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JP3957183B2 - フェライト膜、及びその製造方法 - Google Patents

フェライト膜、及びその製造方法 Download PDF

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JP3957183B2 JP2002268687A JP2002268687A JP3957183B2 JP 3957183 B2 JP3957183 B2 JP 3957183B2 JP 2002268687 A JP2002268687 A JP 2002268687A JP 2002268687 A JP2002268687 A JP 2002268687A JP 3957183 B2 JP3957183 B2 JP 3957183B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として磁気デバイスであるインダクタンス素子,インピーダンス素子,磁気ヘッド,マイクロ波素子,磁歪素子,及び高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体等に好適なスピネル型フェライト膜、及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器類の小型化が進展しており、それを構成する電子部品への小型化の要求も年々高まっている。こうした要求に伴い、例えば磁気デバイスであるインダクタンス素子,インピーダンス素子,磁気ヘッド,マイクロ波素子,磁歪素子,及び高周波領域において不要電磁波の干渉によって生じる電磁障害を抑制するために用いられる電磁干渉抑制体等に使用されるフェライト膜による軟磁性材料(軟磁気特性を有する材料)には、所望の周波数において高い透磁率が得られ、且つ小型化(シート化又は薄膜化)できることが求められている。
【0003】
フェライト膜を固体表面に形成する技術としては、フェライトメッキ法によるものが知られている。このフェライトメッキ法とは、固体表面に金属イオンとして少なくとも第1鉄イオンを含む水溶液を接触させ、固体表面にFeOH又はこれと他の水酸化金属イオンを吸着させ、続いて吸着したFeOHを酸化させることによりFeOH2を得ておき、これが水溶液中の水酸化金属イオンとの間でフェライト結晶化反応を起こす結果、固体表面にフェライト膜を形成するものである(特許文献1参照)。
【0004】
因みに、フェライトメッキ法では、膜を形成しようとする基体として上述した水溶液に対して耐性を持つあらゆる材質を用いることができ、又水溶液を介した反応であるため、温度が比較的低温(常温〜水溶液の沸点以下を示す)でスピネル型フェライト膜を形成できるという特徴があり、これにより上述したような磁気デバイスへの応用が期待されている。
【0005】
こうした技術を根底として更に応用を図った技術もあり、例えばフェライト膜の均質化、反応速度の向上を図ったもの(特許文献2参照)、固体表面に界面活性を付与して種々の固体にフェライト膜を形成しようとするもの(特許文献3)、フェライト膜の形成速度の向上に関するもの(特許文献4、特許文献5、及び特許文献6)が挙げられる。
【0006】
又、中心線平均粗さRaが0.01μm以上の基体上にフェライト膜を成膜形成する方法も提案されている(特許文献7)。
【0007】
この特許文献7の場合、その実施例において、中心線平均粗さRaで0.01〜0.8μmの基体上にフェライト膜を形成すると、厚みムラのない均一な膜が得られることを示している。
【0008】
その他、フェライト膜の形成に係る周知技術としては、金属イオンとして少なくとも第1鉄イオンを含んだ溶液を磁場中で基体に接触させ、基体表面にフェライト膜を堆積させ、液中に第1鉄イオンを酸化させるための酸化剤を含ませる方法も提案されている(特許文献8)。
【0009】
【特許文献1】
特許第1475891号
【0010】
【特許文献2】
特許第1868730号
【0011】
【特許文献3】
特開昭61−030674号公報
【0012】
【特許文献4】
特許第1774864号
【0013】
【特許文献5】
特許第1979295号
【0014】
【特許文献6】
特開平02−116631号公報
【0015】
【特許文献7】
特開平1−2461491号公報
【0016】
【特許文献8】
特許第2668998号
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
