JP3763144B2 - 被覆切削工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどの基材上に複数層の被覆膜を具える被覆切削工具に関するものである。特に、耐摩耗性に優れた被膜膜を具える被覆切削工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、切削工具や耐摩耗性工具などの耐摩耗性及び表面保護機能を改善するために、WC基超硬合金、サーメット、高速度鋼などからなる基材の表面に、Ti、Hf、Zr、TiAlの炭化物、窒化物、炭窒化物からなる硬質の膜を単層又は複数層形成することがよく知られている。
【0003】
しかし、以下に示す最近の動向から、切削の際、工具の刃先温度はますます高温になる傾向にあり、工具材料に要求される特性は厳しくなる一方である。
▲1▼地球環境保全の観点から切削油剤(潤滑油剤)を用いないドライ(乾式)加工が求められている、
▲2▼被削材が多様化している、
▲3▼加工能率を一層向上させるために切削速度が高速になってきているなど。
【0004】
特に、工具材料の要求特性として、高温での膜の安定性(耐酸化特性や基材に対する密着性)はもちろんのこと、工具寿命に関係する耐摩耗性、即ち、高温における膜の硬度の向上が一段と重要となっている。
【0005】
そこで、特許第2793773号公報には、(AlXTi1-x-ySiy)(NzC1-z)、ただし、0.05≦x≦0.75、0.01≦y≦0.1、0.6≦z≦1といったTiAlSi系の膜を形成することが提案されている(従来技術1)。この技術は、膜にSiを微量に含有させることにより、高硬度で良好な耐酸化性を具えて、耐摩耗性の向上を図るものである。
【0006】
また、特開平8-118106号公報には、(Ti1-xSix)(C1-yNy)z、ただし、0.01≦x≦0.45、0.01≦y≦0.1、0.5≦z≦1.34といったTiSi系の膜を形成することが提案されている(従来技術2)。この技術は、高硬度な(Ti1-xSix)(C1-yNy)zを被覆することで高速連続切削においても耐摩耗性に優れ、工具の使用寿命の延長を図るものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の技術では、以下の問題があった。
従来技術1では、膜中にアルミニウムが含有されている。この場合、900℃を超える高温下では、膜表面において優先的にアルミニウムが酸素と結びつきAl2O3が形成される。すると、残ったチタンが膜内部に拡散して、非常にポーラスな(多孔質な)チタン酸化物が形成されて耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0008】
従来技術2では、(Ti1-xSix)(C1-yNy)zが高硬度である反面、非常に脆い性質があるため、切削工具などに用いた場合、特に、断続切削に用いた場合、刃先が欠け易いという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の主目的は、高硬度で、断続切削においても優れた耐摩耗性を有する被覆切削工具を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、組織が異なる高硬度で耐摩耗性に優れる膜を基材上に交互に積層することで、上記目的を達成する。
【0011】
即ち、本発明は、基材上に複数層の被覆膜を具える被覆切削工具である。被覆膜は、TiSiの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物及び炭酸窒化物から選択された1種の化合物(TiSi系化合物)からなる第一の膜と、Zr、Hf及びZrHfから選択された1種の金属Mの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物及び炭酸窒化物から選択された1種の化合物(金属Mの化合物)からなる第二の膜とをそれぞれ1層以上具える。そして、第一の膜と第二の膜とを交互に積層させている。
【0012】
本発明者らは、種々の被覆膜を用いて各種切削試験を行い、工具の損傷を詳細に調査したところ、寿命と判断された被覆膜は、連続的にいわゆる正常摩耗しているのではなく、膜の一部分が脱落しながら損傷が進行していることを突き止めた。即ち、従来の膜では、摩耗が原子単位で徐々に進行するのではなく、膜中に存在する単一のいわゆる縦長の柱状組織ごとに脱落しながら損傷が進行していた。そこで、本発明者らは、単一の縦長の柱状組織ごとに脱落して損傷することを抑制し正常摩耗とするには、組織が異なる膜を積層させて、膜組織を微細化することが必要であるとの知見を得えて、本発明を規定するものである。
【0013】
本発明は、非常に高硬度で耐摩耗性に優れるTiSi系化合物の膜(第一の膜)と金属Mの化合物の膜(第二の膜)とをそれぞれ1層以上具えて、交互に積層させることで、被覆膜全体として、高硬度で優れた耐摩耗性を有することができる。ここで、第一の膜と第二の膜とは、その組成から組織が異なる。このように組織が異なる膜を積層することで、被覆膜全体がいわゆる縦長の柱状組織とならず、組織を微細化することができるため、組織ごとの脱落を繰り返す大規模な摩耗による損傷(異常摩耗)を抑制することが可能である。
