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JP4138420B2 - 液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置、画像形成装置、液滴を吐出する装置 - Google Patents

液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置、画像形成装置、液滴を吐出する装置 Download PDF

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JP4138420B2
JP4138420B2 JP2002275588A JP2002275588A JP4138420B2 JP 4138420 B2 JP4138420 B2 JP 4138420B2 JP 2002275588 A JP2002275588 A JP 2002275588A JP 2002275588 A JP2002275588 A JP 2002275588A JP 4138420 B2 JP4138420 B2 JP 4138420B2
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八州太郎 木幡
憲一郎 橋本
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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は液滴吐出ヘッド及びインクジェット記録装置、画像形成装置、液滴を吐出する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
プリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像記録装置或いは画像形成装置として用いるインクジェット記録装置において使用する液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドは、インク滴を吐出する単一又は複数のノズル孔と、このノズル孔が連通する吐出室(インク室、液室、加圧液室、圧力室、インク流路等とも称される。)と、吐出室内のインクを加圧する圧力を発生する圧力発生手段とを備えて、圧力発生手段で発生した圧力で吐出室内インクを加圧することによってノズル孔からインク滴を吐出させる。
【0003】
なお、液滴吐出ヘッドとしては、例えば液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドなどもあるが、以下ではインクジェットヘッドを中心に説明する。
【0004】
ところで、液滴吐出ヘッドとしては、圧力発生手段として圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型(圧電型)のもの、吐出内に配設した発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いてインクの膜沸騰でバブルを発生させてインク滴を吐出させるサーマル型のもの、吐出室の壁面を形成する振動板を静電力で変形させることでインク滴を吐出させる静電型のものなどがある。
【0005】
このうち、圧電型インクジェットヘッドとしては、振動板を変形させて圧力を発生させる方式として、ピストン型とベンダー型がある。前者のピストン型としては、例えば特開平6−226971号公報に記載されているように、電極と圧電体を交互に積層し、電圧を印加すると積層方向に伸縮する効果を利用し、圧電素子の一端を振動板に固定し電極に電位差を与えることによって発生する変位が振動板を伝って圧力室を加圧しインクを吐出させるものがある。
【0006】
また、後者のベンダー型としては、例えば特開平5−286131号公報に記載されているように、振動板の片側の面上に薄膜圧電素子を形成し、該圧電素子に電圧を印加することで発生する伸縮によって振動板が屈曲変形し、それによってインクを押し出して吐出するものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来のピストン型ヘッドにあっては、個々のノズルピッチに合わせて圧電素子を形成するため、シート状の圧電材料と電極を交互に積層したバルク材を用いて、それを基板や台座の上に接着等により固定してワイヤーソウ或いはダイシング等により所定のピッチで切断することで個々の圧電素子を形成するようにしている。
【0008】
しかしながら、微細なピッチで切断すると切断後の圧電素子が倒壊、または欠損したりし、ある程度以上の微細な加工は非常に困難であることが分かっており高密度化に対しては不利である。また、高密度化すると、振動板の変位量が不十分で十分な大きさの液滴を吐出できず、十分な変位量を稼ぐために、圧電素子の積層数を増やすと、圧電素子全体が厚くなり、切断溝を深く形成しなければならなくなり、歩留まりの低下やヘッドサイズが増加し、結果としてコストが高くなる。さらに、得られた圧電素子と各圧力室が形成された部品を精度よく接合する必要があり、組立工程が複雑でコスト高になるというような課題がある。
