JP4097948B2 - 分岐化芳香族ポリカーボネート及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、品質の優れた分岐化芳香族ポリカーボネート及びその製造方法に関するものである。更に詳しくは、溶融特性が改良され、さらに色相や滞留安定性も向上した分岐化芳香族ポリカーボネート及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させ芳香族ポリカーボネートを製造する、いわゆるエステル交換法は、ホスゲン法(界面重合法)に比べて、工程が比較的単純であり、操作、コスト面で優位性が発揮できるだけでなく、毒性の強いホスゲンや塩化メチレン等のハロゲン系溶剤を使用しないという点において、環境保護の面からも最近見直されている。
【0003】
しかしながら、エステル交換法は、ホスゲン法に比べ、物性の点で、いくつかの欠点を有しているため、大規模な工業プロセスとしての採用は未だに少ないのが現状である。その代表例として、エステル交換法で得られるポリカーボネートは、ホスゲン法品に比べ、分岐が生成しやすく、流動性や成形性が低下すること、及び、製品色相に劣ること等が大きな問題点であった。
【0004】
これらの問題点を解決するために、いくつかの提案がなされている。例えば、原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物中の、異性体や誘導体の含有量を特定範囲内にすることにより、色相、成形時の色相安定性及び熱安定性に優れた芳香族ポリカーボネートを得る方法(特開平8−104747号公報、特開平8−104748号公報、特開平8−277236号公報)、また、特定の触媒や反応条件下、主鎖中のフェノキシ安息香酸含有量を特定量以下にすることにより、分岐の少ないポリカーボネートを得る方法(特開平7−18069号公報、特開平8−109251号公報、特開平9−278877号公報)、さらに、p−ヒドロキシアセトフェノン含有量を特定量以下にすることにより、着色が少ないポリカーボネートを得る方法(特開平8−27263号公報)等が挙げられる。これらの方法は、分岐の生成を低減させ、色相を改良するという、従来の問題点をそれぞれ解決するために提案された方法である。
【0005】
一方、一般的に用いられている芳香族ポリカーボネートは、直鎖状の分子構造を有しており、このような分子構造を有するポリカーボネートは、溶融成形時に溶融弾性、溶融強度等に劣ることがあり、向上が望まれていた。現に、このようなポリカーボネートの溶融弾性、溶融強度等の溶融特性を向上させる方法として、従来から界面重合法で、2,2−ビス(4−ヒドロキシジフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」又は「BPA」と略称する。)とともに、分岐化剤として、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン(THPE)、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の多官能化合物を使用して、ポリカーボネートを分岐化させる方法が知られている(特公昭44−17149号公報、特公昭47−2918号公報、特開平2−55725号公報、特開平4−89824号公報等)。
【0006】
しかしながら、芳香族ポリカーボネートは、直鎖状構造であっても溶融粘度が高いうえに、多官能化合物の共重合により分岐構造が導入されたポリカーボネートは、さらに、溶融粘度が高くなり、流動性が低下する。このように溶融粘度が高く、流動性に劣るポリカーボネートは、成形条件が限定されたり、また成形ムラが生じたりして、均一な成形体を安定して得ることが困難であった。
これらの問題点を解決するために、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とを用いた溶融重合法において、種々の試みがなされているが、分岐化剤が高温で分解等を起こして、分岐の効果が現れず、さらに着色を引き起こしたり、満足のいくものが得られていなかった(特開平4−89824号公報、特開平6−136112号公報、特公平7−37517号公報、特公平7−116285号公報等)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、品質の優れた分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法を提供するものであり、更に詳しくは、溶融特性が改良され、さらに色相や滞留安定性も向上した分岐化芳香族ポリカーボネート、及び、この分岐化芳香族ポリカーボネートを効率よく製造する方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、色相に優れ、かつ、溶融強度等の溶融特性に優れた、分岐化芳香族ポリカーボネートを提供すべく鋭意検討したところ、主鎖中に特定の構造単位を有するものを特定量含有する、分岐化芳香族ポリカーボネートは、高荷重下での流動性が改良され、さらに色相や滞留安定性も向上したものとなることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、エステル交換法により得られる粘度平均分子量16,000以上の芳香族ポリカーボネートであって、その主鎖中に含まれる下記式(1)で表される構造単位の量が2,000〜50,000重量ppmの範囲内にあり、かつその主鎖中に含まれる下記式(2)、(3)で表される構造単位の量がそれぞれ30〜10,000重量ppmの範囲内にあることを特徴とする分岐化芳香族ポリカーボネートに存するものである。
