JP3609851B2 - 水溶性ポリビニルアルコール系繊維 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、寸法安定性に優れた水溶性ポリビニルアルコール(以下PVAと略す)系繊維に関するもので、室温程度の低温の水又は100℃までの高温の水に易溶でありながら、高湿度下でも収縮率が小さく、かつ溶解時の収縮率も小さく、さらに引張り強度が高くてかつ灰分も少なく、以上の点から取扱い性が極めて良好でかつ高品質な製品が得られることとなる水溶性繊維に関し、例えばケミカルレース基布、毛混紡用や麻混紡用などに好適に用い得る水溶性繊維に関するものである。
【0002】
【従来技術の説明】
従来、水溶性繊維としては、PVA系繊維、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系繊維、ポリアルギン酸系繊維、ポリ乳酸系繊維、ポリアルキレンオキサイド系繊維などが知られており、各々の用途で用いられている。なかでもPVA系繊維が引張り強度に優れていることから最も多く使用されている。
PVA系の水溶性繊維としては、例えば特公昭43−8992号公報、特公昭53−10174号公報、特開平3−199408号公報、特開昭62−28408号公報、特開平5−86503号公報、特開昭53−45424号公報、特開平1−229805号公報などで提案されている。
【0003】
これらのうち、PVA系ポリマーを用いた濃厚水溶液の乾式紡糸法を用いて水溶性繊維を製造する方法が上記特公昭43−8992号公報に記載されているが、この技術により得られる繊維は、水溶解時の収縮率が30%と高く、例えばこの繊維からなるケミカルレース用基布を水により溶解除去する際に基布が大きく収縮して、レースが変形するため、微細な柄などを有する高級レース用の基布に用いることができない。また特公昭53−10174号公報には、カルボキシル基変性のPVA系ポリマーを使用することにより、低温水に溶解する繊維を製造する方法が記載されているが、この方法により得られる繊維は、高湿度下で放置すると吸湿して大きく収縮するという問題点を有しており、繊維の保存やこの繊維からなる製品の保存を低湿度条件下という管理された特別の雰囲気中で行わねばならないと云う問題点を有している。
【0004】
また特開平3−199408号公報には、水溶解時の収縮率を低くするために、重合度500以下の低重合度PVAを使用して水溶性繊維を製造する方法が記載されているが、この方法では、使用されているPVAの重合度が低く、したがって得られている繊維の強度は3g/d未満と極めて低い。さらにこの繊維は硼酸或いは硼酸塩を含んでおり(特に低温水溶性タイプの繊維は多く含有している)、該水溶性繊維を溶解除去するのに使用した廃水中に硼酸が多く含まれることとなり、それを処理するための特別の処理方法及び装置が必要となる。
【0005】
また特開昭62−28408号公報に記載された技術は、低収縮溶解性が得られることとなる低重合度PVAの紡糸性を改良するために高重合度PVAを少量添加して、低収縮溶解性と紡糸性を兼備したPVA系繊維を得ることを目的とするものであるが、この繊維でも、低重合度PVAが主体となっているために収縮率が20%以下の低収縮繊維では、引張り強度は3g/dより低い。このように引張り強度の低い水溶性繊維は、編織化工程や不織布化工程での通過性が不十分であり、さらにケミカルレースの刺繍作製時に刺繍針により繊維が容易に切断されるため、細かい刺繍を行うことができないという欠点も有している。
【0006】
また特開平5−86503号公報に記載された技術は、本発明と同じく、高湿度下での寸法安定性の改善を目的としたものであるが、現実に得られている繊維は相対湿度80%での収縮率が3.5%以上とかなり大きく、前記特公昭53−10174号公報記載の技術で得られる繊維と同様に、繊維の保存やこの繊維からなる製品の保存を低湿度条件下で行わねばならないと云う極めて大きな問題点を有している。
【0007】
また、特開昭53−45424号公報には、低ケン化度PVAの水溶液を芒硝などの塩類の濃厚水溶液中に湿式紡糸し、低い延伸倍率で延伸することにより50℃以下での水中収縮率が低い水溶性繊維を得る方法が記載されているが、塩類の高濃度水溶液を凝固浴として用いているため、紡糸して得られる繊維には多量の塩類が付着しており、これを除去するためには水洗する必要があるが、水溶性繊維であるために塩類の水洗による完全除去は困難であり、完全除去しようとすると、繊維表面が水に溶けて、繊維同士が膠着することとなり、灰分の少なくかつ繊維同士が膠着していない繊維は得られない。さらにこの繊維は50℃以下での水中収縮率は低くても、溶解直前の高温では収縮率が大きく、寸法安定性が不良となる。
【0008】
さらに特開平1−229805号公報には、ケン化度の低いPVAをジメチルスルホキシド(以下DMSOと略す)などの有機溶媒に溶解した溶液をメタノールなどの固化能を有する固化浴に乾湿式紡糸し、高度に延伸配向させて高引張り強度の水溶性PVA系繊維を得ることが記載されているが、この技術で得られる繊維は高延伸による歪みが繊維内に残っているため、高湿度下に放置したときに吸湿による収縮率が大きく、また水中溶解時の収縮率も大きく、寸法安定性が低い。この公報に記載の技術は、寸法安定性に優れた繊維を得ることを目的とするものではなく、用途としてオムツの横漏れ防止繊維などに使用することが記載されていることより、むしろ湿潤時の収縮率が極めて高い繊維を得ることを目的とするものである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ケミカルレース用基布の分野では低温水に溶解することが求められているが、低温水に溶解する繊維は大気中の水分を吸って収縮するため、湿度の低い雰囲気で保管せねばならず、繊維及び基布の保管・管理が極めて難しい。また繊維の引張り強度が低いと、ケミカルレース用基布に刺繍を行う際に繊維が刺繍針により切断されるため、繊細なデザインの刺繍、すなわち高級な刺繍が得られないという問題も有している。さらに水溶性繊維が溶解時に大きく収縮する場合には、得られた刺繍模様が溶解時に変形を受けるため、高級感ある刺繍が得られないこととなる。
