本発明は、車輪を転舵するための車両用ステアリング装置に関する。
一般的な車両用ステアリング装置は、運転者によるステアリングホイール等のステアリング操作部材(以下、単に「操作部材」という場合がある)の操作によってステアリングシャフトが回転させられ、その回転が転舵ロッドの軸線方向の移動動作に変換され、その転舵ロッドの動きによって車輪が転舵されるように構成されている。また、一般的に、車輪が転舵可能な範囲である転舵範囲(「操舵範囲」と呼ぶこともできる)の制限は、下記特許文献1記載されているように、転舵ロッドの動作範囲を制限することによってなされ、その制限時においては、当該ステアリング装置には、操作部材に加えられている操作力,操作部材の慣性力等による負荷がかかる。特に、下記特許文献2に記載するような転舵アシスト装置を備えるステアリング装置の場合には、上記負荷は、比較的大きいものとなる。
特開2005−88777号公報
特開2005−67295号公報
ステアリングシャフトの回転を転舵ロッドの移動動作に変換する機構は、それらの係合部に設けられ、例えば、ラック・ピニオン機構等とされている。上述した転舵範囲が制限される場合における負荷は、構造上、その動作変換機構において特に大きく、動作変換機構における負荷の軽減が望まれ、その負荷を軽減することによって、ステアリング装置の実用性が向上すると考えられる。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高い車両用ステアリング装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明の車両用ステアリング装置は、軸線方向に移動して左右の車輪を転舵する転舵ロッドと、運転者により操作されるステアリング操作部材と、そのステアリング操作部材の回転により回転するステアリングシャフトと、そのステアリングシャフトの回転を転舵ロッドの軸線方向の移動動作に変換する動作変換機構と、動力源を有し、ステアリングシャフトの中間部においてそのステアリングシャフトに回転力を付与することで、車輪の転舵を助勢する転舵アシスト装置とを備えたステアリング装置であって、ステアリングシャフトの上記転舵アシスト装置によって回転力が付与される箇所と、上記動作変換機構との間において、そのステアリングシャフトの回転を抑止するための回転抑止機構を備えたことを特徴とする。
本発明の車両用ステアリング装置では、例えば、上記回転抑止機構によってステアリングシャフトの回転範囲を制限することで、転舵範囲を制限するように構成することが可能であり、また、転舵ロッドの移動範囲を制限して転舵範囲を制限する際に、その制限に先立って、上記回転抑止機構によって、ステアリングシャフトの回転を抑制するように構成することが可能である。したがって、本発明の車両用ステアリング装置によれば、転舵範囲が制限される際の動作変換機構への負荷を軽減させることが可能となる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、概ね、(1)項と(3)項と(4)項とを合わせたものが請求項1に相当し、(2)項が請求項2に、(7)項ないし(9)項を合わせたものが請求項3に、(11)項と(12)項とを合わせたものが請求項4に、(13)項が請求項5に、(14)項が請求項6に、(16)項が請求項7に、(18)項が請求項8に、それぞれ相当する。
(1)左右の車輪を連結し、軸線方向の移動によってそれら左右の車輪を転舵する転舵ロッドと、
運転者によって回転操作されるステアリング操作部材と、
一端部にそのステアリング操作部材が取り付けられるとともに他端部において前記転舵ロッドと係合し、前記ステアリング操作部材の回転によって回転するステアリングシャフトと、
そのステアリングシャフトと前記転舵ロッドとが係合する箇所に設けられ、そのステアリングシャフトの回転をその転舵ロッドの軸線方向の移動に変換する動作変換機構と、
前記ステアリングシャフトの回転を抑止するシャフト回転抑止機構と
を備えた車両用ステアリング装置。
転舵範囲を制限すべく、単に、転舵ロッドの動作を制限する機構を設けた場合、上記動作変換機構には、ステアリング操作部材に加わる操作力,操作部材の慣性力等を原因とする比較的大きな負荷が作用し、場合によっては、衝撃的な負荷が作用する。本項の態様では、ステアリングシャフトの回転を抑止する上記シャフト回転抑止機構(以下、単に「回転抑止機構」という場合がある)が設けられており、その機構の働きにより、転舵範囲が制限される際の動作変換機構にかかる負荷を軽減することが可能となる。
上記回転抑止機構は、例えば、ステアリングシャフトの回転範囲を制限する機構、つまり、ステアリングシャフトのある範囲を超えた回転を禁止するための機構とすることが可能である。このような回転抑止機構を設けた場合には、転舵ロッドの動作を制限する機構によらずとも、その機構自らによって転舵範囲を制限することが可能となる。そして、そのような回転抑止機構を設ければ、転舵範囲が制限される際に、ステアリングシャフトの回転力を当該機構が受け止めることとなり、その際の動作変換機構への負担が大幅に軽減されることになる。
また、上記回転抑止機構は、例えば、ステアリングシャフトの回転を抑制する機構、つまり、ステアリングシャフトの回転に対して抵抗を与える機構とすることが可能である。転舵ロッドの移動範囲を制限する機構を設けて転舵範囲を制限するような場合、その制限に先立って、つまり、転舵範囲の手前において、当該回転抑止機構によって、ステアリングシャフトの回転力を減じるようにすれば、転舵範囲の制限の際の動作変換機構への負担が軽減されることになる。なお、ステアリングシャフトの回転を抑制する力として、例えば、弾性力,摩擦力等を利用することができる。
なお、本項に記載の「ステアリングシャフト」は、その構造が特に限定されるものではなく、例えば、後に説明するように、複数のシャフト部材が互いに連結されて構成されるようなものであってもよい。そのようなステアリングシャフトを採用する場合には、回転抑止機構は、複数のシャフト部材のうちのいずれの回転を抑止するものであってもよい。また、本項に記載の「動作変換機構」は、その構造が特に限定されるものではなく、本項の態様は、例えば、ラック・ピニオン機構,ボールスクリュ機構等、種々の機構に対して適用可能である。さらにまた、本項の態様は、転舵範囲の制限に関して言えば、左旋回時の転舵限界と右旋回時の転舵限界との一方において転舵範囲を制限する場合にも、あるいは、それらの両方において制限する場合にも適用可能であり、上記回転抑止機構は、ステアリングシャフトの右回転と左回転との少なくとも一方を制限するものであればよいのである。
