JP4296796B2 - 液体噴射装置、及び、その液滴吐出制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種の液体を吐出可能な液体噴射装置、及び、この液体噴射装置における液体の吐出制御方法に関し、特に、噴射ヘッドの個体差に起因する吐出量ばらつきを調整するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
液体噴射装置は液体を吐出(噴射)可能な噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を吐出する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンタやインクジェット式プロッタ等の画像記録装置がある。そして、最近では、極く少量の液体を所定の位置に精度良く着弾できるという特性を生かし、各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを吐出し、ディスプレー製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を吐出する。また、電極製造装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を吐出し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を吐出する。
【0003】
この種の液体噴射装置に用いられる噴射ヘッドでは、液滴の吐出量ばらつきが生じ得る。これは、圧力室やノズル開口等の液体流路に関し、この液体流路が極めて微細な形状に形成されていることによる。即ち、極く微細であるために、寸法ばらつきや取付公差が大きくならざるを得ず、これに起因して吐出量ばらつきが生じる。
【0004】
このような吐出量ばらつきは、液体噴射装置の性能を向上させる上で障害となり得る。例えば、上記の画像記録装置においては、インク滴の吐出量が相違することでドットの大きさが不揃いとなり、画像にざらつき感やムラが生じてしまう可能性があった。従って、液体噴射装置に求められる性能を向上させるためには、吐出量ばらつきを一層小さくすることが求められる。この場合において、液体噴射ヘッドを構成する各部品の寸法精度や部品同士の取付精度を高めることが考えられるが、圧力室等が極く微細な形状であるため現実的ではない。
そこで、圧力発生素子を駆動するための駆動信号を複数種類発生させ、液滴の吐出特性に応じて供給する駆動信号を切り替える構成が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−58710号公報(第6頁,第1図,第5図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記した従来装置では、複数種類の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段を設ける必要がある。また、複数種類の駆動信号の中から1つの駆動信号を選択する波形選択部を制御対象毎に設ける必要がある。例えば、この波形選択部を、ノズル開口やノズル列毎に設ける必要がある。このため、装置構成が複雑化して設計の自由度が損なわれてしまうという問題があった。また、装置構成が複雑化することにより、装置のコストアップにつながってしまうという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、液滴の吐出量ばらつきを簡単な構成で調整できる液体噴射装置、及びその液滴吐出制御方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、圧力発生素子の作動によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、該圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドと、
液滴を吐出させるための吐出パルスを含んだ一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段と、
前記駆動信号の中から必要なパルスを選択して圧力発生素子に供給するパルス供給手段とを有する液体噴射装置において、
前記液体噴射ヘッドの個体差に起因する吐出液量の偏差情報を識別情報として記憶可能な識別情報記憶手段を設け、
前記駆動信号発生手段は、液滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内の液体に生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスを、前記吐出パルス及びメニスカスを微振動させる微振動パルスとは別個独立して吐出パルスとの間に基準電位で一定な間隔を設けた状態で吐出パルスに先立って発生し、前記微振動パルスを、前記吐出パルス及び前記予備パルスよりも前に発生し、
前記予備パルスは、基準電位から予備最大電位まで一定の電位勾配で電位を上昇させる電位上昇要素と、予備最大電位を維持する定電位要素と、予備最大電位から基準電位まで一定の電位勾配で電位を下降させる電位下降要素とを含む台形状のパルスであって、前記微振動パルスとは異なる形状に設定され、
前記パルス供給手段は、液滴を吐出しない場合に前記微振動パルスのみを選択して圧力発生素子へ供給し、液滴を吐出する場合に前記識別情報に基づいて前記予備パルスの圧力発生素子への供給又は非供給を制御することにより液滴の吐出量を調整することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、圧力発生素子の作動によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、該圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドと、
液滴を吐出させるための吐出パルスを含んだ一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段と、
前記駆動信号の中から必要なパルスを選択して圧力発生素子に供給するパルス供給手段とを有する液体噴射装置の液滴吐出制御方法において、
前記液体噴射ヘッドの個体差に起因する吐出液量の偏差情報を識別情報として識別情報記憶手段に記憶し、
液滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内の液体に生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスを、前記吐出パルス及びメニスカスを微振動させる微振動パルスとは別個独立して吐出パルスとの間に基準電位で一定な間隔を設けた状態で吐出パルスに先立って発生させ、前記微振動パルスを、前記吐出パルス及び前記予備パルスよりも前に発生させ、
前記予備パルスを、基準電位から予備最大電位まで一定の電位勾配で電位を上昇させる電位上昇要素と、予備最大電位を維持する定電位要素と、予備最大電位から基準電位まで一定の電位勾配で電位を下降させる電位下降要素とを含む台形状のパルスであって、前記微振動パルスとは異なる形状に設定し、
液滴を吐出しない場合に前記微振動パルスのみを選択して圧力発生素子へ供給し、液滴を吐出する場合に前記識別情報に基づいて前記予備パルスの圧力発生素子への供給又は非供給を制御することにより液滴の吐出量を調整することを特徴とする。
【0010】
これらの発明によれば、駆動信号発生手段は、予備パルスを、吐出パルス及びメニスカスを微振動させる微振動パルスとは別個独立して吐出パルスとの間に基準電位で一定な間隔を設けた状態で吐出パルスに先立って発生し、微振動パルスを、吐出パルス及び予備パルスよりも前に発生し、予備パルスは、基準電位から予備最大電位まで一定の電位勾配で電位を上昇させる電位上昇要素と、予備最大電位を維持する定電位要素と、予備最大電位から基準電位まで一定の電位勾配で電位を下降させる電位下降要素とを含む台形状のパルスであって、微振動パルスとは異なる形状に設定され、パルス供給手段は、液滴を吐出しない場合に微振動パルスのみを選択して圧力発生素子へ供給し、液滴を吐出する場合に識別情報記憶手段に記憶された識別情報に基づいて予備パルスの圧力発生素子への供給又は非供給を制御する。ここで、予備パルスが圧力発生素子に供給されるとメニスカスが液滴吐出方向或いは引き込み方向に振動するため、吐出パルスの供給開始時点におけるメニスカスの状態(位置)に応じて液滴の吐出特性を制御することができる。