【0010】
【化5】
【0011】
(式(1)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)
【0012】
【化6】
【0013】
また、本発明の別の要旨は、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とを反応させて芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、下記式(6)で示される2,4’−ビスフェノール化合物を120〜9,000重量ppm含有する芳香族ジヒドロキシ化合物を用い、かつ、エステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10 -8 〜1×10 -5 モル用いることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法に存するものである。
【0014】
【化7】
【0015】
(式(6)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
芳香族ポリカーボネートの製造方法
本発明の芳香族ポリカーボネートは、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを用い、エステル交換触媒の存在下、溶融重縮合させることにより得ることができる。
炭酸ジエステル
本発明で使用される炭酸ジエステルは下記の一般式(7)で表される。
【0017】
【化8】
【0018】
(式(7)中、A及びA’は、炭素数1〜18の脂肪族基あるいは置換脂肪族基、又は芳香族基あるいは置換芳香族基であり、A及びA’は同一であっても異なっていてもよい。)
上記一般式(7)で表される炭酸ジエステルは、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等の炭酸ジアルキル化合物、ジフェニルカーボネート、及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特にジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは単独、あるいは2種以上を混合してもよい。
【0019】
芳香族ジヒドロキシ化合物
本発明で用いられる芳香族ジヒドロキシ化合物は、通常、下記式(8)で表されるものであり、2つの芳香族環が結合基Xで結合し、芳香族環のそれぞれにXに対して4位に水酸基を有している。本明細書中で、式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物を「4,4’−ビスフェノール化合物」と称することがある。
【0020】
【化9】
【0021】
(式(8)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)
上記式(8)で表される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノール;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が例示されるが、特に好ましくは、ビスフェノールAが挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独でも2種以上の混合物でもよい。
【0022】
本発明で芳香族ポリカーボネートを製造するには、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAが用いられ、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートが用いられるが、ジフェニルカーボネートはビスフェノールA1モルに対して、1.01〜1.30モル、好ましくは1.02〜1.20モルの量で用いられることが好ましい。
【0023】
エステル交換触媒
本発明で、エステル交換触媒としては、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が使用され、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物が単独で使用されことが特に好ましい。
【0024】
アルカリ金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられる。
また、アルカリ土類金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。
【0025】
塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0026】
エステル交換触媒は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜1×10-5モルの範囲内で用いられ、好ましくは1×10-7〜8×10-6の範囲内であり、特に好ましく3×10-7〜2×10-6の範囲内である。上記下限量より少なければ、所望の分子量のポリカーボネートを製造するのに必要な重合活性が得られず、この量より多い場合は、ポリマー色相が悪化し、ゲルの発生による異物量も増大してしまう。
