JP4377973B2 - 局部延性と熱処理性に優れた鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化物の分散形態に特徴を有する、局部延性と焼入れ性に優れた鋼板に関するものである。
(以下余白)
【0002】
【従来の技術】
鋼中のC含有量が概ね0.1〜0.4質量%の、いわゆる中炭素鋼板は、焼入れ強化が可能であるとともに焼鈍状態ではある程度の加工性も有しているため、自動車部品をはじめ各種機械部品や軸受け部品の素材として広く使用されている。部品の製造にあたっては、一般的には打抜加工や曲げ成形が施され、さらに比較的軽度な絞り加工,伸びフランジ成形が施されることもある。また、部品形状が複雑な場合は、二ないし三部品を溶接して製造される場合も多い。そしてこれらの加工部品は熱処理を経て各種用途の部品に仕上げられていく。
【0003】
ところが近年、部品の製造コストを低減すべく、部品の一体成形や、部品加工の工程簡略化が進められている。このことは素材側から見ればより加工率の高い(=塑性変形量の大きい)加工に耐えなくてはならないことを意味する。つまり、加工技術の高度化に伴い、素材である中炭素鋼板自体にもより高い加工性が要求されるようになってきた。特に昨今では、打抜加工や曲げ加工のみならず、高度な伸びフランジ成形加工(例えば穴拡げ加工)にも耐え得る局部延性に優れた鋼板素材のニーズが高まりつつある。
【0004】
こうした中、特公昭61−15930号公報,特公平5−70685号公報,および特開平4−333527号公報には、加工方法あるいは熱処理方法を工夫することによって棒鋼中の炭化物を球状化し、棒鋼線材の加工性を改善する技術が紹介されている。しかし、これらはいずれも棒鋼線材を対象とするものであり、素材が板材である場合に問題となる伸びフランジ性の改善手段は明らかにされていない。
【0005】
また、特開平8−3687号公報には、Cを0.3mass%以上含有し、炭化物の占める面積率が20%以下で、粒径1.5μm以上の炭化物の割合が30%以上である加工用高炭素鋼板が示されている。これは炭化物の形態を制御して鋼板の加工性を改善したものではあるが、局部延性に関連する伸びフランジ性といった高度な加工性を改善するには至っていない。
【0006】
さらに特開平8−120405号公報には、C:0.20〜0.60%の他、Si,Al,N,B,Ca等の黒鉛化を促進する元素を含有し、C含有量の10〜50%が黒鉛化しており、断面の鋼組織が3μm以上の黒鉛粒子を特定量含んだ球状化セメンタイトの分散したフェライト相になっている加工性に優れた薄鋼板が示されている。この薄鋼板は穴拡げ性と二次加工性に優れているという。しかしその薄鋼板は含有炭素の黒鉛化を利用して加工性を改善したものであるから、黒鉛化を促進する元素の添加した鋼を用いる必要があり、一般的な市販の中・高炭素鋼種に広く適用できるものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、加工性の中でも「伸びフランジ性」といった、特に局部延性を改善した中炭素鋼板のニーズが高いにもかかわらず、一般的な中炭素の鋼種において、鋼板の局部延性を改善する手法は確立されていない。その理由として、局部延性を向上させ得るに足る鋼板の金属組織が未だ明らかにされていないことが挙げられる。
さらに、鋼板を加工した部品の熱処理特性として、焼入性(鋼の硬化のしやすさ)や焼入加熱温度からの冷却過程において冷却速度の影響が小さい(焼入硬さが一定となる)ことなどが要求されている。
【0008】
そこで本発明は、「伸びフランジ性」等の局部延性を安定的に改善することができる金属組織を特定し、特殊な元素を添加することなく一般的な中炭素鋼の鋼種において局部延性と熱処理性に優れた鋼板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、請求項1の発明、すなわち、質量%において、C:0.15〜0.40%,Si:0.10%以下,Mn:0.3〜0.8%, P:0.02%以下,S:0.01%以下, Ti:0.01〜0.05%,B:0.0005〜0.0050%, N:0.01%以下,T.Al:0.02〜0.10%,Cr:0〜0.6%(無添加を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記(a)で定義される炭化物球状化率が90%以上、かつ下記(b)で定義される平均炭化物粒径が0.4〜1.0μmであるように炭化物がフェライト中に分散している局部延性と熱処理性に優れた鋼板によって達成される。なお、不純物としてCuを0.3質量%以下、Niを0.25質量%以下、Caを0.0050質量%以下の範囲で含んでも局部加工性や熱処理性に対して何も悪影響を及ぼすことがないので、必要に応じてこれらの元素を1種または2種以上添加してもよい。