【0010】
また羊毛や麻等の繊維に水溶性繊維を混紡又は混撚し、紡績・製編織後に該水溶性繊維を溶解除去することにより、風合に特徴を出したり、紡績・製編織の工程通過性を改良する方法が知られているが、用いる水溶性繊維が溶解時に収縮した場合には、溶解時に組織の見かけ密度が高められるために水溶性繊維の完全溶解が困難となる。また、繊維の引張り強度が低いと、紡績・製織工程で繊維が切断されることとなり、工程通過性が悪化する。さらに繊維表面に塩類や硼酸等が付着して繊維の灰分が高い場合には、製編織機械やケミカルレース製造装置に塩類が付着し、それが原因で錆を発生することとなり、さらに水溶解に使用した水に硼酸等の薬剤が含まれることとなるため、その処理にも支障を生じることとなる。
【0011】
しかしながら、従来の技術では、上記の如く、水中溶解時の収縮が低く、高湿度下でも寸法安定性に優れ、灰分のほとんどない、高引張り強度を有する水溶性繊維は得られていない。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、従来の技術では得られていない、このような水溶性繊維,すなわち高湿度下に放置しても収縮がほとんどなく、また水中溶解時の収縮も低く、さらに灰分が殆どなく、しかも高い引張り強度を有する水溶性のPVA系繊維を提供するものである。
【0013】
本発明は、水中溶解温度(T℃)が0〜100℃、水中最大収縮率が20%以下、引張り強度が3g/d以上、灰分が1%以下、20℃相対湿度93%での寸法変化率S%が下記式を満足し、かつ繊維断面が円形であり、繊維表面には、高さが0.2μ以上で長さが3μ以上の溝が存在していない水溶性ポリビニルアルコール系繊維であり、
0≦T≦50のとき S≦6−(T/10)
50<T≦100のとき S≦1
また、このような繊維の製造方法として、水中溶解温度が100℃以下のPVA系ポリマーを有機溶剤に溶解して得た紡糸原液を、該ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒(以下固化溶媒と略す)を主体とする固化浴に湿式紡糸または乾湿式紡糸し、紡糸して得られた糸篠に2〜8倍の湿延伸を施し、該固化溶媒により原液溶媒を繊維から抽出し、乾燥し、必要に応じて乾熱延伸を行い、次いで80〜250℃でかつ多段の昇温条件下で3〜40%の乾熱収縮処理を行うことを特徴とする水溶性PVA系繊維の製造方法である。
【0014】
本発明に使用し得るポリマーは、繊維化後0〜100℃の水に溶解するPVA系のポリマーである。PVA系ポリマーが、100%ビニルアルコールユニットからなる純PVAでは繊維化後の結晶性が高すぎて、本発明の0〜100℃の水に溶解する繊維を得ることができず好ましくない。
特に0〜60℃の水に溶解する繊維を得たい場合には、ビニルアルコールユニット以外のユニットが酢酸ビニルユニットのみからなる、いわゆる部分ケン化PVAの場合、ケン化度は96モル%未満、すなわち酢酸ビニルユニットが4モル%以上が好ましい。しかし、ケン化度が80モル%以下では、得られる繊維間の膠着が生じると共に、得られる繊維中のポリマーの結晶性が低く高湿度下での寸法安定性が得られず、また水中溶解時に大きく収縮することとなり、本発明の繊維を得ることができない。
【0015】
また60〜100℃の水に溶解する繊維を得たい場合には、ビニルアルコールユニットを96モル%以上含有しているPVA系ポリマーを用いるのが好ましい。例えば部分ケン化PVAを用いる場合には、ケン化度が96〜99.5モル%のものを用いるのが好ましい。ケン化度が99.5モル%以上のPVAを使用すると、乾熱延伸時および熱収縮処理時に結晶化が進行して、水中溶解温度が100℃を越える傾向があり、好ましくない。
【0016】
ビニルアルコールユニットと酢酸ビニルユニット以外のユニットを含有する、いわゆる変性PVA系ポリマーを使用して水中溶解温度が60℃未満の繊維を得たい場合には、変性ユニットが結晶化阻害効果の大きいユニットである場合には、0.5モル%程度の変性のPVA系ポリマーであっても本発明に好適に使用できる場合もあるが、一般的には1モル%以上、特に2モル%以上変性したPVA系ポリマーを用いるのが好ましい。同様に変性PVA系ポリマーを使用して水中溶解温度が60〜100℃の繊維を得たい場合には、変性が2モル%未満のもの、好ましくは0.1モル%以上かつ1.0モル%以下のものを用いるのが好ましい。
【0017】
変性ユニットとしては、エチレン、アリルアルコール、イタコン酸、アクリル酸、無水マレイン酸とその開環物、アリールスルホン酸、ピバリン酸ビニルの如く炭素数が4以上の脂肪酸のビニルエステル、ビニルピロリドン、および上記イオン性基の一部または全量を中和した化合物などが例示できる。変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による導入方法でもよい。また変性ユニットのポリマー鎖内での分布はランダムでもブロックでもグラフトでも特に限定はない。変性量が20モル%を越えると結晶性の低下が過度となり、高湿度下での寸法安定性が得られず、本発明の水溶性繊維を得ることができない。また本発明に用いられるPVA系ポリマーの平均重合度としては、100〜3500の範囲、特に300〜3000の範囲が好ましく、特に好ましくは700〜2500の範囲である。
