以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。なお本実施形態では、アルコールを混合した燃料を使用可能なエンジンと、燃料のアルコール濃度推定装置を含むエンジンの制御装置とで構成されるエンジンシステムを例示して本発明を説明する。
まず、図1を参照しつつ、本実施形態に係るエンジンシステムの概略構成を説明する。
図1に示すエンジン11は、FFVに搭載される、いわゆる吸気管噴射型(Multi Point Injection)のエンジンであり、シリンダヘッド12とシリンダブロック13とを有している。シリンダブロック13の各シリンダ14内には、ピストン15が往復運動可能なように収容されている。このピストン15とシリンダ14とシリンダヘッド12とで燃焼室16が形成されている。ピストン15は、コンロッド17を介してクランクシャフト18に接続されている。ピストン15の往復運動は、コンロッド17を介してクランクシャフト18に伝達される。
シリンダヘッド12には吸気ポート19が形成されている。この吸気ポート19には吸気マニホールド20が接続されている。吸気ポート19には吸気弁21が設けられており、この吸気弁21によって燃焼室16と吸気ポート19が連通・遮断されるようになっている。吸気マニホールド20には、燃料パイプ22を介して燃料タンク23に接続された燃料噴射弁24が吸気ポート19内に混合燃料を噴射可能に設けられている。
なお燃料タンク23は、燃料タンク23内の蒸散燃料を吸着させるキャニスタ25が接続されると共に、キャニスタ25がパージ通路26を介して吸気系を構成する吸気管(吸気通路)27に接続されている。そして所定のパージ条件が成立したときに、パージ通路26に設けられたパージ弁28が開かれて、キャニスタ25内に吸着された蒸散燃料をパージ通路26から吸気管(吸気通路)27に導入される。これにより蒸散燃料の大気中への放出を防止している。また燃料タンク23内には、燃料タンク内の燃料貯蔵量を検出する貯蔵量検出手段としての燃料レベルセンサ29が設けられている。
シリンダヘッド12には、さらに排気ポート30が形成されている。この排気ポート30には排気マニホールド31の一端が接続され、排気マニホールド31の他端には排気管32が接続されている。なお、排気ポート30には排気弁33が設けられており、吸気ポート19における吸気弁21と同様、燃焼室16と排気ポート30はこの排気弁33によって連通・遮断されるようになっている。
シリンダヘッド12には、各気筒毎に点火プラグ34が取り付けられている。各点火プラグ34には、高電圧を出力する点火コイル35が接続されている。吸気マニホールド20の上流側の吸気管27には、サージタンク36が設けられ、このサージタンク36の上流側に吸気量を調整するスロットルバルブ37及びスロットルバルブ37の開度を検出するスロットルポジションセンサ(TPS)38が設けられている。さらにスロットルバルブ37の上流には、吸気量を計測するエアフローセンサ39が介装されている。
排気マニホールド31に接続された排気管32には、排気浄化用触媒である三元触媒40が介装されている。三元触媒40の上流側には、触媒通過前の排ガス中の酸素濃度、つまり排気空燃比を検出する排気空燃比検出手段としてのO2センサ41が設けられている。
ECU(電子コントロールユニット)42は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等のメモリ)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU42によって、エンジン11の総合的な制御が行われる。ECU42の入力側には、上述したスロットルポジションセンサ38、エアフローセンサ39、O2センサ41の他、エンジン11のクランク角を検出するクランク角センサ43、エンジン11の冷却水温度を検出する水温センサ44等の各種センサ類が接続されており、これらセンサ類からの検出情報が入力される。
一方、ECU42の出力側には、上述の燃料噴射弁24、点火コイル35、スロットルバルブ37、パージ弁28等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、ECU42で各種センサ類からの検出情報から演算された燃料噴射時間、点火時期、スロットル開度、弁開閉時期等のパラメータ値が出力されて、燃焼室16内の燃焼状態が制御されている。
