JP3978090B2 - 湯面位置検知方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種溶解炉や連続鋳造機等の鋼浴における湯面位置検知方法、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶湯の湯面位置を検知する技術については、いくつかの技術が提案されている。例えば、特開平6−229812号公報には、導電性セラミックス等の検知棒を湯面に接触させて、電気の通電の有無から湯面位置を検知する手法が紹介されている。この手法は、低融点金属に対しては実用的であるが、鋼等の高融点金属に対しては、セラミックスの耐食性と導電性とを両立させるのは難しく、侵食破損が起きやすくなってしまう問題がある。
【0003】
また、電磁誘導を利用した渦流センサ、γ線を用いた透過型湯面センサ等、非接触式の湯面検知装置も知られている。これらの手法も非常に有用ではあるが、液体金属の湯面を扱うような高温場対応のセンサとなると、その耐久性に特別な配慮をせざるを得ず、大変高価なものとなってしまう問題がある。
【0004】
一方、古くから経験的に実施されてきた手法としては、溶融金属の容器壁内に熱電対を湯面の高さ方向に並べて埋設しておき、その温度変化から定性的に湯面位置を「推定」する手法が知られている。例えば、連続鋳造機では、溶融金属冷却面である銅板可動面の背面に熱電対が埋め込まれており、その経時変化データから経験的に湯面位置変動を推定している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記のように鋼浴の容器壁に埋設した熱電対を利用する手法においては、理論的に湯面位置を決めているのではなく、例えば、上下2つの熱電対の温度が上がった(下がった)場合、その相対上昇値(相対下降値)に応じた湯面高さの上昇分(下降分)を予め決めておき、そのような修正を各時間で繰り返して湯面位置を推定するといった、非常に経験的なものであった。
【0006】
さらに、この手法では、湯面位置変動が起こってから、熱電対にその情報が伝わるまでの「遅れ時間」を理論的に、正確に考慮することが難しいといった問題もあった。
【0007】
これらの点に対して、発明者らは、特願2001−002680において、容器の側面内に埋設した複数の温度検出手段を用いて、その計測温度から熱流束分布を捉え、前記熱流束分布から湯面位置を算出することにより、湯面位置を正確に検知できる湯面位置検知装置、方法、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提案している。この先願発明は、湯面の上の熱流束と、湯面の下の液体側の熱流束の値が、湯面を境界として大きく変化するという物理的な考察からなされたものであり、特に、高温の流体の湯面位置を推定する装置としては、極めて有用である。
【0008】
ところが、湯面より下側の液体側の流れの形態が大きく変化する場合には、流体側の熱流束規定値(先見値)そのものが、大きく変動してしまうという問題が生じることが分かってきた。即ち、湯面より下の液体が、静止状態、または、流れの形態が一定している場合には、良好な湯面位置の推定が可能であるが、大きな変動がある場合には、湯面位置の推定を誤る可能性があることが明らかになった。このような大きな変動の例としては、高温流体に浸漬した液体供給ノズルの流出口の一部に付着物が付いたり外れたりすることで、ノズルの詰まり具合(容器への液体の供給量)が変化し、高温流体内部の流れが大きく脈動することなどが考えられる。
【0009】
本発明は前記の点を鑑みてなされたものであり、湯面より下の流体側の熱流束規定値(先見値)を適切に経時変化させて、流体の流れの形態変化による熱流束の変化の影響を合わせて考慮することで、湯面位置を正確に検知することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の湯面位置検知方法は、容器の側面の内部に上下方向に配列して埋設された複数の温度検出手段を用いて、前記容器内の流体の湯面位置を検知するに際して、検出された温度経時変化を用いた非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルによって、前記容器内の熱流束分布変化を、前記湯面より上方の層の熱流束を最小熱流束値とし、前記湯面より下の液体側の熱流束を最大熱流束値として二分割で表現し、この分割位置を湯面位置とする湯面位置検知方法において、前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値と前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値とを予め規定し、前記熱伝導方程式モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記最小熱流束規定値を中央値として、予め規定した上限値及び下限値の間に収まるように、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を時系列に変化させる手順と、前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最小熱流束推定値の偏差の二乗と、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最大熱流束推定値の偏差の二乗との和が最小となるように前記熱流束の分割位置を決める手順とを有する点に特徴を有する。