(2)前記動作変換機構が、前記転舵ロッドに設けられたラックと、前記ステアリングシャフトの他端部に設けられて前記ラックと噛合するピニオンとを含んで構成された(1)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、動作変換機構としてラック・ピニオン機構が採用された態様である。本項の態様によれば、転舵範囲の制限の際のラック・ピニオン機構への負荷が比較的小さいため、ラックとピニオンとの噛合部の強度を比較的小さくすることが可能である。
一般的なラックピニオン機構においては、ラックとピニオンとを確実に噛合させるべく、ラックをピニオンに向かって付勢する機構が備えられている。例えば、ラックとピニオンとの噛合部に大きな負荷がかかるような場合には、この機構による付勢力を増加させる必要が生じ、機構の大型化等の問題が生じる。その観点からすれば、本項の態様は、機構の小型化が図れる等の利点を享受できるという理由から、ラック・ピニオン機構を採用するステアリング装置に好適である。
(3)当該車両用ステアリング装置が、
動力源を有し、前記ステアリングシャフトの中間部においてそのステアリングシャフトに回転力を付与することで、車輪の転舵を助勢する転舵アシスト装置を備えた(1)項または(2)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項に記載のステアリング装置は、所謂パワーステアリング装置と呼ばれるものである。本項に記載の「転舵アシスト装置」は、車輪の転舵を助勢する力としての回転力(以下、「アシスト力」という場合がある)をステアリングシャフトに付与する構造であれば、その構造が特に限定されるものではなく、例えば、動力源として電動モータを採用する構造のものであってもよく、動力源として油圧アクチュエータを利用する構造のものであってもよい。なお、本項にいう「ステアリングシャフトの中間部」は、ステアリングシャフトにおけるそれの操作部材が取り付けられる部分と、ステアリングシャフトの転舵ロッドが係合される部分との間を、広く意味する。
(4)前記シャフト回転抑止機構が、前記ステアリングシャフトの前記転舵アシスト装置によって回転力が付与される箇所よりも前記転舵ロッド側の部分において、そのステアリングシャフトの回転を抑止するものとされた(3)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様によれば、車輪の転舵範囲が制限される際に、転舵アシスト装置によるアシスト力に起因する負荷をも軽減することが可能となる。特に、後に詳しく説明するように、転舵ロッドの移動範囲を制限する機構を設けて転舵範囲を制限し、その制限に先立って、ステアリングシャフトの回転を抑制する構成のステアリング装置に好適である。
(5)前記ステアリングシャフトが、前記ステアリング操作部材の回転によって実質的に捩じられる部分であるトーション部を含んで構成され、
前記転舵アシスト装置が、前記トーション部の捩り量に応じた大きさの回転力を付与するものとされた(3)項または(4)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様では、ステアリングシャフトのトーション部より操作部材側の部分においてステアリングシャフトの回転を抑止すれば、例えば、その抑止後におけるトーション部の捩れを小さくすることができ、転舵範囲の制限時あるいは制限後の転舵アシスト装置によるアシスト力に起因する動作変換装置への負荷を軽減することが可能となる。逆に、トーション部よりも転舵ロッド側の部分において、ステアリングシャフトの回転を抑止すれば、その抑止後のトーション部の捩れによって、転舵範囲の制限時あるいは制限後のアシスト力は比較的大きくなる。そのことに鑑みれば、トーション部よりも転舵ロッド側の部分においてステアリングシャフトの回転を抑止する場合には、ステアリングシャフトの回転力が付与される箇所よりも転舵ロッド側の部分において回転を抑止することが望ましい。このことは、転舵ロッドの移動範囲を制限する機構を設けて転舵範囲を制限し、その制限に先立って、ステアリングシャフトの回転を抑制する構成のステアリング装置において、特に、望ましい。
(6)前記ステアリングシャフトが、前記一端部を含む操作部材側シャフト部材と、前記他端部を含む転舵ロッド側シャフト部材と、それら操作部材側シャフト部材と転舵ロッド側シャフト部材との間に位置する中間シャフト部材と、前記操作部材側シャフト部材と前記中間シャフト部材とを連結する第1自在継手と、前記転舵ロッド側シャフト部材と前記中間シャフト部材とを連結する第2自在継手とを含んで構成された(1)項ないし(5)項のいずれかに記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、ステアリングシャフトの構造を具体的に限定した態様である。本項に記載の「シャフト部材」は、例えば、テレスコピック機能,チルト機能,衝撃吸収機能等を担保すべく、伸縮可能に構成されたものであってもよい。なお、本項の態様において、上記操作部材側シャフト部材に回転力を付与する構造の転舵アシスト装置を設ける場合に、その操作部材側シャフトの回転を抑止するようにすれば、転舵範囲の制限の際において、中間シャフト部材,転舵ロッド側シャフト部材および2つの自在継手を含んだ部分の負荷をも軽減することができるため、その部分の強度を比較的小さくすることが可能となる。
(7)当該車両用ステアリング装置が、車体に支持されるとともに前記ステアリングシャフトの前記ステアリング操作部材寄りの部分を自身の内部に挿通させた状態で回転可能に保持するチューブ部材を備え、そのチューブ部材と前記ステアリングシャフトのステアリング操作部材寄りの部分とを含んで構成されるステアリングコラムを備える(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用ステアリング装置。