上述した基体上にフェライト膜を形成する技術の場合、最近の磁気デバイスへの応用という観点からみると、それに用いられる磁性体は高い透磁率を有することが必要であり、フェライトメッキ法により得られる膜が高い透磁率を有するためには、その膜の組織の制御、特にそれを形成する結晶配向の制御が不可欠であるが、上述した従来の技術によれば、何れにおいても磁気特性との相関性を考慮した結晶配向の制御技術が導入されていない(即ち、例えば特許文献7では、基体の中心線平均粗さRaと膜の結晶配向及び磁気特性との相関についての言及がなく、又特許文献3では、密着力が良く均質な膜を提供するために基体表面のプラズマ処理が必要であると記載されており、更に特許文献8では、得られる膜の磁気特性を考慮しているものの、反応液,酸化液を除去する工程や基体の膜の結晶構造及び磁気特性と基体表面粗さとの相関についての言及がない)ため、結果として高い透磁率が得られないという問題がある。
【0018】
特にフェライトメッキ法によるフェライト膜の場合、上述したように基体表面を基点とした結晶成長によって形成されるが、従来では基体表面以外で副次的に形成されたフェライトの微粒子が結晶の成長を阻害するか、又は基体表面に吸着するFeOHの不均一性があることにより、結晶配向の制御が困難となっており(例えば特許文献7のように中心線平均粗さRaが極めて小さい基体表面に製膜する場合であれば均質な膜を得ることが難しく、結晶配向の制御が困難となっている)、結果として、これまでに膜の生成速度の向上に対して種々の改善が提案されているものの、工業的な生産性という観点からみると不十分であり、磁気デバイスへの応用や各種電子部品等へ適用に際して高い透磁率が得られないということが大きな技術的課題となっている。
【0019】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、結晶配向が制御されて均質で高い透磁率を持つフェライト膜、及びそれをフェライトメッキ法により膜の生成速度を向上させて工業的に量産製造し得るフェライト膜の製造方法を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、フェライトメッキ法により、粗さの中心線平均粗さRaが0より大きく10μm以下である基体の表面に成膜されたフェライト膜であって、透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であり、更に、膜表面のX線回折パターンの(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05より大きいフェライト膜が得られる。
【0021】
又、本発明によれば、上記フェライト膜において、Ni,Zn,Fe,及びOのうちの少なくとも一種を含有するフェライト膜が得られる。
【0022】
一方、本発明によれば、粗さの中心線平均粗さRaが0より大きく10μm以下である基体の表面にフェライトメッキ法によりフェライト膜を成膜する際、該フェライト膜を透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であり、更に、膜表面のX線回折パターンの(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05より大きく、且つNi,Zn,Fe,及びOのうちの少なくとも一種を含有するものとして形成するフェライト膜の製造方法が得られる。
【0023】
更に、本発明によれば、上記フェライト膜の製造方法において、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、反応液及び酸化液のうちのフェライト膜の生成に寄与しない残分を基体から除去する工程とを有するフェライト膜の製造方法が得られる。
【0024】
加えて、本発明によれば、上記何れかのフェライト膜の製造方法において、基体の表面を予めプラズマ処理しておくフェライト膜の製造方法が得られる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。最初に本発明のフェライト膜の技術的概要を簡単に説明する。本発明者等は、種々検討の結果、高周波帯域において所定の透磁率特性を持つフェライト膜、具体的には透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であるフェライト膜を構成する結晶配向を制御すれば、膜表面のX線回折パターンにおける(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05以上であるフェライト膜が得られることを見い出した。