つまり本発明に係る燃料のアルコール濃度推定装置10を含む制御装置は、このような各種センサ類とECU42とで構成され、これら各種センサ類からの検出情報に基づいて燃料のアルコール濃度を適宜推定する共に、推定した燃料のアルコール濃度に応じて空燃比を適正に制御している。
以下、燃料のアルコール濃度推定制御について説明する。
本実施形態に係る燃料のアルコール濃度推定装置10を構成する主要な構成として、ECU42には、パージ手段51と、判定手段52と、濃度推定手段53とが備えられている。
パージ手段51は、パージ通路26に設けられたパージ弁28の開閉を制御して所定のタイミングで吸気管27内に蒸散燃料を導入するパージ処理を実行する。
判定手段52は、過渡運転に伴うエンジン11の燃焼室(筒内)16の燃料量の過不足を補正する過渡燃料補正量(過渡燃料補正係数)の程度を判定する。過渡燃料補正量とは、吸気系の壁面付着量に基づく補正量、及びエンジン11の燃焼室(筒内)16の壁面付着量に基づく補正量の両方を含む。なお、これら吸気系の壁面付着量及び燃焼室16の壁面付着量は、吸気管の壁面等に付着する燃料量と、付着した燃料の蒸発量を逐次予測して算出される。
濃度推定手段53は、所定の濃度推定条件が成立した場合に、排気空燃比検出手段であるO2センサ41によって検出される排気空燃比に基づいて燃料のアルコール濃度推定を実行してアルコール濃度推定値を更新する。
ここで濃度推定条件としては、少なくともパージ手段51によってパージ処理が実行されていないこと、及び過渡燃料補正量が第1の所定値よりも小さいことが条件に含まれる。通常は、パージ手段51によって所定間隔でパージ処理が行われているが、本発明では、パージ手段51が、過渡燃料補正量に基づいてパージ処理の期間を適宜調整している。
具体的には、パージ手段51が、パージ処理が実行されていない期間の終了時期に、判定手段52によって過渡燃料補正量が第1の所定値以下の値である第2の所定値を超えたと判定された場合に、パージ処理が実行されていない期間の終了時期を過渡燃料補正量が第2の所定値以下となった時点から所定期間だけ遅延させる。詳しくは後述するが、これにより燃料のアルコール濃度推定の実行頻度を向上することができる。
また本実施形態では、パージ手段51は、パージ処理が実行されている期間の終了時期に、判定手段52によって過渡燃料補正量が第2の所定値よりも大きいと判定された場合に、パージ処理が実行されている期間の終了時期を過渡燃料補正量が第2の所定値以下となった時点から所定期間だけ遅延させる。これにより燃料のアルコール濃度の推定精度を向上させることができる。
以下、図2〜図5を参照しつつ、アルコール濃度推定装置10によるアルコール濃度推定制御の一例について説明する。なお、図2〜図4は、アルコール濃度制御のフローチャートである。また図5は、パージ処理の実行タイミングを説明するためのタイミングチャートである。
まずは、濃度推定条件の一つとして濃度推定期間であるか否かが判定される。つまり、燃料噴射弁24から噴射される燃料のアルコール濃度が変化している期間か否かが判定される。具体的には、図2に示すように、まずステップS1で、燃料給油フラグがオンに設定されているか否かが判定される。燃料給油フラグは、燃料給油が実行された場合、具体的には、後述するステップで燃料タンク23内の燃料レベルセンサ29によって燃料の増量が検出された場合に、オンに設定されるフラグである。
ステップS1で燃料給油フラグがオフに設定されていた場合には(ステップS1:No)、濃度推定期間ではないと判定されてステップS2に進む。ステップS2に進んだ場合には濃度推定条件が成立していないことになり、以降のステップで燃料のアルコール濃度推定が行われることはない。ステップS2では燃料レベルセンサ29によって検出される燃料タンク23内の燃料レベル(燃料貯蔵量)の増加の有無が判定される。燃料レベルが増加している場合には(ステップS2:Yes)、燃料給油が実行されたと判定されてステップS3で燃料給油フラグがオンに設定される。またステップS4で給油後燃料消費量ΣFL(k)がリセットされた後、後述するステップS8に進む。燃料レベルが増加していない場合には(ステップS2:No)、燃料給油フラグはオフの設定のまま維持され、ステップS4に進む。
