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JP3857970B2 - Cu析出硬化型高強度鋼材およびその製造方法 - Google Patents

Cu析出硬化型高強度鋼材およびその製造方法 Download PDF

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JP3857970B2
JP3857970B2 JP2002266588A JP2002266588A JP3857970B2 JP 3857970 B2 JP3857970 B2 JP 3857970B2 JP 2002266588 A JP2002266588 A JP 2002266588A JP 2002266588 A JP2002266588 A JP 2002266588A JP 3857970 B2 JP3857970 B2 JP 3857970B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、短時間で析出硬化することを特徴としたCu析出硬化型鋼材およびその製造方法に関するものであり、自動車用、橋梁用、建築用、船舶等の構造部材用途、自動車および電機製品の内外板パネル用途に好適な、引張強度300MPaから800MPa程度の熱延鋼材、冷延鋼材、熱間鍛造用鋼材に適用可能である。
【0002】
【従来の技術】
Cu含有鋼は、ある温度域で一定時間の時効を行うとCuの析出物が微細に析出し、その結果鋼材の降伏強度および引張強度が上昇する典型的な時効硬化型鋼板であることがよく知られている。鋼中におけるCuの析出は、下記の非特許文献1に示されているように、ある温度と時間の組み合わせのときに最大の強化量が得られることが知られており、例えば550℃の時効温度では30分〜1時間程度の等温保持が必要であり、これ以下の温度ではさらに長時間の時効析出処理が必要である。
【0003】
【非特許文献1】
Acta Metallurgica、第20巻(1972)、971頁
【0004】
このようなCu析出硬化型鋼板の製造方法としては、熱延後に室温まで一旦冷却後再加熱を行い析出処理する方法(例えば、特許文献1参照)、Cuを添加した極低炭素Alキルド鋼またはこれにNb,Tiを添加した鋼板を連続焼鈍ラインの過時効帯で高温保持を行い析出処理する方法または加工後に再加熱を行い析出処理する方法(例えば、特許文献2参照)、熱延後にCuの析出温度域である400−600℃を徐冷して冷却中にCuを析出させる方法(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−105946公報
【0006】
【特許文献2】
特開昭64−4429号公報
【0007】
【特許文献3】
特開平5−186823公報
【0008】
しかしながら、現実的にはこれらの方法ではCuの時効析出処理に長時間を要し、そのため鋼材の生産性が低く、その結果として製造コスト的にも高いという難点があった。Cu添加鋼は大きな析出硬化能が期待できるだけでなく、疲労特性や溶接部靭性、さらに鋼材の耐食性に優れるため、その鋼材の需要が高まっており、生産性の観点からCuの析出を促進させて短時間で鋼材を製造する技術の開発が強く望まれていた。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は短時間で時効処理が可能なCuを含有する時効析出型鋼材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意実験と検討を重ねた結果、Cu粒子の時効析出の初期に断続的あるいは連続的に歪みを導入する、あるいはMn又はCrを適正量添加することで、従来の技術で問題となっていた時効処理時間を短縮できることを見出した。
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために次の手段を講じた。
すなわち、本発明は短時間で析出硬化する時効硬化型Cu含有高強度鋼板であって、その要旨は以下の通りである。
第1の発明は、質量%で、
C :0.0005〜0.2%、 Si:0.001〜2.0%、
P :0.001〜0.2%、 S :0.1%以下、
Al:0.002〜0.2%、 N :0.0005〜0.1%、
Cu:0.7〜2.0%
を含み、かつ
Mn:0.1〜3.0%、 Cr:0.1〜3.0%
のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上であり、フェライト面積率が60%以上であることを特徴とする。
第2の発明は、前記第1の発明の成分組成に加えて、質量%で、
Ni:0.1〜2.0%、 Mo:0.1〜1.0%、
V :0.003〜0.1%
のうち1種または2種以上を含み、析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの平均濃度の和が、Feマトリックス中におけるMnとCrの平均濃度の和の2倍以上であることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明に加えて、析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの平均濃度の和が、Feマトリックス中におけるMnとCrの平均濃度の和の2倍以上であることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明は短時間で析出硬化するCu析出硬化型高強度鋼材の製造方法に関するものであって、その要旨は以下の通りである。
第4の発明は、質量%で、
C :0.0005〜0.2%、 Si:0.001〜2.0%、
P :0.001〜0.2%、 S :0.1%以下、
Al:0.002〜0.2%、 N :0.0005〜0.1%、
Cu:0.7〜2.0%
を含み、
Mn:0.1〜3.0%、 Cr:0.1〜3.0%
のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上でありフェライト面積率が60%以上である鋼材を、450〜700℃の温度範囲内でかつ当該温度範囲到達後2分以内に歪量0.01〜0.30の歪み付加を伴う温間加工を4回以上行い、前記温度範囲内に5秒〜60分保持することを特徴とする。
【0013】
第5の発明は、質量%で、
C :0.0005〜0.2%、 Si:0.001〜2.0%、
P :0.001〜0.2%、 S :0.1%以下、
Al:0.002〜0.2%、 N :0.0005〜0.1%、
Cu:0.7〜2.0%
を含み、
Mn:0.1〜3.0%、 Cr:0.1〜3.0%
のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上でありフェライト面積率が60%以上である鋼材を、450〜700℃の温度範囲内でかつ当該温度範囲到達後2分以内に1×10-5〜5×10-2-1の歪速度で温間加工し、前記温度範囲内に5秒〜60分保持することを特徴とする。
【0014】
第6の発明は、質量%で、
C :0.0005〜0.2%、 Si:0.001〜2.0%、
P :0.001〜0.2%、 S :0.1%以下、
Al:0.002〜0.2%、 N :0.0005〜0.1%、
Cu:0.7〜2.0%
を含み、
Mn:0.1〜3.0%、 Cr:0.1〜3.0%
のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上でありフェライト面積率が60%以上である鋼材を、連続焼鈍プロセスにおいて、板の温度が450〜700℃の範囲にある際に98.07〜980.7MPa(10〜100kgf/mm2 )の張力を付加しながら通板し、前記温度範囲内に5秒〜60分保持することを特徴とする。
【0015】
第7の発明は、前記第4〜第の何れか1項に記載の発明において、鋼材が質量%で、
Ni:0.1〜2.0%、 Mo:0.1〜1.0%、
:0.003〜0.1%
のうち、1種または2種以上を含むことを特徴とする。
【0016】
なお、本発明により達成されるCu粒子の時効析出処理工程の短縮は、Mn+Cr量が0.1%未満で、かつ温間加工を行わない時に比べて時間にして15%以上、またMn、Crの含有量と(Mn+Cr)/Cuが本発明の範囲内であっても、450〜700℃の温度範囲で温間加工(450〜700℃の温度範囲内でかつ当該温度範囲到達後2分以内に歪量0.01〜0.30の歪み付加を伴う温間加工を4回以上行う)を行わずに、同じ熱処理履歴を経た時に比べて最高硬さに到達する時間にして15%以上の短縮効果が得られる条件である。
【0017】
加工方法としては、板圧延あるいは伸線圧延による方法、鍛造による方法が適用可能であり、またこれらの方法の他にローラーレベラー加工、矯直加工、ショット加工などの鋼材断面積の大きな変化を伴わない加工によっても本発明の目的を達成することができる。また、本発明方法に依れば、温間加工の一回あたりの歪み付加量が大きく、また加工回数が多いほど従来技術に比べて時効処理時間を短縮させることが可能である。
