JP3674324B2 - リチウム二次電池の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はリチウム二次電池に関する。更に詳しくは、電解液に代えてゲル状電解質を用いたリチウム二次電池に関し、高電位、高エネルギー密度でサイクル特性に優れたリチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、カメラ一体型VTR装置、オーディオ機器、携帯型コンピュータ、携帯電話等様々な機器の小型化、軽量化が進んでおり、これら機器の電源としての電池に対する高性能化要請が高まっている。特に機器本体の小型化に対応するため、電池の小型化と容量の同時確保、すなわち高エネルギー密度化が要求されている。特に充電することにより繰り返し使用できる二次電池に対する期待は高い。これに対してリチウム二次電池は高エネルギー密度を実現可能であり、高電圧であることから、開発が盛んになっている。またリチウム二次電池は、その高いエネルギー密度から電気自動車の動力源としても期待されている。
【0003】
リチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極と負極及び非水系電解質とからなる。非水系電解質を用いるのは、リチウムが従来型電池の電解質の主成分である水に対して反応性が高く安定に存在しえないからである。そのため、リチウム電池を含む高電圧系電池、コンデンサーの溶媒としては非水系の電解液が用いられていた。ところが、非水系電解液は多くが有機化合物液体で可燃性、臭気を有することが多く、非水系電解液を用いた電池は漏液や発火の危険を有している。このため近年では、安全性を向上させるために非水電解液を、ゲル状電解質に置き換える電池の開発が行われている。ゲル状電解質では非水電解液が、例えばポリマーに含有させられており、イオン伝導度などその特性の多くは液系と同等の性能を保持しながら、流動性は極めて低下しており形状維持性がある。また揮発速度も抑制される。従って漏液や発火の危険を低減できる。
特にリチウム金属を用いる二次電池においては、液体電解質を用いた際に生ずるリチウムのデンドライト析出による内部短絡からくる発熱、発火が問題となっているが、ゲル状電解質ではデンドライト析出が抑制されるとの報告があり実用化が望まれていた。
【0004】
さらに上記のような、高分子中に電解液を含有したゲル状電解質等は、従来のリチウム二次電池と異なりセパレータを用いずとも、この二次電池系で使用されるセパレーターの代用を勤めることが可能となるので、ゲル状電解質を挟んで正極と負極と接合させて用いることが出来る。この様なゲル状電解質を用いた電池は、液系に比して軽量で形状柔軟性を有するので、例えばシート状にするなど薄膜化が可能であり、軽量、省スペースな電池が作成可能となる有利な点もある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一般的に、リチウム二次電池における正極又は負極は、活物質を含む活物質層と活物質層内に形成され、電解質を含有するイオン移動相とからなり、アルミニウム板や銅板の様な集電体上に、正極活物質又は負極活物質、電解質、導電材料、及び結合樹脂等を含有する混合物を塗布して製造する。ゲル状電解質を用いたリチウム二次電池では例えば、米国特許5,453,335号に見られるように、活物質、重合性モノマー、溶媒を混練塗布し、しかるのちモノマーを重合することによってイオン移動相をゲル状電解質として正極、負極を形成したり、米国特許5,609,974号に見られるように活物質、高分子、溶媒を高温で混練塗布し、冷却することによりイオン移動相をゲル状電解質とするような方法で作成されている。
【0006】
上記のような、ゲル状電解質を有する正極又は負極の製造法は製造上いくつかの制約がある。第一に、先に述べたようにリチウム二次電池では水の存在は問題になる。電解液の製造ではppmオーダーまで水分量がコントロールする必要がある。しかるに上記の製造法では混練段階から溶媒を含有するため、分散、塗布の工程においても水分を管理しなければならない。これは分散機、塗布機を除湿管理された室内(ドライルーム)に設置することによって達成されるものであるが、そのためにはかなり大きなドライルームが必要になりコストがかかる。また工程が長くなればなるほど、ドライルーム内であっても水分を吸収する可能性も高くなる。第二に、ゲル化が完了する前の正極、負極膜は依然柔らかく、集電体上に塗布されてからゲル化が完了するまでの間、活物質の脱離などの問題が生じやすく、製造ラインを汚しやすい。またインラインでゲル化工程をいれると、ラインが長くなり、コスト上昇を招く。第三に、上記の組成では、塗布前の塗料がほぼそのまま正極、負極の組成となるが、容量増加を図って塗料中の活物質の比率を高くすると粘度が上昇し、分散塗布が困難になる。
