JP4688399B2 - 鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鉄塩酸処理廃液から高濃度の塩酸を回収する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄鋼業や亜鉛メッキ工業等においては、製品または加工品の表面に付着しているスケールや付着物を取り除くために、塩酸による洗浄処理が広く行われている。また、半導体リードフレームもしばしば塩酸でエッチング処理される。これらの処理装置の塩酸濃度は一般に5〜15質量%に管理される。このための塩酸はこれよりも濃度の高い20質量%以上のものを用いているが、一定量以上を処理すると、この塩酸はその機能が低下するために多量の廃塩酸を発生する。
【0003】
この廃塩酸中には、遊離塩酸のほかに処理する金属と塩酸との反応生成物である塩化第一鉄や亜鉛、ニッケル、銅などの塩化物が含まれているために、これまでは産業廃棄物として廃棄されている。近年はこの産業廃棄物の処理費用が高騰する一方、塩酸が処理液として比較的高価であるために、この廃塩酸をそのまま廃棄することは不経済であり、さらに環境問題や公害の面からも大きな問題があることから、廃塩酸から塩酸、酸化鉄あるいは塩化第二鉄として回収する方法が提案されている。
【0004】
この回収方法の一つは焙焼法で、この方法は塩化第一鉄を含む廃塩酸を焙焼炉の中で焙焼酸化して酸化鉄とガス体に分離し、このガス体から塩酸を吸収装置で吸収して約18質量%の比較的低濃度の塩酸として回収するものである。また、他の方法は液相塩素酸化法で、塩化第一鉄を含む廃塩酸に塩素を反応させて塩化第一鉄を塩化第二鉄に変えて水処理用の塩化第二鉄として回収するものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の焙焼法は焙焼炉に広面積が必要であるとともに酸化鉄の粉塵対策が必要であり、大多量処理用であるために設備費が非常に高くなる。そのうえ、非常に多量の焙焼用燃料を使用するために、回収される塩酸のコストの高騰化が避けられない。さらに、濃縮しない廃塩酸を焙焼するため、回収される塩酸は18質量%程度の比較的希薄なものしか得られないために、そのままでは洗浄用やエッチング用としてリサイクル使用するのには適さない。
【0006】
一方、液相塩素酸化法は、反応器で塩化第一鉄から塩化第二鉄への変換をできるので、低い経費で設備を作ることができ小容量用として適しているが、危険な高圧の塩素ガスを使用するために、高圧ガス対策や塩素ガス除去設備が必要になるばかりでなく、回収される製品が塩化第二鉄に限定され、塩酸として回収できないという大きな問題がある。
本発明は、このような廃塩酸から洗浄用やエッチング用として使用できる高濃度の塩酸を低コストで回収するのに適する方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、前記目的を達成するために、廃塩酸から高濃度の塩酸を低コストで安定的に回収できる方法について鋭意検討した結果、濃縮した廃塩酸から得られる鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄と水分の各濃度を所定の範囲に保持することにより、前記鉄塩酸処理廃液から高濃度の塩酸と酸化鉄が回収できることを見出したもので、以下の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法を提供する。
1.塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を減圧下で125〜150℃に加熱することにより、塩化第二鉄を加水分解して塩酸を回収する方法であって、前記鉄塩酸処理廃液における塩化第二鉄の濃度を65質量%以上、水分濃度を15〜28質量%の範囲に保持することによって、20質量%以上の高濃度の塩酸を回収することを特徴する鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
2.塩化第二鉄の濃度を65質量%以上、水分濃度を15〜28質量%に保持し、減圧下で125〜150℃に加熱した、塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液中に、塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を連続的または断続的に注入し、注入後における鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄および水分の各濃度並びに温度を前記条件に保持することにより、塩酸を連続的に回収する上記1に記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
