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JP3866102B2 - 磁気記録媒体、その製造方法、製造装置、および磁気記録再生装置 - Google Patents

磁気記録媒体、その製造方法、製造装置、および磁気記録再生装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、計算機周辺装置や画像・音声記録用に用いられる磁気ディスク装置などに用いられる磁気記録媒体、その製造方法、製造装置、および上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
磁気記録媒体の高記録密度化に伴い、磁性層中の磁性粒子の微細化、磁気的孤立化、磁性層の薄膜化などによって、ノイズ低減や分解能向上を図ることが提案されている。
しかしながら、磁性粒子の微細化、磁気的孤立化、磁性層の薄膜化を行う場合には、磁性粒子が小さくなるため、熱揺らぎ耐性が低下しやすい問題がある。熱揺らぎとは、記録ビットが不安定となり記録したデータの消失が起こる現象をいい、磁気記録再生装置においては、記録したデータの再生出力の経時的な減衰として現れる。
従来、磁気記録媒体用の基板としては、アルミニウム合金等からなる非磁性金属基板が多く用いられている。非磁性金属基板は、通常、表面を硬化するためNiPなどからなる硬質膜を設け、その表面にテクスチャ加工が施されて用いられている。
テクスチャ加工は、基板表面に所定方向(通常は円周方向)に沿う凹凸を形成する加工であり、テクスチャ加工を施すことによって、基板上に形成される下地層および磁性層の結晶配向性を向上させ、磁性層の磁気異方性を高め、熱揺らぎ耐性などの磁気特性を向上させることができる。
【0003】
ところで、近年では、磁気記録媒体用の基板として、アルミニウム等からなる金属基板に代えて、ガラス、セラミックスなどからなる非金属基板が多く用いられてきている。非金属基板は、硬度が高いためヘッドスラップが生じにくく、しかも表面平滑性が高いためグライドハイト特性の点で有利である。
しかしながら、ガラス基板などの非金属基板は、テクスチャ加工を施すのが難しく、磁性層の磁気異方性が不十分となり熱揺らぎ耐性が低くなりやすいという問題がある。
このため、ガラス、セラミックスなどからなる非金属基板上に、テクスチャ加工が容易な硬質膜を形成することが提案されている。
例えば特開平5−197941号公報には、非金属基板表面に、テクスチャ加工が容易な硬質膜であるNiP膜をスパッタ法により形成した磁気記録媒体が開示されている。
非金属基板表面に硬質膜を設けた磁気記録媒体を製造するには、スパッタ装置などの成膜装置内において基板上に硬質膜を形成した後、基板を一旦成膜装置から搬出し、テクスチャ加工装置を用いてテクスチャ加工を施し、次いで再び成膜装置内に搬入し下地層や磁性層の形成を行う方法が採られる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記アルミニウム基板のような非磁性金属基板、ガラス基板のような非金属基板を用いた従来の磁気記録媒体では、表面に形成されたNiPなどからなる硬質膜にテクスチャ加工を施すことによって磁性層の磁気異方性を高めることができるものの、硬質膜の表面凹凸によって媒体の表面平滑性が低くなりやすい。このため、グライドハイト特性が悪化し、高記録密度化が難しくなる問題があった。また製造工程が煩雑であるため製造コストが嵩む不都合があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、熱揺らぎ耐性などの磁気特性およびグライドハイト特性に優れ、かつ容易に製造することができる磁気記録媒体、この磁気記録媒体を容易に製造することができる方法および装置、さらには熱揺らぎ耐性などの磁気特性に優れた磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、非磁性基板と非磁性下地層との間に配向調整層を形成し、この配向調整層を、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが1より大きくされた構成とし、さらに、磁性層を、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能な構造とすることによって、顕著な熱揺らぎ耐性向上効果が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、この配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされ、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされている。
本発明の磁気記録媒体では、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有する配向調整層の利用により、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされているので、磁性層において周方向の磁気異方性を強め、結晶磁気異方性定数(Ku)を高めることができることから、熱揺らぎ耐性、保磁力、記録再生信号のS/N比などの磁気特性の向上を図ることができる。
本発明では、これに加えて、磁性膜間の反強磁性結合により、最も保磁力の高い主磁性膜以外の磁性膜の磁化について、見かけ上磁化のない状態、または主磁性膜の磁化が、これ以外の磁性膜の磁化に相当する磁化の分、見かけ上小さくなった状態が得られる。
このため、ノイズや分解能に悪影響を及ぼすことがなく、磁性粒子の体積を十分に大きくすることができ、熱的安定化を図り、熱揺らぎ耐性の向上を図ることができる。
磁性層は、隣り合う磁性膜の磁気モーメント方向が互いに正対する積層フェリ構造を有する構成とすることができる。
磁性層は、複数の磁性膜と、これらの間に介在する中間膜とを有する構造とすることができる。
磁性層は、磁性膜と、これに隣接する中間膜とからなる積層構造を2つ以上有する構成とすることができる。
複数の磁性膜のうち最も保磁力が大きい主磁性膜に対し隣接する磁性膜の反強磁性結合磁界は、この磁性膜の保磁力よりも大きく設定するのが好ましい。
中間膜は、Ru、Cr、Ir、Rh、Mo、Cu、Co、Re、Vのうち少なくとも1種を主成分とする材料からなるものとするのが好ましい。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちCr、V、Nb、Mo、W、Taのうち1種または2種以上からなる構成とすることができる。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちCrを主成分とする合金からなるものであってもよい。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちTaを含む合金X1Ta(X1はBe、Co、Cr、Fe、Nb、Ni、V、Zn、Zrのうち1種または2種以上)を主成分とし、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有するものであってもよい。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちNbを含む合金X2Nb(X2はBe、Co、Cr、Fe、Ni、Ta、V、Zn、Zrのうち1種または2種以上)を主成分とし、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有するものであってもよい。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちCoTaまたはCoNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が30〜75at%であり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有する構成とすることができる。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちCrTaまたはCrNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が15〜75at%である構成とすることができる。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちNiTaまたはNiNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が30〜75at%であり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有する構成とすることができる。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちFd3m構造を有する非磁性金属からなるものとすることができる。
配向調整層は、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる構成、すなわちC15構造を有する非磁性金属からなるものとすることができる。
本発明では、非磁性基板と配向調整層との間に、配向性向上層が形成されている構成とすることができる。
配向性向上層は、B2構造またはアモルファス構造をなす材料からなるものである構成とすることができる。
配向性向上層は、NiAl、FeAl、CoAl、CoZr、CoCrZr、およびCoCrCのうちいずれかを主成分とするものである構成とすることができる。
本発明では、配向調整層を、複数設けることができる。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板と、その上に形成された磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性基板と磁性層との間に、直上の層の結晶配向性を調整する配向調整層が形成され、配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされ、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされた構成とすることもできる。
本発明の磁気記録媒体は、非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とする磁気記録媒体において、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、直上の層の結晶配向性を調整する配向調整層が形成され、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させ、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrを1より大きくする配向調整層が、アモルファス構造のNiP合金からなるものであり、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能である構成とすることもできる。