【0007】
一方、充放電過程において、活物質はリチウムイオンの吸蔵放出に伴い膨張収縮を起こす。特に負極活物質は充放電過程におけるリチウムイオンの吸蔵放出に際し、層間距離にして約10%の膨張収縮を繰り返す。一方、米国特許5,453,335号、米国特許5,609,974号などで例示した様なゲル状電解質を用いた負極の場合、ゲル状電解質が構造的に弱く、電極における活物質の膨張収縮に耐えられないため、電解質を含む負極構造の破壊が起こりやすく、イオン伝導や電子伝導の劣化が生じ、サイクル特性が悪いという問題を有している。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先に、上記問題点を解決するために、正極、負極の活物質層の形成とゲル状電解質からなるイオン移動相の形成を2段階に分離しておこなうことを提案した。しかしながら、この方法においても決して十分ではなく、特に容量やサイクル特性といった面での向上が望まれていた。
このような状況下、本発明者らの検討の結果、上記のような2段階法において、先に形成された活物質層の空隙の大きさと含浸するゲル電解質の前駆体の粘度との関係が問題であることを見い出し本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、(1)正極活物質又は負極活物質とバインダー及び溶剤を含む塗料を集電体上に塗布・乾燥して、空隙を有する活物質層を形成する工程、(2)支持電解質、溶媒及びモノマー成分を含有するゲル前駆体を、前記活物質層に含浸させる工程、(3)ゲル前駆体中のモノマー成分を重合させて、前記活物質層の空隙内にゲル状電解質からなるイオン移動相を形成させる工程、を包含するリチウム二次電池の製造方法であって、活物質層の空隙の平均空隙径をR(μm)、含浸させるゲル前駆体の25℃における粘度をη(cps)とした時に、前記Rが0.5〜5μmであり、前記ηが1〜200cpsであり、
【0011】
【数2】
【0012】
を満足するリチウム二次電池の製造方法に存する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のリチウム二次電池の基本的構成は、正極、負極及びそれらの間に形成される電解質層からなり、正極及び/又は負極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な活物質層と、活物質層の空隙に設けられたイオン移動相とからなる。はじめに、本発明に用いられる正極活物質もしくは負極活物質を含有する活物質層について説明する。
【0014】
正極活物質層は正極活物質をアルミニウム板や銅板の様な集電体上に適度な空隙を有する状態に形成することによって得られる。たとえば粉体状の活物質をバインダー及び溶剤を含む溶液と混合しボールミル、サンドミル、二軸混練機などにより分散塗料化したものを、該集電体上に塗布乾燥することによって得られる。
また正極活物質をバインダーと混合し加熱することにより軟化させた状態で、集電体上に圧着、あるいは吹き付ける手法によって正極活物質層を形成することもできる。さらには正極活物質を単独で集電体上に焼成したり、シリケート、ガラスのような無機化合物をバインダーとして用いることによって正極活物質層を形成することもできる。
【0015】
正極活物質であるリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物としては、有機、無機各種の化合物を使用することができる。無機化合物として、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等が挙げられる。ここで遷移金属としてはFe、Co、Ni、Mn等が用いられる。具体的には、MnO、V2 O5 、V6 O13、TiO2 等の遷移金属酸化物粉末、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、TiS2 、FeS、MoS2 などの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。これらの化合物はその特性を向上させるために部分的に元素置換したものであっても良い。有機化合物としては、例えばポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩等が挙げられる。正極活物質として、これらの無機化合物、有機化合物を混合して用いても良い。
これら正極の活物質の粒径は、それぞれ電池の他の構成要件とのかねあいで適宜選択すればよいが、通常1〜30μm、特に1〜10μmとするのが、レート特性、サイクル特性等の電池特性が向上するので好ましい。
【0016】
