以下、本発明の実施形態によるサスペンション装置を、4輪自動車に適用した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
図1は、実施形態によるサスペンション装置のシステム構成を示している。サスペンション装置1は、車体側と4つの車輪側(左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL、右後輪RR)との間にそれぞれ設けられている。各サスペンション装置1は、懸架ばね(図示せず)と、懸架ばねと並列関係をなして車体側と各車輪側との間に設けられた4つの油圧シリンダ(左前側油圧シリンダ2、右前側油圧シリンダ3、左後側油圧シリンダ4、右後側油圧シリンダ5)とを含んで構成されている。なお、図1中では、車両の各車輪位置を、左前輪(FL),右前輪(FR),左後輪(RL),右後輪(RR)として示している。
これら左前側油圧シリンダ2、右前側油圧シリンダ3、左後側油圧シリンダ4、右後側油圧シリンダ5は、車両の車体(ばね上)と各車輪(ばね下)との間に介装され、車体と各車輪の相対的な動きに応じて伸縮することにより、車両の振動を緩衝する油圧式の減衰力調整式緩衝器を構成している。左前輪側の左前側油圧シリンダ2は、有底筒状のチューブからなるシリンダ(液圧シリンダ)6と、該シリンダ6内に摺動可能に挿嵌されたピストン7と、一端側がピストン7に固定され他端側がシリンダ6外に突出したピストンロッド7Aを含んで構成されている。シリンダ6内は、ピストン7により上部室Aと下部室Bとの上,下の2室に画成されている。
これと同様に、右前側油圧シリンダ3、左後側油圧シリンダ4、右後側油圧シリンダ5についても、それぞれがシリンダ6、ピストン7およびピストンロッド7Aを含んで構成されている。そして、それぞれのシリンダ6内は、ピストン7により上部室Aと下部室Bとに画成されている。
左前側油圧シリンダ2と右前側油圧シリンダ3との間は、第1の前側接続配管8と第2の前側接続配管9とによりクロスで接続されている。即ち、第1の前側接続配管8は、左前側油圧シリンダ2の上部室Aと右前側油圧シリンダ3の下部室Bとの間を連通させるように、油圧シリンダ2,3間を左,右方向に延びて配置されている。第2の前側接続配管9は、左前側油圧シリンダ2の下部室Bと右前側油圧シリンダ3の上部室Aとの間を連通させるように、油圧シリンダ2,3間を左,右方向に延びて配置されている。このように、左前側油圧シリンダ2と右前側油圧シリンダ3とは、クロス配管(第1,第2の前側接続配管8,9)を介して接続された関連懸架装置を構成している。
左前側油圧シリンダ2の上部室Aと第1の前側接続配管8との接続部位には、左前圧縮側減衰力制御バルブ10が設けられている。左前圧縮側減衰力制御バルブ10は、左前側油圧シリンダ2の圧縮時に上部室Aから第1の前側接続配管8に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、上部室Aからの流れを減衰する。また、左前圧縮側減衰力制御バルブ10は、第1の前側接続配管8から上部室Aに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁10Aを有している。
一方、左前側油圧シリンダ2の下部室Bと第2の前側接続配管9との接続部位には、左前伸長側減衰力制御バルブ11が設けられている。左前伸長側減衰力制御バルブ11は、左前側油圧シリンダ2の伸長時に下部室Bから第2の前側接続配管9に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、下部室Bからの流れを減衰する。また、左前伸長側減衰力制御バルブ11は、第2の前側接続配管9から下部室Bに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁11Aを有している。
右前側油圧シリンダ3の上部室Aと第2の前側接続配管9との接続部位には、右前圧縮側減衰力制御バルブ12が設けられている。右前圧縮側減衰力制御バルブ12は、右前側油圧シリンダ3の圧縮時に上部室Aから第2の前側接続配管9に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、上部室Aからの流れを減衰する。また、右前圧縮側減衰力制御バルブ12は、第2の前側接続配管9から上部室Aに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁12Aを有している。
