JP3673912B2 - ラック軸の支持構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラック・ピニオン式ステアリング装置におけるラック軸の支持構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
図7は、ラック・ピニオン式ステアリング装置における従来のラック軸の支持構造を示す断面図である。図において、紙面に垂直な方向に伸びるラック軸56は、ピニオン軸55と噛合している。ラック軸56は、ラック56aに対する背面側から、サポートヨークシート59を介してサポートヨーク58により支持されている。このようなサポートヨーク58及びサポートヨークシート59として、例えば実開昭57−174272号公報には、図6に示すものが記載されている。
【0003】
図6において、サポートヨーク58は金属製の部材であり、一対の傾斜面58aを含むY字状の谷状部58yを有している。この一対の傾斜面58aにはそれぞれ溝58bが設けられ、底部には貫通孔58cが設けられている。サポートヨーク58の、ラック軸方向側における溝58bの両端面58b1は、傾斜面58aに対して垂直に形成されているが、溝の下端面58b2は、傾斜面58aに対して垂直ではなく、背面58eに平行な平面である。一方、サポートヨークシート59は合成樹脂製であり、一対の傾斜面部59aと、傾斜面部59aの外側に設けられた係止用の突起部59bと、位置決め用の突起部59cとを備えている。サポートヨークシート59をサポートヨーク58の谷状部58yに押し込むと、突起部59cが貫通孔58cに挿入され、突起部59bは溝58bに係合して両者が合体する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来のラック軸の支持構造において、大きな荷重がラック56aにかかった場合、サポートヨークシート59には、図6におけるA方向(摺動方向)のみならず、B方向(揺動方向)にも大きな力が付与される。このとき、サポートヨークシート59の位置がB方向にずれることがある。このようなずれが生じると、サポートヨークシート59が破損する恐れがある。また、とりわけ、バリアブルギヤレシオギヤ(以下、VGRギヤという。)と呼ばれる、ラック軸56の中央から両端部に向かってギヤ比が変化する構造を採用した例えば電動パワーステアリング装置の場合には、ギヤ比が相対的に高い状態のとき、ラック56aには非常に大きな荷重がかかる。この結果、上記のようなずれが発生する可能性が高い。
【0005】
上記のような従来の問題点に鑑み、本発明は、大きな荷重を受けとめたときにも、サポートヨークシートがずれないラック軸の支持構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ラック・ピニオン式ステアリング装置におけるラック軸の支持構造において、ラック軸と、前記ラック軸を、これに交差する方向から支持する一対の傾斜面を含む谷状部を有し、前記傾斜面には傾斜方向側端面と、前記ラック軸の移動方向側端面とを有する凹部が形成され、前記傾斜方向側端面は、前記傾斜面に対して垂直又は鋭角のエッジを構成するサポートヨークと、前記谷状部に嵌着される摺接用部材であって、前記傾斜面に対応する傾斜面部の表面側において前記ラック軸に摺接し、裏面側には前記凹部の形状に合致して係合する突起部を有するサポートヨークシートとを備え、前記サポートヨークシートの傾斜面部の表面のうち、前記ラック軸との接触中心となる中間部が平面であり、その上部及び下部は、前記ラック軸の軸方向に直交する方向に曲率を有する、前記ラック軸側に凸形状な凸曲面であることを特徴とするものである(請求項1)。
上記のように構成されたラック軸の支持構造では、サポートヨークシートの突起部がサポートヨークの凹部に係合して、当該突起部がラック軸の移動方向側端面に当接することにより摺動方向へのずれが防止され、当該突起部が傾斜方向側端面に当接することにより、揺動方向へのずれが防止される。特に、傾斜方向側端面が傾斜面に対して垂直又は鋭角のエッジを構成していることにより、揺動方向へのずれが確実に防止される。
【0007】
また、このような構造によれば、通常は主として中間部がラック軸と接触するため、傾斜面部全体が接触する場合に比べて接触面積が小さい。従って、サポートヨークシートとラック軸との摺動抵抗を低減することができ、サポートヨークシートの摩耗を低減することができる。
【0008】
また、上記ラック軸の支持構造(請求項1)において、ラック軸は、中央から端部に向かってギヤ比が変化するものであってもよい(請求項2)。
この場合、ギヤ比が高くなるとサポートヨークシートにかかる揺動方向への荷重も大きくなるが、傾斜面に対して垂直又は鋭角のエッジを構成する傾斜方向端面により、揺動方向へのずれが確実に防止される。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1の実施形態によるラック軸の支持構造について図1〜図3を参照して説明する。
