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JP4110762B2 - エレクトロクロミック特性を有する酸化タングステン微粒子の製造方法 - Google Patents

エレクトロクロミック特性を有する酸化タングステン微粒子の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子の製造方法、その酸化タングステン微粒子を分散させた塗布液、及びその塗布液を用いて作製したエレクトロクロミック素子に関する。
【0002】
【従来技術】
電圧印加による酸化還元反応によって物質の色が可逆的に変化するエレクトロクロミズムを利用したエレクトロクロミック素子は、長時間にわたるメモリー性を有し、視角依存性がない、消費電力が少ない、外部光に妨げられない等の利点を有するため、調光素子、表示素子等への応用が研究されている。
【0003】
かかるエレクトロクロミック素子は、一般に、透明電極、電解質、エレクトロクロミック層を組み合わせた積層構造からなっている。例えば、基材/透明導電膜/酸化タングステン等を主成分とする還元着色型エレクトロクロミック層/電解質層/オキシ水酸化ニッケル等を主成分とする酸化着色型エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材のような積層構造となっている。尚、還元着色型エレクトロクロミック層は還元により発色する層であり、酸化着色型エレクトロクロミック層は酸化により発色する層である。
【0004】
これらのエレクトロクロミック層を構成するエレクトロクロミック特性を有する物質としては、酸化タングステンやオキシ水酸化ニッケル等の金属化合物の外にも、金属錯体、有機色素等の材料が知られている。また、これらの材料からなるエレクトロクロミック層を形成するには、スパッタリングや真空蒸着、電界成膜、化学的成膜等が使用されている。
【0005】
エレクトロクロミック素子の有望な用途の一つとして、住宅等の窓の遮光性ないし透明性を変えることが可能な調光ガラスがある。特に1980年代には省エネルギーの観点から研究開発が盛んに行われたが、スパッタリング法を使用して成膜するため製造コストが高く、一般に広く使用されるには至っていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
安価にエレクトロクロミック素子を作製する方法として、例えば、有機溶剤に有機タングステン化合物を溶解した溶液を基材表面に塗布し、加熱分解して酸化タングステンのエレクトロクロミック層を形成する方法(特開昭56−38379号公報)が知られている。
【0007】
しかし、この熱分解法では、基材を均一に加熱する必要があり、温度むらがあるとエレクトロクロミック特性が均一に生じない等の問題が発生するため、大面積で均一なエレクトロクロミック層を作製することは難しかった。また、加熱に必要な耐熱性の点で使用できる基材が制限されたり、透明導電膜にITO(錫添加酸化インジウム)を使用する場合は、ITOの酸素欠陥が加熱時に減少し、目的の導電率が得られなくなる可能性がある等の問題があった。
【0008】
また、アルゴン等の不活性ガスを導入した容器内で材料を昇華、蒸発させることにより、酸化タングステン等のエレクトロクロミック材料の微粒子を得る方法(特開平7−207260号公報)も提案されている。この方法によれば、欠陥や汚染の少ない微粒子が得られ、その粒子径の制御が容易で、粒度分布がシャープであることなどの利点があるが、大掛かりな真空装置を使用する必要があるため、コスト高となることが避けられなかった。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、簡単な方法により低コストで、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子を製造する方法を提供することを目的とする。また、簡便な塗布法により大面積でも均一な特性を有する安価なエレクトロクロミック素子を作製するため、このエレクトロクロミック微粒子を分散させた塗布液、及びこの塗布液を用いて作製したエレクトロクロミック素子、特に調光ガラス用として好適なエレクトロクロミック素子を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明が提供するエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子の製造方法は、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、若しくは加熱還流した後溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物又は両者の混合物からなる粉末を得ることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による他のエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子の製造方法は、六塩化タングステンをアルコールに溶解し、更に水を添加して沈殿を生じさせた後、得られた沈殿物を溶媒から分離し、100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物又は両者の混合物からなる粉末を得ることを特徴とする。