【0018】
本発明水溶性繊維の水中溶解温度(T℃)は0〜100℃である。100℃を越えると、溶解するのに加圧容器を使用する必要があり、作業上の危険性が高くなるとともに溶解するのに要するエネルギーの量が多くなり、溶解費用が高くなる。また完全に溶解除去することも困難となる。また水溶解温度が高いと、本発明水溶性繊維と他の水不溶性繊維の混合物より本発明水溶性繊維を溶解除去する際に、他の水不溶性繊維が収縮したり損傷したり劣化したりすることとなる。これらの点より、水中溶解温度は60℃以下が好ましい。
【0019】
また本水溶性発明繊維をケミカルレース用基布に使用する場合、容易に完全溶解できる点からも、水中溶解温度(T℃)が60℃以下であることが好ましく、50℃以下であると更に好ましく、40℃以下であると更に一層好ましい。
なお、本発明で言う水中溶解温度(T℃)は、試長4cmの繊維に2mg/dの荷重を吊り下げ、0℃の水に浸漬し、水を2℃/分の昇温速度で昇温したときに、繊維が溶断する温度を言う。
【0020】
また本発明水溶性繊維の重要な点のひとつが、水中での最大収縮率が20%以下と小さく、水に溶解時に寸法安定性に優れている点である。最大収縮率が20%を越えると、本発明水溶性繊維と他の水不溶性繊維との混合物よりなる繊維製品から本発明の水溶性繊維のみを水により溶解除去する際に、繊維製品の寸法変化が大きくて繊維製品の形状や物性を損なうという問題点が生じるほかに、本発明の水溶性繊維が吸水して収縮しゲル状となり、比表面積が小さくなり完全溶解するのに長時間を要するという問題点も生じる。とくに水中溶解時の最大収縮率の高い水溶性繊維を繊細なデザインのケミカルレース用基布に使用すると、溶解時にレースの形状が変形しやすいこととなる。基布に使用する水溶性繊維の水溶解時の最大収縮率が20%以下の場合には、基布の溶解時収縮率がほぼ0%となり、繊細なデザインのレースに使用し得ることとなるため極めて工業的価値が極めて高い。また毛混紡や麻混紡用として水溶性繊維を使用する場合、水溶性繊維の最大収縮率が20%以下であると、混紡糸を溶解処理する際に、混紡糸が殆ど収縮しないため、水溶性繊維を容易に完全溶解除去することができる。
【0021】
水中での最大収縮率は15%以下であると更に好ましく、10%以下であると更に一層好ましい。従来高倍率で延伸配向した繊維では、溶解前に配向分子が緩和されて無配向となるため、最大収縮率は70%にも達し、水溶性が悪化することとなるが、本発明の水溶性繊維では、繊維製造工程で配向と緩和をうまく組み合わせることにより、溶解時の配向緩和を抑制し、低収縮を達成したものである。なお、本発明で言う水中での最大収縮率とは、上記水中溶解温度(T℃)を測定する際に、繊維の各水温での収縮率を同時に測定し、最も大きく収縮した温度での収縮率をいう。
【0022】
次に本発明水溶性繊維の大きな特徴点は、上記したように、水溶性であるにもかかわらず、20℃相対湿度93%での寸法変化率(S%)が下記式を満足している点にある。
0≦T≦50のとき S≦6−(T/10)
50<T≦100のとき S≦1
ただし、上記式でTは水中溶解温度のことである。
【0023】
すなわち、Tが50℃以上であるならばSは1%以下、Tが0℃でもSは6%以下と極めて小さい値であらねばならない。従来Tが低い繊維は、繊維内の結晶がルーズで動きやすい構造となっており、高湿度下に放置すると、繊維は吸湿してよりエントロピーの大きい状態、すなわち配向の小さい状態になろうとして、繊維が収縮して繊維長が短くなる傾向にある。すなわちTが低い場合には、本質的にSは高くなりやすい傾向にある。しかしながら、Sが高くなると高湿度下で寸法変化が大きくなるため、繊維の保管の点でも、また工程通過性の点でも、さらに得られた繊維製品の保管や取り扱いなどにおいても、湿度条件に多大の配慮を払う必要が生じる。例えば、ケミカルレース用の基布に使用しようとすると、基布製造前、基布製造中及び基布製造後の維持保管に多大の配慮が必要となる。現在、Tが20℃以下の唯一の市販PVA系繊維として“ソルブロン−SS”(ニチビ製)があるが、この繊維は、乾燥剤をいれた透湿性の低い包装袋に入れ、厳重な密封を施して市販されている。さらに、通常、繊維工業においては、繊維の走行中に静電気の発生を防ぐために、繊維を加湿しながら繊維製品を製造する方法が用いられているが、高湿度条件で繊維が大きく収縮する場合にはこのような一般的な方法が採用できなくなり、製造装置や工程を大きく改造する必要がある。
【0024】
本発明の水溶性繊維は、高湿度下でも吸水収縮が極めて低いため、上記の市販繊維とは異なり、繊維の保管及び取り扱い、さらに繊維製品の保管及び取り扱いに特別の配慮をする必要がなく、また従来一般に使用されている製造装置などをそのまま使用できる。
本発明において、0≦T≦50の場合に、Sが4−(T/15)より小さいとさらに好ましく、Sが3−(T/20)より小さいとより一層好ましい。また50<T≦100の場合にも、S>1であると、前記したように、高湿度下での寸法安定性が悪化すると共に、溶解時の寸法安定性も大きく悪化することとなる。50<T≦100において、好ましくはS≦0.67であり、より好ましくはS≦0.5である。
【0025】
なお本発明でいう20℃相対湿度93%における寸法変化率S%は、デシケーター中で、定長絶乾後の繊維サンプルL0cm(好ましくはL0=50cm。繊維長が50cm未満の場合には、採取可能な最大長)をとり、20℃で相対湿度93%の密封容器内にフリーの状態で7日以上放置し、すばやく繊維長L1cmを実測し、次の式で求める。
