JP4202015B2 - 金属と樹脂の複合体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、IC等を内蔵した電子機器の筐体、構造用部品等に用いられる金属と樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、板金加工、プレス加工、切削加工、ノッチング加工等で作られた金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を一体化した構造物の構造に関し、産業用の各種制御機器、家庭用電化製品、携帯電話等の通信機器、医療機器、車両搭載用や建築資材用の筐体、構造用部品、外装用部品等に用いられる金属と樹脂の複合体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属と合成樹脂を一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造等の広い分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。この中には非常に優れた接着剤があり、例えば常温又は加熱により機能を発揮する接着剤は、金属と合成樹脂を一体化する接合に使われ、この方法は現在では一般的な技術である。
【0003】
しかしながら、接着剤を使用しない、より合理的な接合方法がないか従来から研究されてきた。アルミニウムやマグネシウムやそれらの合金等の軽金属類,又はステンレス等の鉄合金類に対して、接着剤の介在なしで高強度のエンジニアリング樹脂を一体化する方法については、本発明者らの知る限りでは現在のところ実用化されていない。本発明者らはこれらについて鋭意研究開発を進めてきた。
【0004】
本発明者らがこの開発を進める理由は以下の通りである。即ち、昨今の携帯電話,携帯用パソコン,PDA等の携帯用電子機器の発展と市場拡大は、より軽量丈夫で外観の優れた構造を求めており、アルミニウムやマグネシウム等の軽合金製や薄いステンレスシート製の外装部と、これと素材が全く異なる高強度樹脂製シャーシーの組み合わせはその要望を担うものであり、両者の合理的な接合手段が求められている。
【0005】
また、IT時代を迎え、事業者のみならず一般消費者の環境に電磁波障害が入り込んできたため、電気機器や電子機器の発する電磁波はできるだけ遮蔽しなければならない。シールド材としてアルミニウム合金は、金属であるが故に展性が高く加工容易で好ましい遮蔽材である。一方、本発明で主に扱うポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂は、耐熱性、機械的な強度とも優れているので両者を容易な手段で接合する方法が見つかればこの分野でも貢献することができる。
【0006】
なお、金属と樹脂の複合体の用途は、上述の如く軽量化や電磁波の遮蔽等を目指す携帯用電子機器には限られず、金属と耐熱性や強度に優れた熱可塑性樹脂組成物を射出、熱プレス、その他の加熱成形工程で強固に接着できれば、その他にも驚くほど範囲の広い用途が予想できる。即ち据置型の電子・電気機械や一般機械(例えばテレビ、パソコン、ミシン等)においてケースやシャーシーに使用すれば、軽量化やデザイン上で大きなメリットがある。また、金属と樹脂の複合体における温度サイクルによる強度低下を完全に抑えることが出来るところまで技術が進めば、多種多様の機械部品に使えるとみられる。更に、金属と樹脂の複合体を自動車や航空機などの移動機械に使用できるまで応用が進めば、予期できる用途として最もすばらしいものとなる。
【0007】
上記の目的に合う最も容易な接合手段としてまず考えられるのは、コストや生産性を考慮するとインサート成形法である。即ち、金属板等を曲げ、切断、絞り加工等のプレス加工、ミーリング等の切削加工やノッチング加工等の加工法により、所望の形状に加工して金属フレームを作り、射出成形金型にこの金属フレームを挿入した後に溶融した熱可塑性樹脂組成物を射出する方法である。
【0008】
この手段に適合できそうな発明が、特公平5−51671号公報に開示され提案されている。提案されたこの発明は、銅、黄銅、鉄、ステンレス、ニッケル、亜鉛、アルミニウム等の金属板を、トリアジンチオール類のアルカリ塩、アミンアンモニウム塩などを溶解した水溶液中に漬けて電気鍍金と同様な考えで電気化学的な処理を行うものである(この発明では「有機鍍金」と称している)。
【0009】
この「有機鍍金」の処理を行うと、金属表面に有機物層が強固に沈着して表面が有機層になるということが示されており、更に、この有機鍍金をした金属板に各種プラスチックシートを重ねてホットプレートでプレスすれば金属とプラストックが強固に接着するということが開示されている。
【0010】
本発明者らは、この提案された発明を追試するために、使用する金属としてアルミニウム合金を使用し、各種の合成樹脂を射出して試みた。本発明者らの追試実験では、この合成樹脂にナイロン12を使用したときに高いアルミニウム/樹脂の接着(熱融着)強度を確認できた。そこで更に、成形されたアルミニウム金属をインサートし、この金型にナイロン12系樹脂を射出するインサート射出成形による量産化、即ち商業化について詳細に検討をした。
【0011】
しかし検討結果としては、それほど好ましいものではなかった。問題点として、例えば、前述した「有機鍍金」の前にアルミニウム表面の油脂の除去、酸化金属の除去、又は活性化のために前処理が必要である。この前処理を安定した環境下で、かつ厳密な条件で処理しないと好ましい接着力が得られないこと、「有機鍍金」を施す条件が繊細で量産時の管理が容易ではないこと、樹脂を射出するときにかなり高い金型温度にしないと好ましい接着力が得られないこと、この金型温度を上げると成形サイクルが長くなり形状によっては成形品を金型から離型するときに変形してしまうこと、などの諸問題があることが分かった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
