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JP3881559B2 - 溶接後の成形性に優れ、溶接熱影響部の軟化しにくい引張強さが780MPa以上の高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板 - Google Patents

溶接後の成形性に優れ、溶接熱影響部の軟化しにくい引張強さが780MPa以上の高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板 Download PDF

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JP3881559B2 JP2002031678A JP2002031678A JP3881559B2 JP 3881559 B2 JP3881559 B2 JP 3881559B2 JP 2002031678 A JP2002031678 A JP 2002031678A JP 2002031678 A JP2002031678 A JP 2002031678A JP 3881559 B2 JP3881559 B2 JP 3881559B2
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貢一 後藤
力 岡本
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  • Heat Treatment Of Sheet Steel (AREA)

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は溶接後の成形性に優れ、溶接熱影響部の軟化しにくい引張強さが780MPa以上の高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来においては、鋼板を用いた自動車車体あるいは自動車車体用部品は、プレス加工等によって個々に成形された部材をスポット溶接やアーク溶接等で一体化し組立てを行なっていた。
そして近年、燃費向上を狙った車体軽量化や製造コスト低減を狙った材料歩留向上を目的に、あらかじめ異なる材料強度あるいは異なる板厚の鋼板を適材適所に配置して溶接により一体化し、その後プレス成形を行なう方法(一般に、テーラードブランク法等の名称で呼称)を適用する場合が増加している。特に、車体軽量化と衝突安全性を最適に達成するために、このような方法による高強度鋼板の適用が積極的に進められている。
【0003】
そして、上記のような目的を達成するために適用される高強度鋼板は、自動車車体の骨格部材や補強部材に使用される場合が多く、母材の引張強さが780MPa以上を有する成形性に優れた鋼板が強く要望されている。
【0004】
しかしながら、溶接後のプレス成形に際し、溶接部および溶接熱影響部が存在するため、プレス成形後に溶接を行なう従来の製造工程では認められなかった不具合が生じた。すなわち、プレス加工時の溶接部の割れによる成形性の低下や熱影響部の材料の軟化による成形性の低下ならびに製品としての機能低下である。
【0005】
これまで、溶接部そのものの強度の改善は、特開平3−199343号公報や特開平5−186849号公報等に多数提案されているが、溶接後に成形を行なうことはないため、これらの提案は明らかに技術が異なっている。また、溶接後の成形性を満足させる方法として、特開平7−26346号公報の提案がある。この技術は、極低炭素鋼の成分を最適化して溶接後の成形性を向上させるものであり、従来の極低炭素鋼に比して優れた溶接後の成形性を実現したものであるが、以下の問題が残った。すなわち、上記発明は比較的強度の低い素材を対象としたものであり、さらなる車体軽量化を達成するためには、高強度鋼板の適用が必須の中にあっては、母材の引張強さが780MPa以上の高強度鋼板を対象としたときの溶接後のプレス成形性が不明確であること、また、溶接後の熱影響部の強度低下、すなわち、溶接熱影響部の軟化が生じるため製品の信頼性が損なわれることである。
【0006】
