JP4266247B2 - ポリプロピレン繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はポリプロピレン繊維およびその製造方法に係り、特に、結節強度の高いポリプロピレン繊維およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレン(以下、ポリプロピレンを「PP」と略記する。)繊維は、比重が小さい(軽い),耐薬品性に著しく優れている,強力が強い,耐摩耗性に優れている,弾性的性質に優れている等の利点を有していることから、衣料,資材,インテリア,濾材等、種々の用途に利用されている。
【0003】
上記の利点を有しているPP繊維は一般に溶融紡糸法またはゲル紡糸法によって製造されており、その製造条件および製造方法については、実用上使用することができる原料の分子量等に応じて、所望の物性を有するPP繊維が得られるように適宜選定されている。
【0004】
例えば、溶融紡糸法によってPP繊維を製造しようとする場合には、溶融紡糸時における原料のメルトフローレート(以下、メルトフローレートを「MFR」と略記する。)が小さいとその流動性が低下し、また、溶融紡糸後のMFRが小さいと延伸性が低下し、これらに伴って生産性や得られるPP繊維の物性が低下するので、MFRが概ね10〜40の原料を用いて所望の物性を有するPP繊維が得られるように、その製造条件が選定されている。その結果として、従来の溶融紡糸法によって工業的に製造されるPP繊維、すなわち、概ね50m/分以上の生産速度の下に製造されるPP繊維は、重量平均分子量が概ね10万〜30万のPPに必要に応じて光安定剤や酸化防止剤等の添加剤を含有させたものによって形成されている。
【0005】
一方、ゲル紡糸法によってPP繊維を製造しようとする場合には、重量平均分子量が概ね100万以上の原料を用いて所望の物性を有するPP繊維が得られるように、その製造条件が選定されている。その結果として、従来のゲル紡糸法によって製造されるPP繊維は、重量平均分子量が概ね100万以上のPPによって形成されている。
【0006】
ところで、PP繊維を用いてロープ,ネット,織物あるいは濾布等のように繊維同士が湾曲あるいは屈曲状態で使用される製品を得るにあたっては、当該製品の信頼性,耐久性等をより向上させるうえから結節強度の高いPP繊維を得ることが望まれるわけであるが、従来の溶融紡糸法によって工業的に製造し得るPP繊維の結節強度は概ね7g/d以下である。一方、特開昭60−231743号公報には、ゲル紡糸法によって得られた結節強度8.3g/dのPP繊維が開示されている。このPP繊維は、重量平均分子量が250万のPPを原料として用いてゲル紡糸法によって未延伸糸を得た後、この未延伸糸を15倍を超える倍率で延伸することによって得られたものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、ゲル紡糸法によれば溶融紡糸法によるよりも結節強度の高いPP繊維を得ることが可能である。
しかしながら、ゲル紡糸法によってPP繊維を製造する場合には、下記(1) ,(2) 等の理由から、溶融紡糸法によってPP繊維を製造する場合よりも製造コストが非常に高くなるという難点がある。
【0008】
(1) 原料を特定の溶媒に溶解させて使用し、かつ、前記の溶媒を最終的にはPP繊維から除去する必要があるので、生産効率が低い。
(2) PP繊維から上記の溶媒を除去した後、当該溶媒を無害化して廃棄するか、または、再生処理して再利用しなければならないので、そのための処理設備が必要になる。
【0009】
本発明の目的は、結節強度が高いPP繊維を低コストの下に製造することができるPP繊維の製造方法を提供することにある。
【0010】
上記の目的を達成する本発明のPP繊維の製造方法は、以下のとおりである。
【0011】
すなわち、上記の目的を達成する本発明のPP繊維の製造方法は、メルトフローレートが0.1〜10である第1の結晶性ポリプロピレンとメルトフローレートが10〜40である第2の結晶性ポリプロピレンとを原料として用い、前記第1の結晶性ポリプロピレンに対する前記第2の結晶性ポリプロピレンの重量比率の値が50%以下となるようにしてこれらの結晶性ポリプロピレンが混合されている混合物を溶融紡糸後のメルトフローレートが2〜30となるように溶融紡糸して未延伸糸を得た後、両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧水蒸気が入れられている延伸槽を使用して、120〜180℃の延伸温度下で前記の未延伸糸を5倍以上に、なおかつ破断倍率の70%以上に延伸して、重量平均分子量が20万〜45万の結晶性ポリプロピレンからなり、結節強度が8g/d以上であるポリプロピレン繊維を得ることを特徴とするものである(以下、この方法を「方法I」という。)。