正極活物質層に使用できるバインダーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1,1−ジメチルエチレンなどのアルカン系ポリマー;ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの不飽和系ポリマー;ポリスチレン、ポリメタルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドンなどの環を有するポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメチタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミドなどのアクリル誘導体系ポリマー;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニドなどのCN基含有ポリマー;ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール系ポリマー;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのハロゲン含有ポリマー;ポリアニリンなどの導電性ポリマーなど各種の樹脂が使用できる。また上記のポリマーの混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであっても使用できる。ただし、本発明の目的を達成するためには、ゲル状電解質に使用する溶媒に容易に溶解するような樹脂の使用は好ましくない。重量平均分子量は、好ましくは10000−1000000、さらに好ましくは20000−300000である。低すぎると塗膜の強度が低下し好ましくない。高すぎると粘度が高くなり活物質層の形成が困難になる。
【0017】
活物質100重量部に対するバインダーの配合量は好ましくは0.1−30重量部、さらに好ましくは1−15重量部である。バインダーの量が少なすぎると強固な活物質層が形成されず、活物質層が活物質を保持するという本発明の目的が達成されない。バインダーの量が多すぎると活物質層中の空隙量が低下し、本発明の特徴であるゲルの前駆体を含浸させることができなくなる。バインダーを使用すると活物質が活物質層に強固に保持されるため脱離しにくいという効果を奏する。また、活物質の構造破壊によるサイクル特性の劣化も起こりにくい。
【0018】
正極活物質層が塗料化を経て形成される場合の溶剤としては、上記の樹脂を溶解しえるものであれば、N−メチルピロリドン等一般的に使用される無機、有機溶剤のいずれもが使用できる。本発明では、乾燥等によって活物質層形成させた後に、非水系のゲル状電解質を形成させるので、上記の溶剤としては、水を使用しても良い。
【0019】
正極活物質層は必要に応じて導電材料、補強材など各種の機能を発現する添加剤、粉体、充填材などを含有していても良い。導電材料としては、上記活物質に適量混合して導電性を付与できるものであれば特に制限は無いが、通常、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛などの炭素粉末や、各種の金属のファイバー、箔などが挙げられる。添加剤としてはトリフルオロプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、カテコールカーボネート、1,6−Dioxaspiro[4,4]nonane−2,7−dione、12−クラウン−4−エーテルなどが電池の安定性、寿命を高めるために使用することができる。補強材としては各種の無機、有機の球状、繊維状フィラーなどが使用できる。
【0020】
正極活物質層の厚みは、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であり、通常200μm以下、好ましくは150μm以下である。容量的には厚い方が、レート上は薄い方が好ましい。
負極活物質層は、活物質が負極用の活物質である以外は基本的に正極活物質層の構成、形成法と同様である。
【0021】
負極に用いられるリチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質としてはグラファイトやコークス等の炭素系活物質が挙げられる。これらの炭素系活物質は金属やその塩、酸化物との混合体、被覆体の形であっても利用できる。また、けい素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケルなどの酸化物、あるいは硫酸塩、さらには金属リチウムやLi−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cdなどのリチウム合金、リチウム遷移金属窒化物、シリコンなども使用できる。これら負極の活物質の粒径は、それぞれ電池のその他の構成要件とのかねあいで適宜選択すればよいが、通常1〜50μm、特に15〜30μmとするのが、初期効率、レート特性、サイクル特性等の電池特性が向上するので好ましい。