3.採取する塩酸の濃度が20〜35質量%である上記1または2の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
4.塩化第二鉄を分解処理中の鉄塩酸処理廃液における酸化鉄の濃度を20質量%以下に保持する上記1、2または3の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
5.前記鉄塩酸処理廃液が、鉄鋼のピックリング、亜鉛メッキの前処理または半導体リードフレームのエッチング処理により生じる廃塩酸を濃縮して生成される上記1〜4のいずれか一つの鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
6.前記鉄塩酸処理廃液が、塩化第一鉄を含有する廃塩酸の水分を蒸発して濃縮し、または濃縮後に更に廃塩酸中の塩化第一鉄を酸化してなる上記1〜5のいずれか一つの鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
7.前記鉄塩酸処理廃液が、塩化鉄のほか亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウムおよびマグネシウムの一種以上の塩化物を含有している上記1〜6のいずれか一つの鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
8.鉄塩酸処理廃液中における亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウムおよびマグネシウム等の塩化物の総含有量が50質量%以下である上記7の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明における鉄塩酸処理廃液は、例えば5〜20質量%の濃度の塩酸を用いて鉄鋼のピックリング、亜鉛メッキの前処理または半導体リードフレームのエッチング処理などを行う際に生じる廃塩酸から得ることができる。この廃塩酸には洗浄過程における塩酸と鉄の反応によって生成する塩化第一鉄(FeCl2)と遊離塩酸が含有されている。さらに洗浄やエッチングの過程において鉄以外の例えば亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウムおよびマグネシウムなどの金属と反応して、これらの金属塩化物が夾雑物としてしばしば単独または複数で含まれている。
【0009】
この廃塩酸から好ましい鉄塩酸処理廃液を得るために、廃塩酸に例えば熱風を吹き込んで濃縮する。熱風との熱交換により、遊離塩酸の約半分は塩化第一鉄の一部と反応して塩化第二鉄(FeCl3)となり、同時に水分が蒸発して塩化鉄濃度が約36%になるまで濃縮される。この濃縮された廃塩酸は更に必要に応じ空気酸化するのが好ましい。この空気酸化で廃塩酸中の塩化第一鉄は、空気中の酸素と反応して塩化第二鉄に変わり、同時にこの酸化工程で全鉄イオンの約33%に相当する酸化鉄が生成される。
【0010】
したがって、廃塩酸をこのように濃縮または濃縮酸化して得られる鉄塩酸処理廃液には少なくとも塩化第二鉄が含有されている。通常はこのほかに酸化鉄、遊離塩酸、酸化されない塩化第一鉄および水分などが含有されており、さらに亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウムおよびマグネシウムなどの金属の一種以上の塩化物(以下、非鉄塩化物という)が夾雑物として含有されていることが多い。この他に例えばアンモニウムの陽イオン塩化物を含有することもある。本発明において塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液とは、不可欠成分として塩化第二鉄を含有していることを意味するものであって、鉄塩酸処理廃液は前記したような塩化第二鉄以外のものを含有していてもよい。
【0011】
