JP4360667B2 - 絶縁皮膜付き電磁鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主としてモーターや変圧器に使用される、表面に絶縁皮膜を有する電磁鋼板において、6価クロムのような有害物質を含まず、塩素イオン存在下での耐食性、歪取り焼鈍後の密着性に優れた無方向性電磁鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
モーターや変圧器などに広く使用される電磁鋼板には、渦電流損失を低減させて電流効率を高めるため、その表面に絶縁皮膜が形成されている。モーターや変圧器では、絶縁皮膜が形成された電磁鋼板を所定の形状に打ち抜くかもしくは剪断した後、積層し、この積層体をTIG溶接またはカシメにより固定し、必要に応じて歪取り焼鈍を施した後、巻き線を施して製品となる。
【0003】
このように使用される電磁鋼板の絶縁皮膜には、本来の目的である高い絶縁性に加えて、皮膜の密着性、溶接性、耐食性、打ち抜き性などさまざまな特性に優れていることが要求される。さらに歪取り焼鈍が施される場合には、鋼板どうしが密着(スティック)しないような特性(以下、耐スティッキング性と称する)も求められる。
【0004】
このような特性を有する絶縁皮膜として、無機質皮膜に有機樹脂を含有した無機有機系皮膜が広く使用されている。例えば特公昭60-36476号公報には少なくとも1種の2価金属を含む重クロム酸塩系水溶液に酢酸ビニル/ベオバの樹脂エマルジョンおよび有機還元剤を配合した処理液を鋼板表面に塗布し、常法による焼付工程を経て得られる電磁鋼板の絶縁皮膜形成方法が開示されている。この絶縁皮膜付き電磁鋼板は、前記の種々の性能を満足する。また特開平3-240970号公報にはクロム酸とAl、Mg等の酸化物と、樹脂粒子径が0.2〜0.5μmの有機樹脂エマルジョン(アクリル、スチレン、酢酸ビニルおよび/またはこれらの共重合体樹脂)および樹脂粒子径が1〜50μmの有機樹脂エマルジョン(メチルメタアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン等の樹脂および/またはこれらの共重合体樹脂、架橋体樹脂)とからなる処理液を電磁鋼板の表面に塗布し、焼き付けることにより絶縁皮膜を形成する方法が開示されている。
【0005】
しかしながらこれらの処理液中には6価クロムが含まれており、環境汚染の問題が懸念されるとともに、廃棄処理や廃液処理にコストがかかる問題がある。
【0006】
一方このような課題改善を目的とし、クロム系化合物を含まない皮膜処理液として、特開平11-152579号公報のように第1リン酸Alと樹脂エマルジョンと皮膜の吸湿性改善のために添加されるOHを含有する有機化合物からなる処理液を鋼板表面に塗布し、焼き付ける方法が開示されている。また特開平10-36976号公報のようにガラス転移点が30〜150℃の樹脂とシリカ、ケイ酸塩(Li、Na、K)からなる皮膜を有する鋼板が開示されている。
【0007】
また2層化を図ることにより高い層間絶縁性、耐食性、密着性を実現することを目的とした特開平9-141199号公報のように、リン酸塩皮膜の上にエポキシエステル系樹脂およびメラミン樹脂からなる水溶性樹脂を形成したものが開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
特開平11-152579号公報に記載の方法によれば、リン酸AlをベースとしてOHを含有する有機化合物を添加することにより、リン酸塩系皮膜のフリーなPO4の吸湿によるベトツキをある程度抑制できることを可能としたものである。しかしながら耐食性、特に塩素イオン存在下での耐食性はクロム酸塩系化合物を使用したものに比べて、大きく劣るという問題があった。またリン酸塩は脱水反応を進行させて不溶化するために、塗装後更に高温で焼き付けることが必要である。
【0009】
一方、特開平10-36976号公報に記載の方法によれば、樹脂・シリカゾル系により低温焼付を可能とし、さらに樹脂のガラス転移点や皮膜中のアルカリ金属量を規制することで耐溶剤性を向上させたものである。しかしながら無機コロイド状物質では下地電磁鋼板との密着性が十分には得られず、特に歪取り焼鈍後の密着性に劣るといった問題があり、上述のようなクロム化合物フリーの無機−有機系絶縁皮膜は、クロム酸塩系をベースとした無機有機系絶縁皮膜の品質性能に比べて不十分なものであった。
【0010】
また特開平9-141199号公報の記載によれば、リン酸塩皮膜と特定の水溶性樹脂の2層化により、層間絶縁性、耐食性、密着性に優れる絶縁皮膜としたものである。しかしながら本技術では上層皮膜が樹脂皮膜単体であるために、歪取り焼鈍が必要な用途に使用できないといった問題があった。
