JP3702541B2 - 電動車両の制動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回生制動と液圧制動を併用する電動車両の制動制御装置に関し、特に静的液圧出力手段及び動的液圧出力手段を備え、回生制動から液圧制動への切り換え時には、ホイールシリンダに対し動的液圧出力手段の出力液圧を供給して車輪に制動力を付与するように構成した電動車両の制動制御装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
近時、電動モータを駆動源とする電動車両においては、電動モータを発電機として機能させバッテリに充電させることによってエネルギーを回収し、電動モータ駆動時のエネルギーを増大する回生制動が行なわれている。この回生制動による制動力の付与には限界があるので、液圧制動で補う必要があり、液圧制動と回生制動が併用されている。そして、回生制動に液圧制動を追加すべく、例えば、マスタシリンダ液圧とホイールシリンダ液圧との差圧が所定の値を超えたときに開弁するリリーフバルブが設けられている。
【0003】
更に、回生制動によるエネルギー回収効率を高めるために種々の対策が講じられている。この一環として、特開平7−336806号公報には、マスタシリンダとホイールシリンダとの間にオン/オフ弁を介装し、回生制動時にこれを閉じるように構成した従来技術が掲げられている。同公報では、回生優先モードを解除するためオン/オフ弁を閉状態から開状態に切り換えるときに、ブレーキペダルが沈み込み、ペダル踏力が変動するのを抑制することを課題とし、ハイドロリックブースタの出力液圧を一時的に導入し液圧制動手段の圧力を急速に上昇させるようにした制動装置が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、前述の回生制動による制動力付与の限界を図示すると、図9のように表すことができる。即ち、車両の速度が中速域(Vm)にあるときには、主として軸トルク等の機械的要因により、制動力はFuで示した値が限度となり、高速域(Vh)では主としてインバータ、バッテリー等の電気的要因により、速度の上昇に応じて制動力が減少することとなる。そして、極低速域(Vs)では、むしろ発電作用を行なわせるためにエネルギーが必要となるので、電動モータを制動に用いることは適切ではなく、また振動を惹起することにもなるので、安定性を確保するためにも回生制動は行なわれない。このため、図10に示すように、例えば速度V1で走行中の車両に制動力を付与する場合には、t1時までは回生制動のみによって制動力を付与し、t1時を過ぎると、回生制動に液圧制動を追加して回生制動及び液圧制動の両者によって制動力を付与し、更にt2時以降の極低速域では液圧制動のみに切り換える必要がある。
【0005】
上記のような状況下で、回生制動からマスタシリンダによる液圧制動に切り換える場合には、前掲の特開平7−336806号公報に記載のように、ホイールシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧に近づくまでマスタシリンダ液圧が一時的に低下し、ブレーキペダルのストロークが急激に変化すると共に、ペダル踏込力に振動が生じ、ブレーキフィーリングが悪くなる。このため、同公報では、マスタシリンダ液圧とホイールシリンダ液圧との間に大きな差圧が生じないように、リリーフ弁VR1,VR2の差圧を解除するときには、先ず電磁弁V1を閉じ、続いて電磁弁V4を開きハイドロリックブースタHBの出力液圧を一時的に導入することとしている。
【0006】
然し乍ら、同公報に記載の制動装置においては、回生制動に対する液圧制動の追加及び切換に供するリリーフ弁VR2、電磁弁V5及びチェック弁VC2が設けられた(マスタシリンダとホイールシリンダの間の)静的液圧系に対し、電磁弁V4を介して動的液圧系のハイドロリックブースタHBが接続されており、回生制動から液圧制動への切換時にはハイドロリックブースタHBから静的液圧系にブレーキ液が供給されるように構成されている。従って、マスタシリンダからホイールシリンダに供給されるブレーキ液の量以上のブレーキ液が静的液圧系に供給されることとなり、残圧によってマスタシリンダピストンのシール部材が損なわれるおそれがある。また、同公報に記載の制動装置は、二系統のブレーキ液圧系が電磁弁V4を介して連通接続されているので、電磁弁V4が開状態のままで動的液圧系が失陥状態となると静的液圧系のブレーキ液が流出することとなる。