(8)当該車両ステアリング装置が、
動力源を有し、前記ステアリングシャフトの中間部においてそのステアリングシャフトに回転力を付与することで、車輪の転舵を助勢する転舵アシスト装置を備え、
その転舵アシスト装置が、前記ステアリングコラムに設けられて、前記ステアリングシャフトのステアリング操作部材寄りの部分に回転力を付与するものとされた(7)項に記載の車両用ステアリング装置。
上記2つの項に記載の態様は、いわゆるステアリングコラムを有する態様であり、「ステアリングシャフトのステアリング操作部材寄りの部分」は、例えば、ステアリングシャフトが、上記操作部材側シャフト部材,中間シャフト部材,転舵ロッド側シャフト部材,2つの自在継手を含んだものである場合には、例えば、操作部材側シャフト部材が相当する。後者の態様は、平たく言えば、そのステアリングコラムに転舵アシスト装置が組み込まれた態様である。
(9)前記シャフト回転抑止機構が、前記ステアリングコラムに設けられて、前記ステアリングシャフトのステアリング操作部材寄りの部分において前記ステアリングシャフトの回転を抑止するものとされた(7)項または(8)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、ステアリングコラムに回転抑止機構が組み込まれた態様である。本項の態様によれば、コンパクトなステアリング装置が実現されることになる。また、回転抑止機構とともに転舵アシスト装置をもステアリングコラムに装備させれば、よりコンパクトなステアリング装置が実現され、アシスト力が付与される箇所の転舵ロッド側の近傍においてステアリングシャフトの回転を抑止する態様が、容易に実現されることになる。
(10)当該車両用ステアリング装置が、
車体に固定され、前記転舵ロッドをそれの軸線方向に移動可能に保持するとともに前記ステアリングシャフトの前記他端部を回転可能に保持し、かつ、前記動作変換機構を内包するハウジングを備えた(9)項に記載の車両用ステアリング装置。
(11)当該車両用ステアリング装置が、
車体に固定され、前記転舵ロッドをそれの軸線方向に移動可能に保持するとともに前記ステアリングシャフトの前記他端部を回転可能に保持し、かつ、前記動作変換機構を内包するハウジングを備えた(1)項ないし(8)項のいずれかに記載の車両用ステアリング装置。
(12)前記シャフト回転抑止機構が、前記ハウジング内に設けられ、前記他端部において前記ステアリングシャフトの回転を抑止するものとされた(11)項に記載の車両用ステアリング装置。
上記3つの項の態様は、動作変換機構が、車体に保持されたハウジング内に配設された態様である。3つのうちの最後の項の態様では、そのハウジング内に、回転抑止機構が配設されているため、ステアリング装置のコンパクト化が図られることになる。また、回転抑止機構に対する防塵,防水性等も良好となる。
(13)前記シャフト回転抑止機構が、前記ステアリングシャフトの回転範囲を制限することで車輪の転舵範囲を制限するものである(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、先に説明したところの、ステアリングシャフト回転を制限しての車輪の転舵範囲を制限する態様である。本項の態様によれば、先に説明したように、回転抑止機構自体によって転舵範囲が制限されるため、動作変換機構への負荷を大幅に軽減することが可能となる。
(14)前記シャフト回転抑止機構が、前記ステアリングシャフトと係合するとともにそのステアリングシャフトの回転と連係して移動する移動体と、その移動体を当接させてその移動体の移動を制限する移動制限体とを含んで構成された(13)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項に記載の態様は、回転抑止機構の構造を具体的に限定した態様であり、ステアリングシャフトの回転と連動する移動体の動作を制限することで、転舵範囲を制限する構造とされている。一般的なステアリング装置は、ステアリングシャフトが全転舵範囲内において複数回転(1回転を360°とした場合における複数回転である)するような構造とされるため、ステアリングシャフトの回転を直接制限する場合と比べて、容易に転舵範囲を制限することが可能である。
(15)前記シャフト回転抑止機構が、
前記ステアリングシャフトの外周に設けられた雄ねじと、
その雄ねじと螺合する雌ねじを有し、前記ステアリングシャフトに対して相対回転不能かつ軸線方向に移動可能とされることで、前記ステアリングシャフトの回転に伴って軸線方向に移動する前記移動体としてのナット部材と
を含んで構成された(14)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、回転抑止機構の構造、詳しくは、ステアリングシャフトの回転と移動体の移動動作とを連係させるための機構に、ねじ機構を採用した態様である。本項の態様によれば、比較的簡便な構造の回転抑止機構が実現する。なお、ねじのリード角の調整によって、ステアリングシャフトの回転量に対する移動体の移動量の比を任意に設定することが可能である。
(16)当該車両用ステアリング装置が、前記転舵ロッドの動作範囲を制限することで車輪の転舵範囲を制限するロッド動作制限機構を備え、
前記シャフト回転抑止機構が、前記ロッド動作制限機構による車輪の転舵範囲の制限に先立って、前記ステアリングシャフトの回転を抑制するものとされた(1)項ないし(12)項のいずれかに記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、先に説明したように、転舵範囲を制限すべく、転舵ロッドの移動範囲を制限する機構を設けるとともに、それによって制限される転舵範囲の手前において、ステアリングシャフトの回転を抑制する機構、言い換えれば、ステアリングシャフトの回転に対して抵抗を与えるための機構を設けた態様である。本項の態様によれば、先に説明したように、回転抑止機構によってステアリングシャフトの回転力が減じられた後に、転舵ロッドの移動動作が制限されるため、効果的に、動作変換機構への負荷を軽減することが可能となる。特に、本項の態様のステアリング装置において、先に説明したように、ステアリングシャフトのアシスト力が付与される箇所よりも転舵ロッド側の部分においてそのステアリングシャフトの回転を抑制すれば、ロッド動作制限機構によって転舵範囲が制限される際、アシスト力に起因する負荷を効果的に軽減することが可能となる。このことから、本項の態様では、ステアリングシャフトの上記部分においてそれの回転を抑制することが望ましい。