本発明は、塩化第二鉄を加水分解して塩酸を回収する鉄塩酸処理廃液における塩化第二鉄の濃度(含有量)を65質量%以上、水分濃度を15〜28質量%の範囲に保持する。この塩化第二鉄および水分の各濃度は、鉄塩酸処理廃液から高い濃度の塩酸を例えば75%以上の高回収率で安定して回収するうえで重要である。特に、水分濃度は重要である。前記塩化第二鉄の濃度としては、65質量%以上であれば目的は達成できるが、70質量%以上であればより好ましい。塩化第二鉄の濃度が65質量%より低いと、塩化第一鉄や水分等の含有量が増加するために、高濃度の塩酸を安定して連続的に採取できなくなる恐れが生じる。なお、塩化第二鉄の濃度の上限は特定しないが、塩化第二鉄の濃度を上げるための濃縮や塩化第一鉄の酸化を強化しなければならないため、コスト上昇の要因を招くばかりでなく、例えば80質量%以上になると、水分濃度の調整が困難になる。
【0012】
また、水分濃度は15〜28質量%の範囲に特定されるが、特に好ましい範囲は15〜25質量%である。この水分濃度は、含有される塩によって影響を受けることがある。一般に鉄塩酸処理廃液中に塩化鉄と非鉄塩化物が共存している場合には、低い水分濃度域であっても塩酸の回収作業への影響度が少ないので、水分濃度は15〜28質量%の範囲で十分である。鉄塩酸処理廃液に含有される塩が塩化鉄のみまたは実質的に塩化鉄のみの場合のような塩化鉄主体の場合には、水分濃度が低くなると塩酸の回収作業への影響度が比較的大きいので、水分濃度としては20〜23質量%の範囲が好ましい。水分濃度が15質量%より小さいと、採取される塩酸の濃度が高くなり過ぎたり、加水分解反応器内の粘度が上昇すると共に温度が上昇する等の理由で好ましくない。一方、水分濃度が28質量%を超えると、低濃度の塩酸しか採取されなくなるので、リサイクル使用が可能な高濃度の塩酸を得ることが難しくなる。
【0013】
本発明において塩酸回収時の鉄塩酸処理廃液は、減圧下において125〜150℃に加熱される。この加熱によって鉄塩酸処理廃液中の塩化第二鉄は塩化水素と酸化鉄に加水分解される。常圧(大気圧)で加熱すると、塩化第二鉄の分解処理温度が約180℃に上昇するために、高温の塩化水素に耐えられるような反応器の材質が制約を受けるので好ましくない。そのため、鉄塩酸処理廃液が入っている反応器内を減圧下におくことにより、塩化第二鉄の前記分解処理温度を125〜150℃の範囲に調整する。この調整に必要な圧力は、絶対圧力で通常0.01〜0.02MPa程度である。前記の温度範囲であれば、反応器の材質が実質的に制約されないとともに、分解処理温度が下がるので、塩化水素蒸気の凝縮も容易となる。また、この程度の減圧度であれば、通常の真空ポンプで容易に得られる。
【0014】
鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄および水分の各濃度を前記範囲にすることにより、20質量%以上の高濃度の塩酸を回収でき、特に好ましい塩酸の濃度は20〜35質量%である。回収される塩酸の濃度が20質量%より低いと、再使用に先駆けて濃縮しなければならないため、設備や労力の面でコストが高くなる。一方、35質量%を超えるような高濃度の場合には、高濃度化するために経費が嵩むばかりでなく、鉄鋼のピックリングや亜鉛メッキの前処理等の用途には、不必要な濃度であり好ましくない。その点、20〜35質量%であれば、回収した塩酸を更に濃縮や希薄せずに洗浄やエッチング等にリサイクル使用できる。
【0015】
本発明は、鉄塩酸処理廃液から塩酸を連続運転またはバッチ運転のいずれの方法でも回収できる。前者の連続運転は、反応器内で塩化第二鉄を加水分解している鉄塩酸処理廃液に、塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を逐次補充して、塩酸を連続的に回収する方法で、安定した運転と作業の効率性の点で好ましい。前記の塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液の補充は、反応器内の塩化第二鉄と水分の各濃度を前記範囲に保持するように連続あるいは断続して注入することによって可能である。注入した鉄塩酸処理廃液は、反応器内の液と混合される。
【0016】
混合された鉄塩酸処理廃液のこのような塩化第二鉄と水分の濃度管理は、混合液の減圧度と加熱温度、および塩化第二鉄の分解速度などに基づいて注入する鉄塩酸処理廃液の水分濃度を調整することによって達成することができる。したがって、連続運転の場合、注入する鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄の濃度は必ずしも65質量%以上である必要はなく、同様に水分濃度も15〜28質量%の範囲でなくてもよい。また、注入する鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄および水分の各濃度は、多少ばらついていても実質的に支障ない。
