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JP5206271B2 - 鋼製の浸炭窒化部品 - Google Patents

鋼製の浸炭窒化部品 Download PDF

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JP5206271B2 JP2008241948A JP2008241948A JP5206271B2 JP 5206271 B2 JP5206271 B2 JP 5206271B2 JP 2008241948 A JP2008241948 A JP 2008241948A JP 2008241948 A JP2008241948 A JP 2008241948A JP 5206271 B2 JP5206271 B2 JP 5206271B2
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Description

本発明は、浸炭窒化を施して使用する鋼製の部品、つまり、鋼製の「浸炭窒化部品」に関する。より詳しくは、曲げ疲労強度および面疲労強度に優れた歯車、シャフトなどの鋼製の浸炭窒化部品に関し、表面硬化処理として最も代表的な浸炭焼入れによって製造した場合に較べて、大幅に優れた曲げ疲労強度および面疲労強度を有する鋼製の浸炭窒化部品に関する。
従来、自動車や産業機械の歯車、シャフトなどの鋼製の部品(以下、「鋼製の部品」を単に「部品」ともいう。)は、JIS規格のSCr420、SCM420やSNCM420などの機械構造用合金鋼を素材として、浸炭または浸炭窒化を施して焼入れ(以下、浸炭を施した焼入れを「浸炭焼入れ」といい、また、浸炭窒化を施した焼入れを「浸炭窒化焼入れ」という。)、その後、200℃以下の焼戻しを行い、さらに、必要に応じて化成皮膜処理やショットピーニング処理を施すことにより、接触疲労強度、曲げ疲労強度や耐摩耗性など、それぞれの部品に要求される特性を確保することがなされていた。
しかしながら、近年、自動車の燃費向上やエンジンの高出力化への対応のために部品の軽量・小型化が進み、これに伴って、部品にかかる負荷が増加する傾向にある。このため、産業界からは上記特性のうちでも特に接触疲労強度と曲げ疲労強度を高めたいとの要望が大きい。
なお、上記の「接触疲労」には「面疲労」、「線疲労」および「点疲労」が含まれるが、実際には「線」接触や「点」接触になることはほとんどないため、以下、接触疲労強度として「面疲労強度」を取り扱う。
また、「ピッチング」は、面疲労の破壊形態の一つであり、歯車の歯面およびシャフトにおける面疲労の損傷形態は主にピッチングである。このため、ピッチング強度を向上させることが、上記の面疲労強度の向上に対応することになるので、以下、「面疲労」としての「ピッチング」について説明し、「ピッチング強度」を「面疲労強度」という。
上記、産業界からの要望に対しては、従来、部品の曲げ疲労強度や面疲労強度を向上させるために、
・浸炭窒化焼入れすること、
・浸炭焼入れ、あるいは浸炭窒化焼入れによって、部品表層部のC濃度、あるいは「C+N」濃度を制御すること、
・浸炭焼入れ、あるいは浸炭窒化焼入れの途中で、一旦A1点以下の温度まで冷却することにより、炭化物を分散させること、
などの対策が講じられ、例えば、特許文献1〜4に曲げ疲労強度や面疲労強度に優れた鋼部品やその製造方法に関する技術が提案されている。
具体的には、特許文献1に、鋼の化学組成を規定するとともに、表面から深さ0.1mmまでの間のCおよびN濃度の和が0.70〜1.30重量%である、浸炭浸窒処理または浸炭窒化処理が施されていることを特徴とする「高面圧用機械構造部材」が開示されている。
特許文献2に、表面から少なくとも150μm深さまでの窒素含有量を規定するとともに、その領域におけるミクロ組織を規定することを特徴とする「高強度歯車」が開示されている。
特許文献3に、鋼の化学組成を規定するとともに、表面から0.1mmまでのC量やN量などを規定することを特徴とする「浸炭窒化部品」が開示されている。
特許文献4に、化学組成を規定するとともに、表面炭素濃度0.8〜3.0%の高濃度浸炭することにより表面の浸炭層に炭化物を微細分散させることを特徴とする「浸炭用鋼」が開示されている。
特開昭63−62859号公報 特開平7−190173号公報 特開2001−73072号公報 特開2002−266053号公報
前述の特許文献1で提案された技術は、表面近傍のCとNの個々の濃度が最適化されておらず、さらに、表面近傍のN濃度に対応した化学成分になっていない。このため、面疲労強度および曲げ疲労強度が不十分である。
特許文献2で提案された技術は、表面近傍のC濃度および「C+N」濃度が最適化されておらず、さらに、表面近傍のN濃度に対応した化学成分になっていない。このため、面疲労強度および曲げ疲労強度が不十分である。
特許文献3で提案された技術は、表面近傍の「C+N」濃度が高いため、浸炭窒化あるいは浸炭窒化後焼入れ・焼戻しされた部品の残留オーステナイト量が非常に多くなる。このため、実施例に記載されているようにショットピーニング処理する必要がある。しかしながら、実部品ではショットピーニングを施しにくい部位も多く、曲げ疲労強度の低下が懸念される。
特許文献4で提案された技術は、実施例を見ると、炭化物を微細分散させるために浸炭後、一旦A1点以下の温度にまで冷却し、再度A1点以上に加熱・保持した後、焼入れしており、熱処理歪みが増大してしまう。また、浸炭異常層が生成すると考えるので、高い曲げ疲労強度を得るためには、実施例に記載されているように、焼入れ・焼戻し後に研磨仕上げが必要になる。
前述の特許文献1〜4で開示された技術は、各実施例に示されているとおり、鋼製部品の面疲労強度や曲げ疲労強度を高めることができる技術ではある。しかしながら、これらの技術はいずれも、近年、産業界から要望されている部品の軽量化、小型化、高応力負荷化に対応できる疲労強度と部品のコストダウンの両立ができないものであった。