なお、前述の回転抑止機構がステアリングシャフトの回転範囲を制限する態様では、路面の凹凸等によって車輪からの外部入力が作用する際に、その回転抑止機構によって転舵範囲が制限される場合があり、その場合には、動作変換機構に対して外部入力に起因する比較的大きな負荷が加わる可能性がある。本項の態様では、そのような外部入力が作用する際にも、上記転舵ロッド動作制限機構による転舵範囲の制限に先立ち、回転抑止機構によってステアリングシャフトの回転が抑制されるため、外部入力に起因する動作変換機構への負荷をも軽減することが可能となる。また、転舵範囲が制限された後の外部入力に対しても、転舵ロッド動作制限機構によって転舵範囲の制限がされているため、動作変換機構への負荷は小さいものとなる。
(17)前記シャフト回転抑止機構が、弾性力を利用して前記ステアリングシャフトの回転を抑制するものとされた(16)項に記載の車両用ステアリング装置。
本項の態様は、例えば、ばね,ゴム等の弾性体を利用して、ステアリングシャフトの回転を抑止するように構成された態様であり、簡便な構造の回転抑止機構が実現する。
(18)前記シャフト回転抑止機構が、前記ステアリングシャフトと係合するとともにそのステアリングシャフトの回転と連係して移動する移動体と、その移動体を当接させた状態でのその移動体の移動によって弾性変形してその移動体に対して弾性力を付与する弾性体とを含んで構成され、
前記ロッド動作制限機構が、前記移動体に弾性力が付与されている状態において前記転舵ロッドの動作範囲を制限するものとされた(16)項または(17)項に記載の車両用ステアリング装置。
(19)前記シャフト回転抑止機構が、
前記ステアリングシャフトの外周に設けられた雄ねじと、
その雄ねじと螺合する雌ねじを有し、前記ステアリングシャフトに対して相対回転不能かつ軸線方向に移動可能とされることで、前記ステアリングシャフトの回転に伴って軸線方向に移動する前記移動体としてのナット部材と
を含んで構成された(18)項に記載の車両用ステアリング装置。
上記2つの項の態様は、弾性力を利用した回転抑止機構の具体的構造について限定を加えた態様である。それらの項の態様は、先に説明した2つの態様、つまり、ステアリングシャフトの回転範囲を制限する回転抑止機構の具体的構造に関する態様と類似するものとなっており、説明は省略するが、上記2つの項によれば、先に説明した態様と同様の利点を享受可能である。
以下、請求可能発明のいくつかの実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
(A)第1実施例
≪車両用ステアリング装置の構成≫
図1に、第1実施例の車両用ステアリング装置を模式的に示す。本ステアリング装置10は、運転者によって回転操作されるステアリング操作部材としてのステアリングホイール12と、それに加えられる操作力を伝達するステアリングシャフト14と、車輪を転舵するための転舵装置16とを含んで構成されている。ステアリングシャフト14は、一端部においてステアリングホイール12が取り付けられる操作部材側シャフト部材としてのステアリングメインシャフト(以下、単に「メインシャフト」という場合がある)18と、一端部において転舵装置16と連結されてそれへ上記操作力を入力するための入力シャフト20と、メインシャフト18と入力シャフト20との間に位置する中間シャフト部材としてのインタミディエイトシャフト(以下、「I/Mシャフト」と略す場合がある)22とを含んで構成されている。さらに、メインシャフト18の操作部材が取付けられていない側の端部とI/Mシャフト22の一端部とは、自在継手として機能するユニバーサルジョイント24によって連結され、入力シャフト20の転舵装置16に連結されない側の端部とI/Mシャフト22の他端部とは、もう1つのユニバーサルジョイント26によって連結されている。なお、ステアリングシャフト14は、前方側の端部が後方側の端部よりも下方に位置するように傾斜した姿勢で、概ね、車両の前後方向に延びるように配設されている。そこで、本実施例では、簡略化に配慮し、ステアリングシャフト14およびそれを構成する各シャフト18,20,22の部位,配置等を表現する場合に、前方,後方という言葉を使うこととする。
メインシャフト18は、チューブ部材としてのコラムチューブ30の内部を貫通した状態でそれに回転可能に保持されている。それらメインシャフト18およびコラムチューブ30を含んでステアリングコラム32が構成されており、そのステアリングコラム32は、コラムチューブ30の軸線方向の略中央部において、そのコラムチューブ30に設けられたブラケット34によって車体に取り付けられている。メインシャフト18は、図2に示すように、パイプ状のアッパシャフト50と、ロッド状のロアシャフト52と、トーションバー54と、出力シャフト56とを含んで構成されている。アッパシャフト50の後方の端部には、ステアリングホイール12が取り付けられ、一方、アッパシャフト50の前方の部分には、ロアシャフト52の後方の部分が挿入されており、それらがスプライン嵌合によって相対回転不能かつ相対移動可能に接続されている。トーションバー54は、当該ステアリングシャフトのトーション部として機能するものであり、ロアシャフト52は、それの前方の端部において、そのトーションバー54を介して、出力シャフト56に連結されている。そして、その出力シャフト56の前方の端部が、ジョイント24を介して、I/Mシャフト22に連結されている。一方、コラムチューブ30は、アッパチューブ60とロアチューブ62とを含んで構成されており、後方に位置するアッパチューブ30の前方の部分に、ロアチューブ62の後方の部分が挿入され、それらは軸方向に相対移動可能とされている。このような構造により、ステアリングコラム32は、伸縮可能とされている。