S=(L0−L1)×100/L0
【0026】
水溶性繊維をケミカルレース用基布として用いる場合、0≦T≦50の条件下でS>6−(T/10)であると、また50<T≦100の条件下でS>1であると、刺繍する前の基布の保管を高湿度下で行うと基布が収縮し、寸法が変化し、刺繍時の基布張力が一定とならない。基布張力が一定とならない場合には、特に繊細なデザインの高級レースを編む際に部分的に歪みが生じて、デザイン通りのレースを得ることができないこととなる。またレース編みした後の基布が例えば湿度90%になると基布が収縮し、特に繊細なデザインの高級レースの場合には、形状が崩れてしまうこととなる。したがって、繊細なデザインの高級レース用基布においては、0≦T≦50の条件下ではS≦6−(T/10)、また50<T≦100の条件下ではS<1の条件を満足しなければならない。
【0027】
図1は、本発明の水溶性繊維と現在市販されている水溶性繊維(ニチビ(株)製ソルブロン−SS,−SU,−SX及びSL)と特開平5−86543号公報に記載の水溶性繊維について、それぞれ繊維の水中溶解温度と、20℃で湿度80%の雰囲気に放置した場合の収縮率および20℃で93%の雰囲気に放置した場合の収縮率の関係を示したものである。ソルブロンには、銘柄としてSS,SU,SXおよびSLがあり、これらのRH93%におけるSとTの関係を白丸で、またRH80%におけるSとTの関係を黒丸で表した。この図より、RH93%になると、収縮率はRH80%の場合の2倍以上、特に低収縮率繊維では3〜5倍になることが分かる。またこの図には、特開平5−86503号公報の実施例及び実験例記載のTとRH80%でのSの関係(黒の三角印)およびRH93%での推定Sの関係(白の三角印)を示した。この図より、本発明の水溶性繊維は、従来の水溶性繊維と比べて高湿度下での寸法安定性に優れていることが分かる。Sをこのように低くすることにより、初めて繊細なデザインの高級レースをデザイン通り得ることが可能となった。
【0028】
次に本発明の水溶性繊維は、引張り強度が3g/d以上であることも本発明の重要なポイントのひとつである。引張り強度が3g/d未満であると、編織化工程や不織布化工程などの後工程でトラブルとなり易かったり、高速生産性に劣る傾向があるばかりでなく、得られた編織物や不織布などの製品の物性が劣り、幅広い用途に対応できないという欠点が生じる。
なお本発明でいう引張り強度は、繊維を20℃×RH65%で調湿後、JISL 1015号に準じて引張り試験を行い、乾強度を測定し、g/dで表示したものである。
【0029】
繊細なデザインのレースを得るために用いられるケミカルレース基布は、刺針間隔が短くなるため、基布を構成する繊維の引張り強度が3g/dより小さいと、針と針の間の繊維が切断し、目飛びするので狙い通りの繊細なレースを編み上げることができない。引張り強度が3g/d以上であると目飛びすることが少なく、狙い通りの繊細なデザインのレースを得ることができる。また毛混紡や麻混紡に使用する場合にも、混紡糸の強度向上に有効であり、紡績・製織工程の通過性及びスピードアップを大幅に改良し得る。引張り強度としては、4g/d以上が好ましく、より好ましくは4.5g/d以上、さらに好ましくは5g/d以上7.5g/d以下である。
【0030】
また本発明の水溶性繊維は灰分が1%以下である。灰分が1%を越えると、例えばケミカルレース基布に使用する場合、基布の製造工程やレース編み工程において、繊維内部または繊維表面に存在する無機物が飛散し作業環境を悪化させるばかりでなく、刺繍針を摩耗させたり、製造設備に無機物が付着して錆びを発生するという問題を生じる。またケミカルレース基布を溶解除去した廃水に灰分の例えば硼酸イオンが含まれていると、特別な廃水処理が必要となる問題もある。好ましくは灰分0.2%以下であり、更に好ましくは0.1%以下である。なお本発明でいう灰分とは、繊維を空気中500℃で8時間加熱して有機物を完全分解した後の残渣の重量%である。
【0031】
本発明の水溶性繊維の断面形状に特別な限定はないが、複雑な形状よりもシンプルな円形が好ましい。PVA系ポリマーを水に溶解し、芒硝等の無機塩水溶液に湿式紡糸して得られる通常のPVA系繊維の場合には、繊維の断面形状はまゆ型などの複雑な形状となり、このような複雑な断面形状の場合には、断面方向において繊維が不均一に形成されたことを示しており、引張り強度の低い繊維であるのに対して、断面が円形である繊維は繊維内層部と繊維表層部とで差のない均一な繊維形成が行われ、断面方向での繊維構造斑(例えば分子配向の斑)が少ないことを示している。したがって、本発明の水溶性繊維としては丸断面が好ましい。
【0032】
次に本発明の水溶性繊維を製造する方法について述べる。本発明で用いる原料ポリマーは、既述したように、繊維化後の水中溶解温度が0〜100℃であるPVA系ポリマーである。本発明では、このポリマーを溶解能を有する有機溶媒に溶解して紡糸原液を作製する。本発明に用いる原液溶媒としては、該ポリマーに対して溶解能のある有機溶媒であるならば特に制限はなく、例えばDMSO、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらと、ロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、更にはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが例示される。とりわけDMSOが低温溶解性、低毒性、低腐食性などの点で最も好ましい。
