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JP4068827B2 - フィルム原料用多層構造重合体の製造方法およびこれを用いたアクリル樹脂フィルム - Google Patents

フィルム原料用多層構造重合体の製造方法およびこれを用いたアクリル樹脂フィルム Download PDF

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秀幸 藤井
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フィルム原料用多層構造重合体の製造方法およびこれを用いた耐候性、透明性、および印刷性に優れたアクリル樹脂フィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴムを含有するアクリル樹脂からなるアクリル樹脂フィルムは、透明性、耐候性、柔軟性、加工性における優れた特長を生かし、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品の表面に積層し、車輌内装、家具、ドア材、窓枠、巾木、浴室内装等の建材用途等の表皮材、マーキングフィルム、高輝度反射材被覆用フィルムとして使用されている。
【0003】
従来、上記用途に用いられるアクリル樹脂フィルム用原料としては、様々な樹脂組成物が提案され、実用化されている。このうち、特に耐候性、透明性に優れ、かつ耐折り曲げ白化性等の耐ストレス白化性に優れたアクリル樹脂フィルムを与える原料として、特公昭62−19309号公報、特公昭63−8983号公報等に記載されているアルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を重合体の構成成分とする特定構造の多層構造重合体が知られている。
【0004】
この多層構造重合体をフィルム用原料として使用したアクリル樹脂フィルムは、その優れた特性を生かし、各種工業用部材に広く使用されている。
【0005】
一方、アクリル樹脂フィルムは、その表面に印刷を施し、これを各種基材に積層させることによって基材表面の意匠性を高めることができ、この用途は塗装代替技術として基材表面の加飾に広く用いられている。
【0006】
塗装代替として用いられるアクリル樹脂フィルムとしては、アクリル樹脂の特長である耐候性、透明性に加えフィルム表面に印刷を施した際に印刷抜けの原因となるフィッシュアイが少ないことが必要となる。
【0007】
また、アクリル樹脂フィルムの別の用途として、液晶ディスプレイ等の偏光板に使用される偏光膜保護フィルムあるいは視野角補償、位相差補償のための位相差板に使用される位相差フィルムがある。これら偏光膜保護フィルムおよび位相差フィルムにおいては光学的に均一性が高く、高い透明性を示すと同時に長径200〜400μmといった極めて微小の欠陥が存在してもこれら光学用フィルムとしての品質が低下し、使用する樹脂フィルムのフィッシュアイに関しても極めて少ないレベルであることが必要となる。
【0008】
アクリル樹脂フィルム中に存在するフィッシュアイとしては、以下の要因が知られている。
【0009】
▲1▼原料製造時、フィルム成形時に混入する夾雑物由来
▲2▼フィルム成形時に発生するポリマーゲル状物由来
▲1▼の原料製造時、フィルム成形時に混入する夾雑物由来のフィッシュアイについては、フィルム原料製造時に混入する糸屑、金属片等の夾雑物やフィルム成形時にその環境下に存在し、フィルム表面あるいは内部に混入する夾雑物がフィッシュアイの原因となるものである。
【0010】
従来、このような夾雑物を排除し、印刷性に優れたアクリル樹脂フィルムを得る方法として、特開平9−263614号公報に、乳化重合法で得たフィルム原料用多層構造重合体ラテックスを特定の目開きのフィルターにより濾過し、さらに特定の目開きのスクリーンメッシュを備えた押出機にて押出成形する方法が提案されている。また、特開平11−228710号公報には、フィルム成形時に溶融樹脂を2本の鏡面ロールで挟持し、鏡面をフィルムに転写することで印刷性に優れたアクリル樹脂フィルムを製造する方法が提案されている。
【0011】
一方、▲2▼のフィルム成形時に発生するポリマーゲル状物由来のフィッシュアイは、フィルム原料用アクリル樹脂を加熱溶融して成形する際に、成形に用いる押出機あるいはTダイ等の成形設備中で生起する架橋反応によって発生するポリマーゲル状物がフィルム中に混入することによるフィッシュアイである。従来、特開2000−212300号公報に、乳化液状の抗酸化剤を含有する多層構造重合体ラテックスを凝析して得られるポリマーを原料に用いたアクリル樹脂フィルムが提案されている。
【0012】
しかしながら、上述の従来技術を用いて製造した多層構造重合体をフィルム原料としたアクリル樹脂フィルムのフィッシュアイ数のレベルでは、濃色木目等の印刷柄を施す用途には使用可能であるものの、印刷時の印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷り印刷では印刷抜けが目立つ場合があった。
【0013】
また、該アクリル樹脂フィルムを偏光板の偏光膜保護フィルムあるいは位相差板の位相差フィルム等の光学用フィルムに使用した際に、フィッシュアイに起因する光学歪が大きく、これらの用途に使用することが困難であった。
【0014】
一方、フィルム原料用多層構造重合体は、公知技術にある乳化重合法によって製造される。この乳化重合法において、得られる重合体の品質を安定化させるための様々な技術手法が従来提案されている。
【0015】
特開平10−60016号公報には、特定組成の架橋重合体微粒子を製造する際に、単量体混合物、水性媒体および乳化剤を分散させた単量体乳化液を重合槽内に供給することにより、重合槽へのスケール付着を低減する方法が、また、特開2000−319480号公報には、ゴム状重合体を含むグラフト共重合体の製造において、ゴム状重合体を与える単量体混合物を水性媒体および界面活性剤と接触させた混合液を重合槽内に供給する方法により、スケール付着を低減させることが提案されている。
【0016】
しかしながら、これら公知技術はいずれも乳化重合時のスケール付着防止による品質の安定化や生産性の向上、さらに乳化剤減量による熱可塑性樹脂と混合した樹脂組成物の性能、品質の向上については示唆しているものの、フィルム用原料として用いられる多層構造重合体の品質向上に関する記載は全くなく、またフィッシュアイの少ない高品質のアクリル樹脂フィルムを得るためのフィルム原料およびその製造方法については具体的な開示がない。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、従来はフィッシュアイ由来の印刷抜けが少なく、各種印刷柄に対応可能な高いレベルの印刷性やフィッシュアイ由来の光学歪が小さく、各種光学用フィルムに使用可能なアクリル樹脂フィルムを与えるフィルム原料用多層構造重合体およびその製造法については見出されておらず、これを満足する技術の開発が強く望まれていた。
【0018】