【0026】
このフェライト膜において、より高い透磁率を得るためにはピーク強度比I222 /I311 をできるだけ大きくすることが好ましい。ピーク強度比I222 /I311 が0.05より大きいと高い透磁率が得られる理由は、フェライト膜の結晶配向が乱れ、結晶一つ一つが本来有するポテンシャルを膜全体として十分に引き出せないため、或いは膜の均質性が低下することや膜内部に応力等が残留することが関係しているためと考えられる。
【0027】
又、このフェライト膜では、Ni,Fe,Zn,及びOのうちのの少なくとも一種を含有することを見い出した。これらの元素のうちの一種以上が欠けるとスピネル格子中のイオンの配置が大きく変化し、高い透磁率が得られなくなってしまうと類推される。
【0028】
更に、このようなフェライト膜を製造する場合、粗さの中心線平均粗さRaが0より大きく10μm以下である基体の表面にフェライトメッキ法によりフェライト膜を成膜すれば良く、このときにフェライト膜を透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であり、更に、膜表面のX線回折パターンにおける(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05より大きく、且つNi,Zn,Fe,及びOのうちの少なくとも一種を含有するものとして形成できることを見い出した。このフェライト膜において、より高い透磁率を得るために粗さの中心線平均粗さRaをできるだけ小さくすることが好ましい。
【0029】
加えて、フェライトメッキ法により少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、反応液及び酸化液のうちのフェライト膜の生成に寄与しない残分を基体から除去する工程とを繰り返し、且つ反応液及び酸化液を印加磁場中で基体表面に接触させてフェライト膜を生成するようにすれば、膜の生成速度を向上させて工業的に量産可能となり、又上述した方法の適用により結晶配向を制御した上で均質な膜が得られ難い場合でも、予め基体の表面をプラズマ処理しておけば、より結晶配向を制御した均質な膜が得られることを見出した。
【0030】
こうしたフェライト膜の製造方法において、基体表面の粗さの中心線平均粗さRaを10μm以下と規定したのは、中心線平均粗さRaが10μmより大きいと透磁率が著しく劣化するためである。その原因はフェライト膜の表面におけるX線回折パターンにあっての(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222 /I311 が0.05以下となるためと類推される。又、中心線平均粗さRaを0より大きいと規定したのは、より高い透磁率を得るためには中心線平均粗さRaをできるだけ小さくすることが好ましいためであり、中心線平均粗さRaが極めて小さく、且つ表面処理無しには十分な密着性及び均質性が得られない場合でも基体表面をプラズマ処理すれば所望の膜が得られるためである。
【0031】
ここで基体表面を予めプラズマ処理することによる効果は、含酸素表面層を基体表面に形成させることによってFeOHの吸着を促進することにある。但し、基体表面をプラズマ処理することは上述した均質なフェライト膜を製造するための必要条件ではないものの、無処理では十分な密着性及び均質性を得られない場合があるので、例えば基体表面の中心線平均粗さRaが極めて小さかったり、或いは基体表面に均一にFeOHを吸着させるのに十分な含酸素表面層がない等の場合にプラズマ処理することによってそれらの不具合を解消できる。プラズマ処理用のプラズマは、放電の形式としてグロー放電,コロナ放電,ボクサーチャージャー等を使用できる。プラズマ気体としては非酸化性気体である窒素,アルゴン,ヘリウム,アンモニア,四フッ化炭素等の一種以上を使用でき、含酸素気体としては酸素,二酸化炭素,一酸化炭素,二酸化窒素,二酸化硫黄,空気等の一種又は二種以上を用いることが可能である。因みに、非酸化性気体をプラズマガスとして用いる場合にはプラズマ処理によってフリーラジカルが生成した固体表面を空気に触れさせることによって基体表面に含酸素表面層が形成される。
【0032】
フェライトメッキ法に導入された反応液及び酸化液のうちのフェライト膜の生成に寄与しない残分を除去する工程が膜の生成速度を向上させ、且つ均質な膜を形成できるようになることの原因は、詳細には明らかでないが、これらの工程が固体表面以外での副次的なフェライト微粒子の形成を抑制し、又固体表面に均一にFeOHを吸着させる作用があるものと類推される。