(a)炭化物球状化率:鋼板断面の金属組織観察において、観察視野内の炭化物総数に占める、炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満である炭化物の数の割合(%)をいう。ただし、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
(b)平均炭化物粒径:鋼板断面の金属組織観察において観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当径を全測定炭化物について平均した値をいう。ただし、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、特にフェライトの結晶粒径が20μm以上であることに特徴を有するものである。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明における局部延性と熱処理性に優れた鋼板において、特に当該鋼板が伸びフランジ加工用の鋼板であることに特徴を有するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、一般的な中炭素鋼種における鋼板の加工性を改善する手段について詳細に検討してきた。その結果、▲1▼一般的な打抜加工性や曲げ加工性が向上する場合でも、伸びフランジ性等の局部延性が改善されるとは限らないこと、▲2▼炭化物を単に球状化させるだけでは局部延性の安定した改善を図ることはできないこと、そして、▲3▼伸びフランジ性等の局部延性は、鋼板中における炭化物の分散形態に大きく依存し、具体的には炭化物のより一層の球状化と、平均炭化物粒径を大きくすることによって改善し得ることを知見した。さらに、高周波焼入性を劣化させることなく局部延性を十分に改善できることもわかった。
【0016】
伸びフランジ成形加工によって生じる割れや亀裂は、加工変形中に生じる非常に局所的な欠陥によって敏感に引き起こされるものと考えられる。中・高炭素鋼板においては、そのような欠陥の生成原因として、炭化物(セメンタイト)を起点として生じたミクロボイドの成長(連結)が挙げられる。このため、中・高炭素鋼板の伸びフランジ性を改善するうえで、加工変形時において上記ミクロボイドの生成・成長をできるだけ抑制できるような金属組織に調整することが重要であると考えられる。伸びフランジ性が他の一般的な加工性の改善に伴って必ずしも同様に改善されないのは、他の加工性には影響を及ぼさないようなミクロ的な欠陥が、伸びフランジ性に対しては敏感に影響するためであると推察される。
【0017】
このような考察に基づき種々の実験を繰り返した結果、鋼板中に分散している炭化物の粒径を大きくすることによって、個々の炭化物を起点として生成したミクロボイドの連結を抑制でき、伸びフランジ性等の局部延性を顕著に改善できることが確認された。さらに、分散している炭化物の球状化率を高めることもミクロボイドの生成自体を抑制するうえで効果的であることがわかった。
また、局部延性を改善するには、鋼板の成分のうちC,Mnの量を下げることが有利であるが、C,Mnの低下は焼入性や焼入硬さの確保などの熱処理性を劣化させることになる。このような熱処理性の低下を抑制し、かつ局部延性を改善するにはCr,Ti,Bを適量添加することが効果的であることがわかった。
以下、本発明を特定するための事項について説明する。
【0018】
本発明では、C:0.15〜0.40質量%を含有する中炭素鋼を対象とする。Cは炭素鋼においては最も基本となる合金元素であり、その含有量によって焼入れ硬さおよび炭化物量が大きく変動する。C含有量が0.15質量%以下の鋼では、各種機械構造用部品に適用するうえで十分な焼入れ硬さが得られない。一方、C含有量が0.40質量%を超えると、熱間圧延後の靭性が低下して鋼帯の製造性・取扱い性が悪くなるとともに、焼鈍後においても十分な延性が得られないため、加工度の高い部品への適用が困難になる。したがって、本発明では適度な焼入れ硬さと加工性を兼ね備えた素材鋼板を提供する観点から、C含有量が0.15〜0.40質量%の範囲の鋼を対象とする。なお、C含有量が低くなるほど局部延性は一層改善される。
