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JP4782058B2 - 高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法および高強度軟磁性複合圧密焼成材 - Google Patents

高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法および高強度軟磁性複合圧密焼成材 Download PDF

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Description

本発明は、モータ、アクチュエータ、リアクトル、トランス、チョークコア、磁気センサコアなどの各種電磁気回路部品の素材として使用される高強度軟磁性複合圧密焼成材およびその製造方法に関する。
従来、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心用材料として、鉄粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末( 以下、これらを軟磁性金属粒子と総称する)を焼結して得られた軟磁性焼結材が知られている。この種の軟磁性焼結材にあっては、磁束密度が高い反面、比抵抗が低いために、高周波特性が悪いという問題がある。そこで比抵抗を高めて高周波特性を向上させるために、軟磁性金属粒子を水ガラスまたは低融点ガラスにより結合した圧粉軟磁性材料などが提案されている(特許文献1または特許文献2参照)。
しかし、前記軟磁性金属粒子を水ガラスまたは低融点ガラスで結合した複合軟磁性焼結材は、軟磁性金属粒子と水ガラスまたは低融点ガラスとは密着性が悪いために、軟磁性金属粒子を水ガラスまたは低融点ガラスで結合して強度を確保しようとすると、水ガラスまたは低融点ガラスの中に軟磁性金属粒子が分散する程度に大量の水ガラスまたは低融点ガラスと混合しなければならず、このように水ガラスまたは低融点ガラスを大量に使用して得られた圧粉軟磁性材料の比抵抗は大きくなるものの磁束密度が極端に低下し、モータ、アクチュエータ、磁気センサの磁心など各種電子部品の材料として使用することができない問題があった。
そこで、高磁束密度と高比抵抗の両立を図る目的において、軟磁性金属粒子相とこれを包囲する粒界相からなり、前記粒界相が六方晶構造を有するZnO型相、立方晶構造を有するFeとZnの混合酸化物相およびガラス相とからなり、前記六方晶構造を有するZnO型相が前記軟磁性金属粒子相に接して分散されており、前記ガラス相が前記立方晶構造を有するFeとZnの混合酸化物相が前記ZnO型相に接して分散されており、前記ガラス相が前記立方晶構造を有するFeとZnの混合酸化物相に接して挟まれて分散されている組織を有する複合軟磁性焼結材が提供されている。(特許文献3参照)
一方、化学メッキなどの化学的な方法あるいは塗布法などによりMg含有フェライト膜を被覆したMg含有酸化鉄被覆鉄粉末を低融点ガラス粉末とともに混合してから圧密形成し、熱処理して圧粉磁性材を製造する方法も知られている。(特許文献4参照)
特開平5−258934号公報 特開昭63−158810号公報 特開2004−253787号公報 特開2004−297036号公報
前記特許文献3に記載されている複合軟磁性焼結材によれば、FeとZnの混合酸化物相が600℃を越える温度で加熱すると分解してしまう問題がある。しかし、この分解が生じない程度の温度での焼成、例えば、600℃での焼成では特許文献3に記載されているガラス粉末は溶融しないために、軟磁性金属粒子相同士の結着性を高めることが難しく、高強度の軟磁性複合圧密焼成材を得ることが難しかった。
また、ガラス粉末を酸化亜鉛被覆軟磁性金属粒子に添加混合して成形すると、ガラス粉末−酸化亜鉛被膜(絶縁層)の摩擦が発生し、酸化亜鉛被膜が損傷しやすいために、高比抵抗の軟磁性複合圧密焼成材を得ることが難しかった。
一方、Mg含有酸化鉄被覆鉄粉末を圧密焼成してなる軟磁性複合圧密焼成材では、軟磁性金属粒子の表面にMg含有フェライト膜を化学的方法によって被覆しているために、フェライト膜が不安定となり変化して絶縁性が低下するとともに、軟磁性金属粒子の表面に対するMg含有フェライト膜の密着性が充分ではなくなり、Mg含有酸化鉄膜被覆粉末を低融点ガラスとプレス成形した後に焼成しても、充分な強度の軟磁性複合圧密焼成材を提供することができなくなるおそれがあった。
本発明は前記の問題に鑑みて創案されたものであり、その目的は、600℃を越える温度、例えば700℃での焼成を可能とする耐熱性に優れるMgO被膜を備えた構造とすることで高比抵抗を維持しながら歪取り焼鈍が可能で低保磁力とすることが可能であり、また、軟磁性金属粒子同士を結合する界面をFeを主体とする酸化鉄を含む低融点ガラスまたは金属酸化物の粒界層で充填することで軟磁性金属粒子同士を強く結合することができ、高い抗折強度を発揮する高強度軟磁性複合圧密焼成材の提供を目的とする。
本発明者らは、Fe系の軟磁性焼結材の研究を行い、プレス成形時においても絶縁被膜が破壊されることがない技術の一例として、Mg含有酸化物被覆型の軟磁性粉末を提供している。
即ち、Fe系の軟磁性粉末を予め酸化雰囲気中で加熱することにより軟磁性粉末の表面に酸化鉄の膜を形成した酸化処理軟磁性粉末を作製し、この酸化処理軟磁性粉末にMg粉末を添加し、造粒転動攪拌混合装置で混合して得られた混合粉末を不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中において加熱するなどしたのち、更に、必要に応じて酸化性雰囲気中で加熱する酸化処理を施す技術である。この技術によれば、一般に知られているMgO−FeO−Fe系の中で代表される(Mg,Fe)O、(Mg,Fe)などのMg−Fe−O三元系各種酸化物のうちで、少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が軟磁性粉末粒子の表面に形成されたものを得ることができる。
この少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜をFe系の軟磁性粉末の表面に形成したMg含有酸化物被覆軟磁性粉末にあっては、Fe系の軟磁性粉末に対する酸化膜の密着性が従来材料に比べて格段に優れていることから、プレス成形時に絶縁皮膜である酸化膜が破壊されることが少なく、酸化膜がFe系の軟磁性粉末同士の間に確実に存在するので、プレス成形後に高温歪取り焼成を行っても酸化膜の絶縁性が低下することがなく、高比抵抗を維持できるので、渦電流損失が低くなり、更に歪取り焼成後に保磁力を低減できることから、ヒステリシス損失を低く抑えることができ、従って低損失の軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる技術であった。