【0033】
又、本発明のフェライト膜の製造方法では、反応液及び酸化液のうちの一方の溶液が供給された後にその供給された溶液が除去され、他方の溶液が供給された後にその供給された溶液が除去される工程を繰り返すことを基本とするが、その他に二つの溶液を同時に供給してから除去する工程を繰り返すようにしても構わない。
【0034】
以下は、本発明の実施の形態に係る幾つかのフェライト膜をその製造方法を含めて具体的に説明する。
【0035】
図1は、本発明の一つの実施の形態に係るフェライト膜形成装置の基本構成を示した側面図である。このフェライト膜形成装置は、回転台3上にフェライト膜を形成するための2つの基体4が設置され、これらの基体4の近傍に対してメッキに必要な溶液を貯蔵したタンク5,6に取り付けられたノズル2,1の先端が近接して配置されて構成されている。ここでタンク5,6に貯蔵される溶液は、フェライトメッキ法に導入される反応液及び酸化液のうちのフェライト膜の生成に寄与しない残分を除去する工程を効率良く行うために二つに分けられている。フェライト膜の製造にあっては、このように必要な溶液を幾つかに分けて準備しておく方が良い。
【0036】
このフェライト膜形成装置の場合、タンク5,6に貯蔵された反応液,酸化液の何れかに分けられた溶液がノズル2,1を介して各基体4に供給される際、例えばノズル1を介して基体4に供給された溶液が回転台3の回転による遠心力で除去された後、ノズル2を介して基体4に供給された溶液が同様に回転台3の回転による遠心力で除去される処理を繰り返す。尚、ここでは2つの基体4に対して2つのタンク5,6から2系統のノズル2,1を経由して異なる2種の溶液を供給するものとしたが、これに代えて3つ以上の基体4に対して3つ以上のタンクから3つ以上の系統のノズルを経由して異なる3種以上の溶液を供給するように構成しても良い。又、ここでは反応液及び酸化液のうちの一方の溶液が供給された後にその供給された溶液が除去され、他方の溶液が供給された後にその供給された溶液が除去される工程が繰り返される場合を説明したが、これに代えて二つの溶液を同時に供給してから除去する工程を繰り返すようにしても良い。更に、ここでは遠心力を利用して基体4から反応液及び酸化液が除去される構成を説明したが、これに代えて重力によって反応液,酸化液に付与される流動性を利用して各液を除去する構成としても構わない。
【0037】
そこで、このような基本構成のフェライト膜形成装置において、先ず回転台3上に幾つかの異なる基体4として中心線平均粗さRaが約15μmのガラスエポキシ製基板A、中心線平均粗さRaが約1μmのガラスエポキシ製基板B、及びプラズマ処理により親水化処理をした中心線平均粗さRaが0.1μm未満のガラス製基板Cを設置し、回転数150rpmで回転させながら脱酸素イオン交換水を供給した上で90℃まで加熱した。
【0038】
次に、フェライト膜形成装置内にNガスを導入して脱酸素雰囲気を形成した後、反応液として脱酸素イオン交換水中にFeCl・4HO、NiCl・6HO、ZnClをそれぞれ3.3,1.3,0.03g/リットル溶かしたものを準備し、脱酸素イオン交換水中にNaNOとCHCOONHとをそれぞれ0.3,5.0g/リットル溶かした酸化液と上述した反応液とによるメッキに必要な溶液を蓄えたタンク5,6からノズル2,1によりそれぞれ30ml/minの流量で約180分供給して成膜した。尚、ここでの処理にあっては、上述したフェライトメッキ法による反応液接触工程,反応液除去工程,酸化液接触工程,及び酸化液除去工程が繰り返されることになるが、必要に応じて反応液接触工程での反応液、酸化液接触工程での酸化液をそれぞれ印加磁場中で基体4の表面に接触させるようにする。
【0039】
この後、取り出した各基板上には黒色膜が形成されており、これらの黒色膜はNi,Zn,Fe,Oから成る各種試料に係るフェライト膜であることが確認され、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた組織観察の結果、膜厚が均一である組織が形成されていることを確認できた。
【0040】
これらの得られた各試料に係るフェライト膜の所定の高周波数(20MHz,500MHz,1500MHz)における透磁率(実数部μ′,虚数部μ″)を測定したところ、以下の表1に示すような結果が得られた。
【0041】
【表1】
Figure 0003957183
【0042】