配向調整層は、窒素または酸素を1at%以上含む構成とすることができる。
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされた磁気記録媒体を製造する方法であって、配向調整層を構成する材料からなる成膜粒子を放出源から放出させて被付着面に付着させることにより配向調整層を形成し、この際、成膜粒子軌道の被付着面への投影線がほぼ非磁性基板の径方向に沿い、かつ非磁性基板に対し傾いて入射するように成膜粒子の方向を設定することを特徴とする。
配向調整層には、酸化処理または窒化処理を施すことができる。
配向調整層を形成するにあたっては、成膜粒子の放出源としてスパッタリングターゲットを用いるスパッタ法を採用することができる。
配向調整層を形成するに際しては、酸素または窒素を含むスパッタガスを用いることによって酸化処理または窒化処理を行うことができる。
酸化処理または窒化処理を、配向調整層の表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させることにより行うことができる。
本発明の磁気記録媒体の製造装置は、非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされた磁気記録媒体を製造する装置であって、配向調整層を構成する材料からなる成膜粒子を放出し被付着面に付着させることにより配向調整層を形成する放出源と、この放出源から放出された成膜粒子の方向を定める方向設定手段とを備え、この方向設定手段が、成膜粒子軌道の被付着面への投影線がほぼ非磁性基板の径方向に沿い、かつ非磁性基板に対し傾いて入射するように成膜粒子の方向を設定することができるようにされていることを特徴とする。
本発明の磁気記録再生装置は、磁気記録媒体と、この磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備え、磁気記録媒体が、非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、この配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされ、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされたことを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の磁気記録媒体の第1の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体は、非磁性基板1上に配向調整層2が形成され、その上に非磁性下地層3、磁性層4、保護層5、潤滑層6が順次形成されたものである。
図1(a)は、本実施形態の磁気記録媒体の全体構成を示す断面図であり、図1(b)は、この磁気記録媒体の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づいて作成した要部拡大図である。
【0007】
非磁性基板1としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料からなる金属基板を用いてもよいし、ガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板を用いてもよい。
ガラス基板としては、アモルファスガラス、結晶化ガラスが使用可能であり、アモルファスガラスとしては、汎用のソーダライムガラス、アルミノケートガラス、アルミノシリケートガラスを使用できる。また結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスを用いることができる。
セラミックス基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、それらの繊維強化物などが使用可能である。
非磁性基板1としては、耐久性、コストなどの観点からガラス基板を用いるのが好ましい。
また、これらの基板の表面にメッキ法などによりNiP層が形成されたものも非磁性基板1として挙げることができる。
本発明においては、アルミニウムなどからなる非磁性金属基板と、ガラス基板などの非金属基板とを含めて非磁性基板と呼ぶ。
非磁性基板1の表面にはテクスチャ加工を施してもよい。基板1の表面の平均粗さRaは、0.01〜2nm(好ましくは0.05〜1.5nm)とするのが好適である。
【0008】
配向調整層2は、直上に形成される非磁性下地層3の結晶配向性を整え、さらにはその上に形成される磁性層4の結晶配向性を調整し、磁性層4の磁気異方性を向上させるためのものである。
配向調整層は、Cr、V、Nb、Mo、W、Taのうち1種または2種以上を用いるのが好ましい。これによって、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させることができる。
配向調整層2の材料としては、Crを主成分とする(すなわちCrの含有率が50at%を越える)合金を用いることもでき、特にCrX0(X0はV、Nb、Mo、Ta、Wのうち1種または2種以上)系合金を用いるのが好ましい。これによって、bcc構造の非磁性下地層を(200)に優先的に配向させることができる。
CrX0系合金を用いる場合、X0の含有率は、1at%以上、50at%未満とするのが好ましい。X0の含有率を上記範囲とすることによって、非磁性下地層3および磁性層4の結晶配向性を高め磁気異方性を向上させることができる。
【0009】
配向調整層2は、Taを含む合金X1Ta(X1はBe、Co、Cr、Fe、Nb、Ni、V、Zn、Zrのうち1種または2種以上)を主成分とし、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有するものであってもよい。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。配向調整層2は、Nbを含む合金X2Nb(X2はBe、Co、Cr、Fe、Ni、Ta、V、Zn、Zrのうち1種または2種以上)を主成分とし、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有するものであってもよい。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。配向調整層2は、CoTaまたはCoNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が30〜75at%であり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有する構成とすることができる。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。
配向調整層2は、CrTaまたはCrNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が15〜75at%である構成とすることもできる。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。
配向調整層2は、NiTaまたはNiNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が30〜75at%であり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有する構成とすることもできる。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。
配向調整層2がこれらCoTa、CoNb、CrTa、CrNb、NiTa、NiNbを主成分とするものである場合において、TaまたはNbの含有率を上記範囲とするのが好適であるとしたのは、この含有率が低すぎると保磁力が低くなりやすく、含有率が高すぎると磁性層内の配向性が低下し保磁力が低くなるおそれがあるためである。
また配向調整層2は、TaまたはNbを30at%以上含有する非磁性合金材料からなるものとすることもできる。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。
【0010】
配向調整層2は、Fd3m構造(空間群(Space Group)表記)を有する非磁性金属からなるものとすることもできる。これによって、bcc構造の非磁性下地層3を(200)に優先的に配向させることができる。
Fd3m構造を有する非磁性金属としては、上述のCrX0系合金のうちCrNb系(70Cr30Nbなど)、CrTa系(65Cr35Taなど)、CrTi系(64Cr36Tiなど)等のC15構造(Skrukturbercht Symbol表記)合金が好適である。
Fd3m構造を有する金属としては、このほか、CoTa系(65Co35Taなど)、CoNb系(70Co30Nbなど)、WHf系(66W34Hf)、AlY系(67Al33Yなど)等のC15構造をなす合金がある。
またCoTa系(比較的Co含有率が小さいもの、例えば50Co50Taなど)、FeNb系(50Fe50Nbなど)等の合金を用いることもできる。
これらFd3m構造をなす材料を用いる場合には、成膜時に酸化処理または窒化処理(後述)を行うことによってその結晶構造(Fd3m構造)を整えたものが好ましい。
配向調整層2は、非磁性下地層3の結晶配向性を調整するだけでなく、非磁性下地層3、磁性層4中の結晶粒を微細化する結晶粒微細化層としても機能する。
【0011】
配向調整層2には、窒素または酸素を1at%以上含有させるのが好ましい。
これは、窒素または酸素を1at%以上含有させることによって、非磁性下地層3の結晶を、より正確に(200)に配向させ、磁性層4の磁気異方性を高めることができるためである。
【0012】
図1(b)に示すように、配向調整層2は、柱状微結晶粒2aが、非磁性基板1に垂直な線2bに対して半径方向に傾いた結晶構造を有する。すなわち柱状微結晶粒2aの傾斜角度α1(柱状微結晶粒2a軸方向の、垂直線2bに対する傾き)が0°を越え、90°未満となるようになっている。
柱状微結晶粒2aの傾斜角度α1は、10〜75°(好ましくは15〜75°、さらに好ましくは20〜75°、さらに好ましくは25〜55°)であることが好ましい。
傾斜角度α1が上記範囲未満である場合には、非磁性下地層3、磁性層4の結晶配向性が悪化し磁気異方性が低下する。また成膜装置の構成の点から、角度α1を上記範囲を越える範囲に設定するのは難しい。
傾斜角度α1は、10°以上、30°未満となる値とすることができる。また65°を越え、90°未満となる値とすることもできる。
また配向調整層2は、柱状微結晶粒2aの傾きが中心側から外周側にかけて徐々に大きくなるようになっている構成とすることもできる。
柱状微結晶粒2aの円周方向の傾きは任意としてよいが、特に、柱状微結晶粒2aが周方向にほとんど傾いていない構成が好ましい。
【0013】
配向調整層2の厚さは2〜100nmとするのが望ましい。この厚さは、上記範囲未満であると磁性層の磁気異方性が低下し、上記範囲を越えると製造効率が低下する。
【0014】
配向調整層2の表面平均粗さRaは、0.4nm以下(好ましくは0.2nm以下)とするのが好ましい。
