本発明は、歯科治療に用いる小窩裂溝填塞用キットに係わり、詳しくは、小窩裂溝部表面(無柱エナメル質)と小窩裂溝填塞材とを、小窩裂溝部表面に酸エッチング処理を施すことなく接着することが可能な小窩裂溝填塞用キットに関する。
歯牙の最表層を構成している無柱エナメル質は、その内部にある、エナメル小柱、小柱間質などから構成されているエナメル小柱部とは成分及び結晶構造が異なり、耐酸性が高い。かかる無柱エナメル質を対象とした歯科治療の一つに、小窩裂溝填塞材を用いた齲蝕予防がある。タービンなどによる歯牙の切削を必ずしも必要としないこの歯科治療は、一般的に、リン酸エッチング剤(リン酸水溶液)により歯牙の無柱エナメル質の表面を脱灰して粗面化することから開始される。
しかしながら、リン酸エッチング剤は、必要以上に歯牙を脱灰する。その結果、無柱エナメル質層の内部にある耐酸性の低いエナメル小柱部が歯牙の表面に露出し、露出部から齲蝕菌が侵入して齲蝕が発生する場合がある。
また、過度の脱灰に因り、歯牙の光沢が消失したり、プラーク、食物中のタンパク質、着色剤などが脱灰により生じた歯質の表面の凹凸部に堆積して、歯質表面、とりわけ小窩裂溝填塞材の周辺の歯質表面が変色したりする場合もある。
さらに、リン酸エッチング処理での過度の脱灰による歯牙の損傷は必要最小限に止めるべきであるにも拘わらず、リン酸エッチング処理を厳密に治療すべき部位にのみ施すことは臨床上困難であるので、治療を必要としない部分にまで歯牙の損傷が及ぶ場合もある。
リン酸エッチング剤による過度の脱灰に起因する上記の弊害は、例えば、治療を必要としない部分に、エナメル質保護用バニッシュ等のマスキング材を予め適用した後にリン酸エッチング処理を施すことによって、ある程度防止できる。しかしながら、治療を必要としない部分をマスキング材により脱灰から完全に保護することは困難である上、マスキングの工程が加わる分だけ接着操作が煩雑になる。また、リン酸エッチング剤の如き酸エッチング剤を用いた場合は、エッチング処理後の水洗処理によりこれを完全に除去する必要があり、この水洗処理が不十分な場合は接着性が著しく低下する場合がある上、水洗工程及びそれに続く乾燥工程が加わる分だけ接着操作が煩雑になる。
酸エッチング処理を必要としない無柱エナメル質用の接着性組成物として、酸性基含有重合性単量体と水溶性溶剤と水とを含有する接着性組成物が提案されている(特許文献1参照)。この接着性組成物は、無柱エナメル質とコ−ティング材等の歯科用修復材料との接着剤として使用可能であるのみならず、無柱エナメル質に対して接着性を有する歯科用修復材料としても使用可能である(同特許文献[0044]参照)。この接着性組成物は、無柱エナメル質の表面を脱灰しながら歯質に浸透して歯質と化学的に結合する。したがって、この接着性組成物を接着剤として使用した場合は、無柱エナメル質と歯科用修復材料とを強固に接着することが可能となる。また、この接着性組成物を小窩裂溝填塞材として使用した場合は、酸エッチング処理を施すことなくヒトの歯の小窩裂溝部の填塞が可能となる。
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記の接着性組成物は水を含有しているため、長期間貯蔵後に接着剤又は小窩裂溝填塞材として使用に供した場合は、無柱エナメル質に対する接着性が著しく低下することが分かった。また、上記の接着性組成物を小窩裂溝部と小窩裂溝填塞材との接着剤として使用する場合は、填塞部位よりも広範囲に接着剤を塗布しなければ、良好な接着力及び辺縁封鎖性は得られない。しかし、硬化(接着)した小窩裂溝填塞材の周辺部には、脱灰と同時に歯質に接着した接着剤が露出しており、これが食物由来のタンパク質や着色剤などよって着色し、審美性を低下させる場合がある。これの改善策としては、接着後に、例えば、露出した接着剤の表面をエタノール等の有機溶剤を含ませた綿でもって擦るなどして、未硬化の接着剤や低重合の接着剤の硬化体を除去する方法が提案されているが、このような綿で擦るなどの操作は、臨床上、非常に煩雑である。
本発明は、上記の課題を解決するべくなされたものであって、ヒトの歯の小窩裂溝部表面(耐酸性が高い無柱エナメル質)に対して優れた接着性を有し、しかも貯蔵安定性に優れた小窩裂溝填塞用キットを提供することを目的とする。
上記目的を達成するための請求項1記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットは、水又はpH5〜9の無機物の水溶液からなる歯面処理剤(A)と、酸性基含有重合性単量体(a)、架橋性重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を含有し、且つ水も重合性を有しない有機溶剤も含有しない小窩裂溝填塞材(B)とを有する。
請求項2記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットでは、請求項1記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットにおける無機物が、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、亜リン酸ニ水素ナトリウム、亜リン酸ニ水素カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム及びモノフルオロリン酸カリウムよりなる群から選ばれた無機塩類に限定される。
請求項3記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットでは、請求項1又は2記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットにおける小窩裂溝填塞材(B)が、さらに親水性の重合性単量体(d)を含有するものに限定される。
請求項4記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットでは、請求項1〜3のいずれかに記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットにおける小窩裂溝填塞材(B)が、さらにフィラー(e)を含有するものに限定される。
請求項5記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットでは、請求項1〜4のいずれかに記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットにおける小窩裂溝填塞材(B)が、さらにフッ素イオン放出性物質(f)を含有するものに限定される。
なお、以下において、請求項1〜5のいずれかに記載の発明に係る小窩裂溝填塞用キットを本発明に係る小窩裂溝填塞用キットと称することがある。
請求項1〜5のいずれかに記載の発明によれば、酸エッチング剤や接着剤を使用することなく小窩裂溝部を填塞することができ、しかも貯蔵安定性が良い小窩裂溝填用キットが提供される。