例えば、吐出パルスの供給開始時点において、メニスカスが定常状態よりも液滴吐出側に盛り上がっていた場合には、液滴の量は定常状態から吐出パルスを供給した場合よりも増加する。例えば、予備パルスを使用しなかった場合よりも吐出液量が増加する。反対に、吐出パルスの供給開始時点において、メニスカスが定常状態よりも圧力室側に引き込まれていた場合には、液滴の量は定常状態から吐出パルスを供給した場合よりも減少する。従って、予備パルスの供給を制御することで、吐出される液滴の量を制御することができる。
【0011】
このように、駆動信号に予備パルスを含め、識別情報に応じて予備パルスの圧力発生素子への供給又は非供給を制御することで、液滴の吐出特性が調整できる。即ち、駆動信号発生手段及びパルス供給手段によって吐出特性の調整ができる。そして、これらの駆動信号発生手段及びパルス供給手段は既存の構成を流用できるので、装置構成の簡素化が図れる。
【0012】
また、上記発明において、駆動信号発生手段から発生させる駆動信号の波形形状を設定可能な波形設定手段を設け、識別情報に基づいて予備パルスの波形形状を設定する構成が好ましい。例えば、識別情報に基づいて予備パルスの波高値を設定する。また、識別情報に基づいて、電位上昇要素と電位下降要素の少なくとも一方の要素の電位勾配を設定する。このように構成すると、吐出パルスの供給開始時点におけるメニスカスの状態を制御することができ、液滴の吐出特性をより高い精度で揃えることができる。
【0013】
また、上記発明において、前記識別情報に基づき、前記予備パルスから前記吐出パルスまでの時間間隔を設定する構成とすることが好ましい。この構成では、メニスカスの状態は予備パルスの供給終了時点からの経過時間に応じても変化するので、吐出パルスの供給開始時点におけるメニスカスの状態を制御することができ、液滴の吐出特性をより高い精度で揃えることができる。
【0014】
また、上記発明において、前記液体噴射ヘッドは、複数のノズル開口を列設してなるノズル列を複数列備え、前記識別情報を複数のノズル列のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル列単位で行う構成が好ましい。また、前記識別情報を複数のノズル開口のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル開口単位で行う構成が好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では液体噴射装置の一形態である画像記録装置、詳しくは、インクジェット式プリンタを例に挙げて説明することにする。
【0016】
図1は、このプリンタの電気的構成を説明するブロック図である。この図1に示すように、プリンタは、プリンタコントローラ1と、プリントエンジン2とを備えている。プリンタコントローラ1は、図示しないホストコンピュータ等からの印刷データ等を受信するインターフェース(外部I/F)3と、各種データの記憶等を行うRAM4と、各種データ処理のためのルーチン等を記憶したROM5と、CPU等からなる制御部6と、クロック信号(CK)を発生する発振回路7と、記録ヘッド8へ供給するための駆動信号(COM)を発生する駆動信号発生回路9と、搭載される記録ヘッド8の吐出インク量に関する情報や駆動電圧に関する情報を記憶可能な識別情報記憶部10と、印字データ(ドットパターンデータであり、噴射データの一種。)及び駆動信号等をプリントエンジン2に送信するためのインターフェース(内部I/F)11とを備えている。
【0017】
外部I/F3は、例えばキャラクタコード、グラフィック関数、イメージデータのいずれか1つのデータ又は複数のデータからなる印刷データをホストコンピュータ等から受信する。また、外部I/F3は、ホストコンピュータに対してビジー信号(BUSY)やアクノレッジ信号(ACK)等を出力する。RAM4は、受信バッファ、中間バッファ、出力バッファ、或いはワークメモリ(図示せず)等として利用されるものである。受信バッファには、外部I/F3が受信したホストコンピュータからの印刷データが一時的に記憶される。中間バッファには、制御部6によって変換された中間コードデータが記憶される。出力バッファには、記録ヘッド8にシリアル伝送される印字データが展開される。ROM5は、制御部6によって実行される各種制御ルーチン、フォントデータ及びグラフィック関数、各種手続き等を記憶している。
【0018】
制御部6は、データ展開手段として機能し、印刷データを印字データに展開する。この場合、制御部6は、受信バッファ内の印刷データを読み出して中間コードデータに変換し、この中間コードデータを中間バッファに記憶する。そして、制御部6は、中間バッファから読み出した中間コードデータを解析し、ROM5内のフォントデータやグラフィック関数等を参照して中間コードデータをドット毎の印字データに展開する。本実施形態では、この印字データを2ビットデータで構成している。この展開された印字データは出力バッファに記憶されて、一回の主走査に相当する1行分の印字データが得られると、この1行分の印字データ(SI)は内部I/F11を通じて記録ヘッド8にシリアル伝送される。そして、出力バッファから1行分の印字データが送信されると、中間バッファの内容が消去されて次の中間コードデータに対する変換が行われる。
【0019】
また、制御部6は、タイミング信号発生手段の一部を構成し、内部I/F11を通じて記録ヘッド8にラッチ信号(LAT)やチャンネル信号(CH)を供給する。これらのラッチ信号やチャンネル信号は、後述するように、駆動信号(COM)に含まれる駆動パルスの供給開始タイミングを規定する。
さらに、制御部6は、波形設定手段としても機能し、駆動信号発生回路9を制御することにより、この駆動信号発生回路9から発生される駆動信号の波形形状を設定する。
【0020】
上記の駆動信号発生回路9は、本発明における駆動信号発生手段の一種であり、制御部6による制御の下、複数の駆動パルス(DP1〜DP3,SP1〜SP2,OP,図6参照)を含んだ一連の駆動信号を記録周期T毎に繰り返し発生する。本実施形態の駆動信号発生回路9は、1種類の駆動信号を記録ヘッド8の各電気駆動系12(12A〜12D)に供給する構成である。なお、この駆動信号については後で詳しく説明する。
【0021】
上記の識別情報記憶部10は、本発明の識別情報記憶手段の一種であり、プリンタに対する電源の供給が絶たれても記憶内容が保持可能な不揮発性の記憶素子が用いられる。例えば、EEPROMやフラッシュRAM、或いは、バックアップ電源に接続されたRAM等によって構成される。本実施形態では、この識別情報記憶部10に、波高値オフセット情報(Vpオフセット)、駆動電圧オフセット情報(Vhオフセット)、仮駆動電圧情報を記憶させている。
ここで、波高値オフセット情報は、ノズル列34(図4参照)毎の吐出インク量の偏差を示す情報である。この波高値オフセット情報は、本発明の識別情報の一種であって吐出量識別情報でもある。そして、この波高値オフセット情報は、記録ヘッド8の検査工程等によって付与される(後述する)。
【0022】
上記のプリントエンジン2は、ヘッド走査機構が備えるパルスモータ13と、紙送り機構が備える紙送りモータ14と、記録ヘッド8等から構成される。パルスモータ13は、記録ヘッド8を移動させる駆動源として機能する。即ち、このパルスモータ13を作動させることで、記録ヘッド8は記録紙の幅方向(つまり、主走査方向)に移動される。また、紙送りモータ14は、記録紙を紙送り方向(つまり、副走査方向)順次送り出すための駆動源として機能する。そして、これらのパルスモータ13と紙送りモータ14は互いに連携して動作し、記録ヘッド8の主走査に連動させて記録紙を順次送り出す。記録ヘッド8は、本発明の液体噴射ヘッドの一種であり、液体状のインクを吐出するものである。以下、この記録ヘッド8について詳細に説明する。
【0023】
まず、図2〜図4を参照して記録ヘッド8の構造について説明する。図2に示すように、記録ヘッド8は、複数の圧電振動子21からなる振動子群22、固定板23、及び、フレキシブルケーブル24等をユニット化した振動子ユニット25と、この振動子ユニット25を収納可能なケース26と、ケース26の先端面に接合される流路ユニット27とを備えている。
【0024】
ケース26は、振動子ユニット25を収納するための収納空部28を形成した合成樹脂製のブロック状部材である。この収納空部28は、振動子ユニット25が丁度収まる程度の扁平な開口形状をしており、ケース26の高さ方向を貫通した状態に形成されている。上記の振動子ユニット25は、固定板23を収納空部28の壁面に接着することで収納空部28内に固定されている。そして、この接着状態で圧電振動子21の先端面部は、収納空部28における流路ユニット27側の開口に臨む。
【0025】