【0011】
また、本発明の湯面位置検知方法の他の特徴とするところは、前記熱伝導方程式モデルにより算出した前記熱流束推定値が、前記上限値を上回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量減少させ、前記下限値を下回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量増加させる点にある。
【0014】
本発明のコンピュータプログラムは、容器の側面の内部に上下方向に配列して埋設された複数の温度検出手段を用いて、前記容器内の流体の湯面位置を検知するに際して、検出された温度経時変化を用いた非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルによって、前記容器内の熱流束分布変化を、前記湯面より上方の層の熱流束を最小熱流束値とし、前記湯面より下の液体側の熱流束を最大熱流束値として二分割で表現し、この分割位置を湯面位置とする湯面位置を検知するためのコンピュータプログラムにおいて、湯面より上方の層の最小熱流束規定値を予め規定し、前記非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記最小熱流束規定値を中央値として、予め規定した上限値及び下限値の間に収まるように、湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を時系列に変化させる処理と、前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最小熱流束推定値の偏差の二乗と、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最大熱流束推定値の偏差の二乗との和が最小となるように前記熱流束の分割位置を決める処理とをコンピュータに実行させる点に特徴を有する。
また、本発明のコンピュータプログラムの他の特徴とするところは、前記非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記上限値を上回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量減少させ、前記下限値を下回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量増加させることを特徴とする。
【0015】
本発明のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、上記本発明のコンピュータプログラムを格納した点に特徴を有する。
【0016】
上記のようにした本発明においては、容器の側面の内部に埋設された熱電対等の温度検出手段での計測温度を用いて、熱伝導方程式モデルにより、前記温度検出手段での計測温度の変化を表現する熱流束分布(二分割)を算出する。温度検出手段の位置での温度変化は熱流束に応じて変化するものであり、熱流束分布(二分割)の境界位置から湯面位置を推定することにより、温度検出手段に情報が伝わるまでの「遅れ時間」等を考慮することができ、より正確に湯面位置を検知することが可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の湯面位置検知方法、装置、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
図1には、連続鋳造設備で用いられるモールド1の壁(側面)内部に複数の熱電対2を埋設させた例を示す。複数の熱電対2は、モールド1の壁内部で、湯面高さ方向(上下方向)に適当な間隔をおいて配列させられている。
【0019】
上記熱電対2で計測された温度情報は、湯面位置検知装置として機能するデータ処理装置3に伝えられる。データ処理装置3は、熱流束分布算出部3aと、湯面位置算出部3bとを備えており、以下に説明するようにしてモールド1内溶鋼の湯面位置を検知する。
【0020】
本発明の湯面位置の検知手法の概要について説明すると、従来は、熱電対で計測された温度そのものから湯面位置を推定していたのに対して、本発明では、熱電対2で計測された温度情報に基づいて、熱伝導方程式モデルを用いてモールド1の壁内面での熱流束分布を捉え、この熱流束分布に基づいて湯面位置を算出するものである。すなわち、熱流束分布算出部3aでは、熱電対2で計測された温度に基づいて、逆問題解析を行うことにより熱流束分布を算出する。
【0021】
