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JP4759375B2 - 無機繊維用水性バインダー及び無機繊維断熱吸音材 - Google Patents

無機繊維用水性バインダー及び無機繊維断熱吸音材 Download PDF

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JP4759375B2 JP2005340135A JP2005340135A JP4759375B2 JP 4759375 B2 JP4759375 B2 JP 4759375B2 JP 2005340135 A JP2005340135 A JP 2005340135A JP 2005340135 A JP2005340135 A JP 2005340135A JP 4759375 B2 JP4759375 B2 JP 4759375B2
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Description

本発明は、グラスウール、あるいはロックウール等の無機繊維からなる断熱吸音材に好適に用いることのできる、ホルムアルデヒドを含有しない無機繊維用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材に関する。
従来から、グラスウール、あるいはロックウール等の無機繊維からなる断熱吸音材において、繊維同士を結合させるバインダーとして、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂(又はレゾール型フェノール樹脂)を主成分とするフェノール樹脂系バインダーが、広く使用されている。これらフェノール樹脂系バインダーは、比較的短時間で加熱硬化し、強度のある硬化物が得られることから、これを使用した無機繊維断熱吸音材は、形状保持、圧縮梱包開封後の厚み復元性、耐撓み性等に優れている。
しかしながら、フェノール樹脂系バインダーを使用すると、製造工程、特にバインダーの硬化時にホルムアルデヒドが放出される。そのため、放出されたホルムアルデヒドの処理、対応が問題となっている。特に近年では、環境負荷の低減から、法規制等により、ホルムアルデヒドの放散量の制限が求められており、環境負荷の少ない無機繊維断熱吸音材用のバインダーが所望されており、数多くの提案がなされている。
例えば、下記特許文献1には、(a)少なくとも2個のカルボン酸基、酸無水物基、又はそれらの塩を含有する多酸、(b)少なくとも2個のヒドロキシル基を含有するポリオール、及び(c)リン含有促進剤を含有しており、且つ、前記カルボン酸基、酸無水物基、またそれらの塩の当量類:前記ヒドロキシル基の当量比が、約1/0.01〜約1/3であり、そしてカルボン酸基、酸無水物基、又はそれらの塩が不揮発性塩基で約35%以下の範囲で中和されている硬化性の水性組成物が開示されている。
また、下記特許文献2には、数平均分子量が5,000未満のポリカルボン酸ポリマーと、ポリオールを含有する水溶性組成物であって、pHが3.5未満に調整されているガラス繊維用バインダーが開示されている。
また、下記特許文献3には、A)5〜100質量%がエチレン性不飽和酸無水物又はカルボン酸基が無水物基を形成することができるエチレン性不飽和ジカルボン酸から成るラジカル重合により得られた重合体、B)ヒドロキシル基少なくとも2個を有するアルカノールアミンを含有するホルムアルデヒド不含の水性結合剤が開示されている。
更には、上記のポリカルボン酸を主成分とする無機繊維用バインダーが、数多く提案されている。
特開平6‐184285号公報 米国特許第6331350号明細書 特表2000‐508000号公報
アクリル系樹脂等の上記ポリカルボン酸系樹脂バインダーは、弱酸性〜弱塩基性の領域下では、ポリカルボン酸系樹脂中のカルボキシル基と、ポリオール中の水酸基との反応性が遅くエステル化反応が充分進行しにくい。そのため、バインダーの架橋反応が完遂しにくく、上記バインダーを弱酸性〜弱塩基性に調整した場合、無機繊維断熱吸音材の諸物性、例えば、高湿度下でのバインダー劣化による復元性の低下、耐撓み性の物性が劣りやすい。このため、アクリル系樹脂バインダーは、弱酸性〜弱塩基性の条件下での使用には適したもので無く、通常は、バインダーのpHを3程度の強酸性領域に調整し、架橋反応を促進させて使用している。しかしながら、こうした場合、酸によるバインダー供給配管、スプレー装置、無機繊維堆積用のメッシュコンベアー等製造設備に腐食が生じやすく、装置のメンテナンス費用、装置コスト等がかかるという問題点があった。また、強酸性の廃液が排出されることとなり、廃液処理コストがかかるという問題点もあった。
また、上記アクリル系樹脂バインダーの架橋は、エステル結合により形成されているが、無機繊維、特にガラス繊維の場合、空気中の水分により、ガラス中のアルカリ金属成分がアルカリイオンとなって溶出して、バインダー架橋部のエステル結合を加水分解させ、バインダーの繊維と繊維の結合力が損なわれるという問題も有している。
したがって、本発明の目的は、ホルムアルデヒドを含有せず、優れた強度を有し、弱酸性〜弱塩基性の条件下での使用に適し、得られるバインダー硬化物が、経時の使用においても優れた強度を有する無機繊維用水性バインダー、及びそれを用いた無機繊維断熱吸音材を提供することにある。
上記目的を達成するにあたって、本発明の無機繊維用水性バインダーは、酸価が350〜850mgKOH/gのアクリル系樹脂と、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤と、無機酸のアンモニウム塩とを含み、前記アクリル系樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5であり、揮発性塩基性化合物によってpHが6.0〜8.0に調整されていることを特徴とする。
本発明の無機繊維用水性バインダーは、アクリル系樹脂からなり、ホルムアルデヒド不含のバインダーであるので、加熱硬化時にホルムアルデヒドを放出することなく硬化することができ、排出ガス等において、環境負荷を少なくすることができる。そして、酸価が350〜850mgKOH/gのアクリル系樹脂とジアルカノールアミンとを組み合わせることにより、pH6.0〜8.0という弱酸性〜弱塩基性の条件下でも、比較的速やかに加熱硬化を進行させることができ、また、イミド化及びエステル化反応による架橋反応も充分に改善されるので、架橋を緻密なものにできる。更には、無機酸のアンモニア塩を含有することで、バインダー硬化工程での加熱によって、アンモニウムイオンが、アンモニアとして揮散して、酸としてバインダー中に残存するので、無機繊維から溶出するアルカリ成分を中和して、バインダー中の架橋部の加水分解を抑制でき、無機繊維断熱吸音材の諸物性を長期間維持できる。更にまた、アクリル系樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とイミノ基との合計のモル数を、モル比で0.8〜1.5にすることで、アクリル系樹脂と架橋剤とが過不足なく反応させることができ、強固なバインダー硬化物が得られ、無機繊維断熱吸音材の諸物性を損なうことがない。そして、弱酸性〜弱塩基性の条件下での使用に適していることから、上記従来技術で見られるような酸による製造設備の腐食がなく、メンテナンス費用や装置コスト、廃水処理コスト等を低減できる。
本発明の無機繊維用水性バインダーにおいて、前記アクリル系樹脂は、重量平均分子量が1,000〜15,000であるか、重量平均分子量が1,000〜4,000であるアクリル系樹脂(A)と、重量平均分子量が8000〜20,000であるアクリル系樹脂(B)との混合物であることが好ましい。
前記アクリル系樹脂の重量平均分子量が1,000〜15,000であれば、バインダーの粘度上昇を抑制して、スプレー時や硬化反応開始前のバインダーの流動性を向上できると共に、バインダーの架橋が緻密となって、得られるバインダー硬化物の強度が向上し、繊維同士のバインディング(接着力)が強固なものとなる。