【0007】
そこで、本発明は、静的液圧出力手段及び動的液圧出力手段を備えた電動車両の制動制御装置において、簡単な構成で、回生制動に対する液圧制動の追加及び切換を動的液圧出力手段の出力液圧に応じて円滑に行なうと共に、液圧制動終了後に静的液圧出力手段側から動的液圧出力手段側にブレーキ液を適切に戻し得る制動制御装置を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を達成するため、本発明の電動車両の制動制御装置は、図1に構成の概要を示すように、車両の車輪FRに連結する電動モータDMと、電動モータDMを回転駆動し車輪FRに駆動力を付与すると共に、電動モータDMの回生制動により車輪FRに制動力を付与するモータ制御手段MCMと、ブレーキ操作部材BMの操作に応じてリザーバRSのブレーキ液を昇圧して静的液圧を出力する静的液圧出力手段SPと、リザーバRSのブレーキ液をブレーキ操作部材BMの操作とは無関係に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源ASと、補助液圧源ASの出力パワー液圧をブレーキ操作部材BMの操作に応じて調圧し動的液圧を出力する動的液圧出力手段DPと、車輪FRに装着し制動力を付与するホイールシリンダWCと、ホイールシリンダWCに対し静的液圧出力手段SP又は動的液圧出力手段DPの出力液圧を供給し車輪FRに対する制動力を付与する液圧制御手段BCMと、静的液圧出力手段SPとホイールシリンダWCを接続する主液圧路MFに介装し、モータ制御手段MCMによって車輪FRに制動力を付与するときには静的液圧出力手段SPからホイールシリンダWCへ供給する液圧を静的液圧出力手段SPの出力液圧より低くし、モータ制御手段MCMによって車輪FRに制動力を付与しないときには静的液圧出力手段SPからホイールシリンダWCへ供給する液圧を静的液圧出力手段SPの出力液圧に一致させる回生切換手段REとを備えている。そして、回生切換手段REとホイールシリンダWCとの間の主液圧路MFに動的液圧出力手段DPを接続する副液圧路AFと、この副液圧路AFに介装し、液圧制御手段BCMによるオンオフ制御に応じて副液圧路AFを開閉する制御切換弁手段SV1と、この制御切換弁手段SV1に対して並列に配設し、ホイールシリンダWCから動的液圧出力手段DPへのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを制限する逆止弁CVとを備えたものである。尚、動的液圧出力手段DPとしては、補助液圧源ASの出力液圧を入力し、静的液圧出力手段SPたるマスタシリンダの出力液圧をパイロット圧として、これに比例したレギュレータ液圧に調圧して出力するレギュレータ、あるいは同様にしてブースト液圧(レギュレータ液圧)に調圧しマスタシリンダを倍力駆動する液圧ブースタを用いることができる。
【0009】
更に、請求項2に記載のように、動的液圧出力手段DPと制御切換弁手段SV1の間の副液圧路AFに介装し、常時は副液圧路AFを連通し、動的液圧出力手段DPの出力液圧が静的液圧出力手段SPの出力液圧に対し所定の圧力差以上低下したときには副液圧路AFを遮断する圧力差応答遮断弁手段MVを備えることが望ましい。
【0010】
圧力差応答遮断弁手段MVは、請求項3に記載のように、動的液圧出力手段DPの出力液圧と静的液圧出力手段SPの出力液圧をパイロット圧として導入し、動的液圧出力手段DPの出力液圧が静的液圧出力手段SPの出力液圧より所定の圧力差以上低下したときには副液圧路AFを遮断するカットオフバルブで構成することができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2は本発明の一実施形態に係る電動車両の制動制御装置を示すもので、回生制動を行なう電動モータDMと、液圧制動を行なう液圧制御装置を備え、後者は静的液圧出力手段たるマスタシリンダMC及び動的液圧出力手段たるレギュレータRGを有し、これらがブレーキペダルBPの操作に応じて駆動される。図2において、車輪FRは運転席からみて前方右側の車輪を示し、以下車輪FLは前方左側、車輪RRは後方右側、車輪RLは後方左側の車輪を示しており、車輪FR,FL,RR,RLには夫々ホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlが装着されている。本実施形態では前輪の液圧制御系と後輪の液圧制御系に区分された前後配管方式のブレーキ液圧系が構成されている。
