JP3726813B2 - パウダプラズマ溶接装置と溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属材料の溶接において、パウダを溶加材としたプラズマ溶接装置と溶接方法(以下、パウダプラズマ溶接装置およびパウダプラズマ溶接法)に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
プラズマ溶接法は、アークのエネルギー密度が高いためTIG溶接法よりも溶接効率を高めることができ、かつ溶接品質もTIG溶接法に劣らない溶接法である。このプラズマ溶接法に溶加材としてパウダを使用するパウダプラズマ溶接法は、近年被加工物の表面改質のための肉盛溶接法として多用されてきた。
【0003】
従来、このパウダプラズマ溶接法に使用されるパウダは例えば耐摩耗性を高めるように被加工物とは異なる成分を有していた。(例えば特許文献1参照)
また、トーチ高さを長く設定し、かつパウダ噴出の焦点距離をトーチ高さより短くしていた。(例えば特許文献2参照)
図6は上記従来のパウダプラズマ溶接法での溶接トーチ先端のチップと被加工物との関係を示しており、101はチップ、102プラズマ孔、103はパウダ孔、104は電極、105は被加工物であり、hはトーチ高さ、Pはパウダ孔が開口する仮想円の直径、αは相対するパウダ孔の軸線の交差する角度、dはその交差点とチップ101先端との焦点距離である。
【0004】
以上のように構成されたパウダプラズマ溶接法について、その動作を説明する。プラズマアークは電極104と被加工物105との間でプラズマ孔102を貫通して発生している。一方、パウダはパウダ孔103の開口部よりキャリアガスとともに吐出している。吐出したパウダはプラズマアークの熱で溶融し、被加工物105表面上に至る。ここでトーチ高さhは10mm<h<20mmと長くし被加工物の過溶融を防ぐとともに、Pおよびαの組み合わせによって決まる焦点距離dの範囲をトーチ高さhの50〜60%とし、吐出したパウダをまずプラズマアーク中に導入し、加熱溶融後に被加工物105に融着させる。このように配置することでパウダを選択的に溶融し被加工物の溶融を抑制し、被加工物表面に融着したパウダ成分が被加工物成分によって希釈されることを防止している。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−277246号公報(第2−4頁、第1図)
【特許文献2】
特開平8−300157号公報(第2−3頁、第1図、第2図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように従来のパウダプラズマ溶接法は、被加工物とは異質な表面改質用の成分を有するパウダを被加工物の表面に融着させる目的のものある。このため、パウダ成分が被加工物成分によって希釈されることでパウダ成分本来の性質が失われたり、双方の成分の化合によって有害な成分が生成されることがないように被加工物の溶融を最小限に止めていた。そのため、被加工物どうしを十分に溶融してお互いを接合する融接には適さないという課題を有していた。
【0007】
本発明は、複数の被加工物を融接するパウダプラズマ溶接法およびその装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明のパウダプラズマ溶接装置および溶接方法は、上記課題を解決するために、被溶接物の成分と同じ成分を主成分としたパウダと、前記パウダを被溶接物へ供給する送給装置と、被加工物との間でプラズマを発生し、前記送給装置から供給されたパウダを集束させて被加工物へ供給する溶接トーチと、前記溶接トーチに電力を供給する電源とを備えており、前記溶接トーチからパウダの集束する焦点までの距離を、トーチ高さと同等もしくはそれ以上にする。この構成により被加工物の加熱とパウダの加熱を同時に行い、結果複数の被加工物を融接することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図2において3は溶接トーチ、1は前記溶接トーチ3に電力を供給する電源、2は前記溶接トーチ3にパウダを供給する送給装置、4は前記溶接トーチ3および前記送給装置2にガスを供給するガス供給装置、5は前記電源1および送給装置2に設定信号を出力する制御装置、6は被加工物である。
【0010】
