JP4502929B2 - 転動疲労特性および結晶粒粗大化防止特性に優れた肌焼用鋼 - Google Patents
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C:0.05〜0.30%、
Si:2.0%以下(0%を含む)、
Mn:2.0%以下(0%を含む)、
S:0.005〜0.2%、
Cr:2.0%以下(0%を含む)、
N:0.008〜0.025%、
Al:0.040〜0.120%、
Nb:0.01〜0.20%、
Ti:0.005〜0.020%、
を含み、残部はFeおよび不可避的不純物よりなる鋼材からなり、
鋼材縦断面の100μm2内に、Tiを含有する長径0.01μm以上0.1μm以下の窒化物、炭化物または炭窒化物が5個以上存在し、且つ、TiとAlを共に含有する長径0.01μm以上0.1μm以下の窒化物、炭化物または炭窒化物が1個以上存在する、転動疲労特性および結晶粒粗大化防止特性に優れた肌焼用鋼である。
1)Cu:1.0%以下(0%を含まない)および/またはNi:3.0%以下(0%を含まない)、
2)Mo:1.0%以下(0%を含まない)、
3)B:0.0005〜0.003%、
4)Pb:0.1%以下(0%を含まない)および/またはBi:0.1%以下(0%を含まない)、
5)Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%、Te:0.0005〜0.02%よりなる群から選択される少なくとも1種、
6)Zr:0.01〜0.2%、V:0.05〜0.5%以下およびREM:0.01〜0.1%よりなる群から選択される少なくとも1種。
Cは機械部品として必要な芯部硬さを確保し転動疲労寿命を高める上で重要な元素であり、0.05%未満では硬さ不足により部品としての静的強度が不足気味となる。しかしC量が多過ぎると、硬くなり過ぎて加工性(鍛造性や被削性など)が低下するので、0.30%以下に抑える必要がある。この様な観点からより好ましいC含量は、0.15%以上、更に好ましくは0.17%以上で、0.25%以下、更に好ましくは0.23%以下である。
Siは脱酸剤として作用し、酸化物系介在物量を低減して内部品質を高める作用を有すると共に、焼戻し処理時の硬さ低下を抑えて浸炭部品の表層硬さを確保するのに有効な元素である。しかし、Si量が多過ぎると、素材が硬くなりすぎて加工性(切削性や鍛造性など)が劣化するので、2.0%を上限と定めた。より好ましいSi含量は、0.01%以上、更に好ましくは0.05%以上で、0.8%以下、更に好ましくは0.6%以下である。なお通常の機械構造用鋼では、製鋼時の酸素量の調整(脱酸)のためSiは0.05〜0.3%程度添加されている場合が多い。
Mnは脱酸剤として作用し、酸化物系介在物量を低減して鋼材の内部品質を高める作用を有すると共に、浸炭・窒化焼入れ時の焼入性を著しく高める作用を有している。しかし多過ぎると、中心偏析が顕著となって内部品質を却って劣化させるばかりでなく、縞状組織が顕著となって内部特性のバラツキも大きくなり衝撃特性や転動疲労寿命が低下するので、上限を2.0%とする。Mnのより好ましい含有量は0.2%以上、更に好ましく0.3%以上で、1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下である。
Sは、MnやTiなどと結合してMnS介在物やTiS介在物などを形成し、部品の衝撃強度や転動疲労寿命に悪影響を及ぼすので、なるべく少なく抑えるのが好ましく、衝撃特性と転動疲労寿命が求められる本発明では上限を0.2%と定めた。しかし反面Sは、切削性を高める作用も有しているので、切削性が重視される場合は適量含有させることが望ましく、0.005%程度以上は含有させることが望ましい。通常の機械構造用鋼として使用する場合のより好ましい含有量は、0.01%程度以上、0.07%程度以下である。
Crは、Ti,Nbなどの炭化物中に固溶してそれらの硬さを高める作用を有しているため、耐摩耗性の向上に寄与する。そのため、歯車や軸受等の摺動部品ではよく用いられる合金元素である。ちなみに、JIS規格の肌焼用鋼(SCr420)ではCr量を0.9〜1.2%と規定している。しかしCr量が2.0%を超えると、鋼材が硬くなり過ぎて加工性(被削性や鍛造性)が劣化するので、2.0%を上限と定めた。より好ましいCr含量は、0.4%以上、更に好ましくは0.9%以上で、1.5%以下、更に好ましくは1.2%以下である。
Nは、Al,Ti,Nbと結合して窒化物や炭窒化物を形成し、浸炭加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制する作用を有している。従って本発明では、Ti窒化物を微細分散させるため0.008%以上含有させる必要がある。しかしN含量が多過ぎると、熱間加工性や衝撃特性に悪影響を及ぼす様になるので、多くとも0.025%以下に抑えねばならない。Nのより好ましい含有量は、0.005%以上、0.020%以下である。