一方、右前側油圧シリンダ3の下部室Bと第1の前側接続配管8との接続部位には、右前伸長側減衰力制御バルブ13が設けられている。右前伸長側減衰力制御バルブ13は、右前側油圧シリンダ3の伸長時に下部室Bから第1の前側接続配管8に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、下部室Bからの流れを減衰する。また、右前伸長側減衰力制御バルブ13は、第1の前側接続配管8から下部室Bに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁13Aを有している。これら各減衰力制御バルブ10,11,12,13は、後述するコントローラ35からの駆動信号によって制御され、車両の走行状態に応じて左前側油圧シリンダ2、右前側油圧シリンダ3の伸縮時の減衰力が調整される。
左後側油圧シリンダ4と右後側油圧シリンダ5との間は、第1の後側接続配管14と第2の後側接続配管15とによりクロスで接続されている。即ち、第1の後側接続配管14は、左後側油圧シリンダ4の上部室Aと右後側油圧シリンダ5の下部室Bとの間を連通させるように、油圧シリンダ4,5間を左,右方向に延びて配置されている。第2の後側接続配管15は、左後側油圧シリンダ4の下部室Bと右後側油圧シリンダ5の上部室Aとの間を連通させるように、油圧シリンダ4,5間を左,右方向に延びて配置されている。このように、左後側油圧シリンダ4と右後側油圧シリンダ5とは、クロス配管(第1,第2の後側接続配管14,15)を介して接続された関連懸架装置を構成している。
左後側油圧シリンダ4の上部室Aと第1の後側接続配管14との接続部位には、左後圧縮側減衰力制御バルブ16が設けられている。左後圧縮側減衰力制御バルブ16は、左後側油圧シリンダ4の圧縮時に上部室Aから第1の後側接続配管14に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、上部室Aからの流れを減衰する。また、左後圧縮側減衰力制御バルブ16は、第1の後側接続配管14から上部室Aに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁16Aを有している。
一方、左後側油圧シリンダ4の下部室Bと第2の後側接続配管15との接続部位には、左後伸長側減衰力制御バルブ17が設けられている。左後伸長側減衰力制御バルブ17は、左後側油圧シリンダ4の伸長時に下部室Bから第2の後側接続配管15に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、下部室Bからの流れを減衰する。また、左後伸長側減衰力制御バルブ17は、第2の後側接続配管15から下部室Bに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁17Aを有している。
右後側油圧シリンダ5の上部室Aと第2の後側接続配管15との接続部位には、右後圧縮側減衰力制御バルブ18が設けられている。右後圧縮側減衰力制御バルブ18は、右後側油圧シリンダ5の圧縮時に上部室Aから第2の後側接続配管15に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、上部室Aからの流れを減衰する。また、右後圧縮側減衰力制御バルブ18は、第2の後側接続配管15から上部室Aに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁18Aを有している。
一方、右後側油圧シリンダ5の下部室Bと第1の後側接続配管14との接続部位には、右後伸長側減衰力制御バルブ19が設けられている。右後伸長側減衰力制御バルブ19は、下部室Bから第1の後側接続配管14に向けて流出する油液の減衰力を電子制御で可変に調整し、下部室Bからの流れを減衰する。また、右後伸長側減衰力制御バルブ19は、第1の後側接続配管14から下部室Bに向けて油液が流入するのを許し、逆向きの流れを阻止するチェック弁19Aを有している。これら各減衰力制御バルブ16,17,18,19は、コントローラ35からの駆動信号によって制御され、車両の走行状態に応じて左後側油圧シリンダ4、右後側油圧シリンダ5の伸縮時の減衰力が調整される。
前側ブリッジ通路20は、第1の前側接続配管8と第2の前側接続配管9との間を接続している。前側ブリッジ通路20の途中には、後述する前側ブリッジバルブ33が設けられ、この前側ブリッジバルブ33によって前側ブリッジ通路20が連通、遮断される。前側ブリッジ通路20が連通したときには、第1,第2の前側接続配管8,9間が連通し、左前側油圧シリンダ2と右前側油圧シリンダ3とは、上部室Aと下部室Bとが互いに連通した状態となる。
