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JP4638349B2 - 重合性ビスホスホン酸を含む組成物および方法 - Google Patents

重合性ビスホスホン酸を含む組成物および方法 Download PDF

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Description

本発明は重合性ビスホスホン酸を含む組成物を目的とし、それらのものは、各種の用途、特に、たとえば医療用、歯科用、歯列矯正用途などにおいて使用できる。そのような組成物は、歯系組織に対する歯科修復材、歯科矯正装置などの接着性を促進させるための、エッチング剤、特に自己エッチング性プライマーおよび自己エッチング性接着剤として特に有用である。
齲蝕された歯系組織(齲歯をふくむ)、齲蝕された象牙質または齲蝕されたエナメル質の修復は、多くの場合、順に、関連した歯系組織に対して歯科用接着剤を塗布し、その後に歯科材料(たとえば、修復材料)を適用することにより実施される。同様に、接着剤は、(一般には歯科矯正用接着剤も使用して)歯科矯正装置を歯系組織に接合させるためにも用いられる。各種の前処理プロセスが、たとえば象牙質やエナメル質への接着剤の接合を促進させるために、使用されている。典型的にはそのような前処理工程には、たとえば無機酸または有機酸を用いたエッチングと、それに続けて、歯牙組織とその上の接着剤との間の接合性を改良するためのプライマー処理が含まれる。
歯科修復材(たとえば、コンポジット、充填物、シーラント、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジなど)の適用、または歯牙組織に対する歯科矯正装置の適用のいずれであっても、典型的にエッチング剤、プライマー、および接着剤が、段階的に塗布される。それぞれの工程の間で、1回または数回のすすぎや乾燥工程が加わることも多い。その結果、歯科修復および歯科矯正装置の適用では、多段階の工程が含まれるのが普通である。
米国特許第4,652,274号明細書 米国特許第4,642,126号明細書 国際公開第00/38619号パンフレット 国際公開第01/92271号パンフレット 国際公開第01/07444号パンフレット 国際公開第00/42092号パンフレット 米国特許第5,076,844号明細書 米国特許第4,356,296号明細書 EP0 373 384号明細書 EP0 201 031号明細書 欧州特許第0 201 778号明細書 米国特許第4,872,936号明細書 米国特許第5,130,347号明細書 米国特許第4,259,075号明細書 米国特許第4,499,251号明細書 米国特許第4,537,940号明細書 米国特許第4,539,382号明細書 米国特許第5,530,038号明細書 米国特許第6,458,868号明細書 EP712,622号明細書 EP1,051,961号明細書 米国特許第5,256,447号明細書 米国特許第5,545,676号明細書 米国特許第6,204,302号明細書 米国特許第4,298,738号明細書 米国特許第4,324,744号明細書 米国特許第4,385,109号明細書 米国特許第4,710,523号明細書 米国特許第4,737,593号明細書 米国特許第6,251,963号明細書 EP0 173 567A2号明細書 米国特許第5,063,257号明細書 米国特許第5,520,725号明細書 米国特許第5,859,089号明細書 米国特許第5,925,715号明細書 米国特許第5,962,550号明細書 米国特許第5,154,762号明細書 米国特許第5,871,360号明細書 米国特許第5,227,413号明細書 米国特許第5,367,002号明細書 米国特許第5,965,632号明細書 米国特許出願公開第2003/0087986号明細書 米国特許出願公開第2003/0166740号明細書 米国特許出願公開第2003/0195273号明細書 米国特許第5,501,727号明細書 米国特許第4,695,251号明細書 米国特許第4,503,169号明細書 米国特許第6,387,981号明細書 国際公開第01/30304号パンフレット 国際公開第01/30305号パンフレット 国際公開第01/30306号パンフレット 国際公開第01/30307号パンフレット 米国特許第6,306,926号明細書 米国特許第6,331,080号明細書 米国特許第6,444,725号明細書 米国特許第6,528,555号明細書 米国特許第5,607,663号明細書 米国特許第5,662,887号明細書 米国特許第5,866,630号明細書 米国特許第5,876,208号明細書 米国特許第5,888,491号明細書 米国特許第6,312,668号明細書 米国特許第4,871,786号明細書 米国特許第5,554,030号明細書 米国特許第5,525,648号明細書 米国特許第4,719,149号明細書 米国特許第5,980,253号明細書 マティス(Mathis)ら、「プロパティーズ・オブ・ア・ニュー・ガラス・アイオノマー/コンポジット・レジン・ハイブリッド・レストラティブ(Properties of a New Glass Ionomer/Composite Resin Hybrid Restorative)」、アブストラクト(Abstract)No.51、ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ(J.Dent.Res.)、第66巻、p.113(1987)
従来からの修復および/または歯科矯正方法を単純化させる目的で、たとえば、エッチングとプライマー処理の両方を実施することが可能な単一の組成物があれば、望ましい。したがって、接着剤(たとえば、歯科用接着剤)の基体表面(たとえば、歯系組織、たとえば象牙質、エナメル質、骨、またはその他の硬組織)への接合性を改善し、従来行われていたエッチング後のすすぎと乾燥の工程を不要とする、自己エッチング性プライマー、特に自己エッチング性歯科用プライマーに対するニーズがある。さらに、自己エッチング性接着剤、すなわち、単一の前処理工程で、プライマー処理とエッチングが可能な、単一組成物からなる接着剤として使用できるような、新しい組成物に対するニーズが依然として存在している。本発明の好ましい実施形態は、そのようなニーズの幾つかを満たすものである。
本発明が目的としているのは、1種または複数の重合性ビスホスホン酸、それらの塩、またはそれらの組合せを含む組成物である。そのような組成物は、たとえば、エッチング剤、特に自己エッチング性プライマー(すなわち、エッチング剤/プライマー組成物)などとして、各種の医療用途および歯科用途において有用である。それらの組成物は、硬表面、好ましくは、少なくとも1つのタイプの医学的組織または歯系組織に対する、接着剤の接合(ひいては、たとえば、歯科修復材または歯科矯正装置への材料の接着性)を改良するための方法およびキットに使用することが可能である。本発明の組成物が、自己エッチング性接着剤(すなわち、エッチング剤/プライマー/接着剤組成物)としても機能すれば、好ましい。
本発明の組成物には、式Iの1種または複数の重合性ビスホスホン酸、さらに詳しくは、式IIの1種または複数の重合性ビスホスホン酸を含む。それらの化合物は、(図示したような)その酸の形であっても、あるいはそれらの塩の形であってもよい。
式Iの化合物において、Rは、重合性の基を含む有機基であり;そしてRは、H、OR、SR、N(R)、または、任意にRと一緒になって、2つのリン原子の間の炭素と炭素−炭素二重結合を形成することが可能な有機基(すなわち、RとR基が1つのものであって、C=C結合と同じこと)であるが、ここでその有機基は、任意に重合性の基を含み、さらに、ここでそれぞれのRは独立して、水素または、任意に重合性の基を含む有機基である。いずれの場合も、1つの化合物において、R基は同一であっても、異なっていてもよい。
式IIの化合物において、x=1〜3;Rは、H、OH、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、または−A−(N(R)−C(O)−C(R)=CHであり;Rはそれぞれ独立して、HまたはCHであり;Rはそれぞれ、H、アルキル基、またはAと結合して環状有機基を形成していてもよく;そしてAは単結合、または、直鎖または分岐状の有機基である。いずれの場合も、1つの化合物においては、基−A−(N(R)−C(O)−C(R)=CHは同一であっても、異なっていてもよい。
重合性ビスホスホン酸は、組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも約1重量パーセント(重量%)、より好ましくは、少なくとも約5重量%の量で存在する。
ある種の好ましい実施形態においては、その組成物が式IIの化合物とは異なる重合性成分を含み、そうでなければ、特に硬組織において有用なエッチング剤、より好ましくは自己エッチング性プライマーまたは自己エッチング性接着剤として使用するために配合される場合には、式IIのAは直鎖または分岐状の有機基である。
ある種の好ましい実施形態においては、その組成物が式IIの化合物とは異なる重合性成分を含む場合には、式IIのAが単結合、または、直鎖または分岐状の有機基であって、式IIの化合物は、組成物の全重量を基準にして少なくとも約1重量%の量で存在する。
本発明の組成物のある種の好ましい実施形態は、自己エッチング性プライマーであって、それにより、硬表面、特に歯牙の表面を、エッチングとプライマー処理とを同時にすることができる。別な方法として、所望により、別な歯科用プライマーを使用することもできる。
本発明の組成物のある種の好ましい実施形態は、自己エッチング性接着剤であって、これは、たとえば歯科材料(たとえば、コンポジット、充填物、シーラント、インレー、アンレー、クラウン、およびブリッジ)の歯牙の表面への接着を促進させることができる。別な方法として、所望により、別な歯科用接着剤を使用することもできる。
本発明のある種の方法には、本発明の組成物を用いて硬表面をエッチングすることを含めて、硬表面を処理することが含まれるが、ただし、その硬表面は前処理されていないものである。
本発明の組成物は、歯科矯正用接着剤の歯牙の表面に対する接着性を促進させる働きを有することができるが、ここで、その歯科矯正用接着剤は、歯科矯正装置をその歯牙の表面に接着させる機能を有している。したがって、本発明のある種の方法には、重合性ビスホスホン酸を含む組成物によって歯牙の表面を予めエッチングした後に、歯科矯正装置(たとえば、ブラケット、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、リンガルリテーナー、およびバイトブロッカー(bite blocker))を歯牙の表面に接着させることが含まれる。
ある種の好ましい方法においては、歯科矯正用接着剤を歯牙の表面に接着させるが、この処置は、任意に、歯科矯正装置に予め塗布しておいてから、歯牙の表面に接着させることもできる。その方法にはさらに、任意に、歯牙の表面にプライマー処理をする工程があって、その後で歯科矯正装置を歯牙の表面に接着させるようにすることもできる。その組成物に、重合性ビスホスホン酸とは異なる少なくとも1種の重合性成分がさらに含まれている場合には、そのエッチングおよびプライマー処理の工程は、自己エッチング性プライマー組成物として機能する組成物を用いて同時に実施する。その方法にはさらに、任意に、歯牙の表面に歯科用接着剤を塗布する工程があって、その後で歯科矯正装置を歯牙の表面に接着させるようにすることもできる。その組成物に、重合性ビスホスホン酸とは異なる少なくとも1種の重合性成分がさらに含まれている場合には、そのエッチングおよび歯科用接着剤を塗布する工程は、自己エッチング性接着剤組成物として機能する組成物を用いて同時に実施する。ある種の実施形態においては、本発明の方法には、歯科矯正用接着剤を歯牙の表面に接着させることを含むことが可能であるが、ここで、その歯科矯正用接着剤は、予め歯科矯正装置に塗布しておいてから、歯牙の表面に接着させるのが好ましい。