本発明の目的は、上述の用途に使用可能なフィッシュアイが少ないアクリル樹脂フィルムを得るためのフィルム原料用多層構造重合体の製造法およびこれを含むアクリル樹脂フィルムを提供することにる。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、アクリル樹脂フィルムのフィッシュアイ数とその原料となる多層構造重合体の性状について鋭意検討を行い、多層構造重合体を特定の溶剤に分散させた分散液中に存在する粒子数を特定することにより、フィッシュアイが少ないアクリル樹脂フィルムが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
すなわち本発明は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも重合体の構成成分としてなる最内層重合体(A)層、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも重合体の構成成分としてなる架橋弾性重合体(B)層、および炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを少なくとも重合体の構成成分としてなる最外層重合体(C)層を基本構造体として有し、さらに架橋弾性重合体(B)層と最外層重合体(C)層の間に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤とを少なくとも構成成分としてなり、かつアルキルアクリレート成分量が架橋弾性重合体(B)層から最外層重合体(C)層に向かって単調減少する中間層(D)を少なくとも一層有し、かつアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり0〜50個であるフィルム原料用多層構造重合体を、最内層重合体(A)層を与える炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも含む単量体混合物を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間層(D)および最外層重合体(C)層を与える単量体あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し重合することにより製造する方法およびこれを用いたフィルムにある。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の乳化重合法により製造されるフィルム原料用多層構造重合体は、2段以上の乳化重合法により製造され、2層以上の層構造を有する重合体であり、この重合体は樹脂フィルムの主原料として使用されるものである。
【0022】
本発明の乳化重合法により製造されるフィルム原料用多層構造重合体は、これをアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり0〜50個でなければならない。分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり50個を超えた場合は、多層構造重合体を原料として使用したフィルムのフィッシュアイレ数が多くなり、フィルムの印刷性の低下あるいは光学歪の増大を招き工業的価値が低くなる。さらに好ましい、多層構造重合体をアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数は、多層構造重合体100gあたり0〜30個、さらに好ましくは0〜20個の範囲である。
【0023】
上記多層構造重合体をアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数は、フィルムの印刷性あるいは光学歪の大きさに連動する。
【0024】
なお、多層構造重合体をアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数は、秤量した粉状の多層構造重合体をアセトン中に、濃度5重量%〜10重量%の範囲で分散させ、分散液を調製し、この分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数をJIS B9921に準拠する光散乱式のパーティクルカウンター等により測定することにより求めることができる。
【0025】
また、分散液を調製する際は、アセトンを十分多層構造重合体粒子間に浸透させるために、予め多層構造重合体を55μmより小さい目開きのメッシュ上で多層構造重合体の良溶媒にて超音波洗浄させた後、メッシュ上の残存物を再度アセトン中に分散させることにより、分散液を調製する方法が、正確な分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数を測定する方法として好ましい。
【0026】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体の好ましい例としては、公知技術として知られているアルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を重合体の構成成分とする多層構造重合体であり、これをフィルム原料として使用したアクリル樹脂フィルムは、優れた耐候性、透明性および耐ストレス白化性を有する。
【0027】
さらに好ましい多層構造重合体の具体例としては、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも重合体の構成成分としてなる最内層重合体(A)層、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも重合体の構成成分としてなる架橋弾性重合体(B)、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを少なくとも重合体の構成成分としてなる最外層重合体(C)を基本構造体として有し、さらに架橋弾性重合体(B)層と最外層重合体(C)層の間に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤とを少なくとも構成成分としてなり、かつアルキルアクリレート成分量が架橋弾性重合体(B)層から最外層重合体(C)層に向かって単調減少する中間層(D)を少なくとも一層有する多層構造重合体である。
【0028】
好ましい多層構造重合体を構成する最内層重合体(A)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートまたは炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(A1)と、必要に応じて用いる共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A2)と、必要に応じて用いる多官能性単量体(A3)と、グラフト交叉剤(A4)とを構成成分としてなる重合体であって、多層構造の少なくとも最内層の基本構造を構成する。
【0029】
最内層重合体(A)を構成する成分(A1)のうち、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートは、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を混合して使用できる。こららの中では、ガラス転移温度(以下「Tg」と記す)の低いものがより好ましい。また、成分(A1)のうち、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートは、直鎖状、分岐状のいずれでもよい。その具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を混合して使用できる。