前側ブリッジ通路20には、前側ブリッジバルブ33を迂回するバイパス通路21が設けられ、バイパス通路21にはオリフィス22が設けられている。オリフィス22は、サスペンション装置1による車体のロール剛性に影響を与えない微小なサイズであり、前側ブリッジバルブ33と並列に設けられている。オリフィス22は、温度変化等により前側ブリッジバルブ33の前後(後述する左側連通路24と右側連通路25との間)に圧力差が生じたときに、この圧力差を徐々に減少させる。
後側ブリッジ通路23は、第1の後側接続配管14と第2の後側接続配管15との間を接続している。後側ブリッジ通路23の途中には、後述する後側ブリッジバルブ34が設けられ、この後側ブリッジバルブ34によって後側ブリッジ通路23が連通、遮断される。後側ブリッジ通路23が連通したときには、第1,第2の後側接続配管14,15間が連通し、左後側油圧シリンダ4と右後側油圧シリンダ5とは、上部室Aと下部室Bとが互いに連通した状態となる。
左側連通路24は、第2の前側接続配管9と第2の後側接続配管15とに接続され、第2の前側接続配管9と第2の後側接続配管15との間を常時連通させている。右側連通路25は、第1の前側接続配管8と第1の後側接続配管14とに接続され、第1の前側接続配管8と第1の後側接続配管14との間を常時連通させている。
左側連通路24の途中には、左アキュムレータ装置26が設けられている。左アキュムレータ装置26は、左側連通路24の途中から分岐した導油管路27の先端に設けられ、左側連通路24を介して第2の前側接続配管9と第2の後側接続配管15とに接続されている。左アキュムレータ装置26は、前,後のブリッジバルブ33,34が閉弁している場合には、左前側油圧シリンダ2の下部室B、右前側油圧シリンダ3の上部室A、左後側油圧シリンダ4の下部室B、右後側油圧シリンダ5の上部室Aの4つの油室の体積変化を補償する。
導油管路27の途中には、減衰バルブ28が設けられている。減衰バルブ28は、流入制御バルブ28Aと流出制御バルブ28Bとオリフィス28Cとが並列接続された弁装置として構成されている。減衰バルブ28は、左側連通路24から左アキュムレータ装置26に向けて油液が流入するときに、この油液に対してオリフィス28Cと流入制御バルブ28Aとで絞り抵抗を与え、所定の減衰力を発生させて振動を抑制する。一方、左アキュムレータ装置26から左側連通路24に向けて油液が流出するときには、オリフィス28Cと流出制御バルブ28Bとにより油液に絞り抵抗を与え、所定の減衰力を発生させて振動を抑制する。
右側連通路25の途中には、右アキュムレータ装置29が設けられている。右アキュムレータ装置29は、右側連通路25の途中から分岐した導油管路30の先端に設けられ、右側連通路25を介して第1の前側接続配管8と第1の後側接続配管14とに接続されている。右アキュムレータ装置29は、前,後のブリッジバルブ33,34が閉弁している場合には、左前側油圧シリンダ2の上部室A、右前側油圧シリンダ3の下部室B、左後側油圧シリンダ4の上部室A、右後側油圧シリンダ5の下部室Bの4つの油室の体積変化を補償する。
導油管路30の途中には、流入制御バルブ31Aと流出制御バルブ31Bとオリフィス31Cとが並列接続された減衰バルブ31が設けられている。減衰バルブ31は、右側連通路25から右アキュムレータ装置29に向けて油液が流入するときに、この油液に対してオリフィス31Cと流入制御バルブ31Aとで絞り抵抗を与え、所定の減衰力を発生させて振動を抑制する。一方、右アキュムレータ装置29から右側連通路25に向けて油液が流出するときには、オリフィス31Cと流出制御バルブ31Bとにより油液に絞り抵抗を与え、所定の減衰力を発生させて振動を抑制する。
前側バルブ装置としての前側ブリッジバルブ33は、前側ブリッジ通路20に設けられ、第1の前側接続配管8および第2の前側接続配管9に接続されている。前側ブリッジバルブ33は、例えば2ポート2位置の切替弁からなり、第1の前側接続配管8と第2の前側接続配管9との間を連通する開弁位置(a)と、第1の前側接続配管8と第2の前側接続配管9との間を遮断する閉弁位置(b)とに切替えられる。前側ブリッジバルブ33は、コントローラ35から信号が供給されない無通電時には閉弁位置(b)を保持し、信号が供給された通電時には開弁位置(a)に切替えられるノーマルクローズ型(常閉型)の電磁弁である。前側ブリッジバルブ33は、開弁位置(a)となって第1の前側接続配管8と第2の前側接続配管9との間を連通する部位に、第1オリフィス部33Aが設けられている。従って、前側ブリッジバルブ33は、通電時に開弁位置(a)に切替えられることにより、第1オリフィス部33Aを通じて油液を流通させる。