本明細書においては、「接着剤」または「歯科用接着剤」という用語は、「歯科材料」(たとえば、「修復材」)、歯科矯正装置(たとえば、ブラケット)、または「歯科矯正用接着剤」を歯系組織に接着させるための、歯系組織(たとえば、歯牙)の上に前処理として使用する組成物を指す。「歯科矯正用接着剤」という用語は、歯科矯正装置を歯系組織(たとえば、歯牙)の表面に接着させるのに使用される、高度に(一般に40重量%超)充填された組成物を指す(「歯科用接着剤というよりは、「修復材料」に近い)。一般に、歯牙の表面は、たとえば、エッチング、プライマー処理、および/または接着剤を塗布することによって前処理して、「歯科矯正用接着剤」の歯牙の表面への接着性を向上させる。「歯系組織」という用語は、たとえば、歯牙組織(たとえば、エナメル質および象牙質)、それに骨を指す。
「含む(comprises)」およびそれから派生した用語は、本明細書および特許請求項にそれらの用語が用いられた場合には、限定する意味合いを有するものではない。
本明細書で使用するとき、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1種」、および「1種または複数」という用語は、相互に区別無く使用される。
さらに本明細書においては、末端によって数値の範囲を示す場合、その範囲に包含される全ての数字が含まれる(たとえば、1〜5と言った場合には、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5、などが含まれる)。
上述した本発明の要約は、開示された実施形態の全て、あるいは本発明の実施のすべてを、記述することを目的としている訳ではない。以下の記述においては、説明のための実施形態を用いて、より具体的な例を示す。本明細書の幾つかの箇所において、例をリストアップして説明しているが、それらの例は各種組み合わせて使用することができる。それぞれの場合において、そこに示したリストは、単に代表的な群として挙げたものであり、それらのみに限定するためのリストと受け取ってはならない。
本発明は、1種または複数の重合性ビスホスホン酸を含む組成物を目的とする。本明細書において、ビスホスホン酸と言った場合、これには酸の形、それらの塩、またはそれらの組合せも含まれる。その組成物にはさらに、1種または複数のさらなる重合性成分が含まれるのも好ましい。
本発明の組成物は、硬表面、好ましくは、象牙質、エナメル質、および骨のような硬組織を処理するのに有用である。本発明の組成物は、少なくとも1つのタイプの医学的組織(たとえば、骨、軟骨、医療器具)または歯系組織(たとえば、象牙質、エナメル質、または骨)に使用するのが特に望ましいものではあるものの、それらは、金属や金属酸化物表面のような硬表面を、エッチング、好ましくはエッチングとプライマー処理することにも使用できる。本発明の組成物は典型的には、上塗り接着剤(たとえば、歯科用接着剤)と共に使用するが、ある種の好ましい実施形態においては、それらを接着剤(すなわち、自己エッチング性接着剤)として使用することもできる。
このように、本発明の組成物は、硬表面のためのエッチング剤として有用である。ある種の好ましい実施形態においては、この組成物は自己エッチング性プライマーである。すなわち、それらは1段の工程で表面にエッチングとプライマー処理ができ、それによって、従来法におけるようなエッチング後の洗いと乾燥の工程を省略することができる。次いで、接着剤を、そのエッチングとプライマー処理した表面に塗布する。また別なある種の好ましい実施形態においては、この組成物は自己エッチング性接着剤である。すなわち、それらは1段の工程で表面にエッチングとプライマー処理ができ、接着剤として機能する。
そのような自己エッチング性プライマーおよび自己エッチング性接着剤組成物は典型的には、1種または複数の重合性成分を、ビスホスホン酸化合物に付加させることによって、調製する。追加の重合性成分を選択して、組成物に対して、所望のプライマー的および/または接着剤的性質を付与する。一般的に、硬表面処理組成物にプライマー的および/または接着剤的性質を付与するための、重合性成分やその他の任意の成分を選択する方法は、歯科用および医療用材料の調合に慣れた者にとっては、公知である。そのような組成物、さらには、組成物の中に組み入れたり、または組成物と組み合わせて使用したりすることが可能な、従来の歯科用プライマーおよび歯科用接着剤において使用するのに適した重合性成分については、本明細書において説明する。別な方法として、組成物に対して他の重合性成分を加える代わりに、ビスホスホン酸を化学的に修飾することによって、その組成物にプライマー的および/または接着剤的性質を付与することもできる。
本発明の組成物は、材料(たとえば、歯科用修復材または歯科矯正装置)の、硬表面、特に歯牙の表面(たとえば、エナメル質または象牙質)に対する接着性を促進させるために使用するのが好ましい。典型的には、この組成物は、材料を接着させる前に、硬化させる(すなわち、慣用される光重合法および/または化学重合法により重合させる)。この組成物を、エナメル質と象牙質の両方に対する接着性を促進させるように処方することが可能であれば、意義深い。この組成物を、エナメル質と象牙質の両方に対する、エッチング剤、プライマー、そして接着剤として機能できるように処方することが可能であれば、特に意義深い。
本発明の組成物を使用して、歯科修復材(たとえば、コンポジット、充填物、シーラント、インレー、アンレー、クラウン、ブリッジ)または歯科矯正装置(たとえば、ブラケット(任意に、歯科矯正用接着剤を用いてプレコートさせたもの)、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、リンガルリテーナー、およびバイトブロッカー)の、歯系組織に対する接着性を促進させることができる。
重合性ビスホスホン酸およびその他の任意成分の重合性成分に加えて、本発明の組成物には、任意に、充填剤、溶媒、歯科用接着剤、および/または歯科用プライマーを加えることもできる。本明細書に記載した成分を各種組み合わせて、本発明の組成物に使用することができる。
本発明のある種の好適な水系の(すなわち、組成物中に水を含む)実施形態は、加水分解安定性を向上させて、たとえば、室温におけるの貯蔵寿命安定性が少なくとも1年、好ましくは少なくとも2年あるような、自己エッチング性プライマーおよび自己エッチング性接着剤組成物である。それに加えて、好適な組成物、特に自己エッチング性接着剤組成物は、歯系組織の表面に塗布する前の予備混合工程を必要としない。
この重合性ビスホスホン酸は次式(式I):
(ここで、Rは、重合性の基を含む有機基であり;そしてRは、H、OR、SR、N(R)、または、任意にRと一緒になって、2つのリン原子の間の炭素と炭素−炭素二重結合を形成することが可能な有機基であり、ここでその有機基は、任意に重合性の基を含み、さらに、ここでそれぞれのRは独立して、水素、または任意に重合性の基を含む有機基である)、またはその塩である。RとRが一緒になって二重結合を形成する場合には、その二重結合は、Rの重合性の基とすることもできる。
その重合性の基が、エチレン性不飽和基であるのが好ましい。そのエチレン性不飽和基が、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、またはビニル基であれば、より好ましい。
特に好ましいタイプの重合性ビスホスホン酸は次式(式II):
(ここで、x=1〜3(好ましくはxは1〜2、より好ましくは、1);Rは、H、OH、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、または−A−(N(R)C(O)C(R)=CHであり;Rはそれぞれ独立して、HまたはCH(すなわち、アクリルアミド基またはメタクリルアミド基、(メタ)アクリルアミド基と呼ばれることも多い);Rはそれぞれ独立して、H、アルキル基、またはAと結合して環状有機基を形成していてもよく;そしてAは単結合、または、直鎖または分岐状の有機基である)、またはその塩である。xが2または3の場合には、エチレン性不飽和基(x)がAの同一の炭素原子に結合していないのが好ましい。それらは酸の形であっても、その塩の形であってもよい。したがって、本明細書において、式IまたはIIの化合物、またはその他の本発明のビスホスホン酸を示した場合には、それらには、酸と塩の両方が含まれている。
本発明の重合性ビスホスホン酸化合物が、硬組織をエッチングするのに有効な量で組成物中に存在しているのが好ましい。典型的には、その量は、組成物の全重量を基準にして少なくとも約1重量パーセント(重量%)である。本発明の重合性ビスホスホン酸化合物が、組成物の全重量を基準にして、少なくとも約5重量%の量で存在すれば、より好ましい。2種以上の重合性ビスホスホン酸化合物を使用する場合には、その混合物の合計量に、上記の量をあてはめる。
本明細書に記載するビスホスホン酸化合物の化学式において、「有機基」という用語は、脂肪族基、環状基、または脂肪族と環状基の組合せ(たとえば、アルカリールおよびアラルキル基)として分類される、炭化水素基(炭素と水素以外に、任意の元素、たとえば酸素、窒素、硫黄、リンおよびケイ素が含まれていてもよい)を意味する。本発明の文脈においては、この有機基は、硬表面のためのエッチング剤が生成するのを妨害しないものである。「脂肪族基」という用語は、飽和または不飽和で、直鎖状または分岐状の炭化水素基を意味する。この用語を用いた場合、たとえば、アルキル、アルケニルおよびアルキニル基を包む。「アルキル基」という用語は、飽和で、直鎖状または分岐状の炭化水素基を意味し、たとえば、メチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ヘプチル、ドデシル、オクタデシル、アミル、2−エチルヘキシルなどである。「アルケニル基」という用語は、1個または複数の炭素−炭素二重結合を有する、不飽和で、直鎖状または分岐状の炭化水素基を意味し、たとえばビニル基である。「アルキニル基」という用語は、1個または複数の炭素−炭素三重結合を有する、不飽和で、直鎖状または分岐状の炭化水素基を意味する。「環状基」という用語は、環を閉じた炭化水素基を意味し、それらは、脂環式基、芳香族基、または複素環式基に分類される。「脂環式基」という用語は、脂肪族基と類似の性質を有する、環状炭化水素基を意味する。「芳香族基」または「アリール基」という用語は、単核または多核の芳香族炭化水素基を意味する。「複素環式基」という用語は、環を閉じた炭化水素基で、その環の中に1個または複数の原子が炭素以外の元素(たとえば、窒素、酸素、硫黄など)であるものを意味する。
本発明の重合性ビスホスホン酸化合物の有機基の上で、置換することも考えられる。本明細書全体を通して使用されるある種の用語についての議論と引用を単純化させる手段として、「基(group)」および「部分(moiety)」という用語は、置換が可能または置換された化学種と、そのような置換が不能または置換されていない化学種とを区別するために用いる。したがって、「基」という用語は、化学的な置換基を述べる場合に用い、そこで記述された化学物質には、非置換の基と、鎖中にたとえばO、N、Si、PまたはS原子を有する基(たとえばアルコキシ基中のように)さらにはカルボニル基、またはその他従来の置換を有するものが含まれる。「部分」という用語は、化合物または置換基を表すのに使用され、この場合非置換の化学物質だけが含まれることが意図されている。たとえば、「アルキル基」という用語には、純粋に開いた鎖の飽和炭化水素アルキル置換基、たとえばメチル、エチル、プロピル、t−ブチルなどだけではなく、当業者公知のさらなる置換基、たとえばヒドロキシ、アルコキシ、アルキルスルホニル、ハロゲン原子、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシルなどを担持するアルキル置換基もまた、含まれる。したがって、「アルキル基」には、エーテル基、ハロアルキル、ニトロアルキル、カルボキシアルキル、ヒドロキシアルキル、スルホアルキルなどが含まれる。一方で、「アルキル部分」という用語は、純粋に開いた鎖の飽和炭化水素アルキル置換基だけ、たとえばメチル、エチル、プロピル、t−ブチルなどだけ、しか含まないと限定される。
