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JP4565238B2 - 植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤 - Google Patents

植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤 Download PDF

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JP4565238B2
JP4565238B2 JP2005253392A JP2005253392A JP4565238B2 JP 4565238 B2 JP4565238 B2 JP 4565238B2 JP 2005253392 A JP2005253392 A JP 2005253392A JP 2005253392 A JP2005253392 A JP 2005253392A JP 4565238 B2 JP4565238 B2 JP 4565238B2
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Description

本発明は、植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤に関するものである。
ほとんどの植物は、根から窒素源として硝酸を多量に取り込む。この根から吸い込まれた窒素源は、葉において光合成で作成された糖由来の炭素源と結合し、炭素と窒素の化合物であるアミノ酸となり植物が生長する。従って、健康な植物体内には、常時、一定濃度の硝酸イオンが存在していて、ゼロにはできない。多肥栽培を行うと、植物の硝酸代謝能力以上に硝酸イオンが根から吸い込まれて、硝酸過多となって生長してしまう。結果的に増収となるが、未消化の残留硝酸の多さのため、腐敗が速く、食味も優れず、亜硝酸に変化すると発がん剤となったり、ヘム鉄と結び付きチアノーゼなどの症状を引き起こしてしまう。このため、農作物中の残留硝酸は、可能な限り低減する事が食の安心を求める市場から求められている。実際、EUでは葉野菜に含まれる硝酸濃度の許容基準値が、約三千ppm前後に定められている。
植物体内の硝酸は、亜硝酸を経てアンモニアへ還元され、それに続く炭素との結合による同化を受けアミノ酸へと代謝される。この窒素代謝回路を活性化させ硝酸を効率よく代謝させ、その濃度を低減するには、微量のモリブデン、マンガン、亜鉛、銅、鉄などの金属酵素の活性化が必要となる。このためには、まず、必須だが微量で十分な金属(微量必須金属と以降省略)濃度の確保が必要である。これに加え、光合成に必要な葉緑素やエネルギー分子ATPに関連したマグネシウムと、細胞骨格の強化に使用されるカルシウムは、金属の中でも特に多量に必要となる。また、光合成由来の炭素源を葉面から葉面散布により強制的に供給する事も硝酸代謝に効果的に作用する。実際にこれらの因子の制御を活用して植物の残留硝酸濃度低減効果を示した例として特許文献1〜特許文献12がある。これに加えて栽培方法で硝酸低減を行う特許文献13がある。
これら特許文献1〜13で用いられた硝酸低減の対策方針を分類すると次の項目群にまとめられる:
(0) 植物が肥大化するまでは硝酸態窒素で効率良く太らせ、十分に生育後に培地の窒素源をアモンニア態窒素にして培養する事による方法。即ち、根圏から硝酸を強制的に取り去って培養する方法。この方法は、水耕では可能であるが土壌栽培では困難で、増収にも難がある欠点を持つ。
(1) 金属酵素機能の補強
モリブデン、マンガン、亜鉛など微量必須金属(鉄や銅なども)を特定成分に偏らずバランス良く、葉面散布など適切な方法で供給する事。
(2) カルシウム、マグネシウムの十分な供給
骨格を作るカルシウムとエネルギー分子ATPや葉緑素に関与するマグネシウムを、(1)の金属よりも十分に多量に吸収させる事。
(3) 光合成機能の葉面への供与
紫外線領域の光を効果的に取り込む酸化チタン投与などのように光合成機能そのものを補助する事。
(4) 光合成産物、炭素源の葉面への供与
糖発酵液中の有機酸と糖のように光合成産物を強制的に直接補給する事。
(5) 成長ホルモンの供与
藻類などに含まれているオーキシン、ジベレリン、サイトカニン、ベタインなどの成長ホルモンを活用する事。
(6) 尿素態窒素の葉面への供与
土壌に散布された尿素は、バクテリアで硝酸に酸化されてしまう。これに対し、葉面から取り込まれた尿素は硝酸代謝を促す。
(7) 酢酸もしくは酢酸塩の培地への供与。
(8) アモンニア態窒素の葉面への供与。
葉内で代謝過程にある亜硝酸をアンモニアと反応させ強制的に窒素と水に分解させる。
(9) ペプチド態窒素の供与。
(10) アミノ酸(非α-アミノ酸)化合物の供与。
これら(0)から(9)の窒素活性化因子は単独で使用されたり、複数因子の組み合わせによる相乗効果により硝酸低減のため活用されている。具体的に硝酸低減に関する特許文献は以下のように解析される:まず、単独因子では、
因子(0)の特許文献13および14、