振動子群22を構成する各圧電振動子21は、本発明の圧力発生素子の一種であり、電気機械変換素子の一種でもある。本実施形態の各圧電振動子21は、30μm〜100μm程度の極めて細い幅の櫛歯状に設けられている。この振動子群22は、例えば、圧電体層と内部電極層とを交互に積層した一枚の圧電板を固定板23に接合した後、ワイヤーソー等の切断具によって圧電板を櫛歯状に切り分けることで作製される。そして、各圧電振動子21は、基端側部分が固定板23上に接合されており、自由端部を固定板23の縁よりも外側に突出させた片持ち梁の状態で取り付けられている。
【0026】
各圧電振動子21の自由端部は、圧電体層に加えられた電界に応じて、素子長手方向に伸縮する。そして、各圧電振動子21の先端面部は流路ユニット27の島部29に接合されているので、圧電振動子21が伸縮するとその圧電振動子21に接合された島部29が変位する。一方、各圧電振動子21の基端側部分の表面にはフレキシブルケーブル24が電気的に接続されている。そして、各圧電振動子21にはこのフレキシブルケーブル24を通じて駆動信号が供給される。
【0027】
流路ユニット27は、図3にも示すように、流路形成基板30の一方の表面にノズルプレート31を接合し、このノズルプレート31とは反対側となる他方の表面に弾性板32を接合することで構成されている。
【0028】
ノズルプレート31は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル開口33を列状に開設したステンレス鋼製の薄いプレートである。本実施形態では、90dpiのピッチで90個のノズル開口33を列状に開設し、これらのノズル開口33によってノズル列34を構成する。そして、このノズル列34を、吐出可能なインクの種類(例えば色)に対応させて複数列形成する。例えば、図4中の左端に位置する第1ノズル列34Aから右端に位置する第4ノズル列34Dまでの合計4列のノズル列34を横並びに形成する。
【0029】
そして、本実施形態では、各ノズル列34から異なる色のインクを吐出可能に構成している。例えば、第1ノズル列34Aからはブラックインクを、第2ノズル列34Bからはシアンインクをそれぞれ吐出可能に構成している。また、第3ノズル列34Cからはマゼンタインクを、第4ノズル列34Dからはイエローインクをそれぞれ吐出可能に構成している。また、上記の振動子ユニット25は、これらのノズル列34毎に設けられている。即ち、例示した記録へッドは、4個の振動子ユニット25を有している。なお、ノズル列34及び振動子ユニット25の数は4に限らない。例えば、3以下であってもよいし、5以上であってもよい。
【0030】
流路形成基板30は、圧力室35となる空部やインク供給口36となる溝部、及び、リザーバ(共通インク室)37となる空部などを形成した板状の部材である。この流路形成基板30は、例えばシリコンウェハーをエッチング加工したり、金属板をプレス加工することによって作製される。上記の圧力室35は、ノズル開口33の列設方向(即ち、ノズル列方向)に対して直交する方向に細長い室であり、偏平な凹室で構成されている。そして、この圧力室35は、流路幅が圧力室35よりも狭いインク供給口36を通じてリザーバ37に連通されている。また、インク供給口36とは反対側の端部で圧力室35は、ノズル連通口38を通じてノズル開口33に連通している。従って、この記録へッドには、リザーバ37から圧力室35を通じてノズル開口33に至る一連のインク流路が、ノズル開口33に対応する複数形成される。
【0031】
弾性板32には、圧力室35の一方の開口面を封止するダイヤフラム部と、リザーバ37の一方の開口面を封止するコンプライアンス部とが設けられている。この弾性板32は、例えば、ステンレス製の支持板39上にPPS(ポリフェニレンサルファイド)やPI(ポリイミド)等の樹脂フィルム40をラミネート加工した二重構造である。そして、ダイヤフラム部として機能する部分、即ち、圧力室35の開口を封止する部分の支持板39を環状にエッチング加工し、圧電振動子21の先端面部を接合するための島部29と、この島部29を囲う薄肉弾性部とを形成する。また、コンプライアンス部として機能する部分、即ち、リザーバ37の開口面を封止する部分の支持板39をエッチング加工で除去して樹脂フィルム40だけにしている。
【0032】
このような構成を有する記録ヘッド8では、圧電振動子21を放電して振動子長手方向に伸長させると、島部29がノズルプレート31側に押圧されて変位する。これにより、ダイヤフラム部の薄肉弾性部が変形して圧力室35が収縮する。一方、圧電振動子21を充電して振動子長手方向に収縮させると、島部29が戻り方向に変位する共に薄肉弾性部が変形して圧力室35が膨張する。そして、圧力室35の膨張や収縮を制御することで、圧力室35内のインク圧力を変動させることができ、ノズル開口33からインク滴を吐出させることができる。
【0033】
次に、記録ヘッド8の電気的構成について説明する。図1に示すように、記録ヘッド8は、ノズル列34に対応する数の電気駆動系12を備えている。本実施形態の記録ヘッド8は4列のノズル列34を有しているので、4つの電気駆動系12A〜12Dが備えている。各電気駆動系12はいずれも同じ構成であり、例えば図5に示すように、第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52からなるシフトレジスタ回路と、第1ラッチ回路53と第2ラッチ回路54とからなるラッチ回路と、デコーダ55と、制御ロジック56と、レベルシフタ57と、スイッチ回路58と、圧電振動子21とを備えている。そして、各シフトレジスタ51,52、各ラッチ回路53,54、デコーダ55、スイッチ回路58、及び、圧電振動子21は、それぞれ記録ヘッド8の各ノズル開口33に対応して複数設けられる。
【0034】
そして、この記録ヘッド8は、プリンタコントローラ1からの印字データ(SI)に基づいてインク滴を吐出する。具体的に説明すると、次の通りである。
【0035】
プリンタコントローラ1からの印字データは、発振回路7からのクロック信号(CK)に同期して、内部I/F11から第1シフトレジスタ51及び第2シフトレジスタ52にシリアル伝送される。この印字データは、上記したように2ビットのデータであり、本実施形態では、非記録、小ドット、中ドット、大ドットからなる4階調を表す階調情報によって構成されている。具体的には、非記録が階調情報[00]であり、小ドットが階調情報[01]であり、中ドットが階調情報[10]であり、大ドットが階調情報[11]である。なお、この印字データは、吐出される液滴の量を示す吐出量情報の一種でもある。
【0036】
この印字データは、各ノズル開口33毎に設定される。即ち、そのノズル列に属する全ノズル開口33の下位ビット(L)のデータが第1シフトレジスタ51に入力され、上位ビット(H)のデータが第2シフトレジスタ52に入力される。第1シフトレジスタ51には第1ラッチ回路53が電気的に接続され、第2シフトレジスタ52には第2ラッチ回路54が電気的に接続されている。そして、プリンタコントローラ1からのラッチ信号(LAT)が各ラッチ回路53,54に入力されると、第1ラッチ回路53は印字データの下位ビットのデータをラッチし、第2ラッチ回路54は印字データの上位ビットのデータをラッチする。このような動作をする第1シフトレジスタ51及び第1ラッチ回路53の組と、第2シフトレジスタ52及び第2ラッチ回路54の組は、それぞれが記憶回路を構成し、デコーダ55に入力される前の印字データを一時的に記憶する。
【0037】
各ラッチ回路53,54でラッチされた印字データはデコーダ55に入力される。このデコーダ55は翻訳手段として機能し、2ビットの印字データを翻訳してパルス選択情報を生成する。本実施形態のデコーダ55は、印字データと駆動パルスとの関係を規定する波形選択テーブルを備えており、この波形選択テーブルに基づいてパルス選択情報を生成する。パルス選択情報は、駆動信号(COM)を構成する各駆動パルス(DP1〜DP3,SP1〜SP2,OP,)に各ビットを対応させることで構成されている。このため、本実施形態では、6ビットのパルス選択情報が生成される。そして、各ビットの内容(例えば、[0],[1])に応じて圧電振動子21に対する駆動パルスの供給或いは非供給が選択される。なお、駆動パルスの供給制御については後で詳しく説明する。
【0038】
また、デコーダ55には、制御ロジック56からのタイミング信号も入力されている。この制御ロジック56は、制御部6と共にタイミング信号発生手段として機能しており、ラッチ信号(LAT)やチャンネル信号(CH)に基づいてタイミング信号を発生する。即ち、この制御ロジック56は、図6に示すように、ラッチ信号或いはチャンネル信号を受信する毎にタイミング信号(TIM)を発生する。
【0039】