また、高強度鋼板の溶接後のプレス成形性を満足させる方法として、特開2000−87175号公報や特開2000−297348号公報の提案がある。これらの技術は、高強度鋼板の溶接後のプレス成形性を良好なものとし、さらに溶接熱影響部の強度低下抑制を可能としたものである。しかしながら、これらの提案は、規定される成分範囲条件および適用事例から、高強度鋼板の中でも母材引張強さの比較的低い鋼板を対象としたものであり、母材の引張強さが780MPa以上の高強度鋼板では、溶接後の成形性が十分に確かめられていない。さらに、本発明者らが鋭意検討した結果、母材の引張強さが780MPa以上の高強度鋼板の場合、主な強化機構が第2相の硬質なマルテンサイトによって達成される場合が多く、それ故に溶接熱影響によるマルテンサイトの焼戻し軟化が問題となる。しかし、母材の引張強さが780MPa以上の高強度鋼板について、溶接熱影響によるマルテンサイトの焼戻し軟化抑制に着目した提案は見あたらない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような課題を解決するために、本発明者らが鋭意研究を行なった結果であり、母材の引張強さが780MPa以上の高強度鋼板について溶接後のプレス成形性を良好なものとし、さらに溶接熱影響部の強度低下抑制を可能とした高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板に関するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためになされた本発明の溶接後の成形性に優れ、溶接熱影響部の軟化しにくい引張強さが780MPa以上の高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板は、
質量%で、
C :0.05〜0.20%、
Si:0.005 〜1.3 %、
Mn:1.0 〜3.2 %、
P :0.001 〜0.05%、
S :0.0001〜0.01%、
N :0.0005〜0.01%、
Al:0.001 〜0.1 %、
Mo:0.05〜0.5 %、
を含み、Nb:0.005 〜0.05% 、Ti:0.001 〜0.05%の1種または2種を含む残部がFeおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織が面積率でマルテンサイト5 〜40%、残部がフェライト、残留オーステナイト、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのいずれか1種以上で構成され、かつ下記(A)(B)両式を満足し、転位密度が平面視野1μ m あたり、 50 本以上 10000 本以下であることを特徴とするものである。なお、化学成分として、さらにB: 0.0002 0.0015 %、Ca: 0.01 %以下、 Mg 0.01 %以下、 REM 0.05 %以下、Cu: 0.2 2.0 %、Ni: 0.05 2.0 %を含むことが好ましく、高強度表面処理鋼板の表面処理が、亜鉛または、その合金めっきであることが好ましい。
【数7】
Figure 0003881559
【数8】
Figure 0003881559
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、鋼板の溶接後のプレス成形性を確保しつつ、溶接熱影響部の軟化を抑制する方法として、鋼板の成分と金属組織および転位密度について調査を行った。まず、溶接後の成形性を調査したところ、母材の引張強さが780MPa以上の高強度鋼板を溶接した場合、溶接時の熱履歴によって母材と溶接部および溶接熱影響部の強度が変化するため、母材と溶接部および溶接熱影響部の強度−延性の相互作用の結果として溶接後のプレス成形能が決まることが判明した。そして、C、Si、Mn、P、S、N、Al、MoおよびNbおよび、またはTiを含有し、これらの中でC、Si、Mn、Moが関係式を満足した場合に溶接後の成形性を改善することを見出した。
【0010】
また、溶接熱影響部の軟化防止方法を検討した結果、MoとNbおよび、またはTiの複合添加が有効であることを知見した。これは、MoとNbおよび、またはTiを複合添加することにより、溶接によって鋼板の温度が上昇しても、鋼板を強化しているマルテンサイトが焼き戻る際に拡散されるCが、鋼板中のNbまたはTiとの炭・窒化物および転位を析出核として短時間でMoX Cを微細分散析出し、溶接熱影響部の軟化を抑制するものと考えられる。そして、この機構は、母材のミクロ組織の中でマルテンサイト面積率が5〜40%の範囲に限定され、マルテンサイト面積率およびC、Si、Mnの関係式とMo、Nb、Tiの関係式を満たした場合に溶接熱影響部の軟化抑制効果が得られることを見出した。さらに、この効果をより明確に発揮させるためには、鋼板中の転位密度が平面視野1μm2 あたり、50本以上存在することが望ましい。
