JP3582123B2 - ポリアリーレンスルフィドの製造法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド(以下、PASと略すことがある)の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PASは耐熱性、成形加工性に優れ、更には良好な耐薬品性、難燃性、寸法安定性等を有するため、電気・電子部品あるいは機械部品等に広く使用されている。しかし、PASは他の樹脂との接着性、特にエポキシ樹脂との接着性が比較的悪い。そのため、例えばエポキシ系接着剤によるPAS同士の接合、PASと他の材料との接合、あるいはエポキシ樹脂による電気・電子部品の封止等の際に、PASとエポキシ樹脂との接着性の悪さが問題となっていた。
【0003】
かかる問題に鑑みて、PASとエポキシ樹脂との接着性を改良する種々の試みがなされている。例えば、特開平2‐272063号公報にはカルナバワックスを含むポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと略すことがある)樹脂組成物、特開平4‐275368号公報には繊維状及び/又は非繊維状充填剤とポリアルキレンエーテル化合物を配合してなるPPS樹脂組成物、特開平5‐171041号公報には橋かけポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂を含むPPS樹脂組成物、特開平6‐57136号公報には芳香族スルホン化合物、及び繊維状及び/又は非繊維状充填剤を配合してなるPPS樹脂組成物、特開平6‐107946号公報には脂肪族ポリエステル、及び繊維状及び/又は非繊維状充填剤を配合してなるPPS樹脂組成物、また、特開平6‐166816号公報にはポリ(エチレンシクロヘキサンジメチレンテレフタレート)共重合体を配合してなるPPS樹脂組成物が夫々開示されている。しかし、上記のいずれにおいても、PPSより耐熱性の低い物質を添加するため、樹脂組成物の耐熱性が低下し、更には機械的強度が著しく低下する樹脂組成物もあった。
【0004】
また、特開平4‐198267号公報には、カルボキシル基含有PASを含むPAS樹脂組成物、また特開平5‐25388号公報には、アミノ基含有PASを含むPAS樹脂組成物が開示されている。しかし、これらは例えばカルボキシル基又はアミノ基を有するジクロルベンゼンを共重合させて製造するが、反応系にこれらのジクロルベンゼンが残存するという製造上の問題があると共に、得られたPASの接着強度も十分なものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のPASの持つ高い耐熱性と機械的強度に加えて、エポキシ樹脂等との接着性にも優れたPAS樹脂を作ることができ、しかも溶媒の回収率が高く、水洗浄工程を簡略化できるので、生産性高く、かつコスト的に有利に製造する方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、パラジハロ芳香族化合物、及び反応系内のパラジハロ芳香族化合物の反応率が0乃至80%未満の時点で仕込ジハロ芳香族化合物の全量に対して0.5〜10モル%のメタジハロ芳香族化合物を反応系に添加し、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることにより得たポリアリーレンスルフィドのスラリーを濾過した後、得られた含溶媒濾過ケーキを非酸化性ガス雰囲気下150〜250℃の温度で加熱して溶媒を除去し、次いで水洗浄することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造法である。
【0007】
本発明において、上記従来技術におけるような第三の物質又は官能基を加えることを要せずに接着性が著しく改善されることは、予期せざることであった。
【0008】
本発明で添加するパラ及びメタジハロ芳香族化合物において、メタジハロ芳香族化合物の量の下限は仕込ジハロ芳香族化合物の全量に対して0.5モル%、好ましくは1モル%であり、上限は10モル%、好ましくは5.0モル%である。上記範囲未満では、製造されたPASの接着性が劣り、上記範囲を超えては、製造されたPASの融点が著しく低下し、PAS本来の性質である耐熱性が損なわれ、実用性に問題が生じ好ましくない。
【0009】