デコーダ55によって翻訳されたパルス選択情報は、上位ビット側から順に、タイミング信号の受信タイミングが到来する毎に、レベルシフタ57に入力される。例えば、記録周期Tにおける最初のタイミング(期間T1の開始時)ではパルス選択情報の最上位ビットのデータがレベルシフタ57に入力され、2番目のタイミング(期間T2の開始時)ではパルス選択情報における2番目のビットのデータがレベルシフタ57に入力される。以下同様にデータが入力され、6番目のタイミング(期間T6の開始時)ではパルス選択情報における最下位ビットのデータがレベルシフタ57に入力される。このレベルシフタ57は、電圧増幅器として機能し、パルス選択情報が[1]の場合には、スイッチ回路58を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフタ57で昇圧された[1]のパルス選択情報は、スイッチ手段として機能するスイッチ回路58に供給される。このスイッチ回路58の入力側には、駆動信号発生回路9からの駆動信号(COM)が供給されており、スイッチ回路58の出力側には圧電振動子21が接続されている。
【0040】
そして、パルス選択情報は、スイッチ回路58の作動、つまり、駆動パルスの圧電振動子21への供給を制御する。例えば、スイッチ回路58に加わるパルス選択情報が[1]である期間中は、スイッチ回路58が接続状態になって駆動パルスが圧電振動子21に供給され、この駆動パルスに倣って圧電振動子21の電位レベルが変化する。一方、スイッチ回路58に加わるパルス選択情報が[0]の期間中は、レベルシフタ57からはスイッチ回路58を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ回路58が切断状態になって圧電振動子21へは駆動パルスが供給されない。なお、圧電振動子21はコンデンサの様に振る舞うので、スイッチ回路58の切断状態において切断直前の電位を保持し続ける。
【0041】
そして、このような動作をする制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58は、本発明におけるパルス供給手段の一種として機能し、印字データに基づき、駆動信号の中から駆動パルスを選択して圧電振動子21に供給する。
【0042】
次に、駆動信号発生回路9(駆動信号発生手段の一種)が生成する駆動信号(COM)について説明する。
【0043】
図6に示すように、本実施形態の駆動信号発生回路9は、3つの吐出パルスDP1〜DP3と、2つの予備パルスSP1,SP2と、1つの微振動パルスOPとを含む一連の駆動信号を発生する。即ち、記録周期Tを6つの期間T1〜T6に区切り、1つの期間内に1つのパルスを発生させている。具体的には、第1期間T1では微振動パルスOPを発生し、第2期間T2では第1吐出パルスDP1を発生する。そして、第3期間T3では第1予備パルスSP1を発生し、第4期間T4では第2吐出パルスDP2を発生する。また、第5期間T5では第2予備パルスSP2を発生し、第6期間T6では第3吐出パルスDP3を発生する。
【0044】
上記の吐出パルスDP1〜DP3は、インク滴を吐出させるためのパルスである。この吐出パルスDP1〜DP3が圧電振動子21に供給されると、所定量のインク滴がノズル開口33から吐出される。上記の予備パルスSP1,SP2は、吐出パルスDP2,DP3によって吐出されるインク滴の量を調整するためのパルスであり、吐出パルスDP2,DP3に先立って発生される。上記の微振動パルスOPは、ノズル開口33付近のインク増粘を防止するためのパルスであり、インク滴を吐出させない場合に選択される。以下、これらの駆動パルスについて詳細に説明する。
【0045】
まず、吐出パルスDP1〜DP3について説明する。本実施形態において、各吐出パルスDP1〜DP3は、同一の波形形状とされている。具体的には、図7(a)に示すように、中間電位VM(基準電位の一種)から最大電位VHまでインク滴を吐出させない程度の一定勾配で電位を上昇させる膨張要素P1と、最大電位VHを所定時間保持する膨張ホールド要素P2と、最大電位VHから最低電位VLまで急勾配で電位を下降させる吐出要素P3と、最低電位VLを所定時間保持する制振ホールド要素P4と、最低電位VLから中間電位VMまで電位を上昇させる制振要素P5とを備える。
そして、吐出パルスDP1〜DP3が圧電振動子21に供給されると、ノズル開口33からは、吐出パルスDP1〜DP3が供給される毎に7pl(ピコリットル)前後のインク滴が吐出される。なお、「7pl前後」とは、流路形成基板30やノズルプレート31等の寸法ばらつきや取付公差によって、インク滴の吐出量等にばらつきが生じ得ることを意味している。
【0046】
以下、吐出パルスDP1〜DP3の供給に伴うインク滴の吐出について詳細に説明する。まず、膨張要素P1の供給によって圧力室35は、中間電位VMに対応する定常容積から最大電位VHに対応する最大容積まで膨張する。この圧力室35の膨張により、図7(b)に示すように、メニスカスの位置は定常状態([0]で示す位置)から圧力室35側([−]で示す方向)に引き込まれる。この圧力室35の膨張状態は、膨張ホールド要素P2の供給期間中に亘って維持される。この期間中においてメニスカスは自由振動し、移動方向が吐出側([+]で示す方向)に切り替わる。
次に、吐出要素P3が供給されて、圧力室35は、最大容積から最低電位VLに対応する最小容積まで急激に収縮し、圧力室35内のインクが加圧される。この加圧によってメニスカスは、吐出方向に急速に移動する。続いて、制振ホールド要素P4が供給され、圧力室35はこの制振ホールド要素P4の供給期間中に亘って収縮状態に維持される。その間メニスカスは、慣性力によって吐出要素P3の供給後も吐出側に移動し続ける。その結果、柱状となったメニスカスの先端部分がちぎれ、インク滴となって吐出する。また、先端部分がちぎれた反動により、残った部分は圧力室35側へ急速に移動する。
その後は、制振要素P5の供給によって圧力室35が定常容積まで膨張復帰する。この制振要素P5は、圧力室35側に引き込まれたメニスカスが反転して吐出側に移動するタイミングで供給されるので、メニスカスの吐出側への移動力を吸収するように作用する。その結果、メニスカスの振動が短時間で収束される。
【0047】
次に、予備パルスSP1,SP2について説明する。図8(a)に示すように、この予備パルスSP1,SP2は、中間電位VM(基準電位の一種)から予備最大電位VPまで一定の電位勾配で電位を上昇させる予備膨張要素P11(電位上昇要素の一種)と、予備最大電位VPを維持する予備ホールド要素P12(定電位要素の一種)と、予備最大電位VPから中間電位VMまで一定の電位勾配で電位を下降させる予備収縮要素P13(電位下降要素の一種)とを含む台形状のパルスである。そして、本実施形態では、予備膨張要素P11の電位勾配(登り傾斜の角度)を、予備収縮要素P13の電位勾配(下り傾斜の角度)よりも急峻に設定している。
【0048】
上記の予備パルスSP1,SP2が圧電振動子21に供給されると、インク滴を吐出させない程度の圧力変動が圧力室35内のインクに生じ、メニスカスが移動する。例えば、図8(b)に示すように、予備膨張要素P11が圧電振動子21に供給されると圧電振動子21が多少収縮して圧力室35が膨張し、メニスカスが圧力室35側に引き込まれる。この時、メニスカスの引き込み量は、予備膨張要素P11の印加電圧(電位差)及び電位勾配(発生時間)によって規定される。本実施形態では、この予備膨張要素P11の印加電圧、即ち、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを吐出パルスDP1〜DP3の駆動電圧Vh(最大電位VHと最低電位VLの電位差)を基準に定めている。具体的には、予備膨張要素P11の印加電圧を駆動電圧Vhの2.5%〜25%以下の範囲で定めている。そして、この印加電圧の値は、予備パルスを使用しない状態におけるノズル列34毎のインク量に基づいて定められる。
【0049】
続いて、予備ホールド要素P12が圧電振動子21に供給される。これにより、圧電振動子21の収縮状態が維持され、圧力室35の膨張状態も維持される。そして、この期間中においてメニスカスは自由振動する。次に、予備収縮要素P13が供給されて圧電振動子21が伸長し、圧力室35が定常容積まで収縮する。ここで、圧力室35の収縮タイミングは、メニスカスの移動方向がインク滴の吐出方向に切り替わった後に設定される。従って、メニスカスは、圧力室35の収縮によって後押しされた状態となり、吐出方向へ円滑に移動する。その結果、予備収縮要素P13の供給終了後、圧力室35が定常容積で維持されている期間においてもメニスカスは自由振動し、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点において定常状態よりも盛り上がった状態になる。
【0050】