【0012】
そして、上記の目的を達成する本発明のPP繊維の他の製造方法は、メルトフローレートが0.1〜10の結晶性ポリプロピレンを原料として用い、この結晶性ポリプロピレンを溶融紡糸後のメルトフローレートが2〜30になるように溶融紡糸して未延伸糸を得た後、両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧水蒸気が入れられている延伸槽を使用して、120〜180℃の延伸温度下で前記の未延伸糸を5倍以上に、なおかつ破断倍率の70%以上に延伸して、重量平均分子量が20万〜45万の結晶性ポリプロピレンからなり、結節強度が8g/d以上であるポリプロピレン繊維を得ることを特徴とするものである(以下、この方法を「方法II」という。)。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明のPP繊維について説明する。
本発明のPP繊維は、前述したように重量平均分子量が20万〜45万の結晶性PPからなり、結節強度が8g/d以上のものである。
【0014】
ここで、本発明のPP繊維を形成している上記の結晶性PPは、重量平均分子量が20万〜45万でありさえすれば、(1) 1種類のPPホモポリマーからなるものであってもよいし、(2) 2種以上のPPホモポリマー同士の混合物からなるもの、(3) PPとαオレフィン(例えばエチレン,ブテン−1等)とを共重合させてなる1種類の共重合体からなるもの、または、(4) 前記(3) の共重合体の2種以上同士の混合物からなるもの、であってもよい。
【0015】
また、PP繊維においては一般に光安定剤,酸化防止剤,顔料等の添加剤が必要に応じて使用されるわけであるが、本発明のPP繊維においても、これらの添加剤を必要に応じて添加することができる。さらに、後述するように本発明のPP繊維を得るにあたっては原料の分子量を調整するための分子量調整剤、例えば2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等の過酸化物や、金属石鹸(例えばステアリン酸亜鉛,ステアリン酸アルミニウム)等が必要に応じて使用されるわけであるが、本発明のPP繊維には、前記の分子量調整剤またはその熱分解生成物が不可避的に残存していてもよい。
【0016】
したがって、本発明のPP繊維についていう「重量平均分子量が20万〜45万の結晶性PPからなる」とは、重量平均分子量が20万〜45万である前述の結晶性PPのみからなることの他に、前述の結晶性PPに上述した添加剤や分子量調整剤もしくはその熱分解生成物を含有させたものからなることをも意味するものとする。
【0017】
一方、本発明でいうPP繊維の結節強度とは、JIS L 1015の結節強さに準じて測定したものを意味する。
【0018】
本発明のPP繊維は、上述したように重量平均分子量が20万〜45万の結晶性PPからなるものであるので、従来のゲル紡糸法によって得ることはできない。また、当該PP繊維は結節強度が8g/d以上のものであるので、従来の溶融紡糸法によっても得ることができない。しかしながら、後述する本発明の方法Iまたは方法IIによれば従来の延伸方法よりも延伸倍率を上げられるため、工業的な生産速度、すなわち50m/分以上の生産速度の下に容易に得ることができる。
【0019】
このように、本発明のPP繊維は結節強度が高く、かつ、工業的な生産速度の下に容易に得ることができるものであるので、ロープ,ネット,織物あるいは濾布等のように繊維同士が湾曲あるいは屈曲状態で使用される製品の信頼性,耐久性等を向上させるとともに、当該製品を安価に提供するうえで有用である。さらに、当該PP繊維は概ね11g/d以上という高い繊維強度を有しているので、例えばセメント補強用単繊維,布等を得るうえでも有用である。なお、本発明のPP繊維の繊度は、その用途に応じて概ね0.5〜100dの範囲内で適宜選択可能である。
【0020】
次に、本発明の方法Iについて説明する。
本発明の方法Iは、上述した本発明のPP繊維を工業的な生産速度の下に製造するうえで有用な方法であり、当該方法Iでは、前述したように、MFRが0.1〜10である第1の結晶性PPと、MFRが10〜40である第2の結晶性PPとを原料として用いる。そして、上記第1の結晶性PPに対する上記第2の結晶性PPの重量比率の値が50%以下となるようにして混合されている混合物を溶融紡糸後のMFRが2〜30となるように溶融紡糸して、未延伸糸を得る。
【0021】