ここで、図2に示すように、順問題解析とは、熱流束分布(qi)や熱伝達率等の境界条件を与え、壁内部の温度分布(Tj)の変化を求めるものであり、それに対して、逆問題解析とは、壁内部の温度分布(Tj)の変化があり、それを使って境界条件である熱流束分布(qi)を求めるものである。本発明では、下式(1)に示す非定常二次元熱伝導方程式を用いて、熱電対2により計測された温度分布から熱流束分布を求めるものである。なお、物性値は、一定値であることを仮定する。
【0022】
【数1】
【0023】
式(1)において、ρは壁内部材料の密度、Cpは壁内部材料の比熱、Tは壁内部の温度の計算値、tは時間、κは壁内部材料の熱伝導度を表す。
【0024】
湯面位置算出部3bでは、熱流束分布算出部3aにより算出された熱流束分布から湯面位置を算出する。図3(A)に示すようにモールド1の壁内面のうち、溶鋼に触れる部分と空気層、又は、パウダー層に触れる部分とでは、図3(B)に示すように、熱流束が極端に異なる。したがって、湯面高さXと熱流束qとの関係を捉えると、溶鋼部分と空気層(パウダー層)部分との境界部分、すなわち湯面位置で、熱流束分布は極端に変化する。そこで、ある熱電対2で計測された温度に基づいて、該熱電対2の計測温度の変化を最もよく表現する熱流束分布を求め、最大熱流束と最小熱流束との中間の熱流束となる位置を湯面位置とする。
【0025】
しかし、熱流束分布を正確に求めると処理に時間を要する上、また、湯面位置を検知するという点からいえば、極端に変化する熱流束分布を正確に求めてもさほど意味がない。そこで、図3(C)に示すように、熱流束の高いものと低いものとに二分割して表現し、この二分割の熱流束分布からある熱電対で計測される温度変化を最もよく表現する熱流束分布を決定する。すなわち、分割位置を変えていき、どの分割位置において、温度変化を最もよく表現する熱流束分布が表現されるかを解析し、その最適な分割位置を湯面位置とする。
【0026】
ここで、本発明の非定常二次元熱伝導方程式の逆問題定式化の一例について説明する。下式(2)のSr mは全体の目的関数を表し、式(3)は、実測温度Yと計算温度Tの偏差を表す目的関数を示す。式(4)は、計算を安定化するために付加した目的関数であり、空間分割方向の値の急激な変化を抑える働きがある。(4)中のα0やα1は、一定の経験値を与え、Regularization factorと呼ばれる。
【0027】
【数2】
【0028】
式(3)に示すように、未来時間の熱流束の関数形を仮定して、複数未来点データを用いて、最小二乗近似を行う。次に、式(3)に従い、ある熱電対で計測された温度Yと、熱流束の仮定値から熱伝導方程式モデルにより算出された温度Tとの間の二乗が最小となるように最適化を行う。次に、式(4)に従い、温度測定誤差があっても解が安定するように空間方向の正則化を行う。
【0029】
そして、式(2)を目的関数として、下式(5)に示すように、未知である熱流束分割領域に対して極小点を探す。
【0030】
【数3】
【0031】
ここで、下式(6)に示すように、解を安定させる目的で、各時間ステップの熱流束値が、一定の未来時間まで不変であると仮定する。時間ステップは、対象とする材料の熱物性・形状などによって変わる。モールドが数mm厚みの銅板の場合は、オーダー的には、0.1秒から10秒程度である。
【0032】
【数4】
【0033】
式(6)のqは熱流束を示し、m時間ステップにおける熱流束qmから、将来時間m+r−1時間ステップにおける熱流束qm+r-1が一定であると仮定している。
【0034】
そして、上式(5)の極小化を、上式(6)の仮定を用いて展開すると、下式(7)に示すように、マトリクス形に展開することができる。
【0035】
【数5】
【0036】
式(7)のXTXは式(2)右辺第1項から導かれ、XTXに続く2項(α0H0 TH0+α1H1 TH1)は、式(2)右辺第2項から導かれる(上付のTは、転置行列を表す)。Xの構成は、補足式として下部に、Xj,i,kとして示している。ここで、時間方向の分割数を示すiは、最大M時間ステップまで変化し、熱電対の数を示すjは、最大J個まで変化して、熱流束分布の分割数を示すkは、最大pまで変化する。式(8)中に示す上付の*は、繰り返し収束計算での参照値であることを示しており、T*は温度参照値、q*は熱流束参照値である。
【0037】
上式(7)は、温度変化が起きた場合の熱流束の変化を推定する式であり、各時間ステップにおいて、この式(7)を用いて各熱流束分割領域での熱流束を修正し、その経時変化を求める。このときに、熱伝導方程式モデルを使った順問題解析により温度分布を計算して、求めた熱流束qが妥当かどうかを調整し、次の時間ステップでの温度参照値T*とする。
【0038】
以下、図4のフローチャートを参照して、本発明における湯面位置検知処理を説明する。
【0039】
まず、適当な初期温度分布を与え(ステップS401)、湯面位置を仮定する(ステップS402)。該仮湯面位置に基づき、ある熱電対2で計測された温度変化を用いて、逆問題解析により、その仮湯面位置での最大熱流速推定値qL predict、最小熱流束推定値qU predictを算出する(ステップS403)。