後側バルブ装置としての後側ブリッジバルブ34は、後側ブリッジ通路23に設けられ、第1の後側接続配管14および第2の後側接続配管15に接続されている。後側ブリッジバルブ34は、例えば2ポート2位置の切替弁からなり、第1の後側接続配管14と第2の後側接続配管15との間を連通する開弁位置(c)と、第1の後側接続配管14と第2の後側接続配管15との間を遮断する閉弁位置(d)とに切替えられる。後側ブリッジバルブ34は、コントローラ35から信号が供給されない無通電時には開弁位置(c)を保持し、信号が供給された通電時には閉弁位置(d)に切替えられるノーマルオープン型(常開型)の電磁弁である。後側ブリッジバルブ34は、開弁位置(c)となって第1の後側接続配管14と第2の後側接続配管15との間を連通する部位に、第2オリフィス部34Aが設けられている。従って、後側ブリッジバルブ34は、無通電時に開弁位置(c)を保持することにより、第2オリフィス部34Aを通じて油液を流通させる。
ここで、前側ブリッジバルブ33に設けられた第1オリフィス部33Aと後側ブリッジバルブ34に設けられた第2オリフィス部34Aとは、オリフィス面積(通路面積)が異なっている。第1オリフィス部33Aのオリフィス面積をS1とし、第2オリフィス部34Aのオリフィス面積をS2とすると、第2オリフィス部34Aのオリフィス面積S2は、第1オリフィス部33Aのオリフィス面積S1よりも小さく設定されている(S2<S1)。
制御装置としてのコントローラ35は、前側ブリッジバルブ33、後側ブリッジバルブ34等の動作を電子制御するサスペンション装置1用のECU(Electronic Control Unit)である。なお、コントローラ35は、前,後のブリッジバルブ33,34の他、例えば各減衰力制御バルブ10〜13および16〜19の動作を制御するものである。コントローラ35の入力側には、例えばステアリングセンサ36、ステアリングトルクセンサ37、車速センサ38、車輪速センサ39、横Gセンサ40、ヨーレートセンサ41等が接続されている。
コントローラ35は、これら各センサ36〜41から出力されるステアリング機構の舵角に応じた舵角信号、ステアリングトルクに応じたトルク信号、車両の走行速度に応じた車速信号、車輪速に応じた車輪速信号、車体に作用する横Gに応じた横G信号、車両の走行時のヨーレートに応じたヨーレート信号に基づいて、車両の走行状態を判断する。そして、コントローラ35は、車両が直進走行を行っているか、旋回走行(車線変更、危険回避のダブルレーンチェンジ等を含む)を行っているかに応じて、前,後のブリッジバルブ33,34に対する通電状態を制御することにより、サスペンション装置1による車体のロール剛性の制御を行う。
ここで、コントローラ35による前,後のブリッジバルブ33,34に対する通電状態の制御は、車両の走行状態(ロール状態)に応じて、図2の表に示す第1モード、第2モード、第3モードの3つの態様に切替えられる。第1モードは、前側ブリッジバルブ33を無通電状態(OFF)とし、後側ブリッジバルブ34を通電状態(ON)とすることにより、前,後のブリッジバルブ33,34をいずれも遮断(閉弁)するモードである。第2モードは、前側ブリッジバルブ33を無通電状態(OFF)とし、後側ブリッジバルブ34を無通電状態(OFF)とすることにより、前側ブリッジバルブ33を遮断(閉弁)すると共に、後側ブリッジバルブ34を連通(開弁)するモードである。第3モードは、前側ブリッジバルブ33を通電状態(ON)とし、後側ブリッジバルブ34を無通電状態(OFF)とすることにより、前,後のブリッジバルブ33,34をいずれも連通(開弁)するモードである。なお、システムが失陥した場合のフェイルモードは、前,後のブリッジバルブ33,34がいずれも無通電状態(OFF)となり、前側ブリッジバルブ33を遮断(閉弁)すると共に、後側ブリッジバルブ34を連通(開弁)する。
コントローラ35は、各センサ36〜41から出力される信号に基づいて車両の走行状態を判断し、車両が直進走行を行っているか旋回走行を行っているかに応じて、前,後のブリッジバルブ33,34に対する通電状態を第1〜第3モードに切替える。例えば車両が旋回走行(ステアリング転舵)を行っていると判断した場合には、コントローラ35は第1モードまたは第2モードを実行する。ここで、旋回走行と判断した場合に、コントローラ35が第1,第2モードのどちらを実行するかは、例えば運転者が選択スイッチ(図示せず)を操作することにより、運転者の好みに応じて予め選択することができる。また、車両が直進走行を行っていると判断した場合には、コントローラ35は第3モードを実行する。
