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JP5191486B2 - 反応硬化性接着性組成物および歯科用接着材キット - Google Patents

反応硬化性接着性組成物および歯科用接着材キット Download PDF

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JP5191486B2 JP2009514173A JP2009514173A JP5191486B2 JP 5191486 B2 JP5191486 B2 JP 5191486B2 JP 2009514173 A JP2009514173 A JP 2009514173A JP 2009514173 A JP2009514173 A JP 2009514173A JP 5191486 B2 JP5191486 B2 JP 5191486B2
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Description

本発明は、歯科用接着材、コーティング材、填塞材として好適な反応硬化性接着性組成物、およびこれを用いた歯科用接着材キットに関する。さらに詳しくは本発明は、歯牙、金属、セラミックス、セメント、樹脂、複合樹脂材料に対して使用できる歯科用接着材の硬化性接着性組成物およびそれに適したプライマー組成物および製品キットに関する。
ボンディング材やセメントなどで代表される歯科用接着材には、硬化させる仕組みで区別すると、主に可視光線を照射して重合硬化させる光重合タイプと、別々に保管した2種以上の組成物を使用直前に混合して重合硬化させる化学重合タイプがある。
歯質に接着させる光重合タイプの歯科用接着材の性能は、近年、急速に向上してきた。これは、この硬化メカニズムに起因して重合過程における空気中の酸素による重合阻害が比較的少なく、また、酸性条件下でも重合率が向上するためと考えられている。他方、光重合タイプの歯科用接着材を硬化させるためには、光が存在することが必須構成要件であり、光が届きにくい部分に適用させる場合には化学重合タイプの歯科用接着材を使用する必要がある。
化学重合タイプの歯科用接着材に関する提案は、これまで数多くなされてきたが、光重合タイプの歯科用接着材の性能と比較すると、化学重合タイプの歯科用接着材の特性は充分とはいえない。この原因は、使用されている重合開始剤が酸性条件では重合開始効率が低く、さらに重合過程においては酸素の阻害を受けやすいために重合率が充分に向上しないことにあると考えられている。
このような化学重合タイプの歯科用接着材には、酸性条件下でも重合硬化しやすい重合開始剤を使用する提案(特許文献1(特開平7-97306号公報))がある。また、重合過程において酸素の重合阻害を受けにくいように、歯科用接着材を高粘度化ないしはフィラーなどを混合して粘度を向上させたペースト状態にして使用する提案(特許文献2(特開平7-291819号公報))がある。
特許文献1には、液状組成物と粉状組成物とを使用直前に混合して化学重合によって硬化させる接着硬化性組成物が提案されているが、重合開始剤の一成分として使用しているN-フェニルグリシン(NPG)を重合性単量体と混合すると短時間にゲル化が生じることを示している。
特許文献2には、重合開始剤の一成分として使用しているN-フェニルグリシン(NPG)あるいはp−トルエンスルフィン酸ナトリウム(p-TSNa)を治具などに予め吸着させて保管しておき、重合性単量体やフィラーを含む組成物をペースト状態で保管し、使用直前に所定量のペーストと吸着させた治具を接触させて使用する接着硬化性組成物が提案されている。この提案では、接着硬化性組成物の使用量にあわせて異なる吸着量の治具を準備する必要があり、一定の吸着量の治具では接着硬化性組成物の使用量が著しく制限される問題がある。さらに、該提案にはNPGを分子内にオキシエチレン鎖を有する重合性単量体と混合して保管する方法が提案されている。
しかしながら、こうした組成物を長期にわたって保管しておくと変色して、硬化物の色調を損なう場合があった。
特開平7-97306号公報 特開平7-291819号公報
本発明は、一般には短期間でゲル化反応が進行し、さらに極度の変色が生じてしまい保存安定性が悪いとされている重合性単量体を長期間にわたって安定に保存できる組成物を含有する反応硬化性接着性組成物を提供することを目的としている。
さらに本発明は、上記のように安定化された反応硬化性接着性組成物を用いた長期保存安定性に優れた歯科用接着材キットを提供することを目的としている。
本発明の反応硬化性接着性組成物は、(a)重合性単量体、および、(b)下記式(1)で表わされる化合物;
Figure 0005191486
[上記式(1)において、R1およびR2は、互いに独立に、水素原子または官能基を有していてもよいアルキル基であり、R3は水素原子または金属原子である。]からなる弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、
(a)重合性単量体からなる強酸性組成物(II)とからなる酸性を呈する反応硬化性接着性組成物である。
このように本発明の反応性を有する成分を含む組成物を安定に長期間保持できるのは、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に含有される成分中にアルカリ金属、アルカリ土類金属を共存させることにより弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)をより安定な状態に保持することができるからである。
また、本発明の歯科用接着材キットは、(a)重合性単量体、および、(b)下記式(1)で表わされる化合物;
Figure 0005191486
[上記式(1)において、R1およびR2は、互いに独立に、水素原子または官能基を有していてもよいアルキル基であり、R3は水素原子または金属原子である。]からなる弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、
(a)重合性単量体からなる強酸性組成物(II)と、
プライマー組成物(III)とからなり、該プライマー組成物(III)が、
(a)重合性単量体、
(e)芳香族第三アミン、および、
(f)水溶性溶媒
からなり、
上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)、強酸性組成物(II)、プライマー組成物(III)が別々に包装されてなることを特徴としている。
このような歯科用接着材キットは、通常は使用直前に組成物(I)、組成物(II)を混練して、硬化可能な状態にして使用される。このとき組成物(I)、組成物(II)は、通常は別々に包装されていて、使用前にこれらを所定量取り出して混練することにより使用可能な状態になる。
歯科材料には、種々の目的で重合性単量体に、有機酸あるいはその塩などの他の物質を混合した状態で保管することが余儀なくされることがある。ところが、このように重合性単量体と有機酸などの他の成分とが長期間にわたって共存した状態では、重合性単量体を安定に保つことは難しく、保存中に重合性単量体の少なくとも一部が反応してしまい、長期間の保存後に均一な重合体を形成することが難しい。
このような重合性単量体と有機酸あるいはその塩をはじめとする他の成分とを共存させることについて、重合性単量体の長期安定性に着目して検討してみると、重合性単量体とアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などのアルカリ成分共存するさせるか、組成物のpH値を弱酸性側からアルカリ性側に保持することにより、この重合性単量体を長期間安定に保持することができるとの知見を得た。すなわち、結果として、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属などを用いて好ましくは酸性基を有する単量体の酸性基を中和するように存在させことにより、この組成物(I)のpH値を上記のように弱酸性乃至アルカリ性に維持することにより、この組成物(I)を安定に長期間保持することができるのである。
本発明の反応硬化性接着性組成物によれば、重合性単量体に金属あるいは金属塩などの他の成分が含有されている場合に、重合性単量体の反応によるゲル化、あるいは著しい着色などを防止することができる。
すなわち、本発明の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物は、組成物(I)のpH値が弱酸性乃至アルカリ性に調整されているので、長期間保持したとしても、この組成物(I)に含有される重合性単量体の部分的な重合反応が進行せずに、この組成物(I)に、強酸性組成物(II)を加えて混練して得られた酸性を呈する反応硬化性接着材組成物は、歯牙に対して非常に高い接着性を示し、さらにこれらを別々に包装することにより、使用量の調整、硬化時間の変更が容易になり、歯科修復が効率的に、かつ迅速に進められるので患者の負担が減少する。
次に本発明の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物および歯科用接着材組成物について具体的に説明する。
本発明の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物は、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、強酸性組成物(II)とから形成されている。
ここで弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)は、重合性単量体(a)と下記式(1)で表わされる化合物(b)を含有している。
Figure 0005191486
上記式(1)において、R1およびR2は、互いに独立に、水素原子または官能基を有していてもよいアルキル基である。また、R3は水素原子または金属原子である。上記式(1)において、R1が水素原子であり、R2が同様に水素原子であり、さらにR3が水素原子である化合物はN-フェニルグリシン(NPG)である。式(1)で表わされる化合物としては、上述のようにN−フェニルグリシン(NPG)およびその塩、N-トリグリジン(NTG)またはその塩を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。本発明においては、上記式(1)で表わされる化合物(b)としてはN-フェニルグリシン(NPG)またはアルカリ金属塩、N-フェニルグリシン(NPG)のナトリウム塩(NPG-Na)が特に好ましい。
本発明で使用される弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に配合されている重合性単量体(a)としては、(メタ)アクリル酸の脂肪族エステル類、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類、ポリアルキレングリコールの一方のアクロイル基がアルキル基で置換されたモノ(メタ)アクリレート類、ウレタン結合を有する(メタ)アクリレート類、オキシアルキレンが縮合したビスフェノールAの(メタ)アクリル酸縮合物、スチレン誘導体、酢酸ビニル誘導体、水酸基含有(メタ)アクロイル基を有する単量体、分子内に酸性基を含有する重合性単量体およびこの酸性基が中和された単量体などを挙げることができる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」を含む上位概念である。
本発明において重合性単量体(a)の具体的な例としては、以下に記載する化合物を挙げることができる。
本発明で使用する重合性単量体(a)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸の脂肪族エステル類;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類;
上記のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート類のどちらか一方の(メタ)アクリロイル基がメチル基およびエチル基などに置換されたモノ(メタ)アクリレート類;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたは1,3,5−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートのいずれかと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの付加物などのようにウレタン結合を有する(メタ)アクリレート類;
ビスフェノールAにオキシエチレンを付加させた生成物にさらに(メタ)アクリル酸を縮合させた2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン類;
スチレン、4−メチルスチレン、4−クロルメチルスチレン、ジビニルベンゼンなどのスチレン誘導体類;
酢酸ビニルなどを挙げることができる。これらの重合性単量体は単独で、もしくは組み合わせて使用できる。
さらに、本発明で使用する重合性単量体(a)としては、分子内に水酸基を有する(メタ)アクリロイル基を有する単量体を使用することができる。このような水酸基を有する重合性単量体の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(メタクリレートの場合「HEMA」)、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレ−ト、1,2−または1,3−または2,3−ジヒドロキシプロパン(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの水酸基含有の(メタ)アクリレート類;
メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイル−2,3−ジヒドロキシプロピルアミン、N−(メタ)アクリロイル−1,3−ジヒドロキシプロピルアミンなどの水酸基含有の(メタ)アクリルアミド類;
2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート(メタクリレートの場合「HPPM」)、2−ヒドロキシ−3−ナフトキシプロピル(メタ)アクリレート(メタクリレートの場合HNPM);