以上のように構成された溶接装置について、その動作を説明する。制御装置5はプラズマ電流、パウダ送給量の溶接条件設定値および溶接起動信号を電源1および送給装置2に出力する。送給装置2は制御装置5からのパウダ送給量設定値に従ってパウダ送給量レベルを決定する。電源1は制御装置5から入力する設定値に従って溶接トーチ3への出力電力レベルを決定する。また、電源1は送給装置5からの溶接開始の起動信号を受けると溶接トーチ3に所定の電力を供給するとともに、ガス供給装置4および送給装置2にON信号を出力する。ガス供給装置4は前記ON信号を受けて溶接トーチ3にプラズマガス、送給装置2にパウダを溶接トーチ3に送給するためのキャリアガスを供給する。送給装置2は前記ON信号を受けて所定のパウダ量を溶接トーチ3に供給する。溶接トーチ3は被加工材6との間にプラズマアークを発生維持させるとともに、前記パウダを被加工材に吐出する。
【0011】
図1は溶接トーチ3の先端部の詳細と被加工物および溶接ビードとの関係を示す関係図である。図1において14はチップで、電極12の中心軸に一致する中心軸を有するプラズマ孔7と、プラズマ孔7の中心軸に対して傾いた中心軸を有し同心の仮想円周上に配した複数のパウダ孔8とを有する。9はチップ14をネジ締結で固定するトーチ本体、11は送給装置2とトーチ本体9をつなぐパウダ導管、10はパウダ導管出口につながり、かつトーチ本体先端部に開口するリング形状の溝であるパウダ溜まり、13は電極12とトーチ本体9との間にありプラズマ孔7につながるプラズマガス通路、15はプラズマアーク16で加熱溶融された溶融プール、Wは前記溶融プールの幅、hはチップ6の先端と被加工物6との距離であるトーチ高さ、dは電極12の中心軸とパウダ孔8の中心軸との交点とチップ6との先端との焦点距離である。
【0012】
以上のような構成の動作を説明する。電極12と被加工物6との間には前記電源1から電力が供給されプラズマアーク16が発生している。プラズマアークの周囲は前記ガス供給装置4から供給されプラズマガス通路13、プラズマ孔7を経たプラズマガスが供給されている。プラズマガスとしては純アルゴンガスを使用したが、アルゴンに水素を混合したガス、アルゴンにヘリウムを混合したガスあるいは純ヘリウムガスなどの非酸化性ガスが使用できる。プラズマアーク16は、前記プラズマガスとプラズマ孔7の壁面で緊縮される。この結果、被加工物6は前記溶融幅Wの領域で溶融する。
【0013】
一方、パウダは前記送給装置2よりキャリアガスによってパウダ導管11を経てトーチ本体9のパウダ溜まり10に導入される。パウダ溜まり10の作用を以下に説明する。その作用はチップとトーチ本体がネジ締結であるためトーチ本体9とパウダ孔8との位置関係が不定になることに対する作用である。仮にパウダ溜まり10がリング状の溝形状ではなくパウダ孔8同様に仮想同心円周状に配した円筒状の孔であるなら、ネジ締結によってはパウダ孔8とパウダ溜まり10の位置がずれてしまい、パウダがパウダ溜まり10に滞留しパウダ孔8に導かれないことが想定できる。このような位置ずれによるパウダ滞留を防止する作用を持たせるためパウダ溜まり10をリング状の溝形状とした。
【0014】
パウダ孔8はプラズマ孔7の中心軸に対して傾けた中心軸を持つように設置されているので、パウダ孔8より吐出したパウダは焦点距離dの位置で集束する。
【0015】
本発明の焦点距離dとトーチ高さhの関係について説明する。本発明は複数の被加工物を融接するためにプラズマアーク16のエネルギーを効率よく被加工物6に加えることが要点である。このために実施の形態1ではプラズマアーク16によって被加工物6を溶融し、その溶融エネルギーを利用してパウダを溶融付着せしめている。すなわち、焦点距離dがトーチ高さhよりも短い場合、パウダがプラズマアーク16中に大量に導入されるのでプラズマアーク16のエネルギーがパウダ溶融に消費され、その分被加工物6に対する溶融エネルギーが減少してしまう。このようなことは複数の被加工物16に対する溶融不足を起こす原因になり、結果融接ができなくなる。従って、プラズマアーク16が被加工物6に十分にエネルギーを供給できるよう焦点距離dはトーチ高さh以上となることが必要である。一方、パウダはプラズマアーク16によって被加工物6が溶融して生成した溶融プール15に導入され、溶融プール15内で溶着し溶接ビードを形成する。従って、パウダを効率よく溶着させるためには溶融プール15が生成する範囲を表す溶融プールの幅W内にパウダが吐出できるよう焦点距離dを設定する。