【0040】
次に、仮湯面位置を変更し(ステップS404)、再度、仮湯面位置を求め(ステップS402)、該仮湯面位置におけるステップS403の算出処理を行う。この仮湯面位置の変更は、例えば上下に少なくとも1回づつ行い、ステップS403において算出されたqL predict、qU predictと、予め実験等を参考にして先験的に規定した最大熱流束規定値qL given、最小熱流束規定値qU givenとの間で下式(9)を満たす湯面位置を、実際の湯面位置として決定する(ステップS405)。
【0041】
【数6】
【0042】
式(9)において、kは熱流束分布の分割数を示し、最大熱流束推定値を求める際の分割数に相当する方をL、最小熱流束推定値を求める際の分割数に相当する方をUで表現する。
【0043】
その後、次の時間ステップt=t+Δtにおいても上記同様の処理を行い、湯面位置を決定する(ステップS406)。
【0044】
これらのステップの中で、湯面より下の熱流束に相当する先験的に規定した最大熱流束規定値qL givenについては、流体の流れが一定であれば、決まった概略値を仮定すれば問題ないが、現実的には大きく変動する可能性がある。一方、湯面より上の気体層、又は、パウダー層の熱流束に相当する先験的に規定した最小熱流束規定値qU givenは、大きく変化しないのが一般的である。従って、逆問題解析により推定した最小熱流束推定値qU predictが、最小熱流束規定値qU givenを中央値として、予め規定した上限値及び下限値の間に収まるように、湯面より下の流体側の最大熱流束規定値qL givenを変化させるようなロジックを加えることにより、湯面高さの推定精度を向上させる。
【0045】
湯面高さの推定精度を向上させるには、上限値と下限値を中央値にできるだけ近い値に設定することが望まれるが、これらがあまりにも中央値に接近しすぎると、常に、最小熱流束推定値が上限値と下限値を超えてしまい、計算が不安定となる原因になる。一方、これらがあまりに中央値から離れた値に設定すると、本発明の効果を失う。これらの値の設定は、材料の熱物性や試行錯誤に依るところが大きいが、中央値に対して3%〜20%加減した値を、それぞれ上限値、下限値とすれば、問題ないと考える。
【0046】
ここで、最大熱流束規定値qL givenを変化させる方法の一例を紹介する。式(9)を満たす解の組み合わせqL predict、qU predictの中で、qU predictが、予め規定した上限値及び下限値の間に収まらなかった場合、この解の組み合わせの次に、式(9)を満たす解の組み合わせを、新たな湯面高さ(解の組み合わせqL predict、qU predict)として設定する(現時間ステップ)。そして、次の時間ステップにおけるqL givenは、この現時間ステップでのqL predictを参考にして決める。勿論、この新たな解の組み合わせのqU predictも、予め規定した上限値及び下限値の間に収まらなかった場合、同様の手順により、その次に式(9)を満たす解の組み合わせを現時間ステップでの解の候補とし、再度上限値と下限値の間に収まらなかった場合は、この操作を何度も繰り返す必要がある。
【0047】
次の時間ステップにおけるqL givenの決め方であるが、例えば、(1)現時間ステップでのqL predictと全く等しいとする、または、(2)qL givenの単位変化量dqを決めておき、現時間ステップでのqL givenから、最終的なqL predictが単位変化量dq以上増えた場合は、qL given+dqとして、逆にdq以上減った場合は、qL given −dqとし、単位変化量dq以内の場合は、qL givenを変化させないようにすることもできる。
【0048】
また、更に発明者らが検討を重ねた結果、各時間ステップでの最小熱流束推定値qU predictの絶対値に応じて、最大熱流束規定値qL givenを修正することで、各時間ステップでの計算を経るごとに徐々に、最小熱流束推定値qU predictが、最小熱流束規定値qU givenを中央値として予め規定した上限値及び下限値の間に収まってくることを見出した。即ち、qL givenの単位変化量を決めておき、qU predictが上限値を上回った場合には、単位変化量だけqL givenを減少させ、qU predictが下限値を下回った場合には、単位変化量だけqL givenを増加させることで、各時間ステップでのqL givenを適切に再設定できるのである。この時、qU predictが、上限値と下限値の範囲内に収まった場合は、熱流束規定値qL givenを変化させない。
【0049】
以上の例では、qL givenの修正を各時間ステップで行い、現時間ステップにおいても、そのqL givenの修正値を用いて、湯面高さを決定するものであるが、より簡易的に、現時間ステップでのqL givenは、前時間ステップでの修正値を使って、湯面高さを決定し、修正したqL givenは、次の時間ステップでのqL givenとして計算するという手続きを採用しても、大局的な湯面高さの変化は捉えることができる。