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
まず、以下に鋼の成分を限定する理由について説明する。
Cは、鋼の強化および焼入れ性を向上させるために重要な元素であり、フェライトとマルテンサイトおよびベイナイト等からなる複合組織を得るには不可欠である。さらに溶接時にMoX Cを析出させ、溶接熱影響部の軟化を防止するためには、0.05%以上を必要とする。一方、含有量が多くなると、母材の加工性が劣ると同時に溶接部が著しく硬化し延性が劣化するため、0.20%を上限とする。
【0012】
Siは、鋼の加工性を低下することなく強度上昇に好ましい元素である。しかし、0.005%未満では、鋼の溶製の際、コストがかかり経済的に不利であるため、0.005%を下限とする。一方、1.3%を超えると、鋼板表面に生成する酸化物のために濡れ性が低下し、溶融亜鉛めっきの際に不めっきや化成処理性の低下を生じる。また、溶接部の成形性も劣化するため、1.3%を上限とする。
【0013】
Mnは、鋼の強化および焼入れ性を向上させ、複合組織を得るには有効な元素である。Mnが1.0%未満では、所望の複合組織は得られないため、1.0%を下限とする。一方、3.2 %を越えると母材の加工性が劣化するとともに、溶接部の成形性も劣化するため、3.2 %を上限とする。
【0014】
Pは、0.001%未満では脱燐コストの上昇を招くため、0.001%を下限とする。一方、0.05%を超えると鋳造時の凝固偏析が著しく内部割れや加工性を低下させると同時に溶接部の脆化を引き起こす。さらに溶融亜鉛めっきの合金化の際、合金化反応を著しく遅延するため合金化ムラ等のめっき欠陥を生ずるため上限を0.05%とする。
【0015】
Sは、0.0001%未満では、脱硫コストの上昇を招くため、0.0001%を下限とする。一方、0.01%を超えると熱間脆性を起こすとともに硫化物系介在物が増加して加工性が低下するため0.01%を上限とする。
【0016】
Alは、鋼の脱酸に必要な元素であり、0.001%未満では脱酸不足となって、鋼中に気泡が残留してピンホール等の欠陥を生じるため、0.001%を下限とする。一方、0.1%を越えるとアルミナ等の介在物が増加し、母材の加工性を損なうため0.1%を上限とする。
【0017】
Nは、0.0005%未満では、鋼の溶製の際、コスト高を招くため、0.0005%を下限とする。一方、0.01%を超えると母材の加工性が劣化するため、0.01%を上限とする。
【0018】
Moは、溶接時にMoX Cを析出させ溶接熱影響部の軟化を抑制するのに重要な元素であり、本発明に必須の元素である。0.05%未満では、溶接熱影響部の軟化抑制効果が十分に得られなくなるため、0.05%を下限とする。一方、0.5%を越えると効果が飽和するとともに母材の加工性が劣化するため、0.5%を上限とする。
【0019】
Nbは、溶接熱影響部の軟化を抑制するMoX Cの析出核となる炭・窒化物を形成するのに重要な元素であり、NbCならびにMoとの複合炭化物の微細析出による溶接熱影響部の軟化抑制効果も期待できる。これらの効果を発揮するには、0.005%未満では、MoX Cの析出核となる炭・窒化物の形成が不十分であり、溶接熱影響部の軟化抑制効果が十分に得られなくなるため、0.005%を下限とする。しかし、過剰に添加すると炭・窒化物の増加によって母材の加工性が低下するため、0.05%を上限とする。
【0020】
Tiは、溶接熱影響部の軟化を抑制するMoX Cの析出核となる炭・窒化物を形成するのに重要な元素であり、TiC等の微細析出による溶接熱影響部の軟化抑制効果も期待できる。これらの効果を発揮するには、0.001%未満では、MoX Cの析出核となる炭・窒化物の形成が不十分であり、溶接熱影響部の軟化抑制効果が十分に得られなくなるため、0.001%を下限とする。しかし、過剰に添加すると炭・窒化物の増加によって母材の加工性が低下するため、0.05%を上限とする。
【0021】
Bは、鋼の焼入れ性を向上させるとともにCとの相互作用によって溶接熱影響部のCの拡散を抑制する効果のある元素である。この効果を発揮させるには、0.0002%以上の添加が必要になる。しかし、過剰に添加すると、母材の加工性を低下するばかりか、鋼の脆化や熱間加工性の低下が起こるため、0.0015%を上限とする。
【0022】