【0030】
アルキル(メタ)アクリレート(A1)は、成分(A1)〜(A3)合計量100質量部に対し、80〜100質量部の範囲内で用いることが好ましい。また、最内層重合体(A)において用いた種類のアルキル(メタ)アクリレートを、その後全多段層においても統一して用いるのが最も好ましい。ただし、全多段層の各々において、二種以上のアルキル(メタ)アクリレートを混合したり、別種のアクリレートを用いたりしても構わない。なお「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味するものとする。
【0031】
最内層重合体(A)を構成する共重合可能な二重結合を有する他の単量体(A2)は、必要に応じて用いればよい。その具体例としては、炭素数9以上のアルキル基を有する高級アルキルアクリレート、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート等のアクリレート単量体、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。単量体(A2)は、成分(A1)〜(A3)合計100質量部に対し、0〜20質量部の範囲内で用いることが好ましい。
【0032】
最内層重合体(A)を構成する多官能性単量体(A3)は、必要に応じて用いればよい。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼンなども使用可能である。また、多官能性単量体(A3)が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤が存在する限りかなり安定な多層構造重合体を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に用いればよい。多官能性単量体(A3)は、成分(A1)〜(A3)合計100質量部に対し、0.01〜10質量部の範囲内で用いることが好ましい。
【0033】
最内層重合体(A)を構成するグラフト交叉剤(A4)としては、共重合性のα、β−不飽和カルボン酸またはジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはフマル酸のアクリルエステルが好ましい。これらの中では、特にアリルメタクリレートが優れた効果を奏する。その他、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も有効である。グラフト交叉剤(A4)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基またはクロチル基よりはるかに早く反応し、化学的に結合する。この間、アリル基、メタリル基またはクロチル基の実質上のかなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
【0034】
グラフト交叉剤(A4)の使用量は極めて重要であり、成分(A1)〜(A3)の合計量100質量部に対し0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜2質量部がより好ましい。これら範囲の下限値は、グラフト結合の有効量の点で意義が有る。また上限値は、二段目に重合形成される架橋弾性重合体(B)との反応量を適度に抑え、二層弾性体構造からなる二層架橋ゴム弾性体の弾性低下を防止する点で意義がある。
【0035】
好ましい多層構造重合体中の最内層重合体(A)の含有量は5〜35質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。また、架橋弾性重合体(B)の含有量よりも少ない方が好ましい。
【0036】
好ましい多層構造重合体を構成する架橋弾性重合体(B)は、多層構造重合体にゴム弾性を与える主要な成分であり、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(B1)と、必要に応じて用いる共重合可能な二重結合を有する他の単量体(B2)と、必要に応じて用いる多官能性単量体(B3)と、グラフト交叉剤(B4)とを構成成分としてなる架橋弾性重合体である。
【0037】
成分(B1)〜(B4)の好ましい具体例は、それぞれ最内層重合体(A)の成分(A1)〜(A4)で挙げたものと同様である。成分(B1)の使用量は80〜100質量部が好ましい。成分(B2)の使用量は0〜20質量部が好ましい。成分(B3)の使用量は0〜10質量部が好ましい。成分(B4)の使用量は0.1〜5質量部が好ましい。これら使用量の範囲は、成分(B1)〜(B3)の合計100質量部を基準とする。
【0038】
架橋弾性重合体(B)単独のTgは、0℃以下が好ましく、−30℃以下がより好ましい。このTgが0℃以下の場合、優れた弾性を示す傾向がある。多層構造重合体(E)中の架橋弾性重合体(B)の含有量は10〜45質量%が好ましく、また、最内層重合体(A)の含有量よりも多いことが好ましい。
【0039】
好ましい多層構造重合体を構成する最外層重合体(C)は、多層構造重合体の成形性、機械的性質等に関与する成分であり、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(C1)と、必要に応じて用いる共重合可能な二重結合を有する他の単量体(C2)とを構成成分としてなる重合体であって、多層構造の少なくとも最外層の基本構造を構成する。
【0040】
成分(C1)および(C2)の好ましい具体例は、それぞれ最内層重合体(A)の成分(A1)および(A2)で挙げたものと同様である。成分(C1)の使用量は51〜100質量部が好ましい。成分(C2)の使用量は0〜49質量部が好ましい。これら使用量の範囲は、成分(C1)および(C2)の合計100質量部を基準とする。
【0041】
最外層重合体(C)単独のTgは、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。多層構造重合体中の最外層重合体(C)の含有量は10〜80質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。
【0042】
好ましい多層構造重合体は、以上説明した最内層重合体(A)、架橋弾性重合体(B)および最外層重合体(C)を基本構造体として有する。そして、さらに、架橋弾性重合体(B)層と最外層重合体(C)層の間には、中間層(D)を設ける。
【0043】
この中間層(D)は、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート(D1)と、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレート(D2)と、必要に応じて用いる共重合可能な二重結合を有する他の単量体(D3)と、必要に応じて用いる多官能性単量体(D4)と、グラフト交叉剤(D5)とを重合体の構成成分とし、かつアルキルアクリレート成分量が架橋弾性重合体(B)層から最外層重合体(C)層に向かって単調減少する層である。