【0014】
以下、本発明をより詳しく説明する。
本発明工具において、TiSi系化合物からなる第一の膜及び金属Mの化合物からなる第二の膜の構成は、図1に示す複数の構成が考えられる。図1(A)は、第一の膜1及び第二の膜2の2層構造、(B)は、第一の膜1及び第二の膜2の複数層積層構造3である。また、図1(C)に示すよう一部が第一の膜1又は第二の膜2の構成成分からなる単一層4、他部が第一の膜1及び第二の膜2からなる複数層積層構造3の構成、(D)に示すように一部が後述する中間層や公知の膜からなる単一層4'、他部が第一の膜1及び第二の膜2からなる複数層積層構造3の構成、(E)に示すように第一の膜1及び第二の膜2からなる複数層積層構造3が単一層4に挟まれた構成などが挙げられる。図1(C)では、単一層4として第二の膜2の構成成分からなる膜、(D)では、単一層4'として例えば、TiAlN膜などの公知の膜、(E)では、上方の単一層4として第二の膜2の構成成分からなる膜、下方の単一層4として第一の膜1の構成成分からなる膜を示している。なお、積層する順序は、第一の膜、第二の膜のいずれが基材側でもよい。
【0015】
TiSi系化合物からなる第一の膜の厚み、及び金属Mの化合物からなる第二の膜の厚みは、それぞれ0.5nm以上50nm以下が好ましい。このような薄膜を積層させた構造では、転移やクラックを抑制する効果を有する。膜の厚みが0.5nm未満の場合、被覆膜の硬度の向上が得られにくい。また、0.5nm未満であると、被覆膜を構成する各元素が拡散して、各膜の構造が非常に不安定になり、薄膜の積層構造が消失したり、隣接する膜と結合したりして膜の境界が判別しにくくなる恐れがある。一方、膜の厚みが50nmを超える場合、薄膜の積層構造による転位やクラックの抑制効果が低下し易くなる。より好ましくは、厚みをそれぞれ0.5nm以上10nm以下とすることである。
【0016】
TiSi系化合物からなる第一の膜においてSiは、原子量%で1%超30%以下であることが好ましい。被覆膜中にSiが存在すると、被覆膜の硬度が向上するため好ましいが、原子量%で30%以上のSiを含有すると、被覆膜が脆くなって、逆に摩耗性が促進される恐れがある。また、第一の膜を物理蒸着法にて形成するにあたりTiSi合金のターゲット(蒸発原料)を熱間静水圧加圧処理で作製する場合、Siを30%超含有させると、ターゲットが割れてコーティングに使用可能な材料強度が得られにくい。より好ましくは、第一の膜にSiが原子量%で15%超25%以下含有されることである。
【0017】
第一の膜において、Ti系化合物(Tiの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物及び炭酸窒化物から選択された1種の化合物)は立方晶構造、Si系化合物(Siの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物、炭酸窒化物から選択された1種の化合物)は非晶質構造であり、第二の膜において、金属Mの化合物は立方晶構造であることが好ましい。このとき、被覆膜全体の結晶性は、X線回折測定にて評価可能であるが、Si系化合物は、非晶質構造であるためX線回折で同定することはできない。従って、被覆膜全体のX線回折測定では、TiSi系化合物からなる第一の膜中で立方晶構造をもつTi系化合物、及び第二の膜中で立方晶構造をもつ金属Mの化合物しか同定できないので、結果として、被覆膜全体の構造は、立方晶構造となる。なお、本発明において、第一の膜及び第二の膜からなる被覆膜に加えて、後述する中間層などを具える場合は、これら中間層なども具えた膜全体の構造が立法晶構造となる。また、Si系化合物の結晶性の評価は、例えば、透過電子回折法(Transmission Election Diffraction)にて行うことができる。
【0018】
第一の膜においてTi系化合物は、平均粒径が0.1nm以上10nm以下の結晶質であり、かつSi系化合物の非晶質構造内に分散していることが好ましい。図2は、被覆膜の組織構造を示す模式図であり、(A)は本発明工具、(B)は従来の工具を示す。本発明工具では、図2(A)に示すように、第一の膜1において微細なTi系化合物の結晶粒5が非晶質構造のSi系化合物6内に分散した状態である。Ti系化合物の結晶粒がこのようにナノメートルサイズであることで、いわゆるナノサイズ効果により、被覆膜の硬度の上昇、転位やクラック抑制効果が得られて損傷しにくい。また、本発明において第一の膜は、結晶質のTi系化合物と非晶質のSi系化合物との混合相であることからエネルギーを分散させて被覆膜中に進展するクラックの伝播を抑制することができ、更なる耐摩耗性の向上が図れる。一方、第二の膜は、図2(A)に示すように柱状組織7を有するものが好ましい。
【0019】
上記のように結晶質のTi系化合物と非晶質のSi系化合物との混合相である第一の膜1と、金属Mの化合物からなる第二の膜2とは、図2(A)に示すように組織が異なり、それぞれの膜1及び2を交互に積層しても、図2(B)に示す従来の工具の被覆膜のように膜全体がいわゆる縦長の柱状組織7にならず、微粒組織が維持される。そのため、本発明工具の被覆膜は、組織ごとに脱落して損傷することを抑制することができ、耐摩耗性に優れる。これに対し、従来の工具では、図2(B)に示すように被覆膜全体の組織構造がいわゆる縦長の柱状組織7となるため、クラックが生じると縦長の組織7毎に脱落して損傷し易い、即ち、摩耗し易い。