提案された前述の技術は、同業他社でも未だ企業化されておらず、本発明者らも製品化を見送った。しかし、もし実用的な方法が確立できれば諸分野への応用範囲は広く、市場も大きいとみられる。接着方法として、金属片インサートによるエンジニアリング樹脂の射出による接着、いわゆる射出成形法による製造方法を選び、金属側の表面層の改質に焦点を絞って引き続き鋭意研究開発を進めた。
【0013】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を強固に一体化することにより、電子機器の筐体等に用いられる金属と樹脂の複合体とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、生産性及び量産性の高い射出成形法により、電子機器の筐体等に用いられる金属と樹脂が強固に一体化された複合体とその製造方法を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、電磁シールド性が高い金属フレームを用い、しかも熱可塑性樹脂組成物の成形性を備えた、電子機器の筐体等に用いられる金属と樹脂が強固に一体化された複合体とその製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段を採る。本発明の金属と樹脂の複合体は、底部から立設される辺部と、前記辺部から突設されると共に前記辺部に対して折り曲げ可能な突起部とを有し、水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液で表面が処理された金属製の金属フレームと、前記底部、前記辺部、及び折り曲げられた前記突起部とで囲繞される空間における前記金属フレームの表面に付着され、ポリアルキレンテレフタレート、前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合体、又は前記ポリアルキレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上と、からなることを特徴とする。
【0015】
[金属フレーム]
前記金属フレームの金属素材として、好ましくはアルミニウム合金が使用できる。アルミニウム合金は、金属の中では線膨張率が比較的大きくて樹脂組成物のそれに合わせ易く、また展性及び加工性に優れていて好ましい。この金属フレームは、鋸加工、フライス加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工、及びノッチング加工等の種々の金属加工法によって金属素材が切断、切削、曲げ、絞り、及び研磨等されることにより、射出成形でのインサート用として必要な形状及び構造にされる。
【0016】
ここでの金属フレームは、底部から立設される辺部と、該辺部から突設されると共に該辺部に対して折り曲げ可能な突起部とを有し、該突起部が折り曲げられた形状・構造であり、例えば辺部及び突起部がノッチング加工された金属板が折曲加工されて、長方形状の底部と、該底部の四周から直角に立設される四つの辺部と、各辺部同士が交差する四つの角部に覆い被さるように底部と平行に折り曲げられた四つの突起部とが形成された開口容器である。このように、辺部及び突起部がノッチング加工された金属板の折曲加工にて金属フレームを容易に構成することができるので、生産性及び量産性を向上できる。また各辺部同士が交差する金属フレームの角部に突起部を形成することにより、該角部において金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を強固に一体化できる。なお突起部の先端に該熱可塑性樹脂組成物に食い込む食い込み部を形成することにより、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物をさらに強固に一体化できる。
【0017】
[切削/研磨]
この金属フレームは、水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液で表面を処理する工程の前に、切削や研磨による物理的な表面更新操作が施されたものであることが好ましい。本発明でいう切削や研磨とは、必要な形状出しを前記の種々の金属加工法によって行った後、更に切削及び/又は研磨することをいう。もし、必要な形状出しの最終工程が切削や研磨であり、しかもその切削や研磨の終了時からの保存が後述するような好ましいものであるなら、本項での切削及び/又は研磨は省略できる。本工程の目的は、水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液と接触させる前に金属表面を物理的に更新し、次工程の効果が表面全体にできるだけ均一に効くようにすることにある。金属表面は、通常、酸化物や水酸化物で覆われているが、長期保存した物は酸化物層が内部に浸透して厚くなり、酷くなると錆表面となるからである。
【0018】
アルミニウム合金で例を言えば、市販されているアルミ板は圧延工程で圧力と熱の洗礼を受けており、更には耐候性を上げるために表面を軽く酸処理されたものもあるので、表面の酸化物層の厚さは結構厚い。このアルミ板を、微砂粒を混ぜた圧縮空気の強い流れで研磨したとする(ブラスト処理)。この研磨で、酸化物で覆われた表面が剥がし取られて金属アルミニウム原子が一瞬剥き出しになり、次の瞬間には空気中の酸素に酸化され酸化物膜が生成するが、この酸化物膜の厚さは薄い。研磨後の金属フレームは、乾燥空気下で保存すればそう早くは変化しないが、高温高湿下なら酸化物や水酸化物が増えて元の状態(研磨前の表面の様子)に早く近づく。それ故、この工程後の保存も、湿気温度等の環境を確認し、期間も短くすることが重要である。
【0019】