本発明者らはこの技術に着目し、前述のMg含有酸化物被覆軟磁性粉末を圧密成形して得られる圧密材を研究したところ、本願発明に到達した。
(1)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、
Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子と、Siレジン、低融点ガラス、金属酸化物の少なくとも1種とを混合して圧密し、非酸化性雰囲気において焼成処理して軟磁性複合圧密焼成材の前駆体とした後、酸化性雰囲気において400℃〜600℃のスチーム雰囲気または大気中において熱処理することにより、Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子を、前記の如く混合したSiレジン、低融点ガラス、金属酸化物の少なくとも1種の成分を含み、Fe あるいはFeOを主体とする酸化鉄を含む充填物からなる粒界層を介し複数結合してなる焼成体とすることを特徴とする。
(2)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、前記Mg含有酸化膜の膜厚を20〜80nmの範囲とし、前記焼成処理を550℃を越える温度〜650℃で行い、前記熱処理を400〜560℃の温度範囲で行うことを特徴とする。
(3)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、前記Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子間の粒界層に存在する酸化鉄を、前記Fe系の軟磁性金属粒子からFe成分を粒界に析出させて酸化物として分散成長させたものとすることを特徴とする。
(4)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、前記非酸化性雰囲気として、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気、あるいは水素ガス雰囲気とすることを特徴とする。
(5)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、前記非酸化性雰囲気において焼成処理することにより、粒界層にMgとFeを含む(Mg,Fe)Oのウスタイトを生成させ、前記酸化性雰囲気において熱処理することにより前記ウスタイトを含む粒界層を酸化鉄を含むシリコン酸化物を含む充填物とすることを特徴とする。
(6)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、前記Fe系の軟磁性金属粒子として、Feに、Si、Al、Ni、Cr、Co、Vのうちの少なくとも1種以上を添加してなるものを用いることを特徴とする。
(7)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法は、 前記金属酸化物として、Al、B、Sb、MoOのいずれかからなるものを用いることを特徴とする。
(8)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材は、Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子が、Siレジン、低融点ガラスまたは金属酸化物との圧密焼成物に酸化鉄を分散させた粒界層を介し複数結合されてなり、前記酸化鉄がFe あるいはFeOを主体とするものであって、前記Siレジン、低融点ガラスまたは金属酸化物との混合圧密後の非酸化性雰囲気中における焼成処理と、その後の酸化性雰囲気中における熱処理によりFe系の軟磁性金属粒子から焼成物に分散され成長されたものであることを特徴とする
(9)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材は、前記Mg含有酸化膜が20〜80nmの厚さであり、前記焼成処理が550℃を越える温度〜650℃でなされた処理であり、前記熱処理が400〜560℃の温度範囲でなされた処理であることを特徴とする。
10)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材は、前記Fe系の軟磁性金属粒子が、Feに、Si、Al、Ni、Cr、Co、Vのうちの少なくとも1種以上を添加してなる組成系とされてなることを特徴とする。
11)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材は、前記Mg含有酸化膜が(Mg,Fe)Oを主体として構成され、前記低融点ガラスがBi−B、SnO−P、SiO−B−ZnO、SiO−B−RO、LiO−ZnOのいずれかからなることを特徴とする。
12)上記目的を達成するために本発明の高強度軟磁性複合圧密焼成材は、前記Mg含有酸化膜が(Mg,Fe)Oを主体として構成され、前記金属酸化物がAl、B、Sb、MoOのいずれかからなることを特徴とする。


本発明の製造方法においては、Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆したMg含有酸化物被覆膜とを良好な密着性でもって形成することができ、更にMg含有酸化物被覆膜を備えたFe系の軟磁性金属粒子どうしを、それらの粒界層に存在する前記の如く混合したSiレジン、低融点ガラス、金属酸化物のいずれかの成分を含む粒界層で接合し、しかも接合部分の粒界に酸化鉄を分散成長させているので、粒界層とMg含有酸化物被覆膜との密着力も高いものとできるので、高強度な軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる。
しかも、前記Mg含有酸化物被覆膜は圧密成形後もFe系の軟磁性金属粒子の周囲に確実に存在させることができるので高い比抵抗を得ることができ、渦電流損失の低い軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる。
