以下、本発明の実施形態に係る防振装置について図面を参照して説明する。なお、図中、符号Sは装置の軸心を表しており、この軸心Sに沿った方向を装置の軸方向として以下の説明を行う。
(第1の実施形態)
図1及び図2には本発明の第1の実施形態に係る防振装置が示されている。図1に示されるように、防振装置10には、その外周側に薄肉円筒に形成された外筒金具12が設けられると共に、この外筒金具12の内周側に取付金具20が略同軸的に配置されている。外筒金具12には、その上端部に外周側へ延出する環状のフランジ部14が屈曲形成されると共に、下端部に装置の組立時に内周側へテーパ状に折り曲げられるかしめ部16が形成されている。外筒部材12には、フランジ部14の下側に内周側へ向かって断面コ字状に屈曲された絞り部18が全周に亘って形成されており、この絞り部18には、その上端部及び下端部にそれぞれ環状の上側段差部18A及び下側段差部18Bが設けられている。また外筒部材12には、下側段差部18Bの下側に径方向へ貫通する円形の開口部18Cが形成されている。防振装置10は、外筒金具12がカップ状のホルダ金具(図示省略)内へ嵌挿されることにより、このホルダ金具を介してして車両における車体側へ連結される。
取付金具20には、その上端側に略一定の外径を有する円柱部21及び、この円柱部21の下端部から外周側へ延出するフランジ状の延出部22が形成されると共に、延出部22の下側に下方へ向かってテーパ状に外径が縮径する縮径部23が形成されている。取付金具20には、その上端面から下端側へ向かって軸心Sに沿ってねじ穴20Aが穿設されている。防振装置10は、取付金具20のねじ穴20Aに捻じ込まれたボルト等の締結部材及びブラケットステーを介して車両におけるエンジン側に連結固定される。
防振装置10には、外筒金具12と取付金具20との間に略肉厚リング状に形成されたゴム弾性体24が配置されている。ゴム弾性体24は、その外周面が外筒金具12の内周面における上側段差部18Aの上側に加硫接着されると共に、内周面が取付金具20の縮径部23の外周面に加硫接着されている。これにより、ゴム弾性体24は外筒金具12と取付金具20とを弾性的に連結する。
ゴム弾性体24は、その断面が取付金具20から外筒金具12へ向かって下方へ傾斜する略ハ字状に形成されている。これにより、ゴム弾性体24の下面中央部には、下方から上方へ向かって内径が狭くなる略円錐台状の凹部26が形成される。ゴム弾性体24には、その上端外周部から上側へ延出する断面矩形状のストッパ部28が一体的に形成されており、このストッパ部28は、取付金具20における延出部22の上面側に加硫接着されている。ストッパ部28は、防振装置10が車両に取り付けられた状態で、軸方向に沿ってエンジン側に大きな相対変位が生じた場合に、ブラケットステー等へ当接してエンジン側の変位を制限すると共に衝突音の発生を防止する。
ゴム弾性体24には、その下端内周部に取付金具20の下端部を覆うクッション部30が一体的に形成されると共に、その下端外周部から下方へ延出する薄肉円筒状の被覆部34が一体的に形成されている。この被覆部34は、外筒金具12における上側段差部18Aの下側を覆うように外筒金具12に加硫接着されている。また被覆部34には、外筒部材12の開口部18Cに面した部位に肉厚円板状のメンブラン32が一体的に形成されており、このメンブラン32は、内周側から開口部18C内へ嵌挿されると共に、その周縁部が外筒部材12へ加硫接着されている。これにより、開口部18Cが弾性を有する膜状部材であるメンブラン32により閉塞される。
防振装置10には、外筒金具12の内周側に全体として略肉厚円板状に形成された仕切金具36(図3参照)が嵌挿されている。仕切金具36は、その上面外周部を下側段差部18Bの下面側へ当接させると共に、外周面を被覆部34を介して外筒金具12の内周面へ圧接させている。また防振装置10には、外筒金具12の内周側における仕切金具36の下側に円環状の支持筒38が嵌挿されている。支持筒38は、その上端側を仕切金具36の下面外周部へ当接させると共に、被覆部34を介して外周面を外筒金具12の内周面へ圧接させている。防振装置10では、外筒金具12内に仕切金具36及び支持筒38が嵌挿された状態で、外筒金具12のかしめ部16が上端側から下端側へ向かって内外径が縮径するように折り曲げられる。これにより、外筒金具12内で仕切金具36及び支持筒38が段差部32(絞り部18)とかしめ部16との間に固定される。