R、R、RおよびAのある種の実施形態においては、その有機基は、20個までの炭素原子(好ましくは18個までの炭素原子、より好ましくは12個までの炭素原子)を含んでいてもよい。
R、RおよびRのある種の実施形態においては、その有機基は、重合性の基を含むことができる。そのような重合性の基の例を挙げれば、たとえば、(メタ)アクリルアミド基、(メタ)アクリルオキシ基、およびビニル基などである。重合性の基として好ましいのは、(メタ)アクリルアミド基である。
のある種の実施形態においては、そのアルキル基およびアルコキシ基には、1〜18個の炭素原子(好ましくは、1〜8個の炭素原子、より好ましくは1〜4個の炭素原子)を含み、またアリール基およびアリールオキシ基には、4〜18個の炭素原子(好ましくは、5〜12個の炭素原子、より好ましくは6〜10個の炭素原子)を含む。本発明のある種の実施形態においては、Rは、H、OH、(C1〜C4)アルキル基、または(C1〜C4)アルコキシ基である。ある種の実施形態においては、Rは、OHまたは(C1〜C4)アルコキシ基である。ある種の実施形態においては、Rは、H、OH、メチル、またはメトキシである。
のある種の実施形態においては、そのアルキル基は1〜18個の炭素原子(好ましくは1〜8個の炭素原子、より好ましくは1〜4個の炭素原子)を有する。本発明のある種の実施形態においては、Rは、H、(C〜C)アルキル基、またはAと結合して環状有機基を形成することもできる。より好ましい実施形態においては、RはHまたはメチルである。
本発明のある種の実施形態においては、Aは直鎖のアルキル基で、好ましくは20個までの炭素原子を有する。より好ましい実施形態においては、Aは(CHで、n=1〜20である。さらにより好ましい実施形態においては、Aは(CHで、n=3〜11である。さらにより好ましい実施形態においては、n=5である。
本発明の組成物、特に自己エッチング性プライマーおよび自己エッチング性接着剤組成物には、重合性ビスホスホン酸に加えて、さらに1種または複数の重合性成分を含んでいて、それによって重合性組成物を形成させてもよい。
ある種の実施形態においては、その組成物が光重合性である、すなわち、その組成物に光重合性成分と光開始剤(すなわち、光開始剤系)を含み、化学線照射を行うことによって、組成物の重合(または硬化)を開始させる。そのような光重合性組成物は、フリーラジカル的に重合できるものでもよい。
ある種の実施形態においては、その組成物が化学重合性である、すなわち、その組成物は化学重合性成分と化学重合開始剤(すなわち、重合開始剤系)を含み、化学線照射の照射に依存することなく、その組成物を重合、架橋、または硬化させることができる。そのような化学重合性組成物は、「自己架橋性(self-cure)」組成物と呼ばれることがあり、それには、ガラスアイオノマーセメント、樹脂変性ガラスアイオノマーセメント、レドックス硬化系、およびそれらの組合せが含まれる。
好適な光重合性組成物には、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性を有する不飽和基を含む)を含む光重合性成分(たとえば、化合物)が含まれていてもよい。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、およびそれらの組合せが挙げられる。
光重合性組成物としては、フリーラジカル的に活性な官能基を有する化合物が挙げられ、それには、1個または複数のエチレン性不飽和基を有する、モノマー、オリゴマー、およびポリマーが含まれる。好適な化合物には少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含み、付加重合することができる。そのようなフリーラジカル重合性化合物を挙げれば次のようなものがある。モノ−、ジ−またはポリ−(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレートおよびメタクリレート)たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリルオキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリルオキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、およびトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミドおよびメタクリルアミド)たとえば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、およびジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート;(好ましくは分子量200〜500の)ポリエチレングリコールのビス−(メタ)アクリレート、(特許文献1)(ベッチャー(Boettcher)ら)に記載されているような、アクリレート化モノマーの共重合性混合物、および、(特許文献2)(ゼイダー(Zador)ら)に記載されているような、アクリレート化オリゴマー;およびビニル化合物たとえば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペートおよびジビニルフタレート。その他の好適なフリーラジカル重合性化合物を挙げれば、シロキサン官能性(メタ)アクリレート、たとえば、(特許文献3)(グッゲンバーガー(Guggenberger)ら)、(特許文献4)(ワインマン(Weinmann)ら)、(特許文献5)(グッゲンバーガー(Guggenberger)ら)、(特許文献6)(グッゲンバーガー(Guggenberger)ら)に開示されているもの、およびフルオロポリマー官能性(メタ)アクリレートたとえば、(特許文献7)(フォック(Fook)ら)、(特許文献8)(グリフィス(Griffith)ら)、(特許文献9)(ワーゲンクネヒト(Wagenknecht)ら)、(特許文献10)(ライナース(Reiners)ら)、および(特許文献11)(ライナース(Reiners)ら)に開示されているもの、などがある。所望により、フリーラジカル重合が可能な2種以上の化合物を使用することもできる。
重合性成分には、単一の分子の中に、ヒドロキシル基とフリーラジカル的に活性な官能基とを含んでいてもよい。そのような物質の例を挙げれば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、たとえば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよび2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;グリセロールのモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンのモノ−またはジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールのモノ−、ジ−、およびトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールのモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、またはペンタ−(メタ)アクリレート;および2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビスGMA)などがある。好適なエチレン性不飽和化合物は、広い範囲の各種商業的供給業者から入手することも可能であって、そのような業者としてはたとえば、ミズーリ州セントルイス(St.Louis,MO)のシグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)や、独国ダルムシュタット(Darmstadt,Germany)のローム・アンド・テック・インコーポレーテッド(Rohm and Tech,Inc.)が挙げられる。所望により、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用することもできる。
その重合性成分は、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物であってもよい。本明細書で使用するとき、「酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物」という用語は、エチレン性不飽和ならびに、酸および/または酸前駆体官能性を有するモノマー、オリゴマー、およびポリマーを意味する。酸前駆体官能性には、たとえば、酸無水物、酸ハロゲン化物、およびピロホスフェートなどが含まれる。本発明のある種の実施形態の中では、そのような酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物が存在する。
酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物の例を挙げれば、α,β−不飽和酸化合物、たとえば、グリセロールのホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールのホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートホスフェート、クエン酸のモノ−、ジ−、およびトリ−(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸などがある。好適な本発明の組成物としては、少なくとも1個のP−OH部分を有する、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物が挙げられる。
それらの化合物のいくつかは、たとえば、イソシアナトアルキル(メタ)アクリレートとカルボン酸との反応生成物として得られる(たとえば、ビス−ヒドロキシメチルプロピオン酸のビス−イソシアナトエチルメタクリレート誘導体(PDMA)、またはクエン酸のビス−イソシアナトエチルメタクリレート誘導体(CDMA))。酸官能性とエチレン性不飽和成分の両方を含むこのタイプのさらなる化合物は、(特許文献12)(エンゲルブレヘト(Engelbrecht))および(特許文献13)(ミトラ(Mitra))にも記載されている。エチレン性不飽和と酸部分の両方を含む、広い範囲のそのような化合物を使用することができる。所望により、そのような化合物の混合物を使用することもできる。
酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物をさらに挙げれば、たとえば、AA:ITA:IEM(メタクリレートをペンダントさせたアクリル酸:イタコン酸のコポリマーで、AA:ITAコポリマーを充分な量の2−イソシアナトエチルメタクリレートと反応させて、そのコポリマーの酸基の一部をペンダントのメタクリレート基に転化させたもので、たとえば、(特許文献13)(ミトラ(Mitra))の実施例11に記載されているようなもの);さらには、以下の特許に引用されているものが挙げられる。(特許文献14)(ヤマウチ(Yamauchi)ら)、(特許文献15)(オムラ(Omura)ら)、(特許文献16)(オムラ(Omura)ら)、(特許文献17)(オムラ(Omura)ら)、(特許文献18)(ヤマモト(Yamamoto)ら)、(特許文献19)(オカダ(Okada)ら)、欧州特許出願公開(特許文献20)(株式会社トクヤマ(Tokuyama Corp.))および(特許文献21)(株式会社クラレ(Kuraray Co.,Ltd))。さらに、エチレン性不飽和リン酸化化合物とカルボン酸官能性ポリマーを組み合わせたものが、たとえば、(特許文献22)(オックスマン(Oxman)ら)に記載されている。