本発明の製造方法により得られた軟磁性複合圧密焼成材は、高密度、高強度、高比抵抗および高磁束密度を有するので、本発明の軟磁性複合圧密焼成材は、高強度と高磁束密度、かつ、高周波低鉄損の特徴を兼ね備えた優れたものであり、これらの特徴を生かした各種電磁気回路部品の材料として使用できる。
前記電磁気回路部品として、例えば、磁心、電動機コア、発電機コア、ソレノイドコア、イグニッションコア、リアクトルコア、トランスコア、チョークコイルコアまたは磁気センサコアなどとしての利用が可能であり、いずれにおいても優れた特性を発揮し得る電磁気回路部品を提供できる。
そして、これら電磁気回路部品を組み込んだ電気機器には、電動機、発電機、ソレノイド、インジェクタ、電磁駆動弁、インバータ、コンバータ、変圧器、継電器、磁気センサシステム等があり、これら電気機器の高効率高性能化や小型軽量化を行うことができる効果がある。
本発明ではまず、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が軟磁性金属粒子の表面に被覆形成されたMg含有酸化物被覆軟磁性粒子(粉末)を作製する。
この被覆軟磁性金属粒子を得るためには、以下の各種の原料粉末を用い、後述する(A)〜(D)に記載の方法のいずれかを選択して実施すれば良い。
この発明のMg含有酸化物被覆軟磁性金属粒子の製造方法において使用する原料粉末としてのFe系軟磁性金属粒子は、従来から一般に知られている鉄粉末、絶縁処理鉄粉末、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Co系鉄基軟磁性合金粉末、Fe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末またはFe−P系鉄基軟磁性合金粉末であることが好ましい。
更に具体的には、鉄粉末は純鉄粉末であり、絶縁処理鉄粉末は、リン酸塩被覆鉄粉末、またはシリカのゾルゲル溶液(シリケート)もしくはアルミナのゾルゲル溶液などの湿式溶液を添加し混合して鉄粉末表面に被覆したのち乾燥して焼成した酸化ケイ素もしくは酸化アルミニウム被覆鉄粉末であり、Fe−Al系鉄基軟磁性合金粉末はA1:0.1〜20%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Al系鉄基軟磁性合金粉末(例えば、Fe−15%Alからなる組成を有するアルパーム粉末)であることが好ましい。
また、Fe−Ni系鉄基軟磁性合金粉末はNi:35〜85%を含有し、必要に応じてMo:5%以下、Cu:5%以下、Cr:2%以下、Mn:0.5%以下の内の1種または2種以上を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるニッケル基軟磁性合金粉末(例えば、Fe−49%Ni粉末)であり、Fe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末はCr:1〜20%を含有し、必要に応じてAl:5%以下、Nil5%以下の内の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Cr系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−Si系鉄基軟磁性合金粉末は、Si:0.1〜10%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Si系鉄基軟磁性合金粉末であることが好ましい。
また、Fe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末は、Si:0.1〜10%、Al:0.1〜20%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Si−Al系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−C−V系鉄基軟磁性合金粉末は、C:0.1〜52%、V:0.1〜3%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Co−V系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−C系鉄基軟磁性合金粉末は、C:0.1〜52%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−Co系鉄基軟磁性合金粉末であり、Fe−P系鉄基軟磁性合金粉末は、P:0.5〜1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるFe−P系鉄基軟磁性合金粉末(以上、%は質量%を示す)であることが好ましい。
そして、これらFe系の軟磁性金属粒子は平均粒径:5〜500μmの範囲内にある軟磁性金属粒子を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が5μmより小さすぎると、粉末の圧縮性が低下し、軟磁性金属粒子の体積割合が低くなるために磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が500μmより大きすぎると、軟磁性金属粒子内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下することによるものである。
(A)これらの各種軟磁性金属粒子のいずれかを原料粉末とし、酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持する酸化処理を施した後、この原料粉末にMg粉末を添加し混合して得られた混合粉末を温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で加熱し、さらに必要に応じて酸化雰囲気中、温度:50〜400℃で加熱すると、軟磁性金属粒子表面にMgを含む酸化絶縁被膜を有するMg含有酸化物被覆軟磁性粒子(粉末)が得られる。
このMg含有酸化物被覆軟磁性粒子は、従来のMgフェライト膜を形成したMg含有酸化物被覆軟磁性粒子に比べて密着性が格段に優れたものとなり、このMg含有酸化物被覆軟磁性粒子をプレス成形して圧粉体を作製しても絶縁被膜が破壊し剥離することが少なく、また、このMg含有酸化物被覆軟磁性粒子の圧粉体を温度:400〜1300℃で焼成して得られた軟磁性複合圧密焼成材は粒界にMg含有酸化膜が均一に分散し、粒界三重点にMg含有酸化膜が集中して分散することのない組織が得られる。