Caは、硫化物系介在物の形態制御(球状化)により、母材の局部成形性を向上させる効果がある。バーリング加工や伸びフランジ加工を行う部品では、局部成形性が要求特性となる場合があるためCaを添加してもよい。しかし、過剰に添加すると、効果が飽和するばかりか、介在物の増加による逆効果(局部成形性の劣化)が起こるため、上限を0.01%とする。また、MgやREMも同様の効果から、添加してもよいが、過剰な添加は、やはり上記と同様の理由から逆効果となる場合があるため、Mgの上限を0.01%、REMの上限を0.05%とする。なお、Ca、Mg、REMの効果を発揮させるには、それぞれ0.0007%以上の添加が望ましい。
【0023】
Cuは、母材の疲労強度を改善するのに有効な元素であり、所望により添加してもよい。しかし、0.2%未満の添加では、疲労特性の改善効果が十分に得られないため、下限を0.2%とする。一方、過剰な添加は、効果の飽和とコスト高を招くため、上限を2.0%とする。
【0024】
Cu添加鋼では、熱間圧延時にCuヘゲと呼ばれる熱間脆性起因の表面欠陥が発生する場合がある。Ni添加は、Cuヘゲ防止に有効であり、Cu添加の場合のNi添加量は、0.05%以上とする。一方、過剰な添加は、効果の飽和とコスト高を招くため、上限を2.0%とする。なお、Ni添加の効果は、Cuの添加量に応じて発揮されるため、Ni添加量は、Ni/Cuの質量%比で0.25〜0.60とすることが望ましい。
【0025】
さらに本発明においては、上記の種々の成分のうち、C、Si、Mn、Mo量が数1、数3、数5、数7に示した式(A)を満足する必要がある。
本発明者らは、種々の化学成分を有する高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、同一素材の突合せ溶接後に張出し試験を実施し、上記(A)式の中辺の値と張出し高さの関係を調査した。その結果を図1に示す。横軸は、(A)式の中辺から算出される値で、縦軸は、鋼板の溶接後の張出し高さを溶接前の鋼板の張出し高さで除して標準化した値(成形性指数)であり、成形性指数が大きいものほど溶接後の成形性が優れるものとなる。図1より(A)式が成立つ場合、すなわち、C、Si、Mn 、Moの添加量が本発明に従っている場合には、成形性指数が大きく成形性に優れることがわかる。
【0026】
これは、C、Si、Mn 、Moは、溶接時において溶接部の強度を高める作用があるため、過剰な添加は、溶接部を著しく硬化して延性低下を引き起こす結果、溶接部の成形性を劣化させるものと考えられる。一方、これらの添加量が少ない場合には、溶接部の強度上昇が少なくなるものの、同時に、本発明で限定する母材の引張強さを780MPa以上に確保することが難しくなることおよび、本発明で規定するミクロ組織が得られにくくなるため、範囲を限定した。
【0027】
さらに本発明においては、上記の種々の成分のうち、C、Si、Mn、Mo、Nb 、Ti量が数2、数4、数6、数8に示した式(B)も満足する必要がある。
本発明者らは、上記の実験を実施し、上記(B)式の左辺の値および中辺の値と 溶接熱影響部の軟化特性の関係を調査した。その結果を図2に示す。横軸は、(B)式の左辺から算出される値で、縦軸は、(B)式の中辺から算出される値であり、母材と溶接部の硬さの差は、(B)式が成立つ場合、すなわち、C、Si、Mn 、Mo、Ti、Nbの添加量が本発明に従っている場合に、溶接熱影響部の軟化が抑制されることがわかる。一方、Mo、Ti、Nb を多量に添加した場合、効果が飽和するとともに、析出物の増加により母材の加工性が低下することから、上限範囲を規定した。
【0028】
上式の関係は、溶接熱影響によって焼戻されるマルテンサイトが、その状態によって軟化抑制効果を発揮するMo、Nb、Tiの添加量が規定されることを示している。すなわち、溶接熱影響で焼戻されるマルテンサイトを面積項とC、Si、Mnで規定される硬さ項の一次関数で表した値以上の限定された範囲でMoとNb および、またはTiを添加することで、軟化抑制効果が有効であることを示していると考えられる。
【0029】
また、鋼板中に不可避に存在するCr、V等の副成分は、本発明鋼の特性をなんら阻害するものではないが、多量に添加すると再結晶温度の上昇や圧延性の低下を招くとともに、母材の加工性を低下する恐れがあるため、これらの副成分は、Crは0.1%以下、Vは0.01%以下に制限するのが望ましい。
本発明の高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板の製造方法は、用途や必要特性に応じて適宜選択すればよい。
【0030】