【0012】
本発明は、上記方法により得られたエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子を液体中に分散させた塗布液であって、該塗布液中の酸化タングステン微粒子の凝集体若しくは単分散粒子の平均分散粒子径が200nm以下であることを特徴とするエレクトロクロミック素子作製用塗布液を提供する。
【0013】
この本発明のエレクトロクロミック素子作製用塗布液においては、その塗布液中に、プロトン導電性材料又はイオン導電性材料の少なくとも1種、及び/又は紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、金属アルコキシド加水分解重合物、ゾルゲルシリケートの少なくとも1種を含有することができる。
【0014】
また、本発明は、上記エレクトロクロミック素子作製用塗布液を透明導電膜付き基材上に塗布・硬化させて形成したエレクトロクロミック層を備えることを特徴とするエレクトロクロミック素子を提供する。特に、前記基材が透明樹脂フィルムからなり、フレキシブルなフィルム状のエレクトロクロミック素子を提供するものである。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明においては、原料の六塩化タングステン(WCl)をアルコール中で反応させ、加熱処理して安定な特性を有する状態の酸化タングステン(WO)を微粒子として得る。更に、この微粒子を液体中に分散して塗布液とし、透明導電膜付き基材に塗布・硬化させて、エレクトロクロミック素子を構成する。そのため、安価であると共に、熱分解法で得られる膜と比べて安定した調光が可能なエレクトロクロミック素子を作製することが可能となる。尚、エレクトロクロミック特性を示す材料は、金属化合物、金属錯体、有機色素等の各種のものが知られているが、耐候性やコスト、着色効率等を考慮すると、酸化タングステンが最も好ましい。
【0016】
まず、本発明による酸化タングステン微粒子の製造方法を説明する。原料である六塩化タングステンをアルコールに溶解させる。この時、激しく反応して熱を発生するので、少量ずつ添加することが好ましい。また、六塩化タングステンは空気と反応するので、この操作は窒素ガスやアルゴン等の希ガスのような非酸化性雰囲気中か、若しくは真空中で行うことが望ましい。アルコールに溶解した六塩化タングステンは、塩素が解離し、アルコールとタングステンイオンが反応して、アルコキシドのような状態で存在すると思われる。尚、使用するアルコールは、六塩化タングステンが溶解するものであれば特に制限はない。
【0017】
本発明の第1の方法では、この溶液から溶媒を蒸発除去することにより酸化タングステン微粒子が得られる。また、第2の方法では、上記溶液を加熱還流し、その後に溶媒を蒸発除去させる。この加熱還流は、タングステンと酸素の結合を促し、酸化タングステンの前駆体を形成するために行う。尚、溶媒の除去方法としては、自然乾燥、加熱乾燥など、溶媒を蒸発させ得る方法であれば何でもよく、このとき酸素とタングステンのネットワーク形成が行われると考えられる。しかし、加熱乾燥の場合には、加熱温度によって得られる酸化物の状態が異なるので注意が必要である。更に、第3の方法では、上記溶液に水を添加し、白色のゲル状物質を沈殿させた後、この沈殿物を液体から分離することにより酸化タングステン微粒子が得られる。
【0018】
溶媒から分離した酸化タングステン微粒子は、次に100〜500℃の温度で加熱処理する。先の溶媒除去時の乾燥温度及び加熱処理時の温度により、得られる酸化物の状態が異なるので、目的とするエレクトロクロミック特性に応じて必要な温度で加熱する。具体的には、温度を変化させて調べた結果、200℃以下の温度では、酸化タングステンが水和物の状態で得られることが分った。また、300℃以上で加熱すると、無水の酸化タングステンが結晶状態で得られることが分った。200℃を超え300℃未満の温度では、酸化タングステンの水和物と無水物の混合物となる。
【0019】
上記本発明方法で得られた酸化タングステン微粒子は、乾燥温度や加熱処理温度にかかわらず、良好なエレクトロクロミック特性を示す。用途や製造工程によって乾燥温度や加熱処理温度は決められるが、自動車や住宅の窓に使用する調光ガラス用途の場合、100℃以上の温度で処理することが望ましい。また、結晶水はエレクトロクロミック特性に重要な因子であるという説もあるが、本発明による酸化タングステン微粒子は、300℃以上の加熱処理によって結晶水が蒸発して無水の結晶状態になるが、十分に満足すべきエレクトロクロミック特性を示すことが確認された。