【0011】
本発明は上述した問題を解決すべくなされたものであり、歪取り焼鈍が可能であり、塩素イオン存在下での耐食性、歪取り焼鈍後の密着性に優れた絶縁皮膜付き電磁鋼板を提供するものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するための手段について鋭意検討を重ねた結果、リン化合物を主体とする下層皮膜を形成した後、ケイ酸塩を主体とする皮膜を形成することにより、高い耐食性、層間絶縁性が得られ、かつ歪取り焼鈍後においても優れた耐食性や層間絶縁性が得られることを見出したものである。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいてなされたもので、その特徴は以下の通りである。
[1]電磁鋼板の表面に第1層として厚さ0.2〜1μmのリン化合物を含む皮膜を形成し、更にその上層に第2層として厚さ0.1〜1μmのケイ酸塩と粒子径が0.3〜2.5μmである有機樹脂エマルジョンを含む皮膜を形成した複層皮膜を有し、第1層と第2層の合計膜厚が0.3〜1μmであり、前記ケイ酸塩は、Li、Na、Kの中から選ばれる1種以上のアルカリ金属および/またはCaを含む塩であり、かつ前記ケイ酸塩に含まれるSiO 2 のモル数とアルカリ金属のモル数(M 2 O換算)および/またはCaのモル数(CaO換算)のモル数の比{SiO 2 モル数/(M 2 O換算モル数とCaO換算モル数の合計モル数)}が2以上8以下であることを特徴とする塩素イオン存在下での耐食性、歪取り焼鈍後の密着性に優れた絶縁皮膜付き電磁鋼板。
【0014】
[2]前記リン化合物は、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、有機リン酸塩の中から選ばれる1種また2種以上を含むことを特徴とする[1]に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
【0015】
[3]前記無機リン酸塩は、Zn、Al、Mg、Mn、Mo、Ca、Sr、Ceの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含む第一リン酸塩からなることを特徴とする、[2]に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
【0016】
[4]前記金属元素を含む第一リン酸塩は、第一リン酸亜鉛を含むことを特徴とする、[3]に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
【0019】
[5]前記有機樹脂エマルジョンがエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂の各種樹脂エマルジョンの中から選ばれる1種または2種以上からなり、その配合量は、リン化合物及びケイ酸塩の固形成分の合計100重量部に対して樹脂固形分の合計で5〜100重量部であることを特徴とする、[1]〜[4]の何れかに記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細をその限定理由とともに説明する。
本発明において、絶縁皮膜を形成する基板となる鋼板は、モーターやトランスなどの電気製品に利用される鉄芯用の電磁鋼板である。このような電磁鋼板としては、無方向性電磁鋼板や方向性電磁鋼板が一般的であるが、これ以外にも軟鋼板、ステンレス鋼板、その他の特殊鋼板などでもよく、基板となる鋼板は特に限定されない。本発明の効果は、これらいずれの鋼板を基板とした場合でも得ることができる。
【0021】
本発明の絶縁皮膜は下層(第1層)としてリン化合物を含む皮膜を形成し、更にその上層に第2層として、ケイ酸塩と粒子径が0.3〜2.5μmである有機樹脂エマルジョンを含む皮膜を形成した複層皮膜を有する。
【0022】
第1層として形成される皮膜に含まれるリン化合物は、無機リン酸、その塩、有機リン酸、その塩の中から選ばれる1種また2種であることが好ましい。
【0023】
このような2層化によって塩素イオン存在下での耐食性が向上する理由は次のように考えられる。すなわち前記リン化合物は吸湿性があり、腐食環境では溶出しやすい状態であると考えられ、ケイ酸塩皮膜をその上層に形成することにより、リン化合物の溶出を抑制し、耐食性が向上するものと考えられる。また前記リン化合物は下地である鋼板と反応することにより強固な密着性を実現するとともに、皮膜の不均一な部分をケイ酸塩で覆うことで、鋼板−皮膜界面を鋼板が腐食しにくいアルカリ環境へ導くためだと考えられる。さらにケイ酸塩は皮膜がガラス質で、有機樹脂などと比べて緻密であるため、第2層として有機樹脂を形成した場合と比べて、塩素イオンや水などのバリヤー性が高いため、より耐食性に優れるものと考えられる。
