JP4761836B2 - Mg含有酸化膜被覆鉄粉末 - Google Patents
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(イ)一般に知られているMgO−FeO−Fe2O3系の中でで代表される(Mg,Fe)O、(Mg,Fe)3O4などのMg−Fe−O三元系各種酸化物のうちで、少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が鉄粉末の表面に形成され、この少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が鉄粉末の表面に被覆されたMg含有酸化膜被覆鉄粉末は、従来の鉄粉末の表面にMg含有フェライト膜を形成したMg含有酸化膜被覆鉄粉末に比べて酸化膜の鉄粉末に対する密着性が格段に優れることから、プレス成形中に絶縁皮膜である酸化膜が破壊されて鉄粉末同士が接触することが少なく、プレス成形後に高温歪取り焼成を行っても酸化膜の絶縁性が低下することなく高抵抗を維持することができるので渦電流損失が低くなり、さらに歪取り焼成を行った場合に、より保磁力が低減できることからヒステリシス損失を低く抑えることができ、したがって、低鉄損を有する複合軟磁性材料が得られること、
(ロ)前記Mg含有酸化膜被覆鉄粉末のMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜に含まれる(Mg,Fe)Oは、結晶質のMgO固溶ウスタイト(MgOがウスタイト(FeO)に固溶している物質)であることが一層好ましいこと、
(ハ)前記鉄粉末と少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜との界面領域には、鉄粉末の中心部に不可避不純物として含まれている硫黄よりも高濃度の硫黄を含む硫黄濃化層が形成されること、
(ニ)前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は結晶粒径:200nm以下の微細結晶組織を有すること、
(ホ)前記鉄粉末の表面に形成されている少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、その最表面に含まれるMgOの量が多いほど好ましく、その最表面は実質的にMgOで構成されていることが最も好ましいこと、などの知見が得られたのである。
(1)少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が鉄粉末の表面に被覆されており、該(Mg,Fe)Oは、結晶質のMgO固溶ウスタイト相であるMg含有酸化膜被覆鉄粉末、
(2)前記Mg含有酸化膜被覆鉄粉末は、鉄粉末と前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜との界面領域に、鉄粉末の中心部に含まれる硫黄よりも高濃度の硫黄を含む硫黄濃化層を有する前記(1)記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末、
(3)前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、結晶粒径:200nm以下の微細結晶組織を有する前記(1)または(2)記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末、
(4)前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、その最表面が実質的にMgOで構成されている前記(1)、(2)または(3)記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末、に特徴を有するものである。
「堆積膜」という用語は、通常、真空蒸発やスパッタされた皮膜構成原子が例えば基板上に堆積した皮膜を示すが、この発明の鉄粉末の表面に形成されている少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、酸化処理鉄粉末表面の酸化鉄(Fe−O)とMgが反応を伴って当該鉄粉末表面に堆積した皮膜を示す。そして、この鉄粉末の表面に形成されている少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜の膜厚は、圧粉成形した複合軟磁性材の高磁束密度と高比抵抗を得るために、5nm〜500nmの範囲内にあることが好ましい。膜厚が5nmより薄いと圧粉成形した複合軟磁性材の比抵抗が充分でなく渦電流損が増加するので好ましくなく、一方、膜厚が500nmより厚いと圧粉成形した複合軟磁性材の磁束密度が低下して好ましくないからである。さらに好ましい膜厚は5nm〜200nmの範囲内である。
また、この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を構成する前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、その最表面におけるMgOの含有量が多くなるほど好ましく、実質的にMgOで構成されていることが最も好ましい。最表面が実質的にMgOであると、プレス成形した圧粉体の焼成時にもFeの拡散が防止され鉄粉末同士の接触結合を防止することができ絶縁性低下が防止でき高抵抗で渦電流損失が低くなるからである。
この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を構成する前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、Mgの一部をMgに対して10%以下のAl,Si,Ni,Mn,Zn,Cu,Coのうち1種以上で置換した疑三元系酸化物堆積膜でも良い。
この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末は通常の方法で圧粉成形し焼成することにより作製することができる。
この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を用いて作製した高比抵抗を有する複合軟磁性材は、鉄粒子相とこの鉄粒子相を包囲する粒界相からなり、前記粒界相には結晶質のMgO固溶ウスタイト相を含有するMg−Fe−O三元系酸化物を含むことが好ましい。
