JP3680231B2 - 超電導磁気軸受装置の始動運転制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、たとえば余剰電力をフライホイールの回転運動エネルギに変換して貯蔵する電力貯蔵装置などに使用されて超電導軸受と磁気軸受とで回転体を所定の運転位置に非接触支持する超電導磁気軸受装置の始動運転制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
フライホイール式電力貯蔵装置に使用される超電導磁気軸受装置として、フライホイールを有する鉛直状の回転体、回転体を軸方向(アキシアル方向)および径方向(ラジアル方向)に支持して非接触浮上させる超電導軸受、回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、径方向変位検出装置の出力信号に基づいてラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置、ならびに電力貯蔵時に電動機として電力取出し時に発電機として機能する発電兼用電動機を備えているものが知られている。このような超電導磁気軸受装置に用いられる超電導軸受として、回転体の下部に設けられた永久磁石と、この永久磁石に下から対向するようにハウジングなどの固定部分側に設けられた第2種超電導体とを備えたものが知られている。第2種超電導体は、冷却により第2種超電導状態を出現し、かつ第2種超電導状態において、浸入する磁束を拘束してピン止めする性質を有するものである。また、このような超電導磁気軸受装置に用いられるラジアル磁気軸受制御装置として、径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例(P)制御回路、微分(D)制御回路および積分(I)制御回路を備えたものが知られている。
【0003】
上記の超電導磁気軸受装置は、たとえば、機械的な初期位置決め機構を備えており、これを使用して、次のようにして運転が開始される。
【0004】
まず、初期位置決め機構により回転体を軸方向について運転位置より少し上方の位置まで持ち上げ、ラジアル磁気軸受を作動させて回転体を径方向について運転位置に支持し、超電導軸受の永久磁石と常温の常電導状態にある超電導体とを互いに対向させる。次に、超電導体を所定温度まで冷却して、第2種超電導状態を出現する超電導状態にする。これにより、超電導軸受は軸方向および径方向に支持力を発生する作動状態になるので、初期位置決め機構による回転体の支持をなくす。すると、回転体は自重によって運転位置まで下降するが、後は、ラジアル磁気軸受および超電導軸受によって軸方向および径方向に非接触支持される。このようにして回転体がラジアル磁気軸受と超電導軸受で支持されたならば、電動機により回転体を回転させて、運転を開始する。
【0005】
上記のように超電導体を冷却して超電導軸受を作動状態にする際、回転体が運転位置から径方向に変位していると、その位置に超電導軸受によって支持されてしまうため、ラジアル磁気軸受により回転体を正確に運転位置に支持する必要がある。そのためには、ラジアル磁気軸受制御装置の積分制御回路のゲインを大きくして、回転体静止時のラジアル磁気軸受の剛性を大きくする必要がある。ところが、積分制御回路のゲインを大きくすると、とくに低回転数領域において、制御系の位相遅れが大きくなる。このため、回転体を始動してその回転数を高めていく段階で、低周波数領域の固有周波数を不安定にし、回転体に歳差運動などによる振れ回りが生じ、制御が不安定になるという問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、回転体を正確に位置決めして始動することができ、しかも、始動後は、低周波数領域の固有周波数が不安定になるのを防ぎ、回転体の振れ回りを防止できる超電導磁気軸受装置の始動運転制御方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