【0044】
ここで単調減少するとは、中間層(D)は架橋弾性重合体(B)と最外層重合体(C)の中間のある一点の組成を有するもの、架橋弾性重合体(B)から最外層重合体(C)に組成が徐々に(連続的に)近付くもの、および組成が段階的に近付くことをいい、特に、中間のある1点の組成を有するものが、生産性の点でよい。
【0045】
成分(D1)〜(D5)の好ましい具体例は、それぞれ最内層重合体(A)の成分(A1)〜(A4)で挙げたものと同様である。特に、中間層(D)に用いるグラフト交叉剤(D5)は、各重合体層を密に結合させ、優れた諸性質を得る為に必要な成分である。
【0046】
成分(D1)の使用量は10〜90質量部が好ましい。成分(D2)の使用量は10〜90質量部が好ましい。成分(D3)の使用量は0〜20質量部が好ましい。成分(D4)の使用量は0〜10質量部が好ましい。成分(D5)の使用量は0.1〜5質量部が好ましい。これら使用量の範囲は、成分(D1)〜(D4)の合計100質量部を基準とする。
【0047】
好ましい多層構造重合体中の中間層(D)の含有量は、5〜35質量%が好ましい。含有量が5質量%以上であれば中間層として良好に機能し、35質量%以下であれば最終重合体のバランスが良好となる。
【0048】
本発明の乳化重合法により製造されるフィルム原料用多層構造重合の平均粒子径としては、これを主成分とするフィルムの機械特性、透明性を考慮すると0.08〜0.2μmの範囲が好ましい。
【0049】
本発明のアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり0〜50個であることを特徴とするフィルム原料用多層構造重合体を乳化重合により得る方法としては特に限定されるものではないが、例えば上述の好ましい多層構造重合体を乳化重合により製造する場合は、特に最内層重合体(A)層を与える炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも含む単量体混合物を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間層(D)および最外層重合体(C)を与える単量体あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し重合する方法が好ましい。
【0050】
最内層重合体(A)層を与える単量体混合物を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合したさせることにより、特にアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり0〜50個である得られる多層構造重合体を容易に得ることができる。
【0051】
その際使用する単量体混合物と水との質量比としては、単量体混合物100質量部に対し水10〜500質量部が好ましい、さらに好ましくは単量体混合物100質量部に対し水100〜300質量部の範囲である。
【0052】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン酸石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ヂオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0053】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体混合物を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体混合物を投入する方法、単量体混合物中に界面活性剤を仕込んだ後水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体混合物を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法および水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体混合物を投入する方法が本発明の多層構造重合体を得る方法として好ましい。
【0054】
また、最内層重合体(A)層を与える単量体混合物を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機およびホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置、膜乳化装置等が挙げられる。
【0055】
また、調製する乳化液としては、W/O型、O/W型のいずれの分散構造でも使用することができるが、特に水中に単量体混合物の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは50μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。100μmを超えた場合は、得られる多層構造重合体をアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が増える傾向にある。
【0056】
一方、本発明の好ましい多層構造重合体を構成する最内層重合体(A)層、架橋弾性重合体(B)層、中間層(D)層および最外層重合体(C)層を形成する際に使用する重合開始剤は公知のものが使用でき、その添加方法は水相、単量体相いずれか片方、または、双方に添加する方法を用いることができる。特に好ましい開始剤の例としては、過酸化物、アゾ系開始剤または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中でレドックス系開始剤がさらに好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0057】
特に、上述の最内層重合体(A)層を与える単量体混合物を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間層(D)および最外層重合体(C)を与える単量体あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む架橋弾性重合体(B)層、中間層(D)および最外層重合体(C)を与える単量体混合物を順次反応器に供給し重合する方法が、本発明の多層構造重合体を得る方法として最も好ましい。
【0058】
なお、重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは、60〜95℃である。
【0059】
上記の方法で得られる好ましい多層構造重合体を含むポリマーラテックスを必要に応じて濾材を配した濾過装置を用いて処理することができる。この濾過処理は、重合中に発生するスケールのラテックスからの除去あるいは重合原料中あるいは重合中に外部から混入する夾雑物を除去するためのものであり、より本発明の多層構造重合体を得るために好ましい方法である。
【0060】
なお、その際使用される濾材を配した濾過装置としては、袋状のメッシュフィルターを利用したISPフィルターズ・ピーテーイー・リミテッド社のGAFフィルターシステムや円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置あるいは濾材が該濾材面に対して水平の円運動および垂直の振幅運動をする振動型濾過装置が好ましい。