支持筒38には、その内周側にゴム材料により薄肉円板状に成形されたダイヤフラム40が配置されており、このダイヤフラム40は、その外周縁部が全周に亘って支持筒38の内周面に加硫接着されている。これにより、外筒金具12内には、その軸方向に沿った上端側がゴム弾性体24により閉塞されると共に、下端側がダイヤフラム40により閉塞された略円柱状の空間(液室空間)が形成され、この液室空間は仕切金具36によりゴム弾性体24を隔壁の一部とする主液室42及びダイヤフラム40を隔壁とする副液室44に区画される。これらの主液室42及び副液室44内には、それぞれ水、エチレングリコール等の液体が充填される。
ここで、主液室42は、その内容積がゴム弾性体24の弾性変形に伴って変化(拡縮)し、またダイヤフラム40は、副液室44の内容積を拡縮する方向へ十分に小さい荷重(液圧)で変形可能とされている。
図5に示されるように、仕切金具36には、その外周側に樹脂やアルミニウム等の金属材料により形成されたオリフィス部材46が設けられると共に、このオリフィス部材46上に薄肉円板状の蓋部材48が配置されている。オリフィス部材46は、下面側が底板部50により閉止された肉厚の有底円筒状に形成されており、底板部50には、周方向に沿った寸法が内周側から外周側へ向かって広がる略扇状に形成された複数個(例えば、4個)の流通開口52が穿設されると共に、図3に示されるように、流通開口52の内周側に肉厚円筒状のボス部54が一体的に形成されている。
図3に示されるように、ボス部54は、その軸方向に沿った寸法が底板部50の厚さよりも大きくなっており、その外周面が底板部50の上面側から段差状に突出している。ボス部54には上面中央部に円形凹状の座受穴56が開口しており、この座受穴56には後述するコイルスプリング90の下端部が挿入される。またオリフィス部材46には、座受穴56の底面中央部から軸心Sに沿って突出する丸棒状のガイドロッド57が一体的に形成されると共に、このガイドロッド57の内周側に軸心Sに沿ってガイドロッド57の上端面とオリフィス部材46の底面との間を貫通する液圧解放路126が形成されている。
図5に示されるように、オリフィス部材46には、その外周面の上端側及び下端側にシェイク溝60及びシェイク溝62がそれぞれ周方向へ延在するように形成されると共に、これらのシェイク溝60,62の間にアイドル溝64が周方向へ延在するように形成されている。ここで、シェイク溝60及びアイドル溝64は、平面視で周方向に沿った一端部が閉塞されると共に他端部が開口した略C字状に形成されており、シェイク溝62は、オリフィス部材46の外周面を略一周に亘って周回する周方向両端部がそれぞれ閉塞されたC字状に形成されている。またシェイク溝60,62は、軸方向に沿った幅が略等しく断面積も互いに略等しくなっているが、アイドル溝64は、軸方向に沿った幅がシェイク溝60,62よりも広くなっており、その断面積がシェイク溝60,62の断面積よりも大きくなっている。
オリフィス部材46には、その外周面に軸方向に延在するように凹状の連通溝66が形成されており、この連通溝66は、その上端部がオリフィス部材46の上面外周部へ開口すると共に、下端側がシェイク溝62とアイドル溝64とを軸方向に沿って仕切った仕切板72により閉塞されている。また連通溝66の周方向に沿った片側の側端部には、シェイク溝60及びアイドル溝64の開口側の端部がそれぞれ接続されている。図1に示されるように、オリフィス部材46には、その外周面に軸方向へ延在する凹状の中間溝68が形成されており、この中間溝68は、その上端部がシェイク溝60の閉塞側の端部付近に接続されると共に、下端部がシェイク溝62の一端部付近に接続され、シェイク溝60及びシェイク溝62を互いに連通させている。またオリフィス部材46には、その下端部外周側にシェイク溝62の他端部付近とオリフィス部材46の下面との間を貫通する連通穴66が形成されている。
オリフィス部材46には、図3に示されるように、アイドル溝64における内周側の底面部とオリフィス部材46の内周面との間を貫通するオリフィス開口74が穿設されている。オリフィス開口74は、アイドル溝64の閉塞側の端部に近い部位に配置されており、図5に示されるように、周方向へ細長いスロット状に形成されている。ここで、オリフィス開口74の開口面積は、アイドル溝64の断面積以上になっている。またまたオリフィス開口74は、その内周端に沿った両端部の形状が略半円形とされており、この両端部付近での液体の流通抵抗の増加が抑制されている。またオリフィス開口74の内周縁部(エッジ部)における液体の流通方向に沿った断面形状を凸の半円状や楔状として、エッジ部での液体の流通抵抗の増加を抑制するようにして良い。