【0017】
塩化第二鉄を加水分解して塩酸を採取すると、鉄塩酸処理廃液中の酸化鉄の含有量(濃度)が増加する。この酸化鉄の大半は塩化第二鉄の加水分解によって生成されたものであるが、鉄塩酸処理廃液を事前に空気酸化している場合には、その酸化工程で生成される酸化鉄も一緒に存在する。このうち塩化第二鉄の加水分解により生じる酸化鉄量は、塩化第二鉄の分解量に比例するために、塩化第二鉄の分解量が多くなるほど、また分解処理時間が長くなるほど増加する。これらの酸化鉄は平均粒径が20〜30μm程度の粒状をしており、比重は約3.5で通常は鉄塩酸処理廃液中に浮遊しているが、濃度が高くなるとスラリー状になる。そして、比重差により、特に攪拌等をしなければ反応器の底部に沈降する傾向を有している。
【0018】
本発明において、処理中の鉄塩酸処理廃液に蓄積する該酸化鉄の濃度は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下であればより好ましい。酸化鉄の濃度が20質量%を超えると、反応器内にスラリー状の酸化鉄が蓄積したり、塩化第二鉄の分解効率が悪くなるからである。すなわち、バッチ運転で塩酸を採取する場合、酸化鉄は時間の経過と共に増量しスラリー状態になって反応器内に蓄積し、これの除去に多大の労力が必要となる。このような問題を避けるために、バッチ運転では酸化鉄濃度が10質量%になった時点で運転を停止して酸化鉄を排出するのが好ましい。また、連続運転の場合には、酸化鉄のスラリーが反応器内に蓄積すると連続運転が困難になるとともに、塩化第二鉄を効率よく連続して分解処理できなくなる恐れがある。そのため、酸化鉄の濃度が10質量%以下になるように酸化鉄を処理中の鉄塩酸処理廃液から連続的または一定時間毎に濾過等により除去する。
【0019】
また上記したように鉄塩酸処理廃液には、塩化鉄のほかに一種以上の非鉄塩化物が夾雑物として含有されることがある。これらの非鉄塩化物は前記の酸化鉄と異なり鉄塩酸処理廃液に溶解しているために、酸化鉄の濾過液にそのまま残存し濾過されない。本発明の好ましい実施態様では、前記濾過液を鉄塩酸処理廃液の供給系に還元するために、非鉄塩化物の濃度は還元を繰り返すごとに高くなる。
【0020】
反応器内において非鉄塩化物の濃度が高くなると、塩化第二鉄の加水分解効率が低下するとともに、鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄や水分の濃度管理がしにくくなるため、非鉄塩化物の濃度を一定値以下にするのが好ましい。この濃度としては、非鉄塩化物が一種以上含有されていても金属の種類に関係なく、総含有量で
50質量%以下にするのが好ましい。そして、かかる濃度管理は、鉄塩酸処理廃液中の非鉄塩化物の濃度を測定して一定値に達した時あるいは一定の時間間隔で、酸化鉄の濾過液から非鉄塩化物を取り除くことによって容易に行うことができる。
【0021】
次に、塩酸で鉄鋼を酸洗したときの廃塩酸(以下、処理液とする)に本発明を応用し、処理液を濃縮して得られる鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する場合について、図1に従って説明する。このプロセスは、主に(1)蒸発濃縮工程、(2)空気酸化工程、(3)塩化第二鉄分解工程、(4)酸化鉄分離工程、(5)塩化水素吸収工程により構成される。本発明は、このプロセスの塩化第二鉄の加水分解工程に関するもので、その分解条件を主要構成要件にしている。以下各工程について具体的に説明する。
【0022】
(1)蒸発濃縮工程
処理液の濃縮を蒸発濃縮器より行う工程で、本例ではFRP製の蒸発濃縮器に入れた処理液に熱風発生炉からの熱風を直接に吹き込んで、熱風と濃縮液間の熱交換を行う液中燃焼方式を採用している。処理液中の遊離塩酸は、この熱交換時に次式に示すように塩化第一鉄の一部と反応して塩化第二鉄になる。塩酸と反応しない塩化第一鉄は処理液中にそのまま溶解している。
2FeCl2+1/2O2+2HCl=2FeCl3+H2O
【0023】
この反応式の反応率は約50%であるので、遊離塩酸のうちの約半量が塩化第一鉄と反応して塩化第二鉄になり、残りの遊離塩酸は蒸発して塩化水素吸収工程に送られ回収される。この蒸発濃縮工程において、処理液は水分を蒸発させて塩化鉄濃度が約35質量%になるまで濃縮される。この場合の濃度管理は、沸点上昇の原理を用いて温度監視により行うが、蒸発濃縮器内の処理液の密度測定によっても可能である。