【0033】
本発明において酢酸ビニルユニットを多く有する低ケン化度PVA系ポリマーを用いる場合、紡糸原液のアルカリ性または酸性が強いと、溶解脱泡放置中にケン化反応が起こり、水中溶解温度が100℃を越える温度まで上がる可能性があるので、苛性ソーダなどの強アルカリ性物質や硫酸などの強酸性物質を限度を越えて添加することは避けねばならないが、DMSO液中や酢酸ソーダの添加などによる弱アルカリ性下や同じく弱酸性下ではケン化反応は起こらない。したがって、原液が弱アルカリ性〜弱酸性の範囲内に維持されるならば、アルカリ性物質や酸性物質を添加しても構わない。またカルボン酸やスルホン酸などのイオン性基を有するポリマーを用いる場合には、水素イオンと中和するための苛性ソーダを添加することにより紡糸原液の酸度を調整してもよい。紡糸原液中のポリマー濃度は、組成、重合度、溶媒によって異なるが、6〜60重量%の範囲が一般的である。溶解は窒素置換後減圧下で撹拌しながら行うのが、酸化、分解、架橋反応等の防止及び発泡抑制の点で好ましい。紡糸原液の吐出時の液温としては40〜170℃の範囲でかつ原液がゲル化しない範囲が好ましい。
【0034】
得られた紡糸原液を、該ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒、すなわち固化溶媒を主体とする固化浴に湿式あるいは乾湿式紡糸する。本発明で言う固化とは、流動性のある紡糸原液が流動性のない固体に変化することを言い、原液組成が変化せずに固化するゲル化と原液組成が変化して固化する凝固の両方を包含する。
【0035】
本発明において、固化能を有する固化溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪酸エステル類、ベンゼン、トルエンなどの芳香族類やこれらの2種以上の混合物が例示される。また原液溶媒をこれら固化溶媒に混合して固化浴とすることも可能である。なかでも変性度の小さいPVA系ポリマーに対してはメタノールと原液溶媒との混合液を、また変性度の大きいPVA系ポリマーやケン化度の低いPVA系ポリマーに対しては、メタノールでは固化能が十分でないため、例えばメチルエチルケトンと原液溶媒との混合液やアセトンと原液溶媒との混合液を固化浴として使用することが好ましい。固化溶媒/原液溶媒の混合重量比は95/5〜40/60が好ましい。90/10〜50/50であると更に好ましく、85/15〜55/45であると最も好ましい。固化浴に原液溶媒を混合することにより、固化能を調整すると共に、原液溶媒と固化溶媒の分離回収コスト低下をはかることができる。
【0036】
固化浴の温度に限定はないが、通常−20〜30℃の間で行う。均質固化および省エネルギーの点から固化浴温度は−10〜20℃が好ましく、−5〜15℃であると更に好ましく、0〜10℃であると最も好ましい。固化浴の温度がこの温度範囲より高くても、またこの温度範囲より低くても、得られる繊維の引張り強度が低下する。 上記したように紡糸原液はかなり高温に加熱されており、そのような紡糸原液を固化浴に導入すると、固化浴温度は通常30℃を上回る温度となる。したがって固化浴温度を30℃以下に保つためには、固化浴を冷却することが必要である。
【0037】
また本発明の紡糸方法としては、湿式紡糸方法と乾湿式紡糸方法のいずれでもよく、各紡糸方法に適した紡糸条件を設定すればよい。しかしながら多ホールから紡糸原液を吐出する場合には、吐出時の繊維同士の膠着を防ぐためには、乾湿式紡糸方法よりも湿式紡糸方法の方が好ましい。なお、湿式紡糸方法とは、紡糸口金から直接に固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、一方乾湿式紡糸方法とは、紡糸口金から一旦、空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、それから固化浴に導入する方法のことである。
【0038】
得られた糸篠を固化溶媒又はそれと原液溶媒の混合液からなる湿延伸浴中で2〜8倍湿延伸する。糸篠の膠着抑制のため、毛羽の出ない範囲で湿延伸倍率を大きくすることが重要である。湿延伸倍率が2倍未満では膠着し易く、8倍を越えると毛羽が出易い。湿延伸倍率を大きくするためには、湿延伸浴の温度を沸点近くまで昇温することが有効である。また湿延伸を2段以上の多段に分けて行うことも有効である。なお、湿延伸浴に用いる液としては、上記した固化浴溶媒と同様のものが挙げられる。好ましくは湿延伸倍率3〜6倍である。
【0039】
湿延伸後の糸篠を、固化溶媒を主体とする抽出浴に接触させて糸篠から原液溶媒を抽出除去する。この抽出処理は、純粋な固化溶媒を糸篠の走行方向とは向流方向で連続的に流すことに抽出浴での滞留時間を短縮することができる。この抽出処理により、糸篠中に含まれている紡糸原液溶媒の量を糸篠重量の1%以下、好ましくは0.1%以下にする。接触させる時間としては5秒以上、特に15秒以上が好ましい。抽出速度を高め、抽出を向上させるためには、抽出浴溶媒の温度を沸点近くまで昇温するのが好ましい。従来一般に、PVA系繊維を製造する際には、湿延伸を行った後、原液溶媒を抽出除去することなく、直ちに乾燥する方法が用いられているが、本発明のように、繊維間膠着を生じ易いポリマーからなる繊維の場合には、上記のような従来方法だけでは乾燥時に繊維間膠着を生じることとなる。したがって本発明において、湿延伸後の溶媒抽出処理は重要な工程である。
【0040】
抽出後の糸篠を150℃以下の気体浴中で乾燥する。乾燥前に鉱物油系、シリコン系、フッ素系などの疎水性油剤を付着させたり、乾燥時の収縮応力を緩和させるために収縮させることも膠着防止に有効である。このようにして得た乾燥原糸に、必要に応じて、80〜220℃で1.1〜6倍の乾熱延伸を施す。