図5に示されるように、オリフィス部材46の内周側には円柱状の空間が形成され、この円柱状の空間は、後述するプランジャ部材78が収納されるシリンダ室76とされる。プランジャ部材78は肉厚円板状に形成されており、シリンダ室76を軸方向に沿って主液室42側の小空間である液圧空間130(図4参照)と副液室44側の小空間であるオリフィス空間132(図3参照)とに区画している。またプランジャ部材78は、その外周面下端側のエッジ部79がオリフィス開口74の長手方向と平行に延在している。
図3に示されるように、プランジャ部材78には、その下端面における内周側に周方向へ延在する環状溝部80が形成されると共に、この環状溝部80の内周側に肉厚円筒状の座受部86が一体的に形成されている。またプランジャ部材78には、その上端面から座受部86の下端面との間を軸心Sに沿って貫通する軸受穴84が穿設されている。プランジャ部材78には、その上端面における軸受穴84の外周側に環状凹部82が形成されており、この環状凹部82は、プランジャ部材78が後述する開放位置にある場合でも、ホルダ部材100の下面との間に一定容積の空間(液圧空間130)を形成している。
プランジャ部材78は、図3に示されるように、オリフィス部材46のシリンダ室76内へ挿入されると共に、軸受穴84内にオリフィス部材46のガイドロッド57が軸方向に沿って相対的に摺動可能になるように挿入される。これにより、プランジャ部材78は、シリンダ室76の内周面及びガイドロッド57の外周面に沿って軸方向に移動可能(スライド可能)となる。
ここで、軸受穴84が穿設されたプランジャ部材78及びガイドロッド57の一方が金属により形成されている場合には、他方を樹脂等のヤング率が所定値以上異なり、摩擦抵抗が小さい素材により形成することが好ましい。また軸受穴84の内周面及びガイドロッド57の外周面の一方又は双方に潤滑性を有し、かつ耐摩耗性が高い物質をコーティングしてスライド時の摩擦抵抗を抑制するようにしても良い。
仕切金具36には、オリフィス部材46の底板部50とプランジャ部材78の下端部との間に付勢部材としてのコイルスプリング90が配置されている。コイルスプリング90は、その上端部をプランジャ部材78の座受部86の外周側に外嵌すると共に、その下端部をオリフィス部材46の座受穴56内へ挿入している。この状態で、コイルスプリング90は、その上端面(上側座面)をプランジャ部材78における座受部86の周縁部へ圧接させると共に、下端面(下側座面)を座受穴56の底面部へ圧接させ、プランジャ部材78及び底板部50により常に圧縮状態に保持されている。これにより、コイルスプリング90はプランジャ部材78を常に上方(主液室42側)へ付勢する。
図3に示されるように、仕切金具36では、蓋部材48がオリフィス部材46の上端面に当接しており、この状態で、例えば、オリフィス部材46の上端面から突出するかしめ突起(図示省略)が蓋部材48に穿設されたかしめ穴に嵌挿され、かしめ突起の先端側が潰されることにより、蓋部材48がオリフィス部材46上にかしめ固定される。蓋部材48がオリフィス部材46に固定されることにより、オリフィス部材46のシリンダ室76の上端側が蓋部材48により閉止される。蓋部材48には、図5に示されるように、中央部に円形の嵌挿穴94が穿設されると共に、この嵌挿穴94の外周側に扇状に形成された複数個(本実施形態では、4個)の弁座開口96が形成されている。これら弁座開口96は、軸心Sを中心として対称的な位置関係(点対称)となるように配置されている。また蓋部材48には、図5に示されるように、その外周部にオリフィス部材46の連通溝66の上端側に面するように切欠部98が形成されている。これにより、シェイク溝60及びアイドル溝64は、連通溝66及び切欠部98を介してそれぞれ副液室44内へ連通する。
図5に示されるように。仕切金具36には、蓋部材48とプランジャ部材78との間に略円板状のホルダ部材100が配置されると共に、このホルダ部材100と蓋部材48との間に略円板状の弁体102が介装されている。ホルダ部材100には、図3に示されるように、その中央側に底の浅い有底円筒状とされた弁体ホルダ104が形成されると共に、この弁体ホルダ104の上端部から外周側へ延出する環状のフランジ部106が屈曲形成されている。このフランジ部106には、蓋部材48の切欠部98に面するように切欠部107が形成されている。またホルダ部材100には、弁体ホルダ104の底板部105の外周部にそれぞれ扇状に形成された複数個の連通開口108が穿設されている。底板部105の中央部には、円形の嵌挿穴112が形成されている。ここで、蓋部材48とホルダ部材100の底板部105との間には軸方向に沿った厚さが略一定とされた円板状の空間である弁体収納室114が形成され、この弁体収納室114内には弁体102が収納される。