【0012】
本実施形態の電動車両は、前方の車輪FR,FLが駆動輪で後方の車輪RR,RLが従動輪の所謂前輪駆動に係り、車輪FR,FLはトランスミッションTMを介して駆動用の電動モータDMに接続されており、この電動モータDMは電子制御装置ECUによって駆動制御される。電子制御装置ECUは、駆動回路DRCを介して電動モータDMを駆動制御するモータ制御ユニットMCUと、液圧制御用の液圧制御ユニットBCUを有し、夫々マイクロコンピュータ(図示せず)で構成されているが、これらの基本的な構成は例えば前掲の特開平7−336806号公報に記載のものと同様であるので説明を省略する。
【0013】
電動モータDMは、固定子の3相の巻線に交流電力を印加することによって回転磁界を発生させ、永久磁石を有する回転子を回転駆動する誘導電動機で構成されている。従って、モータ制御ユニットMCUによって制御される駆動回路DRCにはインバータが設けられている。この電動モータDMによれば、車輪FR,FLが回転しているときに、その回転を止める方向の磁界を固定子によって発生させることによって、回転子に対し制動力を付与すると共に、固定子の巻線に発生する起電力をバッテリーBTに回収することができる。これにより、回生制動が行なわれる。
【0014】
図2において、レギュレータRGには補助液圧源ASが接続されており、これらはマスタシリンダMCと共に低圧リザーバRSに接続されている。補助液圧源ASは、液圧ポンプHP及びアキュムレータAccを有する。液圧ポンプHPは電動モータPMによって駆動され、低圧リザーバRSのブレーキ液を昇圧して出力し、このブレーキ液が逆止弁CVaを介してアキュムレータAccに供給され、蓄圧される。電動モータPMは、アキュムレータAcc内の液圧が所定の下限値を下回ることに応答して駆動され、またアキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ることに応答して停止する。而して、アキュムレータAccから所謂パワー液圧が適宜レギュレータRGに供給される。レギュレータRGは、補助液圧源ASの出力液圧を入力し、マスタシリンダMCの出力液圧をパイロット圧として、これに比例したレギュレータ液圧(マスタシリンダ液圧と略等しい値)に調圧するもので、その基本的構成は周知であるので、説明は省略する。尚、レギュレータ液圧の一部はマスタシリンダMCの倍力駆動に供される。
【0015】
マスタシリンダMCと車両前方のホイールシリンダWfr,Wflの各々を接続する前輪側の主液圧路MFには、回生制動に対し液圧制動の追加及び切換を行なう回生切換装置REfが介装されている。この回生切換装置REfとホイールシリンダWfr,Wflとの間の主液圧路MFに、副液圧路AFを介してレギュレータRGが接続され、副液圧路AFには本発明の制御切換弁手段たる電磁開閉弁SVpが介装されている。電磁開閉弁SVpは2ポート2位置の電磁開閉弁であり、非作動時の閉位置では遮断状態で、作動時の開位置では副液圧路AFを連通状態とするものである。この電磁開閉弁SVpとレギュレータRGとの間の副液圧路AFには、圧力差応答遮断弁手段たるカットオフバルブMVpが介装されている。
【0016】
カットオフバルブMVpは所謂メカニカルカットオフバルブで、パイロット圧導入用の液圧路MVdを介してレギュレータRGに連通接続されると共に、パイロット圧導入用の液圧路MVsを介してマスタシリンダMCに連通接続されている。そして、常時は連通状態にあるが、レギュレータ液圧がマスタシリンダ液圧より所定の圧力差以上低下したときには副液圧路AFが遮断されるように構成されている。従って、万一レギュレータRG側の液圧系、即ち動的液圧系が失陥しても、カットオフバルブMVpによって副液圧路AFが遮断されるので、マスタシリンダMC側のブレーキ液が流出することはない。
【0017】