また、前記アクリル系樹脂が、重量平均分子量が1,000〜4,000であるアクリル系樹脂(A)と、重量平均分子量が8000〜20,000であるアクリル系樹脂(B)との混合物であれば、バインダーの流動性のコントロールが容易になるので、上記に記載した無機繊維表面でのバインダーの流動性と、無機繊維断熱吸音材の製造プロセスにある集綿時での、無機繊維表面からのバインダーの脱落や、流動することによるバインダー付着の偏りを抑制することとの最適化が容易となり、無機繊維断熱吸音材の諸物性において、均質性を向上させることが可能となる。
また、本発明の無機繊維用水性バインダーにおいて、無機酸のアンモニウム塩は、硫酸アンモニウムであることが好ましい。硫酸アンモニウムは、バインダー硬化時に架橋反応に対する遅延化がなく、また無機繊維から溶出されるアルカリ成分の中和もすみやかに進行し、バインダー硬化物のアルカリによる加水分解を抑制する事ができる。
また、本発明の無機繊維用水性バインダーにおいて、ワックス類、あるいはワックス類及び重質オイル類の混合物より選択される1種の水分散体を、前記アクリル系樹脂と前記架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜5質量部含有することが好ましい。上記ワックス類、あるいはワックス類及び重質オイル類の混合物は、無機繊維断熱吸音材製造時に製造設備への付着を抑制する離型剤や防塵剤、あるいは撥水剤として作用する。特に、アクリル系樹脂バインダーは、フェノール樹脂系のバインダーと比較して、金属に対する接着性が良好であるため、バインダー硬化時に金属製コンベア等に無機繊維を伴って付着しやすくなり、生産性を損なう場合があるが、上記ワックス類、あるいはワックス類及び重質オイル類の混合物を使用することにより、バインダーに離型性を付与することができ、上記問題を防ぐことができる。
また、本発明の無機繊維用水性バインダーにおいて、シランカップリング剤を、前記アクリル系樹脂と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜2.0質量部含有することが好ましい。これによれば、シランカップリング剤が、無機繊維とバインダーとの界面における接着性を向上させることができ、得られる無機繊維断熱吸音材の各物性を向上させることができる。
一方、本発明の無機繊維断熱吸音材は、上記本発明の無機繊維用水性バインダーを、無機繊維に付与し、加熱硬化させて成形したことを特徴とする。これによれば、製造時に、環境に好ましくない影響を与えるホルムアルデヒドを放出することないので、環境負荷が少なく、従来の物性を損なわない無機繊維断熱吸音材を得ることができる。
本発明の無機繊維用水性バインダーは、アクリル系樹脂からなり、ホルムアルデヒド不含のバインダーであるので、加熱硬化時にホルムアルデヒドを放出することなく硬化することができ、排出ガス等において、環境負荷を少なくすることができる。そして、酸価が350〜850mgKOH/gのアクリル系樹脂とジアルカノールアミンとを組み合わせることにより、pH6.0〜8.0という弱酸性〜弱塩基性の条件下でも、比較的速やかに加熱硬化を進行させることができ、また、イミド化及びエステル化反応による架橋反応も充分に改善されるので、架橋を緻密なものにできる。更には、無機酸のアンモニウム塩がバインダー硬化工程での加熱によって、アンモニウムイオンが、アンモニアとして揮散して、酸としてバインダー中に残存するので、無機繊維から溶出するアルカリ成分を中和して、バインダー中の架橋部の加水分解を抑制でき、無機繊維断熱吸音材の諸物性を長期間維持できる。更にまた、アクリル系樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とイミノ基との合計のモル数を、モル比で0.8〜1.5にすることで、アクリル系樹脂と架橋剤とが過不足なく反応させることができ、強固なバインダー硬化物が得られ、無機繊維断熱吸音材の諸物性を損なうことがない。そして、弱酸性〜弱塩基性の条件下での使用に適していることから、上記従来技術で見られるような酸による製造設備の腐食がなく、メンテナンス費用や装置コスト、廃水処理コスト等を低減できる。
そして、上記本発明の無機繊維用水性バインダーを用いて得られる無機繊維断熱吸音材は、環境条件、例えば、気温あるいは湿度によって、断熱吸音性能に関わる断熱材の厚み寸法や、施工時の自立性に関係する剛性が低下することがなく、従来のフェノール系バインダーを使用したものと同様の物性を有するものであり、住宅、建物等の断熱、吸音材、あるいは真空断熱材の芯材として、好適に使用できる。
本発明の無機繊維用水性バインダーは、酸価が350〜850mgKOH/gのアクリル系樹脂と、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤、及び無機酸のアンモニウム塩とを含有する水溶性組成物である。
本発明の無機繊維用水性バインダーに用いるアクリル系樹脂としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体より選択される1種以上の単量体を重合させて得られたものである。
上記エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フマル酸、マレイン酸、2‐メチルマレイン酸、イタコン酸、2‐メチルイタコン酸、α‐β‐メチレングルタル酸、マレイン酸モノアルキル、フマル酸モノアルキル、無水マレイン酸、無水アクリル酸、β‐(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンフタレート、β‐(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンマレエート、β‐(メタ)アクリロイルオキシエチレンハイドロジエンサクシネート等が挙げられる。アクリル系樹脂の分子量のコントロールのし易さ等から考慮すると、アクリル酸を使用することが好ましい。また、アクリル系樹脂の酸価を700mgKOH/g以上の高い領域に調整する場合は、マレイン酸あるいはフマル酸を使用することが好ましい。
また、アクリル系樹脂の酸価を調整する上で、カルボキシル基を含有しないエチレン性不飽和単量体を、上記エチレン性不飽和カルボン酸と併用することもできる。
上記カルボキシル基を含有しないエチレン性不飽和単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n‐ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t‐ブチル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n‐ステアリル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールエトキシ(メタ)アクリレート、メチル‐3‐メトキシ(メタ)アクリレート、エチル‐3‐メトキシ(メタ)アクリレート、ブチル‐3‐メトキシ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート、3価以上のポリオールのモノ(メタ)アクリレート、アミノアルキル(メタ)アクリレート、N‐アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N‐ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体;ビニルアルキルエーテル、N‐アルキルビニルアミン、N,N‐ジアルキルビニルアミン、N‐ビニルピリジン、N‐ビニルイミダゾール、N‐(アルキル)アミノアルキルビニルアミン等のビニル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N‐アルキル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジアルキル(メタ)アクリルアミド、N,N‐ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N‐ビニルホルムアミド、N‐ビニルアセトアミド、N‐ビニルピロリドン等のアミド系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン、イソプレン、ブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素;スチレン、α‐メチルスチレン、p‐メトキシスチレン、ビニルトルエン、p‐ヒドロキシスチレン、p‐アセトキシスチレン当のスチレン系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル系単量体;アクリロニトリル、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。ただし、N‐メチロール(メタ)アクリルアミド、メチル‐N‐メチロール(メタ)アクリルアミドは、加熱すると、架橋反応を生じ、ホルムアルデヒドを放出するので、本発明のアクリル系樹脂に使用することは避ける。