この工程について具体的に述べる。切削とは文字通り切削である。研磨はサンドペーパー、粉体研磨材、研磨剤ペースト等を使用した磨き作業が好ましい。砂粒や微粉研磨剤と圧縮空気や圧縮窒素を使ったサンドブラスト処理、エアブラスト処理、又はブラスト処理と言われる研磨は更に好ましい。目的から言って、研磨時に温度があまり上がらず、共存する湿気水分が少ない方が良いので、大量生産を前提とした商業化時にはブラスト処理が好ましい。この工程後の金属フレームの保存は前記した通りである。本発明者らによれば、ブラスト処理をしたアルミニウム合金の形状物は、乾燥空気下に1週間程度の保存ならば、即日次工程に廻したものと大差ないようであった。
【0020】
[化学エッチング]
金属フレームは、水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液で表面を処理する工程の前に、前記した切削や研磨による物理的な表面更新操作が施されたものであることが好ましく、更に加えて化学エッチングが施されたものであることが好ましい。化学エッチングとは、使用する金属種が溶解する薬剤水溶液に短時間浸漬することである。アルミニウム合金の場合、例えば水酸化ナトリウム水溶液に浸漬すると表面が溶解し微細な凹凸面が生じる。この場合、後日に残存した水酸化ナトリウムによって腐食が進行しないよう、浸漬後に水洗し、薄い酸水溶液で洗浄し、更に十分に水洗することが好ましい。化学エッチングにより樹脂との接触面積が拡大し、且つ生じた微細凹凸が強固な接着力を生むとみられる。
【0021】
ただし、この化学エッチング工程、および前述した物理的な表面更新操作は、本発明において必要条件ではなく、最終的に得られた金属と樹脂の複合体がその用途として必要な一体化強度を有していれば、過剰でコストが余分にかかる工程は外すことが好ましい。
【0022】
[洗浄]
金属フレームは、最も大事な水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液への浸漬処理の前に洗浄することが好ましい。勿論、化学エッチングが行なわれている場合は、その最終工程が水洗であるからこの工程を兼ねることができる。そこで、その他の場合について述べるが、一般に金属加工物の表面には加工油や指脂が付いているし、ブラスト処理後の金属フレームでも砂や微細な油滴、汚れが付いているため、洗浄を行うのは重要なことである。この洗浄は、有機溶剤での洗浄と水洗浄の組合せで行なうのが好ましい。例えば、アセトン、エタノールなどの水溶性の有機溶剤に浸漬して油性汚れを除いた後に水洗浄し、強制空気で風乾する。また強い油性物が付着している場合は、ベンジン、キシレンなどの有機溶剤で洗浄した後に水洗浄し、強制空気で乾燥する。
【0023】
洗浄後の保存期間はできるだけ短くするのが良く、できれば洗浄工程と次工程は引き続いて実施されるのが好ましい。連続的に処理する場合は、本工程最後の乾燥工程が簡素化、または省略できる。また次工程まで保存が必要な場合には、乾燥し、その後の保存は少なくとも乾燥空気下で行い、温度も室温かそれ以下が好ましい。アルミニウム合金形状物の場合、夏季であったが、洗浄乾燥後、24時間乾燥空気中に室温下で保存して次工程に廻したが、即時に次工程に廻した物と有意差はみられなかった。なお本発明者らは実施したことはないが、理屈では乾燥窒素下で、しかも低温下に保存すれば、有効な期間は延長できるはずである。
【0024】
[金属フレームの表面処理]
次に、水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液による金属フレームの表面処理の具体的な方法について述べる。本発明で用いる水溶性アミン系化合物は、ヒドラジンやその誘導体、低級アミン系化合物、ピリジン、アニリン等を指している。低級アミンとしては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等の易水溶性低級アミンが特に好ましく使用できる。これら水溶性アミン系化合物の種類によるが、濃度が数%〜数十%になるよう水に溶解し、前記した洗浄後の金属フレームをここへ一定時間浸漬する。
【0025】
例えば、ヒドラジン処理液の作成法を具体的に言えば、以下のようである。市販されているヒドラジン水和物、又は60%ヒドラジン水溶液が原料として使用できる。これを入手して水で希釈し、ヒドラジン濃度として1〜5%、好ましくは2〜4%とする。使用するアルミニウム合金によって異なるが、A1050規格(日本工業規格(JIS))のアルミニウム合金を使用した場合、ヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度を3%として60〜120秒浸漬したときに良い結果を示した。
【0026】
また、アンモニア水、例えば25〜28%の市販アンモニア水をそのまま使用する場合について述べると、A1100アルミニウム合金処理に10〜30分浸漬することで最終的に良好な結果が得られた。このように使用するアミン系化合物(又はアンモニア)や対応する金属種によって最適処理条件は異なる。アルミニウム合金について言えば、水溶性アミン系化合物濃度を濃くすると処理時間を短くすることができるとみられるが、短いと工程の安定性が損なわれる。一方、濃度を下げると効果を発揮させるための浸漬時間が長くなる。
【0027】
処理済みの金属フレームは、乾燥空気下で保存し、湿気に触れることがないようにするのが好ましい。乾燥窒素下で保存すべきか否かまでは確認実験をしていない。アルミニウム合金の場合、1週間までの保存であれば、乾燥空気下の室温で保存しても効力の続くことは確認した。
【0028】
[熱可塑性樹脂組成物]
次に、使用する熱可塑性樹脂組成物について述べる。この熱可塑性樹脂組成物は、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合体、又はポリアルキレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上である。ここでポリアルキレンテレフタレートとしては、PBTが好ましい。また熱可塑性樹脂組成物としては、PBT単独のポリマー、PBTとポリカーボネート(PC)のポリマーコンパウンド、PBTとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)のポリマーコンパウンド、又はPBTとポリエチレンテレフタレート(PET)のポリマーコンパウンドから選択される1種以上が好ましい。