上記ステアリングコラム32には、それの前方の部分に、メインシャフト18に回転力を付与して車輪の転舵を助勢する転舵アシスト装置70が設けられている。具体的に言えば、転舵アシスト装置70の外殻部材としてのハウジング71が、ロアチューブ62の前方の端部に固定されており、転舵アシスト装置70は、図3に示すように、そのハウジング71の内部に、動力源としての電動モータ72と、電動モータによって回転させられるウォーム74と、そのウォーム74と噛合するウォームホイール76とを備えた構造とされている。ウォームホイール76の中央には軸穴78が形成され、その軸穴78に上述の出力シャフト56が固定的に嵌入されており、それらウォームホイール76と出力シャフト56とがともに、ハウジング71内で回転可能とされている。電動モータ72が発生する力は、ウォーム74とウォームホイール76とで構成されるウォームギヤ機構によって伝達されて、出力シャフト56の回転を助勢する。つまり、出力シャフト56に対する回転力(以下、「アシスト力」という場合がある)が、出力シャフト56の軸穴78に嵌入されている箇所に付与されるのである。
I/Mシャフト22は、図4に示すように、後方側に位置するパイプメンバ80と、前方側に位置するロッドメンバ82とを含んで構成されている。パイプメンバ80の後方側端部は、ジョイント24を介して出力シャフト56の前方側端部に連結されており、ロッドメンバ82の前方側端部は、ジョイント26を介して入力シャフト20の後方側端部に連結される。一方、ロッドメンバ82の後方側の部分は、パイプメンバ80の前方側の部分に挿入されており、それらがスプライン嵌合されることで、パイプメンバ80とロッドメンバ82とは、相対回転不能にかつ軸方向に相対移動可能とされている。このような構造により、I/Mシャフト22は、伸縮可能とされている。
上述のように、ステアリングコラム32およびI/Mシャフト22がそれぞれ、伸縮可能とされていることで、本ステアリング装置10の備えるチルト・テレスコピック機構(図示省略)によるステアリングホイール12の位置の変動が許容される。また、例えば、車両の衝突によって運転者がステアリングホイール12に二次衝突した場合には、ステアリングコラム32が収縮させられ、二次衝突の衝撃が弱められる。また、例えば、車両の衝突によって転舵装置16が後方に変位させられた場合には、I/Mシャフト22が収縮させられ、メインシャフト12の後方への変位が防止あるいは抑制される。
転舵装置16は、外殻部材としてのハウジング90と、車輪を転舵するための転舵ロッド92とを備えており、その転舵ロッド92は、図1に示すように、それの軸線方向に移動可能にそのハウジング90に保持されるとともに、それを貫通して車幅方向に延びるように配設されている。転舵ロッド92は、それの両端部が、タイロッド94を介して、左右の前輪の各々を保持するステアリングナックル(図示省略)に連結されている。また、入力シャフト20は、図5に示すように、ハウジング90に回転可能に保持され、そのハウジング90内において、転舵ロッド92と係合している。入力シャフト20と転舵ロッド92との係合する箇所、つまり、入力シャフト20の前方端部(図における下方側の端部)には、ピニオン96が形成されており、転舵ロッド92に形成されたラック98がそのピニオン96と噛合することで、転舵ロッド92と入力シャフト20とが係合しているのである。
上記ピニオン96およびラック98は、動作変換機構としてのラック・ピニオン機構100を構成するものとなっており、そのラック・ピニオン機構100によって、ステアリングシャフト14の回転が転舵ロッド92の軸線方向の移動に変換される。なお、ハウジング90には、ピニオン96とラック98とを確実に噛合するための転舵ロッド押付機構102が設けられている。具体的に言えば、転舵装置ハウジング90にはガイド筒104が設けられるとともにガイド筒104内にはプランジャ106が配設されており、そのプランジャ106が、筒蓋107に支持されたコイルスプリング108の弾性力によって転舵ロッド92をピニオン96に向かって付勢する構造とされている。
以上の構造から、本ステアリング装置10において、ステアリングホイール12が回転操作されると、それに加えられる操作力によって、ステアリングシャフト14が回転させられる。それの回転が、ラック・ピニオン機構100によって、転舵ロッド92の軸線方向の移動動作に変換させられる。その転舵ロッド16の動きによってステアリングナックルが回動させられて、車輪が転舵させられるのである。また、操作力によって上記トーションバー54が捩られる場合、捩り量に応じた回転トルクを発揮するように転舵アシスト装置70の電動モータ72が制御作動させられ、その捩り量に応じたアシスト力がステアリングシャフト14に付与される。
本ステアリング装置10において、車輪の転舵可能な範囲である転舵範囲は、転舵ロッド92の軸線方向の移動範囲を制限するロッド動作制限機構としてのストッパ機構110によって制限される。具体的にいえば、図6に示すように、転舵ロッド92を保持する転舵装置ハウジング90の両端部には、カップ状のハウジングエンド112が設けられており、転舵ロッド92の両端部が、そのハウジングエンド112の底部を貫いて延び出している。延び出した転舵ロッド92の両端部は、ボールジョイントを介して、上述のように、タイロッド94と揺動可能に連結されており、そのボールジョイントのソケット部として機能するロッドエンド114が、ハウジングエンド112の内部に挿入可能とされている。ハウジングエンド112の内部底面には緩衝ゴム116が固着されている。このような構造によって、転舵ロッドの動作に伴って、ロッドエンド114が、緩衝ゴム116を介してハウジングエンド112の内部底面に当接することで、転舵ロッド92の移動範囲が制限され、車輪の転舵範囲が制限されるのである。
また、本ステアリング装置10は、上記ストッパ機構110による転舵範囲の制限に先立って、ステアリングシャフト14の回転を抑制するシャフト回転抑制機構(シャフト回転抑止機構の一種であり、以下、単に「回転抑制機構」という場合がある)120を備えている。図5および図7に示すように、回転抑制機構120は、入力シャフト20の外周部の軸線方向における略中央の位置に形成された雄ねじ122と、ベアリングボールを介してその雄ねじ122と螺合する雌ねじ124を有するナット部材126とを含んで構成されている。そのナット部材126の外周部には、軸線方向に延びるように1対の溝128が設けられ、それらの溝128の各々には、ハウジング90の内壁面に軸線方向に延びるように設けられた1対のガイド130の各々が嵌まるようにされている。1対のガイド130の両端部には、それぞれ、弾性体としての環状のゴム部材132が付着されている。