【0061】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体として好ましい多層構造重合体は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから多層構造重合体を回収することによって製造することができる。重合体ラテックスから多層構造重合体を回収する方法としては特に限定されないが、塩析または酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ、粉状で回収される。
【0062】
上記の方法で得られた粉状の多層構造重合体中には、アセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子が多層構造重合体100gあたり0〜50個の範囲でなければならない。
【0063】
上述の方法で製造される本発明の多層構造重合体は、フィルム用原料として使用される。特にアルキルアクリレート、アルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を重合体の構成成分とする多層構造重合体の場合は、アクリル樹脂フィルム用原料として使用される。
【0064】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体を用いたアクリル樹脂フィルムの厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは10〜500μmである。10〜500μm以下であると、適度な剛性となるためラミネート性、二次加工性等が容易となる。さらに製膜性が安定してフィルムの製造が容易となる。さらに好ましくは15〜200μmさらに好ましくは40〜200μmである。
【0065】
また、本発明のフィルム原料用多層構造重合体を用いてフィルムを成形する方法としては特に限定されるものではないが、公知の溶液流延法、Tダイ法、インフレーション法等の溶融押出法等が挙げられ、このうち経済性の点でTダイ法がもっとも好ましい方法である。
【0066】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体を用いたアクリル樹脂フィルムの熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)は70℃以上であることが好ましい。熱変形温度が70℃以上であると、フィルムを表面に有する積層体の加熱時後の表面荒れが発生し難くなる。また、熱変形温度が80℃以上の場合、例えばフィルム表面をエンボス加工等により粗面化処理した積層体を熱加工した際に、エンボス面の艶戻りによる意匠性低下を抑制することができ、このような用途にアクリル樹脂フィルムを使用する場合に工業的価値が高い。
【0067】
また、本発明の多層構造重合体を原料としてフィルムには、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、発泡剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、艶消剤、紫外線吸収剤等を含むことができる。特に基材の保護の点では、耐候性を付与するために、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。使用される紫外線吸収剤の分子量は300以上であることが好ましく、特に好ましくは400以上である。分子量が300より小さな紫外線吸収剤を使用すると、フィルムを製造する際に転写ロール等に揮発し、ロール汚れを発生させることがある。紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系または分子量400以上のトリアジン系のものが特に好ましく使用でき、前者の具体例としては、チバガイギー社のチヌビン234、旭電化工業社のアデカスタブLA−31、後者の具体例としては、チバガイギー社のチヌビン1577等が挙げられる。
【0068】
上記配合剤の添加方法としては、本発明の多層構造重合体を用いてフィルムを製膜するための製膜機に多層構造重合体とともに供給する方法と予め多層構造重合体に配合剤を添加した混合物を各種混練機にて混練混合する方法がある。後者の方法に使用する混練機としては、通常の単軸押出機、二軸押出機、バンバリミキサー、ロール混練機等が挙げられる。
【0069】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムは、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品等の基材の表面に積層することで、アクリル樹脂フィルムを表面に有する積層体を製造することができる。
【0070】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムには、各種基材に意匠性を付与するために、必要に応じて適当な印刷法により印刷を施し使用することできる。この場合、アクリル樹脂フィルムに片側印刷処理を施したものを用いることが好ましく、印刷面を基材樹脂との接着面に配することが印刷面の保護や高級感の付与の点から好ましい。また、基材の色調を生かし、透明な塗装の代替として用いる場合には、透明のまま使用することができる。特に、このように基材の色調を生かす用途には、本発明のアクリル樹脂フィルムは、ポリ塩化ビニルフィルムやポリエステルフィルムに比べ、透明性、深み感や高級感の点で優れている。
【0071】
また、本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムは、フィルム中のフィッシュアイが少ないため、特に印刷抜けが発生し易い印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷りのグラビア印刷を施した場合でも印刷抜けが少なく、従来知られている多層構造重合体をフィルム用原料したアクリル樹脂フィルムでは決して得られない、高いレベルの印刷性を有する。
【0072】
さらに、必要に応じてフィルムへのエンボス加工等の艶消処理や着色加工したものを用いることができる。
【0073】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムを積層する基材としては、各種樹脂成形品、木工製品および金属成形品が挙げられる。また樹脂成形品のうち、本発明のアクリル樹脂フィルムと溶融接着可能な熱可塑性樹脂成形品としては、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられるが、接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂あるいはこれらの樹脂を主成分とする樹脂が好まし。ただし、ポリオレフィン樹脂等の熱融着しない基材樹脂でも接着性の層を用いることで本発明のアクリル樹脂フィルムと基材を接着させることは可能である。
【0074】