【0029】
また、上記樹脂組成物へのフィラーの含有は非常に好ましい。その理由は、金属材料と樹脂材料との線膨張率の違いにある。一般的に言って、金属の線膨張率は、熱可塑性樹脂のそれより大幅に小さく、加熱や冷却した場合の伸縮の長さが互いに異なるのである。両者の線熱膨張率が異なると、一体化品、即ち複合体の接着面では温度変化で必ずズレ応力が生じる。接着剤による接着であれば、弾性接着剤を使用することで両者間の熱伸縮の差を吸収するが、本発明では剛性の高いもの同士が直接接着していて逃げ場がない。それ故、温度変化時のズレ応力を吸収し緩和するための工夫が必要である。樹脂へのフィラーの大量混入がその解決策になる。
【0030】
フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、その他これらに類する高強度繊維が良い。又、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土、炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物、その他これらに類する樹脂充填用無機フィラーを含有した熱可塑性樹脂組成物であることは非常に好ましい。フィラーを含まない場合でも強固に接着し、金属に接着した熱可塑性樹脂組成物を剥がすには非常に強い力が必要である。しかしながら、成形された複合体を温度サイクル試験にかけると、フィラーを含まない樹脂の系ではサイクルを重ねることで急速に接着強度が低下することが多い。詳細に言えば、これには二つの原因がある。
【0031】
一つは、線膨張率で金属フレームと熱可塑性樹脂組成物に大きな差があることによる。アルミニウムの線膨張率は金属の中では大きい方だが、それでも熱可塑性樹脂組成物よりかなり小さい。フィラーの存在は熱可塑性樹脂組成物の線膨張率を下げ、アルミニウム合金の熱膨張率(純アルミニウムで2.386×10-5)に近づける。フィラーの種類とその含有率を選べば、線膨張率はアルミニウム合金にかなり近い値にできるものと推定される。
【0032】
もう一つは、インサート成形後の金属フレームの冷却縮みと熱可塑性樹脂組成物の成形収縮の関係である。フィラーを含まない熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、小さなものでも0.6%程度である。一方、アルミニウム合金の冷却縮みは、例えば射出時から室温まで100℃程度冷えるとして0.2%程度であり、熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率よりずっと小さく、両者には差がある。よって、複合体を金型から離型して時間が経ち、樹脂が落ち着いてくると、金属と樹脂の界面に内部歪が生じ、僅かな衝撃で界面破壊が起こって剥がれてしまう。
【0033】
アルミニウムの熱膨張率は金属の中では大きな方で使用金属種として好ましいことは既に述べた。それでもアルミニウム合金では線膨張率は2〜3×10-5℃-1である。一方、PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドの線膨張率は7〜8×10-5℃-1である。PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドに高強度繊維や無機フィラーを含有率で30〜50%含ませると、線膨張率は2〜3×10-5℃-1となり、アルミニウムとほぼ一致する。また、このとき成形収縮率も低下する。成形収縮率について更に詳細に言えば、PBTの高い結晶性が収縮率を上げているので結晶性の低い樹脂であるPET、PC、ABS、PS、その他を混ぜてコンパウンド化した方が更に低下できる。ただ、PBT濃度も下がるので、具体的には試行錯誤が必要である。
【0034】
[射出成形]
水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液に浸漬する処理が行われた後、乾燥した金属フレームを射出成形金型に挿入し、底部、辺部、及び折り曲げられた突起部で囲繞される空間(並びに後述するスペーサ等を形成するための所望の空間)に形成されるキャビティ部に前記熱可塑性樹脂組成物を射出し、該空間における金属フレームの表面に前記熱可塑性樹脂組成物を付着させ、金属と樹脂を強固に一体化する。
【0035】
射出条件について述べる。金型温度、射出温度は高い方が良い結果が得られるが無理に上げることはなく、前記熱可塑性樹脂組成物を使う通常の射出成形時とほぼ同様の条件で十分な接着効果が発揮できる。接着力を上げるためには、むしろ金型のゲート構造において出来るだけピンゲートを多く使うことに留意した方が良い。ピンゲートでは樹脂通過時に生じるせん断摩擦で瞬時に樹脂温度が上がり、これが良効果を生むものとみられる。要するに、円滑な成形を阻害しない範囲で出来るだけ接着面に高温の樹脂溶融物が接するように工夫するのが良いように推定される。
【0036】
[作用]