【0022】
それぞれの活物質層は通常集電体上に設けられる。集電体としては、一般的にアルミ箔や銅箔などの金属箔を用いる。厚みは、通常1−50μm、好ましくは1−30μmである。薄すぎると機械的強度が弱くなる傾向にあり、厚すぎると電池全体としての容量が低下する傾向にある。これら集電体の表面には予め粗化処理を行うと結着効果が高くなるので好ましい。表面の粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法または化学研磨法が挙げられる。機械的研磨法としては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシなどで集電体表面を研磨する方法が挙げられる。また接着効果を高めるために、集電体表面に中間層を形成しても良い。
活物質層の原料を塗布・乾燥した後、必要に応じてカレンダー処理を施すことができる。
【0023】
次に、イオン移動相のゲル状電解質について説明する。本発明に用いられる正極及び/又は負極は活物質層内の空隙がゲル状の電解質で実質的に満たされ、リチウムイオンのイオン伝導はこのゲル状の電解質を通して電解質層へ移動する。
【0024】
ゲル状電解質は主として溶媒と支持電解質と高分子とからなり、液が高分子中に保持されて全体としての流動性が著しく低下したものである。イオン伝導性などの特性は純粋な電解液に近い特性を示すが、流動性、揮発性などは著しく抑制され、安全性が高められている。溶媒に対する高分子の比率は通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以下、また通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。低すぎると溶媒を保持することができなくなり、液漏れが発生することがある。高すぎると粘度が高くなり、またイオン伝導度が低下して電池特性が悪くなる傾向にある。
【0025】
本発明においては、ゲル状になっておらず流動性を有していて、所定のゲル化処理の後ゲル状の電解質となるゲル前駆体を、活物質層に含浸させる。含浸段階ではゲルではなく、低粘度であるため活物質層の微細な空隙中にも十分含浸させることができる。ゲル前駆体としては、支持電解質、溶媒及び高分子の原料であるモノマーを含有する組成物を用いる。この場合、上記組成物をゲル前駆体として活物質層に含浸させ、含浸後にモノマーを重合させて高分子化しゲル化させる。この方法は、粘度の制御が容易であるので、含浸を容易に行えるという利点がある。このような反応をおこなえる高分子としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミドなどの重縮合によって生成されるもの、ポリウレタン、ポリウレアなどのように重付加によって生成されるもの、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリル誘導体系ポリマーやポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニルなどのポリビニル系などの付加重合で生成されるものなどがあるが、本発明においては、活物質層内に含浸させて重合することから、重合の制御が用意で重合時に副生成物が発生しない付加重合により生成される高分子を使用することが望ましい。
【0026】
付加重合により生成される高分子としては、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等の環を有するポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド等のアクリル誘導体系ポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマーが挙げられる。また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。
【0027】
このようなポリマーの原料であり、ゲル前駆体の成分となりうるモノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、エトキシエチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエトキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0028】
上記のモノマーの重合方法としては、熱、紫外線、電子線などによる方法が挙げられるが、生産性の観点から紫外線による方法が好ましい。この場合、反応を効果的に進行させるため、紫外線に反応する重合開始剤を使用することも出来る。紫外線重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンジル、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ビアセチル、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0029】