1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジル(メタ)アクリレート(メタクリレートの場合「GMA」)の付加反応生成物(メタクリレートの場合「Bis−GMA」)などのGMAと脂肪族もしくは芳香族ポリオール(フェノールを含む)との付加生成物などを挙げることができる。これらの重合性単量体は単独でもしくは組み合わせて使用できる。
さらに、本発明で使用する重合性単量体(a)としては、分子内に酸性基を含有する重合性単量体(a1)を使用することもできる。この分子内に酸性基を含有する重合性単量体(a1)は、重合性基として、例えば(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニル基、アリル基などを有するラジカル重合可能な不飽和基を有している。この分子内にカルボキシル基を含有する重合性単量体(a1)は、1分子内に例えば上記の重合性基を少なくとも1個含有していればよい(以下に記述する重合性単量体における重合性基は、すべてこれと同様に解釈されるべきである)。
この分子内に酸性基を含有する重合性単量体(a1)には、例えばカルボン酸基、リン酸基、チオリン酸基、スルホン酸基およびスルフィン酸基などの酸性基を有しており、これらの酸性基は単独であるいは組み合わせて導入されていてもよい。
この分子内に酸性基を含有する重合性単量体(a1)として使用できる重合性単量体のうち、1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有する重合性単量体としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸またはこれらの誘導体を挙げることができ、これらの例としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、p−ビニル安息香酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸(メタクリレートの場合:「MAC10」)、1,4−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸(メタクリレートの場合:「4−MET」)およびその無水物(メタクリレートの場合:4−META)、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシ]ブチルトリメリット酸およびその無水物、2,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O-(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシチロシン、N−(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸(メタクリレートの場合:「5−MASA」)、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸、2または3または4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸二無水物の付加生成物(メタクリレートの場合:「PMDM」)、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸または3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(メタクリレートの場合:「BTDA」)または3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の付加反応物、2−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)−1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、N−フェニルグリシンまたはN−トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4−[(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4−[N−メチル-N−(2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などを挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
本発明ではこれらの酸性基含有重合性単量体(a1)の中でも、MAC−10、4−MET、4−METAおよび5−MASAを使用することが好ましい。これらのカルボキシル基を含有する重合性単量体は単独でまたは組み合わせて使用できる。
本発明において酸性基含有重合性単量体(a1)として使用される、1分子中に少なくとも1個のリン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2および3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート、ビス{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシドホスフェート、ビス{2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル}アシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−p−メトキシフェニルアシドホスフェートなどを挙げることができる。これらの化合物におけるリン酸基は、チオリン酸基に置き換えることができる。これらのリン酸基を有する重合性単量体は単独でまたは組み合わせて使用できる。本発明では、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートが好ましく用いられる。
本発明において、酸性基含有重合性単量体(a1)として使用できる重合性単量体のうち、1分子中に少なくとも1個のスルホン酸基を有する重合性単量体としては、例えば2−スルホエチル(メタ)アクリレート、2−スルホ−1−プロピル(メタ)アクリレート、1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。これらのスルホン酸基を有する重合性単量体は単独でまたは組み合わせて使用できる。このうち、2−メチル−2−(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸が好ましく用いられる。
本発明において、重合性単量体(a)は、通常は、フィラーを除く弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に、通常は、80〜99.99重量%、好ましくは85〜99.9重量%、更に好ましくは90〜99.5重量%の範囲内の量で含有されている。前記数値範囲の下限値を下回ると硬化体が得られなかったり脆かったり、さらには硬化時間が著しく短かったりすることが多く、上限値を上回ると硬化しなくなったり、硬化するまでの時間が著しく遅くなる。
また、本発明において重合性単量体(a)としては、上記のような酸性基含有単量体(a1)の酸性基の少なくとも一部が、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンで中和されていてもよい。
特に酸性基がアルカリ土類金属であるカルシウムイオンによって分子内の酸性基がカルシウム塩を形成している重合性単量体カルシウム塩(a2)を形成していることが好ましい。
このような重合性単量体カルシウム塩(a2)は、口腔内などの生体内で、徐々にカルシウムを放出して周囲の組織の再石灰化を促すとの作用がある。
本発明で使用する分子内の酸性基がカルシウム塩を形成している重合性単量体(a2)は、分子内に重合性基と、少なくとも1つの酸性基とを有する重合性単量体(a1)の酸性基がカルシウムイオンによって中和された重合性単量体である。ここで、上記の酸性基としては、カルボン酸基および/またはリン酸基が挙げられる。
また、本発明において、酸性基を有する重合性単量体(a1)の有する酸性基は実質上完全に中和されていることが望ましい。ここで実質上完全に中和されているとは酸性基の酸のグラム当量と、カルシウムのグラム当量とが、実質上等しくされている状態にあることを意味し、さらにカルシウムのグラム当量が酸性基のグラム当量を超えていてもよい。ここでグラム当量とはモル数を酸(又は塩基)の価数で乗じた値を言う。即ち、酸(又は塩基)が中和に放出し得るH+(又はOH-)のモル数である。なお、カルボン酸基あるいはリン酸基のような弱酸を強塩基性であるカルシウムで中和すると、厳密に完全中和しても、pH値は7にならず、ややアルカリ側に傾く傾向がある。
本発明においては、歯科材料あるいは歯科用組成物中における酸性基のカルシウム塩に起因するカルシウム塩基グラム当量と、酸性基の酸グラム当量との比(カルシウム塩基グラム当量/酸グラム当量)を、好ましくは0.5〜2.0[グラム当量/グラム当量]、より好ましくは0.7〜1.5[グラム当量/グラム当量]、さらに好ましくは0.8〜1.2[グラム当量/グラム当量]の範囲内にする。前記数値範囲の下限値を下回るとカルシウム分の放出量が低下し、再石灰化に寄与することが実質上不可能になることがあり、一方、上限値を上回るとアルカリ成分が過多となり硬化により形成される歯科材料の物性に悪影響を及ぼすことがある。
上記のように分子内の酸性基がカルシウム塩を形成している重合性単量体(a2)は、酸性基を有する重合性単量体(a1)中にある酸性基が実質上安全に中和されているが、このカルシウムは、予め酸性基を有する重合性単量体(a1)を中和したカルシウム塩であってもよいし、こうした酸性基を有する重合性単量体(a1)の周囲に存在する石灰質からのカルシウムであってもよい。
このような酸性基を有する重合性単量体(a1)のカルシウム塩は、通常は、Ca(OH)2などのカルシウム化合物と酸性基を有する重合性単量体(a1)とを実質上同グラム当量反応させることにより製造することができる。この中和反応は、酸性基を有する重合性単量体(a1)とカルシウム化合物とが反応し得る反応形態であればよく、通常は水などの水性媒体の存在下に反応させ、反応後に反応溶媒を、例えば、蒸留、濾過、膜分離などにより適宜除去することにより製造することができる。こうして製造されたカルシウム塩は、水、エタノールなどの低級アルコールなどの水性媒体で洗浄して使用することが好ましい。さらに、上記のようにして洗浄して使用する場合には、洗浄に使用した溶媒を積極的に除去して使用することが好ましい。
このようにして精製された生成物に含有されるカルシウム塩の含有量は、好ましくは40〜100%、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは80〜100%である。このような生成物中に含有されるカルシウム塩以外の成分は、通常は反応の際に反応溶媒として使用した水もしくは水性溶媒であり、このようなカルシウム塩以外の成分の含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜4%、更に好ましくは0〜2%である。このように生成することにより、遊離のカルシウム化合物が少なくなり、組成物のpH値が強アルカリ性に傾きにくい。
なお、pH値を適切に管理してカルシウム塩を調製すれば、カルシウムが反応中に喪失することは極めて少ないので、仕込み量を生成物組成(酸塩基グラム当量比)と看做すことが可能である。必要に応じて、除去した溶媒あるいは洗浄液のpH値、あるいは、生成物のpH値を測定確認してもよい。
本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)には、還元性化合物(c)が含有されていてもよい。ただし、この還元性化合物(c)は上述の式(1)で表わされる化合物(b)を含有しない概念である。
このような還元性化合物(c)の例としては、有機スルフィン酸系化合物(c11)、バルビツール酸系化合物(c12)および六員環構造を有する化合物、芳香環系化合物である。
本発明において、還元性化合物(c)として使用される有機スルフィン酸系化合物(c11)の例としては、有機スルフィン酸またはその塩を挙げることができる。より具体的には、有機スルフィン酸系化合物(c11)の例としては、スルフィン酸あるいはスルフィン酸の、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩あるいはアンモニウム塩を挙げることができる。
本発明では特に芳香族スルフィン酸塩を使用することにより硬化物の色調が優れる。
ここでアルカリ金属塩の例としては、上記化合物のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などを例示することができ、また、アルカリ土類金属塩の例としてはマグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などを挙げることができる。また、アミン塩の例としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどの第一アミンの塩;
ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、N−メチルアニリン、N−エチルアニリン、ジフェニルアミン、N−メチルトルイジンなどの第二アミン塩;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)アニリン、アニリン、N,N−ジメチルトルイジン、N,N−ジエチルトルイジン、N,N−(β−ヒドロキシエチル)トルイジンなどの第三アミンの塩を挙げることができる。
さらに、アンモニウム化合物の塩の例としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩などを挙げることができる。
このような有機スルフィン酸の例としては、エタンスルフィン酸、プロパンスルフィン酸、ヘキサンスルフィン酸、オクタンスルフィン酸、デカンスルフィン酸、ドデカンスルフィン酸などのアルカンスルフィン酸、シクロヘキサンスルフィン酸、シクロオクタンスルフィン酸などの脂環族スルフィン酸;ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸を挙げることができる。
さらに、有機スルフィン酸塩の例としては、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸マグネシウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸ストロンチウム、ベンゼンスルフィン酸バリウム、ベンゼンスルフィン酸ブチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸アニリン塩、ベンゼンスルフィン酸トルイジン塩、ベンゼンスルフィン酸フェニレンジアミン塩、ベンゼンスルフィン酸ジエチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸ジフェニルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸トリエチルアミン塩、ベンゼンスルフィン酸アンモニウム塩、ベンゼンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、ベンゼンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウム;さらには、o−トルエンスルフィン酸リチウム、o−トルエンスルフィン酸ナトリウム、o−トルエンスルフィン酸カリウム、o−トルエンスルフィン酸カルシウム、o−トルエンスルフィン酸シクロヘキシルアミン塩、o−トルエンスルフィン酸アニリン塩、o−トルエンスルフィン酸アンモニウム塩、o−トルエンスルフィン酸テトラエチルアンモニウム、p−トルエンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸カリウム、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸バリウム、p−トルエンスルフィン酸エチルアミン塩、p−トルエンスルフィン酸トルイジン塩、p−トルエンスルフィン酸N−メチルアニリン塩、p−トルエンスルフィン酸ピリジン塩、p−トルエンスルフィン酸アンモニウム塩、p−トルエンスルフィン酸テトラメチルアンモニウム、β−ナフタリンスルフィン酸ナトリウム、β−ナフタリンスルフィン酸ストロンチウム、β−ナフタリンスルフィン酸トリエチルアミン、β−ナフタリンスルフィン酸−N−メチルトルイジン、β−ナフタリンスルフィン酸アンモニウム、β−ナフタリンスルフィン酸トリメチルベンジルアンモニウムなどを挙げることができる。
本発明において有機スルフィン酸系化合物(c11)は、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に含有される重合性単量体(a)とフィラーを除くその他の成分の合計重量100重量部中に、通常は0.05〜20重量部、好ましくは0.1〜18重量部、更に好ましくは0.5〜15重量部の範囲内の量で配合される。この化合物の使用量が少なすぎると硬化物の変色が起こりやすく、多すぎると硬化性が低下する傾向がある。
また、本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に上記有機スルフィン酸系化合物(c11)とともに、あるいは有機スルフィン酸系化合物(c11)とは別に、配合することができるバルビツール酸系化合物(c12)の例としては、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリエチルバルビツール酸、1,3−ジメチル−5−エチルバルビツール酸、1,5−ジメチルバルビツール酸、1−メチル−5−エチルバルビツール酸、1−メチル−5−プロピルバルビツール酸、5−エチルバルビツール酸、5−プロピルバルビツール酸、5−ブチルバルビツール酸、5−メチル−1−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸またはこれらのアルカリ金属塩などを挙げることができる。
本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に配合することができるバルビツール酸系化合物(c12)の量は、この弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に含有される重合性単量体(a)とフィラーを除くその他の成分の合計重量100重量部中に、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜8重量部、更に好ましくは0.5〜5重量部の範囲内の量で配合される。この化合物の使用量が少なすぎると硬化物の変色が起こりやすく、多すぎると硬化性が低下する傾向がある。
また、本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)では、上記有機スルフィン酸系化合物(c11)と上記バルビツール酸系化合物(c12)とを併用することもでき、この場合の両者の配合比率〔(c11)/(c12)〕は、通常は、0.01/100の範囲内、好ましくは0.05/50の範囲内、さらに好ましくは0.1〜10の範囲内にある。
また、本発明では(I)には、有機還元性化合物を配合することができる。ここで使用することができる有機還元性化合物の例としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン(DMPT)、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエタノール-p−トルイジン(DEPT)、N,N−ジメチル-p−tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル-p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸(DEABA)およびそのアルキルエステル、N,N−ジメチルアミノベンツアルデヒド(DMABAd)などの芳香族アミン類などを挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。本発明では有機還元性化合物としては、これらの中でも、DMPT、DEPT、DEABA、DMABAdが好ましく使用できる。
本発明において、上記のような有機還元性化合物は、組成物(I)中の重合性単量体(a)およびフィラーを除く他の物質の合計100重量部中に、通常は0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜8重量部、更に好ましくは0.5〜7重量部の範囲内の量で使用されるか、あるいは、光重合開始剤(c2)および過酸化物(c3)の合計を100重量%としたときに有機還元性化合物が通常は0.001〜10重量%、好ましくは0.002〜5重量%、更に好ましくは0.003〜3重量%の範囲内の量で使用される。上記範囲内の量で有機還元性化合物を用いることにより、重合が円滑に進行し、さらに組成物の着色、反応硬化物の脆化等の問題も生じない。
本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)は、上記のような重合性単量体(a)と式(1)で表わされる化合物とからなる組成物であり、そのpH値は通常は4.5〜14、好ましくは4.5〜12、特に好ましくは4.5〜9の範囲内にある。上記pH範囲の数値範囲の上限を下回ると、組成物(I)中にある重合性単量体(a)あるいは式(1)で表わされる化合物の加水分解反応が進行しやすくなり重合単量体(a)あるいは式(1)で表わされる化合物を安定に保持することが困難になりやすい。また、上記pH値の上限を超えると、この組成物(I)中に含有される重合性単量体(a)の部分的な重合反応あるいは硬化反応が生じやすくなり、組成物(I)の保存安定性が損なわれやすくなる。
この弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)のpH値を上記の範囲内に維持する手段としては、使用する重合性単量体(a)と、式(1)で表わされる化合物とを組み合わせて組成物(I)のpH値を上記のように調整する。この場合に酸性基を含有する重合性単量体(a1)を用いる場合には、そのままで使用せずにナトリウムあるいはカリウムなどのアルカリ金属、カルシウムのようなアルカリ土類金属で実質的に完全に中和してから使用する。さらに、アミン等の塩基性化合物を添加して、酸性基を中和し、さらに、組成物(I)のpH値を上記範囲に調整する。なお、本発明において、pH値の測定は23℃で測定した値である。
たとえば、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)と式(1)で表わされる化合物のナトリウム塩(NPG-Na)を組み合わせて使用する場合、HEMA:NPG-Na=95:5の範囲内の量で配合することにより得られる組成物(I)の23℃におけるpH値を6.5に調整することができ、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)と式(1)で表わされる化合物のナトリウム塩(NPG-Na)を組み合わせて使用する場合、TEGDMA:NPG-Na=95:5の範囲内の量で配合することにより得られる組成物(I)の23℃におけるpH値を4.5に調整することができ、さらに、上記TEGDMAと、NPG-NaとN,N-ジメチル-p-トルイジン(DMPT)とを96.5:3:0.5の範囲内の重量比で配合することにより、組成物(I)のpH値を4.5に調整することができ、またTEGDMAとNPG-Naとp−トルエンスルホン酸ナトリウム(p-TSNa)とを40:3:6の重量比で配合することにより組成物(I)のpH値を6.5に調整することができる。
本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)には、フィラー(d)を配合することができる。
本発明で使用することができるフィラーには、有機質フィラー、無機質フィラーおよび有機質複合フィラーがあり、これらを単独であるいは組み合わせて使用することが可能である。
本発明で使用する有機質フィラーの例としては、重合体の粉砕もしくは分散重合によって得られた粉末重合体のフィラー、架橋剤を含む重合性単量体を重合させた後粉砕して得られたフィラーを挙げることができる。ここで、使用できるフィラーの原料となる重合性体としては特に限定はないが、上述の重合性単量体(a)において例示した重合性単量を挙げることができ、これらは単独で使用して単独重合体とすることもできるし、組み合わせて共重合体とすることもでき、さらに、架橋剤を加えた架橋(共)重合体とすることもできる。
本発明において使用できる架橋剤の具体的な例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸ブチル(PBMA)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)、ポリビニルアルコール(PVA)などを挙げることができる。
また、本発明においてフィラー(d)として無機質フィラーを使用する場合には、無機質フィラーの例としては、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、アルミナ石英;バリウムガラスおよびストロンチウムガラスを含むガラス類、チタニア、ジルコニア、炭酸カルシウム、カオリン、クレー、雲母、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウムなどを挙げることができる。
さらに、本発明ではフィラー(d)として、有機質複合フィラーを使用することもできる。ここで使用される有機質複合フィラーは、前述した無機質フィラー表面を、重合性単量体の重合体で被覆した後、これを粉砕して得られるフィラーである。このような有機質複合フィラーの例としては、上述の無機質フィラーのうちの微粉末シリカまたは酸化ジルコニウムなどをトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPT)を主成分とする重合性単量体で重合被覆し、得られた重合体を粉砕したフィラー(TMPT・f)を挙げることができる。
本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)において、上記のようフィラー(d)を配合する場合には、上記フィラー(d)は、この組成物(I)の全体量(100重量%)中に、通常は10〜80重量%、好ましくは15〜70重量%、さらに好ましくは20〜60重量%の範囲にの量で配合される。フィラーの量が上記範囲を下回ったのでは、フィラー(d)を用いたことによる作用効果、特に流動性の改善効果が表れにくく、また上記上限値を上回って使用すると、この弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)の粘度が高くなりすぎて、作業性が低下し、さらに有効な接着強度が発現しない。
なお、本発明において組成物(I)には、フィラーを配合することができるが、こうしたフィラーを配合することによっても組成物(I)のpH値は変動しないので、フィラーの有無によりpH値が変動することはない。
上記の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)は、配合成分の組み合わせによって、23℃におけるpH値を上述の範囲内に設定することにより、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に含有される重合性単量体(a)を安定に長期間保持することができる。