因子(1)の特許文献6および7、
因子(3)の特許文献8、
因子(4)の特許文献1、
因子(10)の特許文献10、
因子(7)の特許文献12、
因子(8)の特許文献11
がある。ついで、複合因子では、
因子(5)+(1)、もしくは因子(5)+(1)+(4)の特許文献4と5、
因子(4)+(2)+(6)で増収と同時に植物の抗酸化活性向上も行っている特許文献2、
因子(4)+(2)+(9)で特許文献2を凌ぐ特性を達成している特許文献3
に分類される。
硝酸低減については言及されてないものの、特許文献15と16において、グルタミン酸から誘導されるγ−アミノ酪酸(4-アミノブタン酸GABA)をグルタミン酸とカゼインタンパク質と一緒に葉面散布などで供与する事で植物の生育活性化がなされている。これら二つのアミノ酸(5−アミノレブリン酸とγ−アミノ酪酸)は、どちらも生体タンパク質を構成しているα−アミノ酸ではないが、植物活性の向上に効果がある。多くの特許文献でα−アミノ酸の植物生育に対する効用が実証なく記述されているが、特許文献17では、α−アミノ酸の中でメチオニン(Met)のみが根毛密度の増加に寄与している事が示されている。さらに、特許文献18は、メチオニンとトリプトファンを葉面散布することにより植物の糖の転流が促進される事を示している。植物活性に効果的に作用するα−アミノ酸と、そうでないα−アミノ酸がある事を特許文献17は示している。
高分子であるタンパク質を加水分解すると、その分子量が低下しペプチドを経て、最終的には最小構成単位のα−アミノ酸になる。大豆粕(特許文献17)、ゼラチン(特許文献19)由来のペプチドとアミノ酸、そして、動物性繊維(特許文献20)、米糠(特許文献21)由来のα−アミノ酸は、植物の生育促進をもたらす事が述べられている。しかし、これら四つの特許文献は、全て硝酸低減と抗酸化活性について言及してない。α−アミノ酸の中でもメチオニンのみが根の生育活性に相関している事を踏まえると、特許文献17から特許文献21におけるタンパク質分解物の生育促進に与える効果は、主に、α−アミノ酸態窒素よりはむしろ、ペプチド態窒素に由来していると考察するのが妥当である。
実際、ペプチド態窒素をマグネシウム含有の糖蜜発酵有機酸液に高濃度に共存させた葉面散布剤は、硝酸低減能はもちろんの事、植物の生育促進と抗酸化活性向上に大きく貢献している。本発明者(石川)は特許文献3にこれらの結果を示している。
特許文献2および3の葉面散布剤の処理により硝酸値は確かに低減するが、避けることができない問題がある。特許文献3の図2に示されているように、散布剤の植物体内への浸透で窒素代謝が活発化し、硝酸値は一時的に低下する。しかし、代謝により不足した硝酸濃度を補うために根を通じて再び硝酸が土壌から吸い込まれて、最終的には散布前よりも体内硝酸値が高まる。この植物体内の硝酸濃度の再増加こそが生育促進と増収につながっている。代謝活性化により低下した養分が必ず補われて、元の状態、もしくはそれ以上に回復してしまう現象は、生命活動を継続している以上避けることができない。即ち、散布直後からの経過時間に対して、植物体内の硝酸濃度は、最小値を迎え、その後再び増加してしまう。農作物生産者にとっては、低硝酸化した農作物を出荷するために、残留硝酸値が最小になっている時期を予測して、可食部位を培地から抜き取り、または切断し市場に出荷しなければならい。しかし、硝酸値がもっとも低下する時間とその低硝酸状態を維持する時間の予測は、品種、温度と日照、土壌の水分環境で左右されてしまうために、経験の領域を超える事はできない。
葉面散布型の野菜の葉面散布剤に求められる性能は、硝酸濃度の最小値を可能な限り低下させる事に加えて、低硝酸濃度を維持する時間も長期化させる特性である。
窒素代謝剤散布による植物体内硝酸濃度の時間変動現象は、特許文献2と3以外の葉面散布型葉面散布剤全てが本質的に持っている問題であろう。しかし、特許文献4〜10では、散布からの経過時間に対する硝酸値の変動については論述がない。従って、前項で記述した低硝酸状態を如何に長期化するかとの視点に立った葉面散布剤の開発がなされていない。
葉面散布剤散布で代謝が活性化し葉内の硝酸が低減する。その後、根から硝酸が再吸収するために硝酸濃度の時間変動が生じる。低硝酸化した状態を長時間維持するために、本発明者らは根からの硝酸吸収の制限を意識した。硝酸イオンは、極めて親水性が強力で水溶液として植物体内に取り込まれる。従って、根からの水分の吸い上げを制御すると、結果的に再吸収される硝酸量を制限できるはずである。
Figure 0004565238
表1は、特許文献1の葉面散布剤をほうれん草に葉面散布した際の残留硝酸値の変動をまとめている。ほうれん草を出荷サイズまで生育させた後、ハウス内で10日間一切水の散布を行わない圃場と連日灌水をおこなった圃場で散布試験を行っている。水切り処理を施している圃場では、対照区と比較して、散布一日後の5/5に約1000ppm硝酸値が低減するが、五日後の5/9には根からの再吸収のため対照区の硝酸値に近づいている。これに対して、連日灌水処理を行っている圃場では散布による硝酸値の変動が認められない。少なくとも特許文献1の葉面散布剤は、土壌が低水分の状態で用いると効果的である事がわかる。上述したように、水分制限のため、根からの硝酸吸い上げ量よりも、散布による植物体内硝酸の代謝量が勝っている状況と判断できる。このように、表1は、水分調整と葉面散布剤の作用効率との間に相関関係が存在する事を証明している。