【0020】
上記本発明方法によって得られた酸化タングステン微粒子を液体中に分散させることにより、エレクトロクロミック素子作製用塗布液が得られる。分散媒の液体としては、公知の溶媒でよく、例えばアルコール、ケトン、エーテル、エステル等が使用できる。また、分散方法としては、目的とする分散粒子径が得られれば良く、具体的には、超音波照射、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等が挙げられる。
【0021】
一般的に、光透過膜の粒子径と透明性の関係は、微粒子分散インク塗布膜特有の膜構造に由来する。透明基材にインクを塗布すると、溶液と微粒子の凝集体が基材表面に薄い膜をつくる。更に溶媒を蒸発させることで、基材表面に微粒子の凝集体が堆積した構造となる。この堆積層の上から更に樹脂等を塗布又は浸透させることで、微粒子凝集体の堆積した間隙に樹脂成分が浸透して充填された状態を作ることも可能である。また、インク中にバインダーとして各種樹脂を含ませれば、基材にインクを塗布して溶媒を乾燥させた時、バインダー中に微粒子の凝集体が分散した状態となる。このような状態では、一つ一つの微粒子の凝集体と間隙媒体(空気、樹脂バインダー等)の界面で屈折率の差が生じ、これによって光が散乱される。散乱が大きいと曇りガラスの様に透明性がなくなり、調光ガラス等への応用を考えたとき好ましくない。
【0022】
透明性を向上させるためには、膜中に存在する微粒子の凝集体を小さくすることが必要である。人の目は約380nm〜780nmの波長の光に対して感受性があり、特に550nm付近の光に対して感度が良く、その領域を中心に長波長側及び短波長側に行くに従って感度が減少する。散乱物(微粒子凝集体)が光の波長(550nmを中心とした可視光領域波長)と同程度の大きさのとき、光の散乱が最も大きくなる(これをMie領域という)。更に、微粒子凝集体の分散粒子径を小さくするとRayleigh領域となり、微粒子凝集体の半径の6乗に反比例して散乱光強度は減少するので、透明性が格段に向上する。即ち、この透明性を保つためには、膜中の微粒子凝集体の粒子径が200nm以下であることが好ましく、100nm以下が更に好ましく、50nm以下が特に好ましい。逆に微粒子凝集体の粒子径が300nmを超えると、散乱光が増大して曇りガラスのようになる。
【0023】
本発明によるエレクトロクロミック素子作製用塗布液においては、液体中における酸化タングステン微粒子の分散粒子径を、分散の方法や条件を調整することにより、目的とする用途に応じて変えることが可能である。調光ガラス用途の場合には、塗布液中における酸化タングステン微粒子の凝集体又は単分散粒子の平均分散粒子径を200nm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50mn以下とする。上述のごとく、平均分散粒子径を小さくするほど、良好な透明性が得られるからである。この塗布液中の酸化タングステン微粒子の分散粒子径は、成膜後のエレクトロクロミック層中においても保持される。
【0024】
塗布液調整時の粉砕分散処理で分散粒子径を小さくすることは可能であるが、粒子径が小さくなればなるほど再凝集したり、基材に塗布したとき溶媒の蒸発に伴って大きく凝集してしまう傾向がある。従って、安定して微小な分散粒子径を保持するには、有効な分散剤を添加することが好ましい。
【0025】
分散剤としては、アルコキシド系のものや、高分子系のもの、界面活性剤等が挙げられるが、いずれも粒子表面に作用するものであり、粒子表面のイオン化状態、表面電位、分散溶媒の種類等によって選択される。分散剤の添加により、分散粒子が再凝集することがなくなり、安定的に液体中に分散し、更には膜中に安定して散在させることが可能となる。尚、分散剤の種類や添加量はエレクトロクロミック素子やエレクトロクロミック特性への影響を考慮して適宜選択するが、添加量はエレクトロクロミック特性を低下させないために酸化タングステン微粒子の重量の50%以下とすることが好ましい。
【0026】
酸化タングステン微粒子を基材に結着させるため、塗布液にバインダーを含ませることができる。エレクトロクロミック素子の起動原理を考慮すると、微粒子の間隙を埋めるバインダーとしては、イオン導電性又はプロトン導電性を有するものが好ましい。導電イオンはエレクトロクロミック材料に合わせて選択可能であるが、リチウムイオン又は水素イオンが代表的なものとして挙げられる。イオン導電性材料としては有機無機ハイブリットのイオン導電樹脂、酸化タンタル等が挙げられ、プロトン導電性材料としてはデュポン(株)製のナフィオン(商品名)等を挙げることができる。
【0027】