ここで、方法Iおよび後述する方法IIでいう「MFR」とは、JIS K 7210に基づいて試験荷重2.16kgf,測定温度230℃の条件の下に測定したものを意味する。
【0022】
また、方法Iでいう「結晶性PP」とは、前述した本発明のPP繊維におけるのと同様に、(1) 1種類のPPホモポリマーからなるものであってもよいし、(2) 2種以上のPPホモポリマー同士の混合物からなるもの、(3) PPとαオレフィン(例えばエチレン,ブテン−1等)とを共重合させてなる1種類の共重合体からなるもの、または、(4) 前記(3) の共重合体の2種以上同士の混合物からなるもの、であってもよい。そして、使用する原料は上記第1の結晶性PPおよび上記第2の結晶性PPの2つのみであってもよいが、これらの結晶性PP以外に、本発明のPP繊維についての説明の中で述べた添加剤や分子量調整剤を必要に応じて併用してもよい。
【0023】
溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は、紡糸温度を調整することによって、あるいは、適量の分子量調整剤を使用することによって制御することができる。勿論、適量の分子量調整剤を使用すると共に紡糸温度を調整することによっても制御することができる。
【0024】
ただし、たとえ溶融紡糸後のMFRが2〜30であっても、原料として使用する混合物が上記の要件を満たさない場合には、目的とする物性を有するPP繊維を50m/分以上の生産速度の下に製造することが困難になる。
なお、後述する延伸時において結晶性PPの重量平均分子量が低下するということは実質的にないので、上記の溶融紡糸は重量平均分子量が20万〜45万の結晶性PPからなる未延伸糸が得られるように行われる。
【0025】
本発明の方法Iでは、上述の溶融紡糸によって未延伸糸を得た後、両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧水蒸気が入れられている延伸槽を使用して、120〜180℃の延伸温度下で前記の未延伸糸を5倍以上に、なおかつ破断倍率の70%以上に延伸する。
【0026】
ここで、本発明でいう「破断倍率」とは、本発明の方法Iまたは後述する本発明の方法IIに基づいてPP繊維を製造する際の延伸条件(ただし、延伸倍率は除く。)下で未延伸を延伸したときに、延伸糸が破断する最小の延伸倍率を意味する。
【0027】
方法Iにおける延伸温度(延伸槽内の雰囲気温度を意味する。)が120℃未満では、5倍以上の延伸倍率の下に目的とするPP繊維を50m/分以上の生産速度の下に製造することが困難になる。一方、延伸温度が155℃を超えると、目的とする物性を有するPP繊維を得ることが困難になるが、例えばスピンドロー法等を適用することによって生産速度をより高速化することにより、延伸温度を例えば180℃という高温にしても、目的とする物性を有するPP繊維を得ることが可能になる。延伸温度は概ね130℃以上とすることが好ましく、概ね140℃以上とすることがより好ましい。
【0028】
また、延伸時における延伸槽内の湿度は、延伸槽の端をシールしている上記の加圧水中を通って延伸槽内に導かれた未延伸糸が乾燥しないように、すなわち、延伸槽内に導かれた未延伸糸が延伸されて延伸槽外へ引き出されるまでの間に前記の水分が蒸発によって消失してしまわないように設定される。
【0029】
延伸媒体として絶対圧が2.0〜10.2kg/cm2 の加圧飽和水蒸気を用いれば、当該加圧飽和水蒸気の温度が120℃(絶対圧2.0kg/cm2 のとき)〜180℃(絶対圧10.2kg/cm2 のとき)であることから、上記の延伸温度要件および湿度要件を容易に満たすことができる。また、延伸槽あるいは蒸気供給側にヒーターを付設すれば、飽和状態にない加圧水蒸気を用いたとしても上記の延伸温度要件および湿度要件を容易に満たすことが可能になる。
【0030】
上記の延伸温度要件および加圧水蒸気の湿度要件を満たす条件下で前記の未延伸糸を延伸しても、その延伸倍率が5倍未満または破断倍率の70%未満では目的とする物性を有するPP繊維を50m/分以上の生産速度の下に製造することが困難になるので、方法Iでは未延伸糸の延伸倍率を5倍以上に、なおかつ破断倍率の70%以上にする。当該延伸倍率は破断倍率の80%以上とすることがより好ましい。
【0031】
上述した延伸まで行うことにより目的とするPP繊維、すなわち、重量平均分子量が20万〜45万の結晶性PPからなり、結節強度が8g/d以上である本発明のPP繊維を50m/分以上の生産速度の下に得ることができる。
【0032】