前述の製造方法の場合、酸化処理した軟磁性金属粒子を原料粉末とし、この原料粉末にMg粉末を添加し混合して得られた混合粉末を温度:150〜1100℃、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの不活性ガス雰囲気または真空雰囲気中で加熱するには、前記混合粉末を転動させながら加熱することが好ましい。
(B)前記軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持することにより軟磁性粉末の表面に酸化物を形成した酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃保持の条件で加熱し、さらにMg粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜800℃保持の条件で加熱すると、軟磁性粉末の表面にMg−Si含有酸化膜が形成されたMg−Si含有酸化物被膜軟磁性粉末が得られ、この方法で作製したMg−Si含有酸化物被膜軟磁性粉末を用いて作製した複合軟磁性焼結材は、従来のSiOを生成する化合物とMgCOまたはMgOの粉末からなる混合物を圧縮成形し焼結して得られた複合軟磁性焼結材よりも密度、抗折強度、比抵抗および磁束密度が優れている。
(C)前記軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持することにより軟磁性金属粒子の表面に鉄の酸化膜を形成した酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素粉末およびMg粉末を同時に添加し混合した後、または、混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜1200℃保持の条件で加熱すると、軟磁性金属粒子の表面にMg−Si含有酸化物膜が形成されたMg−Si含有酸化物被膜軟磁性粉末が得られる。この方法で作製したMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末を用いて作製した複合軟磁性焼結材は、従来のSiOを生成する化合物とMgCOまたはMgOの粉末からなる混合物を圧縮成形し焼結して得られた複合軟磁性焼結材よりも密度、抗折強度、比抵抗および磁束密度を優れさせることができる。
(D)前記軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中で室温〜500℃に保持することにより軟磁性金属粒子の表面に鉄の酸化膜を形成した酸化物被覆軟磁性粉末にMg粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:400〜800℃保持の条件で加熱すると軟磁性粉末の表面にMg含有酸化膜が形成されたMg含有酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
このMg含有酸化物被覆軟磁性粉末にさらに一酸化ケイ素粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃保持の条件で加熱するすると、軟磁性粉末の表面にMg−Si含有酸化物膜が形成されたMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末が得られ、この方法で作製したMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末を用いて作製した複合軟磁性焼結材であれば、従来のSiOを生成する化合物とMgCOまたはMgOの粉末からなる混合物を圧縮成形し焼結して得られた複合軟磁性焼結材よりも密度、抗折強度、比抵抗およぴ磁束密度が優れさせることができる。
前記一酸化ケイ素粉末の添加量は0.01〜1質量%の範囲内にあることが好ましく、前記Mg粉末の添加量は0.05〜1質量%の範囲内にあることが好ましい。
前記真空雰囲気は、圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの真空雰囲気であることが好ましい。
前記の製造方法に用いる一酸化ケイ素(SiO)粉末は、酸化ケイ素の内でも最も蒸気圧が高い酸化物であるところから、加熱により軟磁性金属粒子の表面に酸化ケイ素成分を蒸着させ易く、蒸気圧の低い二酸化ケイ素(SiO)粉末を混合して加熱しても軟磁性金属粒子の表面に十分な厚さの酸化ケイ素膜が形成されないおそれがある。酸化物被覆軟磁性粉末に一酸化ケイ素(SiO)粉末を添加し混合した後または混合しながら真空雰囲気中、温度:600〜1200℃に保持することにより軟磁性金属粒子の表面にSiOx(ただし、x;1〜2)膜を形成した酸化ケイ素膜被覆軟磁性粉末が生成し、この酸化ケイ素膜被覆軟磁性粉末にさらにMg粉末を添加し混合しながら真空雰囲気中で加熱すると、Mg−Si−Fe−OからなるMg−Si含有酸化物膜が軟磁性粉末に被覆したMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末が得られる。
前述の酸化物被覆軟磁性粉末は、軟磁性金属粒子を酸化雰囲気中(例えば、大気中)、温度:室温〜500℃に保持することにより軟磁性粉末の表面に鉄酸化膜を形成して作製することができる。そして、この鉄酸化膜はSiOおよび/またはMgの被覆性を向上させる効果がある。酸化物被覆軟磁性粉末を作製する際に酸化雰囲気中で500℃を越えて加熱すると、軟磁性金属粒子が凝集して軟磁性金属粒子の集合体が生成し、焼結したりして均一な表面酸化ができなくなるので好ましくない。したがって、酸化物被覆軟磁性粉末の製造時の加熱温度は室温〜500℃に定めた。一層好ましい範囲は室温〜300℃である。酸化雰囲気は乾燥した酸化雰囲気であることが一層好ましい。
この発明で用いるMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末において、酸化物被覆軟磁性粉末に添加するSiO粉末量を0.01〜1質量%に限定したのは、SiO粉末の添加量が0.01質量%未満では酸化物被覆軟磁性粉末の表面に形成される酸化ケイ素膜の厚さが不足するのでMg−Si含有酸化物膜に含まれるSiの量が不足し、したがって、比抵抗の高いMg−Si含有酸化物膜が得られないので好ましくなく、一方、1質量%を越えて添加すると、形成されるSiOx(x;1〜2)酸化ケイ素膜の厚さが厚くなり過ぎて、得られたMg−Si含有酸化物被覆軟磁性金属粒子を圧粉し焼成して得られた軟磁性複合圧密焼成材の密度が低下するようになるおそれがある。