一方、ステップS1で燃料給油フラグがオンに設定されている場合には(ステップS1:Yes)、ステップS5で燃料の給油後に消費された燃料量である給油後燃料消費量ΣFL(k)が算出され、次いでステップS6で給油後燃料消費量ΣFL(k)が所定量以下であるか否かが判定される。そして給油後燃料消費量ΣFL(k)が所定量以下である場合には(ステップS6:Yes)、濃度推定期間であると判定されて、後述するステップS17に進む。
またステップS6で給油後燃料消費量ΣFL(k)が所定量よりも多い場合には(ステップS6:No)、濃度推定期間ではない(濃度推定期間が終了した)と判定されて、ステップS7で燃料給油フラグがオフに設定された後、ステップS4に進む。
濃度推定期間ではないと判定されてステップS4からステップS8に進むと、パージタイマ時間(パージ導入タイマ時間Tin(k)及びパージカットタイマ時間Tct(k))に基づいて、パージ手段51が所定のタイミングでパージ処理を実行する。つまり、パージ手段51がパージ弁28の開閉状態を制御することで、パージ処理の開始時期及び終了時期が制御される。
具体的には、ステップS8でパージ導入モード(パージ処理が実行されている期間)であるか否かが判定され、パージ導入モードであると判定された場合(ステップS8:Yes)、ステップS9で前回のパージ導入タイマ時間Tin(k−1)から1演算周期時間を減算することでパージ導入タイマ時間Tin(k)が算出される。次いで、パージ導入タイマ時間Tin(k)が0であるか否かが判定される(ステップS10)。つまり、パージ導入モードの期間が所定時間を超えたか否かが判定される。そしてTin(k)>0であれば(ステップS10:No)、パージ導入モードの期間が所定時間を超えていないと判定され、パージ導入モードが継続される。
またTin(k)=0である場合には(ステップS10:Yes)、パージ導入モードの期間が所定時間を超えたと判定され、パージ手段51によってパージカットタイマ時間Tct(k)が第1のカットタイマ時間Cth1に設定されると共に(ステップ11)、パージ弁28が閉弁され、パージカットモードに切り替えられる(ステップS12)。
ステップS8でパージ導入モードでない(パージカットモードである)と判定された場合には(ステップS8:No)、ステップS13で前回のパージカットタイマ時間Tct(k−1)から1演算周期時間を減算してパージカットタイマ時間Tct(k)が算出される。次いで、ステップS14でパージカットタイマ時間Tct(k)が0であるか否かが判定される。つまり、パージ処理が行われていない期間が所定時間を超えたか否かが判定される。そしてTct(k)>0である場合には(ステップS14:No)、パージ処理が行われていない期間が所定時間を超えていないと判定されてパージカットモードが継続される。Tct(k)=0である場合には(ステップS14:Yes)、パージ処理が行われていない期間が所定時間を超えたと判定され、パージ手段51によってパージ導入タイマ時間Tin(k)が第1の導入タイマ時間Inh1に設定される(ステップS15)。またパージ弁28が開弁され、パージ導入モードに切り替えられる(ステップS16)。
このようにパージ処理の開始時期及び終了時期は、通常、パージタイマ時間(パージ導入タイマ時間Tin(k)及びパージカットタイマ時間Tct(k))に基づいて制御される。例えば、図5(a)の一段目に示すように、時間T0でパージ導入タイマ時間Tin(k)が第1の導入タイマ時間Inh1に設定されると、図5(a)の二段目に示すようにパージ導入モードに切り替えられる。その後Tin(k)が逐次減算され、時間T1でTin(k)=0になるとパージカットタイマ時間Tct(k)が第1のカットタイマ時間Cth1に設定され、パージ導入モードからパージカットモードに切り替えられる。そして時間T2でTct(k)=0となると、Tin(k)が再び第1の導入タイマ時間Inh1に設定されてパージカットモードからパージ導入モードに切り替えられる。
なお本実施形態では、パージカットタイマ時間及びパージ導入タイマ時間を減算することで、パージ処理の開始時期及び終了時期を制御しているが、勿論、パージタイマ時間を加算することで制御するようにしてもよい。
一方、濃度推定期間であると判定されてステップS6からステップS17に進んだ場合は、パージタイマ時間(パージ導入タイマ時間Tin(k)及びパージカットタイマ時間Tct(k))と共に遅延タイマ時間Td(k)に基づいて、パージ導入モードとパージカットモードとが所定のタイミングで切り替えられる。そして、パージカットモード中であること及び過渡燃料補正量が第1の所定値K1よりも小さいことを含む濃度推定条件が成立した場合に、燃料のアルコール濃度推定が実施される。