この発明による方法は、鉛直状の回転体、前記回転体を機械的に持ち上げて位置決めする初期位置決め機構、前記回転体を回転させる電動機、固定部分側の第2種超電導体と前記回転体側の永久磁石とで前記回転体を少なくとも軸方向に支持して非接触浮上させる超電導軸受、前記回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、前記回転体の回転数を検出する回転数検出装置、前記回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、ならびに前記径方向変位検出装置の出力信号および前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記ラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置を備えており、前記ラジアル磁気軸受制御装置が、前記径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例制御手段、微分制御手段、所定の積分ゲインを有する第1積分制御手段および前記第1積分手段の積分ゲインより小さい積分ゲインを有する第2積分制御手段、ならびに前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記第1積分制御手段と第2積分制御手段を切替える切替え手段を備えている超電導磁気軸受装置を始動させる際の運転制御方法であって、前記位置決め機構により前記回転体を運転位置より少し上方まで持ち上げ、前記切替え手段により前記第1積分制御手段に切替えた状態で、前記ラジアル磁気軸受により前記回転体を径方向について運転位置に支持し、前記超電導軸受の永久磁石と超電導体とを互いに対向させて、前記永久磁石から発せられる磁束を常電導状態の前記超電導体内に侵入させ、前記超電導体を冷却して第2種超電導状態に保持し、前記超電導体内に侵入していた磁束を拘束して、前記超電導軸受を作動状態にした後、前記初期位置決め機構による支持をなくし、前記回転体を前記超電導軸受と前記ラジアル磁気軸受とで非接触支持させてから、前記電動機を起動し、前記回転体を回転させて、その回転数を上昇させ、前記回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、前記切替え手段により前記第2積分制御手段に切替えることを特徴とするものである。
【0008】
この発明による方法は、また、鉛直状の回転体、前記回転体を回転させる電動機、固定部分側の第2種超電導体と前記回転体側の永久磁石とで前記回転体を少なくとも軸方向に支持して非接触浮上させる超電導軸受、前記回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、前記回転体の回転数を検出する回転数検出装置、前記回転体を軸方向に非接触支持するアキシアル磁気軸受、前記回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、ならびに前記径方向変位検出装置の出力信号および前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記ラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置を備えており、前記ラジアル磁気軸受制御装置が、前記径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例制御手段、微分制御手段、所定の積分ゲインを有する第1積分制御手段および前記第1積分手段の積分ゲインより小さい積分ゲインを有する第2積分制御手段、ならびに前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記第1積分制御手段と第2積分制御手段を切替える切替え手段を備えている超電導磁気軸受装置を始動させる際の運転制御方法であって、前記切替え手段により前記第1積分制御手段に切替えた状態で、前記アキシアル磁気軸受と前記ラジアル磁気軸受とで前記回転体を運転位置より少し上方に非接触支持し、前記超電導軸受の永久磁石と超電導体とを互いに対向させて、前記永久磁石から発せられる磁束を常電導状態の前記超電導体内に侵入させ、前記超電導体を冷却して第2種超電導状態に保持し、前記超電導体内に侵入していた磁束を拘束して、前記超電導軸受を作動状態にした後、前記アキシアル磁気軸受を非作動状態にして、前記回転体を前記超電導軸受と前記ラジアル磁気軸受とで非接触支持させてから、前記電動機を起動し、前記回転体を回転させて、その回転数を上昇させ、前記回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、前記切替え手段により前記第2積分制御手段に切替えることを特徴とするものである。
【0009】