【0020】
このような第一の膜及び第二の膜から構成される被覆膜の総厚みは、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。総厚みが0.5μm未満では、耐摩耗性の向上が得られにくく、総厚みが10μmを超えると、被覆膜中の残留応力などの影響により、基材との密着強度が低下する恐れがあるからである。
【0021】
本発明工具において、基材表面と上記被覆膜との間には、中間層を具えてもよい。中間層は、Ti(チタン)、Tiの窒化物(チタンナイトライド)、Zr(ジルコニウム)及びZrの窒化物(ジルコニウムナイトライド)から選択された1種からなるものが好ましい。特に、チタンとチタンナイトライドとは、基材表面及び被覆膜の両方に対して密着性がよく、基材と被覆膜との密着性を一層向上させることができる。そのため、上記中間層を具えると、被覆膜が基材から剥離することを抑制して、工具寿命をより向上させることができる。このような中間層は、厚みが0.05μm以上1.0μm以下であることが好ましい。厚みが0.05μm未満では、密着強度の向上が得られにくく、厚みが1μmを超えても密着強度の更なる向上が見られにくいからである。
【0022】
上記被覆膜や中間層を形成する基材は、WC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素(cBN)焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化ケイ素焼結体及び酸化アルミニウムと炭化チタンとを含む焼結体から選択された1種であることが好ましい。
【0023】
WC基超硬合金は、炭化タングステン(WC)を主成分とする硬質相と、コバルト(Co)などの鉄族金属を主成分とする結合相とからなるもので、通常よく用いられているものを用いるとよい。更に、周期律表4a、5a、6a族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素から選ばれる少なくとも1種とからなる固溶体が含まれているものでもよい。固溶体としては、例えば、(Ta,Nb)C、VC、Cr2C2、NbCなどが挙げられる。
【0024】
サーメットとしては、例えば、周期律表4a、5a、6a族の遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種と炭素、窒素、酸素及び硼素から選ばれる少なくとも1種とからなる固溶体相と、1種以上の鉄系金属からなる結合相と、不可避的不純物とからなるもので、通常よく用いられるものを用いるとよい。
【0025】
高速度鋼としては、例えば、JIS記号SKH2、SKH5、SKH10などのW系高速度鋼、SKH9、SKH52、SKH56などのMo系高速度鋼などが挙げられる。
【0026】
セラミックスは、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
【0027】
cBN焼結体としては、cBNを30体積%以上含むものが挙げられる。より具体的には、以下の焼結体が挙げられる。
(1)cBNを30体積%以上80体積%以下含み、残部が結合材と鉄族金属と不可避的不純物とからなる焼結体。結合材は、周期律表4a、5a、6a族元素の窒化物、硼化物、炭化物並びにこれらの固溶体からなる群から選択される少なくとも1種と、アルミニウム化合物とを含むものである。
【0028】
上記cBN焼結体においてcBN粒子は、被削材としてよく用いられる鉄との親和性が低い上記結合材を介して主に結合され、この結合が強固であることから、基材の耐摩耗性と強度とを向上させる。
【0029】
cBN含有量を30体積%以上とするのは、30体積%未満となると、cBN焼結体の硬度が低下し易くなり、例えば、焼入鋼のような高い硬度の被削材を切削するには、硬度が不足するからである。cBN含有量を80体積%以下とするのは、80体積%を超える場合、結合材を介してcBN粒子同士の結合が困難になり、cBN焼結体の強度が低下する恐れがあるからである。
【0030】
(2)cBNを80体積%以上90体積%以下含み、cBN粒子同士が結合しており、残部が結合材と不可避的不純物とからなる焼結体。結合材は、Al化合物又はCo化合物を主成分とするものである。
【0031】
このcBN焼結体は、触媒作用を有するAl又はCoを含有する金属、或いは金属間化合物を出発原料として液相焼結を行うことで、cBN粒子同士を結合させ、かつcBN粒子の含有率を高めることができる。cBN粒子の含有率が高いことから、耐摩耗性が低下し易いものの、cBN粒子同士が強固な骨格構造を形成しているため、耐欠損性に優れ、過酷な条件での切削が可能となる。
【0032】
cBN含有量を80体積%以上とするのは、80体積%未満となると、cBN粒子同士の結合による骨格構造を形成することが難しくなるからである。cBN含有量を90体積%以下とするのは、90体積%を超えると、触媒作用を有する上記結合材が不足して、未焼結部分を生ずるため、cBN焼結体の強度が低下するからである。