本発明において、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)のpH値を上記の範囲内に保持するために、強酸性基を有する重合性単量体を実質的に使用せずに、さらに酸性基含有重合性単量体を使用する場合には、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属等を用いて金属塩形態にして使用する。さらには、組成物(I)にアミン等の塩基性化合物を添加して、又は弱酸性乃至アルカリ性調整剤、好ましくは中性乃至アルカリ性調整剤を添加して組成物(I)のpH値を調整する。本発明の組成物(I)においてpH値を前記のように調整することにより、重合性単量体(a)は安定な液状乃至ペースト状を呈し、この状態であっても、常温保存性が優れており、本発明の組成物(I)においては、上記各成分を混合した状態において23℃で通常は3カ月以上、好ましくは12カ月以上、更に好ましくは24ヶ月以上安定であり、さらに、76℃でも通常は1時間以上、好ましくは4時間以上、更に好ましくは8時間以上安定である。すなわち、本発明で使用する弱酸性乃至アルカリ性の組成物(I)は、上記のようなpH値に調整することにより、この弱酸性乃至アルカリ性の組成物(I)がゲル化乃至粘稠化するなどの実質使用できないような状態に変異しない。この保存安定性のよい組成物(I)は、上記のような条件下に曝された後にこの組成物(I)を歯科用接着材あるいは填塞材として使用して、歯質に適用した際、牛歯象牙質に対して4MPa以上の引っ張り強度が発現し、封鎖試験で70%以上のギャップ抑制が発現する。
本発明で使用する強酸性組成物(II)は、上述の重合性単量体(a)を含む組成物であり、23℃におけるpH値が通常は0.1以上4.5未満、0.5〜4、更に好ましくはpH1〜3.5の範囲内にある。前記数値範囲の下限値を下回ると生体である歯肉などの口腔粘膜に対して強い刺激を及ぼすることがあり、たとえば歯科用の接着剤などとして適性を欠く。また、上限値を上回ると接着性能と封鎖性能の低下を招来する。
本発明で使用する強酸性組成物(II)の23℃におけるpH値を、上記の範囲内にするためには、上述の重合性単量体(a)として、酸性基を含有する重合性単量体(a1)を含有させるか、あるいは酸性調整剤を配合する方法を採用することができる。
この強酸性組成物(II)には、光重合開始剤、過酸化物系重合開始剤を配合することができる。
ここで使用する光重合開始剤(c2)の例としては、その化合物単独で、または、他の化合物との共存下で光によって励起し、本発明の硬化性組成物を硬化させる役割を有する。例えば、α−ケトカルボニル化合物(c21)、アシルホスフィンオキシド化合物(c22)などを挙げることができる。本発明の(c21)成分であるα−ケトカルボニル化合物の例としては、α−ジケトン、α−ケトアルデヒド、α−ケトカルボン酸、α−ケトカルボン酸エステルなどを例示することができる。さらに具体的には、α−ケトカルボニル化合物(c21)の例として、ジアセチル、2,3−ペンタジオン、2,3−ヘキサジオン、ベンジル、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−ジエトキシべンジル、4,4'−オキシベンジル、4,4'−ジクロルベンジル、4−ニトロベンジル、α−ナフチル、β−ナフチル、カンファーキノン(CQ)、カンファーキノンスルホン酸、カンファーキノンカルボン酸、1,2−シクロへキサンジオンなどのα−ジケトン;メチルグリオキザール、フェニルグリオキザールなどのα−ケトアルデヒド:ピルビン酸、ベンゾイルギ酸、フェニルピルビン酸、ピルビン酸メチル、べンゾイルギ酸エチル、フェニルピルビン酸メチル、フエニルピルビン酸ブチルなどを挙げることができる。これらのα−ケトカルボニル化合物(c21)のうちでは安定性などの面からα−ジケトンを使用することが好ましい。α−ジケトンのうちではジアセチル、ベンジル、カンフアーキノン(CQ)が好ましい。
また、光重合開始剤(c2)として使用されるアシルホスフィンオキシド化合物(c22)の例としては、ベンゾイルジメトキシホスフィンオキシド、ベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2−メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどを挙げることができる。これらのα−ケトカルボニル化合物(c21)およびアシルホスフィンオキシド化合物(c22)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
このような光重合開始剤(c2)は、強酸性組成物(II)中に含有されるフィラー(d)を除いた重合性単量体(a)とその他の配合物100重量%中に通常は0.001〜10重量%、好ましくは0.002〜5重量%、さらに好ましくは0.003〜3重量%の範囲内の量で使用される。この光重合開始剤(c2)の量が上記範囲を逸脱して少ないと、重合反応が進行しないことがあり、また上限を上回ると、硬化体に変色が生ずる原因となるとともに、得られる硬化体が脆くなる。
また、本発明の強酸性組成物(II)には、過酸化物系の重合開始剤(c3)を配合することができる。
本発明で使用する強酸性組成物(II)に配合される過酸化物系の重合開始剤(c3)には有機過酸化物および無機過酸化物があり、本発明ではいずれの過酸化物を使用することができる。
本発明の強酸性組成物(II)において過酸化物系の重合開始剤(c3)として使用される有機過酸化物の例としては、ジアセチルペルオキシド、ジプロピルペルオキシド、ジブチルペルオキシド、ジカプリルペルオキシド、ジラウリルペルオキシド、過酸化ベンゾイル(BPO)、p,p'−ジクロルベンゾイルペルオキシド、p,p'−ジメトキシベンゾイルペルオキシド、p,p'−ジメチルベンソイルペルオキシド、p,p'−ジニトロジベンゾイルペルオキシドなどを挙げることができる。また、無機過酸化物系の重合開始剤(c3)として使用される無機過酸化物の例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウム、臭素酸カリウムおよび過リン酸カリウムなどの無機過酸化物を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
このような過酸化物系重合開始剤(c3)は、強酸性組成物(II)中に含有される重合性単量体(a)と、フィラーを除く成分の合計量100重量%中に、通常は0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜7重量%の範囲内の量で使用される。過酸化物系開始剤(c3)の量が上記数値範囲の下限値を下回ると重合硬化時間が著しく長かったり、硬化しない場合が生じることがあり、上限値を上回ると硬化が著しく速くなり、充分な可使時間を確保することができない。
本発明の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物(IV)は、上述の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、強酸性組成物(II)とからなる組成物(IV)であり、この組成物(IV)は酸性を呈する反応硬化性の接着性組成物である。
ここで酸性を呈する反応性接着性組成物(IV)は、上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)との混合物の23℃における混合物について測定したpH値が通常は0.5〜1、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1.4〜4.5の範囲内になるように配合することにより調製することができる。
すなわち、本発明の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物(IV)は、上述のような弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とを混合して、得られる組成物(IV)の23℃におけるpH値を上述の範囲内になるようにすることにより、この混合物(IV)が歯牙などに対して優れた接着性を有すると共に、弱酸性乃至アルカリ性組成物(II)に配合されている光重合開始剤(c1)あるいは過酸化物系重合開始剤(c2)と、強酸性組成物(I)に含有されている式(1)で表わされる化合物とが接触することにより、配合された重合開始剤の種類に応じた反応硬化性を示すようになる。
弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とは、pH値が上記の範囲内になるように配合すればよいが、通常は、組成物(I)と組成物(II)とは、1:0.5〜1:10の重量比、好ましくは1:1〜1:6の重量比で配合して使用される。
本発明の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物(IV)は、たとえば強酸性組成物(II)に含有される重合開始剤が、光重合開始剤であれば、この組成物(IV)は光重合性を示すようになり、強酸性組成物(II)に含有される重合開始剤が、過酸化物系重合開始剤であれば、常温乃至加熱硬化性を示すようになる。特に過酸化物系重合開始剤を使用する場合には、配合する過酸化物系重合開始剤によって、この組成物(IV)の可使時間あるいは硬化時間を適宜設定することができる。
しかも、この組成物(IV)は、硬化前の状態が酸性側にあるので、歯牙などに対して非常に高い接着強度を有している。
さらに、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)あるいは強酸性組成物(II)のいずれかあるいは両者にフィラーを配合することにより、高い接着性と封鎖性とが発現する。しかも、フィラーの配合量を調整することにより、組成物(IV)の粘度を調整することが可能であり、歯牙などの治療に適した粘度にすることができる。
上記のような弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、強酸性組成物(II)とは、通常は、両者が接触しないように別々に包装される。また、特に、強酸性組成物(II)に光重合開始剤(c1)が配合されている場合には、少なくとも強酸性組成物(II)を収納する容器としては、遮光性の容器を用いる。
本発明は、上記のように別々に包装された弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とからなるものであるが、さらに、これらにプライマー組成物(III)を組み合わせて歯科用の接着剤キットとして好適に使用することもできる。
本発明の歯科用接着材キットは、
上述の(a)重合性単量体、および、(b)下記式(1)で表わされる化合物;
Figure 0005191486
[上記式(1)において、R1およびR2は、互いに独立に、水素原子または官能基を有していてもよいアルキル基であり、R3は水素原子または金属原子である。]からなる弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、
(a)重合性単量体からなる強酸性組成物(II)と、
プライマー組成物(III)とからなり、
このプライマー組成物(III)が、
(a)重合性単量体、
(e)芳香族第三アミン、および、
(f)水溶性溶媒
から形成されてる。そして、この歯科用接着材キットは、上述の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)、強酸性組成物(II)、プライマー組成物(III)が別々に包装されている。
本発明の歯科用接着材キットを構成する弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)および強酸性組成物(II)は、上記説明した弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)および強酸性組成物(II)を使用する。
本発明の歯科用接着材キットを構成するプライマー組成物(III)には、
(a)重合性単量体、
(e)芳香族第三アミン、および、
(f)水溶性溶媒を含有する。
ここで重合性単量体(a)としては、前述の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)で説明した重合性単量体(a)を使用することができる。
本発明で使用するプライマー組成物(III)を形成する芳香族第三アミン(e)の例としては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル-p-トルイジン(DMPT)、N,N−ジエチル-p-トルイジン、N,N−ジエタノール-p-トルイジン(DEPT)、N,N−ジメチル-p-tert−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニシジン、N,N−ジメチル-p−クロルアニリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノ安息香酸およびそのアルキルエステル、N,N−ジエチルアミノ安息香酸(DEABA)およびそのアルキルエステル、N,N−ジメチルアミノベンツアルデヒド(DMABAd)などの芳香族アミン類などを併用することができる。これらの中では、DMPT、DEPT、DEABA、DMABAdが好ましく使用できる。
このような芳香族第三アミン(e)は、プライマー組成物(III)全量中に通常は0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜7重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%の範囲内の量で使用される。上記のような範囲内の量で芳香族第三アミン(e)を使用することにより、良好な接着性が発現するとともに、硬化体が変色することもない。すなわち、芳香族第三アミン(e)の使用量が前記数値範囲の上限値を上回ると、プライマー組成物(III)の保管中に変色することがあり、また、接着界面付近が変色することがある。
本発明で使用するプライマー組成物(III)には、さらに水溶性溶媒(f)が含有されている。ここで使用する水溶性溶媒(f)は、水、親水性有機溶媒、水含有親水性有機溶媒である。ここで親水性有機溶媒は、このプライマー組成物(III)に含有される重合性単量体(a)および芳香族第三アミン(e)を均一に溶解させるか、もしくは分散させる有機溶媒であり、さらにこの有機溶媒が水と任意の割合で混合できるものであることが望ましい。このような親水性有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール(EtOH)、プロパノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類などを挙げることができる。これらの親水性有機溶媒の中でも歯髄への毒性や刺激性を考慮すると、エタノール、アセトンが好ましい。