本発明においては、上記の成分が本発明鋼の基礎をなすものであるが、母材のミクロ組織の中でマルテンサイト面積率が5%未満の場合、溶接熱影響によるマルテンサイトの焼き戻し軟化の影響が少なくなり、本発明のはっきりした効果が認められにくくなる。また、Mox Cの析出核として有効に作用する転位の導入も不十分となるため下限を5%とする。一方、マルテンサイト面積率が40%を超えると、硬質相の増加によって母材の延性が低下するため上限を40%とする。なお、より好ましくは、上限を30%とする。他方、母材の加工性は、その他のミクロ組織の影響を考慮する必要があり、特に延性に有効なフェライトは面積率で25%以上が好ましい。
【0031】
上記成分に調整された鋼を例えば以下の方法により鋼板となす。まず、転炉で鋼を溶製し、連続鋳造によりスラブとなす。このスラブを高温状態のまま、あるいは、室温まで冷却した後、加熱炉に挿入し、1000〜1250℃の温度範囲で加熱し、その後、800〜950℃の温度範囲で仕上圧延を行い、700℃以下の温度で巻き取って熱延鋼板とする。仕上温度が800℃未満では、結晶粒が混粒状態となって母材の加工性を低下させる。一方、仕上温度が950℃を越えるとオーステナイト粒径が粗大化して、所望のミクロ組織が得られにくくなる。また、高強度熱延鋼板の場合、巻取り温度が500℃を超えるとパーライト組織が増加して、本発明で規定されるミクロ組織が得られにくいため、巻取り温度は500℃以下が好ましい。
【0032】
次いで、酸洗、冷間圧延後、焼鈍を行い冷延鋼板とする。冷間圧延率は、特に規定しないが、工業的には20〜80%の範囲が好ましい。焼鈍温度は、高強度鋼板の所定の強度および加工性確保に重要であり、680℃以上900℃未満が好ましい。680℃未満では、十分な再結晶が行われず、母材そのものの加工性が安定的に得られにくい。また、900℃以上になると、オーステナイト粒径が粗大化して、所望のミクロ組織が得られにくくなる。また、本発明で規定されるミクロ組織を得るには、連続焼鈍による方法が好ましい。高強度表面処理鋼板の場合は、上記で得られた熱延鋼板または冷延鋼板にめっきを施す。
【0033】
例えば、自動車用、家電用、建材用として使用される高強度表面処理鋼板は、その多くが溶融亜鉛めっき鋼板であり、溶融亜鉛めっきを施す場合は、通常、焼鈍工程とめっき工程が同じ設備(または同じ設備列)で同時に行われる。めっき量としては、3mg/m2 〜800g /m2 を鋼板表面に施す。3mg/m2 未満では、防食作用が十分発揮されず、亜鉛めっきの目的を果たすことができない。また、800g /m2 を超えると溶接時にブローホール等の欠陥が著しく発生しやすくなるため、めっき量は上記の範囲が望ましい。
【0034】
また、溶融亜鉛めっきのように、焼鈍およびめっきを連続的に行った場合や、亜鉛めっき層をめっき後、合金化処理を施した場合、さらに焼鈍後、電気亜鉛めっきや亜鉛めっき層の表面に有機あるいは無機系の皮膜を施した場合でも、本発明の効果は損なわれない。
【0035】
さらに得られた高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板に、その転位密度が平面視野1μm2当たり50本以上あることで溶接熱影響部の軟化を抑える効果がある。転位密度の個数は、場所や方位によってばらつくが、透過電子顕微鏡の10視野の平均値をとり、その値が50本/1μm2以上であれば、それを析出核として溶接時に短時間でMoX Cを微細分散析出し、熱影響部の軟化を効果的に抑制する。また、転位密度が10000本/1μm2を超えると、プレス成形性が劣化し、プレス割れが発生する恐れがあるため、上限は10000本/1μm2とする。なお、本発明で対象とする引張強さが780MPa以上の高強度鋼板では、規定のミクロ組織を得ることによって、すなわち、マルテンサイト変態に伴う転位の導入によって上記の転位密度が得られるものと考えられる。従って、調質圧延等による積極的な転位導入の必要はない。工業的にも引張強さが780MPa以上の高強度鋼板では、調質圧延による伸び率付与は、数%程度が限界である。かくして、溶接後の成形性に優れ、溶接熱影響部の軟化しにくい高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板、高強度表面処理鋼板などの高強度鋼板を得る。
【0036】
本発明では、極厚鋼板で通常行われるような超大入熱の溶接方法(例えば、エレクトロスラグ溶接やエレクトロガス溶接:入熱量200kJ/cm程度、サブマージアーク溶接:入熱量100〜200kJ/cm程度)を除き、一般に薄鋼板で行われるレーザー溶接、マッシュシーム溶接、プラズマ溶接、アーク溶接等の入熱範囲であれは、溶接法が変わっても得られる効果に変化は無い。