本発明に係る小窩裂溝填塞用キットの必須コンポーネントである歯面処理剤(A)は、水又はpH5〜9の無機物の水溶液からなる。歯面処理剤(A)は、小窩裂溝部表面の無柱エナメル質を湿潤させるための剤である。歯面の表層に水分を付着させることにより、続いて塗布する小窩裂溝填塞材(B)中の酸性基含有重合性単量体(a)による無柱エナメル質に対する脱灰作用を促進し、もって接着性を高めるためである。したがって、小窩裂溝部表面に塗布された歯面処理剤(A)は、歯科用エアーシリンジ(例えば、スリーウエイシリンジ)などによって乾燥除去しないように注意する必要がある。
pH5〜9の歯面処理剤(A)は、無柱エナメル質の表面を殆ど脱灰しないので、過度な脱灰により歯牙に損傷を与えたり、歯牙を食物中の着色剤やタンパク質などによって変色させたりしにくい。歯面処理剤(A)のpHは5.5〜8.5の範囲が好ましく、6〜8の範囲が最も好ましい。同pHが5より小さい場合は、歯牙に過度な損傷を与えたり、著しく変色させたりすることがあり、一方同pHが9より大きい場合は、続いて塗布する小窩裂溝填塞材(B)中の一部の酸性基含有重合性単量体(a)が歯面処理剤(A)により中和されて脱灰が不十分となり、その結果、小窩裂溝填塞材(B)の無柱エナメル質に対する接着性が低下することがある。
歯面処理剤(A)として使用する水としては、精製水、蒸留水、イオン交換水、水道水、湧水が例示される。
pH5〜9の無機物の水溶液において、無機物を水に配合するのは、歯面処理剤(A)のpH及び粘度を調整するためである。無機物の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化リチウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素カルシウム、リン酸水素二ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、亜リン酸ニ水素ナトリウム、亜リン酸ニ水素カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等の無機塩類が挙げられる。無機物の水に対する配合量は、水溶液の全重量に基づいて、0.001〜15重量%の範囲が好ましく、0.005〜10重量%の範囲がより好ましく、0.01〜5重量%の範囲が最も好ましい。同配合量が15重量%より多くなると無柱エナメル質に対する接着性が低下することがある。無柱エナメル質の表面の保湿性を高めるなどのために、歯面処理剤(A)にシリカ、アルミナ等の無機の微粒子フィラーを配合してもよい。
小窩裂溝填塞部に付着せしめる水又はpH5〜9の無機物の水溶液からなる歯面処理剤(A)の量は、接着面積1cm2 当たり、通常、0.0001g〜0.05gの範囲、好ましくは0.0002g〜0.01gの範囲、より好ましくは0.0005g〜0.005gの範囲である。
本発明に係る小窩裂溝填塞用キットのもう一つの必須コンポーネントである小窩裂溝填塞材(B)は、酸性基含有重合性単量体(a)、架橋性重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を含有する。
酸性基含有重合性単量体(a)は、先に塗布した歯面処理剤(A)に一部溶解して水素イオンを生成し、この水素イオンにより無柱エナメル質を脱灰しながら歯質に浸透して、歯質と化学的に結合する。酸性基含有重合性単量体(a)は、1価のリン酸基〔ホスフィニコ基:=P(=O)OH〕、2価のリン酸基〔ホスホノ基:−P(=O)(OH)2〕、ピロリン酸基〔−P(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)−〕、カルボン酸基〔カルボキシル基:−C(=O)OH、酸無水物基:−C(=O)−O−C(=O)−〕、スルホン酸基〔スルホ基:−SO3H〕等の酸性基を少なくとも一個有し、且つアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、ビニルベンジル基等の重合性基(重合可能な不飽和基)を少なくとも一個有する疎水性の単量体である。この明細書において、疎水性とは、25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%未満であることを意味する。具体例としては、下記のものが挙げられる。なお、以下において、メタクリロイルとアクリロイルとを(メタ)アクリロイルと総称する。
リン酸基含有重合性単量体(a−1)としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート、2−メタクリロイルオキシエチル−(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル−(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
ピロリン酸基含有重合性単量体(a−2)としては、ピロリン酸ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
カルボン酸基含有重合性単量体(a−3)としては、マレイン酸、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸;4−(メタ)アクリロキシエチルトリメット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸及びこれらの酸無水物;5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
スルホン酸基含有重合性単量体(a−4)としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アミン塩が例示される。
酸性基含有重合性単量体(a−1)〜(a−4)の中では、リン酸基、ピロリン酸基又はカルボン酸基を有する重合性単量体が無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現するので好ましく、中でも、リン酸基又はピロリン酸基を有する重合性単量体がより好ましく、2価のリン酸基〔ホスホノ基:−P(=O)(OH)2 〕を有する重合性単量体が最も好ましい。リン酸基含有重合性単量体の中でも、特に、分子内に主鎖の炭素数が6〜20のアルキル基又はアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体が好ましく、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の分子内に主鎖の炭素数が8〜12のアルキレン基を有する2価のリン酸基含有重合性単量体が最も好ましい。なお、スルホン酸基含有重合性単量体(a−4)は、他の酸性基含有重合性単量体と比較すると、歯質に対する接着性は劣るものの、酸性基含有重合性単量体(a−1)〜(a−4)の中で歯質に対する脱灰力が最も強いので、酸性基含有重合性単量体(a−1)〜(a−3)と併用することにより、極めて優れた接着性が得られる場合がある。