方法Iによって上記のPP繊維が得られる理由は、下記のように推察される。すなわち、方法Iで使用される延伸槽の槽内は、場所的にも経時的にも均一な温度雰囲気下にある。また、加圧水蒸気を延伸媒体として使用しているため、単繊維一本一本について均一な加熱が可能になる。さらに、前述した湿度要件下では、延伸槽内の未延伸糸および延伸過程の糸(以下、これらの糸を本段落においては「繊維」と総称する。)に水分が常に付着しており、この状態下で前記の繊維が延伸される結果として、延伸時のドラフト変形によって内部発熱が生じても繊維の温度が高温になりすぎることが抑制されるので、繊維表面が溶融状態になりにくい。
【0033】
このため、前述した未延伸糸を従来の延伸方法によって延伸する場合よりも高倍率で延伸することが可能になり、これによって、従来よりも物性値が向上したPP繊維を得ることが可能になる。そして、加圧水蒸気を延伸媒体とする延伸槽を使用して高温条件下で未延伸糸を延伸するので、未延伸糸内部の温度を短時間のうちに所望温度にまで昇温させることが可能になり、その結果として、目的とするPP繊維を工業的な生産速度、すなわち50m/分以上の生産速度の下に容易に得ることが可能になる。
【0034】
次に、本発明の方法IIについて説明する。
本発明の方法IIは、前述した本発明のPP繊維を工業的な生産速度の下に製造するうえで有用な他の方法であり、当該方法IIでは、前述したように、MFRが0.1〜10の結晶性PPを原料として用いる。
【0035】
ここで、方法IIでいう「結晶性PP」とは、前述した本発明のPP繊維あるいは上述した本発明の方法IIにおけるのと同様に、(1) 1種類のPPホモポリマーからなるものであってもよいし、(2) 2種以上のPPホモポリマー同士の混合物からなるもの、(3) PPとαオレフィン(例えばエチレン,ブテン−1等)とを共重合させてなる1種類の共重合体からなるもの、または、(4) 前記(3) の共重合体の2種以上同士の混合物からなるもの、であってもよい。また、使用する原料は上記の結晶性PPのみであってもよいが、当該結晶性PP以外に、本発明のPP繊維についての説明の中で述べた添加剤や分子量調整剤を必要に応じて併用してもよい。
【0036】
本発明の方法IIと前述した本発明の方法Iとの最大の差異は使用する原料が異なるという点にあり、溶融紡糸条件や延伸条件は方法Iにおけるこれらの条件と実質的に同じである。したがって、ここではこれらの条件についての説明を省略する。なお、たとえ溶融紡糸条件が方法IIで規定する条件を満たしたとしても、原料として使用する結晶性PPが上記の要件を満たさない場合や延伸条件が方法IIで規定する条件を満たさない場合には、目的とする物性を有するPP繊維を50m/分以上の生産速度の下に製造することが困難になる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1(方法IによるPP繊維の製造)
(1)溶融紡糸
まず、MFRが1である第1の結晶性PP(グランドポリマー(株)製のB101)と、MFRが22である第2の結晶性PP(日本ポリケム(株)製のSA1HA)とを用意した。そして、前記第1の結晶性PPに対する前記第2の結晶性PPの重量比率が80/20である混合物を調製し、ホール径が0.3mmφ、ホール数が160である紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置によって紡糸温度330℃の条件の下に前記の混合物を溶融紡糸して、単糸繊度が20dの未延伸糸を得た。このとき、溶融紡糸後のMFRは6.7g/10分であった。
【0038】
(2)延伸
筒体の両端および内部(計4箇所)に所定形状のシリコーンゴムパッキン、すなわち、中央部に透孔を有するシリコーンゴムパッキンを配置することによって当該筒体を第1の加圧水槽部,延伸槽部(全長12.5m)および第2の加圧水槽部に区画し、さらに、第1の加圧水槽の外側に未延伸糸送出用のローラを、また第2の加圧水槽の外側に繊維引き取り用のローラをそれぞれ配設することによって構成された延伸装置を予め用意した。この延伸装置においては、未延伸糸は一旦第1の加圧水槽内に導かれた後に延伸槽部内に入り、その後、延伸槽部内から第2の加圧水槽内を経由し、冷却されて引き取られる。
【0039】
上記(1)で得た未延伸をこの延伸装置を用いて延伸するにあたり、延伸槽部に絶対圧が3.7kg/cm2 の加圧飽和水蒸気(温度140℃)を充填し、当該延伸槽部の内圧よりわずかに高い圧力の高圧水を第1の加圧水槽部および第2の加圧水槽部にそれぞれ貯留させた後、引き取り速度が50m/分となるようにして前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、このときの延伸倍率は8.0倍であった。
【0040】
実施例2(方法IによるPP繊維の製造)