メタジハロ芳香族化合物は、反応系内のパラジハロ芳香族化合物の反応率が0乃至80%未満の時点で添加される。パラジハロ芳香族化合物の反応率が80%以上では、製造されたPASの接着性が劣り、また粘度低下を引起こし、かつメタジハロ芳香族化合物が反応系に未反応のまま残存するため好ましくない。好ましくはパラ及びメタジハロ芳香族化合物は、反応系に同時的に添加される。このように両者を同時的に添加することにより、PASの接着性を更に良好にすることができる。重合反応系に添加するパラ及びメタジハロ芳香族化合物の合計量は、アルカリ金属硫化物1モルに対して、好ましくは0.9〜1.1モル、特に好ましくは0.96〜1.05モルである。該範囲内で使用することにより、高分子量のPASを得ることができる。該添加量が上記範囲未満では、著しく低分子量のPASしか得られず、またパラ及びメタジハロ芳香族化合物の反応率が低下し、経済的にも不利である。上記範囲を超えては、解重合を起こすので好ましくない。メタジハロ芳香族化合物を反応途中に装入する場合には、例えばメタジハロ芳香族化合物をそのまま、あるいは有機アミド系溶媒として使用するN‐メチルピロリドン等に溶解して、加圧注入ポンプを用いて反応缶内に圧入することにより行うことができる。
【0010】
本発明の方法において用いられるパラ及びメタジハロ芳香族化合物は公知である。例えば、特公昭45‐3368号公報、特開平2‐103232号公報又は特公平4‐64618号公報記載のものから選ぶことができる。
【0011】
パラジハロ芳香族化合物としては、例えばp‐ジクロルベンゼン、p‐ジブロモベンゼン、1‐クロロ‐4‐ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,5‐ジクロルトルエン、2,5‐ジクロルキシレン、1‐エチル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐エチル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐エチル‐2‐ブロモ‐5‐クロロベンゼン、1,3,4,6‐テトラメチル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐シクロヘキシル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐ベンジル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,5‐ジクロルベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,5‐ジブロモベンゼン、1‐ヘキシル‐2,5‐ジクロルベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記のうちジハロゲン化ベンゼンが好ましく、このうちp‐ジクロルベンゼンが特に好ましい。また、これらの化合物は、夫々単独で又は混合物として使用することができる。
【0012】
メタジハロ芳香族化合物としては、例えばm‐ジクロルベンゼン、m‐ジブロモベンゼン、1‐クロロ‐3‐ブロモベンゼン等のジハロゲン化ベンゼン、あるいは2,4‐ジクロルトルエン、2,4‐ジクロルキシレン、1‐エチル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐エチル‐2‐ブロモ‐4‐クロロベンゼン、1,2,4,6‐テトラメチル‐3,5‐ジクロルベンゼン、1‐シクロヘキシル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐ベンジル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐フェニル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,4‐ジクロルベンゼン、1‐p‐トルイル‐2,4‐ジブロモベンゼン、1‐ヘキシル‐2,4‐ジクロルベンゼン等の置換ジハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。上記のうちジハロゲン化ベンゼンが好ましく、このうちm‐ジクロルベンゼンが特に好ましい。これらの化合物は、夫々単独で又は混合物として使用することができる。
【0013】
本発明の反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめる方法としては、特開平5‐222196号公報に記載の方法を使用することができる。
【0014】