本発明のアクリル樹脂フィルムを表面に有する積層体の製造方法として、2次元形状の積層体に成形する場合は、熱融着できる基材に対しては熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。また、熱融着しない基材に対しては接着剤を介して貼り合わせることは可能である。
【0075】
一方、3次元形状の積層体に成形する場合は、予め形状加工したアクリル樹脂フィルムを射出成形用金型に挿入するインサート成形法や金型内で真空成形後射出成形を行うインモールド成形法等の公知の成形方法を用いることができる。インモールド成形法は、フィルムを加熱した後、真空引き機能を持つ型内で真空成形を行う。該方法であると、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。加熱温度としてはアクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上であることが望ましい。これはフィルムの熱的性質、あるいは成形品の形状に左右されるが、通常70℃以上である。また、あまり温度が高いと表面外観が悪化したり、離型性が悪くなる。これもフィルムの熱的性質、あるいは成形品の形状に左右されるが、通常170℃以下であることが好ましい。
【0076】
インモールド成形法はこのように真空成形で三次元形状を付与した後、射出成形によりアクリル樹脂フィルムと基材樹脂を溶融一体化させることで表層にアクリル樹脂フィルム層を有するアクリル積層成形品を得ることができる。
【0077】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムあるいはアクリル樹脂フィルムを表面に有する積層体は、必要に応じて各種機能付与のための表面処理をアクリル樹脂フィルム表面に施すことができる。機能付与のための表面処理としては、シルク印刷、インクジェットプリント等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着、スパッタリング、湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、反射防止層形成、防眩処理等が挙げられる。
【0078】
本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムの別の用途として、液晶ディスプレイ等の偏光板に使用される偏光膜保護フィルムあるいは視野角補償、位相差補償のための位相差板に使用される位相差フィルムがある。これら偏光膜保護フィルムおよび位相差フィルムにおいては光学的な均一性、透明性と同時に光学的欠陥となるフィッシュアイ由来の光学歪がないことが必要であり、本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムは、従来にない高いレベルの低フィッシュアイ数を生かし、上記光学用フィルムへの使用が期待できる。
【0079】
また、本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムを表面を有する積層体の別の工業的利用分野として、道路標識、表示板あるいは視認性を目的とした安全器具に使用される高輝度反射材がある。高輝度反射材の種類としては、アルミニウム蒸着を施したガラスビーズを基材に埋め込んだカプセル型反射材、プリズム加工した樹脂シートを反射体として使用したプリズム型反射材等があり、いずれのタイプにおいても本発明のフィルム原料用多層構造重合体を使用したアクリル樹脂フィルムは反射材の表面に積層して使用する保護フィルムとして用いることができる。本発明のアクリル樹脂フィルムを表面に有する高輝度反射材は、フィッシュアイに由来する高輝度反射材の視認性の低下が少なく、高輝度反射材の保護フィルムとして工業的利用価値が極めて高い。
【0080】
【実施例】
以下実施例により本発明を説明する。
【0081】
なお、実施例および比較例中の「部」は「質量部」を「%」は「質量%」をそれぞれ表す。また、参考例中の略号は以下のとおりである。
【0082】
メチルメタクリレート MMA
ブチルアクリレート BA
アリルメタクリレート AMA
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート BD
t−ブチルハイドロパーオキサイド t−BH
クメンハイドロパーオキサイド CHP
n−オクチルメルカプタン n−OM
乳化剤(1):モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%とジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%混合物の水酸化ナトリウム部分中和物[商品名フォスファノールLO529、東邦化学(株)製]
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム EDTA
また、実施例、比較例で調製した多層構造重合体の評価、アクリル樹脂フィルムの諸物性は以下の試験法により実施した。
【0083】
1)乳化液中の分散相の平均粒子径測定
ガラス板上に乳化液を1滴滴下し、光学顕微鏡にて乳化液中の分散相20個の直径を計測し、これらの平均値より平均粒子径を求めた。
【0084】
2)多層構造重合体の質量平均粒子径
乳化重合にて得られた多層構造重合体のポリマーラテックスを大塚電子(株)製の光散乱光度計DLS−700を用い、動的光散乱法で測定しもとめた。
【0085】
3)スケール量
乳化重合後、重合槽および攪拌機に付着したスケールおよびラテックス中に浮遊しているスケールを500μmの目開きのメッシュにて回収して水洗、乾燥後その質量を測定した。この質量を重合槽に仕込んだ単量体混合物の総量にて除してスケール量を%表示で示した。
【0086】
4)多層構造重合体のゲル含有率
秤量した多層構造重合体をアセトン溶媒中還流下で抽出処理、この処理液を遠心分離により分別、固形分を乾燥後質量測定(抽出後質量)し、以下の式にて求めた。
【0087】
ゲル含有率(%)=(抽出前質量(g)−抽出後質量(g))/抽出前質量(g)
5)多層構造重合体中の粗大粒子数測定
多層構造重合体214.3gを25μmの目開きのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mlに投入後3時間攪拌し、多層構造重合体のアセトン分散液を調製した。次いでこの分散液を目開き32μmのナイロンメッシュにて濾過した後、メッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の補足物をクロロホルム洗浄した。次いで25μmの目開きのナイロンメッシュで濾過したアセトン150ml中に上記超音波洗浄後の補足物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理後、ナイロンメッシュを除去し、メッシュ補足物のアセトン分散液150mlを調製した。次いでこの分散液70mlをリオン株式会社製自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めた。
【0088】
6)フィルム組成物の熱変形温度
フィルム組成物ペレットを、射出成形にてASTM D648にもとづく熱変形温度測定試片に成形し、80℃で24時間アニール後、低荷重(0.45MPa)でASTM D648に従って測定した。