【0033】
ダイヤモンド焼結体としては、ダイヤモンドを40体積%以上含むものが挙げられる。より具体的には、以下の焼結体が挙げられる。
(1)ダイヤモンドを50〜98体積%含み、残部が鉄族金属、WC及び不可避的不純物からなる焼結体。鉄族金属は、特に、Coが好ましい。
(2)ダイヤモンドを85〜99体積%含み、残部が空孔、WC及び不可避的不純物からなる焼結体。
(3)ダイヤモンドを60〜95体積%含み、残部が結合材及び不可避的不純物からなる焼結体。結合材は、鉄族金属と、周期律表4a、5a、6a族元素の炭化物及び炭窒化物からなる群から選択される1種以上と、WCとを含むものである。より好ましい結合材は、CoとTiCとWCとを含むものである。
(4)ダイヤモンドを60〜98体積%含み、残部がケイ素及び炭化ケイ素の少なくとも1種、WC及び不可避的不純物からなる焼結体。
【0034】
窒化ケイ素焼結体としては、窒化ケイ素を90体積%以上含むものが挙げられる。特に、HIP法(熱間静水圧焼結法)を用いて結合した窒化ケイ素を90体積%以上含む焼結体が好ましい。この焼結体において残部は、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、希土類、TiN及びTiCから選ばれる少なくとも1種からなる結合材と不可避的不純物とからなることが好ましい。
【0035】
酸化アルミニウムと炭化チタンとを含む焼結体としては、体積%で酸化アルミニウムを20%以上80%以下、炭化チタンを15%以上75%以下含み、残部がMg、Y、Ca、Zr、Ni、Ti、TiNの酸化物から選ばれる少なくとも1種の結合材と不可避的不純物とからなる焼結体が挙げられる。特に、酸化アルミニウムは、65体積%以上70体積%以下、炭化チタンは、25体積%以上30体積%以下で、結合材は、Mg、Y、Caの酸化物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
本発明被膜切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ及びタップから選択された1種を含む用途に使用されるとよい。
【0037】
本発明において、被覆膜を基材上に被覆するには、結晶性が高い化合物を形成できる成膜プロセスにて作製されることが適する。そこで、上記第一の膜及び第二の膜からなる被覆膜は、TiSi合金及び金属Mをそれぞれ蒸発原料として、窒素、炭素、酸素のうち一種以上を含むガス中で物理的蒸着法により形成されたものが好ましい。また、本発明者らが種々の成膜方法を検討した結果、物理的蒸着法の中でも、原料元素のイオン率が高いアーク式イオンプレーティング法(カソードアークイオンプレーティング)が最も適していることがわかった。カソードアークイオンプレーティングを用いた場合、被覆膜を形成する前に基材表面に対して金属のイオンボンバードメント処理が可能であるため、被覆膜の密着性を格段に向上させることができ、密着性の観点からも好ましいプロセスである。
【0038】
上記物理的蒸着法に用いられるTiSi合金の蒸発原料は、熱間静水圧加圧処理により製造され、相対密度が99〜100%であり、原料表面から対向する面に及んで連続する欠陥、例えば、ポア(穴)やクラック(切割)などがないものが好ましい。このとき、成膜中にターゲット(蒸発材料)が割れるなどのトラブルを防ぐことが可能である。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
以下に示す被覆切削工具を作製し、耐摩耗性を調べてみた。
【0040】
(実施例1)
(1)試料の作製
(i)本発明品(試料No.1-1〜1-8)
まず、本試験で用いた成膜装置について説明する。図3(A)は、本試験で用いた成膜装置の模式図、(B)は、(A)のB-B断面図である。成膜装置11は、基材19が搭載されると共に支持棒14にて回転自在に装着された主テーブル13と、基材19を囲むようにチャンバー12の側壁に配置されたアーク式蒸発源15a、15b、15cと、各蒸発源15a、15b、15cに接続される可変電源としての直流電源16a、16b(図示せず)、16cと、主テーブル13に接続される直流電源17と、ガスを供給するガス導入口18と、ガスを排気するガス排気口18'とをチャンバー12内に具える。
【0041】
チャンバー12は、真空ポンプ(図示せず)と連結されており、チャンバー12内の圧力を変化可能である。支持棒14の内側には回転軸(図示せず)が設けられており、この回転軸にて主テーブル13を回転させる。主テーブル13上には、基材19を保持する治具20が設けられている。主テーブル13、支持棒14及び治具20は、直流電源17の負極と電気的に接続され、直流電源17の正極は、アースされている。アーク式蒸発源15a、15b、15cは、直流電源16a、16b、16cの負極と電気的に接続され、直流電源16a、16b、16cの正極はアースされると共にチャンバー12と電気的に接続される。
【0042】