更に、電磁開閉弁SVpに対して並列に逆止弁CVrが接続され、その入力側がホイールシリンダWfr,Wflと電磁開閉弁SVpとの間に接続されている。この逆止弁CVrは、電磁開閉弁SVpが非作動位置(閉位置)にある場合においても、例えば液圧制動が終了してレギュレータRG側の液圧が低下したときには、ホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液がカットオフバルブMVpを介してレギュレータRGに戻るように設けられたもので、カットオフバルブMVp(レギュレータRG)方向へのブレーキ液の流れは許容されるが、その逆のホイールシリンダWfr,Wfl方向への流れは制限される。従って、レギュレータRG側の液圧が低下し、相対的にマスタシリンダ液圧がレギュレータ液圧より大となれば、マスタシリンダMC及びホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液は逆止弁CVr及びカットオフバルブMVpを介してレギュレータRGに戻されるので、マスタシリンダMC側に過大な残圧が生ずることはない。尚、逆止弁CVrの開弁作動圧はカットオフバルブMVpの閉弁作動圧より低く設定されているものであり、カットオフバルブMVpが閉じるよりも先に逆止弁CVrを通って残圧が抜けるものである。
【0018】
回生切換装置REfは、図2に示すように、リリーフバルブRVfと、プロポーショニングバルブPVfと、電磁開閉弁SVfが並列に接続されて成る。リリーフバルブRVfは、マスタシリンダMCの出力液圧が所定の液圧に達するまでは主液圧路MFとの連通を制限し所定の液圧以上となったときに主液圧路MFを連通するものである。また、プロポーショニングバルブPVfは、ブレーキペダルBPの操作に応じたマスタシリンダMCの出力液圧を所定の関係に制御してホイールシリンダWfr,Wflに供給するもので、従来から前後制動力配分制御用として用いられているプロポーショニングバルブと実質的に同一の構成であるが、後述するように折点の液圧が低く抑えられている。
【0019】
リリーフバルブRVf(電磁開閉弁SVf)の上流側及び下流側には、夫々圧力センサPS1,PS2が配設されている。また、回生切換装置REfとマスタシリンダMCとの間に、運転者に対しブレーキペダルBPの踏力に応じたストロークを付与するシミュレータピストンSMが接続されている。
【0020】
上記の回生切換装置REfを構成するリリーフバルブRVf、プロポーショニングバルブPVf、電磁開閉弁SVf及び圧力センサPS1,PS2の具体的構造は図5に示すとおりであり、各弁装置は図6に示す特性を有する。即ち、プロポーショニングバルブPVfの特性は、制動操作の初期にはブレーキペダルBPの操作に応じてマスタシリンダ液圧が増圧し、このマスタシリンダ液圧に比例してホイールシリンダ液圧が増圧するが、所定の圧力Paに達すると略一定となり、ブレーキペダルBPのストロークが増大しても出力液圧は微増(例えば、0.1 の勾配)するのみとなる。上記所定の圧力Paは、ホイールシリンダWfr等にブレーキ液が充填され、ブレーキパッド(図示せず)がロータ(図示せず)に当接する程度の低い値(例えば、1気圧)に設定されている。而して、プロポーショニングバルブPVfは、ブレーキ操作の初期にブレーキ液を充填する機能、リリーフバルブRVfが作動するまで液圧を遮断する機能、及びホイールシリンダWfr等からマスタシリンダMCにブレーキ液を戻す機能を有する。
【0021】
リリーフバルブRVfの特性は、ホイールシリンダ液圧が所定の圧力Pbに達するまでは閉状態にあり、所定の圧力Pbを超えると開弁し、この後はマスタシリンダ液圧に比例したホイールシリンダ液圧となる。尚、電磁開閉弁SVfが開位置にあるときには、図6に破線で示すようにマスタシリンダ液圧に一致したホイールシリンダ液圧となる。換言すれば、図6において電磁開閉弁SVfの特性を示す破線と、リリーフバルブRVf及びプロポーショニングバルブPVfの特性を示す実線との間に囲まれた点描で表した領域が減圧領域であり、液圧制動に代わって回生制動が行なわれる範囲である。
【0022】
一方、副液圧路AFと共にレギュレータRGに接続する後輪側の液圧路RFには、後輪側の回生切換装置RErが介装されている。この後輪側の回生切換装置RErも、前輪側の回生切換装置REfと同様の構成で、リリーフバルブRVr、プロポーショニングバルブPVr、及び電磁開閉弁SVrが並列に接続されており、前輪側の回生切換装置REfと同様に作動する。