【0041】
以上のような方法により得た乾燥糸篠又は延伸糸条に乾熱収縮を施すことが本発明繊維の製造法において特に重要な点である。しかも本発明では、乾熱収縮を多段で行い、しかも後段に行くほど高温となるように、すなわち多段の昇温条件下で行う。このように多段の昇温条件を用いることにより、繊維に均一な収縮を付与することができることとなり、繊維に高レベルの高湿度下寸法安定性および水中溶解時の低収縮を付与できることとなり、また繊維間の膠着が生じるのを防ぐことができる。特に水溶性繊維の場合、通常の繊維と比べてはるかに繊維間膠着や不均一収縮を受け易いという問題点を有しており、本発明の多段の昇温条件下での収縮処理が、繊維間膠着を生じることなく、均一に収縮を付与する上で極めて有効である。
【0042】
多段の昇温条件下での収縮処理としては、2〜4段程度で行うのが好ましく、各段で温度差を5〜80℃設けるのが適当である。たとえば2段で行う場合には、一段目を80〜190℃とし、二段目を100〜220℃とし、かつ二段目を一段目より5〜80℃高い温度を用いるのが好ましい。また三段で行う場合には、一段目を80〜160℃、二段目を100〜190℃、三段目を110〜220℃で、かつ一段目より二段目を、また二段目よりも三段目をそれぞれ5〜60℃高い温度を用いるのが好ましい。
【0043】
なお、本発明でいう多段とは、各段が、隣り合う段との間に存在するローラー等により隔てられており、各段で収縮時の張力を自由に変えることができるもののほかに、隣り合う段との間にはローラー等が存在しておらずに各段が連続しておりかつ各段で収縮時の張力を自由には変えることができないようなものも含まれる。
本発明は、このような多段の昇温条件下で収縮処理を行うことにより、収縮処理温度に応じた収縮を繊維に付与することができ、その結果、前記したように、繊維間膠着を生じることなく均一な収縮を繊維に付与できることとなる。
【0044】
この乾熱収縮処理は、温度80〜240℃でトータル収縮率が3〜40%となるように行う。温度が80℃未満あるいはトータル収縮率が3%未満の場合には、高湿度下での寸法安定性改良効果及び水中溶解時収縮率低下効果が不十分であり、一方温度が240℃を越える場合やトータル収縮率が40%を越える場合には、繊維が劣化したり、膠着するので好ましくない。
【0045】
湿延伸で繊維軸方向に分子配向したポリマー分子には配向歪みが生じており、高湿度下で吸湿や水中で吸水すると分子が動きやすくなり歪みを緩和すべく収縮しようとする傾向を有するため、本発明方法で乾燥しただけで収縮処理を施していない繊維は高湿度下で大きく収縮したり吸水して大きく収縮し寸法安定性が不良である。このため上記条件で乾熱収縮処理を施し、予め配向歪みを緩和してやると高湿度下でも収縮せずかつ水中溶解温度近くまで水中で昇温しても収縮がほとんど起こらず寸法安定性が改善されるものと推測される。歪み緩和をより完全に行うためには、ポリマーのガラス転移温度や融点及び延伸倍率によって乾熱収縮条件は適宜選択すべきであるが、一般的には、120〜240℃の多段昇温条件で6〜40%のトータル収縮条件を採用するのが好ましい。
【0046】
以上の方法で得られた繊維は、水溶性PVA系ポリマーを有機溶剤系低温ゲル紡糸(固化浴が低温である紡糸)をすることにより、微結晶が断面方向に均一に形成され、ゲル糸条が均一に固化し、ノズルが円形孔ならば繊維は円形断面を有し、湿延伸時や乾熱延伸時の分子の配向結晶化が繊維の断面方向に均一であり、かつ乾熱収縮の実施により十分に配向が緩和されることとなる。一方、紡糸原液の溶媒に水を用いる、いわゆる水系の湿式紡糸や水系の乾式紡糸で得られる繊維は、繊維表面のみ配向過多となっており、繊維軸方向に深さ0.2μ以上で長さ3μ以上の深い溝が連続的に形成された、いわゆるたて筋が繊維表面に存在しているが、本発明の繊維には、表面にそのようなたて筋が実質的に存在しないという構造上の特徴を有しており、これが、本発明繊維の大きな特徴点である高引張り強度にして、かつ寸法安定性に優れ、さらに水溶性であるという特徴をもたらしている。
【0047】
なお、繊維表面のたて筋の有無の観察は、2000〜6000倍の電子顕微鏡写真を撮ることにより判別することができ、たて筋の深さは繊維の断面写真から、またたて筋の長さは表面写真から判断できる。また配向結晶化が繊維の断面方向に均一であるか否かについては、繊維断面を光学顕微鏡で観察することにより容易に判断できる。すなわち従来の一般的なPVA系繊維は、表面層が内部よりも急速に固化したため、繊維表面層は緻密な構造、繊維内部は疎な構造となっており、このような繊維の断面を光学顕微鏡で観察すると表層部は光の透過が大きく明るく見えるのに対して内部は光が散乱して暗く見えることとなる。一方本発明の繊維は、断面が均一であるため表層部と内部において実質的に明るさに差を生じない。
【0048】
以上、本発明は、100℃以下の水に溶解するPVA系ポリマーを、原液溶媒及び固化溶媒として有機溶媒を用いて湿式紡糸又は乾湿式紡糸し、湿延伸、抽出処理、更に乾燥処理することにより得られる断面均質な繊維あるいはこの繊維にさらに乾熱延伸処理した繊維に、さらに多段昇温条件の乾熱収縮処理を施すことにより、水中溶解温度が100℃以下と低いにもかかわらず高湿度下での寸法安定性に優れ、さらに水中最大収縮率が極めて低く、さらに引張り強度も高く、しかも灰分も少ない水溶性繊維を得ることに成功したものであり、従来の乾式紡糸方法、湿式紡糸方法、乾湿式紡糸方法では得ることのできなかった繊維を得たものである。