この表面平均粗さRaが上記範囲を越えると、媒体の表面凹凸が大きくなり、グライドハイト特性の低下を招く。
【0015】
非磁性下地層3は、従来公知の下地層材料、例えばCr、V、Taのうち1種以上、またはこれらに結晶性を損なわない範囲で他の元素を添加した合金からなるものとすることができる。
なかでも特に、CrまたはCr合金(例えばCrW系、CrMo系、CrV系)を用いるのが好適である。
またこの材料としては、Ni50Al(Ni−50at%Al)等のB2構造をなす材料を用いることもできる。
また非磁性下地層3は単層構造としてもよいし、2種類以上の膜を複数積層させた多層構造としてもよい。
非磁性下地層3の厚さは、1〜100nm、好ましくは2〜50nmとするのが望ましい。
【0016】
非磁性下地層3は、bcc構造をなし、かつ配向面(非磁性下地層3の表面における支配的な結晶面)が(200)とされており、これによって磁性層4の磁気異方性を高めることができるようになっている。
【0017】
磁性層4は、以下に示すように、複数の磁性膜間に反強磁性結合が形成されている構造、すなわち反強磁性結合構造(いわゆるAFC(Anti Ferro magnetic Coupling)構造)を有する。
この磁性層4は、第1磁性膜4a(上層側)と、第2磁性膜4b(下層側)と、これらの間に介在する中間膜4cとを有する。
第1および第2磁性膜4a、4bには、例えばCr、Pt、Ta、B、Ti、Ag、Cu、Al、Au、W、Nb、Zr、V、Ni、FeおよびMoのうち1種以上を、Coに加えたCo合金を用いることができる。
上記材料の好適な具体例としては、CoPt系、CoCrPt系、CoCrPtTa系、CoCrPtB系、CoCrPtBTa系、CoCrPtTaCu系、CoCrPtTaZr系、CoCrPtTaW系、CoCrPtCu系、CoCrPtZr系、CoCrPtBCu系、CoCrPtBZr系、CoNiTa系、CoNiTaCr系、CoCrTa系などの合金が利用できる。
また、Ag、Ti、Ru、C等の非磁性金属、この非磁性金属の化合物、酸化物(SiO2、SiO、Al23等)、窒化物(Si34、AlN、TiN、BN等)、フッ化物(CaF等)、炭化物(TiC等)などの非磁性母材中に磁性粒子が分散したグラニュラー膜を採用することもできる。
【0018】
第1および第2磁性膜4a、4bの厚さは、特に限定されないが、小さすぎれば磁性粒子の体積が少なくなり熱揺らぎ耐性の点で不利となり、大きすぎればこの層の磁化が過大となりノイズ増加を招くおそれがある。
このため、磁性膜4aの厚さは1〜40nm(好ましくは5〜30nm)とするのが好適であり、磁性膜4bの厚さは1〜20nm(好ましくは1〜10nm)とするのが好適である。
第1磁性膜4aの保磁力は、2000(Oe)以上(好ましくは3000(Oe)以上)とするのが好適である。この保磁力が上記範囲未満であると、この磁性膜4aの熱揺らぎ耐性が小さくなり、熱揺らぎ耐性向上効果が低下する。第1磁性膜4aの保磁力は、第2磁性膜4bの保磁力よりも大きく設定するのが好ましい。この場合、第1磁性膜4aは、第2磁性膜4bに比べ保磁力が大きい主磁性膜となる。この際、磁性層4全体(磁気記録媒体)の保磁力は主磁性膜の保磁力に等しくなる。
【0019】
第1および第2磁性膜4a、4bは、中間膜4cを介した反強磁性結合によって、磁気モーメント方向が互いに正対するようにされており、これによって磁性層4は積層フェリ構造となっている。
第1および第2磁性膜4a、4bは、hcp構造をなし、かつ配向面が(110)とされている。
【0020】
中間膜4cには、Ru、Cr、Ir、Rh、Mo、Cu、Co、Re、Vのうち少なくとも1種を主成分とする材料を用いるのが好ましい。なかでも特に、Ruを用いるのが好ましい。
中間膜4cにRuを用いる場合には、中間膜4cの厚さを0.6〜1nm(好ましくは0.7〜0.9nm)とするのが好適である。
この厚さが上記範囲未満である場合、または上記範囲を越える場合には、2つの磁性膜4a、4b間の反強磁性結合が不十分となって熱揺らぎ耐性向上効果が低下する。
また中間膜4cに、CrまたはCr合金を用いる場合には、その厚さは、2〜3nm(好ましくは2.2〜2.8nm)とするのが好適である。この厚さが上記範囲未満である場合、または上記範囲を越える場合には、磁性膜4a、4b間の反強磁性結合が不十分となって熱揺らぎ耐性向上効果が低下する。
【0021】
保護層5の材料としては、従来公知のものを使用してよく、例えばカーボン、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化ジルコニウム等の単一成分またはこれらを主成分とする材料を使用することができる。
保護層5の厚さは、2〜10nmとするのが好ましい。
【0022】
潤滑層6は、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系潤滑剤などからなるものとすることができる。
【0023】
上記構成の磁気記録媒体は、磁性層4の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大(好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.2以上)とされている。
この比Hcc/Hcrが上記範囲未満であると、磁気記録媒体の磁気異方性が不足し、熱揺らぎ耐性、エラーレート、ノイズ特性などの磁気特性が不十分となる。
【0024】
次に、上記磁気記録媒体を製造する場合を例として、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一実施形態を説明する。
図2は、本発明の磁気記録媒体の製造装置の一実施形態を示すものである。
ここに示すスパッタ装置21は、非磁性基板1上に配向調整層2を形成するためのもので、成膜粒子を放出する放出源であるスパッタリングターゲット22と、このスパッタリングターゲット22から放出された成膜粒子の方向を定める方向設定手段である遮蔽板23とをチャンバ28内に備えている。
符号29はスパッタガス等をチャンバ28内に導入する導入経路であり、符号30はチャンバ28内のスパッタガス等をチャンバ28から導出する導出経路である。
【0025】
スパッタリングターゲット22は、上記配向調整層2の構成材料からなるものであり、円板状に形成されている。
遮蔽板23は、スパッタリングターゲット22から放出された成膜粒子のうち、目的とする方向以外の方向に放出された成膜粒子を遮ることにより成膜粒子の方向を定めるためのもので、円板状に形成され、ほぼ中央部に、円形の成膜粒子通過口24が形成されている。
遮蔽板23は、スパッタリングターゲット22に対しほぼ平行に、スパッタリングターゲット22に対して所定の間隔をおいて設置されている。
遮蔽板23は、その軸線23aがスパッタリングターゲット22の軸線22aに対しほぼ一致するように設置されている。
また成膜粒子の入射角度の精度を高めるためには、遮蔽板23を可能な限り薄く形成するのが好ましい。例えば、外径2.5インチ(63.5mm)の非磁性基板1を用いる場合には、遮蔽板23の厚さは1.5〜5mm(好ましくは2〜4mm)とするのが好ましい。
遮蔽板23には、耐熱性に優れ、不純物発生が少ない材料である金属材料(例えばステンレス、アルミニウム合金)を用いるのが好ましく、特に、付着した成膜粒子を除去する作業が容易であり、しかも安価であることからアルミニウム合金を用いるのが好ましい。
【0026】
成膜粒子通過口24の内径は、放出された成膜粒子が非磁性基板1の表面1aの配向調整層形成領域1bに付着する際の成膜粒子の非磁性基板1に対する入射角度αが10〜75°となるように設定するのが好ましい。
この入射角度αとは、非磁性基板1に対し垂直な線1cに対する角度をいう。
成膜粒子通過口24の内径は、成膜効率を低下させない範囲で小さくするのが好ましい。例えば、外径2.5インチ(63.5mm)の非磁性基板1を用いる場合には、成膜粒子通過口24の内径は20mm以下(好ましくは15mm以下、さらに好ましくは7mm以下)とするのが好ましい。
【0027】
このスパッタ装置21を用いて配向調整層2を形成するには、非磁性基板1をチャンバ28内に搬入し、遮蔽板23のスパッタリングターゲット22側に対し反対側(図中左側)に非磁性基板1を配置する。この際、非磁性基板1はスパッタリングターゲット22、遮蔽板23に対しほぼ平行に配置する。
【0028】
次いで、アルゴンなどのスパッタガスを導入経路29を通してチャンバ28内に導入するとともに、スパッタリングターゲット22に給電し、成膜粒子をスパッタ法により放出させる。
この際、スパッタリングターゲット22の中央部からやや離れた位置の成膜粒子放出箇所25、25から放出された成膜粒子のうち、遮蔽板23中央部に向かったものは、成膜粒子通過口24を通過し、それ以外のものは遮蔽板23に遮られる。
【0029】
図2および図3に示すように、成膜粒子通過口24を通過した成膜粒子は、ターゲット22の中央部からやや離れた位置の成膜粒子放出箇所25から放出され、遮蔽板23中央部の成膜粒子通過口24を通過したものであるため(図2を参照)、成膜粒子軌道26の基板表面1aへの投影線27は、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿うものとなる(図3を参照)。このため、成膜粒子は基板1の周方向に均一に表面1aに付着する。
成膜粒子は、入射角度αが好ましくは10〜75°となるように、被付着面である表面1aの環状の配向調整層形成領域1bに付着する。
この入射角度αは、15〜75°(好ましくは20〜75°、さらに好ましくは25〜55°)とするのがさらに好適である。
この入射角度αが上記範囲未満である場合には、非磁性下地層3、磁性層4の結晶配向性が悪化し磁気異方性が低下する。また装置構成の点から入射角度αを上記範囲を越える範囲に設定するのは難しい。
また傾斜角度αは、10°以上、30°未満となる値とすることができる。また65°を越え、75°以下となる値とすることもできる。
【0030】
入射角度αを上記範囲に設定することによって、図1(b)に示すように、配向調整層2は、柱状微結晶粒2aが、非磁性基板1に垂直な線2bに対して半径方向に傾いた結晶構造を有するものとなる。
【0031】
配向調整層2には、酸化処理または窒化処理を施すのが好ましい。
酸化処理または窒化処理を行うには、スパッタ装置21を用いて配向調整層2を形成するに際し、導入経路29を通してチャンバ28に導入するスパッタガスとして、酸素または窒素を含むものを用いる方法を採ることができる。
酸素を含むスパッタガスとしては、酸素とアルゴンの混合ガスを用いることができる。窒素を含むスパッタガスとしては、窒素とアルゴンの混合ガスを用いることができる。
混合ガス中の酸素または窒素の含有率は、1〜50vol%とすることができる。
【0032】
また本発明では、配向調整層2を形成した後に、その表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させる方法によって酸化または窒化処理を行うこともできる。
酸素含有ガスとしては、空気、純酸素、水蒸気を用いることができる。また空気中の酸素含有率を増加させた酸素富化ガスを用いることもできる。