本発明によれば、インサート成形の手法によって、底部、辺部、及び突起部で囲繞される空間における金属フレームの表面に熱可塑性樹脂組成物を付着させることにより、該熱可塑性樹脂組成物が金属フレームの三面(即ち底部の表面、辺部の表面、及び突起部の表面)に付着されるので、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を強固に一体化することができる。この様なことが可能になった理由は、金属フレームを水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液で処理したことにある。この処理により、適度のエッチングと適度の反応性を有する金属表面状態が得られたのではないかと推定される。本発明を使用することで、産業用の各種制御機器、家庭用電化製品、携帯電話等の通信機器、医療機器、車両搭載用や建築資材用等に用いられる筐体、構造用部品、外装用部品等の製造において、金属フレームの良さと熱可塑性樹脂組成物の良さを両立させ、生産性及び量産性を向上でき、形状や構造の設計が自由にできる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。以下においては、本発明に係る金属と樹脂の複合体を、いわゆるノート型のパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)の筐体に適用した例について説明する。まず図1は、本発明に係る金属と樹脂の複合体である下部筐体4を備えるパソコン1を表す分解斜視図である。パソコン1は、キーボード2a及びディスプレイ2bを有し、パソコン1の外殻を形成する上部筐体2と、本発明に係る金属と樹脂の複合体であり、同じくパソコン1の外殻を形成する下部筐体4と、電磁波を発生する電子機器3a(例えばCPU,ROM,RAMや、ディスクドライブ装置等)を有し、上部筐体2及び下部筐体4の間に介在される電気回路基板3と、からなる。
【0038】
次に図2は、下部筐体4の詳細を表す斜視図である。下部筐体4は、底部6から立設される辺部7と、該辺部7から突設されると共に該辺部7に対して折り曲げ可能な突起部8とを有し、該突起部8が折り曲げられた形状・構造の金属フレームと、該金属フレームの表面に付着された前記熱可塑性樹脂組成物と、からなるものである。
【0039】
ここでの金属フレームは、辺部7及び突起部8がノッチング加工された金属板5が折曲加工されて、長方形状の底部6と、該底部6の四周から直角に立設される四つの辺部7,7,7,7と、各辺部同士が交差する四つの角部に覆い被さるように底部6と平行に折り曲げられた四つの突起部8,8,8,8とが形成された開口容器である。
【0040】
また熱可塑性樹脂組成物は、底部6、辺部7、及び折り曲げられた突起部8で囲繞される空間における金属フレームの表面に付着されて、ボス部9を形成する。このボス部9には、上部筐体2の四つの角部から下方に向けて突設されるピン2c(図1を参照)が挿入される孔が設けられる。さらに熱可塑性樹脂組成物は、底部の中央における金属フレームの中央に付着されて、スペーサ10を形成する。このスペーサ10には、パソコン1を組み立てた際に電気回路基板3が載置される。
【0041】
以上に説明した下部筐体4は、前記金属フレームを図3に示す製造工程にて製造し、該金属フレームを水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液に浸漬する処理を行った後に乾燥し、該金属フレームを図4に示す射出成形金型に挿入し、前記熱可塑性樹脂組成物を射出することにより製造される。
【0042】
具体的には、まず図3(a)に示すように、長方形状の金属製の板材に切り込みを入れてノッチング加工を行うことにより、四つの辺部7,7,7,7と、該辺部の一方側の端から突設される突設部8,8,8,8とを形成する。なお辺部7には、必要に応じて切り込み部7aを形成する。この切り込み部7aは、ディスクドライブ装置に連通する開口部や各種の接続ポートを形成するための部位である。
【0043】
次に図3(b)に示すように、底部6に対して四つの辺部7,7,7,7を鉛直に折り曲げる折曲加工を行い、各辺部同士を溶接や接着剤等により固着する。さらに図3(c)に示すように、各辺部同士が交差する四つの角部に覆い被さるように、各辺部に対して四つの突起部8,8,8,8を底部6と平行に折り曲げる折曲加工を行うと共に、ピン2cが挿入されるボス穴8aを各突起部に形成する。なお必要に応じて、製造された金属フレームに対して、前記切削や研磨の工程,化学エッチング工程、並びに洗浄工程を行う。
【0044】
そして金属フレームの表面を水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液に浸漬する処理を行う。例えば水溶性アミン系化合物としてヒドラジンを使用する場合には、濃度60%の市販のヒドラジン水溶液をイオン交換水で希釈してヒドラジンとしての濃度が3%のヒドラジン水溶液を作成し、前記前処理をして水洗乾燥した金属フレームを投入し、液を攪拌して浸漬約2分後に取り出し、別に用意したイオン交換水で洗浄する。
【0045】
次に図4に示すように、ヒドラジン処理が行われた金属フレームを射出成形金型11に挿入し、前記熱可塑性樹脂組成物を射出する。具体的には、射出成形金型11を構成する可動側型板12に形成されるキャビティに金属フレームを挿入し、同じく射出成形金型11を構成する固定側型板12を閉じ、スライドコア14を下方に移動させて該スライドコア14から突設されるピン14aをボス穴8aに挿入する。そして、底部6、辺部7、突起部8、及び可動側型板12で囲繞される空間S1と、底部6及び可動側型板12で囲繞される空間S2に、ランナ15及びゲート16を介して溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を射出して、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を付着させ、下部筐体4を形成する。
【0046】
このようにして製造された下部筐体4においては、空間S1における金属フレームの表面に熱可塑性樹脂組成物を付着させることにより、該熱可塑性樹脂組成物が金属フレームの三面(即ち底部6の表面、辺部7の表面、及び突起部8の表面)に付着されるので、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を強固に一体化することができる。また空間S2にスペーサ10を形成するように、形状や構造の設計が自由にできる。
【0047】
【実施例】
以下、本発明の実施例を実験例に換えて詳記する。
【0048】
[実験例1]