【0050】
また、上式(7)を用いて、各時間ステップで熱流束を補正するが、この式だけでは修正が不十分となり、推定した熱流束の精度が悪くなる場合がある。この場合に、逆問題解析(式(7))に並行して、順問題熱伝導方程式モデルを計算して、qL predict、qU predictの更なる補正を施すと解が安定する。この場合、求めたqL predict、qU predictを参考にして、順問題の境界条件が定められるので、壁面内の温度分布がより正確に決定される。
【0051】
このとき、逆問題での熱流束分布が二分割であっても、順問題熱伝導方程式モデルの分割数は、より細かくとることが望ましい。例えば、計測すべき湯面高さ変動が1mmの場合、順問題での分割数は、それ以下にすべきである。これにより、1mm単位で逆問題の熱流束分割位置を変更することができ、qL predict、qU predictをより細かい範囲で変更可能となり、上式(9)の精度も向上する。
【0052】
以上述べた本実施の形態によれば、モールド1の壁内に埋設された熱電対2を用いるので、湯面に接触させるセンサ等に比べて、コストをかけずに湯面高さを検知することができる。しかも、熱電対2での計測温度そのものを用いるのではなく、モールド1の壁内面での熱流束分布を捉えて湯面高さを算出するので、時間遅れ等を考慮することができ、より正確に湯面高さを検知することができる。さらに、熱流束分布を分割して表現することにより、熱流束分布を求めるための処理時間を短縮化させることができる。
【0053】
なお、上記実施の形態ではモールド1を例に説明したが、本発明は、容器内の流体の湯面位置を検出するものであれば、他のものに適用してもかまわない。例えば、図5には、タンディッシュ4の壁(側面)内部に、複数の熱電対2を埋設させた例を示す。このタンディッシュ4の壁内部には、複数の熱電対2が湯面高さ方向(上下方向)に適当な間隔をおいて埋設させており、溶鋼の湯面高さを検知するようにしている。また、高炉等の側壁耐火物に埋め込まれた熱電対から、湯留りの在銑高さを検知することにも適用できる。
【0054】
さらに、上記に並べた複数の熱電対を一列として、これを容器の周囲方向に複数列並べることで、湯面位置の容器内分布を求めることができる。例えば、溶融金属に電磁力を与える等して、容器内に不均一な流れが生じたり、融金属等の局所的な盛り上がりが生じたりする場合も考えられる。このような場合でも、熱電対の列を容器の周囲方向に複数列配置することで、湯面位置の分布を計測することが可能となる。
【0055】
なお、本発明の湯面位置検知装置は、複数の機器から構成されるものであっても、1つの機器から構成されるものであってもよい。
【0056】
また、前述した本発明の処理手段は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等で構成されるものであり、RAMやROM等のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録されたプログラムが動作することで実現される。したがって、前記実施の形態の機能を実現するためのソフトウェアのプログラムコードをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムコードを格納した記憶媒体は本発明の範疇に含まれる。
【0057】
(実施例)
実際の連続鋳造機モールド内の鋼浴の湯面位置の経時変動を、本発明による湯面位置検知装置(以下、本発明装置と称する)により推定した結果の一例を示す。これは、ある熱電対の温度経時変化データを用いて、逆問題解法により2つの熱流束で表現した場合の計算結果である。なお、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
【0058】
図6に、モデルの概略を示している。厚さ8mmの銅板をモールド可動面とし、実際の操業では、7〜8ヘルツの周期で上下運動させている。シース熱電対4本TC1〜TC4(×で図示)が、銅板の湯面側側面から4mm深さ位置まで挿入されており、最上部熱電対は銅板上端部より60mmの位置にあり、その他の3本は、それぞれ下方に向かって20mmピッチで並べられている。実際の装置では、銅板の下端部は更に下まで繋がっているが、本モデルでは、上部から160mmを抜き出してモデル化している。
【0059】
図6には明示していないが、熱伝導方程式モデル(順問題)の解法として、有限要素法を用いており、この場合の分割数は、高さ方向40分割(1メッシュ4mm)、厚み方向2分割とした。
【0060】
逆問題解法で湯面位置を設定する場合も、この4mmメッシュを1単位とする。すなわち、図6の熱流束qL predict、qU predictの境界は、4mmずつずらしながら、上式(9)を満たす位置を探索した。
【0061】