窒素含有ガスとしては、空気、純窒素、窒素富化ガスを用いることができる。
【0033】
配向調整層2表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させる方法の具体例としては、上述のように、スパッタ装置21内において基板1上に配向調整層2を形成した後、チャンバ28内に、導入経路29を通して酸素含有ガスまたは窒素含有ガスを導入する方法を挙げることができる。
酸素含有ガスまたは窒素含有ガス中の酸素または窒素含有率は、1〜100vol%とすることができる。
導入する酸素、窒素の量や、酸素、窒素への曝露時間を適宜設定することにより、配向調整層2の酸化(または窒化)度合いを調節することができる。例えば、10-4〜10-6Paの真空度に対し、10-3Pa以上の酸素ガス圧の雰囲気に、配向調整層2を0.1〜30秒間曝すことによって、所定の酸化状態を得ることができる。
酸素含有ガスまたは窒素含有ガスの使用によって、酸化処理または窒素処理を容易な操作で行うことができるようになる。
この酸化処理または窒化処理によって、配向調整層2は少なくとも表面付近が酸化または窒化される。
【0034】
なお酸化処理または窒化処理を行うには、スパッタガスとして、酸素または窒素を含むものを用いて配向調整層2を形成した後に、その表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させる方法を採ることもできる。また配向調整層2の表面を大気にさらす方法を採ることもできる。
【0035】
非磁性下地層3、磁性層4の形成は、スパッタ法により行うことができる。
非磁性下地層3を形成する際、配向調整層2の影響下で成長する非磁性下地層3は、優れた結晶配向性を有するものとなる。非磁性下地層3は、bcc構造をなし、かつ配向面(非磁性下地層3における支配的な結晶配向面)が(200)となる。
非磁性下地層3が優れた結晶配向性を有するものとなる結果、その上に形成される磁性層4の結晶配向性が向上する。磁性層4の第1および第2磁性膜4a、4bは、hcp構造をなし、かつ配向面(磁性層4における支配的な結晶配向面)が(110)となる。
【0036】
また保護層5は、プラズマCVD法、スパッタ法などにより形成することができる。
潤滑層6の形成には、パーフルオロポリエーテル等のフッ素系液体潤滑剤などの潤滑剤を保護層5上にディッピング法により塗布する方法を採用することができる。
【0037】
本実施形態の磁気記録媒体は、非磁性基板1と非磁性下地層3との間に、直上の層の結晶配向性を調整する配向調整層2が形成され、この配向調整層2が、柱状微結晶粒2aが半径方向に傾いた結晶構造を有するので、非磁性下地層3および磁性層4の結晶配向性を向上させ、磁性層4における周方向の磁気異方性を高めることができる。
磁性膜4において周方向の磁気異方性が高められるため、結晶磁気異方性定数(Ku)を高めることができることから、熱揺らぎ耐性の向上を図ることができる。
さらには、磁性層4が、第1および第2磁性膜4a、4bを有し、これらの間に反強磁性結合が形成された構造を有するので、磁性膜4a、4b間の反強磁性結合により、見かけ上、磁化の小さい状態が得られる。
このため、ノイズ特性や分解能に悪影響を及ぼすことなく、磁性粒子の体積を十分に大きくすることができ、熱的な安定化を図ることができる。従って、熱揺らぎ耐性をさらに高めることができる。
【0038】
一般に、2つの磁性膜間の反強磁性結合の強度は、磁性膜間に設けられた中間膜の厚さに大きな影響を受ける。例えば、中間膜にRuを用いる場合には、磁性膜間の反強磁性結合強度は、中間膜の厚さが0.8nm前後であるときに極大値をとり、中間膜の厚さが、この極大値に相当する厚さに比べ、わずかに大きくなるかまたは小さくなると、反強磁性結合強度は大きく低下する。
このため、磁性層に反強磁性結合構造(AFC構造)を採用する場合には、磁性層の下に形成される膜の表面凹凸が大きいと、中間膜の厚さが不均一となり、局部的に反強磁性結合強度が低下し、熱揺らぎ耐性が不十分となりやすい。
これに対し、本実施形態の磁気記録媒体では、磁性層4の磁気異方性を向上させることができることから、製造に際してテクスチャ加工が不要となるため、テクスチャ加工の表面凹凸により中間膜4cの厚さが不均一となるのを防ぎ、反強磁性結合強度を高め、十分な熱揺らぎ耐性向上効果を得ることができる。
【0039】
また、配向調整層2の表面平滑性を高めることができることから、媒体の表面平均粗さRaを小さくし、優れたグライドハイト特性を得ることができる。
またテクスチャ加工が不要となるため、製造が容易となり、製造コスト削減が可能となる。
【0040】
さらには、磁性層4において周方向の磁気異方性を高めることができるため、孤立再生波半値幅を小さくし、再生出力の分解能を向上させることができる。従って、エラーレートを向上させることができる。
また、磁気異方性を高めることによって、保磁力を向上させ、再生出力を向上させることができる。このため、SNRなどのノイズ特性の向上が可能となる。
また非磁性下地層3内の結晶粒を微細化し、下地層3の影響下で成長する磁性層4内の磁性粒を微細化、均一化することができるため、ノイズの低減を図ることができる。このため、ノイズ特性をさらに向上させることができる。
【0041】
配向調整層2を、Fd3m構造を有する非磁性金属からなるものとする場合には、非磁性下地層3、磁性層4における結晶配向性を向上させ、磁性層4における磁気異方性をさらに高めることができる。
【0042】
また上記実施形態の製造方法は、スパッタリングターゲット22から成膜粒子を放出させ、非磁性基板1の表面1aに付着させることにより配向調整層2を形成するにあたり、成膜粒子の軌道26の非磁性基板1への投影線27が、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対し傾いて入射するように成膜粒子の方向を設定するので、磁性層4における磁気異方性を高めることができる。このため、熱揺らぎ耐性を向上させることができる。
またエラーレート、ノイズ特性などの磁気特性を向上させるとともに、優れたグライドハイト特性を得ることができる。
【0043】
またテクスチャ加工を行うことなく磁性層4の磁気異方性を向上させることができるため、テクスチャ加工の表面凹凸により媒体の表面粗さが大きくなることによってグライドハイト特性が低下するのを防ぐことができる。
また製造に際しテクスチャ加工が不要となるため、製造が容易となり製造コスト削減が可能となる。
【0044】
また配向調整層2の表面を酸化処理または窒化処理することによって、非磁性下地層3の配向を(200)とし、磁性層4の磁気異方性をさらに高め、磁気記録媒体の熱揺らぎ耐性、エラーレート、ノイズ特性などを向上させることができる。
【0045】
また上記製造方法では、配向調整層2を形成するにあたって、成膜粒子の放出源としてスパッタリングターゲット22を用いるスパッタ法を採用するので、配向調整層2を容易に形成することができる。
【0046】
また酸化処理または窒化処理を、酸素または窒素を含むスパッタガスを用いて配向調整層2を形成する方法により行うことによって、配向調整層2の形成と、酸化または窒素処理とを1つの工程で行うことができ、製造工程の簡略化が可能となる。従って、作業を容易にするとともに、製造効率の向上を図ることができる。
【0047】
また酸化処理または窒化処理を、配向調整層2の表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させることにより行う場合には、スパッタ装置21を用いて非磁性基板1上に配向調整層2を形成した後、得られた媒体基板M(非磁性基板1上に配向調整層2を形成したもの)をこのスパッタ装置21から搬出することなく、引き続きこのスパッタ装置21内において配向調整層2表面の酸化または窒化処理を行うことができる。
従って、製造工程を簡略化し、作業の容易化および製造効率向上を図ることができる。
【0048】
また上記スパッタ装置21は、成膜粒子の放出源となるスパッタリングターゲット22と、放出された成膜粒子の方向を定める遮蔽板23を備えているので、非磁性基板1に対する成膜粒子の入射方向を、正確に定めることができる。
このため、非磁性下地層3および磁性層4の結晶配向性を向上させ、磁性層4における磁気異方性を確実に高めることができる。
【0049】
また本発明では、配向調整層をアモルファス構造のNiP合金(アモルファスNiP合金)からなるものとすることもできる。
配向調整層をアモルファスNiP合金からなるものとした磁気記録媒体としては、図1(a)に示す構造のものを例示できる。
この図を利用して本発明の磁気記録媒体の第2の実施形態を説明する。
本実施形態の磁気記録媒体では、配向調整層2がNiP合金からなるものとされ、そのNi含有率は、50〜90at%とするのが好ましい。
アモルファスNiP合金からなる配向調整層2は、上記製造方法と同様にして形成することができる。
すなわち、アモルファスNiP合金からなるスパッタリングターゲット22と遮蔽板23を有するスパッタ装置21を用い、スパッタリングターゲット22からの成膜粒子を、入射角度αが好ましくは10〜75°となるように非磁性基板1の表面1aに付着させる。
【0050】
配向調整層2を形成するに際しては、上述の方法に従って、酸素または窒素を含むスパッタガスを用いるか、または配向調整層2表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させることによって、配向調整層2に酸化処理または窒化処理を施す。これによって、配向調整層2の少なくとも表面が結晶化する可能性がある。
この磁気記録媒体は、磁性層4の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくなる(好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.2以上)。
【0051】
この磁気記録媒体では、上記第1の実施形態の磁気記録媒体と同様に、非磁性下地層3および磁性層4の結晶配向性を向上させ、磁気異方性を高めることができる。
従って、熱揺らぎ耐性、エラーレート、ノイズ特性などの磁気特性を向上させることができる。またグライドハイト特性を向上させることができる。
【0052】
図4は、本発明の磁気記録媒体の第3の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体は、磁性層14が、第1磁性膜14a(最上層側)、第2磁性膜14b、第3磁性膜14c(最下層側)を有し、第1および第2磁性膜14a、14b間に第1の中間膜14dが設けられ、第2および第3磁性膜14b、14c間に第2の中間膜14eが設けられている点で図1に示すものと異なる。
第1ないし第3の磁性膜14a、14b、14cには、上述の磁性膜4a、4bの材料として例示した磁性材料を用いることができる。
第1磁性膜14aの保磁力Hc1は、2000(Oe)以上(好ましくは3000(Oe)以上)とするのが好適である。保磁力Hc1が上記範囲未満であると、この磁性膜14aの熱揺らぎ耐性が小さくなり、熱揺らぎ耐性向上効果が低下する。第1磁性膜14aの保磁力Hc1は、第2および第3磁性膜14b、14cの保磁力Hc2、Hc3よりも大きく設定するのが好ましい。この場合、第1磁性膜14aは保磁力が最も大きい主磁性膜となる。