Alは、溶鋼の脱酸剤として一般的に使用されるため、鋼材中に不可避的に混入してくる元素であり、通常は0.01〜0.03%程度含まれていることが多い。しかし本発明では、Alを不可避不純物扱いするのではなく、これを積極的に増量することによりAl窒化物を生成させ、該Al窒化物に本発明で初めて確認された新たな作用を発揮させる。即ちAlは、鋼中のNと結合して窒化物を生成し、熱処理時における結晶粒の成長を抑制するだけでなく、微細析出するTi系析出物と複合化することで、該Ti系析出物の粗大化を抑制し、結晶粒粗大化防止効果を飛躍的に高めるのである。従って本発明では、従来材に比べてAlを相対的に多めに含有させてその窒化物を生成させることが重要であり、少なくとも0.040%以上の含有を必須とする。
Nbは本発明において重要な役割を果たす元素で、鋼中のNおよびCと結合して窒化物や炭化物もしくは炭窒化物を生成し、浸炭時の加熱工程で結晶粒粗大化の抑制に寄与する。0.01%未満では、高温で安定な窒化物や炭化物、もしくは炭窒化物が生成しないため、結晶粒粗大化防止効果が得られない。しかもNbは、AlやTiと複合添加することで、Nbを含む単独析出物よりも安定なAl窒化物とNb炭窒化物の複合析出物やNb−Ti複合炭窒化物、あるいはAl窒化物とNb−Ti複合炭窒化物の複合析出物を形成し、高温浸炭時の結晶粒粗大化防止特性や転動疲労特性を高める作用も発揮する。
Tiも本発明において重要な役割を果たす元素である。すなわち、鋼の結晶粒粗大化防止特性を高めるには、粗大化を妨げる粒子(ピンニング粒子)を多数生成させることが重要であるが、本発明では微細なTi窒化物を微分散状態で多量生成させるため、0.005%以上のTi含量を確保すべきであり、好ましくは0.010%以上、更に好ましくは0.012%以上含有させるのがよい。しかし、Ti含量が多過ぎると、粗大なTi窒化物が生成して微細なTi窒化物の数がかえって減少し、満足な結晶粒粗大化防止特性が発揮されなくなるばかりか、粗大なTi窒化物が加工性や転動疲労寿命に顕著な悪影響を及ぼす様になるので、多くとも0.020%以下、好ましくは0.016%以下、更に好ましくは0.014%以下に抑えるのがよい。
Ni,Cuは共に鋼材の耐食性を向上させる元素であり、耐食性が求められる場合は各々単独で、或いは2種を添加することができる。またNiは、鋼材の耐衝撃性の向上にも寄与するので、適量の添加は有効である。しかしNi,Cuの過度の添加は鋼材コストの上昇を招き、しかもCuの過度の添加は熱間加工性の低下にもつながるので、Niは3.0%以下、Cuは1.0%以下に抑えるべきである。Niのより好ましい添加量は0.1〜2.0%、更に好ましくは0.3〜1.5%で、Cuのより好ましい添加量は0.1〜0.8%、更に好ましくは0.2〜0.6%である。
Moは、焼戻し処理時の硬さ低下を抑え、浸炭部品の表層硬さを確保するのに有効な元素であり、また、浸炭焼入れ時の焼入性を著しく高めると共に、耐水素脆性を抑えるうえでも有効に作用する。しかし、過度に添加してもその効果は飽和するので鋼材コストの上昇を招き、更には鋼素材が硬質化して加工性を劣化させる原因になるので、添加するにしても1.0%以下に抑えるべきである。Moのより好ましい添加量は0.1〜0.8%、更に好ましくは0.15〜0.45%である。
Bは微量で鋼材の焼入性を大幅に高める作用を有しており、しかも結晶粒界を強化して衝撃強度や転動疲労寿命を高める作用も有している。こうした作用は0.0005%以上添加することで有効に発揮される。しかし、それらの効果は約0.003%で飽和し、それ以上にB量が多くなると、B窒化物が生成し易くなって冷間および熱間加工性にも悪影響が表れてくる。そのため、添加する場合は0.0005〜0.003%、より好ましくは0.0008〜0.0025%、更に好ましくは0.0010〜0.0020%の範囲内で調整するのがよい。
Pb,Biは鋼材の被削性向上に寄与する元素であり、被削性が特に求められる場合はこれらの1種または2種を添加することが有効である。しかし添加量が多過ぎると鋼素材の強度が低下するので、各々0.1%以下、より好ましくはPb+Biで0.1%以下に抑えるべきである。Pb+Biとしてのより好ましい添加量は0.02〜0.08%、更に好ましくは0.03〜0.06%である。
Mg,Ca,Teは、1種または2種以上添加することで鋼中に存在する硫化物の展伸を抑制し、衝撃特性を高める作用を有している。こうした作用は、Ca,Mgの場合、0.0001%未満の添加では有効に発揮されず、0.01%を超えると粗大な酸化物の生成によって鋼強度を逆に低下させ、転動疲労寿命にも悪影響を及ぼす恐れが生じてくる。そのためCa,Mgは夫々0.0001〜0.01%、より好ましくは0.002〜0.005%の範囲とするのがよい。
Zr,V,REMは、いずれも炭素および窒素との反応性に富む元素であり、炭化物や窒化物からなる微細な析出物を生成することで結晶粒粗大化防止特性を高める作用を発揮する。しかし多過ぎると、Zr,V,REMを含む粗大析出物が生成し却って結晶粒粗大化防止特性を害するので、添加するにしても、Zrは0.01〜0.2%、Vは0.05〜0.5%、REMは0.01〜0.1%の範囲とすべきである。