エステル交換反応は、一般的には二段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第一段目の反応は140〜260℃、好ましくは180〜240℃の温度で0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間反応させる。次第に反応系の圧力を下げながら反応温度を高め、最終的には133Pa以下の減圧下、240〜320℃の温度で重縮合反応を行う。
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でも良く、使用する装置は、槽型、管型、あるいは塔型のいずれの形式であってもよい。
【0027】
分岐化芳香族ポリカーボネート
本発明の分岐化芳香族ポリカーボネートは、粘度平均分子量16,000以上であることが必要である。粘度平均分子量が16,000未満のものは、耐衝撃性等の機械的強度が低下するので好ましくない。機械的強度の点から18,000以上のものが好ましい。また、著しく粘度平均分子量が大きいと流動性が悪くなる傾向にあるので、60,000以下が好ましく、50,000以下が更に好ましい。
また、本発明の分岐化芳香族ポリカーボネートの、主鎖中に含まれる下記式(1)で表される構造単位の量は、2,000〜50,000重量ppmの範囲内にあることが必要であり、好ましくは3,000〜10,000重量ppm、更に好ましくは3,100〜9,000重量ppm、特に好ましくは3,100〜8,000重量ppmの範囲である。
【0028】
【化10】
【0029】
(式(1)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)ここで、式(1)で表される構造単位の量が50,000重量ppmを超えると、製造された芳香族ポリカーボネートのゲルを生成しやすくなり好ましくない上、色相も悪化する。他方、2,000重量ppm未満であると、目的とする分岐化による溶融特性は得られない。さらに、本発明の分岐化芳香族ポリカーボネートは、主鎖中の下記式(2)、(3)で表される構造単位の量は、それぞれ30〜10,000重量ppmの範囲内にあることが必要であり、好ましくは、それぞれ30〜5,000の範囲内であり、特に好ましくは、それぞれ40〜4,000重量ppmの範囲内である。
【0030】
【化11】
【0031】
(式(2)及び式(3)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)。ここで、式(2)及び式(3)で表される構造単位の量が10,000重量ppmを超えると、分岐化が進み過ぎ、ゲル化し、ポリマーの成形が困難になり好ましくない上、色相も悪化する。他方、30重量ppm未満であると、高荷重での流動性が上がらず、目的とする分岐化による溶融特性は得られない。
また、本発明においては、一般に、主鎖中には下記式(4)及び(5)で表される構造単位も存在する。これらの合計量は、10〜10,000重量ppmの範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは10〜3,000重量ppmの範囲であり、特に好ましくは30〜2,500重量ppmの範囲である。
【0032】
【化12】
【0033】
(式(4)及び式(5)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)ここで、式(4)及び式(5)で表される構造単位の合計量が10,000重量ppmを超えると、分岐化が進み過ぎ、ゲル化し、ポリマーの成形が困難となり好ましくない上、色相も悪化する。他方、10重量ppm未満であると、分岐化による溶融特性は得られない。
【0034】
これらの異種構造単位の量は、製造された芳香族ポリカーボネートをアルカリ加水分解後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)等により容易に求められるが、上記式(1)〜(5)で表される構造単位は、該アルカリ加水分解後の、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)では、それぞれ下記式(9)〜(13)の化合物として検知される。
【0035】
【化13】
【0036】
なお、上記式(1)〜(5)で表される構造単位は、エステル交換法による芳香族ポリカーボネートの製造過程で、主に転移反応等に伴い副生する、異種構造によるものと推定される。
【0037】
芳香族ジヒドロキシ化合物の選択
上記のような特定の分岐化芳香族ポリカーボネートを得るためには、炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とを反応させて分岐化芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、適切な原料芳香族ジヒドロキシ化合物を選択することが重要である。
すなわち、下記式(8)で表される4,4’−ジフェノール化合物を主体とし、下記式(6)で表される2,4’−ビスフェノール化合物(結合基Xに対して一方の芳香族環の2位と、もう一方の芳香族環の4位に水酸基を有する化合物)が適量存在する芳香族ジヒドロキシ化合物を選択する。この場合、下記式(6)で表される2,4’−ビスフェノール化合物を加える、又は下記式(8)で表される4,4’−ジフェノール化合物の製造過程で副生した式(6)で表される化合物を、精製の際に必要な量となるように精製して、適量残存させた芳香族ジヒドロキシ化合物使用することができる、この内、後者の方が製造において調整できるので簡便であり好ましい。