圧延法で得られた市販の電気工作用の1mm厚アルミ板(A1050アルミニウムとみられる)を使用して、図3に示す製造工程で金属フレームを製造した。この金属フレームをアセトンに10分間浸漬して取り出し、水道水により洗浄した。続いてSUS製バットに3%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用意し、前記金属フレームを1分間浸漬して化学エッチングし、取り出して水道水で洗浄した。次に別のSUS製バットに1%の希硝酸を用意し、前記の金属フレームを1分間浸漬し中和処理した。取り出して水道水で十分に洗浄し、更にイオン交換水で洗浄した。
【0049】
一方、濃度60%の市販のヒドラジン水溶液をイオン交換水で希釈して、ヒドラジンとしての濃度が3%のヒドラジン水溶液を作成した。これに前記した水を切った金属フレームを投入しガラス棒で液を時々かき混ぜた。金属フレーム表面から小さな発泡が起こり、表面がやや黒っぽくなりかけた時点を終了点と決めて、ヒドラジン水溶液から引き上げた。この間が約2分間の浸漬であり、取り出して別に用意したイオン交換水の入ったSUS製バットに投入した。
【0050】
よくかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけて水を切り、更にイオン交換水をかけて金属フレームを水洗した。その後、エアガンを使って強制的に乾燥し、開口部を封印できるチャック付きのポリエチレン製の袋に入れて保存した。そして金属フレームを、保存開始後3日でポリ袋のチャックを開いてポリ袋から取り出し、油分等が付着せぬように手袋で摘まんで射出成形金型11にインサートした。金型温度は90℃とし、射出成形機の加熱筒の最終部分温度とノズルの温度は260℃として、ガラス繊維20%、微細クレーフィラー20%含有PBT/PET樹脂(PBT約80%+PET約20%、三菱レイヨン社製「タフペットシリーズ」から特にコンパウンドした物)を射出し、図2に示す下部筐体4を得た。
【0051】
この下部筐体4を成形後室内に2日間放置した後、接着力を検査した。金属板5の部分を机の上に押さえつけてボス部9及びスペーサ10を指で強く押すことにより剥がそうとしたが、指に傷がつきそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
【0052】
なお、別に製造した下部筐体4について、温度サイクル試験を実施した。具体的には、室温から+0.7℃/分で昇温して85℃にして2時間置き、次に−0.7℃/分の速度で−40℃まで冷やし、−40℃に2時間置き、今度は+0.7℃/分で昇温して85℃に戻し2時間置いてからまた−40℃まで冷やすというものである。この温度サイクル試験を全100サイクルしてから前記と同じ接着力の検査をしたが、結果は温度サイクル試験をしていない場合と同じであった。
【0053】
さらに、別に製造した下部筐体4について、高温高湿試験を実施した。この高温高湿試験は、85℃、60%湿度の条件下に24時間放置し、室温下に1時間かけて戻すというものである。この高温高湿試験の後に前記と同じ接着力の検査をしたが、結果は高温高湿試験をしていない場合と同じであった。
【0054】
[実験例2]
実験例1と同様にしてヒドラジン処理をした金属フレームを用意し保存した。但し、この処理後、1週間保存した物を使用した。これ以外は全く実験例1と同様にして、図2に示す下部筐体4を得た。得られた下部筐体4について、実験例1と同様に接着力の検査をしたが、結果は実験例1と同様で接着は非常に強かった。なお前記温度サイクル試験を実施した下部筐体4について、実験例1と同様に接着力の検査をした場合にも、結果は実験例1と同様で接着は非常に強かった。
【0055】
[実験例3]
射出する熱可塑性樹脂組成物を、フィラーを含まないPBT(三菱レイヨン社製「タフペットG1030B」)にした。これ以外は全く実験例1と全く同様にして、図2に示す下部筐体4を得た。得られた下部筐体4について、実験例1と同様に接着力の検査をしたが、結果は実験例1と同様で接着は非常に強かった。なお前記温度サイクル試験を2回のみ実施した下部筐体4について、実験例1と同様に接着力の検査をした場合には、ボス部9及びスペーサ10を指で強く押すことにより剥がすことができた。フィラーの不在が温度サイクル試験に対して弱くしているようであった。
【0056】
[実験例4]
市販の28%アンモニア水をヒドラジン水溶液に代えて使用し、浸漬時間を20分とした他は、実験例1と全く同様に金属フレームを処理し、PBT系樹脂組成物を射出成形して、図2に示す下部筐体4を得た。得られた下部筐体4について、成形後室内に2日間放置した後に、実験例1と同様に接着力の検査をしたが、結果は実験例1と同様で接着は非常に強かった。
【0057】
[実験例5]
市販のメチルアミン150gをイオン交換水1リットルに溶解した。この水溶液をアンモニア水に代えて使用した他は、実験例4と全く同様に金属フレームを処理し、PBT系樹脂組成物を射出成形して、図2に示す下部筐体4を得た。得られた下部筐体4について、成形後室内に2日間放置した後に、実験例1と同様に接着力の検査をしたが、結果は実験例1と同様で接着は非常に強かった。
【0058】
[実験例6]
圧延法で得られた市販の電気工作用の1mm厚アルミ板を使用して、図3に示す製造工程で金属フレームを製造した。この金属フレームを両面テープでゴムシートに貼り付けてブラスト装置に入れた。凹凸が約5μmレベルになるようにエアパルス時間を設定し、エアブラスト処理をした。ブラスト装置から取り出して平均で5時間以内置いた後、アセトンに10分間浸漬して取り出し、イオン交換水により洗浄した。
【0059】
次に実験例1と同様に、金属フレームを3%濃度のヒドラジン水溶液に2分間浸漬して処理を行い、取り出して別に用意したイオン交換水の入ったビーカーに投入した。よくかき混ぜた後、プラスチック製ザルにあけて水を切り、更にイオン交換水をかけて金属フレームを水洗した。その後、エアガンを使って強制的に乾燥し、塩化カルシウム乾燥剤を底部に充填した乾燥器に入れて保存した。
【0060】