本実施形態は上述の如き構成を有するもので、車両が旋回走行を行っているとコントローラ35が判断した場合には、コントローラ35は、第1,第2モードのうち選択スイッチによって予め選択されたモードを実行する。ここで、選択スイッチによって第1モードが選択されている場合には、コントローラ35は、第1モードを実行するため、前側ブリッジバルブ33を無通電状態(OFF)とし、後側ブリッジバルブ34を通電状態(ON)とすることにより、前,後のブリッジバルブ33,34をいずれも遮断(閉弁)する。
第1モードの場合には、前,後のブリッジバルブ33,34がいずれも閉弁するため、左側連通路24と右側連通路25との間で油液の流通が無くなる。従って、旋回走行によって車両がローリングした場合には、左側連通路24と右側連通路25との間に圧力差が生じる。例えば車両の左旋回時に車体が右側にローリングしようとする場合には、左前側油圧シリンダ2の下部室B、右前側油圧シリンダ3の上部室A、左後側油圧シリンダ4の下部室B、右後側油圧シリンダ5の上部室Aが圧縮され、左アキュムレータ装置26に油液が流入して左側連通路24内の圧力が上昇する。
このとき、左アキュムレータ装置26に流入する油液の体積は、左前側油圧シリンダ2および左後側油圧シリンダ4における(シリンダ6の断面積−ピストンロッド7Aの断面積)×(シリンダストローク)と、右前側油圧シリンダ3および右後側油圧シリンダ5における(シリンダ6の断面積)×(シリンダストローク)とを合計した体積となる。このため、左アキュムレータ装置26は、ガスボリュームが減少し、ガスばね定数が上昇する。また、左前側油圧シリンダ2および左後側油圧シリンダ4の下部室Bが高圧となり、右前側油圧シリンダ3および右後側油圧シリンダ5の上部室Aが高圧となるため、車体の右側へのローリングを抑える方向にシリンダ反力が作用する。
一方、左前側油圧シリンダ2の上部室A、右前側油圧シリンダ3の下部室B、左後側油圧シリンダ4の上部室A、右後側油圧シリンダ5の下部室Bの体積は増加し、右アキュムレータ装置29から油液が流出して右側連通路25内の圧力が低下する。このとき、右アキュムレータ装置29から流出する油液の体積は、左前側油圧シリンダ2および左後側油圧シリンダ4における(シリンダ6の断面積)×(シリンダストローク)と、右前側油圧シリンダ3および右後側油圧シリンダ5における(シリンダ6の断面積−ピストンロッド7Aの断面積)×(シリンダストローク)とを合計した体積となる。このため、右アキュムレータ装置29は、ガスボリュームが増加し、ガスばね定数が低下する。また、左前側油圧シリンダ2および左後側油圧シリンダ4の上部室Aが低圧となり、右前側油圧シリンダ3および右後側油圧シリンダ5の下部室Bが低圧となるため、車体の右側へのローリングを抑える方向にシリンダ反力が作用する。この結果、車体のロール剛性を大きくすることができ、旋回走行時の旋回性能を高めることができる。
このように、車両の旋回走行時に第1モードを実行した場合には、直進走行から旋回走行に移行するときの車体のロール剛性(過渡ロール)と、略一定の旋回半径で定常的に旋回するときの車体のロール剛性(定常ロール)とを大きくすることができ、安定した旋回性能を得ることができる。一方、操縦安定性と乗り心地に関するサスペンション性能に着目すると、第1モードを実行した場合には、操縦安定性については高くなり、乗り心地については低くなる。
ここで、車両が直進走行しているときに、左,右の車輪に対して逆相の路面入力(キックバック)が作用することがある。この状態で、前,後のブリッジバルブ33,34が閉弁していた場合には、車体のロール剛性が旋回走行時と同様に大きくなっているため、路面の凹凸等の変化に応じて車体が振動してしまい、乗り心地が大きく損なわれる。
これに対し、コントローラ35は、車両が直進走行を行っていると判断した場合には第3モードを実行し、前側ブリッジバルブ33を通電状態(ON)とし、後側ブリッジバルブ34を無通電状態(OFF)とすることにより、前,後のブリッジバルブ33,34をいずれも連通(開弁)する。
第3モードの場合には、前,後のブリッジバルブ33,34がいずれも開弁するため、左側連通路24と右側連通路25とが前,後のブリッジ通路20,23を介して連通する。この結果、各油圧シリンダ2〜5の上部室Aと下部室Bとが連通した状態となり、各油圧シリンダ2〜5は、路面からの入力に対し、互いに独立した状態で小さな抵抗でスムースに伸縮することができる。この結果、直進走行時に左右逆相の路面入力があった場合でも、路面の変化に伴う車体の振動が抑制され、乗り心地が向上すると共に、路面の変化に対する各車輪の追従性も向上する。
このように、車両の直進走行時に第3モードを実行した場合には、直進走行から旋回走行に移行するときの車体のロール剛性(過渡ロール)と、定常旋回するときの車体のロール剛性(定常ロール)とは、いずれも小さくなる。この結果、第3モードを実行したときのサスペンション性能は、操縦安定性については低く、乗り心地については高くなる。