【0019】
Siは、局部延性に対して影響の大きい元素の1つである。Siを過剰に添加すると固溶強化作用によりフェライトが硬化し、成形加工時に割れ発生の原因となる。またSi含有量が増加すると製造過程で鋼板表面にスケール疵が発生する傾向を示し、表面品質の低下を招く。そこでSiを添加するに際しては0.10質量%以下の含有量となるようにする。加工性を特に重視する用途ではSi含有量は0.03質量%以下とすることが望ましい。
Mnは、鋼板の焼入れ性を高め、強靭化にも有効な添加元素である。十分な焼入れ性を得るためには0.3質量%以上の含有が望ましい。しかし、0.8質量%を超えて多量に含有させるとフェライトが硬化し、加工性の劣化を招く。そこで、Mnは0.3〜0.8質量%の範囲で含有させることが望ましい。
【0021】
Pは、延性や靭性を劣化させるので、0.02質量%以下の含有量とすることが望ましい。
Sは、MnS系介在物を形成する元素である。この介在物の量が多くなると局部延性が劣化するので、鋼中のS含有量はできるだけ低減することが望ましい。本発明で規定する炭化物分散形態を実現させれば、S含有量を特別に低減していない一般的な市販鋼に対しても伸びフランジ性の向上効果は得られる。しかし、C含有量が0.40質量%近くまで高くなった場合でも、後述するElV値およびλ値がそれぞれ例えば35%以上,40%以上というような、高い局部延性を安定して確保するためには、S含有量を0.01質量%以下に低減した鋼を用いるのが望ましい。本願発明ではそのような観点からS含有量を0.01質量%以下に規定した。なお、さらにElV値およびλ値をそれぞれ40%以上,55%以上にまで高めた非常に優れた局部延性を有する鋼板素材を安定して得るためには、S含有量を0.005質量%以下に低減した鋼を用いるのがよい。
【0022】
Tiは、溶鋼の脱酸調整に添加される成分であるが、脱窒作用を呈する。また、鋼板に固溶しているNを窒化物として固定するので、焼入れ性を改善する有効B量を高める。更に、炭窒化物を形成し、焼入れ時の結晶粒粗大化を防止する作用を呈する。これらの作用を安定して得るために少なくとも0.01質量%以上のTi含有量が必要である。しかし、0.05質量%を超える多量のTiが含まれると、経済的に不利になるばかりか、局部延性を劣化させる原因ともなる。
Bは、極く微量の添加で鋼材の焼入れ性を大幅に向上させる。また、粒界の歪みエネルギーを低下させることによって粒界を強化する作用を呈する。また、焼入れ硬さを安定して得るためにも、必要な合金成分である。このようなBの効果は、0.0005質量%以上の含有量で顕著になるが、0.0050質量%を超えるBを添加しても、その効果が飽和し、逆に靱性を劣化させる原因となる。
Nは、Tiと結合してTiNを形成し、焼入れ時の結晶粒微細化に有効な成分である。しかし、N含有量が0.01質量%を超えると、延性が低下する。また、過剰なNはBと結合し、焼入れ性の改善に有効なB量を消費する。そこで、本発明においては、N含有量の上限を0.01質量%に設定した。
Alは、溶鋼の脱酸剤として使用される成分であり、Nを固定する作用も呈する。このような作用は0.02質量%以上のAl含有量で顕著になる。しかし、鋼中のAl量が0.1質量%を超えると鋼の清浄度が損なわれて鋼板に表面疵が発生しやすくなるので、T.Al含有量は0.1質量%以下とすることが望ましい。
【0023】
Crは、焼入れ性を改善するとともに焼戻し軟化抵抗を大きくする元素である。しかし、0.6質量%を超える多量のCrが含まれると3段階焼鈍を施しても軟質化しにくく焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってCrを添加する場合は0.6質量%以下の範囲とする。
【0024】
次に、本発明鋼板の金属組織を特定するための事項について説明する。
【0025】
〔炭化物球状化率〕
炭化物球状化率は先に定義したとおりであるが、これは、全炭化物のうち「球状化した炭化物」とみなされるものがどの程度を占めているかを表している。ここで、ある炭化物が「球状化した炭化物」とみなされるための条件として、鋼板断面の金属組織観察平面内において、その炭化物の最大長さpとそれに直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満であることを要件とした。例えば、再生パーライトにおける炭化物では、そのほとんどは上記の比(p/q)が3以上である。一方、AC1点以上の加熱で残留した未溶解炭化物を起点として成長した炭化物では、上記の比(p/q)が3未満となる。