そこで、本発明の目的は、大幅なコストアップをすることなく、表面硬化処理として最も代表的な浸炭焼入れによって製造した場合に較べて大幅に優れた曲げ疲労強度および面疲労強度を有し、部品の軽量化、小型化、高応力負荷化の要求に応えることができる鋼製の浸炭窒化部品を提供することである。
本発明者らは、前記した課題を解決するためには、表面近傍を適正な硬さ、ミクロ組織とするためのC、N濃度、およびそれに対応した化学成分にすることに着目した調査・研究を重ねた。その結果、下記(a)〜(e)の知見を得た。
(a)浸炭焼入れに較べて、浸炭窒化焼入れは面疲労強度の向上に有効であるが、N量には適正な範囲があり、過剰な場合、残留オーステナイトが多量に生成して硬さが低下するため、曲げ疲労強度が低下する。
(b)浸炭窒化焼入れの場合、面疲労強度と曲げ疲労強度を両立させるためには、浸炭窒化層の「C+N」量の管理だけでは不十分である。例えば、C量が低いと、焼入れ後に十分な硬さが得られない。N量については上記(a)に記載したとおりである。そのため、C量、N量および「C+N」量を制御する必要がある。
(c)浸炭窒化した場合、Nが生地中のCrと結合してCrNを生成しやすく、特に、旧オーステナイト粒界に多量のCrNが生成する。そのため旧オーステナイト粒界近傍では固溶Cr濃度が低下し、旧オーステナイト粒界に沿ってパーライトなどの軟質層が生成するため、面疲労強度、曲げ疲労強度ともに低下する。
(d)旧オーステナイト粒界に沿ったパーライトなどの軟質層の生成を抑制するためには、生成するCrN量を予測し、CrNが生成しても旧オーステナイト粒界に沿って軟質層が生成しないように、焼入れ性への寄与が大きいSi、Mn、Cr、Moの量を、CrNの生成を前提にして調整すればよい。
(e)浸炭窒化焼入れの効果を高めるためには、Si量を増やす、あるいはMoを適量含有させることが有効である。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(4)に示す鋼製の浸炭窒化部品にある。
(1)生地が、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.4〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.003〜0.05%、Cr:0.5〜2.5%、Al:0.01〜0.05%およびN:0.008〜0.025%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物としてのPおよびOの含有量が、P:0.025%以下、O:0.002%以下である鋼材であり、表面から深さ0.1mmまでの領域において、平均のC濃度Csが0.60〜0.90%、平均のN濃度Nsが0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%で、かつ、下記の式(イ)または式(ロ)で規定されるXの値が9.0以上であることを特徴とする鋼製の浸炭窒化部品。
Cr−(Ns×3.7)≧0の場合:
X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×[1+2.2×{Cr−(Ns×3.7)+(0.048/Ns)}]×(1+3.0×Mo)・・・(イ)
Cr−(Ns×3.7)<0の場合:
X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×{1+2.2×(0.048/Ns)}×(1+3.0×Mo)・・・(ロ)
なお、上記の各式におけるCr、Si、MnおよびMoは、生地の鋼材中のその元素の質量%での含有量を表す。
(2)生地の鋼材が、Feの一部に代えて、Mo:0.20%未満を含有するものであることを特徴とする上記(1)に記載の鋼製の浸炭窒化部品。
(3)生地の鋼材が、Feの一部に代えて、Ti:0.10%以下、Nb:0.08%以下およびV:0.15%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の鋼製の浸炭窒化部品。
(4)生地の鋼材が、Feの一部に代えて、Ca:0.003%以下、Mg:0.003%以下および希土類元素:0.02%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれかに記載の鋼製の浸炭窒化部品。
なお、「浸炭窒化部品」とは、浸炭窒化を施された部品を指す。また、「濃度」とは、質量%での含有量を表す。
本発明でいう「希土類元素」とは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指す。また、「希土類元素の含有量」とは「希土類元素の合計の含有量」を指す。以下の説明においては、希土類元素を「REM」という。
本発明の鋼製の浸炭窒化部品は、曲げ疲労強度および面疲労強度が優れているので、自動車や産業機械の歯車、シャフトなどに用いることができる。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、生地の鋼材における各成分元素の含有量および部品表面における元素の濃度の「%」は「質量%」を意味する。
(A)生地の鋼材の化学組成について:
C:0.1〜0.3%
Cは、浸炭窒化焼入れしたときの部品の生地の強度(芯部強度)を確保するために必須の元素である。しかしながら、その含有量が0.1%未満では前記の効果が不十分である。一方、Cの含有量が0.3%を超えると、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、切削加工性が大きく低下する。したがって、生地の鋼材におけるCの含有量を0.1〜0.3%とした。なお、C含有量の好ましい下限は0.20%であり、また、好ましい上限は0.25%である。
Si:0.4〜1.5%