次に、車両が旋回走行を行っているとコントローラ35が判断したときに、選択スイッチ(図示せず)によって第2モードが選択されている場合には、コントローラ35は、第2モードを実行するため、前側ブリッジバルブ33を無通電状態(OFF)とし、後側ブリッジバルブ34を無通電状態(OFF)とする。従って、前側ブリッジバルブ33が遮断(閉弁)すると共に、後側ブリッジバルブ34が連通(開弁)する。これにより、左側連通路24と右側連通路25との間は、後側ブリッジバルブ34の第2オリフィス部34A、即ち、前側ブリッジバルブ33の第1オリフィス部33Aよりもオリフィス面積が小さい第2オリフィス部34Aを通じて連通する。
この状態で、例えば車両の左旋回時に車体が右側にローリングしようとする場合には、左前側油圧シリンダ2の下部室B、右前側油圧シリンダ3の上部室A、左後側油圧シリンダ4の下部室B、右後側油圧シリンダ5の上部室Aが圧縮され、左アキュムレータ装置26に油液が流入して左側連通路24内の圧力が上昇する。
このとき、左アキュムレータ装置26に流入する油液の体積は、左前側油圧シリンダ2および左後側油圧シリンダ4における(シリンダ6の断面積−ピストンロッド7Aの断面積)×(シリンダストローク)と、右前側油圧シリンダ3および右後側油圧シリンダ5における(シリンダ6の断面積)×(シリンダストローク)とを合計した体積から、左側連通路24と右側連通路25との間の圧力差によって第2オリフィス部34Aを通過する油液の体積(オイルボリューム)を差引いた値となる。このため、左アキュムレータ装置26は、一旦、ガスボリュームが減少してガスばね定数が上昇するが、第2オリフィス部34Aを通じて左側連通路24から右側連通路25へと流れる油液の体積に応じて、ガスばね定数は徐々に低下していく。
一方、左前側油圧シリンダ2の上部室A、右前側油圧シリンダ3の下部室B、左後側油圧シリンダ4の上部室A、右後側油圧シリンダ5の下部室Bの体積は増加し、右アキュムレータ装置29から油液が流出して右側連通路25内の圧力が低下する。このとき、右アキュムレータ装置29から流出する油液の体積は、左前側油圧シリンダ2および左後側油圧シリンダ4における(シリンダ6の断面積)×(シリンダストローク)と、右前側油圧シリンダ3および右後側油圧シリンダ5における(シリンダ6の断面積−ピストンロッド7Aの断面積)×(シリンダストローク)とを合計した体積から、第2オリフィス部34Aを通過する油液の体積(オイルボリューム)を差引いた値となる。このため、右アキュムレータ装置29は、一旦、ガスボリュームが増加してガスばね定数が低下するが、第2オリフィス部34Aを通じて左側連通路24から右側連通路25へと流れる油液の体積に応じて、ガスばね定数は徐々に増加していく。
このように、コントローラ35が第2モードを実行した場合には、前側ブリッジバルブ33が閉弁すると共に後側ブリッジバルブ34が開弁し、小さなオリフィス面積を有する第2オリフィス部34Aを通じて、左側連通路24と右側連通路25との間を連通させることができる。これにより、車両が直進走行から旋回走行に移行する初期段階では、車体のロール剛性(過渡的なロール剛性)を大きくすることができ、例えば危険回避のダブルレーンチェンジを行う場合の操縦安定性を高めることができる。一方、例えば略一定の旋回半径を保ったまま旋回走行を行う状態(定常旋回)が続いた場合には、車体のロール剛性を徐々に低下させることができ、乗り心地を向上させることができる。
従って、車両の旋回走行時に第2モードを実行した場合には、直進走行から旋回走行に移行するときの車体のロール剛性(過渡ロール)は大きく、定常旋回するときの車体のロール剛性(定常ロール)は中程度(第1モードと第3モードの中間値)となる。この結果、第2モードを実行したときのサスペンション性能は、操縦安定性および乗り心地のいずれも中程度(第1モードと第3モードの中間値)となる。
次に、システムが失陥した場合のフェイルモードでは、ノーマルクローズ型の前側ブリッジバルブ33が閉弁し、ノーマルオープン型の後側ブリッジバルブ34が開弁する。このため、上述した第2モードと同様に、小さなオリフィス面積を有する第2オリフィス部34Aを通じて、左側連通路24と右側連通路25との間が連通する。これにより、過渡的なロール剛性を大きくして危険回避時の操縦安定性を高めることができると共に、乗り心地が大きく低下するのを抑え、ある程度の乗り心地性を確保することができる。