【0024】
また2層化皮膜として、下層にケイ酸塩系皮膜を形成し、その上層にリン化合物系皮膜を形成した場合は、本発明と同様の効果は得られない。これは上層にリン化合物系皮膜を形成しても、上層部分が腐食環境により溶出してしまうためだと考えられる。
【0025】
第1層として形成するリン化合物を含む皮膜において、無機リン酸及びその塩としては、例えばオルトリン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸などの無機リン酸、これらの金属塩や金属塩以外の化合物などを皮膜処理液中に添加することにより、皮膜成分として含有させることができる。また有機リン酸及びその塩としては、例えば、フィチン酸、フィチン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩を、皮膜処理液中に添加することにより皮膜成分として含有させてもよい。
【0026】
皮膜処理液の安定性の点から、無機リン酸塩が好ましく、無機リン酸塩としては、Zn、Al、Mg、Mn、Mo、Ca、Sr、Ceの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含む第一リン酸塩が好ましい。第一リン酸亜鉛を添加すると、耐食性がより良好になるので、前記第一リン酸塩は、第一リン酸亜鉛を含むことがより好ましい。第一リン酸亜鉛を添加することで耐食性が向上するのは、亜鉛イオンが鉄に対して優れた防錆性を有しているためと考えられる。
【0027】
皮膜中でのリン酸及びその塩などのリン化合物の存在形態については特に限定されない。
【0028】
皮膜中における金属成分の存在形態については特別な限定はなく、金属として、あるいは酸化物、水酸化物、水和酸化物、リン酸化合物として存在していてもよい。
【0029】
皮膜中に金属イオン成分を導入するためには、特に限定されないが、リン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などとして皮膜組成物中に添加すればよい。
【0030】
第2層して形成するケイ酸塩皮膜は、ケイ酸塩水溶液またはケイ酸塩水溶液とケイ酸コロイドの混合物を塗布して焼付を行えばよく、これによってガラス質の皮膜を表面に形成することができる。
【0031】
ケイ酸塩水溶液としては、市販のリチウムシリケートや水ガラスと呼ばれるケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウム、ケイ酸カルシウム等を用いればよく、またケイ酸コロイドについても市販のコロイダルシリカやコロイドゾルを用いればよい。これらのケイ酸塩水溶液の中でも、リチウムシリケートは皮膜外観が白変化しにくく、耐食性にも優れるため好ましい。ケイ酸カルシウムは最も耐食性に優れているが、水溶液の安定性が低いため、リチウムシリケートと複合化することがバランスの点から好ましい。
【0032】
ケイ酸塩に含まれるSiO 2 のモル数([SiO 2 ])とアルカリ金属のモル数(M 2 O換算、[M 2 O])および/またはCaのモル数(CaO換算、[CaO])の比、[SiO 2 ]/([M 2 O]+[CaO])は、2以上8以下であることが好ましい。前記モル数の比[SiO 2 ]/([M 2 O]+[CaO])が2未満では、皮膜中に含まれるアルカリ金属が多いため、吸湿しやすく、耐食性に劣るとともに、皮膜表面が白変化しやすくなるため好ましくない。また前記モル数の比[SiO 2 ]/([M 2 O]+[CaO])が8超では、密着性に劣るため好ましくない。
【0033】
第2層は、有機樹脂エマルジョンを含む。有機樹脂エマルジョンは、エポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂の各種樹脂エマルジョンの中から選ばれる1種または2種以上から選ばれる少なくとも1種以上が好ましい。有機樹脂エマルジョンを添加することにより、連続打ち抜き性、耐スティッキング性等が向上する。またその樹脂粒子径は0.3μm以上2.5μm以下に限定される。
【0034】
これは有機樹脂エマルジョンの樹脂粒子径が0.3μm未満では、耐スティッキング性が十分ではなく、一方2.5μm超では耐食性が劣り、また耐スティッキング性にも劣る傾向があるためである。また特に優れた耐食性と耐スティッキング性を必要とする場合には、有機樹脂エマルジョンの樹脂粒子径は0.5〜1.5μm、更に好ましくは0.5〜1.0μmとすることが好ましい。
