JP3767288B2 - キノンフルギド誘導体とその用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なエレクトロクロミック及びホトクロミック共役機能分子とその用途である光−電気応答化学システムに関する。
【0002】
【従来技術及び解決すべき課題】
光−電気応答化学システムに有用なエレクトロクロミック及びホトクロミック共役機能分子としては、これまでホトクロミックなアゾ部位とエレクトロクロミックなキノン部位を持つアントラキノン類が特開昭63-68553に開示されている。しかし、このものは光異性体の熱安定性が十分でなく室温においても数時間から数日で熱異性化が起こってしまう欠点があった。
【0003】
本発明の目的は光着色状態が熱的に安定で繰り返し耐久性に優れた性能を有する光応答性と電気応答性を併せ持つ新規なエレクトロクロミック及びホトクロミック共役機能分子とその製法の提供であり、更には新しい光−電気応答システムを提供することを究極目標とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討を重ねた結果、フルギド部位を光応答部位とし、キノン部位と共役させることにより、光異性体が熱的に安定な光−電気応答システムに供するに適したキノンフルギド誘導体を見出し本発明を完成するに至った。
【0005】
即ち、本発明は、下記一般式[I]−E、[I]−Z、[II]、[III]−E、[III]−Z又は [IV]
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
(上記全ての式中、いずれも、R1はメチル基又はエチル基を、また、R2はメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基又はter-ブチル基を意味する。R3及びR4は同一であっても異なっていてもよく、メチル基、エチル基又はアダマンチリデン基を意味する。R5及びR6はこれらが共同で置換若しくは無置換の芳香環を形成するか、又は同一であっても異なっていてもよく、水素原子、炭素数が1〜20のアルキル基、メトキシ基、シアノ基、ジメチルアミノ基、塩素原子若しくは臭素原子を意味する。Xは酸素原子、硫黄原子又は炭素数が1〜20のアルキルアミノ基を意味する。)
で示されるいずれかのキノンフルギド誘導体である。
【0006】
本発明の特徴はこれら6種の化合物が下記に示すように光異性化と電気化学的酸化還元により可逆的に相互変換可能な化学系を提供することである。
【化30】
すなわち、キノンフルギド化合物[I]は二重結合の光異性化によりE(Entgegen)体とZ(Zusammen)体の状態を示す。さらに特定波長の光照射により閉環異性体[II]に変換されるから、化合物[I]−E、[I]−Z、[II]は光により相互変換可能である。
また、ハイドロキノンフルギド[III]もE体とZ体、光閉環体[IV]があり、光により相互変換可能である。
【0007】
キノンフルギド[I]−E, Zとハイドロキノンフルギド[III]−E, Zは電気化学的酸化還元によりそれぞれ相互変換可能であり、キノンフルギド閉環体[II]とハイドロキノンフルギド閉環体[IV]も電気化学的酸化還元により相互変換可能である。
従って、化合物[I]−E、[I]−Z、[II]、[III]−E、[III]−Z及び [IV]は、光と電気により相互変換可能な化学系を構築している。
【0008】
本発明のキノンフルギド誘導体の具体例を下記表1−1乃至表1−3に挙げる。なお、キノンフルギド誘導体の光−電気により相互変換可能な[I]−E, [I]−Z, [II], [III]−E, [III]−Z, [IV]の系を代表させて[I]−E異性体のみを示す。
【化31】
【化32】
【化33】
【0009】
光異性化は有機溶媒中、あるいは透明プラスチックのようなマトリックス中において容易に行われる。
光異性化は通常吸収スペクトル変化により容易に検出され、アウトプットとしては吸光度変化が一般的である。また、蛍光スペクトルや非線型光学効果などもアウトプットとして用いられる場合もある。
【0010】
電気化学的酸化還元による相互変換は電解液、高分子電解質を用いて行われる。相互変換による色変化を信号としてアウトプットとする場合には透明ガラス電極を用いることができる。酸化還元電位、電流をアウトプットとする場合には通常の金属電極やマイクロ電極を用いることができる。酸化還元にともなう物質の出入りを重量で測定しアウトプットとする場合には水晶振動子などを電極として用いることができる。これらの検出技術はいずれも電気化学的センサーなどに良く知られているものが応用できる。
