JP2622849B2 - 水稲稚苗の育生方法及びその資材 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 （産業上の利用分野） 本発明は、無機繊維マットを使用する水稲稚苗の育生
方法及びその資材に関する。

（従来の技術） 従来、機械田植用の水稲苗は、統一された規格の育苗
箱（内法58cm×28cm×3cm）を用い、市販の土壌系又は
非土壌系資材、或いは農家で滅菌した土壌に肥料成分を
添加し、pH調整を行ったものを播種床とし、種籾を播種
後覆土して育苗している。この覆土用土壌としては、播
種床が土壌系の場合も非土壌系の場合も、市販土壌系資
材或いは農家調整土壌が用いられており、市販資材の場
合には、覆土中にも肥料成分を含有するが、農家調整土
壌の場合には、肥料成分を添加せずに必要肥料の全量が
播種床から供給されるのが普通である。非土壌系資材
は、土壌系に較べ一般に肥料保持力に乏しいものが多
い。

最近、非土壌系資材の一種として、ロックウール等の
無機繊維に肥料成分を添加して、育苗箱の形状に合わせ
てマット状に成形加工した無機繊維マットが、軽量で取
り扱いが容易であることから注目されている。

（発明が解決しようとする課題） しかしながら、この無機繊維マットも、一時に多量の
肥料の溶出が起こりやすく、そのため肥料成分を流亡に
より損失することばかりでなく、肥料をそれほど必要と
しない育苗初期において、肥料成分過剰に起因する障害
が見られたり、肥料吸収の旺盛な育苗後期には反対に肥
切れ症状を呈したりすることがしばしば見られるという
問題があった。

本発明は、従来の水稲稚苗の育生方法における肥やけ
等の塩類過剰による障害が、根部と高濃度塩類溶液との
接触によって起こることに着目してなされたものであっ
て、その目的は、肥料の過剰障害のない育生方法及びそ
の為の資材を提供することにある。

（課題を解決するための手段） 本発明者等は、無機繊維マットを播種床とする育苗に
おいて根部と直接接触しない覆土部分に必要な肥料成分
を保持させることにより、従来の技術における問題点が
解決されることを見出だし、本発明を完成するに至っ
た。

本発明の水稲稚苗の育生方法は、肥料成分無添加の無
機繊維マットよりなる播種床に播種後、肥料成分として
窒素、燐酸、加里をそれぞれ0.05〜0.3重量％含有する
覆土用土壌で覆土することを特徴とする。

本発明において用いる水稲稚苗育生資材として好まし
いものは、播種床が肥料成分無添加のロックウールマッ
トよりなり、覆土用土壌が肥料成分として窒素、燐酸、
加里をそれぞれ0.05〜0.3重量％含有する造粒された人
工土壌よりなるものである。

かくして、本発明においては、肥料保持能力に乏しい
無機繊維マットを水稲稚苗の育生に効果的に使用するこ
とができる。即ち、根部と接触する播種床部分となる無
機繊維マットには全く肥料を添加しないで、覆土部分に
肥料成分を全量保持させることによって、灌水等で肥料
成分を徐々に根部に供給し、肥料成分の過剰障害や肥切
れを回避することができる。

以下、本発明を更に詳細に説明する。

本発明における肥料成分無添加の無機繊維マットより
なる播種床は、ロックウール等の無機繊維に肥料成分を
添加しないで、マット状に成形加工したものである。無
機繊維としては、例えばロックウール、グラスウール、
セラミックファイバー等があげられ、特に、製鉄所の高
炉から副生する高炉スラグ及び／又は例えば玄武岩、安
山岩、輝緑岩等の天然岩石をキュポラ、電気炉等で融解
し、遠心力及び／又は空気、水蒸気等の流体圧で吹製し
て繊維化したロックウール（岩綿、スラグウール、ミネ
ラルウールとも称される）が好ましい。このようなロッ
クウール等の無機繊維は、繊維が層状に集積した繊維集
合体になっており、播種床にするためには、高分子系結
合剤でマット状に成形すればよい。高分子系結合剤とし
ては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂
等の熱硬化性樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂等の
熱可塑性樹脂があげられるが、特に、耐水性の良好な熱
硬化性樹脂が好ましい。

本発明で使用される無機繊維マットよりなる播種床に
は、肥料成分を添加しないが、必要に応じて各種の添加
剤、例えば界面活性剤、高級アルコール等の親水性付与
剤、例えば硫酸、クエン酸、フミン酸、ニトロフミン
酸、ピートモス等のpH調整剤等を添加してもよい。無機
繊維マットよりなる播種床は、嵩密度50〜100kg/m³であ
って、根の食い込みをよくするためには、繊維の配向方
向が垂直のものが好ましい。

本発明による水稲稚苗の育生は、肥料無添加の無機繊
維マットよりなる播種床を育苗箱にセットし、灌水して
播種後、肥料成分を含有する覆土用土壌で約0.7cm程度
覆土し、灌水することにより行う。