弁体102は、NR、NBR等のゴム組成物により成形されており、その上面側が平面状とされると共に、下面側が内周側から外周側へ向って上方へ僅かに傾斜するスロープ状に形成されており、軸方向に沿った肉厚が内周側から外周側へ向って徐々に薄くなっている。また弁体102には、図5に示されるように、上面中央部に円形凸状の突起部116が形成されると共に、下面中央部にも円形凸状の突起部118が形成されている。ここで、下面側の突起部118は、その外径及び軸方向に沿った高さが上面側の突起部116よりも大きくなっており、この突起部118の下端面は平面状の閉塞面119とされており、閉塞面119の外径は、プランジャ部材78の軸受穴84の内径よりも若干大きくなっている。
弁体102は、その上面側の突起部116を蓋部材48の嵌挿穴94内へ嵌挿すると共に、下面側の突起部118をホルダ部材100の嵌挿穴112内へ嵌挿している。これにより、弁体102は、ホルダ部材100及び蓋部材48と同軸的に位置決めされると共に、径方向への移動が拘束される。このとき、突起部118は、閉塞面119をホルダ部材100における底板部105を通して液圧空間130内へ挿入する。
弁体102は、突起部116,118の周縁部付近が蓋部材48とホルダ部材100の底板部105との間で軸方向に沿って圧縮されている。これにより、弁体102は、その上面部を所定の加圧力(予圧力)で蓋部材48の下面側へ圧接させると共に、蓋部材48とホルダ部材100との間で軸方向への移動が拘束される。弁体102は、図3の2点鎖線で示されるように、圧縮状態となった部分の外周側が下方へ向って撓み変形可能となっている。
図3に示されるように、弁体102は、その外周端を径方向に沿って蓋部材48における弁座開口96の外周端よりも外周側に位置させ、かつホルダ部材100の連通開口108の外周端よりも内周側に位置させている。これにより、弁体102は、その上面部を蓋部材48に圧接させた弁座開口96を閉塞し、また、図3の2点鎖線で示されるように、外周側が下方へ撓み変形して蓋部材48から離間した状態(開状態)になると、弁座開口96が弁体収納室114を介して連通開口108に連通した状態となり、主液室42が弁体収納室114を通して仕切金具36内のシリンダ室76へ連通する。すなわち、弁体収納室114内に収納された弁体102、蓋部材48及びホルダ部材100は、主液室42とシリンダ室76との間で逆止弁128を構成しており、この逆止弁128は、主液室42からシリンダ室76(液圧空間130)内へのみ液体の流入を許容するが、液圧空間130から主液室42内への液体の流出を阻止する。
シリンダ室76のオリフィス空間132は、オリフィス部材46の複数の流通開口52を通して常に副液室44と連通している。またシリンダ室76の液圧空間130は、オリフィス部材46の中心部を貫通する液圧解放路126を通して副液室44と連通している。
図1に示されるように、防振装置10では、オリフィス部材46における連通溝66、シェイク溝60,62及びアイドル溝64の外周側がそれぞれ被覆部34を介して外筒金具12の内周面により閉塞される。これにより、シェイク溝60,62及びアイドル溝64内には、それぞれ周方向に沿って細長い空間が形成され、連通溝66、シェイク溝60,62及び連通穴66は、主液室42と副液室44とを互いに連通する第1の制限通路であるシェイクオリフィス122を形成する。また連通溝66、アイドル溝64と、オリフィス開口74を通してアイドル溝64に連通したオリフィス空間132は、主液室42と副液室44とを互いに連通する第2の制限通路であるアイドルオリフィス124を形成する。
ここで、このシェイクオリフィス122は、入力振動のうち相対的に低周波域の振動であるシェイク振動(例えば、9〜15Hz)に対応するように、その路長及び断面積、すなわち液体の流通抵抗が設定(チューニング)されている。またアイドルオリフィス124は、その液体の流通抵抗がシェイクオリフィス122における液体の流通抵抗よりも小さくなっており、この流通抵抗(断面積及び路長)が入力振動のうち相対的に低周波域の振動であるアイドル振動(例えば、18〜30Hz)に対応するように設定(チューニング)されている。
防振装置10では、図4に示されるように、プランジャ部材78が閉塞位置へ移動(下降)すると、オリフィス部材46のオリフィス開口74がプランジャ部材78の外周面により閉塞され、アイドル溝64がオリフィス空間132と非連通状態となる。これにより、主液室42と副液室44とは、シェイクオリフィス122のみを通して互いに連通する。