酸性基含有重合性単量体(a)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。酸性基含有重合性単量体(a)の配合量が過多及び過少いずれの場合も無柱エナメル質に対する接着力が低下することがある。酸性基含有重合性単量体(a)の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、1〜50重量%の範囲が好ましく、1〜40重量%の範囲がより好ましく、5〜30重量%の範囲が最も好ましい。
架橋性重合性単量体(b)は、分子内に、少なくとも2個の重合性基を有し、酸性基を有さず、疎水性の重合性単量体である。架橋性重合性単量体(b)は、重合硬化性に劣る疎水性の酸性基含有重合性単量体(a)と強固に重合して、優れた硬化性(特に、機械的強度及び耐水性)を硬化物に付与する。なお、以下において、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとを(メタ)アクリレートと総称する。架橋性重合性単量体(b)の具体例としては、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(以下、「Bis−GMA」と記す)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(以下、「UDMA」と記す)、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート及び下記の化1、化2、化3、化4、化5又は化6で表される化合物が挙げられる。中でも、優れた硬化性を得る上で、分子内に少なくとも3個の重合性基を有し、且つ炭素原子が環状又は直鎖状に少なくとも6個連続して結合した炭化水素基を有する化合物が好ましい。
架橋性重合性単量体(b)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。架橋性重合性単量体(b)の配合量が過多な場合は、酸性基含有重合性単量体(a)の歯質への浸透性が低下して、無柱エナメル質に対する接着力が低下することがある。一方、同配合量が過少な場合は、組成物の硬化性が低下して、無柱エナメル質に対して大きな接着力を発現できなくなることがある。架橋性重合性単量体(b)の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、5〜60重量%の範囲が好ましく、10〜50重量%の範囲がより好ましく、20〜40重量%の範囲が最も好ましい。
小窩裂溝填塞材(B)の歯質との親和性及び接着性の向上のために、酸性基を有さず、且つ親水性(25°Cにおける水に対する溶解度が10重量%以上)の重合性単量体(d)を配合してもよい。
親水性の重合性単量体(d)としては、25°Cにおける水に対する溶解度が30重量%以上のものが好ましく、25°Cにおいて任意の割合で水に溶解可能なものが最も好ましい。親水性の重合性単量体(d)としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)が例示される。
親水性の重合性単量体(d)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。親水性の重合性単量体(d)の配合量が過多な場合、硬化性や耐水性が悪くなり、無柱エナメル質に対する接着力が低下することがある。通常、親水性の重合性単量体(d)の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
更に、小窩裂溝填塞材(B)の親水性/疎水性バランス、粘度の調整、機械的強度又は接着力の向上のために、酸性基含有重合性単量体(a)及び架橋性重合性単量体(b)以外の疎水性の重合性単量体を配合してもよい。
かかる疎水性の重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレートが例示される。
上記疎水性の重合性単量体は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。上記疎水性の重合性単量体の配合量が過多な場合は、酸性基含有重合性単量体(a)の歯質への浸透性が低下して無柱エナメル質に対する接着力が低下することがある。通常、これらの重合性単量体の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
重合開始剤(c)としては、公知の重合開始剤を使用することができる。具体例としては、α−ジケトン類(c−1)、ケタール類(c−2)、チオキサントン類(c−3)、アシルホスフィンオキサイド類(c−4)、クマリン類(c−5)、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体(c−6)、過酸化物(c−7)等が挙げられる。中でも、α−ジケトン類(c−1)、ケタール類(c−2)、チオキサントン類(c−3)、アシルホスフィンオキサイド類(c−4)等の光重合型の重合開始剤(光重合開始剤)が優れた硬化性を小窩裂溝填塞材(B)に与えるので好ましく、特にアシルホスフィンオキサイド類(c−4)が極めて優れた表面硬化性を小窩裂溝填塞材(B)に与えるのでより好ましく、アシルホスフィンオキサイド類(c−4)とα−ジケトン類(c−1)との併用が、優れた表面硬化性を小窩裂溝填塞材(B)に与えるのみならず、小窩裂溝部の深部に進入した小窩裂溝填塞材(B)をも強固に硬化させるので最も好ましい。
α−ジケトン類(c−1)としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンが例示される。
ケタール類(c−2)としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールが例示される。
チオキサントン類(c−3)としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンが例示される。
アシルホスフィンオキサイド類(c−4)としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ジベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、トリス(2,4−ジメチルベンゾイル)ホスフィンオキサイド、トリス(2−メトキシベンゾイル)ホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイル−ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイドが例示される。
クマリン類(c−5)としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チェノイルクマリンが例示される。
ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体(c−6)としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンが例示される。