この発明による方法は、また、鉛直状の回転体、前記回転体を回転させる電動機、固定部分に対して昇降可能な第2種超電導体と前記回転体側の永久磁石とで前記回転体を少なくとも軸方向に支持して非接触浮上させる超電導軸受、前記回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、前記回転体の回転数を検出する回転数検出装置、前記回転体を軸方向に非接触支持するアキシアル磁気軸受、前記回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、ならびに前記径方向変位検出装置の出力信号および前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記ラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置を備えており、前記ラジアル磁気軸受制御装置が、前記径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例制御手段、微分制御手段、所定の積分ゲインを有する第1積分制御手段および前記第1積分手段の積分ゲインより小さい積分ゲインを有する第2積分制御手段、ならびに前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記第1積分制御手段と第2積分制御手段を切替える切替え手段を備えている超電導磁気軸受装置を始動させる際の運転制御方法であって、前記超電導体を前記永久磁石の磁束の影響を受けない位置まで下降させ、前記切替え手段により前記第1積分制御手段に切替えた状態で、前記アキシアル磁気軸受と前記ラジアル磁気軸受とで前記回転体を運転位置に非接触支持し、前記超電導体を冷却して第2種超電導状態に保持し、前記超電導体を前記永久磁石に対して所定の間隔をあけて対向する位置まで上昇させ、前記永久磁石から発せられる磁束を前記超電導体内に侵入させて拘束し、これにより前記超電導軸受を作動状態にし、前記超電導体を上昇させて、前記アキシアル磁気軸受による支持力を小さくし、前記アキシアル磁気軸受による支持力が0になった時点で、前記超電導体を停止させ、前記アキシアル磁気軸受を非作動状態にして、前記回転体を前記超電導軸受と前記ラジアル磁気軸受とで非接触支持させてから、前記電動機を起動し、前記回転体を回転させて、その回転数を上昇させ、前記回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、前記切替え手段により前記第2積分制御手段に切替えることを特徴とするものである。
【0010】
超電導磁気軸受装置の始動時において、回転体の静止時に第1積分制御手段に切替えて積分ゲインを大きくすることにより、ラジアル磁気軸受の剛性を大きくして、始動時の回転体の初期位置決め精度を高めることができる。また、回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、第2積分制御手段に切替えて積分ゲインを小さくすることにより、始動後は、位相遅れを小さくして、低周波数領域の固有周波数が不安定になるのを防ぎ、回転体の振れ回りを防止することができる。
【0011】
したがって、この発明によれば、回転体を正確に運転位置に位置決めして始動することができるとともに、始動後は、回転体の振れ回りを防止することができ、制御が不安定になることがない。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明をフライホイール式電力貯蔵装置に適用した実施形態について説明する。
【0014】
図1は、電力貯蔵装置における超電導磁気軸受装置の主要部の構成を概略的に示している。
【0015】
超電導磁気軸受装置は、鉛直軸状の回転体(1) 、超電導軸受(2) 、上下2組の径方向変位検出ユニット(3)(4)、上下2組の制御型ラジアル磁気軸受(5)(6)、発電兼用の永久磁石形同期電動機(7) および回転センサ(8) を備えており、これらが固定部分を構成するハウジング(9) の内部に配置されている。ハウジング(9) は、実際は、複数の部品を結合することにより一体化され、鉛直な段付円筒状に形成されているが、図面には、その内面だけを概略的に示している。ハウジング(9) の上下両端部の内径は、中間部に比べて大きくなっている。また、ハウジング(9) の内部は、風損を防ぐため、図示しない適当な手段によりたとえば10-1〜10-3程度の真空状態に保持されるようになっている。
【0016】
なお、以下の説明において、軸方向の軸(鉛直軸)をZ軸、Z軸と直交するとともに互いに直交する2つの径方向の軸(水平軸)をX軸およびY軸とする。
【0017】
回転体(1) は、ハウジング(9) 内の中心に同心状に配置されている。回転体(1) の上下両端部に、ハウジング(9) の上下両端の大径部内に位置するフライホイール(10)(11)が固定されている。フライホイール(10)(11)は、余剰電力を回転運動エネルギとして貯えておくためのものである。