また、この発明のMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法において、Mg粉末の添加量を0.05〜1質量%に限定したのは、Mg粉末の添加量が0.05質量%未満では酸化物被覆軟磁性粉末の表面に形成されるMg膜の厚さが不足してMg−Si含有酸化物膜に含まれるMgの量が不足し、従って、十分な厚さのMg−Si酸化物膜が得られないので好ましくなく、一方、1質量%を越えて添加すると、形成されるMg膜の厚さが厚くなり過ぎて、得られたMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末を圧粉し焼成して得られた軟磁性複合圧密焼成材の密度が低下するようになるので好ましくないからである。
この発明で用いるMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法において、酸化物被覆軟磁性粉末にSiO粉末、Mg粉末またはSiO粉末およびMg粉末の混合粉末を添加し混合する条件を温度600〜1200℃の真空雰囲気としたのは、600℃未満で加熱してもSiOの蒸気圧が小さいために十分な厚さのSiO膜またはMg−Si含有酸化物被膜が得られないためであり、一方、1200℃を越えて混合すると軟磁性粉末が焼結するようになって所望のMg−Si含有酸化物被覆軟磁性粉末が得られないので好ましくないからである。また、その時の加熱雰囲気は圧力:1×10−12〜1×10−1MPaの真空雰囲気中であることが好ましく、更に転動しながら加熱することが一層好ましい。
酸化物被覆軟磁性粉末を作製するときに使用する軟磁性金属粒子は平均粒径:5〜500μmの範囲内にある軟磁性粉末を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が5μmより小さすぎると、粉末の圧縮性が低下し、軟磁性粉末の体積割合が低くなるために磁束密度の値が低下するので好ましくなく、一方、平均粒径が500μmより大きすぎると、軟磁性粉末内部の渦電流が増大して高周波における透磁率が低下することによるものである。
軟磁性金属粒子の酸化処理は、Mgの被覆性を向上させる効果があり、酸化雰囲気中、温度150〜500℃または蒸留水または純水中、温度:50〜100℃に保持することにより行う。この場合、いずれも50℃未満では効率的でなく、一方、酸化雰囲気中で500℃を越えて保持すると焼結が起るために好ましくないからである。酸化雰囲気は乾燥した酸化雰囲気であることが一層好ましい。
「堆積膜」という用語は、通常、真空蒸着やスパッタされた皮膜構成原子が例えば基板上に堆積された皮膜を示すが、本発明において用いる堆積膜とは、酸化鉄膜を有するFe系軟磁性粉末の酸化鉄(Fe−O)とMgが反応を伴って当該Fe系軟磁性金属粒子表面に堆積した皮膜を示す。このFe系軟磁性金属粒子の表面に形成されているMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜の膜厚は、圧粉成形後に軟磁性複合圧密焼成材の高磁束密度と高比抵抗を得るために、5nm〜500nmの範囲内にあることが好ましい。ここでの膜厚が5nmより薄いと、圧粉成形した軟磁性複合圧密焼成材の比抵抗が充分ではなく、渦電流損失が増加するので好ましくなく、膜厚が500nmを越える厚さでは、圧粉成形した軟磁性複合圧密焼成材の磁束密度が低下するので好ましくない。このような範囲において更に好ましい膜厚は、5nm〜200nmの範囲内である。
前述の方法により作製されたMg含有酸化物被覆軟磁性粒子は、その表面にMg含有酸化膜が形成され、このMg含有酸化膜は酸化ケイ素や酸化アルミニウムと反応して複合酸化物が形成され、軟磁性粉末の粒界に高抵抗を有する複合酸化物が介在した高比抵抗を有する軟磁性複合圧密焼成材が最終的に得られるとともに、酸化ケイ素や酸化アルミニウムを介して焼結されるために機械的強度の優れた軟磁性複合圧密焼成材を製造することができる。この場合、酸化ケイ素や酸化アルミニウムが主体となって焼結されるところから保磁力を小さく保つことができ、したがって、ヒステリシス損の少ない軟磁性複合圧密焼成材を製造することができる、前記焼成は、不活性ガス雰囲気中あるいは非酸化性ガス雰囲気中において、温度:400〜1300℃で行われることが好ましい。
「軟磁性複合圧密焼成材の製造」
以上説明した方法により前述の如く作製したMg含有酸化物被覆軟磁性粒子を使用して軟磁性複合圧密焼成材を製造するには、まず、前述の方法で作製したMg含有酸化物被覆軟磁性粒子に絶縁性の結着材としてのSiレジン、低融点ガラスあるいは金属酸化物のいずれかを混合してから通常の方法で圧粉成形し、不活性ガス雰囲気中、あるいは、非酸化性雰囲気中において焼成して軟磁性複合圧密焼成材の前駆体を製造する。
そして、この焼成後、先の前駆体を後述する如く、スチーム雰囲気、大気などの酸化性雰囲気中において400〜600℃の範囲内の温度で熱処理することにより、本発明で目的とする軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる。
前述の方法により作製したMg含有酸化物被覆軟磁性粒子に、Siレジン、あるいは、Bi−B、SnO−P、SiO−B−ZnO、SiO−B−RO、LiO−ZnOのいずれかからなる低融点ガラスを規定量配合する。
Siレジンの添加量は、0.2〜1.5質量%の範囲内とすることができる。
あるいは、先のSiレジンあるいは低融点ガラスに代えて、Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子に、酸化アルミニウム、酸化棚素、酸化バナジウム、酸化ビスマス、酸化アンチモンおよび酸化モリブデンの内の1種または2種以上の金属酸化物をB、V、Bi、Sb、MoO換算で0.05〜1質量%の範囲内で配合し、混合した後に圧粉成形し、得られた圧粉成形体を温度:500〜1000℃で非酸化性雰囲気中において焼成し、軟磁性複合圧密焼成材の前駆体を製造し、その後において酸化性雰囲気中において熱処理することにより軟磁性複合圧密焼成材を作製することができる。また、金属酸化物としてステアリン酸亜鉛を用いることもできる。
先の焼成雰囲気として例えば、窒素ガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気、あるいは水素ガス雰囲気などの非酸化性雰囲気を選択することができる。
本発明では、先の軟磁性複合圧密焼成材の前駆体の抗折強度を高めるなどの目的において、スチーム雰囲気などの酸化性雰囲気中において、400℃〜600℃の温度範囲内に加熱する熱処理を施している。