実施例1(1)と同条件で未延伸糸を作製し、延伸倍率を7.0倍とした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で当該未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。
【0041】
比較例1
実施例1(1)と同条件で未延伸糸を作製し、金属ロールと板状ヒーターとを備えた接触加熱延伸機を使用して延伸温度140℃,延伸速度10m/分の条件の下に前記の未延伸糸を3.5倍に延伸して、PP繊維を得た。
【0042】
実施例3(方法IによるPP繊維の製造)
紡糸温度を340℃とした以外は実施例1(1)と同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、延伸倍率を9.0倍とした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は12.5g/10分であった。
【0043】
実施例4(方法IによるPP繊維の製造)
(1)溶融紡糸
第1の結晶性PPに対する第2の結晶性PPの重量比率を90/10としてこれらの混合物を調製した以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って、単糸繊度が20dの未延伸糸を得た。このとき、溶融紡糸後のMFRは4.7g/10分であった。
(2)延伸
絶対圧が4.2kg/cm2 の加圧飽和水蒸気(温度145℃)を延伸媒体として使用し、かつ、延伸倍率を6.0倍とした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で上記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。
【0044】
実施例5(方法IによるPP繊維の製造)
第1の結晶性PPに対する第2の結晶性PPの重量比率を70/30としてこれらの混合物を調製した以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、この未延伸糸を実施例1(2)におけるのと同条件で延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は23.8g/10分であった。
【0045】
実施例6(方法IによるPP繊維の製造)
第1の結晶性PPに対する第2の結晶性PPの重量比率を50/50としてこれらの混合物を調製した以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、延伸倍率を11.0倍とした以外は実施例4(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は28.5g/10分であった。
【0046】
比較例2
第1の結晶性PPに対する第2の結晶性PPの重量比率を本発明の方法Iにおける限定範囲外の値である20/80としてこれらの混合物を調製し、かつ、紡糸温度を250℃とした以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、この未延伸糸を実施例4(2)におけるのと同条件で延伸して、PP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は9.5g/10分であった。
【0047】
実施例7(方法IによるPP繊維の製造)
実施例1(1)で用いた第1の結晶性PPに代えてMFRが0.35である結晶性PP(グランドポリマー(株)製のZS633)を用いた以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、延伸倍率を5.0倍とした以外は実施例4(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は2.8g/10分であった。
【0048】
実施例8(方法IによるPP繊維の製造)
実施例1(1)で用いた第1の結晶性PPに代えてMFRが0.65である結晶性PP(日本ポリケム(株)製のEA9)を用いた以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、延伸倍率を8.0倍とした以外は実施例4(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は5.8g/10分であった。
【0049】
実施例9(方法IによるPP繊維の製造)