また化合物[I]と[III]、[II]と[IV]の相互変換は酸化剤、還元剤を用いた化学的な酸化還元によっても可能である。
【0011】
一般式[I]乃至[IV]の化合物群はいずれも新規物質であって、次式(1)の方法により合成することができる。
【0012】
即ち、本発明のキノンフルギド誘導体は式[VI]で示される水酸基の保護されたハイドロキノン化合物と式[VII]で示されるコハク酸誘導体の塩基による縮合により得られる、式[VIII]で示されるラクトン化合物を重要中間体とする製造法により合成される。
【化34】
【0013】
式[VI]に対応するキノン誘導体はキノンの強い電子吸引性のためコハク酸誘導体[VII]との縮合反応が進行せず対応するラクトン化合物を得る事が困難である。また、水酸基を保護しないハイドロキノンでは水酸基が塩基を消費し反応が進行しない。
【0014】
縮合反応はストッブ縮合として公知の諸条件下で行うことが可能である。特にテトラヒドロフラン(THF)などエーテル系無水溶媒中において、塩基としてセリウムクロライド−LDA系を用いることが好ましい。
【0015】
ストッブ反応により得られたラクトン化合物[VIII]は、下記に示すようにアルカリ加水分解によりジカルボン酸に導かれ、さらに脱水されて酸無水物[V]に導かれる。
【化35】
アルカリ加水分解はラクトンの加水分解として公知に知られる諸条件下で行われる。代表的な溶媒としては水、アルコール、エーテル系溶媒、あるいはその混合溶媒が挙げられる。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、カリウムt−ブトキシド(t-BuOK)、カリウムメトキシド(MeOK)などのアルカリ金属アルコラートが挙げられる。
【0016】
脱水反応には通常のコハク酸誘導体の脱水剤、脱水条件が適用できる。特にN−トリフルオロアセチルイミダゾールをTHF中で反応するのが有効である。
得られたフルギド誘導体[V]は、適当な方法でハイドロキノンの保護基をはずすことによりキノンフルギド[I]、あるいはハイドロキノンフルギド[III]に導かれる。
合成されたキノンフルギド[I]、あるいは、ハイドロキノンフルギド[III]はE体、Z体の混合物であることがある。これらはカラムクロマトグラム等により単離することも可能であるし、光照射により一方の異性体のみに変換することも可能である。
【0017】
【発明の実施の形態】
【0018】
以下に実施例を挙げてこの発明を具体的に説明する。このキノンフルギド化合物の化学構造は核磁気共鳴スペクトル(H-NMR、 分解能270MHz使用、内部標準としてTMS使用)、高分解能質量分析スペクトル(HRMS)、低分解能質量分析スペクトル(LRMS)、赤外吸収スペクトル(IR)、紫外-可視吸光スペクトルにより決定した。
電気化学的酸化還元挙動の測定にはサイクリックボルタモグラムを用いた。作用電極、対向電極には白金電極を用い、標準電極は飽和カロメル電極(SCE)を用いた。
【0019】
実施例1
ラクトン中間体8の合成
【化36】
塩化セリウム(III) 七水和物 983 mg(2.64mmol)を二つ口フラスコに入れて減圧下135℃で6時間加熱し結晶水を除去し、窒素置換後、室温に冷却してTHF 6mlを加えた。3−アセチル−4,9−ジメトキシ−2−メチルナフトフラン 500 mg (1.76mmol)をTHF 6mlに溶かした溶液を加え、−50℃に冷却した。
一方、ジイソプロピルアミン (2.82mmol)、触媒量の2,2−ビピリジルの5ml THF溶液にn−ブチルリチウム(2.82mmol)を加えてLDAを調整し、ジメチルイソプロピリデンサクシナート0.49g(2.6mmol)のTHF溶液を加えて-50℃1時間反応させた。
この反応液を先に調整した塩化セリウム(III)/3−アセチル−4,9−ジメトキシ−2−メチルナフトフランの混合液に滴下し、ゆっくりと室温まで戻した後、4日間攪拌した。
飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を終了し、セライトろ過を行った後、酢酸エチルで抽出して乾燥し、フラッシュカラムクロマトグラムによりラクトン中間体8を精製した。収量380.7mg(0.8682 mmol)、収率49% (3−アセチル−4,9− ジメトキシ−2−メチルナフトフランより)。