特開2003-146786号公報(糖蜜発酵有機酸液) 特願2004-21836(糖蜜発酵有機酸液+マグネシウム) 特願2005-088449(糖蜜発酵有機酸液+マグネシウム+ペプチド態窒素) 特許第2793583号公報(褐藻成分) 特開2000-26183号公報(紅藻、緑藻成分) 特開平10-218713号公報(Mo、キトサン) 特開2003-180165号公報(Mo、アミノ酸、核酸) 特開2003-146786号公報(酸化チタンの紫外光捕集) 特開2001-2517号公報(蜂蜜と海水を含む天然塩) United States Patent 5,489,572(非α-アミノ酸、5-aminolevulinic acid) 特許公開平10-218713(アンモニアによる亜硝酸分解) 特許公開2001-190154(酢酸類の活用) 特許公開平10-290638(硝酸態窒素を含まない養液栽培) 特許公開平11-69920(硝酸態窒素を含まない養液栽培) 特許公表2003-525202、2003-12389(GABA、CASカゼイン、GLU) 特許公開2003-12389(GABA、GLU) 特許公開2003-73210(大豆粕分解物またはメチオニン) 特許公開2005-15438(メチオニン、トリプトファン、糖転流促進剤) 特許公開2003-12389(ゼラチン、ニカワ由来のペプチド類、アミノ酸) 特許公開2003-160391(動物性繊維を硫酸で加水分解 方法) 特許公開平7-10670(米糠エキスに黒砂糖で発酵、製造とその製品)
上述した知見により本発明者らは、葉の保湿効果を高めて、葉からの水分の蒸散を抑制低下させ、結果的に根からの水の吸収を制限すると同時に、これまで以上に強力に植物体内の硝酸代謝の活性化が可能な葉面散布剤の開発を重要課題とし、完成した。
つまり本発明は、植物の可食部位における残留硝酸濃度をより強力に低減させ、同時にこの低減した硝酸濃度状態をより長時間維持させる葉面散布剤を開発したのである。
本発明は、葉の保湿剤として、食用可能であるグリセリンを高濃度に使用した。このグリセリンは、保湿効果だけでなく、自身が炭素源として葉の中で代謝され、また、他要素の細胞膜への浸透を促進する効果を併せ持つ。また、葉内の硝酸代謝の速度をさらに増加させる促進剤としてγ−アミノ酪酸(GABA)やメチオニン(Met)を併用した。即ち、前述した硝酸削減因子(4)+(2)+(9)にグリセリンと該アミノ酪酸およびメチオニンの相乗効果を加えたものであり、その特徴とする技術条件は次の通りである。
(1)、糖類発酵有機酸水溶液と、マグネシウム塩溶液と、グリセリンと、アミノ酪酸及びメチオニンを含有してなる植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤。
(2)、糖水溶液とタンパク質水溶液を酵母種菌により糖発酵とタンパク質分解した糖類発酵有機酸水溶液と、マグネシウム塩溶液、グリセリンと、さらにアミノ酪酸及びメチオニン(Met)を含有してなる植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤。
(3)、可溶性総ペプチド濃度を可溶性総アミノ酸濃度以上に高めた糖類発酵有機酸水溶液と、マグネシウム塩溶液と、グリセリンと、アミノ酪酸及びメチオニンを含有してなる植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤。
(4)、酵母種菌により発酵させた糖水溶液に所定量の酢と尿素を加えた糖類発酵有機酸水溶液と、マグネシウム塩溶液、グリセリンと、さらにアミノ酪酸及びメチオニン(Met)を含有してなる植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤。
(5).タンパク質含有の糖水溶液を酵母種菌により発酵させ、その溶液に所定量の酢を加え糖類発酵有機酸水溶液とする。この糖類発酵有機酸水溶液100重量%に対し、酢酸マグネシウムをマグネシウム濃度が1〜6重量%になるように溶解させる。これらの混合溶液100体積%に対して5〜30体積%のグリセリンを添加する。さらにこのグリセリン混合液1L当たり、アミノ酪酸1〜20g及びメチオニンMet1〜20gとを含有させてなる植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤。
(6).糖水溶液を酵母種菌により発酵させ、その溶液に所定量の酢と尿素を加え糖類発酵有機酸水溶液とする。この糖類発酵有機酸水溶液100重量%に対し、マグネシウム塩をマグネシウム濃度が1〜6重量%になるように溶解させる。これらの混合溶液100体積%に対して5〜30体積%のグリセリンを添加する。さらにこのグリセリン混合液1L当たり、アミノ酪酸1〜20g及びメチオニンMet1〜20gとを含有させてなる植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤。