【0089】
7)フィルムの全光線透過率および曇価
JIS K6714に従って評価した。
【0090】
8)フィルムの表面光沢
フィルムの表面光沢はグロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製 GM−26D型)を用い、60゜での表面光沢を測定した。
【0091】
9)フィルムフィッシュアイ数
0.125mm厚のフィルム1m2中のフィッシュアイ数を、高速・高機能表面欠陥検査装置LSC−100(三菱レイヨン(株)製)で、光の透過率が75%以下となる1画素(0.4mm×0.5mm)以上の数を測定。
【0092】
10)印刷抜け数
フィルムに黒色ベタ刷りのグラビア印刷を行い、20m2のフィルム中の印刷抜けした数を目視にて測定し、1m2当たりの印刷抜け個数を求めた。
【0093】
(実施例1)多層構造重合体(H−1)の製造
攪拌機を備えた容器にイオン交換水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、BA4.5部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体混合物を投入し、攪拌混合した。次いで乳化剤(1)1.3部を攪拌しながら上記容器に投入し、再度攪拌を20分間攪拌を継続し、乳化液(N−1)を調整した。得られた乳化液中の分散相の平均粒子径は、10μmであった。
【0094】
次に、冷却器付き重合容器内にイオン交換水186.5部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、乳化液(N−1)を8分間かけて重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体(A−1)の重合を完結した。続いて、MMA1.5部、BA22.5部、BD1.0部、AMA0.25部からなる単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間で添加した後、60分間反応を継続させ、架橋弾性重合体(B−1)を含む二層架橋ゴム弾性体を得た。
【0095】
続いて、MMA6部、BA4部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の混合物を45分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層(D−1)を形成させた。
【0096】
次いで、MMA55.2部、BA4.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部からなる単量体混合物を140分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(C−1)を形成し、多層構造重合体(H−1)の重合体ラテックスを得た。
【0097】
重合後測定したスケール量は、0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
【0098】
得られた多層構造重合体(H−1)の重合体ラテックスを濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い濾過した後、酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(H−1)を得た。多層構造重合体(H−1)のゲル含有率は、60%であった。
【0099】
また、多層構造重合体(H−1)アセトン分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数は、多層構造重合体100gあたり10個であった。
【0100】
次に、多層構造重合体(H−1)100部、配合剤として旭電化(株)製「アデカスタブLA−31RG」2.1部、旭電化(株)製「アデカスタブAO−50」0.1部、旭電化(株)製「アデカスタブLA−57」0.3部を添加した後ヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練してペレットを得た。
【0101】
得られたペレットを使用して測定した熱変形温度の結果を表1に示す。
【0102】
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度70℃で50μm厚みのフィルムを製膜した。
【0103】
また、得られた各アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢およびフィルムフィッシュアイ数の各測定結果を表1に示す。
【0104】
また、アクリル樹脂フィルムにグラビア印刷を施した際の印刷抜け数を表1に示す。
【0105】
(実施例2)多層構造重合体(H−2)の製造
実施例1の多層構造重合体(H−1)の製造において、重合後の重合体ラテックスを濾過処理しないこと以外は同様の方法で多層構造重合体(H−2)を製造した。得られた多層構造重合体(H−2)のゲル含有率、アセトン分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数および多層構造重合体(H−2)を含むペレットを使用して測定した熱変形温度を表1に示す。また、多層構造重合体(H−2)を使用して製膜したアクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢、フィルムフィッシュアイ数および印刷抜け数の各測定結果を表1に示す。
【0106】
(実施例3)多層構造重合体(H−3)の製造
実施例1の多層構造重合体(H−1)の製造において、最外層重合体(C−1)を形成させるのに使用する単量体混合物をMMA58.2部、BA1.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部に変更する以外は同様の方法で乳化重合を実施し、多層構造重合体(H−3)の重合体ラテックスを得た。
【0107】
スケール量、質量平均粒子径を表1に示す。
【0108】
また、多層構造重合体(H−3)の重合体ラテックスを実施例1と同様の方法で、濾過、塩析、洗浄回収および乾燥し、多層構造重合体(H−3)を得た。
【0109】
得られた多層構造重合体(H−3)のゲル含有率、アセトン分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数および多層構造重合体(H−3)を含むペレットを使用して測定した熱変形温度を表1に示す。また、多層構造重合体(H−3)を使用して製膜したアクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢、フィルムフィッシュアイ数および印刷抜け数の各測定結果を表1に示す。
【0110】
(比較例1)多層構造重合体(L−1)の製造
冷却器付き重合容器内にイオン交換水195部を投入し、70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、MMA0.3部、BA4.5部、BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる単量体混合物および乳化剤(1)1.3部からなる混合物を8分間かけて重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、最内層重合体(A−4)の重合を完結した。続いて、MMA1.5部、BA22.5部、BD1.0部、AMA0.25部からなる単量体混合物をCHP0.016部と共に90分間で添加した後、60分間反応を継続させ、架橋弾性重合体(B−4)を含む二層架橋ゴム弾性体を得た。
