JP3631166B2 - 非水電解質二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はリチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含有する正極と、リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を含有する負極と、これらの正極と負極を隔離するセパレータと、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、小型ビデオカメラ、携帯電話、ノートパソコン等の携帯用電子・通信機器等に用いられる電池として、リチウムイオンを挿入・脱離できる合金もしくは炭素材料などを負極活物質とし、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等のリチウム含有複合酸化物を正極材料とするリチウムイオン電池で代表される非水電解質二次電池が、小型軽量でかつ高容量で充放電可能な電池として実用化されるようになった。
【0003】
上述した非水電解質二次電池の正極材料に用いられるリチウム含有複合酸化物のうち、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)にあっては、高容量であるという特徴を有する反面、安全性が低くかつ放電作動電圧が低いという欠点を有することからコバルト酸リチウム(LiCoO2)に劣るといった問題が存在した。また、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)にあっては、資源が豊富で安価で安全性に優れるという特徴を有する反面、低エネルギー密度で高温でマンガン自体が溶解するという欠点を有することからコバルト酸リチウム(LiCoO2)に劣るといった問題が存在した。このため、現在においては、リチウム含有複合酸化物としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いることが主流となっている。
【0004】
ところで、最近において、オリビン型LiMPO4(M=Fe,Co等)や5V級LiNi0.5Mn1.5O4等の新規な正極活物質材料が研究されるようになり、次世代の非水電解質二次電池用の正極活物質として注目されるようになった。ところが、これらの正極活物質は放電作動電圧が4〜5Vと高いため、現在の非水電解質二次電池に使用されている有機電解液の耐電位(分解電位)を超えることとなる。このため、充放電に伴うサイクル劣化が大きくなるので、有機電解液などの他の電池構成材料を最適化する必要が生じて、実用化するまでには多大な時間を要するという問題が生じた。
【0005】
一方、これらに対して、3V級の層状構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物が提案されているが、この層状構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物は放電容量が大きい反面、放電作動電圧が4V領域と3V領域で2段化する傾向があり、かつサイクル劣化も大きいという問題がある。また、主として3V領域での放電となることから、現在において実用化されている4V領域を使用するコバルト酸リチウムを正極活物質として用いる非水電解質二次電池の用途に直接置き換えることは困難であるという問題を生じた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような背景にあって、層状構造を有するLi−Ni−Mn系複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)が提案されるようになった。この層状構造を有するLi−Ni−Mn系複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)は4V領域にプラトーを有するとともに、単位質量当たりの放電容量も140〜150mAh/gと比較的高くて、新規な正極活物質材料としては優れた特性を有していることから、新規な非水電解質二次電池用の正極活物質材料の1つとして有望視されるようになった。
しかしながら、このような正極活物質材料(LiNi0.5Mn0.5O2)にあっては、初期充放電効率が80〜90%と低く、かつニッケル酸リチウムのように放電作動電圧がやや低くて、コバルト酸リチウムに比べてサイクル特性が悪いなどの点で、ニッケル主体のリチウム含有複合酸化物の特性を多大に受け継いでいて、より多くの特性改善が必要になるという問題が生じた。
【0007】
一方、3V級の層状構造を有するリチウム−マンガン複合酸化物(LiMnO2)でLiMnO2の一部をAl,Fe,Co,Ni,Mg,Cr等で置換して、LiXMnYM1−YO2(ただし、0<X≦1.1,0.5≦Y≦1.0)とすることで、高温特性を改善したリチウム二次電池が特開2001−23617号公報にて提案されるようになった。この特開2001−23617号公報にて提案されたリチウム二次電池にあっては、正極活物質材料として用いるLiXMnYM1−YO2の放電電圧が低いために、4V領域を使用するコバルト酸リチウムを正極活物質として用いるリチウム二次電池の用途に直接置き換えることは困難であるという問題を生じた。
【0008】
また、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)もしくはニッケル酸リチウム(LiNiO2)を添加することで、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)の安全性に優れるという特徴を生かし、かつ低エネルギー密度を改善しようという試みも特開平9−293538号公報にて提案されている。しかしながら、特開平9−293538号公報において提案された方法であっても、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)の安全性を生かせる混合領域ではエネルギー密度が低く、かつそれぞれの活物質が持つ短所が十分には改善できないという問題を生じた。
【0009】
そこで、本発明は上述した問題を解決するためになされたものであって、コバルト酸リチウムとほぼ同等の4V領域にプラトーな電位を有し、かつエネルギー密度が高く、安全性、サイクル特性、高温保存特性などの電池特性に優れた非水電解質二次電池を提供できるようにすることを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、一般式がLiXMnaCobO2(但し、0.9≦X≦1.1、0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55、0.9<a+b≦1.1である)で表される層状結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物と、コバルト酸リチウムあるいはスピネル型マンガン酸リチウムのいずれか一方が添加混合された正極活物質を含有する正極と、リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を含有する負極と、これらの正極と負極を隔離するセパレータと、非水電解質とを備えるようにしている。
【0011】
一般式がLiXMnaCobO2で表わされるLi−Mn−Co系複合酸化物(リチウム含有複合酸化物)のa値およびb値が0.45〜0.55の範囲(0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55)にあるときは、層状結晶構造もα−NaFeO2型結晶構造(単斜晶構造)であって、LiCoO2やLi2MnO3のピークは認められず、単一相であることから平坦な放電曲線が得られるようになる。一方、a値およびb値が0.45〜0.55の範囲を超えると、LiCoO2やLi2MnO3のピークが生じて2相以上の結晶構造となって、放電曲線も放電末期から2段化する傾向が生じる。また、a値およびb値が0.45〜0.55の範囲にあるときは放電容量、放電作動電圧、初期充放電効率が向上する実験結果が得られた。
【0012】
このため、一般式がLiXMnaCobO2で表わされるリチウム含有複合酸化物のa値およびb値がそれぞれ0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55となるように合成する必要がある。この場合、このような層状結晶構造を有する化合物はスピネル型マンガン酸リチウムのようにリチウムイオンが挿入脱離できるサイトは数多く存在しない。このため、リチウムイオンは層間に挿入脱離するため、LiXMnaCobO2で表わされる正極活物質のxの値は多くても1.1程度が限度である。また、正極活物質の合成段階での状態では電池作製時のリチウム源が正極活物質のみであることから考えるとxの値は少なくとも0.9以上は必要である。このことから、xの値は0.9≦x≦1.1となるように合成するのが望ましいということができる。
【0013】