農作物生産現場では、圃場への施肥量が同じで、同一品種であっても、日照や気温、土壌中の水分など一定でない。このため、葉面散布剤の葉面散布から収穫までの待ち時間の設定見込みが非常に困難である。長すぎれば硝酸の再吸収が起こり、短すぎれば十分に硝酸を代謝できていない状況に遭遇する。
本発明の植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤は、散布母体液、即ち、ペプチド態窒素もしくは尿素に富む前記糖類発酵有機酸水溶液にマグネシウム塩を高濃度に溶解させた母液に、食用可能なグリセリンを高濃度に加え、更にγ−アミノ酪酸(GABA)とメチオニン(Met)を作用させたものである。グリセリンは葉の保湿効果を高めて、葉からの水分の蒸散を低減抑制し、根からの水に溶解した硝酸の取り込みを制限する(効果1)。また、グリセリンは、他成分の細胞浸透性も優れているため、生育活性能を持つGABAとMetの葉面からの取り込みを加速する。さらに、グリセリンはそれ自身が炭素源として代謝されるため、グリセリン、GABA、Metの三者を併用することは非常に効果的な葉内の硝酸代謝につながる(効果2)。効果2が母体液の硝酸低減作用と一緒に働く事により、植物の可食部位における硝酸濃度を速やかに、強力に低下させた高品質状態にする。さらに、効果1による根からの硝酸取り込み制限が、この高品質状態つまり残留硝酸低濃度状態をより長時間(期間)維持させる。低硝酸濃度の長期化は、農作物生産者に幅広い有効収穫作業期間を与える優れた効果を有するもので、農作物生産現場とって、極めて優しく効果的な葉面散布剤である。
本発明の葉面散布剤は、好ましい母液として、表3に示すペプチド態窒素に富む糖類発酵有機酸水溶液にマグネシウムを含有させたもの又は尿素を含む糖類発酵有機酸水溶液にマグネシウムを含有させたものを用いる。この母液にグリセリンと特定アミノ酸(同重量のGABAとMetの一種以上)を添加するものである。
マグネシウムは、代謝に不可欠なエネルギー化合物であるATPを活性化させるため、可能な限り高濃度が望ましい。蒸散抑制、炭素源、浸透補助の役目のグリセリンは、水にとける有機化合物であるため、高濃度では生育傷害が発現する。従って、作物毎にグリセリンの適切な上限濃度を設定するのが好ましい。高価なGABAとMetは、最も効果が高まる最低濃度を設定する事が好ましい。
この植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤の最良の形態と好ましい製造過程における各種成分濃度との関係を次に詳述する。
タンパク質を窒素源として含む場合:炭素濃度が25〜35重量%の糖水溶液と、水溶性タンパク質源濃度が7〜26重量%のタンパク質水溶液を、体積比で4(糖水溶液):6(タンパク質水溶液)から3(糖水溶液):7(タンパク質水溶液)の割合で混合溶解させる。この結果この混合液は炭素濃度として10〜14重量%の糖と、4〜16重量%の水溶性タンパク質源を含む水溶液となる。次にこの水溶液を酵母種菌により糖の有機酸への発酵と同時にタンパク質をペプチドとアミノ酸へ分解して、トリクロロ酢酸処理後の可溶ペプチドがLOWRY法による定量値で30〜60g/L濃度含まれる糖類発酵有機酸水溶液にし、この糖類発酵有機酸水溶液100重量%に、酢に溶解した濃度2〜4重量%のマグネシウム天然鉱石を1〜6重量%又はこのマグネシウム塩溶液及び尿素を溶解させる。この水溶液に対してグリセリンを5〜30体積%溶解させる。さらにこのグリセリン混合液1L当たり、アミノ酪酸1〜20g及び又はメチオニンMet1〜20gを加える事で本例の製造過程を終了する。
尿素を窒素源として含む場合:糖水溶液を酵母種菌により発酵させ、その溶液1Lに所定量の酢(10〜20度100mL)と尿素(50〜400g)を加え糖類発酵有機酸水溶液とする。この糖類発酵有機酸水溶液100重量%に対し、マグネシウム塩をマグネシウム濃度が1〜6重量%になるように溶解させる。これらの混合溶液100体積%に対して5〜30体積%のグリセリンを添加する。さらにこのグリセリン混合液1L当たり、アミノ酪酸を1〜20g及びメチオニンMetを1〜20gとを加える事で本例の製造過程を終了する。
そしてこのようにして製造して得た葉面散布剤において、植物に散布する際の希釈程度は、通常は水で50〜1500倍に希釈し、より好ましくは水で100〜500倍に希釈すれば後述の所期の各種効果が確実に得られるものである。
本発明におけるアミノ酪酸は、GABA(4-アミノブタン酸)であるが、BABA(3-アミノブタン酸)やAABA(2-アミノブタン酸)であっても可能である。メチオニンは、L体、D体、DLラセミ体の区別を問わない。
本発明における前記マグネシウム塩の対陰イオンはカルボキシレート(-CO2 -)である。