【0038】
【化14】
【0039】
(式(6)及び式(8)中、Xは、単結合、炭素数1〜8のアルキレン基、炭素数2〜8のアルキリデン基、炭素数5〜15のシクロアルキレン基、炭素数5〜15のシクロアルキリデン基又は、−O−,−S−,−CO−,−SO−,−SO2 −で示される2価の基からなる群から選ばれるものである。)
式(6)で表される2,4’−ビスフェノール化合物の具体例としては、例えば、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−1,1−メタン、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−1,1−エタン、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−ブタン、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−オクタン、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−1,1−シクロペンタン、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−1,1−シクロヘキサン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等が挙げられる。
残存させるべき2,4’−ビスフェノール化合物は、原料4,4’−ビスフェノール化合物の種類によっても相違するが、ビスフェノールAの場合は、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン(以下、「2,4’−ビスフェノールA」又は「2,4’−BPA」と略称する。)が好ましい。
【0040】
ここで、前記式(6)で表される2,4’−ビスフェノール化合物を含有した芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する方法としては、以下の方法が挙げられる。
例えば、フェノールとアセトンとを強酸性イオン交換樹脂等の酸性触媒の存在下で反応させて、ビスフェノールAを製造する際には、副生物としての2,4’−ビスフェノールAを含む反応混合物が得られので、この反応混合物からビスフェノールA及び2,4’−ビスフェノールA等を、それぞれ精製分離する。すなわち、反応混合物に過剰のフェノールを加え、これを溶解させた後冷却して、ビスフェノールAとフェノールとのモル比1:1のアダクト(付加物結晶)として晶析させる。析出したアダクト結晶は、濾過、遠心分離等により母液と分離し、残存させるべき2,4’−ビスフェノール化合物見合いで、さらに、フェノール等に再溶解後、晶析、分離の操作を繰り返して、目的の純度のビスフェノールAを得ることができる。
【0041】
残存させるべき2,4’−ビスフェノール化合物の適量は、製品である分岐化芳香族ポリカーボネートの、主鎖中に含まれる式(1)〜(3)で表される構造単位の含有量の目標値によっても相違するが、2,4’−ビスフェノール化合物の量が、通常芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、120〜9,000重量ppmの範囲内であり、好ましくは150〜8,000重量ppmの範囲内に、より好ましくは200〜7,000重量ppm、その上に好ましくは300〜3,000重量ppmの範囲内に設定するのがよい。この範囲より少なすぎると、分岐度が不十分となり、高荷重での流動性が上がらず、一方、多すぎると、分岐化が進み過ぎ、ゲル化し、ポリマーの成形が困難となるので好ましくない。
【0042】
本発明の分岐化芳香族ポリカーボネートは、エステル交換法で製造されることにより、重合反応途中で一部転位反応を伴って得られるものである。
この転位反応は、下式に示すとおり、炭酸エステル結合を形成するカルボニル基が、芳香族環の2位または4位に転位するものであり、4,4’−ビスフェノール化合物に由来する構造単位(A)からは上記式(1)で表される構造単位が、また、2,4’−ビスフェノール化合物に由来する構造単位(B)からは上記式(2)または(3)で表される構造単位が生成する。(但し、一つの分子鎖には多数の構造単位(B)があり、その場合式(2)、(3)の両方が混ざった構造になる。)
【0043】
【化15】
【0044】
このような、転位反応の程度は重合反応条件によるが、好ましくは、特に、2,4’−ビスフェノール化合物の量が、通常芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、前記した量であり、また、エステル交換触媒が、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10-8〜1×10-5モル、好ましくは1×10-7〜8×10-6、特に好ましく3×10-7〜2×10-6の範囲内で用いられた場合に、上記式(1)、(2)、(3)で表される構造単位を適切な量とすることができる。
本発明の芳香族ポリカーボネートには通常の耐熱安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、滑剤、防曇剤、天然油、合成油、ワックス、有機系充填剤、無機系充填剤等の添加剤を添加してもよい。このような添加剤は、溶融状態にある樹脂に添加することもできるし、また一旦ペレット化された樹脂を再溶融して添加することもできる。