従って、予備パルスSP1,SP2を吐出パルスDP2,DP3に先立って供給することで、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点におけるメニスカスの状態、即ち、定常状態に対する盛り上がりの度合いを制御できる。そして、メニスカスの盛り上がりを制御できることから、吐出パルスDP2,DP3の供給に伴う吐出インク量を変化させることができる。即ち、同じ波形形状の吐出パルスDP2,DP3を用いながらも、吐出されるインク量を予備パルスSP1,SP2の非使用時よりも増やすことができる。これは、メニスカスの盛り上がり状態の差がインク量の差になったことによる。例えば、図8(b)に示すように、予備パルスSP1,SP2の使用時におけるメニスカスの振幅(実線)は、予備パルスSP1,SP2の非使用時におけるメニスカスの振幅(一点鎖線)よりも大きくなる。そして、この振幅の差がインク滴の吐出量の差となって現れたものと考えられる。
【0051】
ところで、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点におけるメニスカスの状態は、予備膨張要素P11の印加電圧、言い換えれば、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを変えることで調整することができる。例えば、図9(a)に示すように、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを図8(a)の予備パルス(一点鎖線)の波高値Vpよりも△Vだけ上昇させた場合には、予備パルスSP1,SP2の供給に伴うメニスカスの振幅もその分だけ大きくなる。従って、吐出パルスDP1,DP2の供給開始時点において、メニスカスをその分だけ盛り上げることができる。
その結果、図9(b)に示すように、波高値Vpを標準よりも高めた予備パルスSP1,SP2を用いた場合のメニスカスの振幅(実線)は、標準の波高値Vpに設定した場合のメニスカスの振幅(一点鎖線)よりも大きくなる。そして、この振幅の差がインク滴の吐出量の差となって現れるため、波高値Vpを高めた予備パルスSP1,SP2を用いることでインク滴の吐出量を増やすことができる。
【0052】
次に、上記の微振動パルスOPについて説明する。この微振動パルスOPは、図6に示すように、微振動膨張要素P21と、微振動ホールド要素P22と、微振動収縮要素P23とからなる台形状のパルスである。この微振動パルスOPは、上記したように、インク滴を吐出させない場合に選択されるものである。そして、この微振動パルスOPが圧電振動子21に供給されると、インク滴を吐出させない程度の圧力変動が圧力室35内のインクに励起される。これにより、メニスカスが微振動し、ノズル開口33付近のインクが攪拌されてインクの増粘が防止される。
【0053】
ところで、この微振動パルスOPは、インク滴を吐出させない程度に圧力室35内のインクに圧力変動を生じさせている点で予備パルスSP1,SP2と共通している。しかし、微振動パルスOPは、メニスカスの振動をできるだけ長い期間に亘って持続させるべく波形形状が設定されているのに対し、予備パルスSP1,SP2は、吐出パルスDPの供給開始時点においてメニスカスを所望の状態にすべく波形形状が設定されている点で相違する。このように、微振動パルスOPと予備パルスSP1,SP2とは使用目的が相違するため、本実施形態では、微振動パルスOP及び予備パルスSP1,SP2のそれぞれを専用波形として構成している。
【0054】
次に、上記プリンタにおけるインク滴の吐出制御(階調制御)について説明する。本実施形態において制御部6(波形設定手段)は、ノズル列34毎のインク吐出量に応じて予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する。このため、インク吐出量から予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する手順について以下説明する。
【0055】
制御部6は、識別情報記憶部10に記憶された波高値オフセット情報に基づいて予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する。ここで、波高値オフセット情報の決定手順について説明する。
【0056】
この波高値オフセット情報は、上記したように、記録ヘッド8の検査工程等によって決定され、識別情報記憶部10に記憶されるものである。本実施形態において、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpは吐出パルスDP1〜DP3の駆動電圧Vh(波高値Vp)を基準に定められる。このため、まず、吐出パルスDP1〜DP3の仮駆動電圧Vh´を決定する。ここでは、一記録周期Tで吐出される合計のインク量が20plとなるように、吐出パルスDP1〜DP3の仮駆動電圧Vh´を決定する。
例えば、記録ヘッド8が有する全てのノズル開口33から規定数のインク滴を吐出させ、その重量を測定する。具体的には、吐出させたインク滴をシャーレ等の捕集容器にて捕集し、電子天秤等を用いて重量を測定する。そして、この測定したインク重量とインク滴の吐出回数との関係から一記録周期Tあたりの吐出インク重量を算出し、一記録周期Tあたりの吐出インク重量が20.0plとなった電圧値を仮駆動電圧Vh´に決定する。
なお、このようにして決定された仮駆動電圧Vh´は、識別情報記憶部10に記憶される。
【0057】
吐出パルスDP1〜DP3の仮駆動電圧Vh´を決定したならば、初期重量比情報を決定する。ここでは、まず、各ノズル列34毎にインク滴を吐出させて吐出重量を測定する。この場合の測定手順は、吐出パルスDP1〜DP3の仮駆動電圧Vh´を決定する場合と同様であり、測定対象のノズル列34に属する全てのノズル開口33から所定数のインク滴を吐出させて合計のインク重量を測定し、1滴あたりのインク重量を取得する。なお、この測定において、吐出パルスDP1〜DP3の駆動電圧Vhは、先に決定した仮駆動電圧Vh´とする。
1滴当たりのインク重量を取得したならば、次式(1)に基づいて初期重量比を算出する。
【0058】
初期重量比=(対象列の測定重量/設計重量値×100)−100 … (1)
【0059】
例えば、図10(a)に示す記録ヘッド8では、第1ノズル列34Aの初期重量比が7.0%である。これは、インク滴の吐出重量が平均値(設計値)よりも7.0%多いノズル列34であることを意味する。また、第2ノズル列34B〜第4ノズル列34Dの初期重量比は、それぞれ−2.0%,−5.0%,1.0%である。従って、第2ノズル列34Bの吐出重量は平均値よりも2.0%少なく、第3ノズル列34Cの吐出重量は平均値よりも5.0%少ない。また、第4ノズル列34Dの吐出重量は平均値よりも1.0%多い。
【0060】
初期重量比情報を求めたならば、波高値オフセット情報(Vpオフセット)を取得する。波高値オフセット情報を取得するにあたり、各ノズル列34を、初期重量比の最大値に近いグループと、最小値に近いグループとに分ける。図10(a)の例では、第1ノズル列34Aが最大値であり、第3ノズル列34Cが最小値である。そして、第2ノズル列34Bは最小値に近いので最小値グループに分類する。なお、第4ノズル列34は、最大値との差と最小値との差が等しいので、いずれのグループに分けることもできるが、便宜上何れかのグループに分類する。本実施形態では、最大値グループと最小値グループとに属するノズル列34の数を揃えるべく、第4ノズル列34を最大値グループに分類している。
【0061】
ノズル列34を分類したならば、グループ毎に初期重量比の平均値を算出する。そして、最小値グループの平均値から最小値グループの平均値を減算し、得られた値を最小値グループのノズル列34に与えるオフセット値とする。そして、このオフセット値が波高値オフセット情報となる。
図10(a)の例では、最大値グループの平均重量比が4.0%であり、最小値グループの平均重量比は−3.5%である。このため、第2ノズル列34Bの波高値オフセット情報、及び、第3ノズル列34Cの波高値オフセット情報の値は7.5%となる。また、第1ノズル列34Aの波高値オフセット情報、及び、第4ノズル列34Dの波高値オフセット情報の値は0.0%となる。
そして、これらの波高値オフセット情報が識別情報記憶部10に記憶される。
【0062】
なお、プリンタの動作時において、制御部6は、この波高値オフセット情報から予備パルスの波高値Vpを設定する。本実施形態では、オフセット値1%あたりのVp/Vh値を2.5%とし、最大値を25%(オフセット値で10%)としている。このため、制御部6は、7.5%の波高値オフセット情報に基づいて、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを駆動電圧Vhの18.8%に設定する。
【0063】
波高値オフセット情報を決定したならば、駆動電圧オフセット情報(Vhオフセット)を設定する。この駆動電圧オフセット情報は、仮駆動電圧Vh´から実際の吐出パルスDP1〜DP3に適用する駆動電圧Vhを求めるための情報である。