本発明においてプライマー組成物(III)で使用される水溶性溶媒(f)として水を使用することもできる。ここで水溶性溶媒(f)として使用できる水としては、例えば蒸留水、イオン交換水または生理食塩水などを挙げることができる。本発明では、特に蒸留水およびイオン交換水を使用することが好ましい。上述のように本発明で使用する水性溶媒としては、水および親水性有機溶媒を使用することができ、従って本発明では親水性有機溶媒は水を含有することもできることから、本発明では水性溶媒(f)として、水と水性有機溶媒との混合物である水含有親水性有機溶媒を使用することもできる。
本発明で使用するプライマー組成物(III)中において、上記のような水性媒体(f)は、通常は10〜90重量%、好ましくは15〜80重量%、更に好ましくは20〜70重量%の範囲内の量で使用される。本発明において、水性溶剤の量を上記の範囲内にすることにより、たとえば歯質表面に適度の水性溶媒が残留するために、非常に良好な接着性能が発現する。
上記の説明においては、重合開始剤(c)である式(1)で表わされる化合物以外の重合開始剤は、弱酸性乃至アルカリ性組成物(II)に配合すると説明したが、過酸化物系重合開始剤(c3)の混合を液体乃至ペースト状で混合行う場合には常温保存性が充分に確保できないことがある。重合開始剤(c)が、過酸化物系重合開始剤(c3)以外の重合開始剤である場合には、重合開始剤と重合性単量体とが接触したとしても、常温で充分な保存安定性を確保することができるので、必ずしも重合開始剤(c)を組成物(II)に配合することを必要とするものではなく、他の組成物に配合してもよい。ただし、重合開始剤(c)が過酸化物系重合開始剤(c3)である場合には、組成物(I)に過酸化物系重合開始剤(c3)を配合しても、使用前に重合反応が進行することがあるので、過酸化物系重合開始剤(c3)は他の成分と接触しないように包装されることが望ましい。
なお、本発明においては、(c)成分としては(b)以外の重合開始剤を組成物(II)に含有することもできる。
上述のように本発明の組成物(I)は弱酸性乃至アルカリ性の組成物である。また、組成物(II)は、強酸性の組成物である。さらに本発明ではこれらの弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)、強酸性組成物(II)と、必要によりプライマー組成物(III)をそれぞれ独立に包装して歯科用接着材キットとして使用する。なお、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とは、練り合わせて使用するのが一般的であるが、プライマー組成物(III)は、通常は、処理しようとする歯牙の表面に直接供給してプライアー層を形成するのが一般的である。
このような歯科用接着材キットを用いることにより、あるいは反応硬化性接着性組成物(IV)を用いることにより、歯質などに対して非常に優れた接着性が発現する。
さらに、本発明の反応性硬化性接着性組成物あるいは歯科用接着材キットは、予め(A)重合性単量体、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物、(C)ケトン系溶媒および(D)水を含み、実質的にアルコール系溶媒を含有しておらず、かつ65℃で2時間以上の保存安定性を有するセルフエッチングプライマー組成物(V)で処理した後歯牙表面に使用することが好ましい。
ここでセルフエッチングプライマー組成物(V)は、(A)重合性単量体、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物、(C)ケトン系溶媒および(D)水を含み、エタノールのような低級アルコールを実質的に含まない組成物である。
本発明において、予め研削した歯質表面に直接上記のセルフエッチングプライマー組成物(V)を適用した後、本発明の反応硬化性接着性組成物を使用することが好ましい。
ここでセルフエッチングプライマー組成物(V)を構成する成分として使用される使用する(A)重合性単量体としては、たとえばアクリロイル基、メタクリロイル基(以下アクリロイル基とメタクリロイル基との総称として(メタ)アクリロイル基と記載することもある。)スチリル基、ビニル基、アリル基等のラジカル重合可能な不飽和基を有する化合物を挙げることができる。ここで使用する(A)重合性単量体には、1分子中に少なくとも一つの不飽和基を有していればよく、この不飽和基が、1個(単官能単量体)、2個(二官能単量体)および3個(三官能単量体)有する重合性単量体を使用することができる。さらにこれらの重合性単量体は、分子内にカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、水酸基、アミノ基、グリシジル基などの官能基を有していてもよい。
上記(A)重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の脂肪酸エステル;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2または3-プロピル(メタ)アクリレートグリセロールモノ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物等の水酸基含有(メタ)アクリレート;
メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有(メタ)アクリルアミド;
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;
プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート;
上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートのどちらか一方の(メタ)アクリレート基がメチル基あるいはエチル基等で置換されたモノ(メタ)アクリレート;
2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートまたは2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートまたは1,3,5−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートと2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの付加物等のウレタン結合を有する(メタ)アクリレート;
ビスフェノールAにオキシエチレンを付加させた生成物にさらに(メタ)アクリル酸を縮合させた2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン等を挙げることができる。これらの重合性単量体(A)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
また、重合性単量体(A)として使用できる1分子中に少なくとも1個のカルボキシル基を有する成分の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸およびテトラカルボン酸またはこれらの誘導体を挙げることができる。例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、p-ビニル安息香酸、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸(MAC-10)、1,4-ジ(メタ)アクロイルオキシエチルピロメリット酸、6−(メタ)アクロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメリット酸およびその無水物、4-(メタ)アクロイルオキシエチルトリメリット酸およびその無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリット酸およびその無水物、4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシブチル]トリメリット酸およびその無水物、2,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピル(メタ)アクリレート、N,O-ジ(メタ)アクリロイルオキシチロシン、O-(メタ)アクロイルオキシチロシン、N-(メタ)アクロイルオキシチロシン、N-(メタ)アクリロイルオキシフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクロイル-O-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2または3または4-(メタ)アクロイルオキシ安息香酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとピロメリット酸ニ無水物との付加生成物(PMDM)、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと無水マレイン酸または3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ニ無水物(BTDA)または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物との付加反応物、2-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、N-フェニルグリシンまたはN-トリルグリシンとグリシジル(メタ)アクリレートとの付加物、4-[(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸、3または4-[N-メチル-N-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル)アミノ]フタル酸などを挙げることができる。このうち11-メタクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸(MAC-10)、4−メタクロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)等の4-(メタ)アクロイルオキシアルキルトリメリット酸系化合物あるいはその酸無水物、および、N-メタクリロイル-5-アミノサリチル酸(5−MASA)が好ましく用いられる。これらのうちで特に4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸(4−MET)を用いることが好ましく、この4−METを重合性単量体(A)の少なくとも一部として20重量%以下の量で含有させることにより熱安定性が良好な組成物が得られる。これらのカルボキシル基を有する重合性単量体(A)は単独であるいは組み合わせて用いることができる。
1分子中に少なくとも1個のリン酸基を有する重合性単量体(A)の例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシドホスフェート、2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルアシドホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルアシドホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルアシドホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルアシドホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルアシドホスフェート、ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェート、および、ビス[2または3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル]アシドホスフェート等のビス[(メタ)アクリロイルオキシアルキル]アシドホスフェート系化合物;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-p-メトキシフェニルアシドホスフェート等を挙げることができる。
これらの化合物におけるリン酸基は、チオリン酸基に置き換えることができる。このうち2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルアシドホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルアシドホスフェートが好ましく用いられる。これらのリン酸基を有する重合性単量体(A)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
1分子中に少なくとも1個のスルホン酸基を有する重合性単量体(A)の例としては、2-スルホエチル(メタ)アクリレート、2または1-スルホ-1または2-プロピル(メタ)アクリレート、1または3-スルホ-2-ブチル(メタ)アクリレート、3-ブロモ-2-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-1-スルホ-2-プロピル(メタ)アクリレート、1,1-ジメチル-2-スルホエチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
このうち2-メチル-2-(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸が好ましく用いられる。これらのスルホン酸基を有する重合性単量体(A)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