熱重合の場合は、熱重合開始剤の種類および量、モノマーの種類および量、モノマー中の反応基数などを変えることにより、ゲルの構造制御が出来イオン伝導度などを向上させることが出来る。更に、全体の反応が一様に進むため均一なゲルが形成される。熱重合においては、反応制御のため、重合開始剤を使用することが出来る。熱重合開始剤としては、1,1−ジ(ターシャルブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス−[4,4−ジ(ターシャルブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン]、1,1−ジ(ターシャルブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、ターシャリブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノネート、ターシャリブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート、ジベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0030】
上記のように、各種の重合開始剤を使用する場合、ゲル前駆体中にこれらの開始剤が含有されることとなる。
また、ゲル前駆体として、電解質と同じ組成のものを加温することによって粘度を下げた組成物を用いることもできる。この場合、含浸後、ゲル前駆体を冷却することによってゲル状電解質が形成される。
【0031】
上記の方法で使用されるポリマーの具体例としては、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等の環を有するポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド等のアクリル誘導体系ポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマーが挙げられる。また、上記のポリマー等の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体なども使用できる。
【0032】
ゲル状電解質を構成する高分子の例としては、溶媒を適度に保持してゲル化できるものであればいずれのものであってもよく、前記に例示した各種のものを使用できるが、溶媒質が極性を有するものであるから、高分子もある程度の極性を有する方が好ましい。高分子を付加重合によって形成する場合は分子内に1個以上の反応性不飽和基を有するモノマーを通常溶媒に1−20%混合してゲル前駆体を作成する。この際モノマーが分子内にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、フェニレンオキシド、フェニレンスルフィド、シアノ、カーボネートなど極性の高い基を有していれば、生成した高分子に適度な極性を付与することができ、良好なゲルを形成することができる。ゲルは直鎖高分子のみで形成されるものであってもかまわないが、分岐構造を持つようにモノマー中の反応基の数を制御し、分岐構造を形成すると機械特性などが向上するので好ましい。
【0033】
ゲル状電解質中の高分子の比率は、通常0.1〜80重量%、好ましくは1〜50重量%である。高分子の比率が低過ぎる場合は電解質液の保持が困難となって液漏れが発生し、高過ぎる場合はイオン伝導度が低下して電池特性が低下する。
【0034】
ゲル状電解質に含まれる支持電解質としては、電解質として正極活物質及び負極活物質に対して安定であり、かつリチウムイオンが正極活物質あるいは負極活物質と電気化学反応をするための移動を行い得る非水物質であればいずれのものでも使用することができる。
具体的にはLiPF6 、LiAsF6 、LiSbF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2 、LiSCN、LiSO3 CF2 等が挙げられる。これらのうちでは特にLiPF6 、LiClO4 が好適である。
【0035】