【0009】
これに対して、上記ベンダー型ヘッドにあっては、振動板上にゾルゲル法或いはスパッタ法、真空蒸着法、CVD法、水熱合成法などで形成されており、形成方法には他に、イオンプレーティング法、パルスレーザーアブレーション法などを利用して均一に成膜できリソグラフィー技術でパターニングもできるため、比較的容易に目的の形状の圧電素子を得ることができる。
【0010】
これらの方法で形成される圧電体はプロセスコストの上昇(スパッタ時間が長くなったり、ゾルゲル法では複数回の成膜を要する。)や、厚膜化による圧電体膜の信頼性低下(クラックやマイクロクラックによる絶縁耐圧不良など)を招くために、実用上4μm以下の膜厚で形成されることが好ましく、薄膜圧電体と言われる。例えば、WO97−03834号公報には水熱法により圧電体を形成し、圧電体の膜厚を1μm以上10μm以下としている。
【0011】
しかしながら、薄膜圧電体はバルク材ほどの圧電定数が得られないため、インクジェットヘッドに用いた場合、振動板の寸法によりインク吐出に必要な圧力を得られない場合が多く、決して圧電体の膜厚だけで良好なインクジェットヘッドは得られないという課題がある。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、低電圧駆動が可能で、高い滴吐出効率が得られ、高画質記録に適した液滴吐出ヘッド及び高画質記録が可能インクジェット記録装置、及び画像形成装置、高い滴吐出効率が得られる液滴を吐出する装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液滴吐出ヘッドは、シリコン基板に形成された凹部からなる液室と、前記シリコン基板の表面に一体に形成されたシリコン酸化膜層を含む振動板を有し、振動板に薄膜圧電体設けて、振動板を変形させることで液室に連通するノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、振動板の液室側にはシリコン窒化膜を有し、振動板の薄膜圧電体側には薄膜圧電体の電極となる白金層が形成されている構成とした。
【0014】
ここで薄膜圧電体の短辺幅は振動板の短辺幅よりも短いことが好ましい。また、インクを供給するインクタンクを一体化することができる。
【0015】
本発明に係るインクジェット記録装置、画像形成装置及び液滴を吐出する装置は、本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えているものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。図1は、本発明に係る液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドの第1実施形態を示す分解斜視図で、一部断面図で示している。図2は同ヘッドの振動板短辺方向の断面説明図である。
【0017】
このインクジェットヘッドは、インク液滴を基板の面部に設けたノズル孔から吐出させるサイドシュータタイプのものであり、下記に詳述する構造を持つ3枚の第1、第2、第3基板1、2、3を重ねて接合した積層構造となっており、第1基板1と第3基板3とを接合することによって、インク滴を吐出する複数のノズル孔4が連通する吐出室6、各吐出室6に流体抵抗部7を介してインクを供給する共通液室(共通インク室)8などを形成している。なお、エッジシュータタイプとすることもできる。
【0018】
中間の第1基板1は、シリコン基板からなり、吐出室6を形成するための凹部と、各々の吐出室6にインクを供給するための共通液室8を形成するための凹部を有する。この第1基板1の底面に吐出室6及び共通液室8などの底壁ともなる薄膜である振動板10を設けている。
【0019】
この振動板10は弾性層10aと電極14aとからなる。この振動板10の電極14aの外面には薄膜圧電体(薄膜圧電体)15が形成され、薄膜圧電体15の下面には電極14bが形成されている。
【0020】
圧電体15、スパッタ法、ゾルゲル法、真空蒸着法、CVD法、水熱法、イオンプレーティング法、パルスレーザーアブレーション法などで形成した薄膜であり、スクリーン印刷などで形成する圧電体に比べて低温で形成できる。
【0021】
この第1基板1の下面に接合される第2基板2は、薄膜圧電体15を外部からの衝撃やホコリなどから保護したり、第1基板1の強度を補強したりするための保護基板である。この第2基板2には、ガラス、金属、シリコン、樹脂などからなる基板などを使用し、この基板2には各振動板10に対応する位置に例えば1mの深さの凹部18を形成している。
【0022】