上記の重合性単量体(A)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。重合性単量体(A)を組み合わせて使用する場合、酸性基および/または酸無水物基をを有する重合性単量体を使用することが好ましく、さらにカルボン酸基、リン酸基、およびそれらの酸無水物基よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の基を有する重合性単量体が特に好ましい。
ここで好適に使用されるカルボン酸化合物は、芳香族カルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物、芳香環に隣接するジカルボン酸化合物であり、好適に使用されるリン酸化合物は、アルキルエステル体、特にジアルキルエステル体[R-O-PO(OH)-O-R’(ただしRおよびR’はアルキル基)]である。
本発明では、重合性単量体(A)として、(メタ)アクリル系重合性単量体が特に好ましい。本発明において複数種類の重合性単量体を組み合わせて使用することができるのは勿論である。本発明においては、カルボン酸基および/またはその酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合性単量体とリン酸基および/またはその酸無水物基を有する(メタ)アクリル系重合性単量体を組み合わせて使用することが特に好ましく、さらに4-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸系化合物および/またはその酸無水物と、ビス[(メタ)アクリロイルオキシアルキル]アシドホスフェート化合物との組み合わせが特に好ましく、さらに4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸とビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェートとを組み合わせることにより、熱安定性、歯質浸透性、接着力が特に良好になる。特に前記のようなホスフェート系化合物を用いることにより、未切削の歯質に対しても良好な接着性が発現する。
この場合の4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸とビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]アシドホスフェートとの組み合わせの場合に、重量比率は、通常は10:90〜90:10の範囲内の量、好ましくは20:80〜80:20の範囲内に量、特に好ましくは30:70〜70:30の範囲内の量で使用する。
ここで使用する重合性単量体(A)は、セルフエッチングプライマー組成物(V)100重量%中に、通常は1〜40重量%、好ましくは3〜35重量%、特に好ましくは4〜30重量%の範囲内の量で使用される。上記下限値を下回ると、接着強度が低下することがあり、また上限値を上回ると、安定性が低下することがある。
上記のような重合性単量体(A)とともに、セルフエッチングプライマー組成物(V)を形成する硫黄を含有する還元性無機化合物(B)は、水等の媒体中でラジカル重合性単量体を重合させる際にレドックス重合開始剤として使用される化合物を用いることが好ましく、このような硫黄を含有する還元性無機化合物(B)の例としては、亜硫酸、重亜硫酸、メタ亜硫酸、メタ重亜硫酸、ピロ亜硫酸、チオ硫酸、1亜2チオン酸、1,2チオン酸、次亜硫酸、ヒドロ亜硫酸およびこれらの塩を挙げることができる。本発明では、これらのうちで亜硫酸塩が好ましく、さらに、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムが特に好ましい。これらの還元性無機化合物(B)は、単独であるいは組み合わせて使用することができる、さらに、その特性を損なわない範囲内で、他の還元性無機化合物あるいは還元性有機化合物を併用することも可能である。
このセルフエッチングプライマー組成物(V)100重量%中に、上記の硫黄を含有する還元性無機化合物(B)は、通常は0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜8重量%、特に好ましくは0.5〜5重量%の範囲内の量で使用される。この下限値を下回ると接着性が低下することがあり、上限を上回ると安定性が低下することがある。
上記のような重合性単量体(A)、硫黄を含有する還元性無機化合物(B)とともに、セルフエッチングプライマー組成物(V)を形成する(C)成分は、ケトン系溶媒(C)である。
ここで使用されるケトン系溶媒(C)は、歯科の分野において顕著な有害性を有していないケトン系化合物を使用する。このようなケトン系溶媒(C)の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトンを挙げることができる。特に本発明では、蒸発しやすく、重合性単量体(A)あるいは水(C)との相溶性が良好で、顕著な有害性が認められていないアセトンを使用することが好ましい。このようなケトン系溶媒(C)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
このセルフエッチングプライマー組成物(V)100重量%中に、上記ケトン系溶媒(C)は、通常は5〜50重量%、好ましくは10〜50重量%、特に好ましくは15〜50重量%の範囲内の量で使用する。上記数値の下限値を下回ると得られる組成物が不均一になりやすく、上限値を上回ると溶解性不良になりやすい。
このセルフエッチングプライマー組成物(V)において、上記の成分とともに使用される(D)成分は、水である。ここで使用できる水(D)の例としては、精製水(日本薬局方)、蒸留水、イオン交換水および生理食塩水を挙げることができる。これらのうちでも蒸留水あるいはイオン交換水を用いることが好ましい。
このセルフエッチングプライマー組成物(V)100重量%中に、水(D)は、通常は25〜75重量%、好ましくは25〜70重量%、特に好ましくは30〜70重量%の範囲内の量で含有されている。上記範囲の下限値を下回ると接着性が低下することがあり、上限値を上回ると組成物が不均一になりやすい。
ここで使用されるセルフエッチングプライマー組成物(V)は、実質的にアルコールを含有していない。ここで実質的に含まないとは、積極的にアルコールを添加しないことは勿論、原料成分などとともに組成物に含有されてしまうアルコールも極力排除する意味である。従って、このセルフエッチングプライマー組成物(V)に仮にアルコールが混入された場合であっても、その量は2.5重量%以下、多くの場合2重量%以下、さらに1.5重量%以下ある。これを超える量のアルコールが混入すると、このセルフエッチングプライマー組成物(V)はその機能を失う。特にエタノールは禁忌である。
ここで使用されるセルフエッチングプライマー組成物(V)は、上述のように重合性単量体(A)、硫黄を含有する還元性無機化合物(B)、ケトン系溶媒(C)、水(D)からなり、これらの成分を混合した状態で、65℃の温度に保持したときに通常は2時間以上、好ましくは4時間以上、特に好ましくは8時間以上安定状態を保つことができるとの特性を有する。ここで謂う保存安定性は組成物を65℃に晒された後にこの組成物がゲル化乃至粘稠化などの変異を生じないことを意味する。
具体的には65℃に所定時間晒した組成物を使用する。これとは別に牛歯象牙質を、注水、指圧下で耐水性エメリー紙180番で研削し、平坦な面を形成する。この平坦面を気銃を用いて水分を除去する。研削面に、試験の対象となるセルフエッチングプライマー組成物(V)を塗布して20秒間整地して3秒間乾燥させる。このようにプライマー処理された面に、接着面積を直径4.8mmに規制して、ここにスーパーボンド(登録商標、サンメディカル(株)製)の混和泥を盛り付けてポリアクリル製円柱を5秒間指圧下にて圧着する。その後、1時間経過後37℃の水中に16時間浸漬後、引張り接着試験(クロスヘッドスピード2mm/min)を行い、牛歯象牙質に対して15MP以上の引張り強度に耐えられる強度が発現したものは、65℃において、2時間以上の保存安定性を有していることになる。
このセルフエッチングプライマー組成物(V)は、前述の通り保存安定性を有することにより、室温(例えば、25℃)に置いては、長期間に亘って安定に保持できる。よって、室温下長期保存用のセルフエッチングプライマー組成物(V)を用いることが可能である。
ここで使用するセルフエッチングプライマー組成物(V)は、上記のような成分から形成され、特定の保存安定性を有しているが、このセルフエッチングプライマー組成物(V)に他の成分を配合することもできる。
このセルフエッチングプライマー組成物(V)は、上記の成分のほかに、(E)硫黄を含有する還元性有機化合物成分としてスルフィン酸系化合物を配合することができる。ここで使用することができる(E)硫黄を含有する還元性有機化合物成分としてスルフィン酸系化合物の例としては、ベンゼンスルフィン酸、o−トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタレンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸またはその塩(Li,Na,K,MG,Ca等)を挙げることができる。ここで使用する(E)硫黄を含有する還元性有機化合物成分としては、p-トルエンスルフィン酸あるいはその塩が好ましく、p-トルエンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。セルフエッチングプライマー組成物(V)100重量%に対して、(E)硫黄を含有する還元性有機化合物成分は、通常は0.2〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量部、特に好ましくは1〜5重量%の範囲内にある。
さらに、このセルフエッチングプライマー組成物(V)には、上記成分のほかに、この組成物の特性を損なわない範囲内で、過酸化ベンゾイル(BPO)、ラウリルパーオキサイド、クメンパーオキサイドおよびt-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物または過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、塩素酸カリウムおよび過リン酸等の無機過過酸化物;N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N−フェニルグリシン等の脂肪族類の第2級あるいは第3級アミン等のなどの還元性有機化合物;
ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド類のようなタンパク質架橋剤:
ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキシメトキシベンゾキノンまたはブチル化ヒドロキシトルエンなどの貯蔵安定剤、重合体による増粘剤、及び無機および有機の充填材などを含有させることができる。さらに還元性有機化合物を配合することも可能である。
本発明では、上記のような成分からなるセルフエッチングプライマー組成物(V)を用いて、例えば、新鮮な歯質を研磨装置を用いて注水、指圧下で耐水エメリー紙180番まで検索して、エナメル質および象牙質の平坦な面を得た後、気銃にて水分を除去する。そしてこの研削面にセルフエッチングプライマー組成物を塗布して20秒程度整地して3秒程度乾燥して歯質面にセルフエッチングプライマー組成物(V)からなるプライマー層を形成する。
このようにセルフエッチングプライマー組成物(V)からなるプライマー層の表面に本発明の反応性硬化性接着性組成物を適用することにより、上述のセルフエッチングプライマー組成物(V)から形成された層が、歯質に対してはアンカー効果を奏し、またセルフエッチングプライマー組成物(V)からなるプライマー層は、反応性硬化性接着性組成物に対してたいへん優れた相溶性を有していることから、歯質と反応性硬化性接着性組成物の硬化体とが非常に強固に接着する。
本発明の歯科用キットには、上記詳述したセルフエッチングプライマー組成物(V)を加えてもよい。
本発明において、これらの接着性能の評価は、特に限定しないかぎり次のようにして行ったものである。
接着試験方法の一例として牛歯象牙質を、注水、指圧下で耐水エメリー紙180番まで研削し、平滑な面を得た後、気銃にて水分を除去する。こうして形成した研削面に、重合性単量体(a)、芳香族第三アミン(e)および水溶性媒体(f)からなるプライマー組成物(III)を塗布して20秒静置し気銃にて3秒乾燥する。
このようにしてプライマー組成物(III)によりプライマー処理された面に、接着面積を直径4.8mmとなるように規定して本発明の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)、強酸性組成物(II)の混練物を盛り付けてポリアクリル製円柱(以下、アクリル棒又はアクリルと略記する)を5秒間指圧下にて圧着する。
その1時間後に37℃水中に16時間浸漬後、引っ張り接着試験(クロスヘッドスピード2mm/秒)を行う。
封鎖試験方法の一例として、牛歯をエナメル質および象牙質が露出するように注水、指圧下で耐水エメリー紙#600まで研削し平滑な面を得た。φ3×3mmの窩洞を注水下でダイヤモンドポイントを用いて形成した。
本発明の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とからなる反応硬化性接着性組成物(IV)をスポンジを用いて窩洞内の表面に塗布して軽くエアブローした。
その後必要に応じて窩洞上部から可視光照射器(キャンデラックス, (株)モリタ製)にて光照射した。引き続いて、デュアル重合型のコンポジットレジンAbsolute DENTIN(パーケル社製)を充填して室温で30分間静置して硬化させた。
表面を#600まで注水下で研磨して平滑にした後、塩基性フクシン水溶液中に1分間浸漬して水洗した。気銃にて乾燥した状態での隙間(ギャップ)を光学顕微鏡にて観測し、さらにギャップの生じた部分に認められる着色を目視にて確認し、隙間の有無を判定した。