図3は、当該ラック軸の支持構造を含むラック・ピニオン式電動パワーステアリング装置のラック・ピニオン周辺の断面図である。図において、ハウジング1内に、軸受2及び3を介して、ピニオン軸5が回転自在に支持されている。ハウジング1の上端部とピニオン軸5との間には、オイルシール4が装着されている。ピニオン軸5に形成されたピニオン5aには、紙面に垂直な方向に伸びるラック軸6の側面に形成されたラック6aが、噛みあっている。ハウジング1と一体に形成され、図の左方に突出した円筒部1aの端部には、キャップ7が取り付けられている。このキャップ7とラック軸6との間には、サポートヨーク8が設けられている。サポートヨーク8は、ラック軸6を、これに交差する方向から支持する部材である。サポートヨーク8は、図の左右方向に若干の範囲で摺動可能となるように、円筒部1aに保持されており、かつ、圧縮コイルばね10によって右方向に付勢されている。サポートヨーク8にY字状(横向き)に形成された谷状部8yには、摺接部材としてのサポートヨークシート9が取り付けられている。圧縮コイルばね10の付勢を受けたサポートヨーク8は、サポートヨークシート9を介して、ラック軸6に押し付けられる。従って、ラック6aとピニオン5aとの間には所定の圧力が付与される。また、ラック軸6の左半部が谷状部8yに填り込むことにより、ラック軸6は、サポートヨーク8により紙面に垂直な方向に案内される。
【0010】
図2の(a)は、上記ラック軸6をラック6a側から見た図であり、(b)は当該ラック軸6と、サポートヨーク8とを示す図である。このラック6aは、中央側(図の右側)から両端部(右端部は省略)に向かってギヤ比が高く変化しているVGRギヤである。
【0011】
図1は、上記サポートヨーク8及びサポートヨークシート9を示す図であり、(a)及び(b)はそれぞれサポートヨーク8のみの断面図及び正面図、(c)は(a)におけるC部拡大図、(d)及び(e)はそれぞれサポートヨーク8にサポートヨークシート9を取り付けた状態の断面図及び正面図である。(a)において、サポートヨーク8は、左半部が略円筒状であり、かつ、右半部が横向きのY字状の谷状部8yを形成するように構成されている。(a)〜(c)において、谷状部8yは、一対の傾斜面8aと、直径方向に設けた溝8dとによって構成されている。一対の傾斜面8aは、ラック軸6を、これに交差する方向から支持し、溝8dは、ラック軸6をラック軸方向に案内する。各傾斜面8aには一定の深さで四角形の凹部8bが形成されており、この凹部8bと傾斜面8aとの境界に4つの端面が形成されている。ラック軸の移動方向側端面8b1は傾斜面8aに対して垂直に形成されている。また、傾斜方向の下側端面8b2も同様であり、傾斜面8aに対して垂直のエッジE((c)参照)を構成している。一方、傾斜方向の上側端面8b3は、傾斜面8aに対して垂直ではなく、背面8e((a)参照)に対して垂直である。溝8dの中央部には貫通孔8cが設けられている。
【0012】
(d)及び(e)において、サポートヨークシート9は、サポートヨーク8の谷状部8yに嵌着される摺接用部材であって、耐摩耗性に優れた合成樹脂又は金属に同様の合成樹脂をコーティングしたものからなる。サポートヨークシート9は、裏面側に、サポートヨーク8の凹部8bと合致する形状の突起部9bと、位置決め用の突起部9cとを有する。サポートヨークシート9を谷状部8yに押し込んで、突起部9cを貫通孔8cに挿入することにより位置決めが行われ、突起部9bが凹部8bに嵌着される。この状態で突起部9bは、ラック軸の移動方向側においては端面8b1に当接し、傾斜面8aの傾斜方向においては下側端面8b2に当接して確実に固定される。従って、ラック軸の摺動方向((e)のA方向)及び揺動方向((d)のB方向)のいずれの方向に対しても、サポートヨークシート9のずれを防止することができる。特に、VGRギヤにおいてギヤ比が高くなると、サポートヨークシート9にかかる揺動方向への荷重も非常に大きくなるが、傾斜面8aに対して垂直のエッジを構成する下側端面8b2により、揺動方向へのずれを確実に防止することができる。
【0013】
図4は、上記凹部8bの形状の変形例を示す図であり、(a)及び(b)は図1の(c)に対応する断面図である。(a)に示す凹部8bが図1の(c)と異なる点は、凹部8bの下側端面8b2が傾斜面8aに対して鋭角のエッジEを構成していることである。また、図示しないサポートヨークシートの突起部は、このような凹部8bに合致する形状である(以下の他の変形例も同様)。上記のような鋭角のエッジEは、揺動に対するずれ防止効果が高い。
また、(b)に示す凹部8bが図1の(c)と異なる点は、凹部8bの上側端面8b3が傾斜面8aに対して垂直なことである。このような凹部8bは、サポートヨークシート9の装着の容易性にはやや欠けるが、下側端面8b2及び上側端面8b3の両方によって、揺動に対して優れたずれ防止効果を発揮する。
また、(c)に示す凹部8bは上方に開放された形状であり、すなわち上側端面が無い点で、図1の(c)に示す形態とは異なる。このような凹部8bによっても、下側端面8b2の存在により、図1の(c)に示す凹部8bと同様の作用効果が得られる。
【0014】