【0024】
(2)空気酸化工程
蒸発濃縮工程で塩化鉄濃度が約35%に調整された濃縮液は、次に空気酸化工程に送って残りの塩化第一鉄を塩化第二鉄に酸化する。本例では前記濃縮液を空気酸化器において約150℃まで加熱しつつ、圧縮された乾燥空気を空気酸化器中に吹き込み、次式の反応式により塩化第一鉄を空気中の酸素と反応させて塩化第二鉄と酸化鉄に変える。この反応により、殆どの塩化第一鉄は塩化第二鉄となる。
6FeCl2+1.5O2=4FeCl3+Fe2O3
この酸化工程で全鉄イオンの約33質量%の酸化鉄が生成されるとともに、約36質量%の塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液が得られる。塩化亜鉛等はそのままの状態で鉄塩酸処理廃液中に溶解している。なお、この工程で生成される塩化第二鉄は、下水処理用の塩化第二鉄として使用可能である。
【0025】
(3)加水分解工程
次に、上記鉄塩酸処理廃液を加水分解反応器に送給し塩化第二鉄を加水分解する。この分解処理において鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄の濃度は65質量%以上、水分の濃度は15〜28質量%の範囲に管理する。さらに、この鉄塩酸処理廃液を例えば絶対圧力で0.01〜0.02MPaの減圧下において約125〜150℃に加熱する。この場合、加熱は加水分解反応器に供給する前に加熱し、加熱した鉄塩酸処理廃液を加水分解反応器に供給してもよいし、加水分解反応器に供給した後に加熱してもよい。この加熱により、鉄塩酸処理廃液中の塩化第二鉄は次の反応式により塩化水素と酸化鉄に加水分解される。分解された塩化水素は、濃度が約20質量%以上の蒸気となる。
FeCl3+3/2H2O=3HCl+1/2Fe2O3
【0026】
(4)酸化鉄分離工程
加水分解された鉄塩酸処理廃液には、前記したように空気酸化工程および加水分解工程で生成された酸化鉄が含有されている。この酸化鉄を加水分解反応器から取り出して酸化鉄分離工程に送り、この工程で酸化鉄分離器、例えばフィルタープレスで脱水し、更に乾燥炉で乾燥し粉末の酸化鉄として回収する。この酸化鉄の取り出しは、酸化鉄の濃度を10質量%以下にするために重要である。なお、フィルタープレスの濾過液は蒸発濃縮工程に還元する。この濾過液に溶解している塩化亜鉛等も一緒に還元される。
【0027】
(5)塩化水素吸収工程
この工程は、加水分解工程において塩化第二鉄の加水分解により発生した前記塩化水素蒸気を回収する工程で、回収は塩化水素蒸気を塩酸凝縮器において希塩酸に吸収させて冷却し塩酸として採取する。この場合、塩化水素蒸気の塩化水素濃度は前記したように高いので、塩酸凝縮器で希塩酸に吸収させても20質量%以上の高濃度の塩酸を採取できる。回収した塩酸をそのままリサイクルする場合には、その濃度に合わせて塩酸凝縮器の設計を変えることにより、20〜35質量%の濃度範囲の塩酸を適宜得ることができる。なお、塩酸凝縮器の出口ガスは、アルカリ洗浄塔を通して大気放出することにより、大気汚染を防止できる。特に高濃度の塩酸として回収したいときは、塩化水素蒸気を凝縮して回収する。
【0028】
図2は、本発明によって塩化第二鉄を加水分解して、塩化第二鉄を含有している鉄塩酸処理廃液から塩酸を連続的に回収する、好ましい実施態様のフローシートである。加水分解反応器1には、現在塩化第二鉄を分解処理中の鉄塩酸処理廃液2が入っており、該鉄塩酸処理廃液2の塩化第二鉄濃度は65質量%以上、水分濃度は15〜28質量%の範囲に保持されている。そして、この加水分解反応器1の内部は、塩化第二鉄の分解処理温度を125〜150℃にするように真空ポンプ6によって減圧され、絶対圧力で0.01〜0.02MPaの状態に置かれている。この条件下で鉄塩酸処理廃液2中の塩化第二鉄は塩化水素と酸化鉄に分解され、塩化水素は蒸気として取り出して塩酸を採取する。
【0029】
この分解処理によって加水分解反応器1内の塩化第二鉄と水分が消費されるので、塩化第二鉄を含有している鉄塩酸処理廃液をこの消費分として加水分解反応器1に補充することによって、塩酸と酸化鉄を連続的に採取できる。本例では、図2に示す如く例えば廃塩酸を濃縮酸化された鉄塩酸処理廃液に必要に応じ適量の水を加えて、該鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄濃度と水分濃度を調整する。この鉄塩酸処理廃液を加熱器3に送り、ここで例えばスチームによって約60℃に加熱して加水分解反応器1に所定量づつ連続的に注入し、加水分解反応器内の前記鉄塩酸処理廃液2と混合する。そして、鉄塩酸処理廃液2の塩化第二鉄濃度および水分濃度は、このように新規の鉄塩酸処理廃液を注入しても前記条件を満している。