還流される液体は、水とアミド系溶媒の蒸気圧差の故に、液相バルクに比較して水含有率が高い。この水含有率の高い還流液は、反応溶液上部に水含有率の高い層を形成する。その結果、残存のアルカリ金属硫化物(例えばNa2 S)、ハロゲン化アルカリ金属(例えばNaCl)、オリゴマー等が、その層に多く含有されるようになる。従来法においては230℃以上の高温下で、生成したPASとNa2 S等の原料及び副生成物とが均一に混じりあった状態では、高分子量のPASが得られないばかりでなく、せっかく生成したPASの解重合も生じ、チオフェノールの副生成が認められる。しかし、本発明では、反応缶の気相部分を積極的に冷却して、水分に富む還流液を多量に液相上部に戻してやることによって上記の不都合な現象が回避でき、反応を阻害するような因子を真に効率良く除外でき、高分子量PASを得ることができるものと思われる。但し、本発明は上記現象による効果のみにより限定されるものではなく、気相部分を冷却することによって生じる種々の影響によって、高分子量のPASが得られるのである。
【0015】
本発明においては、従来法のように反応の途中で水を添加することを要しない。しかし、水を添加することを全く排除するものではない。但し、水を添加する操作を行えば、本発明の利点のいくつかは失われる。従って、好ましくは、重合反応系内の全水分量は反応の間中一定である。
【0016】
反応缶の気相部分の冷却は、外部冷却でも内部冷却でも可能であり、自体公知の冷却手段により行える。たとえば、反応缶内の上部に設置した内部コイルに冷媒体を流す方法、反応缶外部の上部に巻きつけた外部コイルまたはジャケットに冷媒体を流す方法、反応缶上部に設置したリフラックスコンデンサーを用いる方法、反応缶外部の上部に水をかける又は気体(空気、窒素等)を吹き付ける等の方法が考えられるが、結果的に缶内の還流量を増大させる効果があるものならば、いずれの方法を用いても良い。外気温度が比較的低いなら(たとえば常温)、反応缶上部に従来備えられている保温材を取外すことによって、適切な冷却を行うことも可能である。外部冷却の場合、反応缶壁面で凝縮した水/アミド系溶媒混合物は反応缶壁を伝わって液相中に入る。従って、該水分に富む混合物は、液相上部に溜り、そこの水分量を比較的高く保つ。内部冷却の場合には、冷却面で凝縮した混合物が同様に冷却装置表面又は反応缶壁を伝わって液相中に入る。
【0017】
一方、液相バルクの温度は、所定の一定温度に保たれ、あるいは所定の温度プロフィールに従ってコントロールされる。一定温度とする場合、 230〜275 ℃の温度で 0.1〜20時間反応を行うことが好ましい。より好ましくは、 240〜265 ℃の温度で1〜6時間である。より高い分子量のPASを得るには、2段階以上の反応温度プロフィールを用いることが好ましい。この2段階操作を行う場合、第1段階は 195〜240 ℃の温度で行うことが好ましい。温度が低いと反応速度が小さすぎ、実用的ではない。 240℃より高いと反応速度が速すぎて、十分に高分子量なPASが得られないのみならず、副反応速度が著しく増大する。第1段階の終了は、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が1モル%〜40モル%、且つ分子量が 3,000〜20,000の範囲内の時点で行うことが好ましい。より好ましくは、重合反応系内ジハロ芳香族化合物残存率が2モル%〜15モル%、且つ分子量が 5,000〜15,000の範囲である。残存率が40モル%を越えると、第2段階の反応で解重合など副反応が生じやすく、一方、1モル%未満では、最終的に高分子量PASを得難い。その後昇温して、最終段階の反応は、反応温度 240〜270 ℃の範囲で、1時間〜10時間行うことが好ましい。温度が低いと十分に高分子量化したPASを得ることができず、また 270℃より高い温度では解重合等の副反応が生じやすくなり、安定的に高分子量物を得難くなる。
【0018】
実際の操作としては、先ず不活性ガス雰囲気下で、アミド系溶媒中のアルカリ金属硫化物中の水分量が所定の量となるよう、必要に応じて脱水または水添加する。水分量は、好ましくは、アルカリ金属硫化物1モル当り0.5〜2.5モル、特に0.8〜1.2モルとする。2.5モルを超えては、反応速度が小さくなり、しかも反応終了後の濾液中にフェノール等の副生成物量が増大し、重合度も上がらない。0.5モル未満では、反応速度が速すぎ、十分な高分子量の物を得ることができないと共に、副反応等の好ましくない反応が生ずる。
【0019】
反応時の気相部分の冷却は、一定温度での1段反応の場合では、反応開始時から行うことが望ましいが、少なくとも 250℃以下の昇温途中から行わなければならない。多段階反応では、第1段階の反応から冷却を行うことが望ましいが、遅くとも第1段階反応の終了後の昇温途中から行うことが好ましい。冷却効果の度合いは、通常反応缶内圧力が最も適した指標である。圧力の絶対値については、反応缶の特性、攪拌状態、系内水分量、ジハロ芳香族化合物とアルカリ金属硫化物とのモル比等によって異なる。しかし、同一反応条件下で冷却しない場合に比べて、反応缶圧力が低下すれば、還流液量が増加して、反応溶液気液界面における温度が低下していることを意味しており、その相対的な低下の度合いが水分含有量の多い層と、そうでない層との分離の度合いを示していると考えられる。そこで、冷却は反応缶内圧が、冷却をしない場合と比較して低くなる程度に行うのが好ましい。冷却の程度は、都度の使用する装置、運転条件などに応じて、当業者が適宜設定できる。