上記ナット部材126は、入力シャフト20の回転と連係して移動する移動体として機能し、ステアリングホイール12の回転操作に伴いガイド130に沿って移動し、ある回転操作位置において、ゴム部材132と当接する。詳しく言えば、前述のストッパ機構110における転舵ロッド92のロッドエンド114のハウジングエンド112への当接の前に、上記ナット部材126が上記ゴム部材132に当接する。本ステアリング装置10においては、ナット部材126とゴム部材132との当接に伴って、ゴム部材132がナット部材126に対して弾性力を付与することで、ストッパ機構110による転舵範囲の制限の前に、ナット部材126の動作に対して抵抗が与えられて、入力シャフト20の回転が抑制されるのである。また、本ステアリング装置10では、ナット部材126によってゴム部材132が押し潰される前、言い換えれば、回転抑制機構120が入力シャフト20の回転を制限する前(すなわち、回転抑制機構120によって入力シャフト20の回転が禁止される前)に、上記ロッドエンド114がハウジングエンド112に当接し、上記ストッパ機構110によって転舵範囲が制限されるようになっている。このように、本ステアリング装置10においては、ストッパ機構110によって車輪の転舵範囲が制限される前に、つまり、転舵範囲の制限に先立って、ステアリングシャフト12の回転が抑制されるように構成されているのである。
≪車輪の転舵範囲の制限の際におけるステアリング装置への負荷≫
本ステアリング装置10においては、上述のように、車輪の転舵範囲が制限される前に、シャフトの回転が抑制されるようにされているが、一般的なステアリング装置、つまり、上記回転抑制機構120を備えていないステアリング装置においては、単に上記ストッパ機構110と同様の機構によって転舵ロッドの動作を制限することで、車輪の転舵範囲を制限している。このような一般的なステアリング装置において、車輪の転舵範囲が制限される際には、ステアリングホイール12,電動モータ72の慣性力等によって、ラック・ピニオン機構に衝撃力が作用する。また、転舵範囲が制限された時点では、トーションバーには捩れが残存し、その捩れ量に応じたアシスト力が、制限直後におけるラック・ピニオン機構への衝撃力として作用する。このような衝撃力は、ラックピニオン機構への負荷となる。
そのようなラック・ピニオン機構への負荷を考慮し、本ステアリング装置10においては、上記回転抑制機構120が設けられている。つまり、ストッパ機構110によって車輪の転舵範囲が制限される前に、回転抑制機構120によって、ステアリングシャフト14の回転を抑制するようにされて、ラック・ピニオン機構への負荷が軽減されているのである。なお、ステアリングシャフト14において回転抑制機構120によって回転が抑制される箇所は、転舵アシスト装置70によってアシスト力が付与される箇所より前方の部分とされているため、上述した電動モータ72の慣性力,トーションバーの捩れに基づくアシスト力によるラック・ピニオン機構への衝撃力が、効果的に減少させられることになる。
また、本ステアリング装置10では、路面の凹凸等に起因して生じる車輪からの外部入力によって車輪が転舵される場合にも、上記ストッパ機構110によって転舵ロッド92の動作範囲が制限され、転舵範囲が制限される。そのような外部入力の作用下での転舵制限の際にも、その制限に先立って上記回転抑制機構120によるステアリングシャフト14の回転の抑制がなされ、ラック・ピニオン機構への負荷が軽減されることになる。さらに、転舵範囲を超えて車輪を転舵させようとする外部入力が作用する場合には、上記ストッパ機構110によって転舵ロッド92の動作範囲が制限されることで、その外部入力はラック・ピニオン機構に殆ど作用せず、その場合のラック・ピ二オン機構の負荷は殆ど発生しないこととなる。
(B)第2実施例
本実施例の車両用ステアリング装置10’は、先のステアリング装置10と同様に、図1に示すような全体構造を有しているが、先のステアリング装置10とは異なり、ステアリングシャフト14の回転範囲を制限することで、車輪の転舵範囲を制限するように構成されている。つまり、本ステアリング装置10’は、先のステアリング装置10の備えるシャフト回転抑制機構120に代えて、ステアリングシャフト14の回転範囲を制限することで転舵範囲を制限するストッパ機構(シャフト回転抑止機構の一種である)を備えている。本ステアリング装置10’は、そのストッパ機構を除いて、先に説明したステアリング装置10と略同様の構成とされているため、本装置10’の説明においては、そのストッパ機構を中心に説明し、先の装置10と共通する構成要素については、同じ符号を用い、それらの説明は省略あるいは簡略に行うものとする。なお、本ステアリング装置10’においては、ステアリングシャフト14の回転を制限するストッパ機構が設けられているため、図8に示すように、転舵装置16には、転舵ロッド92の移動範囲を制限するストッパ機構が設けられていない。
本ステアリング装置の備えるストッパ機構140は、図9に示すように、先のステアリング装置10の備える回転抑制機構120と同様に、転舵装置16のハウジング90内に設けられている。ストッパ機構140は、入力シャフト20の外周部の軸線方向における略中央の位置に形成された雄ねじ141と、ベアリングボールを介してその雄ねじ141と螺合する雌ねじ142を有するナット部材144とを含んで構成されている。そのナット部材144の外周部には、軸線方向に延びるように1対の溝145が設けられ、それらの溝145の各々には、ハウジング90の内壁面に軸線方向に延びるように設けられた1対のガイド146の各々が嵌まるようにされている。1対のガイド146の両端部には、それぞれ、環状部材147が固定されており、1対の環状部材147には、それぞれ、環状の緩衝ゴム148が付着されている。