【0023】
図2に示すように、車輪FR,FL,RR,RLには車輪速度センサWS1乃至WS4が配設され、これらが電子制御装置ECUに接続されており、各車輪の回転速度、即ち車輪速度に比例するパルス数のパルス信号が電子制御装置ECUに入力されるように構成されている。また、前述の圧力センサPS1,PS2が電子制御装置ECUに接続されている。更に、必要に応じ、ブレーキペダルBPが踏み込まれたときオンとなるブレーキスイッチ、車両前方の車輪FR,FLの舵角を検出する前輪舵角センサ、車両のヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ及び車両の横加速度を検出する横加速度センサ等が電子制御装置ECUに接続される。
【0024】
尚、本実施形態においては省略したが、図2にABSと表示し一点鎖線で示した部分に、複数の電磁弁で構成したモジュレータを介装し、これを電子制御装置ECUによって制御するように構成することができる。これによれば、アンチスキッド制御機能を基本として、トラクション制御、前後制動力配分制御、制動操舵制御等の機能を備えることができる。
【0025】
上記のように構成された制動制御装置においては、電磁開閉弁SVp,SVf,SVrが電子制御装置ECUの液圧制御ユニットBCUによって駆動制御され、以下に説明するように制動制御が行なわれる。前述のように、電動モータPMによって液圧ポンプHPが駆動され、アキュムレータAccにパワー液圧が蓄圧されている。各電磁弁が図2に示す状態にあるときにブレーキペダルBPが踏み込まれると、マスタシリンダMCからマスタシリンダ液圧が出力されると共に、レギュレータRGからレギュレータ液圧が出力される。そして、前輪側は電磁開閉弁SVfを介してマスタシリンダ液圧がホイールシリンダWfr,Wflに供給され、後輪側は電磁開閉弁SVrを介してレギュレータ液圧がホイールシリンダWrr,Wrlに供給されることになる。
【0026】
而して、イグニッションスイッチ(図示せず)が閉成されると電子制御装置ECUにより制動制御の一連の処理が行なわれ、車両が走行中、図3のフローチャートに対応したプログラムが実行される。先ずステップ101にてモータ制御ユニットMCU及び液圧制御ユニットBCUが初期化され、各種の演算値がクリアされる。次にステップ102,103において、圧力センサPS1,PS2の検出圧力であるマスタシリンダ液圧Pm及びホイールシリンダ液圧Pwが読み込まれ、ステップ104にて両者の差が演算され、差圧ΔPが求められる(ΔP=Pm−Pw)。
【0027】
そして、ステップ105にて、差圧ΔPの関数として目標回生量Mdが演算される(Md=f( ΔP) )。尚、マスタシリンダ液圧のみ、あるいはブレーキペダルBPのストローク等から差圧ΔPを推定することが可能であり、この場合には差圧ΔPを演算することなく直接目標回生量Mdが演算される。続いてステップ106,107,108に進み、電動モータDMの状態、バッテリーBTの状態及び変速機TMの状態が検出される。これらの検出結果に基づき回生制動を行なう条件を充足しているか否かが判定される。例えば、極低速走行時、高速走行時、バッテリー満充電時、故障時及びニュートラルシフト位置にある時には、回生制動を行なう条件を充足していないと判定される。このように、回生制動を行なう条件を充足していないと判定されたときには、ステップ110にてモータ制御ユニットMCUに回生制動を禁止する旨の指令が出された後ステップ102に戻る。続いてステップ109にて、ステップ106乃至ステップ108の検出結果に基づき回生制動の開始条件が判定され、これを充足していると判定されたときには、ステップ111に進み、更に目標回生量Mdに基づく回生制動が可能か否かが判定される。可能と判定されれば、ステップ116に進み目標回生量Mdに基づく回生制動が行なわれる。
【0028】