アクリル系樹脂の酸価は、350〜850mgKOH/gであることが必要であり、450〜750mgKOH/gが好ましく、550〜750mgKOH/gがより好ましい。アクリル系樹脂の酸価が350mgKOH/g未満であると、当該水性バインダーを加熱硬化させて得られる硬化物の架橋構造が粗になり、バインダー硬化物の強度、剛性が低下する傾向にあり、したがって、得られる無機繊維断熱吸音材の圧縮梱包開封後の厚み復元性(以後、「復元性」と称する)や、ボードとしての剛性が低下し、断熱性、吸音性、あるいは自立性、すなわち施工時の作業性が損なわれる場合がある。また、アクリル系樹脂の酸価が850mgKOH/gを超えると、バインダー硬化後の架橋構造が、密になりすぎて脆くなる傾向にあり、無機繊維断熱吸音材のバインダーとして使用した場合、所望する性能に達しない場合や、硬化後も未反応のカルボキシル基が硬化物中に残存し、得られる無機繊維断熱吸音材において、例えば、高湿度下において、吸湿して、バインダーによる繊維と繊維の結合力が低下する等の問題が生じる場合がある。なお、本発明におけるアクリル系樹脂の酸価は、アクリル系樹脂1gを中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数で表す。
本発明においてアクリル系樹脂は、1)重量平均分子量が1,000〜15,000であるか、2)重量平均分子量が、1,000〜4,000であるアクリル系樹脂(A)と重量平均分子量が8,000〜20,000であるアクリル系樹脂(B)との混合物であることが好ましい。
上記1)の場合、すなわち、重量平均分子量が1,000〜15,000である場合、該アクリル系樹脂の重量平均分子量は、2,000〜10,000がより好ましく、2,000〜4,000が特に好ましい。アクリル系樹脂の重量平均分子量が、15,000を超えると、バインダー塗布から水分揮散後のバインダーの粘度上昇が著しく、無機繊維への塗布時、あるいは塗布後の流動性が劣りやすく、無機繊維に対し均一にバインダーを塗布させにくくなる傾向にある。また、無機繊維に付着したバインダーの粘着性が高くなる傾向にある。無機繊維に付着したバインダーの粘着性が高いと、バインダーを付着させた繊維が製造設備に付着しやすくなり、製造ラインの汚れや無機繊維断熱吸音材表面の繊維が塊となって、製造設備に付着し、得られる製品の外観、厚み寸法が部分的に不足する等の問題が生じる場合がある。一方、アクリル系樹脂の重量平均分子量が1,000未満であると、硬化時の加熱により、バインダー成分がヒュームとして揮散しやすくなり、無機繊維に対するバインダー付着量が低減しやすい。そのため、無機繊維断熱吸音材とした場合、諸物性が低下したり、また、アクリル系樹脂の重合時の重合度合を抑制する必要があるので、エチレン性不飽和単量体が残存しやすくなり、臭気が発生したりと新たな環境負荷が生じる虞れがある。アクリル系樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であれば、無機繊維用水性バインダーの粘度を調整しやすく、また、無機繊維への塗布時、あるいは塗布後の流動性を良好にできるので、無機繊維へのバインダー付着量のばらつきを抑制できる。そして、無機繊維断熱吸音材の製造において、バインダーの繊維への塗布工程は、遠心法等で繊維化された直後の約200〜350℃の高温雰囲気下で行われることが多いが、その際バインダー中の水分の揮散を良好にできる。
また、アクリル系樹脂の重量平均分子量は、バインダーの流動性だけでなく、硬化後の架橋密度とも関係があり、同酸価のアクリル系樹脂であっても分子量が異なると、バインダー硬化物の強度が変動し、得られる無機繊維断熱吸音材の物性も変化する。例えば、アクリル系樹脂の重量平均分子量が小さくなるにつれて、バインダー硬化物は脆くなる傾向にあり、所望する物性が得られない場合があるが、アクリル系樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であれば、バインダーの流動性と、得られる無機繊維断熱吸音材の諸物性との最適化を図れる。
また、アクリル系樹脂が上記2)の場合は、すなわち、アクリル系樹脂が、重量平均分子量が1,000〜4,000であるアクリル系樹脂(A)と、重量平均分子量が8,000〜20,000であるアクリル系樹脂(B)との混合物である場合、上記アクリル系樹脂(A)と、上記アクリル系樹脂(B)との比率は、質量比で、アクリル系樹脂(A):アクリル系樹脂(B)=60:40〜90:10であることが好ましく、アクリル系樹脂(A):アクリル系樹脂(B)=75:25〜90:10であることがより好ましい。
アクリル系樹脂の分子量を制限することにより、バインダーの流動性は向上するが、無機繊維の繊維化・バインダー塗布後の集綿工程で繊維を堆積させる際の吸引装置により、無機繊維表面上のバインダーが脱落したり、流動の容易さから無機繊維断熱吸音材の下面側にバインダー付着量が偏る現象や、硬化オーブン中の熱風の影響で硬化直前のバインダーが流動して、上面あるいは下面側にバインダーが偏る場合がある。また、1種類のアクリル系樹脂にて、平均重量分子量を比較的大きくするなどの最適化方法も考えられるが、アクリル系樹脂の重量平均分子量を大きくすることは、バインダーの硬化速度を遅くする傾向にあるため、その対応としてバインダーの硬化工程の時間を長くしたり、硬化温度を上昇させる必要があるので、生産性が損なわれる場合や、経済性の点で負荷のかかる場合がある。
重量平均分子量の異なる2種のアクリル系樹脂、すなわち、上記アクリル系樹脂(A)と上記アクリル系樹脂(B)とを併用することにより、バインダーの硬化速度を低下することなく、集綿工程以降の工程で生じるバインダーの流動による無機繊維断熱吸音材中でのバインダー付着量のばらつきを抑制することができる。
本発明の無機繊維用水性バインダーに用いる架橋剤は、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有する架橋剤である。
強酸性下では、水酸基とカルボキシル基の反応は十分に速く進行するので、ポリオールであれば特に限定は無く多種多様のものを用いることができるが、弱酸性〜弱塩基性の条件下では、カルボキシル基と水酸基の反応は緩やかになり、架橋反応がしにくくなる。そのため、バインダー硬化物中にカルボキシル基や水酸基等が残存しがちで、無機繊維断熱吸音材として使用した場合諸物性が劣りがちである。
一方、ジアルカノールアミンは、1個のイミノ基と2個の1級水酸基とを有するポリオールで、イミノ基と水酸基とのカルボキシル基に対する反応性を比較した場合、イミノ基は水酸基よりも速く反応する傾向にある。
よって、架橋剤としてジアルカノールアミンを用いることで、カルボキシル基との反応性を向上させることができ、弱酸性〜弱塩基性の条件下でのカルボキシル基との反応性を最適なものとすることができる。
本発明で用いることのできるジアルカノールアミンとしては、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられ、特に、経済性の観点からジエタノールアミンが好ましい。
また、本発明の無機繊維用水性バインダーは、架橋剤としてジアルカノールアミン以外のポリオールを更に併用してよい。