ただし、必ずしも振動板10ごとに凹部18を形成する必要はなく、振動板配列を囲む凹部、あるいはチップの縁のみ接合される凹部を形成する構成でも良い。また、振動板10の変位を阻害するおそれがある場合には、大気に連通する大気連通路を形成する。
【0023】
また、第1基板1の上面に接合される第3基板3には、例えば厚さ50μmのニッケル基板を用い、第3基板3の面部に、吐出室6と連通するようにそれぞれノズル孔4、共通液室8と吐出室6を連通させる流体抵抗部7となる溝を設け、また共通液室8と連通するようにインク供給口9を設けている。
【0024】
次に、このように構成したインクジェットヘッドの動作について説明する。発振回路(駆動回路)により電極14bに0Vから40Vのパルス電位を印加すると、パルス電位を印加していない電極14aとの間に電界が生じ、生じた電界によってい薄膜圧電体15は圧電効果により厚さ方向に伸縮する。
【0025】
この実施形態では、薄膜圧電体15の分極方向が電界方向と平行な方向であるので、この場合分極方向が電界方向と一致していることになり、電極14a、14b間の圧電体15は伸張し、幅方向に収縮するため振動板10は屈曲変形を起こして、吐出室6と反対側へ撓む。その結果、吐出室6内の圧力が急激に減少し、インクが共通液室8より流体抵抗部7を通じて吐出室6内に補給される。
【0026】
そして、電極14bの電位が0Vに戻ると、圧電体15にかかっていた電極14a、14bの電界は消滅し、それによって圧電体15の変位も元に戻るので、振動板10は吐出室6内の圧力を急激に増加させ、図3に示すように、ノズル孔4よりインク液滴22を記録紙22に向けて吐出する。
【0027】
次に、このインクジェットヘッドの作製方法の一例について図3を参照して説明する。
まず、同図(a)に示すように、面方位(110)、厚さ400μmのシリコン基板31にLP−CVDによりシリコン窒化膜32を例えば0.05μm厚で形成し、熱CVDにより弾性層10aとなるシリコン酸化膜33を例えば0.1μm厚で形成し、更に密着層34としてチタンをスパッタ法にて0.05μm厚で形成して、この密着層34上に電極14aとなる白金層を例えば0.2μm厚で成膜した。
【0028】
なお、ここでは、振動板10はシリコン酸化膜33、密着層34、白金層(電極)14aで構成され、振動板10の膜厚はこれらの膜の合計、ここの例では0.35μmということになる。ただし、振動板10の構成は例えば上記シリコン窒化膜を含む構成や密着層を用いない構成であっても良く、本例に限られるものではない。
【0029】
また、振動板10は引っ張り応力を有する白金層(電極)14aを含む構成となっているため、初期状態(非駆動状態)で振動板の撓みを抑制することができ、振動板の変位効率の低下や変位量のバラツキなどを抑制することができる。
【0030】
次いで、同図(b)に示すように、スパッタによって薄膜圧電体15を白金層(電極)14a上に成膜する。ターゲットとしては、チタン酸鉛、ジルコン酸チタン酸鉛、ジルコニウム酸鉛、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、チタン酸バリウム、酸化亜鉛などから任意に選ばれる圧電性材を成分とする。但し、上記のものに限らず、他の圧電材料を用いてもよい。
【0031】
薄膜圧電体15の成膜法としてはその他の手法を用いても構わない。例えば、イオンプレーティング法、CVD法、パルスレーザーアブレーション法、ゾルゲル法などがある。なお、ここで、メタルマスクなどパターニングされたマスクごしに成膜することにより、微細なパターンを形成することは困難だが、圧電体を形成するパターンと形成しないパターンを形成しても良い。
【0032】
その後、熱処理を行い結晶化させる。
【0033】
次に、同図(c)に示すように、薄膜圧電体15上に電極14bとなる白金層を0.2μm厚で形成する。その後、フォトリソにより白金層(電極)14bにレジストパターンを形成し、ドライエッチングにより電極14b及び薄膜圧電体15の所要の形状にパターニングする。
【0034】
このとき、薄膜圧電体15の短辺幅pは、後工程で形成される振動板10の短辺幅aよりも短くすることにより、変位量を大きく出来、最適な短辺幅を取ることにより変位量と発生圧力を共に大きく得ることが出来る。この場合、薄膜圧電体15の短辺幅pと振動板10の短辺幅aの比(p/a)は0.6以上になるようにすることが好ましい。
【0035】
なお、ここでは電極14b及び薄膜圧電体15をパターニング形成したが、図4に示すように、白金層(電極)14b、薄膜圧電体15、白金層(電極)14a、密着層34をパターニングして所要の形状に形成することもできる。
【0036】
この場合、振動板10はシリコン窒化膜32とシリコン酸化膜33とで構成し、振動板10の厚さはシリコン窒化膜32の膜厚とシリコン酸化膜33の膜厚の和とすることもできる。このように、引張り応力を有する白金層34を含まない振動板の場合でも、振動板10は引っ張り応力のシリコン窒化膜32などを含む構成とすることが好ましく、引っ張り応力のシリコン窒化膜32を厚めに形成するなどして、初期状態(非駆動状態)で振動板の撓みを抑制することが好ましく、こうすることにより振動板の変位効率の低下や変位量のバラツキなどを抑制することができる。