この金属フレームを、保存開始後3日で乾燥器から取り出し、油分等が付着せぬように手袋で摘まんで射出成形金型11にインサートした。金型温度は100℃とし、射出成形機の加熱筒の最終部分温度とノズルの温度は270℃として、実施例1で使用したのと同じPBT/PET樹脂を射出し、図2に示す下部筐体4を得た。
【0061】
この下部筐体4を成形後室内に1週間放置した後、接着力を検査した。金属板5の部分を机の上に押さえつけてボス部9及びスペーサ10を指で強く押すことにより剥がそうとしたが、指に傷がつきそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
【0062】
なお、別に製造した下部筐体4について、温度衝撃試験を実施した。この試験は、85℃に保った熱風乾燥機に前記筐体を入れて2時間置き、室温下に取り出して5分置き、今度は−40℃に保っている冷凍庫に入れ、2時間置いてからまた室温下に5分置き、また85℃熱風乾燥機に投入する繰り返し試験である。この温度の上げ下げサイクルを10サイクル実施し、接着力の検査をしたが、結果は温度衝撃試験をしていない場合と同じであった。
【0063】
さらに、別に製造した下部筐体4について、高温高湿試験を実施した。この高温高湿試験は、85℃、60%湿度の条件下に24時間放置し、室温下に1時間かけて戻すというものである。この高温高湿試験の後に前記と同じ接着力の検査をしたが、結果は高温高湿試験をしていない場合と同じであった。全体として見た場合、接着物の破壊試験としては驚くほど安定した結果を得た。
【0064】
最後に、本発明の変形例について説明する。
【0065】
上記の実施形態では、本発明に係る金属と樹脂の複合体がパソコン1の下部筐体4である例について説明したが、これに限らず、該複合体は、産業用の各種制御機器、家庭用電化製品、携帯電話等の通信機器、医療機器、車両搭載用や建築資材用等に用いられる筐体、構造用部品、外装用部品等であれば良く、その用途は特に限定されない。
【0066】
上記の実施形態では、金属と樹脂の複合体(下部筐体4)を構成する金属フレームが、辺部7及び突起部8がノッチング加工された金属板5の折曲加工にて形成される例について説明したが、これに限らず、金属フレームは、例えばプレス加工により一体形成されたものや、また底部6を構成する金属板と辺部7及び突起部8を構成する金属板の溶接により形成されたもの等でも良い。また金属フレームは長方形状の開口容器には限られず、また底部6と辺部7も直交しているものには限られず、さらに辺部7同士も直交しているものには限られず(例えばカーブを描いているものでも良く)、その形状は特に限定されない。
【0067】
上記の実施形態では、金属板5が折曲加工されて金属フレームが形成された後に水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液にて表面処理が行われる例について説明したが、これに限らず、金属フレームが形成される前の金属板5の段階で同処理が行われ、その後に金属板5が折曲加工されて金属フレームが形成されるものでも良い。即ち水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液による表面処理は、熱可塑性樹脂組成物が射出されて金属フレームに付着する前に行われるものであれば、その効果を特に消し去る様な工程が間に入らなければ、そのタイミングは限定されない。消し去る様な工程とは、これまでの記述で明快な様に、油性物で表面が覆われる可能性のある加工工程、アルミニウム合金で言えば強い酸性水溶液に漬けたり高温の蒸気に触れさせたりしてアルマイト化が起こるような処理工程、腐食や錆を生じしめるような工程、等々である。
【0068】
上記の実施形態では、水溶性アミン系化合物(又はアンモニア)水溶液処理が、金属フレームを水溶液に全体浸漬することにより金属フレームの全面について行われる例について説明したが、これに限らず、同処理は、少なくとも熱可塑性樹脂組成物が付着する金属フレームの一部分について行われるものでも良い。
【0069】
上記の実施形態では、金属フレームにおいて、一箇所の角部に対して一つの辺部7から突設された一つの突起部8が折り曲げられて覆い被さる例について説明したが、これに限らず、図5(a)に示すように、一箇所の角部に対して各辺部7,7から突設された二つの突起部8,8が折り曲げられて覆い被さるようにしても良い。
【0070】
上記の実施形態では、金属フレームにおいて、突起部8が角部に形成される例について説明したが、これに限らず、図5(c)に示すように、突起部8が辺部7の途中に形成されるようにしても良く、これによれば辺部7の途中において金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を強固に一体化できる。
【0071】
さらに図5(b)に示すように、例えば突起部8の先端をさらに折り曲げ加工することにより、該突起部8の先端に熱可塑性樹脂組成物(ボス部9)に食い込む食い込み部8aを形成するようにしても良く、これによれば金属フレームと熱可塑性樹脂組成物をさらに強固に一体化できる。なお食い込み部位8aは、熱可塑性樹脂組成物に食い込むものであれば、その形状は特に限定されない。
【0072】
【発明の効果】
以上に詳記したように、本発明に係る金属と樹脂の複合体とその製造方法によれば、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物が容易に剥がれことなく一体になるので、電子機器の筐体等において、金属フレームの良さと熱可塑性樹脂組成物の良さを両立させ、生産性が高く量産性があり、形状や構造の設計が自由にできると共に、熱可塑性樹脂組成物が金属フレームの三面(即ち底部の表面、辺部の表面、及び突起部の表面)に付着されるので、金属フレームと熱可塑性樹脂組成物を強固に一体化することができる。従って、形状、構造上も機械的強度の上でも問題がない電子機器の筐体等を作ることができた。