そして、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiXMnaCobO2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した混合正極活物質を用いた非水電解質二次電池においては、コバルト酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が増大し、初期の充放電効率も大きく、かつ放電作動電圧もコバルト酸リチウムを単独で用いたものと同等であって、充分にコバルト酸リチウムに代替できることが分かった。また、Li−Mn−Co系複合酸化物にスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を添加した混合正極活物質を用いた非水電解質二次電池においては、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が低下するが、初期の充放電効率も大きく、かつ放電作動電圧もコバルト酸リチウムを単独で用いたものと同等であって、充分にコバルト酸リチウムに代替できることが分かった。
【0014】
また、Li−Mn−Co系複合酸化物にコバルト酸リチウムを添加した混合正極活物質は、Li−Mn−Co系複合酸化物よりも高い放電容量が得られ、また、Li−Mn−Co系複合酸化物にスピネル型マンガン酸リチウムを添加した混合正極活物質は、スピネル型マンガン酸リチウムよりも高い放電容量が得られるので、好ましいということができる。そして、Li−Mn−Co系複合酸化物にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した非水電解質二次電池は、Li−Mn−Co系複合酸化物を単独で用いた非水電解質二次電池よりも高温保存時の容量維持率および容量回復率が大幅に改善されることが分かった。特に、高温保存時に問題となる電解液の分解に起因するガス発生はコバルト酸リチウムの添加量が増加するに伴って大幅に減少し、コバルト酸リチウムの添加量が40wt%以上になると、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を単独で用いた非水電解質二次電池と同程度のガス発生量に抑制されることが分かった。
【0015】
これは、コバルト酸リチウムを混合することによりLi−Mn−Co系複合酸化物の酸化が抑制されることに加えて、その詳細の理由は現在のところ不明であるが、何らかの相乗効果が発揮されていると考えられる。そして、コバルト酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が増大し、かつコバルト酸リチウムの添加量が40wt%以上になるとガスの発生が大幅に減少することが明らかになった。このことから、コバルト酸リチウムの添加量は40wt%以上にするのが好ましいということができる。
【0016】
一方、Li−Mn−Co系複合酸化物にスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を添加した非水電解質二次電池においては、Li−Mn−Co系複合酸化物を単独で用いた非水電解質二次電池よりも高温保存時の容量維持率は大幅に改善されるが、充電終止での保存後の容量維持率および容量回復率は大きく低下していることが分かった。特に、高温保存時に問題となる電解液の分解に起因するガス発生はスピネル型マンガン酸リチウムの添加量が増加するに伴って大幅に増加し、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量が40wt%以上になると、スピネル型マンガン酸リチウムを単独で用いた非水電解質二次電池と同程度のガス発生量になることが分かった。
【0017】
これは、スピネル型マンガン酸リチウムを混合することによりLi−Mn−Co系複合酸化物の酸化性が増加することに加えて、その詳細の理由は現在のところ不明であるが、マンガン溶解による負極へのダメージが併せてでているものと考えられる。そして、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が減少し、かつスピネル型マンガン酸リチウムの添加量が40wt%より少なくなるとガスの発生が低下することから、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量は40wt%より少なくするのが好ましいということができる。
【0018】
以上の結果から、Li−Mn−Co系複合酸化物(リチウム含有複合酸化物)の質量をAとし、コバルト酸リチウムの質量をBとした場合に、0.4≦B/(A+B)<1.0の範囲になるようにリチウム含有複合酸化物とコバルト酸リチウムを添加混合するのが望ましく、また、Li−Mn−Co系複合酸化物(リチウム含有複合酸化物)の質量をAとし、スピネル型マンガン酸リチウムの質量をCとした場合に、0<C/(A+C)<0.4の範囲になるようにリチウム含有複合酸化物とスピネル型マンガン酸リチウムを添加混合するのが望ましいということができる。
【0019】
そして、Li−Mn−Co系複合酸化物に異種元素(M=Al,Mg,Sn,Ti,Zr)を添加し、この複合酸化物の一部を異種元素(M=Al,Mg,Sn,Ti,Zr)で置換して、LiXMnaCobMcO2(M=Al,Mg,Sn,Ti,Zr)とすることにより、高温保存後の容量維持率が向上することが分かった。これは、Li−Mn−Co系複合酸化物の一部をAl,Mg,Sn,Ti,Zrなどの異種元素(M)で置換することにより、層状構造の結晶性を安定化させたためと考えられる。
【0020】
この場合、Al,Mg,Sn,Ti,Zr等の異種元素の組成比(置換量)が0.05(c=0.05)を越えるようになると結晶構造が2相以上になる傾向を示し、異種元素の置換量が多くなりすぎると結晶形態を維持することが困難になって、高温保存時の容量維持率および初期充放電効率が低下するようになる。このことから、Al,Mg,Sn,Ti,Zr等の異種元素の組成比(置換量)は0.05以下(0<c≦0.05)にする必要がある。なお、異種元素としてNi,Ca,Fe等の他の元素についても検討したが、これらの他の元素においては高温保存時の容量維持率を向上させる効果は認められなかった。
【0021】
これらのことから、一般式LiXMnaCobMcO2で表わされる置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(置換型リチウム含有複合酸化物)は、0.90≦x≦1.10、0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55、0<c≦0.05となるように合成し、かつ異種元素(M)としてはAl,Mg,Sn,Ti,Zrのいずれかから選択する必要があるということができる。
【0022】
さらに、一般式がLixMnaCobMcO2で表される置換型Li−Mn−Co系複合酸化物のa+b+c値が0.90〜1.10の範囲内にあれば層状結晶構造を維持することが可能であることが分かった。一方、a+b+c値が0.90〜1.10の範囲を超えるようになると、X線回折ピークにおいてLiCoO2やLi2MnO3のピークが現れ、2相以上の結晶構造の混合物になることが分かった。このことから、一般式がLixMnaCobMcO2で表される置換型Li−Mn−Co系複合酸化物のa+b+c値が0.90<a+b+c≦1.10となるように調製する必要がある。なお、a,bの組成比については、0.9<a/b<1.1の範囲になるような組成比にすると放電容量が向上するため、0.9<a/b<1.1の範囲に収まるような組成比になるように合成するのが望ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
ついで、本発明の実施の形態を以下に説明するが、本発明はこの実施の形態に何ら限定されるものでなく、本発明の目的を変更しない範囲で適宜実施が可能である。
1.正極活物質の作製
水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトをそれぞれ苛性ソーダに溶解させた後、これらを水酸化物換算のモル比で2:1:1となるように調製して混合した。ついで、500℃程度の低温で仮焼成した後、大気中で800〜1000℃の温度で焼成して、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)を作製し、正極活物質αとした。
【0024】
2.混合正極の作製
(1)実施例1
上述のようにして作製した正極活物質αと、LiCoO2で表されるコバルト酸リチウムとを、質量比で80:20となるように混合して混合正極活物質とし、この混合正極活物質に炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して混合正極合剤粉末とした。
【0025】
ついで、この混合正極合剤粉末を混合装置(例えば、ホソカワミクロン製メカノフュージョン装置(AM−15F))内に充填した。これを、毎分1500回の回転数(1500rpm)で10分間作動させて、圧縮・衝撃・剪断作用を起こさせて混合した後、この混合正極合剤粉末とフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して混合正極を作製した。このようにして作製した混合正極を実施例1の正極a1とした。
【0026】
(2)実施例2〜4