そして、アーク式蒸発源15a、15b、15cとチャンバー12との間のアーク放電によって、蒸発源15a、15b、15cを部分的に容解させてカソード物質を図3(B)に示す矢印21a、21b、21cの示す方向に蒸発させることで、基材19表面に被覆膜を形成する。このとき、チャンバー12には、ガスを供給するガス導入口18からマスフローコントローラー(図示せず)を介して様々なガスが導入される。このガスは、例えば、アルゴンや窒素ガスなどの不活性ガス、メタン、アセチレン、ベンゼンなどの炭化水素ガスなどが挙げられる。なお、放電の際には、アーク式蒸発源15a、15b、15cとチャンバー12との間には、数十から数百V程度の電圧が印加される。
【0043】
以下、試料No.1-1〜1-8の成膜方法を説明する。基材には、グレードがJISP30の超硬合金、チップ形状がJIS規格のSPGN120308のものを用意した。そして、図3で示す成膜装置11を用いて、主テーブル13を回転させながらヒーター(図示せず)にてチップ形状の基材19を温度500℃に加熱すると共に、真空ポンプにて真空引きを行ってチャンバー12内の圧力が1.3×10-3Paとなるまで減圧する。次に、ガス導入口18からアルゴンガスを導入してチャンバー12内の圧力を3.0Paに保持し、直流電源17の電圧を徐々に上げていって-1000Vとし、基材19表面のクリーニングを15分間行った。その後、ガス排気口18'からアルゴンガスを排気した。
【0044】
直流電源17の電圧を-1000Vに維持したまま、チャンバー12内にガス導入口18から100SCCMのアルゴンと窒素との混合ガスを導入する。そして、直流電源16aから150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源15aから金属イオンを発生させる。この工程により、アーク式蒸発源15aからの金属イオンが基材19表面をスパッタクリーニングし、基材19表面に存在する強固な汚れや酸化膜などを除去する。なお、本例において、アーク式蒸発源15a、15b、15cの蒸発原料は、それぞれ後述する表1に示す中間層、第一の膜、第二の膜を形成するのに適した金属、化合物を用いた。また、第一の膜の形成に対しては、熱間静水圧加圧処理により製造され、相対密度が99.8%であり、原料表面から対向する面に及んで連続する欠陥がないTiSi合金を蒸発材料として用いた。
【0045】
その後、チャンバー12内の圧力が2.7Paになるようにガス導入口18から窒素ガスを導入し、直流電源17の電圧を-80Vとした。すると、基材19表面において金属窒化膜、又は金属膜の形成が始まる。金属窒化膜(例えばTiNなど)又は金属膜(例えばTiなど)が所定の厚みに(0.3μm)に達するまで上記の状態を維持した。この工程により、中間層として、金属窒化膜(例えば、TiN膜など)又は金属膜(例えば、Ti膜など)を形成した。
【0046】
上記中間層の形成が終了した後、チャンバー内の圧力:2.7Pa、窒素ガス導入、直流電源17の電圧:-80Vの状態のまま、直流電源16b、16cからアーク式蒸発源15b、15cに、それぞれ-40V、95Aの電流を供給する。すると、アーク式蒸発源15bから金属イオンが矢印21bに示す方向に蒸発し、蒸発源15cから化合物イオンが矢印21cに示す方向に蒸発して、基材19表面に所定の厚みの被覆膜を形成して、試料No.1-1〜1-8を得た。なお、試料No.1-1〜1-8において、第一の膜及び第二の膜からなる被覆膜の構成は、図1に示す構成などが考えられる。
【0047】
(ii)従来品(試料No.1-9)
試料No.1-9は、以下のように作製した。まず、基材は、上記試料No.1-1〜1-8と同じ基材を準備した。この基材を図3に示す成膜装置11の治具20にセットし、ガス導入口18をチャンバー12の上部に配置する。アーク式蒸発源15aの蒸発原料をチタン、蒸発源15aに対向する壁面に配置するアーク式蒸発源15cの蒸発原料をチタンアルミニウムの化合物(Ti0.5、Al0.5)とした。(Ti0.5、Al0.5)とはTiとAlとの原子数比が0.5:0.5の化合物をいう。成膜装置11のその他の構成は、上記試料No.1-1〜1-8の作製の際と同様にした。
【0048】
成膜装置11を用いて、上記試料No.1-1〜1-8と同様の手法で、基材19表面にアルゴンでスパッタクリーニングした後、チタンイオンでスパッタクリーニングした。そして、上記試料No.1-1〜1-8と同様に基材19表面に中間層として、厚さ0.3μmのTiN膜を形成した。
【0049】
TiN膜の形成が終了した後、直流電源16cからアーク式蒸発源15cに-40V、95Aの電流を供給して、蒸発源15cからチタンイオン、アルミニウムイオンを発生させると共に、ガス導入口18から窒素ガスを導入する。チタンイオン、アルミニウムイオン、窒素ガスが基材19上で反応して、基材19表面の中間層(TiN膜)上に膜厚3μmの(Ti0.5、Al0.5)N膜を形成して、試料No.1-9を得た。(Ti0.5、Al0.5)Nとは、TiとAlとNの原子数比が0.5:0.5:1の化合物をいう。
【0050】
(iii)従来品(試料No.1-10)