【0037】
その後、図3(d)に示すように、シリコン基板31を保護基板2を接合し、シリコン基板31を研磨などにより厚さ(高さ)を100μmにする。ここでは、保護基板2には各振動板(変形可能領域)に対応する位置に1mmの深さの凹部18が形成されている。ただし、前述したように、必ずしも振動板ごと(変形可能領域毎)に凹部を形成する必要はなく、振動板配列を囲むように、あるいはチップの縁のみ接合される構成でも良い。保護基板としてはここでは、シリコン基板を用いたがこれに限らない。
【0038】
そして、水酸化カリウムエッチングのマスクとなるシリコン窒化膜を形成後(ここで圧電体側はシリコン窒化膜で後工程での薬液に対する保護膜となる。ここでは繁雑なため図示はしない。)、パターニングし、水酸化カリウム水溶液によりシリコン基板31をエッチングし吐出室6や共通液室を形成する。このとき、シリコン窒化膜32はエッチングストッパーとして機能する。このシリコン窒化膜32の吐出室6に対応する部分はドライエッチグなどで除去すること、シリコン酸化膜33(弾性層10a)、密着層34、白金層(電極)14aで構成される振動板10が形成される。これにより第1基板1が得られる。
【0039】
また、ここでは水酸化カリウムエッチングにより振動板10、及び吐出室6を形成したが、ドライエッチングなどを用いても良く、高精度で高速で加工が出来る高密度プラズマを用いたドライエッチングなどがより好適である。
【0040】
この実施形態では、振動板10の変形可能領域の短辺幅(これを「振動板10の短辺幅」という。)aは圧力室(吐出室)6の幅でほぼ規定される例を示しているが、図5に示すように、振動板10の短辺幅aは圧力室幅でほぼ規定されなくても良く、すなわち、同図に示すように、保護基板2の凹部18の短辺幅で規定されるようにすることもできる。
【0041】
その後、図示しないが、圧力室6の隔壁、各々の圧力室6にインクを供給するための共通液室8の隔壁を有する第1基板1にノズル孔3などを有する第3基板(ノズル板)3を接合することにより液滴吐出ヘッドが完成する。
【0042】
そこで、このような薄膜圧電体を備えたインクジェットヘッドにおける薄膜圧電体の厚さ、振動板厚さ、振動板の短辺幅の関係とヘッド特性との関係について図6以降をも参照して説明する。
まず、図6に示すように、ヘッドにおける薄膜圧電体15の厚さをT、振動板10の厚さをt、振動板10の短辺幅とaとする。
【0043】
薄膜圧電体15は、前述したように、スパッタ法、ゾルゲル法、真空蒸着法、CVD法、水熱法、イオンプレーティング法、パルスレーザーアブレーション法などで形成される。本発明者らは、これらの方法を用いた薄膜圧電体の成膜について実験を繰り返した結果、プロセスコストの上昇、すなわちスパッタ時間が長くなったり、ゾルゲル法での成膜回数の増加や、厚膜化による圧電体膜の信頼性低下、すなわちクラックやマイクロクラックによる絶縁耐圧不良などを回避するためには、薄膜圧電体15の厚さを5μm以下にする必要があることを見出した。
【0044】
また、薄膜圧電体は低温で形成するため、微細加工に適したシリコン基板などに形成が可能であるが、バルク材ほどの圧電定数が得られず、非常に良好な場合でも、圧電定数は200pC/N程度が限界であることが判明した。
【0045】
さらに、薄膜圧電体15に印加する電圧は、ドライバIC(駆動回路)のコスト上昇を抑えるためには、比較的安価ドライバICが得られる30V以下で駆動できることが好ましく、また圧電体の耐電圧を超えてもいけない。
【0046】
また、液滴を吐出するためには発生圧力が必要であり、圧電変位により振動板を変位させることにより安定に液滴を吐出させるには、発生圧力が少なくとも0.5Mpaの発生圧力を要することが確認された。なお、ノズルや流体抵抗などは良好な吐出効率が得られるように好適に設計することは無論必要である。
【0047】
そこで、前述の理由から薄膜圧電体15に対する印加電圧を30Vとし、圧電定数は200pC/Nと非常に良好な圧電体薄膜を用いて、圧電体厚さTと振動板短辺長に当たる幅aをパラメータとして発生圧力Mpaを実験により測定した。なお、振動板の長辺長(図6では紙面垂直方向となるので図示していない)を短辺幅aの10倍の長さとし、振動板10の構成はヤング率が100GPa程度の材料で厚さtを0.2μm〜5μmとした。
【0048】
この測定結果を図7に示している。これより、圧電体薄膜を実用上適した厚さ(5μm以下)とする場合、短辺幅aの値が少なくとも160μm以下でないと吐出に必要な発生圧力が得られないこと分かる。
【0049】