過酸化物(c−7)としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類が例示される。ジアシルパーオキサイド類の具体例としてはベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシエステル類の具体例としては、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートが挙げられる。ジアルキルパーオキサイド類の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドが挙げられる。パーオキシケタール類の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが挙げられる。ケトンパーオキサイド類の具体例としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド等が挙げられる。ハイドロパーオキサイド類の具体例としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−ジイソプロピルベンゼンパーオキサイドが挙げられる。
重合開始剤(c)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。通常、重合開始剤(c)の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、0.05〜7重量%の範囲がより好ましく、0.1〜5重量%の範囲が最も好ましい。
重合開始剤(c)の重合能を更に向上させるために、これと重合促進剤とを併用してもよい。重合促進剤としては、例えば、芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミン、スルフィン酸及びその塩、アルデヒド類、チオール基を有する化合物が挙げられる。
芳香族第3級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチ
ル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−N,N―ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンが例示される。
脂肪族第3級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−
メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートが例示される。
スルフィン酸及びその塩としては、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−イソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムが例示される。
アルデヒド類としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドが例示される。
チオール基を有する化合物としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸が例示される。
重合促進剤は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。通常、重合促進剤の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、0.05〜7重量%の範囲がより好ましく、0.1〜5重量%の範囲が最も好ましい。
塗布性、流動性、接着性及び機械的強度を向上させるために、小窩裂溝填塞材(B)にフィラー(e)を配合してもよい。フィラー(e)は、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラー(e)としては、無機系フィラー、有機系フィラー及び無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーが挙げられる。
無機系フィラーとしては、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al2O3、B2O3、TiO2、ZrO2、BaO、La2O3、SrO2、CaO、P2O5などを含有する、セラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
有機系フィラーとしては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、多官能メタクリレートの重合体、ポリアミド、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴムが例示される。
無機系フィラーと有機系フィラーとの複合体フィラーとしては、有機系フィラーに無機系フィラーを分散させたもの、無機系フィラーを種々の重合性単量体にてコーティングした無機/有機複合フィラーが例示される。
小窩裂溝填塞材(B)の流動性、塗布性等を向上させるために、フィラー(e)として、シランカップリング剤等の公知の表面処理剤で表面処理したフィラーを用いてもよい。表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランが例示される。
フィラー(e)としては、操作性、流動性、小窩裂溝部への浸透性、無柱エナメル質に対する接着性などの点で、一次粒子径が0.001〜0.1μmの微粒子フィラーが好ましい。具体例としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が挙げられる。
フィラー(e)の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、0.1〜30重量%の範囲が好ましく、0.5〜20重量%の範囲がより好ましく、1〜10重量%の範囲が最も好ましい。
歯質に耐酸性を付与するために、小窩裂溝填塞材(B)にフッ素イオン放出性物質(f)を配合してもよい。フッ素イオン放出性物質(f)としては、フルオロアルミノシリケートガラス等のフッ素ガラス類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体等のフッ素イオン放出性ポリマー、セチルアミンフッ化水素酸塩等のフッ素イオン放出性物質が例示される。
フッ素イオン放出性物質(f)の配合量は、小窩裂溝填塞材(B)の全重量に基づいて、0.01〜40重量%の範囲が好ましく、0.05〜30重量%の範囲がより好ましく、0.1〜20重量%の範囲が最も好ましい。
小窩裂溝填塞材(B)に、安定剤(重合禁止剤)、着色剤、蛍光剤、紫外線吸収剤を配合してもよい。また、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサン等の抗菌性物質を配合してもよい。