ここでの酸化性雰囲気における熱処理により、前駆体における(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜を軟磁性金属粒子の表面に被覆形成した被覆軟磁性金属粒子(粉末)と、それらの界面に存在する(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が変成し、軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化物とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子が、酸化鉄を含むシリコン酸化物(例えば、FeあるいはFeOを主体とする酸化鉄を含むSiレジンなどのシリコン酸化物)、低融点ガラスの成分を含む酸化物、Mgを含有する鉄酸化物のいずれかを主体とする粒界層を介し複数結合されてなる構造となり、最終的に目的とする軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる。
前述の酸化性雰囲気として好ましくは、400℃〜600℃のスチーム雰囲気を選択できるが、この他に、大気中などの酸化性雰囲気中において前述の温度範囲内に熱処理する条件でも差し支えない。
前述のスチーム雰囲気における加熱処理条件として、400℃未満の温度とすると、Feの形成が促進されず、強度が発現しない問題があり、逆に600℃を越える加熱条件とすると、FeOの形成と分解(4FeO→Fe+Fe)により強度が発現しないおそれがある。
前述のスチーム雰囲気中においてFeを主体とする酸化鉄がSiレジンの内部に拡散し成長するのは、成形時に生じた微小な亀裂やMgO膜を構成する結晶粒の粒間をFeが拡散するのが原因ではないかと考えられる。この拡散したFeが酸化雰囲気熱処理の過程で酸化してFeを主体とする酸化鉄が成長し粒界を充填するか、または、Feに加えて一部FeOを含む粒界層を充填し、強度が向上すると考えられる。
以上説明の方法により得られた軟磁性複合圧密焼成材は、前記複数のMg含有酸化物被覆軟磁性粒子の粒界層を介する結合が、前記軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子と、前述の低融点ガラスまたは金属酸化物との混合圧密熱処理により得られた結合であり、前記Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子間の粒界層に存在する酸化鉄が、前記軟磁性金属粒子から粒界にFe成分が析出され酸化物とされて分散成長されたものであり、前記粒界層に隣接するMg含有酸化膜が、前記混合圧密焼成処理以前のMg含有酸化物被覆軟磁性粒子に備えられていたMg含有酸化膜から得られたものである。
前記Mg含有酸化膜被覆軟磁性粒子を囲む粒界層にあっては、酸化鉄を含むシリコン酸化物(例えば、FeあるいはFeOを主体とする酸化鉄を含むSiレジンなどのシリコン酸化物)、低融点ガラスの成分を含む酸化物、Mgを含有する鉄酸化物のいずれかを主体とする組織を有する。
図1はこの種の軟磁性複合圧密焼成材の一例の組織を拡大した図を示すが、Fe系の軟磁性金属粒子1の表面を覆うようにMg含有酸化膜2を形成してMg含有酸化物被覆軟磁性粒子3が形成され、複数のMg含有酸化物被覆軟磁性粒子3が粒界層5を介し接合されて軟磁性複合圧密焼成材が構成されている。
なお、前述した如く軟磁性複合圧密焼成材は、複数のMg含有酸化物被覆軟磁性粒子1を圧密し、焼成と熱処理を施して製造されるので、Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子1は不定形であり、かつ、その表面の全面にMg含有酸化膜2が形成されていることが望ましいが、圧密と成形の状態によってはMg含有酸化物被覆軟磁性粒子1の表面に部分的にMg含有酸化膜2が形成されていない部位の存在も考えられるが、少なくとも軟磁性複合圧密焼成材全体として見た場合の比抵抗が低下しないように各Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子1がMg含有酸化膜2で覆われていることが望ましい。その意味から見ると、図1のように3つのMg含有酸化物被覆軟磁性粒子1が集合している粒界三重点の界面においては粒界層5が他の部分の粒界層5よりも厚いものである場合、あるいは部分的にMg含有酸化膜2の厚さに差異があったり、部分的に被覆不足の部分が生じていたとしても、本発明に係る軟磁性複合圧密焼成材の全体として比抵抗が高ければ差し支えない。
以上の製造方法により得られた軟磁性複合圧密焼成材は高密度、高強度、高比抵抗および高磁束密度を有し、この軟磁性複合圧密焼成材は、高磁束密度で高周波低鉄損の特徴を有する事からこの特徴を生かした各種電磁気回路部品の材料として使用できる。
また、以上の製造方法により得られた軟磁性複合圧密焼成材にあっては、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜とその界面に存在する低融点ガラスあるいは金属酸化物を酸化雰囲気において焼成することにより、成長させたFeを主体とする酸化鉄を含む低融点ガラスの成分を含む粒界層、または、Feを主体とする酸化鉄を含む金属酸化物を主体とする粒界層を備えているので、特にMg含有酸化物被覆軟磁性粒子同士の接合が良好になされていて、抗折強度を更に高くすることができ、高強度軟磁性複合圧密焼成材を得ることができる。その上、本製造方法により得られた軟磁性複合圧密焼成材は、高磁束密度で高周波低鉄損の特徴を兼ね備える優れた特徴を有する。
粒径100〜200μmの軟磁性粉末(純鉄粉末)に対して大気中220℃にて加熱処理を0〜60分間行った。ここでMgO膜は前段の220℃大気中加熱処理で生成される酸化膜厚に比例するので、Mgの添加量は必要最小限度で良く、鉄粉に対して0.1質量%のMg粉末を配合し、この配合粉末をアルゴンガス雰囲気中、造粒転動攪拌混合装置によって転動することによりMg含有酸化物被覆軟磁性粒子を作製した。
Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子の外周面に形成されている(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜(表1にはMgO膜と略記する)の膜厚を測定した結果を表1に示す。この膜の膜厚は、前述の大気中加熱処理で生成される酸化膜厚に比例するので、MgO膜厚20〜80nmのものを試験試料として用いた。