上記ポリオールとしては、特に制限はないが、水溶性のポリオールであることが好ましく、具体的には、1,2‐エタンジオール(エチレングリコール)及びその二量体又は三量体、1,2‐プロパンジオール(プロピレングリコール)及びその二量体又は三量体、1,3‐プロパンジオール、2,2‐メチル‐1,3‐プロパンジオール、2‐ブチル‐2‐エチル‐1,3‐プロパンジオール、1,3‐ブタンジオール、1,4‐ブタンジオール、2‐メチル‐2,4‐ブタンジオール、1,5‐ペンタンジオール、3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオール、2‐メチル‐2,4‐ペンタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、1,4‐シクロヘキサンジオール、2‐エチル‐1,3‐ヘキサンジオール、2‐ヒドロキシメチル‐2‐メチル‐1,3‐プロパンジオール、2‐エチル‐2‐ヒドロキシメチル‐2‐メチル‐1,3‐プロパンジオール、1,2,6‐ヘキサントリオール、2,2‐ビス(ヒドロキシメチル)‐2,3‐プロパンジオール等の脂肪族ポリオール類;トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のトリアルカノールアミン類;グルコース、フルクトース、マンニトール、ソルビトール、マルチトール等の糖類、及び上記ポリオール類と、フタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等のポリエステルポリオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、アクリル樹脂系ポリオール等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。そして、なかでも、高沸点であり、かつ、昇華しにくいという理由から、トリアルカノールアミン類が好ましい。
架橋剤としてジアルカノールアミンとポリオールを併用する場合、架橋剤中におけるポリオールの含有量については特に制限はなく、使用する無機繊維用水性バインダーのpHによって適宜調整でき、ジアルカノールアミン類100質量部に対して、200質量部未満が好ましく、100質量部未満がより好ましい。架橋剤中におけるポリオールの含有量が、ジアルカノールアミン類100質量部に対して、200質量部未満であれば弱酸性〜弱塩基性の条件下でも、バインダーの架橋反応が十分である。
そして、本発明の無機繊維用水性バインダーにおいては、前記アクリル系樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5となるように、アクリル系樹脂と架橋剤を含有させる必要があり、0.9〜1.2となるように含有させることが好ましく、0.95〜1.1となるように含有させることがより好ましい。上記モル比が0.8未満であると、アクリル系樹脂のカルボキシル基がバインダー硬化後も残存し、また、1.5を超えると、架橋剤中のジアルカノールアミン類が、バインダー硬化後も残存するので、得られる無機繊維断熱吸音材の耐湿性等の環境要因で物性が低下したり、過剰分のアクリル系樹脂、あるいはジアルカノールアミン類が生じやすくなるので、経済性も劣る。
アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル数に対する、架橋剤中の水酸基とイミノ基との合計のモル数が、上記範囲内であれば、アクリル系樹脂、及び架橋剤ともに過不足なくバインダー硬化時に架橋構造を形成することとなるので、バインダー硬化物の強度が強固なものとなり、得られる無機繊維断熱吸音材の諸物性を最適なものにできる。
本発明の無機繊維用水性バインダーに用いる硬化促進剤としては、前記アクリル系樹脂のカルボキシル基と前記ジアルカノールアミン類のイミノ基、あるいは水酸基との、イミド化反応あるいはエステル化反応を促進するものが挙げられ、水溶性のものが好ましい。
このような硬化促進剤としては、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸マグネシウム等の次亜リン酸塩類;トリス(3‐ヒドロキシプロピル)ホスフィン等の有機リン化合物類;テトラエチルホスホニウム塩、トリエチルベンジルホスホニウム塩、テトラn‐ブチルホスホニウム塩、トリn‐ブチルメチルホスホニウム塩等の4級ホスホニウム塩類;三フッ化ホウ素アミン錯体、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム等のルイス酸化合物類;チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、ジルコニルアセテート等の水溶性有機金属化合物等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。なかでも、次亜リン酸カルシウム、及びトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンは、少量でも硬化促進効果が高い上に、バインダー硬化物中に残存しても、バインダー硬化物の耐湿性を損なうことが少ないので好ましい。
硬化促進剤の含有量は、アクリル系樹脂と架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜10質量部が好ましく、0.5〜5質量部がより好ましい。
本発明の無機繊維用水性バインダーに用いる無機酸のアンモニウム塩は、空気中の水分により、無機繊維から溶出するアルカリ成分を中和するものである。
本発明の無機繊維用水性バインダーは、アクリル系樹脂とジアルカノールアミンを架橋させることにより、イミド結合あるいは、エステル結合を形成するが、上記の結合は、無機繊維から溶出されるアルカリ成分によって加水分解されるので、無機繊維断熱吸音材の経年の使用において、バインダーの無機繊維同士の結合力が低下する場合がある。
無機酸のアンモニウム塩は、バインダー硬化工程での加熱により、アンモニウムイオンが、アンモニアとして揮散して、酸としてバインダー中に残存するので、無機酸のアンモニウム塩を含有させることで無機繊維から溶出するアルカリ成分を中和でき、その結果バインダー中の架橋部の加水分解を抑制できるので、無機繊維断熱吸音材の諸物性を長期間維持できる。
本発明で使用する無機酸のアンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、亜硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、チオ硫酸アンモニウム、次亜硫酸アンモニウム、塩素酸塩アンモニウム、ペルオキソ二硫酸二アンモニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム等が挙げられ、アルカリ成分中和後も塩基性になることがなく、少量の含有量で、バインダーの加水分解を抑制することができることから硫酸アンモニウムが好ましい。
無機酸のアンモニウム塩の含有量は、アクリル系樹脂と架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましく、1〜3質量部がより好ましい。0.1質量部未満であると、上記溶出するアルカリ成分を中和するのに不十分であり、5質量部を超えると、上記溶出するアルカリ成分を中和するには過剰量となり、逆に耐水性を損なう場合があるので好ましくない。
本発明の無機繊維用水性バインダーにおいては、ワックス類、あるいはワックス類と重質オイル類の混合物より選択される少なくとも1種の水分散体を用いることが好ましい。
一般に、アクリル系樹脂は、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂と比較して、金属に対する接着性が良いので、無機繊維に付与したバインダーの硬化工程において、バインダーがコンベア等の設備に付着しやすく、それと同時に無機繊維を製造設備に付着させてしまうことがある。これにより、得られる無機繊維製品の表面に凹凸部を生じさせやすく、製品の外観を損ないがちである、また、製造設備に接着した無機繊維の塊等を除去するため、高温下で煩雑な作業が必要となり、生産性を損ねる等の問題が生じがちであるが、上記ワックス類、あるいはワックス類と重質オイル類の混合物をバインダー中に配合することで、これらの成分が無機繊維断熱吸音材製造時の離型剤として作用し、これらの問題を解決することができる。また、同時に、上記ワックス類、あるいはワックス類と重質オイル類の混合物は、バインダー硬化物中に残存して、無機繊維断熱吸音材の撥水性を向上させることができる。