【0035】
上記有機樹脂エマルジョンの処理液中での配合量は、リン化合物及びケイ酸塩の固形成分の合計100重量部に対して樹脂固形分の合計で5〜100重量部とすることが好ましい。有機樹脂エマルジョンの配合量が5重量部未満では、耐スティッキング性の改善効果が十分に得られず、また皮膜中での有機樹脂の割合も少なくなるため打ち抜き性も劣るため好ましくない。一方配合量が100重量部を超えると耐食性が劣化する傾向があるため好ましくない。より好ましい配合量の範囲は20〜50重量部である。
【0036】
本発明の電磁鋼板の絶縁皮膜は、第1層用の処理液を鋼板表面に塗布後、乾燥し、さらに第2層用の処理液を塗布後、焼付を行うことにより形成される。少なくとも第2層の皮膜を焼き付ける場合の温度は200℃以上であることが好ましい。200℃未満では第1層および第2層とも水系の処理液から形成するため、皮膜の脱水が十分でなく、緻密な絶縁皮膜が得られないため耐食性が低下する恐れがある。
【0037】
第1層の膜厚は0.2〜1μmとする。0.2μm未満では耐食性向上効果が十分でなく、1μm超では密着性や溶接性に劣る。第2層の膜厚は0.1〜1μmとする。0.1μm未満では耐食性耐食性向上効果が十分でなく、1μm超では密着性や溶接性に劣る。
【0038】
絶縁皮膜の合計膜厚は0.3〜2μmとすることが好ましい。絶縁皮膜の膜厚が0.3μm未満では絶縁性、耐スティッキング性、耐食性が劣り、一方膜厚が2μm超では皮膜の密着性並びに占積率や溶接性が劣るため好ましくない。特に好ましい膜厚は0.3〜1μmである。
【0039】
なお、絶縁皮膜の形成方法は、ロールコーターなどの既知の方法で電磁鋼板表面に塗布した後、熱風乾燥炉や誘導加熱炉で焼付を行う方法がある。
【0040】
【実施例】
下層(第1層)絶縁皮膜形成用の処理液として表1及び上層(第2層)絶縁皮膜形成用の処理液として表2に示す処理液を各々調整し、これら処理液を板厚0.5mmの無方向性電磁鋼板の表面に、所定の皮膜厚となるように、ロールコーティング法により塗布した後、これを誘導加熱装置で焼付を行い、絶縁皮膜を形成した供試材を作成した。下層および上層の皮膜厚および焼付温度を表3及び表4に記載した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
作成した供試材について、耐食性(歪取り焼鈍有り・無し)、皮膜密着性(歪取り焼鈍有り・無し)、層間抵抗(歪取り焼鈍有り・無し)、耐スティッキング性を評価した。その結果を表3及び表4に合わせて記載した。性能評価方法は以下に示す。
【0044】
(a)耐食性:歪取り焼鈍無し
供試材を70mm×150mmに切断し、この供試材の裏面およびエッジ部をシールした後、JIS Z 2371に規定された塩水噴霧試験を15時間行い、試験後の赤錆発生面積率により耐食性を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎+:赤錆発生率10%以下。
◎:赤錆発生率10%超、20%以下。
○:赤錆発生率20%超、40%以下。
△:赤錆発生率40%超、60%以下。
×:赤錆発生率60%超。
【0045】
(b)耐食性:歪取り焼鈍有り
供試材を70mm×150mmに切断し、歪取り焼鈍(750℃×2時間、N2ガス雰囲気中)を施した後に裏面およびエッジ部をシールした後、50℃・95%RHの条件下での湿潤試験を96時間行い、試験後の赤錆発生面積率により耐食性を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:赤錆発生率20%以下。
○:赤錆発生率20%超、40%以下。
△:赤錆発生率40%超、60%以下。
×:赤錆発生率60%超。
【0046】
(c)皮膜密着性:歪取り焼鈍無し
供試材に10mmφの曲げ加工を施した後、曲げ部にテープ剥離試験を実施し、テープへの皮膜剥離率を目視で判定することにより皮膜密着性を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:剥離無し。
○:剥離率20%未満。
△:剥離率20%超、40%未満。
×:剥離率40%超。
【0047】
(d)皮膜密着性:歪取り焼鈍有り
供試材に歪取り焼鈍(750℃×2時間、N2ガス雰囲気中)を施した後、10mmφの曲げ加工を施した後、曲げ部にテープ剥離試験を実施し、テープへの皮膜剥離率を目視で判定することにより皮膜密着性を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:剥離無し。
○:剥離率20%未満。