【0020】
上記の反応条件を種々選択することにより、所望の粘度を持つPASを製造することができる。
【0021】
ここで使用する有機アミド系溶媒は、PAS重合のために知られており、たとえばN‐メチルピロリドン(NMP)、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルカプロラクタム等、及びこれらの混合物を使用でき、NMPが好ましい。これらは全て、水よりも低い蒸気圧を持つ。
【0022】
本発明で用いられるアルカリ金属硫化物も公知であり、たとえば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物である。これらの水和物及び水溶液であっても良い。又、これらにそれぞれ対応する水硫化物及び水和物を、それぞれに対応する水酸化物で中和して用いることができる。安価な硫化ナトリウムが好ましい。
【0023】
PASの分子量をより大きくするために、例えば1,3,5‐トリクロロベンゼン、1,2,4‐トリクロロベンゼン等のポリハロ化合物を、パラ及びメタジハロ芳香族化合物の合計量に対して好ましくは5モル%以下の濃度で使用することもできる。
【0024】
また、他の少量添加物として、末端停止剤、修飾剤としてのモノハロ化物を併用することもできる。
【0025】
本発明においては、上記工程で得られたPASスラリーを濾過した後、得られた含溶媒濾過ケーキを非酸化性ガス雰囲気下150〜250℃の温度で加熱して溶媒を除去し、次いで水洗浄を施す。
【0026】
例えば、上記のようにして得られたPASスラリーを濾過し、溶媒を含むPASケーキを得る。次いで、該PASケーキは、ヘリウム、アルゴン、水素、窒素等の非酸化性ガス気流中、好ましくは窒素ガス気流中、150〜250℃、好ましくは180〜230℃の温度で、好ましくは0.5〜20時間、特に好ましくは1〜10時間加熱される。該加熱は、好ましくは常圧〜3気圧、特に好ましくは常圧下で行われる。上記の加熱による溶媒除去を行うことにより、PASの接着強度を高めることができると共に、従来の水洗浄により溶媒を除去する方法に比べて、水洗浄等の工程を簡略化でき、かつ溶媒の回収率を著しく向上せしめることができるため、生産性が高くコスト的に有利である。
【0027】
水洗浄は、好ましくは上記加熱後の濾過ケーキを水に分散させることにより行われる。例えば、上記のようにして得られた加熱後のPASケーキを、重量で好ましくは1〜5倍の水中に投入して、好ましくは常温〜90℃で、好ましくは5分間〜10時間攪拌混合した後、濾過する。該攪拌混合及び濾過操作を好ましくは2〜10回繰り返すことにより、PASに付着した溶媒及び副生塩の除去を行って水洗浄を終了する。上記のようにして水洗浄を行うことにより、フィルターケーキに水を注ぐ洗浄方法に比べて少ない水量で効率的な洗浄が可能となる。
【0028】
本発明の方法により製造されたPASは、急激な結晶化が進行しないので、成形収縮等によるクラック発生等を抑制することができ、エポキシ樹脂等の熱可塑性樹脂と高い接着性を有する。従って、電気・電子部品の封止等の分野において有用である。
【0029】
本発明のPASを成形加工する際には、慣用の添加剤、例えばカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン等の粉末状充填剤、又は炭素繊維、ガラス繊維、アスベスト繊維、ポリアラミド繊維等の繊維状充填剤を混入することができる。
【0030】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0031】
【実施例】
実施例において、溶融粘度V6 は、島津製作所製フローテスターCFT‐500Cを用いて300℃、荷重20kgf/cm2 、L/D=10で6分間保持した後に測定した粘度(ポイズ)である。
【0032】
DSCにより、結晶化温度Tc 及び融点Tm を測定した。装置としては、セイコー電子製示差走査熱量計SSC/5200を用い、以下のようにして測定した。試料10mgを窒素気流中、昇温速度20℃/分で室温から320℃まで昇温した後、320℃で5分間保持して溶融した。次いで10℃/分の速度で冷却した。このときの発熱ピーク温度を結晶化温度Tc とした。再び室温から320℃まで10℃/分の速度で昇温した時の吸熱ピーク温度を融点Tm とした。
【0033】
パラジクロルベンゼン(以下ではp‐DCBと略すことがある)及びメタジクロルベンゼン(以下ではm‐DCBと略すことがある)の反応率は、ガスクロマトグラフィーによる測定結果から算出した。ここで、各反応率は下記式により求めた。