【0018】
450〜700℃の温度範囲にする方法としては、700℃以上の熱間加工プロセス後に冷却する方法、450℃以下の温度の鋼材を再加熱する方法があり、いずれでも本発明の目的を達成することができる。連続焼鈍プロセス中において高い張力を付与する場所は、450〜700℃の温度範囲であれば、再結晶帯、冷却帯、過時効帯のいずれでも本発明の目的を達成することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、従来不明であったCu粒子の時効析出速度に影響する因子を明らかにするために、基礎的観点に立ち返り数多くの実験と検討を重ねた。その結果、Cu粒子の析出が起こる温度域でかつその温度域に入ってから短時間の間に鋼材中に空孔を導入すると、Cu粒子の析出が促進されるという全く新しい事実を見出した。次いで、450〜700℃のCuの析出温度域で鋼材中に空孔を導入する方法について詳細な検討を重ねた結果、温間加工あるいは放射線照射による方法が有効であることを見出した。
【0020】
さらに、温間加工の条件について検討を重ねた結果、図1にその一例を示すように歪みをより多くの回数に分けて断続的あるいは連続的に印加するか、あるいは非常に小さな歪み速度で加工することにより、従来の温間加工無しの場合に比べてCu粒子の顕著な析出促進効果が得られるということを明らかにした。
この析出促進メカニズムに基づけば、加工により空孔をより長時間供給すればするほどCu粒子の析出はより促進される。実際に、累積加工量を一定とすれば大歪み量の加工を少数回行うよりも小歪み量の加工を多数回繰り返す方が、また加工時の歪み速度の効果に関しては、歪み速度が小さいほどより効果が高いことを知見した。
【0021】
さらに本発明者らは温間加工によるCu析出促進効果とは別に、成分系のみによるCu析出促進効果の検討を行い、Cuの析出に及ぼす第3元素の影響について調査を行い、Cuの添加量に対し適正量のMnあるいはCrを添加することがCu粒子の時効硬化促進に効果的であることを見出した。
本発明者らはその促進原因について解析を行った結果、Cu粒子の周囲にMnあるいはCrが高濃度に偏析することにより、Cu粒子成長時にCu粒子周囲に形成される歪み場が緩和される結果、Cu粒子成長の駆動力が見かけ上大きくなり、その結果、Cu粒子の析出促進が達成されるという全く新しいメカニズムに基づくことを見出した。
さらにCuの添加量に対し適正量のMnとCrを添加した鋼材を、前記したように断続的あるいは連続的な温間加工を行うことにより、その析出促進効果が相乗的に増大することを見出し、本発明に至った。
【0022】
以下に、本発明について詳細に説明する。
まず成分の限定理由について説明する。成分含有量は質量%である。
C:Cは鋼の組織制御に必須の添加元素であり、0.0005%以上含有するものとする。しかし、0.2%を超えると、組織がマルテンサイトのような高転位密度の組織になり、温間加工時に導入された空孔がこの転位に吸収されてしまい、Cu粒子の成長促進に効かなくなる。このためその上限を0.2%に限定した。
【0023】
Si:SiはCと同様に、母相組織を制御するのに必須の元素であり、また脱酸元素としても必要であるので、0.001%以上含有するものとする。しかしながら、2.0%を超えると熱延時の脱スケール性の悪化やコスト高を招く。従ってSi含有量は0.001〜2.0%の範囲に制限した。
【0024】
P:Pは鋼中の転位密度を制御するために用いられる元素であり、0.001%以上含有するものとする。一方、0.2%を超えると加工割れを起こすので、P含有量の上限を0.2%とした。
【0025】
S:Sは不純物であり、多量に含有すると熱間加工割れを起こすので、0.1%以下とした。
【0026】
Al:Alは脱酸元素として用いる元素であり、0.002%以上含有するものとする。しかしAlの添加量が0.2%を超えると、AlNの析出量が増加しCuの添加効果が失われるため、Al含有量の適正添加範囲を0.002〜0.2%とした。
【0027】
N:Nは窒化物として、主にオーステナイト域の結晶粒径制御に用いられるので、0.0005%以上含有するものとする。一方、Nが0.1%を超えると、フェライト粒内に多量の炭窒化物が析出しCuの添加効果が失われ、さらにCの場合と同様に高転位密度の組織となるため、N含有量の範囲を0.0005〜0.1%とした。
【0028】