試料No.1-10は、上記試料No.1-9と同様にして作製した。具体的には、上記試料No.1-1〜1-8と同じ基材を準備し、この基材を図3に示す成膜装置11の治具20にセットし、ガス導入口18をチャンバー12の上部に配置する。アーク式蒸発源15aの蒸発原料をチタン、蒸発源15aに対向する壁面に配置するアーク式蒸発源15cの蒸発原料をチタンシリコンの化合物(Ti0.8、Si0.2)とした。(Ti0.8、Si0.2)とは、TiとSiの原子数比が0.8:0.2の化合物をいう。そして、上記試料No.1-1〜1-8の作製の際と同様の構成の成膜装置11を用いて、試料No.1-9と同様に基材19表面に、アルゴンでスパッタクリーニングした後、チタンイオンでスパッタクリーニングし、更に中間層として、厚さ0.3μmのTiN膜を形成した。
【0051】
TiN膜の形成が終了した後、直流電源16cからアーク式蒸発源15cに-40V、95Aの電流を供給して、蒸発源15cからチタンイオン、シリコンイオンを発生させると共に、ガス導入口18から窒素ガスを導入する。チタンイオン、シリコンイオン、窒素ガスが基材19上で反応して、基材19表面の中間層(TiN膜)上に膜厚3μmの(Ti0.8、Si0.2)N膜を形成して、試料No.1-10を得た。(Ti0.8、Si0.2)Nとは、TiとSiとNの原子数比が0.8:0.2:1の化合物をいう。
【0052】
(iv)従来品(試料No.1-11)
試料No.1-11は、上記試料No.1-9と同様にして作製した。具体的には、上記試料No.1-1〜1-8と同じ基材を準備し、この基材を図3に示す成膜装置11の治具20にセットし、ガス導入口18をチャンバー12の上部に配置する。アーク式蒸発源15aの蒸発材料をチタンとして、上記試料No.1-1〜1-8の作製の際と同様の構成の成膜装置11を用いて、試料No.1-9と同様に基材19表面に、アルゴンでスパッタクリーニングした後、チタンイオンでスパッタクリーニングし、更に中間層として、厚さ0.3μmのTiN膜を形成した。
【0053】
TiN膜の形成が終了した後、直流電源16aからアーク式蒸発源5aに-40V、95Aの電流を供給して、蒸発源15aからチタンイオンを発生させると共に、ガス導入口18からメタンガス(CH4)と窒素ガスとを導入する。チタンイオン、メタンガス、窒素ガスが基材19上で反応して、基材19表面の中間層(TiN膜)上に膜厚3μmのTi(C0.5、N0.5)膜を形成して、試料No.1-11を得る。Ti(C0.5、N0.5)とは、TiとCとNの原子数比が1:0.5:0.5の化合物をいう。
【0054】
(2)工具寿命の評価
上記により得られた試料No.1-1〜1-11のそれぞれについて、表2に示す条件で乾式の連続切削試験及び断続切削試験を行い、刃先の逃げ面摩耗幅を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1において、試料No.1-1〜1-8に示す化合物の粒子の粒径は、透過電子顕微鏡で観察し、平均粒径を求めた。また、試料No.1-1〜1-11の組成は、透過電子顕微鏡に併設の微小領域EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)分析にて行った。組成の確認は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)や、SIMS(secondary ion mass spectrometry)によってもできる。第二の膜、及び第一の膜、第二の膜、中間層からなる膜全体の組織(結晶性)は、X線回折測定にて行った。第一の膜の組織(結晶性)は、透過電子回折測定にて行った。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表1に示すように、試料No.1-1〜1-8は、試料No.1-9〜1-11と比較して、逃げ面摩耗量が少なく、工具寿命を大きく向上したことが確認された。特に、乾式切削であっても逃げ面摩耗量が少なく、試料No.1-1〜1-8は、優れた耐摩耗性を有するものであることが分かる。また、試料No.1-1〜1-8は、断続切削においても、優れた耐摩耗性を有するものであることが分かる。更に、試料No.1-1〜1-8の組成を調べると、第一の膜において、Ti系化合物の粒子がSi系化合物の非晶質構造内に分散していた。
【0058】
(実施例2)
実施例1と同様の製造方法により、リーマ(JISK10超硬合金)の基材上にそれぞれにコーティングを行い、試料No.2-1〜2-6を得た。試料No.2-1は、上記試料No.1-1と同様の中間層、被覆膜を具える。試料No.2-2は、基材表面にTiSiN膜を1μmコーティングし、この膜の上に上記試料No.1-1と同様の被覆膜を具える。試料No.2-3は、基材表面にTiAlN膜を1μmコーティングし、この膜の上に上記試料No.1-1と同様の被覆膜を具える。試料No.2-4〜2-6は、それぞれ基材上に上記試料No.1-9〜1-11と同様の中間層、被覆膜を具える。
【0059】
これら試料No.2-1〜2-6のそれぞれについて、ねずみ鋳鉄(FC250)の穴開け加工を行い、その寿命評価を行った。切削条件は、リーマ径18mm、切削速度6m/min、送り0.4mm/刃、切り込み0.15mm、ウエット(湿式)条件とした。寿命評価は、被加工材(鋳鉄)に開けた穴の寸法精度が規定の範囲を外れた時点を寿命とし、寿命となるまでの穴の個数を評価した。結果を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