ここで遅延タイマとは、壁面付着燃料量に基づいて、パージ導入モードとパージカットモードとを切り替えるタイミングを制御するため、つまりパージ処理の終了時期又は開始時期を遅延させるためのタイマである。そして本発明では、この遅延タイマによってパージ処理の終了時期又は開始時期を遅延させることで、燃料のアルコール濃度推定の実行頻度を確保し、また燃料のアルコール濃度の推定精度を向上させている。
具体的には、まずステップS17で判定手段52が壁面付着燃料量に基づく過渡燃料補正量(過渡燃料補正係数)が第1の所定値K1以下の第2の所定値K2(図5参照)を超えたか否かを判定する。過渡燃料補正量が第2の所定値K2よりも大きい場合(ステップS17:Yes)、次いで、パージ手段51によって遅延タイマ時間Td(k)が所定時間H1に設定されて(ステップS18)、ステップS19に進む。一方ステップS17で過渡燃料補正量が第2の所定値K2以下である場合には(ステップS17:No)、次いでステップS20で遅延タイマ時間Td(k)が算出されて、ステップS19に進む。
なお第2の所定値K2は、第1の所定値K1以下の値であればよいが、例えば、第1の所定値K1と同程度の値に設定される。また第1の所定値K1と第2の所定値K2とは同一値であってもよく、この場合には「過渡燃料補正量が第2の所定値K2を下回った」ことが濃度推定条件に含まれることになる。
ステップS19ではパージ導入モードであるか否かが判定される。そしてパージ導入モードであると判定された場合には(ステップS19:Yes)、ステップS21でパージ導入タイマ時間Tin(k)が算出される。次いで、ステップS22でパージ導入タイマ時間Tin(k)が0であるか否かが判定される。つまりパージ処理が行われている期間が所定時間を超えたか否かが判定される。Tin(k)>0である場合には(ステップS22:No)、パージ処理が行われている期間が所定時間を超えていないため、パージ導入モードが継続されたままリターンされる。
Tin(k)=0である場合には(ステップS22:Yes)、さらに遅延タイマ時間Td(k)=0であるか否かが判定される(ステップS23)。ここでTd(k)=0ではない場合には(ステップS23:No)、パージ処理の終了時期が遅延されてパージ導入モードが継続されたままリターンされる。
一方、Td(k)=0である場合には(ステップS23:Yes)、パージ手段51によってパージカットタイマ時間Tct(k)が第1のカットタイマ時間よりも短い第2のカットタイマ時間Cth2に設定されると共に(ステップS24)、パージ弁28が閉弁され、パージカットモードに切り替えられる(ステップS25)。これにより、濃度推定条件の一つである「パージカット中」が成立することになる。また、パージ処理が行われている期間の終了時期が遅延されることで過渡燃料補正量が十分に減少するため、「パージカット中」が成立する際には、濃度推定条件の一つである「過渡燃料補正量が第1の所定値K1よりも少ない状態」も成立している。
次いで、条件成立判定処理を実行してその他の濃度推定条件が成立しているか否かを判定する(ステップS26)。ここで、パージ導入モードの終了からパージカットモードに切り替えられた後の条件成立判定処理としては、例えば、図6に示すように、まずステップS61で、過渡燃料補正量が上述した第1の所定値K1(図5(b)参照)よりも小さいか否かを判定する。なお過渡燃料補正量の推定(算出)方法は、特に限定されず、例えば、特許第3552255号公報、特許第4129628号公報等に記載されている公知の方法を用いればよい。
次に、ステップS62で空燃比制御がフィードバック制御中であるか否かを判定し、ステップS63でエンジン11の冷却水の水温が所定温度よりも高いか否かを判定する。過渡燃料補正量が第1の所定値K1よりも小さく(ステップS61:Yes)、空燃比制御がフィードバック制御中であり(ステップS62:Yes)且つ水温が所定温度よりも高いという条件が成立している場合には(ステップS63:Yes)、これらの条件が成立している時間(条件成立時間)Tst(k)が算出される(ステップS64)。次いでこの条件成立時間Tst(k)が所定時間よりも長く継続しているか否かが判定される(ステップS65)。そして条件成立時間Tst(k)が所定時間よりも長く継続している場合に(ステップS65:Yes)、濃度推定条件が成立したと判定され、条件成立フラグがオンに設定される(ステップS66)。