一方、ステップ111において目標回生量Mdに基づく回生制動が不可能と判定された場合には、上記電動モータDMの状態に応じた回生可能量Meがステップ112にて推定される。例えば、バッテリーBTが満充電であれば、回生可能量Meは0であるが、充電可能であればその可能な量が回生可能量Meとされる。そして、ステップ113にて目標回生量Mdと回生可能量Meとの差に基づき圧力差ΔPeが演算される(ΔPe=f(Md-Me) )。続いてステップ114において、後述するステップ120の液圧制御に対し、圧力差ΔPeによる補正指令がなされ、またステップ115にて回生可能量Meが目標回生量Mdとされてステップ116に進み、この目標回生量Mdに基づく回生制動が行なわれる。この結果得られた回生電流の電流値がステップ117にて検出され、この回生電流値に基づきステップ118にて実際の回生量(実回生量)Maが演算される。この実回生量Maがステップ119にて目標回生量Mdと比較され、等しいと判定されたときにはステップ120にて液圧制御が行なわれる。実回生量Maが目標回生量Mdと異なるときは、ステップ121にて両者の差の関数として圧力差ΔPfが演算され(ΔPf=f(Ma-Md) )、ステップ122にて圧力差ΔPfによる補正指令が行なわれ、更にステップ120に進み液圧制御が行なわれる。
【0029】
図4は、上記ステップ120において行なわれる液圧制御の処理を示すもので、ステップ201にて回生制動の開始条件を充足しているか否かが判定され、充足しておれば、ステップ202においてトランスミッションTMのシフト位置がニュートラル位置(又はパーキング位置)以外となっているか否かが判定される。ニュートラル位置以外であれば、ステップ203に進み電動モータDMの回転数が所定値Rk(例えば、400rpm)と比較される。電動モータDMの回転数が所定値Rk未満の極低速領域と判定されるとステップ204に進み、マスタシリンダ液圧Pmがホイールシリンダ液圧Pwと比較される。ステップ204においてマスタシリンダ液圧Pmとホイールシリンダ液圧Pwが異なると判定されたときには、ステップ205にて電磁開閉弁SVpがオンオフ制御され、両液圧が等しくなるまで電磁開閉弁SVpを介してレギュレータ液圧が供給される。マスタシリンダ液圧Pmとホイールシリンダ液圧Pwが等しくなると、ステップ206,207,208に進み、電磁開閉弁SVf,SVrがオフとされて図2に示す開状態とされると共に、フラグAがセット(1)される。
【0030】
上記ステップ203,208からステップ209に進み、フラグAの状態が判定される。ステップ203にて電動モータDMの回転数が所定値Rk以上と判定された後、フラグAがセットされていなければ、ステップ210,211に進み、電磁開閉弁SVf,SVrがオン(閉状態)とされた後に、ステップ212にてフラグAがリセット(0)される。従って、回生制動が行なわれる。ステップ208にて既にフラグAがセット(1)されているときには、ステップ209からそのまま(電磁開閉弁SVf,SVrがオフで開状態のまま)ステップ212に進み、フラグAがリセット(0)される。
【0031】
而して、ステップ213に進み、圧力差ΔPeが存在するか否か(即ち、図3のステップ114の補正指令の有無)が判定され、圧力差ΔPeが存在するときにはステップ214,215に進み、マスタシリンダ液圧Pmとホイールシリンダ液圧Pwの差圧ΔPが圧力差ΔPe以下となるまで電磁開閉弁SVpがオンオフ制御される。ステップ215においてマスタシリンダ液圧Pmとホイールシリンダ液圧Pwの差圧ΔPが圧力差ΔPe以下と判定されると、ステップ216に進み、圧力差ΔPfが存在するか否か(即ち、図3のステップ122の補正指令の有無)が判定される。圧力差ΔPfが存在しなければそのまま図3のメインルーチンに戻るが、圧力差ΔPfが存在するときにはステップ217,218に進み、マスタシリンダ液圧Pmとホイールシリンダ液圧Pwの差圧ΔPが圧力差ΔPf以下となるまで電磁開閉弁SVpがオンオフ制御され、図3のメインルーチンに戻る。
【0032】