【0053】
第1ないし第3磁性膜14a、14b、14cの厚さは、特に限定されないが、小さすぎれば磁性粒子の体積が少なくなり熱揺らぎ耐性の点で不利となり、大きすぎればこの層の磁化が過大となりノイズ増加を招くおそれがある。
このため、第1磁性膜14aの厚さは1〜40nm(好ましくは5〜30nm)とするのが好適であり、第2および第3磁性膜14b、14cの厚さは1〜20nm(好ましくは1〜10nm)とするのが好適である。
第1および第2中間膜14d、14eの材料および厚さは、上述の中間膜4cと同様とすることができる。
【0054】
本実施形態の磁気記録媒体では、最も保磁力が大きい第1磁性膜14aに対し、中間膜14dを介して隣接する第2磁性膜14bの反強磁性結合磁界が、この磁性膜の保磁力よりも大きいことが好ましい。
以下、このことを図5を参照して説明する。
図5は、本実施形態の磁気記録媒体の履歴曲線を示すものである。
この磁気記録媒体では、最上層側の磁性膜(第1磁性膜14a)だけでなく、他の磁性膜(第2および第3磁性膜14b、14c)においても個別に磁化反転が起きるため、履歴曲線が複数の段部(磁化反転部)を有するものとなる。
すなわち、図5(a)に示すように、外部磁場Hを減少させる過程で描かれる曲線が、第2磁性膜14bの磁化反転部R2(外部磁場Hと磁化Mがいずれも正である第1象限にあるもの)と、第3磁性膜14cの磁化反転部R3と、第1磁性膜14aの磁化反転部R1とを有する履歴曲線が得られる。
磁化反転部R2、R3、R1においては、外部磁場Hの減少に伴って小さくなる磁化の減少率が急に大きくなっている。図中破線は、これら磁化反転部付近において外部磁場Hを増減させて作成した履歴曲線(マイナーループ)の一部を示すものである。
【0055】
この磁気記録媒体においては、外部磁場Hが十分に高い図中領域A1では、3つの磁性膜の磁化方向がすべて正方向となるが、外部磁場Hを減少させるに伴い、まず磁化反転部R2において第2磁性膜14bの磁化方向が反転し、領域A2における第2磁性膜14bの磁化方向が負方向となる。
さらに外部磁場Hを減少させると、磁化反転部R3において第3磁性膜14cの磁化方向が反転し、領域A3における第3磁性膜14cの磁化方向は負方向となる。
さらに外部磁場Hを減少させると、磁化反転部R1において第1磁性膜14aの磁化方向が反転し負方向となり、領域A4に至って完全に負方向となる。ここで、磁性層14全体の保磁力Hcは、最も保磁力が大きい第1磁性膜14aの保磁力Hc1にほぼ等しくなる。なお磁化反転部R1付近の履歴曲線の微分値の絶対値がピークとなる外部磁場Hを保磁力Hc1とする。
磁化反転部R2付近の履歴曲線(マイナーループ)MR2の微分値の絶対値がピークとなる外部磁場をHc2A、Hc2Bとし、これらHc2A、Hc2Bの平均値を反強磁性結合磁界Hbias2とする。またHc2AとHbias2との差を第2磁性膜14bの保磁力Hc2とする。
ここに示す磁気記録媒体では、図5(b)に示すように、第2磁性膜14bの磁化反転部R2における履歴曲線(マイナーループ)MR2の中心に相当する外部磁場Hである反強磁性結合磁界Hbias2は、第2磁性膜の保磁力Hc2よりも大きい。
このため、高い外部磁場Hを加えて3つの磁性膜の磁化方向を全て正方向とした状態から外部磁場Hをゼロにすると、第2磁性膜14bでは、上下に隣接する磁性膜14a、14cとの反強磁性結合により、確実に磁化方向が反転し負方向に向くようになる。
このため、反強磁性結合により外部磁場がゼロである状態における再生において、見かけ上、磁性層14の磁化を、磁性膜14a、14b、14cの合計磁化から、磁性膜14bの磁化分をマイナスした値とすることができる。これにより、磁性層14全体の磁化を、見かけ上小さくし、ノイズ特性や分解能を劣化させることなく、熱揺らぎ耐性向上効果を確実に得ることができる。
これに対し、反強磁性結合磁界Hbias2が保磁力Hc2よりも小さい場合には、磁性膜間の反強磁性結合が不十分となり、外部磁場をゼロとした場合でも第2磁性膜14bの磁化方向が反転せず、再生時において、磁性層14全体の磁化が増加することになり、ノイズ特性や分解能に悪影響が及ぶ可能性がある。さらに、磁性膜間の反強磁性結合が不十分となるため、磁性粒子の実効体積増加の効果が弱くなることから、熱揺らぎ耐性を高める効果が低下するおそれがある。
【0056】
本実施形態の磁気記録媒体では、磁性層14が、第1ないし第3の磁性膜14a、14b、14cと、これらの間に設けられた第1および第2の中間膜14d、14eとを有するので、磁性膜数が2である第1の実施形態の磁気記録媒体(図1)に比べ、磁性層14全体の磁性粒子の実効体積を低下させることなく、磁性膜14aの厚さを小さく設定できる。このため、熱揺らぎ耐性を向上させ、かつ磁性膜14a内の磁化方向の乱れを最小限に抑え、記録再生におけるノイズ特性や分解能を向上させることができる。
なおこの実施形態の磁気記録媒体では、磁性膜とこれに隣接する中間膜とからなる積層構造を2つ有する(磁性膜14bと中間膜14dからなる第1の積層構造と、磁性膜14cと中間膜14eからなる第2の積層構造を有する)が、本発明において、磁性層は、磁性膜と、これに隣接する中間膜とからなる積層構造を3以上有する構成とすることもできる。
この場合には、磁性膜の磁性粒子の実効体積をさらに大きくできるため、熱揺らぎ耐性を向上させることができる。
【0057】
図6は、本発明の磁気記録媒体の第4の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体では、非磁性下地層3と磁性層14との間に、非磁性中間層15が設けられている。
非磁性中間層15には、hcp構造を有する非磁性材料を用いるのが好ましい。非磁性中間層15には、CoCr系合金を用いるのが好ましい。またCoCrにPt、Ta、ZrNb、Cu、Re、Ni、Mn、Ge、Si、O、N、およびBのうち1種以上を添加した合金を用いることもできる。
非磁性中間層15の厚さは、磁性層14における磁性粒子の粗大化を防ぐため、20nm以下(好ましくは10nm以下)とするのが好ましい。
本実施形態の磁気記録媒体では、非磁性中間層15を設けることによって、磁性層14の配向性を高め、熱揺らぎ耐性をさらに向上させることができる。
【0058】
図7は、本発明の磁気記録媒体の第5の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体では、配向調整層2と非磁性下地層3との間に、第2下地層16が設けられている。この第2下地層16には、CrまたはCr合金を用いることができる。
この磁気記録媒体では、非磁性下地層3および磁性層14における結晶配向性を向上させ、磁性層14における磁気異方性をさらに高めることができる。
【0059】
図8は、本発明の磁気記録媒体の第6の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体では、非磁性基板1と配向調整層2との間に、配向性向上層17が設けられている。
配向性向上層17は、配向調整層2の配向性を調整するとともに、配向調整層2の基板側からの剥離を防ぐためのもので、材料としては、例えばCr、Mo、Nb、V、Re、Zr、W、Tiのうち1種以上を主成分とする合金を使用することができ、なかでも特に、CrMo系、CrTi系、CrV系、CrW系などの合金や、Crの使用が好適である。
またB2構造またはアモルファス構造をなす材料を用いることもできる。
B2構造をなす材料としては、NiAl系(Ni50Alなど)、CoAl系(Co50Alなど)、FeAl系(Fe50Al)などの合金を挙げることができる。
アモルファス構造をなす材料としては、CuZr系、TiCu系、NbNi系、NiP系などの合金を用いることができる。
配向性向上層17の材料の好ましい具体例としては、NiAl、FeAl、CoAl、CoZr、CoCrZr、およびCoCrCのうちいずれかを主成分とするものを挙げることができる。
配向性向上層17の厚さは、200nm以下、例えば5〜200nmとするのが好ましい。この厚さが200nmを越えると磁性層14の磁気異方性を高める効果が低下する。
【0060】
本実施形態の磁気記録媒体では、配向性向上層17を設けることによって、配向調整層2の初期成長時の配向性の乱れを防ぎ、非磁性下地層3および磁性層14の結晶配向性を向上させ、磁性層14の磁気異方性をさらに高めることができる。従って、熱揺らぎ耐性をさらに高めることができる。
また非磁性基板1から配向調整層2が剥離するのを防ぐことができる。
【0061】
また、本発明では、以下に例示するように、配向調整層を複数設けることもできる。
図9は、本発明の磁気記録媒体の第7の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体は、配向調整層2に代えて、第1および第2の配向調整層2c、2dが設けられている点で図4に示す磁気記録媒体と異なる。
配向調整層2c、2dに用いる材料やこれらの厚さは、図1に示す磁気記録媒体の配向調整層2と同様とすることができる。なお配向調整層の数は3以上とすることもできる。
【0062】
また本発明の磁気記録媒体では、以下に例示するように、非磁性下地層を設けず、配向調整層上に直接、磁性層を形成した構成とすることもできる。この場合には、非磁性下地層を設けないこと以外は本明細書中に記載した構成とすることができる。
図10は、本発明の磁気記録媒体の第8の実施形態を示すもので、ここに示す磁気記録媒体は、非磁性下地層3が形成されていない点で図4に示す磁気記録媒体と異なる。
この磁気記録媒体では、非磁性基板1と磁性層14との間に配向調整層2が形成され、この配向調整層2が、柱状微結晶粒2aが半径方向に傾いた結晶構造を有するので、磁性層14の結晶配向性を向上させ、磁性層14における周方向の磁気異方性を高め、熱揺らぎ耐性の向上を図ることができる。
また本発明では、磁性層を、単一材料からなる単層構造とすることもできる。この場合、磁性層には上記磁性膜4a、4bに用いることができる材料を用いることができる。
【0063】
図11は、上記磁気記録媒体を用いた磁気記録再生装置の例を示すものである。ここに示す磁気記録再生装置は、上記構成の磁気記録媒体7と、磁気記録媒体7を回転駆動させる媒体駆動部8と、磁気記録媒体7に情報を記録再生する磁気ヘッド9と、ヘッド駆動部10と、記録再生信号処理系11とを備えている。記録再生信号処理系11は、入力されたデータを処理して記録信号を磁気ヘッド9に送ったり、磁気ヘッド9からの再生信号を処理してデータを出力することができるようになっている。
【0064】
この磁気記録再生装置にあっては、磁気記録媒体の磁気異方性を高めることができるため、熱揺らぎ耐性の向上を図り、熱揺らぎ現象に起因するデータ消失などのトラブルを未然に防ぐことができる。
またエラーレート、ノイズ特性などの磁気特性を向上させるとともに、優れたグライドハイト特性を得ることができる。従って、高記録密度化を図ることができる。
【0065】