すなわち、圧電変位により振動板を変位させて液滴を吐出するための発生圧力を、上記のように駆動電圧30V以下で駆動される薄膜圧電体を用いたヘッドで必要な振動板で得るためには、少なくとも短辺長を160μm以下としなくてはいけないということを見出した。
【0050】
なお、圧電定数が200pC/Nと非常に高い圧電体薄膜を安定して作製することは難しく、量産性を考慮した場合は圧電定数はこれより低いものを用いることとなり、振動板の短辺幅は150μm以下が好ましい。さらに、ドライバIC(駆動回路)の出力電圧に対してマージンを持たせるため30Vより少し低い駆動電圧で使用することなどを考慮すると、振動板の短辺幅は145μm以下とすることがより好ましい。
【0051】
さらに、図7の結果に基づくと、厚さ2μm以下の圧電体薄膜を用いる場合、振動板の短辺幅aは140μm以下とすることが必要で、更に130μm以下とすることがより好ましい。更に、厚さ1μm以下の圧電体薄膜を用いる場合、振動板の短辺幅aは120μm以下とすることが必要で、更に100μm以下がより好ましい。
【0052】
上述したように、薄膜圧電体が5μm以下の膜厚で必要な発生圧力が得られる振動板の短辺幅aが160μm以下であることが判るが、振動板を変位させたとき、少なくとも液滴の体積分を排除するだけの排除体積が必要となる。この排除体積は、振動板の変位量と振動板の大きさによるが、測定評価の容易性や、作製コスト低減のためには、ヘッド作製に要する面積を小さくすることが好ましく、少なくとも変位量は0.1μm以上とすることが好ましい。
【0053】
そこで、薄膜圧電体が5μm以下の膜厚で、振動板の短辺幅aが160μm以下という条件において、振動板の厚さtをパラメータとして振動板の最大変位量を測定した。
【0054】
この測定結果を図8に示している。これより、薄膜圧電体が5μm以下の膜厚で必要な発生圧力を得る少なくとも振動板の短辺幅aが160μm以下においては、圧電体の厚さなどによらず、少なくとも、振動板の厚さが3μm以下でないと0.1μm以上の変位が得られないことが分かる。
【0055】
振動板の厚さが3μmより厚いと、振動板の剛性が高くなるため変位を得ることが難しくなり、振動板を変位させるために、振動板の材料としてヤング率が低い材料、例えばゴムなどの弾性樹脂や有機化合物が要求される。しかしながら、微細加工に適したシリコン基板などを使用する際に一般に半導体プロセスなどに使用される材料、例えば単結晶シリコン、酸化シリコン、ポリシリコン、アモルファスシリコン、窒化シリコンなどや、圧電体焼成に適した金属や金属酸化物、例えば、白金、チタン、タンタル、イリジウム、ロジウム、ジルコン、少なくともこれらの一つを含む金属や合金や金属酸化物、セラミック材料などは、ヤング率が数十〜数百GPaと高いため、振動板を構成する材料に使用することが難しい。
【0056】
そこで、本発明のように薄膜圧電体が5μm以下の膜厚で、振動板の短辺幅aが160μm以下で、振動板の厚さtを3μm以下とすることで、前述した半導体プロセスなどに使用される材料や金属や金属酸化物を振動板の一部として使用しても、振動板を変位させることが可能になり、高密度で良好な圧電特性を有する圧電体を具備した液滴吐出ヘッドを得ることができ得る。
【0057】
次に、振動板の平面形状は、一般に図9に示すように、短辺長(短辺幅)aと長辺長(長辺幅)bとを有する矩形状になる。また、前述したようにシリコン基板の異方性エッチングなどにより液室(吐出室)と振動板(の変形可能領域)を同時に形成する場合、図10に示すように、平行四辺形状になる。この平行四辺形状の振動板10において、短辺長aが液室幅で規定される場合(図3(d)の例)の短辺長a及び長辺長bを同図(a)に示すように定め、短辺長aが液室幅で規定されない場合(図5の例)の短辺長a及び長辺長bを同図(b)に示すように定める。
【0058】
ここで、振動板の長辺長bと短辺長aとの比(b/a)が20以上であると振動板を含む液室自体が流体抵抗として効いたり、圧力波伝播周期などへの影響が大きくなるため、液滴吐出の応答の遅延により高速吐出が不能となったり吐出不良を引き起こしてしまうことが多い。
【0059】
高速、安定吐出な液滴吐出ヘッドを得るのには、振動板の長辺長bと短辺長aとの比(b/a)が20未満であることが好ましく、より好ましくは長辺長bと短辺長aとの比(b/a)が15未満である。
【0060】
さらに、振動板の長辺長bが大きいと液滴吐出ヘッドの面積が大きくなるため製造コストを考慮すると長辺長bはより短い方が好ましく、短辺長aの2倍以下の場合、排除体積を得るのに効率が悪く、剛性が高くなることにより振動板の変位も減少するため、振動板の長辺長bと短辺長aとの比(b/a)は2より大きくすることが好ましい。
【0061】
なお、排除体積は吐出する液滴の体積分は少なくとも必要であり、インクジェットヘッドにおいて、一列あたり150dpi程度のノズルピッチで2列で300dpi程度の印字密度の場合、排除体積は少なくとも8pl程度以上、一列あたり300dpi程度のノズルピッチで2列で600dpi程度の印字密度の場合、排除体積は少なくとも4pl程度以上有することが好ましい。