好適な光重合性成分としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、PEGDMA(分子量約400のポリエチレングリコールジメタクリレート)、AA:ITA:IEM(実施例に記載されているような、ペンダントのメタクリレートを含むアクリル酸:イタコン酸のコポリマー)、ビスGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、およびGDMA(グリセロールジメタクリレート)などが挙げられる。
所望により、重合性成分を各種組み合わせて使用することができる。
フリーラジカル的に光重合性組成物を重合させるための、好適な光開始剤(すなわち、1種または複数の化合物を含む光開始剤系)としては、2成分系および3成分系が挙げられる。典型的な2成分系光開始剤には、光増感剤と電子供与性化合物が含まれる。典型的な3成分系光開始剤には、(特許文献23)(パラゾット(Palazzotto)ら)に記載されているような、ヨードニウム塩、光増感剤、および電子供与性化合物が含まれる。好適なヨードニウム塩としては、ジアリールヨードニウム塩、たとえば、塩化ジフェニルヨードニウム、ヘキサフルオロリン酸ジフェニルヨードニウム、およびテトラフルオロホウ酸ジフェニルヨードニウムが挙げられる。好適な光増感剤は、約450nm〜約520nm(好ましくは、約450nm〜約500nm)の範囲内で光を吸収する、モノケトンおよびジケトンである。
アルファ−ジケトンの例を挙げれば、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、2,3−ヘキサンジオン、3,4−ヘキサンジオン、2,3−ヘプタンジオン、3,4−ヘプタンジオン、2,3−オクタンジオン、4,5−オクタンジオン、ベンジル、2,2’−、3,3’−、および4,4’−ジヒドロキシベンジル、フリル、ジ−3,3’−インドリルエタンジオン、2,3−ボルナンジオン(ショウノウキノン)、ビアセチル、1,2−シクロヘキサンジオン、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、1,2−ナフタキノン、アセナフタキノン、などがある。さらなるジケトンを挙げれば、1−アリール−2−アルキル−1,2−エタンジオン、たとえば、1−フェニル−1,2−プロパンジオンがあり、これは、たとえば(特許文献24)(ラウルズ(Rawls)ら)に開示されている。より好ましい化合物は、約450nm〜約520nm(さらにより好ましくは、約450〜約500nm)の範囲で光を吸収する、アルファジケトンである。好適な化合物は、ショウノウキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6−テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノンおよびその他の環状アルファジケトンである。最も好ましいのは、ショウノウキノンである。
好適な電子供与性化合物としては、置換アミン、たとえば、ジメチルアミノ安息香酸エチルが挙げられる。
フリーラジカル的光重合性組成物を重合させるための、その他好適な光開始剤としては、典型的には約380nm〜約1200nmに官能波長を有するホスフィンオキシドのタイプが挙げられる。官能波長を約380nm〜約450nmに有する、好適なホスフィンオキシドフリーラジカル重合開始剤は、アシルおよびビスアシルホスフィンオキシドであって、たとえば以下の特許に記載されているようなものである。(特許文献25)(レヘトケン(Lechtken)ら)、(特許文献26)(レヘトケン(Lechtken)ら)、(特許文献27)(レヘトケン(Lechtken)ら)、(特許文献28)(レヘトケン(Lechtken)ら)、および(特許文献29)(エルリッヒ(Ellrich)ら)、(特許文献30)(ケーラー(Kohler)ら);および(特許文献31)(イン(Ying))。
約380nm〜約450nmよりも高い波長範囲の照射を受けて、フリーラジカル重合開始をさせることが可能なホスフィンオキシド光開始剤で、市販されているものとしては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(イルガキュア(IRGACURE)819、ニューヨーク州タリータウン(Tarrytown,NY)のチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−(2,4,4−トリメチルペンチル)ホスフィンオキシド(CGI403、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で25:75の混合物(イルガキュア(IRGACURE)1700、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの重量で1:1の混合物(ダロキュア(DAROCUR)4265、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(Ciba Specialty Chemicals))、および、2,4,6−トリメチルベンジルフェニルホスフィン酸エチル(ルシリン(LUCIRIN)LR8893X、ノースカロライナ州シャーロット(Charlotte,NC)のBASF・コーポレーション(BASF Corp.))などが挙げられる。
典型的には、ホスフィンオキシド重合開始剤は光重合性組成物中に、触媒量として有効な量、たとえば、組成物の全重量を基準にして約0.1重量パーセント〜約5.0重量パーセントの量で存在する。
アシルホスフィンオキシドと組み合わせて、3級アミン還元剤を使用してもよい。本発明において有用な3級アミンの代表例としては、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチルおよびN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。アミン還元剤が存在する場合には、その量は、光重合性組成物の中に、組成物の全重量を基準にして約0.1重量パーセント〜約5.0重量パーセントの量である。
化学重合性組成物には、ガラスアイオノマーセメント、たとえば慣用されるガラスアイオノマーで、典型的にはその主成分として、エチレン性不飽和カルボン酸(たとえば、ポリ(アクリル酸)、コポリ(アクリル酸、イタコン酸)、コポリ(アクリル酸、マレイン酸)、など)のホモポリマーまたはコポリマー、フルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラス、水、およびキレート化剤たとえば酒石酸などを用いているものが含まれる。慣用されるガラスアイオノマー(すなわち、ガラスアイオノマーセメント)は、典型的には、粉体/液体配合で供給され、使用直前に混合する。その混合物は、ポリカルボン酸の酸繰り返し単位と、ガラスから浸出してくるカチオンとの間のイオン反応によって、暗所で自己硬化反応を起こす。
ガラスアイオノマーセメントには、樹脂変性ガラスアイオノマー(「RMGI」)セメントが含まれていてもよい。慣用されるガラスアイオノマーと同様に、RMGIセメントでもFASガラスを使用する。しかしながら、RMGIの有機部分に違いがある。1つのタイプのRMGIでは、ポリカルボン酸を変性して、その酸繰り返し単位のいくつかを、ペンダントさせた硬化可能な基に置き換えあるいは末端封止し、光開始剤を加えて、第2の硬化機構を与えるが、これについてはたとえば、(特許文献13)(ミトラ(Mitra))に記載がある。通常、アクリレート基またはメタクリレート基がペンダントの硬化可能な基として使用される。また別なタイプのRMGIにおいては、セメントには、ポリカルボン酸、アクリレートまたはメタクリレート官能性モノマー、および光開始剤が含まれるが、それらについては、たとえば、(非特許文献1)や、(特許文献32)(アカハネ(Akahane)ら)、(特許文献33)(カトウ(Kato)ら)、(特許文献34)(チエン(Qian))、(特許文献35)(ミトラ(Mitra))および(特許文献36)(アカハネ(Akahane)ら)に記載がある。別なタイプのRMGIでは、セメントの中に、ポリカルボン酸、アクリレートまたはメタクリレート−官能性モノマー、およびレドックスまたはその他の化学架橋系が含まれていてもよく、そのようなものについてはたとえば、(特許文献37)(ミトラ(Mitra)ら)、(特許文献33)(カトウ(Kato)ら)、および(特許文献38)(カトウ(Kato))に記載がある。また別なタイプのRMGIでは、セメントの中に、各種のモノマー含有または樹脂含有成分が含まれていてもよく、そのようなものについてはたとえば、(特許文献12)(エンゲルブレヘト(Engelbrecht))、(特許文献39)(ミトラ(Mitra))、(特許文献40)(フアン(Huang)ら)、および(特許文献41)(オルロウスキー(Orlowski))に記載がある。RMGIセメントは、粉体/液体系またはペースト/ペースト系として配合されていて、水を混合して塗布するのが好ましい。この組成物は、ポリカルボン酸の酸繰り返し単位と、ガラスから浸出してくるカチオンとの間のイオン反応によって、暗所で硬化させることができ、さらに、市販されているRMGI製品は、典型的には、セメントを歯科用硬化ランプからの光に暴露させることで硬化する。レドックス硬化系を含み、化学線照射を使用しなくても暗所で硬化させることが可能なRMGIセメントについては、(特許文献42)(出願日:2001年7月27日)に記載がある。
化学重合性組成物としては、重合性成分(たとえば、エチレン性不飽和重合性成分)および、酸化剤と還元剤とを含むレドックス反応剤を含む、レドックス硬化系を挙げることができる。好適な重合性成分、レドックス反応剤、任意成分の酸官能性成分、および本発明において有用な、任意成分の充填剤については、(特許文献43)(出願日:2002年4月12日)および(特許文献44)(出願日:2002年4月12日)に記載されている。
この還元剤および酸化剤は、互いに反応するか、そうでなければ相互に作用して、樹脂系(たとえば、エチレン性不飽和成分)の重合を開始させることが可能なフリーラジカルを発生するものでなければならない。このタイプの硬化反応は、暗反応であって、すなわち、光の存在には依存せず、光が無い状態でも進行する。この還元剤および酸化剤は、充分な貯蔵安定性を有していて、望ましくない着色が無く、典型的な歯科条件下で貯蔵・使用が可能であるのが好ましい。それらは、樹脂系との間に充分な混和性を有し(かつ、好ましくは水溶性であって)、重合性組成物の他の成分の中に容易に溶解するような(そして、それから分離しない)ものであるべきである。
有用な還元剤の例としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、たとえば、(特許文献45)(ワング(Wang)ら)に記載されているような金属錯体化アスコルビン酸系化合物;アミン、特に3級アミン、たとえば4−t−ブチルジメチルアニリン;芳香族スルフィン酸塩、たとえばp−トルエンスルフィン酸塩、およびベンゼンスルフィン酸塩;チオウレア、たとえば、1−エチル−2−チオウレア、テトラエチルチオウレア、テトラメチルチオウレア、1,1−ジブチルチオウレア、および1,3−ジブチルチオウレア;およびそれらの混合物などが挙げられる。その他の二次的な還元剤としては、塩化コバルト(II)、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン(酸化剤の選択に依存)、亜ジチオン酸または亜硫酸アニオンの塩、およびそれらの混合物などが挙げられる。還元剤がアミンであるのが好ましい。