【0026】
炭化物の形状を立体的に正確に捉えて規定することは難しく、また製品鋼板の適否を判定するうえでも煩雑である。これに対し、鋼板断面の平面的な金属組織を観察することは容易である。本発明者らは、鋼板断面の金属組織の中で観察される炭化物形状について上記のようなpとqの比(p/q)を用いて球状化の程度を捉えたとき、鋼板の局部延性に対する炭化物形状の影響を適切に評価できることを確認した。そして、種々の実験の結果、上記の比(p/q)が3未満であるような「球状化した炭化物」の数が全体の炭化物数の90%以上を占めており、かつ後述の平均炭化物距離が特定範囲となるときに、その鋼板は高い局部延性を示すことを見出した。なお、数値の信頼性を高めるために、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0027】
炭化物球状化率の低い鋼板では、分散している炭化物のうち、例えば再生パーライトの炭化物のように球状化が不十分な炭化物を起点としてミクロボイドの生成・連結が助長され、これが割れの原因となる。伸びフランジ性等の局部延性を安定して改善するためには、後述の平均炭化物間距離と相まって、鋼板の炭化物球状化率を90%以上とする必要がある。
【0028】
〔平均炭化物粒径〕
炭化物の平均粒径を大きくすることによっても局部延性は顕著に改善されることが確認された。鋼中の炭素量は一定であるから、平均炭化物粒径の増大は炭化物総数の減少を意味する。炭化物総数が減少すれば、個々の炭化物を起点として生成したミクロボイドの連結が抑制され、これが局部延性の顕著な向上に寄与するものと考えられる。一方、高周波焼入のような短時間の加熱による焼入性を向上させるためには、炭化物の粒径は小さい方が良い。これは、炭化物粒径が大きいと短い加熱時間で炭化物を十分に固溶させることが困難となるからである。このように、局部延性の向上と焼入性の向上は、平均炭化物粒径の変化に対して相反する挙動をとる。したがって、これら両特性を満足させるためには平均炭化物粒径を厳格に規定する必要がある。
【0029】
平均炭化物粒径は、鋼板断面の金属組織観察において、観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当径を全測定炭化物について平均した値をいう。具体的には個々の炭化物について面積を測定し、その面積から円相当径を算出する。面積の測定は画像処理装置を用いて行うことができる。そして測定した全ての炭化物の円相当径の総和を求め、その総和を測定炭化物の総数で除した値を平均炭化物粒径とする。数値の信頼性を高めるために、観察視野は測定炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0030】
本発明者らの詳細な伸びフランジ成形実験の結果、局部延性の観点からは、先述の炭化物球状化率を90%以上とした上で、平均炭化物粒径を0.4μm以上とする必要があることがわかった。一方、加工後に高周波焼入を実施する場合の焼入性の観点からは、平均炭化物粒径を1.0μm以下に抑える必要があることが実験より明らかになった。したがって、本発明では鋼板中の平均炭化物粒径を0.4〜1.0μmの範囲に規定した。
【0031】
〔フェライトの結晶粒径〕
焼鈍後のフェライト粒径も、局部延性の改善に影響を与える因子である。フェライト粒径が20μm未満になると、材料の局部延性が低下する傾向を示すようになる。したがって、前記の炭化物分散形態適正化の効果を最大限発揮するためには、フェライトの結晶粒径(平均粒径)を20μm以上とすることが望ましい。また、フェライト結晶粒径が不揃いの、いわゆる混粒組織を呈すると加工性に悪影響を及ぼすようになるので、できるだけ整粒組織にすることが望ましい。平均粒径が35μmを超えると混粒組織になりやすいので フェライト結晶粒径(平均粒径)は20〜35μmの範囲に調整することが一層望ましい。
【0032】
以上のような金属組織を有する鋼板は、焼鈍方法を工夫することによって得ることができる。例えば、鋼板のA1変態点直下および直上の特定温度範囲における加熱を適切に組み合わせた焼鈍によって実現できる。具体的には例えば、熱延鋼板または冷延鋼板に対して、AC1−50℃〜AC1未満の温度範囲で0.5時間以上保持する1段目の加熱を行った後、AC1〜AC1+100℃の温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr1−80℃〜Ar1の温度範囲で2〜60時間保持する3段目の加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/時間とする3段階焼鈍を施すことによって、本発明で規定する適正な金属組織を有する鋼板を好適に製造することができる。