このとき、プランジャ部材78の外周面における下端側の領域を、軸方向に沿ってシリンダ室76の内周面におけるオリフィス開口74の下側の領域の内周側に位置(オーバラップ)させる。このとき、プランジャ部材78及びシリンダ室76の内周面とのオーバラップ量OL(図4参照)は、例えば、2.5〜3.0mm程度に設定される。このようにプランジャ部材78が閉塞位置にある状態で、プランジャ部材78とシリンダ室76の内周面とをオーバラップさせることにより、後述するように、振動入力時における液圧空間130内の液圧変化によりプランジャ部材78が軸方向に沿って微小振幅で振動しても、プランジャ部材78によりオリフィス開口74を確実に閉塞状態に維持できる。
また防振装置10では、図3に示されるように、プランジャ部材78が開放位置へ移動(上昇)すると、プランジャ部材78がオリフィス開口74から離れてオリフィス開口74が開放され、共用オリフィス部70がオリフィス空間132と連通状態となる。これにより、主液室42と副液室44とは、シェイクオリフィス122及びアイドルオリフィス124の双方を通して連通するが、主液室42内の液圧が変化した際には、主液室42内から連通溝66内へ流入した液体は、シェイク溝60よりも液体の流通抵抗が小さいアイドル溝64内を通ってオリフィス空間132内へ優先的に流入し、またオリフィス開口74を通ってアイドル溝64内へ流入した液体も、アイドル溝64よりも液体の流通抵抗が小さい連通溝66内を優先的に通って主液室42内へ抜ける。これにより、防振装置10では、プランジャ部材78が開放位置にある場合、実質的にアイドルオリフィス124のみを通って主液室42と副液室44との間で液体が流通する。
防振装置10では、コイルスプリング90の付勢力により閉塞位置にあるプランジャ部材78が開放位置側へ移動する際に、液圧解放路126を通して外部から閉じられた液圧空間130内の液体を副液室132内へ流出させつつ、プランジャ部材78を開放位置側へ移動させる。また防振装置10では、図3に示されるように、弁体102の閉塞面119がプランジャ部材78の上端面における軸受穴84の周縁部に圧接する。これにより、軸受穴84の上側の開口端が閉塞されると共に、この軸受穴84内の上側の開口端を開口する液圧解放路126も閉塞面119により閉塞される。
このとき、弁体102の突起部118は、プランジャ部材78と圧接する外周側の部分がプランジャ部材78からの加圧力(コイルスプリング90の付勢力)により軸方向へ局部的に圧縮変形される。このとき、突起部118は、その圧縮変形量が所定の予圧縮量PCとなるように、軸方向に沿った剛性が予め設定されている。なお、この予圧縮量PCは、突起部118の底板部105の下面側からの突出量以下になっている。
次に、本発明の実施形態に係る防振装置10の作用を説明する。
防振装置10では、例えば、車両におけるエンジンが作動すると、エンジンが発生した振動が取付金具20を介してゴム弾性体24に伝達され、ゴム弾性体24が弾性変形する。このとき、ゴム弾性体24は吸振主体として作用し、ゴム弾性体24の内部摩擦等に基づく吸振作用によって振動が吸収され、外筒金具12を介して車体側へ伝達される振動が低減される。また自動車等の車両では、アイドリング運転時にエンジンが相対的に高周波域の振動であるアイドル振動を発生し、また所定速度以上での走行時にはエンジンが相対的に低周波域の振動であるシェイク振動を発生する。
また防振装置10では、プランジャ部材78が、シリンダ室76の液圧空間130内の液圧によりコイルスプリング90の付勢力に抗して開放位置から閉塞位置に移動するとオリフィス開口74を閉塞させ、コイルスプリング90の付勢力により閉塞位置から開放位置へ復帰するとオリフィス開口74を開放することから、開放位置にあったプランジャ部材78が、逆止弁128を通して主液室42から液圧空間130内へ供給される液圧により閉塞位置へ移動すると、ゴム弾性体24の弾性変形に伴って、シェイクオリフィス122のみを通って主液室42と副液室44との間を液体が行き来し、また閉塞位置にあったプランジャ部材78が、コイルスプリング90の付勢力により開放位置へ復帰すると、シェイクオリフィス122及びアイドルオリフィス124の双方が開放された状態となるが、ゴム弾性体の弾性変形に伴って、液体の流通抵抗が相対的に小さいアイドルオリフィス124を優先的に通って主液室42と副液室44との間を液体が行き来する。
すなわち、防振装置10では、相対的に周波数が低く振幅が大きいシェイク振動が入力した場合には、このシェイク振動によってゴム弾性体24が弾性変形し、主液室42内に相対的に大きな液圧変化が生じると共に、主液室42内の周期的な液圧上昇時に逆止弁128を通して主液室42から液圧空間130へ液体が流入して、液圧空間130内の液圧も主液室42内の上昇時の液圧と略平衡する平衡圧まで上昇する。