【0030】
塩化第二鉄の加水分解によって生成された塩化水素は、蒸気として加水分解反応器1から取り出して回収塩酸凝縮器5に送給し、ここで冷却して20質量%以上の高濃度の塩酸として回収される。この塩酸の回収率は90%程度である。
【0031】
一方、塩化第二鉄の分解で生成した酸化鉄は、鉄塩酸処理廃液2中の酸化鉄濃度を前記したように10質量%以下に管理するために、例えば加水分離器1の底部から酸化鉄分離機4に適宜取り出し、該酸化鉄分離機4において酸化鉄を濾過によって分離して回収する。
【0032】
さらに、鉄塩酸処理廃液2に溶解している亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、マグネシウムなどの塩化物は、酸化鉄の濾過液を定期的に処理することにより總含有量を50質量%以下に保持する。
【0033】
【実施例】
(実施例1)
図2の加水分解反応器に入れられている塩化第二鉄の水溶液600mlに表1の組成(単位:質量%)の液を25mlづつ20分間隔で滴下し、加水分解反応器内の処理液中の塩化第二鉄を2時間30分間連続して分解処理した。分解処理は、処理液を約0.02MPaの減圧下で135℃に加熱して行った。加水分解反応器に液を添加する都度、加水分解反応器内から処理液の試料1mlを取り出して分析するとともに、塩化第二鉄の加水分解で生成される塩酸と酸化鉄の量を測定し、分解処理状況を観察した。
表2は、処理液の分析結果に基づいて各成分の分布幅(最小値と最大値)を示したものである。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表2から明らかのように処理液中の塩化第二鉄の濃度は71〜75質量%の間で変動したが、いずれも65質量%以上に保持されている。また水分の濃度は22〜23質量%の範囲で変動したが、本発明の水分濃度である15〜28質量%の範囲内である。塩化第二鉄以外の塩化第一鉄、塩化亜鉛、酸化鉄の濃度は処理時間とともに矢印で示すように増加しており、最大濃度はいずれも分解処理終了時のものである。また、酸化鉄の最大濃度は10質量%以下、塩化亜鉛の最大濃度は5質量%以下であり、いずれも本発明の好ましい範囲を満足している。なお、塩化第二鉄以外のこれらの含有物が増加するのに伴い、塩化第二鉄と水分の各濃度は相対的に低くなる。
【0037】
処理液中の塩化第二鉄は、塩化第二鉄と水分の各濃度を前記の範囲に保持することによりほぼ一定して加水分解され、塩酸と酸化鉄が安定して生成されることが確認されたとともに、分解処理終了時までに塩酸を57.4g、酸化鉄を42.0g得た。なお、生成された塩酸の濃度は、30.5質量%の高濃度であり、また塩酸の回収率は98%であり満足できるものであった。
【0038】
(実施例2−3、比較例1−3)
加水分解反応器に注入する液の組成割合を変えることにより、処理液の塩化第二鉄の濃度と水分の平均濃度が表3の濃度(単位:質量%)になるように変えて、例1と同じ条件で2時間30分の間、塩化第二鉄の分解処理を行い、生成された塩酸と酸化鉄の量および塩酸濃度を測定した。その結果を表3に併記する。
なお、表3には塩化第二鉄と水分以外の成分については記載を省略した。
【0039】
【表3】
【0040】
表3に示す如く、塩化第二鉄と水分の各濃度が、本発明の範囲内に含まれる実施例1,2,3の塩酸および酸化鉄は安定して生成されており、塩酸の回収率もいずれも90%以上であった。これに対し、塩化第二鉄の濃度が63質量%の比較例1は、水分濃度が同じ実施例3に比べて塩化第二鉄の分解効率が低く、塩酸と酸化鉄の生成量が減少しており、塩酸の回収率が悪い。
【0041】
また、比較例2は水分の濃度が低いために、加水分解反応器中の酸化鉄濃度が上昇し、したがって溶液粘度が上昇し反応継続が困難となり、また水分濃度が30質量%の比較例3は、水分濃度が高いために、回収塩酸濃度が低くなり、いずれも実施例1乃至3に比較すると劣っている。
【0042】
【発明の効果】