Cu:Cuは本発明における不可欠な構成元素である。しかしながら、0.7%未満であるとCuの析出硬化が発現せず、また2.0%を超えるとCuの熱間脆性による鋼板の表面割れが顕著になるために、Cu含有量の範囲を0.7〜2.0%の範囲に制限した。ただし、添加量の下限については、Cu析出粒子の体積分率をより多くするという観点から1.0%以上の添加が望ましい。また、添加量の上限については、NiをCuと等量だけ添加するとCuの熱間脆性を軽減することができるので、CuとNiを複合添加する場合は2.0%を超えるCuの添加も可能である。Cuは炭素当量を上げない元素でもあるので、溶接性の向上にも有効である。
【0029】
Mn:MnはCu粒子の析出を促進させるために有効であり、またAr3 変態点を低下させることで母相組織を制御するのに好ましい元素である。しかしながら0.1%未満であると十分なCu粒子析出促進効果が得られず、3.0%を超えると鋼材の熱間変形抵抗が増大する傾向になり、また溶接性も悪化する。このため、Mn含有量は0.1〜3.0%の範囲に制限した。
【0030】
Cr:CrはMnと同様に、Cu粒子の析出を促進させるために有効である。しかしながら0.1%未満であると十分なCu粒子析出促進効果が得られず、3.0%を超えると鋼材の熱間変形抵抗が増大する傾向になり、また溶接性も悪化する。このため、Cr含有量は0.1〜3.0%の範囲に制限した。
【0031】
(Mn+Cr)/Cu比:CrとMnはいずれもCuと同時に添加することでCu粒子の析出を促進させる効果があるが、Cuの添加量に対して合計の添加量が0.2未満であるとCu周囲にMnあるいはCrが偏析をせず、その結果として15%以上の時効硬化時間短縮量が得られないため、その範囲を0.2以上に制限した。
【0032】
Ni:NiはCu添加に起因する熱間脆性の抑制と母相組織の制御に用いられる。一般的に、添加Cu量と等量のNiを添加するとCuによる顕著な熱間割れを抑制できる。0.1%未満であるとCu起因の熱間割れを抑制できず、また2.0%を超えるとコスト高を招く。従って、その適正添加範囲を0.1〜2.0%以下に限定した。
【0033】
Mo:Moは炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要であるので、0.1%以上添加することが好ましい。しかしながら、1.0%を超えると、多量の炭窒化物の析出によりCu析出物の効果が失われる。従って、その適正添加範囲を1.0%以下に限定した。
【0034】
Nb:Nbは炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要であるので、0.003%以上添加することが好ましい。しかしNbの添加量が0.1%を超えるとフェライト中の炭窒化物が増え、Cuの添加効果が失われる
【0035】
Ti:Tiは脱酸元素として、また炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要であるので、0.003%以上添加することが好ましい。しかしTiの添加量が0.1%を超えるとCuの添加効果が失われる
【0036】
V:Vは炭窒化物として再加熱時のオーステナイト粒径を制御する元素として必要であるので、0.003%以上添加することが好ましい。しかしVの添加量が0.1%を超えるとフェライト中の炭窒化物量が増え、Cuの添加効果が失われるため、V含有量の適正添加範囲を0.003〜0.1%とした。
【0037】
B:Bは母相組織を制御するために用いられる元素であるので、0.0003%以上添加することが好ましい。一方、0.1%を超えると粒界に炭ホウ化物、ホウ窒化物が析出し延性の悪化を引き起こす
【0038】
本発明の鋼材は、時効硬化処理時において空孔・転位密度の小さいフェライト組織にすることにより顕著な時効時間短縮効果を得ることができるため、フェライトを面積率で60%以上含有するものとし、さらに80%以上含有することが好ましい。フェライト面積率の上限は特に定めることなく本発明の効果を奏することができ、100%も本発明の範囲内である。なお、フェライト組織とは、下記の非特許文献2に示すようなポリゴナルフェライト組織、擬ポリゴナルフェライト組織、あるいはM/A複合体を含むグラニュラーフェライト組織を指すものとする。残部組織はマルテンサイト、オーステナイト、パーライト、ラスベイナイトの1種又は2種以上を含有しても良い。
【0039】
【非特許文献2】
ISIJ international、35巻(2002),941〜 944頁
【0040】