H-NMR (CDCl3) δppm 1.76(3H,s),1.92(3H,s),2.23(3H,s),2.65(3H,s),3.84(3H,s),4.15(3H,s),4.22(3H,s),4.80(1H,s),7.45-7.48(2H,m),8.14-8.17(1H,m),8.24-8.28(1H,m)
IR(KBr) γ/cm-1 1752(C=O),1736(C=O)
【0020】
実施例2
合成中間体5の合成
【化37】
実施例1で得られたラクトン体8を下記方法で加水分解しジカルボン酸とした後、脱水してフルギド中間体5を得た。
ラクトン体380.7mg(0.8682mmmol)を15mlのt−ブタノール(t-BuOH)に溶かしたものをt-BuOK 487.1mg (4.341mmmol)のt-BuOH 4ml溶液に滴下して1時間環流して加水分解し、ハーフエステルを得る。
反応溶液にTHF 4ml, 水 2ml, KOH 1gを加えてさらに2.5時間環流を続けジカルボン酸を得る。反応混合物から定法によりジカルボン酸の粗製物202mgを得た。
ジカルボン酸をTHF 5mlに溶解し、N−トリフルオロアセチルイミダゾール 0.2ml (1.74 mmol)を加え、3時間攪拌して脱水する。生成したフルギド中間体を酢酸エチルで抽出し、フラッシュクロマトグラムで精製してフルギド中間体5のE体 6.3 mg (0.016 mmol),Z体 112.7 mg (0.2773 mmol)を得た。
5-E体:H-NMR(CDCl3) δ/ppm 1.26(3H,s),2.19(3H,s),2.31(3H,s),2.82(3H,s),3.85(3H,s),4.27(3H,s),7.48-7.52(2H,m),8.13-8.17(1H,m),8.27-8.13(1H,m)
5-Z体:H-NMR(CDCl3) δ/ppm 2.14(3H,s),2.38(3H,s),2.43(3H,s),2.52(3H,s),3.71(3H,s), 4.30(3H,s),7.44-7.48(2H,m),8.10-8.14(1H,m),8.26-8.30(1H,m)
IR (KBr) γ/cm-1 1808(C=O), 1758(C=O)
HRMS (EI,70eV) m/z=406.1415(found),406.1416 (calcd for C24H22O6)
【0021】
実施例3
フルギド中間体5-Z体より脱保護によりキノンフルギド1-Z体の合成
【化38】
フルギド中間体5-Z 412.4mg (1.019 mmol)をTHF 150ml, 水15mlの混合溶媒に溶かし−10℃に冷却した。これにCAN 2.792 g (5.093 mmol)の20ml水溶液を滴下し、−10℃で1時間攪拌し酸化した。反応液に水を加えキノンフルギドを酢酸エチルで抽出し、フラッシュクロマトグラムにより精製し、キノンフルギド1-Z体を236 mg (0.627 mmol)を得た。収率 62% (フルギド中間体 5-Z体より)。
H-NMR (CDCl3) δ/ppm 2.18(3H,s),2.25(3H,s),2.41(3H,s),2.50(3H,s),7.72-7.78(2H,m),8.08-8.11(1H,m),8.20-8.23(1H,m)
IR (KBr) γ/cm-1 1816(C=O),1764(2C=O,quinone)
HRMS (EI, 70eV) m/Z=376.0949 (found), 376.0947 (calcd for C22H16O6)
【0022】
実施例4
光反応によるキノンフルギド1-Z体から閉環体2への変換
【化39】
キノンフルギド1-Z体の1.13 x 10-4Mのトルエン溶液に波長405nmの単色光を照射して閉環体に誘導した。吸収スペクトル変化を図1に示す。1-Z体は390nmに吸収極大を示すが405nmの単色光照射によりこの吸収極大は減少し、新たに500nmに吸収極大を示す吸収帯が現れた。この吸収スペクトル変化は1-Z体から1-E体を経て閉環体2に変換されたことを示すものである。
得られた閉環体2は溶液のまま室温に放置してもまったく開環体1-Z,1-Eに熱異性化はせず極めて安定である事が確認された。
【0023】
参考例5
フルギド中間体5-E体より脱保護によるキノンフルギド1-E体の合成。
【化40】