表3に示すように、試料No.2-1〜2-3は、試料No.2-4〜2-6と比較して、寿命を大きく向上していることが確認された。このように寿命を向上することができたのは、耐摩耗性に優れているためであると考えられる。
【0062】
(実施例3)
実施例1と同様の製造方法により、エンドミル(JISK10超硬合金)の基材上にそれぞれにコーティングを行い、試料No.3-1〜3-6を得た。試料No.3-1は、上記試料No.1-1と同様の中間層、被覆膜を具える。試料No.3-2は、基材表面にTiSiN膜を1μmコーティングし、この膜の上に上記試料No.1-1と同様の被覆膜を具える。試料No.3-3は、基材表面にTiAlN膜を1μmコーティングし、この膜の上に上記試料No.1-1と同様の被覆膜を具える。試料No.3-4〜3-6は、それぞれ基材上に上記試料No.1-9〜1-11と同様の中間層、被覆膜を具える。
【0063】
これら試料No.3-1〜3-6のそれぞれについて、球状黒鉛鋳鉄(FCD450)のエンドミル側面削り(切削幅15mm)加工を行い、その寿命評価を行った。切削条件は、切削速度80m/min、送り0.03mm/刃、切り込み2mm、ウエット(湿式)条件とした。寿命評価は、被加工材(鋳鉄)に行った側面削りの寸法精度が規定の範囲を外れた時点を寿命とし、寿命となるまでの切削長さを評価した。その結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、試料No.3-1〜3-3は、試料No.3-4〜3-6と比較して、寿命を大きく向上していることが確認された。このように寿命を向上することができたのは、耐摩耗性に優れているためであると考えられる。
【0066】
(実施例4)
実施例1と同様の製造方法により、旋削用刃先交換型チップ(JISP10超硬合金、刃先形状はスクイ角8°、逃げ角6°)の基材上にそれぞれにコーティングを行い、試料No.4-1〜4-6を得た。試料No.4-1は、上記試料No.1-1と同様の中間層、被覆膜を具える。試料No.4-2は、基材表面にTiSiN膜を1μmコーティングし、この膜の上に上記試料No.1-1と同様の被覆膜を具える。試料No.4-3は、基材表面にTiAlN膜を1μmコーティングし、この膜の上に上記試料No.1-1と同様の被覆膜を具える。試料No.4-4〜4-6は、それぞれ基材上に上記試料No.1-9〜1-11と同様の中間層、被覆膜を具える。
【0067】
これら試料No.4-1〜4-6のそれぞれについて、クロムモリブデン鋼(SCM435)の中仕上げ旋削加工を行い、その寿命評価を行った。切削条件は、切削速度120m/min、送り0.08mm/刃、ドライ(乾式)条件とした。寿命評価は、被加工材(鋼)の中仕上げの寸法精度が規定の範囲を外れた時点を寿命とし、寿命となるまでの時間を評価とした。その結果を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】
表5に示すように、試料No.4-1〜4-3は、試料No.4-4〜4-6と比較して、寿命を大きく向上していることが確認された。また、試料No.4-1〜4-3は、ドライ条件においても、耐摩耗性に優れることが分かる。
【0070】
(実施例5)
基材にcBN焼結体を用いた切削用チップを作製し、摩耗量を調べてみた。cBN焼結体は、超硬合金製ポット及びボールを用いて、TiN:40重量%、Al:10重量%からなる結合材粉末と平均粒径2.5μmのcBN粉末:50重量%とを混ぜ合わせ、超硬合金製容器に充填し、圧力5GPa、温度1400℃で60分焼結することで得た。このcBN焼結体を加工して、ISO規格SNGA120408の形状の切削用チップを得た。このチップの基材上に、実施例1と同様にして上記試料No.1-1と同様の中間層、被覆膜を形成した(試料No.5-1)。また、比較例として、このチップの基材上に、実施例1と同様にして上記試料No.1-9と同様の中間層、被覆膜を形成した試料No.5-2を用意した。
【0071】
これら試料No.5-1及び5-2のそれぞれについて、焼入鋼の1種であるSUJ2の丸棒(HRC62)の外周切削を行い、逃げ面摩耗量を調べた。切削条件は、切削速度100m/min、切り込み0.2mm、送り0.1mm/rev.、ドライ(乾式)条件とし、30分間の切削を行った。その結果、試料No.5-1の逃げ面摩耗量は、0.085mmであったのに対し、試料No.5-2の逃げ面摩耗量は0.255mmであった。このように試料No.5-1は、ドライ条件においても逃げ面摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れることが分かる。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように本発明被覆切削工具によれば、高硬度で耐摩耗性に優れるという効果を奏し得る。そのため、本発明工具は、特に、切削油剤を用いないドライ加工であっても、工具寿命を向上することができる。従って、本発明は、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなど工具において耐摩耗性の向上が図れ、工具寿命を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明工具において、被覆膜の構成を示す模式図であって、(A)は、第一の膜及び第二の膜の2層構造、(B)は、第一の膜及び第二の膜の複数層積層構造、(C)は、一部が第一の膜又は第二の膜の構成成分からなる単一層、他部が第一の膜及び第二の膜からなる複数層積層構造の構成、(D)は、一部が中間層などからなる単一層、他部が第一の膜及び第二の膜からなる複数層積層構造の構成、(E)は、第一の膜及び第二の膜からなる複数層積層構造が単一層に挟まれた構成である。