Siは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を高める効果があり、面疲労強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、その含有量が0.4%未満では前記の効果が不十分である。一方、Siの含有量が1.5%を超えると、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、切削加工性が大きく低下する。したがって、生地の鋼材におけるSiの含有量を0.4〜1.5%とした。なお、Siの含有量が0.5%以上であれば、面疲労強度を高める効果がさらに大きくなるため、Si含有量の下限は0.5%とすることが好ましい。なお、Si含有量の好ましい上限は0.8%である。
Mn:0.2〜1.5%
Mnは、焼入れ性を高める効果があるため、曲げ疲労強度および面疲労強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、その含有量が0.2%未満では前記の効果が不十分である。Mnの含有量が0.4%以上になると、曲げ疲労強度および面疲労強度の向上が顕著になる。一方、Mnの含有量が1.5%を超えると、曲げ疲労強度および面疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、切削加工性が大きく低下する。したがって、生地の鋼材におけるMnの含有量を0.2〜1.5%とした。Mn含有量の下限は0.4%とすることが好ましい。なお、Mn含有量のより好ましい下限は0.8%であり、また、好ましい上限は1.2%である。
S:0.003〜0.05%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、切削加工性を向上させる。しかしながら、その含有量が0.003%未満では、前記の効果が得難い。一方、Sの含有量が多くなると、粗大なMnSを生成しやすくなり、曲げ疲労強度および面疲労強度を低下させる傾向があり、特に、その含有量が0.05%を超えると、曲げ疲労強度および面疲労強度の低下が顕著になる。したがって、生地の鋼材におけるSの含有量を0.003〜0.05%とした。なお、S含有量の好ましい下限は0.01%であり、また、好ましい上限は0.03%である。
Cr:0.5〜2.5%
Crは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を高める効果があり、曲げ疲労強度および面疲労強度を高めるのに有効な元素である。しかしながら、その含有量が0.5%未満では前記の効果が不十分である。Crの含有量が1.2%以上になると、曲げ疲労強度および面疲労強度の向上が顕著になる。一方、Crの含有量が2.5%を超えると、曲げ疲労強度および面疲労強度を高める効果が飽和するだけでなく、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、切削加工性が著しく低下する。したがって、生地の鋼材におけるCrの含有量を0.5〜2.5%とした。Cr含有量の下限は1.2%とすることが好ましい。なお、Cr含有量のより好ましい下限は1.4%であり、また、好ましい上限は2.0%である。
Al:0.01〜0.05%
Alは、脱酸作用を有すると同時に、Nと結合してAlNを形成しやすく、焼入れ部の結晶粒微細化に有効で、曲げ疲労強度を高める効果がある。しかしながら、Alの含有量が0.01%未満ではこの効果は得難い。一方で、Alは硬質な酸化物系介在物を形成しやすく、Alの含有量が0.05%を超えると、曲げ疲労強度の低下が著しくなり、他の要件を満たしていても所望の曲げ疲労強度が得られなくなる。したがって、生地の鋼材におけるAlの含有量を0.01〜0.05%とした。なお、Al含有量の好ましい下限は0.02%であり、また、好ましい上限は0.04%である。
N:0.008〜0.025%
Nは、Al、Ti、Nb、Vと結合してAlN、TiN、NbN、VNを形成しやすく、このうちAlN、NbN、VNは結晶粒微細化に有効で、曲げ疲労強度を高める効果がある。しかしながら、Nの含有量が0.008%未満ではこの効果は得難い。一方で、Nの含有量が0.025%を超えると、粗大なTiNが形成されやすくなるため、曲げ疲労強度の低下が著しくなり、他の要件を満たしていても所望の曲げ疲労強度が得られなくなる。したがって、生地の鋼材におけるNの含有量を0.008〜0.025%とした。なお、N含有量の好ましい下限は0.012%であり、また、好ましい上限は0.020%である。
本発明の浸炭窒化部品の生地の鋼材の一つは、上記元素のほか、残部がFeと不純物からなる化学組成を有するものである。なお、不純物としてのPおよびO(酸素)の含有量は下記のとおりに制限することが好ましい。
P:0.025%以下
Pは、粒界偏析して粒界を脆化させやすい元素のため、その含有量が0.025%を超えると、他の要件を満たしていても、少ない頻度ではあるが、曲げ疲労強度が低下する場合がある。したがって、生地の鋼材におけるPの含有量は0.025%以下とすることが好ましい。P含有量のより好ましい上限は0.018%である。
O(酸素):0.002%以下
Oは、Alと結合して硬質な酸化物系介在物を形成しやすく、特に、Oの含有量が0.002%を超えると、他の要件を満たしていても、少ない頻度ではあるが、曲げ疲労強度が低下する場合がある。したがって、生地の鋼材におけるOの含有量は0.002%以下にすることが好ましい。さらに、不純物としてのOの含有量はできる限り少なくすることが望ましいが、製鋼でのコストを考慮すると、0.0010%以下にすることがより好ましい。
本発明の浸炭窒化部品の生地の鋼材の他の一つの化学組成は、上記の元素に加えてさらに、Mo、Ti、Nb、V、Ca、MgおよびREMのうちから選んだ1種以上の元素を含有するものである。以下、これらの元素の作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Mo:0.20%未満