【0111】
続いて、MMA6部、BA4部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の混合物を45分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層(D−4)を形成させた。
【0112】
次いで、MMA55.2部、BA4.8部、n−OM0.19部、およびt−BH0.08部からなる単量体混合物を140分間かけて重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(C−4)を形成し、多層構造重合体(L−1)の重合体ラテックスを得た。
【0113】
重合後測定したスケール量は、0.01%であり、質量平均粒子径は、0.12μmであった。
【0114】
得られた多層構造重合体(L−1)の重合体ラテックスを酢酸カルシウム3部を含む水溶液中で塩析させ、水洗回収後、乾燥し、粉体状の多層構造重合体(L−1)を得た。多層構造重合体(L−1)のゲル含有率は、60%であった。
【0115】
また、多層構造重合体(L−1)アセトン分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数は、多層構造重合体100gあたり103個であった。
【0116】
次に、多層構造重合体(L−1)100部、配合剤として旭電化(株)製「アデカスタブLA−31RG」2.1部、旭電化(株)製「アデカスタブAO−50」0.1部、旭電化(株)製「アデカスタブLA−57」0.3部を添加した後ヘンシェルミキサーを用いて混合し、この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製PCM−30)に供給し、混練してペレットを得た。
【0117】
得られたペレットを使用して測定した熱変形温度の結果を表1に示す。
【0118】
上記の方法で製造したペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度200℃〜240℃、Tダイ温度250℃、冷却ロール温度70℃で50μm厚みのフィルムを製膜した。
【0119】
また、得られた各アクリル樹脂フィルムの全光線透過率、曇価、表面光沢およびフィルムフィッシュアイ数の各測定結果を表1に示す。
【0120】
また、アクリル樹脂フィルムにグラビア印刷を施した際の印刷抜け数を表1に示す。
【0121】
【表1】
Figure 0004068827
実施例および比較例より、次のことが明らかとなった。
【0122】
1)実施例1〜3で製造したアセトン分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が、多層構造重合体100gあたり0〜50個である多層構造重合体(H−1〜3)を原料としたアクリル樹脂フィルムは、いずれも良好な製膜性、透明性、表面光沢を示すとともに、フィルム中のフィッシュアイ数および黒色ベタ刷りグラビア印刷を施した際の印刷抜けの個数が少なく、このようにフィッシュアイ数が少なく、印刷後の意匠性に優れたアクリル樹脂フィルムは工業的利用価値が高い。
【0123】
2)特に、実施例3のアクリル樹脂フィルムは、熱変形温度が80℃以上であり、例えばフィルム表面をエンボス加工等により粗面化処理した積層体を熱加工した際に、エンボス面の艶戻りによる意匠性低下を抑制することができ、工業的利用価値が高い。
【0124】
3)比較例1で製造したアセトン分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が、多層構造重合体100gあたり50個を超えた範囲である多層構造重合体(L−1)を原料としたアクリル樹脂フィルムは、いずれも良好な製膜性、透明性、表面光沢を示すものの、フィルム中のフィッシュアイ数および黒色ベタ刷りグラビア印刷を施した際の印刷抜けの個数が多く、このように印刷後の外観不良の多いアクリル樹脂フィルムは、高いレベルの意匠性が必要となる用途に使用することができないため工業的利用価値が低い。
【0125】
【発明の効果】
本発明は以上説明したとおりであり、次のように特別に顕著な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
【0126】
1)本発明の多層構造重合体をフィルム用原料としたアクリル樹脂フィルムは製膜性、透明性、表面光沢、および印刷性に優れる。
【0127】
2)特に印刷後の印刷抜け等の外観不良が少ないアクリル樹脂フィルムを得るための原料用多層構造重合体としては、従来知られている多層構造重合体では得られない非常に高いレベルであり、各種工業材料とりわけ積層用フィルム材料としての利用価値は極めて高い。

Claims (2)

  1. 炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも重合体の構成成分としてなる最内層重合体(A)層、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも重合体の構成成分としてなる架橋弾性重合体(B)層、および炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートを少なくとも重合体の構成成分としてなる最外層重合体(C)層を基本構造体として有し、さらに架橋弾性重合体(B)層と最外層重合体(C)層の間に、炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤とを少なくとも構成成分としてなり、かつアルキルアクリレート成分量が架橋弾性重合体(B)層から最外層重合体(C)層に向かって単調減少する中間層(D)を少なくとも一層有し、かつアセトン中に分散させた際にその分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数が多層構造重合体100gあたり0〜50個であるフィルム原料用多層構造重合体を、最内層重合体(A)層を与える炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレートおよび/または炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートおよびグラフト交叉剤を少なくとも含む単量体混合物を水および界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、架橋弾性重合体(B)層、中間層(D)および最外層重合体(C)層を与える単量体あるいは単量体混合物をそれぞれ順に反応器に供給し重合することにより製造する方法。
  2. 請求項1記載の多層構造重合体を成形してなる厚み10μm〜500μmのアクリル樹脂フィルム。
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