銅板背面側は、既知の水冷条件と仮定し、h=30000W/m2℃の熱伝達係数と、水温Ta=25℃を与える。さらに各時間ステップで順問題から求めた銅板の背面表面温度Tsを使って、図示するように、8分割(この場合、逆問題1分割は、順問題の5分割に相当)として平均化し、q=h(Ta−Ts)により、それぞれの分割での熱流束qを既知として与えている。すなわち、上式(7)において、これらの分割でのΔqは既知とする。
【0062】
同様にして、上端部は、自然放冷条件として、20W/m2℃の熱伝達係数と、空気温度30℃から決まる熱流束qであり、下端部は断熱条件で、それぞれ既知とした。また、湯面より上の熱流束規定値q U given は、500kW/m2固定として、湯面より下の熱流束規定値q L given は、可変としている(初期値4180kW/m2)。湯面より上の熱流束上限値は、542kW/m2とし、湯面より上の熱流束下限値は、458kW/m2とした。各時間ステップでの式(9)の結果である、熱伝導方程式モデルにより算出した熱流束の最小値qU predictが、この上限値を超えた場合、湯面より下の熱流束規定値q L given を42kW/m2だけ減少させ、反対に、この下限値を下回った場合、湯面より下の熱流束規定値q L given を42kW/m2だけ増加させる。これらの各時間ステップでの熱流束規定値の変更は、次の時間ステップでの適用とし、現時間ステップでの値は、前の時間ステップで決めた値を適用している。
【0063】
上式(1)の熱伝導方程式モデルの銅板の熱物性値は、比重ρ=8960kg/m3、比熱Cp=0.40kJ/kg℃、熱伝導度k=380W/m℃の一定値を仮定した。銅板内の計算初期温度は、30℃均一とした。
【0064】
図7には、4本の熱電対の測定温度経時データを示す。銅板下部の熱電対ほど温度が高く、それぞれ、図6のTC1〜TC4に対応させて図示している。これらの値を使って湯面位置を推定した結果を図8に示す。同図において、実線は本発明装置による結果であり、破線は従来の方式(湯面より下の熱流束規定値qL givenを一定4180kW/m2とした)結果である。
【0065】
縦軸の湯面位置の値は、図6の下端部を原点としている。この例では、本発明及び従来の装置での湯面変動1メッシュが4mmと、比較的大きめに設定したので、ステップ状の変化になっている。
【0066】
両者の結果は、一部の傾向が一致しているが、完全な相関関係にはない。例えば、図8の3000秒から3050秒付近の湯面高さ変化の違いについて比較すると、本発明では、比較的高い位置での湯面位置で安定となっているのに対して、従来方式では、急激な湯面の低下を推定している。
【0067】
この結果とは別に、渦流センサを用いて、浴中央部での浴面変動を調べたが、本発明の推定結果の傾向と良好な相関関係にあり、本発明の方がより正確な湯面位置を推定しているものと推察された。
【0068】
湯面より下の熱流束規定値qL givenの経時変化を図9に示す(実線)。破線は従来方式の熱流束規定値を示したもので、4180kW/m2一定としている。図8の3000秒から3050秒付近の湯面高さ変化の違いについて、図9の同時刻と対応比較すると、本発明では、この時間帯では湯面より下の熱流束の大きな低下を推定している。これは、図7の温度経時変化と合わせて比較すると明確に理解できる。この時間帯では、図7のモールド上部の熱電対に当たるTC1やTC2は高めの温度を示しており、これらの熱電対の温度変化を表現するためには、湯面は高めに上がっていると推定する。更に、この高い湯面位置で、TC3やTC4の温度変化を表現するためには、湯面より下の熱流束は、相対的に低下するのである。
【0069】
このように、本発明では、湯面より上の熱流束の変動が、規定された範囲の変動内に収めるという拘束条件を与えることで、湯面が上下したことによる温度変動と、湯面位置が変化したのではなく湯面より下の流れの変化(熱流束変動)による温度変動とを明確に区別できる。従って、湯面より下の熱流束規定値qL givenを一定とする従来手法よりも、予測精度が高くなっていることがわかる。
【0070】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、鋼浴の容器の側面内に埋設された熱電対等の温度検出手段を用いるので、容器内の流体が非常に高温となるような場合に、湯面に接触させるセンサ等に比べてコストをかけずに湯面位置を検知することができる。しかも、温度検出手段での計測温度そのものを用いるのではなく、熱流束分布を捉えて湯面位置を算出するようにしたので、時間遅れ等を理論的に正確に考慮して湯面位置を算出することができ、熱伝導方程式モデルという物理モデルを介しながら、適切な熱流束の先見値を用いることができるので、より正確に湯面位置を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】モールドを対象とした湯面位置検知装置の構成を示す図である。
【図2】逆問題の考え方を説明するための図である。
【図3】熱流束分布について説明するための図である。
【図4】湯面位置検知処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】タンディッシュを対象とした湯面位置検知装置の構成を示す図である。