好適な酸化剤もまた当業者には馴染みのあるもので、過硫酸およびそれらの塩、たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、セシウム、およびアルキルアンモニウム塩などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。さらなる酸化剤を挙げれば、ペルオキシドたとえばベンゾイルペルオキシド、ヒドロペルオキシドたとえばクミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドおよびアミルヒドロペルオキシド、さらには遷移金属の塩、たとえば塩化コバルト(III)および塩化第二鉄、硫酸セリウム(IV)、過ホウ酸およびそれらの塩、過マンガン酸およびそれらの塩、過リン酸およびそれらの塩、ならびにそれらの混合物などがある。
2種以上の酸化剤または2種以上の還元剤を使用するのが望ましい。少量の遷移金属化合物を添加して、レドックス硬化速度を加速させることも可能である。いくつかの実施形態においては、(特許文献44)(出願日:2002年4月12日)に記載されているように、二次的なイオン塩を加えて、重合性組成物の安定性を向上させるのも好ましい。
還元剤および酸化剤は、充分なフリーラジカル反応速度を与えるような量で存在する。このことは、任意の充填剤を除いて、重合性組成物の成分を全部組み合わせて、硬化物が得られるかどうかを観察することによって、評価することができる。
還元剤は、(水も含めた)重合性組成物の成分の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも約0.01重量%、より好ましくは少なくとも約0.1重量%の量で存在する。還元剤は、(水も含めた)重合性組成物の成分の全重量を基準にして、好ましくは約10重量%以下、より好ましくは約5重量%以下の量で存在する。
酸化剤は、(水も含めた)重合性組成物の成分の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも約0.01重量%、より好ましくは少なくとも約0.10重量%の量で存在する。酸化剤は、(水も含めた)重合性組成物の成分の全重量を基準にして、好ましくは約10重量%以下、より好ましくは約5重量%以下の量で存在する。
この還元剤または酸化剤は、(特許文献37)(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているように、マイクロカプセル化しておくこともできる。こうすると、一般的には重合性組成物の貯蔵安定性が向上し、必要に応じて、還元剤と酸化剤を一緒に包装することも可能となる。たとえば、カプセル化材料に適切なものを選択することによって、酸化剤と還元剤を、酸官能性成分と任意の充填剤と組み合わせることが可能となり、貯蔵するのに安定な状態で保存することができる。同様にして、水溶性のカプセル化材料を適切に選択することによって、還元剤と酸化剤をFASガラスおよび水と組み合わせることが可能となり、貯蔵安定性のある状態で保存することができる。
レドックス硬化系は、他の硬化系と組み合わせることもできるが、そのような硬化系としてはたとえば、ガラスアイオノマーセメントや、(特許文献37)(ミトラ(Mitra)ら)に記載されているような光重合性組成物が挙げられる。
レドックス硬化系を利用する重合性組成物は、たとえば、二成分型の粉体/液体、ペースト/液体、およびペースト/ペースト系など、各種の形態で供給することができる。多成分の組合せ(すなわち、2種以上の成分の組合せ)を用い、成分のそれぞれが、粉体、液体、ゲルまたはペーストの形態であるような、その他の形態もまた可能である。多成分系においては、一方には、典型的には、還元剤を含み、他方には、典型的には、酸化剤を含む。したがって還元剤が、系の一方に存在しているならば、酸化剤は、典型的には、系のもう一方に存在している。しかしながら、マイクロカプセル化の技術を使用することによって、系の同じ側に、還元剤と酸化剤を組み合わせて入れることも可能である。
本発明の組成物には、充填剤を加えることも可能である。充填剤は、歯科的用途に使用される組成物の中に組み込むのに適した、広い範囲の各種の材料の1種または複数から選択することができ、たとえばそのような充填剤は、現在歯科用修復材組成物などに使用されているようなものである。
充填剤は、微細に粉砕されているのが好ましい。充填剤の粒径分布は、単峰性(unimodial)であっても多峰性(polymodial)(たとえば、二峰性)であってもよい。充填剤の最大粒径(粒子の内の最大となる寸法、典型的には直径)は、好ましくは約10マイクロメートル未満、より好ましくは約2.0マイクロメートル未満である。充填剤の平均粒径は好ましくは約3.0マイクロメートル未満、より好ましくは約0.6マイクロメートル未満である。
充填剤は無機材料であってもよい。充填剤はまた、樹脂系に不溶の架橋させた有機材料であってもよく、任意に、無機充填剤と共に充填することができる。この充填剤は、いかなる点においても毒性があってはならず、口腔内で使用するのに適したものでなければならない。この充填剤はX線不透過性であっても、あるいはX線透過性であってもよい。充填剤は、典型的には、実質的に水に溶解しない。
好適な無機充填剤は、天然材料でも、合成材料でもよいが、非限定的に例を挙げれば、以下のようなものである。石英;窒化物(たとえば、窒化ケイ素);たとえば、Ce、Sb、Sn、Ba、ZnおよびAlから誘導されるガラス;長石;ホウケイ酸ガラス;カオリン;タルク;チタニア;低モース硬度充填物、たとえば、(特許文献46)(ランドクレフ(Randklev))に記載されているようなもの;およびサブミクロンのシリカ粒子(たとえば熱分解法シリカ、オハイオ州アクロン(Akron,OH)のデグッサ・コーポレーション(Degussa Corp.)から商品名アエロジル(AEROSIL)の「OX50」、「130」、「150」および「200」シリカとして入手できるもの、および、イリノイ州タスコーラ(Tuscola,IL)のキャボット・コーポレーション(Cabot Corp.)から、キャブ・オ・シル(CAB−O−SIL)M5シリカとして入手できるもの)。好適な有機充填剤粒子の例としては、フィラー入りまたはフィラーなしの、微粉砕したポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。
酸非反応性の充填剤粒子としては、石英、サブミクロンシリカ、および(特許文献47)(ランドクレフ(Randklev))に記載されているような、非ガラス質のミクロ粒子が、適している。これらの酸非反応性の充填剤の混合物もまた考慮に入るし、さらには有機および無機材料から製造した組合せ充填剤もまた考えられる。
充填剤粒子の表面をカップリング剤を用いて処理して、充填剤と樹脂との間の接着性を高めることもできる。適切なカップリング剤の使用としては、ガンマ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、ガンマ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、ガンマ−アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
この充填剤が、酸反応性充填剤であってもよい。酸反応性充填剤は、典型的には、酸官能性樹脂成分と共に使用され、非反応性充填剤と組み合わせて使用してもよいし、使用しなくてもよい。この酸反応性充填剤には、所望により、離型性のフッ化物の性質を持たせることもできる。好適な酸反応性充填剤としては、金属酸化物、ガラスおよび金属塩が挙げられる。好適な金属酸化物としては、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛が挙げられる。好適なガラスとしては、ホウ酸ガラス、リン酸ガラスおよびフルオロアルミノシリケート(「FAS」)ガラスが挙げられる。FASガラスであれば、特に好ましい。FASガラスには、溶出可能なカチオンを充分に含んでいて、それにより、そのガラスを硬化性の組成物の成分と混合したときに、硬化された歯科用組成物が形成されるようにするのが好ましい。さらにこのガラスには、溶出可能なフッ化物イオンを充分に含んでいて、それにより、その硬化させた組成物が抗齲蝕性を有するようにするのが好ましい。このガラスは、フッ化物、アルミナ、およびその他のガラス形成性成分を含む溶融物から、FASガラス製造に従事するものには公知の技術を使用して、製造することが可能である。FASガラスは、充分に細かく粉砕された粒子状で、それにより、他のセメント成分とうまく混合することができ、得られた混合物を口腔内で使用したときに性能を充分に発揮できるようにするのが、好ましい。
そのFASガラスの平均粒径(典型的には、直径)は、たとえば沈降分析器を使用して測定したときに、好ましくは、約10マイクロメートル以下、より好ましくは約5マイクロメートル以下である。好適なFASガラスは、当業者には周知であり、広い範囲の供給業者から入手することができるが、ガラスアイオノマーセメントとして現在入手可能なものが多く、たとえば、商品名ビトレマー(VITREMER)、ビトレボンド(VITREBOND)、リライ・X・ルーティング・セメント(RELY X LUTING CEMENT)およびケタック・フィル(KETAC−FIL)(ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN)の3M・ESPE・デンタル・プロダクツ(3M ESPE Dental Products))、フジII(FUJI II)、GC・フジ・LC(GC FUJI LC)およびフジIX(FUJI IX)(日本国東京の、G−C・デンタル・インダストリーズ・コーポレーション(G−C Dental Industries Corp.))、およびケムフィル・スペリオル(CHEMFIL Superior)(ペンシルバニア州ヨーク(York,PA)のデンツプライ・インターナショナル(Dentsply International))などが商品として入手できる。所望により、充填剤の混合物を使用することもできる。
任意に、FASガラスに表面処理をしておくこともできる。好適な表面処理としては、酸洗浄(たとえば、リン酸処理)、リン酸塩を用いた処理、酒石酸のようなキレート化剤を用いた処理、シランまたは、酸性もしくは塩基性シラノール溶液を用いた処理などがあるが、これらに限定されるわけではない。処理溶液または処理したガラスのpHは、中性またはほぼ中性に調整しておくのが好ましいが、その理由は、そうすることによって、硬化性組成物の貯蔵安定性を向上させることができるからである。
ある種の組成物においては、酸反応性の充填剤と酸非反応性の充填剤との混合物を、合わせて同じ成分の中で使用することもできるし、あるいは別々な成分中に分けておくこともできる。
その他好適な充填剤が、以下の特許に開示されている。(特許文献48)(チャン(Zhang)ら)、さらには(特許文献49)(ウー(Wu)ら)、(特許文献50)(チャン(Zhang)ら)、(特許文献51)(ウィンディッシュ(Windisch)ら)、および(特許文献52)(チャン(Zhang)ら)。