上記ナット部材144は、入力シャフト20の回転と連係して移動する移動体として機能し、ステアリングホイール12の回転操作に伴いガイド146に沿って移動し、ある回転操作位置において、緩衝ゴム148を介して、環状部材148と当接する。このことから、環状部材148が、ナット部材144の移動範囲を制限する移動制限体として機能し、入力シャフト20の回転範囲が制限される。したがって、本ステアリング装置10’においては、ストッパ機構140によって車輪の転舵範囲が制限されるように構成されているのである。なお、先の回転抑制機構120が有するゴム部材132と異なり、本ストッパ機構140が有する緩衝ゴム148は、その厚さが薄くされている。したがって、本ストッパ機構140では、転舵範囲が制限される前の入力シャフト20の回転抑制効果は、回転抑制機構120と比較してかなり小さいものとなっている。
本ステアリング装置10’では、ステアリングシャフト14においてストッパ機構140によって回転が制限される箇所は、転舵アシスト装置70によってアシスト力が付与される箇所より前方の部分とされており、また、転舵ロッド92の移動範囲が制限されないことから、車輪の転舵範囲が制限される際に、ステアリングホイール12,電動モータ72の慣性力,トーションバーの捩れに基づくアシスト力等はラック・ピニオン機構100に殆ど作用しない。したがって、車輪の転舵範囲が制限される際のラック・ピニオン機構100への負荷が殆ど発生しない。ただし、このことは、ステアリングホイール12の操作に対して車輪の転舵範囲が制限される場合における利点であり、先に説明した外部入力が作用して車輪の転舵範囲が制限される場合にはその利点を享受することができない。つまり、本ステアリング装置10’では、外部入力の作用によって車輪の転舵範囲が制限される場合におけるラック・ピニオン機構への負荷は、先の先のステアリング装置10と比較して、大きくなるのである。
(C)第3実施例
本実施例の車両用ステアリング装置は、第1実施例のステアリング装置10と同様、車輪の転舵範囲が制限される前に、入力シャフトではなく、メインシャフトの回転を抑制するように構成されたステアリング装置である。図10に、本実施例の車両用ステアリング装置150を模式的に示す。本ステアリング装置150は、先に説明したステアリング装置10と共通する構成要素を多く備えているため、本装置150の説明において、先の装置10と共通する構成要素については、同じ符号を用い、それらの説明は省略あるいは簡略に行うものとする。
本ステアリング装置150の備えるステアリングシャフト152は、一端部においてステアリングホイール12に取り付けられるステアリングメインシャフト(以下、単に「メインシャフト」という場合がある)154と、一端部において転舵装置155に連結される入力シャフト156と、メインシャフト154と入力シャフト156との間に位置するインタミディエイトシャフト(以下、「I/Mシャフト」と略す場合がある)158とを含んで構成されている。
転舵装置155は、図11に示すように、外殻部材としてのハウジング160と、転舵ロッド92とを備えている。入力シャフト156は、先のステアリング装置10の入力シャフト20と同様に、ハウジング160に回転可能に保持されるとともに、ラック・ピニオン機構100によって転舵ロッド92と係合している。なお、ハウジング160の転舵ロッド92の延び出す両端部には、ストッパ機構110が設けられている(図11参照)。
メインシャフト154は、図12に示すように、コラムチューブ170の内部を貫通した状態で、それに回転可能に保持されており、メインシャフト154とコラムチューブ160とを含んでステアリングコラム172が構成されている。このステアリングコラム172は、メインシャフト154の回転を抑制するシャフト回転抑制機構(シャフト回転抑止機構の一種であり、以下、単に「回転抑制機構」という場合がある)174を設けた構造とされている。具体的に言えば、回転抑制機構174は、メインシャフト154を構成する出力シャフト176の外周部の軸線方向における略中央の位置に形成された雄ねじ180と、ベアリングボールを介してその雄ねじ180と螺合する雌ねじ182を有するナット部材184とを含んで構成されている。そのナット部材184の外周部には、軸線方向に延びるように1対の溝186が設けられ、それらの溝186の各々には、転舵アシスト装置70のハウジング188の内壁面に軸線方向に延びるように設けられた1対のガイド190の各々が嵌まるようにされている。1対のガイド190の両端部には、それぞれ、弾性体としての環状のゴム部材192が付着されている。
上記ナット部材184は、出力シャフト176の回転と連係して移動する移動体として機能し、ステアリングホイール12の回転操作に伴いガイド190に沿って移動し、ある回転操作位置において、ゴム部材192と当接する。詳しく言えば、本ステアリング装置150においても、先のステアリング装置10と同様に、ストッパ機構110における転舵ロッド92のロッドエンド114のハウジングエンド112への当接の前に、上記ナット部材184が上記ゴム部材192に当接する。このように、本ステアリング装置150においても、ストッパ機構110によって車輪の転舵範囲が制限される前に、つまり、転舵範囲の制限に先立って、ステアリングシャフト14の回転が抑制されるように構成されているのである。
このような構造から、ストッパ機構110によって車輪の転舵範囲が制限される前に、回転抑制機構174によって、ステアリングシャフト14の回転を抑制するようにされて、ラック・ピニオン機構100への負荷が軽減されているのである。なお、ステアリングシャフト14において回転抑制機構120によって回転が抑制される箇所は、転舵アシスト装置70によってアシスト力が付与される箇所より前方の部分と、メインシャフト154とI/Mシャフト158とが連結される部分との間とされている。このことから、本ステアリング装置150では、転舵範囲の制限の際に、ラック・ピニオン機構100への負荷だけでなく、I/Mシャフト158,入力シャフト156,ユニバーサルジョイント24,26等への負荷も軽減されている。
なお、本ステアリング装置150においても、先のステアリング装置10と同様に、路面の凹凸等に起因して生じる車輪からの外部入力の作用下での転舵制限の際にも、ラック・ピニオン機構100への負荷が軽減され、また、転舵範囲を超えて車輪を転舵させようとする外部入力が作用する場合にも、ラック・ピニオン機構100への負荷が殆ど発生しないことになる。