△:剥離率20%超、40%未満。
×:剥離率40%超。
【0048】
(e)層間抵抗:歪取り焼鈍無し
供試材をJIS C 2550に規定された層間抵抗測定(第2法)により評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:30Ωcm/枚超。
○:10Ωcm/枚超、30Ωcm/枚以下。
△:5Ωcm/枚超、10Ωcm/枚以下。
×:5Ωcm/枚以下。
【0049】
(f)層間抵抗:歪取り焼鈍有り
供試材に歪取り焼鈍(750℃×2時間、N2ガス雰囲気中)を施した後、JIS C 2550に規定された層間抵抗測定(第2法)により評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:10Ωcm/枚超。
○:5Ωcm/枚超、10Ωcm/枚以下。
△:3Ωcm/枚超、5Ωcm/枚以下。
×:3Ωcm/枚以下。
【0050】
(g)耐スティッキング性
供試材を350kg/cm2で加圧した状態で歪取り焼鈍(750℃×2時間、N2ガス雰囲気中)を施した後、そのサンプルを、剪断剥離試験を行い、その剥離強度で評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:0.5kg/cm2以下。
○:0.5kg/cm2超、1.0kg/cm2以下。
△:1.0kg/cm2超、2.0kg/cm2以下。
×:2kg/cm2以上。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表1〜4から明らかなように、本発明による絶縁皮膜を形成した電磁鋼板は、耐食性(歪取り焼鈍有り・無し)、皮膜密着性(歪取り焼鈍有り・無し)、層間抵抗(歪取り焼鈍有り・無し)、耐スティッキング性のいずれにも優れている。これに対して比較例は耐食性(歪取り焼鈍有り・無し)、皮膜密着性(歪取り焼鈍有り・無し)、層間抵抗(歪取り焼鈍有り・無し)、耐スティッキング性の何れかに劣っている。
【0054】
【発明の効果】
以上に述べた本発明の絶縁皮膜を形成した電磁鋼板によれば、クロム化合物を含まないで、従来のクロム化合物を含む無機−有機混合系皮膜と同等の皮膜特性が得られる。すなわち塩素イオン存在下での歪取り焼鈍前の耐食性、歪取り焼鈍後の密着性に優れ、他の皮膜特性も良好な絶縁皮膜が得られる。本発明の電磁鋼板は、絶縁皮膜はクロム化合物を含まないので、安全衛生上の問題点がほとんどなく、環境問題にも対応可能である。
Claims (5)
- 電磁鋼板の表面に第1層として厚さ0.2〜1μmのリン化合物を含む皮膜を形成し、更にその上層に第2層として厚さ0.1〜1μmのケイ酸塩と粒子径が0.3〜2.5μmである有機樹脂エマルジョンを含む皮膜を形成した複層皮膜を有し、第1層と第2層の合計膜厚が0.3〜1μmであり、前記ケイ酸塩は、Li、Na、Kの中から選ばれる1種以上のアルカリ金属および/またはCaを含む塩であり、かつ前記ケイ酸塩に含まれるSiO 2 のモル数とアルカリ金属のモル数(M 2 O換算)および/またはCaのモル数(CaO換算)のモル数の比{SiO 2 モル数/(M 2 O換算モル数とCaO換算モル数の合計モル数)}が2以上8以下であることを特徴とする塩素イオン存在下での耐食性、歪取り焼鈍後の密着性に優れた絶縁皮膜付き電磁鋼板。
- 前記リン化合物は、無機リン酸、無機リン酸塩、有機リン酸、有機リン酸塩の中から選ばれる1種また2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
- 前記無機リン酸塩は、Zn、Al、Mg、Mn、Mo、Ca、Sr、Ceの中から選ばれる1種または2種以上の金属元素を含む第一リン酸塩からなることを特徴とする、請求項2に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
- 前記金属元素を含む第一リン酸塩は、第一リン酸亜鉛を含むことを特徴とする、請求項3に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
- 前記有機樹脂エマルジョンがエポキシ系樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂の各種樹脂エマルジョンの中から選ばれる1種または2種以上からなり、その配合量は、リン化合物及びケイ酸塩の固形成分の合計100重量部に対して樹脂固形分の合計で5〜100重量部であることを特徴とする、請求項1〜4の何れかの項に記載の絶縁皮膜付き電磁鋼板。
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