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JP4398124B2 - 薬理活性物質の放出を温度でコントロールできるバルーンカテーテル - Google Patents

薬理活性物質の放出を温度でコントロールできるバルーンカテーテル Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管、胆管や尿管などの管腔系器官の治療法に用いるバルーンカテーテルに関係する。さらに詳しくは、カテーテルの先端部位近くに位置するバルーンに薬理活性物質を担持させ、これを管腔系器官の疾患部位に誘導し、疾患部に特異的に薬理活性物質を投与することを可能にするバルーンカテーテルに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からバルーンカテーテルを用いて薬理活性物質を疾患部位に投与する種々の試みが行われてきた。例えば、バルーン上に形成されたハイドロゲル層に薬理活性物質を含浸させ、これを疾患部位に持って行き、疾患部位に薬理活性物質を特異的に投与する試みも行われた。しかし、通常疾患部位へバルーンを誘導するのに数分、場合によっては数十分も要することも多く、この時間の間にバルーン上の薬理活性物質は流れさってしまい、有効な局所投与が行えなかった。また、微細孔を有するバルーンを用いて、疾患部位で薬理活性物質溶液を噴射することが行われたが、用いた薬理活性物質で疾患部位に注入されるのは極めて僅かでであり、投与した薬理活性物質の大部分は例えば血流にのって全身に運ばれ、その副作用が問題になっていた。以上が、疾患部に効率的に薬理活性物質を投与できるバルーンカテーテルの開発が望まれるゆえんである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
バルーンカテーテルのバルーン部位を疾患部位に誘導する数十分の間は、バルーンは薬理活性物質を保持し、疾患部位でバルーンを膨らませたときにバルーンは疾患部位に押しつけられるとともに、保持していた薬理活性物質を放出し、疾患部位に効率よく薬理活性物質が投与できるバルーンカテーテルを開発する。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意研究を重ねてきた結果、バルーンに、相転移して膨潤する相転移温度が人体の体温以下、例えば36℃以下で且つ薬理活性物質を含有しているハイドロゲル層を有するバルーンカテーテル、特にバルーンに薬理活性物質を含むイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体のハイドロゲル層を有するバルーンカテーテルを試作し、このカテーテルが上記の目的を達成し得ることを見いだし本発明に到達した。薬理活性物質は、化学合成された薬剤、動植物等から抽出された天然薬剤、タンパク及び遺伝子を含む。
【0005】
本発明のバルーンカテーテルの好適例は、温度の変化で物質透過性が劇的に変化するイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体のハイドロゲル層を表面に有するバルーン(A)と、カテーテルの手元から体温以下の造影剤又は冷水の如き液体を注入することでバルーンの温度を低下させることが可能な内腔を有するカテーテル(B)とからなる。
【0006】
【発明の実施の形態】
まず、(A)について説明する。本発明において、バルーン表面にハイドロゲル層を形成させるのに用いるイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体は、イソプロピルアクリルアミド、反応性の残基である2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートまたはそのイソシアネート基をメチルエチルケトオキシムでブロックした化合物を第2の成分として、物質透過性が劇的に変化する転移温度の設定を行うための第3の成分とをラジカル共重合することで合成される。
【0007】
該共重合体中には第2の反応性成分が少量でも含まれていることがバルーン上でハイドロゲル層の形成に必要である。含まれていないと、バルーンと共重合体との接着不良、また、ハイドロゲルが形成されない。
【0008】