【0033】
【実施例】
表1に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間圧延により板厚2.3mmの熱延板とした。その際、熱延コイル巻取温度を変えて熱延組織を変化させた。得られた熱延板は、酸洗後、種々の条件で焼鈍し、鋼板の炭化物球状化率,平均炭化物粒径,フェライト結晶粒径を変化させた。その後、引張試験,切欠引張試験,穴拡げ試験に供した。
【0034】
【表1】
【0035】
炭化物球状化率は、走査電子顕微鏡により鋼板断面の一定領域内を観察し、炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満となるものを「球状化した炭化物」としてカウントし、測定炭化物総数に占める当該「球状化した炭化物」の数の割合を算出して求めた。その際、測定炭化物総数は300〜1000個の範囲であった。
平均炭化物間距離は、上記の炭化物球状化率を測定した領域について画像処理装置(ニレコ社製、LUZEX III U)を利用して平均炭化物粒径Dを求め、先述の(1)式によってLを算出して求めた。
フェライト結晶粒径は、JIS G 0522に規定される切断法に従って、直行する2つの線分で切断されるフェライト結晶粒の数を測定し、10視野測定の結果を平均して求めた。
【0036】
引張試験は、JIS5号引張試験片を用い、平行部の標点間距離を50mmとして行った。
切欠引張試験は、JIS5号引張試験片の平行部長手方向中央位置における幅方向両サイドに開き角45°,深さ2mmのVノッチを形成した試験片を用いて引張試験を行う方法で行った。Vノッチを含む標点間距離5mmに対する伸び率を破断後に求め、その伸び率を切欠引張伸びElVとした。
穴拡げ試験は、150mm角の鋼板の中央部にクリアランス20%にて10mm(d0 )の穴を打抜いた後、その穴部について、50mmφ球頭ポンチにて押し上げる方法で行い、穴周囲に板厚を貫通する亀裂が発生した時点での穴径dを測定して、次式で定義される穴拡げ率λ(%)を求めた。
λ=((d−d0 )/d0 )×100
これらElV値およびλ値は局部延性を表す指標であり、伸びフランジ性を定量的に評価し得るものである。局部延性の評価は、 ElV値40%を超えかつλ値45%を超えるものを良好(○印で示す)、 ElV値40%以下でかつλ値45%以下のものを不良(×印で示す)とした。
熱処理性は、各鋼種よりφ3mm×10mmのサンプルを作成し、熱サイクル再現装置を用いて900℃で10分間加熱後、冷却速度100℃/秒、50℃/秒、30℃/秒で室温まで冷却した後、ビッカース硬さ試験を行った。熱処理性の評価は、冷却速度が30℃/秒の場合のビッカース硬さが400HVを超えるものを良好(○印で示す)、400HV以下のものを不良(×印で示す)とした。
これらの試験結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2において、No.1のA鋼はCが0.15重量%以下であり、 ElV値,λ値ともに加工性は良好であるが、焼入硬さが不足している。No.3,4,5のC鋼は、本発明の成分範囲であるので熱処理性は良好であり、焼入冷却速度の依存性も小さいが、No.3は平均炭化物粒径が0.4μm以下であり、ElV値,λ値とも低い値を示し、加工性に劣ることがわかる。
No.6のD鋼は、Ti含有量が0.05質量%を超えて高く、ElV値,λ値とも低い値を示し、加工性に劣ることがわかる。
No.7のE鋼は、Cが0.40重量%を超え、Siが0.10%を超えて高く、 平均炭化物粒径は0.40μm以下であるために、ElV値,λ値とも低い値を示し加工性が劣っている。Cが0.40重量%を超えて高いため冷却速度100℃/秒では、焼入れ硬さが非常に高くなり焼き割れも発生した。
【0039】
No.8,9のF鋼は、本発明の成分範囲であるので熱処理性は良好であるが、No.9については炭化物の球状化率が90%以下、平均炭化物粒径が0.4μm以下であり、ElV値,λ値とも低い値を示し、加工性に劣ることがわかる。また、No.10のF鋼も本発明の成分範囲であり、加工性は良好であるが、平均炭化物粒径が1.0μm以上であるため、冷却速度50℃/秒以下での焼入れ硬さが低下し熱処理性は劣化している。No.2のB鋼, No.12のH鋼は本発明範囲であり、ElV値,λ値とも良好であり、熱処理性も良好である。