本発明の組織とするためには、本発明の範囲内にあるように焼き入れ性の小さい成分系とし、熱間加工プロセスにおいてA1 温度と500℃間の平均冷却速度を0.01〜30℃/sにすることにより得ることができる。
【0041】
フェライト面積率は圧延方向に平行する断面(L断面)について、ナイタール液を用いて組織を現出し、次いで光学顕微鏡を用いてミクロ組織を観察した際の明部をフェライト組織と定義し、その部分の面積率を画像解析装置により求める。
また主相であるフェライトの平均結晶粒径は、光学顕微鏡写真からJIS G0552に規定する方法によって求める。結晶粒が微細な場合には走査型電子顕微鏡をもちいて、同様の方法により求めることも可能である。
【0042】
また本発明の鋼材は平均フェライト粒径が3μmより小さいと、Cu粒子の大部分が粒界に析出してしまい十分な時効硬化が得られず、さらに温間加工により導入された空孔が粒界に拡散してしまい時効の促進効果も得られないので、平均フェライト粒径は3μm以上とし、好ましくは10μm以上であるものとする。平均結晶粒径の上限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、鋼材の集合組織制御の容易性の観点から100μm以下であることが好ましい。
【0043】
次にCu粒子周囲のMnおよびCrの偏析量の限定理由について説明する。
本発明者らの詳細な解析の結果、析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの偏析量の合計(平均濃度の和)がFeマトリックスにおけるMnとCrの平均濃度の和の2倍以上の時に、Cu粒子成長の顕著な促進効果が観察された。従って、界面偏析量をマトリックスの2倍以上であるとした。
【0044】
このような偏析状態は、MnあるいはCrの添加量を本発明の範囲内にし、450〜700℃の温度範囲内で時効処理を行うことにより達成でき、さらにMnあるいはCrを適正量添加した鋼について450〜700℃の温度範囲内で時効初期に歪み量0.01〜0.30の加工を4回以上行うことにより、析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの偏析量の合計(平均濃度の和)がFeマトリックスにおけるMnとCrの平均濃度の和の2.5倍以上の高濃度の偏析を得ることができる。
【0045】
尚、析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの平均濃度はアトムプローブ電界イオン顕微鏡にて測定を行い、Mn、Cr偏析量の測定を行い、FeマトリックスにおけるMnとCrの平均濃度はアトムプローブ電界イオン顕微鏡により測定した値を用いて、Feマトリックス中の(Mn+Cr)平均濃度に対するCu粒子界面の(Mn+Cr)平均濃度の比を求めた。なお、濃度測定算出に用いる検出イオンの全数は界面、マトリックスについていずれも100個以上とする。
【0046】
次に、製造方法の限定理由について説明する。
熱間加工プロセスにおいて、温間加工の温度が450℃未満であるとCuの析出に長時間を有し製造コスト面で不利であり、また700℃を超えるとフェライト中で析出するCu粒子の量が少なくなり、大きな析出硬化量を期待できない。
【0047】
また、450〜700℃の温度範囲における保持時間が5秒より少ないと十分な硬化が得られなくなり、60分を超えると過時効になり強度が減少することとなるので、5秒〜60分と規定する。なお、最大の析出強化量が得られる保持時間は、450〜700℃の保持温度範囲において高温ほど短く、低温ほど長くする必要があり、例えば0.02の歪量で5回の温間加工を行う場合には、450℃で60分、550℃で20分、650℃で100秒程度である。
【0048】
また450〜700℃の温度範囲に入ったあと2分を超えてから温間加工を行うかあるいは2分以内に加える歪量0.01〜0.30の加工量が3回未満である時には時効時間短縮効果は小さい(温間加工なしに比して15%未満)。従って、温間加工の条件を、450〜700℃の温度範囲内でありかつ当該温度範囲到達後2分以内に歪量0.01〜0.30の歪み付加を伴う温間加工回数を4回以上と制限した。
【0049】
歪量が0.01より小さくては空孔導入量が少なく、その結果時効時間短縮効果は小さくなり、一方0.30より大きい大圧下で複数回の温間加工を行うことは温度制御・板形状制御といった観点から現実プロセスへの適用が難しく、従って歪量の範囲を0.01〜0.30に限定する。