フルギド中間体5-E体 32.5mg (0.0800 mmol)をTHF 25ml, 水3mlの混合溶媒に溶かし−10℃に冷却した。これにCAN 0.219 g (0.400 mmol)の3ml水溶液を滴下し、−10℃で1時間攪拌し酸化した。反応液に水を加えキノンフルギドを酢酸エチルで抽出し、フラッシュクロマトグラムにより精製し、キノンフルギド1-E体を18.1mg (0.0481 mmol)を得た。収率 60% (フルギド中間体5-E体より)。
H-NMR (CDCl3) δ/ppm 1.41(3H,s),2.22(3H,s),2.29(3H,s),2.67(3H,s),7.78-7.81(2H,m),8.16-8.19(1H,m),8.22-8.25(1H,m)
IR (KBr) γ/cm-1 1812(C=O),1673(2C=O,quinone)
LRMS (EI, 70eV) m/Z (rel intensity) 376(M+,66)
【0024】
参考例6
キノンフルギド1-Z体を下記に示すごとくNa2S2O4により還元してハイドロキノンフルギド3-E体を得る事ができた。
【化41】
Na2S2O4 281mg (1.61 mmol)を6mlのTHFに溶かしたものに、キノンフルギド1-Z体 40.4mg (0.107 mmol)を6ml THFに溶かしたものを滴下し0℃で2時間反応させ、定法により抽出、フラッシュクロマトグラムにより精製してハイドロキノンフルギド3-E体3.8 mg (0.010 mmol)を得た。
H-NMR (CDCl3) δ/ppm 0.78(3H,s), 1.48(3H,s), 2.63(3H,s), 2.70(3H,s), 7.52-7.57(1H,m), 7.60-7.66(1H,m), 7.84-7.87(1H, d, J=7.92Hz), 8.30-8.33(1H,m)
IR (KBr) /cm-1 3405 (OH), 1832 (C=O), 1764(C=O)LRMS (EI, 70eV) m/Z (rel intensity) 378(M+, 100)
【0025】
実施例7
キノンフルギド1-Zからハイドロキノン3-Zへの電気化学的還元(プロティク溶媒中)
【化42】
キノンフルギド1-Zの0.9mmol dm-3アセトニトリル/硫酸溶液(0.1 mol dm-3 TBAP, 0.01 mol dm-3 H2SO4)のサイクリックボルタモグラムを図2に示す。
図2に示されたサイクリックボルタモグラムは還元ピーク電位−262mV、酸化ピーク電位+166mVの可逆なサイクルを示し、電極上でキノンフルギド1-Zとハイドロキノンフルギド3-Zが電気化学的な還元・酸化により可逆的に相互変換可能である事を示した。
CVにおいて還元ピークと酸化ピークの差が通常の酸化還元の場合より大きい事はハイドロキノンの水酸基とフラン酸素との間に水素結合が有るため酸化に対して抵抗力が働くためと考えられる。
【0026】
実施例8
キノンフルギド1-Zからハイドロキノン3-Z2-への電気化学的還元(アプロティック溶媒中)
【化43】
キノンフルギド1-Zの0.9mmol dm-3無水アセトニトリル溶液(0.1 mol dm-3 TBAP)のサイクリックボルタモグラムを図3に示す。
キノン化合物のアプロティック溶媒中の電気化学的酸化還元ではプロトンを得る事ができないためセミキノンラジカルを経由してハイドロキノンのジアニオンに還元される。図3に示されたサイクリックボルタモグラムの還元ピーク−915mVは1-Zからセミキノンラジカルへの還元を示し、続く−1447mVの還元ピークはハイドロキノンジアニオン3-Z2-への還元を示す。この2段の還元に対応して酸化側も−1185mV、−796mVの酸化ピークを示した。すなわち1-Zはセミキノンラジカルを経由した可逆な酸化還元サイクルを示し、電極上でキノンフルギド1-Zがセミキノンラジカル中間体をへてハイドロキノンフルギドジアニオン3-Z2-に相互変換可能である事を示した。
【0027】
実施例9
キノンフルギド1-Eからハイドロキノン3-Eへの電気化学的還元(プロティック溶媒中)
【化44】
キノンフルギド1-Eの0.9mmol dm-3アセトニトリル/硫酸溶液(0.1 mol dm-3 TBAP, 0.01 mol dm-3 H2SO4)のサイクリックボルタモグラムは酸化ピーク−302mV、還元ピーク+232mVを示した。還元ピークと酸化ピークの差が通常の酸化還元の場合より大きい事は1-Zの場合と同様にハイドロキノンの水酸基とフラン酸素との間に水素結合が有るため酸化に対して抵抗力が働くためと考えられる。