上記ワックス類とは、厳密な定義ではないが、室温下で固体であるが、約40℃以上に加熱すると、比較的流動性の高い液体となるものを指し、具体的には、蜜ろう、ラノリンワックス及びセラックワックス等の動物系ワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス及びキャンデリラワックス等の植物系ワックス、モンタンワックス及びオゾケライト等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリカーボネートワックス、やし油脂肪酸エステル、牛脂脂肪酸エステル、ステアリン酸アミド、ジペプタデシルケトン及び硬化ひまし油等の合成ワックスが挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。そして、これらの中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス及びポリプロピレンワックスが、経済性の点で好ましい。
重質オイル類としては、炭素数がおおよそ15〜120の脂肪族炭化水素であるパラフィンあるいはナフテンで構成されているものを用いる。重質オイル類は、ワックス類と比較的類似した化学構造を有しており、流動性も高いので、ワックス類の可塑材としても作用する。そのため、水性バインダーを硬化させるための加熱の際に、ワックス類の流動性を高めることができ、無機繊維上にむらなくワックス及び重質オイルを塗布することができ、無機繊維断熱吸音材の離型性や撥水性のばらつきを低減できる。
重質オイル類の分類は、粘度により行われ、VG(Viscosity Grade)で320mm/s〜680mm/sの領域にあるものが、本発明において好ましく用いることができる。比較的粘度の低い、例えばVGが320mm/s未満の重質オイル類では、炭素数が30以下、特に、炭素数が20以下の成分が増加しがちで、バインダー硬化時の加熱の際に揮散し易くなり、粘度が高く、例えばVGが680mm/sを超えると、乳化する際の分散剤との混合に時間を要し、生産性を損なう場合がある。
上記ワックス類と上記重質オイル類とを併用する場合において、ワックス類と重質オイル類の質量比に特に制限はないが、ワックス類:重質オイル類=40:60〜95:5であることが好ましい。重質オイル類の比率が、60質量%を超えると、室温下での撥水剤の流動性が高くなるので、得られる無機繊維断熱吸音材の長期間の使用での撥水性が低下する場合がある。一方、重質オイル類の比率が5質量%未満になると、高融点のワックス類を使用する場合には、ワックス類の可塑化効果が低減し、得られる無機繊維断熱吸音材の撥水性にばらつきが生じる場合がある。したがって、上記重質オイル類の使用比率は、使用するワックス類の融点、あるいは所望する撥水性能に合わせ、適宜調整することがより好ましい。
一般的に、ワックス類及び重質オイル類は、疎水性材料であるため、ワックス類、あるいはワックス類と重質オイル類の混合物をバインダーに添加する際には、混和性向上のため、あらかじめ、水に分散又は乳化させて用いることが好ましい。
上記ワックス類、及び重質オイル類の水への分散剤としては、特に制限はなく、各種界面活性剤、あるいは水溶性樹脂等が挙げられ、分散剤の種類及び量に関しては、適宜設定することが好ましい。
そして、ワックス類、あるいはワックス類と重質オイル類の混合物の含有量は、前記アクリル系樹脂と前記架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜3質量部がより好ましく、0.5〜2質量部が特に好ましい。含有量が0.1質量部未満であると、離型性、撥水性の向上がほとんど見られず、5.0質量部を超えても含有量の増加に比例して撥水性が向上せず不経済であるので好ましくない。
また、本発明の無機繊維用水性バインダーにおいては、更にシランカップリング剤を用いることが好ましい。シランカップリング剤は、無機繊維とバインダーとの界面で作用し、バインダーの無機繊維への接着を向上させることができる。
本発明で使用するシランカップリング剤としては、γ‐アミノプロピルトリエトキシシラン、γ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ‐(2‐アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシランカップリング剤、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ‐グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランカップリング剤等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上を併用することができる。
そして、シランカップリング剤の含有量は、アクリル系樹脂と架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜2.0質量部が好ましい。
また、本発明の無機繊維用水性バインダーにおいては、必要に応じて、防塵剤、着色剤等を更に添加してもよい。
本発明の無機繊維用水性バインダーは、上記アクリル系樹脂と、架橋剤と、硬化促進剤と、必要に応じて更にワックス類、あるいはワックス類及び重質オイル類の混合物より選択される1種の水分散体、シランカップリング剤等を、ディゾルバー等の攪拌機のついたタンクを用いて混合することで調製することができる。
そして、水性バインダーの形態としては、エマルション、コロイダルディスパージョン、水溶性組成物が挙げられるが、エマルションやコロイダルディスパージョンでは、分散されている樹脂成分と水との混和性が劣り、媒体である水が揮散すると、フィルムを形成しやすいという特性を有している。バインダー中の樹脂組成物が、硬化前にフィルムを形成すると、繊維表面でのバインダーの流動性が損なわれやすく、バインダーの付着量が均質な無機繊維断熱吸音材が得られないだけでなく、繊維同士のバインダーによる結合が欠ける部分が多くなり、製品としての形状を保つのが困難となる場合がある。また、コロイダルディスパージョンやエマルションでは、一旦、媒体である水が揮散してフィルムを形成すると、再度水性材料に戻り難いため、製造設備等にバインダーが付着すると、洗浄が煩雑となり、生産性の低下が生じがちである。
一方、水性バインダーが水溶性組成物である場合、水の揮散によるフィルム形成がないので、上記のような問題が生じることがない。よって、本発明の無機繊維用水性バインダーは水溶性組成物として調製することが好ましい。
ここで、エマルションとは、樹脂成分とは別の乳化剤、例えば、界面活性剤等で乳化したものを指し、コロイダルディスパージョンとは、樹脂成分中の官能基によって、水中に分散したものを指しており、両者とも外観は乳白色をしている。一方、水溶性組成物とは、樹脂成分が完全に水に溶解しているものを指しており、外観も透明、あるいは透明に近いものである。
また、無機繊維用水性バインダーのpHは6.0〜8.0となるように揮発性塩基性化合物を用いて調整することが必要であり、6.0〜7.0が好ましく、6.0〜6.5がより好ましい。pHが6.0未満であると、長期の使用により、製造設備が腐食されることがあり、また、廃水の処理コストがかかり、pHが8.0を超えると、バインダー中の架橋反応が緩やかになり、硬化が完了しなかったり、あるいは硬化を完了させるまでに長い時間の加熱が必要となり、生産性を損ないやすく、また、得られる無機繊維断熱吸音材の復元性や自立性等の諸物性が損なわれやすい。無機繊維用水性バインダーのpHが上記範囲内であれば、製造設備の腐食を抑制でき、また、廃水処理も容易となるので、メンテナンス費用の低減を図れる。
そして、pHの調整に用いる揮発性塩基性化合物としては、アンモニア水、あるいはアミン類が挙げられ、硬化時に発生する臭気等を考慮すると、アンモニア水を用いることが好ましい。