上述のようにして作製した正極活物質αとコバルト酸リチウムとを質量比で60:40となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例1と同様にして混合正極を作製し、実施例2の正極a2とした。同様に、正極活物質αとコバルト酸リチウムとを質量比で40:60となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例1と同様にして混合正極を作製し、実施例3の正極a3とした。同様に、正極活物質αとコバルト酸リチウムとを質量比で20:80となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例1と同様にして混合正極を作製し、実施例4の正極a4とした。
【0027】
(3)実施例5〜8
上述のようにして作製した正極活物質αと、LiMn2O4で表されるスピネル型マンガン酸リチウムとを、質量比で80:20となるように混合して混合正極活物質とし、この混合正極活物質に炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して混合正極合剤粉末とした。ついで、上述した実施例1と同様にして混合正極を作製し、実施例5の正極b1とした。
【0028】
同様に、正極活物質αとスピネル型マンガン酸リチウムとを質量比で60:40となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例5と同様にして混合正極を作製し、実施例6の正極b2とした。同様に、正極活物質αとスピネル型マンガン酸リチウムとを質量比で40:60となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例5と同様にして混合正極を作製し、実施例7の正極b3とした。同様に、正極活物質αとスピネル型マンガン酸リチウムとを質量比で20:80となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例5と同様にして混合正極を作製し、実施例8の正極b4とした。
【0029】
(4)比較例1
上述のようにして作製した正極活物質αと炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して正極合剤粉末とした。ついで、この正極合剤粉末を上述と同様に混合した後、この正極合剤粉末にフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して正極を作製した。このようにして作製した正極を比較例1の正極x1とした。
【0030】
(5)比較例2
LiCoO2で表されるコバルト酸リチウムと炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して正極合剤粉末とした。ついで、この正極合剤粉末を上述と同様に混合した後、この正極合剤粉末にフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して正極を作製した。このようにして作製した正極を比較例2の正極x2とした。
【0031】
(6)比較例3
LiMn2O4で表されるスピネル型マンガン酸リチウムと炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して混合正極合剤粉末とした。ついで、この正極合剤粉末を上述と同様に混合した後、この正極合剤粉末にフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して正極を作製した。このようにして作製した正極を比較例3の正極x3とした。
【0032】
3.非水電解質二次電池の作製
リチウムイオンを挿入・脱離し得る負極活物質とスチレン系結着剤とを一定の割合(例えば、質量比で98:2)で混合しこれに水を添加、混合して負極合剤とした後、この負極合剤を銅箔からなる負極集電体の両面に塗着し、圧延して負極を作製した。なお、負極活物質としては、リチウムイオンを挿入・脱離し得るカーボン系材料、例えば、グラファイト、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、またはこれらの焼成体等が好適である。また、酸化錫、酸化チタン等のリチウムイオンを挿入・脱離し得る酸化物を用いてもよい。
【0033】
ついで、上述のようにして作製した各正極a1〜a4、b1〜b4およびx1〜x3にそれぞれリードを取り付けるとともに、上述のようにして作製した負極にリードを取り付け、これらの各正極および負極をポリプロピレン製のセパレータを介して渦巻状に巻回して各渦巻状電極体とした。これらの各渦巻状電極体をそれぞれの電池外装缶に挿入した後、各リードを正極端子あるいは負極端子に接続した。この外装缶内にエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを3:7の容積比で混合した混合溶媒にLiPF6を溶解させた電解液をそれぞれ注入した後、封口して容量が500mAhの非水電解質二次電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3をそれぞれ作製した。なお、電池の形状は薄型であっても、角形であっても、円筒型であってもどのような形状でも良いし、そのサイズについても特に制限はない。
【0034】
ここで、正極a1〜a4を用いて作製した非水電解質二次電池を電池A1〜A4とし、正極b1〜b4を用いて作製した非水電解質二次電池を電池B1〜B4とし、正極x1〜x3を用いて作製した非水電解質二次電池を電池X1〜X3とした。なお、電解液としては、上述した例に限られるものではなく、Li塩(電解質塩)としては、例えば、LiClO4,LiBF4,LiN(SO2CF3),LiN(SO2C2F5)2,LiPF6−X(CnF2n+1)X(但し、1≦X≦6,n=1,2)等が望ましく、これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。電解質塩の濃度は特に限定されないが、電解液1リットル当たり0.2〜1.5モル(0.2〜1.5mol/l)が望ましい。
【0035】
また、溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等が望ましく、これらの1種あるいは2種以上を混合して用いることができる。これらの内では、カーボネート系の溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネートとを混合して用いるのが好ましい。そして、環状カーボネートとしてはプロピレンカーボネートあるいはエチレンカーボネートが好ましく、非環状カーボネートとしてはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが好ましい。
【0036】
5.測定
(1)放電容量および初期充放電効率の測定
ついで、上述のようにして作製した各正極a1〜a4、b1〜b4およびx1〜x3をそれぞれ用い、これらの対極および参照極としてリチウム金属板をそれぞれ用いて、これらを開放型の電槽にそれぞれ収容し、この電槽内にエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを3:7の容積比で混合した混合溶媒にLiPF6を溶解させた電解液を注入して、開放型の簡易セルを作製した。ついで、このような簡易セルを室温で、対極に対して4.3Vになるまで充電を行い、その後、対極に対して2.85Vになるまで放電させて、放電時間から放電容量を求めた。また、試験後、各正極a1〜a4、b1〜b4およびx1〜x3の活物質1g当たりの放電容量(mAh/g)を算出すると、下記の表1に示すような結果となった。さらに、下記の(1)式に基づいて初期充放電効率を求めると、下記の表1に示すような結果となった。
初期充放電効率(%)=(放電容量/充電容量)×100・・・(1)
【0037】
【表1】
【0038】
上記表1の結果から明らかなように、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)を単独で正極活物質として用いた電池X1の放電容量は約145mAh/gで、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を正極活物質として用いた電池X2の放電容量は約160mAh/gで、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を正極活物質として用いた電池X3の放電容量は約118mAh/gであり、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を正極活物質として用いた電池X2の放電容量が大きく、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を正極活物質として用いた電池X3の放電容量が小さく、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)を単独で正極活物質として用いた電池X1の放電容量はこれらの中間であることが分かる。
【0039】
