MPa]で表したものである。
実機で測定される溶接金属における最大0.42cc/100gの水素量に対応する残留応力は、図3より680MPaであるから、残留応力が引張強度850MPaの80%未満であれば水素脆化割れは発生しないことになる。
つまり、図3より、溶接金属に発生する残留応力が、溶接金属の引張強度の80%未満である場合、水素割れは起こらないという指標を得た。
また、水素濃度が溶接金属100g当り、0.2ccを超える場合には、水素量H[cc]と引張り応力σ[MPa]が、
(H−0.1)×(σ−550)≦45
を満足すれば、水素脆化割れは発生しないと推定できる。したがって、先行するシーム溶接によって形成された溶接金属に含有される水素量をH[cc]、該溶接金属に負荷される引張り残留応力を[MPa]が上記式の関係を満足すれば、高強度溶接鋼管の水素脆化割れを防止することができる。
本発明者らは、溶接金属の形状を溶接ままの状態から変化させることにより、溶接金属の残留応力を再配分させて低減させる方法を検討した。溶接金属の形状を変化させることによって、溶接金属が本来有している性能、特に靭性を致命的に劣化させてはならない。本発明者らは、まず、溶接金属の内外面を圧縮して塑性変形させ、残留応力を低下させる方法を検討した。
内外面からサブマージアーク溶接され、溶接金属強度が950MPa、外径914mm、肉厚16mm、溶接金属高さ19.5mmのUOE鋼管から、シーム溶接部を中心に周方向300mm、軸方向100mmの試験片を切り出した。この試験片のシーム溶接部を内外面から挟み込む形で肉厚方向にプレスし(図4)、そのときの形状変化から、次式(1)によって加工割合を算出した。
Figure 0005000148
加工後、電解研磨を行い、X線回折法により鋼管内面における溶接金属の表面の軸方向残留応力を測定した。結果を図5に示した。
また、実管の溶接金属を種々の加工割合で圧縮加工した場合を想定し、FEAによって求めた残留応力の推定値も同図にプロットした。FEA解析は、造管方法、物性値、状態値を図2を得た際の解析と同条件とし、更に、溶接金属の肉厚方向への圧縮変形を追加して行った。溶接金属をわずかに圧縮変形させることで、表層部の残留応力は大きく減少している。また、FEA値と実測値は一致していることから、FEAにより変形後の溶接金属内部の応力状態も予測できることを確認した。
次に、加工度による溶接金属の軸方向の残留応力の変化をFEAによって解析し、図6に示した。これは、図2に示されている溶接金属の残留応力が最大になる位置を想定して求めた結果である。なお、FEA解析は、図5を得た際の解析と同様にして行った。溶接ままでは最大800MPaに達した残留応力は内表面同様に圧縮変形により激減する。わずか0.2%の圧縮塑性歪みを与えただけでも最大応力は割れを生じない750MPa以下に抑制できることがわかった。
次に、溶接金属に塑性変形を与えた際に劣化する機械特性のうち、靱性に着目した。内外面からサブマージアーク溶接が行われる場合、その会合面の靱性が最小になり、冷間成形により靱性が劣化することは以前から知られている。そこで、内面溶接金属と外面溶接金属の会合面における加工割合と塑性歪み量の関係を、図6を得た際と同様のFEA解析によって評価し、図7に示した。これより加工割合が3%を超えると会合面に歪みが集中し始めることが明らかになった。
次に、加工割合が0.1〜5%の範囲内の圧縮加工を加えた後、内外面の溶接会合部よりJIS Z 2202に準拠してVノッチシャルピー試験片を3本ずつ採取し、JIS Z 2242に準拠して室温で衝撃試験をおこなった結果を図8に示す。各加工割合ではシャルピー吸収エネルギーのばらつきは大きいものの、平均値で見ると、加工割合が3%を超えると次第に吸収エネルギーの劣化が顕著になることがわかる。したがって、本発明では圧縮加工の加工割合を3%以下にすることで靱性劣化を最小限に抑えることができる。
以上から溶接金属に内外面から0.2%以上、3%以下の圧縮加工を加えることにより溶接金属の性能を著しく劣化させることなく、残留応力を低減させることが可能になり、水素脆化割れを防止できることがわかった。なお、上記の検討では、切り出しサンプルにプレス加工による塑性変形を加えたが、実管では溶接金属を内外面からプレス加工しても良く、圧延ロールにより圧縮加工しても良い。圧縮加工の加工割合の上限は、実施例に基づいて1.8%以下とする。
溶接金属の圧縮加工は形状変化と同時に塑性歪みを与え、降伏強度と同等の残留応力を最小の形状変化で解放することが可能であり、最も効率的な方法である。