図12は、本発明の磁気記録媒体の製造装置の他の実施形態を示すもので、ここに示すスパッタ装置31は、成膜粒子の放出源であるスパッタリングターゲット32が環状に形成され、遮蔽板33が、環状の外側遮蔽板33aと外側遮蔽板33aの開口部内に配設された円板状の内側遮蔽板33bとから構成されている点で図2に示すスパッタ装置21と異なる。
【0066】
遮蔽板33は、内側遮蔽板33bの外径が外側遮蔽板33aの内径よりも小さくなるように形成され、外側遮蔽板33aの内周縁と内側遮蔽板33bの外周縁との間に、成膜粒子が通過する成膜粒子通過スリット34が形成されている。
外側遮蔽板33aの内径と内側遮蔽板33bの外径は、放出された成膜粒子が非磁性基板1に付着する際に、成膜粒子が非磁性基板1に対し傾いて入射するように(好ましくは入射角度α’が10〜75°となるように)設定されている。
【0067】
このスパッタ装置31を用いて配向調整層2を形成する際には、スパッタリングターゲット32から放出されて成膜粒子通過スリット34を通過した成膜粒子が、非磁性基板1に対する入射角度α’が好ましくは10〜75°となるように非磁性基板1の表面1aに付着する。
【0068】
また本発明では、非磁性下地層3、磁性層4を形成する際においても、スパッタ装置21、31を用いて、成膜粒子軌道の被付着面への投影線が、ほぼ非磁性基板の径方向に沿い、かつ非磁性基板に対し傾いて入射するように(好ましくは入射角度が10〜75°となるように)成膜粒子の方向を設定することもできる。
この方法によれば、磁性層4の磁気異方性をさらに高めることができる。
【0069】
また本発明では、配向調整層を形成する方法として、スパッタ法のほかに、真空蒸着法、ガス中スパッタ法、ガスフロースパッタ法、イオンビーム法などの物理蒸着法を用いることができる。
また上記実施形態では、磁気異方性の指標として、磁性層全体の保磁力Hcに関して、周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrを用いたが、本発明はこれに限らず、磁性層を構成する各磁性膜の保磁力(例えば第2磁性膜14bの保磁力Hc2)に関して、周方向の保磁力と径方向の保磁力との比を磁気異方性の指標として用いることもできる。
【0070】
【実施例】
以下、具体例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(試験例1)
DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)を用いたスパッタ法によって、非磁性基板(アモルファスガラス、直径65mm、厚さ0.635mm)上に、50Ni50Al(50at%Ni−50at%Al)からなる配向性向上層、94Cr6Mo(94at%Cr−6at%Mo)からなる非磁性下地層(厚さ10nm)、60Co40Cr(60at%Co−40at%Cr)からなる非磁性中間層(厚さ2nm)、64Co22Cr10Pt4B(64at%Co−22at%Cr−10at%Pt−4at%B)からなる磁性層(厚さ18nm)、カーボンからなる保護層(厚さ6nm)を形成した。次いで、ディッピング法によりパーフルオロエーテルからなる潤滑層を形成した。
成膜の際には、スパッタ装置のチャンバ内を真空到達度2×10-6Paとなるまで減圧した。また非磁性基板1は200℃に加熱した。スパッタガスとしてはアルゴンを用いた。
【0071】
(試験例2)
磁性層を、64Co22Cr10Pt4Bからなる第1磁性膜(厚さ18nm)と、84Co12Cr4Taからなる第2および第3磁性膜(厚さ2.5nm)と、これら磁性膜間に設けられたRuからなる第1および第2中間膜(厚さ0.8nm)とを有する構造として磁気記録媒体を作製した。その他の条件は試験例1に準じた。
【0072】
(試験例3)
NiAlからなる配向性向上層を設けず、非磁性基板と非磁性下地層との間にCrからなる第2下地層(厚さ10nm)を設けて磁気記録媒体を作製した。その他の条件は試験例1に準じた。
【0073】
(試験例4)
70Cr30Nbからなる配向調整層(厚さ20nm)を形成して磁気記録媒体を作製した。
配向調整層を形成する際には、図2に示すスパッタ装置21を用い、成膜粒子の軌道26の非磁性基板1への投影線27が、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対する入射角度が10〜75°となるように成膜粒子の方向を設定した。また配向調整層の形成にあたっては、スパッタガスとして、25vol%の窒素をアルゴンに添加した混合ガスを用いた。その他の条件は試験例3に準じた。
【0074】
(試験例5〜7)
図7に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製3010)を用いたスパッタ法によって、非磁性基板1(アモルファスガラス、直径65mm、厚さ0.635mm)上に、70Cr30Nbからなる配向調整層2(厚さ20nm)、Crからなる第2下地層16(厚さ10nm)、94Cr6Moからなる非磁性下地層3(厚さ10nm)、60Co40Crからなる非磁性中間層15(厚さ2nm)、磁性層14、カーボンからなる保護層5(厚さ6nm)を形成した。次いで、ディッピング法によりパーフルオロエーテルからなる潤滑層6を形成した。
磁性層14は、第1ないし第3磁性膜14a、14b、14c(厚さはそれぞれ18nm、2.5nm、2.5nm)と、これら磁性膜間に設けられた第1および第2中間膜14d、14e(厚さ0.8nm)とを有する構造とした。
第1磁性膜14aには64Co22Cr10Pt4Bを用い、第2および第3磁性膜14b、14cには84Co12Cr4Taを用い、中間膜14d、14eにはRuを用いた。
配向調整層2を形成する際には、図2に示すスパッタ装置21を用い、成膜粒子の軌道26の非磁性基板1への投影線27が、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対する入射角度が10〜75°となるように成膜粒子の方向を設定した。また配向調整層2の形成にあたっては、スパッタガスとして、25vol%の窒素をアルゴンに添加した混合ガスを用いた。その他の条件は試験例4に準じた。
【0075】
(試験例8)
磁性層4を、第1および第2磁性膜4a、4b(厚さはそれぞれ18nm、2.5nm)と、これらの間に介在する中間膜4c(厚さ0.8nm)とを有する構成として磁気記録媒体を作製した。
第1磁性膜4aには64Co22Cr10Pt4Bを用い、第2磁性膜4bには84Co12Cr4Taを用い、中間膜4cにはRuを用いた。その他の条件は試験例5〜7に準じた。
【0076】
(試験例9〜13)
図6に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
非磁性基板1(結晶化ガラス、直径65mm、厚さ0.635mm)上に、70Cr30Nbからなる配向調整層2(厚さ20nm)、85Cr15Moからなる非磁性下地層3(厚さ10nm)、60Co40Crからなる非磁性中間層15(厚さ2nm)、磁性層14、カーボンからなる保護層5(厚さ6nm)、潤滑層6を形成した。
配向調整層2を形成する際には、図2に示すスパッタ装置21を用い、成膜粒子の軌道26の非磁性基板1への投影線27が、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対する入射角度が10〜75°となるように成膜粒子の方向を設定した。また配向調整層2の形成にあたっては、スパッタガスとして、25vol%の窒素をアルゴンに添加した混合ガスを用いた。その他の条件は試験例5〜7に準じた。
【0077】
試験例1〜13の磁気記録媒体の静磁気特性を、振動式磁気特性測定装置(VSM)を用いて測定した。磁性層全体の周方向の保磁力Hccと半径方向の保磁力Hcrの比(Hcc/Hcr)を測定し磁気異方性の指標とした。
また、試験例9〜13については、履歴曲線(図5を参照)を作成し、これを用いて第2磁性膜14bの保磁力Hc2および反強磁性結合磁界Hbias2を求めた。
また電磁変換特性を、Guzik社製リードライトアナライザRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて測定した。電磁変換特性の評価には、再生部に巨大磁気抵抗(GMR)素子を有する複合型薄膜磁気記録ヘッドを用い、記録条件を線記録密度600kFCIとして測定を行った。
熱揺らぎ耐性(熱減磁)については、スピンスタンドS1701MPを用い、70℃において記録密度300kFCIでの出力減少を測定した。
またX線回折測定装置を用いて、θ/2θ法により磁気記録媒体の非磁性下地層と磁性層の支配的な結晶配向面を特定した。
製造条件および試験結果を表1ないし表4に示す。
【0078】
(試験例14)
非磁性基板1上に、NiAlからなる配向性向上層17、94Cr6Moからなる非磁性下地層3、60Co40Crからなる非磁性中間層15、磁性層14、カーボンからなる保護層5、潤滑層6を形成して磁気記録媒体を作製した。その他の条件は試験例9〜13に準じた。
【0079】
(試験例15)
NiPからなる配向性向上層17を設け、この配向性向上層17表面に周方向に沿うテクスチャ加工を施し、その上にCrからなる第2下地層16、60Co40Crからなる非磁性中間層15、磁性層14、カーボンからなる保護層5、潤滑層6を形成して磁気記録媒体を作製した。その他の条件は試験例14に準じた。
【0080】
(試験例16)
図8に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
非磁性基板1上にCo30Cr10Zrからなる配向性向上層17を設け、その上にCr25Vからなる配向調整層2、Crからなる第2下地層16、94Cr6Moからなる非磁性下地層3、60Co40Crからなる非磁性中間層15、磁性層14、カーボンからなる保護層5、潤滑層6を形成して磁気記録媒体を作製した。
配向調整層2を形成する際には、図2に示すスパッタ装置21を用い、成膜粒子の軌道26の非磁性基板1への投影線27が、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対する入射角度が10〜75°となるように成膜粒子の方向を設定した。また配向調整層2の形成にあたっては、スパッタガスとして、25vol%の窒素をアルゴンに添加した混合ガスを用いた。その他の条件は試験例14に準じた。
【0081】
(試験例17)
基板1としてアルミニウム合金からなるものの表面にNiPメッキ層を形成したものを用い、この基板1上にCrからなる第2下地層16、94Cr6Moからなる非磁性下地層3、60Co40Crからなる非磁性中間層15、磁性層14、カーボンからなる保護層5、潤滑層6を形成して磁気記録媒体を作製した。その他の条件は試験例14に準じた。
【0082】
(試験例18)
基板1表面に周方向に沿うテクスチャ加工を施すこと以外は試験例17と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0083】
(試験例19)
基板1としてアルミニウムからなるものを用いること以外は試験例16と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0084】