該共重合体の分子量は5,000から1,000,000、共重合体中のイソプロピルアクリルアミド残基のモル分率は10%から99.999%であり、望ましくは90%から99.9%、第2の成分である反応性の残基のモル分率は0.001%から20%であり、望ましくは0.1%から10%、転移温度の調整に用いる第3の成分モル分率は1%から49.999%であり、望ましくは1%から20%である。
【0009】
該共重合体中には転移温度の調整に用いる第3の成分を組み込むが、転移温度を低く設定したい場合はメチルメタクリレート、ブチルメタクリレートやブチルアクリレート等の疎水性モノマーを用い、転移温度を高く設定したい場合はアクリルアミド等の親水性モノマーを用いる。
【0010】
該共重合体は、ラジカル重合によって容易に得られるが、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを第2の成分として用いる場合には、イソシアネートが容易に水や水蒸気により容易に加水分解されるため、用いる溶媒は十分に脱水しておく必要がある。
【0011】
次に、カテーテル(B)について説明する。各社から市販されているバルーンカテーテルはバルーンを広げるための内腔を有する。この内腔に液体を注入することでバルーン温度を低下させることも可能である。効率よくバルーン部の温度を低下させるには、温度の低い液体を持続的に注入・排出する必要がある。このため、バルーンに通じる2つの内腔を有するバルーンカテーテルが望ましい。カテーテルまたバルーンの素材としては、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル等現行のバルーンカテーテルの作製に用いられている素材は総て用いることが可能であり、特に限定しない。
【0012】
バルーン表面に形成させるイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体層の厚さは、乾燥状態で0.1μmから100μm、好ましくは1μmから50μmである。共重合体層の厚さがこの範囲であると、薬理活性物質を担持でき、また、温度を変えることでハイドゲルにすることができ薬理活性物質を素早く放出できる。また、この厚さであればバルーンの広げやすさ等の操作性に影響を与えることない。
【0013】
バルーン上へのイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体のコーティング方法には、特に制限はなく、例えば、(1)共重合体の溶液にバルーンを浸漬した後加熱乾燥する方法、(2)共重合体の溶液を刷毛でバルーンに塗った後加熱乾燥する方法、(3)共重合体の溶液をスプレーでバルーン上に噴霧した後加熱乾燥する方法、これらの方法で、共重合体層とバルーンとの強固な接着が得られない場合、バルーン表面の加水分解を行うことやシランカップリング剤処理することで、イソシアネートと反応する水酸基やアミノ基等の表面密度を高くするなどの処理を行う。更に、分子鎖中に光反応性基、エポキシ基、イソシアネート基及び酸無水物基の少なくとも1個を有し、イソプロピルアクリルアミド又はイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体との相溶性が良好な反応性高分子をハイドロゲル層に溶解させることもできる。
【0014】
バルーン上の共重合体層への薬理活性物質の担持方法は、(1)患者の治療に用いる直前に、バルーン部分を4℃の薬理活性物質溶液に30分程度漬けることで、共重合体層へ薬理活性物質を含浸させ、37℃あるいは60℃の温水に漬けて薬理活性物質を担持させる方法、(2)工場でバルーン部分を4℃の薬理活性物質溶液に30分程度漬けることで、共重合体層へ薬理活性物質を含浸させ、37℃あるいは60℃の温水に漬けて薬理活性物質を担持させて、さらに乾燥させた後出荷する方法、(3)薬理活性物質がイソシアネート基と反応しない場合は、共重合体の水溶液に薬理活性物質を混ぜ、バルーンに上記の方法でこの溶液をコーティングする。
【0015】
実施例1
イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)とKarenzMOI−BM(登録商標)(昭和電工)(MOIBM)との98.4:1.6の共重合体ポリ(NIPAM−co−MOIBM)をラジカル重合にて作製した。2.5×2.5cmのガラス基板上の金薄膜上に11−メルカプト−1−ウンデカノールの自己組織化膜を形成させる。この表面に2.0w/v%のポリ(NIPAM−co−MOIBM)のアセトン溶液を300μl滴下し、さらに150℃で90分加熱することでポリNIPAMの架橋薄膜を形成させた。このポリNIPAMの架橋薄膜の乾燥状態での厚さは2μmであった。