Moは、焼入れ性および焼戻し軟化抵抗を高めて、曲げ疲労強度および面疲労強度を高める作用を有するので、こうした効果を得るためにMoを含有してもよい。しかしながら、Moの含有量が0.20%以上になると、コストがかさむ。したがって、生地の鋼材におけるMoの含有量を0.20%未満とした。なお、Moの含有量は0.15%以下とすることが好ましい。
一方、前記したMoの曲げ疲労強度および面疲労強度の向上効果を確実に得るためには、Mo含有量の下限を0.03%とすることが好ましく、0.05%とすれば一層好ましい。
次に、Ti、NbおよびVは、いずれもAlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完して、曲げ疲労強度を高める作用を有する。このため、より高い曲げ疲労強度を確保したい場合には、以下の範囲で含有してもよい。
Ti:0.10%以下
Tiは、C、Nと結合してTiC、TiN、Ti(C、N)を形成しやすく、前述したAlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完するのに有効で、曲げ疲労強度を高める作用を有するので、こうした効果を得るためにTiを含有してもよい。しかしながら、Tiの含有量が多くなって、0.10%を超えると、粗大なTiNが生成しやすくなり、却って曲げ疲労強度が低下する。したがって、生地の鋼材におけるTiの含有量を0.10%以下とした。なお、Tiの含有量は0.06%以下とすることが好ましい。
一方、前記したTiの曲げ疲労強度の向上効果を確実に得るためには、Ti含有量の下限を0.01%とすることが好ましく、0.02%とすれば一層好ましい。
Nb:0.08%以下
Nbは、C、Nと結合してNbC、NbN、Nb(C、N)を形成しやすく、前述したAlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完するのに有効で、曲げ疲労強度を高める作用を有するので、こうした効果を得るためにNbを含有してもよい。しかしながら、Nbの含有量が多くなって、0.08%を超えると、粗大なNb(C、N)が生成しやすくなり、却って曲げ疲労強度が低下する。したがって、生地の鋼材におけるNbの含有量を0.08%以下とした。なお、Nbの含有量は0.05%以下とすることが好ましい。
一方、前記したNbの曲げ疲労強度の向上効果を確実に得るためには、Nb含有量の下限を0.01%とすることが好ましく、0.02%とすれば一層好ましい。
V:0.15%以下
Vは、C、Nと結合してVN、VCを形成しやすく、このうち、VNは、前述したAlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完するのに有効で、曲げ疲労強度を高める作用を有する。また、浸炭窒化時にVNが析出すると、曲げ疲労強度をより高める効果がある。このため、前述した効果を得るためにVを含有してもよい。しかしながら、Vの含有量が多くなって、0.15%を超えると、棒鋼、線材や熱間鍛造後の強度が高くなりすぎるため、切削加工性が大きく低下する。したがって、生地の鋼材におけるVの含有量を0.15%以下とした。なお、Vの含有量は0.10%以下とすることが好ましい。
一方、前記したVの曲げ疲労強度の向上効果を確実に得るためには、V含有量の下限を0.02%とすることが好ましく、0.05%とすれば一層好ましい。
なお、上記のTi、NbおよびVは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。
Ca、MgおよびREMは、いずれも曲げ疲労強度を高める作用を有する。このため、より高い曲げ疲労強度を具備させたい場合には、以下の範囲で含有してもよい。
Ca:0.003%以下
Caは、曲げ疲労強度を高める作用を有する。さらに、Caは、切削加工性を高める作用も有する。このため、前述した効果を得るためにCaを含有してもよい。しかしながら、Caを0.003%を超えて含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、生地の鋼材におけるCaの含有量を0.003%以下とした。
一方、前記したCaの曲げ疲労強度および切削加工性の向上効果を確実に得るためには、Ca含有量の下限を0.0003%とすることが好ましい。
Mg:0.003%以下
Mgは、曲げ疲労強度を高める作用を有する。さらに、Mgは、切削加工性を高める作用も有する。このため、前述した効果を得るためにMgを含有してもよい。しかしながら、Mgを0.003%を超えて含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、生地の鋼材におけるMgの含有量を0.003%以下とした。
一方、前記したMgの曲げ疲労強度および切削加工性の向上効果を確実に得るためには、Mg含有量の下限を0.0003%とすることが好ましい。
REM:0.02%以下
REMは、曲げ疲労強度を高める作用を有する。このため、前述した効果を得るためにREMを含有してもよい。しかしながら、REMを0.02%を超えて含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、生地の鋼材におけるREMの含有量を0.02%以下とした。なお、REMの含有量は0.01%以下とすることが好ましい。
一方、前記したREMの曲げ疲労強度の向上効果を確実に得るためには、REM含有量の下限を0.0003%とすることが好ましく、0.001%とすれば一層好ましい。
既に述べたように、本発明でいう「REM」とは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、また、「REMの含有量」とは「REMの合計の含有量」を指す。
なお、上記のCa、MgおよびREMは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。
(B)表層部のC、Nの濃度について:
本発明者らの検討によって、本発明に係る鋼製の浸炭窒化部品は、表面から深さ0.1mmまでの領域において、
平均のC濃度Csが0.60〜0.90%、
平均のN濃度Nsが0.15〜0.35%、
Cs+Nsが0.80〜1.10%、