ここで、防振装置10では、コイルスプリング90の付勢力がシェイク振動の入力時の液圧空間130内の液圧(平衡圧)に対応する値よりも小さく設定されており、これにより、シェイク振動の入力時には、プランジャ部材78がコイルスプリングの付勢力に抗して開放位置から閉塞位置側へ間欠的に移動し、液圧空間130内の液圧により閉塞位置へ保持される。
従って、防振装置10では、シェイク振動の入力時には、ゴム弾性体24の弾性変形に伴って、シェイクオリフィス122のみを通して主液室42と副液室44の間を液体が行き来することから、このシェイクオリフィスを通過する液体の粘性抵抗や圧力損失により入力振動(低周波域振動)を吸収できるので、エンジン側から車体側へ伝達されるシェイク振動を低減できる。
このとき、シェイクオリフィス122における液体の流通抵抗がシェイク振動の周波数及び振幅に対応するように設定(チューニング)されていることから、シェイクオリフィス122を通って主液室42と副液室44との間を行き来する液体に共振現象(液柱共振)が生じ、この液柱共振の作用によってシェイク振動を特に効果的に吸収できる。
また防振装置10では、相対的に周波数が高く振幅が小さいアイドル振動が入力した場合には、このアイドル振動によってゴム弾性体24が弾性変形すると共に、主液室42内に相対的に小さな液圧変化が生じることから、この場合にも、主液室42内の周期的な液圧上昇時に逆止弁128を通して主液室42から液圧空間へ液体が流入して、液圧空間130内の液圧が上昇して主液室42内の上昇時の液圧(最高値)と略平衡する平衡圧まで達する。
ただし、防振装置10では、コイルスプリング90の付勢力がアイドル振動の入力時における液圧空間130内の平衡圧に対応する値よりも大きく設定されており、これにより、プランジャ部材78が開放位置にあるときには、コイルスプリング90の付勢力により開放位置に保持され、また閉塞位置にある場合には、コイルスプリング90の付勢力により閉塞位置から開放位置へ移動(復帰)する。
従って、防振装置10では、アイドル振動の入力時には、ゴム弾性体24の弾性変形に伴って、シェイクオリフィス122に対して液体の流通抵抗が小さいアイドルオリフィス124を優先的に通って主液室42と副液室44との間を液体が行き来することから、このアイドルオリフィス124を流通する液体の粘性抵抗や圧力損失等により入力振動(アイドル振動)を吸収できるので、エンジン側から車体側へ伝達されるアイドル振動を低減できる。
このとき、アイドルオリフィス124における液体の流通抵抗がアイドル振動の周波数及び振幅に対応するように設定(チューニング)されていることから、アイドルオリフィス124を通って主液室42と副液室44との間を行き来する液体に共振現象(液柱共振)が生じ、この液柱共振の作用によってアイドル振動を特に効果的に吸収できる。
この結果、防振装置10によれば、電磁ソレノイドや空圧ソレノイド等の外部からの制御及び動力供給を受けて作動するバルブ機構を用いることなく、主液室42と副液室44とを連通するオリフィスを、入力振動の周波数に応じて、シェイクオリフィス122及びアイドルオリフィス124の何れか一方に、主液室42内の液圧変化を駆動力として用い切り換えることができる。
また防振装置10では、プランジャ部材78が開放位置から離脱すると、弁体102の閉塞面119がプランジャ部材78の上端面から離間し、液圧解放路126が開放されることより、入力振動がシェイク振動からアイドル振動に変化し、プランジャ部材78がコイルスプリング90の付勢力により閉塞位置から開放位置側へ移動開始する際には、閉塞面119がプランジャ部材78から離間しており、液圧解放路126が開放されているので、プランジャ部材78からの圧縮力を受けた液圧空間130内の液体が液圧解放路126を通して副液室内へ流出し、液圧空間130内の液圧の上昇が抑制され、プランジャ部材78に移動抵抗として作用する液圧空間130内の液圧を低い状態に維持できる。この結果、プランジャ部材78をコイルスプリング90の付勢力により円滑に閉塞位置から開放位置まで移動させることができる。
また防振装置10では、プランジャ部材78が閉塞位置側から開放位置に移動すると、弁体102の閉塞面119がプランジャ部材78の上端面における軸受穴84の周縁部に圧接して液圧解放路126を閉塞することにより、アイドル振動の入力時に主液室42内の液圧が変化すると共に、逆止弁128を通して主液室42から液圧空間130内へ加圧状態の液体が流入しても、液圧空間130と副液室44とを連通する液圧解放路126が閉塞面119により閉塞されているので、液圧空間130内の液体が液圧解放路126を通して副液室44内へ流出することを確実に防止できる。