上記各変形例から明らかなように、凹部8bは、下側端面8b2及び上側端面8b3の少なくとも一方が傾斜面8aに対して直角又は鋭角のエッジを構成するものであればよい。また、凹部8bは四角形の他、(c)に示すように上方が開放された形や、その逆に下方が開放された形であってもよい。さらに、四角形等に限らず、U字状、V字状、円形、楕円形等であってもよい。要するに、凹部8bは、傾斜面8aの傾斜方向側端面と、ラック軸の移動方向側端面とを備えており、かつ、傾斜方向側端面(8b2又は8b3)が傾斜面8aに対して垂直又は鋭角のエッジを構成するものであればよい。
【0015】
図5は、第2の実施形態によるラック軸の支持構造におけるサポートヨークシート9を示す側面図である。なお、サポートヨークやラック軸の構成は、図1や図2に示すものと同一である。
図5において、このサポートヨークシート9は、傾斜面部9aの表面が一平面ではなく、平面と曲面とにより構成されている。すなわち、傾斜面部9aの表面のうち、ラック軸6(図2)との接触中心となる中間部P2のみが平面であり、上部P3及び下部P1は、ラック軸6の軸方向(図5の紙面に垂直な方向)に直交する方向に曲率R(例えば50mm程度)を有する、ラック軸側に凸形状な凸曲面である。このような構造によれば、通常は主として中間部P2がラック軸6と接触するため、傾斜面部9a全体が接触する場合に比べて接触面積が小さい。従って、サポートヨークシート9とラック軸6との摺動抵抗を低減することができ、サポートヨークシート9の摩耗を低減することができる。また、サポートヨークシート9とラック軸6との間に特に強い圧力がかかったときには、中間部P2が押されて扁平化し、上部P3及び下部P1を含めた傾斜面部9a全体で圧力を受けることができる。
【0016】
【発明の効果】
以上のように構成された本発明は以下の効果を奏する。
請求項1のラック軸の支持構造によれば、サポートヨークシートの突起部がサポートヨークの凹部に係合し、凹部の傾斜方向側端面が傾斜面に対して垂直又は鋭角のエッジを構成しているので、大きな荷重を受けてもサポートヨークシートがずれない。
【0017】
また、通常は主として中間部がラック軸と接触することで傾斜面部全体が接触する場合に比べて接触面積が小さいので、サポートヨークシートとラック軸との摺動抵抗を低減することができる。従って、サポートヨークシートの摩耗を低減することができる。
【0018】
請求項2のラック軸の支持構造によれば、ギヤ比が高くなるとサポートヨークシートにかかる揺動方向への荷重も非常に大きくなるが、傾斜面に対して垂直又は鋭角のエッジを構成する傾斜方向端面により、揺動方向へのずれを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態によるラック軸の支持構造におけるサポートヨーク及びサポートヨークシートを示す図であり、(a)及び(b)はそれぞれサポートヨークのみの断面図及び正面図、(c)は(a)におけるC部拡大図、(d)及び(e)はそれぞれサポートヨークにサポートヨークシートを取り付けた状態の断面図及び正面図である。
【図2】(a)は、上記ラック軸の支持構造におけるラック軸をラック側から見た図であり、(b)は当該ラック軸と、サポートヨークとを示す図である。
【図3】上記ラック軸の支持構造を含むラックピニオン式電動パワーステアリング装置のラック・ピニオン周辺の断面図である。
【図4】上記ラック軸の支持構造におけるサポートヨークの凹部の他の例を示す図である。
【図5】第2の実施形態によるラック軸の支持構造におけるサポートヨークシートの側面図である。
【図6】従来のサポートヨーク及びサポートヨークシートを示す斜視図である。
【図7】従来のサポートヨーク、サポートヨークシート、ラック軸及びピニオン軸を示す断面図である。
【符号の説明】
5a ピニオン
6 ラック軸
6a ラック
8 サポートヨーク
8a 傾斜面
8b 凹部
8b1 端面
8b2 下側端面
8b3 上側端面
8y 谷状部
9 サポートヨークシート
9a 傾斜面部
9b 突起部
E エッジ
Claims (2)
- ラック・ピニオン式ステアリング装置におけるラック軸の支持構造において、
ラック軸と、
前記ラック軸を、これに交差する方向から支持する一対の傾斜面を含む谷状部を有し、前記傾斜面には傾斜方向側端面と、前記ラック軸の移動方向側端面とを有する凹部が形成され、前記傾斜方向側端面は、前記傾斜面に対して垂直又は鋭角のエッジを構成するサポートヨークと、
前記谷状部に嵌着される摺接用部材であって、前記傾斜面に対応する傾斜面部の表面側において前記ラック軸に摺接し、裏面側には前記凹部の形状に合致して係合する突起部を有するサポートヨークシートとを備え、
前記サポートヨークシートの傾斜面部の表面のうち、前記ラック軸との接触中心となる中間部が平面であり、その上部及び下部は、前記ラック軸の軸方向に直交する方向に曲率を有する、前記ラック軸側に凸形状な凸曲面であることを特徴とするラック軸の支持構造。 - 前記ラック軸は、中央から端部に向かってギヤ比が変化するものである請求項1記載のラック軸の支持構造。
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