【0018】
超電導軸受(2) は、回転体(1) を軸方向および径方向に支持して非接触浮上させるものであり、回転体(1) の下部フライホイール(11)の下端面に同心状に固定された環状永久磁石部(12)および永久磁石部(12)に下から対向するようにハウジング(9) 側に固定状に設けられた超電導体部(13)よりなる。
【0019】
永久磁石部(12)は、フライホイール(11)の下端面に環状の強磁性材(14)を挟んで固定された複数の環状の永久磁石(15)を備えている。たとえば、各永久磁石(15)は、径方向の両端に磁極を有し、全永久磁石(15)の径方向に対向する側の磁極が同極性となるように配置されている。また、永久磁石(15)は回転体(1) と同心になるように径方向に並べて配置され、回転体(1) の回転軸心の周囲における永久磁石(15)の磁束分布が回転体(1) の回転によって変化しないようになされている。
【0020】
超電導体部(13)は、ハウジング(9) に固定された環状の冷却タンク(16)と、タンク(16)内に固定された環状の第2種超電導体(17)とを備えている。超電導体(17)は、回転体(1) と同心になるように配置され、タンク(16)の薄い上端壁とその上の空隙を介して永久磁石(15)と軸方向に対向している。超電導体(17)は、たとえばイットリウム系超電導体、たとえばYBa2 Cu3 O7-x からなるバルクの内部に常電導粒子(Y2 BaCu)を均一に混在させたものからなり、第2種超電導状態が出現する環境下において、永久磁石(15)から発せられる磁束を拘束してピン止めする性質を有するものである。そして、超電導体(17)は、上記のように配置されることにより、永久磁石(15)の磁束が所定量侵入する離隔位置であってかつ回転体(1) の回転によって侵入磁束の分布が変化しない位置に位置するようになっている。図示は省略したが、タンク(16)は冷却流体の供給管および排出管を介して適当な冷却装置に接続されており、この冷却装置により、タンク(16)内をたとえば液体窒素からなる冷却流体が循環させられ、タンク(16)内に満たされる冷却流体により超電導体(17)が冷却されるようになっている。
【0021】
ラジアル磁気軸受(5)(6)は、回転体(1) を非接触支持するとともに回転体(1) の互いに直交する2つのラジアル方向(X軸およびY軸方向)の位置を制御するためのものであり、ハウジング(9) 内の上下2箇所に設けられている。各ラジアル磁気軸受(5)(6)は、それぞれ、回転体(1) をX軸方向の両側から挟むようにハウジング(9) 内に固定されて回転体(1) をX軸方向の両側(外側)に吸引する1対のX軸方向電磁石(5x)(6x)と、回転体(1) をY軸方向の両側から挟むようにハウジング(9) 内に固定されて回転体(1) をY軸方向の両側に吸引する1対のY軸方向電磁石(図示略)とを備えている。
【0022】
上部径方向変位検出ユニット(3) は上部ラジアル磁気軸受(5) の近傍に、下部径方向変位検出ユニット(4) は下部ラジアル磁気軸受(6) の近傍にそれぞれ設けられている。各検出ユニット(3)(4)は、回転体(1) をX軸方向の両側から挟むようにハウジング(9) 内に固定されて回転体(1) との間のX軸方向の空隙の大きさを検出する1対のX軸方向変位センサ(X軸センサ)(3x)(4x)と、回転体(1) をY軸方向の両側から挟むようにハウジング(9) 内に固定されて回転体(1) との間のY軸方向の空隙の大きさを検出する1対のY軸方向変位センサ(Y軸センサ)(図示略)とから構成されている。上部検出ユニット(3) の1対のX軸センサ(3x)は、変位検出回路(18)に接続されている。変位検出回路(18)は、1対のX軸センサ(3x)の出力信号から回転体(1) の上部のX軸方向の変位を演算し、これをラジアル磁気軸受制御装置(19)に出力する。図示は省略したが、上部検出ユニット(3) の1対のY軸センサ、下部検出ユニット(4) の1対のX軸センサ(4x)および1対のY軸センサも、同様に、変位検出回路に接続されている。そして、これら検出ユニット(3)(4)と変位検出回路(18)により、回転体(1) の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置(20)が構成されている。
【0023】