また、無機繊維用水性バインダーの固形分量は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。固形分量が5質量%未満であると水分量が多くなり、硬化工程で時間を要し、生産性を損なう場合があり、40質量%を超えると粘度が高くなり、バインダーの流動性が低下する。
次に、本発明の無機繊維断熱吸音材について説明する。
本発明の無機繊維断熱吸音材は、上記無機繊維用水性バインダーを無機繊維に付与し、バインダーを加熱硬化させて成形して得られたものである。
本発明の無機繊維断熱吸音材は、例えば以下のようにして製造することができる。すなわち、まず、溶融した無機質原料を繊維化装置で繊維化し、その直後に上記の無機繊維用水性バインダーを無機繊維に付与する。次いで、無機繊維用水性バインダーが付与された無機繊維を有孔コンベア上に堆積して嵩高い無機繊維断熱吸音材用中間体を形成し(集綿工程)、所望とする厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込んで狭圧しつつ加熱し、無機繊維用水性バインダーを硬化させて無機繊維断熱吸音材を形成する(硬化工程)。そして、必要に応じて表皮材等を被覆させて、無機繊維断熱吸音材を所望とする幅、長さに切断して製品が得られる。
以下、各工程についてさらに詳しく説明する。
本発明の無機繊維断熱吸音材に用いる無機繊維としては、特に限定されず、通常の断熱吸音材に使用されているグラスウール、ロックウール等を用いることができる。無機繊維の繊維化方法は、火焔法、吹き飛ばし法、遠心法(ロータリー法とも言う)等の各種方法を用いることができる。特に無機繊維がグラスウールの場合は、遠心法を用いることが好ましい。なお、目的とする無機繊維断熱吸音材の密度は、通常の断熱材や吸音材に使用されている密度でよく、好ましくは5〜300kg/mの範囲である。
無機繊維にバインダーを付与するには、スプレー装置等を用いて塗布、噴霧する。バインダーの付与量の調整は、従来の撥水剤を含まないバインダーと同様の方法で調整することができる。そして、バインダーの付与量は、無機繊維断熱吸音材の密度や用途によって異なるが、バインダーを付与した無機繊維断熱吸音材の質量を基準として、固形分換算で0.5〜15質量%の範囲が好ましく、0.5〜9質量%の範囲がより好ましい。
無機繊維吸音断熱材にバインダーを付与するタイミングとしては、繊維化後であればいつでも良いが、バインダーを効率的に付与させるためには、繊維化直後に付与することが好ましい。
上記工程によってバインダーが付与された無機繊維は、有孔コンベア上に堆積され、嵩高い無機繊維中間体となる。ここで有孔コンベア上に堆積する時に、無機繊維が堆積される有孔コンベアの反対側から吸引装置により吸引することがより好ましい。
その後、有孔コンベア上を連続的に移動する前記無機繊維中間体を、所望とする厚さになるように間隔を設けた上下一対の有孔コンベア等に送り込むと同時に、加熱した熱風によりバインダーを硬化させて、無機繊維断熱吸音材をマット状に成形した後、所望とする幅、長さに切断する。
バインダーの加熱硬化温度は、特に限定しないが、200〜350℃が好ましい。また、加熱硬化時間は、無機繊維断熱吸音材の密度、厚さにより、30秒〜10分の間で適宜調整する。
本発明の無機繊維断熱吸音材は、そのままの形態で用いてもよく、また、表皮材で被覆して用いてもよい。表皮材としては、紙、合成樹脂フィルム、金属箔フィルム、不織布、織布あるいはこれらを組み合わせたものを用いることができる。
このようにして得られた本発明の無機繊維断熱吸音材は、バインダーの加熱硬化時に、ホルムアルデヒドを放出することがないので、従来のフェノール・ホルムアルデヒド系バインダーと比較して、環境負荷を少ないものである。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明する。なお、以下の説明において、部、%は、特に断りのない場合は質量基準を表す。
(実施例1)
アクリル酸及び、メチルアクリレートとからなるアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量2,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを52.7部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.05)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部および、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を5.0部添加して、実施例1の無機繊維用水性バインダーを得た。
(実施例2)
スチレン及びマレイン酸からなるアクリル系樹脂(酸価710mgKOH/g、重量平均分子量14,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分35%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを49.9部と、酸化促進剤として次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.0)し、25%アンモニア水でpH6.0に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部及び硫酸アンモニウム3.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈して、実施例2の無機繊維用水性バインダーを得た。
(実施例3)
アクリル酸、スチレン及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価380mgKOH/g、重量平均分子量7,800)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジイソプロパノールアミンを28.5部と、硬化促進剤としてトリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=0.95)し、25%アンモニア水でpH6.0に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.2部及び、硫酸アンモニウム1.5部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、実施例3の無機繊維用水性バインダーを得た。
(実施例4)
アクリル酸、スチレン及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価560mgKOH/g、重量平均分子量17,500)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分30%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを38.4部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.10)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部及び、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が12%となるように水で希釈して、実施例4の無機繊維用水性バインダーを得た。
(実施例5)
アクリル酸及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量1,500)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてトリエタノールアミンを30部及びジエタノールアミンを25.5部と、硬化促進剤として、次亜リン酸ナトリウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.0)し、25%アンモニア水でpH6.0に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.3部及び、メタリン酸アンモニウム3.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のオレフィンワックス:粘度グレードが320mm/sの重質オイル=1:1の水分散体5.0部を添加して、実施例5の無機繊維用水性バインダーを得た。