【0037】
【実施例】
表1に示す化学成分の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造でスラブとした後、1220℃に加熱後、880℃の仕上温度で熱間圧延(板厚:1.8mm)し、500℃以下で巻取りを施した。その後、一部のものについては、冷間圧延(板厚:1.2mm)を施し、連続焼鈍によって700〜870℃の温度範囲で適宜所定の温度に加熱後、700〜550℃の温度範囲で適宜所定の温度まで徐冷した後、さらに冷却を行った。 そして一部のものについては、上記に準じた条件で連続焼鈍と同時に合金化溶融亜鉛めっき(目付量:45g/m2)を施した。
【0038】
これらの高強度鋼板について、JIS5号による圧延方向と直角方向の引張試験を行った。次いで、圧延方向断面を鏡面仕上げ後、レペラー法による腐食処理を行い光学顕微鏡による1000倍の倍率でミクロ組織観察を行い、画像処理によるマルテンサイト面積率の測定を行った。マルテンサイト面積率は、ばらつきを考慮して、10視野の平均値とした。
【0039】
そしてこれらの高強度鋼板について、同一鋼種の高強度鋼板をビードオンプレートによるレーザー溶接を施し、評価を行った。レーザー溶接条件は、レーザー装置:YAGレーザー、レーザー加工点出力:1.6kW、溶接速度:0.7m/min(高強度熱延鋼板)、1.5m/min(高強度冷延鋼板、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板)、シールドガス:窒素(20リットル/min)。
【0040】
溶接後の評価は、成形性と溶接熱影響部の軟化状況を調査した。成形性は、エリクセン試験(JIS Z 2247,B法)によって評価し、溶接部の限界張出し高さを母材の限界張出し高さで除した値を成形性指数とした。溶接熱影響部の軟化状況は、溶接部を含む断面で板厚1/4の位置にて、0.1mm間隔でビッカース硬度計によって測定(測定荷重:100gf)し、母材硬さと最軟化部の硬さの差を測定し、溶接熱影響部の軟化性を評価した。結果を表2(高強度熱延鋼板)、表3(高強度冷延鋼板)、表4(高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板)に示した。
本発明鋼の場合、溶接後の成形性と溶接熱影響部の軟化特性が比較鋼に比べて優れていることがわかる。
【0041】
【表1】
Figure 0003881559
【0042】
【表2】
Figure 0003881559
【0043】
【表3】
Figure 0003881559
【0044】
【表4】
Figure 0003881559
【0045】
【発明の効果】
本発明により、母材の溶接後の成形性と溶接熱影響部の軟化しにくい引張強度が780MPa以上の高強度熱延鋼板、高強度冷延鋼板および高強度表面処理鋼板を供給することができ、工業上大きな効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】式(A)の右辺(C(%)+(Si(%)/20)+(Mn(%)/15)+(Mo(%)/10))が成形性指標に及ぼす影響について示した図である。
【図2】式(B)の左辺(0.10×[(マルテンサイト面積率)(%)×{C(%)+Si(%)/30)+(Mn(%)/18)}]+0.30)および中辺(7×Mo(%)+10×Nb(%)+8×Ti(%))が溶接熱影響部の軟化抑制に及ぼす影響について示した図である。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C :0.05〜0.20%、
    Si:0.005 〜1.3 %、
    Mn:1.0 〜3.2 %、
    P :0.001 〜0.05%、
    S :0.0001〜0.01%、
    N :0.0005〜0.01%、
    Al:0.001 〜0.1 %、
    Mo:0.05〜0.5 %、
    を含み、Nb:0.005 〜0.05% 、Ti:0.001 〜0.05%の1種または2種を含む残部がFeおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織が面積率でマルテンサイト5 〜40%、残部がフェライト、残留オーステナイト、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのいずれか1種以上で構成され、かつ下記(A)(B)両式を満足し、転位密度が平面視野1μ m あたり、 50 本以上 10000 本以下であることを特徴とする溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度熱延鋼板