これら電解質の溶媒における含有量は、一般的に0.5〜2.5mol/lである。これら電解質を溶解する溶媒は特に限定されないが、比較的高誘電率の溶媒が好適に用いられる。具体的にはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの非環状カーボネート類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のグライム類、γ−ブチルラクトン等のラクトン類、スルフォラン等の硫黄化合物、アセトニトリル等のニトリル類等の1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。これらのうちでは、特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどの非環状カーボネート類から選ばれた1種又は2種以上の混合溶液が好適である。またこれらの分子の水素原子の一部をハロゲンなどに置換したものも使用できる。
ゲル状電解質やゲル前駆体中には必要に応じて他の成分を含有させてもよい。
【0036】
本発明においては、活物質層にゲル前駆体を含浸させ、ゲル化処理することによって正極や負極が形成される。電解液の含浸法としては通常は活物質層上に塗布し適度の時間放置するだけで十分な特性が得られるが、含浸の効率、速度を高めるため、圧入、真空含浸等の操作をおこなっても良い。
本発明の特徴の1つは、上記の含浸時における、ゲル前駆体の粘度と活物質層の平均空隙径とを規定した点にある。即ち、本発明においては、ゲル前駆体の25℃における粘度をη(cps)、活物質層の平均空隙径をR(μm)とした時に、下記式(I)を満足する。
【0037】
【数3】
【0038】
この関係を満たさないと、容量特性やサイクル特性が悪化する。
ゲル前駆体の25℃における粘度としては、1〜200cps、好ましくは1〜50cpsである。あまり大きいと、活物質層への含浸が不十分になることがあり、電池特性が悪化する傾向にある。粘度の調整は、ゲル電解質の各成分の種類、分子量、濃度等を適宜選ぶことによって容易に行うことができる。
【0039】
また、活物質層の空隙の平均空隙径としては、0.5μm以上、好ましくは0.8μm以上、また5μm以下、好ましくは2.0μm以下である。あまりに大きいと電池容量が低下する傾向にある。一方、あまりに小さいと活物質層への含浸が不十分になることがあり、電池特性が悪化する傾向にある。空隙径は、活物質の種類や粒子径や量、樹脂の種類や使用量、カレンダー処理の圧力等適宜選ぶことによって容易に行うことができる。
【0040】
含浸が完了後、熱、紫外線、電子線などによりモノマーを重合する方法や冷却する方法等によってゲル状電解質を形成する。ゲル状電解質は活物質層内の空隙を完全に充填していることが好ましい。ゲル状電解質の充填が極端に悪いと電池特性特にレート特性が低下する。
本発明の方法は、正極及び負極の少なくとも一方に適用すればよいが、好ましくはその両方に適用する。また、正極及び負極の一方は、必ずしも活物質層とイオン移動相とから構成される必要はなく、例えば負極をリチウム金属のみで構成することができる。
正極と負極を隔てる電解質層としては上述のイオン移動相のゲル状電解質と同様の材料を用いることができる。この場合、液漏れのないより安全なリチウム二次電池とすることができる。無論、イオン移動相と全く同じ組成のゲル状電解質であっても、異なる組成のゲル状電解質であってもよい。電解質層は、正極や負極とは別途形成し正極、負極と積層しても、正極、負極上に直接形成しても良い。また補強材などを併用しても良い。その厚さは通常5μm、好ましくは10μm以上、また通常200μm以下、好ましくは100μm以下である。
【0041】
正極、負極及び電解質層は積層されて1つの発電要素を構成する。そして、発電要素は、必要に応じて複数枚積層されて、電池ケースに収納される。本発明においては、ゲル状の電解質を用いているので、液漏れの可能性が小さく、円筒型、箱型、ペーパー型、カード型など種々の形状にすることができ、またケースに可撓性をもたせることもでき、好ましい。
【0042】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、以下において「部」とは「重量部」を意味する。
実施例及び比較例とも、使用される原料として、粉体は240℃で24時間真空乾燥し、樹脂及び支持電解質は110℃で4時間乾燥し、モノマーはモレキュラーシーブにて脱水処理して用いた。
実施例1
まず以下に示す組成に従い正極活物質層用塗料及び、負極活物質層用塗料を調整した。正極塗料・負極塗料の原料としては以下のものを使用した。
【0043】
【表1】
正極活物質 LiCoO2 粉 (日本化学社製)
導電材 アセチレンブラック (電気化学工業製)
負極活物質 SFG15:グラファイト (TIMCAL社製)
バインダー ポリフッ化ビニリデン (呉羽化学製)
溶剤 N−メチルピロリドン (三菱化学製)
【0044】
【表2】
(正極活物質層塗料組成)
LiCoO2 90.0部
アセチレンブラック 5.0部
ポリフッ化ビニリデン 5.0部
N−メチルピロリドン 100.0部
【0045】
【表3】
(負極活物質層塗料組成)
SFG15 90.0部
ポリフッ化ビニリデン 10.0部