従って、フェイルモードでは、直進走行から旋回走行に移行するときの車体のロール剛性(過渡ロール)は大きく、定常旋回するときの車体のロール剛性(定常ロール)は中程度(第1モードと第3モードの中間値)となる。この結果、第2モードを実行したときのサスペンション性能は、操縦安定性および乗り心地のいずれも中程度(第1モードと第3モードの中間値)となる。
次に、図3および図4を参照し、車両がインターチェンジに進入する場合等の直進走行から定常旋回走行に移行するときの車体のロール角、およびロール剛性の変化を、第1モード、第2モード、第3モードについて比較する。図3は定常旋回時における車体のロール角の変化を示し、図4は定常旋回時における車体のロール剛性の変化を示している。
第1モード(前,後のブリッジバルブ33,34が閉弁)の場合には、直進走行から旋回走行に移行する間、図3中の特性線42で示すように、常にロール角が小さい状態を維持すると共に、図4中の特性線42′で示すように、常にロール剛性が大きい状態を維持する。このように、第1モードでは、車両が直進走行から定常旋回走行に移行する間、常にロール剛性を大きく維持することにより、操縦安定性を高めることができる。
第3モード(前,後のブリッジバルブ33,34が開弁)の場合には、直進走行から旋回走行に移行する間、図3中の特性線43で示すように、常にロール角が大きい状態を維持すると共に、図4中の特性線43′で示すように、常にロール剛性が小さい状態を維持する。このように、第3モードでは、車両が直進走行から定常旋回走行に移行する間、ロール剛性を小さく維持することにより、乗り心地を高めることができる。
第2モード(前側ブリッジバルブ33が閉弁、後側ブリッジバルブ34が開弁)の場合には、図3中の特性線44で示すように、直進走行から旋回走行に移行した初期段階(過渡期)ではロール角が小さいが、時間経過とともに徐々にロール角が増加する。従って、図4中の特性線44′で示すように、ロール剛性はロール角の変化に伴って徐々に低下する。このように、第2モードでは、車両が直進走行から定常旋回走行に移行するときの初期段階(過渡期)には、ロール剛性を大きくすることにより操縦安定性を高めることができ、かつ、定常旋回時にはロール剛性が小さくなることにより、乗り心地を高めることができる。この場合、ロール角およびロール剛性は時間経過と共に緩やかに変化するので、走行時の安全性を確保することができる。
次に、図5および図6を参照し、車両が高速走行時に危険回避のために車線移行を2回連続して行う(ダブルレーンチェンジ)ときの車体のロール角、およびロールレートの変化を、第1モード、第2モード、第3モードについて比較する。図5は危険回避時における車体のロール角の変化を示し、図6は危険回避時におけるロールレートの変化を示している。
第1モード(前,後のブリッジバルブ33,34が閉弁)の場合には、車両が2回の車線変更を行う間、図5中の特性線45で示すように、ロール角の変化が小さい状態を維持すると共に、図6中の特性線45′で示すように、ロールレートの変化も小さい状態を維持する。このように、第1モードでは、車両が2回の車線変更を行う間、ロール角およびロールレートの変化が小さい状態を維持することができるので、ロール剛性を大きく維持することにより走行安定性を高めることができる。
第3モード(前,後のブリッジバルブ33,34が開弁)の場合には、車両が2回の車線変更を行う間、図5中の特性線46で示すように、ロール角の変化が大きくなると共に、図6中の特性線46′で示すように、ロールレートの変化も大きくなる。このように、第3モードでは、車両が2回の車線変更を行う間、ロール剛性を小さく維持することにより、乗り心地を高めることができる。
第2モード(前側ブリッジバルブ33が閉弁、後側ブリッジバルブ34が開弁)の場合には、車両が2回の車線変更を行う間、図5中の特性線47で示すようにロール角の変化が小さい状態を維持し、第1モードの特性線45とほぼ一致する。また、図6中の特性線47′で示すように、ロールレートの変化も小さい状態を維持し、第1モードの特性線45′とほぼ一致する。このように、第2モードでは、車両が2回の車線変更を行う間、ロール角およびロールレートの変化が小さい状態を維持することができるので、ロール剛性を大きく維持することにより走行安定性を高めることができる。
かくして、実施形態によれば、車両が直進走行状態であるか旋回走行状態であるかに応じて前,後のブリッジバルブ33,34の開弁、閉弁を切替えるだけで、車体のロール剛性の制御を車両の走行状態に応じて迅速に行うことができる。従って、例えば油圧ポンプを用いてシステム内外へのオイルの注入、排出を行う場合に比較して、システムを簡素化することができ、かつ、ロール剛性を切替えるときの応答性(切替応答性)を高めることができる。