(D)第4実施例
本実施例の車両用ステアリング装置150’は、第3実施例のステアリング装置150と同様、図10に示す構造を有しており、ステアリングシャフト152の回転範囲を制限することで、車輪の転舵範囲を制限するように構成されたステアリング装置である。本ステアリング装置150’は、先のステアリング装置150の備えるシャフト回転抑制機構174に代えて、ステアリングシャフト14の回転範囲を制限するストッパ機構(シャフト回転抑止機構の一種である)を備えている。本ステアリング装置150’は、ストッパ機構を除いて、先に説明したステアリング装置150と略同様の構成とされているため、本装置の説明においては、そのストッパ機構を中心に説明し、先の装置150と共通する構成要素については、同じ符号を用い、それらの説明は省略あるいは簡略に行うものとする。なお、本ステアリング装置においては、第2実施例のステアリング装置10’と同様に、転舵ロッド92の移動範囲を制限するストッパ機構は備えられていない。
本ステアリング装置150’の備えるストッパ機構200は、図13に示すように、先のステアリング装置150の備える回転抑制機構174と同様に、転舵アシスト装置70のハウジング188内に設けられている。ストッパ機構200は、出力シャフト176の外周部の軸線方向における略中央の位置に形成された雄ねじ202と、ベアリングボールを介してその雄ねじ202と螺合する雌ねじ204を有するナット部材206とを含んで構成されている。そのナット部材206の外周部には、軸線方向に延びるように1対の溝208が設けられ、それらの溝208の各々には、ハウジング188の内壁面に軸線方向に延びるように設けられた1対のガイド210の各々が嵌まるようにされている。1対のガイド210の両端部には、それぞれ、環状部材212が固定されており、1対の環状部材212には、それぞれ、環状の緩衝ゴム214が付着されている。
上記ナット部材206は、出力シャフト176の回転と連係して移動する移動体として機能し、ステアリングホイール12の回転操作に伴いガイド210に沿って移動し、ある回転操作位置において、緩衝ゴム214を介して、環状部材212と当接する。このことから、環状部材212が、ナット部材206の移動範囲を制限する移動制限体として機能し、出力シャフト176の回転範囲が制限される。したがって、本ステアリング装置150’においては、そのような構造のストッパ機構200によって車輪の転舵範囲が制限されるように構成されているのである。なお、本ストッパ機構200では、転舵範囲が制限される前の出力シャフト176の回転抑制効果は、回転抑制機構174と比較してかなり小さいものとなっている。
本ステアリング装置150’では、先のステアリング装置150のステアリングシャフト14の回転が抑制される箇所と同じ箇所において、ストッパ機構200によって回転が制限されることから、車輪の転舵範囲が制限される際のラック・ピニオン機構100への負荷は殆ど生じないこととなる。さらに、I/Mシャフト158,入力シャフト156等への負荷も殆ど発生しないことになる。ただし、先に説明したように、外部入力の作用によって車輪の転舵範囲が制限される場合におけるラック・ピニオン機構100への負荷は、先のステアリング装置150と比較して、大きくなる。
第1実施例のステアリング装置の全体構成を示す模式図である。
第1実施例のステアリング装置を構成するステアリングコラムを示す概略断面図である。
第1実施例のステアリング装置を構成する転舵アシスト装置を示す概略断面図である。
第1実施例のステアリング装置を構成するインタミディエイトシャフトを示す概略断面図である。
第1実施例のステアリング装置を構成する転舵装置を示す概略断面図である。
第1実施例のステアリング装置を構成するストッパ機構を示す概略断面図である。
第1実施例のステアリング装置を構成するシャフト回転抑制機構を示す概略断面図である。
第2実施例のステアリング装置を構成する転舵ロッドの端部を示す概略断面図である。
第2実施例のステアリング装置を構成する転舵装置を示す概略断面図である。
第3実施例のステアリング装置の全体構成を示す模式図である。
第3実施例のステアリング装置を構成する転舵装置を示す概略断面図である。
第3実施例のステアリング装置を構成するステアリングコラムを示す概略断面図である。
第4実施例のステアリング装置を構成するステアリングコラムを示す概略断面図である。
符号の説明
10,10’:車両用ステアリング装置 12:ステアリングホイール(ステアリング操作部材) 14:ステアリングシャフト 18:ステアリングメインシャフト(操作部材側シャフト部材) 20:入力シャフト(転舵ロッド側シャフト部材) 22:インタミディエイトシャフト(中間シャフト部材) 24:ユニバーサルジョイント(第1自在継手) 26:ユニバーサルジョイント(第2自在継手) 30:コラムチューブ(チューブ部材) 32:ステアリングコラム 54:トーションバー(トーション部) 70:転舵アシスト装置 72:電動モータ(動力源) 90:ハウジング 92:転舵ロッド 96:ピニオン 98:ラック 100:ラック・ピニオン機構(動作変換機構) 110:ストッパ機構(ロッド動作制限機構) 120:シャフト回転抑制機構(シャフト回転抑止機構) 122:雄ねじ 124:雌ねじ 126:ナット部材(移動体) 132:ゴム部材(弾性体) 140:ストッパ機構(シャフト回転抑止機構) 141:雄ねじ 142:雌ねじ 144:ナット部材(移動体) 147:環状部材(移動制限体) 150,150’:車両用ステアリング装置 152:ステアリングシャフト 154:ステアリングメインシャフト(操作部材側シャフト部材) 156:入力シャフト(転舵ロッド側シャフト部材) 158:インタミディエイトシャフト(中間シャフト部材) 160:ハウジング 170:コラムチューブ(チューブ部材) 172:ステアリングコラム 174:シャフト回転抑制機構(シャフト回転抑止機構) 180:雄ねじ 182:雌ねじ 184:ナット部材(移動体) 192:緩衝ゴム(弾性体) 200:ストッパ機構(シャフト回転抑止機構) 202:雄ねじ 204:雌ねじ 206:ナット部材(移動体) 212:環状部材(移動制限体)