ここで、歪量eは、JIS G0202 1134番に示すように、加工前の評点間距離Lo 、加工後の評点間距離Lとしたときにe=ln(L/Lo )より求めた値とする。
なお、加工開始のタイミングについては、より効果的にCu粒子の析出を促進するためには、10秒以内に少なくとも1回目の加工を開始することが好ましい。
【0050】
次に歪み速度と張力の限定理由について説明する。歪み速度が5×10-2-1より大きいとCu粒子の顕著な析出促進効果は得られない。従って、歪み速度は5×10-2-1以下と限定した。一方、歪み速度が1×10-5-1より小さいと加工に極めて長時間を有することになるので、1×10-5-1以上と限定した。
【0051】
また連続焼鈍プロセスにおいて、450〜700℃の温度範囲にある際に板に付与される張力が98.07MPa(10kgf/mm2 )未満の時には板内部に歪みが入らずCu粒子の析出促進効果は少ない。従って、張力を98.07MPa (10kgf/mm2 )以上に限定した。一方、張力が980.7MPa(100kgf/mm2 )より大きいと通板中に板破断を起こすので、張力を980.7MPa(100kgf/mm2 )以下とした。
【0052】
なお、本発明に係る鋼材を本発明に係る製造方法で温間加工することにより、本発明鋼の範囲外の成分を有しかつ温間加工を行わない条件に比べて、40%以上の相乗的な時効時間短縮効果が得られる。
【0053】
【実施例】
次にこの発明を実施例により詳細に説明する。
表1に示す成分に調整した鋼材A〜Jを、表2に示す種々の加工・温度条件で温間加工を施し、加工温度と同じ温度に保持し、Cu粒子析出により硬度が最大値になるまでの時間を測定した。次いで各試料について、同一加工温度であるが加工条件が異なる試料を比較材とし、比較材に比べた時効時間短縮率を算出した。
【0054】
さらに、熱処理を施した鋼材の一部分について、Cu粒子周辺の元素偏析を測定するための試験片を切り出し、アトムプローブ電界イオン顕微鏡にてMn、Cr偏析量の測定を行い、マトリックス中の濃度に対するマトリックス/Cu粒子界面の濃度の比を求めた。Cu粒子周囲の偏析は、電界放射型透過電子顕微鏡中でエネルギー分散型X線分析法を用いて定量分析を行うかアトムプローブ電界イオン顕微鏡法による分析が可能であるが、分析の空間分解能の観点から後者がより好適である。なお解析したCu粒子の直径は5〜15nmの範囲にあるものを測定した。
【0055】
試料No.1、4、9はMn,Crを含有せず、かつ温間圧延も行わない比較例のデータであり、No.16、17、18、25はMn、Crの添加量、Cuに対する比率が本発明外でありかつ温間圧延を行わない比較鋼のデータである。試料No.3、6、8、20、28はMnあるいはCrの添加量、あるいは (Mn+Cr)/Cuが本発明の適正範囲外であり、かつ温間加工条件が適正範囲外であったために従来発明に対し15%を超える時効時間短縮効果が得られなかったものである。
【0056】
No.11は、Mn,Crを含有し、かつ製造方法も本発明の範囲内にあるもので、請求項1および2からはずれた成分でかつ温間加工を行わなかった従来鋼No.9に比べて73%の時効時間短縮効果が得られたものである。
No.22は、同様にMn,Crを含有し、かつ製造方法も本発明の範囲内にあるもので、請求項1および2からはずれた成分でかつ温間加工を行わなかった従来鋼No.25に比べて80%の時効時間短縮効果が得られたものである。
【0057】
【表1】
Figure 0003857970
【0058】
【表2】
Figure 0003857970
【0059】
【表3】
Figure 0003857970
【0060】
【発明の効果】
本発明は、Cu添加型時効硬化鋼材の製造において最も長時間を要する時効処理時間を、適正な成分と温間加工プロセスを適用することにより、従来に比して顕著に短縮させることができる鋼材およびその製造方法を実現したものであり、製造コスト削減という観点から、産業上の効果は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【図1】Fe−1.5Cu合金の時効曲線であり、530℃の時効初期に0.02の歪みで5回の温間圧延をすることによってCu粒子の析出が促進されて、硬度ピークまでの時間が温間加工なしの場合に比べて約1/3になった例を示す図。

Claims (7)

  1. 質量%で、
    C :0.0005〜0.2%、
    Si:0.001〜2.0%、
    P :0.001〜0.2%、
    S :0.1%以下、