また、塗布液に加えるバインダーとして、既存の樹脂やゾルゲルシリケート等を単独で、又は上記のイオン導電性材料又はプロトン導電性材料と併用して、用いることができる。既存の樹脂バインダーとしては、例えば、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑樹脂、常温硬化樹脂、テトラエトキシシラン(TEOS)等の金属アルコキシドの加水分解重合物等がある。これらのバインダーもまた、エレクトロクロミック特性を考慮して、あるいは基材への密着性によって、適宜選定すれば良い。基材がPET等の透明樹脂フィルムであれば、製造スピードを考慮すると紫外線硬化タイプの樹脂が望ましい。また、ガラス等の基材であれば、熱硬化樹脂や、ゾルゲルシリケート系のバインダーを使用し、加熱してエレクトロクロミック素子を作製することもできる。
【0028】
一般的に、エレクトロクロミック素子は、基材/透明導電膜/酸化タングステン等を主成分とする還元着色型エレクトロクロミック層/電解質層/オキシ水酸化ニッケル等を主成分とする酸化着色型エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材の積層構造となっている。また、基材/透明導電膜/電解質層/エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材の積層構造を有するものもある。
【0029】
本発明のエレクトロクロミック素子は、上記した積層構造における還元着色型のエレクトロクロミック層として、上記エレクトロクロミック素子作製用塗布液を透明導電膜付き基材上に塗布し、硬化させて形成したものを用いる。還元着色型のエレクトロクロミック層は、本発明の酸化タングステン微粒子を主成分とするが、他の還元着色型のエレクトロクロミック材料、例えば、酸化ニオブ、ニオブ酸リチウム、酸化モリブテン、酸化チタン、酸化錫、ATO、リチウム酸コバルト、プルシアンブルー等を併用することもできる。
【0030】
一方、酸化着色型のエレクトロクロミック層は、酸化発色型のエレクトロクロミック材料、例えば、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、酸化イリジウム、酸化ロジウム、酸化コバルト、水酸化コバルト等から選ばれた1種以上を主成分とする。酸化発色型のエレクトロクロミック材料は、これらに限定されず、酸化発色するものであれば良い。尚、還元着色型又は酸化着色型層のエレクトロクロミック層に用いるエレクトロクロミック材料は、酸化状態又は還元状態で着色していても良く、そのような材料には酸化バナジウム、窒化インジウム、窒化錫等がある。
【0031】
基材としては、透明な樹脂やガラス等を使用でき、硬いボード状のものでも、フレキシブルなフィルム状のものでも良い。特に、既存の窓ガラス等に貼付して調光ガラスとする用途には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、フッ素樹脂、エチレン、ビニルアルコールなどの透明樹脂フィルムが好ましい。
【0032】
透明基材に設ける透明導電膜としては、ITO(錫添加酸化インジウム)、ATO(アンチモン添加酸化錫)、FTO(フッ素添加酸化錫)、AZO(アルミニウム添加酸化亜鉛)、GZO(ガリウム添加酸化亜鉛)、Au、Ag、Pt等の貴金属薄膜等を使用できる。導電性が着色、消色の速度を決める要素となるため、透明導電膜の表面抵抗は低いことが望ましい。
【0033】
電解質層は、公知の有機又は無機の電解質を使用でき、透明なイオン導電体であれば良い。導電イオンは、エレクトロクロミック材料に合わせて選択可能であるが、リチウムイオン又は水素イオンが代表的なものとして挙げられる。これらイオン導電体は、イオン導電性が高く、透明で且つ安定であり、基材への密着性が高いものが望ましい。具体的には、デュポン(株)製のナフィオン(商品名)のようなプロトン導電性樹脂、有機無機ハイブリットのイオン導電性樹脂、酸化タンタル等が挙げられる。また、これらのイオン導電体と既存の樹脂やゾルゲルシリケート、例えば紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑樹脂、常温硬化樹脂、TEOS等の金属アルコキシドの加水分解重合物等を混合して使用することもできる。
【0034】
また、基材/透明導電膜/還元着色型エレクトロクロミック層の積層と、酸化着色型エレクトロクロミック層/透明導電膜/基材の積層とを、それぞれ電解質層でラミネートすることも可能である。この場合の電解質層には、例えば塩化ビニル系コポリマー等のラミネート用の樹脂を混合する。
【0035】
本発明のエレクトロクロミック素子作製用塗布液を透明導電膜付き基材上に塗布する方法は、均一な塗膜が得られる方法であれば特に制限はなく、例えば、バーコート法、グラビヤコート法、ディップコート法、スピンコート法、ロールコート法等の方法を適宜選択して用いることが可能である。
【0036】
