JP4001787B2 - 疲労寿命に優れた冷間工具鋼およびその熱処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、疲労寿命に優れた冷間工具鋼およびその熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、冷間工具鋼は、60HRC前後の高硬度で使用し、多量の炭化物を分散させることによって、耐摩耗性に優れることを特徴としている。しかし、最近、被加工材の高強度化に伴い、耐疲労性の改善が必要となっており、耐摩耗性と耐疲労性を両立させた冷間工具鋼の開発が望まれている。これらのことから、残留オーステナイトを安定させることで経年変化を解消すると共に、高速の付加がかかった時の割れに対する感受性を改善した冷間工具鋼の製造方法として、例えば特開2001−131634号公報が開示されている。
【0003】
また、上記特許と同様に、特開平11−310820号公報においても、冷間工具鋼の硬さを維持したまま、鋼に含まれている残留オーステナイトを安定させて、マルテンサイトへの変態の進行を伴う寸法・形状の経年変化の問題を解決した冷間工具鋼が提案されている。さらに、特開2000−234148号公報においては、鋼中にSを添加しMnSを分散形成させることにより、S無添加鋼に比べ疲労限を向上させ、一方、被削性も向上させた高サイクル疲労寿命および被削性に優れた冷間工具鋼を提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特開2001−131634号公報は、残留オーステナイトを安定化する手段として、残留オーステナイトをいったん積極的に不安定にしておいて、安定化するという点が特徴である。しかし、この方法では十分な効果が得られず、また、疲労寿命を向上させる観点から、残留オーステナイトの形態をどうように限定すればよいかの点は全く開示されていない。
また、特開平11−310820号公報および特開2000−234148号公報においても上記同様に、この方法では耐疲労性が十分に得られず、しかも、疲労寿命を向上させる観点から、残留オーステナイトの形態をどうように限定すればよいかの点は全く開示されていない。
【0005】
これに対し、近年の塑性加工技術の進歩や被加工材の高強度化に伴い、工具の耐摩耗性向上を目的に、さらに耐疲労性を兼ね供えた金型に適した工具鋼が必要とされることから、本発明は、最適な化学成分に限定し、残留オーステナイトを積極的に活用することによって、疲労特性の向上に、硬度と体積%で5〜35%の残留オーステナイトを平均粒径0.01〜2μmに微細分散させることにより、十分な耐疲労性を確保し、耐摩耗性が劣化しない強度の優れた高寿命が得られる冷間工具鋼を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
その発明の要旨とするところは、
(1)質量%で、C:0.60〜1.50%、Si:2.0%以下、Mn:0.1〜1.5%、Cr:5.0〜13.0%、MoまたはWの1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.1〜3.0、VまたはNbの1種または2種を合計で0.05〜2.0%含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、焼入れ後、300〜500℃の焼戻温度で少なくとも1回以上の焼戻しを行い、硬さ55〜65HRCで、5〜35体積%の残留オーステナイトを平均粒径0.01〜2μmに微細分散させたことを特徴とする疲労寿命に優れた冷間工具鋼。
【0007】
(2)前記(1)に記載の鋼に、Ni:2.0%以下、Co:3.0%以下、S:0.2%以下の1種または2種以上添加することを特徴とする疲労寿命に優れた冷間工具鋼。
(3)前記(1)または(2)に記載の鋼を、焼戻温度以下で窒化処理することを特徴とする疲労寿命に優れた冷間工具鋼の熱処理方法にある。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明鋼の各化学成分の作用およびその限定理由を説明する。
C:0.60〜1.50%
Cは、焼入焼戻により、十分なマトリックス硬さを与えると共に、Cr,Mo,V,Nbなどと結合して炭化物を形成し、強度および耐摩耗性を与える元素である。しかし、添加量が多過ぎると、凝固時に粗大炭化物が析出し、靱性を低下させる。また、残留オーステナイトが多くなりすぎ、逆に硬さが低下する。従って、その上限を1.50%とした。一方、0.60%未満では、その効果が十分でないので、その下限を0.60%とした。
【0009】
Si:2.0%以下
Siは、主に脱酸剤として添加されると共に、耐酸化性および焼入性に有効な元素であると共に、マトリックス硬さを与える元素である。しかし、2.0%を超えて添加すると、靱性を低下させるので、その上限を2.0%とした。
Mn:0.1〜1.5%
Mnは、Siと同様に脱酸剤として添加し鋼の清浄度を高めると共に焼入れ性を高める元素である。しかしながら、1.5%を超えて添加すると、靱性を低下させるので、その上限を1.5%とした。
【0010】
Cr:5.0〜13.0%
Crは、焼入れ性を高めると共に、炭化物を形成し、耐摩耗性に寄与する元素である。この効果を満足するためには、少なくとも5.0%以上必要である。従って、その下限を5.0%とした。一方、Crは、凝固時にCと結合して粗大炭化物が析出し、靱性を低下させるため、その上限を13.0%とした。
【0011】
MoまたはWのいずれか1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.1〜3.0%、
MoおよびWは、共に微細な炭化物を形成し、二次硬化に寄与する重要な元素であると共に、耐軟化抵抗性を改善する元素である。ただし、その効果はMoの方がWよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、WはMoの2倍必要である。この両元素の効果は、Mo当量(Mo+1/2W)で表すことができる。本発明成分系においては、Mo当量で少なくとも0.1%以上が必要である。逆に、Mo当量の過剰添加は、靱性の低下を招くので、その上限を3.0%とした。