なお、前記各pH値は、各組成物について、直接測定した値を用いれば良い。あるいは、それが困難な場合には、水や必要によりアルコールやアセトンなどの親水性溶媒を加えた水性溶媒にて当該組成物を希釈してから、pH値を実測し、その実測値から前記希釈によるpH値変化を割り引いて推算した推算値を当該pH値として用いても良い。なお、フィラーは非溶解系なので、その重量値は除外して計算する。pH測定用具としては、pH計を用いることが厳密で好ましい、簡便には、リトマス試験紙等のpH試験紙を利用することが挙げられる。更に簡便には、pH試験紙を水にて湿らせた(前記水による希釈効果は無視する)上で測定すべき組成物と接触させて、変化した試験紙の色調を比色表と対比して肉眼にて判断する方法が挙げられる。
以下に実施例を記載するが、本発明の範囲がこれによって限定されると解釈されるべきではない。以下に記載する実施例で使用する化合物の略称は次の通りである。
MMA:メチルメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
4−META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
4−MET・Ca:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸のカルシウム塩
2.6E:2,2-ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
VR90:リポキシ90、昭和高分子(株)製
Bis-GMA:1モルのビスフェノールAと2モルのグリシジルメタクリレートとの付加物
p-TSNa:p−トルエンスルフィン酸ナトリウム
DMTPO:ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキシド
UDMA:1,6-ビス(メタクリロキシエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン
RDMA:1,3−ジメタクリロキシエトキシベンゼン
NPG・Na:N-フェニルグリシンのナトリウム塩
DMPT:N,N-ジメチル-p-トルイジン
1μmBa-SiO2:SHOTT(株)製、商品名:SHOTTバリウムガラス8235
7nmSiO2:日本アエロジル(株)製、商品名:R812
BPO:過酸化ベンゾイル
CQ:カファーキノン
<物性値の測定方法>
(組成物のpH測定法)
少量の組成物を蒸留水で湿らせたpH試験紙に接触させ、変化した色を比色法にて肉眼で確認する。
(組成物の保管促進試験)
組成物を遮光したガラス容器または樹脂製注射器(テルモ(株)製)に入れ、76℃の恒温室で保管した。定期的に肉眼で外観を確認し、探針による接触検査ないしは注射器からの押し出し性から組成物の硬化状態を確認する。
(組成物の室温保管試験)
組成物を遮光したガラス容器または樹脂製注射器(テルモ(株)製)に入れ、23℃の恒温室で保管した。定期的に肉眼で外観を確認し、探針による接触検査ないしは注射器からの押し出し性から組成物の硬化状態を確認する。
(硬化時間測定試験)
硬化時間の評価は、2種の方法で行った。
<第1の方法>
モールド内に充填した本発明の組成物を硬化させながら、定期的に探針の先端で突き刺して硬さの程度から判定する突き刺し法。
<第2の方法>
モールド内に充填した本発明の組成物を硬化させながら、ラジカル重合により生じる重合熱を示差熱分析法によって測定するDSC法によって評価した。
(組成物の調製)
表に記載した実施例の組成物は、予め各成分を乳鉢にて充分に練和して均一の溶液ないしはペースト状にした後、容量10ml以下の注射器中に充填して冷蔵庫中に保存した。実施に当たっては、注射器を室温中(約23℃)に15分以上静置することによって溶液ないしはペーストの温度を室温に戻した後に使用した。
(硬化時間)
硬化時間は突き刺し法とDSC法により測定した。
突き刺し法は、練和開始から組成物が硬化して探針が刺さらなくなるまでの時間を示す。硬化終了は以下のように測定した。すなわち、ガラス板上に固定したφ4.9×1mmの穴の開いたテフロン(登録商標)製モールド内に混合ないしは練和した硬化性組成物を充填して厚さ20μmのポリエステルフィルムを介して軽く圧接した。練和開始から、探針の先端でポリエステルフィルム上から突き刺して刺さらなくなるまでの時間を測定し、硬化時間とした。
DSC法は、混合開始から生じるラジカル重合より生じる発熱ピークを計測し、10mgの試料から最大ピーク到達時間を測定した。ここでピーク到達時間が短くピーク強度の大きいものが、硬化性能が高い。測定装置は示差走査熱量計((株)島津製作所製;DSC−60)を用いた。
(歯質への接着強さ)
新鮮なウシ下顎前歯を抜去し、水中で凍結し保存したものを歯質サンプルとして使用した。解凍した牛歯を象牙質が露出するように回転式研磨機ECOMET-III(BUEHLER社製)で注水、指圧下で耐水エメリー紙#180番まで研削し、平滑な面を得た。この表面を充分に水洗して一度気銃にて水分を除去して、直ちに接着面積を規定するための直径4.9mmの円孔のあいたセロハンテープを張り付けた。面積規定した研削面に、必要に応じて重合性単量体(a)、芳香族第三アミン(e)および水性媒体(f)からなるプライマー組成物(III)を塗布して20秒静置し気銃にて3秒乾燥した。
本発明の硬化性組成物を適用するためのφ4.9mmの穴の開いたテフロン(登録商標)製モールドを固定して硬化性組成物を塗布する。引き続き、直ちにデュアル重合型のコンポジットレジンAbsolute DENTIN(パーケル社製)を充填してポリエステルフィルムを介してガラス板で圧接して室温で約30分間静置し硬化させた。ポリエステルフィルムを除去して硬化面にポリアクリル製円柱(以下、アクリル棒又はアクリルと略記する)をスーパーボンド(サンメディカル(株)製)で固定した。その1時間後に37℃水中に16時間浸漬後、引っ張り接着試験(クロスヘッドスピード2mm/秒)を行った。
(封鎖性試験)
新鮮なウシ下顎前歯を抜去し、水中で凍結し保存したものを歯質サンプルとして使用した。解凍した牛歯の歯冠部を回転式ダイヤモンドカッターISOMET(BUEHLER社製)にて注水下で切断し、歯髄を除去した歯根を使用した。歯根の歯髄孔を歯冠部側から注水下にてドリルを用いて直径4mm深さ約20mmに形成した。必要に応じて本発明の組成物(III)を注射針のついた注射器にて満たし、マイクロブラシで根管壁に充分に接触させ約30秒後に組成物を吸引除去した。本発明の反応硬化性接着性組成物(III)(弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)との混合物)を前述のように注射針のついた注射器にて満たし、ペーパーポイントにて根管内部の硬化性組成物を除去した。このとき、根管内部の象牙質表面には光沢が残る程度の硬化性組成物が存在していることを確認した。その後必要に応じて歯冠部側から可視光照射器(キャンデラックス,(株)モリタ社製)にて光照射した。引き続いて、予め硬化させたφ3mm高さ20mmサイズのコンポジットレジン(商品名:メタフィルC、サンメディカル(株)製)とデュアル重合型のコンポジットレジンAbsolute DENTIN(パーケル社製)を隙間なく充填して室温で30分間静置して硬化させた。歯根を歯冠部側から5mm下で輪切りにして切断表面を#600まで注水下で研磨して平滑にした後、塩基性フクシン水溶液中に24時間浸漬して水洗した。
気銃にて乾燥した状態で、歯根部と硬化性組成物の間に生じた隙間(ギャップ)を光学顕微鏡にて観測した。
ギャップの生じた部分は着色されて観測されるので、着色していない(封鎖されている)部分の割合を接着部分の円周の長さに対して計測し、封鎖率(%)を算出した値が100%であることが望ましく、50%を下回るものは好ましくない。
〔実施例1〕
表1に示すpH値1.5の強酸性組成物(I)とpH値6.55の弱酸性乃至アルカリ性組成物(II)を調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlにそれぞれ入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。その結果、保管促進試験では1週間経過後も著しい変色は認められず、押し出し性は良好であり、ゲル化や硬化は認められなかった。遮光した状態での室温保管試験では、3ヶ月保管後もゲル化や硬化は認められなかった。
表1に示すpH値1.5の強酸性組成物(I)0.15重量部に対して、pH値6.5の弱酸性乃至アルカリ性組成物(II)0.15重量部をダッペンディッシュに取り出し混合した。スパチュラにて両者を攪拌したところ、必要練和時間が約10秒と簡単に混合でき、得られた混合物のpH値は3を示した。硬化時間は突き刺し法で約30分であり、接着強さが4.5MPa、封鎖率は65%であった。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
実施例1の方法において、硬化性組成物を使用しないで、直接、デュアル重合型のコンポジットレジンAbsolute DENTIN(パーケル社製)を充填して接着強さを測定したところ、水中浸漬中に剥離していたので、0(ゼロ)とした。封鎖率は約20%であった。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
実施例1の方法において、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)のpHを塩酸で4にした他はすべて同様の試験を実施した。突き刺し法による硬化時間は約20分で、接着強さは6MPa、封鎖率は70%であったが、保管促進試験では約30分でゲル化し、室温温保管試験では、約24時間でゲル化を生じて、押し出しができなかった。
〔実施例2〜5〕
表1に示すpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)を調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlにそれぞれ入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。
その結果、保管促進試験では1週間経過後も著しい変色は認められず、押し出し性は良好であり、ゲル化や硬化は認められなかった。遮光した状態での室温保管試験では、3ヶ月保管後もゲル化や硬化は認められなかった。
表1に示す弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)0.15重量部と強酸性組成物(II)0.15重量部をダッペンディッシュに取り出し、スパチュラにて両者を攪拌したところ、必要練和時間が約10秒と簡単に混合できた。得られた混合物のpH値、突き刺し法による硬化時間および接着強さと封鎖率はそれぞれ表1に示した通りであった。
Figure 0005191486
註)比較例2では、有機酸の塩5重量部に、さらに6NのHClを加えて組成物(I)のpH値を4にした。
〔実施例6および7〕
表2に示すpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と組成物(II)とを調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlにそれぞれ入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。その結果、保管促進試験では1週間経過後も著しい変色は認められず、押し出し性は良好であり、ゲル化や硬化は認められなかった。遮光した状態での室温保管試験では、3ヶ月保管後もゲル化や硬化は認められなかった。
表2に示す弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)0.8重量部と強酸性組成物(II)0.2重量部とを練和紙上に取り出し、スパチュラにて両者を練和したところ、必要練和時間が約30と簡単に混合できた。得られた混合物のpH値、DSC法による硬化時間および接着強さと封鎖率はそれぞれ表2に示した通りであった。
Figure 0005191486
〔実施例8〜12〕
表3に示すpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とを調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlにそれぞれ入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。その結果、保管促進試験では1週間経過後も著しい変色は認められず、押し出し性は良好であり、ゲル化や硬化は認められなかった。遮光した状態での室温保管試験では、3ヶ月保管後もゲル化や硬化は認められなかった。
また、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)を歯質に適用する前に、表3に示す通りプライマー組成物(III)を予め資質表面に適用した。その結果、接着強さと封鎖率の向上が認められた。結果は表3の通りである。
Figure 0005191486
〔実施例13および14〕
表4に示すpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)を調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlにそれぞれ入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。その結果、保管促進試験では1週間経過後も著しい変色は認められず、押し出し性は良好であり、ゲル化や硬化は認められなかった。遮光した状態での室温保管試験では、3ヶ月保管後もゲル化や硬化は認められなかった。
これらの実施例では、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)にはカルシウム塩として中性化した成分(a2)を含有することから理解できるように、分子内に酸性基を有する重合性単量体(a1)でもpH値の調製で保管が可能となった。
また、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)の混合物を歯質に適用する前に、表1に示すとおりのプライマー組成物(III)で歯質表面を予め処理した。その結果、接着強さと封鎖率の向上が認められた。結果は表4の通りである。
Figure 0005191486