即ち、吐出インク量が少ないノズル列34に対して予備パルスSP1,SP2を使用することから、プリンタの動作時においてインク滴吐出量の平均値がその分だけ上昇することになる。このため、吐出パルスDP1〜DP3の駆動電圧Vhを仮駆動電圧Vh´よりも低く設定し、記録ヘッド8全体での1記録周期Tあたりの吐出量が20plとなるように駆動電圧Vhを設定する必要がある。駆動電圧オフセット情報は、仮駆動電圧Vh´から駆動電圧Vhを求める際に、制御部6(波形設定手段)が使用する情報である。
【0064】
本実施形態では、この駆動信号オフセット情報を、インク滴の吐出量を測定することで設定している。即ち、予備パルスSP1,SP2を用いた状態でインク滴を吐出させて重量を測定し、規定量(例えば、一周期あたり20.0pl)のインク滴が吐出される駆動電圧値を取得する。そして、取得した駆動電圧値を仮駆動電圧値から算出するための補正係数を駆動信号オフセット情報として設定する。図10(a)の例では駆動信号オフセット情報は−3.8%となる。
【0065】
なお、波高値オフセット情報や駆動信号オフセット情報を、仮駆動電圧値に対する補正係数としたのは、実際の使用時においては、駆動電圧が使用環境の温度によっても変動するからである。即ち、温度の変動によっても駆動電圧が変動するので、仮駆動電圧値を基準とし、この仮駆動電圧に対して種々の補正をする構成の方が、駆動信号の波形形状を効率よく設定できることによる。
【0066】
そして、制御部6(波形設定手段)は、プリンタの動作時において、これらの仮駆動電圧情報、波高値オフセット情報、及び駆動信号オフセット情報を用いて駆動信号の波形形状を設定する。また、駆動信号発生回路9(駆動信号発生手段)は、制御部6に制御され、設定された波形形状の駆動信号を発生する。
【0067】
また、デコーダ55(翻訳手段)は、プリンタの動作時において、波高値オフセット情報に基づき、そのノズル列が予備パルスSP1,SP2を使用するか否かを判断する。例えば、波高値オフセット情報として0.0%が設定されたノズル列34A,34Dは予備パルスSP1,SP2を使用しないと判断し、波高値オフセット情報として7.5%が設定されたノズル列34B,34Cは予備パルスSP1,SP2を使用すると判断する。
【0068】
この判断結果に基づき、デコーダ55は、異なるパルス選択情報を生成する。即ち、予備パルスSP1,SP2を使用しないノズル列34A,34Dについては、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を[0]に設定することで、予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給しないようにしている。これにより、インク滴を吐出させる場合には、吐出パルスDPのみが選択される。一方、予備パルスSP1,SP2を使用するノズル列34B、34Cについては、予備パルスSP1,SP2の発生期間に対応するパルス選択情報を[1]に設定することで、吐出パルスDPの供給に先立って予備パルスSP1,SP2を圧電振動子21に供給する。
【0069】
図6に基づいて、具体的に説明すると、予備パルスSP1,SP2を使用しない第1ノズル列34A及び第4ノズル列34D用のデコーダ55は、(b)に示すように、階調情報[00](微振動)に基づいて、パルス選択情報[100000]を生成し、階調情報[01](小ドット)に基づいて、パルス選択情報[000100]を生成する。また、階調情報[10](中ドット)に基づいて、パルス選択情報[010001]を生成し、階調情報[11](大ドット)に基づいて、パルス選択情報[010101]を生成する。
【0070】
これらのパルス選択情報により、微振動の階調情報に基づいて微振動パルスOPが選択され、圧電振動子21に供給される。また、小ドットの階調情報に基づいて第2吐出パルスDP2が選択され、圧電振動子21に供給される。さらに、中ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1と第3吐出パルスDPとが圧電振動子21に供給され、大ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1、第2吐出パルスDP2及び第3吐出パルスDPが圧電振動子21に供給される。
【0071】
一方、予備パルスSP1,SP2を使用する第2ノズル列34B及び第3ノズル列34C用のデコーダ55は、(c)に示すように、階調情報[00](微振動)に基づいて、パルス選択情報[100000]を生成し、階調情報[01](小ドット)に基づいて、パルス選択情報[001100]を生成する。また、階調情報[10](中ドット)に基づいて、パルス選択情報[010011]を生成し、階調情報[11](大ドット)に基づいて、パルス選択情報[011111]を生成する。
【0072】
これらのパルス選択情報により、小ドットの階調情報に基づき、第2吐出パルスDP2に先立って第1予備パルスSP1が選択され、圧電振動子21に供給される。この場合、第1予備パルスSP1によってメニスカスが予め加振されるので、単に第2吐出パルスDP2のみを供給した場合に比べてインク滴の吐出量を増やすことができる。さらに、この第1予備パルスSP1の波高値Vp及び第2吐出パルスDP2の駆動電圧Vhについては、上記したように適正化が図られているので、インク量の列間ばらつきを可及的に少なくすることができる。
【0073】
また、中ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1、第2予備パルスSP2及び第3吐出パルスDP3が圧電振動子21に供給される。この場合にも第3吐出パルスDP3に先立って第2予備パルスSP2が選択され、圧電振動子21に供給される。従って、第2予備パルスSP2によってメニスカスが予め加振されるので、単に第3吐出パルスDP3のみを供給した場合に比べてインク滴の吐出量を増やすことができる。
【0074】
さらに、大ドットの階調情報に基づいて第1吐出パルスDP1〜第3吐出パルスDP3と、第1予備パルスSP1及び第2予備パルスSP2とが圧電振動子21に供給される。この場合には、第1予備パルスSP1及び第2予備パルスSP2により、第2吐出パルスDP2及び第3吐出パルスDP3の吐出インク量が高められる。
【0075】
以上の補正を行うことにより、予備パルスSP1,SP2を使わない場合に比べてノズル列34間のばらつきを減少させることができた。図10(a)の例では、吐出インク量の最も多い第1ノズル列34Aは、補正後において重量比(補正重量比)が3.3%となった。また、吐出インク量の最も少ない第3ノズル列34Cは、補正重量比が−1.3%となった。さらに、第1ノズル列34Aは、補正重量比が1.8%となり、第4ノズル列34Dは補正後において重量比が−2.8%となった。その結果、予備パルスSP1,SP2を用いない場合には5.1%あった重量ばらつきが、予備パルスSP1,SP2を用いることにより2.7%にまで小さくなった。
【0076】
また、図10(b)〜(d)の例でも同様な効果を確認できた。例えば、図10(b)の例では、予備パルスSP1,SP2の非使用時に4.7%あった重量ばらつきが、予備パルスSP1,SP2の使用により0.8%にまで小さくなり、図10(c)の例では、予備パルスSP1,SP2の非使用時に4.0%あった重量比らつきが、予備パルスSP1,SP2の使用により0.0%にまで小さくなった。また、図10(d)の例では、予備パルスSP1,SP2の非使用時に5.0%あった重量ばらつきが、予備パルスSP1,SP2の使用により1.7%にまで小さくなった。
【0077】
このように、本実施形態では、駆動信号に予備パルスSP1,SP2を含ませ、波高値オフセット情報に基づいて予備パルスSP1,SP2の供給/非供給を制御しているので、一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生回路9と、この駆動信号から必要なパルスを選択して圧電振動子21に供給するパルス供給手段(制御ロジック56、デコーダ55、レベルシフタ57、スイッチ回路58)とを設ければ足りる。そして、これらの駆動信号発生回路9とパルス供給手段は既存の構成を用いて構成できるので、装置構成を簡素化できる。このため、装置の小型化が図れると共に、設計の自由度が増す。さらに、安価に構成することもできる。
【0078】
ところで、本発明はこの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、予備パルスSP1,SP2を用いてノズル列34同士の吐出量ばらつきを調整する場合について説明したが、この予備パルスSP1,SP2を用いてドット種類毎の吐出量を調整することもできる。以下、このように構成した例について説明する。
【0079】