本発明においては、このように、播種床に肥料成分を
全く添加せずに肥料成分の全必要量を覆土された土壌で
まかなうため、覆土用土壌には肥料保持力の高い土壌を
用いるのが好ましい。肥料保持力には塩基置換容量が目
安となり、40me/100g以上の肥料保持力を有するものが
好ましい。

本発明に用いる覆土用土壌には、肥料成分として窒
素、燐酸、加里をそれぞれ0.05〜0.3重量％保持させ
る。この保持量は一箱当たり1kgの覆土をした場合、窒
素、燐酸、加里を、それぞれ一箱について0.5〜3kg供給
することになり、育生に必要充分な量である。覆土用土
壌は、上記肥料成分を添加した天然土壌であってもよい
が、好ましくは土壌を滅菌、PH調整、肥料添加して粒径
５〜24メッシュに造粒した人工土壌を用いる。造粒に際
しては、肥料保持力や保水性を調整するために、腐植や
補助剤を添加するものも有用である。肥料成分として緩
効性肥料を用いてもよいが、上記のような人工土壌を用
いる場合には、肥料成分として通常の肥料を用いても、
その溶出速度は緩効化され所要育生期間中、水稲稚苗根
部に給肥されるので好ましい。

（実施例） 以下、本発明の具体的な実施例について説明する。

塩基置換容量42me/100gの混合土蔵を粉砕、40メッシ
ュ以下に篩分けし、硫安、重焼燐、塩化加里を、それぞ
れ窒素、燐酸、加里各0.2％となるように混合し、PH5に
調整、更に0.15％となるようポリビニルアルコール水溶
液を添加して８〜32メッシュに造粒、滅菌、加熱乾燥し
て覆土用培土とした。

ロックウールに高分子系結合剤としてフェノール樹脂
を２重量％及び親水性付与剤としてポリオキシエチレン
ノニルフェニルエーテル0.5重量％をそれぞれ添加し、
肥料成分は添加しないで、約250℃で10分間加熱して、
嵩密度80kg/m³の基材を製造した。この基材を育苗箱内
法に準じて58cm×28cm×1.8cmに裁断して、繊維の配向
方向が垂直の肥料成分無添加のロックウールマットとし
た。このロックウールマットを育苗箱に播種床としてセ
ットし、箱当たり２の灌水をしてから、催芽籾200gを
播種し、更に、0.5の灌水をして籾慣らしし、上記覆
土用培土1kgで覆土し、32℃に設定した発芽器中に２日
間置いて出芽させ、21日間育生した。結果を下記表に示
す。

また、比較のため、上記ロックウールマットの製造時
に硫安、燐安、硫酸カリを添加して、マット１枚当たり
窒素1.6g、燐酸1g、加里1g入りのロックウールマットを
製造し、この肥料入りロークウールマットに、山土を滅
菌、PH5に調整したもので覆土した場合（比較例１）、
及びこの肥料入りロックウールマットに窒素0.04％、燐
酸0.1％、加里0.1％を含む粒状培土1kgで覆土した場合
（比較例２）について、上記実施例と同様な条件で播
種、育生して、生育状態を比較した。

何れの場合においても、発芽障害や生育の不揃いは見
られず、21日目の調査結果は次の表に示す通りであっ
た。

本発明の実施例の場合、初期の肥料吸収が抑えられ、
後期までの持続量が増加するために、箱中肥料成分量が
同一の比較例２に較べて、草丈、第一葉鞘高は短めで、
葉数多く茎葉乾燥重の多きな充実した苗姿となってい
る。

（発明の効果） 以上説明した本発明の水稲稚苗の育生方法及びその資
材は、根部と接触する播種床部分となる無機繊維マット
には全く肥料を添加しないで、覆土部分に肥料成分を全
量保持させるるものであるから、灌水等により肥料成分
は徐々に溶出されてマット部分に供給され、育生初期に
塩類過剰障害を生じることなく、かつ育生終期まで肥料
成分を保持することができ、したがって、肥料保持能力
に乏しい無機繊維マットを水稲稚苗の育生に効果的に使
用することができる。

Claims (3)

(57)【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】肥料成分無添加の無機繊維マットよりなる
   播種床に播種後、肥料成分として窒素、燐酸、加里をそ
   れぞれ0.05〜0.3重量％含有する覆土用土壌で覆土する
   ことを特徴とする水稲稚苗の育生方法。
2. 【請求項２】肥料成分を含有する覆土用土壌が造粒され
   た人工土壌である特許請求の範囲第１項に記載の水稲稚
   苗の育生方法。
3. 【請求項３】播種床と覆土用土壌よりなり、該播種床が
   肥料成分無添加のロックウールマットであり、該覆土用
   土壌が肥料成分として窒素、燐酸、加里をそれぞれ0.05
   〜0.3重量％含有する造粒された人工土壌であることを
   特徴とする水稲稚苗育生資材。