溶融プールの幅Wは、プラズマ電流、トーチ高さh、溶接速度などの溶接条件によって異なるので焦点距離dの上限はそれらの溶接条件によって変わってくる。溶融プールの幅Wが大きい場合は、焦点距離dはトーチ高さhよりも大きくてもパウダ溶着効率は落ちないが、小電流で溶接する場合などで溶融プールの幅Wが小さい場合には、焦点距離dをトーチ高さhとほぼ等しくしてパウダ溶着効率を維持する。焦点距離dを変更するためにはトーチ本体9を変更する手段とチップ14を変更する手段とがあるが、コスト面、交換性の面などからチップ14を変更する方が有利である。図3はチップ14において焦点距離dを変更するための形状パラメータを示す実施例である。図3においてtはチップ厚、rは仮想同心円周上に設けたパウダ孔8の仮想円径、βはパウダ孔8の傾斜角である。焦点距離dを変えるためにチップ厚t、仮想円径r、傾斜角βの形状パラメータを変更する。図4に形状パラメータ値と得られた焦点距離dと関係例を示す。焦点距離5、7,9mmのものはトーチ高さ5mm用のチップであり、焦点距離10,14mmのチップはトーチ高さ10mm用のチップである。なお、パウダ孔はこの場合、仮想円周上に45°間隔で8個設けた。吐出パウダの均一性から考えると個数が多い方が有利であるが、一方向の直線のみの溶接の場合などでは1個でも適用できる。
【0016】
図5に被加工物別に使用したパウダの成分例を示す。本発明においては溶融した被加工物とパウダが溶融プール15内で合金を形成するので、合金成分が溶接結果の劣化を招かないように被加工物と同じ成分のパウダ成分を選定する。溶接中、酸化消費されることを考慮してSM490においてはSi、Mnの成分量を、ステンレス鋼においてはCrの成分量を被加工材よりも多くした。また、SUS430において溶接金属部のじん性を向上させるためにNbを0.81%加えた。このように溶接部の改善を目的として被加工物の成分以外の成分で加工物と合金を生成しても溶接部の特性に支障がない成分を支障がない範囲で添加することもできる。
【0017】
【発明の効果】
以上のように、本発明は被溶接物の成分と同じ成分を主成分としたパウダと、前記パウダを被溶接物へ供給する送給装置と、被加工物との間でプラズマを発生し、前記送給装置から供給されたパウダを集束させて被加工物へ供給する溶接トーチと、前記溶接トーチに電力を供給する電源とを備えており、前記溶接トーチからパウダの集束する焦点までの距離を、被加工物と溶接トーチとの距離と同等もしくはそれ以上にすることにより複数の被加工物を融接することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1におけるトーチ先端部断面と被加工物の位置関係図
【図2】本発明の実施の形態1における装置構成図
【図3】本発明の実施の形態1におけるチップ断面図
【図4】本発明の実施の形態1におけるチップ形状構成図
【図5】本発明の実施の形態1における被加工物ごとのパウダ成分構成図
【図6】従来の特許におけるチップ断面と被加工物の位置関係図
【符号の説明】
1 電源
2 送給装置
3 溶接トーチ
6 被加工物
12 電極
14 チップ
d 焦点距離
h トーチ高さ
Claims (6)
- 被加工物の成分と同じ成分を主成分としたパウダと、前記パウダを被加工物へ供給する送給装置と、被加工物との間でプラズマを発生し、前記送給装置から供給されたパウダを集束させて被加工物へ供給する溶接トーチと、前記溶接トーチに電力を供給する電源とを備え、前記溶接トーチからパウダの集束する焦点までの距離を、被加工物と溶接トーチとの距離であるトーチ高さ以上にした溶接装置。
- 溶接トーチからパウダの集束する焦点までの距離を、トーチ高さとほぼ等しくした請求項1記載の溶接装置。
- 溶接トーチとして、被加工物との間でプラズマを発生する電極と、パウダを被加工物に送給するチップを有する溶接トーチを用いた請求項1または2に記載の溶接装置。
- 被加工物と溶接トーチとの間にプラズマを発生し、被加工物の成分と同じ成分を主成分としたパウダを前記溶接トーチから被加工物へ集束させて供給する際に、前記溶接トーチからパウダの集束する焦点までの距離を、トーチ高さ以上にする溶接方法。
- 溶接トーチからパウダの集束する焦点までの距離を、トーチ高さとほぼ等しくした請求項4記載の溶接方法。
- 被加工物として、少なくとも2つの部材を用い、各部材間に隙間をあけて溶接する請求項4または5に記載の溶接方法。
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