次に、本発明者は、塑性変形を与えることなく、溶接金属の形状変化のみによって残留応力を再配分させ、水素割れを防止する方法として、外面溶接金属の表層部を切除する方法を検討した。
本発明者らはまず、図9に示すように、鋼管の外表面から、溶接金属の高さをH2だけ切削加工により除去し、そのときに変化する残留応力を測定した。図10に式2で示す切除割合による、鋼管内表面でX線回折で実測された内面溶接金属の残留応力変化とFEAにより求められた残留応力変化を示す。FEA解析は、造管方法、物性値、状態値を図2を得た際の解析と同条件とし、更に、外面溶接金属の表層を切削する加工を想定して行った。
Figure 0005000148
切除割合が増加するに従い、鋼管の内面における溶接金属の表面の残留応力は減少し、その傾向はFEAによる計算値ともよく一致する。切削したのは外面溶接金属側であるが、残留応力が再配分される結果、内面の残留応力も減少することがわかった。
図11にはFEAで求めた溶接金属内部での最大軸方向残留応力の推移を示す。これは、図2に示されている溶接金属の残留応力が最大になる位置を想定し、図10を得た際と同様にFEA解析して求めた結果である。切除割合が溶接金属の肉厚方向の高さの2%を超えると最大応力の減少率が顕著になり、950MPaの強度に対して水素割れを発生させない限界残留応力、750MPaを下回ることが推定できた。
溶接金属の切除量の上限については、少なくとも母材までの切り込みは溶接継手の強度を損なうため、外面余盛りを残す必要のあること、10%以上の切削割合では最大残留応力の低減効果が鈍化することから、実際の製造範囲においては切除割合は2%〜10%が好ましい。
切除方法は、上記の検討において用いたフライス加工による切削以外に、グラインダーによる研削加工、更に、ガウジングまたは放電加工でも同様の効果が得られる。
切除する方法では外面の溶接金属を2%以上に切除したときの残留応力の再配分について示したが、同等以上の効果は内面の溶接金属を切除することによっても得られる。しかしながら、一般的には内面の溶接金属の余盛りは外面の溶接金属に比べて低く、また、鋼管内面の溶接金属の切除は外面溶接金属の切除に比較して容易ではないことから、工業的には外面溶接金属を切除することが好ましい。
残留応力の実測は溶接金属の引張強度が950MPaのものについてのみ行ったが、溶接金属の強度が異なる場合にも同じ加工割合、または切除割合で限界応力以下の残留応力抑制ができるかどうかについてFEAにより検討した結果を図12に示す。水素割れ発生に対する限界応力は引張強度の約8割であり、0.2%の圧縮加工、2%の外面溶接金属の切除を行った場合、いずれの強度範囲においても限界応力を下回り、溶接金属の引張強度が850MPa以上であれば本発明の方法を適用できることが裏付けられた。
強度が850MPa以上の超高強度ラインパイプは一般的にはUOE成形方式により造管されるが、ベンディングロールにより成形しても良い。
以下に本発明例と比較例により本発明の実施による効果を説明する。
鋼組成が、質量%で、C:0.02〜0.10%、Si:0.01〜0.6%、Mn:1.5〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Ni:0.1〜2.0%、Mo:0.15〜0.60%、Nb:0.001〜0.10%、Ti:0.005〜0.030%、Al:0.06%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間制御圧延して、UOE鋼管の素材となる厚鋼板を得た。一部の厚鋼板は、B:0.0001〜0.005%、N:0.0001〜0.006%、V:0.001〜0.10%、Cu:0.01〜1.0%、Cr:0.01〜1.0%、Zr:0.0001〜0.005%、Ta:0.0001〜0.005%、Ca:0.0001〜0.01%、REM:0.0001〜0.01%、Mg:0.0001〜0.006%の1種または2種類以上を含有している。これらの厚鋼板の引張強度は850〜1000MPaである。