本発明におけるグリセリンは、保湿剤を意図して添加するが、実際には、グリセリンが共存すると細胞膜への多様な化合物の浸透性が高く、また、それ自身が炭素源として葉内で代謝に活用されるため、硝酸低減に対して複合的な役割を担っていると考えられる。グリセリンとしては99%以上の粘性のある純グリセリンから、水を含むグリセリン水であっても可能である。添加量の上限は、一般的な細胞膜内タンパク質の変性を考えると40体積%以下が望ましく、好ましくは30体積%以下である。また、天然油を加水分解してアルキル脂肪酸を除去、もしくは共存のまま得られる粗グリセリン水溶液でも使用できる。アルキル脂肪酸は有機酸として葉面散布剤の中で活用される。
本発明におけるタンパク質源には、卵類、乳類、血液由来物質、豆乳類など水に分散もしくは溶解が容易なものが好ましい。
本発明における糖類としては、廃糖蜜がコスト面から優れているが、精製した砂糖、黒砂糖、蜂蜜、果糖、乳糖など食品用の糖が好ましい。もちろん、化学試薬レベルにまで生成したグルコース、マルトース、スクロースも使用できる。マグネシウム塩は、酢酸マグネシウムやアミノ酸マグネシウム錯体塩が好ましいが、苦汁や硫酸マグネシウムなどその他のマグネシウム塩でも構わない。
比較として、前記マグネシウム塩の代わりにカルシウム塩や酸化チタン、モリブデン塩、亜鉛塩、マンガン塩など必須微量金属塩を飽和溶解させた葉面散布剤に対してもグリセリンと前記特定アミノ酸の添加は、その硝酸低減特性を向上させることと推察される。一方、撥水(親油)性のパラフィン系などの蒸散抑制剤を保水剤としてのグリセリンの代わりに活用することも可能であるが、この変形も本発明と同様の優れた効果は得られない。
次に本発明の植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤の散布による葉野菜の硝酸低減効果を、散布からの経過時間に対して表4から表6にまとめている。表3でグリセリンと特定アミノ酸の二つの添加因子の内、グリセリンの欠如効果を高菜において観察した。表4では、逆に特定アミノ酸の欠如効果をほうれん草で確認した。表5ではグリセリン量の効果を観察している。表6と表7では特定アミノ酸量の効果を観察している。表3から表6まではペプチド態窒素に富む母液を利用しているが、表7と表8では尿素を含む母液を利用してグリセリンと特定アミノ酸の共存効果を観察している。表9は、硝酸値でなく、増収効果に与えるグリセリンと特定アミノ酸の共存効果をまとめている。
本発明の植物体内の残留硝酸低減用葉面散布剤の葉面散布は、ほうれん草などの葉野菜、大根などの根菜、トマトなどの果菜からブドウや梨などの果樹に対して使用できる。露地栽培の場合、葉面散布の好ましい時期は、植物の生長が大きく制限される厳寒期以外が好ましい。厳寒期では、表1から表8の優れた結果が発現しにくい。
以下、本発明の実施例を説明する。尚、本実施例において、成分の割合、混合手順、操作手順は、適時入れ替えと変量可能である。
(葉面散布剤の製造)
表2には、母液として糖発酵液1、糖発酵液2、糖発酵液3の各例を示す。糖発酵液1は、可溶性ペプチドに富む糖蜜発酵有機酸液に酢酸マグネシウムを飽和溶解した母液である。糖発酵液2は、尿素を所定量添加した糖蜜発酵有機酸液に硫酸マグネシウムを飽和溶解した母液である。糖発酵液3は、糖発酵液2に粉末海藻を添加した母液である。以下に糖発酵液1、2および3の具体的な製造方法を述べる。
糖発酵液1の製造: 卵白18L(リットル以下同じ)を激しい撹拌で室温で水に溶解させ、60Lの水溶液とした。均一溶解が困難な場合には、加熱により殺菌処理した海水(イオン強度が高い水)を室温で1Lほど添加し溶解させる。脱脂粉乳の場合は、市販牛乳とほぼ同じ濃さを目安に、4.6kgの粉乳を温水に撹拌しながら溶解させ60Lの水溶液とする。これら水溶液と廃糖蜜液(炭素28wt%、比重1.39、Brix度82%)40Lを混合し、十分に撹拌して100Lのタンパク質と糖蜜の混合水溶液を得る。これに種菌液を1Lほど混合し、外気の流入を遮断した上で、恒温相中で33℃前後に撹拌する事無く静置する。一週間に一度の割合で撹拌を兼ねた空気吹き込みを実施し、糖度計による糖度を追跡する。糖度が、一定値に収束するまで、静置を続ける。仕込み後、1−2週間は、発酵に基づく激しい二酸化炭素の発泡が認められ、その後、上記の条件で数ヶ月発酵を継続させると「醤油」臭の黒色水溶液が得られる。発酵度合いを屈折率型糖度計で追跡した場合、卵白の場合は、仕込み直後 41.0±0.5 Brix %の糖度が、次第に減少し、30.5±0.5Brix %で一定値を示すようになる。この発酵液2.75Lに対し、20度の食用酢250mLを混合する。さらにこの約3Lの水溶液に水和した酢酸マグネシウム固体を室温で飽和溶解に達するまで溶解させて糖発酵液1を得る。
糖発酵液2の製造: 廃糖蜜液(炭素28wt%、比重1.39、Brix度82%)40Lを純水60Lに室温で撹拌溶解させ100Lの水溶液を得る。これに種菌液を1Lほど混合し、外気の流入を遮断した上で、恒温相中で30℃前後に撹拌する事無く静置する。一週間に一度の割合で撹拌を兼ねた空気吹き込みを実施し、糖度計による糖度を追跡する。糖度が、一定値に収束するまで、静置を続ける。仕込み後、2-4週間は、発酵に基づく激しい二酸化炭素の発泡が認められ、その後、上記の条件で6ヶ月以上発酵を継続させると27-30 Brix %糖度で一定値を示すようになる。この発酵液1.0Lに対し、15度の食用酢100mLと尿素粉末400gを加えて水溶液を得る。この尿素入り水溶液に硫酸マグネシウム粉末を室温で飽和溶解に達するまで溶解させて糖発酵液2を得る。