【図2】膜の結晶構造を示す模式図であり、(A)は、本発明工具、(B)は、従来の工具を示す。
【図3】成膜装置の一例を示す図であり、(A)は、成膜装置の模式図、(B)は、(A)のB-B断面図である。
【符号の説明】
1 第一の膜 2 第二の膜 3 複数層積層構造 4、4' 単一層
5 結晶粒 6 Si系化合物 7 柱状組織
11 成膜装置 12 チャンバー 13 主テーブル 14 支持棒
15a、15b、15c アーク式蒸発源 16a、16c、17 直流電源
18 ガス導入口 18' ガス排気口 19 基材 20 治具
Claims (14)
- 基材上に複数層の被覆膜を具える被覆切削工具であって、
前記被覆膜は、
TiSiの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物及び炭酸窒化物から選択された1種の化合物からなる第一の膜と、
Zr、Hf及びZrHfから選択された1種の金属Mの窒化物、炭化物、炭窒化物、酸窒化物及び炭酸窒化物から選択された1種の化合物からなる第二の膜とをそれぞれ1層以上具え、
前記第一の膜と第二の膜とは、交互に積層されており、
前記第一の膜において、Ti系化合物は立方晶構造、Si系化合物は非晶質構造であり、第二の膜において、金属Mの化合物は立方晶構造であり、被覆膜全体のX線回折測定では、立方晶構造であることを特徴とする被覆切削工具。 - 第一の膜の厚み及び第二の膜の厚みは、それぞれ0.5nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- 第一の膜の厚み及び第二の膜の厚みは、それぞれ0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
- 第一の膜においてSiは、原子量%で1%超30%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 第一の膜においてSiは、原子量%で15%超25%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 第一の膜において、Ti系化合物は、平均粒径0.1nm以上10nm以下の結晶質であり、かつSi系化合物の非晶質構造内に分散していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 被覆膜の総厚みが0.5μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 基材表面と被覆膜との間に中間層を具え、前記中間層は、Ti、Tiの窒化物、Zr及びZrの窒化物から選択された1種からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 中間層の厚みが0.05μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項8に記載の被覆切削工具。
- 基材がWC基超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化ケイ素焼結体及び酸化アルミニウムと炭化チタンとを含む焼結体から選択された1種であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 被覆切削工具は、ドリル、エンドミル、フライス加工用刃先交換型チップ、旋削用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ及びタップから選択された1種であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 被覆膜は、TiSi合金及び金属Mをそれぞれ蒸発原料として、窒素、炭素及び酸素のうち一種以上を含むガス中で物理的蒸着法により形成されたことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の被覆切削工具。
- 物理的蒸着法に用いられるTiSi合金の蒸発原料は、熱間静水圧加圧処理により製造され、相対密度が99〜100%であり、原料表面から対向する面に及んで連続する欠陥がないことを特徴とする請求項12に記載の被覆切削工具。
- 物理的蒸着法がアーク式イオンプレーティング法であることを特徴とする請求項12又は13に記載の被覆切削工具。
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