しかも、実施形態によれば、後側ブリッジバルブ34に設けられた第2オリフィス部34Aのオリフィス面積と、前側ブリッジバルブ33に設けられた第1オリフィス部33Aのオリフィス面積とに差を設け、第2オリフィス部34Aのオリフィス面積を小さく設定している。これにより、コントローラ35によるサスペンション装置1の制御モードを、前,後のブリッジバルブ33,34をいずれも遮断(閉弁)した第1モードと、前側ブリッジバルブ33を遮断(閉弁)し、後側ブリッジバルブ34を連通(開弁)した第2モードと、前,後のブリッジバルブ33,34をいずれも連通(開弁)した第3モードとの3段階に切替えることができる。これにより、第2モードを選択したときには、第1モードと第3モードとの中間特性を得ることができ、車両が直進走行から旋回走行に移行するときの過渡的なロール剛性を確保しつつ、乗り心地の悪化を抑えることができる。この結果、車両の走行状態、運転者の好みに応じてサスペンション装置1の性能を切替えるときの自由度を増やすことができる。
さらに、実施形態によれば、オリフィス面積が小さい第2オリフィス部34Aを有する後側ブリッジバルブ34を、ノーマルオープン型(常開型)の電磁弁とし、オリフィス面積が大きい第1オリフィス部33Aを有する前側ブリッジバルブ33を、ノーマルクローズ型(常閉型)の電磁弁としている。これにより、システムが失陥した場合(フェイルモード)においても、前側ブリッジバルブ33を遮断(閉弁)し、後側ブリッジバルブ34を連通(開弁)した第2モードと同様の制御を行うことができる。この結果、例えば危険回避時のロール剛性を大きく確保して走行安定性を高めつつ、乗り心地の悪化を抑えることができる。
なお、実施形態では、後側ブリッジバルブ34に設けられた第2オリフィス部34Aのオリフィス面積を、前側ブリッジバルブ33の第1オリフィス部33Aよりも小さくした場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第1オリフィス部33Aのオリフィス面積を第2オリフィス部34Aよりも小さくしても良い。
また、実施形態で記載した具体的な数値は、一例を示したものであり、例示した数値に限るものではない。
次に、上記実施形態に含まれるサスペンション装置として、例えば、以下に述べる態様のものが考えられる。
第1の態様としては、車両の左,右の前輪および左,右の後輪と車体との間にそれぞれ介装され、内部がピストンにより上部室と下部室に画成された左,右の前側液圧シリンダおよび左,右の後側液圧シリンダと、前記左,右の前側液圧シリンダ間に設けられ、一方の前記前側液圧シリンダの上部室と他方の前記前側液圧シリンダの下部室を連通する第1の前側接続配管、および前記他方の前記前側液圧シリンダの上部室と前記一方の前記前側液圧シリンダの下部室を連通する第2の前側接続配管と、前記第1の前側接続配管および前記第2の前側接続配管に接続され両者間を連通、遮断する前側バルブ装置と、前記左,右の後側液圧シリンダ間に設けられ、一方の前記後側液圧シリンダの上部室と他方の前記後側液圧シリンダの下部室を連通する第1の後側接続配管、および前記他方の前記後側液圧シリンダの上部室と前記一方の前記後側液圧シリンダの下部室を連通する第2の後側接続配管と、前記第1の後側接続配管および前記第2の後側接続配管に接続され両者間を連通、遮断する後側バルブ装置と、を有するサスペンション装置であって、前記前側バルブ装置には、前記第1の前側接続配管と前記第2の前側接続配管との間を連通する部位に第1オリフィス部が設けられ、前記後側バルブ装置には、前記第1の後側接続配管と前記第2の後側接続配管との間を連通する部位に前記第1オリフィス部とはオリフィス面積が異なる第2オリフィス部が設けられていることを特徴としている。
第2の態様としては、第1の態様において、前記前側バルブ装置および前記後側バルブ装置を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記車両のロール状態に応じて、前記前側バルブ装置と前記後側バルブ装置とをいずれも遮断する第1モードと、前記前側バルブ装置と前記後側バルブ装置のいずれか一方を遮断し、他方のバルブ装置を連通する第2モードと、前記前側バルブ装置と前記後側バルブ装置とをいずれも連通する第3モードとに切替えることを特徴としている。
第3の態様としては、第1の態様において、前記前側バルブ装置と前記後側バルブ装置のうちオリフィス面積が小さい前記オリフィス部を有するバルブ装置は、無通電時に前記オリフィス部を連通するノーマルオープン型とし、前記前側バルブ装置と前記後側バルブ装置のうちオリフィス面積が大きい前記オリフィス部を有するバルブ装置は、無通電時に前記オリフィス部を遮断するノーマルクローズ型としたことを特徴としている。