【0034】
【数1】
p‐DCBの反応率(%)=
(1−残存p‐DCB重量/仕込p‐DCB重量)×100
【0035】
【数2】
m‐DCBの反応率(%)=
(1−残存m‐DCB重量/仕込m‐DCB重量)×100
接着強度の測定は下記の通りに行った。PPS40重量部にガラスファイバー(CS 3J‐961S、商標、日東紡績株式会社製)30重量部及び炭酸カルシウム(SL‐1000、商標、竹原化学工業株式会社製)30重量部を混合した後、二軸異方向回転押出機を用い320℃で混練して、ペレットを作成した。得られたペレットから、シリンダー温度320℃、金型温度130℃に設定した射出成形機により、JIS K6850に従う試験片を作成した。JIS K6850に準拠し、得られた試験片をエポキシ樹脂系接着剤[長瀬チバ株式会社製、主剤(XNR3101、商標)/硬化剤(XNH3101、商標)=100重量部/33.3重量部]を用いて90℃、30分の硬化条件で接着した後、引張速度5mm/分、チャック間距離130mmで引張試験を行い、接着強度を測定した。但し、実施例5については、PPS60重量部に上記ガラスファイバー40重量部を混合して実施した。
【0036】
【実施例1】
150リットルオートクレーブに、フレーク状硫化ソーダ(60.4重量%Na2 S)19.381kgと、N‐メチル‐2‐ピロリドン(以下ではNMPと略すことがある)45.0kgを仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水4.640kgを留出させた(残存する水分量は硫化ソーダ1モル当り1.12モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、p‐DCB22.185kg、m‐DCB0.453kg(全DCBに対して2.0モル%)及びNMP18.0kgを仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いて1kg/cm2 Gに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、8.52kg/cm2 Gであった。
【0037】
得られたスラリーを濾過して溶媒を除去し、次に含溶媒濾過ケーキを窒素気流中、220℃で約6時間加熱し溶媒を除去した。次に、得られたPPS粉末に常法により水洗浄、濾過を7回繰り返した後、120℃で約8時間熱風循環乾燥機中で乾燥し、白色粉末状のポリマーを得た。
【0038】
p‐DCBの反応率は98.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0039】
【実施例2】
p‐DCBを22.525kg、m‐DCBを0.113kg(全DCBに対して0.5モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0040】
p‐DCBの反応率は98.4%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0041】
【実施例3】
p‐DCBを21.506kg、m‐DCBを1.132kg(全DCBに対して5.0モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0042】
p‐DCBの反応率は98.2%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0043】
【実施例4】
p‐DCBを20.827kg、m‐DCBを1.811kg(全DCBに対して8.0モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0044】
p‐DCBの反応率は98.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0045】
【実施例5】
p‐DCBを21.609kg、m‐DCBを0.441kg(全DCBに対して2.0モル%)とし、かつ反応を液温220℃で5時間、その後昇温して液温260℃で5時間行った以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0046】
p‐DCBの反応率は99.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0047】
【比較例1】
m‐DCBは添加せず、p‐DCBを22.638kgとした以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0048】
p‐DCBの反応率は98.4%であった。