【0012】
VまたはNbのいずれか1種または2種をV当量(V+1/2Nb):0.05〜2.0%
V、Nbは、共に微細な炭化物を形成し二次硬化に寄与する元素であると共に、結晶粒微細化し、耐摩耗性を向上させる元素である。ただし、その効果はVの方がNbよりも2倍強く、同じ効果を得るのに、NbはVの2倍必要である。この両元素の効果はV当量(V+1/2Nb)で表すことができる。本発明成分系においては、V当量で少なくとも0.05%以上が必要である。過剰な添加は靱性を低下させるため、その上限を2.0%とした。
【0013】
Ni:2.0%以下
Niは、焼入れ性および靱性の向上に役立つ元素である。しかし、2.0%を超えると残留オーステナイトが多くなりすぎ、逆に硬さが低下する。従って、その上限を2.0%とした。
Co:3.0%以下
Coは、焼戻硬さの向上に役立つ元素である。しかし、3.0%を超えると靱性を低下させる。従って、その上限を3.0%とした。
【0014】
S:0.2%以下
Sは快削性を確保するために必要な元素である。しかし、過剰な添加は靱性を低下させるため、その上限を0.2%とした。
また、硬さ55〜65HRC
硬さは、耐疲労特性の向上に役立ち、少なくとも55HRC以上の硬さが必要である。しかし、逆に65HRCを超えると耐疲労特性を低下させることから、その上限を65HRCとした。
【0015】
残留オーステナイト5〜35体積%
体積%で5〜35%の残留オーステナイト組織を残留させたことにより、耐疲労特性の向上を図る。すなわち、安定化した残留オーステナイトは応力集中個所およびき裂先端において衝撃材の役割を果たし、疲労特性の向上を図る。しかし、35体積%を超えると硬さが低下することから、その上限を35体積%とした。
平均粒径0.01〜2μm
残留オーステナイトを平均粒径0.01〜2μmに微細分散させることにより耐疲労特性の向上を図る。しかし、2μmを超えると残留オーステナイトが多くなり過ぎて、逆に硬さが低下することから、その範囲を0.01〜2μmとした。
【0016】
焼戻温度:300〜500℃
焼戻温度を300〜500℃としたのは、残留オーステナイト中にCを固溶させるのに必要な温度であり、残留オーステナイトの安定化を図る。この安定化した残留オーステナイトは、繰返し応力による歪誘起変態を生じ難く、寿命向上に寄与する。しかし、500℃を超えると残留オーステナイトが分解することから、その上限を500℃とした。
窒化処理:焼戻温度以下
窒化処理は、残留オーステナイト中にNを固溶させ、残留オーステナイトの安定化を高める。しかし、焼戻温度を超えると残留オーステナイトが分解することから、その上限を500℃とした。
【0017】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
表1に示す組成の鋼100kgを真空誘導溶解炉にて溶製し、インゴットに鋳造し、1100℃に加熱、角100mm×100mm×100mmに鍛伸後焼なましを行い供試材とした。各試験片は1030℃に30分保持後、空冷し、300〜500℃で60分保持後空冷処理を2回施し、シャルピー衝撃試験片、回転曲げ疲労試験片を作製した。その結果を表2に示す。
また、シャルピー衝撃試験は、10R2mmCノッチ試験片を用い、常温で試験を実施した。回転曲げ疲労試験は、平行部φ8×17Lの試験片を用い、応力振幅1050MPa、常温で試験を実施した。さらに、被削性については、各種の焼なまし材を、SKH51製、φ5mmのドリルで10mm穿孔するのに要する時間で示した。なお、窒化処理は、イオン窒化装置を用い、焼戻温度以下で1〜5時間保持して評価した。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
表2に示すように、本発明鋼A〜Fはいずれも残留オーステナイト量が5〜35%の範囲内であり、かつ、残留オーステナイト平均粒径が0.01〜2μmの範囲である。また、55〜65HRCの硬さを維持した上で、耐摩耗性の向上、疲労強度、金型寿命延長を図ることが出来た。これに対し、比較例であるG〜Iは成分組成ないし残留オーステナイト量の範囲、残留オーステナイトの平均粒径、硬さおよび焼戻温度の条件が外れているために、シャルピー衝撃値が低く、また、疲労寿命が短く、金型寿命および被削性が本発明より劣ることが判る。
【0021】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明鋼は、冷間工具鋼としての残留オーステナイトを積極的に活用することにより、疲労特性を向上させ、極めて優れた型寿命を確保することが可能となり、金型用工具鋼として従来のものに比べて経済的で極めて有利なものとなる優れた効果を奏するものである。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.60〜1.50%、
Si:2.0%以下、
Mn:0.1〜1.5%、
Cr:5.0〜13.0%、
MoまたはWの1種または2種をMo当量(Mo+1/2W):0.1〜3.0、VまたはNbの1種または2種を合計で0.05〜2.0%含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、焼入れ後、300〜500℃の焼戻温度で少なくとも1回以上の焼戻しを行い、硬さ55〜65HRCで、5〜35体積%の残留オーステナイトを平均粒径0.01〜2μmに微細分散させたことを特徴とする疲労寿命に優れた冷間工具鋼。 - 請求項1に記載の鋼に、
Ni:2.0%以下、
Co:3.0%以下、
S:0.2%以下
の1種または2種以上添加することを特徴とする疲労寿命に優れた冷間工具鋼。 - 請求項1または2に記載の鋼を、焼戻温度以下で窒化処理することを特徴とする疲労寿命に優れた冷間工具鋼の熱処理方法。
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