すなわち、電極上でキノンフルギド1-Eとハイドロキノンフルギド3-Eが電気化学的な還元・酸化により可逆的に相互変換可能である事を示した。
【0028】
実施例10
キノンフルギド1-Eからハイドロキノン3-E2-への電気化学的還元(アプロティック溶媒中)
【化45】
キノンフルギド1-Eの0.9mmol dm-3無水アセトニトリル溶液(0.1 mol dm-3 TBAP)のサイクリックボルタモグラムは−882mV、−1428mVの還元ピークを示し、−1237mV、−786mVに対応する酸化ピークを示した。
すなわち1-Eは1-Zと同様にアプロティック溶媒中ではプロトンが得られないのでセミキノンラジカルを経由したハイドロキノンジアニオン3-E2-に相互変換可能である事を示した。
【0029】
実施例11
キノンフルギド閉環体2の化学還元によるハイドロキノンフルギド閉環体4への変換
【化46】
キノンフルギド閉環体2はTHF/水混合溶媒中Na2S2O4により容易に化学還元可能であった。しかしながら、得られたハイドロキノンフルギド閉環体4は空気酸化により容易に2に再変換されるため単離する事は困難であった。
図4に2から4への化学還元による吸収スペクトル変化を示す。枝付き吸光セルに2 (濃度約1.5x10-4 M)のTHF溶液を調整し窒素をバブリングして空気を追い出し封印した。2は432nmに極大吸収、504nmにショルダー吸収を示した(実線)。この枝付きセルにあらかじめ窒素で置換したNa2S2O4水溶液を加えると2は還元され432nm, 504nmの吸収帯は消えて360nmにショルダー吸収を示す4に変換された(一点鎖線)。
枝付きセルの封印をはずし、溶液を空気に触れさせるとすぐに432nm, 504nmの吸収帯が増加し、空気酸化により2に変換されることが解った。
【0030】
実施例12
キノンフルギド閉環体2とハイドロキノンフルギド閉環体4の電気化学的酸化還元による相互変換
【化47】
実施例9で調整したキノンフルギド1-Eの0.9mmol dm-3アセトニトリル/硫酸溶液(0.1 mol dm-3TBAP, 0.01 mol dm-3 H2SO4)に405nmの光を照射して閉環体2に変換した。光定常状態においてサイクリックボルタモグラムを測定すると酸化ピーク−282mV、還元ピーク+245mVを示す可逆な酸化還元サイクルを示した。
すなわち、電極上でキノンフルギド閉環体2とハイドロキノンフルギド閉環体4が電気化学的な還元・酸化により可逆的に相互変換可能である事を示した。
【0031】
参考例1
ハイドロキノンフルギド3-Eのトルエン溶液に紫外光を照射して光閉環反応を試みたが全く起こらなかった。
【0032】
【効果】
本発明のキノンフルギドの相互変換の過程は独立ではなく相互に関与しあっている。例えば、[I]-E/[III]-E, [I]-Z/[III]-Z, [II]/[IV]の電気化学的酸化還元の挙動は異なってくる。通常は光異性体の異性化は吸収スペクトルにより観察されるが、キノンフルギドでは酸化還元挙動により観察することも可能になる。すなわち、光−電気応答化学系では光り信号をインプットとして引き起こされる光異性化を電気信号としてアウトプットすることが可能である。
通常光異性化による光記録は光で検出する際に逆反応を起こし非破壊読み出しが難しいが、光−電気応答系では光記録を電気信号で読み取るため下記のように非破壊読み出しが可能である。
【化48】
また、一分子が図1に示す6つの状態をとることが可能であるから光−電気信号による多重記録も可能である。
フルギドの光閉環体は熱安定であり室温では開環せず、光応答が極めて安定であることが大きな特徴である。
【0033】
【図面の簡単な説明】
【図1】 1-Zの光照射による閉環体2への吸収スペクトル変化
【図2】 1-Zと3-Zの電気化学的酸化還元を示すサイクリックボルタモグラム
【図3】 1-Zと3-Z 2-の電気化学的酸化還元を示すサイクリックボルタモグラム
【図4】 キノンフルギド閉環体2、ハイドロキノン閉環体4の吸収スペクトル
(化学還元による吸収スペクトル変化)
Claims (9)
- 下記一般式[I]−E、[I]−Z、[II]、[III]−E、[III]−Z又は [IV]
で示されるいずれかのキノンフルギド誘導体。
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