一方、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した混合正極活物質を用いた電池A1〜A4においては、コバルト酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が増大し、初期の充放電効率も約96%程度であり、かつ放電作動電圧もコバルト酸リチウムを単独で用いたものと同等であって、充分にコバルト酸リチウムに代替できることが分かる。また、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)にスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を添加した混合正極活物質を用いた電池B1〜B4においては、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が低下するが、初期の充放電効率も約96%程度であり、かつ放電作動電圧もコバルト酸リチウムを単独で用いたものと同等であって、充分にコバルト酸リチウムに代替できることが分かる。
そして、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)にコバルト酸リチウムを添加した混合正極活物質は、Li−Mn−Co系複合酸化物よりも高い放電容量が得られ、また、Li−Mn−Co系複合酸化物にスピネル型マンガン酸リチウムを添加した混合正極活物質は、スピネル型マンガン酸リチウムよりも高い放電容量が得られるので、好ましいということができる。
【0040】
(2)容量維持率の測定
上述のようにして作製した各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3を、室温(約25℃)の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下になるまで4.2V定電圧充電した後、10分間休止し、500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させる4.2V−500mA定電流−定電圧充電および500mA定電流放電を1サイクルとするサイクル試験を繰り返して行い、1サイクル後の放電容量および500サイクル後の放電容量を求めて、500サイクル後の容量維持率(容量維持率(%)=(500サイクル後の放電容量/1サイクル後の放電容量)×100%)を求めると下記の表2に示すような結果となった。
【0041】
(3)充電後の高温保存特性
また、上述のようにして作製した各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3を、室温の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、60℃の雰囲気で20日間保存した。保存後の各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3を500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させた時の放電時間から保存後放電容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量維持率(%)を算出すると下記の表2に示すような結果となった。また、これを再度、充放電させてその放電時間から回復放電容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量回復率(%)を算出すると下記の表2に示すような結果となった。さらに、保存後の各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3の厚みの増加率(保存前の各電池の厚みに対する保存後の厚みの増加率)から電池膨れ率(最大値)を算出すると下記の表2に示すような結果となった。
【0042】
(3)放電後の高温保存特性
また、上述のようにして作製した各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3を、室温の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電し、電池電圧が2.75Vになるまで放電させた後、60℃の雰囲気で20日間保存した。保存後の各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3を再度、充放電させてその放電時間から回復容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量回復率(%)を算出すると下記の表2に示すような結果となった。また、保存後の各電池A1〜A4、B1〜B4およびX1〜X3の厚みの増加率(保存前の各電池の厚みに対する保存後の厚みの増加率)から電池膨れ率(最大値)を算出すると下記の表2に示すような結果となった。
【0043】
【表2】
【0044】
上記表2の結果から明らかなように、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した電池A1〜A4は、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)を単独で用いた電池X1よりも容量維持率および容量回復率が大幅に改善されていることが分かる。特に、高温保存時に問題となる電解液の分解に起因するガス発生、即ち、電池膨れ率はコバルト酸リチウムの添加量が増加するに伴って大幅に減少し、コバルト酸リチウムの添加量が40wt%以上になると、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を単独で用いた電池X2と同程度のガス発生量に抑制されることが分かった。
【0045】
これは、コバルト酸リチウムを混合することにより混合正極による電解液の酸化が抑制されることに加えて、何らかの相乗効果が発揮されていると考えられるが、その詳細の理由は現在のところ不明である。そこで、これらの結果に基づいて、コバルト酸リチウムの添加量を横軸とし、放電容量(mAh/g)および電池膨れ率(%)を縦軸としてグラフに表すと図1に示すような結果となった。図1の結果から明らかなように、コバルト酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が増大し、かつコバルト酸リチウムの添加量が40wt%以上になると大幅に減少することから、コバルト酸リチウムの添加量は40wt%以上にするのが好ましいということができる。
【0046】
一方、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)にスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を添加した電池B1〜B4においては、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)を単独で用いた電池X1よりも500サイクル後の容量維持率は大幅に改善され、かつ2.75V放電終止での60℃、20日間保存時の容量回復率も改善されるが、4.2V充電終止での60℃、20日間保存時の容量維持率および容量回復率は大きく低下していることが分かる。特に、高温保存時に問題となる電解液の分解に起因するガス発生、即ち、電池膨れ率はスピネル型マンガン酸リチウムの添加量が増加するに伴って大幅に増加し、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量が40wt%以上になると、スピネル型マンガン酸リチウムを単独で用いた電池X3と同程度の電池膨れ率(ガス発生量)になることが分かった。
【0047】
これは、スピネル型マンガン酸リチウムを混合することにより混合正極による電解液の酸化性が増加することに加えて、マンガン溶解による負極へのダメージが併せてでているものと考えられるが、その詳細の理由は現在のところ不明である。そこで、これらの結果に基づいて、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量を横軸とし、放電容量(mAh/g)および電池膨れ率(%)を縦軸としてグラフに表すと図2に示すような結果となった。図2の結果から明らかなように、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量が増大するに伴って放電容量が減少し、かつスピネル型マンガン酸リチウムの添加量が40wt%より少なくなると電池膨れ率(ガス発生量)が低下することから、スピネル型マンガン酸リチウムの添加量は40wt%より少なくするのが好ましいということができる。
【0048】
以上の結果を総合すると、Li−Mn−Co系複合酸化物(リチウム含有複合酸化物)の質量をAとし、コバルト酸リチウムの質量をBとした場合に、0.4≦B/(A+B)<1.0の範囲になるようにリチウム含有複合酸化物とコバルト酸リチウムを添加混合するのが望ましく、また、Li−Mn−Co系複合酸化物(リチウム含有複合酸化物)の質量をAとし、スピネル型マンガン酸リチウムの質量をCとした場合に、0<C/(A+C)<0.4の範囲になるようにリチウム含有複合酸化物とスピネル型マンガン酸リチウムを添加混合するのが望ましいということができる。
【0049】
6.安全性の検討