(特許文献53)(ブレッチャー(Bretscher)ら)には、フリーラジカル重合性組成物、カチオン重合性組成物、およびフリーラジカル重合性およびカチオン重合性成分の両方の特徴を有するハイブリッド組成物において使用することが可能な、多くのX線不透過性(radiopacifying)充填剤が開示されている。それらは、カチオン重合性組成物で使用するのに、特に有用である。そのような充填剤の1つは、5〜25重量%の酸化アルミニウム、10〜35重量%の酸化ホウ素、15〜50重量%の酸化ランタン、および20〜50重量%の酸化ケイ素を含む溶融由来(melt−derived)充填剤である。また別の充填剤は、10〜30重量%の酸化アルミニウム、10〜40重量%の酸化ホウ素、20〜50重量%の酸化ケイ素、および15〜40重量%の酸化タンタルを含む溶融由来充填剤である。第3の充填剤は、5〜30重量%の酸化アルミニウム、5〜40重量%の酸化ホウ素、0〜15重量%の酸化ランタン、25〜55重量%の酸化ケイ素、および10〜40重量%の酸化亜鉛を含む溶融由来充填剤である。第4の充填剤は、15〜30重量%の酸化アルミニウム、15〜30重量%の酸化ホウ素、20〜50重量%の酸化ケイ素、および15〜40重量%の酸化イットリウムを含む溶融由来充填剤である。第5の充填剤は、ゾル−ゲル法によって調製された非ガラス質のミクロ粒子の形態であって、そのゾル−ゲル法では、非晶質酸化ケイ素の水性または有機分散体またはゾルを、X線不透過性金属酸化物、または前駆体の有機または化合物の水性または有機分散体、ゾル、または溶液と混合する。第6の充填剤は、ゾル−ゲル法によって調製された非ガラス質のミクロ粒子の形態であって、そのゾル−ゲル法では、非晶質酸化ケイ素の水性または有機分散体またはゾルを、X線不透過性金属酸化物、または前駆体の有機または無機化合物の水性または有機分散体、ゾル、または溶液と混合する。
いくつかの実施形態においては、本発明の組成物の最初の色が、歯系組織とは著しく異なっているのが好ましい。組成物に色をつけるのには、光脱色性染料を使用するのが好ましい。本発明の組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは少なくとも0.001重量%の光脱色性染料、より好ましくは少なくとも0.002重量%の光脱色性染料を含む。本発明の組成物には、組成物の全重量を基準にして、好ましくは最大で1重量%の光脱色性染料、より好ましくは最大で0.1重量%の光脱色性染料を含む。光脱色性染料の量は、吸光係数、最初の色を見分けることができる人の目の能力、および希望する色変化などによって、変えることができる。
光脱色性染料の色生成および脱色性は、各種の要因によって変化するが、そのような要因としてはたとえば、酸強度、誘電率、極性、酸素量、および雰囲気中の湿分量などが挙げられる。しかしながら、染料の脱色性は、組成物に光をあてて色の変化を評価することにより、容易に求めることができる。少なくとも1種の光脱色性染料が、硬化性樹脂の中に少なくとも部分的に溶解するのが好ましい。
光脱色性染料の代表的なタイプは、たとえば、(特許文献54)(コール(Cole)ら)、(特許文献55)(トロム(Trom)ら)、および(特許文献56)(ニクトウスキー(Nikutowski)ら)などに開示されている。好適な染料の例を挙げれば、たとえば、ローズベンガル、メチレンバイオレット、メチレンブルー、フルオレセイン、エオシンイエロー、エオシンY、エチルエオシン、エオシンブルーイッシュ、エオシンB、エリトロシンB、エリトロシンイエローイッシュブレンド、トルイジンブルー、4',5'−ジブロモフルオレセイン、およびそれらの組合せなどがある。
本発明の組成物の色の変化は、光によって開始される。この組成物の色の変化は、化学線照射を用いて開始させるのが好ましいが、そのためには、たとえば、充分な時間にわたって可視光線または近赤外線(IR)を放射できる、歯科治療用光源を使用する。本発明の組成物において色変化を開始するメカニズムは、樹脂を硬化させるメカニズムとは、別であるかもしれないし、あるいは、実質的に同時に起きるかもしれない。たとえば、重合を化学的(たとえば、レドックス開始)または熱的に開始させて、組成物を硬化させることができるが、最初の色から最後の色への色変化は、その硬化プロセスの後で、化学線照射に暴露させて起こさせることもできる。
最初の色から最後の色への組成物の色の変化は、以下に述べる比色試験によって定量化するのが好ましい。比色試験を用いると、ΔEの値を求めることができるが、これは、3次元色空間における、総合的な色変化を表す。人の目では、通常の照明条件下では、約3ΔE単位の色の変化を見分けることができる。本発明の歯科用組成物は、色変化を、好ましくはΔEが少なくとも20;より好ましくは、ΔEが少なくとも30;最も好ましくはΔEが少なくとも40とすることができる。
任意に、この重合性組成物にはさらに溶媒または希釈剤(たとえば、水、アルコール(たとえば、プロパノール、エタノール)、ケトン(たとえば、アセトン、メチルエチルケトン)、およびその他の非水性溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1−メチル−2−ピロリジノン))が含まれていてもよい。所望により、本発明の組成物には、顔料、抑制剤、促進剤、粘度変性剤、界面活性剤、フッ化放出剤、その他当業者周知の成分などの、添加剤を加えてもよい。
好適なフッ化物放出剤としては、たとえば以下の特許に開示されているようなフッ化物塩が挙げられる。(特許文献57)(ロッジ(Rozzi)ら)、(特許文献58)(ロッジ(Rozzi)ら)、(特許文献59)(ミトラ(Mitra)ら)、(特許文献60)(ミトラ(Mitra)ら)、(特許文献61)(ミトラ(Mitra)ら)、および(特許文献62)(ミトラ(Mitra)ら)。好適なフッ化物放出剤は、テトラフルオロボレートアニオンで、これはたとえば、(特許文献63)(オーセン(Aasen)ら)に開示されている。フッ化物放出剤の好適な繰り返し単位には、トリメチルアンモニウムメチルメタクリレートが含まれる。
数多くの硬組織歯科用プライマーの例が知られているが、それらを、本発明の組成物の1成分として、あるいは、本発明の組成物と組み合わせて使用する別途のプライマーとして、使用することができる。たとえば、(特許文献64)(アリオ(Ario)ら)および(特許文献65)(オーセン(Aasen)ら)には、皮膜形成剤を含むプライマー処理溶液をエッチングした歯牙の表面に塗布するための、各種の材料と方法が記載されている。そのような材料と方法は、歯科用修復材料を歯牙の表面に接着させるための、全体として一連の方法の一部として記載されている。市販されている歯科用プライマーの例を挙げれば、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN)の3M・ESPE・デンタル(3M ESPE Dental)からのスコッチボンド・マルチパーパス・プライマー(SCOTCHBOND MULTI−PURPOSE Primer)、および日本国の株式会社クラレ(Kuraray Co.,Ltd)からのクリアフィルSE(CLEARFIL SE)(自己エッチング性プライマー)などがある。
数多くの硬組織接着剤の例が知られているが、それらを、本発明の組成物の1成分として、あるいは、本発明の組成物と組み合わせて使用する別途の接着剤として、使用することができる。たとえば、(特許文献66)(オーセン(Aasen)ら)とその中の引用文献には、メタクリレート系のコンポジットを硬組織に接着させるための、各種の材料と方法が記載されている。歯牙に対する接着のための、各種の材料と方法が、その他の多くの特許にも記載されていて、たとえば、(特許文献22)(オックスマン(Oxman)ら)および(特許文献65)(オーセン(Aasen)ら)などがある。(特許文献67)(オックスマン(Oxman)ら)には、カチオン硬化可能組成物を硬組織に接着させるための、材料と方法が記載されている。
そのような公知の材料と方法を、本発明の方法においても使用することができる。一般的には、それらの材料は、まず接着剤を硬化させ、それに続けて修復材料を硬化させる方法で用いられてきた。すなわち、従来からの方法では、以下の工程の1つまたは複数を使用している。歯牙の表面処理(たとえば、エッチング、プライマー処理)、プライマー処理した歯牙の表面への硬化性接着剤の塗布、接着剤の硬化、硬化させた接着剤の上への修復材料の配置、修復材料の硬化。市販されている歯科用接着剤および接着剤システムの例を挙げれば、スコッチボンド・マルチパーパス(SCOTCHBOND MULTI−PURPOSE)接着剤、シングルボンド(SINGLEBOND)接着剤(自己プライマー処理接着剤)、およびアドパー・プロンプト・L−POP(ADPER PROMPT L−POP)(自己エッチング性接着剤)などがあり、いずれも、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN)の3M・ESPE・デンタル(3M ESPE Dental)から入手可能である。
本発明の組成物を、従来技術を用いて、修復を必要とする硬表面、典型的には歯系組織に、エッチング、好ましくはエッチングとプライマー処理をするのに充分な時間表面に塗布しておく。その後、任意に、その塗布した組成物を洗い流すか、乾燥させるか、またはその両方を行う。本発明の組成物が自己エッチング性接着剤であって、1回だけの塗布しか必要ないようにするのが、より好ましい。具体的な方法については、実施例の項でより詳しく説明する。
本発明のある種の方法には、重合性ビスホスホン酸を含む組成物によって歯牙の表面を予めエッチングした後に、歯科矯正装置(たとえば、ブラケット、バッカルチューブ、バンド、クリート、ボタン、リンガルリテーナー、およびバイトブロッカー)を歯牙の表面に接着させることが含まれる。そのような実施形態においては歯科矯正用接着剤を歯牙の表面に接着させることができるが、この操作は、任意に、歯科矯正装置に予め塗布しておいてから、歯牙の表面に接着させることもできる。
歯科矯正装置を歯牙の表面に接着させるために歯科矯正用接着剤を使用する場合には、これまでは、歯牙の表面を準備するために以下の工程が用いられてきた。エッチング剤の塗布(典型的には、リン酸溶液)、すすぎ、乾燥、プライマー塗布、乾燥、歯科矯正用接着剤塗布。(本発明の重合性ビスホスホン酸化合物を含む)本発明のエッチング組成物を使用することによって、従来からの方法におけるすすぎ工程を不要、あるいは最小限にすることが可能となり、さらに、リン酸を使用するために患者が経験していた苦い後味を無くすことができる。本発明の組成物の、自己エッチング性プライマーまたは自己エッチング性接着剤を使用することによって、先に本明細書で説明したように、従来からの方法での追加の工程も無くすことができる。
たとえば、その組成物に、重合性ビスホスホン酸とは異なる少なくとも1種の重合性成分がさらに含まれている場合には、エッチングとプライマー処理の工程は、自己エッチング性プライマー組成物として機能する組成物を用いて同時に実施する。別な方法として、その組成物に、重合性ビスホスホン酸とは異なる少なくとも1種の重合性成分がさらに含まれている場合には、エッチングと歯科用接着剤を塗布する工程は、自己エッチング性接着剤組成物として機能する組成物を用いて同時に実施する。ある種の実施形態においては、本発明の方法には、歯科矯正用接着剤を歯牙の表面に接着させることを含むことが可能であるが、ここで、その歯科矯正用接着剤は、予め歯科矯正装置に塗布しておいてから、歯牙の表面に接着させるのが好ましい。
その組成物が自己エッチング性プライマーとしてのみ機能するような実施形態では、それに続けて、プライマー処理した硬表面に接着剤を塗布する。典型的には、その接着剤には重合開始剤が含まれていて、接着剤塗布の直前または直後のいずれかで、硬化を開始させて、その硬表面の上に、ポリマー構造を生成させる。
この組成物の成分は、各種の容器を用いた、キットの形で使用することも可能である。たとえば、エッチング剤組成物を、歯科用プライマーと歯科用接着剤の別々な容器と共に包装したり、あるいは、自己プライマー処理接着剤の別個の容器と包装したりすることもできる。別な方法として、自己エッチング性プライマー組成物を、接着剤の別個の容器と包装することもできる。1つの実施形態として、自己エッチング性接着剤組成物を二成分型システムとして包装し、塗布する直前に混合するようにしたり、および/または適当なアプリケーターと共に包装することもできる。