かかる塗布法によれば、平板状の基材はもちろん、簡単に曲面に塗布することも可能である。更に、PETフィルム等のフレキシブルなフィルム状の基材にも塗布することができるため、例えば、2枚の透明導電膜付きPETフィルム基材にエレクトロクロミック層を形成し、張り合わせることで、フレキシブルなフィルム状のエレクトロクロミック素子を作製することが可能となる。しかも、大面積であっても、均一な特性を有するエレクトロクロミック素子を安定して得ることができる。
【0037】
このフレキシブルなフィルム状のエレクトロクロミック素子は、平面上や曲面上に接着剤等で貼付することができ、例えば、住宅やビル、自動車等の既存の窓等に貼付することが可能である。しかも、このエレクトロクロミック素子自体は1〜5ボルト程度の電圧で動作可能なため、電源として小型電池を用いて簡単に動作させることができるうえ、フィルム状のエレクトロクロミック素子自体に電源を組み込むことも可能である。
【0038】
【実施例】
以下の実施例において、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子を製造すると共に、この酸化タングステン微粒子を分散させた塗布液を用いて、簡便な塗布法によりエレクトロクロミック素子を作製した。
【0039】
尚、光学特性に関しては、JIS A 5459(1998)(光源:A光)に基づき測定を行い、可視光透過率、日射透過率を算出した。だたし、測定試料はガラスに貼付せず、フィルムそのものを使用した。また、ヘーズ値はJIS K 7105に基づいて測定を行った。塗布液中の平均分散粒子径は、動的光散乱法を用いた測定装置(大塚電子株式会社製:ELS−800)により測定し、その平均値を用いた。
【0040】
[実施例1]
窒素ガス中において、エタノール350gにWClを少量ずつゆっくり加えて溶解した。この溶液を70℃に保持して溶媒を蒸発させ、更に100℃で加熱処理することにより薄黄色の粉末が得られた。この粉末をXRDにて同定を行ったところ、WOの水和物の結晶状態(▲1▼粉)であることが分った。
【0041】
得られた上記▲1▼粉を200℃で加熱処理し、XRDにて同定したところWOの水和物の結晶状態(▲2▼粉)であることが分った。また、同じ▲1▼粉を300℃で加熱処理し、XRDにて同定したところWOの結晶状態(▲3▼粉)であることが分った。更に、同じ▲1▼粉を400℃で加熱処理し、XRDにて同定したところWOの結晶状態(▲4▼粉)であることが分った。
【0042】
このように、上記▲1▼粉は、200℃以下での加熱処理では3酸化タングステンの水和物結晶であり、300℃以上の加熱処理で脱水して3酸化タングステンの結晶になることが分った。
【0043】
[実施例2]
窒素ガス中において、エタノール350gにWClを少量ずつゆっくり加えて溶解した。この溶液を無色透明になるまで50℃で還流した後、70℃で溶媒を蒸発させ、更に100℃で加熱処理することにより薄黄色の粉末が得られた。得られた粉末をXRDにて同定を行ったところ、WOの水和物の回折位置にブロードなハローパターンが現れ、WO水和物の非結晶状態(▲5▼粉)であることが予想された。
【0044】
得られた上記▲5▼粉を200℃で加熱処理し、XRDにて同定したところWOの水和物の回折位置にブロードなハローパターンが現れ、WO水和物の非晶質状態(▲6▼粉)であることが分った。また、同じ▲5▼粉を300℃で加熱処理し、XRDにて同定したところWOの結晶状態(▲7▼粉)であることが分った。更に、同じ▲5▼粉を400℃で加熱処理し、XRDにて同定したところWOの結晶状態(▲8▼粉)であることが分った。
【0045】
上記のごとく無色透明になるまで加熱還流を行った▲5▼粉は、200℃以下での熱処理では3酸化タングステンの水和物の非晶質状態であり、300℃以上の熱処理で脱水して3酸化タングステンの結晶になることが分った。
【0046】
[実施例3]
上記実施例2で製造した▲7▼粉100gと、シラン系カップリング剤10gと、エタノール900gを混合し、この溶液をボールミルで分散処理して、平均分散粒子径80nm以下の分散液Aを作製した。
【0047】
次に、この分散液Aの50gに、エタノールで5%に希釈した紫外線硬化樹脂(東亜合成(株)製、UV3701)10gと、エタノールで5%に希釈されたプロトン導電性樹脂(デュポン(株)製、ナフィオン)10gを加え、撹拌混合して塗布液Aを作製した。
【0048】
透明電極としてFTO(フッ素添加酸化錫)がコートされた80μm厚のPETフィルム(表面抵抗60Ω/□)上に、塗布液Aをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥して溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。得られた膜は透明性が高く、ヘーズ値は1.2%であった。
【0049】