この結果、アイドル振動の入力時に、主液室42内の液体が液圧空間130及び液圧解放路126を通って副液室44内へリークする現象が生じなくなるので、アイドルオリフィス124内における液体の流通量の低下を防止でき、アイドルオリフィス124を流通する液体に生じる共振現象(液柱共振)の強度低下を防止し、この液体の粘性抵抗等により得られるアイドル振動に対する減衰が低下することを防止できる。
また防振装置10では、アイドル振動の入力時に、コイルスプリング90の付勢力によりプランジャ部材78が開放位置に保持されるが、アイドル振動の入力に伴って主液室42内に周期的な液圧変化が生じると、この主液室42内の液圧上昇時に逆止弁が開放されて液圧空間内の液圧も周期的に変化する。このため、液圧空間130内の液圧を受けるプランジャ部材78には、コイルスプリング90により開放位置に付勢されていても、液圧変化に応じた軸方向に沿った微小な振動が生じる。
上記の点に対応するため、防振装置10では、閉塞面119をプランジャ部材78に圧接させた状態で、突起部118に軸方向に沿って所定の予圧縮量PCの圧縮変形を生じさせており、この予圧縮量PCが、アイドル振動の入力時に振動するプランジャ部材78の振幅よりも大きく設定されている。これにより、防振装置10では、開放位置にあるプランジャ部材78が液圧空間130内の液圧変化により振動しても、閉塞面119をプランジャ部材78の上端面における軸受穴84の周縁部に圧接した状態に維持できるので、アイドル振動の入力時に閉塞面119により液圧解放路126を確実に閉塞した状態に維持できる。
また防振装置10では、突起部118が弁体102と一体的にゴム材料により形成されていることから、閉塞面119を設けても部品点数の増加がせず、また突起部118によりプランジャ部材78がホルダ部材100の底板部105へ直接衝突しなくなるので、プランジャ部材78が底板部105へ衝突して打音が発生することも防止できる。
(第2の実施形態)
図6には本発明の第2の実施形態に係る防振装置が示されている。なお、本実施形態に係る防振装置140において、第1の実施形態に係る防振装置10と同一の部分には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係る防振装置140が第1の実施形態に係る防振装置10と異なる点は、液圧解放路142がプランジャ部材78の中心部ではなく、径方向に沿って軸受穴84と環状凹部82との間に設けられている点である。液圧解放路142は、その上側の開口端がプランジャ部材78の上端面における軸受穴84と環状凹部82の内周端との間の領域に開口すると共に、下側の開口端が環状溝部80の底面部に開口している。また弁体102の突起部118には、その下端部から外周側へ延出する円板状の閉塞部144が一体的に形成されており、この閉塞部144の上面側は底板部105の下面側に接着等により固着されている。
閉塞部144は、その下面側が平面状の閉塞面146とされており、この閉塞面146は、第1の実施形態に係る閉塞面146と同様に、プランジャ部材78が開放位置に移動すると、プランジャ部材78における液圧解放路142の開口端を含む領域に圧接して液圧解放路142を閉塞し、またプランジャ部材78が閉塞位置から開放位置側へ移動すると、プランジャ部材78の上端面から離間して液圧解放路142を開放する。また閉塞部144には、プランジャ部材78の上端面と圧接した状態で軸方向に沿って所定の予圧縮量PCの圧縮変形が生じる。この予圧縮量PCは、基本的に第1の実施形態に係る防振装置10における突起部118の予圧縮量と同一の大きさに設定できる。
次に、本発明の実施形態に係る防振装置140の作用を説明する。
防振装置140でも、第1の実施形態に係る防振装置10と同様に、電磁ソレノイドや空圧ソレノイド等の外部からの制御及び動力供給を受けて作動するバルブ機構を用いることなく、主液室42と副液室44とを連通するオリフィスを、入力振動の周波数に応じて、シェイクオリフィス122及びアイドルオリフィス124の何れか一方に、主液室42内の液圧変化を駆動力として用い切り換えることができるので、エンジン側から入力するシェイク振動及びアイドル振動の双方をそれぞれ効果的に減衰吸収し、車体側へ伝達される振動を低減できる。
また防振装置140では、プランジャ部材78が開放位置から離脱すると、閉塞部144の閉塞面146がプランジャ部材78の上端面から離間し、液圧解放路126が開放されることより、入力振動がシェイク振動からアイドル振動に変化し、プランジャ部材78がコイルスプリング90の付勢力により閉塞位置から開放位置側へ移動開始する際には、閉塞部144がプランジャ部材78から離間しており、液圧解放路126が開放されているので、プランジャ部材78からの圧縮力を受けた液圧空間130内の液体が液圧解放路126を通して副液室内へ流出し、液圧空間130内の液圧の上昇が抑制され、プランジャ部材78に移動抵抗として作用する液圧空間130内の液圧を低い状態に維持できる。この結果、プランジャ部材78をコイルスプリング90の付勢力により円滑に閉塞位置から開放位置まで移動させることができる。