ついで、上述のようにして作製した各電池A1〜A4およびX1,X2を用いてこれらの電池の安全性について検討した。まず、これらの各電池A1〜A4およびX1,X2を、室温(約25℃)の雰囲気で1500mA(3It)の充電電流で4.2Vになるまで充電を行い、充電時にこれらの電池に装着された安全弁が動作したか否かの個数を測定した。また、500mA(1It)の充電電流で4.31Vになるまで過充電を行い、これを160℃および170℃の雰囲気中に保存して、保存時にこれらの電池に装着された安全弁が動作したか否かの個数を測定した。これらの結果を下記の表3に示す。なお、安全弁が動作するということは、この電池はすでに異常な状態にあるということである。これに対して、安全弁が動作しないということは上記のような状況下でも、この電池はいまだ安全であるということを表している。したがって、表3の過充電特性、160℃熱特性、170℃熱特性の分母の数値は試験電池の個数を表し、分子は安全弁が動作しなかった(安全な)電池の個数を表している。
【0050】
【表3】
【0051】
上記表3の結果から明らかなように、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)を単独で正極活物質として用いた電池X1は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を単独で正極活物質として用いた電池X2に比べて熱的安定性に優れる傾向があり、コバルト酸リチウムを単独で用いるよりはLi−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.50Co0.50O2)との複合正極として用いた方が電池の安全性が向上することが分かる。
【0052】
7.LiXMnaCobO2で表わされる複合酸化物のa値、b値およびx値の検討ついで、LiXMnaCobO2で表わされるLi−Mn−Co系複合酸化物のa値、b値およびx値について検討した。まず、水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトをそれぞれ苛性ソーダに溶解させた後、これらを水酸化物換算で所定のモル比となるように調製して混合した。ついで、500℃程度の低温で仮焼成した後、大気中で800〜1000℃の温度で焼成して、リチウム含有複合酸化物(LiMnaCobO2)を得た。ここで、水酸化リチウムと酸化マンガンと酸化コバルトとのモル比が水酸化物換算で1:0.40(a=0.40):0.60(b=0.60)となるように調製して、Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.40Co0.60O2)を作製した。これをLi−Mn−Co系複合酸化物φ1(LiMn0.40Co0.60O2)とした。
【0053】
同様に、1:0.45(a=0.45):0.55(b=0.55)となるように調製してLi−Mn−Co系複合酸化物φ2(LiMn0.45Co0.55O2)とし、1:0.475(a=0.475):0.525(b=0.525)となるように調製してLi−Mn−Co系複合酸化物φ3(LiMn0.475Co0.525O2)とし、1:0.50(a=0.50):0.50(b=0.50)となるように調製してLi−Mn−Co系複合酸化物φ4(LiMn0.50Co0.50O2)とした。さらに、1:0.525(a=0.525):0.475(b=0.475)となるように調製してLi−Mn−Co系複合酸化物φ5(LiMn0.525Co0.475O2)とし、1:0.55(a=0.55):0.45(b=0.45)となるように調製してLi−Mn−Co系複合酸化物φ6(LiMn0.55Co0.45O2)とし、1:0.60(a=0.60):0.40(b=0.40)となるように調製してLi−Mn−Co系複合酸化物φ7(LiMn0.60Co0.40O2)とした。
【0054】
なお、Li−Mn−Co系複合酸化物φ1,φ7のX線回折パターンを求めると、LiCoO2やLi2MnO3等のピークが認められ、3相の結晶構造の混合物であることが分かった。一方、Li−Mn−Co系複合酸化物φ2〜φ6のX線回折パターンを求めると、LiCoO2やLi2MnO3のピークは認められず、α−NaFeO2型結晶構造(単相の層状結晶構造)であることが分かった。ついで、上述のようにして作製した各Li−Mn−Co系複合酸化物φ1〜φ7に炭素導電剤とフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して正極w1〜w7をそれぞれ作製した。
【0055】
上述のように作製した各正極w1〜w7をそれぞれ用い、これらの対極および参照極としてリチウム金属板をそれぞれ用いて、これらをそれぞれ開放型の電槽に収容し、この電槽内にエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを3:7の容積比で混合した混合溶媒にLiPF6を溶解させた電解液を注入して、開放型の簡易セルを作製した。ついで、このように作製した簡易セルを室温で、対極に対して4.3Vになるまで充電を行い、その後、対極に対して2.85Vになるまで放電させて、放電時間から放電容量を求めた。
【0056】
また、放電時の放電時間に対する放電電圧を測定して放電カーブを求めるとともに、放電作動電圧を求め、さらに、各正極w1〜w7の活物質1g当たりの放電容量(mAh/g)を算出すると、下記の表4に示すような結果となった。さらに、上記(1)式に基づいて初期充放電効率を求めると、下記の表4に示すような結果となった。
【0057】
【表4】
【0058】
上記表4の結果から以下のことが明らかになった。即ち、一般式LiXMnaCobO2で表わされるLi−Mn−Co系複合酸化物のa値およびb値が0.45〜0.55の範囲にあるときは、放電容量、放電作動電圧、初期充放電効率が大きく、また、層状結晶構造もα−NaFeO2型結晶構造(単斜晶構造)であって、LiCoO2やLi2MnO3のピークは認められず、単一相であることから平坦な放電曲線が得られた。一方、a値およびb値が0.45〜0.55の範囲を超えると、放電容量、放電作動電圧、初期充放電効率が小さくなり、また、LiCoO2やLi2MnO3のピークが生じて3相の結晶構造の化合物であることから、放電曲線も放電末期から2段化する傾向があり、斜方晶へ結晶形態が変化したものと考えられる。このため、放電容量、放電作動電圧、初期充放電効率が小さくなったと考えられる。
【0059】
したがって、a値およびb値はそれぞれ0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55となるように合成する必要がある。この場合、このような層状結晶構造を有する化合物はスピネル型マンガン酸リチウムのようにリチウムイオンが挿入脱離できるサイトは数多く存在せず、層間に挿入脱離することとなる。このため、LiXMnaCobO2で表わされる正極活物質のxの値は多くても1.1程度が限度ある。また、正極活物質の合成段階での状態では電池作製時のリチウム源が正極活物質のみであることから考えるとxの値は少なくとも0.9以上は必要である。このことから、xの値は0.9≦x≦1.1となるように合成するのが望ましいということができる。
【0060】
8.置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMnaCobMcO2)との混合正極の検討
水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトをそれぞれ苛性ソーダに溶解させた後、これらを水酸化物換算のモル比で2:1:1となるように混合して混合溶液とした。ついで、この混合溶液に酸化チタンを水酸化コバルトと水酸化マンガンのモル比に対して0.02モル%となるように添加して混合した後、500℃程度の低温で仮焼成した。この後、大気中で800〜1000℃の温度で焼成して、置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.49Co0.49Ti0.02O2)を作製し、正極活物質βとした。
【0061】
(1)実施例9
上述のようにして作製した正極活物質βとコバルト酸リチウム(LiCoO2)を、質量比で80:20となるように混合して混合正極活物質とし、この混合正極活物質に炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して混合正極合剤粉末とした。ついで、この混合正極合剤粉末を上述と同様に混合した後、この混合正極合剤粉末とフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して混合正極を作製した。このようにして作製した混合正極を実施例9の正極c1とした。
【0062】
(2)実施例10〜12
上述のようにして作製した正極活物質βとコバルト酸リチウムとを質量比で60:40となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例9と同様にして混合正極を作製し、実施例10の正極c2とした。同様に、正極活物質βとコバルト酸リチウムとを質量比で40:60となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例9と同様にして混合正極を作製し、実施例11の正極c3とした。同様に、正極活物質βとコバルト酸リチウムとを質量比で20:80となるように混合して混合正極活物質とした以外は上述した実施例9と同様にして混合正極を作製し、実施例12の正極c4とした。