前記各MgO膜厚の試料に対し、Siレジンを質量%で表1に示す如く0.3〜1.5%の範囲で添加し、表1に示す成形圧力、焼成条件にて焼成した。
Figure 0004782058
表1に示す焼成条件で焼成することにより、(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜とその界面に存在するSiレジンによる軟磁性複合圧密焼成材の前駆体を得た後、更にスチーム雰囲気あるいは大気中において、即ち、酸化性雰囲気中において、表2に示す温度条件、処理時間で熱処理を行い、目的の軟磁性複合圧密焼成材を得た。
得られた軟磁性複合圧密焼成材の各試料において抗折強度、比抵抗、密度、保磁力、磁束密度を測定した結果を表2に示す。
Figure 0004782058
表2に示す結果から、表2に示す焼成後熱処理を施していないNo.1〜3の試料は、抗折強度が52〜94の範囲であるが、窒素ガス雰囲気中あるいは水素ガス雰囲気中などの非酸化性雰囲気中において550℃を越える温度〜650℃で焼成した後に、400〜560℃で熱処理を施しているNo.4〜12、No.15、17〜26の試料は抗折強度がいずれも向上している。
しかし、焼成処理を大気中、即ち、非酸化性雰囲気ではなく、酸化性雰囲気中において施したNo.13の試料は抗折強度が83であり、向上していない。また、Siレジンを添加していない試料は比抵抗が極めて低い値となった。更に、焼成処理を750℃で行ったNo.16の試料は比抵抗が極めて低い値となった。また、No.6の試料はMgOの膜厚が80nmと厚いために、磁束密度が低下した。
以上の結果から、MgOの膜厚は20〜80nmの範囲内が好ましい。
以上の結果から、熱処理条件は400℃〜560℃の範囲が好ましい。
図2は実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料No.8の金属組織を示す拡大写真である。
この図2に示す金属組織上の111位置、112位置、113位置、114位置、115位置、116位置においてエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)を行った。その結果を図3〜図8に示す。
図3に示す111位置の分析結果は軟磁性金属粒子の部分の分析結果、図4に示す112位置の分析結果は軟磁性金属粒子の外周部分の分析結果、図5に示す113位置の分析結果は軟磁性金属粒子の外方のMg含有酸化膜と思われる部分の分析結果、図6に示す114位置の分析結果は軟磁性金属粒子の外方の界面層と思われる部分の分析結果、図7に示す115位置の分析結果は軟磁性金属粒子の外方のMg含有酸化膜と思われる部分の分析結果、図8に示す116位置の分析結果は軟磁性金属粒子の外周部分の分析結果である。
図2〜図8に示す結果から、図3、図4と図8に示す軟磁性金属粒子の内部側の分析結果においてはFeのピークのみが強く表れているのに対し、図5と図7に示すMg含有酸化膜部分と思われる部位の分析結果ではFeのピーク以外にMg、Oの大きなピークが見られ、図4に示す粒界層部分と思われる部位の分析結果ではFeのピーク以外にMg、Siの大きなピークが見られることから、本発明で意図する組織になっていることがわかる。
図9は、実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料No.8の金属組織を示す拡大写真である。
この図9に示す金属組織上の1の位置、2の位置、3の位置、4の位置、5の位置、6の位置においてX線回折分析を行った。その結果を図10〜図15に示す。
図9において1の位置と2の位置は3つのMg含有酸化膜被覆軟磁性粒子の境界となる三粒界点位置の分析結果、3の位置は他の三粒界点位置の分析結果、4の位置と5の位置は2つのMg含有酸化膜被覆軟磁性粒子の境界部分の分析結果、6の位置は3つのMg含有酸化膜被覆軟磁性粒子の境界となる三粒界点に近い位置での分析結果を示す。
各図に示す結果から、境界層部分にFeとOとMgが存在していることが分かり、本発明で意図する組織になっていることが理解できる。
なお、図14、図15に示すMnは、鉄粉中の不純物であり、酸素との親和力が大きいので、酸化熱処理中に選択酸化され、鉄粉表面に出てきたものと考えられる。
図16は実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料No.8の金属組織を示す拡大写真である。
図16に示す如く軟磁性金属粒子の外周部分にMg含有酸化物膜が30nm〜50nm程度の厚さで存在し、それらの間に同じ程度の幅の薄い境界層が存在している状況を確認することができた。
本発明による軟磁性材は、電磁気回路部品として、例えば、磁心、電動機コア、発電機コア、ソレノイドコア、イグニッションコア、リアクトルコア、トランスコア、チョークコイルコアまたは磁気センサコアなどとしての利用が可能であり、いずれにおいても優れた特性を発揮し得る電磁気回路部品へ適用ができる。
そして、これら電磁気回路部品を組み込んだ電気機器には、電動機、発電機、ソレノイド、インジェクタ、電磁駆動弁、インバータ、コンバータ、変圧器、継電器、磁気センサシステム等があり、これら電気機器の高効率高性能化や小型軽量化ができる。
図1は実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料の金属組織を示す拡大写真の模式図。 図2は実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料の他の例の金属組織を示す拡大写真。 図3は図2の写真に示す試料上の111位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図4は図2の写真に示す試料上の112位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図5は図2の写真に示す試料上の113位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図6は図2の写真に示す試料上の114位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図7は図2の写真に示す試料上の115位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図8は図2の写真に示す試料上の116位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図9は実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料の他の例の金属組織を示す拡大写真。 