以上のように、例えば回生切換装置REfについては、これを構成する電磁開閉弁SVp,SVfの開閉制御と、リリーフバルブRVf及びプロポーショニングバルブPVfの作動により、回生制動のみによる制動作動から回生制動及び液圧制動による制動作動への円滑な切換えが行なわれる。図7に本実施形態における制動特性を示すように、ブレーキペダルBPの操作開始からtb時迄は回生制動のみが行なわれ、ブレーキ液圧系に初期ブレーキ液が充填される。ブレーキペダルBPの操作開始からta時の間はブレーキペダルBPのストロークに比例して液圧が増加するが、図6に示すプロポーショニングバルブPVfの特性により、ta時を折点として、ストロークの増加割合(即ち、マスタシリンダ液圧の増加割合)に対しホイールシリンダ液圧の増加割合が小さくなるように制御される。これにより、図7の下段に示すように、ブレーキペダルBPの初期ストロークが確保されるが、ホイールシリンダ液圧の値は低い状態に保持される。更に、シミュレータピストンSMによって図7の下段に二点鎖線で示した特性が得られる。尚、図7の破線は、プロポーショニングバルブPVfを備えていない場合の特性を示すもので、この特性では運転者に所謂板ブレーキ感を与えることになる。そして、tb時となると、図6の特性を有するリリーフバルブRVfが開弁し、図7の中段に示すようにホイールシリンダ液圧が急上昇し、図7の上段に示すように回生制動による制動力に対し液圧制動による制動力が加えられ、以後、極低速領域となるまで両制動力が付与される。
【0033】
制動作動終了間近の極低速領域となると、図8の上段に示すように、tc時に回生制動が行なわれなくなって液圧制動のみによる制動作動となる。この場合に電磁開閉弁SVfをオンからオフに単に切り換えただけでは、図8の中段に示すようにマスタシリンダ液圧とホイールシリンダ液圧との差が大きい状態から一挙に差が縮まって等しくされるので、ブレーキペダルBPの踏力が図8の下段に破線で示すように振動し、所謂ペダルショックを与えることになる。これに対し、本実施形態では電磁開閉弁SVpがオンオフ制御され(例えば、図4のステップ205)、レギュレータRGからレギュレータ液圧がホイールシリンダに供給されホイールシリンダ液圧がマスタシリンダ液圧に一致乃至は略一致するまで上昇された後に電磁開閉弁SVfがオンからオフに切り換わるので、図8の下段に実線で示すように、踏力の変動が大幅に低減されて安定し、ペダルショックが生ずることはない。上記の液圧制動が終了すると、ホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液は逆止弁CVr及びカットオフバルブMVpを介してレギュレータRGに戻るので、マスタシリンダMC内は確実に減圧され、残圧が過大となることはない。しかも、万一レギュレータRG側の液圧系が失陥しても、マスタシリンダ液圧がレギュレータ液圧より所定の圧力差以上低下したときにはカットオフバルブMVpによって副液圧路AFが遮断されるので、マスタシリンダMC側のブレーキ液が流出することはない。
【0034】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の電動車両の制動制御装置においては、回生切換手段とホイールシリンダとの間の主液圧路に副液圧路を介して動的液圧出力手段が接続され、この副液圧路に制御切換弁手段が介装され、液圧制御手段によるオンオフ制御に応じて副液圧路を開閉するように構成されているので、簡単な構成で、回生制動に対する液圧制動の追加及び切換を動的液圧出力手段の出力液圧に応じて円滑に行なうことができる。しかも、制御切換弁手段に並列に逆止弁が配設されており、液圧制動終了後はこの逆止弁を介してブレーキ液が動的液圧出力手段に戻され、静的液圧出力手段側に過大な残圧が生ずることはないので、静的液圧出力手段の構成部品を損なうことなく、安定した制動作動を確保することができる。
【0035】
更に、請求項2に記載のように構成した場合には、動的液圧出力手段の出力液圧が静的液圧出力手段の出力液圧に対し所定の圧力差以上低下したときには、圧力差応答遮断弁手段によって副液圧路が遮断されるので、万一動的液圧出力手段側が失陥しても、静的液圧出力手段側のブレーキ液が流出することなく、確実に制動作動を行なうことができる。
【0036】
そして、請求項3に記載のように構成した場合には、上記の効果に加え、圧力差応答遮断弁手段を安価に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電動車両の制動制御装置を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る電動車両の制動制御装置の全体構成図である。