【0045】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例で、使用されたビスフェノールA及び得られた芳香族ポリカーボネートの分析は、以下の測定法により行った。
(1)ビスフェノールA中の2,4’−ビスフェノールA量
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し、検出波長280nmで測定を行った。含有量は、2,4’−ビスフェノールAの検量線より求めた。
【0046】
(2)前記式(1)〜(5)で表される構造単位の含有量
芳香族ポリカーボネート(試料)1gを、塩化メチレン100mlに溶解した後、28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液18ml及びメタノール80mlを加え、さらに純水25mlを添加した後、室温で2時間攪拌して完全に加水分解した。その後、1規定塩酸を加えて中和し、塩化メチレン層を分離して加水分解物を得た。
加水分解物0.05gをアセトニトリル10mlに溶解し、逆相の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用し測定を行った。逆相液体クロマトグラフィーは、溶離液としてアセトニトリルと10mM酢酸アンモニウム水溶液とからなる混合溶媒を用い、アセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム水溶液比率を20/80からスタートし80/20までグラジュエントする条件下、カラム温度40℃で測定を行い、検出は波長280nmのUV検出器((株)島津製作所製、SPD−6A)を用いた。
前記式(1)〜(5)で表される構造単位は、下記式(14)〜(18)の化合物として検知されるので、Agilent(株)製LC−MS(Agilent−1100)及び日本電子製NMR(AL−400)を用いて同定した。また、各構造単位の含有量は、ビスフェノールAの検量線を作成し、ビスフェノールAのピーク面積に対する各々のピーク面積より算出した。
【0047】
【化16】
【0048】
(3)粘度平均分子量
ウベローデ粘度計を用いて、芳香族ポリカーボネート(試料)の塩化メチレン中20℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式より求めた。
【数1】
[η]=1.23×10-4×(Mv)0.83
【0049】
(4)色相(YI)及び滞留安定性(耐熱色相YI)
芳香族ポリカーボネート(試料)から射出成形機を用い以下の条件で成形品を得た。
YI測定用には、280℃での、また滞留安定性測定用には、360℃、10分間滞留で5ショット目の100mm×100mm×3mm厚のプレスシートについて、カラーテスター(スガ試験機株式会社製SC−1−CH)で、色の絶対値である三刺激値XYZを測定し、次の関係式により黄色度の指標であるYI値を計算した。
【数2】
YI=(100/Y)×(1.28×X−1.06×Z)
このYI値が大きいほど着色していることを示す。
【0050】
(5)MI及び分岐度(MIR)
芳香族ポリカーボネート(試料)について、JIS K 7210のメルトマスフローレイト(MFR)の試験方法に倣い、260℃における21.6kgと2.16kgの荷重によって10分間に押し出されたサンプル重量(g)を測定し、MI(21.6kg)及びMI(2.16kg)とした。この値が大きいほど流動性が大きいことを示す。
また、上記のようにして測定した、MI(21.6kg)/MI(2.16kg)比で分岐度(MIR)を表す。この値が大きいほど分岐化の度合いが大きいことを示す。
【0051】
[実施例1]
常法により、フェノールとアセトンとを強酸性イオン交換樹脂の存在下で反応させ、得られたビスフェノールA反応混合物に過剰のフェノールを加え、これを溶解させた後冷却して、ビスフェノールAとフェノールとのアダクト(付加物結晶)として晶析させた。析出したアダクトは、濾過により母液と分離し、さらに、2,4’−ビスフェノールAを200重量ppm含有するビスフェノールAが得られるまで、フェノールに溶解後、晶析、分離した。
ジフェニルカーボネートと得られたビスフェノールAとを、窒素ガス雰囲気下、一定のモル比(DPC/BPA=1.040)に混合調製した溶融液を、88.7kg/時の流量で、原料導入管を介して、220℃、1.33×104 Paに制御した容量100Lの第1竪型撹拌重合槽内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けられたバルブ開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。また、上記混合物の供給を開始すると同時に、触媒として、水酸化ナトリウム水溶液をビスフェノールA1モルに対し、1.0×10-6モルの割合で連続供給した。
【0052】
槽底より排出された重合液は、引き続き、第2、第3の容量100Lの竪型攪拌重合槽及び第4の容量150Lの横型重合槽に逐次連続供給され、第4重合槽底部のポリマー排出口から抜き出された。次に、溶融状態のままで、このポリマーを2軸押出機に送入し、p−トルエンスルホン酸ブチル(触媒として使用した炭酸セシウムに対して4倍モル量)を連続して混練し、ダイを通してストランド状として、カッターで切断してペレットを得た。第2〜第4重合槽での反応条件は、それぞれ第2重合槽(240℃、2.00×103 Pa、75rpm)、第3重合槽(270℃、66.7Pa、75rpm)、第4重合槽(275℃、26.7Pa、5rpm)で、反応の進行とともに高温、高真空、低攪拌速度に条件設定した。また、反応の間は、第2〜第4重合槽の平均滞留時間が60分となるように液面レベルの制御を行い、また、同時に副生するフェノールの留去も行った。