【0063】
(3)比較例4
上述のようにして作製した正極活物質βと炭素導電剤とフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して正極合剤粉末とした。ついで、この正極合剤粉末を上述と同様に混合した後、この混合正極合剤粉末とフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して正極を作製した。このようにして作製した正極を比較例4の正極x4とした。
【0064】
ついで、上述のようにして作製した各正極c1〜c4およびx4を用いるとともに、上述した負極を用いて上述と同様に非水電解質二次電池C1〜C4およびX4をそれぞれ作製した。この後、これらを、室温(約25℃)の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、10分間休止し、500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させる4.2V−500mA定電流−定電圧充電および500mA定電流放電を1サイクルとするサイクル試験を繰り返して行い、各サイクル後の放電容量を求めて各サイクル後の容量維持率(容量維持率(%)=(各サイクル後の放電容量/1サイクル後の放電容量)×100%)を求めると図3に示すような結果となった。
【0065】
図3の結果から明らかなように、上述した無置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.5Co0.5O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した場合と同様に、置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.49Co0.49Ti0.02O2)に添加するコバルト酸リチウム(LiCoO2)の添加量が増大するに伴って容量維持率が増加することが分かる。また、500サイクル後の容量維持率を求めると下記の表5に示すような結果となった。
【0066】
また、これらの各電池C1〜C4およびX4を、室温の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、60℃の雰囲気で20日間保存した。保存後の各電池を500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させた時の放電時間から保存後放電容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量維持率(%)を算出すると下記の表5に示すような結果となった。また、これを再度、充放電させてその放電時間から回復放電容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量回復率(%)を算出すると下記の表5に示すような結果となった。さらに、保存後の各電池の厚みの増加率(保存前の各電池の厚みに対する保存後の厚みの増加率)から電池膨れ率(最大値)を算出すると下記の表5に示すような結果となった。
【0067】
さらに、これらの各電池C1〜C4およびX4を、室温の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電し、電池電圧が2.75Vになるまで放電させた後、60℃の雰囲気で20日間保存した。保存後の各電池を再度、充放電させてその放電時間から回復容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量回復率(%)を算出すると下記の表5に示すような結果となった。また、保存後の各電池の厚みの増加率(保存前の各電池の厚みに対する保存後の厚みの増加率)から電池膨れ率(最大値)を算出すると下記の表5に示すような結果となった。なお、下記の表5には比較例2の正極活物質をx2を用いた電池X2についても示している。
【0068】
【表5】
【0069】
上記表5において、電池X4と電池C1〜C4とを比較すると明らかなように、置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.49Co0.49Ti0.02O2)を単独で用いるよりは、これにコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加して用いた方が500サイクル後の容量維持率、4.2V充電終止保存後の容量維持率、容量回復率、電池膨れ率、2.75V放電終止保存後の容量回復率、電池膨れ率がともに向上することが分かる。また、上述した無置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.5Co0.5O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した場合(表2参照)と、上記表5の結果とを比較すると、置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.49Co0.49Ti0.02O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加した方が500サイクル後の容量維持率、4.2V充電終止保存後の容量維持率、容量回復率、電池膨れ率、2.75V放電終止保存後の容量回復率、電池膨れ率がともに優れていることが分かる。これは、Li−Mn−Co系の正極活物質の一部をAl,Mg,Sn,Ti,Zrなどの異種元素(M)で置換することにより、層状構造の結晶性を安定化させるためと考えられる。
【0070】
9.異種元素(M)の検討
水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトをそれぞれ苛性ソーダに溶解させた後、水酸化リチウムと酸化マンガンと酸化コバルトとのモル比が水酸化物換算で1:0.49(a=0.49):0.49(b=0.49)となるように混合して混合溶液とした。ついで、この混合溶液に異種元素(M)を含有する酸化物を水酸化コバルトと水酸化マンガンのモル比に対して0.02モル%となるように添加して混合した後、500℃程度の低温で仮焼成した。この後、大気中で800〜1000℃の温度で焼成して、実施例13〜16の正極活物質(LiMn0.49Co0.49M0.02O2)γ,δ,ε,ζを得た。
【0071】
ついで、これらの正極活物質γ,δ,ε,ζとコバルト酸リチウムとを質量比で60:40となるように混合して混合正極活物質とし、この混合正極活物質に炭素導電剤を一定の割合(例えば、質量比で92:5)で添加、混合して混合正極合剤粉末とした。ついで、この混合正極合剤粉末を上述と同様に混合した後、この混合正極合剤粉末とフッ素樹脂系結着剤を一定の割合(例えば、質量比で97:3)で混合して正極合剤とした。ついで、この正極合剤をアルミ箔からなる正極集電体の両面に塗着し、乾燥した後、所定の厚みに圧延して混合正極d,e,f,gを作製した。
なお、異種元素(M)としてアルミニウム(Al)を用いたものを実施例13の正極活物質γ(LiMn0.49Co0.49Al0.02O2)とし、マグネシウム(Mg)を用いたものを実施例14の正極活物質δ(LiMn0.49Co0.49Mg0.02O2)とし、スズ(Sn)を用いたものを実施例15の正極活物質ε(LiMn0.49Co0.49Sn0.02O2)とし、ジルコニウム(Zr)を用いたものを実施例16の正極活物質ζ(LiMn0.49Co0.49Zr0.02O2)とした。
【0072】
ついで、上述のように作製した各正極d,e,f,gを用いるとともに、上述した負極を用いて上述と同様に非水電解質二次電池D,E,F,Gをそれぞれ作製した後、これらを、室温(約25℃)の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、10分間休止し、500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させる4.2V−500mA定電流−定電圧充電および500mA定電流放電を1サイクルとするサイクル試験を繰り返して行い、500サイクル後の放電容量を求めて500サイクル後の容量維持率(容量維持率(%)=(500サイクル後の放電容量/1サイクル後の放電容量)×100%)を求めると下記の表6に示すような結果となった。
【0073】
また、これらの各電池D,E,F,Gを、室温の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、60℃の雰囲気で20日間保存した。保存後の各電池を500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させた時の放電時間から保存後放電容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量維持率(%)を算出すると下記の表6に示すような結果となった。また、これを再度、充放電させてその放電時間から回復放電容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量回復率(%)を算出すると下記の表6に示すような結果となった。さらに、保存後の各電池の厚みの増加率(保存前の各電池の厚みに対する保存後の厚みの増加率)から電池膨れ率(最大値)を算出すると下記の表6に示すような結果となった。