小窩裂溝填塞材(B)は、水も重合性を有しない有機溶剤も含有しない。重合性を有しない有機溶剤としては、アセトン、メタノール、エタノール、酢酸エチルが例示される。水を含有しないため、貯蔵安定性が良い。また、重合性を有しない有機溶剤を含有しないため、硬化性、機械的強度及び接着耐久性が良い。
水又はpH5〜9の無機物の水溶液からなる歯面処理剤(A)と小窩裂溝填塞材(B)との重量比は、通常、1:1000〜1:10の範囲、好ましくは1:500〜1:20の範囲、より好ましくは1:200〜1:50の範囲である。
本発明に係る小窩裂溝填塞用キットの使用方法の一例を次に説明する。先ず、スポンジ、ブラシ、筆又はスリーウエイシリンジを用いてヒトの歯牙の小窩裂溝部表面に歯面処理剤(A)を塗布又は噴射して、歯面処理剤(A)を無柱エナメル質表面に付着させる。必要に応じて歯科用エアーシリンジ(スリーウエイシリンジ;エアー)にて無柱エナメル質の表面に付着している水分を完全には乾燥させない程度にエアーブローしてもよい。次いで、歯面処理剤(A)を塗布又は噴射した面に小窩裂溝填塞材(B)を塗布する。すると、塗布した小窩裂溝填塞材(B)の一部が先に塗布又は噴射した歯面処理剤との混合状態で硬化する。小窩裂溝填塞材(B)に配合した重合開始剤(c)が、光によってラジカルを発生する重合開始剤(光重合開始剤)である場合は、小窩裂溝填塞材(B)に歯科用可視光線照射器を用いて光照射して硬化させることが、優れた接着性が得られる点で好ましい。
実施例により本発明を更に詳細に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した材料は次のとおりである。
〔歯面処理剤〕
・精製水:和光純薬工業社製(歯面処理剤(A))
・NaHCO3水溶液:0.2gの炭酸水素ナトリウム(和光純薬工業社製)を99.8gの精製水に溶解させた水溶液(歯面処理剤(A))
・NaF水溶液:0.1gのふっ化ナトリウム(和光純薬工業社製)を99.9gの精製水に溶解させた水溶液(歯面処理剤(A))
・10%リン酸水溶液:10gのリン酸(和光純薬工業社製、純度85%)を85gの精製水に溶解させた水溶液
・次亜塩素酸ナトリウム水溶液:和光純薬工業社製
〔酸性基含有重合性単量体(a)〕
・MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
・PDM:ピロリン酸ビス(10−メタクリロイルオキシデシル)
・4−MDT:4−メタクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸
・AMPS:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸
〔架橋性重合性単量体(b)〕
・UDMA:[2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・U4TH:下記化7で表される架橋性重合性単量体(b)
・DPE6A:下記化8で表される架橋性重合性単量体(b)
・D26E:下記化9で表される架橋性重合性単量体(b)
〔親水性の重合性単量体(d)〕
・HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・9G:ノナエチレングリコールジメタクリレート
〔重合開始剤(c)〕
・CQ:カンファーキノン
・TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド
〔重合促進剤〕
・DMBE:4−N,N―ジメチルアミノ安息香酸エチル
・MBO:2−メルカプトベンゾオキサゾール
〔フィラー(e)〕
・Ar380:アエロジル社製の微粒子シリカ
・TIO:日局酸化チタン
〔フッ素イオン放出性物質(f)〕
・40PMF:下記化10で表されるフッ素イオン放出性物質(b)
・NaF:ふっ化ナトリウム(和光純薬工業社製)
〔重合禁止剤(安定剤)〕
・BHT:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
(実施例1)
歯面処理剤(A)として精製水を準備した。また、MDP(20重量部)と、3G(40重量部)と、U4TH(40重量部)と、TMDPO(2重量部)と、CQ(0.5重量部)と、DMBE(1重量部)と、BHT(0.1重量部)とを混合して、小窩裂溝填塞材(B)を調製した。これらの歯面処理剤(A)及び小窩裂溝填塞材(B)からなる小窩裂溝填塞用キットを用いて試験片を作製し、その試験片について、下記の光沢性試験、着色性試験及び接着性試験を行った。表1にリン酸エッチング剤使用の有無、歯面処理剤、小窩裂溝填塞材の組成(重量部)及び試験結果を示す。表1中の引張接着強度(単位:MPa)の数値は、全て、8個の試験片についての測定値の平均値である。なお、pHは、イオンメーター(オリオン社製、型番「920A」)を用いて測定した。
(実施例2〜3及び比較例1〜4)
歯面処理剤(A)としてのNaHCO3水溶液(実施例2)及びNaF水溶液溶液(実施例3)と、pH0.7の10%リン酸水溶液(比較例3)と、pH10.1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(比較例4)とを、それぞれ準備した。また、小窩裂溝填塞材(B)を1種(実施例2、3及び比較例3、4)及び比較のための小窩裂溝填塞材を2種(比較例1、2)調製した。これらの歯面処理剤及び小窩裂溝填塞材からなる小窩裂溝填塞用キットを用いて試験片を作製し、それぞれの試験片について、下記の光沢性試験、着色性試験及び接着性試験を行った。表1に、リン酸エッチング剤使用の有無、使用した歯面処理剤、小窩裂溝填塞材の組成(重量部)及び試験結果を示す。
(光沢性試験及び着色性試験)
抜去したヒトの臼歯の歯冠部、特に小窩裂溝部(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(日本歯科工業社製、商品名「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、歯面処理剤をスポンジ片に含浸させ、これを歯冠部表面(無柱エナメル質)に押し付け、歯冠部表面に水分を付着させた。次いで、小窩裂溝填塞材を湿潤状態にある小窩裂溝部表面(無柱エナメル質表面)に小筆ブラシを用いて塗布し、5秒間静置後、歯科用光照射器(モリタ社製、商品名「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させ、試験片とした。この試験片を着色剤(ギャバン朝岡社製、商品名「ターメリックパウダー」)の0.5%水懸濁液中に浸漬し、37°Cに設定した恒温器の中に24時間保管した。その後、小窩裂溝填塞材の周辺の歯冠部表面の光沢の有無及び着色性を目視にて調べた。
(接着性試験)