実施例1(1)で用いた第2の結晶性PPに代えてMFRが14である結晶性PP(日本ポリケム(株)製のSA2D)を用いた以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、延伸倍率を8.0倍とした以外は実施例4(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は7.6g/10分であった。
【0050】
実施例10(方法IによるPP繊維の製造)
実施例1(1)で用いた第2の結晶性PPに代えてMFRが25である結晶性PP(グランドポリマー(株)製のZS1337)を用いた以外は実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸を行って単糸繊度が20dの未延伸糸を得、延伸倍率を8.5倍とした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は9.5g/10分であった。
【0051】
実施例11(方法IIによるPP繊維の製造)
(1)溶融紡糸
まず、MFRが0.65である結晶性PP(日本ポリケム(株)製のEA6)を用意した。また、分子量調整剤として過酸化物(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン)を用意した。そして、前記の過酸化物の濃度が1000ppmとなるように当該過酸化物を上記の結晶性PPに添加することによって混合物を調製し、紡糸温度を300℃とした以外は実施例1(1)におけるのと同条件で前記の混合物を溶融紡糸して、単糸繊度が20dの未延伸糸を得た。このとき、溶融紡糸後のMFRは16.6g/10分であった。
(2)延伸
延伸倍率を6.5倍とした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で上記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。
【0052】
比較例3
(1)溶融紡糸
MFRが0.35である結晶性PP(グランドポリマー(株)製のZS633)のみを原料として用い、この結晶性PPを実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸して、単糸繊度が20dの未延伸糸を得た。
なお、溶融紡糸後のMFR(未延伸糸のMFR)は、本発明の方法IIで規定する範囲外となる1.5g/10分であった。
(2)延伸
絶対圧が5.0kg/cm2 の加圧飽和水蒸気(温度151℃)を延伸媒体として使用し、かつ、延伸倍率を3.5倍とした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で上記の未延伸糸を延伸して、PP繊維を得た。
【0053】
比較例4
(1)溶融紡糸
MFRが22である結晶性PP(日本ポリケム(株)製のSA1HA)のみを原料として用い、ホール径が0.5mmφ、ホール数が120である紡糸ノズルを備えた溶融紡糸装置によって紡糸温度260℃の条件の下に前記の結晶性PPを溶融紡糸して、単糸繊度が25dの未延伸糸を得た。このとき、溶融紡糸後のMFRは24.2g/10分であった。
なお、上記の結晶性PPのMFRは、本発明の方法IIにおける限定範囲外の値である。すなわち、上記の原料は、本発明の方法IIで規定する要件を満たしていない。
(2)延伸
延伸倍率を11.0倍とした以外は実施例4(2)におけるのと同条件で上記の未延伸糸を延伸して、PP繊維を得た。
【0054】
比較例5
比較例4(1)と同条件で未延伸糸を作製し、延伸倍率を6.0倍とした以外は実施例4(2)と同条件で前記の未延伸糸を延伸して、PP繊維を得た。
【0055】
比較例6
比較例6(1)と同条件で未延伸糸を作製し、延伸倍率を4.0倍とした以外は実施例4(2)と同条件で前記の未延伸糸を延伸して、PP繊維を得た。
【0056】
比較例7
(1)溶融紡糸
MFRが14である結晶性PP(日本ポリケム(株)製のSA2D)のみを原料として用い、この結晶性PPを実施例1(1)におけるのと同条件で溶融紡糸して、単糸繊度が20dの未延伸糸を得た。このとき、溶融紡糸後のMFRは16.1g/10分であった。
なお、上記の結晶性PPのMFRは、本発明の方法IIにおける限定範囲外の値である。すなわち、上記の原料は、本発明の方法IIで規定する要件を満たしていない。
(2)延伸
延伸倍率を8.0倍とした以外は実施例4(2)におけるのと同条件で上記の未延伸糸を延伸して、PP繊維を得た。
【0057】
実施例12(方法IによるPP繊維の製造)
まず、延伸槽部の長さが18mである点を除いて実施例1で使用した延伸装置と同一構造の延伸装置を用意した。
また、実施例1と同じ条件で未延伸糸を得た。