(実施例6)
アクリル酸、スチレン及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価380mgKOH/g、重量平均分子量7,800)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを35.5部と、硬化促進剤として、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.5)し、25%アンモニア水でpH6.0に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.2部及び、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、実施例6の無機繊維用水性バインダーを得た。
(実施例7)
アクリル酸及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価640mgKOH/g、重量平均分子量2,200)80%と、スチレン及び、マレイン酸からなるアクリル系樹脂(酸価710mgKOH/g、重量平均分子量17,500)20%の混合物を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを40.8部と、硬化促進剤として、次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.0)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.2部及び、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、実施例7の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例1)
アクリル酸及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量1,500)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてトリエタノールアミンを74.8部と、硬化促進剤として、次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.05)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを0.3部添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を5.0部添加して、比較例1の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例2)
アクリル酸及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量1,500)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてトリエタノールアミンを74.8部と、硬化促進剤として、次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.05)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部及び、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を5.0部添加して、比較例2の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例3)
スチレン及びマレイン酸からなるアクリル系樹脂(酸価710mgKOH/g、重量平均分子量14,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分35%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてペンタエリスリトールを49.1部と、硬化促進剤として、次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.0)し、25%アンモニア水でpH6.0に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部、及び硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈して、比較例3の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例4)
アクリル酸、スチレン及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価380mgKOH/g、重量平均分子量7,800)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分40%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを47.3部と、硬化促進剤として、トリス(3−ヒドロキシプロピル)ホスフィンを4.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=2.0)し、25%アンモニア水でpH6.0に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン0.2部及び、硫酸アンモニウム2.0部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を4.0部添加して、比較例4の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例5)
アクリル酸及び、メチルアクリレートとからなるアクリル系樹脂(酸価690mgKOH/g、重量平均分子量2,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分45%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを52.7部と、硬化促進剤として次亜リン酸ナトリウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.05)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン0.3部を添加して攪拌した後、固形分が15%となるように水で希釈し、固形分40%のパラフィンワックス水分散体を5.0部添加して、比較例5の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例6)
アクリル酸、スチレン及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価280mgKOH/g、重量平均分子量35,000)を水で溶解させた樹脂溶液(固形分30%)を固形分換算で100部と、架橋剤としてジエタノールアミンを19.2部と、硬化促進剤として、次亜リン酸カルシウムを6.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.10)し、25%アンモニア水でpH6.5に調整した水溶性組成物を得て、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを0.3部添加して攪拌した後、固形分が10%となるように水で希釈して、比較例6の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例7)