回転センサ(21)は、回転体(1) の回転数を検出するためのものであり、回転数検出回路(22)に接続されている。回転数検出回路(22)は、回転センサ(21)の出力信号に基づいて、回転体(1) の回転数に比例する信号を制御装置(19)に出力する。そして、回転センサ(21)と回転数検出回路(22)により、回転体(1) の回転数を検出する回転数検出装置(23)が構成されている。
【0024】
上部ラジアル磁気軸受(5) の1対のX軸方向電磁石(5x)は、電力増幅器(24)を介して制御装置(19)に接続されている。図示は省略したが、上部ラジアル磁気軸受(5) の1対のY軸方向電磁石、下部磁気軸受(6) の1対のX軸方向電磁石(6x)および1対のY軸方向電磁石も、同様に、電力増幅器を介して制御装置(19)に接続されている。制御装置(19)は、変位検出装置(20)および回転数検出装置(23)の出力信号に基づいて磁気軸受(5)(6)の電磁石(5x)(6x)を制御するものであるが、図面には、上部磁気軸受(5) の1対のX軸方向電磁石(5x)の制御に関する部分だけが示されている。磁気軸受(5)(6)の他の各対の電磁石(6x)に関する制御部分は、上部磁気軸受(5) のX軸方向電磁石(5x)に関する制御部分と同様の構成および機能を有するので、上部磁気軸受(5) のX軸方向電磁石(5x)に関する制御部分についてのみ説明する。
【0025】
制御装置(19)は、変位検出装置(20)の出力信号に基づいて磁気軸受制御信号をそれぞれ出力する比例制御手段としての比例制御回路(25)、微分制御手段としての微分制御回路(26)、第1積分制御手段としての第1積分制御回路(27)および第2積分制御手段としての第2積分制御回路(28)、ならびに回転数検出装置(23)の出力信号に基づいて第1積分制御回路(27)と第2積分制御回路(28)を切替える切替え手段としてのスイッチ(29)を備えている。この実施形態では、スイッチ(29)として、アナログスイッチが用いられている。各制御回路(25)(26)(27)(28)からの磁気軸受制御信号は互いに加え合われされ、磁気軸受駆動信号として増幅器(24)に供給される。増幅器(24)は、制御装置(19)からの駆動信号を増幅して、1対の電磁石(5x)に励磁電流を供給する。電磁石(5x)の励磁電流は、一定の定常電流と回転体(1) のX軸方向の変位によって変化する制御電流とを合わせたものである。そして、制御装置(19)が変位検出装置(20)の出力信号に基づき増幅器(24)を介して各磁気軸受(5)(6)の各電磁石(5x)(6x)に供給する励磁電流を制御することにより、各電磁石(5x)(6x)の磁気吸引力が制御されて、回転体(1) のラジアル方向の位置が制御される。なお、回転体(1) は、通常、ラジアル磁気軸受(5)(6)により、ハウジング(9) の中心の運転位置に非接触支持される。
【0026】
2つの積分制御回路(27)(28)の回転数(周波数)に対するゲインの特性が図2(a) に、回転数に対する位相の特性が図2(b) に示されている。同図において、Aは第1積分制御回路(27)の特性、Bは第2積分制御回路(28)の特性を示している。図2に示されているように、ゲインは第1積分制御回路(27)の方が大きく、低回転数領域における位相遅れは第2積分制御回路(28)の方が大きい。そして、スイッチ(29)は、回転体(1) の回転数が低回転数領域の所定の切替え回転数より小さいときは第1積分制御回路(27)側に、切替え回転数以上のときは第2積分制御回路(28)側に切替えられるようになっている。切替え回転数は積分制御回路(27)(28)のゲイン特性や位相特性などを考慮して設定されるが、1例を挙げれば、回転体(1) の最大回転数が15000rpmの場合に切替え回転数が5000rpmに設定される。
【0027】
電動機(7) は、電力貯蔵時に電動機として電力取出し時に発電機として機能するものであり、上下の磁気軸受(5)(6)の間のハウジング(9) 内に設けられている。電動機(7) は、回転体(1) の中間部に固定されたロータ(30)と、ステータ(31)とから構成されている。
【0028】
図示は省略したが、超電導磁気軸受装置には、回転体(1) を機械的に持ち上げて位置決めするための初期位置決め機構が設けられている。
【0029】
超電導磁気軸受装置が運転を停止しているとき、電動機(7) 、超電導軸受(2) および磁気軸受(5)(6)は非作動状態にあり、回転体(1) は回転を停止し、初期位置決め機構により運転位置の近傍に支持されている。
【0030】
そして、このような状態から、たとえば次のようにして超電導磁気軸受装置の運転が開始される。
【0031】