本発明は以上説明したように、鉄塩酸処理廃液中の塩化第二鉄の濃度を65質量%以上、水分の濃度を15〜28質量%の範囲に保持し、塩化第二鉄を加水分解することにより塩化第二鉄を効率よく安定して分解して、20質量%以上の高濃度の塩酸を95%程度の高い回収率で回収でき、これにより塩酸消費量の約95%をリサイクルで賄うことができるとともに、同時に酸化鉄を有価物として回収できる。
【0043】
また、分解反応で消費される分の塩化第二鉄と水分を、分解処理中の鉄塩酸処理廃液に連続的または断続的に注入して、混合後の鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄と水分の各濃度を前記条件にすることにより、高濃度の塩酸と酸化鉄を連続して採取できるので、それほど大型の設備を必要とせずに、かなりの容量の鉄塩酸処理廃液を処理することが可能となるため、特に塩酸を低コストで回収できる。
【0044】
さらに、鉄塩酸処理廃液に鉄以外の金属の塩化物が含有されていても、これらを分離して塩酸と酸化鉄を回収でき、また鉄塩酸処理廃液を有効活用してこのように塩酸と酸化鉄を環境面に十分に配慮して回収することができるので、産業廃棄物の大幅な減容化を図ることができ、その実用効果は大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を廃塩酸に応用する場合のプロセスのフローシート図。
【図2】本発明の実施例で、鉄塩酸処理廃液から連続的に高濃度の塩酸を回収する場合のフローシート図。
【符号の説明】
1:加水分解反応器
2:鉄塩酸処理廃液
3:加熱器
4:酸化鉄分離器
5:塩酸凝縮器
6:真空ポンプ
Claims (8)
- 塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を減圧下で125〜150℃に加熱することにより、塩化第二鉄を加水分解して塩酸を回収する方法であって、前記鉄塩酸処理廃液における塩化第二鉄の濃度を65質量%以上、水分濃度を15〜28%質量の範囲に保持することによって、20質量%以上の高濃度の塩酸を回収することを特徴する鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 塩化第二鉄の濃度を65質量%以上、水分濃度を15〜28質量%に保持し、減圧下で125〜150℃に加熱した、塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液中に、塩化第二鉄を含有する鉄塩酸処理廃液を連続的または断続的に注入し、注入後における鉄塩酸処理廃液の塩化第二鉄および水分の各濃度並びに温度を前記条件に保持することにより、塩酸を連続的に回収する請求項1に記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 採取する塩酸の濃度が20〜35質量%である請求項1または2に記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 塩化第二鉄を分解処理中の鉄塩酸処理廃液における酸化鉄の濃度を20質量%以下に保持する請求項1、2または3に記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 前記鉄塩酸処理廃液が、鉄鋼のピックリング、亜鉛メッキの前処理または半導体リードフレームのエッチング処理により生じる廃塩酸を濃縮して生成される請求項1〜4のいずれか一つに記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 前記鉄塩酸処理廃液が、塩化第一鉄を含有する廃塩酸の水分を蒸発して濃縮し、または濃縮後に更に廃塩酸中の塩化第一鉄を酸化してなる請求項1〜5のいずれか一つに記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 前記鉄塩酸処理廃液が、塩化鉄のほか亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウムおよびマグネシウムの一種以上の塩化物を含有している請求項1〜6のいずれか一つに記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
- 鉄塩酸処理廃液中における亜鉛、ニッケル、銅、アルミニウム、カルシウム、ナトリウムおよびマグネシウム等の塩化物の総含有量が50質量%以下である請求項7に記載の鉄塩酸処理廃液から塩酸を回収する方法。
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