【0049】
本発明繊維の内、水中溶解温度が40℃以下のPVA系繊維は、熱圧着することにより繊維同士が強固に接着するという性質を有している。この性質を利用して、この繊維をウエッブ化したのち熱エンボスすることによりウエッブの形状を固定して直ちに不織布とすることができ、例えば、本発明の長繊維をスパンボンド法によりウエッブ化しそして熱エンボスして得られた不織布は、水溶性でかつ吸湿時及び水中溶解時の寸法安定性に優れ、さらに引張り強度にも優れているため、ケミカルレース基布に好適である。さらに熱エンボスすることにより繊維同士を接着できるため、この性質を利用して本発明繊維からなる織編物や不織布を2枚以上重ねて熱プレスすることにより、さらには熱接着性のフィルムと重ね合わせて熱プレスすることにより接合することができ、広幅の物や袋状物や積層物を容易に作ることができる。
【0050】
【実施例】
以下本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1
重合度1700、ケン化度95モル%の部分ケン化PVAとDMSOを混合し、窒素置換し、110Torrの減圧下90℃で8時間撹拌溶解し、その後同じ110Torr下90℃で8時間脱泡し、PVAが20%のDMSO溶液を得た。この紡糸原液を90℃に保ち、孔数400、孔径0.08mmφのノズルを通して、3℃のメタノール/DMSOの混合重量比が75/25の混合液よりなる固化浴中に湿式紡糸した。得られた糸篠をメタノール/DMSO=96/4よりなる40℃の湿延伸浴で5倍湿延伸を施し、加熱メタノールと向流接触させてDMSOを抽出除去し、鉱物油系油剤を1%/ポリマー付与後、120℃熱風乾燥機で乾燥し、1000dr/400fのマルチフィラメント状紡糸原糸を得た。次いで150℃−170℃−190℃の3セクションよりなる熱風炉で3段の昇温乾熱収縮処理を行い、トータル収縮率20%の収縮を施した。
【0052】
得られた繊維の水中溶解温度(T)は45℃と低く、20℃相対湿度93%下での寸法変化率Sは1%と極めて小さく、灰分も0.05%と極めて小さく、また引張り強度は4.8g/d、水中最大収縮率は5%であった。またこの繊維は円形断面を有し、かつ繊維断面は均一な状態であり、また繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【0053】
比較例1
実施例1の乾熱収縮前の紡糸後原糸の水中溶解温度(T)は28℃と低かったが、RH93%での寸法変化率Sは15%と大きく、寸法安定性が不十分であった。
【0054】
比較例2
重合度1370、ケン化度93.6%の部分ケン化PVAを使用し、PVA濃度を28%とし、湿延伸倍率6倍とする以外は実施例1と同様に1000d/400fの紡糸原糸を得た。次いで140℃ー170℃の2セクションよりなる熱風炉で2倍の乾熱延伸を施した。得られた繊維の水中溶解温度(T)は20℃と低かったが、RH93%での寸法変化率Sは23%と大きかった。
【0055】
実施例2
比較例2で得られた延伸糸に、150−180℃の2セクションよりなる熱風炉で2段の昇温収縮処理を行い、トータル収縮率25%の乾熱収縮を施した。得られた繊維の水中溶解温度(T)は24℃に上がったが、RH93%下での寸法変化率Sは2%と大幅に改善された。またこの繊維の灰分は0.03%と極めて小さく、引張り強度は5.1g/d、水中最大収縮率は2%であった。またこの繊維は円形断面を有し、かつ繊維断面は均一であり、繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【0056】
実施例3
重合度1700、ケン化度98.5%の部分ケン化PVAとDMSOを混合し、窒素置換し、110Torrの減圧下90℃で8時間撹拌溶解し、その後同じ110Torr下90℃で8時間脱泡し、PVAが19%のDMSO溶液を得た。この紡糸原液を90℃に保ち、孔数400、孔径0.10mmφのノズルを通して、2℃のメタノール/DMSOの混合重量比が70/30の混合液よりなる固化浴中に湿式紡糸した。得られた糸篠をメタノール/DMSO=95/5よりなる45℃の湿延伸浴で5.5倍湿延伸を施し、加熱メタノールと向流接触させてDMSOを抽出除去し、120℃熱風乾燥機で乾燥し、1500dr/400fのマルチフィラメント(紡糸原糸)を得た。次いで150℃−220℃の2セクションよりなる熱風炉で2段の昇温乾熱収縮処理を行い、トータル収縮率12%の収縮を施した。
【0057】
得られた繊維の水中溶解温度(T)は88℃であり、水中での最大収縮率は4%とわずかであった。また引張り強度は5.2g/d、破断伸度は20%で、タフネスは52g/d×%、20℃相対湿度93%下での寸法変化率Sは0.6%と極めて小さく、寸法安定性に優れていた。また断面は円形であり、繊維断面は均一であり、灰分も0.03%と微量であった。また得られた繊維のケン化度は98.4%で原料PVAと同じであった。またこの繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【0058】
比較例3
実施例3で得られた乾熱収縮処理を施す前の紡糸原糸は、水中溶解温度(T)が61℃であったが、水中での最大収縮率は52%と大きく、溶解時の寸法変化が大きかった。
【0059】
比較例4
乾熱収縮を12%施す代わりに、定長熱処理(収縮率0%)とする以外は実施例3と同様に行った。得られた繊維は、水中溶解温度(T)が88℃であり、水中での最大収縮率は25%と大きかった。
【0060】
比較例5