〔実施例15〕
表5に示すpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)を調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlに入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。その結果、保管促進試験では1週間経過後も著しい変色は認められず、押し出し性は良好であり、ゲル化や硬化は認められなかった。遮光した状態での室温保管試験では、3ヶ月保管後もゲル化や硬化は認められなかった。
この実施例では、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)にはpH調子剤として水酸化ナトリウムを用いることによってもpH値の調製で保管が可能となった。
また、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)の混合物を歯質に適用する前に、表1に示すとおりのプライマー組成物(III)で歯質表面を予め処理した。その結果、接着強さと封鎖率の向上が認められた。結果は表5の通りである。
〔比較例3〕
実施例15において、表5に示すpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)を調製し、樹脂製注射器(テルモ(株)製)10mlに入れ、保管促進試験および室温保管試験を行った。この弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)のpH値は4であり、上記比較例15のようにpH調整は行っていない。
その結果、保管促進試験ではこの弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)は、調製後30分でゲル化が始まり、1日後には硬化していた。硬化時間、接着強さ、封鎖率を表5に示す。
Figure 0005191486
〔実施例16〕
実施例15に示したpH値の弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)を調製した。
この弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)の混合物を歯質に適用する前に、10重量部の4−MET、10重量部のビス(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、2.5重量部の亜硫酸ナトリウム、47.5重量部の精製水および30重量部のアセトンからなる溶液のセルフエッチングプライマー組成物(V)で歯質表面を予め処理した。その結果、接着強さは8MPaであり、封鎖率が95%であり、いずれの性能も向上した。
本発明の組成物は、歯科用のボンディング材、コーティング材、オペーク材、フィッシャーシーラント、セメント、裏層材、填塞用としてのコンポジットレジン、根管充填(填塞)材、根管充填用シーラー、知覚過敏抑制材、矯正用接着材、支台築造用レジン、義歯床用レジン、義歯床用レジン用補修材、仮着材、仮封材などとの歯科の分野においてきわめて有用性が高い。

Claims (25)

  1. (a)重合性単量体、および、(b)下記式(1)で表わされる化合物;
    Figure 0005191486
    [上記式(1)において、R1およびR2は、互いに独立に、水素原子または官能基を有していてもよいアルキル基であり、R3は水素原子または金属原子である。]からなる弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、
    (a)重合性単量体からなる強酸性組成物(II)とからなる酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  2. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)の23℃におけるpH値が4.5〜14の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  3. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に上記式(1)で表わされる化合物を共存させて、該組成物(I)の23℃におけるpH値を4.5〜14の範囲内に維持することを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  4. 上記強酸性組成物(II)の23℃におけるpH値が、0.1以上4.5未満の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  5. 上記重合性単量体(a)が、(a1)分子内に酸性基を有する重合性単量体を含有することを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  6. 上記重合性単量体(a)が、(a2)分子内の酸性基がカルシウム塩を形成している重合性単量体を含有することを特徴とする酸性を呈する請求項第1項記載の反応硬化性接着性組成物。
  7. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と強酸性組成物(II)とからなる酸性を呈する反応硬化性接着性組成物の23℃におけるpH値が0.5〜6の範囲内にあることを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  8. 式(1)で表わされる化合物(b)がN-フェニルグリシンの塩(b1)であることを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  9. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)および/または強酸性組成物(II)が、(c)重合開始剤を含有することを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  10. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に含有される(c)重合開始剤が、式(1)で表わされる化合物(b)以外の還元性化合物(c1)を含有することを特徴とする請求項第9項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  11. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に含有される還元性化合物(c1)が、
    (c11)有機スルフィン酸系化合物および/または
    (c12)バルビツール酸系化合物
    を含有することを特徴とする請求項第9項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  12. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に含有される還元性化合物(c1)が有機スルフィン酸系化合物(c11)を含み、該弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に含有される式(1)で表わされる化合物(b)と有機スルホン酸系化合物との配合重量比〔(b)/(c11)〕が0.05〜20の範囲であることを特徴とする請求項第11項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  13. 強酸性組成物(II)に含有される重合開始剤(c)が、(c2)光重合開始剤および/または(c3)過酸化物系重合開始剤であることを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  14. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)および/または強酸性組成物(II)が、(d)フィラーを含有することを特徴とする請求項第1項記載の酸性を呈する反応硬化性接着性組成物。
  15. 上記反応硬化性接着性組成物が、予め該反応硬化性接着性組成物の適用面を、(A)重合性単量体、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物、(C)ケトン系溶媒および(D)水を含み、実質的にアルコール系溶媒を含有しておらず、かつ65℃で2時間以上の保存安定性を有するセルフエッチングプライマー組成物(V)で処理した歯牙表面に使用するものであることを特徴とする請求項第1項記載の反応硬化性接着性組成物。
  16. 上記セルフエッチングプライマー組成物(V)を構成する(A)重合性単量体が、4-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸、ビス{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}アシッドホスフェートおよびこれらの酸無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合性単量体であり、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物が、亜硫酸および/またはその塩であり、かつ
    (A)重合性単量体を1〜40重量%、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物を0.1〜10重量%、(C)ケトン系溶媒を5〜50重量%および(D)水を25〜75重量%の範囲内の量で含有することを特徴とする請求項第15項記載の反応硬化性接着性組成物。
  17. 上記セルフエッチングプライマー組成物(V)が、さらに(E)硫黄を含有する還元性有機化合物成分としてスルフィン酸系化合物を含有することを特徴とする請求項第16項記載の反応硬化性接着性組成物。
  18. (a)重合性単量体、および、(b)下記式(1)で表わされる化合物;
    Figure 0005191486
    [上記式(1)において、R1およびR2は、互いに独立に、水素原子または官能基を有していてもよいアルキル基であり、R3は水素原子または金属原子である。]からなる弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)と、
    (a)重合性単量体からなる強酸性組成物(II)と、
    プライマー組成物(III)とからなり、該プライマー組成物(III)が、
    (a)重合性単量体、
    (e)芳香族第三アミン、および、
    (f)水溶性溶媒
    からなり、かつ上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)、強酸性組成物(II)、プライマー組成物(III)が別々に包装されてなることを特徴とする歯科用接着材キット。
  19. 上記(a2)分子内の酸性基がカルシウム塩を形成している重合性単量体が、弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)、強酸性組成物(II)またはプライマー組成物(III)のいずれかに含有されていることを特徴とする請求項第18項記載の歯科用接着材キット。
  20. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に含有される式(1)で表わされる化合物(b)がN-フェニルグリシンの塩(b1)である請求項第18項記載の歯科用接着材キット。
  21. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)中に還元性化合物(c1)が含有されており、該還元性化合物(c1)が、
    (c11)有機スルフィン酸系化合物および/または
    (c12)バルビツール酸系化合物
    を含有することを特徴とする請求項第18項記載の歯科用接着材キット。
  22. 上記弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に含有される還元性化合物(c1)が有機スルフィン酸系化合物(c11)を含み、該弱酸性乃至アルカリ性組成物(I)に含有される式(1)で表わされる化合物(b)と有機スルホン酸系化合物との配合重量比〔(b)/(c11)〕が0.05〜20の範囲であることを特徴とする請求項第18項記載の歯科用接着材キット。
  23. 上記歯科用接着材キットが、予め反応硬化性接着性組成物の適用面を、(A)重合性単量体、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物、(C)ケトン系溶媒および(D)水を含み、実質的にアルコール系溶媒を含有しておらず、かつ65℃で2時間以上の保存安定性を有するセルフエッチングプライマー組成物(V)を含むことを特徴する請求項第18項記載の歯科用キット。
  24. 上記セルフエッチングプライマー組成物(V)を構成する(A)重合性単量体が、4-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメリット酸、ビス{(メタ)アクリロイルオキシアルキル}アシッドホスフェートおよびこれらの酸無水物よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の重合性単量体であり、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物が、亜硫酸および/またはその塩であり、かつ
    (A)重合性単量体を1〜40重量%、(B)硫黄を含有する還元性無機化合物を0.1〜10重量%、(C)ケトン系溶媒を5〜50重量%および(D)水を25〜75重量%の範囲内の量で含有することを特徴とする請求項第23項記載の歯科用接着材キット。
  25. 上記セルフエッチングプライマー組成物(V)が、さらに(E)硫黄を含有する還元性有機化合物成分としてスルフィン酸系化合物を含有することを特徴とする請求項第24項記載の歯科用接着材キット。
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