でなければならないことが明らかになった。
以下、上記の事項について詳しく説明する。
面疲労強度および曲げ疲労強度は、表面近傍の硬さ、焼戻し軟化抵抗、組織などに大きく影響されることが知られており、従来、浸炭窒化は焼戻し軟化抵抗を高めることによって、特に面疲労強度の向上に有効であるといわれてきた。
確かに、浸炭窒化は面疲労強度の向上にとっては有効な手段であるが、曲げ疲労強度など他の強度特性に対してはあまり効果的ではなく、むしろ低下させてしまう場合があった。そのため、単なる浸炭窒化を施すだけでは、産業界からの要望である軽量化、小型化および高応力負荷化に対応できる疲労強度の確保と部品のコストを低く抑えるということの両立に対して不十分である。
そこで、本発明者らは、浸炭窒化による表層部のC、N量の最適化、およびそれに適した鋼材の化学成分について検討を行い、疲労破壊の起点となりやすい、粒界近傍の軟質な組織の生成を確実に抑制しつつ、表層部の硬さおよび軟化抵抗を高めることにより、面疲労強度のみならず、曲げ疲労強度も向上させるという、従来とは異なる視点にたって、以下に示す検討を行った。
先ず、表1に示す前記(A)項で述べた生地の鋼材の化学組成を満たす鋼αおよび鋼βを50kg真空溶解炉で溶解した後、インゴットに鋳造した。
Figure 0005206271
鋳造後の各インゴットは一旦室温まで冷却した後、再度1250℃で30分加熱し、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造して、直径35mmの丸棒を得た。
次いで、上記の直径が35mmの各丸棒に、920℃で1時間保持して室温まで大気中で放冷する処理を行った。その後、丸棒の中心部から鍛錬軸に平行に、機械加工によって直径が26mmで長さが240mmの試験片を作製した。
上記の試験片は、ガス浸炭炉を用いて、図1および表2に示す条件で浸炭窒化焼入れ(表2に示す処理条件記号B〜M)または浸炭焼入れ(表2に示す処理条件記号A)を行い、次いで、170℃で1.5時間の焼戻しを行った後、試験片の軸方向に垂直な面で3等分した。ここで、図1及び表2における「CP」は、カーボンポテンシャルを意味する。なお、上記の170℃で焼戻しを行ったのは、浸炭窒化焼入れ後の一般的な焼戻し温度が160〜180℃であるためである。
Figure 0005206271
このようにして3等分した試験片のうちの1つを用いて、表面から深さ0.1mmまでの領域(以下、「表層部」ともいう。)について、旋盤加工によって切粉を採取し、一般的な化学分析によって、CおよびNの含有量を測定し、表層部における平均のC濃度(Cs)および平均のN濃度(Ns)を求めた。
また、上記の3等分した試験片のうちの別の1つを用いて、さらに300℃で1時間の焼戻しを行った。なお、300℃で焼戻しを行ったのは、浸炭窒化部品の接触部近傍では200℃を大きく上回る温度まで昇温することがあり、300℃での焼戻し後の表層部の硬さが面疲労強度と相関が大きいためである。
170℃で焼戻し後に3等分した試験片のうちの残りの1つ、および上記のさらに300℃で焼戻した試験片を用いて、表面近傍のビッカース硬さを、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、次の方法で測定した。
すなわち、試験片の軸方向に垂直な面で2等分した切断面が被検面になるように鏡面研磨し、試験部の最表面から深さ0.05mmおよび0.10mmの位置で、試験力を1.961Nとして各5ヶ所測定し、それを算術平均して表層部のビッカース硬さとした。
表3に、上記の表層部分析結果とビッカース硬さ(Hv)測定結果を示す。また、図2〜7に、表層部の平均のC濃度(Cs)、平均のN濃度(Ns)、Cs+Nsとビッカース硬さとの関係を整理して示す。
Figure 0005206271
なお、本発明においては、ガス浸炭部品の面疲労強度と曲げ疲労強度を大幅に上回ることを目標としている。このため、面疲労強度および回転曲げ疲労強度はそれぞれ、ガス浸炭品である、後述する表8の試験番号1の面疲労強度を15%以上上回ること、および、その回転曲げ疲労強度よりも20%以上高い値の580MPaを目標とした。この目標を達成するためには、表8に示すように、170℃焼戻し材のビッカース硬さ(Hv)が760以上、および300℃焼戻し材のビッカース硬さ(Hv)が700以上であることが必要であるため、目標のビッカース硬さは、170℃焼戻し材は760以上、300℃焼戻し材は700以上とした。
図2〜7から、上記の目標硬さを達成する事例があるのは、表層部、つまり、表面から深さ0.1mmまでの領域における平均のC濃度(Cs)が0.60〜0.90%、平均のN濃度(Ns)が0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%であることがわかる。
そこで、表3の結果を見ると、表層部における平均のC濃度(Cs)が0.60〜0.90%、平均のN濃度(Ns)が0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%のすべてを満たす場合、常に目標の硬さを満足していることがわかる。
以上のことから、表面から深さ0.1mmまでの領域において、平均のC濃度Csが0.60〜0.90%、平均のN濃度Nsが0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%であることと規定した。
(C)生地の鋼材の化学組成と表層部のN濃度について:
本発明者らの検討によって、本発明に係る鋼製の浸炭窒化部品は、下記の式(イ)または式(ロ)で規定されるXの値が9.0以上でなければならないことが明らかになった。
Cr−(Ns×3.7)≧0の場合:
X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×[1+2.2×{Cr−(Ns×3.7)+(0.048/Ns)}]×(1+3.0×Mo)・・・(イ)
Cr−(Ns×3.7)<0の場合:
X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×{1+2.2×(0.048/Ns)}×(1+3.0×Mo)・・・(ロ)
なお、上記の各式におけるCr、Si、MnおよびMoは、生地の鋼材中のその元素の質量%での含有量を表す。
以下、上記の事項について詳しく説明する。
本発明者らは、化学成分が浸炭窒化後の表層部の組織に与える影響を明らかにするために、次の試験を行った。
すなわち、表4に示す前記(A)項で述べた生地の鋼材の化学組成を満たす鋼a〜kを50kg真空溶解炉で溶解した後、インゴットに鋳造した。
Figure 0005206271
鋳造後の各インゴットは一旦室温まで冷却した後、再度1250℃で30分加熱し、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造して、直径35mmの丸棒を得た。
次いで、上記の直径が35mmの各丸棒に、920℃で1時間保持して室温まで大気中で放冷する処理を行った。その後、丸棒の中心部から鍛錬軸に平行に、機械加工により図8に示す形状の切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片を各8本作製した。なお、図8における寸法の単位は「mm」である。
上記の試験片は、ガス浸炭炉を用いて、図1および表2に示す条件で浸炭窒化焼入れ(表2に示す処理条件記号FとG)を行い、次いで、170℃で1.5時間の焼戻しを行った。
このようにして得た切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の各1ヶについて、そのつかみ部の表面から深さ0.1mmまでの領域、つまり、表層部について、旋盤加工によって切粉を採取し、一般的な化学分析によって、CおよびNの含有量を測定し、表層部における平均のC濃度(Cs)および平均のN濃度(Ns)を求めた。
表5に、上記の表層部分析結果を示す。
Figure 0005206271
表5中に示すように、全ての試験片が、前記(B)項で述べた、表面から深さ0.1mmまでの領域において、平均のC濃度(Cs)が0.60〜0.90%、平均のN濃度(Ns)が0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%であることを満たしていた。
そこで、各鋼の残りの7ヶの切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片について、熱処理ひずみを除く目的で、つかみ部の仕上げ加工を行った後、室温での小野式回転曲げ疲労試験に供した。なお、試験条件は回転数3000rpmとし、その他は通常の方法とし、繰り返し数1.0×107回まで破断しなかったうちの最も高い応力を「回転曲げ疲労強度」とした。
このようにして求めた回転曲げ疲労強度を表5に併せて示す。
表5から、前記(B)項で述べた、表面から深さ0.1mmまでの領域において、平均のC濃度(Cs)が0.60〜0.90%、平均のN濃度(Ns)が0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%という条件を満たしていても、回転曲げ疲労強度は前記した580MPaという目標値を達成できない場合があることが明らかになった。
そこで次に、つかみ部の切粉採取に使用した切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の切欠き部を軸方向に平行な面で2等分した切断面が被検面になるように鏡面研磨し、ナイタールで腐食してから、光学顕微鏡によって、試験片表層部近傍を、倍率400倍で観察した。
その結果、回転曲げ疲労強度が前記した580MPaという目標に達していない試験片においては、旧オーステナイト粒界に沿って、マルテンサイト組織に較べて濃いコントラストを呈する箇所が認められた。
そこでさらに、走査型電子顕微鏡を用いて、倍率5000倍で観察した結果、この濃いコントラストを呈する部分は、パーライト組織やベイナイト組織であることがわかった。なお、上記のパーライト組織やベイナイト組織は、マルテンサイト組織の部分より軟質と考えられるため、この旧オーステナイト粒界近傍に生成した軟質な組織の生成を抑制することが、回転曲げ疲労強度を高めるために重要である、すなわち、旧オーステナイト粒界近傍の焼入れ性を高める必要があることが明らかになった。
ここで、鋼の焼入れ性は、理想焼入れをしたときの臨界直径、すなわちDIで見積もることができること、そしてDIは、化学成分などから見積もることができることが知られている。
なお、浸炭窒化したときの鋼材表層部の粒界ではCrNが生成しやすく、粒界近傍ではCr欠乏相が形成されるため、粒界近傍での軟質相生成を確実に防止するためには、CrNが最大限生成しても、所定の焼入れ性を確保する必要がある。
CrとNの原子量の比から、表層部において平均の窒素濃度(Ns)のNと結合する最大のCrの量は〔3.7×Ns〕%である。しかしながら、一般的な浸炭窒化の焼入れ温度である830〜870℃においては、CrNはマトリックスであるオーステナイト中にある程度は固溶でき、その量はCrNの溶解度積である下記の式(ハ)から見積もることができるので、この固溶Cr量を差し引く必要がある。
log[Cr][N]=(6095/T)+4.11・・・(ハ)
なお、式(ハ)におけるTは、絶対温度(K)単位での温度を表す。
上記の式(ハ)に、浸炭窒化時の焼入れ温度である850℃(1123K)を代入すると、[Cr][N]=0.048となる。
したがって、粒界近傍のCr量の下限Crgは、次に示す式、つまり、
Cr−(Ns×3.7)≧0の場合:
Crg=Cr−(Ns×3.7)+(0.048/Ns)・・・(ニ)
Cr−(Ns×3.7)<0の場合:
Crg=(0.048/Ns)・・・(ホ)
の式(ニ)または式(ホ)から求めることができる。
以上のことから一般的に知られているDIを見積もる相乗法に、上記した粒界近傍のCr量の下限を組み合わせると、式(イ)または式(ロ)が得られる。