抜去したヒトの前歯唇側の表面(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、前歯唇側の中央に、直径3mmの丸穴を有する厚さ150μmの粘着テープを貼着した。歯面処理剤をスポンジ片に含浸させ、これを丸穴内の無柱エナメル質表面に押し付け、その表面に水分を付着させた。次いで、小窩裂溝填塞材を湿潤状態にある無柱エナメル質表面に小筆ブラシを用いて塗布し、5秒間静置後、それを離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)で被覆した後、スライドガラスを載置して押圧し、この状態で歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させた。この硬化面に、直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面(円形断面)を歯科用レジンセメント(クラレメディカル社製、商品名「パナビアフルオロセメント」)を用いて接着し、試験片とした。試験片は8個作製した。全試験片を、接着後水中に浸漬し、37°Cの恒温器に1日保管した後、引張接着強度を、クロスヘッドスピードを2mm/分に設定したオートグラフ(島津社製、型番「MODELAG−1」)にて測定した。引張接着強度は、厚さ0.5mmの数枚の金属製の板をあてがって歯を固定した状態で、ステンレス製の円柱棒を、その軸芯方向に対して5°以上外れない方向に引っ張って測定した。
表1に示すように、pH7.0、8.3又は6.5の歯面処理剤(A)と、酸性基含有重合性単量体(a)、架橋性重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を含有する小窩裂溝填塞材(B)とからなる小窩裂溝填塞用キットを使用した場合は、無柱エナメル質に対する引張接着強度が、いずれも10MPa以上であった(実施例1〜3)。また、小窩裂溝填塞材周辺の無柱エナメル質表面の光沢及び着色は、処理前のそれと比較して殆ど変化が認められなかった。これらのことから、実施例1〜3の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現すること、歯牙にその光沢を消失させるほどの大きな損傷を与えないこと、歯牙の表面を審美的に満足できないほどには着色しないことが分かる。
これに対して、酸性基含有重合性単量体(a)を含有しない小窩裂溝填塞材を使用した場合は、処置後、光沢及び着色はさほど低下しなかったものの、引張接着強度は、0.0MPaであった(比較例1)。このことから、本発明に係る小窩裂溝填塞用キットが発現する優れた接着力に、酸性基含有重合性単量体(a)が大きく寄与していることが分かる。また、架橋性重合性単量体(b)を含有しない小窩裂溝填塞材を使用した場合も、処置後、光沢及び着色は、処理前のそれと比較してさほど変化がなかったものの、引張接着強度は、1.9MPaであった(比較例2)。このことから、本発明に係る小窩裂溝填塞用キットが発現する優れた接着力に、架橋性重合性単量体(b)も大きく寄与していることが分かる。さらに、歯面処理剤としてpH0.7の10%リン酸水溶液を使用した場合は、過度の脱灰により歯面の光沢が消失し、着色剤によって淡黄色に変色した(比較例3)。比較例3の如く歯面処理剤としてリン酸水溶液を使用した場合に接着性が低いのは、リン酸の如き重合性基を有しない酸は小窩裂溝填塞材中の重合性単量体の重合を阻害するからである。また、歯面処理剤としてpH10.1の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した場合は、接着性が著しく低下した(比較例4)。脱灰が不十分であったからである。
(実施例4〜10)
歯面処理剤(A)としての精製水を準備した。また、複数種類の小窩裂溝填塞材(B)を調製した。これらの歯面処理剤(A)及び小窩裂溝填塞材(B)からなる小窩裂溝填塞用キットを用いて試験片を作製し、それぞれの試験片について、先の光沢性試験、着色性試験及び接着性試験を行った。表2に、リン酸エッチング剤使用の有無、小窩裂溝填塞材の組成(重量部)及び試験結果を示す。
表2に示すように、歯面処理剤(A)と、酸性基含有重合性単量体(a)、架橋性重合性単量体(b)及び重合開始剤(c)を含有する小窩裂溝填塞材(B)とからなる実施例4〜10の小窩裂溝填塞用キットを使用した場合は、無柱エナメル質に対する引張接着強度が、いずれも10MPa以上であった。また、小窩裂溝填塞材周辺の無柱エナメル質表面の光沢及び着色は、処理前のそれと比較して殆ど変化が認められなかった。これらのことから、実施例4〜10の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現すること、歯牙にその光沢を消失させるほどの大きな損傷を与えないこと、歯牙の表面を審美的に満足できないほどには着色しないことが分かる。
また、酸性基含有重合性単量体(a)としてリン酸基含有重合性単量体(MDP)、ピロリン酸基含有重合性単量体(PDM)又はカルボン酸基含有重合性単量体(4−MDT)を使用した3つの小窩裂溝填塞用キット(実施例4〜6)を比較すると、リン酸基含有重合性単量体(MDP)を配合した小窩裂溝填塞用キット(実施例4)が最も優れた接着力を示し、次にピロリン酸基含有重合性単量体(PDM)を配合した小窩裂溝填塞用キット(実施例5)が高い接着力を示した。また、リン酸基含有重合性単量体(MDP)とスルホン酸基含有重合性単量体(AMPS)を併用した小窩裂溝填塞用キット(実施例10)は、特に高い接着力を示した。また、HEMA(親水性の重合性単量体(d))を更に配合した小窩裂溝填塞用キット(実施例7〜9)は、HEMA(親水性の重合性単量体(d))を配合しなかった小窩裂溝填塞用キット(実施例4〜6)に比べてより高い接着力を示した。
(実施例11〜17)
歯面処理剤(A)としての精製水を準備した。また、フィラ−を含有する複数種類の小窩裂溝填塞材(B)を調製した。これらの歯面処理剤(A)及び小窩裂溝填塞材(B)からなる小窩裂溝填塞用キット(実施例11〜17)を用いて試験片を作製し、それぞれの試験片について、先の光沢性試験、着色性試験及び接着性試験を行った。表3に、リン酸エッチング剤使用の有無、小窩裂溝填塞材の組成(重量部)及び試験結果を示す。
表3に示すように、歯面処理剤(A)と、酸性基含有重合性単量体(a)、(架橋性重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、親水性の重合性単量体(d)及びフィラー(e)を含有する小窩裂溝填塞材(B)とからなる実施例11〜17の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対する引張接着強度が、いずれも10MPa以上であった。また、小窩裂溝填塞材周辺の無柱エナメル質表面の光沢及び着色は、処理前のそれと比較して殆ど変化が認められなかった。これらのことから、実施例11〜16の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現すること、歯牙にその光沢を消失させるほどの大きな損傷を与えないこと、歯牙の表面を審美的に満足できないほどには着色しないことが分かる。