この他に、平均粒径:0.5μm以下の酸化ケイ素,酸化アルミニウムのうち1種または2種を0.05〜1質量%含有し、残部をこの発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末からなるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を通常の方法で圧粉成形し、焼成することにより作製することができる。この製造方法によると、この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を構成する少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は酸化ケイ素や酸化アルミニウムと反応して複合酸化物が形成され、鉄粉末の粒界に高抵抗を有する複合酸化物が介在した高比抵抗を有する複合軟磁性材が得られるとともに酸化ケイ素や酸化アルミニウムを介して焼成されるために機械的強度の優れた複合軟磁性材を製造することができる。この場合、酸化ケイ素や酸化アルミニウムが主体となって焼成されるところから保磁力を小さく保つことができ、したがって、ヒステリシス損の少ない複合軟磁性材を製造することができる、前記焼成は、不活性ガス雰囲気または酸化性ガス雰囲気中、温度:400〜1300℃で行われることが好ましい。
また、この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末にシリカのゾルゲル(シリケート)溶液やアルミナのゾルゲル溶液などの湿式溶液を添加し混合したのち乾燥し、この乾燥した混合物を圧縮成形後、不活性ガス雰囲気または酸化性ガス雰囲気中、温度:400〜1300℃で焼成することにより複合軟磁性材を製造することができる。これらのこの発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を用いて作製した高比抵抗を有する複合軟磁性材は、鉄粒子相とこの鉄粒子相を包囲する粒界相からなり、前記粒界相には結晶質のMgO固溶ウスタイト相を含有するMg−Fe−O三元系酸化物を含むことが好ましい。
また、この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末に、酸化硼素、酸化バナジウム、酸化ビスマス、酸化アンチモンおよび酸化モリブデンの内の1種または2種以上をB2O3、V2O5、Bi2O3、Sb2O3、MoO3換算で0.05〜1質量%を配合し混合したのち圧粉成形し、得られた圧粉成形体を温度:500〜1000℃で焼成することにより複合軟磁性材を作製することができる。このようにして作製した複合軟磁性材は、酸化硼素、酸化バナジウム、酸化ビスマス、酸化アンチモンおよび酸化モリブデンの内の1種または2種以上をB2O3、V2O5、Bi2O3、Sb2O3、MoO3換算で0.05〜1質量%を含有し、残部がこの発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末からなる組成を有し、少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜と、酸化硼素、酸化バナジウム、酸化ビスマス、酸化アンチモンおよび酸化モリブデンの内の1種または2種以上とが反応した皮膜が形成される。
また、この複合軟磁性材は、酸化硼素のゾル溶液または粉末、酸化バナジウムのゾル溶液または粉末、酸化ビスマスのゾル溶液または粉末、酸化アンチモンのゾル溶液または粉末および酸化モリブデンのゾル溶液または粉末の内の1種または2種以上をB2O3、V2O5、Bi2O3、Sb2O3、MoO3換算で0.05〜1質量%、残部が前記この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末からなる組成となるように配合し、混合し、乾燥して前記この発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を酸化物乾燥ゲルまたは粉末からなる混合酸化物で被覆してなる混合酸化物被覆鉄粉末を作製し、この混合酸化物被覆鉄粉末を圧粉し、成形したのち、温度:500〜1000℃で焼成することにより得ることができる。これらのこの発明のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を用いて作製した高比抵抗を有する複合軟磁性材は、鉄粒子相とこの鉄粒子相を包囲する粒界相からなり、前記粒界相には結晶質のMgO固溶ウスタイト相を含有するMg−Fe−O三元系酸化物を含むことが好ましい。
原料粉末として、平均粒径:70μmを有し不可避不純物として硫黄を極微量含む純鉄粉末を用意し、さらに、平均粒径:50μmのMg粉末を用意した。前記純鉄粉末を大気中、温度:220℃、2時間保持の条件で酸化処理することにより表面に酸化鉄膜を有する酸化処理鉄粉末を作製した。この酸化処理鉄粉末に対し先に用意したMg粉末を、酸化処理鉄粉末:Mg粉末=99.8質量%:0.2質量%の割合で添加し混合して混合粉末を作製し、得られた混合粉末を温度:650℃、圧力:2.7×10−4MPa、1時間保持したのち、さらに大気中、温度:200℃、1時間保持することにより鉄粉末の表面に堆積膜が被覆されている本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末1を作製した。本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末1に形成されている堆積膜の組織を電子顕微鏡で観察し、その堆積膜の厚さと最大結晶粒径を求め、その結果を表1に示した。また、本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末1の堆積膜から得られた電子線回折図形から、結晶質のMgO固溶ウスタイト相を含有することが解った。