一方、過渡燃料補正量が第1の所定値K1以上である場合(ステップS61:No)、空燃比制御がフィードバック制御中ではない場合(ステップS62:No)、或いは水温が所定温度以下である場合には(ステップS63:No)、濃度推定条件が成立していない(未成立)と判定され、ステップS67で条件成立時間がリセット(Tst(k)=0)されると共に、ステップS68で条件成立フラグがオフに設定される。
このような条件判定処理が終了し、その他の濃度推定条件が成立している場合、すなわち条件成立フラグがオンに設定されている場合には(ステップS27:Yes)、濃度推定手段53によってアルコール濃度推定が実行されてアルコール濃度推定値が更新される(ステップS28)。一方、その他の濃度推定条件が成立していない場合、すなわち条件成立フラグがオフに設定されている場合には(ステップS27:No)、アルコール濃度推定値が更新されることなくリターンされる。
ここでの処理を、図5(b)を用いて説明する。図中三段目に示す過渡燃料補正量が、時間T3で第2の所定値K2を超えると(ステップS17:Yes)、図中四段目に示す遅延タイマ時間Td(k)が所定時間H1に設定される(ステップS18)。したがって、過渡燃料補正量が第2の所定値K2を超えている時間T5までの間は、遅延タイマ時間Td(k)は、所定時間H1のまま維持されることになる。
そして、例えば、時間T3の時点では、パージ導入モードであり(ステップS19:Yes)、パージ導入タイマ時間Tin(k)は0ではないため(ステップS22:No)、パージ導入モードが継続されてステップS1に戻る。その後、時間T4でTin(k)=0となるが(ステップS22:Yes)、時間T4の時点では過渡燃料補正量が第2の所定値K2よりも大きく、遅延タイマ時間Td(k)は所定時間H1のままである(ステップS23:No)。この場合、パージ導入タイマ時間Tin(k)及びパージカットタイマ時間Tct(k)が共に0のまま維持され、パージ導入モードが継続される。つまりパージ処理の終了時期が遅延されて、パージ導入モードが継続される。
その後、時間T5を過ぎて過渡燃料補正量が第2の所定値K2以下となると(ステップS17:No)、遅延タイマ時間Td(k)が演算周期毎に逐次減算される(ステップS20)。そして、時間T6で遅延タイマ時間Td(k)=0になると(ステップS23:Yes)、パージカットタイマ時間Tct(k)が第2のカットタイマ時間Cth2に設定されると共に(ステップS24)、パージカットモードに切り替えられる(ステップS25)。これにより、濃度推定条件の一つである「パージカット中である」が成立することになる。また「パージカット中」の条件が成立する際には、過渡燃料補正量が十分に減少しているため、「過渡燃料補正量が第1の所定値K1よりも少ない」という条件も成立している。
そして、その他の濃度推定条件が成立した時点で(ステップS27:Yes)、図4に示すようにステップS28で排気空燃比に基づくアルコール濃度推定が実行されてアルコール濃度推定値が更新される。
このように過渡燃料補正量が第2の所定値K2以下となった時点から所定期間だけパージカットの終了時期を遅延させることで、過渡燃料補正量が第1の所定値K1よりも小さいという濃度推定条件が成立し、燃料のアルコール濃度推定値が更新されることになる。つまり本実施形態では、パージ処理実行(パージ導入モード)中に、過渡燃料補正量の大きさに基づいてパージ処理の終了時期を遅延させ、パージカット中であり且つ過渡燃料補正量が比較的小さい状態で、燃料のアルコール濃度推定値が更新されるようにした。これにより燃料のアルコール濃度の推定精度を向上することができる。したがって、空燃比を適正に制御して、排気ガス性能の悪化や、ドライバビリティの悪化等を効果的に抑制することができる。
一方、ステップS19でパージ導入モードでない場合、つまりパージカットモードである場合には(ステップS19:No)、ステップS29でパージカットタイマ時間Tct(k)が演算され、次いで、ステップS30でパージカットタイマ時間Tct(k)が0であるか否かが判定される。つまり、パージ処理が行われていない期間が所定時間を超えたか否かが判定される。
Tct(k)=0である場合には(ステップS30:Yes)、さらに遅延タイマ時間Td(k)=0であるか否かが判定される(ステップS31)。ここで、Td(k)=0である場合には(ステップS31:Yes)、パージ手段51によってパージ導入タイマ時間Tin(k)が第1の導入タイマ時間よりも短い第2の導入タイマ時間Inh2に設定される(ステップS32)。そしてパージ弁28が開弁され、パージ導入モードに切り替えられ(ステップS33)、その後、リターンされる。