また防振装置140では、プランジャ部材78が閉塞位置側から開放位置に移動すると、閉塞部144の閉塞面146がプランジャ部材78の上端面に圧接して液圧解放路142を閉塞することにより、アイドル振動の入力時に主液室42内の液圧が変化すると共に、逆止弁128を通して主液室42から液圧空間130内へ加圧状態の液体が流入しても、液圧空間130と副液室44とを連通する液圧解放路126が閉塞面146により閉塞されているので、液圧空間130内の液体が液圧解放路126を通して副液室44内へ流出することを確実に防止できる。この結果、アイドル振動の入力時に、主液室42内の液体が液圧空間130及び液圧解放路126を通って副液室44内へリークする現象が生じなくなるので、アイドルオリフィス124内における液体の流通量の低下を防止でき、アイドルオリフィス124を流通する液体に生じる共振現象(液柱共振)の強度低下を防止し、この液体の粘性抵抗等により得られるアイドル振動に対する減衰が低下することを防止できる。
また防振装置140では、アイドル振動の入力時に、プランジャ部材78が軸方向に沿って振動しても、プランジャ部材78の上端面に圧接した閉塞部144に所定の予圧縮量PCの圧縮変形が生じていることから、閉塞面146をプランジャ部材78の上端面に圧接した状態に維持できるので、アイドル振動の入力時に閉塞面146により液圧解放路126を確実に閉塞した状態に維持できる。
また防振装置10では、閉塞部144が弁体102と一体的にゴム材料により形成されていることから、閉塞部144を設けても部品点数の増加がせず、また閉塞部144によりプランジャ部材78がホルダ部材100の底板部105へ直接衝突しなくなるので、プランジャ部材78が底板部105へ衝突して打音が発生することも防止できる。
なお、本実施形態に係る防振装置10,140では、閉塞面119が形成された突起部118又は閉塞面146が形成された閉塞部144をゴム材料により弁体102と一体成形し、これらに弾性を付与したが、むろん、突起部118又は閉塞部144を弁体102から分離された部品として構成しても良く、またプランジャ部材78の上端面における軸受穴84又は液圧解放路142の外周側に弾性リングを固着し、プランジャ部材78が開放位置へ移動すると、弾性リングをホルダ部材100の底板部105に圧接させることにより、液圧解放路126,142を閉塞するようにしても良い。
また防振装置10,140では、2本のオリフィス(第1の制限通路及び第2の制限通路)の一方をシェイク振動に対応するシェイクオリフィス122とし、他方をアイドル振動に対応するアイドルオリフィス124としたが、2本の第1の制限通路及び第2の制限通路を必ずしもシェイク振動及びアイドル振動に対応させる必要はなく、第1の制限通路が相対的に低い周波域の振動に対応するものとなり、第2の制限通路が相対的に高い周波域の振動に対応するものとなれば良い。また防振装置10では、取付金具20をエンジン側に連結すると共に、外筒部材12を車体側に連結するように構成したが、これとは逆に、取付金具20を車体側に連結すると共に、外筒部材12をエンジン側に連結するようにしても良い。
また本実施形態に係る防振装置10,140では、主液室42内の液圧上昇時に逆止弁128を通して液体を主液室42から液圧空間130内へ供給し、この液圧空間130内の液圧を主液室42の液圧上限値に対応する平衡圧に上昇させ、シェイク振動の入力時に、液圧空間130の液圧(正圧)によりプランジャ部材78を開放位置から閉塞位置へ移動させていたが、これとは逆に、逆止弁を液圧空間130から主液室42へのみ液体が流出させ得るように構成し、主液室42内の液圧低下時に、この逆止弁を通して液体を液圧空間130から主液室42内へ流出させることにより、液圧空間130内の液圧を主液室42の液圧下限値に対応する平衡圧まで低下させ、シェイク振動の入力時に、液圧空間130の液圧(負圧)によりプランジャ部材78を開放位置から閉塞位置へ移動させるようにして良い。
上記の場合には、防振装置10,140は、プランジャ部材78がコイルスプリング90により軸方向に沿って下方へ付勢し、このプランジャ部材78が下限位置(開放位置)にある状態で、オリフィス開口74が開放され、液圧空間130内の負圧の作用によりコイルスプリング90の付勢力に抗して下限位置から上限位置(閉塞位置)へ上昇すると、オリフィス開口74が開放されるように構成される。