上記実施形態のように、同一形状の吐出パルスDP1〜DP3を一記録周期T内に複数含ませ、一周期内における供給数を変化させることで階調制御を行う構成は、言い換えれば、階調毎に吐出パルスDP1〜DP3の供給周期を変えている構成といえる。この構成において、吐出パルスDP1〜DP3の供給間隔を狭めて供給周波数を高めると、先の吐出動作によるメニスカスの振動が収まらないうちに次の吐出動作が始まってしまうことになる。そして、次の吐出動作におけるインク滴の吐出量は、吐出パルス供給開始時点のメニスカスの状態(例えば、盛り上がり度合い)によって変動する。このため、供給周波数が最も高い大ドットの記録時と供給周波数が最も低い小ドットの記録時とにおいて、1滴あたりの量が異なる虞がある。
【0080】
一般に、吐出パルス同士の間隔を詰めてゆくと、後の吐出パルスの供給開始時点においてメニスカスは盛り上がった状態になる。このため、同じ波形形状の吐出パルスDPを用いたとしても、後の吐出パルスでは、吐出されるインク滴の量が増えることになる。そして、吐出パルスの駆動電圧Vhを大ドット記録時の吐出量で定めた場合、中ドット記録時や小ドット記録時における1滴の量は、供給周波数が大ドット記録時よりも低いので、大ドット記録時よりも少なくなる傾向を持つ。そして、このような1滴あたりのインク量の変化特性(周波数特性と呼ぶ)は、ヘッド流路寸法のばらつき等によって変化するため、小、中、大ドットの重量比が個体毎にばらつくといった問題が発生する。
本実施形態は、この点に着目したものであり、中ドット記録時や小ドット記録時におけるインク量の個体ばらつきを予備パルスSP1,SP2を用いて補正するものである。
【0081】
本実施形態において使用する駆動信号を図11に示す。この駆動信号は、図6に示したものと同様であるが、第1予備パルスSP1と第2予備パルスSP2の設定方法が異なっている。即ち、第1予備パルスSP1は、小ドット記録時のインク量調整用であり、第2吐出パルスDP2による吐出インク量を調整する。また、第2予備パルスSP2は、中ドット記録時のインク量調整用であり、第3吐出パルスDP3による吐出インク量を調整する。
【0082】
本実施形態においても、これらの予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定することで吐出インク量を調整する。この波高値Vpの設定は、予備パルスSP1,SP2を使用しない状態における1滴のインク量に基づいて行われる。以下、波高値Vpの設定について説明する。
【0083】
波高値Vpの設定にあたり、まず、吐出パルスDP1〜DP3の駆動電圧Vhを決定する。この駆動電圧Vhの決定は、上記した実施形態と同様に、記録ヘッド8の検査工程等で行われる。ここでの駆動信号の決定は、大ドットの供給周波数で各吐出パルスDPを圧電振動子21に供給してインク滴を吐出させ、吐出させたインク滴の重量を測定することで行う。例えば、一記録周期Tあたりの吐出インク量が20.0plとなる駆動電圧Vhの値を、使用する駆動電圧Vhとする。
【0084】
駆動電圧Vhを決定したならば、予備パルスSP1,SP2を使用しない状態で、第2吐出パルスDP2に対応する吐出量を測定し、吐出量の設計値に対する重量比、即ち、小ドット重量比を取得する。この小ドット重量比は、例えば次式(2)によって計算される。
【0085】
小ドット重量比=(測定重量/設計重量)−1 … (2)
【0086】
この重量比情報は、例えば図12に示すように−5%〜5%の範囲で1%単位で設定される。この重量比情報は、小ドット重量(低周波重量)のばらつき情報であり、中心値(設計重量,標準重量)からの偏差を示している。例えば、重量比0%とは、小ドット重量が中心値となる記録ヘッド8であることを意味する。また、重量比−3%とは、小ドット重量が中心値より3%少なくなる記録ヘッド8であることを意味し、重量比3%とは、小ドット重量が中心値より3%多くなる記録ヘッド8であることを意味する。
【0087】
小ドット重量ばらつきの補正は、重量比情報をもとに、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定することにより行う。本実施形態の予備パルスによる補正では、重量を増加させるという一方向の自由度しか持たず減少させることができないため、図12に示すように、重量比が中心値の記録ヘッド8においてVp/Vh=12.5%をゼロ点(基準)とし、その波高値Vpからの増減によって重量調整を行う。このため、重量比情報が中心値の記録ヘッド8においては、小ドット重量が標準重量よりも多少多くなる。
【0088】
そして、重量比情報が+3%であれば、Vp/Vh=5%(即ち、12.5%−7.5%)に設定してインク滴の吐出重量を減少させる。また、重量比情報が−3%であれば、Vp/Vh=20.0%(即ち、12.5%+7.5%)に設定してインク滴の吐出重量を増加させる。さらに、重量比情報が−5%以下であればVp/Vh=25%(即ち、12.5%+12.5%)に設定し、重量比情報が+5%以上であればVp/Vh=0%(即ち、12.5%−12.5%)に設定してそれ以上の補正は行わない。
【0089】
なお、小ドットでの重量比情報はまた、中ドット記録時におけるインク量ばらつきに関する情報でもある。小ドットのインク量が少なくなるような記録ヘッド8では、中ドットのインク量も少なくなるため、本実施形態では、その相関に基づいて第2予備パルスSP2の波高値Vpを第1予備パルスSP1の波高値Vpと等しくなるように設定している。勿論、中ドットでの重量比情報を別途取得してもよい。この場合には第2予備パルスSP2の波高値Vpは、中ドットの重量比情報に基づいて独立に設定する。
【0090】
このような制御を行うことにより、本実施形態では、小ドットや中ドットの記録時におけるインク量ばらつきを防止でき、良好な画質で記録できる。
【0091】
また、上記の予備パルスSP1,SP2を、環境温度の変化に伴う吐出量ばらつきの調整に用いてもよい。この場合、制御部6は、サーミスタ等の温度検出手段からの検出信号に基づいて環境温度を認識し、認識した環境温度に応じて予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを設定する。例えば、制御部6は、標準使用温度の波高値Vpを吐出パルスDPにおける駆動電圧Vhの12.5%に設定し、環境温度が標準使用温度よりも高くなる程に波高値Vpを低くする。一方、環境温度が標準使用温度よりも低くなる程に波高値Vpを高くする。これにより、環境温度が変化しても吐出パルスDPの駆動電圧Vhを変えることなく、吐出量の調整が行える。従って、プリンタに使用する電源容量を小さくすることができ、装置の小型化や省電力化に寄与する。
【0092】
また、上記実施形態では、予備パルスSP1,SP2の波高値Vpを変えることでインク滴の吐出量を調整していたが、予備パルスSP1,SP2に含まれる予備膨張要素P11、予備ホールド要素P12、予備収縮要素P13の発生時間を調整するように構成してもよい。即ち、予備膨張要素P11や予備収縮要素P13の発生時間を調整すると、これらの要素の電位勾配が変化するので、メニスカスの振動状態を変化させることができる。
従って、インク滴の吐出量ばらつきに応じて予備膨張要素P11や予備収縮要素P13の発生時間を調整することにより、インク滴の吐出量を変化させることができ、吐出インク量のばらつき等を調整することができる。
【0093】
さらに、予備パルスSP1,SP2から吐出パルスDP2,DP3までの時間間隔を変更する構成としてもよい。即ち、予備パルスSP1,SP2の供給終了後において、メニスカスは自由振動をしているので、時間の経過に伴ってメニスカスの状態(位置)が変化する。
このため、インク滴の吐出量ばらつきに応じて予備パルスSP1,SP2から吐出パルスDP2,DP3までの時間間隔を調整することにより、インク滴の吐出量を変化させることができ、吐出インク量のばらつき等を調整することができる。
【0094】
また、上記実施形態の予備パルスSP1,SP2は、高電位側に凸の台形状パルスであったが、低電位側に凸(高電位側からみて凹)の台形状パルスによって構成してもよい。この場合、吐出パルスDP2,DP3の供給開始時点において、メニスカスは定常状態よりも圧力室35側に引き込まれた状態になる。このため、インク滴の吐出量を、予備パルスSP1,SP2の非使用時よりも少なくすることができる。即ち、吐出インク量を減じる側の調整ができる。
【0095】
また、上記実施形態においては、識別情報を複数のノズル列34のそれぞれに設定し、予備パルスSP1,SP2の供給制御をノズル列34単位で行うものについて説明したが、予備パルスSP1,SP2の供給制御をノズル開口単位で行うようにしてもよい。
【0096】
また、圧力発生素子としては、圧電振動子21に限らず、磁歪素子や静電アクチュエータ等も用いることができる。