【0062】
そこで、これを考慮して、横軸を短辺長aとし縦軸を振動板の変位量とし、振動板をピンホールやバラツキなどを考慮した実用上の限界に近い薄膜(ここでは、シリコン酸化膜0.1μmと白金電極膜0.1μmの積層膜)として、印加電圧を30Vとし、圧電定数は200pC/Nと非常に良好な圧電体薄膜を用いて、圧電体厚さTと短辺長に当たる幅aをパラメータとして振動板の最大変位量を測定した。
【0063】
この測定結果を図11に示している。同図では、振動板短辺幅aに対応する排除体積を満たす変位量を破線mで示してある。つまり、振動板短辺幅aにおいて必要な排除体積を満たすにはこの破線mより変位量が大きいことが必要である。
【0064】
これより、厚さ4μm以上の薄膜圧電体を用いる場合には、少なくとも短辺長aを70μm以上とすることで、長辺長bと短辺長aとの比(b/a)は20未満となって液滴吐出に要する排除体積を得ることが容易となる。また、厚さ2μm以上の薄膜圧電体を用いる場合には、少なくとも短辺長aを30μm以上とすることで、長辺長bと短辺長aとの比(b/a)は20未満となって液滴吐出に要する排除体積を得ることが容易となる。
【0065】
前述したように長辺長bと短辺長aとの比(b/a)は15未満が好ましく、厚さ4μm以上の薄膜圧電体を用いる場合には少なくとも短辺長aを80μm以上、厚さ2μm以上の薄膜圧電体を用いる場合には少なくとも短辺長aを40μm以上とすることがより好ましい。
【0066】
次に、本発明に係る液滴吐出ヘッドをインクタンクと一体にしたインクカートリッジ(インクタンク一体型ヘッド)について図12を参照して説明する。
このインクカートリッジ100は、ノズル孔101等を有する上記各実施形態のいずれかのインクジェットヘッド102と、このインクジェットヘッド102に対してインクを供給するインクタンク103とを一体化したものである。
【0067】
このように本発明に係る液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドとインクタンクとを一体化することにより、低コストで、高い滴吐出効率の液滴吐出ヘッドを一体化したインクカートリッジ(インクタンク一体型ヘッド)が得られる。
【0068】
次に、本発明に係る液滴吐出ヘッドを搭載した本発明に係る液滴を吐出する装置を含む、画像形成装置としてのインクジェット記録装置の一例について図13及び図14を参照して説明する。なお、図13は同記録装置の斜視説明図、図14は同記録装置の機構部の側面説明図である。
【0069】
このインクジェット記録装置は、記録装置本体111の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ、キャリッジに搭載した本発明に係るインクジェットヘッドからなる記録ヘッド、記録ヘッドへインクを供給するインクカートリッジ等で構成される印字機構部112等を収納し、装置本体111の下方部には前方側から多数枚の用紙113を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい。)114を抜き差し自在に装着することができ、また、用紙113を手差しで給紙するための手差しトレイ115を開倒することができ、給紙カセット114或いは手差しトレイ115から給送される用紙113を取り込み、印字機構部112によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ116に排紙する。
【0070】
印字機構部112は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド121と従ガイドロッド122とでキャリッジ123を主走査方向(図14で紙面垂直方向)に摺動自在に保持し、このキャリッジ123にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドからなるヘッド124を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。またキャリッジ123にはヘッド124に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ125を交換可能に装着している。なお、本発明に係るヘッド一体型ヘッド(インクカートリッジ)を搭載するようにすることもできる。
【0071】
インクカートリッジ125は上方に大気と連通する大気口、下方にはインクジェットヘッドへインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインクジェットヘッドへ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
【0072】