【図3】本発明の一実施形態における制動制御のための処理を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態における制動制御のための処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における回生切換装置の構造を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態におけるリリーフバルブ、プロポーショニングバルブ及び電磁開閉弁によるマスタシリンダ液圧とホイールシリンダ液圧の関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態における回生制動及び液圧制動時の特性を示すグラフである。
【図8】本発明の一実施形態における回生制動及び液圧制動時の極低速領域の特性を示すグラフである。
【図9】一般的な電動車両における回生制動の限界を示すグラフである。
【図10】一般的な電動車両における回生制動及び液圧制動時の制動力配分を示すグラフである。
【符号の説明】
BP ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)
MC マスタシリンダ(静的液圧出力手段)
RG レギュレータ(動的液圧出力手段)
RS 低圧リザーバ
AS 補助液圧源
DM,PM 電動モータ
HP 液圧ポンプ
Wfr,Wfl,Wrr,Wrl ホイールシリンダ
FR,FL,RR,RL 車輪
ECU 電子制御装置
REf,REr 回生切換装置(回生切換手段)
SVf,SVr 電磁開閉弁(開閉弁手段)
PVf プロポーショニングバルブ(制御弁手段)
RVf リリーフバルブ(液圧制限手段)
PS1,PS2 圧力センサ
SVp 電磁開閉弁(制御切換弁手段)
MVp カットオフバルブ(圧力差応答遮断弁手段)
Claims (3)
- 車両の車輪に連結する電動モータと、該電動モータを回転駆動し前記車輪に駆動力を付与すると共に、前記電動モータの回生制動により前記車輪に制動力を付与するモータ制御手段と、ブレーキ操作部材の操作に応じてリザーバのブレーキ液を昇圧して静的液圧を出力する静的液圧出力手段と、前記リザーバのブレーキ液を前記ブレーキ操作部材の操作とは無関係に昇圧してパワー液圧を出力する補助液圧源と、該補助液圧源の出力パワー液圧を前記ブレーキ操作部材の操作に応じて調圧し動的液圧を出力する動的液圧出力手段と、前記車輪に装着し制動力を付与するホイールシリンダと、該ホイールシリンダに対し前記静的液圧出力手段又は前記動的液圧出力手段の出力液圧を供給し前記車輪に対する制動力を付与する液圧制御手段と、前記静的液圧出力手段と前記ホイールシリンダを接続する主液圧路に介装し、前記モータ制御手段によって前記車輪に制動力を付与するときには前記静的液圧出力手段から前記ホイールシリンダへ供給する液圧を前記静的液圧出力手段の出力液圧より低くし、前記モータ制御手段によって前記車輪に制動力を付与しないときには前記静的液圧出力手段から前記ホイールシリンダへ供給する液圧を前記静的液圧出力手段の出力液圧に一致させる回生切換手段とを備えた電動車両の制動制御装置において、前記回生切換手段と前記ホイールシリンダとの間の前記主液圧路に前記動的液圧出力手段を接続する副液圧路と、該副液圧路に介装し、前記液圧制御手段によるオンオフ制御に応じて前記副液圧路を開閉する制御切換弁手段と、該制御切換弁手段に対して並列に配設し、前記ホイールシリンダから前記動的液圧出力手段へのブレーキ液の流れを許容し逆方向の流れを制限する逆止弁とを備えたことを特徴とする電動車両の制動制御装置。
- 前記動的液圧出力手段と前記制御切換弁手段の間の前記副液圧路に介装し、常時は前記副液圧路を連通し、前記動的液圧出力手段の出力液圧が前記静的液圧出力手段の出力液圧に対し所定の圧力差以上低下したときには前記副液圧路を遮断する圧力差応答遮断弁手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の電動車両の制動制御装置。
- 前記圧力差応答遮断弁手段が、前記動的液圧出力手段の出力液圧と前記静的液圧出力手段の出力液圧をパイロット圧として導入し、前記動的液圧出力手段の出力液圧が前記静的液圧出力手段の出力液圧より所定の圧力差以上低下したときには前記副液圧路を遮断するカットオフバルブであることを特徴とする請求項2記載の電動車両の制動制御装置。
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