【0016】
ポリNIPAMの架橋薄膜担持ガラスプレートを4℃の蛍光物質であるカルセインの180μg/ml水溶液に浸漬し、ポリNIPAMハイドロゲル層にカルセイン(分子量622.5)を含浸させた。その後この表面を60℃のイオン交換水で洗浄することで、表面に付着しているカルセインを取り除き、リリース実験に用いた。先ず、カルセイン担持ガラスプレートを37℃の100mlのイオン交換水に漬け、37℃の温水で温めた状態で、30分と60分後にイオン交換水中のカルセイン濃度を測定する。次ぎに、4℃の氷水で冷やした状態で、5分毎にイオン交換水中のカルセイン濃度を測定する。それぞれのカルセイン濃度からポリNIPAM層からのカルセインリリース速度を算出した。その結果を図1に示した。37℃の水中では7ng/cm・minであったが、4℃の水中では160ng/cm・minへと上昇した。すなわち、4℃の水中では37℃の水中の23倍もリリース速度が上昇した。
【0017】
実施例2
NIPAM と2−メタクリロイルエチルイソシアネート(KarenzMOI)(昭和電工)(MOIBM)との98.1:1.9の共重合体ポリ(NIPAM−co−MOI)をラジカル重合にて作製した。このときKarenzMOI中のイソシアネートの加水分解が起こらないように、重合時に用いる溶媒は十分脱水し、さらに加熱を必要としないレドックス系の開始剤(過酸化ベンゾイル−ジメチルアニリン)を用いた。
【0018】
2.5×2.5cmの厚さ200μmのナイロン膜を1規定の水酸化ナトリウム水溶液に室温で3時間浸漬して、膜表面の加水分解を行った。この表面に2.5w/v%のポリ(NIPAM−co−MOI)のアセトン溶液を300μl滴下し、風乾した。これを10回繰り返した後、50℃で5時間加熱することでポリNIPAMの架橋薄膜を形成させた。このポリNIPAMの架橋薄膜の乾燥状態での厚さは25μmであった。
【0019】
ポリNIPAMの架橋薄膜担持ナイロン膜を4℃の蛍光物質であるカルセインの180μg/ml水溶液に浸漬し、ポリNIPAMハイドロゲル層にカルセイン(分子量622.5)を含浸させた。その後この表面を60℃のイオン交換水で洗浄することで、表面に付着しているカルセインを取り除き、リリース実験に用いた。先ず、カルセイン担持ナイロン膜を37℃の100mlのイオン交換水に漬け、37℃の温水で温めた状態で、30分と60分後にイオン交換水中のカルセイン濃度を測定する。次ぎに、4℃の氷水で冷やした状態で、5分毎にイオン交換水中のカルセイン濃度を測定する。それぞれのカルセイン濃度よりポリNIPAM層からのカルセインリリース速度を算出した。37℃の水中では5ng/cm・minであったが、4℃の水中では150ng/cm・minへと上昇した。すなわち、4℃の水中では37℃の水中の30倍もリリース速度が上昇した。
【0020】
実施例3
実施例2で作製したポリ(NIPAM−co−MOI)を用いた。川澄化学工業株式会社から商品名「エンデバー」として販売されているバルーンカテーテルのバルーン部分に1%トリレンジイソシアネートのメチルエチルケトン溶液を刷毛塗りした後、室温で軽く乾燥させる。この表面に3.0w/v%のポリ(NIPAM−co−MOI)のジオキサン溶液を刷毛塗りした後、さらに50℃で5時間加熱することでバルーン上にポリNIPAMの架橋薄膜を形成させた。このポリNIPAMの架橋薄膜の乾燥状態での厚さは約30μmであった。
【0021】
ポリNIPAMの架橋薄膜担持バルーン部分を4℃の蛍光物質であるカルセインの180μg/ml水溶液に浸漬し、ポリNIPAMハイドロゲル層にカルセイン(分子量622.5)を含浸させた。その後この表面を60℃のイオン交換水で洗浄することで、表面に付着しているカルセインを取り除き、リリース実験に用いた。先ず、カルセイン担持バルーン部分を37℃の100mlのイオン交換水に漬け、37℃の温水で温めた状態で、30分と60分後にイオン交換水中のカルセイン濃度を測定する。次ぎ、4℃の氷水で冷やした状態で、5分毎にイオン交換水中のカルセイン濃度を測定する。それぞれのカルセイン濃度からポリNIPAM層からのカルセインリリース速度を算出した。37℃の水中では8ng/cm・minであったが、4℃の水中では200ng/cm・minへと上昇した。すなわち、4℃の水中では37℃の水中の約25倍もリリース速度が上昇した。