粘度平均分子量24,400のポリカーボネートが得られ、前記式(1)〜(5)で表される構造単位の含有量、色相(YI)、滞留安定性、MI及び分岐度(MIR)を測定した。結果を表−1に示す。
【0053】
[実施例2〜3、比較例1]
実施例1において、表−1に記載のビスフェノールAを使用した以外は実施例1と同様の方法で重合を行い、芳香族ポリカーボネートを製造した。結果を表−1に示した。
[比較例2]
比較例1において、分岐剤として1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン(THPE)をビスフェノールAに対して、0.3モル%添加した以外は比較例1と同様の方法で重合を行い、芳香族ポリカーボネートを製造した。結果を表−1に示した。
【0054】
【表1】
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、芳香族ポリカーボネートは、高荷重での流動性が改良され、さらに良好な色相を有するので、押出による加工及び射出成形、特に高融体強度及び押出物の優れた形状保持特性を有する材料を必要とするブロー成形による中空部分及び大型パネルの用途に好適である。
Claims (11)
- エステル交換法により得られる粘度平均分子量16,000以上の芳香族ポリカーボネートであって、その主鎖中に含まれる下記式(1)で表される構造単位の量が2,000〜50,000重量ppmの範囲内にあり、かつその主鎖中に含まれる下記式(2)、(3)で表される構造単位の量がそれぞれ30〜10,000重量ppmの範囲内にある、該式(1)〜(3)で表される構造単位の量は、ポリカーボネートをアルカリ加水分解後、高速液体クロマトグラフィーにより、それぞれ、下記式(9)〜(11)の化合物として検知された量を、ポリカーボネート中の含有量(重量ppm)で表示した、ことを特徴とする分岐化芳香族ポリカーボネート。
- 主鎖中に含まれる下記式(4)、(5)で表される構造単位の合計量が10〜10,000重量ppmの範囲内にある、該式(4)、(5)で表される構造単位の量は、ポリカーボネートをアルカリ加水分解後、高速液体クロマトグラフィーにより、それぞれ、下記式(12)、(13)の化合物として検知された量を、ポリカーボネート中の含有量(重量ppm)で表示した、ことを特徴とする請求項1記載の分岐化芳香族ポリカーボネート。
- 主鎖中に含まれる式(1)で表される構造単位の量が3,000〜10,000重量ppmの範囲内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の分岐化芳香族ポリカーボネート。
- 主鎖中に含まれる式(2)、(3)で表される構造単位の量がそれぞれ30〜5,000重量ppmの範囲内にあることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネート。
- 主鎖中に含まれる式(4)、(5)で表される構造単位の合計量が10〜3,000重量ppmの範囲内にあることを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネート。
- 粘度平均分子量18,000以上である請求項1ないし5のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネート。
- 炭酸ジエステルと芳香族ジヒドロキシ化合物とを反応させて芳香族ポリカーボネートを製造するに際し、下記式(6)で示される2,4’−ビスフェノール化合物を120〜9,000重量ppm含有する芳香族ジヒドロキシ化合物を用い、かつ、エステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、1×10 -8 〜1×10 -5 モル用いることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 前記2,4’−ビスフェノール化合物が、2,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパンであることを特徴とする請求項7に記載の分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 前記2,4’−ビスフェノール化合物を150〜8,000重量ppm含有する芳香族ジヒドロキシ化合物を用いることを特徴とする請求項7又は8に記載の分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 炭酸ジエステルがジフェニルカーボネートであることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法。
- 芳香族ジヒドロキシ化合物が2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンであることを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の分岐化芳香族ポリカーボネートの製造方法。
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