また、記録ヘッドとしてここでは各色のヘッド124を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。
【0073】
ここで、キャリッジ123は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド121に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド122に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ123を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ127で回転駆動される駆動プーリ128と従動プーリ129との間にタイミングベルト130を張装し、このタイミングベルト130をキャリッジ123に固定しており、主走査モーター127の正逆回転によりキャリッジ123が往復駆動される。
【0074】
一方、給紙カセット114にセットした用紙113をヘッド124の下方側に搬送するために、給紙カセット114から用紙113を分離給装する給紙ローラ131及びフリクションパッド132と、用紙113を案内するガイド部材133と、給紙された用紙113を反転させて搬送する搬送ローラ134と、この搬送ローラ134の周面に押し付けられる搬送コロ135及び搬送ローラ134からの用紙113の送り出し角度を規定する先端コロ136とを設けている。搬送ローラ134は副走査モータ137によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0075】
そして、キャリッジ123の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ134から送り出された用紙113を記録ヘッド124の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材139を設けている。この印写受け部材139の用紙搬送方向下流側には、用紙113を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ141、拍車142を設け、さらに用紙113を排紙トレイ116に送り出す排紙ローラ143及び拍車144と、排紙経路を形成するガイド部材145,146とを配設している。
【0076】
記録時には、キャリッジ123を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド124を駆動することにより、停止している用紙113にインクを吐出して1行分を記録し、用紙113を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙113の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙113を排紙する。この場合、ヘッド124を構成する本発明に係るインクジェットヘッドはインク滴噴射の制御性が向上し、特性変動が抑制されているので、安定して高い画像品質の画像を記録することができる。
【0077】
また、キャリッジ123の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、ヘッド124の吐出不良を回復するための回復装置147を配置している。回復装置147はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ123は印字待機中にはこの回復装置147側に移動されてキャッピング手段でヘッド124をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0078】
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でヘッド124の吐出口(ノズル)を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0079】
このように、このインクジェット記録装置においては本発明に係る液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッドを搭載しているので、滴吐出効率が高く、画像品質が向上した記録装置を低コストで得ることができる。
【0080】
なお、上記実施形態においては、液滴吐出ヘッドとしてインクジェットヘッドに適用した例で説明したが、インクジェットヘッド以外の液滴吐出ヘッドとして、例えば、液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッド、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドなどの他の液滴吐出ヘッドにも適用できる。また、前述したようにプリンタ、ファクシミリ、複写装置等の画像形成装置及び液滴を吐出する装置にも本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えることができる。