図10は図9に示す組織写真上の1で示す位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図11は図9に示す組織写真上の2で示す位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図12は図9に示す組織写真上の3で示す位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図13は図9に示す組織写真上の4で示す位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図14は図9に示す組織写真上の5で示す位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図15は図9に示す組織写真上の6で示す位置における元素分析結果を示すX線回折図。 図16は実施例において得られた本発明に係る高強度軟磁性複合圧密焼成材試料の更に他の例の金属組織を示す拡大写真。
符号の説明
1 Fe系軟磁性金属粒子、
2 Mg含有酸化膜、
3 Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子、
5 粒界層、

Claims (12)

  1. Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子と、Siレジン、低融点ガラス、金属酸化物の少なくとも1種とを混合して圧密し、
    非酸化性雰囲気において焼成処理して軟磁性複合圧密焼成材の前駆体とした後、酸化性雰囲気において400℃〜600℃のスチーム雰囲気または大気中において熱処理することにより、
    Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子を、前記の如く混合したSiレジン、低融点ガラス、金属酸化物の少なくとも1種の成分を含み、Fe あるいはFeOを主体とする酸化鉄を含む充填物からなる粒界層を介し複数結合してなる焼成体とすることを特徴とする高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  2. 前記Mg含有酸化膜の膜厚を20〜80nmの範囲とし、前記焼成処理を550℃を越える温度〜650℃で行い、前記熱処理を400〜560℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1に記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  3. 前記Mg含有酸化物被覆軟磁性粒子間の粒界層に存在する酸化鉄を、前記Fe系の軟磁性金属粒子からFe成分を粒界に析出させて酸化物として分散成長させたものとすることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  4. 前記非酸化性雰囲気として、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気などの不活性ガス雰囲気、あるいは水素ガス雰囲気とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  5. 前記非酸化性雰囲気において焼成処理することにより、粒界層にMgとFeを含む(Mg,Fe)Oのウスタイトを生成させ、前記酸化性雰囲気において熱処理することにより前記ウスタイトを含む粒界層を酸化鉄を含むシリコン酸化物を含む充填物とすることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  6. 前記Fe系の軟磁性金属粒子として、Feに、Si、Al、Ni、Cr、Co、Vのうちの少なくとも1種以上を添加してなるものを用いることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  7. 前記金属酸化物として、Al、B、Sb、MoOのいずれかからなるものを用いることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材の製造方法。
  8. Fe系の軟磁性金属粒子と該軟磁性金属粒子の表面に被覆されたMg含有酸化膜とを具備してなるMg含有酸化物被覆軟磁性粒子が、Siレジン、低融点ガラスまたは金属酸化物との圧密焼成物に酸化鉄を分散させた粒界層を介し複数結合されてなり、
    前記酸化鉄がFe あるいはFeOを主体とするものであって、前記Siレジン、低融点ガラスまたは金属酸化物との混合圧密後の非酸化性雰囲気中における焼成処理と、その後の酸化性雰囲気中における熱処理によりFe系の軟磁性金属粒子から焼成物に分散され成長されたものであることを特徴とする高強度軟磁性複合圧密焼成材。
  9. 前記Mg含有酸化膜が20〜80nmの厚さであり、前記焼成処理が550℃を越える温度〜650℃でなされた処理であり、前記熱処理が400〜560℃の温度範囲でなされた処理であることを特徴とする請求項8に記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材。
  10. 前記Fe系の軟磁性金属粒子が、Feに、Si、Al、Ni、Cr、Co、Vのうちの少なくとも1種以上を添加してなる組成系とされてなることを特徴とする請求項8または9に記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材。
  11. 前記Mg含有酸化膜が(Mg,Fe)Oを主体として構成され、前記低融点ガラスがBi−B、SnO−P、SiO−B−ZnO、SiO−B−RO、LiO−ZnOのいずれかからなることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材。
  12. 前記Mg含有酸化膜が(Mg,Fe)Oを主体として構成され、前記金属酸化物がAl、B、Sb、MoOのいずれかからなることを特徴とする請求項8〜11のいずれかに記載の高強度軟磁性複合圧密焼成材。
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