糖発酵液3の製造: 糖発酵液2の製造過程で得られる27-30 Brix %糖度の発酵済み液1.0Lに対し、15度の食用酢100mLと尿素粉末200gを加えて水溶液Aを得る。これとは別に、糖発酵液2の製造過程で得られる27-30 Brix %糖度の発酵済み液1.0Lに対し、15度の食用酢100mLと海藻粉末25gを溶解させて水溶液Bを得る。水溶液Aと水溶液Bを等体積混合して糖発酵液3を得る。
尚、上記製造説明において、
注1: 卵白18Lを、第一製糖(株)社の糖蜜40L、水42Lと共存下、36℃で3月間、酵母発酵した糖蜜発酵液を使用。
注2: 一切の水溶性タンパク質源を含まない、第一製糖(株)社の糖蜜40Lと水42Lを、室温で10ヶ月間、酵母発酵した糖蜜発酵液を使用。
注3: 硫酸マグネシウム、食品添加物、赤穂化成社を使用。酢酸マグネシウムは、有機JAS認証済みク溶解性苦土鉱石(陸王、日本バイオ肥料社)と醸造酢(HA150、マルカン酢社)を原料として加熱とろ過操作のみで固体酢酸マグネシウムを作成して使用。
注4: アルギン酸を約30重量%、ラミナリンを約5重量%、フコダインを約10重量%、マンニットを約 8重量%、その他の構成成分は糖中心の海藻粉末(窒素2重量%、リン酸P2O5 2重量%、カリK2O 15重量%)。
Figure 0004565238
次いで、糖発酵液1に純粋グリセリンを40体積%を上限として添加した。糖発酵液2と3には純粋グリセリンを14体積%を添加した。さらにこのグリセリン混合液1L当たり、特定アミノ酸としてGABA 2.5g〜10gとMet 2.5g〜10gを加え、外部型超音波処理により溶解させた。
これらの操作により、炭素源としての有機酸とグリセリン、窒素源としてのα-アミノ酸とペプチド、非α-アミノ酸、尿素そしてマグネシウム中心とした金属イオンを含めた2種類の葉面散布剤、即ち表3〜表6に記載のA0〜A5と、表7〜表9に記載のB1、B2とC1を得た。
表3〜表6の葉面散布剤A0〜A5は100倍、表7〜表8の葉面散布剤B1とC1は500倍、表7のB1とB2は300倍に水で希釈して植物の葉面に散布処理した。散布頻度は、収穫までの週1回ないし2回の散布で効果が得られる。これよりも多く用いる場合は、吸肥が旺盛になるため、土壌中の肥料残量を追跡しながら散布することが好ましい。
(農作物評価方法)
測定対象とした農作物を同一の条件(温度、日照、水分)で複数固体生育させた。本例の葉面散布剤を用いる区(散布区)と用いない区(対照区)を同数用意した。試験は、西南暖地(大分市と佐伯市)で実施した。
評価対象の農作物、高菜とほうれん草は、水などの媒体を一切添加する事なく、作物そのものをすり鉢で十分に破砕後、水溶液と不溶繊維物をポリエチレンの不織布で濾別し、濾過液の分析を行った。硝酸イオンは、呈色法を活用したRQフレックス(メルク社製)を用い標準液で補正後に定量した。採取は、株全体を分析するのではなく勢いのある外葉を異なる20株から無作為に一株から1葉もぎ取った。その20葉を一緒にして一つの野菜汁試料とした。
農作物のサンプリング時間は、サンプリング時刻を分析作物毎に固定した。葉の分析では、葉柄と葉部位を一緒にしている。
Figure 0004565238
(グリセリンの効果−高菜での評価)
表3には、3/12と13の両日、高菜の葉の表裏面に葉面散布剤A1の100倍希釈水溶液を霧吹きで十分に吹き付け、19日までの葉の硝酸濃度をまとめている。無散布地区Z1の硝酸値は1000ppm前後で一定している。これに対して、三つの散布区Z2〜Z4の硝酸値は変動している。特定アミノ酸とグリセリンを含まない糖発酵液1のみの散布地区Z2では、散布翌日に660ppmとやや硝酸濃度が低下するが日数の経過とともに硝酸濃度が増加し、19日には散布直前の硝酸濃度を越して1600ppm近くに達している。糖発酵液1に特定アミノ酸のみを加えた葉面散布剤a1の散布処理地区Z3では、15日に硝酸濃度が240ppmまで低下して、その後上昇に転じる。糖発酵液1にグリセリンと特定アミノ酸の双方を加えた葉面散布剤A1の散布処理地区Z4では、硝酸濃度の低下幅が最も大きく、15日には200ppmを下回り、19日になっても200ppmを切ったままである。
糖発酵液1に特定アミノ酸(GABA+Met)のみを添加した葉面散布剤a1の散布処理地区Z3は、高菜の硝酸濃度が低減し、低硝酸化した期間が長期化している。この特徴は、グリセリンの存在でより顕著になる事が表3から明らかである。
Figure 0004565238
(特定アミノ酸の効果−ほうれん草での評価)