Tiは、前述した如く鋼中の炭素や窒素と結合し、結晶粒粗大化防止に有効な炭化物、窒化物、炭窒化物を生成する。これらの中でも窒化物は高温で非常に安定であり、高温浸炭条件下でも優れた結晶粒粗大化防止効果を発揮することから、本発明では主にTi窒化物を有効利用することとしている。しかし中には、窒化物を形成しなかったTiが炭化物や炭窒化物を生成して結晶粒粗大化防止機能を果たすこともあることから、本発明では、炭窒化物系析出物としてTiの窒化物、炭化物、炭窒化物(以下、Ti含有炭・窒化物と言うことがある)のサイズと総数を定めている。
表1,2に示す化学組成の鋼材を小型溶製炉で溶製し、鋳造して150kgの鋳塊を得る際に、凝固開始から凝固終了までの温度域を表3,4に示す速度(鋳造速度)で冷却した。その後、同表に示す条件で均熱処理した後、直径が80mmの丸棒状に熱間鍛造し、更に溶体化処理および焼ならし処理を行なった。その後、切削加工を行なって結晶粒粗大化調査用の試験片(図1参照)を作製した。
熱間圧縮後の試験片の断面から抽出レプリカ法によって透過型電子顕微鏡観察用試験片を作成する。その後、透過型電子顕微鏡(日立サイエンスシステムズ社製の商品名「HF−2000」を用いて炭・窒化物の観察を行う。観察は50000倍で10視野について行い、観察された炭・窒化物のサイズと個数を求める。尚、炭・窒化物がTiを含んでいるか、或いはTiとAlを含んでいるかは、付属のEDS(エネルギー分散型X線分析装置)によって確認した。
各供試棒を、切削加工によって結晶粒粗大化防止効果の調査用試験片(図1参照:直径8mm×高さ12mmの円柱状)に切削加工し、得られた各試験片について、熱間加工シミュレータ(富士電波工機社製の商品名「THERMECMASTER−Z」)を用いて熱間で圧縮した。昇温速度は10℃/min、熱間加熱温度は1250℃、圧縮率は70%とし、冷却速度は1℃/minとした。この試験片を真空浸炭炉で、表5,6に結晶粒粗大化防止温度として示す如く975〜1100℃×3時間の焼鈍を行ってから水冷した後、試験片断面の結晶粒粗大化状況を調べた。
面圧;527kgf/mm2(5.2kPa)、回転数;1000rpm、鋼球数;6個、潤滑油;「タービン油#68」(新日本石油社製の商品名)、試験回数(n);12回。
熱間圧縮後の試験片の硬さを測定し、加工性の代用評価とした。測定は、試験片断面の図1にXで示す位置をビッカース硬さ測定器により荷重10kgf(98Pa)で3点測定し、平均値を求めた。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.05〜0.30%、
Si:0.01%以上2.0%以下、
Mn:0.2%以上2.0%以下、
S:0.005〜0.20%、
Cr:0.4%以上2.0%以下、
N:0.008〜0.025%、
Al:0.040〜0.10%、
Nb:0.01〜0.20%、
Ti:0.010〜0.020%、
を含み、
P:0.03%以下、およびO:0.002%以下に抑制されており、
残部はFeおよび不可避的不純物よりなる鋼材からなり、
鋼材縦断面の100μm2内に、Tiを含有する長径0.01μm以上0.1μm以下の窒化物、炭化物または炭窒化物が5個以上存在し、且つ、TiとAlを共に含有する長径0.01μm以上0.1μm以下の窒化物、炭化物または炭窒化物が1個以上存在することを特徴とする転動疲労特性および結晶粒粗大化防止特性に優れた肌焼用鋼。 - 鋼が、更に他の元素として、Cu:1.0%以下(0%を含まない)および/またはNi:3.0%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1に記載の肌焼用鋼。
- 鋼が、更に他の元素として、Mo:1.0%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1または2に記載の肌焼用鋼。
- 鋼が、更に他の元素として、B:0.0005〜0.003%を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の肌焼用鋼。
- 鋼が、更に他の元素として、Bi:0.1%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の肌焼用鋼。
- 鋼が、更に他の元素として、Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項1〜5のいずれかに記載の肌焼用鋼。
- 鋼が、更に他の元素として、Zr:0.01〜0.2%、V:0.05〜0.5%よりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである請求項1〜6のいずれかに記載の肌焼用鋼。
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