No.11のG鋼は、Mnが0.80%以上であり、平均炭化物粒径は0.40μm以下であるために、ElV値,λ値とも低い値を示し加工性が劣っている。また、B,Tiも添加されていないため冷却速度30℃/秒以下での焼入れ硬さが低下し熱処理性は劣化している。
【0040】
No.13のI鋼は、Sが0.010重量%を超え、Crが0.60重量%を超えて高く、平均炭化物粒径は0.40μm以下であるため、ElV値,λ値とも低い値を示し加工性が劣っている。また、B,Tiが添加されていないため冷却速度30℃/秒以下での焼入れ性が低下し焼入れ硬さも劣化している。
No.14のJ鋼はSiが0.1重量%を越え、Sが0.010重量%を超えているため、 ElV値,λ値とも低い値を示し、加工性が劣っている。また、 B,Tiが添加されていないため冷却速度50℃/秒以下での焼入れ性が低下し焼入れ硬さも劣化している。
【0041】
これらのA鋼,D鋼,E鋼,G鋼,I鋼,J鋼以外の鋼においては、炭化物球状化率および平均炭化物粒径が本発明で規定する範囲内にある本発明例(No.2,4,5,8,12)では、C含有量が同レベルの比較例と比べていずれもElV値およびλ値が顕著に向上しており、優れた局部延性を示した。その中でも特にフェライト結晶粒径が20μm以上のNo.2(B鋼),No.5(C鋼),No.12(H鋼)では、ElV値,λ値とも一層高い値を示した。
【0042】
次に、表2における本発明例の鋼板の製造条件を示しておく。
各鋼スラブを熱延巻取温度580〜650℃で熱延板を得た後、酸洗し、「AC1点より低い690℃で4h保持→AC1点以上の730〜770℃で4h保持→冷却速度10℃/hで冷却→Ar1点以下の690〜710℃で4〜8h保持→650℃まで10℃/hで冷却→空冷」の焼鈍を施して製造したものである。
【0043】
【発明の効果】
以上のように、本発明では、「炭化物球状化率」および「平均炭化物粒径」という概念を導入して炭化物の分散形態を適正な範囲に特定し、優れた局部延性を呈する中炭素鋼板の金属組織を明らかにした。そして、本発明に係る鋼板は、従来の中炭素鋼板に比べて局部変形能が著しく向上するとともに、焼入性や焼入硬さなどの熱処理性に優れているので、部品形状が複雑な自動車部品等、各種機械部品の素材として好適に用いられ、特に伸びフランジ成形加工用鋼板として非常に適している。
Claims (3)
- 質量%において、C:0.15〜0.40%、Si:0.10%以下、Mn:0.3〜0.8%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Ti:0.01〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%、N:0.01%以下、T.Al:0.02〜0.10%、Cr:0〜0.6%(無添加を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、下記(a)で定義される炭化物球状化率が90%以上、かつ下記(b)で定義される平均炭化物粒径が0.4〜1.0μm以上であるように炭化物がフェライト中に分散している局部延性と焼入れ性に優れた鋼板。
(a)炭化物球状化率:鋼板断面の金属組織観察において、観察視野内の炭化物総数に占める、炭化物の最大長さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満である炭化物の数の割合(%)をいう。ただし、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
(b)平均炭化物間粒径:鋼板断面の金属組織観察において観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当径を全測定炭化物について平均した値をいう。ただし、観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。 - フェライトの結晶粒径は20μm以上である、請求項1に記載の局部延性と焼入れ性に優れた鋼板。
- 鋼板は伸びフランジ加工用の鋼板である、請求項1または2に記載の局部延性と焼入れ性に優れた鋼板。
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