表4には、3/30、ほうれん草(品種アンナ)に葉面散布剤A1の100倍希釈水溶液を霧吹きで十分に吹き付け、4/2日までの葉の硝酸濃度をまとめている。無散布区Z5の硝酸値は、3000ppm前後で一定している。一方、二つの散布区Z6 、Z7の硝酸値は無散布地区Z5に比し変動している。一つは糖発酵液1にグリセリンだけを加え特定アミノ酸を含まない葉面散布剤a2の散布地区Z6で、ここはゆっくりと硝酸濃度が低下し、散布後三日目で3340ppmから2700ppmまで低下する。これに対して、もう一つは糖発酵液1に特定アミノ酸とグリセリンを同時に添加した葉面散布剤A1の散布処理地区Z7で、ここは散布後二日後に1300ppmまで低下し、その後、硝酸濃度の増加に転じている。
ほうれん草に対しては、ゆっくりと硝酸濃度を低下させるグリセリンのみの添加した葉面散布剤a2よりも、グリセリンと特定アミノ酸を同時に添加した葉面散布剤A1による硝酸代謝が効率良い事が明らかである。
表3の高菜と表4のほうれん草の結果は矛盾しない。品種が異なっても、葉の硝酸濃度の効果的な低下には、糖発酵液1にグリセリンと特定アミノ酸を共存させた葉面散布剤A1が有効である事がわかる
(グリセリン濃度の効果−ほうれん草での評価)
表5は、3/18の午前中、ほうれん草に葉面散布剤A0からA5の100倍希釈水溶液を霧吹きで十分に吹き付け、20日までの葉の硝酸濃度をまとめている。グリセリン含有量が、7、14、27、40体積%の五つの葉面散布剤を評価している。特定アミノ酸は、五つの葉面散布剤全てで同じ濃度に調整している。グリセリン濃度を変化させた散布地区Z9、Z10、Z11は、全て無散布地区Z8に比し、散布当日の日没前には、2990ppmから1600〜2000ppmまで急速に低下している。グリセリン濃度の効果は、散布翌日以降に認められる。グリセリン濃度が低い散布地区Z9とZ10では、翌日には硝酸濃度が上昇に転じ、散布三日後には散布前とほぼ同等の約3000〜3200ppmまで高まっている。一方、グリセリン濃度が高い散布地区Z11では、三日後であっても1500ppmを下回っている。また、最も高いグリセリン濃度のZ12では、生育傷害が認められ評価できなかった。
Figure 0004565238
表5から、葉面散布剤中のグリセリン濃度の増加に伴う、低下した硝酸濃度の維持期間の増大がわかる。しかし、グリセリン濃度を40体積%と極端に上げると、ほうれん草では生育障害が発生してしまう。品種や気候にあわせたグリセリン濃度の決定が必要である。少なくとも春先のほうれん草に対しては、Z11が最も優れた硝酸低減特性を示している。
Figure 0004565238
(特定アミノ酸濃度の効果−ほうれん草での評価−その1)
表6は、3/18の午前中、早春ほうれん草(アトラス)に葉面散布剤A1、A4とA5の100倍希釈水溶液を霧吹きで十分に吹き付け、20日までの葉の硝酸濃度をまとめている。グリセリン含有量は全て、14体積%としている。特定アミノ酸量は、三つの葉面散布剤で 1L当たりGABA/Met 2.5g/2.5g、同5.0g/5.0g、同10.0g/10.0gと変化させている。確かに、特定アミノ酸の量を変化させた散布地区Z13、Z10、Z14は、全て無散布地区Z8に比し、散布当日の日没前には、2990ppmから1500〜2900ppmまで低下している。しかし、硝酸値の低減度合いは、特定アミノ酸濃度に依存している。最も特定アミノ酸濃度が低い散布地区Z13では、どのサンプリング時間であっても2500 ppmを下回ることはない。これに対し、最も特定アミノ酸濃度が高いZ14では、1510ppmまで低下して、翌日からは硝酸値が上昇している。これらの中間の特定アミノ酸濃度であるZ10は、わずかにZ14に硝酸低減能において及ばないもののZ14とほぼ硝酸低減特性は同じであると結論できる。
Figure 0004565238
(特定アミノ酸濃度の効果−ほうれん草での評価−その2)
特定アミノ酸の濃度効果の再現性を異なる母液で確認した。表7は、6/5の午前中、初夏ほうれん草(アクティオン)に葉面散布剤B1とB2の300倍希釈水溶液を霧吹きで十分に吹き付け、8日までの葉の硝酸濃度をまとめている。グリセリン含有量は全て、14体積%としている。特定アミノ酸量は、二つの葉面散布剤で 1L当たりGABA/Met 5.0g/5.0g(B1区)と同10.0g/10.0g(B2区)と変化させている。4回の散布処理によりグリセリンと特定アミノ酸を含まない糖発酵液2のみの処理では4000ppmを超える硝酸濃度があり、根からの硝酸取り込みが、葉内での硝酸代謝よりも優先している。これに対し、特定アミノ酸とグリセリンを添加した区では、4回目の散布直前から2500ppm程度の小さな硝酸値で、散布によりさらに硝酸値の低下が生じる。特定アミノ酸濃度効果ははっきりと現れている。春先のデータを示した表6では、A1区が、A5区よりもわずかに良好な硝酸低減特性を示しているが大差と言うほどの差ではない。これに対し、初夏のデータを示した表7は、GABA/Met10.0g/10.0gのB2区が、同5.0g/5.0g区のB1区よりも劣った硝酸低減特性(硝酸低下の度合いが小さく、硝酸の再上昇も早い)を示している。
表6と表7から、特定アミノ酸の量は、少なからず、多からずの最適量の設定が不可欠である事がわかる。この最適濃度は、母液、栽培品種、栽培時期、気候でも変動すると考えられる。少なくともほうれん草に対しては、1L当たりGABA/Met 5.0g/5.0gの特定アミノ酸濃度が、効果的と判断できる。