まず、初期位置決め機構により回転体(1)を運転位置より少し上方まで持ち上げ、上下の磁気軸受(5)(6)を作動状態にして、回転体(1)をラジアル方向について運転位置に支持し、超電導軸受(2)の永久磁石(15)と超電導体(17)とを互いに対向させる。このとき、超電導体(17)は常温の常電導状態になっていて、超電導軸受(2)は、永久磁石(15)と超電導体(17)が対向していても、支持力を発生しない非作動状態になっており、永久磁石(15)から発せられる磁束が常電導状態の超電導体内に侵入する。また、回転体(1) の回転数が0で、切替え回転数より小さいため、スイッチ(29)が第1積分制御回路(27)側に切替えられており、そのゲインが大きいため、磁気軸受(5)(6)の磁気軸受(5)(6)の剛性が大きく、回転体(1)の位置決め精度が高い。初期位置決め機構と磁気軸受(5)(6)により回転体(1)を支持したならば、冷却タンク(16)内に冷却流体を循環させ、超電導体(17)を所定温度まで冷却して、第2種超電導状態を出現する超電導状態に保持する。このように永久磁石(15)から発せられる磁束が超電導体(17)の内部に侵入している状態で、超電導体(17)を冷却(磁場冷却)して第2種超電導状態にすると、超電導体(17)の内部に侵入していた磁束の多くがそのまま超電導体(17)の内部に拘束されることになる(ピンニング現象)。ここで、超電導体(17)はその内部に常電導体粒子が均一に混在されたものであるため、超電導体(17)内部への侵入磁束の分布が一定となり、そのため、あたかも超電導体(17)に立設したピンに永久磁石(15)が貫かれたようになる。これにより、超電導軸受(2)は永久磁石(15)と超電導体(17)の相対的位置が変動すれば力を発生する作動状態になり、超電導体(17)に対して永久磁石(15)とともに回転体(1) が拘束される。超電導軸受(2) が作動状態になったならば、初期位置決め機構による回転体(1)の支持をなくす。すると、回転体(1)は重力によって少し下降する。これにより、超電導軸受(2)に上向きの支持力が発生し、回転体(1)はその重量と超電導軸受(2)による支持力が釣合った状態で運転位置の近傍に支持される。回転体(1)は、超電導軸受(2)によって軸方向に支持される。また、回転体(1)は、主に磁気軸受(5)(6)によって径方向に支持され、超電導軸受(2)によっても径方向に若干支持される。このように回転体(1)が超電導軸受(2)と磁気軸受(5)(6)によって運転位置の近傍に非接触支持されたならば、電動機(7)を駆動する。これにより、超電導磁気軸受装置は運転を開始し、回転体(1)は、超電導軸受(2)と磁気軸受(5)(6)により運転位置の近傍に保持された状態で回転させられる。このとき、超電導体(17)に侵入した磁束は、磁束分布が回転体(1)の回転軸心に対して均一で不変である限り、理想的には回転を妨げる抵抗とはならない。また、回転体(1)の回転数が切替え回転数以上になると、スイッチ(29)が第2積分制御回路(28)側に切替えられ、その位相遅れが小さくなるため、回転数を高めていく段階で低周波数領域の固有周波数が不安定にならず、回転体(1)に振れ回りが生じることがない。さらに、低回転数領域の剛性を上げることで、電動機(7)からの外乱による振れ回りを防止し、その振れ回りによる超電導軸受(2)の損失をなくすことができる。
【0032】
上記実施形態では、変位検出装置(20)の変位検出回路(18)、回転数検出装置(23)の回転数検出回路(22)、ならびに制御装置(19)の各制御回路(25)(26)(27)(28)およびスイッチ(29)が独立した回路により構成されているが、たとえば、これらを全てソフトウェアで構成し、プログラムを実行することにより同様の機能を発揮するようにすることもできる。
【0033】
回転体(1) の初期位置決め機構は、回転体(1) を機械的に持ち上げるものに限らず、適宜変更可能である。たとえば、回転体(1) を軸方向に非接触支持するアキシアル磁気軸受を設けて、運転開始時に、アキシアル磁気軸受とラジアル磁気軸受(5)(6)で回転体(1) を運転位置の少し上方に非接触支持するようにしてもよい。その場合、上記のように超電導軸受(2) を作動状態にした後は、アキシアル磁気軸受を非作動状態にして、超電導軸受(2) とラジアル磁気軸受(5)(6)で回転体(1) を支持するようにする。また、超電導軸受(2) の超電導体部(13)をハウジング(9) に対して昇降できるようにすれば、次のようにして運転を開始することができる。すなわち、まず、超電導体部(13)を永久磁石部(12)から下方に十分離れた位置(永久磁石(15)の磁束の影響をほとんど受けない位置)まで下降させた状態で、アキシアル磁気軸受とラジアル磁気軸受(5)(6)を作動状態にして、回転体(1) を運転位置に非接触支持する。