【0074】
さらに、これらの各電池D,E,F,Gを、室温の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電し、電池電圧が2.75Vになるまで放電させた後、60℃の雰囲気で20日間保存した。保存後の各電池を再度、充放電させてその放電時間から回復容量を求め、保存前放電容量に対する比を求めて容量回復率(%)を算出すると下記の表7に示すような結果となった。また、保存後の各電池の厚みの増加率(保存前の各電池の厚みに対する保存後の厚みの増加率)から電池膨れ率(最大値)を算出すると下記の表6に示すような結果となった。なお、下記の表6には電池C2および電池A2の結果についても併せて示している。
【0075】
【表6】
【0076】
上記表6において、電池A2と電池C2,D,E,F,Gとを比較すると明らかなように、無置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.5Co0.5O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加混合して用いるよりは、異種元素M(Al,Mg,Sn,Zr,Ti)で置換した置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.49Co0.49M0.02O2)にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加混合して用いた方が500サイクル後の容量維持率、4.2V充電終止保存後の容量維持率、容量回復率、電池膨れ率、および2.75V放電終止保存後の容量回復率、電池膨れ率がともに向上することが分かる。これは、Li−Mn−Co系複合酸化物の一部をAl,Mg,Sn,Ti,Zrなどの異種元素(M)で置換することにより、層状構造の結晶性を安定化させるためと考えられる。
【0077】
なお、異種元素M(Al,Mg,Sn,Zr,Ti)で置換した置換型Li−Mn−Co系複合酸化物(LiMn0.49Co0.49M0.02O2)にスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を添加混合した場合であっても、コバルト酸リチウム(LiCoO2)を添加混合した場合とほぼ同様な傾向が認められた。
また、異種元素としてNi,Ca,Fe等の他の元素についても検討したが、容量維持率を向上させる効果は認められなかった。これは置換後の結晶形態や結晶サイズに問題があったためと考えられる。したがって、一般式LiXMnaCobMcO2で表わされる正極活物質のx値は0.9≦x≦1.1となるように合成し、また、a値およびb値においては、それぞれ0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55となるように合成し、かつ異種元素(M)としてはAl,Mg,Sn,Ti,Zrのいずれかから選択する必要があるということができる。以下では、異種元素の添加量について検討した。
【0078】
10.異種元素(M)の置換量の検討
ここで、上述した正極活物質βを作製するに際して、LixMnaCobTicO2がx:a:b:c=1:0.495:0.495:0.01(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質β1(LiMn0.495Co0.495Ti0.01O2)とし、x:a:b:c=1:0.490:0.490:0.02(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質β2(LiMn0.490Co0.490Ti0.02O2:上述のβと同一である)とし、x:a:b:c=1:0.485:0.485:0.03(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質β3(LiMn0.490Co0.490Ti0.03O2)とし、x:a:b:c=1:0.475:0.475:0.05(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質β4(LiMn0.475Co0.475Ti0.05O2)とし、x:a:b:c=1:0.450:0.450:0.10(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質β5(LiMn0.450Co0.450Ti0.10O2)とした。
【0079】
同様に、上述した正極活物質γを作製するに際して、LixMnaCobAlcO2がx:a:b:c=1:0.495:0.495:0.01(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質γ1(LiMn0.495Co0.495Al0.01O2)とし、x:a:b:c=1:0.490:0.490:0.02(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質γ2(LiMn0.490Co0.490Al0.02O2:上述のγと同一である)とし、x:a:b:c=1:0.485:0.485:0.03(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質γ3(LiMn0.490Co0.490Al0.03O2)とし、x:a:b:c=1:0.475:0.475:0.05(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質γ4(LiMn0.475Co0.475Al0.05O2)とし、x:a:b:c=1:0.450:0.450:0.10(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質γ5(LiMn0.450Co0.450Al0.10O2)とした。
【0080】
同様に、上述した正極活物質δを作製するに際して、LixMnaCobMgcO2がx:a:b:c=1:0.495:0.495:0.01(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質δ1(LiMn0.495Co0.495Mg0.01O2)とし、x:a:b:c=1:0.490:0.490:0.02(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質δ2(LiMn0.490Co0.490Mg0.02O2:上述のδと同一である)とし、x:a:b:c=1:0.485:0.485:0.03(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質δ3(LiMn0.490Co0.490Mg0.03O2)とし、x:a:b:c=1:0.475:0.475:0.05(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質δ4(LiMn0.475Co0.475Mg0.05O2)とし、x:a:b:c=1:0.450:0.450:0.10(a+b+c=1.00)となるように調製したものを正極活物質δ5(LiMn0.450Co0.450Mg0.10O2)とした。
【0081】
なお、各正極活物質β1〜β4、γ1〜γ4、δ1〜δ4のX線回折パターンを求めると、LiCoO2やLi2MnO3のピークは認められず、α−NaFeO2型結晶構造(単相の層状結晶構造)であることが分かった。また、正極活物質β5,γ5,δ5のX線回折パターンを求めると、LiCoO2やLi2MnO3等のピークが認めら、3相の結晶構造の混合物であることが分かった。
【0082】
ついで、これらの各正極活物質β1〜β5、γ1〜γ5、δ1〜δ5を用いて上述と同様に各正極h1〜h5、i1〜i5、j1〜j5を作製し、上述した負極を用いて上述と同様に非水電解質二次電池H1〜H5、I1〜I5、J1〜J5をそれぞれ作製した。このように作製した各電池H1〜H5、I1〜I5、J1〜J5を、室温(約25℃)の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、10分間休止し、500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させた後、上述した(1)式に基づいて初期充放電効率を求めると、下記の表7に示すような結果となった。
【0083】
また、上述のようにして作製した各電池H1〜H5、I1〜I5、J1〜J5を、室温(約25℃)の雰囲気で500mA(1It)の充電電流で4.2Vまで充電し、4.2V到達後から充電電流が25mA以下となるまで4.2V定電圧充電した後、10分間休止し、500mA(1It)の放電電流で放電終止電圧が2.75Vになるまで放電させる4.2V−500mA定電流−定電圧充電および500mA定電流放電を1サイクルとするサイクル試験を繰り返して行い、500サイクル後の容量維持率(500サイクル後の放電容量/1サイクル後の放電容量×100%)を求めると下記の表7に示すような結果となった。