また、Ar380等の微粒子シリカ(フィラー(e))を配合することにより、小窩裂溝填塞材(B)の物性(接着性及び強度)を低下させることなく、流動性を抑制できるため、操作性及び填塞性が向上することが分かった。操作性や填塞性が向上することにより、例えば、歯牙以外の部位(例えば、歯肉や口腔粘膜)に小窩裂溝填塞材を付着させずに歯科治療が可能となる。更に、TIO等の白色フィラーを配合した小窩裂溝填塞材を使用した場合は、白色又は淡黄白色の色調を示し、硬化後、周辺部の歯牙と審美的に違和感がないため、良好な色調適合性が得られることが分かった。
(実施例18〜24)
歯面処理剤(A)としての精製水を準備した。また、複数種類の小窩裂溝填塞材(B)を調製した。これらの歯面処理剤(A)及び小窩裂溝填塞材(B)からなる小窩裂溝填塞用キット(実施例18〜24)を用いて試験片を作製し、それぞれの試験片について、先の光沢性試験、着色性試験、接着性試験及び下記の耐酸性層形成試験を行った。表4に、リン酸エッチング剤使用の有無、小窩裂溝填塞材の組成(重量部)及び試験結果を示す。
(耐酸性層形成試験)
抜去したヒトの臼歯の歯冠部、特に小窩裂溝部(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、歯面処理剤を含浸させたスポンジ片を歯冠部表面(無柱エナメル質)に押し付け、歯冠部表面に水分を付着させた。次いで、湿潤状態にあるこの小窩裂溝部表面(無柱エナメル質表面)に小窩裂溝填塞材を小筆ブラシを用いて塗布し、5秒間静置後、歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させ、試験片とした。この試験片をpH7.0のリン酸緩衝液に浸漬し、この状態で37°Cの恒温器の中に3ヶ月間保管した。3ヶ月後、試験片を低速ダイヤモンドソーを用いて割断し、割断面を湿潤下にて#3000シリコン・カーバイド紙(日本研紙社製)を用いて研磨した後、更に1μmのダイヤモンド研磨ペーストを用いて研磨した。研磨後、試験片を蒸留水に浸漬し、超音波洗浄を行って試験片に付着していたダイヤモンド研磨ペーストを取り除き、pH5.6のクエン酸緩衝液に8時間浸漬した。試験片を取り出し、割断面における歯質と小窩裂溝填塞材との接着界面を電子顕微鏡(倍率:2000倍)にて観察して、耐酸性層形成の厚みを調べた。
表4に示すように、歯面処理剤(A)と、酸性基含有重合性単量体(a)、架橋性重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、親水性の重合性単量体(d)、フィラー(e)及びフッ素イオン放出性物質(f)を含有する小窩裂溝填塞材(B)とからなる実施例18〜24の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対する引張接着強度が、いずれも11MPa以上であった。また、小窩裂溝填塞材周辺の無柱エナメル質表面の光沢及び着色は、処理前のそれと比較して殆ど変化が認められなかった。これらのことから、実施例18〜24の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現すること、歯牙にその光沢を消失させるほどの大きな損傷を与えないこと、歯牙の表面を審美的に満足できないほどには着色しないことが分かる。
また、小窩裂溝填塞材(B)にNaF、40PMF等のフッ素イオン放出性物質(f)を配合した小窩裂溝填塞用キットを使用した場合(実施例18〜24)、接着界面に5μm以上の耐酸性層が形成された。このことから、実施例18〜24の小窩裂溝填塞用キットは、酸に対する抵抗力を歯質に付与していることが分かる。特に、小窩裂溝填塞材(B)にHEMA(親水性の重合性単量体(d))を配合した小窩裂溝填塞用キットを使用した場合(実施例21〜23)は、小窩裂溝填塞材(B)にHEMA(親水性の重合性単量体(d))が配合されていない小窩裂溝填塞材(B)を使用した場合(実施例18〜20)に比べて耐酸性層が厚かった。これは、親水性が高い小窩裂溝填塞材(B)の内部に水が浸透し、その水に溶解したフッ素イオンが小窩裂溝填塞材(B)の表面に溶出して歯質と反応し易くなり、フルオロアパタイトが多量に生成したからである。また、酸性基含有重合性単量体(a)として接着性に優れるMDPと脱灰力の強いAMPSとを併用した場合(実施例24)は、極めて優れた接着性が得られ、また耐酸性層が厚かった。これは、両者の併用により無柱エナメル質に対する小窩裂溝填塞材の接着性及び浸透性が向上し、小窩裂溝填塞材が無柱エナメル質の内部深く浸透した結果、歯質と小窩裂溝填塞材(樹脂)との接合部に、極めて厚い耐酸性を有する樹脂含浸部が形成されたからである。因みに、この樹脂含浸部が耐酸性を有するのは、樹脂が含浸した歯質は、酸に溶解しにくくなるからである。
(実施例25〜28)
歯面処理剤(A)としての精製水を準備した。また、複数種類の小窩裂溝填塞材(B)を調製した。これらの歯面処理剤(A)及び小窩裂溝填塞材(B)からなる小窩裂溝填塞用キット(実施例25〜28)を用いて試験片を作製し、それぞれの試験片について、先の光沢性試験、着色性試験、接着性試験及び耐酸性層形成試験を行った。表5にリン酸エッチング剤使用の有無、小窩裂溝填塞材の組成(重量部)及び試験結果を示す。
表5に示すように、歯面処理剤(A)と、酸性基含有重合性単量体(a)、架橋性重合性単量体(b)、重合開始剤(c)、親水性の重合性単量体(d)、フィラー(e)及びフッ素イオン放出性物質(f)を含有する小窩裂溝填塞材(B)とからなる実施例25〜28の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対する引張接着強度が、いずれも10MPa以上であった。また、小窩裂溝填塞材周辺の無柱エナメル質表面の光沢及び着色は、処理前のそれと比較して殆ど変化が認められなかった。これらのことから、実施例25〜28の小窩裂溝填塞用キットは、無柱エナメル質に対して優れた接着力を発現すること、歯牙にその光沢を消失させるほどの大きな損傷を与えないこと、歯牙の表面を審美的に満足できないほどには着色しないことが分かる。更に、実施例25〜28の小窩裂溝填塞用キットを使用した場合は、接着界面に10μm以上の耐酸性層が形成されていた。このことから、実施例25〜28の小窩裂溝填塞用キットは、歯質に酸に対する抵抗力を付与していることが分かる。
(比較例5)
抜去したヒトの臼歯の歯冠部、特に小窩裂溝部(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、歯冠部表面(無柱エナメル質)に35%リン酸水溶液を塗布した。10秒間静置後、脱灰された無柱エナメル質の成分及びリン酸を流水にて洗い流し、歯科用エアーシリンジ(スリーウエイシリンジ)にて、歯質の表面の水分を蒸散させた。次いで、小窩裂溝填塞材を小筆ブラシを用いて小窩裂溝部に塗布し、5秒間静置後、歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して小窩裂溝填塞材を硬化させ、試験片とした。この試験片について、先の光沢性試験及び着色性試験を行った。