本発明によると、金属筐体を備えたモバイル電子機器等の軽量化や、電磁波シールドが必要な機器の製造工程の簡素化に役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に係る金属と樹脂の複合体である下部筐体を備えるパソコンを表す分解斜視図である。
【図2】図2は、下部筐体の詳細を表す斜視図である。
【図3】図3は、金属フレームの製造工程を表す斜視図である。
【図4】図4は、射出成形金型の断面図である。
【図5】図5は、下部筐体の変形例を表す斜視図である。
【符号の説明】
1…パソコン
2…上部筐体
2a…キーボード
2b…ディスプレイ
2c…ピン
3…電気回路基板
3a…電子機器
4…下部筐体
5…金属板
6…底部
7…辺部
7a…切り込み部
8…突起部
8a…ボス穴
8b…食い込み部
9…ボス部(熱可塑性樹脂組成物)
10…スペーサ(熱可塑性樹脂組成物)
11…射出成形金型
12…可動側型板
13…固定側型板
14…スライドコア
15…ランナ
16…ゲート
S1…空間
S2…空間
Claims (12)
- 底部から立設される辺部と、前記辺部から突設されると共に前記辺部に対して折り曲げ可能な突起部とを有し、水溶性アミン系化合物水溶液で表面が処理された金属製の金属フレームと、
前記底部、前記辺部、及び折り曲げられた前記突起部で囲繞される空間における前記金属フレームの表面に付着され、ポリアルキレンテレフタレート、前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合体、又は前記ポリアルキレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上と、
からなる金属と樹脂の複合体。 - 請求項1に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記水溶性アミン系化合物がヒドラジン又は低級アミン系化合物であることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記水溶性アミン系化合物に代えてアンモニアを用いることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし3から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記金属フレームがアルミニウム合金からなることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし4から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記ポリアルキレンテレフタレートがポリブチレンテレフタレートであることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし4から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記熱可塑性樹脂組成物が、ポリブチレンテレフタレート単独のポリマー、ポリブチレンテレフタレートとポリカーボネートのポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂のポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのポリマーコンパウンド、又はポリブチレンテレタフレートとポリスチレンのポリマーコンパウンドから選択される1種以上であることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項6に記載の金属と樹脂の複合体おいて、
前記コンパウンドには、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等の高強度繊維、及び/又は炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土等の樹脂充填用無機フィラー類が加えられているものであることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし7から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記金属フレームが、前記表面が処理される前に、切削や研磨による物理的な表面更新操作が施されたもの、及び/又は薬剤水溶液に浸漬して行う化学エッチングが施されたもの、であることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし8から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記金属フレームが、前記辺部及び前記突起部がノッチング加工された金属板の折曲加工にて形成されたものであることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし9から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記突起部が、前記辺部同士が交差する前記金属フレームの角部に形成されることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし10から選択される1項に記載の金属と樹脂の複合体において、
前記突起部の先端に、前記熱可塑性樹脂組成物に食い込む食い込み部が形成されることを特徴とする金属と樹脂の複合体。 - 請求項1ないし11に記載の金属と樹脂の複合体の製造方法であって、
前記水溶性アミン系化合物水溶液に浸漬する処理が行われた後、乾燥された前記金属フレームを射出成形金型に挿入し、
前記ポリアルキレンテレフタレートを含む前記熱可塑性樹脂組成物を、前記底部、前記辺部、及び折り曲げられた前記突起部で囲繞される空間に射出することを特徴とする金属と樹脂の複合体の製造方法。
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