    Figure 0003881559
    Figure 0003881559
  2. 質量%で、
    C : 0.05 0.20 %、
    Si: 0.005 1.3 %、
    Mn: 1.0 3.2 %、
    P : 0.001 0.05 %、
    S : 0.0001 0.01 %、
    N : 0.0005 0.01 %、
    Al: 0.001 0.1 %、
    Mo: 0.05 0.5 %、
    を含み、Nb: 0.005 0.05% 、Ti: 0.001 0.05 %の1種または2種を含む残部がFeおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織が面積率でマルテンサイト 5 40 %、残部がフェライト、残留オーステナイト、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのいずれか1種以上で構成され、かつ下記(A)(B)両式を満足し、転位密度が平面視野1μ m あたり、 50 本以上 10000 本以下であることを特徴とする溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度冷延鋼板
    Figure 0003881559
    Figure 0003881559
  3. 質量%で、
    C : 0.05 0.20 %、
    Si: 0.005 1.3 %、
    Mn: 1.0 3.2 %、
    P : 0.001 0.05 %、
    S : 0.0001 0.01 %、
    N : 0.0005 0.01 %、
    Al: 0.001 0.1 %、
    Mo: 0.05 0.5 %、
    を含み、Nb: 0.005 0.05% 、Ti: 0.001 0.05 %の1種または2種を含む残部がFeおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織が面積率でマルテンサイト 5 40 %、残部がフェライト、残留オーステナイト、ベイナイトおよび焼戻しマルテンサイトのいずれか1種以上で構成され、かつ下記(A)(B)両式を満足し、転位密度が平面視野1μ m あたり、 50 本以上 10000 本以下であることを特徴とする溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度表面処理鋼板
    Figure 0003881559
    Figure 0003881559
  4. 化学成分として、さらにB: 0.0002 0.0015 %、Ca: 0.01 %以下、 Mg 0.01 %以下、 REM 0.05 %以下、Cu:0.2 〜2.0 %、Ni:0.05〜2.0 %を含むことを特徴とした、請求項1に記載の溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度熱延鋼板
  5. 化学成分として、さらにB: 0.0002 0.0015 %、Ca: 0.01 %以下、 Mg 0.01 %以下、 REM 0.05 %以下、Cu: 0.2 2.0 %、Ni: 0.05 2.0 %を含むことを特徴とした、請求項2に記載の溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度冷延鋼板
  6. 化学成分として、さらにB: 0.0002 0.0015 %、Ca: 0.01 %以下、 Mg 0.01 %以下、 REM 0.05 %以下、Cu: 0.2 2.0 %、Ni: 0.05 2.0 %を含むことを特徴とした、請求項3に記載の溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度表面処理鋼板
  7. 高強度表面処理鋼板の表面処理が、亜鉛または、その合金めっきであることを特徴とす る請求項3または6に記載の溶接後の成形性に優れ、かつ溶接熱影響部の軟化しにくい母材の引張強さが780MPa以上の高強度表面処理鋼板。
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