【0084】
【表7】
【0085】
上記表7の結果から明らかなように、Ti,Al,Mg等の異種元素の置換量が0.10モル%である正極活物質β5,γ5,δ5を用いた電池H5,I5,J5の容量維持率および初期充放電効率が低下していることが分かる。これは、Ti,Al,Mg等の異種元素の置換量が0.05モル%を越えた当たりから結晶構造が2相以上になる傾向を示していることから、Ti,Al,Mg等の異種元素の置換量が多くなりすぎると結晶形態を維持することが困難になるためと考えられる。このことから、Ti,Al,Mg等の異種元素の置換量は0.05モル%(c=0.05)以下にする必要がある。なお、異種元素としてSn、Zrを用いて置換したLi−Mn−Co系複合酸化物を用いてもほぼ同様な傾向が認められた。
【0086】
10.(a+b+c)値と結晶形態の関係について
ついで、一般式がLixMnaCobTicO2で表される置換型Li−Mn−Co系複合酸化物の(a+b+c)値と結晶形態の関係について検討した。
まず、下記の表8に示すような組成(x=1.0,a/b=1,a≧0.45,b≦0.55,0.0<c≦0.05)となるように水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトおよび酸化チタンを配合して、上述と同様に焼成して、正極活物質β6〜β11を得た。
【0087】
また、下記の表8に示すような組成(x=1.0,a≧0.45,b≦0.55,a>b,0.0<c≦0.05)となるように水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトおよび酸化チタンを配合して、上述と同様に焼成して、正極活物質β12〜β17を得た。さらに、下記の表8に示すような組成(x=1.0,a≧0.45,b≦0.55,b>a,0.0<c≦0.05)となるように水酸化リチウム、酸化マンガン、酸化コバルトおよび酸化チタンを配合して、上述と同様に焼成して、正極活物質β18〜β22を得た。
【0088】
【表8】
【0089】
上記表8の結果から明らかなように、一般式がLiXMnaCobMcO2で表される正極活物質の(a+b+c)値が0.90〜1.10の範囲内にあれば層状結晶構造を維持することが可能であることが分かる。一方、(a+b+c)値が0.90〜1.10の範囲外になると、X線回折ピークにおいてLiCoO2やLi2MnO3のピークが現れ、2相以上の結晶構造の混合物になることが分かった。このことから、一般式がLiXMnaCobMcO2で表される正極活物質の(a+b+c)値が0.90<a+b+c≦1.10となるように調製する必要がある。なお、異種元素としてAl,Mg,Sn,Zrを用いて置換したLi−Mn−Co系複合酸化物を用いてもほぼ同様な傾向が認められた。
【0090】
上述したように、本発明においては、一般式がLiXMnaCobO2(但し、0.9≦X≦1.1、0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55、0.9<a+b≦1.1である)で表される層状結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物にコバルト酸リチウムあるいはスピネル型マンガン酸リチウムのいずれか一方が添加混合された正極活物質を含有する正極、もしくは、一般式がLiXMnaCobMcO2(但し、0.9≦X≦1.1、0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55、0<c≦0.05、0.9<a+b+c≦1.1であり、かつMはAl,Mg,Sn,Ti,Zrから選ばれる少なくとも1種である)で表される層状結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物にコバルト酸リチウムあるいはスピネル型マンガン酸リチウムのいずれか一方が添加混合された正極活物質を含有する正極を備えているので、コバルト酸リチウムとほぼ同等の4V領域にプラトーな電位を有し、かつ放電容量が大きく、サイクル特性、高温特性などの電池特性に優れた非水電解質二次電池が得られるようになる。
【0091】
なお、上述した実施の形態においては、リチウム源としては水酸化リチウムを用いる例について説明したが、水酸化リチウムの他に炭酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウムなどのリチウム化合物を用いるようにしてもよい。また、マンガン源としては酸化マンガンを用いる例について説明したが、酸化マンガンの他に水酸化マンガン、硫酸マンガン、炭酸マンガン、オキシ水酸化マンガンなどのマンガン化合物を用いるようにしてもよい。さらに、コバルト源としては酸化コバルトを用いる例について説明したが、酸化コバルトの他に炭酸リチウム、炭酸コバルト、水酸化コバルト、硫酸コバルトなどのコバルト化合物を用いるようにしてもよい。
【0092】
また、上述した実施の形態においては、水酸化リチウムと酸化マンガンと酸化コバルトとを水酸化物の状態で混合し、これに異種元素を添加した後、焼成する例について説明したが、リチウム源とマンガン源とコバルト源と異種元素とを固相状態で焼成するようにしてもよい。
また、Ti,Al,Mg,Sn,Zr等の異種元素を添加するに際して、上述した実施の形態においては、Ti,Al,Mg,Sn,Zr等の酸化物を添加する例について説明したが、Ti,Al,Mg,Sn,Zr等の酸化物である必要はなく、Ti,Al,Mg,Sn,Zr等の硫化物、あるいはTi,Al,Mg,Sn,Zr等の水酸化物を添加するようにしてもよい。
【0093】
さらに、上述した実施の形態においては、有機電解液を用いた非水電解質二次電池に適用する例について説明したが、有機電解液に限らず、高分子固体電解質を用いた非水電解質二次電池にも適用できることは明らかである。この場合、高分子固体電解質としては、ポリカーボネート系固体高分子、ポリアクリロニトリル系固体高分子、およびこれらの二種以上からなる共重合体もしくは架橋した高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)のようなフッ素系固体高分子から選択される高分子とリチウム塩と電解液を組み合わせてゲル状にした固体電解質が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】Li−Mn−Co系複合酸化物(LiXMnaCobO2)に添加するコバルト酸リチウム(LiCoO2)の添加量と放電容量および電池膨れ率の関係を示す図である。
【図2】Li−Mn−Co系複合酸化物(LiXMnaCobO2)に添加するスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)の添加量と放電容量および電池膨れ率の関係を示す図である。
【図3】正極活物質の種類による充放電サイクルと容量維持率との関係を示す図である。
Claims (5)
- リチウムイオンを挿入・脱離可能な正極活物質を含有する正極と、リチウムイオンを挿入・脱離可能な負極活物質を含有する負極と、これらの正極と負極を隔離するセパレータと、非水電解質とを備えた非水電解質二次電池であって、
前記正極は一般式がLiXMnaCobO2(但し、0.9≦X≦1.1、0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55、0.9<a+b≦1.1である)で表される層状結晶構造を有するリチウム含有複合酸化物と、コバルト酸リチウムあるいはスピネル型マンガン酸リチウムのいずれか一方が添加混合されていることを特徴とする非水電解質二次電池。 - 前記リチウム含有複合酸化物の質量をAとし、前記コバルト酸リチウムの質量をBとした場合に、0.4≦B/(A+B)<1.0の範囲になるように前記リチウム含有複合酸化物と前記コバルト酸リチウムが添加混合されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
- 前記リチウム含有複合酸化物の質量をAとし、前記スピネル型マンガン酸リチウムの質量をCとした場合に、0<C/(A+C)<0.4の範囲になるように前記リチウム含有複合酸化物と前記スピネル型マンガン酸リチウムが添加混合されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
- 前記一般式がLiXMnaCobO2で表されるリチウム含有複合酸化物は0.9<a/b<1.1の範囲になるように合成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
- 前記リチウム含有複合酸化物はAl,Mg,Sn,Ti,Zrから選ばれる少なくとも1種の異種元素Mで置換されており、一般式がLi X Mn a Co b M c O 2 (但し、0.9≦X≦1.1、0.45≦a≦0.55、0.45≦b≦0.55、0<c≦0.05、0.9<a+b+c≦1.1である)で表されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
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