本発明の目的と利点を以下の実施例によりさらに説明するが、これらの実施例で用いる具体的な物質やその量、さらにはその他の条件および詳細が本発明を限定する、と考えるのは不当である。特に断らない限り、すべての部とパーセントは重量基準であり、水はすべて脱イオン水であり、分子量はすべて重量平均分子量である。
試験方法
エナメル質および象牙質に対する剪断接着強さ試験
歯牙の調製
軟組織を除いたウシの切歯を、円板状のアクリルディスクの上に包埋させた。その包埋させた歯牙は、使用直前まで、冷蔵庫の水の中に保管した。接着剤試験のための調製では、宝石細工用ホイールの上に取り付けた120グリットのサンドペーパーを用いて、その包埋させた歯牙を研削して、フラットなエナメル質または象牙質を露出させた。宝石細工用ホイールに取り付けた320グリットのサンドペーパーを用いて、さらに、歯牙の表面の研削と研磨を行った。その歯牙は、研削プロセスの間は連続的に水を流して洗浄した。
歯牙の処理
調製したエナメル質または象牙質の表面全体に、歯科用アプリケーターブラシを用いて、試験サンプルを塗布し、その歯牙の表面上に約20秒間放置した。次いでそのコーティングを、穏やかから中程度の空気流を約1〜2秒間吹き付けて、薄くした。きれいな塗布ブラシを使用して、任意に、オーバーコート接着剤層をサンプル層の上に塗布した。使用した接着剤材料は、表1に示した。穏やかな空気流を約1〜2秒間吹き付けて、そのオーバーコート接着剤層を薄くしてから、10秒間かけて光硬化させた。直径約4.7mmの孔を有する、厚み2.5mmのテフロン(登録商標)型を、その包埋させた歯牙にクランプ止めして、型の孔に、接着剤で調製した歯牙の表面の部分が収まるようにした。コンポジット材料の、フィルテック・Z250・ユニバーサル・レストラティブ(FILTEK Z250 Universal Restorative)(ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN)の3M・カンパニー(3M Company)をその孔に充填して孔が完全に満たされるようにしたが、ただし、あふれさせることはなく、メーカーの指示に従って光硬化させて「ボタン」を形成させたが、それを歯牙に接着剤によって接合させた。
剪断接着強さ試験
包埋させた歯牙から、型を注意深く取り外し、フィルテック・Z250(FILTEK Z250)コンポジットのボタンが、それぞれの歯牙の表面に残るようにした。一度に1つずつ、サンプルをインストロン(INSTRON)試験機に取り付けたが、歯牙の表面が引張剪断力の方向と平行になるようにした。針金(太さ0.75mm)のループを、歯牙の表面についているボタンの周りにとりつけて、クロスヘッド速度2mm/分で、引張剪断力をかけ始めた。接着が破壊されたときの力をキログラム(kg)の単位で記録し、その数字を、ボタン領域の既知表面積を用いて、単位面積当たりの力(単位:kg/cmまたはMPa)に換算した。報告した数値はいずれも、5回の繰り返しの平均値を表している。
出発物質
化合物A(6−アミノ−1−ヒドロキシヘキシリデン)ビスホスホン酸モノナトリウム塩)
250mLの3口フラスコに、機械的撹拌器、アルカリスクラバーに接続したドライアイス/アセトンコンデンサー、および熱電対を取り付けた。この系を、窒素を用いて20分間フラッシュした。室温で連続的に撹拌しながら、6−アミノカプロン酸(52.5g、0.40モル;シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))、亜リン酸(32g、0.38モル)、およびメタンスルホン酸(160mL)を添加した。その混合物を加熱して65℃とし、次いで滴下ロートを用いて、三塩化リン(PCl、70mL、0.80モル)を20分かけて添加した。65℃で撹拌を一夜続けた。その透明な反応混合物を冷却して30℃とし、次いで、400mLの氷冷水の中に投入した。追加の水200mLを使用して、反応フラスコを洗い出してから、冷却した混合物に加えた。その水性混合物を温めて室温とし、次いで加熱して5時間還流させた。その混合物を冷却して20℃とし、50重量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて、そのpHを4.3にまで上げた。その透明な混合物を氷浴の中で2時間冷却すると、その間に、白色の結晶性固形物が生成した。その固体を、真空濾過により単離した。そのフィルターケーキを氷冷水(50mLずつ2回)、次いでエタノール(100mL)を用いて洗浄した。白色の固形物を2日間風乾させ、次いで、一夜真空ポンプで乾燥させると、白色固形物が収率93%で得られた。この固形物は、以下の核磁気共鳴(NMR)の値を有する(6−アミノ−1−ヒドロキシヘキシリデン)ビスホスホン酸モノナトリウム塩(化合物A)と同定された。H NMR(DO)σ:2.90(t、2H)、1.84〜1.94(m、2H)、1.62〜1.70(m、2H)、1.53〜1.61(m、2H)、1.32〜1.40(m、2H);13C NMRσ:74.5(t)、39.5、33.5、26.5(s+s)、23;31P NMRσ:19.5。
化合物B(4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン)ビスホスホン酸モノナトリウム塩)
化合物Bは、4−アミノ酪酸(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))から、化合物Aのところで述べたのと同じ手順によって、調製した。白色固形物が収率90.8%で単離され、以下のNMR値を有する、(4−アミノ−1−ヒドロキシブチリデン)ビスホスホン酸モノナトリウム塩(化合物B)と同定された。H NMR(DO)σ:3.0(m、2H)、2.0(m、4H);13C NMRσ:74.5(t)、41、32、24;31P NMRσ:19.0(s)。
化合物C(12−アミノ−1−ヒドロキシドデシリデン)ビスホスホン酸)
250mLのフラスコに、機械的撹拌器、熱電対、滴下ロート、およびアルカリスクラバーに接続したドライアイス冷却の還流コンデンサーを取り付けた。この系を窒素を用いてフラッシュし、12−アミノドデカン酸(21.04g、0.098モル;アドバンスド・シンセシス・テクノロジーズ(Advanced Synthesis Technologies)、カリフォルニア州サン・ユシドロ(San Ysidro,CA))、亜リン酸(8.00g、0.098モル)、およびメタンスルホン酸(40mL)を仕込んだ。その混合物を加熱して65℃とし、PCl(26.83g、0.195モル)を20分かけて添加し、その混合物を一夜65℃に維持した。その混合物を冷却して60℃とし、水(75mL)を30分かけて滴下により添加した。次いでその混合物を加熱して、5時間還流させた。冷却して30℃としてから、そのフラスコの内容物を、過剰の水を用いて沈殿させた。固形物を濾過し、水を用いて数回洗浄してから、2日間風乾させると、白色固形物(32g、82.5%)が得られた。この固形物は、次のNMR値(固形物のKOH溶液を用いて測定)を有する(12−アミノ−1−ヒドロキシドデシリデン)ビスホスホン酸(化合物C)と同定された。H NMR(DO)σ:2.45(t、2H)、1.65〜1.80(m、2H)、1.35〜1.45(m、2H)、1.25〜1.30(m、2H)、1.05〜1.20(m、14H);13C NMRσ:77.1(t)、40.9、36.7、32、30.8、29.4(s+s)、29.0、28.8(s+s)、26、24;31P NMRσ:19.5(s)。
化合物D(11−アミノ−1−ヒドロキシウンデシリデン)ビスホスホン酸)
化合物Dは、11−アミノウンデカン酸(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich))から、化合物Cのところで述べたのと同じ手順によって、調製した。白色固形物が収率92.96%で単離され、そのH、13C、および31P NMRの値(固形物のKOH溶液を用いて測定)を測定すると、化合物(11−アミノ−1−ヒドロキシウンデシリデン)ビスホスホン酸(化合物D)に一致した。
実施例1
(1−ヒドロキシ−6−メタクリルアミドヘキシリデン)ビスホスホン酸
(式IIで、R=CH、R=H、x=1、R=OH、A=(CH
機械的撹拌器を取り付けた500mLの2口フラスコの中で、水酸化ナトリウムペレット(46.5g、1.16モル)を水(150mL)に溶解させた。その溶液を氷浴中で15分間冷却させた。激しく撹拌しながら、化合物A(50g、0.182モル)を添加し、得られた混合物を透明な溶液が得られるまで撹拌した。その冷却溶液に、メタクリロイルクロリド(21.0g、0.200モル)を滴下により10分かけて添加した。その混合物を氷浴の中で、3時間、激しく撹拌した(pHは9より大)。その混合物を、pH試験紙によるpHの値が2より下を示すまで、濃HClを用いて酸性化した。メタノール(500mL)を添加し、沈殿してくる固形物(NaCl)を真空濾過により除去した。濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮し、得られた残渣をメタノール(200mL)に溶解させた。こうして得られた曇りのある溶液を、セライト床を通して濾過し、透明な濾液をロータリーエバポレーターを用いて濃縮すると固形物が得られたので、それを、一夜40℃で真空ポンプを用いて乾燥させると、白色固形物が定量的に(すなわち、収率100%)得られた。その固形物は、以下のNMR値を有する、(1−ヒドロキシ−6−メタクリルアミドヘキシリデン)ビスホスホン酸(実施例1)と同定された。H NMR(DO)σ:5.65(s、1H)、5.35(s、1H)、3.2(t、2H)、1.95〜2.05(m、2H)、1.9(s、3H)、1.65〜1.75(m、2H)、1.5〜1.6(m、2H)、1.25〜1.35(m、2H);13C NMRσ:171、141、121、74(t)、41、35、31、29、24、19;31P NMR(シングルピーク、引用せず)。
実施例1の加水分解安定性を、45℃で5ヶ月、水中でエージングさせて調べたが、検出されるような加水分解は認められなかった(31P NMRによる)。
実施例1A
(1−ヒドロキシ−6−アクリルアミドヘキシリデン)ビスホスホン酸
(式IIで、R=H、R=H、x=1、R=OH、A=(CH
実施例1の記載に従うが、ただし、メタクリロイルクロリドに代えてアクリロイルクロリドを使用することによって、(1−ヒドロキシ−6−アクリルアミドヘキシリデン)ビスホスホン酸(白色固形物、実施例1A)を調製し、同定した。
実施例2
(1−ヒドロキシ−4−メタクリルアミドブチリデン)ビスホスホン酸
(式IIで、R=CH、R=H、x=1、R=OH、A=(CH
実施例1に記載したのと同じ手順に従って、化合物Bから実施例2の化合物を調製した。白色固形物が収率74.8%で単離され、これは、以下のNMR値を有する(1−ヒドロキシ−4−メタクリルアミドブチリデン)ビスホスホン酸(実施例2)と同定された。H NMR(DO)σ:5.55(s、1H)、5.30(s、1H)、3.15(t、2H)、1.85〜2.00(m、2H)、1.80(s、3H)、1.70〜1.80(m、2H);13C NMRσ:172、139、121、74(t)、40、31、24、18;31P NMRσ:20.4(s)。
実施例3
(1−ヒドロキシ−12−メタクリルアミドドデシリデン)ビスホスホン酸
(式IIで、R=CH、R=H、x=1、R=OH、A=(CH11