アクリル酸、スチレン及び、メチルアクリレートからなるアクリル系樹脂(酸価80mgKOH/g、重量平均分子量240,000)を25%アンモニア水で中和して得られたコロイダルディスパージョン(固形分28%)を固形分換算で100質量部と、架橋剤としてジエタノールアミンを5.5部と、硬化促進剤として次亜リン酸カルシウムを3.0部とを混合(架橋剤のイミノ基と水酸基の総モル量/アクリル系樹脂のカルボキシル基のモル量=1.10)し、さらに、シランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシランを0.3部添加して攪拌した後、固形分が10%となるように水で希釈して、比較例7の無機繊維用水性バインダーを得た。
(比較例8)
水に分散された、単量体10%以下、二量体80%以上、遊離フェノール1%以下のレゾール型フェノール樹脂前駆体を固形分換算で100部と、シランカップリング剤としてγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを0.2部と、硬化促進剤及び、無機繊維からのアルカリ成分の中和剤として硫酸アンモニウムを2.0部と、水を450部とをディゾルバーの付いたオープンタンクで調合し、攪拌しながら固形分が15%になるように水で希釈して、比較例6の無機繊維用水性バインダーを得た。
実施例1〜7、比較例1〜8の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材について、下記方法により、ホルムアルデヒド放出量、引き裂き荷重を評価した。結果を表1にまとめて記す。
[ホルムアルデヒド放出量の評価]
遠心法により繊維化したガラス繊維に、実施例1〜7及び比較例1〜8の無機繊維用水性バインダーを所定の付着量になるようにそれぞれスプレーで塗布した後、吸引装置で吸引しながら有孔コンベア上に堆積して、無機繊維断熱吸音材の中間体を形成させた。前記中間体を260℃の熱風中で3分間加熱して、バインダーを硬化させ、密度16Kg/m、厚み100mm、バインダー付着量3.0%である無機繊維断熱吸音材(グラスウール)をそれぞれ得た。
上記グラスウールのバインダー硬化時に発生するガスを、4リットルの臭気袋に捕集し、ガス検知器を用いて、ホルムアルデヒドの放出量を測定した。
比較例8のフェノール系バインダーを用いて得られたグラスウールの硬化時には、40ppmのホルムアルデヒドが検出されたが、実施例1〜7及び比較例1〜7のアクリル系樹脂を含むバインダーを用いて得られたグラスウールの硬化時には、ホルムアルデヒドは検出されなかった。
[引き裂き荷重の評価]
遠心法により繊維化したガラス繊維に、実施例1〜7及び比較例1〜8の無機繊維用水性バインダーを所定の付着量になるようにそれぞれスプレーで塗布した後、吸引装置で吸引しながら有孔コンベア上に堆積して、無機繊維断熱吸音材の中間体を形成させた。前記中間体を260℃の熱風中で5分間加熱して、バインダーを硬化させ、密度32Kg/m3、長さ1350mm、幅430mm、厚み50mm、バインダー付着量6.0%である無機繊維断熱吸音材(グラスウールボード)をそれぞれ得た。そして、得られた32Kg/m3のグラスウールボードの端面部分を、厚み方向に、万能試験機のチャックで挟み込み、1m/分の速度で引き裂き荷重を測定した。
また、実施例1〜7及び比較例1〜8の無機繊維用水性バインダーにて成形させた無機繊維断熱吸音材を40℃、湿度95%の条件下で、4週間静置させた後に、同様の評価を行った。
なお、比較例6のバインダーを使用したグラスウールボードでは、無機繊維断熱吸音材の中間体を形成する有孔コンベア上に、バインダーの粘着性による汚れと、無機繊維の付着が多く観察された。また、比較例7のバインダーを使用したグラスウールボードでは、硬化時のコンベアに薄い無機繊維層の付着が観察された。
Figure 0004759375
上記結果より、比較例1、2の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、バインダーによる繊維と繊維の接着性が経時的に損なわれた。なお比較例2では、バインダー中に無機繊維から溶出されるアルカリ成分を中和するための、無機酸のアンモニウム塩を含有しているが、高温高湿下での経時後の評価が劣ることより、比較例2のバインダーでは、硬化が完全に完了していないことが考えられる。
比較例3の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、架橋剤としてイミノ基を含まない4個の水酸基をもつペンタエリスリトールを使用しているので、弱酸性〜弱塩基性の条件下では、カルボキシル基と水酸基の反応は緩やかになり、架橋反応がしにくい。そのため、引き裂き荷重の劣るものであり、更には、高温高湿下での日数を経るにしたがってバインダーによる繊維と繊維の接着性が経時的に損なわれた。
比較例4の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、過剰分の架橋成分によって無機繊維断熱吸音材の吸湿性に悪影響がもたらされ、実施例1〜7と比べて引き裂き荷重が劣るものであり、更には、高温高湿下での日数を経るにしたがってバインダーによる繊維と繊維の接着性が経時的に損なわれた。
比較例5の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、実施例1と同様のバインダーであるが、無機酸のアンモニウム塩が含有されておらず、高温高湿下での日数を経るにしたがって引き裂き荷重が減少する傾向であった。
比較例6の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、アクリル系樹脂の酸価が、本発明の酸価の領域から外れているため、バインダーの架橋密度が不足して充分な強度が得られず、実施例1〜7と比べて高温高湿下での日数を経るにしたがってバインダーによる繊維と繊維の接着性が経時的に損なわれ、引き裂き荷重の劣るものであった。
比較例7の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、製造時に、硬化コンベアにバインダー及び無機繊維が接着していることから、コロイダルディスパージョンの性質である造膜性が先に作用していると推測でき、引き裂き荷重が極めて劣るものであった。
一方、実施例1〜7の無機繊維用水性バインダーを用いた無機繊維断熱吸音材は、バインダーの硬化時にホルムアルデヒドの放出がなく、また、フェノール樹脂系バインダーを使用した比較例8の無機繊維断熱吸音材と同等又はそれ以上の引き裂き荷重を有するものであった。
本発明の無機繊維用水性バインダーは、ホルムアルデヒドを全く含有していないので、環境負荷が少なく、住宅や建物の断熱材又は吸音材として好適に使用できる無機繊維断熱吸音材とすることがきる。

Claims (7)

  1. 酸価が350〜850mgKOH/gのアクリル系樹脂と、ジアルカノールアミンを少なくとも1種類以上含有する架橋剤と、硬化促進剤と、無機酸のアンモニウム塩とを含み、前記アクリル系樹脂中のカルボキシル基のモル数に対し、前記架橋剤中の水酸基とイミノ基との合計のモル数が、モル比で0.8〜1.5であり、揮発性塩基性化合物によってpHが6.0〜8.0に調整されていることを特徴とする無機繊維用水性バインダー。
  2. 前記アクリル系樹脂は、重量平均分子量が1,000〜15,000である請求項1に記載の無機繊維用水性バインダー
  3. 前記アクリル系樹脂は、重量平均分子量が1,000〜4,000であるアクリル系樹脂(A)と、重量平均分子量が8000〜20,000であるアクリル系樹脂(B)との混合物である請求項1に記載の無機繊維用水性バインダー。
  4. 前記無機酸のアンモニウム塩が、硫酸アンモニウムである請求項1〜3に記載の無機繊維用水性バインダー。
  5. ワックス類、あるいはワックス類及び重質オイル類の混合物より選択される1種の水分散体を、前記アクリル系樹脂と前記架橋剤との合計100質量部に対して、固形分換算で0.1〜5質量部含有する請求項1〜4に記載の無機繊維用水性バインダー。
  6. シランカップリング剤を、前記アクリル系樹脂と前記架橋剤との合計100質量部に対して、0.1〜2.0質量部含有する請求項1〜5のいずれか一つに記載の無機繊維用水性バインダー。
  7. 請求項1〜6のいずれか一つに記載の無機繊維用水性バインダーを、無機繊維に付与し、加熱硬化させて成形したことを特徴とする無機繊維断熱吸音材。
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