【0097】
また、上記実施形態では、微振動パルスOPと予備パルスSP1,SP2を専用のパルスによって構成したが、この構成に限定されるものではない。即ち、微振動パルスOPと予備パルスSP1,SP2は、インク滴を吐出させない程度にメニスカスを振動させている点で共通している。従って、予備パルスSP1,SP2を用いて非記録時におけるメニスカスの微振動を行ってもよい。また、上記実施形態における微振動パルスOPを、第1吐出パルスDP1用の予備パルスとして使用してもよい。
【0098】
また、吐出パルスの波形形状は、上記に限らず任意の波形形状を用いることができる。例えば、一記録周期内に小ドット用の小ドット駆動パルスと中ドット用の中ドット駆動パルスとを含ませた構成において、小ドット駆動パルスの直前に1つの予備パルスを発生させ、中ドット駆動パルスの直前に1つの予備パルスを発生させてもよい。
【0099】
なお、本発明は、プリンタ以外の液体噴射装置にも適用できる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,極く少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペット等の液体噴射装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 プリンタの構成を説明するブロック図である。
【図2】 記録ヘッドの断面図である。
【図3】 圧力室周辺を拡大して示した断面図である。
【図4】 記録ヘッドをノズルプレート側から見た図である。
【図5】 記録ヘッドの電気駆動系を説明するブロック図である。
【図6】 第1実施形態を説明する図であり、(a)は駆動信号を、(b)は予備パルスを使用しない場合の選択情報を、(c)は予備パルスを使用する場合の選択情報をそれぞれ示す。
【図7】 吐出パルスを説明する図であり、(a)は波形を、(b)はメニスカスの動きをそれぞれ示す。
【図8】 予備パルスを説明する図であり、(a)は波形を、(b)はメニスカスの動きをそれぞれ示す。
【図9】 予備パルスの波高値を変えた状態を説明する図であり、(a)は波形を、(b)はメニスカスの動きをそれぞれ示す。
【図10】 (a)〜(d)はそれぞれ、本発明を適用した具体例を説明する図である。
【図11】 第2実施形態を説明する図であり、(a)は駆動信号を、(b)は予備パルスを使用しない場合の選択情報をそれぞれ示す。
【図12】 第2実施形態を説明する図であり、調整情報と予備パルスの波高値との関係を説明する図である。
【符号の説明】
1…プリンタコントローラ,2…プリントエンジン,3…外部I/F,4…RAM,5…ROM,6…制御部,7…発振回路,8…記録ヘッド,9…駆動信号発生回路,10…識別情報記憶部,11…内部I/F,12…記録ヘッドの電気駆動系,13…パルスモータ,14…紙送りモータ,21…圧電振動子,22…振動子群,23…固定板,24…フレキシブルケーブル,25…振動子ユニット,26…ケース,27…流路ユニット,28…収納空部,29…島部,30…流路形成基板,31…ノズルプレート,32…弾性板,33…ノズル開口,34…ノズル列,35…圧力室,36…インク供給口,37…リザーバ,38…ノズル連通口,39…支持板,40…樹脂フィルム,51…第1シフトレジスタ,52…第2シフトレジスタ,53…第1ラッチ回路,54…第2ラッチ回路,55…デコーダ,56…制御ロジック,57…レベルシフタ,58…スイッチ回路
Claims (9)
- 圧力発生素子の作動によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、該圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドと、
液滴を吐出させるための吐出パルスを含んだ一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段と、
前記駆動信号の中から必要なパルスを選択して圧力発生素子に供給するパルス供給手段とを有する液体噴射装置において、
前記液体噴射ヘッドの個体差に起因する吐出液量の偏差情報を識別情報として記憶可能な識別情報記憶手段を設け、
前記駆動信号発生手段は、液滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内の液体に生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスを、前記吐出パルス及びメニスカスを微振動させる微振動パルスとは別個独立して吐出パルスとの間に基準電位で一定な間隔を設けた状態で吐出パルスに先立って発生し、前記微振動パルスを、前記吐出パルス及び前記予備パルスよりも前に発生し、
前記予備パルスは、基準電位から予備最大電位まで一定の電位勾配で電位を上昇させる電位上昇要素と、予備最大電位を維持する定電位要素と、予備最大電位から基準電位まで一定の電位勾配で電位を下降させる電位下降要素とを含む台形状のパルスであって、前記微振動パルスとは異なる形状に設定され、
前記パルス供給手段は、液滴を吐出しない場合に前記微振動パルスのみを選択して圧力発生素子へ供給し、液滴を吐出する場合に前記識別情報に基づいて前記予備パルスの圧力発生素子への供給又は非供給を制御することにより液滴の吐出量を調整することを特徴とする液体噴射装置。 - 前記駆動信号発生手段から発生させる駆動信号の波形形状を設定可能な波形設定手段を設け、
該波形設定手段は、前記識別情報に基づいて前記予備パルスの波形形状を設定することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。 - 前記波形設定手段は、前記識別情報に基づいて前記予備パルスの波高値を設定することを特徴とする請求項2に記載の液体噴射装置。
- 前記波形設定手段は、前記識別情報に基づいて前記電位上昇要素と電位下降要素の少なくとも一方の要素の電位勾配を設定することを特徴とする請求項2から請求項3の何れか1項に記載の液体噴射装置。
- 前記波形設定手段は、前記識別情報に基づいて前記予備パルスから前記吐出パルスまでの時間間隔を設定することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
- 前記液体噴射ヘッドは、複数のノズル開口を列設してなるノズル列を複数列備え、
前記識別情報を複数のノズル列のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル列単位で行うことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の液体噴射装置。 - 前記識別情報を複数のノズル開口のそれぞれに対応させて設定し、前記パルス供給手段による予備パルスの供給制御を、ノズル開口単位で行うことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の液体噴射装置。
- 圧力発生素子の作動によって圧力室内の液体に圧力変動を生じさせ、該圧力変動を利用することでノズル開口から液滴を吐出可能な液体噴射ヘッドと、
液滴を吐出させるための吐出パルスを含んだ一連の駆動信号を発生可能な駆動信号発生手段と、
前記駆動信号の中から必要なパルスを選択して圧力発生素子に供給するパルス供給手段とを有する液体噴射装置の液滴吐出制御方法において、
前記液体噴射ヘッドの個体差に起因する吐出液量の偏差情報を識別情報として識別情報記憶手段に記憶し、
液滴を吐出させない程度の圧力変動を圧力室内の液体に生じさせてメニスカスを移動させる予備パルスを、前記吐出パルス及びメニスカスを微振動させる微振動パルスとは別個独立して吐出パルスとの間に基準電位で一定な間隔を設けた状態で吐出パルスに先立って発生させ、前記微振動パルスを、前記吐出パルス及び前記予備パルスよりも前に発生させ、
前記予備パルスを、基準電位から予備最大電位まで一定の電位勾配で電位を上昇させる電位上昇要素と、予備最大電位を維持する定電位要素と、予備最大電位から基準電位まで一定の電位勾配で電位を下降させる電位下降要素とを含む台形状のパルスであって、前記微振動パルスとは異なる形状に設定し、
液滴を吐出しない場合に前記微振動パルスのみを選択して圧力発生素子へ供給し、液滴を吐出する場合に前記識別情報に基づいて前記予備パルスの圧力発生素子への供給又は非供給を制御することにより液滴の吐出量を調整することを特徴とする液体噴射装置の液滴吐出制御方法。 - 前記駆動信号発生手段から発生させる駆動信号の波形形状を設定可能な波形設定手段を設け、
該波形設定手段は、前記識別情報に基づいて予備パルスの波形形状を設定することを特徴とする請求項8に記載の液体噴射装置の液滴吐出制御方法。
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