【0022】
実施例4
エタノール100ml及び水25mlにイソプロピルアクリルアミド7gと分子鎖中にベンゾフェノン基を有するポリビニルピロリドン共重合体0.6g及び光反応性スルフォン酸ナトリウム0.18gとを溶解してコーティング溶液を調整した。このコーティング溶液をPTCAバルーンカテーテルのバルーン部に塗布、一晩室温で乾燥した後、バルーン部260nmの紫外線を5mWa/cm照射してコーティング層を固定化した。実施例3と同じ方法でカルセインリリース速度を測定したところ、4℃の水中では37℃の約16倍のリリース速度を示した。
【0023】
【発明の効果】
本発明のバルーンカテーテルによれば、バルーンカテーテルのバルーン部位を疾患部位に誘導する数十分の間は、バルーンは薬理活性物質を保持し、疾患部位でバルーンを膨らませたときにバルーンは疾患部位に押しつけられるとともに、保持していた薬理活性物質を放出し、疾患部位に効率よく薬理活性物質が投与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるカルセインリリース速度を示す線図。

Claims (10)

  1. バルーン表面に、相転移して膨潤する、相転移温度が人体の体温よりも低く、かつ薬理活性物質を含有するイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体よりなる0.1μm〜100μmの厚みのハイドロゲル層が形成されたバルーンと、該バルーンに体温以下の液体が注入可能な内腔を有するカテーテルとからなるバルーンカテーテルであって、該カテーテルの内腔から低温の液体をバルーンに注入して、バルーンの温度を低下させるとともに、該ハイドロゲル層を膨潤させてハイドロゲル層に含有された薬理活性物質を放出するよう構成したことを特徴とするバルーンカテーテル。
  2. 相転移温度は36℃以下である、請求項1記載のバルーンカテーテル。
  3. 疾患部までバルーン部分を誘導し、その後バルーン内にカテーテルを通じて液体を注入ことで、バルーン壁を疾患部へ押しつけ、さらに、バルーン壁から薬理活性を持つ物質を疾患部位へ放出させることができる、請求項1または2のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
  4. 液体を注入と排出することでバルーンの温度を低下させることが可能なダブルの内腔を有する、請求項記載のバルーンカテーテル。
  5. イソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体は、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(別名2−イソシアナトエチルメタクリレート)を共重合体成分の一つとして含む、請求項1からまでのいずれかに記載のバルーンカテーテル。
  6. イソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体は、2−メタクリロイルオキシエチル イソシアネート(別名2−イソシアナトエチルメタクリレート)のイソシアネート基をメチルエチルケトオキシムでブロックした化合物を共重合体成分の一つとして含む、請求項1からまでのいずれかに記載のバルーンカテーテル。
  7. イソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体は、ビニル単量体共重合体成分も含む、請求項5または6のいずれかに記載のバルーンカテーテル。
  8. 該ハイドロゲル層がイソプロピルアクリルアミド又はイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体と分子鎖中に光反応性基、エポキシ基、イソシアネート基及び酸無水物基の少なくとも1個を有し、イソプロピルアクリルアミド又はイソプロピルアクリルアミドを主成分とする共重合体との相溶性が良好な反応性高分子で構成される、請求項1〜7までのいずれかに記載のバルーンカテーテル。
  9. 該光反応性基がベンゾフェノン基である、請求項記載のバルーンカテーテル。
  10. 該ハイドロゲル層を光照射又は熱処理して架橋した、請求項8または9記載のバルーンカテーテル。
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