次に、この膜のエレクトロクロミック特性を調査するために、この膜をpH1の希硫酸水溶液中に入れ、対極にはFTOをコートした基板を使用して、3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示した。この時の膜の可視光透過率は21%、日射透過率は15%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になった。この時の膜の可視光透過率は76%、日射透過率は67%であった。
【0050】
この実施例3の膜の着色時と消色時の透過プロファイルを図1に示した。この結果から、上記▲7▼粉の酸化タングステンを主成分とする膜は、電圧により透過率が変化し、着色時と消色時の透過率差が可視光透過率で55%、日射透過率で52%であり、良好なエレクトロクロミック特性が得られていることが分る。
【0051】
[実施例4]
上記実施例2で製造した▲6▼粉100gと、シラン系カップリング剤10gと、エタノール900gを混合し、この溶液をボールミルで分散処理して、平均分散粒子径100nm以下の分散液Bを作製した。
【0052】
次に、この分散液Bの50gに、エタノールで5%に希釈した紫外線硬化樹脂(東亜合成(株)製、UV3701)10gと、エタノールで5%に希釈されたプロトン導電性樹脂(デュポン(株)製、ナフィオン)10gを加え、撹拌混合して塗布液Bを作製した。
【0053】
FTOがコートされた80μm厚のPETフィルム(表面抵抗60Ω/□)上に、塗布液Bをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥し、溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。得られた膜は透明性が高く、ヘーズ値は2.3%であった。
【0054】
次に、この膜のエレクトロクロミック特性を調査するために、この膜をpH1の希硫酸水溶液中に入れ、対極にはFTOをコートした基板を使用して、3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示した。この時の膜の可視光透過率は32%、日射透過率は20%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になった。この時の膜の可視光透過率は74%、日射透過率は64%であった。
【0055】
この結果から、上記▲6▼粉の酸化タングステンを主成分とする膜は、電圧により透過率が変化し、良好なエレクトロクロミック特性が得られていることが分る。
【0056】
[実施例5]
上記実施例1で製造した▲3▼粉100gと、シラン系カップリング剤10gと、エタノール900gを混合し、ボールミルで分散処理して、平均分散粒子径100nm以下の分散液Cを作製した。
【0057】
次に、この分散液Cの50gに、エタノールで5%に希釈した紫外線硬化樹脂(東亜合成(株)製、UV3701)10gと、エタノールで5%に希釈されたプロトン導電性樹脂(デュポン(株)製、ナフィオン)10gを加え、撹拌混合して塗布液Cを作製した。
【0058】
FTOがコートされた80μm厚のPETフィルム(表面抵抗60Ω/□)上に、塗布液Cをスプレーで塗布した。これを70℃で1分間乾燥し、溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。得られた膜は透明性が高く、ヘーズ値は2.7%であった。
【0059】
次に、この膜のエレクトロクロミック特性を調査するために、この膜をpH1の希硫酸水溶液中に入れ、対極にはFTOをコートした基板を使用して、3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示した。この時の膜の可視光透過率は19%、日射透過率は14%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になった。この時の膜の可視光透過率は69%、日射透過率は57%であった。
【0060】
この結果から、上記▲3▼粉の酸化タングステンを主成分とする膜は、電圧により透過率が変化し、良好なエレクトロクロミック特性が得られていることが分る。
【0061】
[実施例6]
上記実施例1で製造した▲2▼粉100gと、シラン系カップリング剤10gと、エタノール900gを混合し、ボールミルで分散処理して、平均分散粒子径120nm以下の分散液Dを作製した。
【0062】
次に、この分散液Dの50gに、エタノールで5%に希釈した紫外線硬化樹脂(東亜合成(株)製、UV3701)10gと、エタノールで5%に希釈されたプロトン導電性樹脂(デュポン(株)製、ナフィオン)10gを加え、撹拌混合して塗布液Dを作製した。
【0063】
FTOがコートされた80μm厚のPETフィルム(表面抵抗60Ω/□)上に、塗布液Cをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥し、溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。得られた膜は透明性が高く、ヘーズ値は2.9%であった。