表1からはガラスエポキシ製基板B(単に基板Bとしている)及びガラス製基板C(単に基板Cとしている)のフェライト膜は優れた軟磁気特性を示しているが、比較例のガラスエポキシ製基板A(単に基板Aとしている)のフェライト膜の場合は比較的低周波(20MHz)における実数部μ′、比較的高周波(500MHz,1500MHz)における虚数部μ″の何れも低く、軟磁気特性が著しく劣化していることが判る。従って、高周波帯域で軟磁気特性の優れた基板B,Cのフェライト膜が本願発明の実施の形態に係る対象試料となっている。
【0043】
又、得られた各試料に係るフェライト膜表面におけるCuKα−X線回折パターンを評価したところ、以下の表2に示すような結果が得られた。
【0044】
【表2】
Figure 0003957183
【0045】
表2からは、各フェライト膜表面のX線回折パターンにおける(222)結晶格子面と(311)結晶格子面に対応するピーク強度比I222 /I311 は、基体の中心線平均粗さRa(単に表面粗さRaとしている)が大きくなる程、その値が小さくなる傾向が見られることが判る。従って、ピーク強度比I222 /I311 が0.05を越えた基板B,Cのフェライト膜が本願発明の実施の形態に係る対象試料となっている。
【0046】
ところで、他の比較として、図1に示したようなフェライト膜形成装置において、同様に先ず回転台3上に基体4としてプラズマ処理により親水化処理をしていない中心線平均粗さRaが0.1μm未満のガラス製基板Dを設置し、上述した実施の形態の場合と同一の条件で成膜したところ、この後に取り出した基板上には黒色膜が形成されており、この黒色膜はNi,Zn,Fe,Oから成るフェライト膜であることが確認されたが、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた組織観察の結果では、比較例に係るガラス製基板Dのフェライト膜は先の実施の形態で得たガラス製基板Cのフェライト膜よりも膜厚が不均一である上、組織の均一性が著しく劣化していることを確認できた。
【0047】
ここで得られた試料に係るフェライト膜についても、所定の高周波数(20MHz,500MHz,1500MHz)における透磁率(実部μ′,虚部μ″)を測定して先の実施の形態で得たガラス製基板Cのフェライト膜と対比したところ、以下の表3に示すような結果が得られた。
【0048】
【表3】
Figure 0003957183
【0049】
表3からは、比較例に係るガラス製基板D(単に基板Dとしている)のフェライト膜は、基板Cのフェライト膜と比べると、比較的低周波(20MHz)における実部μ′、比較的高周波(500MHz,1500MHz)における虚部μ″の何れも低く、軟磁気特性が著しく劣化していることが判る。
【0050】
次に、他の比較として、図1に示したようなフェライト膜形成装置において、同様に先ず回転台3上に基体4としてプラズマ処理により親水化処理をした中心線平均粗さRaが0.1μm未満のガラス製基板Cを設置し、反応液として脱酸素イオン交換水中にFeCl・4HO、ZnClをそれぞれ3.3,0.03g/リットル溶かした組成の異なるものを用いた以外は上述した実施の形態の場合と同一の条件で成膜したところ、この後に取り出した基板上には黒色膜が形成されており、この黒色膜はZn,Fe,Oから成るフェライト膜であることが確認され、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた組織観察の結果でも膜厚が均一である組織が形成されていることを確認できたが、得られたフェライト膜の高周波帯域での透磁率(実部μ′,虚部μ″)を測定したところ、透磁率は殆ど1に近い値となることが判った。ここでは、反応液として先の実施の形態の場合のようにNiCl・6HOを含むか否かが相違点となっているが、結果として反応液の組成の相違が成膜されるフェライト膜の軟磁気特性に大きな影響を与えることを示している。
【0051】
更に、別の比較として、図1に示したようなフェライト膜形成装置において、同様に先ず回転台3上に基体4としてプラズマ処理により親水化処理をした中心線平均粗さRaが0.1μm未満のガラス製基板Cを設置し、回転台3の回転数を20rpmとした以外は上述した実施の形態の場合と同一の条件で成膜したところ、この後に取り出した基板上にはフェライト膜が形成されているものの、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた組織観察の結果では膜厚が非常に不均一である上、組織の均一性も著しく劣化されていることを確認できた。
【0052】
ここで得られた試料に係るフェライト膜についても、所定の高周波数(20MHz,500MHz,1500MHz)における透磁率(実部μ′,虚部μ″)を測定して先の実施の形態で得たガラス製基板Cのフェライト膜と対比したところ、以下の表4に示すような結果が得られた。