Figure 0004565238
(異なる糖発酵液を母液とした添加効果−ほうれん草での評価)
ペプチド態窒素と酢酸マグネシウムの存在を特徴とした糖発酵液1に代わり、尿素と硫酸マグネシウムの含有を特徴とした糖発酵液2(葉面散布剤B1)と海藻の添加を特徴とする糖発酵液3(葉面散布剤C1)を母液として、硝酸濃度に与えるグリセリンと特定アミノ酸を添加した効果を表7にまとめている。糖発酵液2のみの散布処理地区Z19の硝酸値は、無散布地区Z18のそれよりもむしろ増加している。これに対して、糖発酵液2にグリセリンと特定アミノ酸を含む葉面散布剤B1の散布処理地区Z20は、散布当日の日没前には、3240ppmから2350ppm前後まで急速に低下し、散布四日後の5/30には1340ppmまで低下している。一方、海草成分とグリセリンと特定アミノ酸含有を特徴とする葉面散布剤C1の処理区Z21は、散布当日の日没前では硝酸値の低下が認められないが、翌日、翌々日には3240ppmから2310、219ppmとゆっくりと低下している。
表8に示す葉面散布剤B1とC1の結果は、表3から表6の糖発酵液1を母液とするグリセリンと特定アミノ酸の添加の葉面散布剤A1、A2の効果と本質的に同じである事がわかる。海藻成分を用いた硝酸削減剤にも使用できる。もちろん、硝酸低減の速度などには、糖発酵液1系の葉面散布剤と糖発酵液2および3系の葉面散布剤で差が現れ、糖発酵液1を母液としたグリセリンと特定アミノ酸添加系の葉面散布剤A1、A2の方が、より速やかな硝酸濃度の低減能力を持っている。
Figure 0004565238
(収量への影響)
糖発酵液2および糖発酵液3にグリセリンと特定アミノ酸を添加した葉面散布剤B1とC1が、収穫量に及ぼす影響を表9にまとめている。散布処理は、計三回行い、最終散布から二日後の5/28から連続して三日間の収穫量調査を行った。表9の重量は、異なる20株から一葉を採り、計20葉の合計重量である。対照とする無散布地区Z22は、散布地区ともに5/28から30までの三日間で大きな変動はない。その平均値をみると、無散布地区Z22が最も少ない収穫量で、葉も一回り小さい。これに対して、糖発酵液2のみの散布地区Z23が最も収量に優れて、葉も一番大きい。糖発酵液2および糖発酵液3にグリセリンと特定アミノ酸を添加した系葉面散布剤B1とC1の散布地区Z24とZ25は、これらの中間の収穫量を示す。
糖発酵液2および糖発酵液3にグリセリンと特定アミノ酸を添加した葉面散布剤B1とC1は、硝酸低減に関して正の効果を発現するが、収穫量の増加、即ち、生育活性化には、若干負の効果を示している事が表9から明確である。既に述べたように、植物体内の硝酸濃度低減のためには、根から吸い込まれる硝酸量を制限した上で、植物体内の硝酸を代謝させる事が肝要である。糖発酵液2および糖発酵液3へのグリセリンと特定アミノ酸の添加により、根から取り込まれる硝酸量よりも、植物体内での硝酸代謝量が勝り、少ない硝酸量の分だけ生育できないことを意味している。
(好ましい散布剤の使用方法)
増収と同時に硝酸の低減を行うには、糖発酵液1、もしくは、糖発酵液2単独を使用して生育促進させ、収穫予定直前に硝酸低減能に優れる本発明の糖発酵液1又は糖発酵液2にグリセリンと特定アミノ酸を添加した葉面散布剤A1、A2、B1等を散布するコンビネーションが極めて重要であり効果的である。
流通業者は、野菜の硝酸低減を農作物生産者に求めている状況が増えてきた。このために多様な葉面散布剤が、作物生産者から要求され、開発されている。しかし、この葉面散布剤を用いても、生産現場では、上手く野菜等の体内残留硝酸値を低減できる時もあれば、不可能な時もあるのが実情であった。即ち、葉面散布剤を利用しても、低い一定幅の残留硝酸値を持つ品質管理された作物の生産が困難である。大きな原因は、散布処理により一時的に硝酸低減状態になっても、生命活動のため根から硝酸が再び吸収されるからである。前記した硝酸低減機能を持つ糖発酵液にグリセリンと特定アミノ酸を同時に加える本発明は、硝酸値を大きく低下させ、低硝酸状態をより長く維持できる。農作物の現場にとっては、効果的に硝酸低減が可能な農業資材となっている。本発明は、健康安心など品質を最優先に保証した農業マーケットの活性化に貢献できる先導的な農作物の葉面散布剤である。有機農業の生産性向上に加え、高品質を定量的にPR可能で、差別化された有機作物として経済効果を生み出せるはずである。

Claims (2)

  1. ペプチド類の重量濃度が30〜60g/Lである糖と水溶性タンパク質の糖類発酵有機酸水溶液100重量%に対して、マグネシウム塩溶解によりマグネシウム濃度を1〜6重量%にし、更に前記マグネシウム塩を溶解した糖類発酵有機酸水溶液100体積%に対して5〜30体積%のグリセリンを溶解し、更に前記マグネシウム塩とグリセリンを溶解した糖類発酵有機酸水溶液1L当たりアミノ酪酸1〜20g及びメチオニン1〜20gを添加してなる葉面散布剤。
  2. 水溶性タンパク質が卵白と粉乳の一つ以上である請求項1に記載の葉面散布剤。
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