N−メチルピロリドン 100.0部
【0046】
上記材料をそれぞれボールミルで8時間混練・分散処理を行い塗料化した。正極活物質層用塗料を厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用い膜厚が100μmになるよう塗布、乾燥し正極活物質層を得た。負極活物質層用塗料は、厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用い膜厚が150μmになるよう塗布、乾燥した。ここまでの工程はすべて通常の環境化でおこなった。その後、塗膜を240℃で再乾燥し、所定の形状に打ち抜いて正極・負極活物質層を集電体上に設けたシートを得た。
【0047】
上記の正極・負極活物質層を集電体上に設けたシートにカレンダー(加圧)処理を施した。最終的な膜厚は正極は75μm、負極は60μmであった。正極活物質層または負極活物質層中の空隙量は、水銀ポロシメーター(Micrometrics社製Auto Pore9200)で正極材または負極材中の空隙径を空隙率の微分曲線の最大値として測定した。水銀ポロシメーターの圧力は0〜3800PSIA、細孔径は10-2μm以上で測定した。本測定法による正極層の平均空隙径は1.2μm、負極層の空隙径は2.0μmであった。
次に下記の組成ゲル前駆体を製造した。
【0048】
【表4】
溶媒 PC:プロピレンカーボネート(三菱化学社製)
支持電解質 LiClO4 (和光純薬製)
添加剤 1,6−Dioxaspiro[4,4]nonane−2,7−dione(Aldrich社製;以下SPIROと略称)
モノマー Photomer4050
Photomer4158(いずれも、末端にアクリル基を有するポリエチレンオキシド樹脂(Henkel社製))
架橋開始剤 ダロキュア1173(チバガイギー社製)
【0049】
【表5】
(ゲル前駆体組成)
PC 78.0部
LiClO4 7.0部
SPIRO 5.0部
Photomer4050 6.7部
Photomer4158 3.3部
ダロキュア1173 0.5部
【0050】
上記のゲル前駆体を正極・負極活物質層に含浸後、紫外線を40秒間照射してモノマーを重合させ、含浸させた電解液をゲル化し活物質層内の空隙にゲル状電解質を形成した。
次に、電解質層として、厚み60μmのポリプロピレン製の不織布に、上述のゲル前駆体と同じ液を浸漬させて、紫外線を照射しゲル状電解質層としたものを形成した。その後、電解質層と正極、負極を平板状に積層して端子をつけ、可撓性を持つ真空パックに封入してリチウム二次電池を作成し評価を行った。結果を表−1に示す。
【0051】
実施例2
電極に施すカレンダー(加圧)処理を強化し正極の平均空隙径を0.8μm、負極の空隙径を1.4μmとした以外は実施例1と同様にして電池を作成した。結果を表−1に示す。
実施例3
実施例1のゲル前駆体にさらにポリエチレンオキシド(Aldrich社製:分子量400万)を0.4部追加して電極に含浸させたこと、さらに厚さ120μmのゲル状電解質の単身膜を形成しておき正極、電解質、負極を積層して電池を作成したこと以外は、実施例1と同様にして電池を作成した。結果を表−1に示す。
【0052】
比較例1
ポリエチレンオキシドの追加量を2.0部としたこと以外は実施例3と同様にして電池を作成した。結果を表−1に示す。
比較例2
電極に施す加圧処理を強化し、正極の平均空隙径を0.4μm、負極の平均空隙径を0.6μmとした以外は実施例1と同様にして電池を作成した。結果を表−1に示す。
【0053】
評価は以下のようにして行った。電池の容量は初期放電時の容量を、集電体を除いた正極・負極単位重量当たりの容量として算出した。サイクル特性は4.1V−2.7Vの上限、下限電圧間で充放電を繰り返した時、20サイクル経過する間の容量維持率を開始時に対する終了時の容量の割合として%表示した。
表−1に示すように、本発明によれば、必要最小限の工程のみドライルーム内で実施するだけでも水分の含有量が抑えられる。さらに容量が高く、サイクル特性に優れ、かつ液漏れの危険の小さいゲル状電解質を用いたリチウム二次電池を得ることができる。
【0054】
【表6】
なお、表−1において、ゲル前駆体の粘度は25℃でのものである。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、高エネルギー密度でサイクル特性に優れ、かつ液漏れ等の問題を抑制したゲル電解質を用いたリチウム二次電池において、含浸させる電解質液の粘度と正極及び負極層の空隙径を規定することにより電池特性の向上を達成することができる。また、本発明によれば、活物質層を形成した後に電解質を形成するので、水分管理が容易であり、生産性を高くすることができる。
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