そして、この未延伸を上記の延伸装置を用いて延伸するにあたり、延伸槽部に絶対圧が6.0kg/cm2 の加圧飽和水蒸気(温度158℃)を充填し、延伸糸の引き取り速度が200m/分となるようにした以外は実施例1(2)におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、このときの延伸倍率は7.5倍であった。
【0058】
実施例13(方法IによるPP繊維の製造)
延伸媒体として絶対圧が6.9kg/cm2 の加圧飽和水蒸気(温度163℃)を用い、延伸糸の引き取り速度が400m/分となるようにした以外は実施例12におけるのと同条件で前記の未延伸糸を延伸して、目的とするPP繊維を得た。なお、このときの延伸倍率は7.0倍であった。
【0059】
物性値等の測定
実施例1〜実施例13および比較例1〜比較例7でそれぞれ得たPP繊維について、その繊度,繊維強度,伸度,重量平均分子量および結節強度を測定した。また、実施例1〜実施例13でそれぞれ得たPP繊維について本発明でいう破断倍率を求めると共に、比較例1〜比較例7でそれぞれ得たPP繊維についても本発明でいう破断倍率に相当するものを求めた。
これらの結果を各PP繊維の製造条件と共に表1〜表4に示す。
【0060】
なお、上記の繊度,繊維強度および伸度は、それぞれJIS L 1015に基づいて下記のようにして測定した。
(1) 繊度
簡便法により重量デニールを測定した。
(2) 繊維強度,伸度
つかみ間隔20mm,引張速度20mm/分の条件で単繊維について引張破断試験を行って測定した。
また、重量平均分子量はGPC法(ゲル透過クロマトグラフィー法)によって求めた。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
表1〜表4に示したように、本発明の方法Iまたは方法IIによって製造された実施例1〜実施例13の各PP繊維(これらはいづれも本発明のPP繊維の1つである。)は、8.1〜10.6g/dという高い結節強度を有している。また、これら実施例1〜実施例11の各PP繊維は、10.6〜14.3g/dという高い繊維強度をも有している。
【0066】
そして、比較例1〜比較例2から明らかなように、2種類の結晶性PPを原料として用いる場合には、当該原料,溶融紡糸条件および延伸条件のいずれか1つでも本発明の方法Iで規定する要件から外れると、本発明のPP繊維を得ることが困難になる。また、比較例3〜比較例7から明らかなように、1種類の結晶性PPを原料として用いる場合には、当該原料,溶融紡糸条件および延伸条件のいずれか1つでも本発明の方法IIで規定する要件から外れると、本発明のPP繊維を得ることが困難になる。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の方法によれば、ゲル紡糸法によらずとも溶融紡糸法によって結節強度の高い本発明のPP繊維を得ることが可能になる。
したがって、本発明によれば低コストの下に結節強度の高いPP繊維を提供することが可能になる。
Claims (2)
- メルトフローレートが0.1〜10である第1の結晶性ポリプロピレンとメルトフローレートが10〜40である第2の結晶性ポリプロピレンとを原料として用い、前記第1の結晶性ポリプロピレンに対する前記第2の結晶性ポリプロピレンの重量比率の値が50%以下となるようにして
これらの結晶性ポリプロピレンが混合されている混合物を溶融紡糸後のメルトフローレートが2〜30となるように溶融紡糸して未延伸糸を得た後、
両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧水蒸気が入れられている延伸槽を使用して、120〜180℃の延伸温度下で前記の未延伸糸を5倍以上に、なおかつ破断倍率の70%以上に延伸して、
重量平均分子量が20万〜45万の結晶性ポリプロピレンからなり、結節強度が8g/d以上であるポリプロピレン繊維を得る
ことを特徴とするポリプロピレン繊維の製造方法。 - メルトフローレートが0.1〜10の結晶性ポリプロピレンを原料として用い、
この結晶性ポリプロピレンを溶融紡糸後のメルトフローレートが2〜30になるように溶融紡糸して未延伸糸を得た後、
両端が加圧水でシールされた容器内に延伸媒体としての加圧水蒸気が入れられている延伸槽を使用して、120〜180℃の延伸温度下で前記の未延伸糸を5倍以上に、なおかつ破断倍率の70%以上に延伸して、
重量平均分子量が20万〜45万の結晶性ポリプロピレンからなり、結節強度が8g/d以上であるポリプロピレン繊維を得る
ことを特徴とするポリプロピレン繊維の製造方法。
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