実施例1で用意した純鉄粉末を大気中、温度:210℃、3時間保持の条件で酸化処理することにより表面に酸化鉄膜を有する酸化処理鉄粉末を作製した。この酸化処理鉄粉末に先に用意したMg粉末を実施例1よりも多くなるように酸化処理鉄粉末:Mg粉末=99.5質量%:0.5質量%の割合で添加し混合して混合粉末を作製し、得られた混合粉末を温度:670℃、圧力:1×10−5MPa、1時間保持したのち、さらに大気中、温度:200℃、1時間保持することにより鉄粉末の表面に堆積膜が被覆されている本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末2を作製した。この本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末2の堆積膜の組織を電子顕微鏡で観察し、その堆積膜の厚みと最大結晶粒径を求め、その結果を表1に示した。また、その堆積膜から得られた電子線回折図形から、結晶質のMgO固溶ウスタイト相を含有することが解った。
さらに、この本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末2の表面に形成された堆積膜をX線光電子分光装置により分析を行い、結合エネルギーを解析したところ、この堆積膜は少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜であること、Mg−Fe−O三元系酸化物堆積膜の最表面はMgOで構成されていることが解った。さらにMg、OおよびFeの濃度分布を実施例1と同様にしてオージェ電子分光装置を用いた方法により調べたところ、鉄粉末とMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜との界面領域に鉄粉末の中心部に含まれる硫黄よりも高濃度の硫黄を含む硫黄濃化層を有することが分かった。
実施例1で用意した純鉄粉末を大気中、温度:220℃、1.5時間保持の条件で酸化処理することにより表面に酸化鉄膜を有する酸化処理鉄粉末を作製した。この酸化処理鉄粉末に先に用意したMg粉末を実施例1よりも多くなるように酸化処理鉄粉末:Mg粉末=99.7質量%:0.3質量%の割合で添加し混合して混合粉末を作製し、得られた混合粉末を温度:640℃、圧力:1×10−4MPa、1時間保持したのち、さらに大気中、温度:200℃、1.5時間保持することにより鉄粉末の表面に堆積膜が被覆されている本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末3を作製した。この堆積膜の組織を電子顕微鏡で観察し、その厚みおよび最大結晶粒径を表1に示した.
この本発明Mg含有酸化膜被覆鉄粉末3の表面に形成された堆積膜をX線光電子分光装置により分析を行い、結合エネルギーを解析したところ、少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜であること、このMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜の最表面はMgOで構成されていることが解った。さらに、このMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜のMg、OおよびFeの濃度分布をオージェ電子分光装置を用いて実施例1と同じ方法により調べたところ、鉄粒子とMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜との界面領域に鉄粉末の中心部に含まれる硫黄よりも高濃度の硫黄を含む硫黄濃化層を有することが分かった。
実施例1で用意した純鉄粉末の表面にMg含有フェライト層を化学的に形成した従来酸化物被覆鉄粉末1を作製し、この従来酸化物被覆鉄粉末1を金型に入れ、プレス成形して縦:55mm、横:10mm、厚さ:5mmの寸法を有する板状圧粉体および外径:35mm、内径:25mm、高さ:5mmの寸法を有するリング形状圧粉体を成形し、得られた圧粉体を窒素雰囲気中、温度:500℃、30分保持の条件で焼成を行い、板状およびリング状焼成体からなる複合軟磁性材を作製し、板状焼成体からなる複合軟磁性材の比抵抗を測定してその結果を表1に示し、さらにリング状焼成体からなる複合軟磁性材に巻き線を施し、磁束密度、保磁力、並びに磁束密度1.5T、周波数50Hzの時の鉄損および磁束密度1.0T、周波数400Hzの時の鉄損などの磁気特性を測定し、それらの結果を表1に示した。
Claims (9)
- 少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜が鉄粉末の表面に被覆されており、該(Mg,Fe)Oは、結晶質のMgO固溶ウスタイト相であることを特徴とするMg含有酸化膜被覆鉄粉末。
- 前記Mg含有酸化膜被覆鉄粉末は、鉄粉末と前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜との界面領域に、鉄粉末の中心部に含まれる硫黄よりも高濃度の硫黄を含む硫黄濃化層を有することを特徴とする請求項1記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末。
- 前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、結晶粒径:200nm以下の微細結晶組織を有することを特徴とする請求項1または2記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末。
- 前記少なくとも(Mg,Fe)Oを含むMg−Fe−O三元系酸化物堆積膜は、その最表面が実質的にMgOで構成されていることを特徴とする請求項1、2または3のいずれか一項記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末。
- 請求項1〜4のいずれか一項記載のMg含有酸化膜被覆鉄粉末を用いて作製した複合軟磁性材。
- 鉄粒子相とこの鉄粒子相を包囲する粒界相からなり、前記粒界相には結晶質のMgO固溶ウスタイト相を含有するMg−Fe−O三元系酸化物を含むことを特徴とする請求項5記載の複合軟磁性材。
- 請求項5または6記載の複合軟磁性材からなる電磁気回路部品。
- 前記電磁気回路部品は、磁心、電動機コア,発電機コア,ソレノイドコア,イグニッションコア,リアクトル,トランス,チョークコイルコアまたは磁気センサコアであることを特徴とする請求項7記載の電磁気回路部品。
- 請求項7または8記載の電磁気回路部品を組み込んだ電気機器。
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