【0064】
次に、この膜のエレクトロクロミック特性を調査するために、この膜をpH1の希硫酸水溶液中に入れ、対極にはFTOをコートした基板を使用して、3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示した。この時の膜の可視光透過率は10%、日射透過率は11%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけたところ、膜の色は直ちに消えて透明になった。この時の膜の可視光透過率は55%、日射透過率は40%であった。
【0065】
この結果から、上記▲2▼粉の酸化タングステンを主成分とする膜は、電圧により透過率が変化し、良好なエレクトロクロミック特性が得られていることが分る。
【0066】
[比較例1]
上記実施例2で製造した▲8▼粉100gと、シラン系カップリング剤3gと、エタノール900gを混合し、ボールミルで分散処理して、平均分散粒子径400nmの分散液Eを作製した。
【0067】
次に、この分散液Eの50gに、エタノールで5%に希釈した紫外線硬化樹脂(東亜合成(株)製、UV3701)10gと、エタノールで5%に希釈されたプロトン導電性樹脂(デュポン(株)製、ナフィオン)10gを加え、撹拌混合して塗布液Eを作製した。
【0068】
FTOがコートされた80μm厚のPETフィルム(表面抵抗60Ω/□)上に、塗布液Eをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥し、溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。得られた膜は透明性が低く、ヘーズ値は72.5%であった。
【0069】
このように、上記▲8▼粉の酸化タングステンを主成分とする膜であっても、平均分散粒子径が400nmと大きいために、光の散乱が大きく、結果として透明性が失われ、調光窓等の用途には不適切であった。
【0070】
「比較例2」
上記実施例1で製造した(2) 100gと、シラン系カップリング剤10gと、エタノール900gを混合し、ボールミルで分散処理して、平均分散粒子計100nm以下の分散液Fを作製した。
【0071】
次に、この分散液Fの50gに、エタノールで5%に希釈した紫外線硬化樹脂(東亜合成(株)製、UV3701)10gを添加したが、プロトン導電性樹脂は添加せずに、撹拌混合して塗布液Fを得た。
【0072】
FTOがコートされた80μm厚のPETフィルム(表面抵抗60Ω/□)上に、塗布液Fをバーコーターで塗布した。これを70℃で1分間乾燥し、溶媒を蒸発させ、更に高圧水銀ランプにより紫外線照射して膜を硬化させた。得られた膜は透明性が高く、ヘーズ値は3.2%であった。
【0073】
次に、この膜のエレクトロクロミック特性を調査するために、この膜をpH1の希硫酸水溶液中に入れ、対極にはFTOをコートした基板を使用して、3Vの電圧を印可したところ、濃青色の色調を示した。この時の膜の可視光透過率は38%、日射透過率は24%であった。次に、印可電圧を逆方向にかけ、この時の膜の可視光透過率は45%、日射透過率は29%であった。
【0074】
この結果から、上記▲2▼粉の酸化タングステンを主成分とする膜であっても、プロトン導電性樹脂を含まない場合には、電圧印加による膜の着色と消色の差が小さく、特に消色効率が良好でないことが分った。
【0075】
【発明の効果】
本発明によれば、特別な装置等を必要としない簡単な方法により低コストで、エレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子を製造することができる。また、このエレクトロクロミック微粒子を分散させた塗布液を用いた簡便な塗布法により、大面積であっても均一な特性を有する安価なエレクトロクロミック素子を作製することができる。
【0076】
本発明によるエレクトロクロミック素子は、調光素子や表示素子等の汎用性の高い工業製品を提供でき、特に調光ガラス用として好適であるうえ、フレキシブルなフィルム状の基材を使用することにより、既存の窓ガラスに貼付して調光窓を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3で作製したエレクトロクロミック膜の着色時と消色時の透過プロファイルを示すグラフである。

Claims (1)

  1. 六塩化タングステンをアルコールに溶解し、そのまま溶媒を蒸発させるか、若しくは加熱還流した後溶媒を蒸発させ、その後100℃〜500℃で加熱することにより、三酸化タングステン若しくはその水和物又は両者の混合物からなる粉末を得ることを特徴とするエレクトロクロミック特性を示す酸化タングステン微粒子の製造方法。
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