(試験例20)
磁性層を、64Co22Cr10Pt4Bからなるもの(厚さ18nm)とすること以外は試験例18と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0085】
試験例14〜20の磁気記録媒体の静磁気特性を、振動式磁気特性測定装置(VSM)を用いて測定した。また磁性層全体の周方向の保磁力Hccと半径方向の保磁力Hcrの比(Hcc/Hcr)を測定し磁気異方性の指標とした。
また電磁変換特性を、Guzik社製リードライトアナライザRWA1632、およびスピンスタンドS1701MPを用いて測定した。電磁変換特性の評価には、再生部に巨大磁気抵抗(GMR)素子を有する複合型薄膜磁気記録ヘッドを用い、記録条件を線記録密度600kFCIとして測定を行った。
この際、1記録トラックを512セクターに分割し、これらを128セクターごとに4つの領域に分け、領域ごとに電磁変換特性を評価し、記録トラック内での再生出力信号(LFTAA)およびSNRのばらつきを調べた。電磁変換特性の評価は、半径20mmの位置および半径30mmの位置において行った。
製造条件および試験結果を表5および表6に示す。
【0086】
(試験例21)
非磁性基板1(結晶化ガラス、直径65mm、厚さ0.635mm)上に、45Ni55Nbからなる配向調整層2(厚さ20nm)、Crからなる第2下地層16(厚さ10nm)、80Cr20Vからなる非磁性下地層3(厚さ10nm)、60Co40Crからなる非磁性中間層15(厚さ2nm)、66Co21Cr9Pt4Bからなる磁性層(厚さ17nm)、カーボンからなる保護層5(厚さ6nm)、潤滑層6を形成して磁気記録媒体を作製した。
配向調整層2を形成する際には、図2に示すスパッタ装置21を用い、成膜粒子の軌道26の非磁性基板1への投影線27が、ほぼ非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対する入射角度が10〜75°となるように成膜粒子の方向を設定した。また配向調整層2の形成にあたっては、スパッタガスとして、15vol%の窒素をアルゴンに添加した混合ガスを用いた。
【0087】
(試験例22〜27)
83Co14Cr3Taからなる下層側磁性膜(厚さ2nm)と、Ruからなる中間膜(厚さ0.8nm)とからなる積層構造を1〜6回積層し、その上に66Co21Cr9Pt4Bからなる最上層側磁性膜(厚さ17nm)を設けた構成の磁性層を用いること以外は試験例21と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0088】
(試験例28〜36)
図7に示す磁気記録媒体を次のようにして作製した。
配向調整層2を、表7に示す材料からなるものとし、非磁性下地層3を94Cr6Moからなるものとして磁気記録媒体を作製した。
磁性層は、83Co14Cr3Taからなる磁性膜(第2および第3磁性膜14b、14c)と、表7に示す材料からなる中間膜(中間膜14d、14e)とからなる積層構造を2回積層し、その上に66Co21Cr9Pt4Bからなる磁性膜(第1磁性膜14a)(厚さ17nm)を設けた構成とした。その他の条件は試験例21に準じた。
【0089】
(試験例37〜58)
配向性向上層17、配向調整層2の材料および厚さを表8に示すとおりとし、配向調整層2の表面に、表8に記載の方法により酸化または窒化処理を施して磁気記録媒体を作製した。
非磁性下地層3は、80Cr20Wからなるもの(厚さ5nm)とし、非磁性中間層15は63Co37Crからなるもの(厚さ2nm)とした。
磁性層は、73Co18Cr6Pt3Taからなる第3磁性膜14c(厚さ2nm)、Ruからなる第2中間膜14e(厚さ0.8nm)、84Co12Cr4Taからなる第2磁性膜14b(厚さ2.5nm)、Ruからなる第1中間膜14d(厚さ0.8nm)、64Co22Cr10Pt4Bからなる第1磁性膜14a(厚さ18nm)を順次積層した構成とした。その他の条件は試験例21に準じた。
なお、表中、酸化・窒化処理欄には、酸化処理または窒化処理の方法を示した。例えば、20vol%N2/Arは、スパッタガスとして、窒素含有率が20vol%であり残部がArであるものを用いたことを示し、O2ガス曝露とは、配向調整層2を酸素ガス(純酸素)にさらす処理を行ったことを示す。
【0090】
試験例21〜58の磁気記録媒体の静磁気特性および電磁変換特性を測定した。製造条件および試験結果を表7および表8に示す。
【0091】
上記各試験例の磁気記録媒体において、配向調整層2を形成する際に、スパッタ装置21を用い、成膜粒子の軌道26の投影線27が非磁性基板1の径方向に沿い、かつ非磁性基板1に対する入射角度が10〜75°となるように成膜粒子の方向を設定したものについて、断面をTEMにより観察した結果、配向調整層2は、柱状微結晶粒2aが半径方向に10〜75°傾いた結晶構造を有するものとなったことが明らかになった。
【0092】
【表1】
Figure 0003866102
【0093】
【表2】
Figure 0003866102
【0094】
【表3】
Figure 0003866102
【0095】
【表4】
Figure 0003866102
【0096】
【表5】
Figure 0003866102
【0097】
【表6】
Figure 0003866102
【0098】
【表7】
Figure 0003866102
【0099】
【表8】
Figure 0003866102
【0100】
表1および表2より、配向調整層を設けず、AFC構造も採用しない試験例1に比べ、配向調整層2により磁性層に磁気異方性を付与した試験例4、およびAFC構造を採用した試験例2では、熱揺らぎ耐性を高めることができたものの、配向調整層2とAFC構造とを採用した試験例5〜8では、これら試験例2、4に比べ、顕著な熱揺らぎ耐性向上効果が得られたことがわかる。
なかでも特に、3つの磁性膜と2つの中間膜からなる磁性層を有する試験例5〜7では、優れた熱揺らぎ耐性が得られたことがわかる。
また、中間膜4d、4eの厚さを0.8nmとした試験例5では、この厚さを0.5nmまたは1.4nmとした試験例6、7に比べ、熱揺らぎ耐性に優れたものとなったことがわかる。
表3および表4より、第2磁性膜14bの反強磁性結合磁界Hbias2が保磁力Hc2よりも大きい試験例9〜12では、Hbias2がHc2以下である試験例13に比べ、ノイズ特性およびPW50について優れた結果が得られたことがわかる。
表5および表6より、テクスチャ加工を行う試験例15、18、20では、磁気異方性を高めることができるものの、磁気特性の周方向のばらつきが大きいことがわかる。
このばらつきは、NiP膜(配向性向上層)の表面凹凸により中間膜の厚さが不均一となることにより磁性膜間の反強磁性結合が局部的に不十分となることに起因すると考えることができる。
またテクスチャ加工を行わない試験例14、17では、磁気異方性が低く、出力、ノイズ特性の点で劣ることがわかる。
これに対し、配向調整層2を設ける試験例16、19では、テクスチャ加工を行わないにも拘わらず、磁気異方性を高めることができ、出力、ノイズ特性とも優れた値が得られ、しかも磁気特性の周方向のばらつきを抑えることができたことがわかる。
表7に示すように、試験例22〜27より、積層構造数を多くすることによって、優れた熱揺らぎ耐性を得ることができたことがわかる。
また試験例28〜36より、中間膜の材料として、Ruのほかに、Cr、Ir、Rh、Mo、Cu、Re、Vを用いる場合にも、熱揺らぎ耐性向上効果を得ることができたことがわかる。
表8に示すように、試験例37〜43より、配向調整層2の材料として、各種Cr合金(CrTi、CrMoなど)を用いた場合にも熱揺らぎ耐性向上効果を得ることができたことがわかる。
また試験例44〜51より、配向調整層2の材料として、Vなどの単体元素を用いた場合にも熱揺らぎ耐性向上効果を得ることができたことがわかる。
また試験例52〜57より、、配向調整層2の材料として、BeNbなどのNb合金や、VTaなどのTa合金を用いた場合にも熱揺らぎ耐性向上効果を得ることができたことがわかる。
また配向調整層2に酸化・窒化処理を施すことによって、熱揺らぎ耐性などの磁気特性を高めることができたことがわかる。
また配向性向上層17を設けることによって、磁気異方性が高められ、優れた熱揺らぎ耐性を得ることができたことがわかる。
【0101】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の磁気記録媒体は、配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有するので、非磁性下地層および磁性層の結晶配向性を向上させ、磁性層における周方向の磁気異方性を高めることができる。
このため、結晶磁気異方性定数(Ku)を高め、熱揺らぎ耐性の向上を図ることができる。
さらには、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これらの間に反強磁性結合が形成された構造を有するので、磁性膜間の反強磁性結合により、最も保磁力の高い主磁性膜以外の磁性膜の磁化について、見かけ上磁化のない状態、または主磁性膜の磁化が、これ以外の磁性膜の磁化に相当する磁化の分、見かけ上小さくなった状態が得られる。
このため、ノイズ特性や分解能に悪影響を及ぼすことなく、磁性粒子の体積を十分に大きくすることができ、熱安定化を図り、熱揺らぎ耐性をさらに向上させることができる。
一般に、2つの磁性膜間の反強磁性結合の強度は、磁性膜間に設けられた中間膜の厚さに大きな影響を受けるため、磁性層の下に形成される膜の表面凹凸が大きいと、中間膜の厚さが不均一となり、局部的に反強磁性結合強度が低下し、熱揺らぎ耐性が不十分となりやすい。
これに対し、本発明の磁気記録媒体では、配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を採用することにより、磁性層における周方向の磁気異方性を高めることができることから、製造に際してテクスチャ加工が不要となるため、配向調整層の表面平滑性を高くすることができる。
従って、配向調整層の表面凹凸により中間膜の厚さが不均一となるのを防ぎ、反強磁性結合強度を高め、十分な熱揺らぎ耐性向上効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)本発明の磁気記録媒体の第1の実施形態を示す一部断面図である。(b)(a)に示す磁気記録媒体の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づいて作成した要部拡大図である。
【図2】 本発明の磁気記録媒体の製造装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図3】 本発明の磁気記録媒体の製造方法の一実施形態を説明する説明図である。
【図4】 本発明の磁気記録媒体の第3の実施形態を示す一部断面図である。
【図5】 図4に示す磁気記録媒体の履歴曲線を示すグラフである。
【図6】 本発明の磁気記録媒体の第4の実施形態を示す一部断面図である。