機械的撹拌器を取り付けた500mLの2口フラスコの中で、水酸化カリウムペレット(19.75g、0.35モル)を水(60mL)に溶解させた。化合物C(20.0g、0.05モル)を添加し、透明な溶液が得られるまで撹拌を続けた。フラスコを氷浴中で15分間冷却させた。その冷却した溶液に、激しく撹拌しながら10分かけて、メタクリロイルクロリド(5.90g、0.055モル)を滴下により添加した。その混合物を氷浴中で3時間撹拌してから、濃塩酸を徐々に滴下により加え、その混合物を酸性とした(約21.5モルの濃HClを使用した)。分離した固形物を真空濾過により濾過した。そのフィルターケーキを水を用いて数回洗浄し、次いで、一夜風乾させた。白色固形物が収率90.85%で単離され、そのH、13C、および31P NMRの値(固形物のKOH溶液を用いて測定)を測定すると、化合物(1−ヒドロキシ−12−メタクリルアミドドデシリデン)ビスホスホン酸(実施例3)に一致した。
実施例4
(1−ヒドロキシ−11−メタクリルアミドウンデシリデン)ビスホスホン酸
(式IIで、R=CH、R=H、x=1、R=OH、A=(CH10
実施例3に記載したのと同じ手順に従って、化合物Dから実施例4の化合物を調製した。白色固形物が収率78.95%で単離され、そのH、13C、および31P NMRの値(固形物のKOH溶液を用いて測定)を測定すると、化合物(1−ヒドロキシ−11−メタクリルアミドウンデシリデン)ビスホスホン酸(実施例4)に一致した。
実施例5
(メチリデンメタンビスホスホン酸)
(式Iで、RおよびRがCHCH=)
一般的合成手順A
メタンビスホスホン酸テトラアルキルを、脂肪族および芳香族アルデヒドと反応させて、アルキリデンおよびアリーリデンメタンビスホスホン酸テトラアルキル(式Iで、RとRがP−C−P基の中央の炭素と共に二重結合を形成し、4個のP−OH基の上がアルキル基)を製造する。得られるアルキリデンおよびアリーリデンメタンビスホスホン酸テトラアルキルは、酸の中で加水分解されて、対応するアルキリデンおよびアリーリデンメタンビスホスホン酸を生成する。
一般的合成手順Aに従って、アセトアルデヒドをテトラメチルメタンビスホスホネートと反応させて、テトラメチルメチリデンメタンビスホスホネートを製造し、次いでそれを加水分解させて、メチリデンメタンビスホスホン酸を生成させる。(式Iで、RとRが、P−C−P基の中央の炭素に、CHCH=結合を形成したもの)。
実施例6
(4−メタクリルアミドブチリデンメタンビスホスホン酸)
(式Iで、RおよびRがCH=C(CH)C(O)NH(CHCH=)
一般的合成手順Aに従って、4−ニトロブタナールをテトラメチルメタンビスホスホネートと反応させて、テトラメチル4−ニトロブチリデンメタンビスホスホネートを製造し、次いでそれを水素化して、ニトロ基をアミン基に還元し、次いで加水分解させることによって、4−アミノブチリデンメタンビスホスホン酸を生成させる。次いで、得られた酸を、メタクリロイルクロリドを用いてメタクリレート化させることにより、4−メタクリルアミドブチリデンメタンビスホスホン酸を得る。
実施例7
(4−ビニルベンジル−メタンビスホスホン酸)
(式Iで、Rが4−ビニルベンジル、RがH)
一般的合成手順B
メタンビスホスホン酸テトラアルキルを脂肪族および芳香族ハロゲン化物(たとえば、クロリド、ブロミド、およびヨージド)と反応させて、アルキル−およびアリール−メタンビスホスホン酸テトラアルキル(式Iで、Rがアルキルまたはアリール、RがHで、4個のP−OH基の上にアルキル基)を製造する。得られるアルキル−およびアリール−メタンビスホスホン酸テトラアルキルを、酸の中で加水分解させて、対応するアルキル−およびアリール−メタンビスホスホン酸を生成させる。
一般的合成手順Bに従って、4−ビニルベンジルクロリドをメタンビスホスホン酸テトラメチルと反応させて、4−ビニルベンジル−メタンビスホスホン酸テトラメチルを製造し、次いでそれを加水分解させて、4−ビニルベンジル−メタンビスホスホン酸を得る。
実施例8
(6−メタクリルオキシヘキシル−メタンビスホスホン酸)
(式Iで、Rが6−メタクリルオキシヘキシル、RがH)
一般的合成手順Bに従って、6−クロロヘキサン酸メチルをメタンビスホスホン酸テトラメチルと反応させて、5−メトキシカルボニルペンチル−メタンビスホスホネン酸テトラメチルを製造し、次いでそれを加水分解させて、5−カルボキシペンチル−メタンビスホスホン酸を生成させ、次いでそれを水素化して、カルボキシ基をヒドロキシメチレン基へと還元する。次いで、得られた6−ヒドロキシヘキシル−メタンビスホスホン酸をメタクリロイルクロリドを用いてメタクリレート化して、6−メタクリルオキシヘキシル−メタンビスホスホン酸を得る。
実施例9
(1,3−ビス(メタクリルアミド)ブタン−1,1−ビスホスホン酸)
(式IIで、RがNHCOCCH=CH、RがCH、RがH、Aが−CH(CH)CH−)
出発物質の1,3−ジアミノ−ブタン−1,1−ビスホスホン酸は、以下の手順に従って、ジオキサン中で3−アミノブチロニトリルと三臭化リンとを反応させ、次いで加水分解と結晶化をさせることによって、調製することができる。3−アミノブチロニトリル(21g、0.25モル)を100mLのジオキサンに溶解させ、三臭化リン(135.5g、0.5モル)と30℃で24時間反応させる。水(27g、1.5モル)を加え、その混合物を、65℃で3時間加熱する。100gの水を加えてから、ジオキサンを留去し、20℃にまで冷却している間に、生成物の(1,3−ジアミノブタン−1,1−ビスホスホン酸)を残渣から結晶化させる。濾過により分離した後で、その生成物を少量の冷水を用いて数回洗浄し、次いで、真空下110℃で乾燥させる。収量9.1g(理論値の15%)。融点255℃。
実施例9の(1,3−ビス(メタクリルアミド)ブタン−1,1−ビスホスホン酸)は、次の手順に従って、1,3−ジアミノブタン−1,1−ビスホスホン酸をメタクリロイルクロリドと反応させることによって、調製することができる。
機械的撹拌器を取り付けた250mLの2口フラスコの中で、水酸化ナトリウムのペレット(28.0g、0.70モル)を水(90mL)に溶解させる。得られた溶液を氷浴中で15分間冷却させる。激しく撹拌しながら、1,3−ジアミノブタン−1,1−ビスホスホン酸(24.81g、0.100モル)を添加し、得られた混合物を1時間撹拌する。その冷却溶液に、メタクリロイルクロリド(23.0g、0.220モル)を滴下により10分かけて添加する。その混合物を氷浴の中で、3時間激しく撹拌する。その混合物を、pH試験紙によるpHの値が2より下を示すまで、濃HClを用いて酸性化する。メタノール(300mL)を添加し、得られる固形沈殿物を濾過により除く。その濾液をロータリーエバポレーター中で濃縮し、その残渣をメタノール(120mL)に溶解させる。その溶液を再度濾過し、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮すると固形物が得られるので、それを真空下で乾燥させる。そのようにして乾燥させた固形物が1,3−ビス(メタクリルアミド)ブタン−1,1−ビスホスホン酸(実施例9)であることが、同定される。
実施例10〜13
組成物と評価
本発明の組成物を以下の手順に従って調製した。固体のビスホスホン酸誘導体(たとえば、実施例1または1A)を清澄なガラスバイアルに秤りこみ、水と、任意に重合性成分と、さらに任意に、他の成分、たとえば追加の重合性成分、界面活性剤、塩、および重合開始剤を添加した。全ての成分を加えたら、バイアルを密栓し、約30秒間、手で激しく振盪した。目視により、得られた組成物が透明で、均一な溶液となっていることを確認した。混合を続けてから、その組成物を不透明なバイアルに移し、本明細書に記述した剪断接着強さ試験方法による評価を行った。
この方法により調製した組成物を、試験方法に用いた任意の接着剤、ならびに、エナメル質および象牙質に対する剪断接着強さの結果と合わせて、表1に列記した。比較のための陰性対照実験を行ったが、それに含まれるのは、シングルボンド・アドヘーシブ(SINGLEBOND Adhesive)のみ(対照1)と、スコッチボンド・マルチパーパス・プラス・アドヘーシブ(SCOTCHBOND Multipurpose Plus Adhesive)のみ(対照2)である。それら2種の対照実験の結果では、エッチング剤含有物質で処理されていないエナメル質または象牙質表面に塗布された接着剤の接着性が比較的に低いことを示していた。実施例12は、自己エッチング性接着剤組成物の例として挙げたものであって、この場合、歯牙の表面を処置するためにエッチング剤と接着剤の両方を使用した後で、コンポジット材料の硬化と接着を行った。
走査型電子顕微鏡(SEM)による歯牙の表面評価
本発明のビスホスホン酸誘導体のいくつかについては、歯牙のエナメル質表面のエッチングを、走査型電子顕微鏡(SEM)により見ることができた。たとえば、自己エッチング性プライマー組成物の実施例11を、320グリットのサンドペーパーを用いて調製したエナメル質歯牙表面に塗布した。その組成物を20秒間放置してから、蒸留水を用いて表面を洗い流した。歯牙の表面を乾燥させ、標準的なSEM測定法を用いて、走査した。そのSEM画像は、処理したエナメル質の上にエッチングによるパターンがあることを示していた。
本明細書において引用した特許、特許書面および公刊物にある完全な開示は、ここに引用することにより、あたかもそれらが独立して取り込まれたかのように、その全てが本明細書に取り込まれたものとする。本発明の範囲と精神から外れることなく、本発明についての各種の修正や変更が可能なことは、当業者には明らかであろう。説明に用いた実施形態および本明細書で言及した実施例によって不当に限定されることは、本発明が意図するものではなく、また、そのような実施例および実施形態は単に例を示すためだけに提供されたものであって、本発明の範囲は、本明細書で以下に述べる特許請求の範囲によってのみ限定されるものである、ということは理解されたい。

Claims (5)

  1. 重合性成分;および
    前記重合性成分とは異なる、式II:
    (ここで、
    x=1〜3;
    は、H、OH、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、または−A−(N(R )−C(O)−C(R )=CH であり;
    はそれぞれ独立して、HまたはCH であり;
    はそれぞれ独立して、H、アルキル基であり、またはAと結合して環状炭化水素基(炭素と水素以外に、酸素、窒素、硫黄、リンおよびケイ素が含まれていてもよい)を形成していてもよく;そして
    Aは、直鎖または分岐状の炭化水素基(炭素と水素以外に、酸素、窒素、硫黄、リンおよびケイ素が含まれていてもよい)である)
    の化合物またはその塩を含み、
    前記式IIの化合物が、硬表面をエッチングするに充分な量で存在して、それによりエッチング剤を形成する、エッチング組成物。
  2. 前記式IIの化合物が、前記組成物の全重量を基準にして、少なくとも重量%の量で存在する、請求項に記載の組成物。
  3. 前記硬表面が象牙質またはエナメル質である、請求項1または2に記載の組成物。
  4. 式II:
    (ここで、
    x=1〜3;
    は、H、OH、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、または−A−(N(R )−C(O)−C(R )=CH であり;
    はそれぞれ独立して、HまたはCH であり;
    はそれぞれ独立して、H、アルキル基であり、またはAと結合して環状基を形成していてもよく;そして
    Aは単結合、または、直鎖または分岐状の炭化水素基(炭素と水素以外に、酸素、窒素、硫黄、リンおよびケイ素が含まれていてもよい)である)
    の化合物またはその塩の使用であって、
    リン酸を用いて前処理されていない、歯牙の表面を処理するための組成物を調製するための、使用。
  5. 前記処理が、歯牙の表面をエッチングおよびプライマー処理することである、請求項に記載の使用。
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