重合度1750、ケン化度99.9モル%の完全ケン化PVAを用いる以外は実施例3と同様にして、1500d/400fの紡糸原糸を得た。次いで実施例3と同様に乾熱収縮を施した。得られた繊維は100℃の水には溶解しなかった。
【0061】
比較例6
実施例3で得られた紡糸原糸を150℃−200℃の熱風炉中でさらに2.3倍乾熱延伸した。得られた繊維は、水中溶解温度(T)が75℃であり、水中での最大収縮率は50%と大きかった。
【0062】
実施例4
比較例6で得られた延伸糸を150℃−220℃の熱風炉で2段の昇温条件下で乾熱収縮を22%施した。得られた繊維は、水中溶解温度(T)が93℃であり、水中での最大収縮率は6%と小さかった。引張り強度は7.5g/dであり、破断伸度は15%であり、タフネスは56g/d×%であった。またRH93%での寸法変化率は0.2%と低く、寸法安定性に優れ、さらに繊維断面は円形でかつ均一であり、灰分も0.04%と極めて低かった。またこの繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【0063】
実施例5
ケン化度が97.0%のPVAを用いること以外は実施例3と同様に紡糸原糸を得た。この紡糸原糸を150℃−170℃−200℃の3セクションよりなる熱風炉で3段の昇温条件でトータル乾熱収縮率20%の収縮を施した。得られた繊維は、水中溶解温度(T)が65℃であり、水中での最大収縮率が9%と小さかった。また引張り強度は5.1g/d、破断伸度は31%で、タフネスは79g/d×%であった。またRH93%での寸法変化率は0.7%と低く、寸法安定性に優れ、さらに繊維の断面は均一で断面形状は円形であり、灰分も0.02%と微量であった。さらにこの繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【0064】
実施例6
ケン化度が96.5%のPVAを用いること以外は実施例3と同様にして、紡糸原糸を得た。この紡糸原糸を150℃−180℃の2セクションよりなる2段の昇温熱風炉でトータル乾熱収縮20%を施し、さらに150℃−200℃の2段の昇温熱風炉で再度乾熱収縮を15%施した。得られた繊維は、水中溶解温度(T)が61℃であり、水中での最大収縮率が8%と小さかった。また引張り強度は4.8g/d、破断伸度は32%で、タフネスは77g/d×%であった。またRH93%では寸法変化率は0.6%と低く、寸法安定性に優れ、さらに繊維断面は円形で均一であり、灰分も0.02%と微量であった。さらにこの繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【0065】
実施例7
重合度500、ケン化度98.5%の部分ケン化PVAとDMSOを混合し、窒素置換し、110Torrの減圧下110℃で11時間撹拌溶解し、その後110Torr下110℃で8時間脱泡し、PVAが35%のDMSO溶液を得た。この紡糸原液をノズル直前で100℃に下げ、孔数60、孔径0.08mmφのノズルより、5mmの空気層を通して5℃のメタノール/DMSOの混合重量比が65/35の混合液よりなる固化浴中に乾湿式紡糸した。得られた糸篠をメタノール/DMSO=95/5よりなる40℃の湿延伸浴で6倍湿延伸し、メタノール中でDMSOを抽出除去し、120℃熱風乾燥機で乾燥し、150dr/60fの紡糸原糸を得た。次いでこの原糸を150℃−215℃の2セクションよりなる熱風炉で2倍の乾熱延伸を施した後、180℃−225℃の2段の昇温条件下で乾熱収縮処理を行い、収縮率25%の収縮を施した。
【0066】
得られた繊維の水中溶解温度(T)は83℃であり、水中での最大収縮率は5%とわずかであった。また引張り強度は4.7g/d、破断伸度は20%で、タフネスは47g/d×%であった。またこの繊維の20℃相対湿度93%下での寸法変化率Sは0.2%と極めて小さく、寸法安定性に優れていた。さらに繊維の断面は円形で均一であり、灰分も0.03%と微量であった。またこの繊維の表面を電子顕微鏡で観察したところ、深さ0.2μ以上で長さ3μ以上のたて筋は実質的に観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の水溶性繊維と現在市販されている水溶性繊維と特開平5−86543号公報に記載の水溶性繊維について、それぞれの繊維の水中溶解温度と、20℃湿度80%の雰囲気に放置した場合の収縮率および20℃湿度93%の雰囲気に放置した場合の収縮率の関係を示したものである。
Claims (4)
- 水中溶解温度(T℃)が0〜100℃、水中最大収縮率が20%以下、引張り強度が3g/d以上7.5g/d以下、灰分が1%以下、20℃相対湿度93%での寸法変化率S%が下記式を満足し、かつ繊維断面が円形であり、繊維表面には、高さが0.2μ以上で長さが3μ以上の溝が存在していない水溶性ポリビニルアルコール系繊維。
0≦T≦50のとき S≦6−(T/10)
50<T≦100のとき S≦1 - 水中溶解温度が100℃以下のポリビニルアルコール系ポリマーを有機溶媒に溶解して得た紡糸原液を、該ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒(以下固化溶媒と略す)を主体とする固化浴に湿式紡糸又は乾湿式紡糸し、2〜8倍の湿延伸を施し、該固化溶媒により原液溶媒を繊維から抽出し、乾燥し、次いで80〜250℃でかつ多段の昇温条件下で3〜40%の乾熱収縮処理を行うことを特徴とする水溶性ポリビニルアルコール系繊維の製造方法。
- 請求項1の繊維からなるケミカルレース用基布。
- 請求項1の繊維と羊毛又は麻からなる混紡糸。
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