【図6】実施例におけるモデルの概略を示す図である。
【図7】4本の熱電対の測定温度経時データを示す図である。
【図8】湯面位置を推定した結果を示す図である。
【図9】湯面下の熱流束規定値の変化を示す図である。
【符号の説明】
1 モールド
2 熱電対
3 データ処理装置
3a 熱流束分布算出部
3b 湯面高さ算出部
4 タンディッシュ
Claims (5)
- 容器の側面の内部に上下方向に配列して埋設された複数の温度検出手段を用いて、前記容器内の流体の湯面位置を検知するに際して、検出された温度経時変化を用いた非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルによって、前記容器内の熱流束分布変化を、前記湯面より上方の層の熱流束を最小熱流束値とし、前記湯面より下の液体側の熱流束を最大熱流束値として二分割で表現し、この分割位置を湯面位置とする湯面位置検知方法において、
前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値と前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値とを予め規定し、前記非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記最小熱流束規定値を中央値として、予め規定した上限値及び下限値の間に収まるように、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を時系列に変化させる手順と、
前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最小熱流束推定値の偏差の二乗と、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最大熱流束推定値の偏差の二乗との和が最小となるように前記熱流束の分割位置を決める手順とを有することを特徴とする湯面位置検知方法。 - 前記非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記上限値を上回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量減少させ、前記下限値を下回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量増加させることを特徴とする請求項1に記載の湯面位置検知方法。
- 容器の側面の内部に上下方向に配列して埋設された複数の温度検出手段を用いて、前記容器内の流体の湯面位置を検知するに際して、検出された温度経時変化を用いた非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルによって、前記容器内の熱流束分布変化を、前記湯面より上方の層の熱流束を最小熱流束値とし、前記湯面より下の液体側の熱流束を最大熱流束値として二分割で表現し、この分割位置を湯面位置とする湯面位置を検知するためのコンピュータプログラムにおいて、
前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値と前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値とを予め規定し、前記非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記最小熱流束規定値を中央値として、予め規定した上限値及び下限値の間に収まるように、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を時系列に変化させる処理と、
前記湯面より上方の層の最小熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最小熱流束推定値の偏差の二乗と、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値及び前記熱伝導方程式モデルにより算出した最大熱流束推定値の偏差の二乗との和が最小となるように前記熱流束の分割位置を決める処理とをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。 - 前記非定常熱伝導方程式の逆問題解析モデルにより算出した最小熱流束推定値が、前記上限値を上回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量減少させ、前記下限値を下回った場合には、前記湯面より下の流体側の最大熱流束規定値を単位量増加させることを特徴とする請求項3に記載のコンピュータプログラム。
- 請求項3又は4に記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
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