Tct(k)>0である場合には(ステップS30:No)、パージカットモードが継続される。またTct(k)=0である場合で(ステップS30:Yes)、且つTd(k)>0である場合にも(ステップS31:No)、パージ処理が実行されていない期間の終了時期が遅延されてパージカットモードが継続されることになる。
このようにパージカットモードが継続される場合には、ステップS26に進んで上述した条件成立判定処理が実行され、濃度推定条件が成立した場合に(ステップS27:Yes)、アルコール濃度推定値が更新される(ステップS28)。
ここでの処理を、図5(b)を用いて説明する。例えば、時間T7の時点では、パージカットモードであり(ステップS19:No)、パージカットタイマ時間Tct(k)は0ではなくパージカット期間中である(ステップS29:No)。また過渡燃料補正量が第2の所定値K2よりも大きい状態であるため(ステップS17:Yes)、遅延タイマ時間Td(k)が所定時間H1に設定される(ステップS18)。
その後、時間T8でTct(k)=0となるが(ステップS29:Yes)、時間T8の時点では過渡燃料補正量がまだ第2の所定値K2よりも大きい。したがって遅延タイマ時間Td(k)は所定時間H1のままである(ステップS30:No)。この場合、パージカットタイマ時間及びパージ導入タイマ時間が共に0のまま維持され、パージカットモードが継続される。つまりパージ処理の開始時期が遅延されて、パージカットモードが継続される。
その後、時間T9を過ぎて過渡燃料補正量が第2の所定値K2以下となると(ステップS17:No)、遅延タイマ時間Td(k)が演算周期毎に逐次減算される(ステップS20)。このとき、過渡燃料補正量が第1の所定値K1よりも小さいという濃度推定条件も成立しているため、燃料のアルコール濃度推定値が更新されることになる。またこのようにパージカットの終了時期が遅延されることで、濃度推定条件の成立している期間が比較的長く継続することになる。そして、時間T10で遅延タイマ時間Td(k)=0になると(ステップS31:Yes)、ステップS32でパージ導入タイマ時間Tin(k)が第2の導入タイマ時間Inh2に設定されると共に、ステップS33でパージ導入モードに切り替えられた後、リターンする。
このように過渡燃料補正量が濃度推定条件に含まれている場合には、パージカットの終了時期を遅延させることで、濃度推定条件が成立している期間が長くなるため、アルコール濃度推定の実行頻度の低下が抑えられる。また、パージカット中に過渡燃料補正量が比較的小さい状態となる。特に、濃度推定条件の判定基準となる第1の所定値K1よりも小さい第2の所定値K2を基準として、パージカットの終了時期を遅延させることで、過渡燃料補正量がより小さい状態となる。つまり濃度推定条件である「パージカット中」と「過渡燃料補正量が小さい状態」を同時に実現できることになる。
したがって、アルコール濃度推定の実行頻度の低下を抑制しつつ、燃料のアルコール濃度の推定精度を向上することができ、燃料のアルコール濃度に応じて空燃比をより一層適正に制御することができる。
また本実施形態では、上述のように濃度推定期間における第2の導入タイマ時間Inh2及びカットタイマ時間Cth2は、濃度推定期間でない場合の第1の導入タイマ時間Inh1及び第1のカットタイマ時間Cth1に対して小さい値(短い時間)が設定されている。さらに第1の導入タイマ時間Inh1に対する第1のカットタイマ時間Cth1の割合と比較して、第2の導入タイマ時間Inh2に対する第2のカットタイマ時間Cth2の割合が相対的に大きくなるように設定されている。これにより、濃度推定期間ではアルコール濃度推定の実行頻度を確保できると共に、濃度推定期間でない通常時にはパージ導入時間を多くとることにより蒸散燃料の大気中への放出を防止できる。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、勿論本発明はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、吸気管噴射型エンジンを例示して本発明を説明したが、勿論、本発明は、例えば、筒内噴射型エンジンや、ディーゼルエンジン等、様々なエンジンに適用できる。