これらの厚鋼板をCプレス、Uプレス、Oプレスの順で成形後、内面、外面の順番でサブマージアーク溶接した。内面溶接前の開先には霧吹きによる水滴を付着させたまま溶接を行った。これは実操業で起こりうる結露やフラックス等から不可避的に導入される水素を加速試験したものである。サブマージアーク溶接は、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.3%以下、Mn:1.2〜2.4%、Ni:4.0〜8.5%、Cr+Mo+V:3.0〜5.0%、Ti:0.005〜0.15%、Al:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶接ワイヤーを用いて、入熱を1.5〜6.3kJ/mmの範囲として行った。
溶接金属は、成分が、質量%で、C:0.04〜0.14%、Si:0.05〜0.4%、Mn:1.2〜2.2%、P:0.01%以下、S:0.010%以下、Ni:1.3〜3.2%、Cr+Mo+V:1.0〜2.5%、Ti:0.003〜0.050%、Al:0.02%以下、B:0.005%以下、O:0.01〜0.03%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、引張強度が850〜1000MPaであることを確認した。
外面溶接終了後、20分以内にシーム溶接部を含んだ200mm×200mmのサンプルを採取し、ドライアイス中に保存した。更に、常温に曝される時間を1時間以内にして、シーム溶接部を内外面から挟み込、プレスによる圧縮加工を行った。プレス前後の溶接金属の高さの変化から式1により加工割合を算出した。
溶接ままの試験片、およびプレス加工を行った試験片はともに常温で72時間以上放置し、JIS G 0584に準拠して、超音波探傷によりシーム溶接部に発生した割れの有無を検査した。ここで割れ発生個数とは、シーム溶接部の溶接方向の長さ1m当りに検出された割れの個数である。
一方、靭性を評価するために、内外面溶接会合面よりJIS Z 2202に準拠してVノッチシャルピー試験片、3本を採取し、JIS Z 2242に準拠して、−30℃で衝撃試験を行い、吸収エネルギーの3本の平均値を求めた。
また、FEAにより、各鋼管の製造方法、物性値、状態値に応じて、残留応力を解析によって求めた。この残留応力は、溶接金属の内部に生じる軸方向最大応力である。
表1に結果を示す。加工割合0.2%以上では残留応力が引張強度の80%未満であり、割れは皆無であった。一方、溶接まま、あるいは加工割合が0.2%に達しないものは割れが検出された。また、加工割合3%以下での吸収エネルギーは85Jを下回ることはなかった。
次に、上記と同様の方法で成形、内外面からサブマージアーク溶接した後、フラックスを除去し、少なくとも20分以内に鋼管の外面から溶接金属をフライス加工により切除した。切除割合は切除前後の溶接金属の高さの変化から、式2により算出した。
溶接ままの鋼管、および切削加工を行った鋼管はともに常温で72時間以上経過した後、JIS G 0584に準拠して、超音波探傷によりシーム溶接部に発生した割れの有無を検査した。
また、FEAにより各鋼管の製造方法、物性値、状態値に応じて、残留応力を解析によって求めた。この残留応力は、溶接金属の内部に生じる軸方向の最大応力である。
表2に結果を示す。加工割合2%以上では残留応力が引張強度の80%未満であり、割れは皆無であった。一方、溶接まま、あるいは加工割合が2%に達しないものは割れが検出された。
Figure 0005000148
Figure 0005000148
残留応力のFEA解析を行った位置を示す図。 サイズφ1016x19mm、引張強度950MPaの拡管前のUOE鋼管のシーム溶接中心での軸方向残留応力分布を内面からの位置との関係で示した図。 溶接金属における水素濃度と応力との関係を示す図。 加工割合を示す図。 加工割合と内面溶接金属表面の軸方向残留応力の関係を示す図。 加工割合と溶接部最大軸方向応力の関係を示す図。 加工割合と内外面溶接会合面での塑性歪み量の関係を示す図。 加工割合と会合面での吸収エネルギーの関係を示す図。 切除割合を示す図。 切除割合と内面溶接金属表面の軸方向残留応力の関係を示す図。 切除割合と溶接部最大軸方向応力の関係を示す図。 溶接金属の強度と限界応力、0.2%加工時、2%切除時の最大応力の関係を示す図。
符号の説明
1 管体
2 外面金属
3 内面金属
4 加工工具

Claims (1)

  1. 引張強度が850MPa以上の鋼板を筒状に成形し、突合せ部を内外面からサブマージアーク溶接する溶接鋼管の製造方法において、溶接方向の全長にわたり、常温での圧縮加工により、溶接金属の肉厚方向の高さを0.2〜1.8%減少させることを特徴とする溶接鋼管の製造方法。
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