Cr−(Ns×3.7)≧0の場合:
X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×[1+2.2×{Cr−(Ns×3.7)+(0.048/Ns)}]×(1+3.0×Mo)・・・(イ)
Cr−(Ns×3.7)<0の場合:
X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×{1+2.2×(0.048/Ns)}×(1+3.0×Mo)・・・(ロ)
表5に、〔Cr−(Ns×3.7)〕の値とともに、式(イ)または式(ロ)から求めたXの値を併せて示す。
また、図9に回転曲げ疲労強度と式(イ)または式(ロ)から求めたXの値との関係を整理して示す。
図9から、Xの値が9.0未満になると、回転曲げ疲労強度が大きく低下して、580MPaという目標を達成できないことが明らかである。
以上のことから、前記の式(イ)または式(ロ)で規定されるXの値が9.0以上であることと規定した。
なお、本発明の鋼製の浸炭窒化部品は、ガス浸炭炉、真空浸炭炉(減圧浸炭炉)などを用いて浸炭窒化処理すればよい。
また、複雑な形状の浸炭窒化部品の場合には、表層部、表面から深さ0.1mmまでの領域における平均のC濃度(Cs)および平均のN濃度(Ns)は、電子プローブ微量分析(EPMA)による線分析で測定してもよい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
表6に示す化学組成を有する鋼1〜15を50kg真空溶解炉で溶解した後、鋳造してインゴットを得た。なお、表5中の鋼1〜7および鋼9〜15は、本発明で規定する生地の鋼材の化学組成範囲内にある鋼である。一方、鋼8は、Alの含有量が本発明で規定する生地の鋼材の化学組成条件から外れた比較例の鋼である。
Figure 0005206271
鋳造後の各インゴットは一旦室温まで冷却した後、再度1250℃で30分加熱し、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造して、直径35mmの丸棒を得た。
次いで、上記の直径が35mmの各丸棒に、920℃で1時間保持して室温まで大気中で放冷する処理を行った。その後、丸棒の中心部から鍛錬軸に平行に、機械加工により直径が26mmで長さが240mmの試験片(以下、「丸棒試験片」と称する。)、図8に示す形状の切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片および図10に示す形状のローラーピッチング試験用小ローラーを作製した。なお、図10における寸法の単位は「mm」である。
上記の各試験片は、ガス浸炭炉を用いて、図1および表2に示す条件で浸炭窒化焼入れ(表2に示す処理条件記号C〜I、K、M)または浸炭焼入れ(表2に示す処理条件記号A)を行い、次いで、170℃で1.5時間の焼戻しを行った。
なお、上記の170℃で1.5時間の焼戻しを行った丸棒試験片については、軸方向に垂直な面で3等分し、その3等分した試験片のうちの1つを用いて、表面から深さ0.1mmまでの領域である表層部について、旋盤加工によって切粉を採取し、一般的な化学分析によって、CおよびNの含有量を測定し、表層部における平均のC濃度(Cs)および平均のN濃度(Ns)を求めた。
また、上記の丸棒試験片を3等分した試験片うちの別の1つを用いて、さらに300℃で1時間の焼戻しを行った。
丸棒試験片を170℃で焼戻し後に3等分した試験片のうちの残りの1つ、および上記のさらに300℃で焼戻した試験片を用いて、表面近傍のビッカース硬さを、JIS Z 2244(2003)における「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、次の方法で測定した。
すなわち、試験片の軸方向に垂直な面で2等分した切断面が被検面になるように鏡面研磨し、試験部の最表面から深さ0.05mmおよび0.10mmの位置で、試験力を1.961Nとして各5ヶ所測定し、それを算術平均して表層部のビッカース硬さとした。
170℃で焼戻ししたローラーピッチング試験用小ローラーおよび切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片は、熱処理ひずみを除く目的で、つかみ部の仕上げ加工を行った後、それぞれ、ローラーピッチング試験と室温での小野式回転曲げ疲労試験に供した。
ローラーピッチング試験は、上記のローラーピッチング試験用小ローラーと図11に示す形状のローラーピッチング試験用大ローラーの組み合わせで、表7に示す条件で行った。なお、図11における寸法の単位は「mm」である。
上記ローラーピッチング試験用大ローラーは、JISのSCM420の規格を満たす鋼を用いて、一般的な製造工程、つまり、「焼きならし→試験片加工→ガス浸炭炉による共析浸炭→低温焼戻し→研磨」の工程によって作製したものであり、表面から0.05mmの位置、つまり、深さ0.05mmの位置におけるビッカース硬さHvは740〜760で、また、ビッカース硬さHvが550以上の深さは、0.8〜1.0mmの範囲にあった。
Figure 0005206271
各試験番号について、ローラーピッチング試験における試験数は5とし、縦軸に面圧、横軸にピッチング発生までの繰り返し数をとったS−N線図を作成し、繰り返し数1.0×107回までピッチングが発生しなかったうちの最も高い面圧を「面疲労強度」とした。なお、小ローラーの試験部の表面が損傷している箇所のうちで、最大のものの面積が1mm2以上になった場合をピッチング発生とした。
室温での小野式回転曲げ疲労試験は、試験数を各7として、回転数3000rpm、その他は通常の方法によって行い、繰り返し数1.0×107回まで破断しなかったうちの最も高い応力を「回転曲げ疲労強度」とした。
表8に、上記の各試験結果をまとめて示す。なお、ローラーピッチング試験での面疲労強度の目標は、鋼Aを用いて浸炭焼入れした試験番号1の面疲労強度を15%以上上回ることとし、また、小野式回転曲げ疲労強度の目標は、上記試験番号1の回転曲げ疲労強度よりも20%以上高い値の580MPaとした。なお、表8においては、面疲労強度は試験番号1の値を「1.00」として表記した。