また、抜去したヒトの前歯唇側の表面(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、歯冠部表面(無柱エナメル質)に35%リン酸水溶液を塗布した。10秒間静置後、脱灰された無柱エナメル質の成分及びリン酸を流水にて洗い流し、歯科用エアーシリンジ(スリーウエイシリンジ)にて、歯質の表面の水分を蒸散させた後、前歯唇側の中央に、直径3mmの丸穴を有する厚さ150μmの粘着テープを貼着した。その丸穴内に、小窩裂溝填塞材を塗布し、5秒間静置後、それを離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)で被覆した後、スライドガラスを載置して押圧し、この状態で歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させた。この硬化面に、直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面(円形断面)を歯科用レジンセメント(前出の「パナビアフルオロセメント」)を用いて接着し、試験片とした。この試験片について、先の接着性試験を行った。
表6に、リン酸エッチング剤使用の有無、歯面処理剤(A)使用の有無、接着剤の組成(重量部)、使用した小窩裂溝填塞材及び試験結果を示す。
(比較例6、7)
抜去したヒトの臼歯の歯冠部、特に小窩裂溝部(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、歯冠部表面(無柱エナメル質)に、MDP(20重量部)と、エタノール(比較例6)又はHEMA(比較例7)(55重量部)と、精製水(25重量部)とからなる接着剤を塗布した。30秒間静置後、歯科用エアーシリンジ(スリーウエイシリンジ)にて接着剤の流動性が無くなる程度にまで揮発性成分を蒸散させた。次いで、小窩裂溝填塞材を小筆ブラシを用いて小窩裂溝部に塗布し、5秒間静置後、歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させ、試験片とした。この試験片について、先の光沢性試験及び着色性試験を行った。
また、抜去したヒトの前歯唇側の表面(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、前歯唇側の中央に、直径3mmの丸穴を有する厚さ150μmの粘着テープを貼着した。その丸穴内に、MDP(20重量部)と、エタノール(比較例6)又はHEMA(比較例7)(55重量部)と、精製水(25重量部)とからなる接着剤を塗布した。30秒間静置後、歯科用エアーシリンジ(スリーウエイシリンジ)にて接着剤の流動性が無くなる程度にまで揮発性成分を蒸散させた。次いで、小窩裂溝填塞材を上記接着剤の上に塗布し、5秒間静置後、それを離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)で被覆した後、スライドガラスを載置して押圧し、この状態で歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、接着剤及び小窩裂溝填塞材を硬化させた。この硬化面に、直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面(円形断面)を歯科用レジンセメント(前出の「パナビアフルオロセメント」)を用いて接着し、試験片とした。この試験片について、先の接着性試験を行った。
表6に、リン酸エッチング剤使用の有無、歯面処理剤(A)使用の有無、接着剤の組成(重量部)、使用した小窩裂溝填塞材及び試験結果を示す。
(比較例8)
抜去したヒトの臼歯の歯冠部、特に小窩裂溝部(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、小窩裂溝填塞材を小窩裂溝部表面(無柱エナメル質表面)に小筆ブラシを用いて塗布し、5秒間静置後、歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させ、試験片とした。この試験片について、先の光沢性試験及び着色性試験を行った。
また、抜去したヒトの前歯唇側の表面(無柱エナメル質)を、歯面清掃ブラシ(前出の「ブラシコーン」)を用いて清掃した後、前歯唇側の中央に、直径3mmの丸穴を有する厚さ150μmの粘着テープを貼着し、その丸穴内に小窩裂溝填塞材を小筆ブラシを用いて塗布し、5秒間静置後、それを離型フィルム(クラレ社製、商品名「エバール」)で被覆した後、スライドガラスを載置して押圧し、この状態で歯科用光照射器(前出の「JETLITE3000」)にて20秒間光照射して、小窩裂溝填塞材を硬化させた。この硬化面に、直径5mm、長さ1.5cmのステンレス製の円柱棒の一方の端面(円形断面)を歯科用レジンセメント(前出の「パナビアフルオロセメント」)を用いて接着し、試験片とした。
表6に、リン酸エッチング剤使用の有無、歯面処理剤(A)使用の有無、接着剤の組成(重量部)、使用した小窩裂溝填塞材及び試験結果を示す。
表6に示すように、リン酸エッチング処理を施した後に小窩裂溝填塞材を塗布した比較例5の接着方法では、リン酸エッチング処理による過度の脱灰に因り、歯牙にその光沢が消失するほどの大きな損傷を与えた。リン酸エッチング処理を施すことなく接着剤を使用して接着した比較例6及び7の接着方法では、小窩裂溝填塞材周辺の歯牙(無柱エナメル質)の表面が着色剤により黄色に着色し、処理前のそれと比較して、明らかに審美性が低下した。リン酸エッチング剤も接着剤も歯面処理剤(A)も使用せずに、小窩裂溝填塞材を小窩裂溝部表面に直接塗布した比較例8の接着方法では、接着性が極めて良くなかった。
(比較例9)
水(精製水)と、MDP(20重量部)、3G(40重量部)、U4TH(40重量部)、TMDPO(2重量部)、CQ(0.5重量部)、DMBE(1重量部)及びBHT(0.1重量部)からなる組成物とを、重量比1:1で混和して、水を含有する小窩裂溝填塞材を調製した。歯面処理剤としての精製水と、上記小窩裂溝填塞材とからなる小窩裂溝填塞用キットを用いて試験片を作製し、その試験片について、先の光沢性試験、着色性試験及び接着性試験を行った。水を含有する小窩裂溝填塞材を使用したこの接着方法では、光沢の消失や着色は認められなかったが、引張強度が2.6MPaを示し、接着性が極めて良くなかった。この結果から、小窩裂溝填塞材に水を含有せしめると、接着性が著しく低下することが分かる。 また、実施例1で作製した小窩裂溝填塞用キット及び比較例9で作製した小窩裂溝填塞用キットを、それぞれプロピレン製の容器に入れ、50°Cに保持した恒温器に30日間保管した。次いで、それぞれを用いて試験片を作製し、これらの試験片について、先の接着性試験を行った。実施例1で作製した小窩裂溝填塞用キットを使用して作製した試験片の引張接着強度は13.0MPaであり、比較例9で作製した小窩裂溝填塞用キットを使用して作製した試験片の引張接着強度は0.2MPaであった。この結果から、小窩裂溝填塞材に水を含有せしめると、貯蔵安定性が著しく低下することが分かる。
本発明に係る小窩裂溝填塞用キットは、酸エッチング剤や接着剤を使用することなく小窩裂溝部を填塞することができるので、小窩裂溝部の齲蝕予防材料として極めて有用である。