【図7】 本発明の磁気記録媒体の第5の実施形態を示す一部断面図である。
【図8】 本発明の磁気記録媒体の第6の実施形態を示す一部断面図である。
【図9】 本発明の磁気記録媒体の第7の実施形態を示す一部断面図である。
【図10】 本発明の磁気記録媒体の第8の実施形態を示す一部断面図である。
【図11】 本発明の磁気記録再生装置の一実施形態を示す一部断面図である。
【図12】 本発明の磁気記録媒体の製造装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
1・・・非磁性基板、1a・・・非磁性基板表面(被付着面)、2、2c、2d・・・配向調整層、2a・・・柱状微結晶粒、3・・・非磁性下地層、4、14・・・磁性層、4a、4b、14b、14c・・・磁性膜、4c、14d、14e・・・中間膜、7・・・磁気記録媒体、9・・・磁気ヘッド、14a・・・第1磁性膜(主磁性膜)、22・・・スパッタリングターゲット(放出源)、23・・・遮蔽板(方向設定手段)、26・・・成膜粒子の軌道、27・・・投影線、α、α'・・・入射角度、α1・・・柱状微結晶粒の傾斜角度

Claims (29)

  1. 非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とする磁気記録媒体において、
    非磁性下地層が、bcc構造を有し、
    非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、
    この配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、
    磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされ、
    磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされていることを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 磁性層は、隣り合う磁性膜の磁気モーメント方向が互いに正対する積層フェリ構造を有することを特徴とする請求項1記載の磁気記録媒体。
  3. 磁性層は、複数の磁性膜と、これらの間に介在する中間膜とを有する構造とされていることを特徴とする請求項1または2記載の磁気記録媒体。
  4. 磁性層は、磁性膜と、これに隣接する中間膜とからなる積層構造を2つ以上有することを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  5. 複数の磁性膜のうち最も保磁力が大きい主磁性膜に対し隣接する磁性膜の反強磁性結合磁界が、この磁性膜の保磁力よりも大きいことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  6. 中間膜は、Ru、Cr、Ir、Rh、Mo、Cu、Co、Re、Vのうち少なくとも1種を主成分とする材料からなるものであることを特徴とする請求項3項記載の磁気記録媒体。
  7. 配向調整層は、Cr、V、Nb、Mo、W、Taのうち1種または2種以上からなるものであることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  8. 配向調整層は、Crを主成分とする合金からなるものであることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  9. 配向調整層は、Taを含む合金X1Ta(X1はBe、Co、Cr、Fe、Nb、Ni、V、Zn、Zrのうち1種または2種以上)を主成分とするものであり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有することを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  10. 配向調整層は、Nbを含む合金X2Nb(X2はBe、Co、Cr、Fe、Ni、Ta、V、Zn、Zrのうち1種または2種以上)を主成分とするものであり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有することを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  11. 配向調整層は、CoTaまたはCoNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が30〜75at%であり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有することを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  12. 配向調整層は、CrTaまたはCrNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が15〜75at%であることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  13. 配向調整層は、NiTaまたはNiNbを主成分とするものであり、TaまたはNbの含有量が30〜75at%であり、かつFd3m構造またはアモルファス構造を有することを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  14. 配向調整層は、Fd3m構造を有する非磁性金属からなるものであることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  15. 配向調整層は、C15構造を有する非磁性金属からなるものであることを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  16. 非磁性基板と配向調整層との間に、配向性向上層が形成されていることを特徴とする請求項1〜15のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  17. 配向性向上層は、B2構造またはアモルファス構造をなす材料からなるものであることを特徴とする請求項16記載の磁気記録媒体。
  18. 配向性向上層は、NiAl、FeAl、CoAl、CoZr、CoCrZr、およびCoCrCのうちいずれかを主成分とするものであることを特徴とする請求項16記載の磁気記録媒体。
  19. 配向調整層は、複数設けられていることを特徴とする請求項1〜18のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  20. 非磁性基板と、その上に形成された磁性層および保護層を基本構成とする磁気記録媒体において、
    非磁性基板と磁性層との間に、直上の層の結晶配向性を調整する配向調整層が形成され、
    配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、
    磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされ、
    磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされていることを特徴とする磁気記録媒体。
  21. 非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とする磁気記録媒体において、
    非磁性下地層が、bcc構造を有し、
    非磁性基板と非磁性下地層との間に、直上の層の結晶配向性を調整する配向調整層が形成され、
    非磁性下地層を(200)に優先的に配向させ、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrを1より大きくする配向調整層が、アモルファス構造のNiP合金からなるものであり、
    磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされていることを特徴とする磁気記録媒体。
  22. 配向調整層は、窒素または酸素を1at%以上含むことを特徴とする請求項1〜21のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体。
  23. 非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされた磁気記録媒体を製造する方法であって、
    配向調整層を構成する材料からなる成膜粒子を放出源から放出させて被付着面に付着させることにより配向調整層を形成し、この際、成膜粒子軌道の被付着面への投影線がほぼ非磁性基板の径方向に沿い、かつ非磁性基板に対し傾いて入射するように成膜粒子の方向を設定することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
  24. 配向調整層に、酸化処理または窒化処理を施すことを特徴とする請求項23記載の磁気記録媒体の製造方法。
  25. 配向調整層を形成するにあたって、成膜粒子の放出源としてスパッタリングターゲットを用いるスパッタ法を採用することを特徴とする請求項23または24記載の磁気記録媒体の製造方法。
  26. 配向調整層を形成するに際し、酸素または窒素を含むスパッタガスを用いることによって酸化処理または窒化処理を行うことを特徴とする請求項25記載の磁気記録媒体の製造方法。
  27. 酸化処理または窒化処理を、配向調整層の表面を酸素含有ガスまたは窒素含有ガスに接触させることにより行うことを特徴とする請求項24〜26のうちいずれか1項記載の磁気記録媒体の製造方法。
  28. 非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされた磁気記録媒体を製造する装置であって、
    配向調整層を構成する材料からなる成膜粒子を放出し被付着面に付着させることにより配向調整層を形成する放出源と、この放出源から放出された成膜粒子の方向を定める方向設定手段とを備え、
    この方向設定手段は、成膜粒子軌道の被付着面への投影線がほぼ非磁性基板の径方向に沿い、かつ非磁性基板に対し傾いて入射するように成膜粒子の方向を設定することができるようにされていることを特徴とする磁気記録媒体の製造装置。
  29. 磁気記録媒体と、この磁気記録媒体に情報を記録再生する磁気ヘッドとを備え、
    磁気記録媒体が、非磁性基板と、その上に形成された非磁性下地層、磁性層および保護層を基本構成とし、非磁性下地層が、bcc構造を有し、非磁性基板と非磁性下地層との間に、非磁性下地層を(200)に優先的に配向させる配向調整層が形成され、この配向調整層が、柱状微結晶粒が半径方向に傾いた結晶構造を有し、磁性層の周方向の保磁力Hccと径方向の保磁力Hcrとの比Hcc/Hcrが、1より大きくされ、磁性層が、複数の磁性膜を有し、これら磁性膜が、hcp構造を有し、かつ(110)に優先的に配向しており、これら磁性膜間に反強磁性結合が形成可能とされていることを特徴とする磁気記録再生装置。
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