Figure 0005206271
表8から、本発明で規定する条件から外れた試験番号2〜8および試験番号16の場合には、ローラーピッチング試験における面疲労強度と小野式回転曲げ疲労試験における曲げ疲労強度のいずれか、または両方が目標に達していないことが明らかである。
上記の比較例に対して、本発明で規定する条件を満たす試験番号9〜15および試験番号17〜22の場合には、ローラーピッチング試験における面疲労強度および小野式回転曲げ疲労試験における曲げ疲労強度がともに目標を満たしており、表面硬化処理として最も代表的な浸炭焼入れによって製造した試験番号1の場合に較べて、大幅に優れた曲げ疲労強度および面疲労強度を有することが明らかである。
さらに、Mo、Ti、Nb、V、Ca、Mg、REMのいずれか1種以上を含有する鋼を用いた試験番号では、面疲労強度が試験番号1に対して20%以上、曲げ疲労強度が600MPa以上、のいずれか、あるいは両方を満たしており、さらに良好なことが明らかである。
本発明の鋼製の浸炭窒化部品は、曲げ疲労強度および面疲労強度が優れているので、自動車や産業機械の歯車、シャフトなどに用いることができる。
浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れのヒートパターンについて説明する図である。なお、アンモニア流量Gが0の場合が浸炭焼入れである。 浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れ後に170℃で焼戻しした場合の表層部の平均のC濃度(Cs)とビッカース硬さとの関係を示す図である。 浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れ後に170℃で焼戻ししてからさらに300℃で焼戻しした場合の表層部の平均のC濃度(Cs)とビッカース硬さとの関係を示す図である。 浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れ後に170℃で焼戻しした場合の表層部の平均のN濃度(Ns)とビッカース硬さとの関係を示す図である。 浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れ後に170℃で焼戻ししてからさらに300℃で焼戻しした場合の表層部の平均のN濃度(Ns)とビッカース硬さとの関係を示す図である。 浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れ後に170℃で焼戻しした場合の表層部のCs+Nsとビッカース硬さとの関係を示す図である。 浸炭窒化焼入れあるいは浸炭焼入れ後に170℃で焼戻ししてからさらに300℃で焼戻しした場合の表層部のCs+Nsとビッカース硬さとの関係を示す図である。 切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片形状を示す図である。なお、寸法の単位は「mm」である。 浸炭窒化焼入れ後に170℃で焼戻しした場合の回転曲げ疲労強度とXの値との関係を示す図である。 ローラーピッチング小ローラー試験片の形状を示す図である。なお、寸法の単位は「mm」である。 ローラーピッチング大ローラー試験片の形状を示す図である。なお、寸法の単位は「mm」である。

Claims (4)

  1. 生地が、質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.4〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.003〜0.05%、Cr:0.5〜2.5%、Al:0.01〜0.05%およびN:0.008〜0.025%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物としてのPおよびOの含有量が、P:0.025%以下、O:0.002%以下である鋼材であり、表面から深さ0.1mmまでの領域において、平均のC濃度Csが0.60〜0.90%、平均のN濃度Nsが0.15〜0.35%、Cs+Nsが0.80〜1.10%で、かつ、下記の式(イ)または式(ロ)で規定されるXの値が9.0以上であることを特徴とする鋼製の浸炭窒化部品。
    Cr−(Ns×3.7)≧0の場合:
    X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×[1+2.2×{Cr−(Ns×3.7)+(0.048/Ns)}]×(1+3.0×Mo)・・・(イ)
    Cr−(Ns×3.7)<0の場合:
    X=(1+0.7×Si)×(1+3.3×Mn)×{1+2.2×(0.048/Ns)}×(1+3.0×Mo)・・・(ロ)
    なお、上記の各式におけるCr、Si、MnおよびMoは、生地の鋼材中のその元素の質量%での含有量を表す。
  2. 生地の鋼材が、Feの一部に代えて、Mo:0.20%未満を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の鋼製の浸炭窒化部品。
  3. 生地の鋼材が、Feの一部に代えて、Ti:0.10%以下、Nb:0.08%以下およびV:0.15%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼製の浸炭窒化部品。
  4. 生地の鋼材が、Feの一部に代えて、Ca:0.003%以下、Mg:0.003%以下および希土類元素:0.02%以下のうちの1種以上を含有するものであることを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の鋼製の浸炭窒化部品。
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