【0053】
【表4】
Figure 0003957183
【0054】
表4からは、図1に示したフェライト膜形成装置の回転台3の回転機能が基体表面に遠心力を加える作用を持つが、比較的回転数が少ない(回転数20rpm)のガラス製基板C(※印で示す比較例のもの)の場合には先の実施の形態に係る比較的回転数が大きい(回転数150rpm)のガラス製基板Cの場合と比べて高周波帯域で透磁率(実部μ′,虚部μ″)が顕著に低下していることが判る。従って、ここでの結果からは、フェライト膜を成膜する場合のフェライトメッキ法の導入に際して、所定以上の遠心力を加えること、即ち、上述した少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、反応液及び酸化液のうちのフェライト膜の生成に寄与しない残分を基体から除去する工程とを繰り返すようにすることが均一な組織を有し、且つ膜の生成速度を向上させてフェライト膜を効率良く量産製造する場合に不可欠であることを示している。
【0055】
【発明の効果】
以上に述べた通り、本発明によれば、粗さの中心線平均粗さRaが0より大きく10μm以下である基体の表面にフェライトメッキ法によりフェライト膜を成膜する際、フェライト膜を透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であり、更に、膜表面のX線回折パターンにおける(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05より大きく、且つNi,Zn,Fe,及びOのうちの少なくとも一種を含有するものとして形成することを基本とし、更にフェライトメッキ法により少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を基体に接触させる工程と、反応液及び酸化液のうちのフェライト膜の生成に寄与しない残分を基体から除去する工程とを繰り返しているので、結晶配向が制御されて高い透磁率を持つ均質なフェライト膜を膜の生成速度を向上させて量産できるようになり、工業的に極めて有益となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一つの実施の形態に係るフェライト膜形成装置の基本構成を示した側面図である。
【符号の説明】
1,2 ノズル
3 回転台
4 基体
5,6 タンク

Claims (5)

  1. フェライトメッキ法により、粗さの中心線平均粗さRaが0より大きく10μm以下である基体の表面に成膜されたフェライト膜であって、透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であり、更に、膜表面のX線回折パターンの(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05より大きいことを特徴とするフェライト膜。
  2. 請求項1記載のフェライト膜において、Ni,Zn,Fe,及びOのうちの少なくとも一種を含有することを特徴とするフェライト膜。
  3. 粗さの中心線平均粗さRaが0より大きく10μm以下である基体の表面にフェライトメッキ法によりフェライト膜を成膜する際、該フェライト膜を透磁率における実数部μ′と虚数部μ″とについて、20MHzでは実数部μ′が45以上、虚数部μ″が2以下であり、500MHzでは実数部μ′が20以下、虚数部μ″が35以上であり、1500MHzでは実数部μ′が15以下、虚数部μ″が30以上であり、更に、膜表面のX線回折パターンの(222)結晶格子面と(311)結晶格子面とに対応するピーク強度比I222/I311が0.05より大きく、且つNi,Zn,Fe,及びOのうちの少なくとも一種を含有するものとして形成することを特徴とするフェライト膜の製造方法。
  4. 請求項3記載のフェライト膜の製造方法において、少なくとも第一鉄イオンを含む反応液を前記基体に接触させる工程と、少なくとも酸化剤を含んだ酸化液を前記基体に接触させる工程と、前記反応液及び前記酸化液のうちの前記フェライト膜の生成に寄与しない残分を前記基体から除去する工程とを有することを特徴とするフェライト膜の製造方法。
  5. 請求項3又は4記載のフェライト膜の製造方法において、前記基体の表面を予めプラズマ処理しておくことを特徴とするフェライト膜の製造方法。
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