そして、このような状態で、超電導体(17)を冷却して超電導状態に保持し、超電導体部(13)を永久磁石部(12)に対して所定の間隔をあけて対向する位置まで上昇させる。すると、永久磁石(15)から発せられる磁束の一部が超電導体(17)内に部分的に侵入し、この侵入した磁束が超電導体(17)内部のピン止め点にピン止めされる。次に、超電導体部(12)を上昇させる。アキシアル磁気軸受により回転体(1) を運転位置に保持した状態で、作動状態になった超電導軸受(2) の超電導体(17)を上昇させると、超電導軸受(2) による上向きの支持力が徐々に大きくなり、その分、アキシアル磁気軸受による支持力が徐々に小さくなるので、アキシアル磁気軸受による支持力が0になった時点で、超電導体部(12)を停止させる。そして、アキシアル磁気軸受を非作動状態にする。これにより、回転体(1) の重量が超電導軸受(2) のみによって支持され、回転体(1) は超電導軸受(2) とラジアル磁気軸受(5)(6)によって運転位置に非接触支持される。後は、上記と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、この発明をフライホイール式電力貯蔵装置に適用した実施形態を示す超電導磁気軸受装置の主要部の概略構成図である。
【図2】図2は、第1積分制御回路と第2積分制御回路の周波数に対するゲインの特性と位相の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
(1) 回転体
(2) 超電導軸受
(5)(6) ラジアル磁気軸受
(19) ラジアル磁気軸受制御装置
(20) 径方向変位検出装置
(23) 回転数検出装置
(25) 比例制御回路(比例制御手段)
(26) 微分制御回路(微分制御手段)
(27) 第1積分制御回路(第1積分制御手段)
(28) 第2積分制御回路(第2積分制御手段)
(29) スイッチ(切替え手段)
Claims (3)
- 鉛直状の回転体、前記回転体を機械的に持ち上げて位置決めする初期位置決め機構、前記回転体を回転させる電動機、固定部分側の第2種超電導体と前記回転体側の永久磁石とで前記回転体を少なくとも軸方向に支持して非接触浮上させる超電導軸受、前記回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、前記回転体の回転数を検出する回転数検出装置、前記回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、ならびに前記径方向変位検出装置の出力信号および前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記ラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置を備えており、前記ラジアル磁気軸受制御装置が、前記径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例制御手段、微分制御手段、所定の積分ゲインを有する第1積分制御手段および前記第1積分手段の積分ゲインより小さい積分ゲインを有する第2積分制御手段、ならびに前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記第1積分制御手段と第2積分制御手段を切替える切替え手段を備えている超電導磁気軸受装置を始動させる際の運転制御方法であって、
前記位置決め機構により前記回転体を運転位置より少し上方まで持ち上げ、前記切替え手段により前記第1積分制御手段に切替えた状態で、前記ラジアル磁気軸受により前記回転体を径方向について運転位置に支持し、前記超電導軸受の永久磁石と超電導体とを互いに対向させて、前記永久磁石から発せられる磁束を常電導状態の前記超電導体内に侵入させ、前記超電導体を冷却して第2種超電導状態に保持し、前記超電導体内に侵入していた磁束を拘束して、前記超電導軸受を作動状態にした後、前記初期位置決め機構による支持をなくし、前記回転体を前記超電導軸受と前記ラジアル磁気軸受とで非接触支持させてから、前記電動機を起動し、前記回転体を回転させて、その回転数を上昇させ、前記回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、前記切替え手段により前記第2積分制御手段に切替えることを特徴とする超電導磁気軸受装置の始動運転制御方法。 - 鉛直状の回転体、前記回転体を回転させる電動機、固定部分側の第2種超電導体と前記回転体側の永久磁石とで前記回転体を少なくとも軸方向に支持して非接触浮上させる超電導軸受、前記回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、前記回転体の回転数を検出する回転数検出装置、前記回転体を軸方向に非接触支持するアキシアル磁気軸受、前記回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、ならびに前記径方向変位検出装置の出力信号および前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記ラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置を備えており、前記ラジアル磁気軸受制御装置が、前記径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例制御手段、微分制御手段、所定の積分ゲインを有する第1積分制御手段および前記第1積分手段の積分ゲインより小さい積分ゲインを有する第2積分制御手段、ならびに前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記第1積分制御手段と第2積分制御手段を切替える切替え手段を備えている超電導磁気軸受装置を始動させる際の運転制御方法であって、
前記切替え手段により前記第1積分制御手段に切替えた状態で、前記アキシアル磁気軸受と前記ラジアル磁気軸受とで前記回転体を運転位置より少し上方に非接触支持し、前記超電導軸受の永久磁石と超電導体とを互いに対向させて、前記永久磁石から発せられる磁束を常電導状態の前記超電導体内に侵入させ、前記超電導体を冷却して第2種超電導状態に保持し、前記超電導体内に侵入していた磁束を拘束して、前記超電導軸受を作動状態にした後、前記アキシアル磁気軸受を非作動状態にして、前記回転体を前記超電導軸受と前記ラジアル磁気軸受とで非接触支持させてから、前記電動機を起動し、前記回転体を回転させて、その回転数を上昇させ、前記回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、前記切替え手段により前記第2積分制御手段に切替えることを特徴とする超電導磁気軸受装置の始動運転制御方法。 - 鉛直状の回転体、前記回転体を回転させる電動機、固定部分に対して昇降可能な第2種超電導体と前記回転体側の永久磁石とで前記回転体を少なくとも軸方向に支持して非接触浮上させる超電導軸受、前記回転体の径方向の変位を検出する径方向変位検出装置、前記回転体の回転数を検出する回転数検出装置、前記回転体を軸方向に非接触支持するアキシアル磁気軸受、前記回転体を径方向の所定位置に非接触支持する制御型ラジアル磁気軸受、ならびに前記径方向変位検出装置の出力信号および前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記ラジアル磁気軸受を制御するラジアル磁気軸受制御装置を備えており、前記ラジアル磁気軸受制御装置が、前記径方向変位検出装置の出力信号に基づいてそれぞれ磁気軸受制御信号を出力する比例制御手段、微分制御手段、所定の積分ゲインを有する第1積分制御手段および前記第1積分手段の積分ゲインより小さい積分ゲインを有する第2積分制御手段、ならびに前記回転数検出装置の出力信号に基づいて前記第1積分制御手段と第2積分制御手段を切替える切替え手段を備えている超電導磁気軸受装置を始動させる際の運転制御方法であって、
前記超電導体を前記永久磁石の磁束の影響を受けない位置まで下降させ、前記切替え手段により前記第1積分制御手段に切替えた状態で、前記アキシアル磁気軸受と前記ラジアル磁気軸受とで前記回転体を運転位置に非接触支持し、前記超電導体を冷却して第2種超電導状態に保持し、前記超電導体を前記永久磁石に対して所定の間隔をあけて対向する位置まで上昇させ、前記永久磁石から発せられる磁束を前記超電導体内に侵入させて拘束し、これにより前記超電導軸受を作動状態にし、前記超電導体を上昇させて、前記アキシアル磁気軸受による支持力を小さくし、前記アキシアル磁気軸受による支持力が0になった時点で、前記超電導体を停止させ、前記アキシアル磁気軸受を非作動状態にして、前記回転体を前記超電導軸受と前記ラジアル磁気軸受とで非接触支持させてから、前記電動機を起動し、前記回転体を回転させて、その回転数を上昇させ、前記回転体の回転数が切替え回転数以上になったときに、前記切替え手段により前記第2積分制御手段に切替えることを特徴とする超電導磁気軸受装置の始動運転制御方法。
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