【0049】
【比較例2】
p‐DCBを22.593kg、m‐DCBを0.045kg(全DCBに対して0.2モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0050】
p‐DCBの反応率は98.5%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0051】
【比較例3】
p‐DCBを19.921kg、m‐DCBを2.717kg(全DCBに対して12モル%)とした以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0052】
p‐DCBの反応率は98.2%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0053】
【比較例4】
オートクレーブ上部を冷却しなかった以外は、実施例5と同一の条件で実施した。反応中の最高圧力は、10.31kg/cm2 Gであった。
【0054】
p‐DCBの反応率は99.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0055】
【比較例5】
含溶媒濾過ケーキを窒素気流中で加熱処理しなかった以外は、実施例1と同一の条件で実施した。
【0056】
p‐DCBの反応率は98.1%であり、m‐DCBの反応率は100%であった。
【0057】
以上の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
実施例1〜4は、m‐DCBの添加量を本発明の範囲内で変化させたものである。m‐DCB添加量を増加すると、接着強度が増加する傾向にある。また、結晶化温度Tc 及び融点Tm はいずれも低下した。実施例5は、実施例1と同一条件下、反応を二段階としたものである。接着強度は良好で、本発明の効果を十分達成し得るものであった。
【0059】
一方、比較例1及び2は、夫々実施例1と同一条件下、m‐DCBを添加しなかったもの及びその添加量を本発明の範囲未満に低下させたものである。いずれの場合おいても、接着強度は著しく低かった。比較例3は、実施例1と同一条件下、m‐DCBの添加量が本発明の範囲を超えたものである。V6 、Tc 及びTm は著しく低く、PAS本来の耐熱性が損なわれており実用性のないものであった。比較例4は、実施例5と同一条件下、オートクレーブ上部を冷却しなかったものである。実施例5と比べて、PPSの接着強度は著しく低かった。比較例5は、実施例1と同一条件下、含溶媒濾過ケーキを窒素気流中で加熱処理しなかったものである。実施例1に比べて、PPSの接着強度は著しく低かった。
【0060】
【発明の効果】
本発明は、従来のPASの持つ高い耐熱性と機械的強度に加えて、エポキシ樹脂等との接着性にも優れたPAS樹脂を製造する方法を提供する。また、加熱により濾過ケーキ中の溶媒を除去するため、溶媒の回収率が著しく高く、かつ水洗浄工程を簡略化できる。従って、生産性が高く、かつコスト的に有利である。
Claims (5)
- 有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてポリアリーレンスルフィドを製造する方法において、パラジハロ芳香族化合物、及び反応系内のパラジハロ芳香族化合物の反応率が0乃至80%未満の時点で仕込ジハロ芳香族化合物の全量に対して0.5〜10モル%のメタジハロ芳香族化合物を反応系に添加し、かつ反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを液相に還流せしめることにより得たポリアリーレンスルフィドのスラリーを濾過した後、得られた含溶媒濾過ケーキを非酸化性ガス雰囲気下150〜250℃の温度で加熱して溶媒を除去し、次いで水洗浄することを特徴とするポリアリーレンスルフィドの製造法。
- パラジハロ芳香族化合物及びメタジハロ芳香族化合物を同時的に反応系内に添加する請求項1記載の方法。
- 1.0〜5.0モル%のメタジハロ芳香族化合物を添加する請求項1又は2記載の方法。
- 濾過ケーキの加熱を、180〜230℃で行う請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
- 水洗浄を、加熱後の濾過ケーキを水に分散させることにより行う請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP33581794A JP3582123B2 (ja) | 1994-12-21 | 1994-12-21 | ポリアリーレンスルフィドの製造法 |
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