    Al:0.002〜0.2%、
    N :0.0005〜0.1%、
    Cu:0.7〜2.0%
    を含み、かつ
    Mn:0.1〜3.0%、
    Cr:0.1〜3.0%
    のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上であり、フェライト面積率が60%以上であることを特徴とするCu析出硬化型高強度鋼材。
  2. 前記組成に加えてさらに、質量%で、
    Ni:0.1〜2.0%、
    Mo:0.1〜1.0%、
    V :0.003〜0.1%
    のうち1種または2種以上を含み、析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの平均濃度の和が、Feマトリックス中におけるMnとCrの平均濃度の和の2倍以上であることを特徴とする請求項1記載のCu析出硬化型高強度鋼材。
  3. 析出したCu粒子とFeマトリックス界面におけるMnとCrの平均濃度の和が、Feマトリックス中におけるMnとCrの平均濃度の和の2倍以上であることを特徴とする請求項1記載のCu析出硬化型高強度鋼材。
  4. 質量%で、
    C :0.0005〜0.2%、
    Si:0.001〜2.0%、
    P :0.001〜0.2%、
    S :0.1%以下、
    Al:0.002〜0.2%、
    N :0.0005〜0.1%、
    Cu:0.7〜2.0%
    を含み、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Cr:0.1〜3.0%
    のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上でありフェライト面積率が60%以上である鋼材を、450〜700℃の温度範囲内でかつ当該温度範囲到達後2分以内に歪量0.01〜0.30の歪み付加を伴う温間加工を4回以上行い、前記温度範囲内に5秒〜60分保持することを特徴とするCu析出硬化型高強度鋼材の製造方法。
  5. 質量%で、
    C :0.0005〜0.2%、
    Si:0.001〜2.0%、
    P :0.001〜0.2%、
    S :0.1%以下、
    Al:0.002〜0.2%、
    N :0.0005〜0.1%、
    Cu:0.7〜2.0%
    を含み、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Cr:0.1〜3.0%
    のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上でありフェライト面積率が60%以上である鋼材を、450〜700℃の温度範囲内でかつ当該温度範囲到達後2分以内に1×10-5〜5×10-2-1の歪速度で温間加工し、前記温度範囲内に5秒〜60分保持することを特徴とするCu析出硬化型高強度鋼材の製造方法。
  6. 質量%で、
    C :0.0005〜0.2%、
    Si:0.001〜2.0%、
    P :0.001〜0.2%、
    S :0.1%以下、
    Al:0.002〜0.2%、
    N :0.0005〜0.1%、
    Cu:0.7〜2.0%
    を含み、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Cr:0.1〜3.0%
    のうち1種または2種を含み、かつ(Mn+Cr)/Cuが0.2以上であり、残部鉄及び不可避的不純物からなり、平均フェライト結晶粒径が3μm以上でありフェライト面積率が60%以上である鋼材を、連続焼鈍プロセスにおいて、鋼板の温度が450〜700℃の範囲にある際に98.07〜980.7MPa(10〜100kgf/mm2 )の張力を付加しながら通板し、前記温度範囲内に5秒〜60分保持することを特徴とするCu析出硬化型高強度鋼材の製造方法。
  7. 前記組成に加えてさらに、鋼材が質量%で、
    Ni:0.1〜2.0%、
    Mo:0.1〜1.0%
    :0.003〜0.1%
    のうち、1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項4〜の何れか1項に記載のCu析出硬化型高強度鋼材の製造方法。
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