【0081】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る液滴吐出ヘッドによれば、シリコン基板に形成された凹部からなる液室と、前記シリコン基板の表面に一体に形成されたシリコン酸化膜層を含む振動板を有し、振動板に薄膜圧電体設けて、振動板を変形させることで液室に連通するノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、振動板の液室側にはシリコン窒化膜を有し、振動板の薄膜圧電体側には薄膜圧電体の電極となる白金層が形成されている構成としたので、高い滴吐出効率が得られ、高画質記録に適したヘッドが得られる。
【0082】
本発明に係るインクジェット記録装置及び画像形成装置によれば、本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えているので、高画質記録を行うことができる。また、本発明に係る液滴を吐出する装置によれば、本発明に係る液滴吐出ヘッドを備えているので、高い吐出効率で液滴を吐出できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドの第1実施形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視説明図
【図2】同ヘッドの振動板短辺方向に沿う断面説明図
【図3】同ヘッドの製作工程の一例を説明する断面説明図
【図4】同ヘッドの他の例を説明する断面説明図
【図5】同ヘッドの更に他の例を説明する断面説明図
【図6】同ヘッドの振動板部分の拡大説明図
【図7】圧電体の幅T、短辺幅aと発生圧力の関係の一例を示す説明図
【図8】振動板厚、圧電体の短辺幅a、振動板の変位量の関係の一例を示す説明図
【図9】振動板の短辺幅aと長辺幅bの説明に供する平面説明図
【図10】振動板の短辺幅aと長辺幅bの他の異なる例の説明に供する平面説明図
【図11】圧電体の厚さ、短辺幅a、振動板の変位量の関係の一例を示す説明図
【図12】本発明に係る液滴吐出ヘッドを含むインクタンク一体型ヘッドの説明に供する斜視説明図
【図13】本発明に係るインクジェット記録装置の一例を説明する斜視説明図
【図14】同記録装置の機構部の説明図
【符号の説明】
1…第1基板、2…第2基板、3…ノズル板、4…ノズル孔、6…吐出室、7…流体抵抗部、8…共通液室、10…振動板、15…薄膜圧電体、100…タンク一体型ヘッド(インクカートリッジ)。

Claims (6)

  1. シリコン基板に形成された凹部からなる液室と、前記シリコン基板の表面に一体に形成されたシリコン酸化膜層を含む振動板を有し、前記振動板に薄膜圧電体設けて、前記振動板を変形させることで前記液室に連通するノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドにおいて、
    前記振動板の液室側にはシリコン窒化膜を有し、
    前記振動板の薄膜圧電体側には前記薄膜圧電体の電極となる白金層が形成されている
    ことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  2. 請求項に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、前記薄膜圧電体の短辺幅は前記振動板の短辺幅よりも短いことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  3. 請求項1又は2に記載の液滴吐出ヘッドにおいて、インクを供給するインクタンクが一体化されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  4. インク滴を吐出するインクジェットヘッドを搭載するインクジェット記録装置において、前記インクジェットヘッドが前記請求項1ないしのいずれかに記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とするインクジェット記録装置。
  5. 液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置において、前記請求項1ないしのいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを備えていることを特徴とする画像形成装置。
  6. 液滴吐出ヘッドから液滴を吐出する装置において、前記請求項1ないしのいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを備えていることを特徴とする液滴を吐出する装置。
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